説明

ガラス成形体の製造方法

【課題】ガラス成形体が微細化された場合であっても、ガラス成形体の精度の更なる向上を図ることが可能な、ガラス成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】滴下ガラス50の下型10Aとの接触面は、滴下直後に冷却固化されるものの、外周平面部16と側面部14との交差角度(α)、および、外周平面部16より上方に位置する滴下ガラス50の容量の最適化を図ることで、外周平面部16より上方に位置する滴下ガラス50に対して表面張力に基づく求心力が作用し、外周平面部16より上方に位置する滴下ガラス50を円形形状に丸めることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融ガラス滴をプレス成形するガラス成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラ用レンズ、DVD等の光ピックアップレンズ、携帯電話用カメラレンズ、光通信用のカップリングレンズ等として、ガラス製の光学素子が広範にわたって利用されている。このようなガラス製の光学素子として、ガラス素材を成形金型でプレス成形して製造したガラス成形体が広く用いられている。
【0003】
このようなガラス成形体の製造方法として、予め所定質量および形状を有するガラスプリフォームを作製し、このガラスプリフォームを成形金型とともに加熱しプレス成形してガラス成形体を得る方法(以下、「リヒートプレス法」ともいう)と、滴下した溶融ガラス滴を下型で受け、受けた溶融ガラス滴をプレス成形してガラス成形体を得る方法(以下、「液滴成形法」ともいう)とが知られている。
【0004】
液滴成形法は、成形金型等の加熱と冷却とを繰り返す必要がなく、溶融ガラス滴から直接ガラス成形体を製造することができるので、1回の成形に要する時間を非常に短くできることから注目されている。このような液滴成形法を用いたガラス成形体の製造方法は、下記特許文献1に開示されている。
【0005】
液滴成形法を用いたガラス成形体の製造方法においては、溶融ガラス滴を下型に滴下した際に、下型の成形面に対する溶融ガラス滴の位置が、ガラス成形体の精度の向上を図る上で重要となる。
【0006】
下記特許文献2には、下型の成形面と外周面との境界において、下型の成形面と溶融ガラス滴との間に空間が形成されるように、下型の形状および溶融ガラス滴の滴下量が規定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開61−146721号公報
【特許文献2】特開2005−320199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、ガラス成形体の微細化が要求される中で、更なるガラス成形体の精度の向上が求められ、生産における歩留まり低下が問題となってきている。
【0009】
本発明の目的は、上記課題を解決することにあり、ガラス成形体が微細化された場合であっても、ガラス成形体の精度の更なる向上を図ることが可能な、ガラス成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に基づいたガラス成形体の製造方法においては、下型および上型を用い、上記下型の上に溶融ガラス滴を滴下した後、上記下型と上記上型とにより、上記溶融ガラス滴の加圧成形を行なう、ガラス成形体の製造方法であって、上記下型は、底面部および上記底面部を取り囲む側面部を有する凹部と、上記側面部の上端を取り囲む外周平面部とを含み、上記側面部と上記外周平面部との交差角度(α)は45度以上に設けられ、上記溶融ガラス滴の滴下容量は、上記下型に滴下した際に、上記溶融ガラス滴のうち、上記凹部に満たされる上記溶融ガラス滴の容量に対し、上記外周平面部より上方に位置する上記溶融ガラス滴の容量が1.5倍〜6.0倍である。
【0011】
他の形態では、上記底面部は、凸部と、上記凸部を取り囲む環状の内周平面部とを有している。
【0012】
他の形態では、上記下型において、上記外周平面部と上記側面部とが交差する上記上端領域には、半径が0.1mm〜0.3mmの曲面が設けられている。
