説明

キノン化合物、電子写真用感光体および電子写真装置

【課題】 電子写真用感光体や有機EL等の用途に有用な電子輸送能に優れた化合物を提供する。
【解決手段】 下記一般式(I)、


(R1〜R8は水素原子またはアルキル基、R9、R10は水素原子、アルキル基、アリール基または複素環基、R11およびR12はハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ニトロ基、アリール基または複素環基、nおよびmは0〜4の整数、Aは酸素原子またはSO2を表す)で示される構造を有する新規キノン化合物、これを用いた電子写真用感光体および電子写真装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規キノン化合物に関し、詳しくは、電子写真用感光体(以下、単に「感光体」とも称する)等の電荷輸送物質として有用な新規キノン化合物に関する。また、本発明は電子写真用感光体および電子写真装置に関し、詳しくは、導電性基体上に有機材料を含む感光層を設けた、電子写真方式のプリンター、複写機などに用いられる電子写真用感光体およびそれを用いた電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来は、電子写真用感光体の感光層として、セレンまたはセレン合金などの無機光導電性物質、酸化亜鉛あるいは硫化カドミウムなどの無機光導電性物質を樹脂結着剤中に分散させたものが用いられてきた。近年では、有機光導電性物質を用いた電子写真用感光体の研究が進み、感度や耐久性などが改善されて実用化されているものもある。
【0003】
また、感光体には、暗所で表面電荷を保持する機能と、光を受容して電荷を発生する機能と、同じく光を受容して電荷を輸送する機能とが必要であるが、一つの層でこれらの機能を併せ持った、いわゆる単層型感光体と、主として電荷発生に寄与する層と暗所での表面電荷の保持および光受容時の電荷輸送に寄与する層とに機能分離した層を積層した、いわゆる積層型感光体とがある。
【0004】
これらの感光体を用いた電子写真法による画像形成には、例えば、カールソン方式が適用される。この方式での画像形成は、暗所での感光体へのコロナ放電による帯電と、帯電された感光体表面上への原稿の文字や絵などの静電潜像の形成と、形成された静電潜像のトナーによる現像と、現像されたトナー像の紙などの支持体への定着とにより行われ、トナー像転写後の感光体は、除電、残留トナーの除去、光除電などを行った後、再使用に供される。
【0005】
実用化されている有機感光体は、無機感光体に比べ、可とう性、膜形成性、低コスト、安全性などの利点があり、材料の多様性から、さらに感度、耐久性などの改善が進められている。
【0006】
有機感光体のほとんどは、電荷発生層と電荷輸送層とに機能を分離した積層型の有機感光体である。一般に、積層型有機感光体は、導電性基体上に、顔料や染料などの電荷発生物質を含む電荷発生層と、ヒドラゾンやトリフェニルアミンなどの電荷輸送物質を含む電荷輸送層とを順に形成したものであり、電子供与性である電荷輸送物質の性質上、正孔移動型となり、感光体表面を負帯電したときに感度を有する。ところが負帯電型では、正帯電型に比べて帯電時に用いるコロナ放電が不安定であり、また、オゾンや窒素酸化物などを発生させるために、これらが感光体表面に吸着して、物理的、化学的劣化を引き起こしやすく、さらに、環境を悪化するという問題がある。このような点から、感光体としては負帯電型感光体よりも、使用条件の自由度の大きい正帯電型感光体の方が、その適用範囲が広く有利である。
【0007】
そこで、正帯電型で使用するために、電荷発生物質と電荷輸送物質とを同時に樹脂バインダに分散させて単層の感光層として使用する方法が提案されており、一部実用化されている。しかし、単層型感光体は高速機に適用するには感度が十分ではなく、また、繰り返し特性などの点からもさらに改良が必要である。
【0008】
また、高感度化を目的として機能分離型の積層構造とするため、電荷輸送層上に電荷発生層を積層して感光体を形成し、正帯電型で使用する方法も考えられるが、この方式では電荷発生層が表面に形成されるため、コロナ放電、光照射、機械的摩耗などにより、繰り返し使用時における安定性などに問題が生ずる。この場合、電荷発生層の上にさらに保護層を設けることも提案されているが、機械的摩耗は改善されるものの、感度等の電気特性の低下を招くなどの問題は解消されていない。
【0009】
さらに、電荷発生層上に電子輸送性の電荷輸送層を積層して感光体を形成する方法も提案されている。
【0010】
電子輸送性の電荷輸送物質としては、例えば、2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノンなどが知られているが、この物質は発ガン性があることから、安全上問題がある。また、特許文献1〜8等ではキノン系化合物などが提案されており、これら以外にも、優れた電子輸送性を有する物質を含有する感光体が種々提案されてきている(例えば、特許文献9〜14などに記載)。
【特許文献1】特開平1−206349号公報
【特許文献2】特開平3−290666号公報
【特許文献3】特開平8−278643号公報
【特許文献4】特開平9−190002号公報
【特許文献5】特開平9−190003号公報
【特許文献6】特開2001−222122号公報
【特許文献7】特開2003−270817号公報
【特許文献8】特開2003−270818号公報
【特許文献9】特開2000−143607号公報
【特許文献10】特開2000−199979号公報
【特許文献11】特開2001−215742号公報
【特許文献12】特開2002−62673号公報
【特許文献13】特開2003−228185号公報
【特許文献14】特開2003−238561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、電子輸送性の電荷輸送物質については種々検討がなされてきているが、近年の高感度感光体に対する要請から、より優れた電子輸送性を有する新たな電荷輸送物質を用いることで、より高性能の感光体を実現することが求められていた。
【0012】
そこで本発明の目的は、電子写真用感光体や有機EL等の用途に有用な電子輸送能に優れた化合物を提供することにあり、また、かかる新規な有機材料を感光層中に電荷輸送物質として用いることにより、高感度な複写機用およびプリンター用の正帯電型電子写真用感光体およびそれを用いた電子写真装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するために各種有機材料について鋭意検討した結果、以下に示す一般式(I)で示される特定の化合物が優れた電子輸送性を有することを見出し、これを電荷輸送物質として使用することにより、正帯電で使用可能な高感度感光体を得ることができることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、上記課題を解決するために、本発明の新規キノン化合物は、下記一般式(I)、

(式(I)中、R1〜R8は、同一または異なって、水素原子、または置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基を表し、R9およびR10は、同一または異なって、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、または置換基を有してもよい複素環基を表し、また、R1およびR5、R2およびR6、R3およびR7、R4およびR8は、それぞれ互いに結合して環を形成していてもよく、R11およびR12は、同一または異なって、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基、ニトロ基、置換基を有してもよいアリール基、または置換基を有してもよい複素環基を表し、nおよびmは0〜4の整数を表し、nが2以上の場合には、2以上のR11同士が互いに結合して環を形成していてもよく、mが2以上の場合には、2以上のR12同士が互いに結合して環を形成していてもよく、Aは、酸素原子またはSO2を表し、置換基は、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基、ニトロ基、アリール基、または複素環基を表す)で示される構造を有することを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の電子写真用感光体は、導電性基体上に、電荷発生物質および電荷輸送物質を含有する感光層を設けた電子写真用感光体において、該感光層が、下記一般式(I)、

