説明

ガラス溶融炉

【課題】ガラス溶融炉の後壁部からのガラス原料の供給を適切に行うことにより、炉内の溶融ガラス上でのガラス原料の分布状態を良好なものとし、溶融状態に不当なばらつきのある溶融ガラスがガラス溶融炉から流出することに起因するガラス製品の欠陥の発生等を可及的に低減する。
【解決手段】ガラス溶融炉1の後壁部2に、粉状のガラス原料3を炉1内の溶融ガラス4上に供給するための原料投入口5を幅方向複数箇所に形成すると共に、これら複数の原料投入口5のそれぞれの後方にスクリューフィーダ6を設置し、且つ、隣接するスクリューフィーダ6の各幅方向中心の離隔寸法Pを、原料投入口5の開口幅寸法Lの1倍超で且つ4.5倍以下に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉の後壁部に形成された原料投入口からスクリューフィーダによって粉状のガラス原料を炉内の溶融ガラス上に供給するように構成したガラス溶融炉に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ガラス溶融炉においては、溶融ガラスが貯留されている炉内に粉状のガラス原料を供給することが行われるが、そのための手法としては種々のものが公知となっている。具体的には、ガラス溶融炉の炉壁のうち上流側端部位置に相当する後壁部に開口部を形成し、該開口部の上方に揺動するトラフを傾斜状に配置するスイング式装置、該開口部よりベルトコンベアを挿入するコンベア式装置、該開口部より柄杓を挿入する柄杓式装置、および該開口部の後方にスクリューフィーダを設置するスクリュー式装置などが実用に供されている。
【0003】
上記列挙した装置の中では、ガラス溶融炉の開口部に対して密封状態で設置可能であるため、粉状のガラス原料の飛散を防止できる点に着目すれば、スクリュー式装置を使用することが有利である。このスクリュー式装置として、特許文献1、2によれば、ガラス溶融炉の後壁部に形成した開口部周辺に、単一のスクリューを内蔵したスクリューフィーダの前端を位置させると共に、該開口部の後方に延在する当該スクリューフィーダの後端部上方にホッパーを装着し、該ホッパーからのガラス原料を、モータによるスクリューの回転により前方に押し出して炉内に供給する構成が開示されている。
【0004】
特に、特許文献1によれば、ガラス溶融炉の後壁部に、粉状のガラス原料を炉内の溶融ガラス上に供給するための単一の原料投入口を形成し、該原料投入口の後方に、ガラス原料を前方に向かって押し出す単一のスクリューを内蔵してなるスクリューフィーダを設置した構成が開示されている。また、同公報によれば、原料投入口の構造に改良を加えて、炉内に供給されたガラス原料が溶融ガラス上で浮島状に浮遊し得るようにした構成も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−316433号公報
【特許文献2】特開2005−206368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたガラス溶融炉は小型であるため、単一の原料投入口および単一のスクリューフィーダを備えるだけでよいが、大型のガラス溶融炉においては、複数の原料投入口を形成し且つその各々についてスクリューフィーダを設置する必要がある。したがって、本発明者等は、大型のガラス溶融炉については、複数の原料投入口およびこれらに対応する複数のスクリューフィーダを当該炉の後壁部に備えてなる構成を採用している。
【0007】
さらに、本発明者等は、特許文献1に開示されているように炉内の溶融ガラス上に供給直後からガラス原料を浮島状に浮遊させるよりも、溶融ガラス上で広範囲に亘ってガラス原料を分散させた方が、最終的に得られるガラス成形品の不良率を低減させる上で有利であることを知見するに至った。
【0008】
そこで、本発明者等は、図6に示すような構成を備えたガラス溶融炉1xの使用を試みている。すなわち、このガラス溶融炉1xは、その後壁部2xの幅方向複数箇所に原料投入口5xを形成すると共に、これら複数の原料投入口5xのそれぞれの後方に、単一のスクリュー8xを備えてなるスクリューフィーダ6xを取り付けたものである。そして、複数の原料投入口5xから炉内の溶融ガラス4x上に供給された粉状のガラス原料3xは、浮島状になることなく分散された状態となる。
【0009】
