説明

ガラス製造方法、ガラス溶融炉、ガラス製造装置、ガラスブランク製造方法、情報記録媒体用基板製造方法、情報記録媒体製造方法、ディスプレイ用基板製造方法および光学部品製造方法

【課題】長期にわたってガラスを量産する場合でも、ガラス中への金属粒子異物の混入を抑制すること。
【解決手段】溶融槽10と、溶融槽10内の溶融ガラスを通電加熱する電極20R、20L、22R、22L、と、溶融ガラスと実質的に常時接触する1つ以上の金属部材30U、30C、30Dと、を備えたガラス溶融炉1において、金属部材30U、30C、30Dの全てが、電極20R、20L、22R、22Lにより溶融槽10内の溶融ガラス中に形成される通電領域40、42の外に実質的に常時位置するように配置されることを特徴とするガラス製造方法。また、これを用いたガラス溶融炉、ガラス製造装置、ガラスブランク製造方法、情報記録媒体用基板製造方法、情報記録媒体製造方法、ディスプレイ用基板製造方法および光学部品製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス製造方法、ガラス溶融炉、ガラス製造装置、ガラスブランク製造方法、情報記録媒体用基板製造方法、情報記録媒体製造方法、ディスプレイ用基板製造方法および光学部品製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラスを連続的に量産する場合、一般的には、次のようなプロセスが採用される。まず、壁面が耐熱性セラミックからなる耐火物から構成される溶融槽を利用してガラス原料を溶解させた後、溶解したガラスを清澄する。そして、清澄した溶融ガラスを、所望の形状に成形する。ここで、ガラス原料を溶解させたり、ガラスの溶融状態を維持するために、重油バーナーやガスバーナーなどの化石燃料の燃焼による火炎加熱や、電極を利用して溶融したガラス中に電気を流して加熱する通電加熱が利用される。また、通電加熱を利用する場合、電極としては棒状やブロック状の電極が用いられる。なお、これらの電極は、たとえば、溶融槽の底壁や側壁に配置されたり(たとえば、特許文献1〜3参照)、溶融槽の底壁から直立する電極支持架台により支持される(たとえば、特許文献4参照)。
【0003】
また、溶融槽には、必要に応じて、たとえば、溶融ガラスの温度をモニターするための温度センサーや(たとえば、特許文献5,6参照)、溶融ガラスの均質性を高めるために、溶融ガラス中に気体を噴出するバブリング部材(たとえば、特許文献4、7参照)、他の溶融槽から溶融ガラスを溶融槽中に導入したり、溶融槽中の溶融ガラスを外部に排出したりするパイプ(たとえば、特許文献7参照)など、様々な部材が、溶融ガラスと接触する位置に配置される。なお、これらの部材は、耐熱性・耐蝕性が要求されるため、一般的に、PtやPt合金等の、溶融ガラスに対して耐熱性・耐蝕性を有する金属部材で構成または覆われる。
【0004】
また、上述したような溶融槽を用いたガラス製造装置により量産されるガラスとしては、自動車や建材用のガラスの他にも、磁気記録媒体などに用いられる情報記録媒体用のガラスや、液晶ディスプレイなどのディスプレイ用のガラス、レンズなどの光学部品用のガラスなどの電子機器や光学機器などの精密機器に用いられるガラスが挙げられる。
【0005】
一方、上述したような溶融槽を用いたガラス製造装置により製造されたガラス中には、その製造過程において様々な異物が混入することがあり、この異物が製品欠陥となる場合がある。たとえば、磁気記録媒体用のガラス基板では、溶融槽を構成する耐火物に起因する金属酸化物粒子が、ガラスを生産する際にガラス中に取り込まれてしまうと、基板表面に微小な突起として現れることがある。この突起があると、記録媒体表面にも突起形状が反映し、ヘッドが磁気ディスク表面の突起に衝突するヘッドクラッシュを引き起こすことが知られている(特許文献8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−183031号公報
【特許文献2】特開2005−225738号公報
【特許文献3】特開平5−4820号公報
【特許文献4】特開2005−53757号公報
【特許文献5】特開2003−286031号公報
【特許文献6】特開2005−225738号公報
【特許文献7】特表2006−516046号公報
【特許文献8】特開2003−137557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような異物に起因する製品欠陥は、磁気記録媒体用のガラスに限られるものではなく、特に上述した精密機器に用いられるガラスでは、異物の材質に関係なく、サブミクロン〜数ミクロンサイズの微小な異物が、ガラスの内部や表面近傍に存在した場合でも製品欠陥となり得る。
【0008】
たとえば、磁気記録媒体では、異物に起因した高さ数ナノメートル程度の微小な突起が磁気記録媒体用ガラス基板の表面に存在した場合、上述したヘッドクラッシュの他に、サーマルアスペリティといった問題を引き起こすこともある。また、異物の脱落跡が磁気記録媒体などの情報記録媒体表面に存在した場合、不良品となってしまう。また、液晶ディスプレイでは、異物に起因した高さ百十数ナノメートル程度の突起が、ディスプレイ用ガラス基板の表面に存在した場合、画素を構成する電極配線の断線などの問題を引き起こす。これは、悪影響を及ぼす異物のサイズが異なる点を除けば、液晶方式以外の他の方式のディスプレイでも同様である。また、光学素子では、異物のサイズが使用する光の波長程度よりも大きければ、光散乱などの問題を引き起こす。
【0009】
一方、本出願人は、特許文献8に示すように、溶融槽を構成する耐火物に起因する異物欠陥を抑制する技術等を利用して、種々の用途に利用されるガラス中の異物の撲滅を図ってきた。しかしながら、耐火物に起因する異物の発生を抑制しても、長期に渡るガラスの量産に際して、Pt等の金属からなる金属粒子による製品欠陥が、時間の経過と共にある時期を境に急激に増加し、製品歩留まり確保の点では無視できなくなる場合があった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、長期にわたってガラスを量産する場合でも、ガラス中への金属粒子異物の混入を抑制するガラス製造方法、ならびに、これに用いられるガラス溶融炉およびガラス製造装置を提供することを課題とする。また、当該ガラス製造方法を用いたガラスブランク製造方法、情報記録媒体用基板製造方法、情報記録媒体製造方法、ディスプレイ用基板製造方法および光学部品製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、第1の本発明のガラス製造方法は、溶融ガラスと接触する壁面が少なくとも耐火物から構成される溶融槽と、溶融槽内に保持される溶融ガラスと接触するように配置され、溶融槽内に保持される溶融ガラスを通電加熱するための1対以上の電極と、少なくとも表面が金属からなり、かつ、当該表面が、溶融槽内に保持される溶融ガラスと実質的に常時接触するように配置される1つ以上の金属部材と、を備えたガラス溶融炉を用いてガラスを量産する際に、溶融槽に溶融ガラスが満たされている場合において、金属部材の全てが、一対以上の電極により溶融槽内に保持される溶融ガラス中に形成される通電領域の外に実質的に常時位置するように配置されることを特徴とする。
【0012】
第1の本発明のガラス製造方法の一実施態様は、1以上の金属部材の各々が、実質的に常時、通電領域の外側に位置するように移動可能に配置される態様、および、実質的に常時、通電領域の外側に位置するように固定して配置される態様、から選択される少なくともいずれかの態様で配置されていることが好ましい。
【0013】
第2の本発明のガラス製造方法は、溶融ガラスと接触する壁面が少なくとも耐火物から構成される溶融槽と、溶融槽内に保持される溶融ガラスと接触するように配置され、溶融槽内に保持される溶融ガラスを通電加熱するための1対以上の電極と、少なくとも表面が金属からなり、かつ、当該表面が、溶融槽内に保持される溶融ガラスと実質的に常時接触するように配置される1つ以上の金属部材と、を備えたガラス溶融炉を用いてガラスを量産する際に、溶融ガラスと壁面との累積接触時間の増大に伴い壁面が侵食されることにより、1対以上の電極から離間しかつ壁面の侵食量が相対的に小さい低侵食領域と、1対以上の電極の近傍でかつ壁面の侵食量が相対的に大きい高侵食領域と、からなる2種類の侵食面が形成され、金属部材の全てが、ガラスの量産終了時に低侵食領域となり得る壁面と略面一を成すように、ガラスの量産開始前の時点において予め固定して配置されていることを特徴とする。
【0014】
第1および第2の本発明のガラス製造方法の一実施態様は、ガラスの量産が、溶融槽内にガラス原料を投入して溶融する溶融工程と、溶融工程を経てガラス原料が溶解された溶融ガラスを溶融槽から排出する排出工程とを交互に繰り返すことで実施されることが好ましい。
【0015】
第1および第2の本発明のガラス製造方法の他の実施態様は、溶融槽が、溶融ガラスが実質上連続的に流入する溶融ガラス流入口およびガラス原料が実質上連続的に投入されるガラス原料投入口から選択されるいずれか一方のガラス供給源、および、溶融ガラスを連続的に排出する溶融ガラス排出口に接続され、ガラスの量産が、溶融ガラス流入口から溶融槽へと実質上連続的に流入する溶融ガラスの流入量、および、ガラス原料投入口から溶融槽へとガラス原料が実質上連続的に投入されるガラス原料の投入量、から選択されるいずれか一方の量に応じて、常に溶融ガラスで満たされた状態の溶融槽から溶融ガラスが実質上連続的に排出されることで、実施されることが好ましい。
【0016】
なお、上記の実施態様においては、ガラスの量産に際して、ガラス原料の溶融槽への供給が一時的に中断される期間があってもよい。
【0017】
第1および第2の本発明のガラス製造方法の他の実施態様は、金属が、白金、白金合金、強化白金から選択される少なくとも1種の金属であることが好ましい。強化白金は、白金もしくは白金合金に酸化物を分散させた酸化物分散型白金合金である。
【0018】
第1および第2の本発明のガラス製造方法の他の実施態様は、1つ以上の金属部材が、(1)温度センサーと、温度センサーを覆うと共に少なくとも表面が金属からなる保護部材とを備えた温度検出器における当該保護部材、(2)溶融ガラスの攪拌に用いられ、かつ、少なくとも表面が金属からなる攪拌子、(3)溶融ガラスを流すために用いられ、かつ、少なくとも表面が金属からなるパイプ、および、(4)溶融ガラスをバブリングするために用いられ、かつ、少なくとも表面が金属からなるガス噴出具から選択される少なくとも1種の器具を含むことが好ましい。
【0019】
第1および第2の本発明のガラス製造方法の他の実施態様は、ガラス溶融炉に、3つ以上の金属部材が配置されていてもよい。
【0020】
