説明

キトサンと酸化多糖とに基づく保護用ゲル

体組織および構造を、キトサンと酸化多糖との混合物を含有する流体層を使用して、保護することができる。この混合物は、in situ架橋を介して保護ゲル層を形成する。グルタルアルデヒドまたはゲニピンなどの低分子量アルデヒドを使用した架橋と比較して、酸化多糖は、潜在的に生体許容性が低い低分子量アルデヒドを使用することを回避しつつ、より速いゲル化をもたらす様である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本発明は、耳、鼻、喉、四肢、および脊柱における組織および構造の中でまたはその上で使用するための多糖および材料に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002] 特定の多糖材料が、外科的修復または薬剤送達のために使用されてきた。そのような材料に関する文献には、以下のものが含まれる:U.S.特許No. 6,514,522(Domb)およびU.S.特許No 7,053,068 B2(Prinz)、U.S.特許出願公開No. US 2005/0176620 A1(Prestwych et al.)、およびU.S.特許出願公開No. US 2005/0238702 A1(Ishihara et al.)、カナダ特許出願No. 2 348 842 A1(Bernkop-Schnurch)、公開PCT出願No. WO 98/31712 A2(B.F. Goodrich Co.)、公開PCT出願No. WO 01/00246 A2(Bentley et al.)、および公開PCT出願No. WO 03/020771 A1(Mucobiomer Biotechnologische Forschungs-und Entwicklungs GmbH)、Mi et al., Synthesis and Characterization of a Novel Chitosan-Based Network Prepared Using Naturally-Occurring Crosslinker, J Polym Sci, Part A: Polym Chem, 38, 2804-2814 (2000)、Mi et al., Synthesis and characterization of biodegradable TPP/genipin co-crosslinked chitosan gel beads, Polymer, 44, 6521-30 (2003)、Roldo et al., Mucoadhesive thiolated chitosans as platforms for oral controlled drug delivery: synthesis and in vitro evaluation, European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics, 57, 115-121 (2004)、Krauland et al., Viscoelastic Properties of a New in situ Gelling Thiolated Chitosan Conjugate, Drug Development And Industrial Pharmacy, 31, 885-893 (2005)、Bernkop-Schnurch, Thiomers: A new generation of mucoadhesive polymers, Advanced Drug Delivery Reviews, 57, 1569-1582 (2005)、Bernkop-Schnurch et al., Thiomers: Preparation and in vitro evaluation of a mucoadhesive nanoparticulate drug delivery system, International journal of Pharmaceutics, 317, 76-81 (2006)、およびWeng et al., Rheological Characterization of in Situ Crosslinkable hydrogels Formulated from Oxidized Dextran and N-Carboxyethyl Chitosan, Biomacromolecules, 8, 1109-1115 (2007)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】U.S.特許No. 6,514,522(Domb)
【特許文献2】U.S.特許No. 7,053,068 B2(Prinz),
【特許文献3】U.S. 特許出願公開No. US 2005/0176620 A1(Prestwych et al.)
【特許文献4】U.S. 特許出願公開No. US 2005/0238702 A1(Ishihara et al.),
【特許文献5】カナダ特許出願No. 2 348 842 A1(Bernkop-Schnurch),
【特許文献6】公開PCT出願No. WO 98/31712 A2(B.F. Goodrich Co.),
【特許文献7】公開PCT出願No. WO 01/00246 A2(Bentley et al.)
【特許文献8】公開PCT出願No. WO 03/020771 A1(Mucobiomer Biotechnologische Forschungs-und Entwicklungs GmbH),
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Mi et al., J Polym Sci, Part A: Polym Chem, 38, 2804-2814 (2000),
【非特許文献2】Mi et al., Polymer, 44, 6521-30 (2003),
【非特許文献3】Roldo et al., European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics, 57, 115-121 (2004),
【非特許文献4】Krauland et al., Drug Development And Industrial Pharmacy, 31, 885-893 (2005),
【非特許文献5】Bernkop-Schnurch, Advanced Drug Delivery Reviews, 57, 1569-1582 (2005),
【非特許文献6】Bernkop-Schnurch et al., International journal of Pharmaceutics, 317, 76-81 (2006)
【非特許文献7】Weng et al., Biomacromolecules, 8, 1109-1115 (2007).