(式(I)中、R1〜R8は、同一または異なって、水素原子、または置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基を表し、R9およびR10は、同一または異なって、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、または置換基を有してもよい複素環基を表し、また、R1およびR5、R2およびR6、R3およびR7、R4およびR8は、それぞれ互いに結合して環を形成していてもよく、R11およびR12は、同一または異なって、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基、ニトロ基、置換基を有してもよいアリール基、または置換基を有してもよい複素環基を表し、nおよびmは0〜4の整数を表し、nが2以上の場合には、2以上のR11同士が互いに結合して環を形成していてもよく、mが2以上の場合には、2以上のR12同士が互いに結合して環を形成していてもよく、Aは、酸素原子またはSO2を表し、置換基は、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基、ニトロ基、アリール基、または複素環基を表す)で示される化合物の少なくとも一種を含有することを特徴とするものである。
【0016】
本発明の感光体としては、前記感光層が、電荷発生物質、電荷輸送物質および樹脂バインダーを含有する単層型感光層であって、該電荷輸送物質として電子輸送物質と正孔輸送物質とを含有し、かつ、該電子輸送物質として、前記一般式(I)で示される構造を有する化合物の少なくとも1種を含有することが好適であり、特には、正帯電プロセスにて帯電プロセスを行う電子写真装置に好適に適用することができる。
【0017】
また、本発明の感光体においては、感光層中に、正孔輸送物質として、例えば、特開2000−314969号公報等に記載されているような公知の正孔輸送物質を用いることが可能であるが、特には、スチリル化合物を含有させることが好ましい。
【0018】
さらに、本発明の感光体においては、感光層中に電荷発生物質として公知の電荷発生物質を用いることが可能であるが、特には、フタロシアニン化合物を含有させることが好ましい。フタロシアニン化合物としては、例えば、特開2001−228637号公報等に記載されているX型無金属フタロシアニン、α型チタニルフタロシアニンおよびY型チタニルフタロシアニン、特開2001−330972号公報に記載された発明に係るチタニルフタロシアニンなどがより好適であるが、これらの化合物に限定されるものではない。
【0019】
また、本発明の電子写真装置は、上記本発明の電子写真用感光体を備え、かつ、正帯電プロセスにて帯電プロセスを行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電子輸送性に優れた化合物を得ることができ、この化合物を電子写真用感光体や有機EL等の有機化合物を用いた電子デバイスに適用することにより、電気特性等を向上することが可能である。
【0021】
また、本発明によれば、導電性基体上に感光層が設けられた電子写真用感光体において、かかる電子輸送性を有する特定の化合物を、電子輸送物質として感光層中に含有させたことにより、電子輸送性が向上し、優れた電気特性を示すとともに、電荷のトラップが少なくなるために、繰り返し安定性にも優れた効果を奏する。
【0022】
従って、本発明によれば、電気特性や繰り返し安定性に優れた高耐久性の電子写真用感光体を得ることができ、この電子写真用感光体は、電子写真方式を用いたプリンター、複写機、ファックス等の電子写真装置に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
前記一般式(I)で示される化合物の具体例を、下記の構造式(I−1)〜(I−80)にて示すが、本発明においては、これらの化合物に限定されるものではない。
なお、下記の具体例中の

はt−ブチル基を表す。
【0024】

【0025】

【0026】

【0027】

【0028】

【0029】

【0030】

【0031】

【0032】

【0033】

【0034】
前記一般式(I)で示される本発明のキノン系化合物は、例えば、下記スキーム1に示す方法で製造することができる。なお、下記式中、R1〜R12およびAは、前記と同様の意味を表す。

