説明

キノン系肺疾患治療剤

本発明の課題は、肺癌患者に対して、有効性が高く、安全性に優れた薬剤および治療方法を提供することにある。 本発明により、ビタミンK2、好ましくはメナテトレノン、またはその水和物を有効成分として含む肺癌用医薬組成物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、メナテトレノンを有効成分とする肺癌治療剤および肺癌予後改善剤に関する。
【背景技術】
近年、肺癌は、最も死亡率の高い疾患として位置付けられている1)。肺癌患者の60%以上は、外科的除去のできない進行ステージ(advanced stage)と診断される2)。このような場合には化学療法剤による治療が行われるが、その奏効率は非常に低い3−5)。また、多くの化学療法剤は、副作用が強く、患者の生活の質を著しく低下させることが問題となっている。そのため、肺癌患者に対して、有効性が高く、安全性に優れた薬剤および治療方法が強く望まれている。
ビタミンKは、ビタミンK依存性タンパク質のN末端に存在するグルタミン酸残基を、生理活性を有するγ−カルボキシグルタミン酸に変換する酵素であるγ−グルタミルカルボキシラーゼの補酵素である。そして、ビタミンKは血液凝固II因子(プロトロンビン)、VII、IXやX等のビタミンK依存性タンパク質の生合成に不可欠なビタミンである。
ビタミンKファミリーは天然体のK1(フィトナジオン)、K2(メナキノン、メナテトレノン)や合成体のK3(メナジオン)から構成される。なかでも、ビタミンK2、特にメナテトレノンは骨粗鬆症の治療薬として販売されている。
メナテトレノンは、肝癌細胞株(Hep3B、Hep40)の増殖を抑制することが報告されている6−8)。また、メナテトレノンは、白血病細胞(Primary,HL−60など)において、アポトーシスや分化を誘導することが知られている9−12)。さらには、メナテトレノンの側鎖であるゲラニルゲラニオールが、腫瘍細胞株(HL−60、K562、Molt3、Colo320DM)において13)、あるいはメナテトレノン類似体であるメナキノン−3、メナキノン−4及びメナキノン−5が、初代培養白血病細胞において14)、アポトーシスを誘導することが報告されている。
メナテトレノンは、白血病細胞において、分化誘導を引き起こし、白血病のみならず固形腫瘍にも有効であるとされている。15)
しかし、これらの文献においては、in vitroにおける効果しか記載されておらず、臨床での肺癌に対する効果は明らかになっていない。
また近年、メナテトレノンが肝癌治療後の患者における肝癌の再発を抑制し、生存率を高めることが知られている16)。しかしながら、臨床において癌に対する薬剤の効果は、癌種ごとに異なることが当業者における技術常識となっており、したがって、各癌種ごとに臨床試験を行う実態がある。
このような背景において、肺癌患者にメナテトレノンなどのビタミンK2を投与することによって、肺癌の進行を抑制できるかどうか及び肺癌腫瘍の増大を抑制することにより予後を改善できるかどうかについては臨床データは未だ取られたことがなく、不明であった。
参考
1) Parkin DM,Bray F,Ferlay J and Pisani P.International Journal of Cancer.94:153−156,2001
2) Fry WA,Phillips JL and Menck HR.Cancer.86:1867−1876,1999
3) Fry WA,Phillips JL and Menck HR.Cancer.86:1867−1876,1999
4) Noda K,Nishiwaki Y,Kawahara M,Negoro S,Sugiura T,Yokohama A,Fukuoka M,Mori K,Watanabe K,Tamura T,Yamamoto S,Saijo N and The Japan Clinical Oncology Group.New England Journal of Medicine.346:85−91,2002
5) Schiller JH,Harrington D,Belani CP,Langer C,Sandler A,Krook J,Zhu J,Johnson DH and The Eastern Cooperative Oncology Group.New England Journal of Medicine.346:92−98,2002
6) Carr BI,Wang Z and Kar S.Journal of Cell Physiology.193:263−274,2002
7) Bouzahzah B,Nishikawa Y,Simon D and Carr BI.Journal of Cell Physiology.165:459−467,1995