【発明の概要】
【0005】
[0003] 本発明は、一側面において、保護ゲル層をin situで形成するために十分な量のキトサンと酸化多糖とを含む、体組織または構造上の流体層を提供する。保護ゲル層は、例えば、炎症性応答の調節、食作用の調節、粘膜リモデリングの調節、繊毛再生の調節、または正常機能のその他の完全なまたは部分的な回復の調節などの1またはそれ以上の治癒メカニズムを介して、傷害組織表面、炎症組織表面または外科的修復組織表面を、正常な状態に戻すことを補助することができる。
【0006】
[0004] 本発明は、別の側面において、体組織または構造を処置する方法を提供し、この方法は、以下の工程:
a) この組織に対して、キトサンと酸化多糖との混合物を含有する流体層を適用する工程、そして
b) この混合物に保護ゲル層をin situで形成させる工程、
を含む。
【0007】
[0005] 開示された流体層は、望ましくは、スプレー適用され、そして複数成分のスプレーディスペンサー中にパッケージングされる。開示された方法および層は、耳、鼻、または喉の粘膜組織、そして四肢または脊柱の開口部、陥凹部、通路、または接合部を処置するために特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】[0006] 図1は、開示された方法を示すスキーム図である。
【図2】[0007] 図2は、開示された方法において使用することができる、分注機器の透視図である。
【図3】[0008] 図3は、キトサンと酸化多糖とから形成される2種のin situ架橋ゲル層の抗菌特性、およびトリプチケースソイブロス対照の抗菌特性を示すグラフである。
【図4】[0009] 図4は、キトサンと酸化多糖とから形成される3つのin situ架橋ゲル層に対する、そしてトリプチケースソイブロス対照に対する、時間の関数としての抗菌活性を示すグラフである。
【図5】[0010] 図5は、3種のin situ架橋ゲル層についての薬物放出性状を示すグラフである。そして
【図6】[0011] 図6は、in situ架橋ゲル層の分解を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[0012] 参考文献と同様に、図面の様々な図における符号は、同様のエレメントを示す。図面中のエレメントは、同一縮尺というわけではない。
【0010】
発明の詳細な説明
[0013] 以下の詳細な説明は、特定の態様を記述したものであり、そして限定する意味では利用されない。本明細書中の全ての重量、量、および比は、特に記載しない限り重量である。以下に示される用語は、以下の意味を有する。
【0011】
[0014] 用語“接着”は、身体構造または補綴材料を、組織に対してくっつけること、組織と組織とを長期間の間緊密に接触させるようにくっつけること、または通常の開放空間を介して身体構造、補綴材料または組織を互いに結合させる組織を形成すること、をいう。
【0012】
[0015] 用語“抗菌性”は、Staphylococcus aureus、Pseudomonas aeruginosa、Streptococcus pneumonia、Haemophilus influenzae、またはMoraxella catarrhalisの1またはそれ以上の個体群における、90%より多い数値的減少(すなわち、少なくとも1-logオーダーの減少)を引き起こす能力のことをいう。
【0013】
[0016] 用語“付着した”および“接着した”は、細菌性バイオフィルムおよび表面に関連して使用される場合、バイオフィルムが表面上で確立され、そして少なくとも部分的に表面をコーティングするかまたは被覆し、表面からの除去に対していくらか抵抗性を有することを意味する。この関係性の性質が複雑であまりよく理解されていないため、付着または接についての具体的なメカニズムは、そのような使用により意図されない。
【0014】
[0017] 用語“細菌性バイオフィルム”は、細菌により生成される細胞外多糖(EPS)マトリクス中に含有される群落中の有機体(生物)を含む、表面に対して付着した細菌の群落を意味する。
【0015】
[0018] 用語“生体適合性”は、物質に関連して使用される場合、物質が、生体に対して顕著な有害作用または望まれない作用を何も示さないことを意味する。
【0016】
[0019] 用語“生物分解性”は、物質に関連して使用される場合、物質がin vivoで分解されまたは破壊されて、より小さな化学的種または物理的種を形成することを意味する。そのような分解プロセスは、酵素的、化学的または物理的であってもよい。
【0017】
[0020] 用語“生体吸収性”は、物質に関連して使用される場合、物質が、生体により吸収されることができることを意味する
[0021] 用語“粘着性”は、液体またはゲルに関連して使用される場合、水平面上に静置される場合の液体またはゲルが(全ての場合に必要というわけではないが)、それ自体にくっつき、そして単一の塊を形成する傾向があることを意味する。
【0018】
[0022] 用語“破砕される”は、粒子材料に関連して使用される場合、カッティング、研磨、微粉砕、粉末化、または外部から印加された力を使用したその他の粒子破砕プロセスにより、粒子が破砕されそしてサイズが小さくなったことを意味する。
【0019】
[0023] 用語“共形(conformal)”は、組織またはその他の身体構造に対して適用される組成物に関連して使用される場合、組成物が、組成物が適用される領域上に実質的な連続層を形成することができることを意味する。
【0020】
[0024] 用語“分離”、“除去”および“崩壊”は、表面に対して付着したかまたは接着した細菌性バイオフィルムに関連して使用される場合、最初には表面上に存在していた少なくとも顕著な量のバイオフィルムが、もはや表面に対して付着したりまたは接着したりしないことを意味する。分離、除去または崩壊の具体的なメカニズムは、その様な使用により意図されない。
【0021】
[0025] 用語“流体”は、物質に関連して使用される場合、物質が、その保管係数(G')よりも大きい損失係数(G'')そして1よりも大きい損失タンジェント(tan δ)を有する液体であることを意味する。
【0022】
[0026] 用語“ゲル”は、物質に関連して使用される場合、物質が変形可能なものであり(すなわち、固体ではない)、G''がG'未満でそしてtan δが1未満であることを意味する。
【0023】
[0027] 用語“ゲル化”は、ゲル層の形成に関連して使用される場合、G''がG'と等しくそしてtan δが1に等しい時間を意味する。
【0024】
