説明

ガラス組成物

【課題】環境負荷の大きい酸化ヒ素や酸化アンチモンの使用量が少なく、しかも残泡の少ないガラス組成物を提供する。
【解決手段】このガラス組成物は、質量%で表示して、SiO2:40〜70%,B23:5〜20%,Al23:10〜25%,MgO:0〜10%,CaO:0〜20%,SrO:0〜20%,BaO:0〜10%,Li2O:0.001〜0.5%,Na2O:0.01〜0.5%,K2O:0.002〜0.5%,Cl:0%を超え1.0%以下,を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物に関し、特に、アルミノボロシリケート系のガラス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス組成物の製造過程において、ガラス組成物に泡などが残留しないようにすることを、清澄するという。ガラス融液を清澄するために、清澄剤を添加する方法がごく一般に知られている。清澄剤としては、酸化ヒ素、酸化アンチモン、フッ化物などが周知である。しかし、これらの成分は環境負荷が高いため、その使用量の削減が社会的な要請となっている。
【0003】
情報表示装置、特にアクティブマトリクス型の液晶表示装置(LCD)の基板に用いられるガラス組成物には、これまで無アルカリホウケイ酸ガラス組成物が用いられてきた。無アルカリホウケイ酸ガラスの代表例としては、米国コーニング社のコード7059が挙げられる。アルミニウム、ホウ素、ケイ素などの成分は、その電荷が大きいために、静電的な束縛が強く、ガラス中で十分に移動しにくい。このため、一般に、無アルカリホウケイ酸ガラス組成物は粘性が高く、ガラスの清澄が容易ではない。
【0004】
これまで、酸化ヒ素に代表される、望ましくない清澄剤の使用を避けながら、液晶表示装置の基板に用いるためのガラス組成物を製造する方法が種々検討されてきた。
【0005】
特開平10-25132号公報には、無アルカリホウケイ酸ガラス組成物を得るためのガラス原料に、「清澄剤として、硫酸塩をSO3換算で0.005〜1.0重量%、及び塩化物をCl2換算で0.01〜2.0重量%添加する」ことが開示されている。この公報には、硫酸塩としてはBaSO4、CaSO4が、塩化物としてはBaCl2、CaCl2がそれぞれ開示されている。
【0006】
特開昭60-141642号公報には、フォトマスクや液晶表示装置に用いるための低熱膨張ガラスが開示されている。このガラスは、5.0質量%以上のMgOを含み、5.0質量%以下のアルカリ金属酸化物を許容するアルミノボロシリケート系のガラスである。この公報には、低熱膨張ガラスの脱泡剤(清澄剤)として、As23、Sb23、(NH4)2SO4、NaClおよびフッ化物から選ばれる少なくとも1種を使用することが開示されている。
【0007】
環境負荷が高くない清澄剤として、特開平10-25132号公報はBaCl2およびCaCl2を開示し、特開昭60-141642号公報はNaClを開示している。
【0008】
しかし、本発明者が検討したところ、BaCl2、CaCl2のようなアルカリ土類金属の塩化物からは大きな清澄作用が得られない場合がある。また、NaClを清澄剤として用いて得られたNaを多く含むガラス組成物を液晶表示装置のガラス基板として使用すると、ガラス基板から溶出するNaイオンが液晶素子の性能を損なう場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、液晶表示装置に代表される情報表示装置に適した組成を有し、泡の少ないガラス組成物の提供を目的とする。さらに、本発明は、このガラス組成物を用いた情報表示装置用ガラス基板およびこの情報表示装置用ガラス基板を用いた情報表示装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のガラス組成物は、質量%で示して、
SiO2 40〜70%,
23 5〜20%,
Al23 10〜25%,
MgO 0〜10%,
CaO 0〜20%,
SrO 0〜20%,
BaO 0〜10%,
Li2O 0.001〜0.5%,
Na2O 0.01〜0.5%,
2O 0.002〜0.5%,
Cl 0%を超え1.0%以下,
を含む、ガラス組成物である。
【0011】
