説明

ガラス板の製造方法および製造装置

【課題】ガラスリボンの端部の形状不良を防止する。
【解決手段】ガラス板成形装置4の下端で溶融ガラスを融合させてガラスリボンを成形し、ガラス板成形装置4の下方に配置した複数のローラ6に沿ってガラスリボン9を下方に搬送するダウンドロー法によりガラス板を製造する。ガラス板成形装置4の下端とガラス板成形装置4から最も近くに位置しているローラ6aとの間の空間にヒータ8を設け、融合直後のガラスリボン9の端部をヒータ8で局所的に加熱しながらガラスリボン9の成形および搬送を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板の製造方法および製造装置に関する。本発明は、特に、ダウンドロー法でガラス板を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ダウンドロー法とは、楔形のガラス板成形装置の上部の溝から溢れた溶融ガラスをガラス板成形装置の側壁に沿って下方へ流し、ガラス板成形装置の下端(ルート)で融合させてガラスリボンを連続的に成形する方法である。ガラスリボンは、ガラス板成形装置の下方に配置されたロールで支持されながら炉内を進み、徐冷され、所望の大きさのガラス板が得られるように切断される。
【0003】
ダウンドロー法は、大面積かつ薄いガラス板、例えばフラットパネルディスプレイ用ガラス基板の製造に適している。例えば、特開2008−133174号公報には、極薄のガラス板(例えば0.5mm以下)を安定して製造する技術が記載されている。具体的には、成形体(ガラス板成形装置)の直下でガラスリボンの板厚を初期厚みまで薄くした後、規制手段(冷却ローラ)の下方に配置した再加熱手段(ヒータ)でそのガラスリボンを軟化点以上の温度まで加熱して軟化させ、軟化したガラスリボンを下方に引き伸ばして板厚をさらに薄くする。
【0004】
また、高品質のガラスリボンを成形するためは、ガラス板成形装置の側壁における溶融ガラスの幅方向の温度管理が重要である。例えば、特開2007−112665号公報には、発熱体の配置に粗密が存在する加熱器を成形体(ガラス板成形装置)の側壁に面する位置に設け、これにより、溶融ガラスの幅方向の温度分布を均一化する技術が記載されている。特開2008−69024号公報には、フュージョンセル(ガラス板成形装置)の表面の白金被膜を通電加熱することによって、溶融ガラスの幅方向の温度分布を均一化する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−133174号公報
【特許文献2】特開2007−112665号公報
【特許文献3】特開2008−69024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ダウンドロー法で成形したガラスリボンの端部は、通常、図7に示す形をしている。ただし、ガラスリボンの端部が常にこの形をしているとは限らず、二股に分かれた形をしていることもある。二股の形状を有する端部は、ガラスリボンの切断工程を困難にしたり、ガラスリボンの割れの原因になったりする。さらに、二股の形状を有する端部が原因で中央部(製品となる部分)の厚さにバラつきが生じ、歩留まりが低下することもある。
【0007】
本発明の目的は、ガラスリボンの端部の形状不良を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ガラスリボンの端部の形状不良が発生する原因を詳細に調べた。その結果、融合直後のガラスリボンの粘度が、ガラスリボンの端部の最終形状を決定付ける主な因子である点に着目して、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
ガラス板成形装置の下端で溶融ガラスを融合させてガラスリボンを成形し、前記ガラス板成形装置の下方に配置した複数のロールに沿って前記ガラスリボンを下方に搬送するダウンドロー法によるガラス板の製造方法であって、
前記ガラス板成形装置の下端と前記ガラス板成形装置から最も近くに位置している前記ロールとの間の空間にヒータを設け、
融合直後の前記ガラスリボンの端部を前記ヒータで局所的に加熱しながら前記ガラスリボンの成形および搬送を実施する、ガラス板の製造方法を提供する。
