説明

キノン類の製造方法

【課題】微生物由来のキノン類、特にメナキノンを簡便かつ効率高く生産する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、多孔質担体の存在下で、キノン類を産生をする微生物を培養することを含む、キノン類の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノン類、好ましくはメナキノンを簡便かつ効率よく多量に生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体中には様々な分子が存在し、これらがお互いに、又は外界と相互作用することで、生体の維持に機能している。これらの中でもメナキノン、ユビキノン、プラストキノン、フィロキノンなどの様々なキノン類は、多くのものが生体中で電子伝達系のエネルギー産生系に関与する分子であり、極めて重要な分子である。さらにキノン類は補酵素としても働き、また抗酸化作用や様々や薬理作用を示すことが明らかになってきており、医薬品やさらには食品の機能性成分としての開発も行われており、近年非常に注目を浴びている化合物群である。
【0003】
これらのキノン類は、天然の食品にも含まれているが、その量は極めて少ないため、日常の食品の摂取によって必要十分量を充足することは難しい。そのため、化学合成法や発酵法によって得られたもの、生物などから抽出・精製したものなどを濃縮して用いているが、極めてコスト高であり、医薬品として用いられるものが殆どである。したがって、日常的に簡便に摂取できるものはまだ少ないのが現状である。また、キノン骨格を有する化合物は脂溶性で水に不溶又は難溶性であることが多く、食品等に加工するには、取扱が不便であった。
【0004】
キノン類の中でビタミンKは、側鎖の違いによりビタミンK1〜K7が知られ、それらの内ビタミンK1及びK2は天然に存在し、K3〜K7は人工合成によって得られたものである。ビタミンK1(フィロキノン)は主として植物に含まれ、ビタミンK2(メナキノン)は主として動物、微生物に含まれている。ビタミンKは古くから血液凝固系に関与することが知られていたが、血液凝固系に関与するビタミンK量は微少量であり、欠乏症状を示すことはほとんど無いため、これまであまり注目されてこなかった。近年、ビタミンKは骨量の維持に重要であることが判明し、骨粗しょう症の罹患者が増加する中、関心が高まっている。骨量維持に関与するビタミンK量は血液凝固系に関与する量に比べて多くが必要であり、骨粗しょう症の予防や治療には、1日あたり数〜数十mgのビタミンK量が必要となる。
【0005】
生物に含まれるキノン類の量は少なく、これを抽出するのは容易ではないが、メナキノン(ビタミンK2)については、微生物の枯草菌の1種である納豆菌が生産し、菌体外に分泌することが知られている。したがって、この性質を利用してメナキノンを生産しようとする試みが行われている。しかしながら納豆菌が生産するメナキノンはせいぜい数mg/Lと少量であり、納豆をそのまま食して所要量のメナキノンを補給するためには、数百gもの量で摂取する必要があり、現実的ではない。そこでこの問題を改良する方法が提案されている。
【0006】
特許文献1には、枯草菌を培養し、菌体内で生産されたビタミンK(メナキノン)が菌体外に放出される前に回収して菌体そのものを摂取すると、高い血漿中濃度の持続効果を示すことが記載されている。しかしながら、この方法ではメナキノンは菌体内にあるため、菌体そのものを摂取するか、菌体を破砕してメナキノンを回収するという煩雑な操作を行う必要があり、前者では風味の問題から、後者ではコストの面から、好ましいものではなかった。また、特許文献2には、大麦及び/又は該大麦の粉砕物を培地に用いて、Aspergillus属の糸状菌を培養した培養液を糖化後に中和して得られる調製液を培地に用いてメナキノン産生菌を培養するメナキノンの製造方法が記載されており、特許文献3には、大豆粉末、脱脂大豆粉末、豆乳のいずれか一種以上を含有させた溶液にグリセリンを加え、その後pHを調整した液体培地で納豆菌を培養する、メナキノンの製造方法が記載されている。しかしながらこれらの方法では、特殊な培地を用いるため高コストであり、また培地中に不純物が多量に残存し、培養前後の処理や精製に手間がかかるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−175号公報