【発明の効果】
【0013】
この発明に基づいたガラス成形体の製造方法によれば、ガラス成形体が微細化された場合であっても、ガラス成形体の精度の更なる向上を図ることが可能な、ガラス成形体の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ガラス成形体の製造方法のフローチャートである。
【図2】ガラス成形体の製造装置を用いた製造フローの第1模式図である。
【図3】ガラス成形体の製造装置を用いた製造フローの第2模式図である。
【図4】比較例における成形用型を用いたガラス成形体の製造方法を示す第1の図であり、(A)は平面図、(B)は(A)中の(B)−(B)線矢視断面図である。
【図5】比較例における成形用型を用いたガラス成形体の製造方法を示す第2の図であり、(A)は平面図、(B)は(A)中の(B)−(B)線矢視断面図である。
【図6】実施の形態における成形用型の下型の構造を示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)中の(B)−(B)線矢視断面図である。
【図7】比較例において、問題が生じた場合の溶融ガラス滴および下型の断面図である。
【図8】本実施の形態における、滴下条件に対する滴ずれがなく、また、滴下容量が適正な場合の、溶融ガラス滴および下型の断面図である。
【図9】比較例において、問題が生じた場合の溶融ガラス滴および下型の第1断面図である。
【図10】比較例において、問題が生じた場合の溶融ガラス滴および下型の第2断面図である。
【図11】比較例において、問題が生じた場合の溶融ガラス滴および下型の第3断面図である。
【図12】比較例において、問題が生じた場合の溶融ガラス滴および下型の第4断面図である。
【図13】ガラス成形体の製造装置における滴ずれ測定結果を示す図である。
【図14】実施例1における偏肉不良発生数を示す図である。
【図15】実施例1の(A)条件1および(B)条件7における、それぞれの外周平面部と側面部とのなす角度(α)を示す図である。
【図16】実施例2における偏肉不良発生数を示す図である。
【図17】実施例2における、下型の外周平面部と側面部との交差角度(α)を示す図である。
【図18】実施例3における偏肉不良発生数を示す図である。
【図19】(A)から(D)は、実施例3における、下型の外周平面部と側面部とのなす角度(α)を示す図である。
【図20】他の実施の形態における下型の形状を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に基づいた実施の形態における成形用型およびガラス成形体の製造方法について、以下、図を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。
【0016】
以下、図1〜図3を参照して、比較例におけるガラス成形体の製造方法の一例について説明する。図1は、本実施の形態におけるガラス成形体の製造方法のフローチャート、図2および図3はガラス成形体の製造装置を用いた製造フローの模式図であり、図2は下型に溶融ガラス滴を滴下する工程(S103)における状態を示し、図3は、滴下した溶融ガラス滴を下型と上型とでプレスする工程(S105)における状態を示している。
【0017】
(ガラス成形体の製造装置)
図2、図3に示すガラス成形体の製造装置は、溶融ガラス滴50をプレスするための成形金型として、下型10と上型20とを有している。上型20は、基材21を有し、この基材21には、溶融ガラス滴50をプレスする成形面(凹面)23が形成されている。
【0018】
基材21の材質は、ガラス材料をプレス成形する成形金型の材質として公知の材質の中から、条件に応じて適宜選択して用いることができる。好ましく用いることができる材質として、たとえば、各種耐熱合金(ステンレス等)、炭化タングステンを主成分とする超硬材料、各種セラミックス(炭化珪素、窒化珪素等)、カーボンを含んだ複合材料等が挙げられる。
【0019】