【0035】
即ち、まず、ビスアニリン類(II)を塩酸中、亜硝酸ソーダを用いてビスジアゾニウム塩(III)に変換した後、塩化第一スズ、亜硫酸ソーダ、亜硫酸カリなどの還元剤を用いてビスヒドラジン塩酸塩(IV)とする。これと、構造式(V)および/または(V’)で示されるカルボニル化合物とを、ピリジン、トリエチルアミン、酢酸ソーダなどの塩基類を用いて縮合させることにより、構造式(VI)で表されるビスヒドラゾンを調製する。最後に、これを二酸化マンガン、過マンガン酸カリウム、フェリシアン化カリウムなどの無機系酸化剤、あるいは2,3−ジクロロ5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノンなどの有機系酸化剤を用いて、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶剤を用い、室温から溶剤の還流温度までの温度範囲で反応を行うことにより、目的のキノン(前記一般式(I))を合成することが可能である。
【0036】
前記一般式(I)で示される本発明のキノン系化合物は、優れた電子輸送性を有することから、いわゆる電子輸送物質として有用であり、特に、電子写真用感光体の感光層材料
、および、有機ELの電子輸送層等の機能層材料として好適に用いることができるものである。
【0037】
以下、本発明の電子写真用感光体の具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の感光体の一実施形態を示す概念的断面図であり、符号1は導電性基体、2は下引き層、3は感光層、4は保護層を夫々示し、下引き層2と保護層4とは、必要に応じて設けられる。感光層3は、電荷発生機能と電荷輸送機能とを併せ持つ1つの層からなる単層型や、電荷発生層と電荷輸送層とに分離した層を積層した機能分離型がある。主な具体例としては、図2〜図6に示すような層構成の感光体が挙げられる。図2および図3は、感光層3が単層型である単層型感光体を示す。また、図4および図5は、下引き層2上に感光層3が、電荷発生層3a、電荷輸送層3bの順に積層されて形成されてなる機能分離積層型感光体を示す。さらに、図6は、感光層3が、電荷輸送層3b、電荷発生層3aの順に積層されてなり、この上にさらに保護層4を有する機能分離積層型感光体を示す。但し、本発明は、これら図示する層構成の感光体に限定されるものではない。
【0038】
導電性基体1は、感光体の電極としての役目と同時に他の各層の支持体となっており、円筒状、板状、フィルム状のいずれでもよく、材質的にはアルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルなどの金属、あるいはガラス、樹脂などの上に導電処理を施したものでもよい。
【0039】
下引き層2は、必要に応じて設けることができ、樹脂を主成分とする層やアルマイト等の酸化皮膜等からなり、導電性基体から感光層への不要な電荷の注入防止、基体表面の欠陥被覆、感光層の接着性の向上等の目的で必要に応じて設けられる。下引き層用の樹脂バインダーとしては、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、メタクリル酸エステルの重合体およびこれらの共重合体などを適宜組み合わせて使用することが可能である。また、樹脂バインダー中には、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム等の金属酸化物や、硫化バリウム、硫化カルシウム等の金属硫化物、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物等の微粒子を1種以上含有させてもよく、これらの微粒子の表面を、シランカップリング剤等で表面処理したり、金属酸化膜等で被覆してもよい。
【0040】
下引き層の膜厚は、下引き層の配合組成にも依存するが、繰り返し連続使用したときに残留電位が増大するなどの悪影響が出ない範囲で任意に設定でき、通常、0.01〜50μm程度である。また、下引き層は複数層積層させてもよい。
【0041】
感光層3は、機能分離型の場合は、主として電荷発生層3aと電荷輸送層3bとの2層からなり、単層型の場合は、1層からなる。ただし、同種の機能を有する層を複数層積層させてもよい。
【0042】
電荷発生層3aは、無機または有機光導電性物質を真空蒸着して形成したり、無機または有機光導電性物質の粒子を樹脂バインダー中に分散させた材料を塗布して形成され、光を受容して電荷を発生する機能を有する。また、その電荷発生効率が高いことと同時に発生した電荷の電荷輸送層3bへの注入性が重要であり、電場依存性が少なく低電場でも注入のよいことが望ましい。
【0043】
電荷発生層は、電荷発生機能を有すればよいので、その膜厚は電荷発生物質の光吸収係数により決まり、通常、0.1〜50μmであるが、電荷発生層上に電荷輸送層を積層した積層型感光体の場合には、一般的には5μm以下であり、好適には1μm以下である。
【0044】
電荷発生層は、電荷発生物質を主体として、これに電荷輸送物質などを添加して使用することも可能である。電荷発生物質としては、フタロシアニン系顔料、アゾ顔料、アントアントロン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、スクアリリウム顔料、チアピリリウム顔料、キナクリドン顔料等を用いることができ、また、これらの顔料を適宜組み合わせて用いてもよい。特に、アゾ顔料としては、ジスアゾ顔料、トリスアゾ顔料、ペリレン顔料としては、N,N’−ビス(3,5−ジメチルフェニル)−3,4:9,10−ペリレンビス(カルボキシイミド)、フタロシアニン系顔料としては、無金属フタロシアニン、銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニンが好適である。
【0045】
本発明においては、これら電荷発生物質の中でも、フタロシアニン系顔料を用いることが特に好ましい。かかるフタロシアニンには様々な結晶形態が存在し、X型無金属フタロシアニン、τ型無金属フタロシアニン、ε型銅フタロシアニン、α型チタニルフタロシアニン、β型チタニルフタロシアニン、Y型チタニルフタロシアニン、アモルファスチタニルフタロシアニン、特開平8−209023号公報中に記載のCuKα:X線回折スペクトルにてブラッグ角2θが9.6°を最大ピークとするチタニルフタロシアニンなどが知られている。中でも、例えば、特開2001−228637号公報等に記載されているX型無金属フタロシアニン、α型チタニルフタロシアニン、Y型チタニルフタロシアニン、および、特開2001−330972号公報に記載された発明に係るチタニルフタロシアニンなどがより好ましい。
【0046】
また、上記電荷発生物質の中には、電荷発生機能に加えて、電荷輸送機能を有するものも存在する。特に、アゾ顔料やペリレン顔料は電子輸送性を有しており、電荷発生を目的とする以外に、電子輸送物質として用いることもできる。
【0047】
電荷発生層用の樹脂バインダーとしては、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、メタクリル酸エステルの重合体およびこれらの共重合体などを適宜組み合わせて使用することが可能である。また、分子量の異なる同種の樹脂を混合して用いてもよい。尚、樹脂バインダーの含有量は、電荷発生層の固形分に対して10〜90重量%、好適には20〜80重量%である。
【0048】
ここで、電荷発生層に電荷輸送物質を添加する場合には、下記で説明する電荷輸送層に用いられる電荷輸送物質を用いることが可能であり、また、本発明に係る前記一般式(I)で表される化合物を用いることも可能である。尚、電荷発生層に添加する電荷輸送物質の含有量は、電荷発生層の固形分に対して0.1〜50重量%程度とする。
【0049】
電荷輸送層3bは、樹脂バインダー中に電荷輸送物質を分散させた材料からなる塗膜であり、暗所では絶縁体層として感光体の電荷を保持し、光受容時には電荷発生層から注入される電荷を輸送する機能を発揮する。
【0050】
電荷輸送物質としては正孔輸送物質と電子輸送物質とが存在するが、本発明においては少なくとも、電子輸送物質として、前記一般式(I)で表される化合物を用いることが必要である。また、本発明においては、かかる化合物以外にも、他の電子輸送物質や正孔輸送物質を併用することが可能である。尚、電荷輸送物質の含有量は、電荷輸送層の固形分に対して10〜90重量%、好適には20〜80重量%であり、本発明に係る前記一般式(I)で表される化合物は、電荷輸送層中に含まれていれば本発明の効果が得られるものであるが、その含有量としては、電荷輸送層の固形分に対して、好適には10〜60重量%であり、より好適には、15〜50重量%である。
【0051】
他の電子輸送物質としては、公知の電子輸送物質を用いることができ、無水コハク酸、無水マレイン酸、ジブロム無水コハク酸、無水フタル酸、3−ニトロ無水フタル酸、4−ニトロ無水フタル酸、無水ピロメリット酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、フタルイミド、4−ニトロフタルイミド、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、クロラニル、ブロマニル、o−ニトロ安息香酸、トリニトロフルオレノン、キノン、ベンゾキノン、ジフェノキノン、ナフトキノン、アントラキノン、スチルベンキノン等の電子受容物質、電子輸送物質を使用することができる。特には、特開2000−314969号公報中に記載の構造式(ET1−1)〜(ET1−16)、(ET2−1)〜(ET2−16)、(ET3−1)〜(ET3−12)、(ET4−1)〜(ET4−32)、(ET5−1)〜(ET5−8)、(ET6−1)〜(ET6−50)、(ET7−1)〜(ET7−14)、(ET8−1)〜(ET8−6)、(ET9−1)〜(ET9−4)、(ET10−1)〜(ET10−32)、(ET11−1)〜(ET11−16)、(ET12−1)〜(ET12−16)、(ET13−1)〜(ET13−16)、(ET14−1)〜(ET14−16)、(ET15−1)〜(ET15−16)、(ET−1)〜(ET−42)などで示される化合物が好ましい。これら電子受容物質や電子輸送物質は、1種または2種以上で組み合わせて使用することが可能である。
【0052】
正孔輸送物質としては、特に制限はされないが、スチリル化合物を好適に用いることができる。なお、本明細書中においてスチリル化合物とは、下記式で表される構造を有する化合物を示す。

