キメラE型ボツリヌス毒素
本発明は、E型ボツリヌス毒素の修飾軽鎖を含む毒素に関し、該修飾軽鎖はN-末端にアミノ酸配列 PFVNKQFN (配列番号144)を含み、C-末端にアミノ酸配列 xExxxLL (配列番号112) を含み、ここで、xはいずれのアミノ酸でもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
クロスリファレンス
本出願は2004年1月14日出願の出願番号10/757077の一部継続出願であり、出願番号10/757077は2002年6月4日出願の出願番号10/163106の一部継続出願であり、出願番号10/163106は、2001年7月20日出願の出願番号09/910346の一部継続出願であり、出願番号09/910346は、2000年7月21日出願の出願番号09/620840の一部継続出願である。これらすべての先行する出願は、その内容全体が引用により本明細書に含まれる。
【背景技術】
【0002】
背景
本発明は、修飾神経毒、特に、修飾クロストリジウム神経毒、および、天然ボツリヌス毒素を用いて治療されてきた症状を含む様々な症状の治療のためのその使用に関する。例えば、A型ボツリヌス毒素は、疼痛、骨格筋症状、平滑筋症状および腺症状を含む多くの症状の治療に用いられてきた。ボツリヌス毒素は美容目的にも用いられている。
【0003】
ボツリヌス毒素を用いる治療について多くの例が存在する。例えば疼痛の治療については、Aoki et al、米国特許第6113915号およびAoki et al、米国特許第 5721215号を参照されたい。神経筋障害の治療例としては、米国特許第5053005号を参照されたい。この特許は、若年の脊椎の彎曲、即ち、脊柱側弯症の、アセチルコリン放出阻害剤、好ましくはA型ボツリヌス毒素による治療を示唆している。斜視のA型ボツリヌス毒素による治療については、Eltson, J. S. et al、British Journal of Ophthalmology、1985,69、718-724および891-896を参照されたい。眼瞼痙攣のA型ボツリヌス毒素による治療については、Adnis, J. P., et al.,J.Fr.Ophthalmol.,1990,13 (5) p 259-264を参照されたい。痙攣性および顎口腔ジストニアの治療については、Jankovic et al., Neurology, 1987, 37,616-623を参照されたい。痙攣性発声障害もA型ボツリヌス毒素で治療されてきた。Blitzer, et al., Ann. Otol. Rhino. Laryngol, 1985, 94, 591-594を参照されたい。舌ジストニアは、Brin et al、Adv. Neurol. (1987) 50、599-608にしたがってA型ボツリヌス毒素で治療された。Cohen et al、Neurology (1987) 37 (Suppl. 1)、123-4は、A型ボツリヌス毒素による書痙の治療を開示している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
向上した生物学的持続性および/または向上した生物活性を有するボツリヌス毒素を得ることは有用であろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
要約
本発明は、E型ボツリヌス毒素の修飾軽鎖を含む修飾毒素に関し、ここで修飾軽鎖はN- 末端にアミノ酸配列、配列番号144 (PFVNKQFN)を、C- 末端にアミノ酸配列、配列番号112 (xExxxLL)を含み、ここでxはいずれのアミノ酸でもよい。
【0006】
定義
本発明の記載を進める前に、以下の定義を提供し、本明細書において用いる。
【0007】
「重鎖」は、クロストリジウム神経毒の重鎖を意味する。その分子量は約 100 kDaであり、本明細書において、重鎖またはHとして称される。
【0008】
「HN」は、クロストリジウム神経毒重鎖由来の重鎖のアミノ末端セグメントとほぼ同等のフラグメント(分子量約50 kDa)またはインタクトな重鎖におけるそのフラグメントに対応する部分である。それは、細胞内エンドソーム膜を通過する軽鎖の転位に関与している天然または野生型クロストリジウム神経毒の部分を含んでいると考えられている。
【0009】
「Hc」は、クロストリジウム神経毒の重鎖由来の重鎖のカルボキシル末端セグメントとほぼ同等のフラグメント (約 50 kDa)またはインタクトな重鎖におけるそのフラグメントに対応する部分である。それは、免疫原性であり、様々な神経細胞(運動神経細胞を含む)、および他のタイプの標的細胞への高親和性結合に関与する天然または野生型クロストリジウム神経毒の部分を含んでいると考えられている。
【0010】
「軽鎖」は、クロストリジウム神経毒の軽鎖を意味する。それは分子量約 50 kDaであり、軽鎖、L、またはクロストリジウム神経毒のタンパク分解ドメイン(アミノ酸配列)と称される。軽鎖は、軽鎖が標的細胞の細胞質に存在する場合、エキソサイトーシス阻害剤、例えば、神経伝達物質 (即ち アセチルコリン) 放出阻害剤として有効であると考えられている。
【0011】
「神経毒」は、神経細胞を含む細胞の機能に干渉することができる分子を意味する。「神経毒」は天然であっても人工であってもよい。干渉される機能(interfered with function)はエキソサイトーシスであり得る。
【0012】
「修飾神経毒」(または「修飾毒素」)は、構造的修飾を含む神経毒を意味する。換言すると、「修飾神経毒」は、構造的修飾によって修飾された神経毒である。構造的修飾は、修飾神経毒が作られたか修飾神経毒が由来する神経毒と比較して、修飾神経毒の生物学的持続性、例えば、生物学的半減期 (即ち神経毒の作用の持続性)および/または生物活性を変化させる。修飾神経毒は構造的に天然の神経毒と異なる。
【0013】
「突然変異」は、天然タンパク質または核酸配列の構造的修飾を意味する。例えば、核酸突然変異の場合、突然変異は、DNA 配列における1以上のヌクレオチドの欠失、付加または置換であり得る。タンパク質配列突然変異の場合、突然変異は、タンパク質配列における1以上のアミノ酸の欠失、付加または置換であり得る。例えば、タンパク質配列を構成する特定のアミノ酸を別のアミノ酸によって置換することが出来る。別のアミノ酸は、例えば、アミノ酸である、アラニン、アスパラギン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、スレオニン、バリン、トリプトファン、チロシンまたはいずれかのその他の天然または非天然アミノ酸または化学修飾アミノ酸を含む群から選択されるアミノ酸である。タンパク質配列に対する突然変異は、転写され、その結果得られるmRNAが翻訳されると突然変異タンパク質配列を生じるDNA 配列に対する突然変異の結果であり得る。タンパク質配列に対する突然変異は、所望のタンパク質配列に対する所望の突然変異を含むペプチド配列を融合することによって作ることも出来る。
【0014】
「構造的修飾」は、構造的修飾がなければ同一である神経毒から、物理的または化学的に異なるものとする神経毒に対するあらゆる改変を意味する。
【0015】
「生物学的持続性」または「持続性」とは、細胞、例えば、神経細胞からのエキソサイトーシス (例えば、神経伝達物質、例えば、アセチルコリンのエキソサイトーシス)の阻害の一時的持続を含む、細胞(例えば、神経細胞)機能に対する神経毒または修飾神経毒によって起こる干渉または影響の持続時間を意味する。
【0016】
「生物学的半減期」または「半減期」とは、神経毒または修飾神経毒、好ましくは神経毒または修飾神経毒の活性部分、例えば、クロストリジウム毒素の軽鎖、の濃度が哺乳類細胞、例えば、哺乳類神経細胞における元の濃度の半分に減少する時間を意味する。
【0017】
「生物活性」または「活性」は、阻害される単位時間当たりの細胞からの細胞エキソサイトーシス、例えば、神経細胞からの神経伝達物質のエキソサイトーシス、の量を意味する。
【0018】
「標的細胞」とは、神経毒または修飾神経毒に対する結合親和性を有する細胞 (神経細胞を含む)を意味する。
【0019】
「精製A」とは、150 kDaの毒素分子である、精製A型ボツリヌス毒素を意味する。
【0020】
図面の簡単な説明
図1:LC/A (Allergan Hall A)、LC/BおよびLC/EのN-末端配列の比較。dN-LC/Aは、 本発明者らのN- 末端欠失突然変異体において切断されているアミノ酸を示す。
【0021】
図2:Allergan Hall A LC/AのC-末端と、LC/Eの様々な株のC-末端との配列比較。四角の枠は、LC/Aに存在するジ-ロイシンモチーフを含む。この領域の配列は、すべてのLC/Eにおいて非常によく保存されており、ロイシンの代わりに2つのイソロイシンを含む。
【0022】
図3:LC/Aの局在化シグナルを LC/Eに付加することによって作成したLC/E キメラ。コンストラクトは、部位特異的変異誘発によりLC/EのC-末端にジ-ロイシンモチーフを組込み、LC/EのN-末端にLC/A のN- 末端を付加することにより作成した。
【0023】
図4:LC/Aからの局在化シグナルを含み、SH-SY5Y細胞において発現しているLC/E キメラのSNAP25の切断についての触媒活性。2つの別々のトランスフェクションを行い、両実験からのウェスタンブロットデータを図に示す。ブロットはSNAP25のN-末端に対する抗体 SMI-81を用いてプローブした。
【0024】
図5:GFP-LC/E キメラをコードするプラスミドをPC-12およびSH-SY5Y 細胞にトランスフェクトした。3つの別々の実験を行った。実験番号1は、一番上のパネル、実験番号2は中央のパネル、そして実験番号3は一番下のパネルである。細胞可溶化液を調製し、発現タンパク質の検出のためにGFPに対する抗体を用いた免疫沈降 (各パネルの一番上のゲル)に供した。可溶化液の一部をウェスタンブロットに用いて、細胞において発現したキメラの触媒活性を検出した(各パネルの一番下のゲル)。各レーンは一番上のパネルに示す表に従って番号づけており、以下の通りである: GFP 陰性対照、2. Wt LC/E、3. N-末端 LCAを有するLC/E、4. C末端ExxxII を有するLC/E、5. C末端ExxxLL を有する LC/E、6. N-末端 LCAおよびC-末端 ExxxIIを有するLC/E 、7. N-末端 LCAおよびC-末端ExxxLLを有するLC/E。
【0025】
図6: PNAS 文献より(1)。 GFP-LC/A (A) および GFP-LC/E (B) を発現する分化したPC12細胞。
【0026】
図 7: GFP-LCE (N- LCA/ExxxLL)でトランスフェクトした分化したPC12細胞。免疫染色は、GFPに対するウサギポリクローナル抗体、1: 100 (図 7Aおよび7C) および、3つの抗SNAP180マウスモノクローナル抗体(1A3A7、1G8C11および1C9F3)の組合せ、それぞれ1: 50 希釈 (図 7Bおよび7D)で行った(63 x 拡大率)。
【0027】
図8: GFP-LC/E (N- LCA/ExxxLL)でトランスフェクトした分化したPC12細胞。細胞をGFPに対するマウスモノクローナル抗体1: 100 (図 8Aおよび8C)および抗SNAP25206ウサギポリクローナル抗体1: 100 (図 8BおよびD)にて免疫染色した(63 x 拡大率)。特定の細胞を矢印で示し、a、b、c、dまたはeと称する。トランスフェクトされた細胞は抗SNAP25206を含まず、それはトランスフェクトされていない細胞においてのみ存在している。
【0028】
図9:野生のベルーガ(beluga) GFP-LC/Eでトランスフェクトし、そしてGFPに対するウサギポリクローナル抗体(図 9A)および1: 1: 1の抗SNAP25180マウスモノクローナル抗体の組合せ(図 9B)、各1: 50 希釈によって、キメラLC/Eについて先の図において用いたのと同様に免疫染色をした分化したPC12細胞(63 x 拡大率)。両方の画像は同じ細胞に対応するが、同じ平面からの画像ではない。
【0029】
図10: GFP-LCE コンストラクトでトランスフェクトし、抗-GFP、ウサギポリクローナル、希釈1: 100および二次抗- ウサギ1: 200で染色したSH-SY5Y 細胞(63 x 拡大率)。 A およびBは同じトランスフェクション実験からの2つの異なる細胞を表す。
【0030】
図11: GFP-LCE (N- LCA/ExxxLL)でトランスフェクトし、抗-GFP 抗体で染色したSH-SY5Y 細胞(63 x 拡大率)。A およびBは同じトランスフェクション実験からの異なる細胞群を表す。
【0031】
図12: GFP-LCE (N- LCA/ExxxLL)でトランスフェクトしたSH-SY5Y 細胞。細胞を抗-GFPに対する抗体(図12Aおよび12C)および非切断SNAP25206に対する抗体(図12Bおよび12D)で免疫染色した (63 x 拡大率)。
【0032】
図13: GFP-LC/E (N- LCA/ExxxLL)でトランスフェクトした SH-SY5Y 細胞。細胞をGFPに対する抗体(図13A) とSNAP25180に特異的な1A3A7マウスモノクローナル抗体(図13B)で免疫染色した(63 x拡大率)。
【0033】
図14-aおよびb:野生型 ベルーガ LC/Eの配列。配列番号136および配列番号137はそれぞれアミノ酸配列および核酸配列に対応する。
【0034】
図15-aおよびb: LC/A のN-末端を有するキメラ LC/Eの配列。配列番号138および配列番号139はそれぞれアミノ酸配列および核酸配列に対応する。
【0035】
図16-aおよびb: C-末端にLC/A ジ-ロイシンモチーフを有するキメラ LC/Eの配列。配列番号140および配列番号141はそれぞれアミノ酸配列および核酸配列に対応する。
【0036】
図17-aおよび b: LC/A N-末端およびC-末端ジ-ロイシンモチーフを有するキメラ LC/Eの配列。配列番号142および配列番号143はそれぞれアミノ酸配列および核酸配列に対応する。
【0037】
詳細な説明
本発明は、神経毒の生物学的持続性および/または生物活性が構造的に神経毒を修飾することによって変化させることが出来るという発見に基づく。言い換えると、生物学的持続性および/または生物活性が変化した修飾神経毒が、構造的修飾を含有または包含する神経毒から形成することが出来る。ある態様において、構造的修飾は、生物学的持続性強化成分を神経毒の一次構造に融合させてその生物学的持続性を強化することを含む。ある態様において、生物学的持続性強化成分はロイシンに基づくモチーフである。より好ましくは、修飾神経毒の生物学的半減期および/または生物活性は約100%強化される。一般に、修飾神経毒は構造的修飾を有さない同じ神経毒と比べて約20%〜300%強化した生物学的持続性を有する。すなわち、例えば、生物学的持続性強化成分を含む修飾神経毒は神経伝達物質、例えば、アセチルコリンの神経末端からの放出を、修飾されていない神経毒と比較して約20%〜約 300%長く、実質的に阻害することができる。
【0038】
本発明はまた、その範囲内に、天然または非修飾神経毒の生物活性と比較して変化した生物活性を有する修飾神経毒を含む。例えば、修飾神経毒は、修飾神経毒の生物学的持続性における変化を伴って、または伴わずに、標的細胞からのエキソサイトーシス (例えば、神経伝達物質のエキソサイトーシス)の低減または増強した阻害を示しうる。
【0039】
本発明の広範な態様において、ロイシンに基づくモチーフは、7アミノ酸の連続である。連続は2群に組織化される。ロイシンに基づくモチーフのアミノ末端から開始する最初の5アミノ酸は「アミノ酸5つ組」を形成する。アミノ酸5つ組のすぐ後にある2アミノ酸は「アミノ酸2つ組」を形成する。ある態様においてアミノ酸2つ組はロイシンに基づくモチーフのカルボキシル末端領域に位置する。ある態様において、アミノ酸5つ組は、グルタミン酸およびアスパラギン酸からなる群から選択される少なくとも1つの酸性アミノ酸を含む。
【0040】
アミノ酸2つ組は、少なくとも一つの疎水性アミノ酸、例えば、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、アラニン、フェニルアラニン、トリプトファン、バリンまたはチロシンを含む。好ましくは、アミノ酸2つ組はロイシン-ロイシン、ロイシン- イソロイシン、イソロイシン-ロイシンまたはイソロイシン-イソロイシン、ロイシン-メチオニンである。よりさらに好ましくは、2つ組はロイシン-ロイシンである。
【0041】
ある態様において、ロイシンに基づくモチーフは、xDxxxLL、(配列番号111)であり、ここで x はいずれのアミノ酸であってもよい。ある態様において、ロイシンに基づくモチーフは、xExxxLL、(配列番号112) であり、ここで Eはグルタミン酸である。ある態様において、アミノ酸2つ組はイソロイシンまたはメチオニンを含み得、それぞれxDxxxLI (配列番号113)またはxDxxxLM、(配列番号114)を形成してもよい。さらに、アスパラギン酸、D、はグルタミン酸、E、によって置換されてxExxxLI、(配列番号115)、xExxxIL (配列番号 116) およびxExxxLM (配列番号117)を形成しうる。 ある態様において、ロイシンに基づくモチーフはフェニルアラニン-グルタミン酸-フェニルアラニン-チロシン-リジン-ロイシン-ロイシン、配列番号118である。
【0042】
ある態様において、アミノ酸5つ組は、少なくとも一つのヒドロキシル含有アミノ酸、例えば、セリン、スレオニンまたはチロシンを含む。好ましくは、ヒドロキシル含有アミノ酸はリン酸化されていてもよい。より好ましくは、ヒドロキシル含有アミノ酸はリン酸化されていてもよいセリンであり、これは、アダプタータンパク質との結合を可能とする。
【0043】
非修飾アミノ酸を例示したが、修飾アミノ酸も本発明の範囲に含まれる。例えば、ロイシンに基づくモチーフは、ハロゲン化した、好ましくは、フッ素化したロイシンを含みうる。
【0044】
様々なロイシンに基づくモチーフが様々な種においてみられる。本発明にしたがって利用できる様々な種からの可能性のあるロイシンに基づくモチーフのリストを表1に示す。これは限定を意図するものではない。
【0045】
【表1】
【0046】
VMATは、小胞モノアミントランスポーター; VAChtは小胞アセチルコリントランスポーターおよびS. cerevisiae Vam3pはシナプトブレビンの酵母ホモログである。斜体のセリン残基は潜在的リン酸化部位である。
【0047】
修飾神経毒はあらゆる神経毒から形成することが出来る。また、修飾神経毒は神経毒のフラグメントからも形成することが出来、かかるフラグメントとしては、例えば、軽鎖および/または重鎖部分が除かれたボツリヌス毒素が挙げられる。好ましくは、使用される神経毒はクロストリジウム神経毒である。クロストリジウム神経毒は、3つのアミノ酸配列領域を有するポリペプチドを含む。第一のアミノ酸配列領域は以下からなる群から選択される神経毒に実質的に完全に由来する標的細胞 (即ち、神経細胞) 結合部分を含みうる:バラティ(baratti)毒素;ブチリカム(butyricum)毒素; 破傷風毒素; A、B、C1、D、E、FおよびG型ボツリヌス。好ましくは、第一のアミノ酸配列領域は毒素重鎖のカルボキシル末端領域HC由来である。また、第一のアミノ酸配列領域は、受容体、例えば、標的細胞上の細胞表面タンパク質またはその他の生物学的成分に結合しうる分子(例えば、アミノ酸配列)を含みうる標的化部分を含んでいてもよい。
【0048】
第二のアミノ酸配列領域は、ポリペプチドまたはその部分をエンドソーム膜を横切って、神経細胞の細胞質に転位させるのに有効である。ある態様において、ポリペプチドの第二のアミノ酸配列領域は以下からなる群から選択される神経毒由来の重鎖のアミノ末端、HN、を含む:バラティ(baratti) 毒素; ブチリカム(butyricum)毒素; 破傷風毒素; A、B、C1、D、E、F、およびG型ボツリヌス。
【0049】
第三のアミノ酸配列領域は標的細胞、例えば、神経細胞の細胞質内に放出された場合、治療活性を有する。ある態様において、ポリペプチドの第三のアミノ酸配列領域は以下からなる群から選択される神経毒由来の毒素軽鎖、L、を含む:バラティ(baratti) 毒素; ブチリカム(butyricum)毒素; 破傷風毒素; A、B、C1、D、E、F、およびG型ボツリヌス。
【0050】
クロストリジウム神経毒はハイブリッド神経毒であってもよい。例えば、神経毒の各アミノ酸配列領域は、異なるクロストリジウム神経毒血清型由来であってもよい。例えば、一つの態様において、ポリペプチドは破傷風毒素のHc由来の第一のアミノ酸配列領域、B型ボツリヌスのHN由来の第二のアミノ酸配列領域、およびボツリヌス血清型 Eの軽鎖由来の第三のアミノ酸配列領域を含む。その他の可能性のある組合せはすべて本発明の範囲に含まれる。