本発明は、また別の側面から、上記のガラス組成物からなる情報表示装置用ガラス基板を提供する。また、本発明は、さらに別の側面から、上記の情報表示装置用ガラス基板を含む情報表示装置を提供する。
【0012】
Li2O、Na2O、K2Oなどのアルカリ金属酸化物は、ガラスから溶出して他の部材に影響を及ぼすため、液晶表示装置用ガラス基板としての用途では、これまでガラス組成物から排除されてきた。しかし、微量のアルカリ金属酸化物の存在は、ガラスの清澄作用を大きく向上させる。これを考慮して、本発明によるガラス組成物では、微量のLi2O、Na2OおよびK2Oを、微量のClとともに添加することとした。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、酸化ヒ素に代表される環境負荷の高い成分を、ごく限られた量のみを使用することにより、あるいは使用することなく、アルミノボロシリケート系のガラス組成物において、十分な清澄効果を得ることができる。本発明は、環境負荷の高い成分の使用を避けながら、高い歩留まりと低いコストにより、大型の情報表示装置用ガラス基板を製造することを容易とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、表3に示した実施例と比較例4のガラス組成物における、塩素含有率と残存する泡数との関係を示すグラフである。
【図2】図2は、本発明のガラス組成物からなる情報表示装置用ガラス基板の一例を示す斜視図である。
【図3】図3は、情報表示装置の断面図であり、図2の情報表示装置用ガラス基板の使用状態の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のガラス組成物は、塩素を含有するので、泡の残留の少ないガラス組成物を得ることが容易である。塩素は、塩化物、特にアルカリ金属塩化物および/またはアルカリ土類金属塩化物を添加したガラス原料バッチを熔融することで、ガラス組成物に含有させることが好ましい。このようにすることで、ガラス融液に対する、塩素の効果的な清澄効果を実現することができる。
【0016】
上記塩化物による清澄のメカニズムは、完全には解明されていないが、本発明者らは以下のように考えている。
【0017】
塩化物、特にアルカリ金属塩化物の沸点は、本発明のガラス組成物の熔融に適した温度範囲、例えば1400℃〜1650℃に近似している。LiClの沸点は1360℃、NaClの沸点は1413℃であり、また、KClの沸点は1510℃である。つまり、本発明のガラス組成物の熔融に適した温度範囲において、それらアルカリ金属塩化物の蒸気圧が、大気圧に匹敵するほど高くなるものと考えられる。
【0018】
したがって、本発明のガラス組成物を熔融しているとき、塩素はガラス融液中でアルカリと結合し、アルカリ金属塩化物の気体となりうる。このアルカリ金属塩化物の気体は、ガラス融液中で気泡を形成し、あるいはガラス融液中の気泡を拡大させることで、それらの気泡を浮上させ、ガラス融液表面で気泡が破れ、ガラス融液から除去される効果を持つ。このようなメカニズムにより、ガラス組成物が清澄される、と考えている。
【0019】
なお、Clは、その揮発性のために、原料よりもガラスにおける含有率が低くなる傾向にあり、原料に含まれるClが微量であれば、ガラスにほとんど残らない場合もある。
【0020】
Li2O、K2O、Na2Oなどのアルカリ金属酸化物は、ガラスから溶出して他の部材に影響を及ぼすため、液晶表示装置用ガラス基板としての用途では、これまでガラス組成物から排除されてきた。しかし、微量であればアルカリ金属酸化物は、ガラスからの溶出の影響を実際には問題にならない程度に抑制しながら、ガラスの清澄作用を高めることができる。これらのアルカリ金属酸化物は、ガラス粘性を引き下げるとともに、原料の中で熔解しにくいシリカの熔解促進に寄与する。
【0021】
ガラス組成物の各成分について説明する。以下、ガラス組成物の成分の含有率を示す%表示は、すべて質量%である。
【0022】
(K2O、Na2O、Li2O)
2O、Na2O、Li2Oは、ガラスの粘性を引き下げて、ガラスの清澄を促進する成分である。また、これらは、ガラス原料の中で熔解しにくいシリカの熔解促進にも寄与する。
【0023】