(上記式中、水素原子は置換されていてもよい。)
【0053】
スチリル化合物の具体的な構造としては、例えば、特開2000−314969号公報に記載の構造式(HT1−1)〜(HT1−136)、(HT2−1)〜(HT2−70)、特開2000−204083号公報に記載の構造式(V−40)〜(V−57)、特開2000−314970号公報に記載の構造式(HT1−1)〜(HT1−70)などで示される化合物が挙げられるが、本発明はこれらの化合物に限定されるものではない。
【0054】
正孔輸送物質としては、その他、ヒドラゾン化合物、ピラゾリン化合物、ピラゾロン化合物、オキサジアゾール化合物、オキサゾール化合物、アリールアミン化合物、ベンジジン化合物、スチルベン化合物、ポリビニルカルバゾール、ポリシラン等(具体的な構造は、例えば、特開2000−314969号公報に記載の構造式(HT3−1)〜(HT3−39)、(HT4−1)〜(HT4−20)、(HT5−1)〜(HT5−10)、(HT−1)〜(HT−37)等を参照)を用いることが可能であり、これら正孔輸送物質を1種または2種以上で組み合わせて使用することができる。
【0055】
電荷輸送層用の樹脂バインダーとしては、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、シリコン系樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、メタクリル酸エステルの重合体およびこれらの共重合体などを適宜組み合わせて使用することが可能である。特には、特開2000−314969号公報中に記載の構造式(BD1−1)〜(BD1−16)に示す構造単位を主要繰り返し単位として有するポリカーボネートが挙げられる。また、その他にも、特開2000−314969号公報に記載の構造式(BD−1)〜(BD−7)に示す構造単位の1種または2種以上を主要繰り返し単位として有するポリカーボネート樹脂や、ポリエステル樹脂が好適であり、これらの樹脂を2種以上混合して用いてもよい。また、分子量の異なる同種の樹脂を混合して用いてもよい。尚、樹脂バインダーの含有量は、電荷輸送層の固形分に対して10〜90重量%、好適には20〜80重量%である。
【0056】
電荷輸送層の膜厚は、実用的に有効な表面電位を維持するためには、3〜100μmの範囲が好ましく、より好ましくは10〜50μmである。
【0057】
なお、機能分離型の積層感光体としては、電荷発生層上に電荷輸送層を積層させたものが一般的であるが、電荷輸送層上に電荷発生層を積層させたものでもよい(図6参照)。
【0058】
単層型の感光層の場合には、主成分として電荷発生物質、電荷輸送物質および樹脂バインダーが用いられる。電荷輸送物質としては、正孔輸送物質と電子輸送物質とが存在し、本発明においては、電子輸送物質として、少なくとも前記一般式(I)で示される化合物を用いることが必要である。また、それ以外の電荷輸送物質(電子輸送物質、正孔輸送物質)も、上記電荷輸送層3bの場合と同様に併用することが可能であり、好適には、正孔輸送物質と併用することが望ましい。電荷発生物質は、上記電荷発生層3aにて用いられる電荷発生物質と同様の化合物を用いることが可能である。また、樹脂バインダーについても、上記電荷輸送層3bや上記電荷発生層3aに用いられる樹脂バインダーと同様のものを用いることが可能である。
【0059】
尚、電荷発生物質の含有量は、単層型の感光層の固形分に対して0.01〜50重量%、好適には0.1〜20重量%、より好適には0.5〜10重量%である。また、電荷輸送物質の含有量は、単層型の感光層の固形分に対して10〜90重量%、好適には20〜80重量%であり、本発明に係る前記一般式(I)で表される化合物は、単層型の感光層に含有されていれば本発明の効果が得られるものであるが、その含有量としては、単層型の感光層の固形分に対して、好適には10〜60重量%であり、より好適には15〜50重量%である。併用される正孔輸送物質の含有量は、単層型の感光層の固形分に対して、好適には10〜60重量%であり、より好適には20〜50重量%である。樹脂バインダーの含有量は、単層型の感光層の固形分に対して、通常10〜90重量%、好適には20〜80重量%である。
【0060】
単層型感光層の膜厚は、実用的に有効な表面電位を維持するためには、3〜100μmの範囲が好ましく、より好ましくは10〜50μmである。
【0061】
これらの感光層中には、耐環境性や有害な光に対する安定性を向上させる目的で、酸化防止剤や光安定剤等の劣化防止剤を含有させることもできる。このような目的に用いられる化合物としては、トコフェロールなどのクロマノール誘導体およびエステル化化合物、ポリアリールアルカン化合物、ハイドロキノン誘導体、エーテル化化合物、ジエーテル化化合物、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、チオエーテル化合物、フェニレンジアミン誘導体、ホスホン酸エステル、亜リン酸エステル、フェノール化合物、ヒンダードフェノール化合物、直鎖アミン化合物、環状アミン化合物、ヒンダードアミン化合物等が挙げられる。
【0062】
また、感光層中には、形成した膜のレベリング性の向上や潤滑性の付与を目的として、シリコーンオイルやフッ素系オイル等のレベリング剤を含有させることもできる。
【0063】
さらに、摩擦係数の低減や潤滑性の付与等を目的として、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム等の金属酸化物や、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の金属硫化物、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物の微粒子、または、4フッ化エチレン樹脂等のフッ素系樹脂粒子やシリコーン樹脂微粒子、フッ素系クシ型グラフト重合樹脂等のフッ素を含有するポリマーやシリコンを含有するポリマー等を含有させてもよい。
【0064】
さらにまた、必要に応じて、電子写真特性を著しく損なわない範囲内で、その他公知の添加剤を含有させることも可能である。
【0065】
保護層4は、耐刷性を向上させること等を目的として、必要に応じ設けることができ、樹脂バインダーを主成分とする層や、アモルファスカーボン、アモルファスケイ素−炭素等の気相成長法によって成膜された無機薄膜や、シリカやアルミナの蒸着等によるコーティング膜などからなる。樹脂バインダーとしては、上記電荷輸送層3bに用いられるものや、シロキサン樹脂などの3次元架橋樹脂などを用いることができる。また、樹脂バインダー中には、導電性の向上や、摩擦係数の低減、潤滑性の付与等を目的として、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム等の金属酸化物や、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の金属硫化物、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物の微粒子、または、4フッ化エチレン樹脂等のフッ素系樹脂粒子やシリコーン樹脂微粒子、フッ素系クシ型グラフト重合樹脂等のフッ素を含有するポリマーやシリコンを含有する網目構造のポリマーを含有させてもよい。
【0066】
また、電荷輸送性を付与する目的で、上記感光層に用いられる電荷輸送物質、電子受容物質、電子輸送物質や、前記一般式(I)で示される化合物を含有させたり、形成した膜のレベリング性の向上や潤滑性の付与を目的として、シリコーンオイルやフッ素系オイル等のレベリング剤を含有させることもできる。
【0067】
保護層の膜厚は、感光層の機能を著しく損ねない範囲で、適当な範囲で用いればよいが、通常、0.1〜50μmの範囲が好ましく、より好ましくは1〜10μmである。また、保護層は、複数層積層させてもよい。
【0068】
以下、本発明の感光体の作製方法について詳細に説明する(より詳細には、電子写真学会誌 VOL.28 NO.2 1989 p186〜195「OPC感光体の生産技術」等に記載されている)。
上述の下引き層2、感光層3(電荷輸送層3a、電荷輸送層3b)および保護層4を塗布により形成する場合には、上記構成材料を適当な溶剤とともに溶解分散させて塗布液を作製し、適当な塗布方法にて塗布し、乾燥して溶剤を除去すればよい。
【0069】
かかる溶剤としては、主としてメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジソキソラン、ジエチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等の環状または直鎖状のエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル類、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン等の脂肪族ハロゲン化炭化水素類、リグロイン等の鉱油、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族ハロゲン化炭化水素類などが用いられ、これらを2種以上混合して用いてもよい。
【0070】
上記塗布液の分散溶解方法としては、主としてペイントシェーカー(ペイントコンディショナー)、ボールミル、ダイノーミルなどのビーズミル(サンドグラインダー)、超音波分散等の公知の方法を用いることができ、また塗布方法としては、主として浸漬塗布法、リングコーティング法(シールコート)、スプレー塗布法、バーコーティング法、ブレードコーティング法等の公知の方法を用いることができる。
【0071】
また、上記乾燥における乾燥温度および乾燥時間は、使用溶媒の種類や製造コスト等に鑑みて適当に設定することができるが、好ましくは乾燥温度が室温以上200℃以下で、乾燥時間10分以上2時間以下の範囲内で設定する。より好ましくは、乾燥温度が溶媒の沸点から沸点+80℃の範囲内である。また、この乾燥は通常、常圧または減圧下にて、静止あるいは送風下で行う。
【0072】
本発明の電子写真用感光体は、公知の電子写真プロセスにて使用可能であり、帯電、露光、現像、転写、定着といったプロセスを有する一般的な電子写真プロセスにて好適に用いることができ、これらの電子写真プロセスを有する複写機、プリンター、ファックス等に使用することができる。
【0073】
ここで、帯電プロセスとしては、感光体を正極に帯電する正帯電プロセスと、負極に帯電する負帯電プロセスとが存在する。本発明の感光体は、負帯電プロセスでの使用も可能であるが、正帯電プロセスで特に高い感度を示すため、正帯電プロセスで使用することが好ましい。特に、感光層が、電荷発生物質、電荷輸送物質および樹脂バインダーを含有する単層型感光層であり、電荷輸送物質として電子輸送物質と正孔輸送物質とを含有し、かつ、電子輸送物質として本発明に係る前記一般式(I)で表される化合物を少なくとも1種含有する電子写真用感光体は、正帯電プロセスで高い感度を有する。
【0074】
帯電プロセスにおける帯電器としては、コロトロン、スコロトロンを用いた非接触の帯電器と、ローラー形状やブラシ形状で感光体に接触(あるいは近接)して帯電を行う帯電器が存在する。本発明の感光体は、どちらの帯電器を用いたプロセスでも使用可能である。
【0075】
露光プロセスに用いられる光源としては、通常、感光体が感度を有する波長域を持つ光源が使用され、ハロゲンランプや蛍光灯などの白色光や、レーザー光、LED(Light Emitting Diode)光などが好適である。特に、電荷発生物質としてフタロシアニンを用いた場合には、600〜800nm付近の半導体レーザー光やLED光がより好適である。また、電荷発生物質として450nm以下に吸収を有する化合物を用いた場合は、450nm以下の半導体レーザー光やLED光を用いることも可能である。また、感光体の導電性基体として透過性のものを使用することにより、内部露光方式でも使用可能である。
【0076】
現像プロセスとしては、主として、乾式トナーを用いた乾式現像方式と液体トナーを用いた液体現像(湿式現像)方式とがあり、本発明の感光体は、両方の方式で使用可能である。なお、液体現像方式の場合には、液体トナーに含まれる溶剤に対し、感光体の成分が溶け出さないような公知の手法を採ることが望ましい。
【0077】
また、現像プロセスには、露光部分にトナーを現像する反転現像方式と非露光部分にトナーを現像する正転現像方式とがあるが、特に、電荷発生物質としてフタロシアニンを用いた場合には、反転現像方式のプロセスで用いることが好ましい。
【0078】
公知の電子写真プロセスには、感光体に残存する未転写トナーを除去したり散らしたりする目的で、転写プロセスの後にクリーニングプロセスを有するものと、これを有していないクリーナーレスのものが存在する。本発明の感光体は、両方のプロセスで使用可能である。
【0079】
また、公知の電子写真プロセスには、感光体に残存する電荷を除去したり、表面電位を平均化する目的で、転写プロセスの後に、露光による除電プロセスを有するものと、これを有していないものが存在する。本発明の感光体は、両方のプロセスで使用可能である。
【0080】