【0051】
あるいは、クロストリジウム神経毒の3つのすべてのアミノ酸配列領域は同種由来であって同じ血清型由来であってもよい。神経毒の3つのすべてのアミノ酸配列領域が同じクロストリジウム神経毒種および血清型由来である場合、神経毒はその種と血清型名によって称呼される。例えば、神経毒ポリペプチドは、E型ボツリヌス由来の第一、第二および第三のアミノ酸配列領域を有しうる。この場合、神経毒はE型ボツリヌスと称される。
【0052】
さらに、3つのアミノ酸配列領域のそれぞれは、それが由来する天然配列から修飾を受けたものであってもよい。例えば、アミノ酸配列領域は天然配列と比較して少なくとも1以上のアミノ酸が付加または欠失したものであってもよい。
【0053】
生物学的持続性強化成分または生物活性強化成分、例えば、ロイシンに基づくモチーフは、上記神経毒のいずれかと融合させて、生物学的持続性および/または生物活性が強化した修飾神経毒を形成させうる。本発明において「融合」には、神経毒一次構造への共有結合による付加または神経毒一次構造内への共有結合による挿入が含まれる。例えば、生物学的持続性強化成分および/または生物活性強化成分は、その一次構造においてロイシンに基づくモチーフを有さないクロストリジウム神経毒に付加することが出来る。ある態様において、ロイシンに基づくモチーフをハイブリッド神経毒と融合し、ここで、第三のアミノ酸配列はボツリヌス血清型 A、B、C1、C2、D、E、F、またはG由来である。ある態様において、ロイシンに基づくモチーフはE型ボツリヌスと融合される。
【0054】
ある態様において、生物学的持続性強化成分および/または生物活性強化成分は、神経毒をコードするクローニングされたDNA 配列を変化させることにより神経毒に付加される。例えば、生物学的持続性強化成分および/または生物活性強化成分をコードするDNA 配列を、生物学的持続性強化成および/または生物活性強化成分を付加すべき神経毒をコードするクローニングされたDNA 配列に付加する。これは分子生物学の当業者に周知の様々な方法にて行うことが出来る。例えば、部位特異的変異誘発またはPCR クローニングを用いて、神経毒をコードするDNA 配列に所望の変化を生じさせることができる。そしてDNA 配列を天然宿主株に再導入してもよい。ボツリヌス毒素の場合、天然宿主株はボツリヌス菌株であろう。好ましくは、この宿主株は天然ボツリヌス毒素遺伝子を欠損している。別の方法において、変化させたDNAを異種宿主系、例えば、大腸菌またはその他の原核生物、酵母、昆虫細胞株または哺乳類細胞株に導入してもよい。いったん変化したDNAがその宿主に導入されると、付加された生物学的持続性強化成分および/または生物活性強化成分を含む組換え毒素を、例えば、標準的発酵方法によって産生することが出来る。
【0055】
同様に、生物学的持続性強化成分を神経毒から除去することも出来る。例えば、部位特異的変異誘発を用いて生物学的持続性強化成分、例えば、ロイシンに基づくモチーフを除くことが出来る。
【0056】
これらおよびその他の遺伝子操作を行うために用いることが出来る標準的分子生物学技術は、Sambrook et al. (1989)に記載されており、その全体を引用により本明細書に含める。
【0057】
ある態様において、ロイシンに基づくモチーフは、神経毒の第三のアミノ酸配列領域と融合するか、またはそれに付加される。ある態様において、ロイシンに基づくモチーフは、第三のアミノ酸配列領域のカルボキシル末端に向かう領域と、融合するか、またはそれに付加される。より好ましくは、ロイシンに基づくモチーフは、神経毒の第三領域のカルボキシル末端と、融合するか、またはそれに付加される。さらにより好ましくは、ロイシンに基づくモチーフは、E型ボツリヌスの第三領域のカルボキシル末端と、融合するか、またはそれに付加される。ロイシンに基づくモチーフが融合するか付加される第三のアミノ酸配列は、ハイブリッドまたはキメラ修飾神経毒の成分であってもよい。例えば、ロイシンに基づくモチーフは1つの型のボツリヌス毒素(即ち、A型ボツリヌス毒素)の第三のアミノ酸配列領域 (またはその部分)と、融合するか、またはそれに付加され得、ここで、ロイシンに基づくモチーフ-第三のアミノ酸配列領域はそれ自体でボツリヌス毒素の別の型(または複数の型)(例えば、 B型および/またはE型ボツリヌス毒素)からの第一および第二アミノ酸配列領域と融合しているか、または結合している。
【0058】
ある態様において、既存の生物学的持続性強化成分および/または生物活性強化成分、例えば、ロイシンに基づくモチーフを有する神経毒の構造的修飾には、ロイシンに基づくモチーフの1以上のアミノ酸の欠失または置換が含まれる。さらに、修飾神経毒は、ロイシンに基づくモチーフにおいて1以上のアミノ酸が欠失または置換された神経毒を導く構造的修飾も含む。既存のロイシンに基づくモチーフからの1以上のアミノ酸の欠失または置換は、修飾神経毒の生物学的持続性および/または生物活性の低減に有効である。例えば、A型ボツリヌスのロイシンに基づくモチーフの1以上のアミノ酸の欠失または置換は、修飾神経毒の生物学的半減期および/または生物活性を低減させる。
【0059】
生物学的持続性強化成分に含まれるアミノ酸と置換されうるアミノ酸としては、アラニン、アスパラギン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、スレオニン、バリン、トリプトファン、チロシンおよびその他の天然アミノ酸ならびに非標準的アミノ酸が挙げられる。
【0060】
本発明において、天然A型ボツリヌス軽鎖は特徴的パターンにて分化したPC12細胞膜に局在することが示された。生物学的持続性強化成分は実質的にこの局在化に寄与していることが示された。
【0061】
本発明のデータは、A型ボツリヌス毒素軽鎖が切断されるか、ロイシンに基づくモチーフが突然変異を受けた場合、軽鎖は実質的にその特徴的パターンにて膜に局在する能力を失うことを示す。細胞膜への局在化は、ボツリヌス毒素の生物学的持続性および/または生物活性の判定において鍵となる要因であると考えられている。なぜなら、細胞膜への局在化は、細胞内タンパク質分解から局在化したタンパク質を保護しうるからである。
【0062】
A型ボツリヌス軽鎖からのロイシンに基づくモチーフの欠失は、A型軽鎖の膜局在化を変化させうる。GFP 融合タンパク質が、当業者に周知の方法、例えば、その内容全体を引用により本明細書に含めるGalli et al (1998) Mol Biol Cell 9: 1437-1448に記載の方法;また、例えば、その内容全体を引用により本明細書に含めるMartinez-Arca et al (2000) J Cell Biol 149: 889-899に記載の方法を用いて、分化したPC12細胞において産生され、可視化された。
【0063】
本発明において、ロイシンに基づくモチーフ内の特定のアミノ酸置換の効果を分析するためにさらなる研究を行った。例えば、ある研究において、ロイシンに基づくモチーフに含まれる両方のロイシン残基をアラニン残基と置換した。A型ボツリヌス軽鎖における位置427および428のロイシンからアラニンへの置換は、実質的に軽鎖の局在化特性を変化させる。
【0064】
ロイシンに基づくモチーフ、またはその他の軽鎖に存在する持続性強化成分および/または生物活性強化成分は、重鎖の保護にも利用できることも本発明の範囲内である。ランダムコイルベルトがA型ボツリヌス転位ドメインから伸びており、軽鎖を取り囲んでいる。このベルトが2つのサブユニットを細胞の内側で互いに近接するよう維持しており、軽鎖が細胞膜に局在している可能性がある。
【0065】
さらに、本発明のデータは、ロイシンに基づくモチーフは細胞においてA型ボツリヌス毒素をSNAP-25 基質に近接するように局在化させることにおいて有用であることを示している。これは、ロイシンに基づくモチーフは、毒素の半減期を決定するためだけでなく、毒素の活性の測定にも重要であることを意味しうる。即ち、毒素は細胞の内側のSNAP-25 基質に近接するように維持される場合、より強い活性を示すであろう。 Dong et al.、PNAS、(41): 14701-14706,2004。
【0066】
本発明のデータは、軽鎖の切断(truncation)、それによるロイシンに基づくモチーフの欠失またはロイシンに基づくモチーフ内のアミノ酸置換は、実質的に神経細胞におけるA型ボツリヌス軽鎖の膜局在化を変化させることを明らかに示している。切断および置換の両方において、一定の割合の変化した軽鎖は天然A型軽鎖とは異なるパターンにて細胞膜に局在化しうる。このデータはロイシンに基づくモチーフ以外の生物学的持続性強化成分、例えば、チロシンモチーフおよびアミノ酸誘導体の存在を支持する。修飾神経毒におけるこれらのその他の生物学的持続性強化成分および/または生物活性強化成分の使用もまた、本発明の範囲内である。
【0067】
修飾された神経毒の生物学的持続性を変化させるために修飾神経毒と組みあわせて用いられる2以上の生物学的持続性強化成分も本発明の範囲内である。本発明はまた、修飾される神経毒の生物活性を変化させるために修飾神経毒と組みあわせて用いられる2以上の生物活性強化または生物活性低下成分の使用も含む。
【0068】
生物学的持続性および/または生物活性改変成分としてのチロシンに基づくモチーフは本発明の範囲内である。チロシンに基づくモチーフは以下の配列を含む: Y-X-X-Hy (配列番号119): ここでYはチロシン、Xはいずれのアミノ酸でもよく、Hyは疎水性アミノ酸である。チロシンに基づくモチーフはロイシンに基づくモチーフと同様に作用することが出来る。
【0069】
A型およびB型ボツリヌス毒素の両方に天然にある1以上の生物学的持続性改変成分および/または生物活性強化成分を含む修飾神経毒も本発明の範囲内である。
【0070】
生物学的持続性強化成分および/または生物活性強化成分としてのアミノ酸誘導体も本発明の範囲内である。生物学的持続性および/または生物活性に影響を与えるよう作用するアミノ酸誘導体の例は、リン酸化アミノ酸である。これらアミノ酸には、例えば、チロシンキナーゼ、タンパク質キナーゼ CまたはカゼインキナーゼIIによってリン酸化されたアミノ酸が含まれる。生物学的持続性強化成分および/または生物活性強化成分として本発明の範囲内であるその他のアミノ酸誘導体は、ミリスチル化アミノ酸およびN-グリコシル化アミノ酸である。
【0071】
本発明はまた、細胞構造成分、例えば、細胞内構造成分と相互作用するボツリヌス軽鎖成分を含む組成物も含む。構造成分は、脂質、炭水化物、タンパク質または核酸あるいはそのいずれかの組合せを含みうる。
【0072】
構造成分は、細胞膜、例えば、原形質膜を含みうる。ある態様において、構造成分は、1以上のオルガネラ、例えば、核、小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリア、リソソームまたは分泌小胞あるいはそれらの組合せ、の全部または一部を含む。構造成分はオルガネラのいずれの部分をも含み得、例えば、オルガネラ膜も含まれる。構造成分は、細胞の細胞質に含まれるあらゆる物質も含みうる。
【0073】
構造成分は1以上のタンパク質を含みうる。ある態様において、構造成分は1以上の細胞タンパク質を含む。1以上のかかる細胞タンパク質は、膜結合タンパク質、例えば、原形質膜結合タンパク質であってもよい。本発明のある態様において、構造成分はアダプタータンパク質を含む。アダプタータンパク質の例は、AP-1、AP-2およびAP-3である。アダプタータンパク質およびそれらの特徴は、当該技術分野で周知であり、例えば、Darsow et al., J. Cell Bio. 142,913 (1998)に論じられており、これはその全体を引用により本明細書に含める。1以上のタンパク質はボツリヌス毒素軽鎖成分のタンパク分解ドメインによって切断される基質も含みうる。例えば、構造成分に含まれるタンパク質はSNAP-25でありうる。
【0074】
A型ボツリヌス軽鎖と構造成分との相互作用は、毒素の一定のパターンでの局在化に寄与しうる。それゆえ、相互作用は、例えば、軽鎖の生物学的持続性および/または生物活性を上昇させることにより、タンパク質分解を促進するよう作用しうる。
【0075】
ボツリヌス毒素重鎖またはその部分は、軽鎖が構造成分と相互作用している場合は、軽鎖成分とも結合しうる。
【0076】
ある態様において、ボツリヌス毒素軽鎖成分は、細胞において構造成分と相互作用している場合、 細胞に特定のパターンで局在化しうる。例えば、A型ボツリヌス毒素軽鎖成分の局在化は断続的(unctuate)または点在(spotted)パターンでありうる。例えば、A型ボツリヌス軽鎖成分は細胞膜、例えば、原形質膜上で断続的(unctuate)パターンで局在化し得る。B型ボツリヌス軽鎖は細胞質に局在化しうる。E型ボツリヌスは原形質膜に局在化しうるが、A型よりその程度は低い。E型ボツリヌスは細胞質にも局在化しうる。
【0077】
本発明の単離組成物を作る方法は、当業者が実施できるものである。例えば、組成物を、軽鎖成分、例えば、軽鎖Aの細胞への導入の後に、細胞から原形質膜を単離することによって単離することが出来る。軽鎖は例えば、エレクトロポーレーションまたはエンドサイトーシスによって細胞に導入できる。エンドサイトーシスによって細胞に導入する場合、重鎖成分を軽鎖成分とともに含めることにより、軽鎖のエンドサイトーシス、例えば、受容体媒介エンドサイトーシスが促進されうる。かかる調製工程において、重鎖成分を単離してもよいし、組成物の中に含めてもよい。
【0078】
細胞へと導入した後、軽鎖成分は、基質成分と結合または相互作用して組成物を形成する。組成物は細胞から軽鎖成分-構造成分を精製することによって単離することが出来る。当業者に知られた標準的精製技術を用いて、軽鎖成分と相互作用する構造成分に含まれる膜および/または膜結合タンパク質を単離することが出来る。軽鎖成分/構造成分の単離および精製のための常套技術の例としては、免疫沈降および/または膜精製技術が挙げられる。
【0079】
軽鎖成分は単離する前に構造成分の部分と架橋してもよい。DTBPなどの試薬を用いた生物分子の架橋の技術的方法は当業者に周知である。
【0080】
ある態様において本発明の組成物は、精製されたかまたは部分的に精製された軽鎖成分と、精製されたかまたは部分的に精製された細胞内構造成分を、組成物の形成に有効な条件下で混合することにより調製できる。組成物の形成に重要な条件には、Ph、イオン強度および温度が含まれ得る。
【0081】
組成物のボツリヌス毒素軽鎖成分は、修飾ボツリヌス毒素軽鎖であってもよい。本明細書に記載するように、修飾は突然変異および/または欠失であってよい。
【0082】
修飾軽鎖成分は、ロイシンに基づくモチーフまたは原形質膜へのA型軽鎖の局在化に寄与するその他の構造を除くように修飾された軽鎖Aを含み得、それによって、軽鎖の原形質膜への局在化能力が低下する。この結果、軽鎖Aの生物活性および/または生物学的持続性が低下しうる。かかる修飾軽鎖の生物学的持続性および/または活性は非修飾A型軽鎖の約 10% 〜約 90%でありうる。
【0083】
別の修飾軽鎖成分は、1以上のロイシンに基づくモチーフまたは原形質膜へのA型軽鎖の局在化に寄与するその他の構造を付加することにより修飾された軽鎖Aも含み得、その結果、原形質膜への局在能力が上昇した軽鎖が得られる。この結果、軽鎖Aの生物活性および/または生物学的持続性が上昇し得る。修飾軽鎖の生物学的持続性および/または活性は非修飾A型軽鎖のものの約 1.5 〜 約 5 倍であり得る。
【0084】
修飾軽鎖成分は1以上のロイシンに基づくモチーフまたは原形質膜へのA型軽鎖の局在化に寄与するその他の構造を付加することにより修飾された軽鎖Eも含み得、それによって、原形質膜への局在能力が上昇した軽鎖が得られる。この結果、軽鎖Eの生物活性および/または生物学的持続性が上昇し得る。修飾軽鎖の生物学的持続性および/または活性は非修飾E型軽鎖のものの約 2〜約 20倍であり得る。
【0085】
本発明の組成物は多くの用途と適用を有し、例えば、研究科学および医学において有用である。その他の用途と適用は当業者には明らかであろう。
【0086】
本発明の一つの広範な態様において、修飾神経毒を用いた症状の治療のための方法が提供される。症状には、例えば、骨格筋症状、平滑筋症状、疼痛および腺症状が挙げられる。修飾神経毒は美容にも用いることが出来、例えば、しわの治療が挙げられる。
【0087】
修飾神経毒によって治療することが出来る神経筋障害および症状としては以下が挙げられる: 例えば、痙攣性発声障害、喉頭ジストニア、顎口腔ジストニアおよび舌ジストニア、頸部ジストニア、限局性手(focal hand)ジストニア、眼瞼痙攣、斜視、片側顔面痙攣、眼瞼障害、痙攣性斜頸、脳性麻痺、限局性痙縮およびその他の発声障害、痙攣性大腸炎、神経因性膀胱、アニスムス、四肢痙縮、顔面痙攣、振戦、歯ぎしり、裂肛、アカラシア、嚥下障害およびその他の筋緊張障害および筋群の不随意運動を特徴とするその他の障害が、本発明の投与方法によって治療可能である。本発明の方法および組成物を用いて治療可能なその他の症状の例としては、流涙、発汗過多、唾液分泌過剰および消化管分泌過剰、ならびにその他の分泌障害が挙げられる。さらに、本発明は、皮膚症状の治療、例えば、しわの軽減、皮膚のしわ取りに用いることが出来る。本発明はまた、スポーツ障害の治療にも利用できる。
【0088】
Borodicの米国特許第5053005号は、若年の脊髄彎曲、即ち、脊柱側弯症の、A型ボツリヌスを用いる治療方法を開示している。Borodicの開示はその全体を引用により本明細書に含める。ある態様において、Borodic に開示のものと実質的に類似の方法を用いて、脊髄彎曲の治療のために、修飾神経毒を哺乳類、好ましくはヒトに投与してもよい。ある態様において、ロイシンに基づくモチーフと融合したE型ボツリヌスを含む修飾神経毒を投与する。さらにより好ましくは、脊髄彎曲の治療のために、その軽鎖のカルボキシル末端にロイシンに基づくモチーフが融合したA-E型ボツリヌスを含む修飾神経毒を哺乳類、好ましくはヒトに投与する。
【0089】
さらに、A型ボツリヌスについて慣用されている周知技術を用いてその他の神経筋障害の治療のために修飾神経毒を投与することができる。例えば、本発明は、疼痛、例えば、頭痛、筋肉痙攣からの疼痛および様々な形態の炎症性疼痛の治療に利用することが出来る。例えば、Aoki 米国特許第5721215号およびAoki米国特許第6113915号は疼痛の治療のためのA型ボツリヌス毒素を用いる方法を開示している。これら2つの特許の開示はその全体を引用により本明細書に含める。
【0090】
自律神経系障害も修飾神経毒によって治療することができる。例えば、腺機能不全は自律神経系障害である。腺機能不全には、発汗過剰および唾液分泌過剰が挙げられる。呼吸器機能不全は自律神経系障害のさらなる例である。呼吸器機能不全としては、慢性閉塞性肺疾患および喘息が挙げられる。Sanders et al. は自律神経系の治療方法を開示している;例えば、発汗過剰および唾液分泌過剰、喘息などの自律神経系障害を天然ボツリヌス毒素を用いて治療する方法が開示されている。Sander et al.の開示は引用によりその全体を本明細書に含める。ある態様において、Sanders et al.と実質的に同様の方法を用いることができるが、ただし、修飾神経毒を用いて、上記のものなどの自律神経系障害を治療することができる。例えば、修飾神経毒は、鼻腔における粘液分泌を制御している自律神経系のコリン作動性神経細胞を退化させるのに十分な量にて哺乳類の鼻腔に局所投与してもよい。
【0091】
修飾神経毒によって治療されうる疼痛としては、筋肉緊張または痙攣による疼痛あるいは筋肉痙攣を伴わない疼痛が含まれる。例えば、Binderは、米国特許第5714468号において、血管障害、筋肉緊張、神経痛および神経障害による頭痛を天然ボツリヌス毒素、例えば A型ボツリヌスによって治療できることを開示している。Binder の開示はその内容全体を引用により本明細書に含める。ある態様において、Binderと実質的に同様の方法を用いて、ただし、修飾神経毒を用いて、頭痛、特に、血管障害、筋肉緊張、神経痛および神経障害による頭痛を治療することが出来る。筋肉痙攣による疼痛もまた、修飾神経毒の投与により治療することが出来る。例えば、好ましくはE型ボツリヌス軽鎖のカルボキシル末端においてロイシンに基づくモチーフと融合したE型ボツリヌスは疼痛の緩和のために疼痛/痙攣部位に筋肉内投与することが出来る。
【0092】