しかしながら、このような構成を備えたガラス溶融炉1xにおいても、未だ解決すべき問題が残存していた。すなわち、ガラス溶融炉1xに供給すべきガラス原料3xの総供給量は予め決まっており、且つ、各スクリューフィーダ6xによって個々に押し出されるガラス原料3xの量は相互に同一もしくは略同一である。このような条件の下で、必然的に生じ得る誤差や予測困難性等を加味しつつ、ガラス原料3xを、浮島状等のような塊が生成されないように確実に分散させようとすると、隣接するスクリューフィーダ6xの各幅方向中心の離隔寸法Pxを長くせざるを得なくなる。
【0010】
そのため、同図に表れているように、個々の原料投入口5xから溶融ガラス4x上に供給されたガラス原料3xが、帯状に浮遊して流れることになり、それら個々の帯状部30xの相互間に大きな隙間31xが生成されることになる。そして、この大きな隙間31xが原因となって、ガラス原料3xの流れが不安定となり、ガラス原料3xが蛇行して流れるなどの事態を招くため、個々の帯状部30x同士が衝突してガラス原料の塊が生成され或いは一部のガラス原料3xが不当に厚く積み重なった状態となり得ると共に、隙間31xがさらに大きくなり、溶融ガラス4x上でのガラス原料3xの分布が極めて不均一となる。
【0011】
このような状態となることにより、溶融状態に不当なばらつきが生じている溶融ガラスがガラス溶融炉1xから流出した場合には、その下流側で成形されるガラス製品に欠陥が生じる。また、仮に、帯状部30xの相互間に大きな隙間31xが生成された状態のままで、溶融ガラスがガラス溶融炉1xから流出した場合であっても、溶融ガラスの溶融状態に不当なばらつきが生じていることから、同様にしてガラス製品に欠陥が生じる。
【0012】
しかも、以上のようにガラス溶融炉1xから流出する溶融ガラスの溶融状態に不当なばらつきが生じていると、いわゆるガス抜きが十分に行われていないことになり、その結果として、ガラス製品に泡が発生するという致命的な欠陥を招くおそれもある。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑み、ガラス溶融炉の後壁部からのガラス原料の供給を適切に行うことにより、炉内の溶融ガラス上でのガラス原料の分布状態を良好なものとし、溶融状態に不当なばらつきのある溶融ガラスがガラス溶融炉から流出することに起因するガラス製品の欠陥の発生等を可及的に低減することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記技術的課題を解決するために創案された本発明は、炉の後壁部に、粉状のガラス原料を炉内の溶融ガラス上に供給するための原料投入口が形成されると共に、該原料投入口の後方に、前記ガラス原料を前方に向かって押し出すスクリューを備えてなるスクリューフィーダが設置されたガラス溶融炉において、前記原料投入口が前記炉の後壁部の幅方向複数箇所に形成されると共に、これら複数の原料投入口のそれぞれの後方に前記スクリューフィーダが設置され、且つ、隣接する前記スクリューフィーダの各幅方向中心の離隔寸法が、前記原料投入口の開口幅寸法の1倍超で4.5倍以下に設定されていることに特徴づけられる。
【0015】
このような構成によれば、隣接するスクリューフィーダのうち、一方のスクリューフィーダの幅方向中心と、他方のスクリューフィーダの幅方向中心との離隔寸法が、原料投入口の開口幅寸法の1倍超で4.5倍以下に設定されている。この数値範囲は、本発明者等が鋭意研究を重ねた結果として案出したものである。このような設定の下では、各原料投入口から炉内の溶融ガラス上に供給されたガラス原料は、隣接するガラス原料の相互間に隙間が存在しなくなるか或いは仮に隙間が形成されても極めて小さい隙間であって不当に大きなものとなることはない。この場合、各原料投入口から溶融ガラス上に供給されるガラス原料の総供給量は予め決まっているため、各スクリューフィーダのガラス原料の押し出し能力もそれに応じて決まることになり、このような事情の下では、上記数値範囲の条件を満たしていれば、必ず上述のように隣接するガラス原料の相互間に隙間が生じないか或いは極めて小さいものとなる。このような状態になると、溶融ガラス上に、例えばガラス原料が薄い層として敷き詰められたような状態となる。これにより、ガラス原料の流れが安定し且つ整列した状態で下流側に向かうことになるため、ガラス原料同士が不当に衝突し合う等の現象は生じず、ガラス原料が均一な分布を維持しつつ一体となった状態で下流側に向かって流れ、その途中において幅方向で均一に溶融される。したがって、ガラス溶融炉の下流端では、溶融ガラスの溶融状態に幅方向で不当なばらつきが生じるという不具合を回避することができる。