2Oは、ガラス融液中の塩素イオンと結合して、1500℃以上の温度で塩化カリウムとして気化し、ガラス中の泡の拡大浮上を促進させる。それとともに、その流動によってガラス融液を均質化させる効果を有する。一方、K2Oの含有率が高すぎると、ガラスの熱膨張係数が増加し、シリコン材料との熱膨張率の差が生じる場合がある。したがって、K2Oの含有率は0.002〜0.5%とする。この含有率は、例えば、0.005%以上、さらには0.01%を超える範囲、場合によっては0.03%を超える範囲にあってよい。また、この含有率は、0.05%未満の範囲にあってもよい。
【0024】
Na2OおよびLi2Oもまた、K2Oと同様に、それぞれ塩化ナトリウムおよび塩化リチウムとして気化し、ガラス中の泡を拡大浮上させ、同時にガラス融液を均質化させる効果を有する。一方、ガラス中のナトリウムは溶出しやすい。このため、Na2Oの含有率は0.01〜0.5%とする。また、Li2Oの含有率は0.001〜0.5%とする。Li2Oは、ガラス組成物の体積抵抗率を引き下げる効果の高い成分である。Li2Oの含有率は、例えば、0.002%以上、さらには0.01%を超える範囲、場合によっては0.02%を超える範囲にあってよい。また、Li2Oの含有率は、0.2%以下であってよい。Na2Oの含有率の下限値がK2OおよびLi2Oと比べて高い理由は、工業原料を用いると、ガラス中にはNa2Oが不可避的に含まれてしまうからである。Na2Oの含有率は、例えば、0.04%を超える範囲、さらには0.05%を超える範囲にあってよい。また、Na2Oの含有率は、0.2%以下、さらには0.1%以下であってよい。
【0025】
Li2O、Na2OおよびK2Oの含有率の合計は、0.06%を超える範囲、さらには0.07%を超える範囲、場合によっては0.2%を超える範囲にあってよい。これらの含有率の合計の上限は、1.5%、さらには1.0%、場合によっては0.5%であってよい。ガラス組成物は、アルカリ金属酸化物として、Li2O、Na2OおよびK2Oに加えて、Rb2O、Cs2Oなどをさらに含んでもよい。Rb2OやCs2Oを含むアルカリ金属酸化物の総含有率も、上記の範囲、例えば0.06%を超え1.5%以下の範囲、とすることが好ましい。
【0026】
さらに本発明によるガラス組成物は、Li2Oを始め、K2OおよびNa2Oのアルカリ金属酸化物を含んでいるので、これらのアルカリ金属酸化物を含まない以外は同じ組成のガラスに比べて、体積抵抗率を下げることができる。したがって、帯電しにくいガラスとすることができる。
【0027】
(混合アルカリ効果)
Li2O、K2OおよびNa2Oのうち、ガラス中での移動速度が最も遅いのはK2Oであるが、ガラス組成物中にLi2Oおよび/またはNa2OとK2Oとを共存させることによって、Liイオンおよび/またはNaイオンの移動速度を抑制することができる。つまり、複数のアルカリ金属酸化物を共存させることによって、ガラス組成物の化学的耐久性を高める効果が得られる。
【0028】
このように複数種のアルカリ金属酸化物をガラス組成中に共存させると、1種類のアルカリ金属酸化物を含有する場合よりも、より優れた清澄効果が得られる。また、Li2O、Na2OおよびK2Oがガラス組成物中に微量で共存すると、ガラス組成物からのアルカリ金属やアルカリ金属イオンの溶出を抑制でき、ガラス組成物の化学的耐久性を高める効果が得られる。イオン半径の大きなカリウムをナトリウムおよびリチウムと共存させることにより、熔融状態から冷却され、体積収縮して緻密な構造を有するに至ったガラス組成物中では、立体障害によって、それらの移動の自由度が低下するためである。
【0029】
(Cl)
Clは、ガラスの清澄を促進できる成分である。その含有率は0%を超える範囲とする。後述する実施例で示すように、Clの添加量が極微量(例えば、0.001%)であってもその効果が得られる。他方、Clはガラスへの熔解度が高くないために、その含有率が1.0%を超えると、成形中のガラス内部で凝縮し、塩化物の結晶を含んだ泡が形成されたり、ガラスの分相や失透が生じたりする場合がある。したがって、Clの含有率は0%を超え1.0%以下とする。この含有率は、例えば、0.002%以上、0.01%以上、0.04%以上、さらには0.09%を超える範囲、場合によっては0.1%を超える範囲にあってもよい。
【0030】