[0028] 用語“止血”は、血流を止める機器または材料を意味する。
【0025】
[0029] 用語“ハイドロゲル”は、ゲルに関連して使用される場合、ゲルが、親水性でありそして水を含有することを意味する。
【0026】
[0030] 用語“水和”は、機器または物質に関連して使用される場合、機器または物質が、均一に分散された化学的な結合水を含有することを意味する。“完全に水和”された機器または物質は、水和のための追加の水を取り込むことができない。“部分的に水和”された機器または物質は、水和のための追加の水を取り込むことができる。
【0027】
[0031] 用語“内耳”は、三半規管および蝸牛を意味する。
【0028】
[0032] 用語“中耳”は、鼓膜、耳小骨連鎖などの内部構造、乳様突起などの周囲の裏打ち構造および境界構造により規定される領域を意味する。
【0029】
[0033] 用語“粘膜接着性”は、機器または物質に関連して使用される場合、機器または物質が、粘液被覆上皮に対して接着し得ることを意味する。
【0030】
[0034] 用語“鼻腔または副鼻腔”は、鼻および洞内の通常は空気で満たされた通路および室を規定する様々な組織のことをいい、組織には鼻孔(nostrilsまたはnares)、鼻甲介(nasal conchaまたはturbinates)、前頭骨、篩骨、ちょう形骨洞および上顎洞、副鼻腔口および鼻咽頭が含まれる(しかし、これらには限定されない)。
【0031】
[0035] 用語“多糖”には、多糖の誘導体および修飾された多糖、ならびに個々の多糖種の誘導体および個々の修飾多糖種が含まれる。例えば、用語“カルボキシメチルセルロース”には、カルボキシメチルセルロース誘導体および修飾カルボキシメチルセルロースが含まれ、用語“キトサン”にはキトサン誘導体および修飾キトサンが含まれ、そして用語“でんぷん”には、でんぷん誘導体および修飾でんぷんが含まれる。
【0032】
[0036] 用語“保護”は、組織またはその他の身体構造上の組成物の層に関連して使用される場合、例えば、炎症性応答の調節、食作用、粘膜リモデリング、繊毛再生、または正常機能のその他の完全なまたは部分的な回復などの1またはそれ以上の治癒メカニズムを介して、層が、傷害組織表面、炎症組織表面または外科的修復組織表面を、正常な状態に戻すことを補助することができることを意味する。
【0033】
[0037] 用語“滞留時間”は、組織またはその他の身体構造上の保護ゲル層に関連して使用される場合、ゲル層またはその部分が巨視的観察のもとin vivoで依然としてその場に存在している期間を意味する。
【0034】
[0038] 用語“溶媒”は、溶質がその中で溶解されるかまたは懸濁される溶媒またはその他の担体を含有する、溶液または分散系を形成することを意味する。
【0035】
[0039] 用語“実質的にコラーゲン不含”は、牛海綿状脳症(BSE)または変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)の伝播またはそれへの感染の潜在的リスクをもたらさないように、実質的に低量のコラーゲンを含有することを意味する。
【0036】
[0040] 用語“薄い”は、組織またはその他の身体構造上の保護層に関連して使用される場合、約2ミリメートル未満の平均厚を有することを意味する。
【0037】
[0041] 図1に関して、開示された方法は、例えば、患者の鼻腔または副鼻腔100中で行うことができ、鼻孔114a、114bを介してアクセスすることができる上顎洞110a、110bおよび前頭洞112a、112bが含まれる。鼻孔114a、114bを含めて患者の外的特徴が、点線で示されることに注目すべきである。患者が、例えば、慢性鼻副鼻腔炎を患っている場合、上顎洞110aの表面と関連する治療部位116などの1またはそれ以上の治療部位を、医学的にまたは必要であれば外科的に対処することができる。治療部位116には、上顎洞110aの線毛上皮が含まれ、そして細菌が生息する関連するバイオフィルムの関連した層が含まれていてもよい(図1中には示さず)。治療部位は、天然の組織である必要はなく、そして代わりに、細菌性バイオフィルムの層により少なくとも部分的に被覆されていてもよい、洞充填(sinus packing)またはステントなどの人工的構造であってもよい(図1中には示さず)。存在する場合、バイオフィルムは、病巣洗浄管(irrigation duct)(図1においては隠されている)を含有する関節結合可能な送達チューブ122とともに、イントロデューサー122の遠位端にてノズル124へと流れそして従って治療部位へと流れることができる溶媒システムを介して、イントロデューサー120を使用して、治療部位116に対して適用することができる溶媒システム(例えば、U.S.特許出願公開No. US 2007/0264310 A1に記載される溶媒システム)を使用して除去することができる。溶媒システムおよびバイオフィルムの残留物を、吸引管(図1においては隠されている)を介して、治療部位から除去することができる。キトサンと酸化多糖とを含む開示された組成物を、同様に、イントロデューサー120中で同一のまたは異なる病巣洗浄管(irrigation duct)を使用して、治療部位にて適用することができる。当業者は、開示された組成物(そして必要であれば溶媒システム)を、その他の方法またはその他の装置を使用して、治療部位に対して適用することができることを理解するであろう。例示的なその他の方法には、動力スプレーまたはその他のスプレー塗布、洗浄(lavage)、ミスト、モッピング、ウィッキング、ドリッピング、そして穿孔(trephination)が含まれ、そして例示的なその他の装置には、スプレーノズル(例えば、単一成分または複数成分のスプレーノズル)およびシリンジ(例えば、単一バレルまたは複数バレルのガラスまたはプラスチックシリンジおよびバルブシリンジ)が含まれる。治療方法を、身体のその他の部分において行うこともできる。治療方法は、組織(例えば、粘膜組織)の治療や、耳、喉、四肢または脊柱中またはその近傍の構造の治療を含む、血管外適用において、特に有用性を有する。
【0038】