8) Nishikawa Y,Carr BI,Wang M,Kar S,Finn F,Dowd P,Zheng ZB,Kerns H and Naganathan S.Journal of Biological Chemistry.270:28304−28310,1995
9) Yaguchi M,Miyazawa K,Katagiri T,Nishimaki J,Kizaki M,Tohyama K and Toyama K.Leukemia,11:779−787,1997
10) Yaguchi M,Miyazawa M,Otawa M,Katagiri T,Nishimaki J,Uchida Y,Iwase O,Gotoh A,Kawanishi Y and Toyama K.Leukemia,12:1392−1397,1998
11) Nishimaki J,Miyazawa K,Yaguchi M,Katagiri T,Kawanishi Y,Toyama K,Ohyashiki K,Hashimoto S,Nakaya K and Takiguchi T.Leukemia,13:1399−1405,1999
12) Miyazawa K,Yaguchi M,Funato K,Gotoh A,Kawanishi Y,Nishizawa Y,You A and Ohyashiki K.Leukemia,15:1111−1117,2001
13) Ohizumi H,Masuda Y,Nakajo S,Sakai I,Ohsawa S and Nakaya.Journal of Biochemistry.117:11−13,1995
14) Yaguchi M,Miyazawa K,Katagiri T,Nishimaki J,Kizaki M,Tohyama K and Toyama K.Leukemia,11:779−787,1997
15) 特開平6−305955号公報
16) 国際公開第03/105819号パンフレット
【発明の開示】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、肺癌患者に対して、有効性が高く、安全性に優れた薬剤および治療方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、臨床において、肺癌患者に対するメナテトレノンの投与により、肺癌の進行を抑制したこと及び肺癌腫瘍の増大を抑制することにより予後を改善できること、さらには長期間投与しても副作用を生じないことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下に関する。
(1)ビタミンK2またはその水和物を有効成分として含む肺癌用医薬組成物。
(2)肺癌治療または肺癌予後改善のための請求項1記載の医薬組成物。
(3)ビタミンK2またはその水和物を有効成分として含む医薬組成物を患者に有効量投与することを特徴とする肺癌の治療方法。
(4)ビタミンK2またはその水和物を有効成分として含む医薬組成物を患者に有効量投与することを特徴とする肺癌の予後改善方法。
(5)肺癌治療剤を製造するためのビタミンK2またはその水和物の使用。
(6)肺癌予後改善剤を製造するためのビタミンK2またはその水和物の使用。
上記(1)〜(6)において、ビタミンK2はメナテトレノンであってもよい。
本発明により、肺癌の治療剤および予後改善剤としてのビタミンK2、好ましくはメナテトレノンの有効性が確認された。本発明の治療剤および予後改善剤を用いて、肺癌患者の治療および予後の改善が可能となった。
また、本発明により、肺癌患者に対するビタミンK2、好ましくはメナテトレノンの治療剤および予後改善剤としての有効性に加え、ビタミンK2、好ましくはメナテトレノンが長期間投与しても極めて高い安全性が期待できることから、長期間治療を続けることにより、肺癌患者の生活の質を大きく改善することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
図1は、メナテトレノン処理による細胞増殖抑制を示したグラフである。図1に示すように、メナテトレノン処理により、用量依存的に細胞増殖が抑制された。
図2は、メナテトレノン処理による形態学的変化を示したものである。図2に示すように、メナテトレノン処理により、アポトーシスが起こっている細胞に典型的な形態学的変化が観察された。
図3は、メナテトレノン処理によるアポトーシス誘導を示したものである。図3に示すように、メナテトレノン処理により、APO2.7陽性細胞およびカスパーゼ3(カスペース−3)活性が増加した。
図4は、メナテトレノン処理によるG0/G1 arrestを示したグラフである。図4に示すように、メナテトレノン処理により、G0/G1期の細胞集団が増加した。