下型10は、基材11を有し、この基材11には、溶融ガラス滴50をプレスする成形面(凸面)12が形成されている。下型10の基材11の材質は、上型20の基材21と同様の材質の中から適宜選択して用いればよい。下型10の基材11の材質と上型20の基材21の材質は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0020】
下型10と上型20は、図示しない加熱手段によってそれぞれ所定温度に加熱できるように構成されている。加熱手段は、公知の加熱手段を適宜選択して用いることができる。たとえば、下型10や上型20の内部に埋め込んで使用するカートリッジヒーターや、外側に接触させて使用するシート状のヒーター、赤外線加熱装置、高周波誘導加熱装置等が挙げられる。下型10と上型20とをそれぞれ独立して温度制御できるように構成することがより好ましい。
【0021】
下型10は、図示しない駆動手段により、溶融ガラス滴50を受けるための位置(滴下位置P1)と、上型20と対向してプレス成形を行なうための位置(加圧位置P2)との間を、ガイド65に沿って移動可能に構成されている(図2、図3中の矢印S方向)。
【0022】
上型20は、図示しない駆動手段により、溶融ガラス滴50をプレスする方向(図2、図3中の上下方向(矢印F方向))に移動可能に構成されている。なお、ここでは、上型20のみがプレス方向に移動する場合を例に挙げて説明するが、これに限定されるものではなく、下型10がプレス方向に移動する構成としてもよいし、下型10と上型20の両方がプレス方向に移動する構成としてもよい。
【0023】
また、滴下位置P1の上方には、溶融ガラス滴50を滴下するための滴下ノズル63が配置されている。滴下ノズル63は、溶融ガラス61を貯留する溶融槽62の底部に接続され、図示しない加熱手段によって加熱されることで、先端部から溶融ガラス滴50が滴下するように構成されている。
【0024】
(ガラス成形体の製造方法)
以下、図1に示すフローチャートに従い、順を追って各工程について説明する。まず、下型10および上型20を所定温度に加熱する(工程S101)。所定温度とは、加圧成形によってガラス成形体に良好な転写面(光学面)を形成できる温度を適宜選択すればよい。下型10や上型20の温度が低すぎると、ガラス成形体に大きなしわが発生しやすく、また、転写面の形状精度が悪化する場合がある。逆に、必要以上に温度を高くしすぎると、ガラス成形体との間に融着が発生しやすく、下型10や上型20の寿命が短くなるおそれがある。
【0025】
実際には、ガラスの種類や、形状、大きさ、下型10や上型20の材質、大きさ等種々の条件によって適正な温度が異なるため、実験的に適正な温度を求めておくことが好ましい。通常は、使用するガラスのガラス転移温度をTgとしたとき、Tg−100℃からTg+100℃程度の温度に設定することが好ましい。下型10と上型20との加熱温度は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0026】
次に、下型10を滴下位置P1に移動し(工程S102)、滴下ノズル63から溶融ガラス滴50を滴下する(工程S103)(図2参照)。溶融ガラス滴50の滴下は、溶融ガラス61を貯留する溶融槽62に接続された滴下ノズル63を所定温度に加熱することによって行なう。滴下ノズル63を所定温度に加熱すると、溶融槽62に貯留された溶融ガラス61は、自重によって滴下ノズル63の先端部に供給され、表面張力によって液滴状に溜まる。滴下ノズル63の先端部に溜まった溶融ガラスが一定の質量になると、重力によって滴下ノズル63から自然に分離し、溶融ガラス滴50となって下方に落下する。
【0027】
滴下ノズル63から滴下する溶融ガラス滴50の質量は、滴下ノズル63の先端部の外径などによって調整可能であり、ガラスの種類等によるが、0.1g〜2g程度の溶融ガラス滴を滴下させることができる。また、滴下ノズル63から滴下した溶融ガラス滴50を、一旦、貫通細孔(φ2.0〜φ4.0程度)を有する部材(ガラス微小化部材:図示省略)に衝突させ、衝突した溶融ガラス滴の一部を、貫通細孔を通過させることによって微小化した溶融ガラス滴を下型10に滴下してもよい。
【0028】