[0042] 図2は、開示された治療方法において使用することができる例示的な機器200を示す。機器200には、ハンドル202およびイントロデューサー222が含まれ、その遠位端224(全般を参照)には、スプレーノズル、病巣洗浄管(irrigation duct)および吸引管が含まれる(図2においては別々に番号を付けていない)。機器200には、場合によりさらに、第1のアクチュエータアッセンブリ226(全般を参照)および第2のアクチュエータアッセンブリ228(全般を参照)が含まれていてもよい。第1のアクチュエータアッセンブリ226中の調節ホイール230は、イントロデューサー222の曲げをもたらすようにユーザにより機能させることができ、そして第2のアクチュエータアッセンブリ228中の調節ホイール232は、イントロデューサー222の遠位端224からスプレーされる液体のイントロデューサー222に対する運動または回転をもたらすようにユーザーにより機能させることができる。ハンドル202は、一般に、様々なその他の機器成分200のためのハウジングとして、そしてイントロデューサー222のための支持体として、機能する。ハンドル202は、ピストル型グリップ様形状を有していてもよく、グリップ部分234およびノーズ236を規定する。グリップ部分234は、ユーザーの手により握られるようなサイズおよび形状を有し、一方でノーズ236は、イントロデューサー222に結合するように適合される。トリガ238および関連するセンサおよびバルブ(図2においては示されていない)を使用して、開示された再水和ゲル(そして使用する場合、開示された溶媒システム)の、洗浄チューブ(irrigation tube)240を通じた流れ、そしてそれ故に遠位端224中そして所望の治療部位上でのスプレーノズルを介した流れを調節することができる。トリガ238を、多方向性の可動域とともに提供することができ、そして1またはそれ以上の追加のセンサおよびバルブ(図2中には示されない)と組み合わせて、遠位端224での吸引管を介した、そしてそれ故吸引チューブ242を通した、溶媒システム、バイオフィルム残留物およびその他のデブリの治療部位からの除去を、調節することができる。トリガ238を使用して、洗浄チューブ(irrigation tube)240中の別個の管腔を通じて、そしてそれ故に遠位端224中そして所望の治療部位上でのスプレーノズルを介して、開示された再水和ゲルの流れを調節することもできる。
【0039】
[0043] キトサンと酸化多糖とを含む適用された組成物は、治療部位(例えば、鼻腔または副鼻腔、または四肢または脊柱の部分における開口部、陥凹部、通路または接合部)を満たすことができ、その場合、その様な組成物の開示された層は、非常に厚くてもよく、そして空気またはその他の付近のガスに曝露されていなくてもよく、そして層を通じて様々な厚さを有していてもよい。開示された組成物は、薄いフィルムまたはその他のコンフォーマルコーティングとして適用することもでき、その場合、開示された層は、相対的に薄く、そして空気またはその他の付近のガスに曝露され、そして層を通じて実質的に均質な厚さを有していてもよい。ゲル化の後、保護ゲル層は、粘着性、弾力性または粘弾性のものであってもよい。保護ゲル層は、望ましくは、治療部位にて粘膜組織またはその他の天然の組織(例えば、軟骨または骨)に接着し、そしてゲル層の天然の分解または吸収が、例えば、1日〜数日(例えば、2、3または4日)、数週間または数ヶ月間のin vivoでの滞留時間の後に生じるまで、分離またはその他の崩壊に耐性である。その一方で、細菌の再定着または再感染を、顕著に減少または予防することができ、そして治癒の改善そして繊毛再生の改善が生じうる。保護ゲル層は、細菌接着忌避(repellence)、抗-感染性特性、局所免疫修飾、組織保護、疼痛または出血の減少または除去、炎症の軽減、繊毛再生のための環境の最適化、重大な生体構造(critical anatomy)に対する接着の減少、などを含む(しかしこれらには限定されない)、様々な治療上の利点を提供することができる。これらの利点は、a)殺菌、b)細菌定着の阻害、c)細菌の組織への接着性の阻害、d)組織の病的状態(morbidity)または膿瘍形成の減少、e)疾患再発の減少または予防(例えば、具体的には、細菌毒素およびEPSに関連する慢性炎症の減少)、f)例えば、血小板凝集を促進する湿潤創傷の維持により、または過剰なざらつきの形成を伴わない乾燥創傷の閉合による、治癒のあいだの組織のコーティングおよび保護、g)止血、h)粘膜の繊毛再生用の環境の最適化、i)繊毛の成長または再生の高速化、そしてj)(1または複数の)治療剤の治療部位への送達、を含む様々なメカニズムのために生じる可能性がある。望ましくは、保護ゲル層は、接着していない部分における繊毛を天然の律動的繊毛運動(すなわち、繊毛拍動)を自由に受けるようにしたまま粘膜の部分に接着することができ、所望される場合には抗菌剤または追加の治療剤も送達することができ、そして望ましくは細菌が治療部位に接着することを妨害しまたは予防することができる。
【0040】
[0044] 様々なキトサン(塩およびその他のキトサン誘導体を含む)を、開示された流体層および方法において使用することができる。例示的な未修飾キトサンおよびそれらの塩(クエン酸塩、硝酸塩、乳酸塩、リン酸塩、塩化物塩、およびグルタミン酸塩を含む)を、KitoZyme S.A.、Fluka Chemie AG、FMC BioPolymer ASのNovaMatrixユニット、およびSigma-Aldrich Co.を含む様々な商業的供給源から得ることができる。キトサンは、加水分解により窒素原子上のアセチル基を除去するためのキチン(ポリ-N-アセチル-D-グルコサミン)の脱アセチル化により、合成することもできる。得られたポリマーは、複数の繰り返しユニット(例えば、約30〜約3000の繰り返しユニット、約60〜約600の繰り返しユニット、または選択された最終用途のための所望され得るその他の量)を有し、そのいくつかまたは全ては脱アセチル化アミノ基を含有し(例えば、全繰り返しユニットの約30〜約100%または約60〜約95%)、残りの繰り返しユニットは(もし存在する場合には)アセチル化アミノ基を含有する。ポリマーはカチオン性であり、そしてグルコサミンモノマーから構成されるものと考えることができる。キトサンは、様々な数平均分子量(例えば、約5〜約2000 kDa、約10〜約500 kDa、または約10〜約100 kDa)を有してもよい。キトサンは、例えば、約50 kDa未満の数平均分子量を有する超低分子量材料、約50〜約200 kDaの数平均分子量を有する低分子量材料、約200〜約500 kDaの数平均分子量を有する中間分子量材料、または約500 kDaを越える数平均分子量を有する高分子量材料であってもよい。キトサン誘導体、例えば、1またはそれ以上のヒドロキシル基またはアミノ基が誘導体の可溶性または粘膜接着特性を変化させることを目的として修飾された誘導体、も使用することができる。例示的な誘導体には、チオール化キトサン、およびアセチル化キトサン、アルキル化キトサンまたはスルホン酸化キトサン(例えば、O-アルキルエーテル、O-アシルエステル、カチオン化トリメチルキトサンおよびポリエチレングリコールで修飾されたキトサン)などの非-チオール化キトサン誘導体が含まれる。キトサン誘導体は、様々な供給源から得ることができる。例えば、チオール化キトサンは、ThioMatrix Forschungs Beratungs GmbHおよびMucobiomer Biotechnologische Forschungs-und Entwicklungs GmbHから得ることができ、または例えば、上述した公開PCT出願No. WO 03/020771 A1中に記載されるかまたは上述したRoldo et al.の文献、Krauland et al.の文献、Bernkop-Schnurch and Bernkop-Schnurch et al.の文献に記載される様に、キトサンと適切なチオール化反応剤との反応により調製することができる。