また、本発明の電子写真装置は、上述の本発明の電子写真用感光体を備え、正帯電プロセスにて帯電プロセスを行うことを特徴とするものである。本発明の電子写真装置においては、帯電プロセス以外の他の構成については特に制限はなく、上述したような一般的な電子写真プロセスにより構成されるものとすればよい。
【実施例】
【0081】
以下、本発明の実施例について説明する。
尚、以下の合成実施例において測定に用いた装置は次の通りである。
融点測定;柳本製作所製 微量融点測定器(値は未補正)
200MHz 1H−NMRスペクトル解析;GEMINI200型装置(バリアン社製)
500MHz 1H−NMRスペクトル解析;DRX−500型装置(ブルカー社製)
MSスペクトル解析;POLARIS−Q(サーモフィニガン社製)
【0082】
合成実施例1:前記具体例(I−1)の化合物の合成
(1)4,4’−オキシビス(ヒドラジノベンゼン)塩酸塩(前記一般式(IV)、A=O、R11=R12=H,n=m=1)の合成
500mLの四つ口反応フラスコに35〜37%塩酸150mLと水100mLを秤取り、オキシジアニリン(前記一般式(II)、A=O、R11=R12=H,n=m=1、東京化成工業株式会社製)20g(0.10モル)を加えた。−10〜0℃で亜硝酸ソーダ15.2g(0.22モル)を水50mLに溶かした溶液を徐々に加え、0℃以下で1時間撹拌し、ビスジアゾニウム塩溶液を調製した。1Lの四つ口反応フラスコに35〜37%塩酸300mLを秤取り、塩化スズ(II)二水和物148.6g(0.66モル)を加えて溶かした。−10〜−5℃の温度で先のビスジアゾニウム塩溶液を30分かけて滴下し、その後、撹拌しながら終夜で−5℃〜室温に昇温させた。析出した生成物をろ過により取り出し、1%塩酸400mLから再結晶して、15.8gの4,4’−オキシビス(ヒドラジノベンゼン)塩酸塩を得た。
収率52.2%、mp181〜184℃
1H−NMR(500MHz,DMSO−D6);δ6.92(d,J=8.9Hz,4H),7.05(d,J=8.9Hz,4H),10.15(brs,6H).
MS(Direct−EI);230,214,200,184,169.
【0083】
(2)具体例(I−1)の合成
200mLの四つ口反応用フラスコに4,4’−オキシビス(ヒドラジノベンゼン)塩酸塩(前記一般式(IV)、A=O、R11=R12=H,n=m=1)7.0g(23.1ミリモル)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンズアルデヒド(前記一般式(V)、R1=R2=tert−ブチル、R5=R6=R9=H、東京化成工業株式会社製)10.8g(46.1ミリモル)、酢酸ソーダ4.3g(52.4ミリモル)を窒素下、100mLのエタノール中で室温にて終夜反応した。約半分のエタノールを減圧にて回収し、100mLの水を加え、室温で30分撹拌した。生成物をろ過により取り出し、乾燥すると、15.0gの粗ビスヒドラゾン(前記一般式(VI)、A=O、R1=R2=R3=R4=tert−ブチル、R5=R6=R7=R8=R9=R10=R11=R12=H、n=m=1)が得られた。
【0084】
この粗ビスヒドラゾン15.0gをトルエン150mL中に溶かし、2,3−ジクロロ5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン9.5g(41.9ミリモル)を徐々に加えた。室温で2時間反応させた後、析出物をろ過により取り除き、ろ液を濃縮した。トルエンを溶離液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製すると7.0g、さらにヘキサンから再結晶すると5.3gの具体例(I−1)の化合物が得られた。
収率38.9%、mp196〜199℃
1H−NMR(500MHz,CDCl3);δ1.35(s,18H),1.40(s,18H),7.12(s,J=2.2Hz,2H),7.21(d,J=8.8Hz,4H),7.67(s,2H),7.97(d,J=8.8Hz,4H),8.30(d,J=2.2Hz,2H).
MS(Direct−EI);658,602.
【0085】
合成実施例2:前記具体例(I−3)の化合物の合成
(1)4,4’−オキシビス[2,6−ブロモアニリン](前記一般式(II)、A=O、R11=R12=Br、n=m=2)の合成
窒素雰囲気下、200mLの四つ口反応フラスコに4,4’−オキシジアニリン(前記一般式(II)、A=O、R11=R12=H,n=m=1、東京化成工業株式会社製)5.0g(25.0ミリモル)を酢酸35mLに溶解し、1,4−ジオキサン35.2g(399.5ミリモル)を加えた。氷冷下、臭素18.4g(72.4ミリモル)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、水を加え、トルエンで抽出し、有機相を水、水酸化ナトリウム水溶液、水で洗浄後濃縮し、トルエンを溶離液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して11.7gの4,4’−オキシビス[2,6−ジブロモアニリン]を得た。
収率90.8%、mp166〜167℃
1H−NMR(200MHz,CDCl3);δ4.39(brs,4H),7.07(s,4H)
MS(Direct−EI); 515,409,355,266.
【0086】
(2)ビスヒドラゾン(前記一般式(VI)、A=O、R1=R2=R3=R4=tert−ブチル、R5=R6=R7=R8=R9=R10=H、R11=R12=Br,n=m=2)の合成
500mLの四つ口反応フラスコに4,4’−オキシビス[2,6−ジブロモアニリン](前記一般式(II)、A=O、R11=R12=Br、n=m=2)11.0g(21.3ミリモル)、35〜37%塩酸110mLを加え、アミンの結晶がスラリーになるまで室温で1時間撹拌した。−10℃に冷却し、亜硝酸ソーダ3.1g(44.8ミリモル)を水9.3mlに溶かした溶液を徐々に加え、0℃以下で1時間撹拌し、ビスジアゾニウム塩溶液を調製した。500mLの四つ口反応フラスコに塩化スズ(II)二水和物21.2g(93.8ミリモル)、スズ506.3mg(4.27ミリモル)に35〜37%塩酸44mLを加え、40℃でスズが溶解するまで1時間撹拌した。−10℃〜−5℃に冷却し、先のビスジアゾニウム塩溶液を30分かけて滴下し、その後1時間撹拌した。析出した生成物を濾過により取り出し、1%塩酸水溶液250mlから再結晶して9.16gのビスヒドラジン塩酸塩(前記一般式(IV)、A=O、R11=R12=Br,n=m=2)を得た。
【0087】
窒素雰囲気下、500mLの四つ口反応フラスコに先のビスヒドラジン塩酸塩とN,N’−ジメチルホルムアミド138mlを加え、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンズアルデヒド(前記一般式(V),R1=R2=tert−ブチル、R5=R6=R9=H、東京化成工業株式会社製)28.0g(119.4ミリモル)、酢酸ソーダ8.7g(140.7ミリモル)を加え、室温で1時間撹拌した。トルエンを加え、有機相を水で洗浄して濃縮し、クロロホルムを溶離液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して6.85gのビスヒドラゾンを得た。
収率32.8%(オイル状物質)
1H−NMR(200MHz,CDCl3);δ1.46(s,36H),5.36(s,2H),7.26(s,4H),7.35(s,2H),7.50(s,4H),7.73(s,2H)
MS(Direct−EI);979.
【0088】
(3)具体例(I−3)の合成
500mLの四つ口反応フラスコにビスヒドラゾン(前記一般式(VI)、R1=R2=R3=R4=tert−ブチル、R5=R6=R7=R8=R9=R10=H、A=O、R11=R12=Br,n=m=2)10.1g(10.3ミリモル)にトルエン200mLとクロロホルム100mLを加えて溶解した。二酸化マンガン3.59g(41.3ミリモル)を加えて室温で終夜撹拌した。ろ過により析出物を除きろ液を濃縮した。トルエンを溶離液としたシリカゲルクロマトグラフィーにて精製し、さらにトルエン−ヘキサンの混合溶媒から再結晶すると8.23gの具体例の化合物(I−3)が得られた。
収率81.8%、mp228〜231℃
1H−NMR(500MHz,CDCl3):δ1.35(s,36H),7.18(d,J=2.2Hz,2H),7.41(s,4H),7.71(s,2H),8.32(d,J=2.2Hz,2H)
MS(Direct−EI);974,918.
【0089】
合成実施例3:前記具体例(I−41)の化合物の合成
(1)4−ヒドラジノフェニルスルホン塩酸塩(前記一般式(IV)、A=SO2、R11=R12=H、n=m=1)の合成
500mLの四つ口反応フラスコに35〜37%塩酸300mLを秤取り、4−アミノフェニルスルホン(前記一般式(II)、A=SO2、R11=R12=H,n=m=1、東京化成工業株式会社製)20g(0.081モル)を加えた。−10〜0℃で亜硝酸ソーダ11.5g(0.167モル)を水40mLに溶かした溶液を徐々に加え、0℃以下で1時間撹拌し、ビスジアゾニウム塩溶液を調製した。1Lの四つ口反応フラスコに35〜37%塩酸200mLを秤取り、塩化スズ(II)二水和物70g(0.310モル)を加えて溶かした。−10〜−5℃の温度で先のビスジアゾニウム塩溶液を30分かけて滴下し、その後、撹拌しながら終夜で−5℃で3時間撹拌した。析出した生成物をろ過により取り出し、90mLの水から再結晶して11.2gの4−ヒドラジノフェニルスルホン塩酸塩を得た。
収率39.4%、mp190〜191℃
1H−NMR(500MHz,DMSO−D6);δ7.05(d,J=7.1Hz,4H),7.77(d,J=7.1Hz,4H),8.90(brs,2H),10.25(brs,4H).
MS(Direct−EI);278,261,232,108.
【0090】
(2) 具体例(I−41)の合成
200mLの四つ口反応用フラスコに4−ヒドラジノフェニルスルホン塩酸塩(前記一般式(IV)、A=SO2、R11=R12=H、n=m=1)5.0g(14.2ミリモル)、3,5−ジ−tert−ブチル-4-ヒドロキシベンズアルデヒド(前記一般式(V)、R1=R2=tert−ブチル、R5=R6=R9=H、東京化成工業株式会社製)6.7g(28.6ミリモル)、ピリジン3mL(37.1ミリモル)を窒素下、60mLのイソプロパノール中で3時間還流した。混合物を水に注ぎ、トルエン/ジエチルエーテルで抽出した。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥、濃縮すると11.3gの粗ビスヒドラゾン(前記一般式(VI),A=SO2、R1=R2=R3=R4=tert−ブチル、R5=R6=R7=R8=R9=R10=R11=R12=H、n=m=1)が得られた。
【0091】
この粗ビスヒドラゾン11.3gを塩化メチレン120mL中に溶かし、二酸化マンガン5g(57.5ミリモル)を徐々に加えた。室温で終夜、さらに還流下で30分反応させた後、析出物をろ過により取り除き、ろ液を濃縮した。トルエン/酢酸エチル(8/1)を溶離液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製すると7.2g、さらにトルエンから再結晶すると6.42gの具体例化合物(I−41)が得られた。
収率63.9%、mp258〜261℃
1H−NMR(500MHz,CDCl3);δ1.34(s,18H),1.36(s,18H),7.10(s,2H),7.68(s,2H),7.97(d,J=7.0Hz,4H),8.12(d,J=7.0Hz,4H),8.27(s,2H).
MS(Direct−EI);706,650,231,216,188,172.
【0092】
感光体実施例1
電気特性評価用としては板状感光体、印字評価用としてはドラム状感光体を、夫々作製した。尚、以下、「部」は重量部を表す。
アルミニウム板(3cm×10cm、厚さ1mm)およびアルミニウム素管(外径30mmφ、長さ247.5mm、厚さ0.75mm)の外表面上に、夫々以下のように作製した下引き層溶液を浸漬塗布法により塗布し、夫々、100℃で60分乾燥して溶剤を除去し、膜厚0.3μmの下引き層を形成した。
【0093】
(下引き層溶液の作製)
a1)可溶性ナイロン(アミランCM8000:東レ(株)製) 3部(30g)
上記下引き層材料a1)をメタノール/塩化メチレン(5vol./5vol.)の混合溶剤97部(970g)と共に撹拌し、溶解させて、下引き層溶液を作製した。
【0094】
次に、この下引き層上に、以下のように作製した単層型感光層分散液を、板状のものについては、浸漬塗布法により塗布し、ドラム状のものについては、リングコーティング法により塗布し、夫々、100℃で60分乾燥して溶剤を除去し、膜厚30μmの単層型感
光層を形成し、電子写真用感光体を作製した。
【0095】
(単層型感光層分散液の作製)
b1)電荷発生物質:X型無金属フタロシアニン
(特開2001−228637号公報中の図2参照) 0.2部(0.1g)
b2)正孔輸送物質:下記構造式(HT1−101)

