説明

キトサン及びキチンの生産

【課題】 環境に有害な化学物質又は甲殻類動物収穫の多くの変動に依存することなく、キチン及びキトサンを生産する代替法を提供すること。
【解決手段】 本発明は、Rhizopus azygosporus菌又はActinomucor taiwanensis菌を培養し、前記培地からキトサン又はキチンを分離することによりキチン又はキトサンを生産する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キトサン及びキチンの生産に関する。
【背景技術】
【0002】
キチンは、高不溶性の、β−(1,4)−D−グルコサミンのN−アセチル化ポリマーである。キトサンは、酸可溶性の、キチンの脱アセチル化体である。キチン、キトサン及びそれらの誘導体は、粘度調節剤、接着剤、クロマトグラフィー担体、紙増強剤、凝集剤、食品添加物、薬剤及び化粧品製品を含む多くの産業上の適用に用いられている。
[発明が解決しようとする課題]
【0003】
キチンは、カニ又はエビ殻の脱石灰化及び脱蛋白質化により製造され得る。キトサンは、その後、熱アルカリ溶液によるキチンの脱アセチル化により得られる。このキトサン生産プロセスは、多くの望ましくない特徴を有する。例えば、高価な熱エネルギー、及び潜在的に健康に有害である苛性アルカリを必要とする。このプロセスは、廃棄物も大量に生産するため、かなりの廃棄コストを必要とする。さらに、エビ又はカニ殻の供給が、季節及び環境要因に高く依存し、予想し得ない生産能力の制限が導かれる。
[課題を解決するための手段]
【0004】
発明の概要
本発明は、Actinomucor taiwanensis菌及びRhizopus azygosporus菌から、予想外に高収量のキトサン及びキチンが生産され得るという発見に基づくものである。
【0005】
すなわち、本発明は、(1)Rhizopus azygosporus菌又はActinomucor taiwanensis菌を培地中で培養し、培養物を形成し、及び(2)細胞からキトサン又はキチンを分離することによりキトサン又はキチンを生産する方法を特徴とする。例えば、キトサン及びキチンは、培地から菌細胞を分離し、分離した細胞からキトサン又はキチンを分離することができる。
【0006】
本発明には、(1)Mucoraceae科の菌を本発明の方法において有用な倍地中で培養し、培養物(culture)を形成し、及び(2)キトサン又はチンを菌培養物から分離することによりキトサン又はキチンを生産する方法も含まれる。
【0007】
本発明の方法のために有用な培地には、約5ないし60g/L(例えば、約30g/L)のコーンスティープリカー、約10〜100g/L(例えば、約50g/L)のグルコース、約0.01ないし30g/L(例えば、約2.5g/L)の硫酸アンモニウム又は他の好適な成分が含まれ得る。
【0008】
本発明の方法は、Rhizopus azygosporus又はActinomucor taiwanensis菌を含有する培養物から驚くべきほどに高収量のキトサン又はキチンの生産量を可能にする。さらに、コーンスティープリカー、グルコース、酵母抽出物及び硫酸アンモニウムを含有する培地は、菌培養物からのキチン及びキトサンの産出を高め得ることが見出された。したがって、本発明の方法は、環境に有害な化学物質又は甲殻類動物収穫の多くの変動に依存することなく、キチン及びキトサンを生産する代替法を提供するものである。
【0009】
本発明の他の特徴又は利点は、以下の詳細な説明から、さらには、特許請求の範囲からも明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の詳細な説明
本発明は、Mucoraceae科に属する菌培養物からキトサン及びキチンを高収量に生産することに関する。
【0011】