【0041】
[0045] キトサンは、望ましくは、乾燥粒子材料形状、例えば、平均粒子径が約1 mm未満、約100μm未満、約1〜約80μm、または1μm未満である自由流動性の顆粒として、得られる。キトサンは、好ましくは、長期的な保存期間に生じるキトサンの分解を減少させるように、乾燥粒子材料形状でパッケージングしそしてユーザに向けて輸送される。キトサン液を、例えば、キトサンを水または別の適切な溶媒に使用直前に溶解することにより、形成することができる。推奨されるキトサン量は、キトサン分子量に依存し、そして例えば、得られる溶液の約1〜約20%、約1〜約10%または約1〜約5%であってもよい。U.S.公開出願US 2009/0291911 A1は、生体適合性水-混和性極性分散剤中に自由流動性のキトサン粒子を分散させ、そして分散物を粒子が粘着性ハイドロゲルへと変換するために十分な水性溶媒と混合することによる、キトサンを再水和するための好ましい技術を記載する。キトサンは、粉末状になっていてもよいが、望ましくは粉末状になっていない。
【0042】
[0046] 非常に多様な酸化多糖を、開示された流体層および方法において使用することができる。例示的な多糖には、寒天、アルギネート、カラギーナン、セルロース、キチン、キトサン(そしてキトサンをその酸化された対応物を使用して架橋することができる)、コンドロイチン硫酸、デキストラン、ガラクトマンナン、グリコーゲン、ヒアルロン酸、でんぷん、および酸化することができるその他の生体適合性多糖が含まれる。酸化セルロース、キチン、キトサン、コンドロイチン硫酸、デキストラン、グリコーゲン、ヒアルロン酸、およびでんぷんなどの酸化多糖が好ましい。多糖は、望ましくは、キトサンと酸化多糖とが水溶液中で混合された際に、キトサンの迅速な架橋を促進することができるアルデヒド基を提供するために十分な程度に酸化される。代表的な酸化剤または技術には、a)過ヨウ素酸ナトリウム、b)ジ-tert-アルキルニトロキシル触媒の存在下での次亜塩素酸イオン、c)例えば、ルテニウムを使用する金属-触媒酸化、d)例えば、ハロカーボン中の二酸化窒素を使用した無水酸化、e)でんぷん、グアーおよびその他の多糖の酵素的酸化または化学-酵素的酸化、および当業者に知られうるその他の酸化剤および技術、を使用することが含まれる。選択された酸化剤または技術に依存して、様々な程度の酸化、様々な程度のポリマー化および酸化部位を使用することができる。例えば、酸化が一次(primary)ヒドロキシル基(例えば、グルカンの無水グルコース単位における6-ヒドロキシル基)に向けられてもよく、保存された環状構造を有するカルボキシル-多糖を生じる。酸化は、単糖環に存在する近接のジオール機能(例えば、無水グルコース単位におけるC2〜C3部位)に向けられてもよく、単糖単位の切断およびジアルデヒド官能基またはジカルボキシル官能基の産生を生じる。そのような酸化多糖のジアルデヒド含量は、例えば、2%〜ほぼ100%の酸化の程度の範囲であってもよく、例えば、利用可能な酸化部位の30%よりも多く、または50%よりも多い。酸化多糖は、その他の官能基、例えば、ヒドロキシアルキル基、カチオン基、カルボキシル基、そしてその他の酸性基を含有していてもよい。一般化として、多糖酸化の程度が増加するため、減少された量の酸化多糖を、開示された流体層および方法において使用することができる。
【0043】
[0047] 酸化多糖は、望ましくは、水またはその他の適切な溶媒中、使用前に溶解される。推奨される酸化多糖の量は、典型的には、酸化多糖の分子量に依存し、そして例えば、得られる溶液の約1〜約20%、約1〜約10%、または約1〜約5%であってもよい。酸化多糖溶液は、通常は、使用する直前までキトサン溶液とは別個に保管する。
【0044】
[0048] 低分子量アルデヒド(例えば、グルタルアルデヒドまたはゲニピン)を使用した架橋と比較して、酸化多糖は、潜在的に生体許容性の低い低分子量のアルデヒドを使用することを回避しつつ、より速いゲル化をもたらす様である。キトサン中のアミン基と反応する能力に加えて、酸化多糖中のアルデヒド基は、粘膜接着性を上昇させることができる。酸化多糖は、改良されまたはよりよく調節された生物分解性、生体吸収性、薬剤送達特性、または止血特性を含む追加的な利益を提供することができる。ホスフェートイオンの存在は、架橋反応を加速する様である。ホスフェートは、キトサンおよび酸化多糖の一方または両方に対してリン酸緩衝液(PBS)を溶媒として使用することにより、提供することができる。
【0045】
[0049] 十分なキトサンと酸化多糖とは、望ましくは、保護ゲル層がキトサンと酸化多糖とを混合した後30分未満で、そしてより好ましくは、20分未満、10分未満、5分未満、または混合後基本的にすぐに、形成されるように使用する。得られた液体混合物は、例えば、組成物の約1〜約20%、約1〜約10%、または約1〜約5%を示す混合された量中に、キトサンと酸化多糖とを含有してもよい。キトサンと酸化多糖とは、例えば、約10:1〜約1:20の比、約5:1〜約1:10の比、または約3:1〜約1:5の比で、混合することができる。これらの比率は、より高度に酸化された多糖を利用する場合に一般に使用されるより低い酸化多糖量を有する(1または複数の)酸化多糖の酸化の程度に依存する。いくつかの用途に関して、キトサンの量は、好ましくは、良好な抗菌特性を提供するために実行可能なほどに高いものであり、そしてそのような場合、低量の高度に酸化された多糖を使用して、それにより迅速なゲル形成を得ることが好ましい。
【0046】
[0050] 開示された組成物は、望ましくは、実質的にコラーゲンを含まない。好ましくは、組成物は、十分にコラーゲン不含(例えば、コラーゲンを何も含まない)なものであり、ヒトにおいて制限なしに世界中で販売可能になる。
【0047】