【特許文献2】特開2001−333792号公報
【特許文献3】特開2002−315594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、微生物由来のキノン類、特にメナキノンを簡便かつ効率高く生産する方法を提供することである。
【0009】
本発明者らは、メナキノンを産生する納豆菌が、水溶性メナキノンを放出することに着目し、検討を重ねたところ、メナキノンがサーファクチンと複合体を形成して水溶性となっていることを発見した。そこで、この現象に着目し様々な条件での培養を試みたところ、多孔質担体の存在下に培養を行うと、意外にも、納豆菌が多孔質担体上にバイオフィルムを形成し、その中で大量にメナキノンを産生、放出することを発見し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1)多孔質担体の存在下で、キノン類を産生する微生物を培養することを含む、キノン類の製造方法。
(2)微生物がバイオフィルムを形成する微生物である、(1)記載の方法。
(3)微生物がバイオサーファクタントを産生する微生物である、(1)又は(2)記載の方法。
(4)微生物がバチルス属に属する微生物である、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【0011】
(5)微生物が枯草菌である、(4)記載の方法。
(6)微生物が納豆菌である、(5)記載の方法。
(7)培養液にバイオサーファクタントを添加することをさらに含む(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)キノン類がメナキノンである、(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9)培養を通気しながら行う、(1)〜(8)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、微生物由来のキノン類、特にメナキノンを簡便かつ効率高く生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】多孔質担体の有無によるメナキノン産生量の違いを示すグラフである。
【図2】バイオサーファクタントの有無によるメナキノン産生量の違いを示すグラフである。
【図3】バイオフィルム形成量とメナキノン産生量の関係を示すグラフである。
【図4】通気量によるメナキノン産生量の違いを示すグラフである。
【図5】培養方法によるメナキノン産生量の違いを示すグラフである。
【図6】多孔質担体を通じた通気により培養液を濃縮できることを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について具体的に説明する。本発明の方法は、キノン類を産生する微生物を、多孔質担体の存在下に培養し、バイオフィルムをより多く形成させるように増殖させ、それによって多量のキノン類を効率よく生産させることを特徴とする。
【0015】
本発明において、キノン類とは、キノン構造を有する化合物全般をさし、これらの内好ましくは、生物に対して何らかの活性を有するものをさす。そのようなキノン類としては、ユビキノン、プラストキノン、メナキノン、フィロキノン、ロドキノン、ピロロキノリンキノンなどが挙げられる。ユビキノン、フィロキノン及びプラストキノンは生物において光化学系(電子伝達系)に存在し、またメナキノン及びフィロキノンはそれぞれビタミンK2、ビタミンK1としても知られている。メナキノンは側鎖の構造の違いにより、メナキノン1〜14の分子種が存在し、メナキノン7(MK−7)は納豆菌によって生産されている。
【0016】
本発明で用いられる微生物は、キノン類を生産する性質を有する微生物であれば特に制限されない。そのような性質を有する微生物としては、フラボバクテリウム属に属する微生物、ロドシュードモナス属に属する微生物、コリネバクリウム属に属する微生物、ブレビバクテリウム属に属する微生物、又はバチルス属に属する微生物などが挙げられる。これらの中では枯草菌(Bacillus subtilis)が好ましく、特に菌体及び培養物の安全性が確立されている、納豆菌(Bacillus subtilis natto)を用いるのが最も好ましい。