このような方法を用いることによって、たとえば0.001gといった微小な溶融ガラス滴を得ることができるため、滴下ノズル63から滴下する溶融ガラス滴50をそのまま下型10で受ける場合よりも、微小なガラスゴブの製造が可能となる。なお、滴下ノズル63から溶融ガラス滴50が滴下する間隔は、滴下ノズル63の内径、長さ、加熱温度などによって微調整することができる。
【0029】
使用できるガラスの種類に特に制限はなく、公知のガラスを用途に応じて選択して用いることができる。たとえば、ホウケイ酸塩ガラス、ケイ酸塩ガラス、リン酸ガラス、ランタン系ガラス等の光学ガラスが挙げられる。
【0030】
次に、下型10を加圧位置P2に移動し(工程S104)、上型20を下方に移動して、下型10と上型20とで溶融ガラス滴50を加圧成形する(工程S105)(図3参照)。下型10で受けられた溶融ガラス滴50は、加圧成形される間に下型10や上型20との接触面からの放熱によって冷却され、固化してガラス成形体55となる。
【0031】
ガラス成形体55が所定の温度にまで冷却されると、上型20を上方に移動して加圧を解除する。ガラスの種類や、ガラス成形体55の大きさや形状、必要な精度等によるが、通常は、ガラスのTg近傍の温度まで冷却してから加圧を解除することが好ましい。
【0032】
溶融ガラス滴50を加圧するために負荷する荷重は、常に一定であってもよいし、時間的に変化させてもよい。負荷する荷重の大きさは、製造するガラス成形体のサイズ等に応じて適宜設定すればよい。また、上型20を上下移動させる駆動手段に特に制限はなく、エアシリンダ、油圧シリンダ、サーボモータを用いた電動シリンダ等の公知の駆動手段を適宜選択して用いることができる。
【0033】
その後、上型20を上方に移動して退避させ、固化したガラス成形体55を回収し(工程S106)、ガラス成形体の製造が完成する。その後、引き続いてガラス成形体の製造を行なう場合は、下型10を再度、滴下位置P1に移動し(工程S102)、以降の工程を繰り返せばよい。
【0034】
なお、ガラス成形体の製造方法は、ここで説明した以外の別の工程を含んでいてもよい。たとえば、ガラス成形体を回収する前にガラス成形体の形状を検査する工程や、ガラス成形体を回収した後に下型10や上型20をクリーニングする工程等を設けてもよい。
【0035】
この製造方法により製造されたガラス成形体は、デジタルカメラ等の撮像レンズ、DVD等の光ピックアップレンズ、光通信用のカップリングレンズ等の各種光学素子として用いることができる。また、リヒートプレス法による各種光学素子の製造に用いるガラスプリフォームとして使用することもできる。
【0036】
(比較例における成形用下型)
ここで、図4および図5を参照して、比較例における下型10を用いた場合のガラス成形体の製造方法について説明する。図4は、比較例における成形用型(下型)を用いたガラス成形体の製造方法を示す第1の図であり、(A)は平面図、(B)は(A)中の(B)−(B)線矢視断面図である。図5は、比較例における成形用型(下型)を用いたガラス成形体の製造方法を示す第2の図であり、(A)は平面図、(B)は(A)中の(B)−(B)線矢視断面図である。
【0037】
図4は、下型10の凸面形状の成形面12の中心位置12cと、滴下ノズル63から滴下された溶融ガラス滴50の中心位置50cとが一致している状態を示している。図4(B)においては、一定時間経過後の溶融ガラス滴50の温度分布を示しており、下型10に近い領域50aは、下型10から放熱され低温状態になった領域を示している。一方、下型10から離れる領域50bは、下型10からの放熱が鈍く高温状態のままの領域を示している。
【0038】
成形面12の中心位置12cと溶融ガラス滴50の中心位置50cとが一致している状態で、滴下した溶融ガラス滴50を下型10と上型20とでプレスした場合には、良好な精度を有するガラス成形体55を得ることができる。
【0039】
一方、図5は、下型10の凸面形状の成形面12の中心位置12cと、滴下ノズル63から滴下された溶融ガラス滴50の中心位置50cとがずれた状態を示している。図5(B)においては、一定時間経過後の溶融ガラス滴50の温度分布を示しており、下型10に近い領域50aは、下型10から放熱され低温状態になった領域を示している。一方、下型10から離れる領域50bは、下型10からの放熱が鈍く高温状態のままの領域を示している。