さらに、修飾神経毒は、痙攣などの筋肉障害を伴わない疼痛の治療のために哺乳類に投与してもよい。一つの広範な態様において、非痙攣関連疼痛の治療のための本発明の方法は、修飾神経毒の中枢投与または末梢投与を含む。
【0093】
例えば、Foster et al.は米国特許第第5989545号において、標的化部分と結合したボツリヌス毒素を中枢(髄腔内)投与して疼痛を軽減し得ることを開示している。Foster et al.の開示は引用によりその全体を本明細書に含める。ある態様において、Foster et alのものと実質的に同様の方法を用いて、ただし本発明の修飾神経毒を用いて、疼痛を治療することが出来る。治療すべき疼痛は急性疼痛であってもよいが、または好ましくは、慢性疼痛である。
【0094】
筋肉痙攣を伴わない急性または慢性疼痛も、実際の、または感知された、哺乳類の疼痛部位に修飾神経毒を局所、末梢投与することによって緩和しうる。ある態様において、修飾神経毒は、疼痛部位、またはその近く、例えば、傷口、またはその近くにて皮下に投与する。ある態様において、修飾神経毒は哺乳類の疼痛部位、またはその近く、例えば、打撲部位またはその近くにて筋肉内投与する。ある態様において、修飾神経毒を哺乳類の関節に直接注射することによって関節炎症状によって起こる疼痛を治療または軽減する。また、修飾神経毒の末梢疼痛部位への頻繁な反復注射または注入も本発明の範囲内である。しかし、本発明の長期持続性の治療効果によると、神経毒の頻繁な注射または注入は必ずしも必要ではない。例えば、本発明の実施により、1回注射あたり、2ヶ月以上、例えば 27ヶ月の鎮痛効果がヒトにおいて得られうる。
【0095】
本発明をいかなる実施機構または理論に制限する意図はなく、修飾神経毒を末梢部位に局所投与すると、SNARE- 依存性エキソサイトーシスを阻害することにより末梢一次知覚終末からの神経物質、例えば、物質 Pの放出が阻害されると考えられている。末梢一次知覚終末による物質 Pの放出は疼痛伝達過程をもたらすか、少なくとも増幅するため、末梢一次知覚終末におけるその放出阻害は、疼痛シグナルの伝達が脳に到達することを妨害する。
【0096】
修飾神経毒の投与量は治療すべき特定の障害、その重篤度およびその他の様々な患者の変動値、例えば、身長、体重、年齢および治療への応答性によって広範に変動するであろう。一般に、投与すべき修飾神経毒の用量は、治療すべき哺乳類、好ましくはヒトの年齢、主症状および体重によって変動する。修飾神経毒の強度も考慮される。
【0097】
(A型ボツリヌス毒素についての)ヒト患者における有効性を実質的にLD50=2,730 Uであるとし、平均的なヒトが75kgであるとすると、(A型ボツリヌス毒素についての) 修飾神経毒の致死用量は約 36 U/kgとなる。それゆえ、かかるLD50を示す修飾神経毒を投与する場合、ヒト対象への修飾神経毒の好適な投与量は36 U/kg未満である。好ましくは修飾神経毒は、約 0.01 U/kg〜30 U/kg投与する。より好ましくは修飾神経毒は、約 1 U/kg〜約 15 U/kg投与する。さらにより好ましくは、修飾神経毒は約 5 U/kg〜約 10 U/kg投与する。一般に、修飾神経毒は比例計算により約 2.5 cc/100 Uとなる用量にて組成物として投与する。当業者であれば、有効性のより高い、またはより低い神経毒の用量をどのように調節すればよいかを知っているかあるいは容易に理解するであろう。B型ボツリヌス毒素は同様の治療効果を達成するためにはA型ボツリヌス毒素に用いたものより約5倍多いレベルにて投与すればよいことが知られている。したがって、上記の単位量をB型ボツリヌス毒素については約5倍にすればよい。
【0098】
投与経路および用量の例を提供しているが、好適な投与経路と用量は一般にケースバイケースにてかかりつけ医によって決定される。かかる決定は当業者にとってルーチン的である(例えば、Harrison's Principles of Internal Medicine (1998)、edited by Anthony Fauci et al.、edition、published by Hillを参照)。例えば、本発明による修飾神経毒の投与経路および用量は、例えば、選択した修飾神経毒の溶解特性および治療すべき障害のタイプのような基準に基づいて選択できる。
【0099】
修飾神経毒は、ロイシンに基づくモチーフと神経毒とを、当該技術分野において周知の常套の化学的方法を用いて化学的に結合させることによって製造しうる。例えば、E型ボツリヌスは、ボツリヌス菌培養物を発酵槽にて樹立および増殖させ、発酵混合物を公知の方法にしたがって回収および精製することによって得ることが出来る。
【0100】
修飾神経毒は組換え技術によっても製造できる。組換え技術は、別のクロストリジウム種由来のアミノ酸配列領域を有する、即ち、修飾アミノ酸配列領域を有する神経毒の生産に好ましい。また、組換え技術は、欠失によってロイシンに基づくモチーフが修飾されたA型ボツリヌスの生産に好ましい。この技術は、細胞結合部分、神経毒の転位に有効なアミノ酸配列またはその部分、および、標的細胞、好ましくは神経細胞の細胞質に放出された場合に治療活性を有するアミノ酸配列に対するコードを有する天然源または合成源からの遺伝物質を得る工程を含む。ある態様において、遺伝物質は、生物学的持続性強化成分、好ましくはロイシンに基づくモチーフ、Hc、HNおよびクロストリジウム神経毒軽鎖およびそのフラグメントに対するコードを有する。遺伝子コンストラクトは遺伝子コンストラクトをクローニングベクター、例えば、ファージまたはプラスミドにまず融合させることにより増幅用宿主細胞に導入する。次いでクローニングベクターを、例えば、クロストリジウム種(Clostridium sp)、大腸菌またはその他の原核細胞、酵母、昆虫細胞株または哺乳類細胞株などの宿主に挿入する。組換え遺伝子の宿主細胞における発現の後、結果として得られたタンパク質を常套技術を用いて単離すればよい。
【0101】
かかる修飾神経毒を組換えにより産生することには多くの利点がある。例えば、修飾神経毒を形成するためには、修飾性フラグメント、または成分を神経毒に結合または挿入しなければならない。クロストリジウム嫌気培養からの神経毒の生産は面倒であり、時間がかかるプロセスである。該プロセスは、複数のタンパク質沈降工程および毒素の長時間かつ繰り返しの結晶化または複数段階のカラムクロマトグラフィーを含む多工程精製プロトコールを含む。重要なことに、生産物の高い毒性は、工程を厳格な封じ込め(BL-3)条件下で行わなければならないことを示す。発酵工程の際に、フォールディングされた一本鎖神経毒は、ニッキングと称される工程を介して内在性クロストリジウムプロテアーゼによって活性化されて二本鎖が作られる。ニッキング工程には一本鎖からのおよそ10 アミノ酸 残基の除去による二本鎖形態の形成が含まれ、二本鎖形態において2つの鎖は鎖内ジスルフィド結合によって共有結合したままである場合がある。
【0102】
ニッキングされた神経毒は、ニッキングされていない形態と比較してより活性が高い。ニッキングの量および正確な部位は毒素産生細菌の血清型により異なる。一本鎖神経毒活性化における相違、したがって、ニッキングされた毒素の収率の相違は、血清型の変動および所与の株により生じるタンパク分解活性量の変動に起因する。例えば、クロストリジウムボツリヌス血清型A一本鎖神経毒の99%以上がHall A クロストリジウムボツリヌス株によって活性化されるが、血清型 BおよびE株は活性化量の低い毒素を産生する(発酵時間によって0〜75%)。したがって、成熟神経毒の高い毒性は治療薬としての神経毒の商業的生産において重要な役割を果たす。
【0103】
それゆえ操作されたクロストリジウム毒素の活性化の程度は、これらの材料の製造の上で重要な考慮すべき因子である。例えば、 ボツリヌス毒素および破傷風毒素などの神経毒が、安全で、単離が容易で完全活性形態に簡単に変換される比較的非毒性の一本鎖(または毒素活性の低下した一本鎖)として迅速に増殖する細菌 (例えば、異種大腸菌細胞) において組換えによって、高収率に発現させることができれば、大きな利点であろう。
【0104】
安全性が最大の関心事であるため、以前の研究は破傷風およびボツリヌス毒素の個々のHおよび軽鎖の大腸菌での発現と精製に限られてきた;これらの単離された鎖は、それ自体では非毒性である; Li et Biochemistry 33: 7014-7020 (1994); Zhou et al.、Biochemistry 34: 15175- 15181 (1995)を参照。これらは引用により本明細書にその内容を含める。これらペプチド鎖の別々の産生および厳密に制御された条件での産生の後、Hおよび軽鎖は酸化的ジスルフィド結合により結合させて、神経麻痺性の二本鎖を形成しうる。
【0105】
実施例
以下の非限定的な実施例は、本発明の範囲内において当業者に非痙攣関連疼痛の具体的な好適な治療方法を教示するものであり、本発明の範囲を限定する意図はない。
【0106】
実施例 1:筋肉障害に関連する疼痛の治療
【0107】
一人の36際の女性は、不運なことに側頭下顎関節疾患および咀嚼筋と側頭筋に沿った慢性疼痛の15年の病歴を有している。評価の15年前、彼女は、顎が動きにくくなっており、顎開閉にともなう疼痛と顔の両側の圧痛に気づいた。左側は最初は右側より悪いと考えられていた。彼女は関節の亜脱臼を伴う側頭下顎関節 (TMJ) 機能障害と診断され、関節形成半月切除手術および関節丘切除術により治療された。
【0108】
彼女は外科手術後も顎の開閉に困難を有したままであり、このため、数年後、補綴関節を置換する外科手術を両側に行った。外科手術後、顎の進行性痙攣およびずれ(deviation)が続いた。元の手術に続いてさらに外科的修正を行い、補綴関節の弛緩を矯正した。これら外科手術の後も顎はかなりの疼痛を示し続け、動きにくかった。TMJには圧痛が残り、筋肉自体も圧痛を示した。側頭下顎関節に圧痛点があり、筋肉全体の緊張も増した。彼女は術後筋筋膜痛症候群であると診断され、咀嚼筋および側頭筋に修飾神経毒の注射を受けた;修飾神経毒はロイシンに基づくモチーフを含むE型ボツリヌスであった。具体的な用量および投与頻度は治療医の能力内の様々な因子に依存する。
【0109】
注射の数日後、彼女は疼痛のかなりの改善を感じ、顎が自由に感じると報告した。これは2〜3週間で徐々に改善し、その間、彼女の顎を開ける能力は向上し、疼痛は軽減した。患者は最近の4年間で疼痛がもっとも改善されたと述べた。症状の改善は修飾神経毒の最初の注射後27ヶ月間持続した。
【0110】
実施例2
脊髄損傷の後の疼痛治療:
【0111】
脊髄損傷後に疼痛を感じている39歳の患者を、例えば、脊髄タップまたはカテーテル法(注入のため)による修飾神経毒の脊髄へのくも膜下腔内投与により治療した;修飾神経毒は、ロイシンに基づくモチーフを含むE型ボツリヌスであった。具体的な毒素の用量および注射部位、ならびに毒素投与頻度は、先に示したように治療医に知られている様々な因子に依存する。修飾神経毒投与の約 1〜約 7日後までに、患者の疼痛はかなり軽減された。疼痛軽減は27ヶ月持続した。
【0112】
実施例 3 :肩手症候群の治療のための修飾神経毒の末梢投与:
【0113】
肩、腕および手における疼痛は、筋ジストロフィー、骨粗鬆症および関節固定にともなって起こりうる。冠動脈機能不全の後に非常によくおこるもののなかでも、この症候群は頸部骨関節炎または限局性肩疾患とともに、あるいは患者が床に伏す必要がある長い疾病の後に起こり得る。
【0114】
46歳の女性は肩手症候群型疼痛を示していた。疼痛は三角筋領域に特に限局していた。患者の肩の皮下に修飾神経毒をボーラス注射することによって治療した;好ましくは修飾神経毒は、ロイシンに基づくモチーフを含むE型ボツリヌスである。修飾神経毒はまた、例えば、ロイシンに基づくモチーフを含む修飾A、B、C1、C2、D、E、FまたはG型ボツリヌスでもよい。具体的な用量および投与頻度は、先に示したように治療医に知られている様々な因子に依存する。修飾神経毒投与の約 1〜約 7日後までに、患者の疼痛はかなり軽減された。疼痛軽減は約 7〜約27ヶ月持続した。
【0115】
実施例 4 :ヘルペス後神経痛の治療のための修飾神経毒の末梢投与:
【0116】
ヘルペス後神経痛は慢性疼痛の問題のなかでもっとも難治性のものの一つである。耐え難いほどの疼痛をともなう過程を患う患者の多くは老人、消耗性疾患患者であり、主な介入手順に適さない。診断はヘルペスの治癒した病巣の外観と患者の病歴により容易に行われる。疼痛は激しく、感情的苦悩をもたらす。ヘルペス後神経痛は体中何処でも起こりうるが、胸部に起こることが多い。
【0117】
76歳の男性はヘルペス後型疼痛を示した。疼痛は腹部領域に限局していた。患者は腹部の皮内への修飾神経毒のボーラス注射により治療された;修飾神経毒は、例えば、A、B、C1、C2、D、E、Fおよび/またはG型ボツリヌスである。修飾神経毒はロイシンに基づくモチーフおよび/またはさらなるチロシンに基づくモチーフを含む。具体的な用量および投与頻度は、先に示したように治療医に知られている様々な因子に依存する。修飾神経毒投与の約 1〜約 7日後までに、患者の疼痛はかなり軽減された。疼痛軽減は約 7〜約27ヶ月持続した。
【0118】
実施例 5:上咽頭腫瘍疼痛の治療のための修飾神経毒の末梢投与:
【0119】
かかる腫瘍は、もっとも多くは扁平上皮癌であり、通常ローゼンミューラー窩にあり、頭蓋底に侵入しうる。顔における疼痛が一般的である。それは持続性の鈍い痛みを特徴とする。
【0120】
35 歳の男性は上咽頭腫瘍型疼痛を示した。疼痛は下部左頬であった。患者は頬の筋肉内への修飾神経毒のボーラス注射により治療された。好ましくは修飾神経毒は、さらなる生物学的持続性強化性のアミノ酸誘導体、例えば、チロシンリン酸化を含むA、B、C1、C2、D、E、FまたはG型ボツリヌスである。具体的な用量および投与頻度は、治療医に知られている様々な因子に依存する。修飾神経毒投与の1〜7日後までに、患者の疼痛はかなり軽減された。疼痛軽減は約 7〜約27ヶ月持続した。
【0121】
実施例 6 :炎症性疼痛の治療のための修飾神経毒の末梢投与:
【0122】
45歳の患者は、胸部に炎症性疼痛を示した。患者は胸部の筋肉内への修飾神経毒のボーラス注射により治療された。好ましくは修飾神経毒はさらなるチロシンに基づくモチーフを含むA、B、C1、C2、D、E、FまたはG型ボツリヌスである。具体的な用量および投与頻度は、先に示すように治療医に知られている様々な因子に依存する。修飾神経毒投与の1-7日後までに、患者の疼痛はかなり軽減された。疼痛軽減は約 7〜約27ヶ月持続した。
【0123】
実施例 7:発汗過剰の治療:
【0124】
片側性発汗過剰の65歳の男性は、修飾神経毒の投与により治療された。用量および投与頻度は所望の効果の程度に依存する。好ましくは、修飾神経毒はA、B、C1、C2、D、E、F および/またはG型ボツリヌスである。修飾神経毒はロイシンに基づくモチーフを含む。投与は、腺神経集網、神経節、脊髄または中枢神経系に行った。投与の具体的な部位は、標的の腺および分泌細胞の解剖学と生理学に関する医師の知識によって決定される。さらに、適当な脊髄レベルまたは脳領域に毒素を注射してもよい。修飾神経毒治療後の発汗過剰の停止は27ヶ月続いた。
【0125】
実施例 8:手術後治療:
【0126】
22歳の女性は肩腱損傷を示し、整形外科にて腱を修復した。手術後、患者は肩の筋肉内に修飾神経毒の投与を受けた。修飾神経毒はA、B、C、D、E、F、および/またはG型ボツリヌスであり得、ここで生物学的持続性強化成分の1以上のアミノ酸が毒素から欠失している。例えば、ボツリヌス毒素血清型 Aにおけるロイシンに基づくモチーフから1以上のロイシン残基が欠失および/または突然変異していてもよい。あるいは、ロイシンに基づくモチーフの1以上のアミノ酸をその他のアミノ酸で置換してもよい。例えば、ロイシンに基づくモチーフにおける2つのロイシンをアラニンに置換してもよい。具体的な用量および投与頻度は、治療医に知られている様々な因子に依存する。投与の具体的な部位は、筋肉の解剖学と生理学に関する医師の知識によって決定される。投与した修飾神経毒により、腕の動きが低下し、手術からの回復を促進した。修飾神経毒の効果は約5週間以下であった。
【0127】
実施例 9:ボツリヌス神経毒軽鎖遺伝子のクローニング、発現および精製:
【0128】
本実施例は、ボツリヌス毒素軽鎖をコードするDNAヌクレオチド配列をクローニングおよび発現させる方法ならびにその結果得られるタンパク質産物の精製方法を記載する。ボツリヌス毒素軽鎖をコードするDNA 配列をPCR プロトコールによって増幅した。このPCRでは、軽鎖遺伝子の5'および3'末端領域に対応する配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用いた。プライマーの設計は、ボツリヌス毒素軽鎖遺伝子 PCR 産物の5'および3'末端に制限部位、例えば、Stu I およびEcoR I 制限部位の導入を可能とするようにした。これら制限部位は後続の増幅産物の指向性サブクローニングを促進しうる。さらに、これらプライマーは軽鎖コード配列のC-末端に終止コドンを導入しうる。ボツリヌス菌、例えば、株 HallAからの染色体 DNAは、増幅反応におけるテンプレートとして役立ちうる。
【0129】
PCR 増幅は、10 mM Tris-HCI (pH 8.3)、50 mM KCI、1.5 mM MgCl2、0.2 mM 各デオキシヌクレオチド三リン酸 (dNTP)、50 pmol 各プライマー、200 ng ゲノムDNAおよび2.5 ユニットTaq DNA ポリメラーゼを含む0.1 mL 容積中で行うことが出来る。反応混合物を以下の35サイクルに供した:変性(1分、94℃)、アニーリング (2 分、55℃)および重合 (2 分、72℃)。最後に、5 分72℃の反応をさらに行った。
【0130】
PCR 増幅産物は例えば、Stu IおよびEcoRにより消化されると、軽鎖をコードする、クローニングされた、PCR DNA フラグメントを遊離することが出来る。このフラグメントは、例えば、アガロースゲル電気泳動により次いで精製し、例えば、Sma IおよびEcoR Iで消化したpBluescript II SK ファージミドにライゲーションすることが出来る。細菌形質転換体、例えば、この組換えファージミドを担持する大腸菌は、標準的手順、例えば、ブルーホワイトスクリーニングにより同定することができる。軽鎖をコードするDNAを含むクローンは標準的方法により行われるDNA配列分析により同定することができる。クローニングされた配列は、クローニングされた該配列と、例えば、Binz, et al., J. Biol. Chem. 265, 9153(1990)、Thompson et al., Eur. J. Biochem. 189, 73(1990)およびMinton, Clostridial Neurotozins, The Molecular Pathogenesis of Tetanus and Botulism p. 161-191、Edited by C. Motecucco (1995)に記載のボツリヌス軽鎖について公表された配列とを比較することによって確認することが出来る。
【0131】
軽鎖は、発現ベクター、例えば、pMal-P2にサブクローニングすればよい。pMal-P2はMBP (マルトース結合タンパク質)をコードするmalE遺伝子を担持しており、これは強力な誘導性プロモーター、Ptacによって制御される。
【0132】
ボツリヌス毒素軽鎖の発現を確認するために、軽鎖遺伝子を含有するpMal-P2を担持する良好に単離された細菌コロニーを用いて、0.1 mg/ml アンピシリンおよび2% (w/v) グルコースを含むL-ブロスに播種し、30℃で振盪させながら一晩培養した。一晩培養物を0.1 mg/mlアンピシリンを含有する新しい L-ブロス中1: 10に希釈し2 時間インキュベートするとよい。融合タンパク質の発現は、終濃度0.1 mMとなるIPTGの添加により誘導することが出来る。さらに30℃で4 時間のインキュベーションの後、細菌を6,000 x g、10 分の遠心分離により回収することが出来る。
【0133】
スモールスケール SDS-PAGE 分析により、IPTGで誘導された細菌由来のサンプルにおける90 kDa タンパク質のバンドの存在が確認できた。この分子量(MW)はMBP (〜40 kDa)とボツリヌス毒素軽鎖(〜50kDa) 成分を有する融合タンパク質の予測サイズと一致するようである。
【0134】