で示されるスチリル化合物
(特開2001−314969号公報中の(HT1−101)) 8部(4g)
b3)電子輸送物質:前記式(I−1)で示される化合物[合成実施例1]
5部(2.5g)
b4)酸化防止剤:3,5−ジ−tert−4−ヒドロキシトルエン(BHT)
1部(0.5g)
b5)シリコーンオイル(KF−50:信越化学工業(株)製)
0.01部(0.005g)b6)バインダー樹脂:ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂
(パンライトTS2050:帝人化成(株)製)
(特開2000−314969号公報中の(BD1−1) 7部(3.5g)
【0096】
上記感光層材料b1)〜b6)を、塩化メチレン溶剤100部(50g)およびステンレスビーズ(3mmφ)50gと共に、100mlのポリ瓶に入れ、ペイントコンディショナーModel5400(米国:レッドデビル社製)にて、60分間分散処理を行い、その後、ステンレスビーズを分離し、単層型感光層分散液を作製した。
【0097】
感光体実施例2
感光体実施例1で使用した単層型感光層分散液の組成のうち、電子輸送物質としての前記式(I−1)で示される化合物5部を、電子輸送物質としての前記式(I−3)[合成実施例2]で示される化合物5部に代えた以外は感光体実施例1と同様にして、感光体を作製した。
【0098】
感光体実施例3
感光体実施例1で使用した単層型感光層分散液の組成のうち、電子輸送物質としての前記式(I−1)で示される化合物5部を、電子輸送物質としての前記式(I−41)[合成実施例3]で示される化合物5部に代えた以外は感光体実施例1と同様にして、感光体を作製した。
【0099】
感光体実施例4
感光体実施例2で使用した単層型感光層分散液の組成のうち、前記式(HT1−101)で示されるスチリル化合物8部を7部に、電子輸送物質としての前記式(I−3)で示される化合物5部を2部に、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂7部を10部に、夫々代えた以外は感光体実施例2と同様にして、感光体を作製した。
【0100】
感光体実施例5
感光体実施例1で使用した単層型感光層分散液の組成のうち、正孔輸送物質としての前記式(HT1−101)で示されるスチリル化合物8部を、下記構造式(HT2−2)、