図5は、メナテトレノンおよびCDDP処理による細胞増殖抑制における併用効果を示したグラフである。図5に示すように、メナテトレノンおよびCDDP処理により、細胞増殖抑制における併用効果が観察された。
図6は、メナテトレノン投与後のcytokeratin 19 fragment(CYFRA21−1)の推移を示したグラフである。図6に示すように、メナテトレノン投与により、CYFRA21−1が36.6ng/mLから16.1ng/mLに低下した。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に本発明の実施の形態について説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施をすることができる。
なお、本明細書において引用した文献、および公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込むものとする。
1.本発明の概要
本発明者は、臨床において、代表的なビタミンK2であるメナテトレノンの投与により肺癌の進行を抑制するという知見、及び肺癌腫瘍の増大を抑制することにより予後を改善できるという知見、さらには長期間投与しても副作用を生じないという知見を見出し、本発明を完成するに至った。したがって、本発明は、ビタミンK2、好ましくはメナテトレノンを有効成分として含む医薬組成物、特に肺癌治療剤および肺癌予後改善剤に関するものである。また、ビタミンK2、好ましくはメナテトレノンを有効成分として含む医薬組成物を患者に有効量投与することを特徴とする、肺癌の治療方法および肺癌予後改善方法、ならびに肺癌治療剤および肺癌予後改善剤を製造するためのビタミンK2、好ましくはメナテトレノンの使用も本発明の範囲である。ビタミンK2、好ましくはメナテトレノンの水和物も本発明の範囲である。
2.ビタミンK2
ビタミンK2(メナキノン、menaquinone)は、生体中において腸内細菌により合成されるため、構造の類似する種々の同属体が存在することが知られている。メナキノンの構造式を以下の式(I)に示す。

式(I)中、nは1〜7の整数を示す。本発明で使用するビタミンK2のうち、好ましくは代表的なビタミンK2である、n=4(メナキノン−4)のオールトランス体、メナテトレノンである。
本発明で使用するメナテトレノンとは、化学名2−メチル−3−テトラプレニル−1,4−ナフトキノン(2−methl−3−tetraprenyl−1,4−naphthoquinone)であり、その構造式を以下に示す。

メナテトレノンは黄色の結晶または油状の物質であり、におい及び味はなく、光により分解しやすい。また、水にはほとんど溶けない。メナテトレノンは、ビタミンK−II、ビタミンK2(VK2)、VK−II、とも称され、本明細書中において「VK2」と称する場合がある。
メナテトレノンなどのビタミンK2の薬理作用は、血液凝固因子(プロトロンビン、VII、IX、X)の生合成過程において、グルタミン酸残基を、生理活性を有するγ−カルボキシグルタミン酸に変換する際のカルボキシル化反応に関与するものである。すなわち、メナテトレノンなどのビタミンK2の薬理作用は、正常プロトロンビン等の肝合成を促進し、生体の止血機構を賦活して生理的に止血作用を発現するものである。
本発明の医薬組成物の有効成分であるビタミンK2、好ましくはメナテトレノンは、無水物であってもよいし、水和物を形成していてもよい。また、メナテトレノンには結晶多形が存在することもあるが特定の結晶形に限定されず、いずれかの結晶形が単一であってもよいし、結晶形混合物であってもよい。さらに、本発明で使用するビタミンK2、好ましくはメナテトレノン、またはその水和物が生体内で分解されて生じる代謝物も本発明に包含される。
本発明に使用するビタミンK2またはその水和物は、公知の方法で製造することができ、代表的な例としては、特開昭49−55650号公報に開示される方法によって、容易に製造することができる。また、合成メーカーから市販品として入手することもできる。
また、本発明に使用するメナテトレノン、またはその水和物も、公知の方法で製造することができ、代表的な例として、特開昭49−55650号公報に開示される方法によれば容易に製造することができるほか、合成メーカーから容易に入手することもできる。また、メナテトレノンはカプセル剤(例えば、「ケイツーカプセル」、「グラケーカプセル」(以上、エーザイ株式会社製))、注射剤(例えば、「ケイツーN注」(エーザイ株式会社製))、シロップ剤(例えば、「ケイツーシロップ」(エーザイ株式会社製))等の製剤としても入手できる。