IPTGで誘導された細菌抽出物における所望の融合タンパク質の存在は、Cenci di Bello etal、Eur. J. Biochem. 219,161 (1993)に記載のようにポリクローナル 抗-L 鎖 プローブを用いるウェスタンブロッティングにより確認できる。PDVFメンブレン(Pharmacia ; Keynes、UK)上の反応性バンドはセイヨウワサビペルオキシダーゼに結合した抗-ウサギイムノグロブリン(BioRad; Hemel Hempstead、UK)およびECL 検出システム (Amersham、UK)によって可視化することができる。ウェスタンブロッティングの結果により、典型的なことに、優位な融合タンパク質のバンドと、それにともなう完全なサイズの融合タンパク質より低分子量のいくつかのタンパク質に対応するかすかなバンドの存在が確認された。この観察は、細菌中または単離手順中に融合タンパク質の制限された分解が起こったことを示唆する。
【0135】
サブクローニングされた軽鎖を産生するために、野生型 ボツリヌス神経毒軽鎖タンパク質を発現する細菌の1 リットル培養物からのペレットを1mMフェニルメタンスルホニルフルオリド (PMSF)および10 mM ベンズアミジンを含むカラムバッファー [10 mM Tris-HCl (pH 8.0)、200 mM 1 mM EGTAおよび1 mM DTT]に再懸濁し、超音波処理により溶菌した。可溶化液を4℃、15,000 x g、15 分の遠心分離により清澄にした。上清をアミロースアフィニティーカラム[2x10 cm、30ml樹脂] (New England BioLabs; Hitchin、UK)にアプライした。非結合タンパク質を樹脂からカラムバッファーにより280 nmの安定な吸光度の読みによって判断して溶出液がタンパク質を含まなくなるまで洗浄した。結合したMBP-L 鎖融合タンパク質を10 mM マルトースを含むカラムバッファーで次いで溶出することが出来た。融合タンパク質を含むフラクションをプールし、150 mM NaCl、2 mM CaCl2、および1 mM DTT を添加した20 mM Tris-HCl (pH 8.0)に対して72 時間4℃で透析した。
【0136】
MBL-L鎖 融合タンパク質は宿主細菌からの放出後に精製することが出来る。細菌からの放出は細菌細胞膜の酵素による分解または機械的破壊により達成することが出来る。アミロースアフィニティークロマトグラフィーを精製に用いることが出来る。組換え野生型または突然変異体軽鎖は、活性化第X因子による部位特異的切断により融合タンパク質の糖結合ドメインから分離できる。この切断手順により典型的には遊離のMBP、遊離の軽鎖および少量の非切断融合タンパク質が生じる。かかる混合物中に存在する結果として得られた軽鎖は所望の活性を有することが示され得るが、さらなる精製工程を用いてもよい。例えば、切断産物の混合物をMBPと非切断融合タンパク質との両方に結合する第二アミロースアフィニティーカラムにアプライすればよい。遊離の軽鎖はフロースルーフラクション中に単離されうる。
【0137】
実施例 10:天然軽鎖、組換え野生型軽鎖と精製重鎖との再構成:
【0138】
天然重鎖および軽鎖は、BoNTから2 M 尿素により解離し、100 mM DTTで還元し、確立しているクロマトグラフィー手順にしたがって精製できる。例えば、Kozaki et al. (1981、Japan J. Med. Sci. Biol. 34,61)および Maisey et al. (1988、Eur. J. Biochem. 177,683)を参照。精製重鎖は、等モル量の天然軽鎖または組換え軽鎖と組みあわせることが出来る。再構成は25 mM Tris (pH 8.0)、50μM 酢酸亜鉛 および150 mM NaClからなるバッファーに対してサンプルを4日間4℃で透析することにより行うことが出来る。透析の後、組換え軽鎖および天然重鎖は結合して、ジスルフィド結合した150 kDaの二本鎖を形成し、それはSDS-PAGEによりモニターされ、および/または、濃度測定スキャニングにより定量される。
【0139】
実施例 11 :生物学的持続性が強化した修飾神経毒の産生:
【0140】
修飾神経毒は、組換え技術を常套の化学的技術と組みあわせて用いることにより産生することが出来る。
【0141】
神経毒鎖、例えば、生物学的持続性強化成分と融合されて修飾神経毒を形成するボツリヌス軽鎖は組換えにより産生でき、実施例 9に記載のように精製できる。
【0142】
組換え技術由来の組換え神経毒鎖は、生物学的持続性強化成分、例えば、ロイシンに基づくモチーフ、チロシンに基づくモチーフ、および/または、アミノ酸誘導体と共有結合により融合(またはそれらと結合)しうる。生物学的持続性強化成分を含むペプチド配列は標準的 t-Boc/Fmoc技術によって、当業者に知られているように溶液または固相において合成することが出来る。同様の合成技術も本発明に含まれ、例えば、Milton et al. (1992、Biochemistry 31,8799- 8809)およびSwain et (1993、Peptide Research 6,147-154)において用いられている方法が含まれる。1以上の合成生物学的持続性強化成分は、A、B、C1、C2、D、E、FまたはG型ボツリヌスの軽鎖に、例えば、毒素のカルボキシル末端にて融合しうる。生物学的持続性強化成分の融合は化学的結合によって当業者に知られた試薬と技術、例えば PDPH/EDACおよびTraut's試薬化学を用いて達成される。
【0143】
あるいは、修飾神経毒は生物学的持続性強化成分を組換えボツリヌス毒素鎖に融合させる工程なしに組換えにより産生できる。例えば、実施例 9の組換え技術由来のボツリヌス 軽鎖などの組換え神経毒鎖は、生物学的持続性強化成分、例えば、ロイシンに基づくモチーフ、チロシンに基づくモチーフおよび/またはアミノ酸誘導体とともに産生させてもよい。例えば、1以上の生物学的持続性強化成分をコードするDNA 配列をA、B、C1、C2、D、E、FまたはG型ボツリヌスの軽鎖をコードするDNA 配列に付加してもよい。この付加は当業者に周知の部位特異的変異誘発について知られている多数の方法のいずれによっても行うことが出来る。
【0144】
生物学的持続性強化成分が融合または付加した組換え修飾軽鎖は、神経毒の重鎖と、実施例 10に記載の方法によって再構成することが出来、それによって完全な修飾神経毒が得られる。
【0145】
この実施例によって産生された修飾神経毒は生物学的持続性が強化している。好ましくは、生物学的持続性は付加的な生物学的持続性強化成分を有さない同一の神経毒と比較して約 20%〜約 300%強化している。
【0146】
実施例 12:ボツリヌス毒素血清型 A〜G 軽鎖(LC)のアミノ酸配列のアミノ末端(N-末端)の最初の30 残基およびカルボキシル末端(C-末端)の最後の50 残基を表2に示す。
【表2】
【0147】
これら血清型のアミノ酸配列における変化には、アミノ酸置換、突然変異、欠失、またはかかる変化の様々な組合せが含まれうる。かかる変化は軽鎖のN-末端の最初の30アミノ酸(AA) および/または軽鎖のC-末端の最後の50アミノ酸(AA)において当該技術分野において標準的な組換えDNA技術的方法を用いて操作することが出来る。
【0148】
例えば、研究によると、N-末端から8アミノ酸残基(PFVNKQFN) (配列番号120)が欠失しているGFP-LCA コンストラクト(C-末端は欠失無し)は、Cおよび N末端の両方が欠失した切断GFP-LCA コンストラクトの PC12 細胞における局在と非常によく似たパターンにてPC12 細胞に局在していることが示された。
【0149】
さらなる研究によると、C-末端から22 アミノ酸残基(KNFTG LFEFYKLLCV RGIITSK) (配列番号121)が欠失したGFP-LCA コンストラクト (N-末端は欠失無し) はGFP-LCA (LL-->AA) 突然変異体と非常によく似た様式でPC12 細胞において局在していることが示された。
【0150】
N-末端から8アミノ酸残基(PFVNKQFN) (配列番号122)が欠失し、C-末端から22アミノ酸 残基(KNFTG LFEFYKLLCV RGIITSK) (配列番号123)が欠失しているGFP-LCA コンストラクトは細胞内に蓄積した。
【0151】
アミノ酸配列置換の例としては、軽鎖のN-末端の最初の30アミノ酸および/またはC-末端の最後の50アミノ酸における1以上の連続または非連続アミノ酸の、野生型配列とは異なる同じ数および配置のアミノ酸による置換が含まれる。置換はアミノ酸の特徴について保存的であっても非保存的であってもよい。例えば、野生型配列における特定の位置のアミノ酸バリンは置換される配列における同じ位置のアラニンにより置換されていてもよい。さらに、塩基性残基、例えば、アルギニンまたはリジンは高度に疎水性の残基、例えば、トリプトファンにより置換されてもよい。プロリンまたはヒスチジン残基は、タンパク質の潜在的に重要な構造または触媒要素を形成または破壊するために置換されてもよい。アミノ酸置換のいくつかの例を表3に記載する配列において下線を引いた太字で示す。
【表3−1】
【表3−2】
【0152】
アミノ酸配列突然変異の例としては、軽鎖配列のN-末端の最初の30アミノ酸および/またはC-末端の最後の50アミノ酸における変化が含まれ、1または数個のアミノ酸が付加、置換および/または欠失したものであり、野生型軽鎖配列におけるアミノ酸の同一性、数および位置は必ずしも突然変異した軽鎖配列において保存されている必要はない。アミノ酸配列突然変異のいくつかの例を表4に記載し、示された配列においてアミノ酸の付加は下線を引いた太字で、欠失は破線で示す。
【表4−1】
【表4−2】
【0153】
アミノ酸配列欠失の例には、軽鎖配列のN-末端の最初の30アミノ酸および/またはC-末端の最後の50アミノ酸からの1以上の連続または非連続アミノ酸の除去が含まれる。アミノ酸配列欠失のいくつかの例を表5に示す配列において破線で示す。
【表5−1】
【表5−2】
【0154】
実施例 13
本発明のある態様において、毒素の生物学的持続性および/または酵素活性は、毒素を構造的に修飾することによって変化させうる。ある態様において、構造的修飾には、毒素におけるアミノ酸の置換、突然変異または欠失が含まれる。ある態様において、構造的修飾には生物学的持続性強化成分または酵素活性強化成分がボツリヌス毒素の軽鎖末端に融合、交換または組込まれるキメラ融合コンストラクトが含まれる。ある態様において、構造的修飾にはボツリヌス毒素の軽鎖末端に生物学的持続性低下成分または酵素活性低下成分が融合、交換または組込まれるキメラ融合コンストラクトが含まれる。ある態様において、持続性または活性強化または持続性または活性低下成分はボツリヌス毒素の軽鎖の最初の30 アミノ酸を含むN-末端領域であるか、ボツリヌス毒素の軽鎖の最後の50 アミノ酸を含むC-末端領域である。この生物学的持続性または酵素活性強化成分あるいは生物学的持続性または酵素活性低下成分はボツリヌス毒素の軽鎖のN-および/またはC-末端に交換、融合または組み込まれ、その生物学的持続性および/または酵素活性を増減する。
【0155】
ある態様において、BoNT/Aの軽鎖N-末端領域のキメラコンストラクトへの融合、付加または交換の結果、生物学的持続性および/または酵素活性が上昇する。ある態様において、キメラコンストラクトにおけるBoNT/Aの軽鎖N-末端領域の置換、突然変異または欠失の結果、生物学的持続性および/または酵素活性が低下する。ある態様において、BoNT/Aの軽鎖のC-末端領域のキメラコンストラクトへの融合、付加または交換の結果、生物学的持続性および/または酵素活性が上昇する。ある態様において、キメラコンストラクトにおけるBoNT/Aの軽鎖のC-末端領域の置換、突然変異または欠失の結果、生物学的持続性および/または酵素活性は低下する。
【0156】
一般に、キメラ毒素は、構造的修飾を有さない同じ毒素と比較して約 20%〜300%高い生物学的持続性を有するのが好適である。キメラ毒素の生物学的持続性は約 100%強化されうる。即ち、例えば、生物学的持続性強化成分を含む修飾ボツリヌス神経毒は、構造的修飾を有さない神経毒と比べて神経末端からの神経伝達物質 (例えば、アセチルコリン) 放出を約 20%〜約 300%長期にわたって実質的に阻害する。
【0157】
同様に、キメラボツリヌス毒素軽鎖は変化した酵素活性を有するのが好適である。例えば、キメラ毒素は、その修飾神経毒の生物学的持続性の変化を伴ってまたは伴わずに標的細胞からのエキソサイトーシス (例えば、神経伝達物質のエキソサイトーシス)の低下または強化した阻害を示しうる。酵素活性の変化には、効力または有効性の増減、原形質膜への局在化の増減、基質特異性の増減、および/またはSNAP/SNARE タンパク質のタンパク質分解速度の増減が含まれる。酵素活性の上昇は天然または非修飾軽鎖の生物活性よりも1.5〜5倍高くなりうる。例えば、酵素活性強化成分を含むキメラボツリヌス神経毒は構造的修飾を有さない神経毒と比較してSNAP-25 基質のタンパク質分解速度の上昇により、神経末端からの神経伝達物質 (例えば、アセチルコリン) 放出の実質的阻害をもたらしうる。
【0158】
A型ボツリヌス毒素軽鎖のN-末端から8アミノ酸残基(PFVNKQFN)が欠失し、C- 末端から22アミノ酸残基(KNFTG LFEFYKLLCV RGIITSK)が欠失した組換えコンストラクトは、活性の低下を示し、C-末端の22アミノ酸のみが欠失した同様のコンストラクトと比較して10倍近くもSNAP-25 基質を切断するのに必要な有効濃度 (EC50)が上昇する(EC50 ΔN8ΔC22=4663 pMに対して、EC50 ΔC22 =566 pM)。 A型ボツリヌス毒素の組換え軽鎖を対照として用い (EC50 rLC/A =7 pM)、それゆえ、rLC/A コンストラクトと比較すると、666倍高い濃度のΔN8ΔC22 コンストラクトが必要である。ジロイシンモチーフがジアラニンに突然変異した組換え軽鎖コンストラクト[rLC/A (LL-->AA)]もまた、活性の低下を示す(EC50 rLC/A (LL-->AA) =184 pM); しかし、ΔN8ΔC22コンストラクトの有効濃度はrLC/A (LL-->AA) コンストラクトと比べて25倍高い。
【0159】
修飾軽鎖には、A、B、C1、D、E、FまたはG型ボツリヌス毒素からの軽鎖が含まれうる。N-および/またはC-末端の1または複数のドメインを付加、欠失または置換によって修飾しうる。例えば、修飾キメラ軽鎖成分には、BoNT/A 軽鎖からの1以上のN-および/または C-末端配列の付加または交換/置換により修飾されたBoNT/Eからの軽鎖が含まれうる。その結果、一方または両方の末端が、原形質膜への限局能力の増減、生物学的持続性の増減および/または酵素活性の増減を付与する1以上の 配列を有する、キメラ BoNT/E- BoNT/A キメラ 軽鎖が生ずる。
【0160】
キメラボツリヌス毒素は1つのボツリヌス毒素血清型の軽鎖のC-末端部分が別のボツリヌス毒素血清型の軽鎖の類似のC-末端部分を置換するように構築できる。例えば、BoNT/A軽鎖C-末端のジ-ロイシンモチーフを含む最後の22アミノ酸残基は、BoNT/E軽鎖C-末端の最後の22 アミノ酸残基を置換することができる。かかるキメラコンストラクトの軽鎖全体のアミノ酸配列を以下に示す:
【表6】
【0161】
上記コンストラクトにおいて、大多数のアミノ酸配列は BoNT/E 血清型由来であり、下線を引いた太字で示すアミノ酸はジ-ロイシンモチーフを有するBoNT/A軽鎖C-末端の最後の22 アミノ酸残基由来である。
【0162】
さらなる例において、BoNT/A軽鎖N- 末端からの最初の30アミノ酸残基は、BoNT/B軽鎖N-末端の最初の30アミノ酸残基を置換しうる。かかるキメラコンストラクトの軽鎖全体のアミノ酸配列を以下に示す:
【表7】
【0163】
上記コンストラクトにおいて大多数のアミノ酸配列は、BoNT/B血清型由来であり、下線を引いた太字で示すアミノ酸はBoNT/A軽鎖N-末端の最初の30アミノ酸残基由来である。
【0164】
さらに、キメラコンストラクトはN-末端とC-末端との両方の置換を有しうる。例えば、BoNT/A軽鎖N- 末端からの最初の9アミノ酸残基はBoNT/E軽鎖N- 末端からの最初の9アミノ酸残基を置換しうる。さらに、同じコンストラクトにおいて、BoNT/A軽鎖C-末端からの最後の22 アミノ酸残基はBoNT/E軽鎖C-末端からの最後の22 アミノ酸残基を置換しうる。かかるキメラコンストラクトの軽鎖全体のアミノ酸配列を以下に示す:
【表8−1】
【表8−2】
【0165】
上記コンストラクトにおいて、大多数のアミノ酸配列はBoNT/E 血清型由来であり、および下線を引いた太字のアミノ酸は、BoNT/A軽鎖のN-末端の最初の9アミノ酸残基およびC-末端の最後の22 アミノ酸残基由来である。
【0166】
同様に、BoNT/A軽鎖N- 末端からの最初の9アミノ酸残基はBoNT/B軽鎖N- 末端の最初の9アミノ酸残基を置換しうる。さらに、同じコンストラクトにおいて、BoNT/A軽鎖C-末端からの最後の22 アミノ酸残基はBoNT/B軽鎖C-末端の最後の22 アミノ酸残基を置換しうる。かかるキメラコンストラクトの軽鎖全体のアミノ酸配列を以下に示す:
【表9】
【0167】
上記コンストラクトにおいて、大多数のアミノ酸配列は血清型BoNT/B由来であり、および、下線を引いた太字のアミノ酸は、BoNT/A軽鎖のN-末端最初の9アミノ酸残基およびC-末端最後の22 アミノ酸残基由来である。
【0168】
さらに、BoNT/A軽鎖N- 末端の最初の9アミノ酸残基は、BoNT/F軽鎖N- 末端の最初の9アミノ酸残基を置換しうる。さらに、同じコンストラクトにおいて、BoNT/A軽鎖C-末端からの最後の22 アミノ酸残基は、BoNT/F軽鎖C-末端からの最後の22 アミノ酸残基を置換しうる。かかるキメラコンストラクトの軽鎖全体のアミノ酸配列を以下に示す:
【表10】
【0169】
上記コンストラクトにおいて、大多数のアミノ酸配列はBoNT/F 血清型由来であり、下線を引いた太字のアミノ酸はBoNT/A軽鎖N-末端の最初の9アミノ酸残基およびC-末端の最後の22 アミノ酸残基由来である。
【0170】
ある態様において、軽鎖を操作して、1以上の毒素血清型の1以上の軽鎖セグメントを、別の毒素血清型の軽鎖内の同じまたは異なる長さの1以上のセグメントと置換しうる。この種のキメラコンストラクトの非限定的な例において、BoNT/A軽鎖N- 末端の50アミノ酸残基はBoNT/B軽鎖N-末端の8アミノ酸残基を置換することが出来、その結果、軽鎖キメラのN-末端領域において42アミノ酸長の正味の増加が導かれる。かかるキメラコンストラクトの軽鎖全体のアミノ酸配列を以下に示す:
【表11】
【0171】
上記コンストラクトにおいて、大多数のアミノ酸配列はBoNT/B血清型由来であり、下線を引いた太字のアミノ酸はBoNT/A軽鎖N- 末端の最初の50アミノ酸残基由来である。
【0172】
この種のキメラコンストラクトの非限定的な例において、BoNT/A軽鎖C-末端からの最後の50アミノ酸残基がBoNT/E軽鎖C-末端の15アミノ酸残基を置換し得、その結果、軽鎖キメラのC-末端領域において正味35アミノ酸が増加する。かかるキメラコンストラクトの軽鎖全体のアミノ酸配列を以下に示す:
【表12】
【0173】
上記コンストラクトにおいて、大多数のアミノ酸配列はBoNT/E 血清型由来であり、下線を引いた太字のアミノ酸はBoNT/A軽鎖C-末端の最後の50アミノ酸残基由来である。
【0174】
この種のキメラコンストラクトの非限定的な例において、BoNT/A軽鎖N- 末端からの30アミノ酸残基がBoNT/E軽鎖N-末端の10 アミノ酸残基を置換することが出来、その結果キメラN-末端領域において正味20アミノ酸長が増加する。さらに、同じコンストラクトにおいて、BoNT/A軽鎖C-末端からの最後の50アミノ酸残基が、BoNT/E軽鎖C-末端 からの最後の50アミノ酸残基を置換することが出来る。かかるキメラコンストラクトの軽鎖全体のアミノ酸配列を以下に示す:
【表13】
【0175】
上記コンストラクトにおいて、大多数のアミノ酸配列は BoNT/E 血清型由来であり、下線を引いた太字のアミノ酸はBoNT/A軽鎖N-末端の30アミノ酸残基およびC-末端の最後の50アミノ酸残基由来である。
【0176】
この種のキメラコンストラクトの非限定的な例において、BoNT/A軽鎖N- 末端からの30アミノ酸残基が、BoNT/B軽鎖N-末端の10アミノ酸残基を置換することが出来、その結果キメラのN-末端領域において正味20アミノ酸長増加する。さらに、同じコンストラクトにおいて、BoNT/A軽鎖C-末端からの最後の50アミノ酸残基が、BoNT/B軽鎖C-末端からの最後の50アミノ酸残基を置換することが出来る。かかるキメラコンストラクトの軽鎖全体のアミノ酸配列を以下に示す:
【表14】
【0177】