【0010】
他の側面において、本発明は、
楔形の断面を有するガラス板成形装置と、
前記ガラス板成形装置の下方に配置され、前記ガラス板成形装置の上部の溝から溢れた溶融ガラスが前記ガラス板成形装置の下端で融合することによって成形されたガラスリボンを前記ガラス板成形装置の下方に搬送する複数のロールと、
融合直後の前記ガラスリボンの幅方向の端部を局所的に加熱しうるように、前記ガラス板成形装置の下端と前記ガラス板成形装置から最も近くに位置している前記ロールとの間の空間に設けられたヒータと、
を備えた、ガラス板の製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
融合直後のガラスリボンは、完全には固化しておらず、粘性流体の状態にあるため、周囲の温度の影響を受けやすい。通常は、ガラスリボンの端部がガラスリボンの中央部よりも速く冷却される。端部の温度低下が中央部の温度低下に比べて速すぎると、幅方向に関して粘度のバラつきが大きくなり、端部の形状不良が発生しやすい。
【0012】
これに対し、上記本発明によると、融合直後のガラスリボンの端部をヒータで局所的に加熱する。つまり、ガラス板成形装置から離れた直後にガラスリボンの端部だけが急速に冷やされるのを防ぐ。これにより、ガラスリボンの幅方向の温度分布、すなわち粘度分布が均一化し、端部の形状不良が発生しにくくなる。既存の装置を流用して本発明を実施できるので、本発明はコスト面でも優れている。
【0013】
本発明と同じ効果を得るために、ガラス板成形装置の下端近傍における炉内の雰囲気温度を高くすることも考えられる。そのようにすれば、本発明と同じ効果が得られるかもしれない。しかし、本発明はガラスリボンの端部を局所的に加熱すれば十分なので、電力消費の面で相当有利である。また、炉内の雰囲気を高温にすると、各種部品の劣化が速く進み、装置寿命が短くなるので好ましくない。
【0014】
なお、「ガラスリボンの端部」とは、例えば、ガラスリボンの側面から内側に約50mm進んだ位置までの領域を指す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態にかかるガラス板の製造装置の概略正面図
【図2】図1に示すガラス板の製造装置のII-II線に沿った概略縦断面図
【図3】ヒータの詳細な位置を示す部分拡大図
【図4】ガイドおよびヒータの寸法関係を示す概略図
【図5】ヒータの変形例を示す概略図
【図6】ガラスリボンとロールとの位置関係を示す概略図
【図7】ガラスリボンの端部の一形状を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
【0017】
図1および図2に示すように、本実施形態にかかるガラス板の製造装置100は、炉2と、炉2内の上部に配置されたガラス板成形装置4と、ガラス板成形装置4の下方に配置された複数のロール6と、ガラス板成形装置4の下端4e(ルート)に近接して配置されたヒータ8とを備えている。この装置100によれば、ガラス板成形装置4から溢れた溶融ガラスを下端4eで融合させてガラスリボン9を成形するダウンドロー法によりガラス板を製造できる。
【0018】
炉2は、通常、耐火煉瓦で作られている。炉2の内壁には複数のヒータ10が鉛直方向に沿って配置されている。ヒータ10は、ガラス板成形装置4の長手方向に平行に延びた長尺の形のものであり、比較的広い範囲を加熱するのに適している。ヒータ10を制御することによって炉2の内部の温度を調節できる。具体的には、炉2内を下方に進むときにガラスリボン9が徐冷されるように、鉛直方向に沿って温度勾配が形成される。
【0019】
ガラス板成形装置4は、通常、耐火煉瓦で作られている。図2に示すように、ガラス板成形装置4の長手方向LDに直交する断面において、ガラス板成形装置4は楔形を示す。ガラス板成形装置4の長手方向LDは、ガラスリボン9の幅方向に一致している。ガラス板成形装置4の上部には、溶融ガラスを保持するための溝4kが長手方向LDに延びるように形成されている。図1に示すように、長手方向LDの一方側から溝4kに溶融ガラスを連続供給できるように、溝4kに供給管11が接続されている。
【0020】