枯草菌としては、公知のもの、天然から取り出したもの、これらが変異したものなどを使用することができ、例えば、相良油田から単離した野生株B−1、バチルス・サブチリスDB9011株、バチルス・サブチリスMS−01株、バチルス・サブチリスC−3102株、バチルス・サブチリスBN株、バチルス・サブチリスNBRC3009株、バチルス・サブチリスNBRC3025株、バチルス・サブチリスNBRC3108株、バチルス・サブチリスNBRC3336株、バチルス・サブチリス168株、バチルス・サブチリス3610株及びバチルス・サブチリスATCC6633株などを使用できる。納豆菌としては、公知のものを使用することができ、市販の納豆に由来するものや、高橋菌(高橋祐蔵研究所製、山形)、成瀬菌(株式会社成瀬醗酵化学研究所製、東京)、宮城野菌(有限会社宮城野納豆製造所製、仙台)、朝日菌(株式会社朝日工業製、東京)、日東菌(株式会社日東薬品工業製、京都)、目黒菌(株式会社目黒研究所製、大阪)等の市販の納豆菌、又はFERM BP−6713株やATCC21332株のように寄託されたものを用いることもできる。
【0017】
又は、キノン類を生産する性質を有しないものでも、公知の方法によってキノン類を生産する性質を導入された微生物又はキノン類を生産するように改変された微生物を用いてもよい。そのような方法としては、微生物同士のかけ合せによる選択、放射線や化学物質などによる突然変異の惹起、遺伝子導入などが挙げられる。例えば、通常の納豆菌はメナキノン7を生産するが、ポリプレニル2リン酸脱水素酵素遺伝子等を導入することにより、メナキノン4を生産させることができる。
【0018】
上記の微生物の中でも、多孔質担体の存在下において培養すると、多孔質担体上にバイオフィルムを形成し、キノン類の生産が増加する性質を有するものが好ましく、さらにバイオサーファクタントを産生する性質を有するものがより好ましい。
【0019】
バイオフィルムとは、微生物の産生する細胞外多糖類が集積したもので、このバイオフィルム内では、微生物が共同体を形成し、浮遊培養時とは異なる性質を示したり、外部環境に対する抵抗性を獲得したりすることが知られている。バイオフィルムを形成する性質は、公知の方法によって導入又は改変されたものであってもよい。
【0020】
バイオサーファクタントとは、一般に微生物由来の様々な界面活性剤様物質をさし、ラムノリピド、ソフオロリピド、サーファクチン、アルスロファクチンなどが知られている。これらのバイオサーファクタントは、界面活性作用を有しながら、合成界面活性剤のような生物毒性や環境残留性がないといった有利な点がある。このバイオサーファクタントと共にキノン類を細胞外に分泌させると、脂溶性のキノン類が親水性の性質を有するようになり、取扱い性に優れるため、好ましい。バイオサーファクタントを産生する性質は、公知の方法によって導入又は改変されたものであってもよい。そのような方法としては、微生物同士のかけ合せによる選択、放射線や化学物質などによる突然変異の惹起、遺伝子導入などが挙げられる。バイオサーファクタントは培養環境中に外部から添加してもよいが、微生物自身が産生、分泌するバイオサーファクタントのほうが、効率よくキノン類の生産量を上げることができるため好ましい。また、微生物自身がバイオサーファクタントを分泌する場合でも、培養液にさらにバイオサーファクタントを添加することにより、より効率的にキノン類を製造することができる。その場合、バイオサーファクタントは、好ましくは、培養液中10〜1000μM、好ましくは100〜200μMとなるように添加する。
【0021】
本発明において用いられる多孔質担体としては、ガラス、石英、セラミックス、ベントナイト、ゼオライト、軽石、Al、ZrO、TiO、MgO、SiO、CaCO及びゼオライトなどの無機化合物、ならびに、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂及びエポキシ樹脂などのプラスチック、多糖類などからなる繊維、及びニトロセルロ−ス、ナイロンなどの多孔質膜などの有機化合物が挙げられる。これらの中で本発明の培養に適した性質である、酸やアルカリに安定で、通気性に優れ、撥水性を有するものが好ましい。
【0022】
多孔質担体の空隙率は、例えば、70〜99%程度、好ましくは75〜97%程度、より好ましくは80〜95%程度である。また、細孔径は2μm〜2mm程度、好ましくは5μm〜1mm程度である。
【0023】