[0051] 開示された組成物には、場合により、様々なその他の有効成分が含まれていてもよい。これらのその他の有効成分は、2成分組成物の第1の成分、第2の成分またはその両方の部分中に混合する前に配置することができる。例示的なその他の有効成分には、水およびその他の溶媒(例えば、アルコール類)、酸、塩基、緩衝化剤、抗菌剤、治療剤、およびその他のアジュバントが含まれる。酸、塩基または緩衝化剤は、例えば、ヒト組織と接触するために適切なpH、例えば、5よりも高いpH、ほぼ中性のpH、または8.5未満のpH、で組成物を維持することができる。例示的な緩衝化剤には、バルビタールナトリウム(barbitone sodium)、グリシンアミド、グリシン、塩化カリウム、リン酸カリウム、炭酸水素カリウムフタレート、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、およびそれらの共役酸が含まれる。
【0048】
[0052] 開示された組成物は、望ましくは、別個の抗菌剤を追加する必要なしに、もともと抗菌性である。抗菌活性は、組成物中のキトサン比率(より高いキトサン比率は、より高い抗菌性活性をもたらす傾向がある)により、そして利用可能なキトサンアミン水素原子の数により、影響される可能性がある。従って、少数の利用可能なアミノ水素原子を含有するキトサン誘導体(例えば、上述したWeng et al.の論文において所望されるN-カルボキシエチル誘導体)を使用することは、禁忌を示す可能性がある。いずれにしても、所望の場合、別個の抗菌剤を使用することができる。そのような抗菌剤の有用なリストは、例えば、上述したU.S.特許出願公開No. US 2007/0264310 A1中に見出すことができる。
【0049】
[0053] 開示された組成物中で使用することができる例示的な治療剤には、鎮痛薬、抗-コリン作動薬、抗-真菌剤、抗ヒスタミン剤、ステロイド性または非ステロイド性抗-炎症剤、抗-寄生虫剤、抗ウイルス剤、生物静力学的組成物、化学療法剤/抗腫瘍剤、サイトカイン、充血除去剤、止血剤(例えば、トロンビン)、免疫抑制剤、粘液溶解剤、核酸、ペプチド、タンパク質、ステロイド、血管収縮剤、ビタミン、これらの組合せ、そして当業者に知られているその他の治療用材料を含む、目的とする治療部位での使用のために適したいずれかの材料が含まれる。そのような治療剤の有用なリストは、例えば、上述のU.S.特許出願公開No. US 2007/0264310 A1中に見出すことができる。
【0050】
[0054] 開示された組成物中に含ませることができるその他のアジュバントには、染料、色素、またはその他の着色剤(例えば、FD & C Red No. 3、FD & C Red No. 20、FD & C Yellow No. 6、FD & C Blue No.2、D & C Green No. 5、D & C Orange No. 4、D & C Red No. 8、キャラメル、二酸化チタン、果物または野菜の着色剤(ビート粉末、またはβ-カロテン、ターメリック、パプリカ)、および当業者に知られているその他の材料);指示薬;アニス油、サクラ、桂皮油、柑橘油(例えば、レモン油、ライム油またはオレンジ油)、ココア、ユーカリ、ハーブ芳香剤(例えば、丁子油、セージ油またはカッシア油)、ラクトース、マルトース、メントール、ペパーミント油、サッカリン、シクラミン酸ナトリウム、スペアミント油、ソルビトール、スクロース、バニリン、冬緑油、キシリトール、およびこれらの混合物を含む(しかしこれらには限定されない)香味剤または甘味剤;抗酸化剤;消泡剤;および増粘剤およびチキソトロープ(thixotropes)を含むレオロジー修正剤;が含まれる。開示された組成物は、望ましくは、粘膜組織または構造(例えば、鼻腔または副鼻腔中の組織)に潜在的に悪影響を与える可能性がある成分を含有しない。
【0051】
[0055] 組織から水を除去すること、例えば、ポリープまたは浮腫性組織から液体を除去すること、が好ましい事例において、高浸透圧剤を、開示された組成物中で使用することができる。例示的な高浸透圧剤には、フロセミド、塩化ナトリウムゲルおよび組織から水を引き出すその他の塩調製物または粘膜層の浸透圧容量を直接的または間接的に変化させるその他の物質が含まれる。治療剤の持続性放出または遅延放出が望ましい場合、離型剤修正剤が含まれていてもよい。
【0052】
[0056] 開示された組成物は、典型的には滅菌に供され、そして最終消費者への出荷前に適切なシール化パッケージング(例えば、複数成分シリンジ、(1または複数の)バイアル、または適切な材料からなるマルチチャンバポーチ)中におかれる。追加的な特性カスタマイズを、γ線照射処理または電子線(E-Beam)処理等の滅菌手順を使用して制御された鎖切断を生じさせることにより、行うことができる。同日に出願された同時係属中PCT出願公開No.WO2009/132229 A2に記載される様に、低温イオン化放射線滅菌(例えば、低温E-Beam滅菌)を使用して、鎖切断の程度を制限することができる。滅菌するかどうかに関わらず、通常は、キトサンを含有する第1の成分を、使用直前まで、酸化多糖を含有する第2の成分から分離し続ける。
【0053】
[0057] 望ましくは、開示された組成物を、細菌性バイオフィルムを崩壊しそしてその回復を阻止する複数工程の処置手順の一部として使用することができる。例えば、洗浄/崩壊、殺傷、通気、保護/コーティング、そして回復(Healing)と幅広く分類することができる一連の工程を行うことができる。図1および図2に関連して検討する様に、洗浄/崩壊工程を、溶媒システムを投与することにより行うことができる。殺傷工程を、適切な抗菌剤を治療部位に適用することにより、行うことができる。このことは、例えば、別個に適用される組成物として溶媒システム中において、または溶媒システム中そして別個に適用される組成物中の両方において、抗菌剤を含ませることにより、達成することができる。抗菌剤を、手術後に適用しまたは投与することもできる。通気工程を、開口している閉塞された通路または部分的に閉塞された通路(例えば、鼻適用のための洞または洞小孔)により治療される組織に対して空気通路を提供しまたは空気通路を改良することにより、行うことができる。このことは、例えば、閉塞組織構造を外科的に除去することにより、またはそのような構造を手作業により排除することにより、達成することができる。保護/コーティング工程を、このように処理された組織の少なくとも部分を上述したキトサンと酸化多糖とを含有する開示された組成物でコーティングすることにより、行うことができる。