図2に示すように、ガラス板成形装置4は、長手方向LDおよび鉛直方向に直交する方向に関して、1対の側壁4jを有している。側壁4jは、溝4kから溢れた溶融ガラスの流路を形成する。各側壁4jを流れた溶融ガラスが下端4eで融合するように、これらの側壁4jが下端4eで稜線を形成している。図1に示すように、ガラス板成形装置4の長手方向LDの両端には、側壁4jから溶融ガラスがはみ出るのを妨げるガイド7が取り付けられている。図4に示すように、ガイド7は、平面視で楔形をしており、ガラス板成形装置4の端面全体をカバーできる大きさの板材で作られている。鉛直方向に関して、ガイドの7の先端の位置は、ガラス板成形装置4の下端4eに一致している。ガイド7の働きにより、溶融ガラスの全部を側壁4jに沿って流すことが可能である。
【0021】
ロール6は、ガラスリボン9をガラス板成形装置4の下方に搬送する役割を担う。所期の厚さのガラスリボン9が成形されるように、ロール6の回転速度が調節される。図2に示すように、ガラスリボン9を厚さ方向に挟めるように、ロール6は、ガラス板成形装置4の下端4eを含む垂直面に関して対称に配置されている。また、ロール6は、鉛直方向に所定間隔で配置されている。ガラスリボン9は、これらのロール6に挟まれた状態で下方に搬送される。
【0022】
図1に示すように、ヒータ8は、ガラス板成形装置4の長手方向LDの一方側と他方側とに設けられている。具体的に、ヒータ8は、鉛直方向に関してガラス板成形装置4の下端4eとガラス板成形装置4から最も近くに位置しているロール6aとの間の空間に設けられている。融合直後のガラスリボン9の幅方向の端部をヒータ8で局所的に加熱することにより、融合直後のガラスリボン9の端部の粘度が中央部の粘度に比べて高くなりすぎるのを防止する。言い換えれば、ガラスリボン9の幅方向に関する粘度のバラつきが低減する。結果として、ガラスリボン9の端部の形状不良を防げる。さらに、ガラスの失透も防止される。
【0023】
よく知られているように、失透とは、ガラス中に結晶粒が形成されて、ガラスの透明性が低下する現象のことである。ダウンドロー法でガラス板を製造する場合には、ガラスリボン9の端部に失透が発生しやすい。その理由は必ずしも明らかではないが、ガイド7の近傍で溶融ガラスの流速が落ち、失透の生じやすい温度域に溶融ガラスが長く保持されることが一つの原因であると考えられる。
【0024】
ガイド7の近傍にヒータ8を配置すると、ガラスリボン9の端部だけでなく、ガイド7もヒータ8で加熱される。ガイド7の熱がガイド7の近傍の溶融ガラスに伝わり、ガイド7の近傍の溶融ガラスだけが失透の生じやすい温度域に長く保持されるのを防止できる。特に、溶融ガラスが清澄剤としてスズを含む場合には、酸化スズがガラス中に晶出して失透が生じやすい。そのため、溶融ガラスがスズを含む場合には、本発明がとりわけ推奨される。
【0025】
本実施形態において、ヒータ8は、ガラス板成形装置4、ガイド7および炉2のいずれにも接していない。ヒータ8の位置は、融合直後のガラスリボン9の端部を効果的に加熱できるように調節されている。図3を参照してヒータ8の詳細な位置を説明する。ヒータ8は、ガラス板成形装置4の長手方向LDの両端に取り付けられたガイド7よりも外側かつガラスリボン9の側面9pが面している空間に設けられている。より詳細には、鉛直方向に関して、ガラス板成形装置4の下端4eと、ガラスリボン9の幅が漸減して一定になる位置P1との間の空間にヒータ8が設けられている。
【0026】
図3に示すように、成形時において、ガラスリボン9の幅はガラス板成形装置4の下端4eから位置P1まで漸減する。すなわち、側面9pが緩やかにカーブする。ヒータ8は、側面9pのカーブした部分に面している。このような位置にヒータ8を設けることにより、融合直後のガラスリボン9の端部を効率よく加熱できる。なお、ヒータ8の出力や寸法等にもよるが、ガラス板成形装置4の下端4e(ガイド7の下端)からヒータ8までの鉛直方向の距離H1は、例えば0〜500mmであり、好ましくは0〜100mmである。ガイド7の内壁面7gからヒータ8までの水平方向の距離L1は、例えば−10〜100mmであり、好ましくは0〜100mmであり、さらに好ましくは0〜30mmである。ただし、ヒータ8がガラスリボン9に接触しないように留意するべきである。なお、距離L1が−10mm以上0mm未満の場合には、ガイド7の内壁面7gを基準として、ヒータ8の一部または全部がガラスリボン9のある側に存在することになる。