上記のような性質を有する多孔質担体上で、本発明の微生物は効率よくキノン類を生産することができる。しかも、この多孔質担体は物質的に安定で、安全性に問題がある化学物質などを培養液中に放出することも無い。また、固体の形態のまま安定で溶解などしないため、固液分離など周知の操作により、生産物であるキノン類が含まれている培養物と容易に分離することができる。また、多孔質担体上でバイオフィルムを形成する微生物を用いる場合には、バイオフィルム中にも多量のメナキノンが含まれるが、これを取り出すことは、多孔質担体と培養液を分離することで容易に達成できる。したがって、本発明の生産方法は、培養液中に特殊な成分を分散・懸濁・溶解させる方法に比べて、培養後の精製操作が容易であるため、極めて有利な方法である。
【0024】
なお、本明細書において培養物という用語は、培養によりキノン類を生産した後の、キノン類が含まれる培養液やバイオフィルムを総称したものであり、生産の状況や環境などにより、培養液単独、バイオフィルム単独又はこれらの混合物、さらには、これらを精製、乾燥などの工程を行ったものなども含まれる。培養物には、菌体が含まれていてもよい。
【0025】
微生物の培養方法は、使用する微生物の資化性、培養や生産を行う環境、生産スケールなどに合わせて、公知の方法を適宜選択して用いることができる。培地は天然又は合成の、液体培地、固体培地、ゼラチン培地などを用いることができ、デンプン、グルコースなどの炭素源、肉エキス、ポリペプトンなどの窒素源、ナトリウム、カリウムなどのミネラルなどを含有するものであれば、いずれであってもよく、生成したキノン類の精製のし易さなどからは、合成液体培地を用いるのが好ましい。培地のpHは、本発明の微生物が好適に増殖し、キノン類を生産する条件であれば、取扱い性などを考慮して適宜設定することができる。一般的には、pH範囲としては、6.0〜9.0、好ましくは6.5〜8.0である。
【0026】
培養条件についても、使用する微生物の種類、菌株及び培地の組成によって、適宜選択することができ、使用する微生物が増殖し、キノン類を生産できる条件であれば特に制限されない。一般的には、培養温度は20〜45℃、好ましくは30〜42℃であり、培養時間は6時間〜14日間、好ましくは20時間〜4日間である。
【0027】
本発明において、多孔質担体を用いて効率よく培養を行うためには、振盪培養に比べて、静置培養を行うことが好ましい。この理由は不明であるが、微生物が多孔質担体上でバイオフィルムをより効率的に形成し、バイオフィルム内で微生物が生産したキノン類が、バイオサーファクタントと複合体を形成して高濃度に蓄積することが関係する可能性が考えられる。静置培養には、培養開始から終了まで通して静置する方法と、最初は振盪培養を行い、途中から静置に切り替える方法があり、このいずれでもよい。一般的に微生物は対数増殖期までは自己増殖にエネルギーを消費し、定常期に入ってから各種の物質産生や菌体外分泌を行うと考えられるから、定常期の初期まで振盪培養し、その後静置培養に切り替えて定常期にすると、効率よくキノン類を産生させることができる。
【0028】
本発明において培養を行う場合、特に静置培養を行う場合には、培養液に通気を行うことが好ましい。その際、チューブ状の形態の多孔質担体を使用し、多孔質担体を通じて通気することがさらに好ましい。多孔質担体に通気しながら培養を行うと、静置培養においても培養液が適度に攪拌されて栄養成分の利用効率が上昇すると共に、培養液の濃縮が行われ、その結果より高濃度のキノン類を含有する培養物を得ることができる。
【0029】
さらに、多孔質担体を用いることで連続的に培養を行い効率良く培養物を得ることができる。すなわち、バイオフィルムは多くが多孔質担体に付着し、そのバイオフィルム中にキノン類が高濃度に蓄積されるため、培養終了後にバイオフィルムが付着した多孔質担体を取り出し、培養液は廃棄せず、新規な多孔質担体を培養液中に投入し、培養に必要な栄養素を新規追加することで、新たな培養が開始できる。一方、取り出した多孔質担体を新規な培養液中に投入すると、ここでも新たな培養が開始し、培養液中にメナキノンが生産されてくる。このような連続培養法を用いれば、1)培養液を廃棄する必要が無い、2)微生物を新規に追加する必要が無い、3)培養容器の洗浄工程が必要無いなど、生産効率が高まるとともに環境面においても有効な生産方法である。
【0030】