本発明の方法に有用な、具体的な菌には、Rhizopus azygosporus及びActinomucor taiwanensisが含まれる。これら両者の生物は、中華民国、台湾、Hsinchu 300, Shih-Ping Road, No. 331の食品産業及び研究開発協会(Food Industry and Research Development Institute)、カルチャーコレクション及び研究センター(Culture Collection and Research Center (CCRC))から、求めに応じて入手可能である。R. azygosporusは、カタログ番号第CCRC31558号として、及びA. taiwanensisは、カタログ番号第CCRC31559号として入手可能である。
【0012】
菌を培養するための手順は、当技術において周知である。例えば、YM寒天に菌を植えることができ、菌を植えた寒天は、25℃ないし37℃で3ないし6日間培養することができる。菌から得られた胞子を液体中に懸濁し、104ないし107cfu/mlストックを達成する。このストックを発酵培地に直接植える。
【0013】
発酵培地は、開始pH3ないし8を有し、10ないし100g/Lの炭素源(例えば、グルコース、蔗糖、コーンスターチ、糖蜜又は大豆油)、5ないし60g/Lの窒素源(例えば、大豆粉、ペプトン、またはコーンスティープリカー)、0.5ないし20g/Lの酵母抽出物、0.01ないし30g/Lの(NH42SO4、0ないし3g/LのK2HPO4、0ないし3g/LのNaCl、0ないし15g/LのMgSO4・7H2O及び/又は0ないし0.3g/LのCaCl2を含有することができる。菌は、追加の2ないし4日間発酵培地中で成長することができる。
【0014】
キトサンは、標準の方法により、菌胞子から分離及び精製することができる。例えば、McGahrenらの、Process Biochem 19:88-90, 1984に記載されるようにして、アルカリ及び酸処理し、キトサンを分離することができる。キトサンを分離するための追加の詳細及び手順は、欧州出願第0531991 A1;ヨコイらの、J Fermen Bioeng 85:246-249, 1998;米国特許第5,232,842号;レーン(Rane)らの、Food Biotech 7:11-33, 1993;及びハング(Hang)の、Biotech Lett 12:911−912、1990に見出すことができる。
【0015】
一般的には、細胞塊を発酵ブロスから分離し、蒸留水で洗浄する。次いで、細胞を0.5ないし2NのNaOHで処理し、アルカリ混合物を121℃で15分間インキュベートする。次いで、固形物質を遠心によりペレット化し、蒸留水及びエタノールで洗浄する。洗浄した物質を2%酢酸溶液で処理し、95℃で12時間インキュベートする。次いで、得られたスラリーを遠心により分離し、酸可溶性の上澄み(キトサンを含有)、及び酸不溶性の沈殿(キチンを含有)が得られる。
【0016】
2NのNaOHで上澄みのpHを10に調節することにより、キトサンが沈降する。最後に、キトサンを蒸留水で洗浄し、凍結乾燥する。酸不溶性の沈殿も、蒸留水で洗浄し、凍結乾燥する。この酸不溶性及びアルカリ不溶性画分が精製キチンである。
【0017】
さらに詳細に説明するまでもなく、当業者は、上記開示及び以下の記載に基づいて本発明をその最大限の範囲まで利用し得ると信ずる。以下の例は、本発明を当業者がどのように実施することができるかを単に説明するものであると解されるべきであり、例以外の開示をいかなるようにも制限するものではないと解されるべきである。
【0018】
以下の例の結果は、表2に要約され、これは、例の後に記載する。
【実施例】
【0019】
例1
4日斜面培養物からのRhizopus azygosporusの胞子懸濁物を、新鮮な発酵培地100mlを含有する250mlの振盪フラスコへ直接植えた。発酵は、200rpmで振盪しながら、28℃で48時間行った。培地1リットルあたり、10gの窒素源(大豆粉、ペプトン又はコーンスティープリカー)、20gの炭素源(グルコース又はコーンスターチ)、1gの酵母抽出物、5gの(NH42SO4、1gのK2HPO4、1gのNaCl、5gのMgSO4・7H2O及び0.1gのCaCl2を含有していた。
【0020】