なお、上記の数値が1倍に近くなると、溶融ガラス上で隣接する原料投入口からのガラス原料が重なり合うことも考えられるが、この場合の重なり合いは、ガラス原料の厚みを一部において不当に厚くするものではないのはもとより、あくまでもガラス原料の流れは安定しているため、その重なり部が不当に厚くなって塊状等になることはない。ただし、このような点を考慮すれば、上記の数値の下限値は2倍であることが好ましい。また、隣接する原料投入口からのガラス原料の相互間に確実に隙間が生じないようにするためには、上記の数値の上限値が3.9倍であることが好ましい。これらの数値も、本発明者等が鋭意研究を重ねた結果として得られたものである。以上のように、各原料投入口から溶融ガラス上に供給されたガラス原料は、ガラス溶融炉の下流端に達するまでの間に均一に溶融されて、幅方向に不当な溶融状態のばらつきが生じていないままでガラス溶融炉から流出することになるので、その下流側で成形されるガラス製品に欠陥が生じる確率は極めて低くなる。
【0016】
この場合、単一の前記スクリューフィーダに、複数のスクリューが幅方向に並列に配列されるようにすることもできる。
【0017】
このようにすれば、一個のスクリューフィーダによって押し出されるガラス原料の量を多くできるため、炉の後壁部に形成すべき原料投入口の個数を少なくすることが可能となり、炉の後壁部の構成が簡略化される。しかも、一個のスクリューフィーダから溶融ガラス上へのガラス原料の供給は幅方向の広い範囲に亘って均一に行われ、隣接する原料投入口から溶融ガラス上に供給されたガラス原料の相互間の数が少なくなるため、それらの相互間に仮に僅かな隙間が形成されていても、ガラス原料の流れは安定したものとなる。
【0018】
以上の構成において、前記原料投入口の前方に、前記ガラス原料を幅方向に広げて炉内に供給するためのガイド部を設けることが好ましい。
【0019】
このようにすれば、一個の原料投入口から炉内にガラス原料を供給する場合に、そのガラス原料は、ガイド部により案内されて幅方向に広がった状態で炉内に供給されるため、溶融ガラス上でガラス原料が十分に分散することになり、効率良くガラス原料の分布状態を均一することができる。しかも、炉の後壁部に複数の原料投入口を形成する際の幅方向ピッチを大きくしてその個数を少なくすることができるため、スクリューフィーダの個数の削減ひいては炉の製作コストの低廉化が図られる。
【0020】
このような構成において、前記ガイド部は、前記原料投入口から前方に向かってテーパ状に拡開する傾斜ガイド面を有していることが好ましい。
【0021】
このようにすれば、ガイド部に傾斜ガイド面を形成するだけで済むため、ガイド部の構成を簡略化することができると共に、ガイド部の製作容易化が図られる。
【0022】
また、前記ガイド部の下端は、前記原料投入口の下端よりも下方に位置していることが好ましい。
【0023】
このようにすれば、原料投入口から下方に落下しつつ炉内に供給されるガラス原料を、その落下過程において幅方向に広げることが可能となるため、より確実にガラス原料は溶融ガラス上で幅方向に広い範囲に亘って均一に分散することになる。
【0024】
以上の構成において、隣接する前記原料投入口からそれぞれ供給されて溶融ガラス上に浮遊して前方に向かって流れるガラス原料のそれぞれの流動領域が、前記後壁部の前面から前方に向かって2m以内で合流するように構成されていることが好ましい。
【0025】
このようにすれば、原料投入口の真下、すなわち炉の後壁部の前面と接する部位では、必然的に隣接する原料投入口から供給されたガラス原料の相互間に隙間が生じているが、各ガラス原料の流動領域が後壁部の前面から2m以内(好ましくは1m程度)で合流すれば、各ガラス原料の相互間に隙間が生じなくなる。そして、このように後壁部の前面から2mm以内で各ガラス原料の相互間に隙間が生じなくなれば、この後はその状態を維持して下流側(前方)に流れていき、溶融状態に不当なばらつきが生じるおそれがなくなる。
【0026】
以上の構成において、前記複数の原料投入口から炉内に供給されるガラス原料の総供給量が、400kg/時間〜6000kg/時間であることが好ましい。
【0027】
すなわち、上述の何れの構成も、極端に小型のガラス溶融炉には不向きであり、ガラス原料の総供給量が400kg/時間〜6000kg/時間であるガラス溶融炉に適用すれば、極めて有利となる。
【発明の効果】
【0028】