第1および第2の本発明のガラス製造方法の他の実施態様は、溶融槽内に保持される溶融ガラスの温度が、1200℃〜1700℃の範囲内であることが好ましい。
【0021】
第1の本発明のガラス溶融炉は、溶融ガラスと接触する壁面が少なくとも耐火物から構成される溶融槽と、溶融槽内に保持される溶融ガラスと接触するように配置され、溶融槽内に保持される溶融ガラスを通電加熱するための1対以上の電極と、少なくとも表面が金属からなり、かつ、当該表面が、溶融槽内に保持される溶融ガラスと実質的に常時接触するように配置される1つ以上の金属部材と、を備え、ガラスを量産する際に、金属部材の全てが、一対以上の電極により溶融槽内に保持される溶融ガラス中に形成される通電領域の外に実質的に常時位置するように配置されることを特徴とする。
【0022】
第2の本発明のガラス溶融炉は、溶融ガラスと接触する壁面が少なくとも耐火物から構成される溶融槽と、溶融槽内に保持される溶融ガラスと接触するように配置され、溶融槽内に保持される溶融ガラスを通電加熱するための1対以上の電極と、少なくとも表面が金属からなり、かつ、当該表面が、溶融槽内に保持される溶融ガラスと実質的に常時接触するように配置される1つ以上の金属部材と、を備え、ガラスを量産する際に、溶融ガラスと壁面との累積接触時間の増大に伴い壁面が侵食されることにより、1対以上の電極から離間しかつ壁面の侵食量が相対的に小さい低侵食領域と、1対以上の電極の近傍でかつ壁面の侵食量が相対的に大きい高侵食領域と、からなる2種類の侵食面が形成され、金属部材の全てが、ガラスの量産終了時に低侵食領域となり得る壁面と略面一を成すように、ガラスの量産開始前の時点において予め固定して配置されていることを特徴とする。
【0023】
第1および第2の本発明のガラス溶融炉の一実施態様は、溶融槽が、溶融ガラスが実質上連続的に流入する溶融ガラス流入口およびガラス原料が実質上連続的に投入されるガラス原料投入口から選択されるいずれか一方のガラス供給源、および、溶融ガラスを連続的に排出する溶融ガラス排出口に接続されていることが好ましい。
【0024】
本発明のガラス製造装置は、少なくとも通電加熱により溶融ガラスを加熱する通電加熱方式の溶融炉を1つ以上備え、全ての通電加熱方式の溶融炉が、第1の本発明のガラス溶融炉、および、第2の本発明のガラス溶融炉から選択されるガラス溶融炉であることを特徴とする。
【0025】
本発明のガラスブランク製造方法は、本発明のガラス製造方法を用いてガラスブランクを作製することを特徴とする。
【0026】
本発明のガラスブランク製造方法の一実施態様は、ガラスブランクが、情報記録媒体用基板、ディスプレイ用基板、および、光学部品から選択されるいずれかの部材の作製に用いられることが好ましい。
【0027】
本発明の情報記録媒体用基板製造方法は、本発明のガラスブランク製造方法により作製されたガラスブランクの主表面を研磨・研削する研磨・研削工程を少なくとも経て、情報記録媒体用基板を作製することを特徴とする。
【0028】
本発明の情報記録媒体製造方法は、本発明の情報記録媒体用基板製造方法により製造された情報記録媒体用基板の主表面に情報記録層を形成する情報記録層形成工程を少なくとも経て、情報記録媒体を作製することを特徴とする。
【0029】
本発明のディスプレイ用基板製造方法は、本発明のガラスブランク製造方法により作製されたガラスブランクを利用して、ディスプレイ用基板を作製することを特徴とする。
【0030】
本発明の光学部品製造方法は、本発明のガラスブランク製造方法により作製されたガラスブランクの主表面を研磨・研削する研磨・研削工程を少なくとも経て、光学部品を作製することを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
以上に説明したように本発明によれば、長期にわたってガラスを量産する場合でも、ガラス中への金属粒子異物の混入を抑制するガラス製造方法、ならびに、これを用いたガラス溶融炉およびガラス製造装置を提供することができる。また、当該ガラス製造方法を用いたガラスブランク製造方法、情報記録媒体用基板製造方法、情報記録媒体製造方法、ディスプレイ用基板製造方法および光学部品製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本実施形態のガラス製造方法およびこれに用いられるガラス溶融炉の一例を説明するための説明図である。
【図2】図1に示す中央の温度検出器近傍の左内壁面におけるガラスの量産終了直前の状態の一例を示す図である。
【図3】本実施形態のガラス製造方法およびこれに用いられるガラス溶融炉の他の例を説明するための説明図である。
【図4】本実施形態のガラス製造方法およびこれに用いられるガラス溶融炉の他の例を説明するための説明図である。
【図5】図4に示す溶融炉の符号A1−A2間における断面を示す断面図である。
【図6】本実施形態のガラス製造装置の一例を示す概略模式図である。
【図7】本実施形態のガラス製造装置の他の例を示す概略模式図である。
【図8】従来の溶融槽内での量産初期おける侵食および電流経路の一例を示す概略模式図である。
【図9】従来の溶融槽内での量産中期おける侵食および電流経路の一例を示す概略模式図である。
【図10】従来の溶融槽内での量産後期おける侵食および電流経路の一例を示す概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(ガラス製造方法、ガラス溶融炉およびガラス製造装置)
第一の本実施形態のガラス製造方法は、溶融ガラスと接触する壁面が少なくとも耐火物から構成される溶融槽と、溶融槽内に保持される溶融ガラスと接触するように配置され、溶融槽内に保持される溶融ガラスを通電加熱するための1対以上の電極と、少なくとも表面が金属からなり、かつ、当該表面が、溶融槽内に保持される溶融ガラスと実質的に常時接触するように配置される1つ以上の金属部材と、を備えたガラス溶融炉を用いてガラスを量産する際に、溶融槽に溶融ガラスが満たされている場合において、金属部材の全てが、一対以上の電極により溶融槽内に保持される溶融ガラス中に形成される通電領域の外に実質的に常時位置するように配置されることを特徴とする。
【0034】
また、第一の本実施形態のガラス溶融炉は、上述した第一の本実施形態のガラス製造方法を利用したガラス溶融炉である。また、本実施形態のガラス製造装置は、少なくとも通電加熱により溶融ガラスを加熱する通電加熱方式の溶融炉を1つ以上備え、全ての通電加熱方式の溶融炉が、第一の本実施形態のガラス溶融炉、および、後述する第二の本実施形態のガラス溶融炉から選択されるガラス溶融炉からなる。
【0035】
第一の本実施形態のガラス製造方法では、溶融槽に溶融ガラスが満たされている場合において、溶融ガラスと実質的に常時接触する金属部材の全てが、通電領域の外に配置される。このため、長期にわたってガラスを量産する場合でも、ガラス中への金属粒子異物の混入を抑制することができる。
【0036】
このような効果が得られる理由は、ガラスを量産する際に、溶融槽に溶融ガラスが満たされている場合において、溶融ガラスと実質的に常時接触する金属部材の全てが、通電領域の外に配置されるため、金属部材に電流が流れることにより金属部材の表面が放電腐食するのを防止できるためである。すなわち、第一の本実施形態のガラス製造方法では、金属部材表面の放電破壊が防止されるため、金属部材を構成する金属が粒子状となって溶融ガラス中に析出するのが抑制される。
【0037】
なお、本発明者らが、上述した結論に至った理由は、以下の知見に基づくものである。まず、本発明者らは、複数の直列に連結された溶融槽を備え、上流側の溶融槽側からガラス原料を投入しつつ、投入されたガラス原料に応じた分だけ下流側の溶融槽から溶融ガラスを、後工程側へと排出しながらガラスを連続的に量産するタイプのガラス製造装置を用いて、ガラスを長期にわたって量産した場合、単位重量当たりのガラスに含まれる金属粒子の個数については以下の傾向があることを見出した。すなわち、金属粒子の個数は、ガラス製造装置の新設またはメンテナンスを終えた直後(量産初期)から量産中期までは、比較的低いものの、量産後期になると時間と共に急激に増加する傾向があることを見出した。また、この金属粒子の材質を調査したところ、ガラス製造装置を構成する溶融槽や、溶融槽同士を連結する流路部分などに使用されるPt等の、溶融ガラスに対して耐蝕性を有する金属部材と同一であることを確認した。これらのことから、ガラス中に含まれる金属粒子の発生源は、ガラス製造装置の各所に用いられる溶融ガラスと接触する金属部材であることが分った。しかしながら、このような金属部材は、ガラス製造装置の各所に様々な目的で利用される。このため、金属粒子の主たる発生源を正確に特定することは困難である。それゆえ、金属粒子の発生を根本から断ち切るために、溶融ガラスと接触するような金属部材を一切用いないことも考えられるが、現実的ではない。
【0038】
一方、本発明者らは、量産終了後であって、かつ、メンテナンス開始前のガラス製造装置の溶融槽内の状況を調査した。その結果、溶融ガラスの清澄処理に用いる溶融槽(清澄槽)において、清澄槽内の溶融ガラスの温度モニターを行う温度検出器を構成するPtまたはPt合金からなる金属製保護層が著しく腐食しているのを確認した。この金属製保護層は、溶融ガラスから熱電対を保護するために設けられた耐熱性セラミックスカバーの表面を被覆するものである。これに対して、この部分以外でガラス製造装置に用いられているPtまたはPt合金製の金属部材については、腐食やその他の破損は一切認められなかった。これらの点を考慮すれば、ガラス中に含まれる金属粒子の発生源は、この金属製保護層であることは明らかである。
【0039】
そこで、本発明者らは、この事実を踏まえた上で、さらに量産終了後であって、かつ、メンテナンス開始前の清澄槽内の状況についてさらに詳しく調査し、下記(1)〜(5)に示す事実を確認した。
(1)量産開始前において、清澄槽の側壁面を構成する耐火物中に、先端部以外は完全に埋め込まれるように配置された棒状の温度検出器が、量産の進行に伴う耐火物の溶融ガラスによる侵食によって、先端部のみならず、根元側も溶融ガラスと接触するようになったこと。
(2)量産開始前において、清澄槽の側壁面を構成する耐火物中に側壁面と面一を成すように配置された通電加熱用のブロック状電極やこの電極周辺に配置された耐火物の侵食量は、その他の位置にて溶融ガラスと接触するように配置された耐火物の侵食量よりも著しいこと。
(3)量産開始前において、電極周辺に配置された耐火物中に、先端部分のみが溶融ガラスと接触できるように露出させて埋め込まれた棒状の温度検出器においては、その先端部から根元側へと、溶融ガラスと接触している金属製保護層部分に腐食痕が確認されたこと。
(4)上記(3)における腐食痕は、主に金属製保護層上の離れた2か所の位置に存在していたこと。