【0027】
図2に示すように、ヒータ8は、ガラス板成形装置4の長手方向LDおよび鉛直方向の双方に直交する水平方向、つまり、ガラスリボン9の厚さ方向に延びている。図4に示すように、ガラスリボン9の厚さ方向に関するヒータ8の寸法W1は、当該方向に関するガラス板成形装置4の寸法W2やガイド7の寸法W3よりも大きい。このような構成によると、ガラスリボン9の表面側と裏面側との両側から端部を均一に加熱できるので、より効果的に形状不良を防止できる。また、ヒータ8が十分な寸法W1を有していることにより、ガイド7の下部も十分加熱できるので、失透の防止効果も高まる。
【0028】
ヒータ8の通電(設定温度)は、ガラスの組成、ヒータ8からガラスリボン9までの距離等を考慮して適宜制御される。例えば、フラットパネルディスプレイ用のガラス板の組成では、ヒータ8の設定温度を800〜1300℃の範囲で任意に調節できる。
【0029】
また、図4に示すように、ガラス板成形装置4の側壁4jでの溶融ガラスの温度を検出する温度センサ12と、温度センサ12からの信号を取得する制御器14とを設けてもよい。温度センサ12は、例えばガイド7の下部に取り付けられており、溶融ガラスの温度を間接に検出する。温度センサ12としては、例えば熱電対を使用できる。制御器14は、温度センサ12の検出結果に基づいてヒータ8への通電を制御する。例えば、温度センサ12によって検出された温度とヒータ8の設定温度とを等しくする。このようにすれば、ガラスの組成によらずヒータ8を適切に制御でき、ガラスリボン9の端部の形状不良を確実に防げる。
【0030】
なお、温度センサ12の検出結果に基づいて、マニュアルでヒータ8の出力を調節してもよい。また、ガラス板成形装置4の下端4eにおける溶融ガラスの幅方向の中央部の温度を検出する場合には、温度センサ12として非接触式の赤外線センサを使用できる。
【0031】
ヒータ8としては、1000℃を超える雰囲気温度でも使用できるものであれば、特に限定されない。具体的には、ヒータ8として、線状発熱体や線状発熱体をコイル状にしたものを使用できる。さらに、セラミックヒータ、ハロゲンヒータ、炭化ケイ素発熱体等の放射型のヒータも使用可能である。ヒータ8の形状も特に限定されず、図1〜4に示すような棒状であってもよいし、図5に示すようなU字状であってもよい。先に説明したように、ガラスリボン9の端部の幅は50mm程度なので、局所加熱を行うためには図1〜4に示す形状のヒータ8で必要十分である。また、ヒータ8の占有スペースをわざわざ確保する必要もない。他方、図5に示すU字状のヒータ18によると、ガラスリボン9の端部9tを3方向からヒータ18で囲んで加熱可能である。
【0032】
本実施形態によると、ヒータ8によってガラスリボン9の端部が加熱されるため、ガラスリボン9の端部はロール6aに到達するまで、粘性流体の性質をより強く保っている。そのため、図6に示すように、端部9tをロール6aで挟んでガラスリボン9を搬送できる。言い換えれば、ロール6aは端部9tを挟む位置に配置されている。ガラスリボン9の幅方向に関して、ロール6aはガラスリボン9の側面を横切っている。他方、ロール6aよりも下にある他のロール6は、端部9tを挟んでおらず、端部9tよりも内側の部分を挟んでいる。
【0033】
例えば、特開2008−133174号公報の図2に示されているように、全てのロールがガラスリボンの端部を挟まないように、それらのロールの位置を定めることも可能である。端部の粘度が高い場合には、安定した搬送を実施する観点やガラスリボンの割れを防ぐ観点から、端部をロールで挟むのを避けた方が賢明である。
【0034】