細胞塊を発酵ブロスから回収し、1NのNaOHにより121℃で15分間処理した。アルカリ不溶性物質を2%酢酸中に懸濁し、混合物を95℃で12時間インキュベートし、キトサンを可溶化した。酸可溶性上澄みのpHを10に調節することによりキトサンが沈殿した。次いで、キトサンを洗浄し、乾燥させ、秤量した。酸不溶性物質であるキチンも、洗浄し、乾燥させ、秤量した。収量は、培養物1リットルあたりのキチン又はキトサンのグラム数に換算して計算し、結果は表2に示した。キチン及びキトサンの最高収量は、コーンスターチ及びペプトンを含有する培地を用いて達成された。
【0021】
例2
4日斜面培養物からのActinomucor taiwanensisの胞子懸濁を発酵培地100mlを含有する250mlの振盪フラスコへ直接植えた。発酵、並びにキトサン及びキチンの分離は、例1に記載した通りに行い、結果を表2に示した。コーンスティープリカー及びグルコースを含有する培地を用いることにより、キチン及びキトサンの高い収量を達成した。
【0022】
例3
上記例1に記載されるようにR. azygosporusを培養し、処理した。ただし、すべての培地は、窒素源としてペプトンを含有し、炭素源としては、グルコース、コーンスターチ、蔗糖、糖蜜及び大豆油の中から変化させた。この例では、コーンスターチの取り込みにより、キトサン及びキチンの両者について0.9g/Lの高い収量が導かれる一方で、大豆油の取り込みにより、キチン1.5g/Lの最高収量が導かれた(表2)。
【0023】
例4
上記例2に記載されるようにA. taiwanensisを培養し、処理した。ただし、すべての培地は、窒素源としてコーンスティープリカーを含有し、炭素源は、グルコース、コーンスターチ、蔗糖、糖蜜及び大豆油の中から変化させた。この例では、炭素源としてグルコースを取り込むことにより、キトサン及びキチンの両者について最良の収量が導かれた(表2)。
【0024】
例5
上記例1に記載されるようにR. azygosporusを培養し、処理した。ただし、各々の培地1リットルあたり30gのコーンスティープリカー、50gのグルコース、2gの酵母抽出物、2.5gの(NH42SO4、及び0.05gのCaCl2を含有していた。この培養により、キトサンについて1.1g/Lの高い収量が導かれた(表2)。
【0025】
例6
上記例2に記載されるようにA. taiwanensisを培養し、処理した。ただし、各々の培地1リットルあたり30gのコーンスティープリカー、50gのグルコース、2gの酵母抽出物、2.5gの(NH42SO4、及び0.05gのCaCl2を含有していた。この培養により、キトサン(1.7g/L)及びキチン(1.1g/L)の最高の組み合わせの収量が導かれた(表2)。
【0026】
例7
例6に記載されるようにA. taiwanensisを培養し、処理した。ただし、CaCl2の代わりに、培地1リットルあたり0.5gのK2HPO4が含まれていた。この培養により、キトサンについて1.4g/Lの高い収量が導かれた。
【表1】

【表2】

【0027】
表2で用いられる略号は、以下の通り:「R.a.」は、Rhizopus azygosporusを意味し;「A.t.」は、Actinomucor taiwanensisを意味し;「S.M.」は、大豆粉を意味し;「C.S.L.」は、コーンスティープリカーを意味し;「C.S.」は、コーンスターチを意味し;「S.O.」は、大豆油を意味する。表2に記載されるすべての培地は、酵母抽出物を含有していた。
【0028】
上記例1〜7の結果は、(1)A. taiwanensis及びR. azygosporusは、キチン及びキトサンのより優れた生産物であること、並びに(2)コーンスティープリカー、グルコース及び硫酸アンモニウムを含有する培地は、菌によるキチン及びキトサン生産の収量を高め得ることを示している。
【0029】
他の態様
本発明を、その詳細な説明に関連して説明してきたが、先の記載は、説明することを意図するものであり、添付の特許請求の範囲の範疇により規定される本発明の範疇を制限することを意図するものではないことが理解されるべきである。他の側面、利点及び修飾は、本発明の範疇内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Rhizopus azygosporus菌を培地中で培養し、培養物を形成すること、及びキトサン又はキチンを前記培養物から分離することを含むキトサン又はキチンを生産する方法。