本発明の培養物からキノン類を回収及び精製する方法は、適宜公知の方法によって、行うことができる。本発明では、培養物のうちバイオフィルムからキノン類を回収及び精製することにより、より高濃度でキノン類を回収することができる。
【0031】
培養液からキノン類を精製する場合は、液−液抽出法、吸着法、蒸留法、クロマトグラフィー法などを適用でき、さらに上記操作を組み合わせてもよい。液−液抽出法は、炭化水素、アルコール、エーテル、エステル、ケトンなどの有機溶媒を用いて、キノン類を抽出、分配させる方法である。吸着法は、炭素系などの吸着剤にキノン類を吸着させ、共雑物を除去した後にキノン類を溶出させる方法である。蒸留法はキノン類と夾雑物の沸点差を利用して分離する方法であるが、キノン類は高温において分解するため、分子蒸留法などの低温で実施可能な蒸留法を適用するのが好ましい。クロマトグラフィー法は、キノン類と、カラムに充填した固相担体及び移動相との相互作用により分離する方法である。
【0032】
バイオフィルム中のキノン類を精製する場合、バイオフィルムは多孔質担体に付着していることから、まず培養層から多孔質担体を取り出し、ついでこの担体から物理的にこそげ取る方法や水性液体中で超音波によって剥がす方法等を用いてバイオフィルムを分離すればよい。さらにキノン類を精製したい場合には、この分離したバイオフィルムに対して、上記の培養液からキノン類を精製する各種方法を適用することができる。
【0033】
本発明で得られた培養物は、特に安全性が確認されている微生物を用いて生産されたものであれば、培養物そのものを医薬品、食品、又は飼料組成物に添加してもよい。摂取する量は、目的とする効果と含有するキノン類の種類、含有量を考慮して適宜設定することができる。例えば、キノン類がユビキノン(コエンザイムQ10)である場合には、医薬品組成物として摂取する場合、うっ血性心不全症状患者を対象に、1日量30mgを摂取させればよく、健康食品として健常人に摂取させる場合には、1日量10〜50mg程度を目安に摂取させればよい。また、キノン類がメナキノン(例えば、MK−4やMK−7)である場合には、医薬品組成物として摂取する場合、出血性の疾患を有する患者を対象に、1日量5〜20mgを摂取させればよく、骨粗しょう症の予防のための健康食品として健常人に摂取させる場合には、1日量30〜100mg程度を目安に摂取させればよい。
【0034】
本発明で得られたキノン類又は培養物を有効成分とする医薬組成物を調製する場合、通常は薬学的に許容される担体を含む製剤として調製する。医薬組成物は、経口、経腸又は経肛門にて投与される。添加剤や、他の公知の機能性成分などを配合してもよい。
【0035】
医薬組成物の剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、液剤及び懸濁剤などの経口剤、ならびに吸入剤及び坐剤などの経腸製剤などが挙げられる。これらのうちでは、経口剤が好ましい。
【0036】
このような剤型の医薬組成物には、上述のキノン類又は培養物に、慣用される賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、アルコール、水、水溶性高分子、甘味料、矯味剤及び酸味料などの添加剤を剤型に応じて配合できる。なお、液剤及び懸濁剤などの液体製剤は、服用直前に水又は他の適当な媒体に溶解又は懸濁する形であってもよく、また錠剤及び顆粒剤の場合には周知の方法でその表面をコーティングしてもよい。
【0037】
医薬組成物において、有効成分であるキノン類又は培養物の含有量は、その剤型により異なるが、乾燥質量を基準として、通常は、1〜99質量%の範囲内、好ましくは5〜80質量%の範囲内であり、上述した成人1日当たりの摂取量を摂取できるよう、1日当たりの投与量が管理できる形にすることが望ましい。
【0038】
本発明で得られたキノン類又は培養物を食品組成物に添加する場合、その食品組成物の形態は特に制限されず、健康食品、機能性食品及び特定保健用食品などの他、上記キノン類又は培養物配合できるすべての食品が含まれる。具体的には、特定保健用食品では、経管経腸栄養剤などの流動食、錠剤、錠菓、チュアブル錠、粉剤、カプセル剤、顆粒剤などの各種製剤形態とすることができ、これらは前述の医薬組成物と同様の方法で製造することができる。食品には飲料も包含され、飲料の具体例としては、栄養補助食品(ドリンク剤など)、茶飲料(緑茶、ウーロン茶及び紅茶など)、清涼飲料、ゼリー飲料、スポーツ飲料、乳飲料、炭酸飲料、果汁飲料、乳酸菌飲料、発酵乳飲料、粉末飲料、ココア飲料、コーヒー飲料、精製水などが挙げられる。さらに、食品は、スプレッド類(バター、ジャム、ふりかけ、マーガリンなど)、マヨネーズ、ショートニング、カスタードクリーム、ドレッシング類、パン類、米飯類、麺類、パスタ、味噌汁、豆腐、牛乳、ヨーグルト、スープ、ソース、菓子(例えば、ビスケット、クッキー、チョコレート、キャンディ、ケーキ、アイスクリーム、チューインガム、タブレット)などとして調製してもよい。