さらに、本発明に使用するビタミンK2には、体内で代謝されてビタミンK2、好ましくはメナテトレノンとなる物質を投与することもできる。体内で代謝されてメナテトレノンとなる物質は特に限定されず、例えば、ビタミンK1、フィトナジオン等が挙げられる。フィトナジオンはケーワンカプセル(商品名)(エーザイ株式会社製)、ケーワン錠(商品名)(エーザイ株式会社製)またはケーワン散(商品名)(エーザイ株式会社製)として入手することができる。
3.肺癌用医薬組成物
本発明は、ビタミンK2、好ましくはメナテトレノン、またはその水和物を有効成分として含む肺癌用医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、例えば、肺癌治療剤および肺癌予後改善剤として使用できる。
本発明において「肺癌」には、腺癌(adenocarcinoma)、扁平上皮癌(squamous cell carcinoma)、腺扁平上皮癌(adenosquamous carcinoma)、大細胞癌(large cell carcinoma)、小細胞癌(small cell carcinoma)等が含まれる(日本肺癌学会(編).臨床・病理、肺癌取扱い規約、改訂第5版.東京:金原出版、1999、下里幸雄.WHO肺ならびに胸膜腫瘍組織型分類第三版の解説:肺上皮性腫瘍について.肺癌2000;40:1−10.)。本発明において、肺癌の病期は特に限定されるものではない。例えばTNM分類により分類される各ステージ(stage IA,IB,IIA,IIB,IIIA,IIIB,IV)のものが含まれる。
本発明において「肺癌治療剤」とは、上記の肺癌に罹患した患者の肺癌進行を抑制する作用、肺癌腫瘍を消失させる作用、または腫瘍の増大を抑制する作用を有する肺癌用医薬組成物をいう。
本発明において「予後」とは、病気の経過や結末を意味する。本発明において「肺癌予後改善剤」は、肺癌の進行を抑制する作用または肺癌腫瘍の増大を抑制する作用を有する肺癌用医薬組成物を意味する。
本発明の治療剤および予後改善剤は、長期間にわたり投与しても重篤な副作用を生じないため、良好な生活の質を維持することができる点においても有用である。
本発明の医薬組成物の効果は、胸部レントゲン写真、胸部CT等の所見や生検の病理組織診断により、あるいは腫瘍マーカーの値により判断することができる。前記の腫瘍マーカーは、例えば、非小細胞肺癌ではCYFRA21−1を挙げることができる。
本発明の医薬組成物は、ビタミンK2、好ましくはメナテトレノン、またはその水和物をそのまま用いてもよいし、または、公知の薬学的に許容できる担体等(例:賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤等)、一般に医薬品製剤の原料として用いられる成分を配合して慣用される方法により製剤化してもよい。また、必要に応じて、ビタミン類、アミノ酸等の成分を配合してもよい。製剤化の剤形としては、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、パップ剤等があげられるが、これらに限定されるものではない。
また、本発明においては、ビタミンK2、好ましくはメナテトレノン、またはその水和物を有効成分として含む医薬組成物の投与形態は特に限定されないが、経口的に投与することが好ましい。メナテトレノンのカプセル剤は商品名ケイツーカプセル(エーザイ株式会社製)、グラケーカプセル(エーザイ株式会社製)として、またシロップ剤は商品名ケイツーシロップ(エーザイ株式会社製)として、注射剤は商品名ケイツーN注(エーザイ株式会社製)として入手することができる。
さらに、上述のように本発明に使用するビタミンK2には、体内で代謝されてビタミンK2、好ましくはメナテトレノンとなる物質(例えば、ビタミンK1、フィトナジオン等)を用いることもできる。フィトナジオンのカプセル剤は商品名ケーワンカプセル(エーザイ株式会社製)として、また、錠剤は商品名ケーワン錠(エーザイ株式会社製)として、散剤は商品名ケーワン散(エーザイ株式会社製)として入手することができる。
また、本発明には、肺癌治療剤または肺癌予後改善剤を製造するための、ビタミンK2、好ましくはメナテトレノン、またはその水和物の使用も含まれる。
ビタミンK2、好ましくはメナテトレノン、またはその水和物を有効成分として含有する本発明の医薬組成物は、肺癌治療および肺癌予後改善に有用である。すなわち、本発明は、ビタミンK2、好ましくはメナテトレノン、またはその水和物を有効成分として含む医薬組成物を、肺癌の患者に有効量投与することを特徴とする肺癌の治療方法および肺癌の予後改善方法を提供するものである。
本発明において、ビタミンK2、好ましくはメナテトレノン、またはその水和物の有効な投与量(有効量)としては、成人(体重60kg)あたり、通常、10〜200mg/日であり、好ましくは15〜135mg/日であり、さらに好ましくは30〜60mg/日(例えば45mg/日)である。投与期間は、特に限定されるものではなく、例えば、1〜1000日、好ましくは7〜300日である。投与期間は、肺癌の治療効果または予後改善効果と患者の状態(例えばPerformance status)とを勘案しながら、適宜設定することができる。