Li2O、Na2OおよびK2Oを構成するアルカリ金属と、Clとは、別々の原料を経由して添加してもよい。しかし、その絶対的な含有量が少ないために、両者の結合はその他のイオンとの競争反応になる。その結果、両者が十分に結合されない場合がある。
【0031】
一方、塩化リチウム(LiCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)を原料に添加した場合は、熔融の初期の段階からLiCl、KClおよびNaClとして存在させることができる。このため、ガラスの温度が、これらアルカリ金属塩化物の沸点を超えたときに、急激な発泡を起こしやすく、清澄に有利となる。したがって、本発明のガラス組成物の原料は、アルカリ金属の塩化物を含むことが好ましい。
【0032】
上述した特開平10-25132号公報で用いられていたアルカリ土類金属塩化物(BaCl2、CaCl2)は、その沸点が高く、さらにガラス中で自由に移動しにくいために沸点を超えても急激な沸騰を起こしにくい。このため、アルカリ土類金属塩化物からは十分に高い清澄作用が得られない場合がある。これに対し、KClに代表されるアルカリ金属塩化物は、一価の塩であるため、熔融ガラス中での電気的な束縛が弱く、アルミノボロシリケート系ガラスのように粘度の高い熔融ガラス中でも移動しやすい。また、減圧雰囲気下でガラス融液の脱泡を行う減圧清澄技術では、気密などのために複雑な構造を持つ清澄槽を用いることになる。この場合、通常清澄が行われる温度(1600℃以上)よりも低い温度(約1450〜1500℃)で清澄することが好ましい。このため、熔融ガラス中で移動しやすいアルカリ金属の塩化物は、減圧清澄に特に有利である。
【0033】
Clは、その揮発性のために、原料よりもガラスにおける含有率が低くなる傾向にある。このため、例えばガラス原料バッチには、ガラス組成物における含有率よりも多く、Clの供給源を添加するとよい。
【0034】
(SiO2
SiO2はガラスの骨格をなす必須成分であり、ガラスの化学的耐久性と耐熱性とを高める効果を有する。その含有率が40%未満であると、その効果が十分に得られない。一方、含有率が70%を超えると、ガラスが失透を起こしやすくなり、成形が困難になるとともに、粘性が上昇してガラスの均質化が困難になる。したがって、SiO2の含有率は、40〜70%とする。この含有率は、例えば、58〜70%、57〜65%、60〜65%、56〜65%、56〜60%であってよい。
【0035】
(B23
23はガラスの粘性を引き下げて、ガラスの熔解および清澄を促進する必須成分である。その含有率が5%未満では、その効果が十分に得られない。一方、含有率が20%を超えると、ガラスの耐酸性が低下するとともに、揮発が激しくなるためガラスの均質化が困難になる。したがって、B23の含有率は5〜20%とする。この含有率は、例えば、8〜13%、5〜12%、5〜10%であってよい。
【0036】
(Al23
Al23はガラスの骨格をなす必須成分であり、ガラスの化学的耐久性と耐熱性を高める効果を有する。その含有率が5%未満では、その効果が十分に得られない。一方、含有率が25%を超えると、ガラスの粘性が低下し、耐酸性が低下する。したがって、Al23の含有率は10〜25%とする。この含有率は、例えば、13〜20%、10〜20%、10〜18%であってよい。
【0037】
(MgO、CaO)
MgOとCaOは、ガラスの粘性を引き下げて、ガラスの熔解および清澄を促進する任意成分である。その含有率がそれぞれ10%、20%を超えると、ガラスの化学的耐久性が低下する。したがって、MgOの含有率は0〜10%とし、CaOの含有率は0〜20%とする。MgOの含有率は、例えば、0〜5%、5〜10%であってよい。CaOの含有率は、例えば、0〜10%、1〜10%であってよい。
【0038】
なお、Clによる清澄作用を高めるためには、MgOとCaOは、それぞれ1%以上含むことが好ましい。さらに、ガラスに失透が生じるのを防ぐには、それぞれ5%以下、6%以下とすることが好ましい。したがって、MgOとCaOは、それぞれ1〜5%、1〜6%であることがより好ましい。MgOは5%未満であることがさらに好ましい。
【0039】
(SrO、BaO)