(5)量産開始前において、電極から離れた位置に配置された耐火物に埋め込まれるように配置された棒状の温度検出器においては、溶融ガラスと接触している金属製保護層には、腐食痕は確認されなかったこと。
【0040】
これら、上記(1)〜(5)に示した事実を考慮すれば、ガラスを量産する過程では、以下のような現象が清澄槽内で発生していると推測される。まず、電極やその周辺部においては、溶融ガラスそのものが有する侵食力に加えて、電極近傍の溶融ガラスの通電に起因する侵食促進効果が寄与するため、電極から離れた位置よりも侵食力が大きいといえる。すなわち、清澄槽の側壁面に配置された電極周辺には、この電極と電気的に対を成すように配置された他の電極との間に電流密度の高い領域が形成され、この領域近傍の耐火物は、他の領域の耐火物よりも著しく侵食されると言える。
【0041】
ここで、以上に説明した従来の溶融槽における状況の具体例として、図8に示すように量産開始直後の溶融ガラスが満たされた清澄槽100が、対向する耐火物製の側壁面110R、110Lに各々埋め込まれた一対のブロック状電極112R、112Lと、一方の電極112Lの近傍の側壁面110Lに埋め込まれるように配置され、表面に金属製保護層が設けられた棒状の温度検出器114と、を有している状態を想定する。図8に示す例では、電流は、基本的に、図中の点線で示すように、一対の対向するブロック状電極112R,112L間の領域を略最短距離で結ぶ電流経路E1、E2、E3に沿って主に流れることになる。この場合、電極112L近傍に配置された棒状の温度検出器114は、量産開始直後においては、先端部を除いて完全に耐火物製の側壁面110Lに埋め込まれていて、かつ、その先端部分が通電加熱用のブロック状電極112Lと面一となっているため、明らかに電流密度の高い領域外に位置することになる。このため、量産開始からしばらくの間は、金属製保護層には、電流は殆ど流れないと考えられる(初期ステージ)。
【0042】
次に、量産中期になると、溶融ガラスと接触している耐火物製の側壁面110Lや電極112Lの侵食がある程度進行するため、温度検出器は、その先端部以外のある程度根元側の部分も溶融ガラス中に露出することになる(図9参照)。ここで、図9は、図8の側壁面110L側の侵食がある程度進行した量産中期における状態を示したものであり、図9中の一点鎖線は、図8に示す量産初期における側壁面110Lおよび電極112Lの位置を示したものである。すなわち、図9に示すように棒状の温度検出器114は、侵食により後退した側壁面110Lから多少突出した状態となる。また、電極112Lやその周辺部の耐火物製の側壁面110Lについても侵食が進行して壁面が後退する。このため、電極112L近傍に配置された温度検出器114の先端部分が、電極112L近傍の電流密度の高い領域に差し掛かることになる。このように、温度検出器114の先端部近傍が、電流密度の高い領域に差し掛かった場合、溶融ガラス中よりも金属製保護層の方が電気抵抗が低いため、金属製保護層中に極めて電流が流れやすい状態が潜在的に形成されることになる。しかしながら、温度検出器114の先端部近傍が、電流密度の高い領域に差し掛かった程度では、金属製保護層中に十分な電位差を発生させるほどの電流経路の形成は困難である。このため、この段階においても、金属製保護層中に、金属の放電腐食を引き起こすのに十分な電流は流れていないものと推定される(中期ステージ)。
【0043】
しかし、量産後期になると、溶融ガラスと接触している耐火物製の側壁面110Lや電極112Lの侵食が更に進行するため、温度検出器114は、その先端部から根元側の奥深くまで溶融ガラス中に露出することになる(図10参照)。ここで、図10は、図9の側壁面110L側の侵食がさらに進行した量産後期における状態を示したものであり、図10中の一点鎖線は、図8に示す量産初期における側壁面110Lおよび電極112Lの位置を示したものである。すなわち、棒状の温度検出器114は、侵食により後退した側壁面110Lから大幅に突出した状態となる。このため、電極112L近傍に配置された温度検出器114は、その先端部近傍のみならず、根元側まで、電極112L近傍の電流密度の高い領域に差し掛かることになる。これに加えて、先端部近傍は、中期ステージよりも電流密度のさらに高い領域に差し掛かることになる。さらに、電極112Lやその周辺部の耐火物製の側壁面110Lについては、さらに侵食が進行して壁面が大幅に後退している。このため、(A)電流密度のさらに高い領域から、(B)電流密度のさらに高い領域に位置する金属製保護層(電極112L近傍の温度検出器114の先端部近傍)、および、(C)電流密度の高い領域に位置する金属製保護層(電極112L近傍の温度検出器114の根元側)をこの順に経由して、(D)電極112Lへと電流が流れる電流経路E4、あるいは、この逆方向に電流が流れる電流経路E4が形成され易くなる。
【0044】
また、この電流経路E4における電位差は、温度検出器114の先端部近傍が、中期ステージよりも電流密度のさらに高い領域に差し掛かっていることから中期ステージよりも非常に大きくなっているといえる。よって、この電流経路E4に電流が流れだした場合、多量の電流が金属製保護層中を流れるため、金属製保護層の腐食が発生し、溶融ガラス中に金属が析出し、結果としてガラス中に多くの金属粒子が析出するものと解される(後期ステージ)。
【0045】
なお、電気の流れ易さという点では、プラス極性の電極から溶融ガラス中のみを通ってマイナス極性の電極へと電流が流れる電流経路E2、E3よりも、電流経路中に溶融ガラスよりも電気抵抗が低い金属製保護層を含む上記(A)〜(D)に示す経路を通じて電流が流れる電流経路E4の方が有利である。このため、一旦、(A)〜(D)に示す経路を通る電流経路E4が形成されると、この状態は、量産終了まで維持されると共に、この電流経路E4に流れる電流量は時間と共に増加するものと考えられる。これは、量産終期において、ガラス中に含まれる金属粒子の数が急激に増加するという事実からも明らかに支持される。また、金属製保護層と溶融ガラスとの間での放電発生箇所、すなわち、金属製保護層中を流れる電流の電流経路E4の温度検出器114上における始点および終点は、上記(B)および上記(C)に示される2か所であると考えられる。これは、上記事実(4)に示したように、腐食痕が、主に金属製保護層上の離れた2か所の位置に存在していることからも明らかに支持される。
【0046】
以上に説明したことからは、少なくとも加熱手段として通電加熱を利用する溶融槽を利用してガラスを量産する場合には、溶融ガラスと接触する全ての金属部材を、ガラスの量産初期から終期まで、電流密度の高い領域の外に配置すれば、長期にわたってガラスを量産する場合でも、ガラス中への金属粒子異物の混入を抑制できることは明らかである。それゆえ、以上の知見に基づき、本発明者らは、上述した第一の本実施形態のガラス製造方法を見出した。以下に、第一の本実施形態のガラス製造方法およびこれを利用した第一の本実施形態のガラス溶融炉の詳細についてより詳細に説明する。
【0047】
第一の本実施形態のガラス製造方法に用いられるガラス溶融炉は、ガラスを量産するガラス製造装置に用いられるもので、バッチ生産方式および連続生産方式のいずれのガラス製造装置にも用いることができる。ここで、本願明細書において、「ガラスを量産する」とは、ガラス溶融炉の新設またはメンテナンス後の状態での量産開始から、事故などにより緊急停止する場合を除いて、炉の寿命やメンテナンス等を目的として量産終了までの全期間(以下、「稼働期間」と称す場合がある)において、ガラスを溶融する際には常に溶融ガラスと接触状態にある耐火物(たとえば、溶融槽の底壁面や、側壁面のうちの底壁面側を構成する耐火物)と、溶融ガラスとの累計接触時間が、3ヵ月以上であることを意味する。なお、連続生産方式のガラス製造装置では、稼働期間中は、通常、溶融槽内には溶融ガラスが常に保持されることになるため、上述の累積接触時間は実質的に稼働期間と等しい関係になる。なお、累積接触時間は、ガラス溶融炉の構成や、溶融条件、生産するガラスに要求される品質などに応じて適宜選択されるが、一般的に、1,2年〜十数年の範囲内である。
【0048】
ここで、溶融槽は、溶融ガラスと接触する壁面が少なくとも耐火物から構成され、通常は、内壁面全体が耐火物から構成された略密閉構造を有する。耐火物は溶融するガラス材質や溶融温度に応じて種々の耐火物を適宜選択して使用することが可能であり、たとえば、AZS系(Al−ZrO−SiO系)やアルミナ系の電鋳煉瓦や、焼成煉瓦などが使用できる。
【0049】
そして、ガラスの量産が、バッチ生産方式で行われる場合、ガラスは、溶融槽内にガラス原料を投入して溶融する溶融工程と、この溶融工程を経てガラス原料が溶融された溶融ガラスを溶融槽から排出する排出工程とを交互に繰り返すことで量産される。すなわち、1回(1バッチ)のガラスの生産では、溶融槽にガラス原料を投入して溶解した後、さらに清澄や、粘度調整等を行った溶融ガラスを、溶融槽外に排出(または移動)させて、成形等の後工程で利用する。バッチ生産方式では、稼働期間中において、この溶融工程と排出工程とを交互に多数回繰り返す。なお、通常、この繰り返し回数は、稼働期間中、5回以上であることが好ましい。排出工程の実施のタイミングは特に限定されないが、溶融炉の操作担当者の確保が容易な昼間に行うことが好適である。また、溶融工程が夜間をまたいで実施される場合は、溶融槽内の溶融ガラスの温度は、たとえば、昼間は作業に適した温度に設定し、夜間では溶融ガラスが固化しない程度の温度に設定することができる。これにより溶融ガラスの加熱に必要なエネルギーコストが節約できる上に、ガラス生産の作業再開も容易となる。
【0050】
また、ガラスの量産が、連続生産方式で行われる場合、溶融槽は、ガラス供給源および溶融ガラス排出口に接続され、通常、溶融槽のガラス供給源が接続された側と、略反対側に溶融ガラス排出口が接続される。ガラス供給源としては、溶融ガラスが実質上連続的に溶融槽へと流入する溶融ガラス流入口や、ガラス原料が実質上連続的に投入されるガラス原料投入口が挙げられる。ここで「ガラス原料が実質上連続的に投入される」とは、ガラス原料が常に連続的に投入され続ける場合のみならず、溶融槽中の溶融ガラスの液面の低下をセンサー等で感知して、一定高さの液面に復帰できるようにガラス原料を小分けして逐次投入する場合も意味する。また、「溶融ガラスが実質上連続的に溶融槽へと流入する」とは、溶融槽へと溶融ガラスが連続的に流入する場合のみならず、逐次的に流入する場合も意味する。この理由は、溶融槽にガラス供給源として溶融ガラス流入口が接続される場合、当該溶融槽の上流側には、ガラス供給源としてガラス原料を連続的または逐次的に投入するガラス原料投入口が接続された別の溶融槽が配置されることになるためである。なお、溶融槽に溶融ガラス流入口を接続するかガラス原料投入口を接続するかは、溶融槽の使用目的に応じて適宜選択される。たとえば、ガラス原料の溶解を主目的とする場合は、溶融槽にはガラス原料投入口が接続され、溶融ガラスの清澄や、粘度調整等を主目的とする場合は、溶融槽には溶融ガラス流入口が接続される。そして、連続生産方式では、ガラスは、溶融ガラス流入口から溶融槽へと実質上連続的に流入する溶融ガラスの流入量、および、ガラス原料投入口から溶融槽へとガラス原料が実質上連続的に投入されるガラス原料の投入量、から選択されるいずれか一方の量に応じて、常に溶融ガラスで満たされた状態の溶融槽から溶融ガラスが実質上連続的に排出されることで、量産される。
