説明

ガラス中空体の製造方法およびガラス中空体

【課題】本発明は、内部に大きな閉気孔を有し、非常に低密度のものであることから、極めて高い防音作用、断熱作用、振動の低減作用などを発揮し得るガラス中空体と、その製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、廃ガラスのリサイクルにも寄与するものである。
【解決手段】本発明に係るガラス中空体の製造方法は、高温高圧下、ガラス粒子と水蒸気を接触させる工程;および、当該ガラス粒子を保温材で囲み、マイクロ波を照射する工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス中空体を製造するための方法、およびガラス中空体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
床材などの構造材には、防音、断熱、振動などの低減のために、中空部が設けられることがある。例えば、主要材料であるコンクリートなどに発泡ポリスチレンを混合し、固化したものがある。かかる構造材は、発泡ポリスチレン部分が中空部となり、振動などの伝播を低減する。
【0003】
しかし、発泡ポリスチレンは有機材料であるために火災時に溶融または燃焼し、有毒ガスを発する。また、発泡ポリスチレンはコンクリートなどと密着してしまうため、使用後に両者を分離することが難しく、廃材の再利用が困難であるという問題もある。よって、発泡ポリスチレンに代わり得る無機質の中空材が求められていた。
【0004】
無機質の中空材としては、多孔質ガラスが知られている。かかる多孔質ガラスは、一般的に、ガラス粒子を発泡剤などと共に加熱して製造される(特許文献1など)。
【0005】
しかし、このように製造された多孔質ガラスは連通孔を有するため、振動伝播などの低減作用は決して十分ではない。
【0006】
そこで、いわゆるシラスバルーンなど、閉気孔を有するガラス中空体が開発されている。かかるガラス中空体は、ガラス粒子を表面処理した後、加熱処理を比較的短時間行って製造されている(特許文献2など)。
【0007】
また、本発明者は、ガラス粒子に高温高圧水などを接触させることにより内部に水分子を浸透させた上で加熱処理することにより、比較的大きな閉気孔を多数有するガラス発泡体を製造する方法を開発している(特許文献3)。当該方法で得られたガラス発泡体は、板状とすることができるなど、構造材自体などとして使用することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−32425号公報
【特許文献2】特許第2562788号公報
【特許文献3】特許第3792702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来、シラスバルーンなど閉気孔を有するガラス中空体が知られていた。しかしシラスバルーンは、その直径がせいぜい数100μmまでと小さなものであり、例えば構造材に添加して防音性能や断熱性能を高めるには、かなりの量を添加しなければならない。その結果、高い防音性能と引き換えに強度が過度に低下してしまい、構造材として利用できなくなる。
【0010】
また、本発明者は、比較的大きな閉気孔を有するガラス発泡体を開発している。しかし、かかるガラス発泡体は比較的薄いものであり、当該技術では厚いガラス発泡体や比較的大きな球状のガラス発泡体を製造することは難しく、かかるガラス発泡体の比重は十分に小さいわけではない。
【0011】
これら従来技術に対して、ガラス中空体の重量当りの閉気孔体積を一層高めることができれば、より少ない添加量で高い防音性能などを得ることができると考えられる。
【0012】
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、内部に大きな閉気孔を有し、非常に低密度のものであることから、極めて高い防音作用、断熱作用、振動の低減作用などを発揮し得るガラス中空体と、その製造方法を提供することにある。また、本発明は、廃ガラスのリサイクルにも寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するために、本発明者が既に開発していたガラス発泡体の製造方法をさらに検討した。その結果、飽和水蒸気圧下の水蒸気で水熱処理したガラス粒子を、マイクロ波を吸収しない保温材で囲んだ上でマイクロ波を照射すれば、内表面が溶融した閉気孔を有し、密度が非常に小さなガラス中空体が得られることを見出した。より詳しくは、おそらく水熱処理により取り込まれたガラス粒子内部の水分子がマイクロ波により発熱して、保温材に囲まれたガラス粒子の中心部分の温度が急上昇し、内表面が溶融している比較的大きな閉気孔が形成される一方で、外表面付近の温度はそれほど上がらないため保温材などに融着せず、比較的大きな一塊の低密度ガラス中空体が得られると考えられる。