回復工程を、洗浄され、保護され、そしてシールされた組織表面を、例えば、炎症性応答の調節、食作用、粘膜リモデリング、繊毛再生、または正常な機能の完全なまたは部分的な回復、などの1またはそれ以上の治癒メカニズムを介して、正常の状態へと回復させることにより、行うことができる。複数工程の治療計画には、洗浄工程が含まれてもよくまたはその後に洗浄工程を行ってもよく、ここでは、キトサンと酸化多糖とを含有する開示された組成物が、所望の期間、例えば、1日以上、3日以上、または約4〜7日内に、そして望ましくは大きな固形の塊を取り除くことなく、治療部位から消失する様に十分に生物分解性または生体吸収性である。開示された方法は、有利には、外科手術を必要とすることなく、例えば、随意的な溶媒システムを適用しそして除去することにより、そして通常の吸引/吸着技術を介してキトサンと酸化多糖とを含有する開示された組成物を適用することにより、または罹患組織を単純に洗い流すことにより、達成することができる。比較されうる一連の工程は、中耳または内耳の部分における複数工程の治療計画において、行うことができる。そのような計画のさらなる詳細は、U.S.特許出願公開No. US 2007/0264310 A1中に見出すことができる。
【0054】
[0058] 本発明は、さらに、以下の限定的ではない実施例においてさらに説明される。
【実施例】
【0055】
実施例1 ゲル製剤
[0059] 様々な量のキトサングルタメート(PROTASANTM UP G 113またはPROTASAN UP G 213、FMC BioPolymer ASのNovaMatrixユニットから購入)をPBS中一晩かけて溶解することにより、キトサン溶液を調製した。酸化でんぷん(OXST)溶液を、P9265ポリマー性ジアルデヒド(Sigma-Aldrichから入手)をPBS中にて80℃にて1〜2時間加熱しながら溶解することにより、調製した。酸化メチルセルロース(MC)溶液および酸化ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)溶液を、MCまたはHPMCを過ヨウ素酸ナトリウムと反応させ、得られた生成物を凍結乾燥させ、そして凍結乾燥された生成物をPBS中に溶解することにより、調製した。得られたキトサン溶液および酸化多糖溶液を、様々な比率および濃度で混合した。レオロジー測定は、得られたハイドロゲルについてのゲル化時間および保管係数(G')を決定した。結果を、以下の表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
[0060] 表1に示されるキトサン/酸化多糖製剤のそれぞれは、500 cP以下の粘度を有し、そして例えば、図2に示されるものの様な機器または当業者に知られるような様々なその他の機器を使用して、粘膜組織治療部位に注入可能なものであるべきである。表1に示される製剤は、粘膜治療部位上にスプレー可能なものでもあるべきである。ゲル化がいくつかの製剤について生じた際の迅速性のため、スプレー用途が、多数の事例において、好ましい適用様式であろう。実行No. 2の製剤(全濃度が5%のG 113キトサン/OXST 1:1)を、ガス-補助アプリケーター(FibriJetTM SA-6030レギュレーター、Micromedics, Inc.より入手、一対の3 ccシリンジを附属したFibriJet SA-3652スプレーセットを調節する)を使用して、スプレー適用した。OXST溶液を、トルイジンブルーを使用して染色し、適用された流体層をより容易に見ることができる様にした。薄い、迅速に形成される強力なゲルが得られた。
【0058】
実施例2:抗菌特性
[0061] 表1由来の実行No. 7およびNo. 8の製剤(図3におけるバーBおよびバーCとしてそれぞれが示される、全濃度2.5%でのG 213キトサン/OXST 2:1および1:1)を検出限界がlog 2であったプレート手順を使用して評価して、S. Aureusに対するそれらの抗菌活性を決定した。ゲル製剤を、滅菌条件下で、24-ウェルポリスチレン組織培養プレート中に直接的に二重に配置した。それぞれのウェルを、1 mL(25,000コロニー形成単位)のS. Aureus(ATCC 25923)の細菌懸濁液とともにインキュベーションした。陽性対照を、1 mlのトリプチケースソイブロス(TSB)とともにインキュベーションした。37℃で6時間のインキュベーションの後、培養液を新しいチューブに移し、そして連続10倍希釈を行った。適切な希釈物からの10μLずつの分注物を、トリプチケースソイ寒天プレート上に、希釈トラック法(Jett B.D. et al., Biotechniques, 23, 648-650 (1997))を使用して、三重に配置した。プレートを37℃にて24時間インキュベーションし、そしてコロニー形成単位(CFU)をカウントした。図3に示されるように、両製剤は、TSB対照(図3におけるバーA)と比較して、細菌の完全な(6 logより大きな減少)殺傷を示した。
【0059】
[0062] 表1由来の実行No. 2、No. 10およびNo. 11の製剤(図4における曲線B、曲線Cおよび曲線Dにそれぞれが示される、全濃度5%でのG 113キトサン/OXST 1:1、G 113キトサン/酸化MC 1:10およびG 113キトサン/酸化MC 1:5)を、上述した様に評価して、140,000 CFU/mL細菌装填を使用して、1、3および6時間に記録された測定値により、S. Aureusに対する抗菌活性を時間の関数として、TSB対照(図4における曲線A)に対して、決定した。図4に示されるように、3種のキトサン/酸化多糖製剤の全てから作製されたゲルについて、完全な殺傷が6時間後に観察されたが、3時間後から顕著な殺傷が観察された。G 213キトサン/OXST製剤は、G 113キトサン/酸化MC製剤と比較して、より早い殺傷をもたらす様であった。
【0060】
実施例3:薬剤送達
[0063] 表1由来の実行No. 1、No. 2およびNo. 3の製剤(図5における曲線A、曲線Bおよび曲線Cにそれぞれが示される、全濃度5%でのG 113キトサン/OXST 2:1、1:1および1:2)を使用して、キトサンおよび酸化でんぷんの溶液と送達される薬剤としてのリン酸デキサメタゾンとを混合することにより、PBSバッファー中での薬物装填ハイドロゲルを調製した。図5に示されるように、相対的に早いがしかし3日までの制御された放出が、リン酸デキサメタゾンについて得られ、おそらくはこれはアニオン性薬剤とカチオン性キトサンポリマーとの相互作用により補助された。
【0061】
実施例4:分解