【0051】
また、連続生産方式では、必要に応じてガラス原料の溶融槽への供給が一時的に中断される期間(一時中断期間)を設けてもよい。一時中断期間としては、たとえば、夜間や生産調整のためにガラスの生産を一時的に中断したい場合などが挙げられる。この一時中断期間においては、ガラス原料の溶融槽への供給が停止するため、ガラス原料の供給量に応じて溶融槽から溶融ガラスが排出されない状態、すなわち生産停止状態となる。但し、いつでも生産が再開できるように溶融槽中に満たされた溶融ガラスは、一時中断期間においても溶けた状態が維持される。この一時中断期間においては、溶融ガラスの加熱に必要なエネルギーコストを低減するために、溶融槽中の溶融ガラスの温度は、溶融ガラスが固化しない程度の温度に維持されるように設定することが好ましい。なお、稼働期間中における一時中断期間の割合は、50%以下が好ましく、30%以下がより好ましい。
【0052】
電極は、溶融槽内に保持される溶融ガラスと接触するように配置される。これにより、溶融槽内に保持される溶融ガラスを通電加熱する。電極材料としては、耐熱性および耐蝕性に優れ、少なくともガラスを溶融する高温域において導電性を有する材料が利用でき、たとえば、酸化錫や、モリブデン、白金、白金・ロジウム合金などの白金系合金などが利用できる。これらの中でも耐酸化性に優れ、電源関係の設備が簡略化できる低周波電流でも利用できる酸化錫が好ましい。電極の形状は特に限定されないが、たとえば棒状やブロック状が採用できる。棒状の電極を用いる場合は、たとえば、電極を、溶融ガラスと接触する側壁面や底壁面を貫通するように配置したり、溶融ガラスの液面の上方から溶融ガラス中に浸漬させるように配置することができる。ブロック状の電極を用いる場合は、たとえば、電極を、溶融ガラスと接触する側壁面や底壁面に埋め込むように配置することができる。なお、ブロック状電極に適した電極材料としては、たとえば、酸化錫を挙げることができ、棒状電極に適した電極材料としては、たとえば、モリブデンを挙げることができる。
【0053】
電極の数は、1対以上であれば特に限定されず、溶融槽の大きさなどに応じて適宜選択できる。しかし、溶融槽内に保持される溶融ガラスの加熱をより均一に行う上では、電極の数は、2対以上であることが好適である。この場合、電極は、溶融槽中を流れる溶融ガラスの流れ方向に対して、略対称的に配置されることが好適である。また、通電加熱に際しては、電極間に流す電流は、直流電流や交流電流を適宜選択できる。なお、溶融ガラス中に電気を流して加熱する通電加熱以外にも、必要に応じて、重油バーナーやガスバーナーなどの燃焼炎を溶融ガラスの液面やガラス原料に吹き付ける火炎加熱や、溶融ガラスの液面上に配置されたヒーターなどの加熱源から放射される熱による放射加熱などを併用してもよい。
【0054】
金属部材は、少なくとも表面が金属からなり、かつ、当該表面が、溶融槽内に保持される溶融ガラスと実質的に常時接触するように配置される。ここで、金属部材を構成する「金属」としては、溶融ガラスに対して耐熱性および耐蝕性を有する金属を意味し、溶融ガラスの温度や組成などに応じて適宜選択される。なお、このような金属としては、溶融ガラスの温度や組成を問わずに広く適用可能なPtや、Pt合金を代表例として挙げることができる。さらに、Ptや、Pt合金以外にも、たとえば、強化白金、イリジウム等も挙げることができる。また、「溶融ガラスと実質的に常時接触する」とは、バッチ生産方式では、稼働期間中において溶融工程を実施している全期間の30%以上の期間において溶融ガラスと接触することを意味し、連続生産方式では、稼働期間中の全期間の30%以上の期間において溶融ガラスと接触することを意味する。なお溶融ガラスと接触する期間は、いずれの生産方式においても、稼働期間中において溶融工程を実施している全期間、あるいは、稼働期間中の全期間の90%以上が好ましく、100%が最も好ましい。
【0055】
このような金属部材の具体例としては、(1)温度センサーと、温度センサーを覆うと共に少なくとも表面が金属からなる保護部材とを備えた温度検出器における保護部材、(2)溶融ガラスの攪拌に用いられ、かつ、少なくとも表面が金属からなる攪拌子、(3)溶融ガラスを流すために用いられ、かつ、少なくとも表面が金属からなるパイプや、(4)溶融ガラスをバブリングするために用いられ、かつ、少なくとも表面が金属からなるガス噴出具などが挙げられる。なお、金属部材は、上述した例に限定されず、たとえば、単なる棒状や板状等の金属であってもよい。
【0056】
なお、溶融ガラスと実質的に常時接触するように配置される金属部材の数は、少なくとも1つ以上であればよいが、3つ以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましい。たとえば、溶融ガラスの溶融槽内の各所における温度ばらつきをモニターするために、温度検出器を2つ以上用いることがあるが、この場合は、温度検出器の数に応じて金属部材が用いられることになる。
【0057】
そして、第一の本実施形態のガラス製造方法やガラス溶融炉では、金属部材の全てが、一対以上の電極により溶融槽内に保持される溶融ガラス中に形成される通電領域の外に実質的に常時位置するように配置される。ここで、「通電領域の外に実質的に常時位置する」とは、バッチ生産方式では、稼働期間中において溶融工程を実施している全期間の98%以上の期間において通電領域の外に位置することを意味し、連続生産方式では、稼働期間中の全期間の98%以上の期間において通電領域の外に位置することを意味する。また、「通電領域」とは、本質的には、一対の電極間の間に位置する溶融ガラス中において電流密度が相対的に高く、金属の放電破壊が起こり易い領域を意味する。このような領域は、電極の配置や溶融槽の形状、大きさが変わると変化する。通電領域の典型例としては、近似的に、一対の電極同士が直接向き合う領域、および、当該領域から電極端より上方側へ60°、側方側および下方側へ30°の範囲内までの領域と考えることができる。すなわち、量産開始時において耐火物製の壁面と略面一となるようにブロック状の酸化錫電極を埋め込まれた状態で、ガラスを量産した場合、電極やその周辺の壁面の侵食が起こる。ここで、量産終了時における侵食具合を観察すると、侵食後に形成された電極平面の輪郭線から外側へ電極端より上方側へ60°、側方側および下方側へ30°までの領域内における耐火物製の壁面の侵食が、当該領域よりも外側の領域の耐火物製の壁面の侵食と比べて著しくなる傾向にある。このことから、侵食が相対的に著しい領域は、溶融ガラス中において電流密度が相対的に高い領域に該当すると考えられる。
【0058】
金属部材の全てが、一対以上の電極により溶融槽内に保持される溶融ガラス中に形成される通電領域の外に実質的に常時位置するように配置させる場合、(1)実質的に常時、通電領域の外側に位置するように移動可能に配置される態様(第一の配置態様)、および、(2)実質的に常時、通電領域の外側に位置するように固定して配置される態様(第二の配置態様)、から選択される少なくとも一方の態様を採用できる。「実質的に常時、通電領域の外側に位置する」とは、バッチ生産方式では、稼働期間中において溶融工程を実施している全期間の98%以上の期間において通電領域の外側に位置することを意味し、連続生産方式では、稼働期間中の全期間の98%以上の期間において通電領域の外側に位置することを意味する。よって、量産開始直後の製造条件出しのように、操業条件を頻繁に変更する場合(非定常操業状態)において、一時的に金属部材が通電領域内に入る場合や、金属部材からなる器具や金属部材を一部に備えた器具の交換等を目的として、一時的に金属部材が通電領域内に入る場合は、許容される。
【0059】
ここで、第一の配置態様は、具体的には、電極近傍の壁面の侵食に伴い、通電領域が量産開始前の壁面よりも外側に拡大することで、量産開始前において電極近傍であってかつ通電領域外に配置された金属部材が、一時的に通電領域内に入ってくるが、これを感知して、再び通電領域外に移動させる場合を意味する。なお、金属部材が通電領域内に入ったか否かは、たとえば、ガラス中に析出する金属粒子の個数の経時的なモニターや、金属部材に流れる電流量の経時的なモニターにより判断できる。そして、金属部材が、一時的に通電領域内に入ったと判断された場合は、金属部材を、手動や機械的に動かすことで再び通電領域外に移動させることができる。
【0060】
また、第二の配置態様は、具体的には、電極近傍の壁面の侵食に伴い、通電領域が量産開始前の壁面よりも外側に拡大する場合も考慮の上、ガラスの量産の停止直前においても通電領域の外側に位置するように、量産開始前から金属部材を固定して配置させる場合を意味する。
【0061】
一方、既述した知見からは、第一の本実施形態のガラス製造方法のように通電領域に着目するのではなく、溶融槽の壁面の侵食量の違いに着目して、放電腐食が起こらない位置に金属部材を配置することも有効であるといえる。すなわち、壁面の侵食量の相対的に大きい箇所は、溶融ガラスそのものが有する侵食力に加えて、電極近傍の溶融ガラスの通電に起因する侵食促進効果が寄与しており、放電腐食が起こり易いからである。
【0062】
ここで、第二の本実施形態のガラス製造方法は、第一の本実施形態と同様に、溶融槽と、1対以上の電極と、1つ以上の金属部材とを備えたガラス溶融炉を用いてガラスを量産する際に、溶融ガラスと壁面との累積接触時間の増大に伴い壁面が侵食されることにより、1対以上の電極から離間しかつ壁面の侵食量が相対的に小さい低侵食領域と、1対以上の電極の近傍でかつ壁面の侵食量が相対的に大きい高侵食領域と、からなる2種類の侵食面が形成され、金属部材の全てが、ガラスの量産終了時に低侵食領域となり得る壁面と略面一を成すように、ガラスの量産開始前の時点において予め固定して配置されていることを特徴とする。また、第二の本実施形態のガラス溶融炉は、上述した第二の本実施形態のガラス製造方法を利用したガラス溶融炉である。
【0063】