以上のように本発明によれば、炉の後壁部に複数の原料投入口およびこれらにそれぞれ対応するようにスクリューフィーダが設置された構成において、隣接するスクリューフィーダのうち、一方のスクリューフィーダの幅方向中心と、他方のスクリューフィーダの幅方向中心との離隔寸法が、原料投入口の開口幅寸法の1倍超で4.5倍以下に設定されている。このような設定の下では、各原料投入口から炉内の溶融ガラス上に供給されたガラス原料は、隣接するガラス原料の相互間に隙間が存在しなくなるか或いは仮に隙間が形成されても極めて小さい隙間であって不当に大きなものとなることはない。そのため、ガラス原料の流れが不安定となってガラス原料同士が衝突し合う等の現象は生じず、ガラス原料が均一な分布を維持した状態で流れていくことになる。その結果、各原料投入口から溶融ガラス上に供給されたガラス原料は、不当な溶融状態のばらつきが生じることなくガラス溶融炉から流出することになるので、その下流側で成形されるガラス製品に欠陥が生じる確率は極めて低くなる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態に係るガラス溶融炉の後方部分を示す要部縦断側面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るガラス溶融炉の後方部分を示す要部横断平面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るガラス溶融炉の原料投入口の周辺を示す要部斜視図である。
【図4】図4(a)、(b)は何れも、本発明の第2実施形態に係るガラス溶融炉の構成要素であるスクリューフィーダが複数本のスクリューを内蔵してなる状態を示す正面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るガラス溶融炉の原料投入口の周辺を示す要部斜視図である。
【図6】本発明を完成させるに至った原因となる問題点を示すためのガラス溶融炉の後方部分を示す要部横断平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。
【0031】
図1および図2は、本発明の第1実施形態に係るガラス溶融炉1の後方部位を例示している。これら各図に示すように、ガラス溶融炉1の後壁部2には、粉状のガラス原料3を炉1内に貯留されて前方に向かって流れている溶融ガラス4上に供給するための複数(図例では四つ)の原料投入口5が形成されている。そして、これら原料投入口5のそれぞれの後方には、ガラス原料3を前方に向かって押し出すスクリューフィーダ6(図例では計四個)が設置されている。したがって、これらスクリューフィーダ6の動作により前方に向かって押し出されたガラス原料3は、対応する原料投入口5から溶融ガラス4上に落下供給されるように構成されている。なお、各スクリューフィーダ6の前端は、炉1の後壁部2の原料投入口5に通じる貫通孔7に後方からその途中まで挿通されて、各原料投入口5よりも前方に突出していない。
【0032】
各スクリューフィーダ6にはそれぞれ一本のスクリュー8が内蔵されていると共に、これらスクリュー8は、各スクリューフィーダ6の後方に配設された駆動モータ9によりそれぞれ回転駆動される構成である。また、各スクリューフィーダ6の後端部上方には、ガラス原料を貯留してスクリューフィーダ6内に落下供給させるホッパー10(図1参照)が配設されている。なお、本実施形態では、複数の原料投入口5の大きさや形状および複数個のスクリューフィーダ6の形状や押し出し能力さらには設置状態は、全て同一とされている。
【0033】
この場合において、図2に示すように、複数個のスクリューフィーダ6における隣接するスクリューフィーダ6のうち、一方のスクリューフィーダ6の幅方向中心と他方のスクリューフィーダ6の幅方向中心との離隔寸法Pは、各原料投入口5の開口幅寸法Lの1倍超で且つ4.5倍以下に設定されている。
【0034】
ここで、原料投入口5の周辺構造について説明すると、図3に示すように、主耐火物11には、前後方向に貫通する上述の貫通孔7が形成されると共に、この貫通孔7の前端が原料投入口5とされ且つその後方がスクリューフィーダ6の挿通部とされている。そして、この主耐火物11の両側には、ガイド部を構成するガイド用耐火物12が、主耐火物11から前方に突出した状態で配列されている。これらガイド用耐火物12には、それぞれ前方に移行するに連れて両者間の距離が漸次長くなる傾斜状のガイド面13が形成され、この両ガイド面13は、主耐火物11の前面の幅方向両端から前方に向かってせり出している。
【0035】