で示されるスチリル化合物(特開2000−314969号公報中の(HT2−2))8部に代えた以外は感光体実施例1と同様にして、感光体を作製した。
【0101】
感光体実施例6
感光体実施例1で使用した単層型感光層分散液の組成のうち、正孔輸送物質としての前記式(HT1−101)で示されるスチリル化合物8部を、下記構造式(HT−11)、

で示されるジアミン化合物(特開2000−314969号公報中の(HT−11))8部に代えた以外は感光体実施例1と同様にして、感光体を作製した。
【0102】
感光体実施例7
感光体実施例1で使用した単層型感光層分散液の組成のうち、電荷発生物質としてのX型無金属フタロシアニン0.2部を、0.3部に代えた以外は感光体実施例1と同様にして、感光体を作製した。
【0103】
感光体実施例8
感光体実施例1で使用した単層型感光層分散液の組成のうち、電荷発生物質としてのX型無金属フタロシアニン0.2部を、α型チタニルフタロシアニン(特開2001−228637号公報中の図3参照)0.3部に代えた以外は感光体実施例1と同様にして、感光体を作製した。
【0104】
感光体実施例9
感光体実施例1で使用した単層型感光層分散液の組成のうち、電荷発生物質としてのX型無金属フタロシアニン0.2部を、Y型チタニルフタロシアニン(特開2001−228637号公報中の図4参照)0.1部に代えた以外は感光体実施例1と同様にして、感光体を作製した。
【0105】
感光体実施例10
感光体実施例1で使用した単層型感光層分散液の組成のうち、電荷発生物質としてのX型無金属フタロシアニン0.2部を、アモルファスチタニルフタロシアニン(特開2001−228637号公報中の図5参照)0.1部に代えた以外は感光体実施例1と同様にして、感光体を作製した。
【0106】
感光体実施例11
感光体実施例1で使用した単層型感光層分散液の組成のうち、電荷発生物質としてのX型無金属フタロシアニン0.2部を、下記構造式(CG1−1)、

で示されるビスアゾ化合物0.2部に代えた以外は感光体実施例1と同様にして、感光体を作製した。
【0107】
感光体実施例12
感光体実施例1で使用した単層型感光層分散液の組成に、さらに、電子輸送物質として、上記構造式(CG1−1)で示されるビスアゾ化合物0.2部を加えた以外は感光体実施例1と同様にして、感光体を作製した。
【0108】
感光体比較例1
感光体実施例1で使用した単層型感光層分散液の組成のうち、電子輸送物質としての前記式(I−1)で示される化合物5部を、下記構造式(ET−1)、