ここで、「低侵食領域」とは、高侵食領域よりも侵食量、および、当該領域内の侵食量のばらつきが小さく、かつ、侵食開始前の壁面と、ガラスの量産終了時における侵食面とが、低侵食領域内のいずれの箇所においても実質上略平行である領域を意味する。また、「高侵食領域」とは、低侵食領域よりも侵食量、および、当該領域内の侵食量のばらつきが大きく、かつ、侵食開始前の壁面と、ガラスの量産終了時における侵食面とが、当該領域内において略非平行である領域も存在する場合を意味する。
【0064】
なお、第二の本実施形態のガラス製造方法やガラス溶融炉では、ガラスの量産開始前の時点において、壁面のいずれの部分が「低侵食領域」に該当するのかを予測して、金属部材を配置する。一方、既述したように、経験則上、量産終了時における侵食後に形成された電極平面の輪郭線から外側へ電極端より上方側へ60°、側方側および下方側へ30°までの領域内における耐火物製の壁面の侵食は、当該領域よりも外側の領域の耐火物製の壁面の侵食と比べて著しくなることが分かっている。このような侵食具合の違いは、ガラスの組成や、溶融温度などにより変動することが予想される。しかし、本実施形態のガラス製造方法で利用されるガラス組成が大量生産向きのソーダライム系ガラスやアルミノシリケート系ガラス、無アルカリガラスであれば、いずれも、シリカを主成分とした金属酸化物であり、かつ、溶融温度においても大きな差異が無いことから、いずれのガラス組成を選択しても侵食力に大きな差が生じないことは明らかである。このため、壁面のいずれの部分が「低侵食領域」に該当するのかを予測して、金属部材を適切な位置に確実に配置することができる。また、侵食量の多少のばらつきを考慮したとしても、ガラスの量産開始直前の時点において、電極を配置する耐火物の外面(溶融槽の外壁面)から2cmの距離まで電極面の侵食が生じたと仮定した場合に形成される電極面(仮想電極面)の端より上方側へ60°、側方側および下方側へ30°の範囲外の場所に金属部材を配置することが好ましく、側方側および下方側へ45°の範囲外の場所に金属部材を配置し、上方側には設置しない事がより好ましいといえる。なお、仮想電極面を、上記の位置に設定したのは、上述した大量生産向きのガラス組成からなるガラスを量産した場合に、量産終了後における平均的な電極面の侵食深さを考慮したものである。
【0065】
また、「壁面と略面一」とは、具体的には、金属部材を配置させる場合に、侵食開始前の壁面に対する金属部材の突出量または陥没量が、対をなす電極間の距離の±10%以内となることを意味する。なお、金属部材を配置させる場合における、上記突出量または陥没量は、通電電極間の距離の±8%以内とすることが好ましく、±5%以内にすることがより好ましく、±4%以内にすることがさらに好ましく、±3%以内にすることが一層好ましく、±2%以内にすることがより一層好ましく、±1%以内にすることがさらに一層好ましく、±0.5%以内にすることがなお一層好ましく、±0.1%以内にすることがさらになお一層好ましい。金属部材を、侵食開始前の壁面に対して上述した範囲内で配置することにより、金属部材のみからなる器具(たとえば、ガス噴出具など)や、金属部材を構成要素の一部に含む器具(たとえば、温度検出器など)の機能の発揮が阻害されることがない。これに加えて、金属部材が溶融槽の中心部側に突出しすぎて、通電領域に差し掛かるおそれもない。
【0066】
なお、第一および第二の本実施形態のガラス製造方法を実施する場合、溶融槽内に保持される溶融ガラスの温度は、ガラス組成等に応じて適宜選択されるが、1200℃以上であることが好ましく、1300℃以上であることがより好ましい。このような高温の温度域では、溶融ガラスそのものが持つ侵食性が増大すると共に、電極間に流れる電流量もより多くなり、通電に起因する侵食促進効果も増大する。このため、従来であれば、ガラスの量産において、ガラス中への金属粒子異物の析出量の増大や、析出が急増し始める時期がより早期に発生することになる。しかし、第一および第二の本実施形態のガラス製造方法では、根本的にガラス中への金属粒子異物の析出を抑制するため、金属粒子異物の析出という点で、より優れた改善効果を得ることができる。なお、溶融ガラスの温度の上限は特に限定されないが、溶融炉の寿命確保など、実用上の観点からは1700℃以下であることが好ましい。
【0067】
また、第一および第二の本実施形態のガラス製造方法において用いるガラスとしては、特に限定されず、公知のガラス組成を有するものであればいずれも選択できる。特に、多量に生産されるガラス;たとえば、いわゆるフロート法を用いたガラス製造ラインで利用されるソーダライム系ガラスや、HOYA株式会社製のN5、N5H、日本板硝子製のGD7S等に代表されるようなアルミノシリケート系ガラス、AvanStrate株式会社製のNA35や、コーニング社製の7059等に代表されるような無アルカリガラスなどを用いることが好ましい。
【0068】
次に、以上に説明した第一および第二の本実施形態のガラス製造方法およびこれに用いられるガラス溶融炉について、具体例を挙げて説明する。図1は、本実施形態のガラス製造方法およびこれに用いられるガラス溶融炉の一例を説明するための説明図であり、具体的には、側壁面にブロック状電極が埋め込まれた量産開始直後のガラス溶融炉を、溶融槽中に保持された溶融ガラスの液面と平行な面で切断した断面図について示したものである。ここで、図1に示すガラス溶融炉1は、長方形の枠を成すように配置された耐火物12から構成される溶融槽10と、この耐火物12によって形成された枠の長手方向の内壁面である左内壁面14Lおよび右内壁面14Rと面一となるように、耐火物12に埋め込まれたブロック状電極20L、20R、22L、22Rと、耐火物12の左内壁面14Lに、先端部のみが露出するように、耐火物12中に予め固定した状態で埋め込まれた温度検出器30U、30C、30Dとから構成される。溶融槽10内には、溶融ガラスが満たされている。そして、溶融槽10が連続生産方式のガラス製造装置に用いられるものである場合には、溶融槽10の上流内壁面14U側は、不図示のガラス供給源に接続され、溶融槽10の下流内壁面14D側は、不図示の溶融ガラス排出口に接続される。なお、以下の説明においては、溶融槽10が連続生産方式のガラス製造装置に用いられるものであることを前提として説明する。
【0069】
なお、温度検出器30U、30C、30Dは、その表面が金属部材からなり、たとえば、Ptや、Pt合金製の金属保護層が設けられたアルミナ製の筒体と、当該筒体の内部に配置された熱電対とから構成されてもよい。ここで、溶融ガラスは、図1中、矢印F方向に示すように、溶融槽10中を上流内壁面14U側から下流内壁面14D側へと向かって流れる。以下、溶融槽10中において、上流内壁面14U側を「上流側」または「上流」、下流内壁面14D側を「下流側」または「下流」、左内壁面14L側を「左側」または「左」、右内壁面14R側を「右側」または「右」と称す場合がある。
【0070】
溶融槽10の左下流側に配置された耐火物12に埋め込まれたブロック状電極20Lと、このブロック状電極20Lと対向するように、溶融槽10の右下流側に配置された耐火物12に埋め込まれたブロック状電極20Rとは、電気的に対を成す。また、溶融槽10の左上流側に配置された耐火物12に埋め込まれたブロック状電極22Lと、このブロック状電極22Lと対向するように、溶融槽10の右上流側に配置された耐火物12に埋め込まれたブロック状電極22Rとは、電気的に対を成す。したがって、通電加熱をおこなった場合、図1に示すようにブロック状電極20L、20R間には、通電領域40が形成され、ブロック状電極22L、22R間には、通電領域42が形成される。なお、通電領域40(42)は、一対のブロック状電極20L、20R(22L、22R)が直接向き合う領域に加えて、当該領域からブロック状電極20L、20R(22L、22R)の側方端より上流側および下流側にさらに30°の角度を成すように広がる。
【0071】
ここで、左内壁面14Lに先端部が露出するように耐火物12中に埋め込まれるように配置される温度検出器30Uは、溶融ガラスの流れ方向Fに対して、上流内壁面14Uと通電領域42との間に配置される。同様に、温度検出器30Cは、通電領域40と通電領域42との間に配置され、温度検出器30Dは、通電領域40と下流内壁面14Dとの間に配置される。すなわち、いずれの温度検出器30U、30C、30Dも、その先端部が、通電領域40、42の外側に位置する溶融ガラスとのみ接触する。このため、ガラスの量産を開始した直後のみならず、量産終了直前まで温度検出器30U、30C、30Dは通電領域40、42の外側に位置し続ける。よって、長期に亘ってガラスを量産する場合でも、温度検出器30U、30C、30Dを構成する金属部材の放電腐食により、ガラス中への金属粒子異物の混入を抑制できる。なお、同様にして、温度検出器等の金属部材を有する器具や金属部材のみからなる器具を、通電領域40、42の外側に位置する溶融ガラスとのみ接触するように、上流内壁面14Uや、下流内壁面14D、右内壁面14R、底壁面に配置してもよい。
【0072】
図2は、図1に示す温度検出器30C近傍の左内壁面14Lにおけるガラスの量産終了直前の状態の一例を示す図であり、図2中、図1に示すものと同様のものについては同じ符号が付してあり、符号14Lで示される点線は、ガラスの量産開始直後の左内壁面の位置を表し、符号14Lで示される実線は、ガラスの量産終了直前の左内壁面の位置を表す。また、図2中、符号30Xは、温度検出器30Cと同様の構成を有する仮想位置に配置される温度検出器である。図2に示すように、ガラスの量産終了直前の状態では、左内壁面14Lは、量産開始直後と比べて侵食が進んでいるが、特に、通電領域40、42に対応する領域の侵食が著しく進んでおり、ブロック状電極20L、22Lにおいて侵食深さが極大となる。また、ブロック状電極20L、22L近傍の左内壁面14L(実線)は、ブロック状電極20L、22Lに近づくほど侵食深さが増大し、当該部分では、量産開始直後の左内壁面14L(点線)に対して、非平行になっている。すなわち、当該部分や、ブロック状電極20L、22Lが配置された箇所は高侵食領域Hとなっている。また、この部分以外の左内壁面14L(実線)は、侵食量が相対的に小さく、かつ、当該部分では、量産開始直後の左内壁面14L(点線)に対して、実質上略平行になっている。すなわち、この部分は低侵食領域Lとなっている。
【0073】
このような侵食によって、量産開始直後においては、先端部のみが溶融ガラスと接触していた温度検出器30Cは、量産終了直前においては、先端部のみならず、ある程度根元側まで溶融ガラスと接触することになる。これにより温度検出器30Cの溶融ガラスに対する接触面積は、量産開始直後と比べて量産終了直前では、飛躍的に増大している。しかしながら、温度検出器30Cの溶融ガラス中に露出した部分の全ては、通電領域40、42の外側に位置する上に、温度検出器30Cの配置された位置は低侵食領域Lの範囲内である。このため、温度検出器30Cの放電腐食は起こらない。
【0074】