[0064] 様々なキトサン/酸化多糖ゲル製剤の分解の振る舞いを、ゲルを様々なバッファー系(リゾチーム(1 mg/mL)を含むかまたは含まないPBS(pH 7.4)、リパーゼを含むPBS、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)(pH 6.0)、およびtrisヒドロキシメチルアミノメタン(TRIS)(pH 7.4)を含む)中に配置することにより決定した。重量喪失を、28日までの様々な時点で決定した。重量喪失が、全てのバッファー系を使用して生じたが、もとの(乾燥)サンプル重量の約30〜60%が28日後に残存した。より高度に酸化されたでんぷん含量を有するゲルが、より大きな重量喪失を示した。PBS(pH 7.4)中、そして37℃(リゾチームなし)でのキトサン/酸化多糖についての重量喪失の結果を、図6中に示す。
【0062】
[0065] 酸化でんぷん-ベースのゲルは、‘シェル-様’材料に分解される様であったが、一方酸化セルロース-ベースのゲルは、分解の間にもゲルとして残存している様であった。酸化セルロース-ベースのゲルは、止血性であってもよい。
【0063】
[0066] 実施例1〜4の結果は、キトサンおよび酸化多糖を組み合わせて、元からの抗菌性特性を持ったまま強力な保護ゲル層をin situで迅速に形成する、注入可能であるかまたはスプレー可能な製剤を調製することができることを示す。製剤は、それぞれの場合において、スプレー可能であり、抗菌性であり、生物分解性または生体吸収性であり、そして薬剤送達のための足場として機能することができた。
【0064】
[0067] 好ましい態様を記載することを目的として、本明細書中に具体的な態様を説明しそして記載したが、当業者には、同一の目的を達成すると予想された幅広い様々な代替的なまたは均等な実施が、本発明の概念から離れることなく示されそして記載された特定の態様と置換しうるものであることを理解するであろう。この用途は、本明細書中で検討された好ましい態様のいずれの適合またはバリエーションもカバーする様に意図される。したがって、本発明は、請求の範囲およびその均等範囲によってのみ限定されることが明確に意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護ゲル層をin situで形成するために十分な量のキトサンと酸化多糖とを含む、体組織または構造上の流体層。
【請求項2】
組織が、鼻腔組織を含む、請求項1に記載の流体層。
【請求項3】
組織が、軟骨または骨を含む、請求項1に記載の流体層。
【請求項4】
キトサンが、未修飾キトサンまたはキトサン塩である、請求項1に記載の流体層。
【請求項5】
キトサンが、キトサン誘導体である、請求項1に記載の流体層。
【請求項6】
酸化多糖が、でんぷんを含む、請求項1に記載の流体層。
【請求項7】
酸化多糖が、セルロースを含む、請求項1に記載の流体層。
【請求項8】
酸化多糖が、キチン、キトサン、コンドロイチン硫酸、デキストラン、グリコーゲン、またはヒアルロン酸である、請求項1に記載の流体層。
【請求項9】
キトサンと酸化多糖とが、約10:1〜約1:20の比で混合される、請求項1に記載の流体層。
【請求項10】
キトサンと酸化多糖とが、約3:1〜約1:5の比で混合される、請求項1に記載の流体層。
【請求項11】
リン酸イオンをさらに含む、請求項1に記載の流体層。
【請求項12】
a) 組織に対してキトサンと酸化多糖との混合物を含有する流体層を適用する工程、そして
b) 混合物に保護ゲル層をin situで形成させる工程、
を含む、体組織または構造を処置するための方法。
【請求項13】
流体層を鼻腔または副鼻腔に対して適用する工程を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
流体層を、中耳または内耳に対して適用する工程を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
流体層を、四肢の開口部、陥凹部、通路、または接合部に対して適用する工程を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
流体層を、脊柱の開口部、陥凹部、通路、または接合部に対して適用する工程を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
流体層を、複数の注射筒から適用する工程を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
流体層をスプレーにより適用する工程を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
キトサンが、未修飾キトサンまたはキトサン塩である、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
キトサンが、キトサン誘導体である、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
酸化多糖が、でんぷんを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
酸化多糖が、セルロースを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項23】
酸化多糖が、キチン、キトサン、コンドロイチン硫酸、デキストラン、グリコーゲン、またはヒアルロン酸を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項24】
キトサンと酸化多糖とが、約10:1〜約1:20の比で混合される、請求項12に記載の方法。
【請求項25】
キトサンと酸化多糖とが、約3:1〜約1:5の比で混合される、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−518838(P2011−518838A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506465(P2011−506465)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際出願番号】PCT/US2009/041591
【国際公開番号】WO2009/132227
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(591007804)メドトロニック,インコーポレイテッド (243)
【住所又は居所原語表記】710Medtronic Parkway,Minneapolis,Minnesota 55432,U.S.A
【Fターム(参考)】