上記コンストラクトにおいて、大多数のアミノ酸配列はBoNT/B血清型由来であり、下線を引いた太字のアミノ酸はBoNT/A軽鎖N-末端の30アミノ酸残基およびC-末端の最後の50アミノ酸残基由来である。
【0178】
この種のキメラコンストラクトの非限定的な例において、BoNT/A軽鎖N- 末端からの30アミノ酸残基はBoNT/Fの軽鎖N-末端の10アミノ酸残基を置換することが出来、その結果、キメラN-末端領域の長さが正味20アミノ酸増加する。さらに、同じコンストラクトにおいて、BoNT/A軽鎖C-末端からの最後の50アミノ酸残基は、BoNT/F軽鎖C-末端からの最後の50アミノ酸残基を置換しうる。かかるキメラコンストラクトの軽鎖全体のアミノ酸配列を以下に示す:
【表15】
【0179】
上記コンストラクトにおいて、大多数のアミノ酸配列はBoNT/F 血清型由来であり、下線を引いた太字のアミノ酸は、BoNT/A軽鎖N-末端の30アミノ酸残基およびC-末端の最後の50アミノ酸残基由来である。
【0180】
ある態様において、交換される(swapped)配列は2種類の血清型由来であり得、その結果、全部で3種類の血清型由来の領域を有するキメラとなる。この例において、BoNT/B軽鎖N-末端由来の8アミノ酸残基はBoNT/Eの軽鎖N-末端の5アミノ酸残基を置換することが出来、その結果、キメラのN-末端領域の長さが正味3アミノ酸増加する。さらに、同じコンストラクトにおいて、BoNT/A軽鎖C-末端のジロイシンリピートを含む30 アミノ酸残基は、BoNT/E の軽鎖C-末端の10アミノ酸残基を置換することが出来、その結果、キメラのC-末端領域の長さが正味20 アミノ酸増加する。かかるキメラコンストラクトの軽鎖全体のアミノ酸配列を以下に示す:
【表16】
【0181】
上記コンストラクトにおいて、大多数のアミノ酸配列はBoNT/E 血清型由来であり、斜体の太字で示すアミノ酸はBoNT/B軽鎖N-末端の8アミノ酸残基由来であり、下線を引いた太字で示す30アミノ酸残基は、BoNT/A軽鎖C-末端の30アミノ酸残基由来である。
【0182】
非限定的な例において、BoNT/B軽鎖N- 末端からの8アミノ酸残基は、BoNT/F軽鎖N- 末端の5アミノ酸残基を置換することが出来、その結果、キメラのN-末端領域の長さが正味3アミノ酸増加する。さらに、同じコンストラクトにおいて、BoNT/A軽鎖C-末端のジロイシンリピートを含む30 アミノ酸残基は、BoNT/F軽鎖C-末端の10アミノ酸残基を置換することが出来、その結果、キメラのC-末端領域において正味20 アミノ酸増加する。かかるキメラコンストラクトの軽鎖全体のアミノ酸配列を以下に示す:
【表17】
【0183】
上記コンストラクトにおいて、大多数のアミノ酸配列は BoNT/F 血清型由来であり、斜体の太字で示すアミノ酸はBoNT/B軽鎖N-末端の8アミノ酸残基由来であり、下線を引いた太字で示す30アミノ酸残基はBoNT/A軽鎖C-末端の30アミノ酸残基由来である。
【0184】
実施例 14
本発明はまた、A型ボツリヌス毒素軽鎖N-末端からの最初の約30 アミノ酸およびA型ボツリヌス毒素軽鎖C-末端の最後の約50 アミノ酸を含むB、C1、D、E、FまたはG型ボツリヌス毒素の軽鎖も提供する。ここでA型のN-末端の最初の30アミノ酸は全部であっても一部であってもよく、30 アミノ酸の、例えば 2-16の連続または非連続アミノ酸である。ここで最後の50 アミノ酸も全部であっても一部であってもよく、例えば50 アミノ酸の5-43の連続または非連続アミノ酸である。
【0185】
ある態様において、かかる軽鎖は、A型ボツリヌス毒素軽鎖N-末端からの最初の約20アミノ酸およびA型ボツリヌス毒素軽鎖C-末端からの最後の約30アミノ酸を含む。A型N-末端の最初の20 アミノ酸は全部であっても一部であってもよく、例えば20 アミノ酸の2-16 の連続または非連続アミノ酸である。ここで、最後の30アミノ酸も全部であっても一部であってもよく、例えば30 アミノ酸の5-23の連続または非連続アミノ酸である。
【0186】
ある態様において、かかる軽鎖は、A型ボツリヌス毒素軽鎖N-末端の最初の約 4〜8、例えば最初の8アミノ酸およびA型ボツリヌス毒素軽鎖C- 末端からの最後の約7〜22アミノ酸、例えば最後の22アミノ酸を含む。A型N-末端の最初の8 アミノ酸は全部であっても一部であってもよく、例えば7 アミノ酸の2-7の連続または非連続アミノ酸である。最後の22 アミノ酸も全部であっても一部であってもよく、例えば20 アミノ酸の5-16の連続または非連続アミノ酸である。
【0187】
ある態様において、A型軽鎖のN-末端からの最初の約30 アミノ酸およびC-末端からの最後の約50 アミノ酸を含めることにより、B、C1、D、E、FまたはG型ボツリヌス毒素軽鎖のN-およびC-末端の1以上のアミノ酸を置換しうる。A型 N-末端の最初の30アミノ酸は全部であっても一部であってもよく、例えば30 アミノ酸の2-16の連続または非連続アミノ酸である。最後の50 アミノ酸も全部であっても一部であってもよく、例えば50 アミノ酸の5-43の連続または非連続アミノ酸である。
【0188】
ある態様において、A型軽鎖のN-末端からの約20 アミノ酸およびC-末端からの約30 アミノ酸を含めることにより、B、C1、D、E、FまたはG型ボツリヌス毒素軽鎖のそれぞれN-およびC-末端の1以上のアミノ酸を置換することが出来る。A型N-末端の最初の20 アミノ酸は全部であっても一部であってもよく、例えば20 アミノ酸の2-16の連続または非連続アミノ酸である。最後の30アミノ酸も全部であっても一部であってもよく、例えば30 アミノ酸の5-23の連続または非連続アミノ酸である。
【0189】
ある態様において、A型軽鎖N-末端からの最初の約 4〜8、例えば最初の8アミノ酸および、C-末端からの最後の約7〜22、例えば最後の22アミノ酸を含めることにより、B、C1、D、E、FまたはG型ボツリヌス毒素軽鎖のN-およびC-末端の1以上のアミノ酸をそれぞれ置換することが出来る。A型N- 末端の最初の8 アミノ酸は全部であっても一部であってもよく、例えば7 アミノ酸の2-7の連続または非連続アミノ酸である。最後の22 アミノ酸も全部であっても一部であってもよく、例えば20 アミノ酸の5-16の連続または非連続アミノ酸である。
【0190】
本発明はまた、上記の実施例に記載したものを含む本明細書に記載の軽鎖を含む修飾ボツリヌス毒素を提供する。
【0191】
実施例 15 : LC/E キメラの作成
【0192】
LC/AのN-末端の8 アミノ酸の切断は完全に原形質膜局在化を破壊する。LC/A(△N8)は細胞質にあり、LC/Eと同様の分布を示す。LC/AおよびLC/EのN-末端の配列は互いに異なる (図1)。
【0193】
LC/AのN-末端を有するLC/Eを作成するために、本発明者らは2種類のアプローチを進めた。第一のアプローチは、LC/AのN-末端を含む5'プライマーを用いて野生のベルーガ(beluga)LC/E 遺伝子に対するPCRを行うというものであった。PCR用プライマーは以下の通り:
N-ter LC/A フォワード:
【表18】
N-ter LC/A リバース:
【表19】
【0194】
PCRは、0.4μgのプラスミドテンプレートpQBI25fC3beruga LC/E、および125ngの各プライマーを用いて行った。サイクリングプログラムは以下の通り:
変性:95℃、15分
5 サイクル: 94℃、30秒;50℃、30秒;72℃、1分:
25 サイクル: 94℃、30秒;68℃、30秒;72℃、1分:
伸長:72℃、10分。
【0195】
低アニーリング温度での最初の5サイクルにより、配列における相違にもかかわらず、LC/Eの5'配列にプライマーがアニーリングすることが可能となる。第二セットの25 サイクルにより、さらなるより制限された増幅のための正しい配列の産物を使用することになる。
【0196】
LC/AのN- 末端を有するLC/E キメラを作成するための第二の戦略は、部位特異的変異誘発を用いて一度に(as a time)一つのアミノ酸を突然変異させることであった。設計したプライマーは以下の通りであった:
1.Pro-Lys-Ileから Pro-Phe-ValへのLC/E配列変化:
【表20】
2. Pro-Phe-Val-Asn-SerからPro-Phe-Val-Asn-Lysへの配列変化:
【表21】
3. LC/E におけるLC/AのN-末端配列を完全にするためのグルタミン挿入:
【表22】
【0197】
示したプライマーはセンス鎖上のものであり、アンチセンス鎖に対応する相補的プライマーも注文し、PCRに用いた。QuikChange 突然変異誘発に使用したテンプレートはpQBI25fC3beruga LC/Eであった。
【0198】
本発明者らはまた、C-末端の同様の領域のLC/E中にモチーフを作成することによって、LC/A にのみ存在するジロイシンモチーフの重要性を分析した(図 2)。LC/Eにおける配列は、LxxxIIである。公表されたモチーフのいくつかにおいてイソロイシンがロイシンを置換しうることから、本発明者らはExxxIIを生じるプライマー、およびExxxLLを生じるプライマーを設計した。これら突然変異は天然 LC/E 遺伝子において、そしてLC/AのN-末端を含むLC/Eにおいて行った。
【0199】
本発明者らは、図 3に示すようにLC/AのN- 末端のすべての組合せを有し、ジロイシンモチーフ構築の様々な状態の全部で5つのキメラを作成した。野生型 LC/E、LC/AのN-末端を有するキメラ LC/E、C-末端にLC/Aジロイシンモチーフを有するキメラ LC/EおよびLC/AからのN-末端とジロイシンモチーフの両方を有する完全なキメラ LC/Eの完全DNAおよびアノテートされたアミノ酸配列を図14-17に示す。本発明者らはこれらすべての突然変異体の、発現、活性、および細胞内局在について試験した。
【0200】
細胞株および増殖条件
【0201】
SH-SY5Y (ヒト神経芽細胞腫細胞株)細胞を通気性キャップを有するCostar(商標)ポリスチレンフラスコで培養した。増殖培地は、アール塩(Earle's salt)およびL-グルタミンを含む最小必須培地、L-グルタミンを含むF-12 栄養素混合物 (Ham)、10% 胎児ウシ血清 (熱不活性化)、非必須アミノ酸、HEPES、L-グルタミン、ペニシリン/ストレプトマイシンからなるものとした。PC-12 (ラットクロマフィンクロム親和細胞腫細胞株) 細胞をIV型コラーゲンで被覆したBD Biocoat ディッシュ(BD Biosciences、Bedford、MA)に維持した。増殖培地はL-グルタミン、10% ウマ血清 (熱不活性化)、5% 胎児ウシ血清 (熱不活性化)、HEPES、D-グルコース (Sigma)、ピルビン酸ナトリウム、ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI-1640からなるものとした。すべての(D-グルコース、Sigmaを除く)増殖培地成分はInvitrogen から購入したGibco 製品であり、すべての細胞株は、37℃、7.5% CO2にて培養および維持した。
【0202】
一過性トランスフェクション:
【0203】
トランスフェクションの前日、SH-SY5Y細胞を1 x 106にて6-ウェルプレートに播種した。トランスフェクションはOPTI-MEM低血清(Reduced Serum)培地中60μl/mlとなるようにLipofectAmine 2000 (Invitrogen、Carlsbad、CA)に希釈することによって行い、次いで室温で5分インキュベーションした。次いで、本発明者らはOPTI- MEM 中20μgDNA/mlに希釈し、等量のDNA混合物とLipofectAmine 2000 (LF) 混合物とを混合し、室温でさらに20分間インキュベートした。その間、プレート中の培地を2 mlの無血清培地と交換し、0.5 mlのDNA + LF混合物をウェルに添加し、37℃のC02 インキュベーターで6 時間インキュベートした。インキュベーションの後、培地を除き、10% FCS培地と交換した。細胞はトランスフェクションの24 時間後にさらなる分析のために収集した。共焦点分析のために、トランスフェクションは通常試薬を段階的に減少させた2-ウェルの培養スライスにて行った。
【0204】
PC12 細胞へのトランスフェクションは以下のようにして行った:トランスフェクションの前日にPC12 細胞をIV型コラーゲンで被覆したディッシュに10 x 106 細胞/100 mm ディッシュおよび2 x 106 細胞/60 mm ディッシュにて播種した。プレートをそれぞれOPTI-MEM 培地中でLipofectAmine2000を用いて20μgまたは10μgにてトランスフェクトした。トランスフェクションの48 時間後、細胞を分化培地に播種し、ウェスタンブロット用に収集するか、あるいは共焦点画像処理用に4%パラホルムアルデヒド中にて固定した。
【0205】
ウェスタンブロット分析:
【0206】
細胞を15 ml ファルコンチューブに回収し、lmlのPBSで1回洗浄し、1.5ml 微量遠心管に移した。細胞をローテータ上で4℃で1 時間、 0.5 mlの溶解バッファー (50 mM HEPES、150 mM NaCl、1.5 mM MgCl2、1mM EGTA、10%グリセロールおよび10%Triton X-100)中で溶解した。溶解した細胞を5000 rpmで4℃で10分間遠心し、細片を除いた; 上清を新しいシリコン処理チューブに移した。タンパク質濃度はブラッドフォード法により測定し、1 x SDS サンプルバッファーに1mg/ml以上の濃度に再懸濁した。サンプルを5分間煮沸し、20〜40μlのサンプルを、4-12% Tris-HClゲルにローディングした。タンパク質をPVDF メンブレンにトランスファーし、室温で1 時間TBST バッファー中5% 脱脂乳でブロッキングした。切断されたSNAP25 を抗SNAP25197抗体で検出するか、またはブロッキングバッファーに希釈した抗SNAP25180抗体で検出した; ブロットを十分に洗浄し、結合した抗体を種-特異的抗体に結合したセイヨウワサビペルオキシダーゼで検出した。
【0207】
SNAP25のN-末端に対するモノクローナル抗体 SMI-81を用いて同一のブロット中のSNAP25206、SNAP25197およびSNAP25205を検出する必要がある場合、細胞可溶化液を12% Bis-Trisゲルで泳動して切断されたSNAP25の分離を可能とした。
【0208】
本発明者らはウェスタンブロット分析のために従来型のフィルムではなく、Typhoon 9410 撮像装置 (Amersham)を使用した。最後の洗浄後、メンブレンをECL Plus ウェスタンブロット検出試薬(Amersham)と反応させ、以前に用いた SuperSignal試薬は用いなかった。ブロットを室温で5分インキュベートして現像した。ピクセルサイズおよびPMT 電圧設定の選択は個々のブロットに依存する。メンブレンをスキャンし、Typhoon Scanner およびImager Analysisソフトウェアを用いて定量した。
【0209】
SNAP-25 免疫細胞化学のためのSH-SY5Y一過性トランスフェクション
【0210】
トランスフェクションの前日、SH-SY5Y 細胞を60 mm 組織培養ディッシュに密度1.5x106または1.6 x106細胞/ディッシュにて播種し、トランスフェクションの時に90- 95% 集密となるようにした。トランスフェクションは、25μlのLipofectAmine2000 (Invitrogen)を0.5 ml Opti-MEM(登録商標)I低血清(Reduced Serum)培地 (Invitrogen)に希釈することにより行い、次いで室温で5分インキュベーションした。DNA (10μg)を0.5 ml Opti-MEM(登録商標)I低血清培地に希釈した。希釈したDNAを希釈したLipofectAmine 2000とともに穏やかに混合した。この混合物を20分間室温でインキュベートした。この間、プレート中の培地を2 mlの無血清・抗生物質-非含有培地と交換した。DNAとLipofectAmine2000 複合物を細胞に滴下し、プレートを前後に揺り動かすことによって培地中に混合した。細胞を37℃、7.5% C02で24 時間インキュベートした。トランスフェクション効率は蛍光顕微鏡で細胞を観察することにより判定した。GFP コンストラクトによるトランスフェクション効率は約40-50%であった。GFP-LCE コンストラクトではトランスフェクション効率はより低く、約10-15%であった。細胞の抗生物質選択を0.5 mg/ml ジェネテシン G418 (Invitrogen)を含む完全培地で行い、48 時間後に免疫細胞化学を行った。
【0211】
SNAP-25 免疫細胞化学のためのPC-12 一過性トランスフェクション
【0212】
細胞をトランスフェクションの前日にIV型コラーゲンで被覆したディッシュ (BD Biosciences)に1-2 x 106 細胞/ 60 mm ディッシュにて播種した。プレートを10μg DNA および25μl LipofectAmine2000 (それぞれ0.5 ml Opti- MEM(登録商標) I 低血清培地に希釈)を用いてトランスフェクトした。細胞をDNA/ LipofectAmine 2000 複合物とともに7.5%CO2、37℃で無血清抗生物質-非含有培地にて24 時間インキュベートした。トランスフェクション培地を0.5 mg/ml G418 (抗生物質選択)を含む完全増殖培地 (血清および抗生物質含有)と交換し、インキュベーションを37℃、7.5% C02でさらに48 時間続けた。細胞を、神経増殖因子 (NGF) (Harlan Bioproducts for Science、Indianapolis、IN)を50 ng/mlの終濃度にて含む分化培地(L-グルタミン、D-グルコース (Sigma)、ピルビン酸ナトリウム、ペニシリン/ストレプトマイシン、BSA (ALBUMAX II、脂質多含有)、N2-サプリメントを含むRPMI-1640)に24 時間入れ、GFP、SNAP25206およびSNAP25180に特異的な抗体で染色した(表6)。
表6:免疫細胞化学実験に用いた抗体のリスト
【表23】
【0213】
SNAP25206およびSNAP25180のための固定用パラホルムアルデヒドを用いた免疫細胞化学
【0214】
増殖培地を吸引により細胞から除き、細胞をPBS (Invitrogen、Carlsbad、CA)で2回洗浄した。細胞をPBS中4%パラホルムアルデヒド (Electron Microscopy Sciences、Washington、PA)で15〜30分間室温で固定し、PBSで3回洗浄した。細胞をPBS 中0.5% Triton X-100にて5分間室温で透過性にし、PBSで計3回洗浄した。細胞を氷冷メタノール中で6分間-20℃で再び透過性にした。メタノールを吸引により除き、ディッシュを反転させて細胞を室温で乾燥させた。ウェルを細胞のまわりにPap pen (Zymed、San Francisco、CA)を用いて描き、細胞をPBSを6回交換して洗浄し、再水和させた。細胞をPBS 中100 mM グリシンにて30分間室温でブロッキングし、次いでPBSで3回洗浄した。細胞をPBS中0.5% BSAと30分間室温でインキュベートし、PBSを3回交換して洗浄し、PBS中0.5% BSAに希釈した一次抗体を添加した (表 6)。細胞を室温で加湿チャンバ中2 時間または4℃で一晩インキュベートした。一次抗体をインキュベーションせずにPBSによる洗浄により除き、PBS中で3回、それぞれ5分洗浄した。細胞を0.5% BSA/PBS中に希釈した蛍光標識化二次抗体 (Alexa Fluor 抗-マウスまたは抗-ウサギ抗体、Molecular Probes、表6)とともに加湿チャンバ中1 時間室温でインキュベートし、PBSで洗浄した。細胞をVectashield(登録商標)マウンティング培地 (Vector、Burlingham、CA)を用いてマウントし、カバーグラスをかけた。細胞を4℃で保存した後、 Leica 共焦点顕微鏡にて観察した。
【0215】
結果
【0216】
LC/Aについての局在化シグナルを含むLC/E キメラの作成
【0217】