これらの用法及び用量で本発明の医薬組成物を患者に投与すると、副作用を生じることなく(副作用が生じても患者に影響のない微弱な程度である)、肺癌の治療効果または予後改善効果を得ることが可能である。
【実施例】
以下に、具体的な例をもって本発明を示すが、本発明はこれに限られるものではない。また、実施例中、メナテトレノンを「VK2」と称する場合がある。
[実施例1]メナテトレノンによる肺癌細胞株の増殖抑制
本実施例では、6種の肺癌細胞株において、メナテトレノンの増殖阻害効果を試験した。
[細胞株]
急性白血病細胞株(Acute Leukemia Cell Line)(HL−60)、小細胞肺癌細胞株(Small Cell)(LU−139、LU−130)、肺扁平上皮癌細胞株(Squamous)(LC−AI、LC−1/sq)、肺腺癌細胞株(Adenocarcinoma)(PC−14、CCL185)および大細胞肺癌細胞株(Large Cell)(IA−LM)は、American Type Culture Collection(Rockville,MD)より購入した。細胞は、10%FCS(Hyclone,Logan,UT)、2mM L−glutamine、penicillin(50U/mL)、streptomycin(100μg/mL)を添加したRPMI1640(GIBCO,Grand Island,NY)(以下、培養メディウムと称する場合がある)を用いて継続培養することにより維持した。指数関数的に増殖している細胞を以下の実験に用いた。
[試薬および抗体]
メナテトレノンは、エーザイ株式会社(Tokyo,Japan)より購入した。シスプラチン(Cisplatin、以下、CDDPと称する場合がある)は、日本化薬株式会社(Tokyo,Japan)より購入した。PC5−conjugated APO2.7モノクローナル抗体(mAb:clone 2.7、以下、APO2.7と称する場合がある)は、アポトーシスが起こっている細胞に特異的に発現する7A6抗原に反応するものであり、Immunotech(Marseille,France)より購入した。
[生細胞数の評価]
肺癌細胞株をさまざまな濃度(0.1〜500μM)のメナテトレノンに96時間さらした後、培養した細胞を回収し、フローサイトメトリーにより生細胞数を確認した。生細胞数は、EPICS XL II(Beckman−Coulter Japan,Tokyo,Japan)を用いてフローサイトメトリーにより分析した。
より具体的には、LC−AI、LC−1/sq、PC−14、CCL−185およびIA−LMにおいては、さまざまな濃度(0.1〜500μM)のメナテトレノンに96時間さらした細胞およびメナテトレノンにさらしていない細胞を、それぞれ室温で5分から10分の間トリプシン−EDTA溶液(GIBCO,Grand Island,NY)でインキュベートした。次に、当該細胞を回収し、回収した細胞を培養メディウムで1回洗浄し、完全な細胞懸濁液を得るために、当該細胞をプラスティックシリンジを用いて23G注射針に3回通した。
LU−139およびLU−130においては、さまざまな濃度(0.1〜500μM)のメナテトレノンに96時間さらした細胞およびメナテトレノンにさらしていない細胞を、それぞれ遠心により回収し、室温で5分間トリプシン−EDTA溶液(GIBCO,Grand Island,NY)でインキュベートした。完全な細胞懸濁液を得るために、当該細胞をプラスティックシリンジを用いて23G注射針に3回通し、PBSにより再懸濁した。
HL−60においては、さまざまな濃度(0.1〜500μM)のメナテトレノンに96時間さらした細胞およびメナテトレノンにさらしていない細胞を、それぞれ遠心により回収した。完全な細胞懸濁液を得るために、当該細胞をプラスティックシリンジを用いて23G注射針に3回通し、PBSにより再懸濁した。
次に、当該細胞を、30分間、4℃にて、1%propiodium iodide(PI)(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO)を含む溶液で染色した。
初めに、各々の細胞株の生細胞を検出するためのサイトグラムのゲーティリングエリアを、PI染色陰性エリア(生細胞を示す)並びに前方および側方散乱光密度にしたがって設定した。次に、細胞を、均一な細胞懸濁液を得るために静かにピペッティングし、フローサイトメトリーに導入した。生細胞のためのゲーティリングエリア内の細胞数を、各々の細胞株において60秒間測定した。