【0039】
食品に、キノン類又は培養物のほかに、食品や飼料の製造に用いられる他の食品素材、各種栄養素、各種ビタミン、ミネラル、アミノ酸、各種油脂、食物繊維、種々の添加剤(例えば、呈味成分、甘味料、有機酸などの酸味料、界面活性剤、pH調整剤、安定剤、酸化防止剤、色素、フレーバー)などを配合してもよい。また、通常食されている食品にキノン類又は培養物を配合してもよい。
【0040】
本発明で得られたキノン類又は培養物を食品組成物に添加する場合、キノン類又は培養物の含有量は、食品の形態により異なるが、乾燥質量を基準として、通常は、0.5〜80質量%の範囲内、好ましくは1〜60質量%の範囲内、より好ましくは3〜50質量%の範囲内である。1日当たりの摂取量は、1回で摂取してもよいが、数回に分けて摂取してもよい。上述した、成人1日当たりの摂取量が飲食できるよう、1日当たりの摂取量が管理できる形にするのが好ましい。
【0041】
食品には、ヒト用の食品のみならず、家畜及び競走馬などの飼料、ならびにペットフードなども包含される。飼料は、対象が動物であることを除いて、食品とほぼ等しいことから、本明細書における食品に関する記載は、飼料についても同様に当てはめることができる。
【0042】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
以下の実施例において、本発明の培養物中のメナキノンの抽出及び測定は以下のようにして行った。
【0044】
メナキノンの抽出
培養液又はバイオフィルムを蒸留水に溶解した液を遠心(12000rpm、4℃、10分)し、上清2.5mLをとり、これにイソプロパノール2.5mL及びヘキサン2.5mLを添加し、よく攪拌した。攪拌後、静置すると2層に分離したので、上層(ヘキサン層)を回収し、減圧条件下でヘキサンを除去した。なお、操作は可能な限り氷冷、遮光条件で行った。
【0045】
メナキノンの測定
上記でヘキサン除去後の培養物をメタノール200μLに溶解し、測定用サンプルとし、下記の条件で高速液体クロマトグラフィー法を用いてメナキノン量を測定した。なお、測定は、メナキノンを還元してメナキノールとし、蛍光法を用いて行った。
分離カラム:COSMOSIL 5C18−MS−II
還元カラム:Platinum−Alumina Column
カラム温度:25℃
検出器 :励起波長240nm、検出波長430nm
移動相 :メタノール:2−プロパノール=8:2
流速 :1.0mL/min
【0046】
また、微生物の菌体外に分泌されず菌体内に存在するメナキノンについても以下のように測定を行った。
【0047】
菌体内メナキノンの抽出と測定
培養液又はバイオフィルムを蒸留水に溶解した液を遠心(12000rpm、4℃、10分)し、上清を除去した。沈殿に1%塩化ナトリウム水を1mL加えて振盪して懸濁し、遠心(12000rpm、4℃、5分)し、上清を除去した。沈殿に滅菌水1mL、メタノール2.5mL、クロロホルム1.25mLを加えて振盪し、静置した。クロロホルム1.25mLを加えて振盪し、滅菌水1.25mLを加えて振盪し静置した。下層(クロロホルム層)を採取した。上層(水層)には、クロロホルム1mLを加えて振盪して静置し、下層(クロロホルム層)を採取し先のクロロホルム層と合一した。減圧条件下でクロロホルムを除去した。なお、操作は可能な限り氷冷、遮光条件で行った。メナキノン量の測定は、上記と同様に行った。
培養によって多孔質担体上に形成されるバイオフィルム量は、以下のように測定した。
【0048】
バイオフィルム量の測定
多孔質担体の存在下に培養を行い、培養終了後、多孔質担体を取り出した。これを蒸留水で2回洗浄し、0.1%のクリスタルバイオレット液中に25分間浸して多孔質担体に付着したバイオフィルムを染色した。余分なクリスタルバイオレット液を洗浄除去した。染色された多孔質担体を33%酢酸中に浸し、色素を抽出した。抽出液の595nmの吸光度を測定し、バイオフィルム量とした。