【0040】
成形面12の中心位置12cと溶融ガラス滴50の中心位置50cとがずれた状態で、滴下した溶融ガラス滴50を下型10と上型20とでプレスした場合には、領域50aはすでに低温状態になっているために、ずれた状態が固定されたまま上型20でプレスされる。その結果、得られるガラス成形体55には、ずれが含まれている結果、波面収差不良、外径形状不良が含まれることになる。
【0041】
(実施の形態)
次に、図6から図8を参照して、本実施の形態における下型10Aを用いた場合のガラス成形体の製造方法について説明する。図6は、成形用型の下型10Aの構造を示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)中の(B)−(B)線矢視断面図である。図7は、比較例において、問題が生じた場合の溶融ガラス滴および下型の形状を示す図である。図8は、滴下条件に対する滴ずれがなく、また、滴下容量が適正な場合の、溶融ガラス滴50および下型10Aの断面図である。
【0042】
まず、図6(A),(B)を参照して、本実施の形態における下型10Aの形状について説明する。この下型10Aは、円形の底面部13とこの底面部13を取り囲む側面部14とを有し、成形されるガラス成形体のレンズの有効径を含む光学面を成形する凹部15と、側面部14の上端14aを取り囲む外周平面部16とを含んでいる。
【0043】
底面部13は、円形の凸部13aと、この凸部13aを取り囲む環状の内周平面部13bとを有している。この円形の凸部13aが、ガラス成形体に対して光学面を成形する領域となる。
【0044】
また、外周平面部16と側面部14との交差角度(α)は、45度以上に設けられている。より具体的な交差角度(α)については、後述の実施例において説明する。なお、45度以下の場合、たとえば、外周平面部16と側面部14との交差角度(α)が図7に示すように、30度の下型10Bの場合には、凹部15から溶融ガラス滴50がはみ出した場合に、溶融ガラス滴50が丸まらず、外周平面部16の表面(図7中のAで囲まれた領域)に流れ出すことが考えられる。したがって、外周平面部16と側面部14との交差角度(α)は、45度以上に設けられていることが好ましい。
【0045】
次に、図8を参照して、最適な量の溶融ガラス滴50が下型10Aに滴下された状態を示す。本実施の形態においては、溶融ガラス滴50を下型10Aに滴下したとき、溶融ガラス滴50のうち、凹部15に満たされる溶融ガラス滴の容量(Q1)に対し、外周平面部16より上方に位置する溶融ガラス滴50の容量(Q2)が1.5倍〜6.0倍となるように溶融ガラス滴50を下型10Aに滴下して、下型10Aと上型20とにより、溶融ガラス滴50の加圧成形を行なう。
【0046】
この場合に下型10Aに近い領域50aは、下型10Aから放熱され低温状態になるものの、下型10Aから離れる領域50bは、下型10Aからの放熱が鈍く高温状態のままであるため、高温状態にある領域50bは、表面張力により求心力を持って丸まり、凸部13aの中心位置13cと、溶融ガラス滴50の中心位置50cとを一致させることが可能となる。
【0047】
その結果、凸部13aの中心位置13cと溶融ガラス滴50の中心位置50cとが一致している状態で、滴下した溶融ガラス滴50を下型10Aと上型20とでプレスした場合には、良好な精度を有するガラス成形体55を得ることができる。
【0048】
ここで、図9および図10は、凹部15に満たされる溶融ガラス滴の容量に対し、外周平面部16より上方に位置する溶融ガラス滴50の容量が1.5倍未満の場合の模式図である。図9は、凸部13aの中心位置と溶融ガラス滴50の中心位置50cとが一致している状態である。中心位置が一致している場合には、問題は生じない。
【0049】
一方、凸部13aの中心位置13cと溶融ガラス滴50の中心位置50cとが一致しない場合については問題が生じる。図10においては、図の右方向に滴ずれが発生した状態(言い換えると、凸部13aの中心位置13cよりも溶融ガラス滴50の中心位置50cが図の右方向となった状態)を示している。この場合、溶融ガラス滴の重量が十分大きくないことに起因して、側面部14の一部(図中Y部)がガラスで満たされない問題が発生する。この状態においては、高温状態にある領域50bは、表面張力により求心力を持って丸まることができるものの、その中心位置は、図中右側にずれた状態となってしまう。