【0014】
本発明に係るガラス中空体の製造方法は、高温高圧下、ガラス粒子と水蒸気を接触させる工程;および、当該ガラス粒子を保温材で囲み、マイクロ波を照射する工程を含むことを特徴とする。
【0015】
上記本発明方法では、鋳型中のガラス粒子にマイクロ波を照射することが好ましい。かかる態様によれば、所望の形状や大きさを有するガラス中空体を製造し易くなる。
【0016】
上記保温材としては、レンガを用いることができる。本発明者による実験によれば、保温材としてレンガを用いたところ、ガラス中空体を良好に製造することができた。
【0017】
本発明に係るガラス中空体は、閉気孔を有し且つ密度が0.25g/cm3以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るガラス中空体は、内部に大きな閉気孔を有し、非常に低密度のものである。従って、本発明のガラス中空体は極めて高い防音作用、断熱作用、振動の低減作用などを発揮し得るので、例えばコンクリートなどに添加すれば、従来の多孔質ガラスやガラス中空体に比して少量でも断熱作用などに優れた構造材とすることができ、且つその強度を実用レベルで維持することが可能になる。その上、本発明のガラス中空体は無機質であることから、例えば発泡ポリスチレンが挿入された従来のコンクリート構造材などと異なり、コンクリートに添加した場合であっても使用後の廃材が無機質のみからなることになるために、その再生利用も容易となり得る。また、本発明に係る製造方法は、かかるガラス中空体を製造できるものとして、同様に非常に有用である。さらに本発明方法では廃ガラスを原料とすることができるので、廃ガラスのリサイクルにも利用できる。また、天然のパーライトへの応用も可能である。よって本発明は、従来よりも優れた断熱材などの提供を可能にし得るものとして、産業上非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明に係るガラス中空体の断面を模式的に表した図である。
【図2】図2は、後述する実施例で用いた珪藻土レンガ製の保温材の写真である。
【図3】図3は、後述する実施例で、図2の保温材へ磁性坩堝をはめ込んだ写真である。
【図4】図4は、後述する実施例で得られたガラス中空体の写真である。
【図5】図5は、後述する実施例で得られたガラス中空体の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明方法では、高温高圧下、原料であるガラス粒子と水蒸気とを接触させる、即ち、ガラス粒子を水熱処理する。
【0021】
本発明方法では、原料としてガラス粒子を用いる。
【0022】
本発明で用いるガラス粒子の種類は特に制限されず、ケイ酸塩ガラス;ホウ酸塩ガラス;P25、GeO2、TeO2、V25などを主成分とするその他の酸化物ガラスなどからなるものを用いることができる。これらの中でも、水熱処理によりガラス構造中に水分を保持し易いケイ酸塩ガラス粒子を用いることが好ましい。また、Na2Oなどのアルカリ成分を含むガラスは、水熱処理により水分が浸透し易く、ガラスの軟化温度を低下させると共に発泡を容易にできることから、好適に用いられる。
【0023】
本発明で用いるガラス粒子としては、その粒子径が1mm以下であるものが好ましい。粒子径が大き過ぎるガラス粒子を用いると、水熱処理を行っても水分がガラス粒子の中へ十分に拡散できず、ガラス粒子が十分に水分を保持できなくなるおそれがあり得る。かかる観点から、ガラス粒子としては、その粒子径が500μm以下であるものを用いることがより好ましく、250μm以下のものを用いることがさらに好ましい。一方、用いるガラス粒子の粒子径の下限は特に制限されないが、過剰に細かい粒子を調製するのは技術的に困難であり得ることから、その粒子径が10μm以上であるものを用いることが好ましい。また、できる限り均質なガラス中空体を得るために、粒子分布の狭いガラス粒子を用いることが好ましい。