【0049】
実施例1 多孔質担体の有無によるメナキノン産生量の違い
50mL容のコニカルチューブ(バイオサイエンス社製)に、多孔質担体としてポリテトラフルオロエチレン製の多孔質チューブ(ポアフロンチューブTB−0403;住友電工ファインポリマー社製)を13cmの長さにカットしたものを1本入れ、ここに下記組成のLB培地30mLを加え、枯草菌(Bacillus subtilis)を滅菌水で希釈した液(OD600=0.3)を300μL接種した。接種後24時間、37℃で静置培養した。対照として、別に多孔質担体を入れず培養液のみで培養を行った。培養終了後、培養液中のメナキノン(MK)量を測定した。その結果を図1に示す。
培地組成(LB培地):Bacto Tryptone 10.0g/L、酵母エキス5.0g/L、塩化ナトリウム5.0g/L、pH=7.3
【0050】
図1の結果から、多孔質担体であるポアフロンチューブの存在下に培養を行うと、産生されるメナキノン量が飛躍的に増加することがわかる。
【0051】
実施例2 バイオサーファクタントによる産生量の違い
バイオサーファクタントであるサーファクチンを産生しない枯草菌(Bacillus subtilis)実験室株168(ATCC 6051)(sfp−)と、sfp−にサーファクチン合成遺伝子sfpを導入したsfp+株を用いて、産生するメナキノン量を比較した。sfp+株は、sfp−株に、サーファクチン合成遺伝子sfpを組み込んだプラスミドベクターを導入して作製した。培養は実施例1と同様に行い、sfp+株単独、sfp−株単独、及びsfp−株の培養液中にサーファクチンを添加したものを用いた。
【0052】
500mL容のコニカルチューブ(バイオサイエンス社製)に実施例1と同様にして調製したLB培地100mLを加え、sfp+株、sfp−株をそれぞれ1mL接種した。また、別に、sfp−株を1mL接種し、サーファクチンを終濃度116μMになるように溶解した(sfp+株の生産量と同量)。接種後16時間、37℃で振盪培養(120rpm)した。培養終了後、各コニカルチューブの菌体内と菌体外、すなわち培養物中のメナキノン量を測定した。その結果を図2に示す。
【0053】
図2の結果から、サーファクチンを生産しないsfp−株に比べて、培養液中にサーファクチンを添加すると、産生されるメナキノン(MK)量が増加することがわかる。サーファクチンを生産するsfp+株では、さらに大量のメナキノンを産生し、しかも菌体内だけでなく培養液中にも大量のメナキノンを産生、分泌することがわかる。
【0054】
実施例3 バイオフィルムによるメナキノン産生量の違い
実施例2で作製した、sfp+株とsfp−株を、実施例1と同様の条件で、多孔質担体の存在下に24時間まで静置培養し、産生されたメナキノン量を比較した。培養開始後4、8、12、16、20、24時間で培養液中のメナキノン量とバイオフィルムの形成量を測定した。その結果を図3に示す。
【0055】
図3の結果から、サーファクチンを生産しないsfp−株に比べて、サーファクチンを生産するsfp+株では、メナキノンの産生量が顕著に多いことがわかる。また、サーファクチンを生産しないsfp−株に比べて、サーファクチンを生産するsfp+株では、バイオフィルムがより多く形成されることがわかる。
【0056】
実施例4 通気量によるメナキノン産生量の違い
培養液に通気をすることによる影響を検討した。100mL容のメディウムビンに、多孔質担体としてポリテトラフルオロエチレン製の多孔質チューブ(ポアフロンチューブTB−0403;住友電工ファインポリマー社製)を13cm又は26cmの長さにカットしたものを1本入れ、ここにLB培地100mLを加え、枯草菌(Bacillus subtilis)を滅菌水で希釈した液(OD600=0.3)を300μL接種した。26cmの長さのポアフロンチューブを入れたビンには、ポンプを用いて、人工気象器を通過した45℃、湿度90%の空気を0、0.5、1L/minの流量で培養液中に通気した。接種後24時間、37℃で静置培養した。培養終了後、培養液中のメナキノン(MK)量を測定した。その結果を図4に示す。
【0057】
図4から、通気するほどメナキノンの生産量が多くなることがわかる。また、13cmの多孔質チューブに比べて26cmの多孔質チューブの方がキノン類の生産量が多かった。
【0058】
実施例5 培養方法によるメナキノン産生量の違い