SrOとBaOとは、ガラスの粘性を引き下げて、ガラスの熔解および清澄を促進する任意成分である。その含有率がそれぞれ20%、10%を超えると、ガラスの化学的耐久性が低下する。さらに、それらのイオン半径が大きいために、ガラス中のカリウムイオン、塩化物イオンの移動を阻害し、ガラスの清澄を困難にする場合がある。したがって、SrOの含有率は0〜20%とし、BaOの含有率は0〜10%とする。SrOの含有率は、例えば、0〜4%、0〜10%、1〜10%、1〜6%であってよい。BaOの含有率は、例えば、0〜1%、3〜10%であってよい。
【0040】
ガラス組成物は、屈折率の制御、温度粘性特性の制御、失透性の向上などを目的として、その他の成分をさらに含有していてもよい。その他の成分としては、具体的には、ZnO、Y23、La23、Ta25、Nb25、GeO2、Ga25、SnO2、TiO2を例示できる。これらの成分は、その含有率の合計が3%以下となるように含まれていてもよい。なお、ZnOは含まないことが好ましい場合もある。また、後述するように、AsやSbの酸化物を含んでもよい。また、Fe23を0.5%未満の範囲でさらに含んでもよく、加えて、NiOを0.05%未満、CoOを0.01%未満の範囲で含んでもよく、Moを0.02%未満の範囲で含むこともある。
【0041】
ガラス組成物は、実質的に上記の成分群(K20、Na2O、Li2OからSrO、BaOまで個別に説明した成分群と、上記段落に列記したZnOからMoまでの成分群)からなる組成物であってもよい。この場合、ガラス組成物は、上記の成分群以外の成分を実質的に含まない。
【0042】
本明細書において、実質的に含まないとは、工業的製造に不可避的に混入する微量不純物を許容する趣旨であり、具体的には、微量不純物の含有率が0.05%未満、好ましくは0.01%未満、より好ましくは0.001%未満、であることをいう。
【0043】
本発明によるガラス組成物では、酸化ヒ素や酸化アンチモンの使用量を削減しながらも、良好なガラス清澄性を得ることができるが、本発明は、AsやSbなど環境負荷の大きな成分を完全に排除する趣旨ではない。本発明によるガラス組成物は、Asの酸化物およびSbの酸化物を実質的に含まないことが好ましいが、これに限定するわけではない。後述する実施例に示すように、本発明のガラス組成物は、Asの酸化物および/またはSbの酸化物を含んでいてもよい。例えば、Asの酸化物を、As23に換算した含有率が0%を超え0.1%以下の範囲で含ませることも可能である。また、Asに比べれば環境負荷が小さいSbの酸化物は、後述する実施例に示すように、Sb23に換算した含有率が1.0%を超える範囲で含ませてもよいが、Sb23に換算した含有率が0%を超え0.4%未満の範囲で含ませるとよい。SnO2をさらに添加し、酸化ヒ素や酸化アンチモンと共存させると、後述する実施例に示すように、より優れた清澄効果が得られる。SnO2の含有率は、例えば、0%を超え3%以下であってよい。SnO2の含有率の上限は2%が好ましく、1%がより好ましい。SnO2の含有率の下限は0.05%が好ましい。
【0044】
SiO2からSrO、BaOまで個別に説明した成分は、例えば、SiO2が58〜70%の範囲にあり、B23が8〜13%の範囲にあり、Al23が13〜20%の範囲にあり、MgOが1〜5%の範囲にあり、CaOが1〜10%の範囲にあり、SrOが0〜4%の範囲にあり、BaOが0〜1%の範囲にあってもよい。また例えば、これらの成分は、SiO2が57〜65%の範囲にあり、B23が5〜12%の範囲にあり、Al23が10〜20%の範囲にあり、MgOが5〜10%の範囲にあり、CaOが0〜10%の範囲にあり、SrOが0〜10%の範囲にあってもよい。また例えば、これらの成分は、SiO2が60〜65%の範囲にあり、B23が5〜12%の範囲にあり、Al23が10〜20%の範囲にあり、MgOが0〜5%の範囲にあり、CaOが1〜6%の範囲にあり、SrOが0〜10%の範囲にあり、BaOが0〜1%の範囲にあってもよい。また例えば、これらの成分は、SiO2が56〜65%の範囲にあり、B23が5〜12%の範囲にあり、Al23が10〜18%の範囲にあり、MgOが0〜5%の範囲にあり、CaOが1〜10%の範囲にあり、SrOが1〜10%の範囲にあり、BaOが0〜1%の範囲にあってもよい。また例えば、これらの成分は、SiO2が56〜60%の範囲にあり、B23が5〜12%の範囲にあり、Al23が10〜18%の範囲にあり、MgOが0〜5%の範囲にあり、CaOが1〜6%の範囲にあり、SrOが1〜6%の範囲にあり、BaOが3〜10%の範囲にあってもよい。