本発明者らは、原形質膜へのタンパク質の局在化に重要であるLC/AのN-末端およびC-末端における配列を同定した。N-末端の最初の8 アミノ酸の欠失により、原形質膜局在化は完全に消失し、LC/A(△N8)は核を除く細胞質に局在する。C-末端のジ-ロイシンモチーフの破壊によっても、局在化の変化が起こる。これらシグナルを確認するために、本発明者らはLC/AとLC/Eとのキメラを作成した。というのは両者は同じ基質を異なる部位で切断するが、細胞内局在および作用持続は異なっているからである。LC/Eは細胞質に局在し、1-2 週間持続する。本発明者らは野生のベルーガ LC/E 配列を用いて以下のコンストラクトを作成した: LC/E (N-LCA)、LC/E(ExxxII)、 LC/E (ExxxLL)、LC/E (N-LCA/ExxxII)、および LC/E (N-LCA/ExxxLL) (図 3および表7)。これはそれぞれのシグナルのそれ自体の効果および、両シグナルが一緒になったときの効果を分析するためである。これらコンストラクトをヒト神経芽細胞腫細胞株SH-SY5Yにトランスフェクトした。細胞可溶化液を調製し、突然変異体の活性 を、切断されたSNAP25とインタクトな SNAP25の両方を認識するSMI-81 抗体を用いて分析した (図 4)。
【0218】
表7:作成し、PC-12およびSH-SY5Y細胞へトランスフェクションしたキメラ LC/Eの説明
【表24】
【0219】
SH-SY5Y にて発現するすべてのキメラはSNAP25206をSNAP25180へと切断することが出来、それらはその他の部位では基質を切断しない(図 4)。行った2つの実験からの予備的データは、天然LC/Eと比較した場合のキメラの活性レベルの変化を示す。本発明者らは、かかる変化が突然変異体の発現レベルの増減によるのか、触媒活性の実際の変化によるのか区別することは出来なかった。なぜならキメラ LC/Eを検出する免疫沈降を行うために十分な材料が無かったからである。図 5は新しいセットの3つの独立した実験の結果を示し、これら実験ではキメラ LC/EをPC12およびSH-SY5Y細胞にトランスフェクトした。各コンストラクトの発現レベルは相異なっていたが、それらはすべてSNAP25切断に対する触媒活性を保持していた。コンストラクトのなかには、野生型 LC/Eと比較して触媒活性が低下しているようなものもみられたが、かかる変化はタンパク質を組換え発現させて、ELISAまたはGFPアッセイを行わなければ確認することは出来ない程度である。
【0220】
Fernandez-Salas,Steward et al. (PNAS 101,3208-3213、2004)により以前に公表された研究は、分化したPC12細胞におけるGFP-LC/AおよびGFP- LC/E タンパク質の細胞内局在化を示した(図 6)。GFP-LC/Aは細胞体および神経突起の原形質膜の特定の領域において点状に限局し、細胞の細胞質においてはGFP-LC/A タンパク質は局在しなかった(図6A)。GFP-LC/Eは核を除く細胞質への局在を示した。細胞は丸い形態を示し、分化培地においてさえも神経突起は見られなかった(図 6B)。
【0221】
図 6の結果は、BoNT 血清型AおよびEからの軽鎖が異なる細胞内区画に向いていることを示す。LC/Aの原形質膜への局在化において重要な配列を同定するために、PC-12およびSH-SY5Y細胞をGFP-LC/EおよびGFP- LC/E (N-LCA/ExxxLL)プラスミドコンストラクトにより一過性にトランスフェクトした。トランスフェクトされたSH-SY5Y細胞を0.5 mg/ml G418を含む増殖培地で2日間選択した後、 抗-SNAP25および抗-GFP 抗体で染色した。トランスフェクトされたPC-12 細胞を2日間選択培地に曝し、次いで分化培地(NGFを50 ng/ml 終濃度にて含有)に24 時間曝した後、染色した。
【0222】
LC/E キメラのGFP 部分の染色は、ほとんどのGFP-LCE (N-LCA/ExxxLL) タンパク質は点状に原形質膜に限局することを示し(図 7AおよびC)、先に報告したGFP-LC/A 局在と類似していた (図 6A)。SNAP25180に対するこの染色に用いたマウスモノクローナル抗体は高いバックグラウンドの染色を示したが、LC/Eを発現する細胞はより強いシグナルを示した。さらに、GFP- LCE (N-LCA/ExxxLL) キメラを発現する細胞は細胞質に維持されるSNAP25180を含んでいた。
【0223】
図8Aおよび8Cに示されるGFP染色は、細胞の原形質膜へのGFP-LC/E (N-LCA/ExxxLL) タンパク質の点状の局在を示し、これは図 6Aに示すGFP-LC/A 局在と類似していた。GFP-LC/E (N-LCA/ExxxLL) キメラタンパク質を発現する細胞 (図8Aおよび8Cにおいて、細胞「a」、「b」および「e」に対応する矢印によって示す)は抗-SNAP25206抗体による染色を示さなかった (図 8B および8Dにおける細胞「a」、「b」および「e」)。これは、これら細胞において発現したGFP-LC/E(N- LCA/ExxxLL)タンパク質のタンパク分解活性を確認するものであり、SNAP25206を切断する能力によって示されるとおりである。一方、図 8Cにおいて「c」および「d」と示すGFP-LC/E (N- LCA/ExxxLL) タンパク質を発現しない細胞は、図 8D における細胞「c」および「d」によって示されるように、全長SNAP25206タンパク質の存在に対する良好なシグナルを与えた。
【0224】
GFP-LC/E タンパク質はFernandez-Salas、Steward et al. およびFernandez-Salas、Ho et al. (Movement Disorders 19、S23-S34.、2004)によって以前に報告されたように点状にて細胞質内の構造に局在することが示され、これを図 6Bに示す。 SNAP25180タンパク質もまた、GFP-LCEを発現する細胞の細胞質に局在し、粒状構造にあるようである(図 9B)。
【0225】
GFP-LC/EのSH-SY5Y 局在
【0226】
GFP-LC/Eタンパク質はSH-SY5Y細胞の細胞質に局在する。図10に示すように両方の細胞の核においてGFPが排除されている大きな領域を注目されたい。
【0227】
GFP-LCE (N-LCA/ExxxLL)キメラもSH-SY5Y細胞で発現させた。抗-GFP 抗体による染色(図11)は原形質膜への局在化を示し、PC-12 細胞にて発現させたキメラについてみられたものと同様であった。
【0228】
キメラ GFP-LC/E (N-LCA/ExxxLL)をコードするプラスミドをヒト神経芽細胞腫細胞株 SH-SY5Yにトランスフェクトした。キメラタンパク質を発現させ、ディッシュを免疫染色用に固定した。GFP (モノクローナル抗体)について陽性に染色された細胞 (図12Aおよび12Cにて矢印で示す)は、GFP-LCE (N-LCA/ExxxLL) タンパク質が原形質膜へ限局することを示した。図12Bおよび12Dにおいて矢印で示すように全長SNAP25206タンパク質はGFP-LCE (N- LCA/ExxxLL) タンパク質を発現する細胞においては検出されなかった。これは、 GFP-LCE(N- LCA/ExxxLL)キメラタンパク質が機能性であり、SNAP25206を切断することを示唆する。
【0229】
活性をさらに確認するためにトランスフェクトされた細胞をGFPおよびSNAP25180に対するモノクローナル抗体によって染色した。 GFPに対する染色(ポリクローナル抗体)により、先の図 (図13A)に示したようにGFP-LC/E(N- LCA/ExxxLL)タンパク質が原形質膜に限局することが示された。SNAP25180の染色に用いた1A3A7腹水マウスモノクローナル抗体は高いバックグラウンド染色を示し非常に弱かった (図13Bの矢印は、SNAP25180染色について陽性の細胞群を示す)。この抗体は先の実験において1: 100 希釈にて用いた。しかし、図13AにおいてGFP-LCE (N-LCA/ExxxLL) タンパク質を発現する細胞は図13Bにおいて矢印で示すように細胞質においてSNAP25180を含んでいた。
【0230】
GFP-LC/E 融合タンパク質は以前にPC12、HIT-T15およびHeLa 細胞の細胞質に局在することが示されている。N-末端 LC/A シグナル (8 アミノ酸)およびLC/AのC-末端ジロイシンモチーフ(ExxxLL)のLCE タンパク質配列への付加(GFP-LCE (N-LCA/ExxxLL))はLC/Eの細胞内局在化を劇的に変化させた。 LC/EへのLC/A 局在化シグナルの付加は、LC/E (N-LCA/ExxxLL) キメラを原形質膜に局在化させ、これらモチーフ/配列がLC/A 局在化に重要なシグナルであることを確認した。SNAP25のLC/Eによる切断は、SNAP25のN- 末端に対する抗体を用いて検出した。全長SNAP25206に対する抗体による共染色により、機能性GFP-LCE (N-LCA/ExxxLL) キメラタンパク質を発現する細胞におけるインタクトな SNAP25の欠失が示された。SNAP25180タンパク質はGFP-LCE (N-LCA/ExxxLL)を発現する細胞の細胞質においても検出され、これはLC/EのSNAP25 タンパク質分解を示す。パラホルムアルデヒド固定細胞におけるSNAP25180切断産物の最適な染色を行うためにさらなる研究が必要である。というのは、この研究に用いた抗- SNAP25180抗体は弱かったからである。LC/A、LC/E およびLC/E (N-LCA/ExxxLL)タンパク質が存在する区画を同定するために、細胞質のオルガネラおよび原形質膜タンパク質(チャンネルおよび受容体)に対して特異的な色素および抗体のパネルを用いる。 PC-12 細胞は野生型 GFP-LC/E、GFP-LC/E (ExxxLL)、GFP-LC/E (ExxxII)、GFP-LC/E (N- LCA)、GFP-LC/E(N-LCA/ExxxII)および野生型 GFP-LC/A コンストラクトでトランスフェクトした。これらキメラタンパク質の局在化により、LC/A 局在化に重要な配列が確認されるであろう。LC/AのN-末端およびジ-ロイシンモチーフを含むLC/E キメラは非常に異なる局在化を示し、より長い作用持続時間を有するLC/Eを構成する可能性がある。
【0231】
本発明を様々な特定の実施例および態様に関して記載したが、本発明はそれらに限定されず、添付の請求の範囲内で様々に実施できることを理解されたい。上記のすべての論文、参考文献、刊行物、および特許はその内容全体が引用により本明細書に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0232】
【図1】LC/A (Allergan Hall A)、LC/BおよびLC/EのN-末端配列の比較。
【図2】Allergan Hall A LC/AのC-末端と、LC/Eの様々な株のC-末端との配列比較。
【図3】LC/Aの局在化シグナルを LC/Eに付加することによって作成したLC/E キメラ。
【図4】LC/Aからの局在化シグナルを含み、SH-SY5Y細胞において発現しているLC/E キメラのSNAP25の切断についての触媒活性。
【図5】GFP-LC/E キメラをコードするプラスミドをPC-12およびSH-SY5Y 細胞にトランスフェクトした。
【図6】PNAS 文献より。(1) GFP-LC/A (A) および GFP-LC/E (B) を発現する分化したPC12細胞。
【図7】GFP-LCE (N- LCA/ExxxLL)でトランスフェクトした分化したPC12細胞。
【図8】GFP-LC/E (N- LCA/ExxxLL)でトランスフェクトした分化したPC12細胞。
【図9】野生のベルーガ GFP-LC/Eでトランスフェクトした分化したPC12細胞。
【図10】GFP-LCE コンストラクトでトランスフェクトしたSH-SY5Y 細胞。
【図11】GFP-LCE (N- LCA/ExxxLL)でトランスフェクトしたSH-SY5Y 細胞。
【図12】GFP-LCE (N- LCA/ExxxLL)でトランスフェクトしたSH-SY5Y 細胞。
【図13】GFP-LC/E (N- LCA/ExxxLL)でトランスフェクトした SH-SY5Y 細胞。
【図14】野生型 ベルーガ LC/Eの配列。
【図15】LC/A のN-末端を有するキメラ LC/Eの配列。
【図16】C-末端にLC/A ジ-ロイシンモチーフを有するキメラ LC/Eの配列。
【図17】LC/A N-末端およびC-末端 ジ-ロイシンモチーフを有するキメラ LC/Eの配列。
【技術分野】
【0001】
クロスリファレンス
本出願は2004年1月14日出願の出願番号10/757077の一部継続出願であり、出願番号10/757077は2002年6月4日出願の出願番号10/163106の一部継続出願であり、出願番号10/163106は、2001年7月20日出願の出願番号09/910346の一部継続出願であり、出願番号09/910346は、2000年7月21日出願の出願番号09/620840の一部継続出願である。これらすべての先行する出願は、その内容全体が引用により本明細書に含まれる。
【背景技術】
【0002】
背景
本発明は、修飾神経毒、特に、修飾クロストリジウム神経毒、および、天然ボツリヌス毒素を用いて治療されてきた症状を含む様々な症状の治療のためのその使用に関する。例えば、A型ボツリヌス毒素は、疼痛、骨格筋症状、平滑筋症状および腺症状を含む多くの症状の治療に用いられてきた。ボツリヌス毒素は美容目的にも用いられている。
【0003】
ボツリヌス毒素を用いる治療について多くの例が存在する。例えば疼痛の治療については、Aoki et al、米国特許第6113915号およびAoki et al、米国特許第 5721215号を参照されたい。神経筋障害の治療例としては、米国特許第5053005号を参照されたい。この特許は、若年の脊椎の彎曲、即ち、脊柱側弯症の、アセチルコリン放出阻害剤、好ましくはA型ボツリヌス毒素による治療を示唆している。斜視のA型ボツリヌス毒素による治療については、Eltson, J. S. et al、British Journal of Ophthalmology、1985,69、718-724および891-896を参照されたい。眼瞼痙攣のA型ボツリヌス毒素による治療については、Adnis, J. P., et al.,J.Fr.Ophthalmol.,1990,13 (5) p 259-264を参照されたい。痙攣性および顎口腔ジストニアの治療については、Jankovic et al., Neurology, 1987, 37,616-623を参照されたい。痙攣性発声障害もA型ボツリヌス毒素で治療されてきた。Blitzer, et al., Ann. Otol. Rhino. Laryngol, 1985, 94, 591-594を参照されたい。舌ジストニアは、Brin et al、Adv. Neurol. (1987) 50、599-608にしたがってA型ボツリヌス毒素で治療された。Cohen et al、Neurology (1987) 37 (Suppl. 1)、123-4は、A型ボツリヌス毒素による書痙の治療を開示している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
向上した生物学的持続性および/または向上した生物活性を有するボツリヌス毒素を得ることは有用であろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
要約
本発明は、E型ボツリヌス毒素の修飾軽鎖を含む修飾毒素に関し、ここで修飾軽鎖はN- 末端にアミノ酸配列、配列番号144 (PFVNKQFN)を、C- 末端にアミノ酸配列、配列番号112 (xExxxLL)を含み、ここでxはいずれのアミノ酸でもよい。
【0006】
定義
本発明の記載を進める前に、以下の定義を提供し、本明細書において用いる。
【0007】
「重鎖」は、クロストリジウム神経毒の重鎖を意味する。その分子量は約 100 kDaであり、本明細書において、重鎖またはHとして称される。
【0008】
「HN」は、クロストリジウム神経毒重鎖由来の重鎖のアミノ末端セグメントとほぼ同等のフラグメント(分子量約50 kDa)またはインタクトな重鎖におけるそのフラグメントに対応する部分である。それは、細胞内エンドソーム膜を通過する軽鎖の転位に関与している天然または野生型クロストリジウム神経毒の部分を含んでいると考えられている。
【0009】
「Hc」は、クロストリジウム神経毒の重鎖由来の重鎖のカルボキシル末端セグメントとほぼ同等のフラグメント (約 50 kDa)またはインタクトな重鎖におけるそのフラグメントに対応する部分である。それは、免疫原性であり、様々な神経細胞(運動神経細胞を含む)、および他のタイプの標的細胞への高親和性結合に関与する天然または野生型クロストリジウム神経毒の部分を含んでいると考えられている。
【0010】
「軽鎖」は、クロストリジウム神経毒の軽鎖を意味する。それは分子量約 50 kDaであり、軽鎖、L、またはクロストリジウム神経毒のタンパク分解ドメイン(アミノ酸配列)と称される。軽鎖は、軽鎖が標的細胞の細胞質に存在する場合、エキソサイトーシス阻害剤、例えば、神経伝達物質 (即ち アセチルコリン) 放出阻害剤として有効であると考えられている。
【0011】
「神経毒」は、神経細胞を含む細胞の機能に干渉することができる分子を意味する。「神経毒」は天然であっても人工であってもよい。干渉される機能(interfered with function)はエキソサイトーシスであり得る。
【0012】
「修飾神経毒」(または「修飾毒素」)は、構造的修飾を含む神経毒を意味する。換言すると、「修飾神経毒」は、構造的修飾によって修飾された神経毒である。構造的修飾は、修飾神経毒が作られたか修飾神経毒が由来する神経毒と比較して、修飾神経毒の生物学的持続性、例えば、生物学的半減期 (即ち神経毒の作用の持続性)および/または生物活性を変化させる。修飾神経毒は構造的に天然の神経毒と異なる。
【0013】
「突然変異」は、天然タンパク質または核酸配列の構造的修飾を意味する。例えば、核酸突然変異の場合、突然変異は、DNA 配列における1以上のヌクレオチドの欠失、付加または置換であり得る。タンパク質配列突然変異の場合、突然変異は、タンパク質配列における1以上のアミノ酸の欠失、付加または置換であり得る。例えば、タンパク質配列を構成する特定のアミノ酸を別のアミノ酸によって置換することが出来る。別のアミノ酸は、例えば、アミノ酸である、アラニン、アスパラギン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、スレオニン、バリン、トリプトファン、チロシンまたはいずれかのその他の天然または非天然アミノ酸または化学修飾アミノ酸を含む群から選択されるアミノ酸である。タンパク質配列に対する突然変異は、転写され、その結果得られるmRNAが翻訳されると突然変異タンパク質配列を生じるDNA 配列に対する突然変異の結果であり得る。タンパク質配列に対する突然変異は、所望のタンパク質配列に対する所望の突然変異を含むペプチド配列を融合することによって作ることも出来る。
【0014】
「構造的修飾」は、構造的修飾がなければ同一である神経毒から、物理的または化学的に異なるものとする神経毒に対するあらゆる改変を意味する。
【0015】
「生物学的持続性」または「持続性」とは、細胞、例えば、神経細胞からのエキソサイトーシス (例えば、神経伝達物質、例えば、アセチルコリンのエキソサイトーシス)の阻害の一時的持続を含む、細胞(例えば、神経細胞)機能に対する神経毒または修飾神経毒によって起こる干渉または影響の持続時間を意味する。
【0016】
「生物学的半減期」または「半減期」とは、神経毒または修飾神経毒、好ましくは神経毒または修飾神経毒の活性部分、例えば、クロストリジウム毒素の軽鎖、の濃度が哺乳類細胞、例えば、哺乳類神経細胞における元の濃度の半分に減少する時間を意味する。
【0017】
「生物活性」または「活性」は、阻害される単位時間当たりの細胞からの細胞エキソサイトーシス、例えば、神経細胞からの神経伝達物質のエキソサイトーシス、の量を意味する。
【0018】
「標的細胞」とは、神経毒または修飾神経毒に対する結合親和性を有する細胞 (神経細胞を含む)を意味する。
【0019】
「精製A」とは、150 kDaの毒素分子である、精製A型ボツリヌス毒素を意味する。
【0020】
図面の簡単な説明
図1:LC/A (Allergan Hall A)、LC/BおよびLC/EのN-末端配列の比較。dN-LC/Aは、 本発明者らのN- 末端欠失突然変異体において切断されているアミノ酸を示す。
【0021】
図2:Allergan Hall A LC/AのC-末端と、LC/Eの様々な株のC-末端との配列比較。四角の枠は、LC/Aに存在するジ-ロイシンモチーフを含む。この領域の配列は、すべてのLC/Eにおいて非常によく保存されており、ロイシンの代わりに2つのイソロイシンを含む。
【0022】
図3:LC/Aの局在化シグナルを LC/Eに付加することによって作成したLC/E キメラ。コンストラクトは、部位特異的変異誘発によりLC/EのC-末端にジ-ロイシンモチーフを組込み、LC/EのN-末端にLC/A のN- 末端を付加することにより作成した。