結果を図1に示す。各グラフの縦軸は生細胞の相対数(Relative Cell Number)(%)を、横軸はメナテトレノン(VK2)の濃度を表す。メナテトレノンは、HL−60と同様に用量依存的にすべての肺癌細胞株の細胞増殖を抑制した(図1)。すべての細胞株において有意な増殖抑制がメナテトレノン処理により観察され、IC50は、7.5〜75μMであった。
[実施例2]メナテトレノンによる肺癌細胞株のアポトーシス誘導
本実施例では、肺癌細胞株における増殖抑制がアポトーシス誘導によるものかどうかを試験した。
細胞培養および懸濁液の調製は、実施例1と同様に行った。形態学的変化を観察するために、Shandon Cytospin 2(Shandon Inc.,Pittsburgh,PA)を細胞懸濁液に使用し、定法によりプレパラートの細胞(prepared cells)をMay−Giemsa染色(May−Giemsa staining)した。細胞は、LU−139(小細胞肺癌細胞株:Small Cell)、LC−AI(肺扁平上皮癌細胞株:Squamous)およびPC−14(肺腺癌細胞株:Adenocarcinoma)を用いた。
図2上段のパネルは対照細胞株(Control)を、下段のパネルはメナテトレノン処理細胞株(VK2(+))を示す。メナテトレノンに96時間さらした(96hr exposure)各々の細胞株(LU−139およびLC−AIは10μM、PC−14は50μMのメナテトレノン)は、アポトーシスを誘発している細胞に典型的な形態学的変化(例えばアポトーシス小体の形成、核の断片化等)を示した(図2)。
アポトーシスを誘発している細胞の百分率を評価するために、APO2.7を用いてフローサイトメトリーにより解析した。
カスパーゼ3活性(Caspase−3 Activity)は、PhiPhiLux−G6D2を含む基質試薬キット(OncoImmunin,College Park,MD)を用いてフローサイトメトリーによって評価した。メナテトレノン処理後、細胞を、PBSで洗浄し、37℃、60分間、基質試薬とインキュベートした。カスパーゼ3活性は、蛍光をFL2チャンネル(励起波長488nm)にてフローサイトメトリーを用いて分析することにより測定した。細胞は、LU−139(小細胞肺癌細胞株;Small Cell)およびLC−AI(肺扁平上皮癌細胞株:Squamous Cell)を用いた。
図3の上段の各グラフは対照細胞群(Control)の結果を、また下段の各グラフはメナテトレノン処理細胞群(VK2)の結果を示す。各グラフの縦軸は生細胞の相対数(Relative Cell Number)(%)を表す。「afa」は、自家蛍光強度(auto−fluorescence activity)を意味し、図中の%で表した数字は、APO2.7またはカスパーゼ3(カスペース−3)活性陽性細胞の百分率を意味する。10μMのメナテトレノンに96時間さらした各々の細胞株(LU−139およびLC−AI)では、有意にAPO2.7に染色された細胞数およびカスパーゼ3活性が増加した(図3)。よって、メナテトレノンは、肺癌細胞株において、アポトーシスを誘導することが確認された。
[実施例3]メナテトレノンによる肺癌細胞株のG0/G1 arrest(停止)
本実施例では、LU−139およびHL−60を、メナテトレノン(VK2)に72時間さらした後、細胞周期を評価した。
細胞培養および懸濁液の調製は、実施例1と同様に行った。次に、細胞を固定し、1%PI、100μg/mL digitonin、0.01%NaN、200mg/mL RNase(Sigma)および2.5%FCSを含む溶液にて室温、10分間インキュベートすることにより染色した。細胞は、細胞周期分析プログラムMultiCycle AV(Phoenix Flow Systems Inc,San Diego,CA)を用いてフローサイトメトリーにより分析した。
その結果、LU−139において、HL−60と同様にメナテトレノンは、有意にG0/G1期における細胞集団を増加させた(図4、小ドット)。よって、メナテトレノンは、肺癌細胞株において、G0/G1 arrest(停止)を引き起こすことが確認された。
メナテトレノンによって処理された細胞のG0/G1期におけるLU−139の蓄積比率が、HL−60の蓄積比率よりも少ないのは、おそらくLU−139の倍加期間がHL−60の倍加期間よりも長いことによると思われる(LU−139は96時間であり、HL−60は24時間である)。
[実施例4]LU−139におけるメナテトレノンおよびCDDPの併用効果
本実施例では、LU−139におけるメナテトレノンおよびCDDPの併用効果を評価した。
LU−139を初めに0、5または10μMのCDDPに2時間さらし、次に、当該細胞をさらに0、5または10μMのメナテトレノン(VK2)に96時間さらした(96hrtreatment)。細胞培養、懸濁液の調製および生細胞数の測定は、実施例1と同様に行った。