【0045】
本発明によるガラス組成物の成形方法は、特に限定されないが、ダウンドロー法またはフュージョン法によることができる。
【0046】
本発明のガラス組成物は、図2で示すような、液晶表示装置やプラズマディスプレイパネルなどの大型、薄肉の情報表示装置用ガラス基板10としての使用に適している。このガラス基板10は、例えば、図3に示すように、情報表示装置の一例である液晶表示装置100の前面パネル11および背面パネル12として使用するとよい。前面パネル11および背面パネル12は、図3に示すように、液晶表示装置100において、透明電極40および配向膜50等が形成された状態で、シール材30を介して液晶層20を挟むように配置される。
【0047】
以下、本発明の実施形態について、例を挙げて説明する。なお、本発明は下記に限定されるわけではない。
【0048】
(実施例1〜58と比較例1〜11)
表1〜7に示したガラス組成となるように、ガラス原料バッチ(以下、バッチと呼ぶ場合がある)をそれぞれ調合した。通常のガラス原料として、シリカ(酸化ケイ素)、無水ホウ酸、アルミナ、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムを用いた。Cl源としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムを用いた。
【0049】
調合したバッチは、白金ルツボの中で熔融および清澄した。このルツボを1600℃に設定した電気炉内に、実施例1〜44および比較例1〜8では4時間、また、実施例45〜58では16時間、保持することにより、バッチを熔融した。その後、ガラス融液の入ったルツボを炉外に取り出し、いったん室温で放冷固化してガラス体を得た。このガラス体をルツボから取り出して徐冷操作を施した。徐冷操作は、得られたガラス体を、実施例1〜44および比較例1〜8では700℃に設定した別の電気炉内に1時間保持した後、また、実施例45〜58および比較例9〜11では750℃に設定した別の電気炉内に1時間保持した後、その電気炉の電源を切り、室温まで冷却することによって行なった。この徐冷操作を経たガラス体を試料ガラスとした。
【0050】
(ガラス組成の定量)
試料ガラスを粉砕し、リガク製RIX3001を用いた蛍光X線分析により、ガラス組成を定量した。なお、ホウ素(B)の定量は、島津製作所製ICPS−1000IVを用いた発光分光分析により行った。
【0051】
(清澄性の評価)
ガラス体の清澄性は、上述の試料ガラスを、倍率40倍の光学顕微鏡で観察し、厚さおよび視野面積と、観察された泡の数とから、ガラス1cm3当りの泡数を算出して評価した。ブランクの試料ガラスの泡数との相対比を算出することによる評価も行った。
【0052】
この方法はルツボを用いた簡易な熔解によって実施するため、算出した泡数は、実際に商業規模で生産されるガラス体に含まれる泡数と比較して非常に多くなる。しかし、この方法に基づいて算出した泡数が少ない程、商業規模で生産したガラス体に含まれる泡数も少ないことが知られている。したがって、この方法は、清澄性を評価するための指標として利用できる。
【0053】
(熔融による均質性の評価)
各試料ガラスついて、熔融による均質性を目視により評価した。未熔解部が確認されない場合は均質性を○、未熔解部が確認された場合は均質性を×と評価した。
【0054】
表1〜7に示すように、実施例1〜58の試料ガラスは、いずれも熔融による均質性に優れていた。また、実施例1〜58の試料ガラスは、いずれも、Li2O、Na2O、K2OおよびClを含まない比較例と比べて泡数相対比や泡数が少なかった。比較例1、4および11の試料ガラスに残存する泡の数は、それぞれ約1100個/cm3、約340個/cm3および約450個/cm3であった。また、比較例1〜8の試料ガラスはいずれも未熔解部が観察されたが、実施例1〜58の試料ガラスは、いずれも未熔解部が観察されず、熔解による均質性にも優れていた。比較例9および10の試料ガラスは、試料ガラスの製造工程において、ガラス融液の入ったルツボを炉外に取り出し、いったん室温で放冷する途中で失透が発生し、均質なガラス体を得ることができなかった。
【0055】
(総合評価)