なお、図2に示すように、仮に、電極22L側により近い高侵食領域Hの範囲内の位置に、温度検出器30Xを配置した場合には、量産開始直後においては、先端部のみが溶融ガラスと接触していた温度検出器30Xは、量産終了直前においては、先端部のみならず、かなり根元側まで溶融ガラスと接触することになる。これに加えて、温度検出器30Xの溶融ガラス中に露出した部分の全ては、通電領域42の内側に位置する。このため、両矢印Eで示されるような、電極22Lと、温度検出器30Xと、通電領域42内の電極22R(図2中、不図示)側と、を経由する電流経路が形成され、放電腐食が発生することになる。ただし、温度検出器30Xが耐火物12中に予め固定されておらず、左内壁面14Lの侵食に伴い、温度検出器30Xが通電領域42に差し掛からないように左側に移動させることができる場合は、このような放電腐食の発生を防止することができる。
【0075】
次に、第一および第二の本実施形態のガラス製造方法に利用可能な溶融炉のその他の態様について説明する。図3は、本実施形態のガラス製造方法およびこれに用いられるガラス溶融炉の他の例を説明するための説明図であり、具体的には、側壁面を貫通し、かつ、溶融槽内に突出するように棒状電極が配置された量産開始直後のガラス溶融炉を、溶融槽中に保持された溶融ガラスの液面と平行な面で切断した断面図について示したものである。ここで、図3中、図1、図2と同様の機能・形状を有する部材には同様の符号が付してある。図3に示すガラス溶融炉2は、基本的に図1に示すガラス溶融炉1と同様の構成を有するが、2対のブロック状電極20R、20L、22R、22Lの代わりに、3対の棒状電極24R、24L、26R、26L、28R、28Lを用いている点に特徴がある。溶融炉2においては、棒状電極24L、26L、28Lが左内壁面14Lを貫通して溶融槽10内に突出するように配置され、棒状電極24R、26R、28Rが右内壁面14Rを貫通して溶融槽10内に突出するように配置されている。ここで、棒状電極24R、24Lが通電領域44を形成するように対を成し、棒状電極26R、26Lが通電領域46を形成するように対を成し、棒状電極28R、28Lが通電領域48を形成するように対を成す。そして、溶融ガラスの流れ方向Fに対して、棒状電極24R、24Lは下流側に配置され、棒状電極28R、28Lは上流側に配置され、棒状電極26R、26Lは、棒状電極24R、24Lと、棒状電極28R、28Lとの中間の位置に配置される。
【0076】
また、左内壁面14Lに先端部が露出するように耐火物12中に埋め込まれるように配置される温度検出器30Uは、溶融ガラスの流れ方向Fに対して、上流内壁面14Uと通電領域48との間に配置される。同様に、温度検出器30Cは、通電領域46と通電領域48との間であって、かつ、棒状電極26L側に寄った位置に配置される。あるいは、温度検出器30Cは、通電領域44と通電領域46との間であって、かつ、棒状電極26L側に寄った位置に配置してもよい。また、温度検出器30Dは、通電領域44と下流内壁面14Dとの間に配置される。
【0077】
図4は、第一および第二の本実施形態のガラス製造方法およびこれに用いられるガラス溶融炉の他の例を説明するための説明図であり、具体的には、底壁面を貫通し、かつ、溶融槽内に突出するように棒状電極が配置された量産開始直後のガラス溶融炉を、溶融槽中に保持された溶融ガラスの液面と平行な面で切断した断面図について示したものである。ここで、図4中、図3と同様の機能・形状を有する部材には同様の符号が付してある。図4に示すガラス溶融炉3は、基本的に図3に示すガラス溶融炉2と同様の構成を有するが、3対の棒状電極24R、24L、26R、26L、28R、28Lが、左内壁面14Lおよび右内壁面14Rを貫通して溶融槽10内に突出するように配置されているのではなく、底壁面を貫通して溶融槽10内に突出するように配置されている点に特徴がある。そして、棒状電極24R、26R、28Rは、溶融槽10中の右内壁面14R側に寄った位置に配置され、棒状電極24L、26L、28Lは、溶融槽10中の左内壁面14L側に寄った位置に配置されている。また、左内壁面14Lに先端部が露出するように耐火物12中に埋め込まれるように配置される温度検出器30Uは、溶融ガラスの流れ方向Fに対して、上流内壁面14Uの近くに配置され、温度検出器30Dは、溶融ガラスの流れ方向Fに対して、下流内壁面14Dの近くに配置される。また、温度検出器30Cは、温度検出器30U、30Dが配置された位置の中間点に配置される。すなわち、温度検出器30Cは、棒状電極26Lの棒状電極26Rが配置された側と反対側に位置する。
【0078】
図5は、図4に示す溶融炉3の符号A1−A2間における断面を示す断面図であり、図5中、図4と同様の機能・形状を有する部材には同様の符号が付してある。図5に示すように棒状電極28L、28Rは、その頂上部が、溶融ガラスの液面50よりも下側に位置するように配置されている。また、底壁面14Bの中央部の部分的に盛り上がった部分には、当該部分に、先端部が陥没して埋め込まれるようにPtまたはPt合金製からなるガス噴出具32が配置されている。このため、底壁面14Bの棒状電極28Lと、棒状電極28Rとで囲まれた領域は、通電領域48と接触しているものの、ガス噴出具32は通電領域48からは十分に離れた位置に配置されることになる。これに加えて、底壁面14Bの中央部の部分的に盛り上がった部分の侵食が進行しても、ガス噴出具32は、長期にわたって通電領域48中に差し掛かることはない。このため、ガス噴出具32が、通電領域48中に突出することを抑制できる。
【0079】
第一および第二の本実施形態のガラス製造方法は、図1〜図5に例示したように、通電加熱を利用すると共に、所定の位置に金属部材が配置された溶融炉を用いてガラスを製造するものであれば、その具体的なプロセスについては特に限定されない。しかしながら、通常は、ガラス原料を溶解する溶解工程と、溶融ガラスを清澄する清澄工程と、少なくとも清澄工程を経た溶融ガラスを所定の形状に成形する成形工程と、を少なくとも経てガラスを製造することが好ましい。また、必要に応じて、清澄された溶融ガラスの粘度を所定の値に調整したり、清澄された溶融ガラスをより均質化すること等を目的とした工程を、清澄工程後かつ成形工程前に更に設けてもよい。なお、溶解工程や清澄工程等の複数の工程は、1つの溶融槽を用いてバッチ生産方式で実施することもできるが、各々の工程に対応した溶融槽を直列的に結合して連続生産方式で実施することが好ましい。
【0080】
連続生産方式でガラスを量産する場合、成形工程以前の各工程については、全長の長い溶融炉を用いて、溶融ガラスの流れ方向に対して複数のゾーンに分割し、各ゾーンで各工程を実施してもよいが、通常は、各工程毎に溶融炉を設けて実施することが好ましい。たとえば、ガラスが、溶解工程と、清澄工程と、清澄した溶融ガラスをより均質化することを目的とする均質化工程と、成形工程とを順次経て作製される場合、溶解工程、清澄工程および均質化工程の各々に対応し、かつ、直列に接続された3つの溶融炉(原料溶解炉、清澄炉、均質化炉(作業炉とも言う))を設けることができる。このように複数の溶融炉を用いる場合、少なくともいずれか1つの溶融炉が、少なくとも通電加熱を利用する通電加熱方式の溶融炉である。ここで、全ての通電加熱方式の溶融炉においては、上述した第一の本実施形態のガラス溶融炉または第二の本実施形態のガラス溶融炉が用いられる。たとえば、原料溶解炉では、火炎加熱のみによりガラス原料や溶融ガラスの加熱を行い、清澄炉では、火炎加熱と通電加熱とを利用して溶融ガラスの加熱を行い、均質化炉では、通電加熱のみを利用して溶融ガラスの加熱を行う場合、清澄炉および均質化炉において、本実施形態のガラス溶融炉が用いられる。
【0081】
なお、成形工程については、製造するガラスの形状に応じて公知の方法が適宜選択できる。たとえば、情報記録媒体用基板や、光学レンズなどへの後加工に適した略円盤状のガラスを製造する場合は、溶融炉から供給される溶融ガラスを、所定量毎に切断して得られた軟化状態のガラス塊を上型と下型とによりプレスするダイレクトプレス法が利用できる。また、ディスプレイ用基板などへの後加工に適した大面積の平板状のガラスを製造する場合には、フュージョンパイプの上端側からオーバーフローさせた溶融ガラスを鉛直方向に沿って引き下げながら板状に成形しつつ徐冷するフュージョン法や、溶融槽の底部に設けられたスリット状のノズルから溶融ガラスを鉛直方向に沿って引き下げながら板状に成形しつつ徐冷するダウンドロー法、溶融炉から供給される溶融ガラスを、フロートバスに満たした溶融錫上に浮かべた状態で薄く引き延ばして板状に成形した後、徐冷するフロート法などが利用できる。なお、フロート法を利用する場合は、得られた大判サイズの板状ガラスを円板状に切り出して研磨等の後加工を実施することで、情報記録媒体用基板を作製することも好適である。
【0082】
また、本実施形態のガラス製造装置は、本実施形態のガラス溶融炉を少なくとも1つ以上備えたものであるが、たとえば、上述した溶解工程、清澄工程および均質化工程に加えて、ダイレクトプレス法を利用した成形工程を実施してガラスを製造する場合は、以下のような構成とすることができる。すなわち、この場合、ガラス製造装置は、火炎加熱を利用してガラス原料および溶融ガラスを加熱する原料溶解炉と、この原料溶解炉の溶融ガラス排出口側に接続され、かつ、火炎加熱と通電加熱とを利用して溶融ガラスを加熱する清澄炉と、この清澄炉の溶融ガラス排出口側に接続され通電加熱とを利用して溶融ガラスを加熱する均質化炉と、この均質化炉の溶融ガラス排出口側から供給された溶融ガラスを所定量毎に切断して得られた軟化状態のガラス塊を上型と下型とによりプレスして成形する成形手段とから構成される。ここで、清澄炉および均質化炉としては、本実施形態のガラス溶融炉が用いられる。
【0083】
次に、本実施形態のガラス製造装置の具体例について図面を用いて説明する。図6は本実施形態のガラス製造装置の一例を示す概略模式図である。図6中、ガラス製造装置60は、溶融ガラス70の流れ方向に対して、上流側から下流側へと、溶解炉80、清澄炉82および作業炉(均質化炉)84がこの順に配置されている。そして、溶解炉80の側壁面と清澄炉82の側壁面とは接続管90により接続され、清澄炉82の側壁面と作業炉84の側壁面とは接続管92により接続され、作業炉84の底壁面は排出管94に接続されている。また、作業炉84内には、攪拌手段96が配置されている。なお、図中の各溶融炉80、82、84は、その主要部を成す溶融槽部分について主に示したものであり、通電加熱に用いる電極などの加熱手段や、金属部材などについては記載を省略してある。このガラス製造装置60においては、3つの溶融炉80,82,84のうち、少なくとも1つの溶融炉が本実施形態の溶融炉である。
【0084】