結果を図5に示す。図5のグラフの縦軸は生細胞の相対数(Relative Cell Number)%を示す。
初めにCDDPにさらしていない細胞では、5μMのメナテトレノン処理は、処理していない細胞と比べいかなる効果も示さなかった(図5中、CDDP0μM群)。しかしながら、一度CDDPにさらした細胞では、5μMのメナテトレノン処理は、CDDP単独処理と比べ、有意な増殖阻害を示した(図5中、CDDP5、10μM群)。図5中、「a」は、p<0.05,無処理(対象)vsVK2単独を、「b」は、p<0.05,CDDP単独vsVK2+CDDPを、「c」は、p<0.05,VK2単独vsVK2+CDDPをそれぞれ意味する。
[実施例5]
本実施例では、以下の肺癌患者に対してメナテトレノンの投与試験を行った。
[症例]84歳 男性
[診断]原発性肺癌(低分化型腺癌、ステージIIb、T3N0N0)、慢性肺気腫を合併
[現病歴]2000年11月24日 血痰を主訴に呼吸器内科にて受診した。胸部レントゲン写真上、左中下肺野に5×4cm大の腫瘤性病変を認め、胸部CTでも右S8に6×5cm大の腫瘤性病変が観察された。経気管支肺生検を施行し、病理組織診断により低分化型腺癌と診断された。
2002年9月より、メナテトレノン(商品名グラケー:エーザイ株式会社製)45mg/日の経口投与を開始した。開始当初は、メナテトレノンによる明らかな効果は観察されなかったが、2002年11月には気管支の腫瘤による閉塞により生じていた右下葉無気肺の改善を認めた。また、非小細胞肺癌の腫瘍マーカーであるCYFRA21−1(正常値3.5ng/mL以下)が36.6ng/mLまで上昇していたが、2003年8月には16.1ng/mLまで低下していた(図6)。その間、胸部レントゲン写真上、腫瘤陰影の増大傾向も認めず、メナテトレノン投与開始後14カ月を経過した時点でも極めて良好なperformance statusを維持していた。また、メナテトレノン投与による副作用は観察されなかった。
胸部レントゲン写真上、腫瘤陰影の増大抑制が認められるとともに、腫瘍マーカーの一つであるCYFRA21−1の低下が認められ、かつ、肺癌診断後3年以上を経過した後においても極めて良好な生活の質を維持している。また、通常の抗癌剤投与時に出現する嘔吐、骨髄抑制等の副作用も観察されなかった。以上を総合的に判断すると、メナテトレノンは、肺癌治療において極めて有効であることが示された。
産業上の利用の可能性
本発明により、肺癌患者に対するビタミンK2、好ましくはメナテトレノン、またはその水和物の治療剤および予後改善剤としての有効性が確認され、肺癌患者の治療が可能となった。
また、本発明により、肺癌患者に対するビタミンK2、好ましくはメナテトレノン、またはその水和物の治療剤および予後改善剤としての有効性に加え、メナテトレノンが長期間投与しても極めて高い安全性が期待できることから、長期間治療を続けることにより、肺癌患者の生活の質を大きく改善することが可能となった。
【図1】

【図2】

【図3】


【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンK2またはその水和物を有効成分として含む肺癌用医薬組成物。
【請求項2】
肺癌治療または肺癌予後改善のための請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
ビタミンK2がメナテトレノンである、請求項1または2記載の医薬組成物。
【請求項4】
ビタミンK2またはその水和物を有効成分として含む医薬組成物を患者に有効量投与することを特徴とする肺癌の治療方法。
【請求項5】
ビタミンK2またはその水和物を有効成分として含む医薬組成物を患者に有効量投与することを特徴とする肺癌の予後改善方法。
【請求項6】
ビタミンK2がメナテトレノンである、請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
肺癌治療剤を製造するためのビタミンK2またはその水和物の使用。
【請求項8】
肺癌予後改善剤を製造するためのビタミンK2またはその水和物の使用。
【請求項9】
ビタミンK2がメナテトレノンである、請求項7または8記載の使用。

【国際公開番号】WO2005/077351
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【発行日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−518072(P2005−518072)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002665
【国際出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】