これに対し、本実施形態によれば、融合直後における端部9tの粘度の上昇が抑制されているので、端部9tをロール6aで挟んでガラスリボン9を搬送できる。また、ガラスリボン9が十分に硬化する前であれば、図6に示すように、端部9tがある程度平坦になるように、ロール6aで端部9tに圧力を加えることも可能である。端部9tが平坦な場合、ガラスリボン9を切断する工程が容易化する。ロール6aよりも下にある他のロール6で端部9tを挟むことも可能であるが、ガラス板成形装置4から最も近い位置にあるロール6aで端部9tを挟めば、端部9tを平坦化する効果が最も高くなる。そして、他のロール6で端部9tよりも内側の部分を挟めば、ガラスリボン9の割れ等の不具合を招くことなく、安定した搬送を実現できる。このように、本実施形態によれば、端部9tの形状を整える効果とガラスリボン9を安定して搬送する効果との両方を享受できる。
【0035】
ガラス板の製造装置100の作用を簡単に説明する。ガラス板成形装置4の溝4kに供給された溶融ガラスの量が一定量を超えると、溶融ガラスは溝4kから溢れて側壁4jに沿って下に流れる。側壁4jでの溶融ガラスは、粘性を保つために、ガラス板成形装置4の周囲に配置されたヒータ10で加熱されている。各側壁4jを流れた溶融ガラスが下端4eで融合し、これにより、ガラスリボン9が成形される。ガラスリボン9は、互いに向かい合うロール6とロール6との間に案内され、徐冷されながら下方に搬送される。ガラスリボン9の温度は下方に進むにつれて低くなり、これに伴ってガラスリボン9の固化が進む。炉2外に搬送したガラスリボン9を所期の大きさに切断すれば、ガラス板が得られる。
【0036】
本実施形態によれば、ヒータ8によってガラスリボン9の端部9tが加熱されるため、ロール6aの近傍におけるガラスリボン9の端部9tの粘度が中央部の粘度に比べて高くなりすぎるのを防止できる。ガラスリボン9がガラス転移点の温度域まで冷却されて固化するのは、炉2内の中間付近が一応の目安である。
【0037】
ガラス板成形装置4の下端4eでの溶融ガラスの粘度は、ガラスの組成や製造条件に応じて変化する。例えば、フラットパネルディスプレイ用のガラス板を製造する場合、下端4eでの溶融ガラスの粘度は、10000〜60000Pa・sの範囲に調節される。溶融ガラスの粘度は、溶融ガラスの温度で管理される。溶融ガラスの温度を800〜1000℃の範囲に調節すれば、溶融ガラスの粘度が上記範囲に収まる。具体的には、溶融ガラスの温度が下端4eで800〜1000℃になるように、ヒータ10を制御して炉2内の雰囲気温度を調節する。
【0038】
特に近年は、大面積のガラス板の需要が増大しつつある。例えば、第10世代の液晶ディスプレイ用ガラス基板の寸法は、2850mm×3050mmである。ガラスリボンの幅が広くなればなるほど、幅方向の粘度のバラつきが生じやすいので、本発明を適用して得られる効果も高まる。なお、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板の典型的なガラス組成を以下に示す。
【0039】
SiO2:57〜70質量%
Al23:13〜19質量%
23:8〜13質量%
MgO:0〜2質量%
CaO:4〜6質量%
SrO:2〜4質量%
BaO:0〜2質量%
Na2O:0〜1質量%
2O:0〜1質量%
As23:0〜1質量%
Sb23:0〜1質量%
SnO2:0〜1質量%
Fe23:0〜1質量%
ZrO2:0〜1質量%
【実施例】
【0040】
耐火煉瓦製の溶解槽と白金製の調整槽(清澄工程を実施する槽)とを備えた連続溶解装置を使用して、下記の組成を有するように調合したガラス原料を1550℃で溶解し、1600℃で清澄し、1550℃で撹拌して溶融ガラスを得た。なお、合計質量が100を超えるのは、四捨五入による誤差が含まれているからである。
【0041】
SiO2:60.9質量%、
Al23:16.9質量%
23:11.6質量%
MgO:1.7質量%
CaO:5.1質量%
SrO:2.6質量%
BaO:0.7質量%
2O:0.25質量%
Fe23:0.15質量%
SnO2:0.13質量%
【0042】
次に、図1を参照して説明したガラス板の製造装置100に溶融ガラスを供給した。ヒータ8の設定温度を1110℃とした。ガラス板成形装置4に流し込まれた溶融ガラスの粘度は、その溶融ガラスの温度が1200℃であったことから、約5000Pa・sに相当すると推察できる。
【0043】