ガラス製造装置60によりガラスを量産する場合、各溶融炉80、82、84の主要部を構成する溶融槽には溶融ガラス70が満たされた状態となっている。そして、溶解炉80の近傍に配置された不図示のガラス原料供給手段からガラス原料が溶解炉80に供給され、このガラス原料は、溶解炉80中において加熱・溶解させられる。また、ガラス原料の供給量に応じた分だけ、溶解炉80中の溶融ガラス70が、接続管90を介して清澄炉82へと移動する。この清澄炉82では、溶融ガラス70の清澄が行われる。そして清澄を終えた溶融ガラス70は接続管92を介して作業炉84へと移動する。この作業炉84では、攪拌手段96により溶融ガラス70が均質となるように攪拌される。その後、均質化された溶融ガラス70は、排出管94を介して作業炉84から後工程を実施する成形装置等に移送される。
【0085】
図7は本実施形態のガラス製造装置の他の例を示す概略模式図である。ここで、図7中、図6に示す部材と同様の機能・構成を有する部材には、図6中に示すものと同じ番号が付してある。図7に示すガラス製造装置62は、図6に示すガラス製造装置60における溶解炉80および清澄炉82が一体的に構成されている点を除いて、同様の構造を有するものである。すなわち、ガラス製造装置62においては、1つの溶融炉86中に、仕切り部材86Cを設けることで溶融炉として機能する溶融部86Aと、清澄炉として機能する清澄部86Bとに分割されている。そして、仕切り部材86Cには開口部が設けられており、これにより、溶融部86A中の溶融ガラス70が清澄部86Bへと移動可能である。また、清澄部86Bの仕切り部材86Cが設けられた側と反対側の側壁面には、清澄部86Bと作業炉84とを接続する接続管92が設けられている。
【0086】
(ガラスブランク製造方法)
以上に説明したように、本実施形態のガラス製造方法を用いれば、ガラス中間製品であるいわゆるガラスブランクを作製することができる。ここで、作製されるガラスブランクは、磁気記録媒体や光記録媒体などの各種情報記録媒体の作製に用いられる情報記録媒体用基板や、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ、また、携帯電話などに設けられた小型ディスプレーのカバーガラスなどの作製に用いられるディスプレイ用基板、レンズなどの光学部品、タッチパネル用基板や太陽電池用基板等の各種のガラス部材の作製に用いることが可能である。なお、最終製品の用途に応じて決まるガラスブランクの形状は、成形工程として、ダイレクトプレス法やフュージョン法など、所定形状のガラスの作製に適した方法を選択することで得ることができる。
【0087】
情報記録媒体基板用のガラスブランクであれば、典型的なサイズとしては、直径2cm〜10cm程度、厚み0.5mm〜1.1mm程度の円板状とすることができる。たとえば、2.5インチ基板用のガラスブランクであれば、直径は65mm〜70mm程度、厚みは0.6〜1.1mm程度とすることができる。なお、情報記録媒体用のガラスブランクは、中心部や周縁部が部分的に肉厚となった形状でもよい。また、光学部品製造用のガラスブランクであれば、直径1cm〜15cm程度、厚み5mm〜30mm程度の円盤状とすることができる。また、ディスプレイ用のガラスブランクであれば、成形工程において形成される板状のガラスを、ディスプレイメーカーが要求する規格に合わせて、所定のサイズに裁断すればよい。たとえば、第8世代と呼ばれるTFT液晶用ガラス基板であれば、そのサイズは2200mm×2500mmである。以下に、本実施形態のガラスブランク製造方法により得られたガラスブランクを用いた各種ガラス製品の製造方法等について説明する。
【0088】
(情報記録媒体用基板製造方法および情報記録媒体製造方法)
本実施形態の情報記録媒体用基板製造方法は、本実施形態のガラスブランク製造方法により作製されたガラスブランクの主表面を研磨・研削する研磨・研削工程を少なくとも経て、情報記録媒体用基板を作製するものである。そして、本実施形態の情報記録媒体製造方法は、本実施形態の情報記録媒体用基板製造方法により作製された情報記録媒体用基板の主表面に情報記録層を形成する情報記録層形成工程を少なくとも経て、情報記録媒体を作製するものである。
【0089】
以下、情報記録媒体用基板および情報記録媒体の製造方法をより具体的に説明する。まず、情報記録媒体用基板は、円板状のガラスブランクに対して、たとえば、(1)第1ラッピング工程、(2)穴あけ工程(コアリング)、(3)端面加工工程、(4)第2ラッピング工程、(5)主表面研磨工程、(6)化学強化工程、(7)精密洗浄工程、をこの順に実施することで作製することができる。なお、各工程は適宜順番を入れ替えてもよいし省略してもよい。以下、これらの工程についてより具体的に説明する。なお、基板の直径よりも十分大きな直径を有する円盤状ガラスをプレス成形し、スクライビング加工により円盤状ガラスから同心円状の円盤状ガラスを取り出し、取り出した円盤状ガラスを上記(1)から(7)に至る工程によって情報記録媒体用基板を作製することもできる。
【0090】
(1)第1ラッピング工程
第1ラッピング工程では、ガラスブランクの両主表面をラッピング加工することで、ディスク状のガラス素板を得る。このラッピング加工は、遊星歯車機構を利用した両面ラッピング装置により、アルミナ系遊離砥粒を用いて行うことができる。
【0091】
(2)穴あけ工程(コアリング)
次に、円筒状のダイヤモンドドリルを用いて、このガラス基板の中心部に円孔を形成し、ドーナツ状のガラス基板を得る(コアリング)。
【0092】
(3)端面加工工程
そして内周端面および外周端面をダイヤモンド砥石、研磨ブラシ等を用いて所定の面取り加工および研磨加工を施す。
【0093】
(4)第2ラッピング工程
次に、得られたガラス基板の両主表面について、第1ラッピング工程と同様に、第2ラッピング加工を行う。この第2ラッピング工程を行うことにより、端面加工工程において主表面に形成された微細な凹凸形状を予め除去しておくことができ、後続の主表面に対する研磨工程を短時間で完了させることができる。
【0094】
(5)主表面研磨工程
主表面研磨工程の前半工程として、まず、第1研磨工程を実施する。この第1研磨工程は、前述のラッピング工程において主表面に残留したキズや歪みの除去を主たる目的とする。この第1研磨工程においては、遊星歯車機構を有する両面研磨装置により、硬質樹脂ポリッシャを用いて、主表面の研磨を行う。研磨液としては、たとえば、酸化セリウム砥粒を用いることができる。そして、この第1研磨工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、純水、IPA(イソプロピルアルコール)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄する。
【0095】
次に、主表面研磨工程の後半工程として、第2研磨工程を実施する。この第2研磨工程は、主表面を鏡面状に仕上げることを目的とする。この第2研磨工程においては、遊星歯車機構を有する両面研磨装置により、軟質発泡樹脂ポリッシャを用いて、主表面の鏡面研磨を行う。研磨液としては、第1研磨工程で用いた酸化セリウム砥粒よりも微細な酸化セリウム砥粒を用いることができる。この第2研磨工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、純水、IPA(イソプロピルアルコール)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄する。なお、各洗浄槽には、超音波を印加する。
【0096】
(6)化学強化工程
情報記録媒体用基板の作製に用いるガラスブランクが、リチウムやナトリウムなどのアルカリ金属を含むガラスからなる場合は、ガラス基板に、化学強化を施すのが好ましい。化学強化工程を行うことにより、情報記録媒体用基板の表層部に高い圧縮応力を生じさせることができる。このため、情報記録媒体用基板の表面の耐衝撃性を向上させることができる。このような化学強化処理は、情報を記録再生するヘッドが、機械的に情報記録媒体表面に接触する可能性のある磁気記録媒体を作製する上で非常に好適である。
【0097】
化学強化は、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムを混合した化学強化溶液を準備し、この化学強化溶液を加熱しておくとともに、洗浄済みのガラス基板を予熱し、化学強化溶液中に浸漬することによって行う。このように、化学強化溶液に浸漬処理することによって、ガラス基板の表層のリチウムイオン及びナトリウムイオンが、化学強化溶液中のナトリウムイオン及びカリウムイオンにそれぞれ置換され、ガラス基板が強化される。
【0098】
(7)精密洗浄工程
次に、研磨剤残渣や外来の鉄系コンタミなどを除去し、ガラス基板の表面をより平滑かつ清浄にするために、精密洗浄工程を実施するのが好ましい。
【0099】
これらの一連の工程を経て作製された情報記録媒体の表面粗さは、Raでサブナノメーターのオーダーとすることができる。なお、表面粗さは、主表面研磨条件や洗浄条件を選択することにより適宜調整することができる。なお、以上の工程を経て得られた情報記録媒体用基板は、公知の磁気記録、光記録、光磁気記録等の公知の各種記録方式を採用した情報記録媒体の作製に用いることができるが、特に磁気記録媒体の作製に用いることが好適である。
【0100】
このようにして得られた情報記録媒体用基板の主表面に、情報記録層を形成する情報記録層形成工程を少なくとも経ることで、情報記録媒体を製造することができる。なお、磁気記録媒体を作製する場合は、情報記録層として磁気記録層が設けられる。この磁気記録媒体は、水平磁気記録方式および垂直磁気記録方式のいずれであってもよいが、垂直磁気記録方式であることが好ましい。垂直磁気記録方式の磁気記録媒体を作製する場合は、たとえば、情報記録媒体用基板の両面に、付着層、軟磁性層、下地層、垂直磁気記録層、保護層、潤滑層を、この順に順次成膜することができる。なお、付着層、軟磁性層、下地層、垂直磁気記録層は、スパッタリング法により成膜することができ、保護層は、スパッタリング法やCVD法(Chemical Vapor Deposition法)により成膜することができ、潤滑層は浸漬塗布法により成膜することができる。
【0101】
(ディスプレイ用基板製造方法)
本実施形態のディスプレイ用基板の製造方法では、ガラスブランクを利用してディスプレイを作製する。具体的にはディスプレイのサイズに合わせて所定の形状に裁断し、洗浄や、端面の面取り加工を行う。その後、必要に応じて、たとえば携帯電話のディスプレイ部に用いるカバーガラスであれば、化学強化処理を施したり、液晶ディスプレイ用基板であれば、ITO(Indium Tin Oxide)膜などを成膜することができる。
【0102】
(光学部品製造方法)