【請求項2】
菌細胞を培養物から分離することを更に含み、キトサン又はキチンが前記分離された菌細胞から分離される請求項1の方法。
【請求項3】
前記培地が、約5ないし60g/Lのコーンスティープリカーを含有する請求項2の方法。
【請求項4】
前記培地が、約30g/Lのコーンスティープリカーを含有する請求項3の方法。
【請求項5】
前記培地が、約10〜100g/Lのグルコース及び約0.01ないし30g/Lの硫酸アンモニウムを更に含有する請求項3の方法。
【請求項6】
前記培地が、約30g/Lのコーンスティープリカー、約50g/Lのグルコース、及び約2.5g/Lの硫酸アンモニウムを含有する請求項5の方法。
【請求項7】
前記培地が、約5ないし60g/Lのコーンスティープリカー、約10〜100g/Lのグルコース、及び約0.01ないし30g/Lの硫酸アンモニウムを含有する請求項1の方法。
【請求項8】
記培地が、約30g/Lのコーンスティープリカー、約50g/Lのグルコース、及び約2.5g/Lの硫酸アンモニウムを含有する請求項7の方法。
【請求項9】
Actinomucor taiwanensis菌を培地中で培養し、培養物を形成すること、及びキトサン又はキチンを前記培養物から分離することを含むキトサン又はキチンを生産する方法。
【請求項10】
菌細胞を培養物から分離することを更に含み、キトサン又はキチンが前記分離された菌細胞から分離される請求項9の方法。
【請求項11】
前記培地が、約5ないし60g/Lのコーンスティープリカーを含有する請求項10の方法。
【請求項12】
前記培地が、約30g/Lのコーンスティープリカーを含有する請求項11の方法。
【請求項13】
前記培地が、約10〜100g/Lのグルコース及び約0.01ないし30g/Lの硫酸アンモニウムを更に含有する請求項11の方法。
【請求項14】
前記培地が、約30g/Lのコーンスティープリカー、約50g/Lのグルコース、及び約2.5g/Lの硫酸アンモニウムを含有する請求項13の方法。
【請求項15】
前記培地が、約5ないし60g/Lのコーンスティープリカー、約10〜100g/Lのグルコース、及び約0.01ないし30g/Lの硫酸アンモニウムを含有する請求項9の方法。
【請求項16】
記培地が、約30g/Lのコーンスティープリカー、約50g/Lのグルコース、及び約2.5g/Lの硫酸アンモニウムを含有する請求項15の方法。
【請求項17】
キトサン又はキチンを生産する方法において、前記方法が、
培地中でMucoraceae科の菌を培養し、培養物を形成する工程であって、前記培地が、約5ないし60g/Lのコーンスティープリカー、約10〜100g/Lのグルコース、及び約0.01ないし30g/Lの硫酸アンモニウムを含有する工程、並びに
前記菌培養物からキトサン又はキチンを分離する工程
を含むキトサン又はキチンを生産する方法。
【請求項18】
前記培地が、約30g/Lのコーンスティープリカーを含有する請求項17の方法。
【請求項19】
前記培地が、約50g/Lのグルコースを含有する請求項17の方法。
【請求項20】
前記培地が、約2.5g/Lの硫酸アンモニウムを含有する請求項17の方法。

【公開番号】特開2010−162046(P2010−162046A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−77820(P2010−77820)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【分割の表示】特願2000−22869(P2000−22869)の分割
【原出願日】平成12年1月31日(2000.1.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1999年8月31日〜9月3日 開催の「EUCHIS’99 ヨーロッパ・キチン協会第3回国際会議」において文書をもって発表
【出願人】(598090254)フード・インダストリー・リサーチ・アンド・デベロップメント・インスティチュート (1)
【氏名又は名称原語表記】FOOD INDUSTRY RESEARCH AND DEVELOPMENT INSTITUTE
【Fターム(参考)】