【0023】
図4:LC/Aからの局在化シグナルを含み、SH-SY5Y細胞において発現しているLC/E キメラのSNAP25の切断についての触媒活性。2つの別々のトランスフェクションを行い、両実験からのウェスタンブロットデータを図に示す。ブロットはSNAP25のN-末端に対する抗体 SMI-81を用いてプローブした。
【0024】
図5:GFP-LC/E キメラをコードするプラスミドをPC-12およびSH-SY5Y 細胞にトランスフェクトした。3つの別々の実験を行った。実験番号1は、一番上のパネル、実験番号2は中央のパネル、そして実験番号3は一番下のパネルである。細胞可溶化液を調製し、発現タンパク質の検出のためにGFPに対する抗体を用いた免疫沈降 (各パネルの一番上のゲル)に供した。可溶化液の一部をウェスタンブロットに用いて、細胞において発現したキメラの触媒活性を検出した(各パネルの一番下のゲル)。各レーンは一番上のパネルに示す表に従って番号づけており、以下の通りである: GFP 陰性対照、2. Wt LC/E、3. N-末端 LCAを有するLC/E、4. C末端ExxxII を有するLC/E、5. C末端ExxxLL を有する LC/E、6. N-末端 LCAおよびC-末端 ExxxIIを有するLC/E 、7. N-末端 LCAおよびC-末端ExxxLLを有するLC/E。
【0025】
図6: PNAS 文献より(1)。 GFP-LC/A (A) および GFP-LC/E (B) を発現する分化したPC12細胞。
【0026】
図 7: GFP-LCE (N- LCA/ExxxLL)でトランスフェクトした分化したPC12細胞。免疫染色は、GFPに対するウサギポリクローナル抗体、1: 100 (図 7Aおよび7C) および、3つの抗SNAP180マウスモノクローナル抗体(1A3A7、1G8C11および1C9F3)の組合せ、それぞれ1: 50 希釈 (図 7Bおよび7D)で行った(63 x 拡大率)。
【0027】
図8: GFP-LC/E (N- LCA/ExxxLL)でトランスフェクトした分化したPC12細胞。細胞をGFPに対するマウスモノクローナル抗体1: 100 (図 8Aおよび8C)および抗SNAP25206ウサギポリクローナル抗体1: 100 (図 8BおよびD)にて免疫染色した(63 x 拡大率)。特定の細胞を矢印で示し、a、b、c、dまたはeと称する。トランスフェクトされた細胞は抗SNAP25206を含まず、それはトランスフェクトされていない細胞においてのみ存在している。
【0028】
図9:野生のベルーガ(beluga) GFP-LC/Eでトランスフェクトし、そしてGFPに対するウサギポリクローナル抗体(図 9A)および1: 1: 1の抗SNAP25180マウスモノクローナル抗体の組合せ(図 9B)、各1: 50 希釈によって、キメラLC/Eについて先の図において用いたのと同様に免疫染色をした分化したPC12細胞(63 x 拡大率)。両方の画像は同じ細胞に対応するが、同じ平面からの画像ではない。
【0029】
図10: GFP-LCE コンストラクトでトランスフェクトし、抗-GFP、ウサギポリクローナル、希釈1: 100および二次抗- ウサギ1: 200で染色したSH-SY5Y 細胞(63 x 拡大率)。 A およびBは同じトランスフェクション実験からの2つの異なる細胞を表す。
【0030】
図11: GFP-LCE (N- LCA/ExxxLL)でトランスフェクトし、抗-GFP 抗体で染色したSH-SY5Y 細胞(63 x 拡大率)。A およびBは同じトランスフェクション実験からの異なる細胞群を表す。
【0031】
図12: GFP-LCE (N- LCA/ExxxLL)でトランスフェクトしたSH-SY5Y 細胞。細胞を抗-GFPに対する抗体(図12Aおよび12C)および非切断SNAP25206に対する抗体(図12Bおよび12D)で免疫染色した (63 x 拡大率)。
【0032】
図13: GFP-LC/E (N- LCA/ExxxLL)でトランスフェクトした SH-SY5Y 細胞。細胞をGFPに対する抗体(図13A) とSNAP25180に特異的な1A3A7マウスモノクローナル抗体(図13B)で免疫染色した(63 x拡大率)。
【0033】
図14-aおよびb:野生型 ベルーガ LC/Eの配列。配列番号136および配列番号137はそれぞれアミノ酸配列および核酸配列に対応する。
【0034】
図15-aおよびb: LC/A のN-末端を有するキメラ LC/Eの配列。配列番号138および配列番号139はそれぞれアミノ酸配列および核酸配列に対応する。
【0035】
図16-aおよびb: C-末端にLC/A ジ-ロイシンモチーフを有するキメラ LC/Eの配列。配列番号140および配列番号141はそれぞれアミノ酸配列および核酸配列に対応する。
【0036】
図17-aおよび b: LC/A N-末端およびC-末端ジ-ロイシンモチーフを有するキメラ LC/Eの配列。配列番号142および配列番号143はそれぞれアミノ酸配列および核酸配列に対応する。
【0037】
詳細な説明
本発明は、神経毒の生物学的持続性および/または生物活性が構造的に神経毒を修飾することによって変化させることが出来るという発見に基づく。言い換えると、生物学的持続性および/または生物活性が変化した修飾神経毒が、構造的修飾を含有または包含する神経毒から形成することが出来る。ある態様において、構造的修飾は、生物学的持続性強化成分を神経毒の一次構造に融合させてその生物学的持続性を強化することを含む。ある態様において、生物学的持続性強化成分はロイシンに基づくモチーフである。より好ましくは、修飾神経毒の生物学的半減期および/または生物活性は約100%強化される。一般に、修飾神経毒は構造的修飾を有さない同じ神経毒と比べて約20%〜300%強化した生物学的持続性を有する。すなわち、例えば、生物学的持続性強化成分を含む修飾神経毒は神経伝達物質、例えば、アセチルコリンの神経末端からの放出を、修飾されていない神経毒と比較して約20%〜約 300%長く、実質的に阻害することができる。
【0038】
本発明はまた、その範囲内に、天然または非修飾神経毒の生物活性と比較して変化した生物活性を有する修飾神経毒を含む。例えば、修飾神経毒は、修飾神経毒の生物学的持続性における変化を伴って、または伴わずに、標的細胞からのエキソサイトーシス (例えば、神経伝達物質のエキソサイトーシス)の低減または増強した阻害を示しうる。
【0039】
本発明の広範な態様において、ロイシンに基づくモチーフは、7アミノ酸の連続である。連続は2群に組織化される。ロイシンに基づくモチーフのアミノ末端から開始する最初の5アミノ酸は「アミノ酸5つ組」を形成する。アミノ酸5つ組のすぐ後にある2アミノ酸は「アミノ酸2つ組」を形成する。ある態様においてアミノ酸2つ組はロイシンに基づくモチーフのカルボキシル末端領域に位置する。ある態様において、アミノ酸5つ組は、グルタミン酸およびアスパラギン酸からなる群から選択される少なくとも1つの酸性アミノ酸を含む。
【0040】
アミノ酸2つ組は、少なくとも一つの疎水性アミノ酸、例えば、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、アラニン、フェニルアラニン、トリプトファン、バリンまたはチロシンを含む。好ましくは、アミノ酸2つ組はロイシン-ロイシン、ロイシン- イソロイシン、イソロイシン-ロイシンまたはイソロイシン-イソロイシン、ロイシン-メチオニンである。よりさらに好ましくは、2つ組はロイシン-ロイシンである。
【0041】
ある態様において、ロイシンに基づくモチーフは、xDxxxLL、(配列番号111)であり、ここで x はいずれのアミノ酸であってもよい。ある態様において、ロイシンに基づくモチーフは、xExxxLL、(配列番号112) であり、ここで Eはグルタミン酸である。ある態様において、アミノ酸2つ組はイソロイシンまたはメチオニンを含み得、それぞれxDxxxLI (配列番号113)またはxDxxxLM、(配列番号114)を形成してもよい。さらに、アスパラギン酸、D、はグルタミン酸、E、によって置換されてxExxxLI、(配列番号115)、xExxxIL (配列番号 116) およびxExxxLM (配列番号117)を形成しうる。 ある態様において、ロイシンに基づくモチーフはフェニルアラニン-グルタミン酸-フェニルアラニン-チロシン-リジン-ロイシン-ロイシン、配列番号118である。
【0042】
ある態様において、アミノ酸5つ組は、少なくとも一つのヒドロキシル含有アミノ酸、例えば、セリン、スレオニンまたはチロシンを含む。好ましくは、ヒドロキシル含有アミノ酸はリン酸化されていてもよい。より好ましくは、ヒドロキシル含有アミノ酸はリン酸化されていてもよいセリンであり、これは、アダプタータンパク質との結合を可能とする。
【0043】
非修飾アミノ酸を例示したが、修飾アミノ酸も本発明の範囲に含まれる。例えば、ロイシンに基づくモチーフは、ハロゲン化した、好ましくは、フッ素化したロイシンを含みうる。
【0044】
様々なロイシンに基づくモチーフが様々な種においてみられる。本発明にしたがって利用できる様々な種からの可能性のあるロイシンに基づくモチーフのリストを表1に示す。これは限定を意図するものではない。
【0045】
【表1】
【0046】
VMATは、小胞モノアミントランスポーター; VAChtは小胞アセチルコリントランスポーターおよびS. cerevisiae Vam3pはシナプトブレビンの酵母ホモログである。斜体のセリン残基は潜在的リン酸化部位である。
【0047】
修飾神経毒はあらゆる神経毒から形成することが出来る。また、修飾神経毒は神経毒のフラグメントからも形成することが出来、かかるフラグメントとしては、例えば、軽鎖および/または重鎖部分が除かれたボツリヌス毒素が挙げられる。好ましくは、使用される神経毒はクロストリジウム神経毒である。クロストリジウム神経毒は、3つのアミノ酸配列領域を有するポリペプチドを含む。第一のアミノ酸配列領域は以下からなる群から選択される神経毒に実質的に完全に由来する標的細胞 (即ち、神経細胞) 結合部分を含みうる:バラティ(baratti)毒素;ブチリカム(butyricum)毒素; 破傷風毒素; A、B、C1、D、E、FおよびG型ボツリヌス。好ましくは、第一のアミノ酸配列領域は毒素重鎖のカルボキシル末端領域HC由来である。また、第一のアミノ酸配列領域は、受容体、例えば、標的細胞上の細胞表面タンパク質またはその他の生物学的成分に結合しうる分子(例えば、アミノ酸配列)を含みうる標的化部分を含んでいてもよい。
【0048】
第二のアミノ酸配列領域は、ポリペプチドまたはその部分をエンドソーム膜を横切って、神経細胞の細胞質に転位させるのに有効である。ある態様において、ポリペプチドの第二のアミノ酸配列領域は以下からなる群から選択される神経毒由来の重鎖のアミノ末端、HN、を含む:バラティ(baratti) 毒素; ブチリカム(butyricum)毒素; 破傷風毒素; A、B、C1、D、E、F、およびG型ボツリヌス。
【0049】
第三のアミノ酸配列領域は標的細胞、例えば、神経細胞の細胞質内に放出された場合、治療活性を有する。ある態様において、ポリペプチドの第三のアミノ酸配列領域は以下からなる群から選択される神経毒由来の毒素軽鎖、L、を含む:バラティ(baratti) 毒素; ブチリカム(butyricum)毒素; 破傷風毒素; A、B、C1、D、E、F、およびG型ボツリヌス。
【0050】
クロストリジウム神経毒はハイブリッド神経毒であってもよい。例えば、神経毒の各アミノ酸配列領域は、異なるクロストリジウム神経毒血清型由来であってもよい。例えば、一つの態様において、ポリペプチドは破傷風毒素のHc由来の第一のアミノ酸配列領域、B型ボツリヌスのHN由来の第二のアミノ酸配列領域、およびボツリヌス血清型 Eの軽鎖由来の第三のアミノ酸配列領域を含む。その他の可能性のある組合せはすべて本発明の範囲に含まれる。
【0051】
あるいは、クロストリジウム神経毒の3つのすべてのアミノ酸配列領域は同種由来であって同じ血清型由来であってもよい。神経毒の3つのすべてのアミノ酸配列領域が同じクロストリジウム神経毒種および血清型由来である場合、神経毒はその種と血清型名によって称呼される。例えば、神経毒ポリペプチドは、E型ボツリヌス由来の第一、第二および第三のアミノ酸配列領域を有しうる。この場合、神経毒はE型ボツリヌスと称される。
【0052】
さらに、3つのアミノ酸配列領域のそれぞれは、それが由来する天然配列から修飾を受けたものであってもよい。例えば、アミノ酸配列領域は天然配列と比較して少なくとも1以上のアミノ酸が付加または欠失したものであってもよい。
【0053】
生物学的持続性強化成分または生物活性強化成分、例えば、ロイシンに基づくモチーフは、上記神経毒のいずれかと融合させて、生物学的持続性および/または生物活性が強化した修飾神経毒を形成させうる。本発明において「融合」には、神経毒一次構造への共有結合による付加または神経毒一次構造内への共有結合による挿入が含まれる。例えば、生物学的持続性強化成分および/または生物活性強化成分は、その一次構造においてロイシンに基づくモチーフを有さないクロストリジウム神経毒に付加することが出来る。ある態様において、ロイシンに基づくモチーフをハイブリッド神経毒と融合し、ここで、第三のアミノ酸配列はボツリヌス血清型 A、B、C1、C2、D、E、F、またはG由来である。ある態様において、ロイシンに基づくモチーフはE型ボツリヌスと融合される。
【0054】
ある態様において、生物学的持続性強化成分および/または生物活性強化成分は、神経毒をコードするクローニングされたDNA 配列を変化させることにより神経毒に付加される。例えば、生物学的持続性強化成分および/または生物活性強化成分をコードするDNA 配列を、生物学的持続性強化成および/または生物活性強化成分を付加すべき神経毒をコードするクローニングされたDNA 配列に付加する。これは分子生物学の当業者に周知の様々な方法にて行うことが出来る。例えば、部位特異的変異誘発またはPCR クローニングを用いて、神経毒をコードするDNA 配列に所望の変化を生じさせることができる。そしてDNA 配列を天然宿主株に再導入してもよい。ボツリヌス毒素の場合、天然宿主株はボツリヌス菌株であろう。好ましくは、この宿主株は天然ボツリヌス毒素遺伝子を欠損している。別の方法において、変化させたDNAを異種宿主系、例えば、大腸菌またはその他の原核生物、酵母、昆虫細胞株または哺乳類細胞株に導入してもよい。いったん変化したDNAがその宿主に導入されると、付加された生物学的持続性強化成分および/または生物活性強化成分を含む組換え毒素を、例えば、標準的発酵方法によって産生することが出来る。
【0055】
同様に、生物学的持続性強化成分を神経毒から除去することも出来る。例えば、部位特異的変異誘発を用いて生物学的持続性強化成分、例えば、ロイシンに基づくモチーフを除くことが出来る。
【0056】
これらおよびその他の遺伝子操作を行うために用いることが出来る標準的分子生物学技術は、Sambrook et al. (1989)に記載されており、その全体を引用により本明細書に含める。
【0057】
ある態様において、ロイシンに基づくモチーフは、神経毒の第三のアミノ酸配列領域と融合するか、またはそれに付加される。ある態様において、ロイシンに基づくモチーフは、第三のアミノ酸配列領域のカルボキシル末端に向かう領域と、融合するか、またはそれに付加される。より好ましくは、ロイシンに基づくモチーフは、神経毒の第三領域のカルボキシル末端と、融合するか、またはそれに付加される。さらにより好ましくは、ロイシンに基づくモチーフは、E型ボツリヌスの第三領域のカルボキシル末端と、融合するか、またはそれに付加される。ロイシンに基づくモチーフが融合するか付加される第三のアミノ酸配列は、ハイブリッドまたはキメラ修飾神経毒の成分であってもよい。例えば、ロイシンに基づくモチーフは1つの型のボツリヌス毒素(即ち、A型ボツリヌス毒素)の第三のアミノ酸配列領域 (またはその部分)と、融合するか、またはそれに付加され得、ここで、ロイシンに基づくモチーフ-第三のアミノ酸配列領域はそれ自体でボツリヌス毒素の別の型(または複数の型)(例えば、 B型および/またはE型ボツリヌス毒素)からの第一および第二アミノ酸配列領域と融合しているか、または結合している。
【0058】
ある態様において、既存の生物学的持続性強化成分および/または生物活性強化成分、例えば、ロイシンに基づくモチーフを有する神経毒の構造的修飾には、ロイシンに基づくモチーフの1以上のアミノ酸の欠失または置換が含まれる。さらに、修飾神経毒は、ロイシンに基づくモチーフにおいて1以上のアミノ酸が欠失または置換された神経毒を導く構造的修飾も含む。既存のロイシンに基づくモチーフからの1以上のアミノ酸の欠失または置換は、修飾神経毒の生物学的持続性および/または生物活性の低減に有効である。例えば、A型ボツリヌスのロイシンに基づくモチーフの1以上のアミノ酸の欠失または置換は、修飾神経毒の生物学的半減期および/または生物活性を低減させる。
【0059】
生物学的持続性強化成分に含まれるアミノ酸と置換されうるアミノ酸としては、アラニン、アスパラギン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、メチオニン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、スレオニン、バリン、トリプトファン、チロシンおよびその他の天然アミノ酸ならびに非標準的アミノ酸が挙げられる。
【0060】
本発明において、天然A型ボツリヌス軽鎖は特徴的パターンにて分化したPC12細胞膜に局在することが示された。生物学的持続性強化成分は実質的にこの局在化に寄与していることが示された。
【0061】
本発明のデータは、A型ボツリヌス毒素軽鎖が切断されるか、ロイシンに基づくモチーフが突然変異を受けた場合、軽鎖は実質的にその特徴的パターンにて膜に局在する能力を失うことを示す。細胞膜への局在化は、ボツリヌス毒素の生物学的持続性および/または生物活性の判定において鍵となる要因であると考えられている。なぜなら、細胞膜への局在化は、細胞内タンパク質分解から局在化したタンパク質を保護しうるからである。
【0062】
A型ボツリヌス軽鎖からのロイシンに基づくモチーフの欠失は、A型軽鎖の膜局在化を変化させうる。GFP 融合タンパク質が、当業者に周知の方法、例えば、その内容全体を引用により本明細書に含めるGalli et al (1998) Mol Biol Cell 9: 1437-1448に記載の方法;また、例えば、その内容全体を引用により本明細書に含めるMartinez-Arca et al (2000) J Cell Biol 149: 889-899に記載の方法を用いて、分化したPC12細胞において産生され、可視化された。
【0063】
本発明において、ロイシンに基づくモチーフ内の特定のアミノ酸置換の効果を分析するためにさらなる研究を行った。例えば、ある研究において、ロイシンに基づくモチーフに含まれる両方のロイシン残基をアラニン残基と置換した。A型ボツリヌス軽鎖における位置427および428のロイシンからアラニンへの置換は、実質的に軽鎖の局在化特性を変化させる。
【0064】
ロイシンに基づくモチーフ、またはその他の軽鎖に存在する持続性強化成分および/または生物活性強化成分は、重鎖の保護にも利用できることも本発明の範囲内である。ランダムコイルベルトがA型ボツリヌス転位ドメインから伸びており、軽鎖を取り囲んでいる。このベルトが2つのサブユニットを細胞の内側で互いに近接するよう維持しており、軽鎖が細胞膜に局在している可能性がある。
【0065】
さらに、本発明のデータは、ロイシンに基づくモチーフは細胞においてA型ボツリヌス毒素をSNAP-25 基質に近接するように局在化させることにおいて有用であることを示している。これは、ロイシンに基づくモチーフは、毒素の半減期を決定するためだけでなく、毒素の活性の測定にも重要であることを意味しうる。即ち、毒素は細胞の内側のSNAP-25 基質に近接するように維持される場合、より強い活性を示すであろう。 Dong et al.、PNAS、(41): 14701-14706,2004。
【0066】
本発明のデータは、軽鎖の切断(truncation)、それによるロイシンに基づくモチーフの欠失またはロイシンに基づくモチーフ内のアミノ酸置換は、実質的に神経細胞におけるA型ボツリヌス軽鎖の膜局在化を変化させることを明らかに示している。切断および置換の両方において、一定の割合の変化した軽鎖は天然A型軽鎖とは異なるパターンにて細胞膜に局在化しうる。このデータはロイシンに基づくモチーフ以外の生物学的持続性強化成分、例えば、チロシンモチーフおよびアミノ酸誘導体の存在を支持する。修飾神経毒におけるこれらのその他の生物学的持続性強化成分および/または生物活性強化成分の使用もまた、本発明の範囲内である。