静置培養と振盪培養の培養方法の違いによる影響を検討した。100mL容のメディウムビンに、多孔質担体としてポリテトラフルオロエチレン製の多孔質チューブ(ポアフロンチューブTB−0403;住友電工ファインポリマー社製)を13cmの長さにカットしたものを2本入れ、ここに下記組成のTSB培地100mLを加え、市販の納豆から単離した納豆菌(Bacillus subtilis natto)を滅菌水で希釈した液(OD600=0.9)を300μL接種した。ポンプを用いて、人工気象器を通過した45℃、湿度90%の空気を1L/minの流量で培養液中に通気させた。接種後24時間、37℃で静置培養又は振盪培養(120rpm)した。その結果を図5に示す。
培地組成(TSB培地):TSB(Tryptic Soy Broth;和光純薬工業製)30.0g/L、pH=7.4
図5から、静置培養の方がメナキノンの生産量が多くなることがわかる。
【0059】
実施例6 培養液の濃縮
培養液に通気するにあたり、多孔質担体を通じて通気した場合の影響を検討した。表1の条件で培養を行った。その結果を図6に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
図6から、多孔質担体を通じて通気すると、効率よく培養液を濃縮することができ、高濃度のメナキノン含有培養物を得られることがわかる。
【0062】
実施例7 培養液の精製
実施例6で得られたメナキノン含有培養物500gに対し、水を1000ml及びヘキサン2000mlを加え、30分間攪拌した。攪拌後、ヘキサン層を回収することで、粗精製メナキノン含有培養物を得た。粗精製培養物は次いで分子蒸留パイロット装置により蒸留精製を行った。蒸留は摂氏200〜250度で行われ、供給流量は約2〜3L/hに維持し、蒸留圧は2x10−4mbarで実施することで、残留物と蒸留精製物が得られ、それぞれの収率は72%及び18%(メナキノン純度95%以上)であった。これにより、この本発明の培養物を用いることで、簡便に高純度なメナキノンを得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質担体の存在下で、キノン類を産生する微生物を培養することを含む、キノン類の製造方法。
【請求項2】
微生物がバイオフィルムを形成する微生物である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
微生物がバイオサーファクタントを産生する微生物である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
微生物がバチルス属に属する微生物である、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
微生物が枯草菌である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
微生物が納豆菌である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
培養液にバイオサーファクタントを添加することをさらに含む請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
キノン類がメナキノンである、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
培養を通気しながら行う、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−30487(P2011−30487A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179141(P2009−179141)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名:日本農芸化学会 2009年度(平成21年度)大会 開催日:2009年3月28日 刊行物名:日本農芸化学会 2009年度(平成21年度)大会[福岡]講演要旨集 発行者:社団法人日本農芸化学会 掲載頁:107頁(2P0857A) 刊行物発行年月日:2009年3月5日
【出願人】(301049744)日清ファルマ株式会社 (61)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】