表1〜5に示す実施例1〜44および比較例1〜8の試料ガラスについて、均質性および泡数相対比に基づいて総合的に評価した。より具体的には、均質性がXであり泡数相対比が1.0以上の範囲にある場合は総合評価をXとし、均質性が○であり泡数相対比が0.7以上1.0未満の範囲にある場合は総合評価を△とし、均質性が○であり泡数相対比が0.5以上0.7未満の範囲にある場合は総合評価を○とし、均質性が○であり泡数相対比が0.5未満の範囲にある場合は総合評価を◎とした。表6に示す実施例45〜58の試料ガラスについては、それぞれの実施例に近似した組成の比較例がないため泡数相対比を表中に示していないが、いずれの実施例も、泡数が20個/cm3以下と少なく、また均質性が○であったため、総合評価を◎とした。表7に示す比較例9および10の試料ガラスについては、ガラスが失透したため、泡数を評価するまでもなく総合評価をXとした。表7に示す比較例11の試料ガラスについては、泡数が450個/cm3と比較例4を上回る程に多いため、総合評価をXとした。
【0056】
図1は、実施例15〜22と比較例4の試料ガラスにおける、塩素の含有率と泡数相対比との関係を示すグラフである。このグラフで示すように、試料ガラスに残存する泡の数は、塩素の含有率の増加に対応して減少することがわかった。
【0057】
このように、本発明のガラス組成物によると、酸化ヒ素などを用いることなく、または酸化ヒ素などの使用量を低減しつつ、残泡などの欠点の極めて少ないガラス基板を製造することができる。
【0058】
また、表では示していないが、例えば実施例1〜14の試料ガラスでは、熱膨張係数を30〜50×10-7/Kの範囲に制限することもできる。これは、Li2O、Na2OおよびK2Oの添加量を、表中に示す程度に少ない範囲に制限したためと考えられる。また、例えば実施例1〜14の試料ガラスでは、720〜750℃の範囲にまで、ガラス転移温度Tgを高めることができる。
【0059】
また、例えば実施例45、47、50〜53および55〜58の試料ガラスでは、失透温度を1100℃以下、好ましくは1000℃以下の範囲にまで低めることができる。この失透温度は次のようにして測定した。
【0060】
まず、試料ガラスを乳鉢で粉砕した。その後、粉砕した試料ガラス(ガラス粒)のうち、網目のサイズが2380μmの篩を通過し、かつ網目のサイズが1000μmの篩に留まったガラス粒を回収した。続いて、回収したガラス粒をエタノール中で超音波洗浄し、乾燥させることにより測定用試料を準備した。次に、この測定用試料(25g)を、幅12mm、長さ200mmの白金ボードに載せた状態で、温度勾配炉内に投入し2時間保持した。その後、炉外にガラスを取り出し、光学顕微鏡を用いてガラス中に生成した結晶(失透)を観察した。結晶が観察された最高温度を失透温度とした。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
【表5】

【0066】
【表6】

【0067】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、耐薬品性、耐熱性、小さな熱膨張係数を要求される用途に供することができるガラス組成物を提供する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で示して、
SiO2 40〜70%,
23 5〜20%,
Al23 10〜25%,
MgO 0〜10%,
CaO 0〜20%,
SrO 0〜20%,
BaO 0〜10%,
Li2O 0.001〜0.5%,
Na2O 0.01〜0.5%,
2O 0.002〜0.5%,
Cl 0%を超え1.0%以下,
を含む、ガラス組成物。
【請求項2】
Li2Oの含有率が0.02質量%を超える範囲にある、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
Na2Oの含有率が0.05質量%を超える範囲にある、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項4】
2Oの含有率が0.03質量%を超える範囲にある、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項5】
Li2O、Na2OおよびK2Oの含有率の合計が0.07質量%を超える範囲にある、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項6】