【0050】
このような溶融ガラス滴50の状態で、滴下した溶融ガラス滴50を下型10Aと上型20とでプレスした場合には、良好な精度を有するガラス成形体55を得ることはできない。
【0051】
また、図11および図12は、凹部15に満たされる溶融ガラス滴の容量に対し、外周平面部16より上方に位置する溶融ガラス滴50の容量が6倍を超える場合の模式図である。図11は、凸部13aの中心位置と溶融ガラス滴50の中心位置50cとが一致している状態である。中心位置が一致している場合には、問題は生じない。
【0052】
一方、凸部13aの中心位置13cと溶融ガラス滴50の中心位置50cとが一致しない場合については問題が生じる。図12においては、図の右方向に滴ずれが発生した状態(言い換えると、13aの中心位置13cよりも溶融ガラス滴50の中心位置50cが図の右方向となった状態)を示している。この場合、滴下直後から表面張力により丸まるまでの間において、領域50bの溶融ガラス滴の下型10Aに近い部分は、平面部16に非常に近接した状態となる(適正な場合(図8に示す場合)は、比較的近接しない)。
【0053】
そのため、滴ずれが発生すると、領域50bの溶融ガラス滴の下型10Aに近い部分が平面部16に接触し、その接触した部分は冷却されて領域50aとなり動けなくなる。こうなると、未だ表面張力により丸まるのに十分な熱をもった領域50bが、はみ出したZの方向に若干ずれた状態で表面張力により丸まる(図12に示す状態)。
【0054】
このような溶融ガラス滴50の状態で、滴下した溶融ガラス滴50を下型10Aと上型20とでプレスした場合には、良好な精度を有するガラス成形体55を得ることはできない。
【0055】
(作用・効果)
本実施の形態における下型10Aを用いた場合のガラス成形体の製造方法によれば、溶融ガラス滴50の下型10Aとの接触面は、滴下直後に冷却固化されるものの、外周平面部16と側面部14との交差角度(α)、および、外周平面部16より上方に位置する溶融ガラス滴50の容量の最適化を図ることで、外周平面部16より上方に位置する溶融ガラス滴50に対して表面張力に基づく求心力が作用し、外周平面部16より上方に位置する溶融ガラス滴50を表面張力による自由曲面に丸めることが可能となる。
【0056】
その結果、たとえば、溶融ガラス滴50の滴下時に0.3mmレベルのずれが生じていた場合であっても、凸部13aの中心位置13cと、溶融ガラス滴50の中心位置50cとを一致させることが可能となる。また、この状態で、滴下した溶融ガラス滴50を下型10Aと上型20とでプレスした場合には、良好な精度を有するガラス成形体55を得ることができる。これにより、ガラス成形体55の波面収差不良の低減、および、外径形状不良の低減を図ることが可能となる。
【0057】
その結果、ガラス成形体55が微細化された場合であっても、ガラス成形体55の精度の更なる向上を図ることが可能な、ガラス成形体の製造方法を提供することが可能となる。
【0058】
(実施例)
以下、本実施の形態における具体的な各実施例について、以下、図を参照して説明する。まず、図13を参照して、各実施例の前提条件について説明する。なお、図13は、ガラス成形体の製造装置における滴ずれ測定結果を示す図である。
【0059】
図2および図3に示すガラス成形体の製造装置において、滴下ノズルの先端から下型(外周平面部)までの距離は約1000mmである。滴下ばらつきは、直径約0.5mmの円内に収まるレベルである。測定結果を、図13に示す。この結果を踏まえ、滴ずれが0.3mmまでの検証を行なった。下型の凹部の開口径(直径)は、約3mm〜6mmとしており、その開口径の0.05倍〜0.1倍の滴ずれを生じさせた。
【0060】
この検証における滴ずれを定量的に発生させる方法は次の通りである。下型を滴下分布中心から所定距離ずらした状態で、レーザ変位計でほぼ滴下分布中心位置となると測定された溶融ガラス滴を採用する。また、良否判定は、下型と上型とによる溶融ガラス滴の加圧成形を行なった上で、ガラス成形体に偏肉が発生するか否かで判定した。溶融ガラス滴の形状だけではわからない、温度分布を推定するために有効と判断した。