【0024】
所望の粒子径範囲のガラス粒子は、粉砕したガラスを適切なメッシュの篩で篩過することにより選別することができる。但し、使用したガラス粒子が市販品などであり、粒子径のカタログ値があるのであれば、その値を参考にしてもよい。
【0025】
ガラス粒子は、市販のものがあればそれを用いてもよいし、調製してもよい。例えば、廃ガラスを粉砕した上で、篩などを用いて所望の粒子径のものを得てもよい。
【0026】
ガラス粒子を水熱処理する条件は適宜調整すればよいが、例えば、温度を140℃以上、340℃以下程度、圧力を0.35MPa以上、15MPa以下程度、処理時間を5時間以上、48時間以下程度とすることができる。当該温度は160℃以上、260℃以下程度がより好ましく、圧力は0.62MPa以上、4.7MPa以下程度がより好ましく、処理時間は8時間以上、20時間以下程度がより好ましい。
【0027】
水熱処理で用いる水の量も適宜調節すればよいが、例えば、バッチ式の小型オートクレーブを用いる場合、ガラス粒子1gに対して0.1mL以上、1.0mL以下程度の割合とすることができる。当該割合が0.1mL以上であれば、水熱処理により水分が十分にガラス粒子中に拡散でき、ガラス粒子を良好に発泡させることがより確実になる。一方、当該割合が大き過ぎると、水熱処理中に液体として存在する水分量が多くなり過ぎ、ガラス粒子表面で副反応が起こってガラスの網目構造中に水分が十分拡散できなくなるおそれがあり得るので、当該割合としては1.0mL以下が好ましい。当該割合としては、0.1mL以上、0.5mL以下がより好ましく、0.12mL以上、0.4mL以下がさらに好ましく、0.15mL以上、0.2mL以下が特に好ましい。
【0028】
ガラス粒子の水熱処理に用いる装置は、高温高圧処理が可能なものであれば特に制限されない。例えば、密閉室を有するバッチ式のものでも連続式のものでもよく、オートクレーブ、ボックス炉、シャットルキルン、ローラーハースキルン、トンネル式加熱炉などを用いることができる。また、当該装置は、所望のガラス中空体に合わせ、小型のものでも工業的な大型のものでもよい。
【0029】
本発明方法では、水熱処理したガラス粒子を保温材で囲んだ上で、ガラス粒子にマイクロ波を照射する。
【0030】
保温材は、マイクロ波がガラス粒子中の水分子に照射されることにより発生する熱が過剰に放散されないようにするものであり、ガラス中空体内部に大きな閉気孔を生成させる上で重要なものである。
【0031】
保温材の材質は、マイクロ波の吸収性が低く且つ断熱性を有するものであれば特に制限されない。例えば、レンガ、セラミック、グラスウール、ロックウールなどを用いることができる。
【0032】
保温材の厚さは、材質などに応じて適宜決定すればよい。例えば、レンガを用いた場合には、ガラス粒子を囲む部分が1cm以上、5cm以下程度となる厚さのものを用いることができる。
【0033】
水熱処理したガラス粒子にマイクロ波を照射するに当っては、ガラス粒子を鋳型中に挿入した状態で行ってもよい。かかる態様によれば、所望の形状を有するガラス中空体を製造し易くなる。
【0034】
かかる鋳型の材質は、保温材と同様のものであってもよい。即ち、例えば、二枚の板状保温材を用意し、それぞれを所定の形状にくり抜いて、一方に水熱処理したガラス粒子を挿入し、くり抜いた部分が重なるように両者を重ね合わせた後、固定してもよい。また、鋳型を、磁性坩堝など断熱性を有しないものとしてもよい。この場合には、鋳型を保温材で囲むようにする。
【0035】
なお、特に鋳型を用いる場合には、鋳型の空間部形状に比してガラス粒子の使用量が少な過ぎると所望の形状のガラス中空体が得られないおそれがあることから、ガラス粒子の使用量は適宜調節する必要がある。
【0036】
マイクロ波の照射条件は、予備実験などにより適宜決定すればよいが、通常、例えばマイクロ波の周波数は工業用に定められているので、例えば、IMSバンド周波数で915MHzや2450MHzのものを用いればよい。また、マイクロ波の照射時間は、用いるガラス粒子の量やマイクロ波により異なるが、通常、5分間以上、20分間以下程度とすればよい。
【0037】