で示されるスチルベンキノン化合物(東京化成工業(株)製)5部に代えた以外は感光体実施例1と同様にして、感光体を作製した。
【0109】
感光体比較例2
感光体実施例1で使用した単層型感光層分散液の組成のうち、電子輸送物質としての前記式(I−1)で示される化合物5部を、下記構造式(ET−2)、

で示されるジフェノキノン化合物5部に代えた以外は感光体実施例1と同様にして、感光体を作製した。
【0110】
感光体比較例3
感光体実施例1で使用した単層型感光層分散液の組成のうち、電子輸送物質としての前記式(I−1)で示される化合物5部を、下記構造式(ET−3)、

で示される化合物5部に代えた以外は感光体実施例1と同様にして、感光体を作製した。
【0111】
感光体比較例4
感光体実施例1で使用した単層型感光層分散液の組成のうち、電子輸送物質としての前記式(I−1)で示される化合物5部を、下記構造式(ET−4)、

で示される化合物5部に代えた以外は感光体実施例1と同様にして感光体を作製した。
【0112】
感光体実施例1〜12、感光体比較例1〜4の評価
電気特性評価として、板状感光体を用いて、(株)川口電機製作所製 静電複写紙試験装置EPA−8100にて評価を行った。
温度24℃、湿度50%の環境下で、暗所にて表面電位が約+700Vになるように帯
電させ、5秒後の表面電位の保持率Vk5を、次式より求めた。
保持率Vk5(%)=(V5/V0)×100
V0:帯電直後の表面電位
V5:5秒後の表面電位
【0113】
次に、表面電位を+600Vにして、ハロゲンランプの光をフィルターにて780nm(但し、感光体実施例11については550nm)に分光した1.0μW/cm2の単色光を5秒間露光して、表面電位が半分(+300V)になるまでに要する露光量を感度E1/2(μJ/cm2)として求め、露光後5秒後の表面電位を残留電位Vr(V)として求めた。
【0114】
また、作製したドラム状感光体の外観を目視にて観察した。
これらの評価結果を下記の表1中に示す。
【0115】
【表1】

*)露光光:550nm
【0116】
上記表1に示すように、感光体比較例3および感光体比較例4の感光体の保持率、感度および残留電位は、比較的良好ではあるものの、電子輸送物質以外は同様に作製した感光体実施例1の感光体と比較すると、やや悪いものであった。
【0117】
また、実際の印字による耐久性の評価として、ドラム状感光体をブラザー工業(株)製 レーザープリンターHL−1850に装着し、温度22℃、湿度44%の環境下で、黒ベタ画像、白ベタ画像、ハーフトーン画像を印刷した。続いて、印字率約5%の画像を5千枚印刷し、その後再び、黒ベタ画像、白ベタ画像、ハーフトーン画像を印刷して、5千枚印字後の画像の評価を行った。
【0118】
結果として、感光体実施例1〜6、10および感光体比較例3、4の感光体は、初期画像および5千枚後の画像の双方において、良好な画像が得られた。一方、感光体比較例1、2の感光体は、初期のハーフトーン画像において、析出が原因と思われる画像むらが生じた。なお、感光体実施例11の感光体は、使用したレーザープリンターのレーザー波長域(780nm付近)に十分な感度を有しておらず、このレーザープリンターには不向きであり、感光体実施例7、8、9、12の感光体は、感度が高過ぎるため、このレーザープリンターにはやや不向きであり、ハーフトーン画像がつぶれぎみであった。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】電子写真用感光体の一般的構成を示す摸式的断面図である。
【図2】単層型電子写真用感光体の一構成例を示す摸式的断面図である。
【図3】単層型電子写真用感光体の他の構成例を示す摸式的断面図である。
【図4】積層型電子写真用感光体の一構成例を示す摸式的断面図である。
【図5】積層型電子写真用感光体の他の構成例を示す摸式的断面図である。
【図6】積層型電子写真用感光体の更に他の構成例を示す摸式的断面図である。
【符号の説明】
【0120】
1 導電性基体
2 下引き層
3 感光層
3a 電荷発生層
3b 電荷輸送層
4 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)、

(式(I)中、R1〜R8は、同一または異なって、水素原子、または置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基を表し、R9およびR10は、同一または異なって、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、または置換基を有してもよい複素環基を表し、また、R1およびR5、R2およびR6、R3およびR7、R4およびR8は、それぞれ互いに結合して環を形成していてもよく、R11およびR12は、同一または異なって、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基、ニトロ基、置換基を有してもよいアリール基、または置換基を有してもよい複素環基を表し、nおよびmは0〜4の整数を表し、nが2以上の場合には、2以上のR11同士が互いに結合して環を形成していてもよく、mが2以上の場合には、2以上のR12同士が互いに結合して環を形成していてもよく、Aは、酸素原子またはSO2を表し、置換基は、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基、ニトロ基、アリール基、または複素環基を表す)で示される構造を有することを特徴とする新規キノン化合物。
【請求項2】
導電性基体上に、電荷発生物質および電荷輸送物質を含有する感光層を設けた電子写真用感光体において、該感光層が、下記一般式(I)、

(式(I)中、R1〜R8は、同一または異なって、水素原子、または置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基を表し、R9およびR10は、同一または異なって、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、または置換基を有してもよい複素環基を表し、また、R1およびR5、R2およびR6、R3およびR7、R4およびR8は、それぞれ互いに結合して環を形成していてもよく、R11およびR12は、同一または異なって、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基、ニトロ基、置換基を有してもよいアリール基、または置換基を有してもよい複素環基を表し、nおよびmは0〜4の整数を表し、nが2以上の場合には、2以上のR11同士が互いに結合して環を形成していてもよく、mが2以上の場合には、2以上のR12同士が互いに結合して環を形成していてもよく、Aは、酸素原子またはSO2を表し、置換基は、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基、ニトロ基、アリール基、または複素環基を表す)で示される化合物の少なくとも一種を含有することを特徴とする電子写真用感光体。
【請求項3】
前記感光層が、電荷発生物質、電荷輸送物質および樹脂バインダーを含有する単層型感光層であり、該電荷輸送物質として電子輸送物質と正孔輸送物質とを含有し、かつ、該電子輸送物質として、前記一般式(I)で表される構造を有する化合物の少なくとも1種を含有する請求項2記載の電子写真用感光体。
【請求項4】
前記感光層が正孔輸送物質を含有し、かつ、該正孔輸送物質としてスチリル化合物を含有する請求項2または3記載の電子写真用感光体。
【請求項5】
前記感光層が電荷発生物質を含有し、かつ、該電荷発生物質としてフタロシアニン化合物を含有する請求項2〜4のうちいずれか一項記載の電子写真用感光体。
【請求項6】
請求項2〜5のうちいずれか一項記載の電子写真用感光体を備え、かつ、正帯電プロセスにて帯電プロセスを行うことを特徴とする電子写真装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−249042(P2006−249042A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−71267(P2005−71267)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【出願人】(000169466)高砂香料工業株式会社 (194)
【Fターム(参考)】