また、この両ガイド用耐火物12(ガイド面13)の下端は、原料投入口5の下端よりも下方に位置し且つ主耐火物11の下端位置と一致していると共に、その上端は、主耐火物11の上端よりも下方位置であって原料投入口5の高さ方向中間部に位置している。そして、本実施形態では、この両ガイド用耐火物12におけるガイド面13と対称的な位置にそれぞれ他のガイド面13が形成され、これら他のガイド面13が、両側に隣接する他の原料投入口5のそれぞれの一方のガイド面13とされている(図2参照)。したがって、一つのガイド用耐火物12の両側には、両者が前方に移行するに連れて両者間の離隔距離が漸次短くなるように一方の原料投入口5のガイド面13とこれに隣接する他方の原料投入口5のガイド面13とが形成されている。また、図2に示すように、主耐火物11の前端面は、炉1の後壁部2の前面14よりも後方に位置しているのに対して、ガイド用耐火物12の前端面は、後壁部2の前面14と同一面上に位置している。
【0036】
次に、この第1実施形態に係るガラス溶融炉1の作用を説明する。
【0037】
炉1内の溶融ガラス4が下流側(前方)に向かって低速度で流れている間に、複数個のスクリューフィーダ6における各スクリュー8の回転に伴ってガラス原料3が前方に向かって押し出されることにより、複数の原料投入口5から炉1内の溶融ガラス4上に供給されたガラス原料3は、図2に示すように、隣接する原料投入口5に対応する相互間に隙間を生じることなく浮遊して下流側に流れる。この場合、複数の原料投入口5から炉1内に供給されるガラス原料3の総供給量は、400kg/時〜6000kg/時であるため、個々の原料投入口5からのガラス原料3の供給量は、図例ではその1/4となる。
【0038】
この場合、ガラス原料3が各原料投入口5からそれぞれ炉1内に供給される際には、図3に示す原料投入口5の幅方向両側に存するガイド面13によって下方に拡開されつつ落下供給される。この場合、ガイド面13の下端は、原料投入口5の下端よりも下方に位置しているので、落下供給されるガラス原料3の幅方向の広がりは、ガイド面13によって良好に確保される。そして、炉1内の溶融ガラス4上に落下した直後においては、隣接する原料投入口5からのガラス原料3の相互間に隙間が生じているが、炉1の後壁部2の前面14から2m以内の位置(例えば1m程度の位置)でそれらが合流することにより、溶融ガラス4上では、均一に分散された単一の薄い層状をなすガラス原料3が概ね一体となって安定した状態で下流側に流れていく。
【0039】
これにより、ガラス原料3同士が不当に衝突し合う等の現象を生じることなく、ガラス原料3が整列して流れるため、ガラス原料3はその流れの途中において幅方向で均一に溶融され、ガラス溶融炉1の下流端では、溶融ガラス4の溶融状態に幅方向で不当なばらつきが生じることを抑制できる。したがって、各原料投入口5から溶融ガラス4上に供給されたガラス原料3は、幅方向に不当な溶融状態のばらつきが生じることなくガラス溶融炉1から流出することになるので、その下流側で成形されるガラス製品に欠陥が生じる確率は極めて低くなる。
【0040】
図4(a)、(b)および図5は、本発明の第2実施形態に係るガラス溶融炉1の主要構成部分を示すものである。この第2実施形態に係るガラス溶融炉1が、上述の第1実施形態に係るガラス溶融炉1と相違する点は、図4(a)、(b)に示すように単一のスクリューフィーダ6が複数本(図例では6本)のスクリュー8を内蔵しているところと、図5に示すように前端が原料投入口5とされた貫通孔7が、主耐火物11に幅方向に長尺な長孔として形成されているところにある。なお、図4(a)に示すスクリューフィーダ6は、個々のスクリュー8の形状に倣うようにケーシング16の上面部および下面部が複数の部分円弧を幅方向に連結した形状を呈しているのに対して、図4(b)に示すスクリューフィーダ6は、ケーシング16の上面部および下面部が平板状に形成されている。なお、これらのスクリューフィーダ6の幅方向中心Xは、六個のスクリュー8の配列方向中央に位置している。このような構成によれば、個々の原料投入口5から多量のガラス原料3を幅方向の広い範囲に亘って供給することができるため、原料投入口5の個数を減少させて炉1の後壁部2の構造の簡略化を図ることができる。その他の構成および作用効果は、実質的に上述の第1実施形態と同一であるので、図4(a)、(b)および図5において、両実施形態に共通する構成要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【実施例1】
【0041】