本実施形態の光学部品製造方法では、ガラスブランクの主表面を研磨・研削する研磨・研削工程を少なくとも経て、光学部品を作製する。具体的には、光学部品は、ガラスブランクを加熱、軟化してプレス成形し、得られた成形品をアニールした後、研削、研磨することにより得ることもできるし、ガラスブランクを精密プレス成形し、必要に応じて非光学機能面を研削(例えば、レンズの心取り加工など)して得ることもできる。あるいは、清澄、均質化した溶融ガラスをプレス成形し、得られた成形品をアニールした後、研削、研磨することにより得ることもできる。これらの光学部品は撮像光学系、たとえば、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、監視カメラ、車載カメラや、プロジェクタなどの投射光学系を構成する光学部品として利用できる。
【符号の説明】
【0103】
1、2、3 ガラス溶融炉
10 溶融槽
12 耐火物
14R 右内壁面
14L 左内壁面
14U 上流内壁面
14D 下流内壁面
14B 底壁面
20R、20L、22R、22L ブロック状電極
24R、24L、26R、26L、28R、28L ブロック状電極
30U、30C、30D、30X 温度検出器(金属部材を表面に備える器具)
32 ガス噴出具(金属部材からなる器具)
40、42、44、46、48 通電領域
50 溶融ガラスの液面
60,62 ガラス製造装置
70 溶融ガラス
80 溶解炉
82 清澄炉
84 作業炉
86 溶融炉
86A 溶融部
86B 清澄部
86C 仕切り部材
90、92 接続管
94 排出管
96 攪拌手段
100 清澄槽
110R、110L 側壁面
112R、112L 電極
114 温度検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ガラスと接触する壁面が少なくとも耐火物から構成される溶融槽と、
該溶融槽内に保持される溶融ガラスと接触するように配置され、上記溶融槽内に保持される溶融ガラスを通電加熱するための1対以上の電極と、
少なくとも表面が金属からなり、かつ、当該表面が、上記溶融槽内に保持される溶融ガラスと実質的に常時接触するように配置される1つ以上の金属部材と、を備えたガラス溶融炉を用いてガラスを量産する際に、
上記溶融槽に上記溶融ガラスが満たされている場合において、上記金属部材の全てが、上記一対以上の電極により上記溶融槽内に保持される溶融ガラス中に形成される通電領域の外に実質的に常時位置するように配置されることを特徴とするガラス製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のガラス製造方法において、
前記1以上の金属部材の各々が、実質的に常時、前記通電領域の外側に位置するように移動可能に配置される態様、および、実質的に常時、前記通電領域の外側に位置するように固定して配置される態様、から選択されるいずれかの態様で配置されていることを特徴とするガラス製造方法。
【請求項3】
溶融ガラスと接触する壁面が少なくとも耐火物から構成される溶融槽と、
該溶融槽内に保持される溶融ガラスと接触するように配置され、上記溶融槽内に保持される溶融ガラスを通電加熱するための1対以上の電極と、
少なくとも表面が金属からなり、かつ、当該表面が、上記溶融槽内に保持される溶融ガラスと実質的に常時接触するように配置される1つ以上の金属部材と、を備えたガラス溶融炉を用いてガラスを量産する際に、
上記溶融ガラスと上記壁面との累積接触時間の増大に伴い上記壁面が侵食されることにより、上記1対以上の電極から離間しかつ壁面の侵食量が相対的に小さい低侵食領域と、上記1対以上の電極の近傍でかつ壁面の侵食量が相対的に大きい高侵食領域と、からなる2種類の侵食面が形成され、
上記金属部材の全てが、ガラスの量産終了時に上記低侵食領域となり得る壁面と略面一を成すように、ガラスの量産開始前の時点において予め固定して配置されていることを特徴とするガラス製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のガラス製造方法において、
前記ガラスの量産が、前記溶融槽内にガラス原料を投入して溶融する溶融工程と、該溶融工程を経て上記ガラス原料が溶解された溶融ガラスを前記溶融槽から排出する排出工程とを交互に繰り返すことで実施されることを特徴とするガラス製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のガラス製造方法において、
前記溶融槽が、溶融ガラスが実質上連続的に流入する溶融ガラス流入口およびガラス原料が実質上連続的に投入されるガラス原料投入口から選択されるいずれか一方のガラス供給源、および、溶融ガラスを連続的に排出する溶融ガラス排出口に接続され、
前記ガラスの量産が、
上記溶融ガラス流入口から前記溶融槽へと実質上連続的に流入する溶融ガラスの流入量、および、上記ガラス原料投入口から前記溶融槽へとガラス原料が実質上連続的に投入される上記ガラス原料の投入量、から選択されるいずれか一方の量に応じて、
常に前記溶融ガラスで満たされた状態の前記溶融槽から前記溶融ガラスが実質上連続的に排出されることで、実施されることを特徴とするガラス製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のガラス製造方法において、
前記ガラスの量産に際して、前記ガラス原料の前記溶融槽への供給が一時的に中断される期間があることを特徴とするガラス製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載のガラス製造方法において、
前記金属が、白金、白金合金、強化白金から選択される少なくとも1種の金属であることを特徴とするガラス製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載のガラス製造方法において、
前記1つ以上の金属部材が、(1)温度センサーと、該温度センサーを覆うと共に少なくとも表面が金属からなる保護部材とを備えた温度検出器における当該保護部材、(2)溶融ガラスの攪拌に用いられ、かつ、少なくとも表面が金属からなる攪拌子、(3)溶融ガラスを流すために用いられ、かつ、少なくとも表面が金属からなるパイプ、および、(4)溶融ガラスをバブリングするために用いられ、かつ、少なくとも表面が金属からなるガス噴出具から選択される少なくとも1種の器具を含むことを特徴とするガラス製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つに記載のガラス製造方法において、
前記溶融槽内に保持される溶融ガラスの温度が、1200℃〜1700℃の範囲内であることを特徴とするガラス製造方法。
【請求項10】
溶融ガラスと接触する壁面が少なくとも耐火物から構成される溶融槽と、
該溶融槽内に保持される溶融ガラスと接触するように配置され、上記溶融槽内に保持される溶融ガラスを通電加熱するための1対以上の電極と、
少なくとも表面が金属からなり、かつ、当該表面が、上記溶融槽内に保持される溶融ガラスと実質的に常時接触するように配置される1つ以上の金属部材と、を備え、
ガラスを量産する際に、
上記金属部材の全てが、上記一対以上の電極により上記溶融槽内に保持される溶融ガラス中に形成される通電領域の外に実質的に常時位置するように配置されることを特徴とするガラス溶融炉。
【請求項11】
溶融ガラスと接触する壁面が少なくとも耐火物から構成される溶融槽と、
該溶融槽内に保持される溶融ガラスと接触するように配置され、上記溶融槽内に保持される溶融ガラスを通電加熱するための1対以上の電極と、
少なくとも表面が金属からなり、かつ、当該表面が、上記溶融槽内に保持される溶融ガラスと実質的に常時接触するように配置される1つ以上の金属部材と、を備え、
ガラスを量産する際に、上記溶融ガラスと上記壁面との累積接触時間の増大に伴い上記壁面が侵食されることにより、上記1対以上の電極から離間しかつ壁面の侵食量が相対的に小さい低侵食領域と、上記1対以上の電極の近傍でかつ壁面の侵食量が相対的に大きい高侵食領域と、からなる2種類の侵食面が形成され、
上記金属部材の全てが、ガラスの量産終了時に上記低侵食領域となり得る壁面と略面一を成すように、ガラスの量産開始前の時点において予め固定して配置されていることを特徴とするガラス溶融炉。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載のガラス溶融炉において、
前記溶融槽が、溶融ガラスが実質上連続的に流入する溶融ガラス流入口およびガラス原料が実質上連続的に投入されるガラス原料投入口から選択されるいずれか一方のガラス供給源、および、溶融ガラスを連続的に排出する溶融ガラス排出口に接続されていることを特徴とするガラス溶融炉。
【請求項13】
少なくとも通電加熱により溶融ガラスを加熱する通電加熱方式の溶融炉を1つ以上備え、全ての通電加熱方式の溶融炉が、請求項10〜12に記載のガラス溶融炉から選択されるガラス溶融炉であることを特徴とするガラス製造装置。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれか1つに記載のガラス製造方法を用いてガラスブランクを作製することを特徴とするガラスブランク製造方法。
【請求項15】
請求項14のガラスブランク製造方法において、
前記ガラスブランクが、情報記録媒体用基板、ディスプレイ用基板、および、光学部品から選択されるいずれかの部材の作製に用いられることを特徴とするガラスブランク製造方法。
【請求項16】
請求項14に記載のガラスブランク製造方法により作製されたガラスブランクの主表面を研磨・研削する研磨・研削工程を少なくとも経て、情報記録媒体用基板を作製することを特徴とする情報記録媒体用基板製造方法。
【請求項17】
請求項16に記載の情報記録媒体用基板の主表面に情報記録層を形成する情報記録層形成工程を少なくとも経て、情報記録媒体を作製することを特徴とする情報記録媒体製造方法。
【請求項18】
請求項14に記載のガラスブランク製造方法により作製されたガラスブランクを利用して、ディスプレイ用基板を作製することを特徴とするディスプレイ用基板製造方法。
【請求項19】
請求項14に記載のガラスブランク製造方法により作製されたガラスブランクの主表面を研磨・研削する研磨・研削工程を少なくとも経て、光学部品を作製することを特徴とする光学部品製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−63503(P2011−63503A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174530(P2010−174530)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】