【0061】
具体的には、溶融ガラス滴の温度が高い方向に成形品が伸びる形となる。たとえば、図10の例においては、Yの隙間があることで溶融ガラス滴が金型と接触していない図面上左側の方が溶融ガラス滴の温度が高いため、左側に延びた形となる。また、図12の例においては、平面部16との接触がある図面上右側の方がガラスが冷えているため、溶融ガラス滴の温度が高い左側に延びた形となる。なお、滴ずれによる影響がない、言い換えると、溶融ガラス滴に温度分布がつかない状態においては、ガラス成形体は同心円形状となる。
【0062】
ガラスの材料には、ガラス転移温度(Tg)が427℃のリン酸系ガラスを用いた。比重は、3.20である。下型の温度は480℃、上型の温度は500℃である。下型および上型の基材には、超硬(WC)を用い、成形面には保護膜(Cr500nm)を設けた。
【0063】
(実施例1)
溶融ガラス滴の全体質量(250mg)を一定としたときの、凹部に満たされる溶融ガラス滴の容量(Q1)と、はみ出し質量(外周平面部より上方に位置する溶融ガラス滴の容量(Q2))の比率(Q2/Q1)による偏肉不良発生数を検証した。滴下ノズルには、外径がφ6mmの白金製のノズルを用いた。滴下ノズルの先端から下型(外周平面部)までの距離は約1000mmである。
【0064】
図14は、実施例1における偏肉不良発生数を示す図であり、図15(A)、(B)は、図14における、条件1および条件7に用いた下型形状の模式図である(条件2−6も同様)。ここでは、側面部14と外周平面部16との交差角度(α)は50°とした。図15中の凹部深さd(mm)および凹部開口直径W1(mm)は、図16表中に示すとおりである。
【0065】
図14に示す条件1から条件7に示す比率(Q2/Q1)において、偏肉不良発生数を測定した。図14に示す結果から、比率(Q2/Q1)が1.50の条件3、比率(Q2/Q1)が4.00の条件4、および比率(Q2/Q1)が6.00の条件5において、偏肉不良発生数が少ないことが確認できた。
【0066】
(実施例2)
下型の凹部の容量(Q1)を一定(20mg)としたときの、凹部に満たされる溶融ガラス滴の容量(Q1)と、はみ出し質量(外周平面部より上方に位置する溶融ガラス滴の容量(Q2))の比率(Q2/Q1)による偏肉不良発生数を検証した。滴下ノズルには、外径がφ8mmの白金製のノズルを用いた。また、滴下ノズルと下型との間に、貫通細孔(φ2.0〜φ3.0程度)を有するガラス微小化部材を配置した。滴下ノズルの先端からガラス微小化部材までの距離は約900mmである。ガラス微小化部材から下型(外周平面部)までの距離は約100mmである。なお、滴下ノズルから滴下される溶融ガラス滴の全体質量は、385mgである。
【0067】
図16は、実施例2における偏肉不良発生数を示す図であり、図17は、図16における、条件1〜条件7に用いた下型形状の模式図である。ここでは、側面部14と外周平面部16との交差角度(α)は50°とした。図17中の凹部深さd(mm)および凹部開口直径W1(mm)は、図16表中に示すとおりである。また、凹部の底部直径(W2)は、2mmである。
【0068】
図16に示す条件1から条件7に示す比率(Q2/Q1)において、偏肉不良発生数を測定した。図16に示す結果から、比率(Q2/Q1)が1.50の条件3、比率(Q2/Q1)が4.00の条件4、および比率(Q2/Q1)が6.00の条件5において、偏肉不良発生数が少ないことが確認できた。
【0069】
(実施例3)
下型の側面部と外周平面部との交差角度(α)の違いによる偏肉不良発生数を検証した。
滴下ノズルには、外径がφ8mmの白金製のノズルを用いた。また、滴下ノズルと下型との間に、貫通細孔(φ3.7程度)を有するガラス微小化部材を配置した。滴下ノズルの先端からガラス微小化部材までの距離は約900mmである。ガラス微小化部材から下型(外周平面部)までの距離は約100mmである。なお、滴下ノズルから滴下される溶融ガラス滴の全体質量は、385mgである。