本発明の実施例および比較例として、径が120mmで全長が630mmの単一のスクリューを内蔵してなるスクリューフィーダを炉の後壁部に設置したガラス溶融炉について、下記の表1に示す条件で、各原料投入口からガラス原料を炉内の溶融ガラス上に供給すると共に、その結果を下記の表1に示した。なお、下記の表1中、炉内におけるガラス原料の分布状態については、炉の後壁部の前面から前方側に1〜2mの範囲内におけるガラス原料の分布状態を観察し、炉内の幅方向に亘って広く均等な厚さで分布した場合を「○」とし、概ね広く均等な厚さで分布した場合を「△」とし、各原料投入口から供給されたガラス原料の相互間に広い隙間が形成されて個別に帯状を維持したままで分布した場合を「×」とした。
【0042】
【表1】

上記の表1によれば、スクリューフィーダの設置間隔つまり隣接するスクリューフィーダの各幅方向中心の離隔寸法をPとし、原料投入口の幅方向寸法(開口幅寸法)をLとした場合に、本発明の実施例を示すものとして、P/Lが、3.1および3.9であれば、炉内のガラス原料の分布状態が最も良く、また同じく本発明の実施例を示すものとして、P/Lが、4.0および4.3であっても分布状態が良いことを知得できる。一方、比較例を示すものとして、P/Lが、5.0であれば、炉内のガラス原料の分布状態はさほど良くなく、また同じく比較例を示すものとして、P/Lが、8,7であれば、分布状態が極めて悪いことを知得できる。したがって、P/Lが、4.5であれば、分布状態が良いものと推認することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 ガラス溶融炉
2 炉の後壁部
3 ガラス原料
4 溶融ガラス
5 原料投入口
6 スクリューフィーダ
8 スクリュー
11 主耐火物(原料投入口とスクリューフィーダの挿通部が形成された耐火物)
12 ガイド用耐火物(ガイド部)
13 ガイド面
14 後壁部の前面
L 原料投入口の開口幅寸法
P 隣接するスクリューフィーダの各幅方向中心の離隔寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉の後壁部に、粉状のガラス原料を炉内の溶融ガラス上に供給するための原料投入口が形成されると共に、該原料投入口の後方に、前記ガラス原料を前方に向かって押し出すスクリューを備えてなるスクリューフィーダが設置されたガラス溶融炉において、
前記原料投入口が前記炉の後壁部の幅方向複数箇所に形成されると共に、これら複数の原料投入口のそれぞれの後方に前記スクリューフィーダが設置され、且つ、隣接する前記スクリューフィーダの各幅方向中心の離隔寸法が、前記原料投入口の開口幅寸法の1倍超で4.5倍以下に設定されていることを特徴とするガラス溶融炉。
【請求項2】
単一の前記スクリューフィーダに、複数のスクリューが幅方向に並列に配列されていることを特徴とする請求項1に記載のガラス溶融炉。
【請求項3】
前記原料投入口の前方に、前記ガラス原料を幅方向に広げて炉内に供給するためのガイド部を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載のガラス溶融炉。
【請求項4】
前記ガイド部は、前記原料投入口から前方に向かってテーパ状に拡開する傾斜ガイド面を有していることを特徴とする請求項3に記載のガラス溶融炉。
【請求項5】
前記ガイド部の下端は、前記原料投入口の下端よりも下方に位置していることを特徴とする請求項3または4に記載のガラス溶融炉。
【請求項6】
隣接する前記原料投入口からそれぞれ供給されて溶融ガラス上に浮遊して前方に向かって流れるガラス原料のそれぞれの流動領域が、前記後壁部の前面から前方に向かって2m以内で合流するように構成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のガラス溶融炉。
【請求項7】
前記複数の原料投入口から炉内に供給されるガラス原料の総供給量が、400kg/時間〜6000kg/時間であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のガラス溶融炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−222217(P2010−222217A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73733(P2009−73733)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】