溶融ガラスを供給し続け、ガラス板成形装置4から溶融ガラスを溢れさせてガラスリボンを成形した。ガラスリボンを所定の大きさに切断して多数のガラス板を得た。これらのガラス板の端部の形状を調べたところ、二股に開いたものは無かった。また、これらのガラス板には、明らかな失透も発生していなかった。なお、成形時に高粘度になりやすい別の組成の溶融ガラスを使用して、同じ手順でガラスリボンを成形した。その結果、良好な形状の端部を有するガラス板が得られた。
【符号の説明】
【0044】
2 炉
4 ガラス板成形装置
4e 下端(ルート)
4j 側壁
6,6a ロール
7 ガイド
8 ヒータ
9 ガラスリボン
9t 端部
12 温度センサ
14 制御器
100 ガラス板の製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板成形装置の下端で溶融ガラスを融合させてガラスリボンを成形し、前記ガラス板成形装置の下方に配置した複数のロールに沿って前記ガラスリボンを下方に搬送するダウンドロー法によるガラス板の製造方法であって、
前記ガラス板成形装置の下端と前記ガラス板成形装置から最も近くに位置している前記ロールとの間の空間にヒータを設け、
融合直後の前記ガラスリボンの端部を前記ヒータで局所的に加熱しながら前記ガラスリボンの成形および搬送を実施する、ガラス板の製造方法。
【請求項2】
前記空間が、前記ガラス板成形装置の長手方向の両端に取り付けられたガイドよりも外側かつ前記ガラスリボンの側面が面している空間である、請求項1に記載のガラス板の製造方法。
【請求項3】
前記空間が、前記ガラス板成形装置の下端と前記ガラスリボンの幅が漸減して一定になる位置との間の空間である、請求項1または2に記載のガラス板の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス板成形装置から最も近くに位置している前記ロールで前記ガラスリボンの端部を挟む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項5】
前記溶融ガラスがスズを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項6】
楔形の断面を有するガラス板成形装置と、
前記ガラス板成形装置の下方に配置され、前記ガラス板成形装置の上部の溝から溢れた溶融ガラスが前記ガラス板成形装置の下端で融合することによって成形されたガラスリボンを前記ガラス板成形装置の下方に搬送する複数のロールと、
融合直後の前記ガラスリボンの幅方向の端部を局所的に加熱しうるように、前記ガラス板成形装置の下端と前記ガラス板成形装置から最も近くに位置している前記ロールとの間の空間に設けられたヒータと、
を備えた、ガラス板の製造装置。
【請求項7】
前記ガラス板成形装置の長手方向の端には、前記ガラス板成形装置の側壁から前記溶融ガラスがはみ出るのを妨げるガイドが取り付けられており、
前記空間が、前記ガイドよりも外側かつ前記ガラスリボンの側面が面している空間である、請求項6に記載のガラス板の製造装置。
【請求項8】
前記ガラス板成形装置の長手方向および鉛直方向に直交する方向に関する前記ヒータの寸法が、当該方向に関する前記ガラス板成形装置の寸法よりも大きい、請求項6または7に記載のガラス板の製造装置。
【請求項9】
前記ガラス板成形装置から最も近くに位置している前記ロールが、前記ガラスリボンの端部を挟む位置に配置されている、請求項6〜8のいずれか1項に記載のガラス板の製造装置。
【請求項10】
前記ガラス板成形装置の側壁での前記溶融ガラスの温度を検出する温度センサと、
前記温度センサの検出結果に基づいて前記ヒータへの通電を制御する制御器と、
をさらに備えた、請求項6〜9のいずれか1項に記載のガラス板の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−215428(P2010−215428A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61290(P2009−61290)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(598055910)AvanStrate株式会社 (81)
【出願人】(508271425)安瀚視特股▲ふん▼有限公司 (10)