【0070】
図18は、実施例3における偏肉不良発生数を示す図である。図19(A)〜(D)は、図18における、条件1から条件4に用いた下型形状の模式図である。図19(A)は、側面部14と外周平面部16との交差角度(α)が20°の場合の下型形状、図19(B)は、側面部14と外周平面部16との交差角度(α)が30°の場合の下型形状、図19(C)は、側面部14と外周平面部16との交差角度(α)が45°の場合の下型形状、図19(D)は、側面部14と外周平面部16との交差角度(α)が60°の場合のの下型形状を示している。
【0071】
図19中の凹部深さd(mm)および凹部開口直径W1(mm)は、図18表中に示すとおりである。また、凹部の底部直径(W2)は、2mmである。
【0072】
図18に示す条件1から条件4に示す、側面部14と外周平面部16との交差角度(α)の条件1から条件4について、偏肉不良発生数を測定した。図18に示す結果から、側面部14と外周平面部16との交差角度(α)が45°(条件3)および60°(条件4)において、偏肉不良発生数が発生していないことが確認できた。
【0073】
また、図20に示すように、下型10Aにおいて、外周平面部16と側面部14とが交差する上端14a領域には、半径が0.1mm〜0.3mmの曲面が設けられことが好ましい。これにより、凹部15における溶融ガラス滴との接触面積が減少し、外周平面部16より上方に位置する溶融ガラス滴50の求心力を高めることが可能となる。なお、図20は、他の実施の形態における下型の形状を示す断面図である。
【0074】
なお、上記実施の形態における下型では、凹部15の底面部13に凸部13aが形成された場合を示しているが、下型の形態はこれに限定されるものではなく、底面部13の凹部が設けられる形態、底面部13が平坦の形態の採用も可能である。
【0075】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0076】
10,10A,10B 下型、11,21 基材、12 成形面、12c,13c,50c 中心位置、13 底面部、13a 凸部、13b 内周平面部、14 側面部、14a 上端、15 凹部、16 外周平面部、20 上型、50 溶融ガラス滴、50a,50b 領域、55 ガラス成形体(ガラスレンズ)、61 溶融ガラス、62 溶融槽、63 滴下ノズル、65 ガイド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下型および上型を用い、前記下型の上に溶融ガラス滴を滴下した後、前記下型と前記上型とにより、前記溶融ガラス滴の加圧成形を行なう、ガラス成形体の製造方法であって、
前記下型は、
底面部および前記底面部を取り囲む側面部を有する凹部と、
前記側面部の上端を取り囲む外周平面部と、を含み、
前記側面部と前記外周平面部との交差角度は45度以上に設けられ、
前記溶融ガラス滴の滴下容量は、前記下型に滴下した際に、前記溶融ガラス滴のうち、前記凹部に満たされる前記溶融ガラス滴の容量に対し、前記外周平面部より上方に位置する前記溶融ガラス滴の容量が1.5倍〜6.0倍である、ガラス成形体の製造方法。
【請求項2】
前記底面部は、凸部と、前記凸部を取り囲む環状の内周平面部とを有している、請求項1に記載のガラス成形体の製造方法。
【請求項3】
前記下型において、前記外周平面部と前記側面部とが交差する前記上端領域には、半径が0.1mm〜0.3mmの曲面が設けられている、請求項1に記載のガラス成形体の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス成形体は、ガラスレンズである、請求項1から3のいずれかに記載のガラス成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−87031(P2012−87031A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237289(P2010−237289)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)