上記で説明した本発明方法で得られるガラス中空体は、図1に示す模式図のように、その内部表面が溶融している大きな閉気孔を有し、非常に低密度なものである。より具体的には、0.25g/cm3以下という密度を有する。かかる大きな閉気孔のために、本発明のガラス中空体は水に浮き、内部に水が浸透することはない。このように低密度のガラス中空体や多孔質ガラスは、従来存在しなかった。一方、密度が低過ぎると使用目的に応じた実用強度を満たさなくなるおそれがあるので、密度としては0.05g/cm3以上が好適である。
【0038】
上記に対して、本発明に係るガラス中空体は、その外表面は溶融していない。よって、マイクロ波照射直後であっても、保温材や鋳型から容易に取り出せる。
【0039】
上記のとおり、本発明に係るガラス中空体は、大きな閉気孔を有し、非常に低密度のものである。従って、極めて高い防音作用、断熱作用、振動の低減作用などを発揮し得るので、例えばコンクリートなどに添加すれば、従来の多孔質ガラスやガラス中空体に比して少量でも断熱作用などに優れた構造材とすることができ、その強度を実用レベルで維持することが可能になるなど、非常に有用なものである。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0041】
実施例1
(1) 廃棄ガラスビンを粉砕した粉末(トヨシステムプラント社製)を60メッシュの篩で分級し、その粒子径を250μm未満とした。当該ガラス粉末(40g)を水(6mL)と共に内容積80mLのオートクレーブに入れ、180℃で12時間水熱処理した。
【0042】
別途、外径5.5cm、高さ4.5cmの磁性坩堝を挿入できるよう、図2に示すように、高さ6.5cm、11cm角と、高さ6.5cm、対角線長さ11cmの八角形の珪藻土レンガをくりぬいた。図3に示すように、外径5.5cm、高さ4.5cmの坩堝を八角形の珪藻土レンガにはめ込み、当該坩堝内に上記ガラス粉末(8.0g)挿入し、坩堝に蓋をした。さらに、角形珪藻土レンガを重ねて磁性坩堝を囲み、電子レンジ(シャープ社製,製品名「RE6300」)に入れ、2450MHzのマイクロ波を、出力570Wで8分間照射した。
【0043】
その結果、坩堝中には、図4に示すとおり、直径約4cmのガラス球体が生成していた。当該ガラス球体の表面は乾燥しており、坩堝内表面と固着することはなく、容易に取り出すことができた。当該ガラス球体の質量は約6.0gであり、当該値から算出された密度は約0.18g/cm3であった。当該ガラス球体をダイヤモンドカッターで半分に切断したところ、図5のとおり内部は空洞になっており、その内部表面は溶融しており、完全な閉気孔となっていた。
【0044】
以上のとおり、本発明方法によれば、従来のガラス中空体に比べて顕著に密度が低く、閉気孔を有する、比較的大きなガラス中空体を得られることが実証された。
【0045】
比較例1
上記実施例1において、ガラス粉末を入れた磁性坩堝を保温材で囲むことなくそのまま電子レンジに入れ、照射時間を合計20分間まで延長した以外は同様にして、水熱処理したガラス粉末にマイクロ波を照射した。しかし、ガラス粉末は全く発泡せず、そのままの状態であった。
【0046】
その理由としては、ガラス粉末内の水分にマイクロ波が照射されても、断熱材を用いなかったため生じた熱が外部に放散されてしまったために、ガラス粉末の溶融も発泡も起こらなかったことが考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス中空体を製造するための方法であって、
高温高圧下、ガラス粒子と水蒸気を接触させる工程;および、
当該ガラス粒子を保温材で囲み、マイクロ波を照射する工程;
を含むことを特徴とするガラス中空体の製造方法。
【請求項2】
鋳型中のガラス粒子にマイクロ波を照射する請求項1に記載のガラス中空体の製造方法。
【請求項3】
保温材としてレンガを用いる請求項1または2に記載のガラス中空体の製造方法。
【請求項4】
閉気孔を有し且つ密度が0.25g/cm3以下であることを特徴とするガラス中空体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−116607(P2011−116607A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277475(P2009−277475)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(504174180)国立大学法人高知大学 (174)
【Fターム(参考)】