Clの含有率が0.04質量%以上である、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項7】
Clの含有率が0.09質量%を超える範囲にある、請求項6に記載のガラス組成物。
【請求項8】
Asの酸化物およびSbの酸化物を実質的に含まない、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項9】
Asの酸化物および/またはSbの酸化物をさらに含む、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項10】
As23に換算した前記Asの酸化物の含有率が、0質量%を超え0.1質量%以下の範囲にある、請求項9に記載のガラス組成物。
【請求項11】
Sb23に換算した前記Sbの酸化物の含有率が、0質量%を超え0.4質量%未満の範囲にある、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項12】
Sb23に換算した前記Sbの酸化物の含有率が1.0質量%を超える、請求項9に記載のガラス組成物。
【請求項13】
0質量%を超え3質量%以下の範囲でSnO2をさらに含む、請求項9に記載のガラス組成物。
【請求項14】
SiO2が58〜70質量%の範囲にあり、B23が8〜13質量%の範囲にあり、Al23が13〜20質量%の範囲にあり、MgOが1〜5質量%の範囲にあり、CaOが1〜10質量%の範囲にあり、SrOが0〜4質量%の範囲にあり、BaOが0〜1質量%の範囲にある、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項15】
SiO2が57〜65質量%の範囲にあり、B23が5〜12質量%の範囲にあり、Al23が10〜20質量%の範囲にあり、MgOが5〜10質量%の範囲にあり、CaOが0〜10質量%の範囲にあり、SrOが0〜10質量%の範囲にある、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項16】
SiO2が60〜65質量%の範囲にあり、B23が5〜12質量%の範囲にあり、Al23が10〜20質量%の範囲にあり、MgOが0〜5質量%の範囲にあり、CaOが1〜6%の範囲にあり、SrOが0〜10%の範囲にあり、BaOが0〜1%の範囲にある、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項17】
SiO2が56〜65質量%の範囲にあり、B23が5〜12質量%の範囲にあり、Al23が10〜18質量%の範囲にあり、MgOが0〜5質量%の範囲にあり、CaOが1〜10質量%の範囲にあり、SrOが1〜10質量%の範囲にあり、BaOが0〜1質量%の範囲にある、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項18】
SiO2が56〜60質量%の範囲にあり、B23が5〜12質量%の範囲にあり、Al23が10〜18質量%の範囲にあり、MgOが0〜5質量%の範囲にあり、CaOが1〜6質量%の範囲にあり、SrOが1〜6質量%の範囲にあり、BaOが3〜10質量%の範囲にある、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項19】
請求項1に記載のガラス組成物からなる情報表示装置用ガラス基板。
【請求項20】
請求項19に記載の情報表示装置用ガラス基板を含む情報表示装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−214380(P2012−214380A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−137330(P2012−137330)
【出願日】平成24年6月18日(2012.6.18)
【分割の表示】特願2007−530953(P2007−530953)の分割
【原出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(598055910)AvanStrate株式会社 (81)
【Fターム(参考)】