【0067】
修飾された神経毒の生物学的持続性を変化させるために修飾神経毒と組みあわせて用いられる2以上の生物学的持続性強化成分も本発明の範囲内である。本発明はまた、修飾される神経毒の生物活性を変化させるために修飾神経毒と組みあわせて用いられる2以上の生物活性強化または生物活性低下成分の使用も含む。
【0068】
生物学的持続性および/または生物活性改変成分としてのチロシンに基づくモチーフは本発明の範囲内である。チロシンに基づくモチーフは以下の配列を含む: Y-X-X-Hy (配列番号119): ここでYはチロシン、Xはいずれのアミノ酸でもよく、Hyは疎水性アミノ酸である。チロシンに基づくモチーフはロイシンに基づくモチーフと同様に作用することが出来る。
【0069】
A型およびB型ボツリヌス毒素の両方に天然にある1以上の生物学的持続性改変成分および/または生物活性強化成分を含む修飾神経毒も本発明の範囲内である。
【0070】
生物学的持続性強化成分および/または生物活性強化成分としてのアミノ酸誘導体も本発明の範囲内である。生物学的持続性および/または生物活性に影響を与えるよう作用するアミノ酸誘導体の例は、リン酸化アミノ酸である。これらアミノ酸には、例えば、チロシンキナーゼ、タンパク質キナーゼ CまたはカゼインキナーゼIIによってリン酸化されたアミノ酸が含まれる。生物学的持続性強化成分および/または生物活性強化成分として本発明の範囲内であるその他のアミノ酸誘導体は、ミリスチル化アミノ酸およびN-グリコシル化アミノ酸である。
【0071】
本発明はまた、細胞構造成分、例えば、細胞内構造成分と相互作用するボツリヌス軽鎖成分を含む組成物も含む。構造成分は、脂質、炭水化物、タンパク質または核酸あるいはそのいずれかの組合せを含みうる。
【0072】
構造成分は、細胞膜、例えば、原形質膜を含みうる。ある態様において、構造成分は、1以上のオルガネラ、例えば、核、小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリア、リソソームまたは分泌小胞あるいはそれらの組合せ、の全部または一部を含む。構造成分はオルガネラのいずれの部分をも含み得、例えば、オルガネラ膜も含まれる。構造成分は、細胞の細胞質に含まれるあらゆる物質も含みうる。
【0073】
構造成分は1以上のタンパク質を含みうる。ある態様において、構造成分は1以上の細胞タンパク質を含む。1以上のかかる細胞タンパク質は、膜結合タンパク質、例えば、原形質膜結合タンパク質であってもよい。本発明のある態様において、構造成分はアダプタータンパク質を含む。アダプタータンパク質の例は、AP-1、AP-2およびAP-3である。アダプタータンパク質およびそれらの特徴は、当該技術分野で周知であり、例えば、Darsow et al., J. Cell Bio. 142,913 (1998)に論じられており、これはその全体を引用により本明細書に含める。1以上のタンパク質はボツリヌス毒素軽鎖成分のタンパク分解ドメインによって切断される基質も含みうる。例えば、構造成分に含まれるタンパク質はSNAP-25でありうる。
【0074】
A型ボツリヌス軽鎖と構造成分との相互作用は、毒素の一定のパターンでの局在化に寄与しうる。それゆえ、相互作用は、例えば、軽鎖の生物学的持続性および/または生物活性を上昇させることにより、タンパク質分解を促進するよう作用しうる。
【0075】
ボツリヌス毒素重鎖またはその部分は、軽鎖が構造成分と相互作用している場合は、軽鎖成分とも結合しうる。
【0076】
ある態様において、ボツリヌス毒素軽鎖成分は、細胞において構造成分と相互作用している場合、 細胞に特定のパターンで局在化しうる。例えば、A型ボツリヌス毒素軽鎖成分の局在化は断続的(unctuate)または点在(spotted)パターンでありうる。例えば、A型ボツリヌス軽鎖成分は細胞膜、例えば、原形質膜上で断続的(unctuate)パターンで局在化し得る。B型ボツリヌス軽鎖は細胞質に局在化しうる。E型ボツリヌスは原形質膜に局在化しうるが、A型よりその程度は低い。E型ボツリヌスは細胞質にも局在化しうる。
【0077】
本発明の単離組成物を作る方法は、当業者が実施できるものである。例えば、組成物を、軽鎖成分、例えば、軽鎖Aの細胞への導入の後に、細胞から原形質膜を単離することによって単離することが出来る。軽鎖は例えば、エレクトロポーレーションまたはエンドサイトーシスによって細胞に導入できる。エンドサイトーシスによって細胞に導入する場合、重鎖成分を軽鎖成分とともに含めることにより、軽鎖のエンドサイトーシス、例えば、受容体媒介エンドサイトーシスが促進されうる。かかる調製工程において、重鎖成分を単離してもよいし、組成物の中に含めてもよい。
【0078】
細胞へと導入した後、軽鎖成分は、基質成分と結合または相互作用して組成物を形成する。組成物は細胞から軽鎖成分-構造成分を精製することによって単離することが出来る。当業者に知られた標準的精製技術を用いて、軽鎖成分と相互作用する構造成分に含まれる膜および/または膜結合タンパク質を単離することが出来る。軽鎖成分/構造成分の単離および精製のための常套技術の例としては、免疫沈降および/または膜精製技術が挙げられる。
【0079】
軽鎖成分は単離する前に構造成分の部分と架橋してもよい。DTBPなどの試薬を用いた生物分子の架橋の技術的方法は当業者に周知である。
【0080】
ある態様において本発明の組成物は、精製されたかまたは部分的に精製された軽鎖成分と、精製されたかまたは部分的に精製された細胞内構造成分を、組成物の形成に有効な条件下で混合することにより調製できる。組成物の形成に重要な条件には、Ph、イオン強度および温度が含まれ得る。
【0081】
組成物のボツリヌス毒素軽鎖成分は、修飾ボツリヌス毒素軽鎖であってもよい。本明細書に記載するように、修飾は突然変異および/または欠失であってよい。
【0082】
修飾軽鎖成分は、ロイシンに基づくモチーフまたは原形質膜へのA型軽鎖の局在化に寄与するその他の構造を除くように修飾された軽鎖Aを含み得、それによって、軽鎖の原形質膜への局在化能力が低下する。この結果、軽鎖Aの生物活性および/または生物学的持続性が低下しうる。かかる修飾軽鎖の生物学的持続性および/または活性は非修飾A型軽鎖の約 10% 〜約 90%でありうる。
【0083】
別の修飾軽鎖成分は、1以上のロイシンに基づくモチーフまたは原形質膜へのA型軽鎖の局在化に寄与するその他の構造を付加することにより修飾された軽鎖Aも含み得、その結果、原形質膜への局在能力が上昇した軽鎖が得られる。この結果、軽鎖Aの生物活性および/または生物学的持続性が上昇し得る。修飾軽鎖の生物学的持続性および/または活性は非修飾A型軽鎖のものの約 1.5 〜 約 5 倍であり得る。
【0084】
修飾軽鎖成分は1以上のロイシンに基づくモチーフまたは原形質膜へのA型軽鎖の局在化に寄与するその他の構造を付加することにより修飾された軽鎖Eも含み得、それによって、原形質膜への局在能力が上昇した軽鎖が得られる。この結果、軽鎖Eの生物活性および/または生物学的持続性が上昇し得る。修飾軽鎖の生物学的持続性および/または活性は非修飾E型軽鎖のものの約 2〜約 20倍であり得る。
【0085】
本発明の組成物は多くの用途と適用を有し、例えば、研究科学および医学において有用である。その他の用途と適用は当業者には明らかであろう。
【0086】
本発明の一つの広範な態様において、修飾神経毒を用いた症状の治療のための方法が提供される。症状には、例えば、骨格筋症状、平滑筋症状、疼痛および腺症状が挙げられる。修飾神経毒は美容にも用いることが出来、例えば、しわの治療が挙げられる。
【0087】
修飾神経毒によって治療することが出来る神経筋障害および症状としては以下が挙げられる: 例えば、痙攣性発声障害、喉頭ジストニア、顎口腔ジストニアおよび舌ジストニア、頸部ジストニア、限局性手(focal hand)ジストニア、眼瞼痙攣、斜視、片側顔面痙攣、眼瞼障害、痙攣性斜頸、脳性麻痺、限局性痙縮およびその他の発声障害、痙攣性大腸炎、神経因性膀胱、アニスムス、四肢痙縮、顔面痙攣、振戦、歯ぎしり、裂肛、アカラシア、嚥下障害およびその他の筋緊張障害および筋群の不随意運動を特徴とするその他の障害が、本発明の投与方法によって治療可能である。本発明の方法および組成物を用いて治療可能なその他の症状の例としては、流涙、発汗過多、唾液分泌過剰および消化管分泌過剰、ならびにその他の分泌障害が挙げられる。さらに、本発明は、皮膚症状の治療、例えば、しわの軽減、皮膚のしわ取りに用いることが出来る。本発明はまた、スポーツ障害の治療にも利用できる。
【0088】
Borodicの米国特許第5053005号は、若年の脊髄彎曲、即ち、脊柱側弯症の、A型ボツリヌスを用いる治療方法を開示している。Borodicの開示はその全体を引用により本明細書に含める。ある態様において、Borodic に開示のものと実質的に類似の方法を用いて、脊髄彎曲の治療のために、修飾神経毒を哺乳類、好ましくはヒトに投与してもよい。ある態様において、ロイシンに基づくモチーフと融合したE型ボツリヌスを含む修飾神経毒を投与する。さらにより好ましくは、脊髄彎曲の治療のために、その軽鎖のカルボキシル末端にロイシンに基づくモチーフが融合したA-E型ボツリヌスを含む修飾神経毒を哺乳類、好ましくはヒトに投与する。
【0089】
さらに、A型ボツリヌスについて慣用されている周知技術を用いてその他の神経筋障害の治療のために修飾神経毒を投与することができる。例えば、本発明は、疼痛、例えば、頭痛、筋肉痙攣からの疼痛および様々な形態の炎症性疼痛の治療に利用することが出来る。例えば、Aoki 米国特許第5721215号およびAoki米国特許第6113915号は疼痛の治療のためのA型ボツリヌス毒素を用いる方法を開示している。これら2つの特許の開示はその全体を引用により本明細書に含める。
【0090】
自律神経系障害も修飾神経毒によって治療することができる。例えば、腺機能不全は自律神経系障害である。腺機能不全には、発汗過剰および唾液分泌過剰が挙げられる。呼吸器機能不全は自律神経系障害のさらなる例である。呼吸器機能不全としては、慢性閉塞性肺疾患および喘息が挙げられる。Sanders et al. は自律神経系の治療方法を開示している;例えば、発汗過剰および唾液分泌過剰、喘息などの自律神経系障害を天然ボツリヌス毒素を用いて治療する方法が開示されている。Sander et al.の開示は引用によりその全体を本明細書に含める。ある態様において、Sanders et al.と実質的に同様の方法を用いることができるが、ただし、修飾神経毒を用いて、上記のものなどの自律神経系障害を治療することができる。例えば、修飾神経毒は、鼻腔における粘液分泌を制御している自律神経系のコリン作動性神経細胞を退化させるのに十分な量にて哺乳類の鼻腔に局所投与してもよい。
【0091】
修飾神経毒によって治療されうる疼痛としては、筋肉緊張または痙攣による疼痛あるいは筋肉痙攣を伴わない疼痛が含まれる。例えば、Binderは、米国特許第5714468号において、血管障害、筋肉緊張、神経痛および神経障害による頭痛を天然ボツリヌス毒素、例えば A型ボツリヌスによって治療できることを開示している。Binder の開示はその内容全体を引用により本明細書に含める。ある態様において、Binderと実質的に同様の方法を用いて、ただし、修飾神経毒を用いて、頭痛、特に、血管障害、筋肉緊張、神経痛および神経障害による頭痛を治療することが出来る。筋肉痙攣による疼痛もまた、修飾神経毒の投与により治療することが出来る。例えば、好ましくはE型ボツリヌス軽鎖のカルボキシル末端においてロイシンに基づくモチーフと融合したE型ボツリヌスは疼痛の緩和のために疼痛/痙攣部位に筋肉内投与することが出来る。
【0092】
さらに、修飾神経毒は、痙攣などの筋肉障害を伴わない疼痛の治療のために哺乳類に投与してもよい。一つの広範な態様において、非痙攣関連疼痛の治療のための本発明の方法は、修飾神経毒の中枢投与または末梢投与を含む。
【0093】
例えば、Foster et al.は米国特許第第5989545号において、標的化部分と結合したボツリヌス毒素を中枢(髄腔内)投与して疼痛を軽減し得ることを開示している。Foster et al.の開示は引用によりその全体を本明細書に含める。ある態様において、Foster et alのものと実質的に同様の方法を用いて、ただし本発明の修飾神経毒を用いて、疼痛を治療することが出来る。治療すべき疼痛は急性疼痛であってもよいが、または好ましくは、慢性疼痛である。
【0094】
筋肉痙攣を伴わない急性または慢性疼痛も、実際の、または感知された、哺乳類の疼痛部位に修飾神経毒を局所、末梢投与することによって緩和しうる。ある態様において、修飾神経毒は、疼痛部位、またはその近く、例えば、傷口、またはその近くにて皮下に投与する。ある態様において、修飾神経毒は哺乳類の疼痛部位、またはその近く、例えば、打撲部位またはその近くにて筋肉内投与する。ある態様において、修飾神経毒を哺乳類の関節に直接注射することによって関節炎症状によって起こる疼痛を治療または軽減する。また、修飾神経毒の末梢疼痛部位への頻繁な反復注射または注入も本発明の範囲内である。しかし、本発明の長期持続性の治療効果によると、神経毒の頻繁な注射または注入は必ずしも必要ではない。例えば、本発明の実施により、1回注射あたり、2ヶ月以上、例えば 27ヶ月の鎮痛効果がヒトにおいて得られうる。
【0095】
本発明をいかなる実施機構または理論に制限する意図はなく、修飾神経毒を末梢部位に局所投与すると、SNARE- 依存性エキソサイトーシスを阻害することにより末梢一次知覚終末からの神経物質、例えば、物質 Pの放出が阻害されると考えられている。末梢一次知覚終末による物質 Pの放出は疼痛伝達過程をもたらすか、少なくとも増幅するため、末梢一次知覚終末におけるその放出阻害は、疼痛シグナルの伝達が脳に到達することを妨害する。
【0096】
修飾神経毒の投与量は治療すべき特定の障害、その重篤度およびその他の様々な患者の変動値、例えば、身長、体重、年齢および治療への応答性によって広範に変動するであろう。一般に、投与すべき修飾神経毒の用量は、治療すべき哺乳類、好ましくはヒトの年齢、主症状および体重によって変動する。修飾神経毒の強度も考慮される。
【0097】
(A型ボツリヌス毒素についての)ヒト患者における有効性を実質的にLD50=2,730 Uであるとし、平均的なヒトが75kgであるとすると、(A型ボツリヌス毒素についての) 修飾神経毒の致死用量は約 36 U/kgとなる。それゆえ、かかるLD50を示す修飾神経毒を投与する場合、ヒト対象への修飾神経毒の好適な投与量は36 U/kg未満である。好ましくは修飾神経毒は、約 0.01 U/kg〜30 U/kg投与する。より好ましくは修飾神経毒は、約 1 U/kg〜約 15 U/kg投与する。さらにより好ましくは、修飾神経毒は約 5 U/kg〜約 10 U/kg投与する。一般に、修飾神経毒は比例計算により約 2.5 cc/100 Uとなる用量にて組成物として投与する。当業者であれば、有効性のより高い、またはより低い神経毒の用量をどのように調節すればよいかを知っているかあるいは容易に理解するであろう。B型ボツリヌス毒素は同様の治療効果を達成するためにはA型ボツリヌス毒素に用いたものより約5倍多いレベルにて投与すればよいことが知られている。したがって、上記の単位量をB型ボツリヌス毒素については約5倍にすればよい。
【0098】
投与経路および用量の例を提供しているが、好適な投与経路と用量は一般にケースバイケースにてかかりつけ医によって決定される。かかる決定は当業者にとってルーチン的である(例えば、Harrison's Principles of Internal Medicine (1998)、edited by Anthony Fauci et al.、edition、published by Hillを参照)。例えば、本発明による修飾神経毒の投与経路および用量は、例えば、選択した修飾神経毒の溶解特性および治療すべき障害のタイプのような基準に基づいて選択できる。
【0099】
修飾神経毒は、ロイシンに基づくモチーフと神経毒とを、当該技術分野において周知の常套の化学的方法を用いて化学的に結合させることによって製造しうる。例えば、E型ボツリヌスは、ボツリヌス菌培養物を発酵槽にて樹立および増殖させ、発酵混合物を公知の方法にしたがって回収および精製することによって得ることが出来る。
【0100】
修飾神経毒は組換え技術によっても製造できる。組換え技術は、別のクロストリジウム種由来のアミノ酸配列領域を有する、即ち、修飾アミノ酸配列領域を有する神経毒の生産に好ましい。また、組換え技術は、欠失によってロイシンに基づくモチーフが修飾されたA型ボツリヌスの生産に好ましい。この技術は、細胞結合部分、神経毒の転位に有効なアミノ酸配列またはその部分、および、標的細胞、好ましくは神経細胞の細胞質に放出された場合に治療活性を有するアミノ酸配列に対するコードを有する天然源または合成源からの遺伝物質を得る工程を含む。ある態様において、遺伝物質は、生物学的持続性強化成分、好ましくはロイシンに基づくモチーフ、Hc、HNおよびクロストリジウム神経毒軽鎖およびそのフラグメントに対するコードを有する。遺伝子コンストラクトは遺伝子コンストラクトをクローニングベクター、例えば、ファージまたはプラスミドにまず融合させることにより増幅用宿主細胞に導入する。次いでクローニングベクターを、例えば、クロストリジウム種(Clostridium sp)、大腸菌またはその他の原核細胞、酵母、昆虫細胞株または哺乳類細胞株などの宿主に挿入する。組換え遺伝子の宿主細胞における発現の後、結果として得られたタンパク質を常套技術を用いて単離すればよい。
【0101】
かかる修飾神経毒を組換えにより産生することには多くの利点がある。例えば、修飾神経毒を形成するためには、修飾性フラグメント、または成分を神経毒に結合または挿入しなければならない。クロストリジウム嫌気培養からの神経毒の生産は面倒であり、時間がかかるプロセスである。該プロセスは、複数のタンパク質沈降工程および毒素の長時間かつ繰り返しの結晶化または複数段階のカラムクロマトグラフィーを含む多工程精製プロトコールを含む。重要なことに、生産物の高い毒性は、工程を厳格な封じ込め(BL-3)条件下で行わなければならないことを示す。発酵工程の際に、フォールディングされた一本鎖神経毒は、ニッキングと称される工程を介して内在性クロストリジウムプロテアーゼによって活性化されて二本鎖が作られる。ニッキング工程には一本鎖からのおよそ10 アミノ酸 残基の除去による二本鎖形態の形成が含まれ、二本鎖形態において2つの鎖は鎖内ジスルフィド結合によって共有結合したままである場合がある。
【0102】
ニッキングされた神経毒は、ニッキングされていない形態と比較してより活性が高い。ニッキングの量および正確な部位は毒素産生細菌の血清型により異なる。一本鎖神経毒活性化における相違、したがって、ニッキングされた毒素の収率の相違は、血清型の変動および所与の株により生じるタンパク分解活性量の変動に起因する。例えば、クロストリジウムボツリヌス血清型A一本鎖神経毒の99%以上がHall A クロストリジウムボツリヌス株によって活性化されるが、血清型 BおよびE株は活性化量の低い毒素を産生する(発酵時間によって0〜75%)。したがって、成熟神経毒の高い毒性は治療薬としての神経毒の商業的生産において重要な役割を果たす。
【0103】
それゆえ操作されたクロストリジウム毒素の活性化の程度は、これらの材料の製造の上で重要な考慮すべき因子である。例えば、 ボツリヌス毒素および破傷風毒素などの神経毒が、安全で、単離が容易で完全活性形態に簡単に変換される比較的非毒性の一本鎖(または毒素活性の低下した一本鎖)として迅速に増殖する細菌 (例えば、異種大腸菌細胞) において組換えによって、高収率に発現させることができれば、大きな利点であろう。
【0104】
安全性が最大の関心事であるため、以前の研究は破傷風およびボツリヌス毒素の個々のHおよび軽鎖の大腸菌での発現と精製に限られてきた;これらの単離された鎖は、それ自体では非毒性である; Li et Biochemistry 33: 7014-7020 (1994); Zhou et al.、Biochemistry 34: 15175- 15181 (1995)を参照。これらは引用により本明細書にその内容を含める。これらペプチド鎖の別々の産生および厳密に制御された条件での産生の後、Hおよび軽鎖は酸化的ジスルフィド結合により結合させて、神経麻痺性の二本鎖を形成しうる。
【0105】
実施例
以下の非限定的な実施例は、本発明の範囲内において当業者に非痙攣関連疼痛の具体的な好適な治療方法を教示するものであり、本発明の範囲を限定する意図はない。
【0106】
実施例 1:筋肉障害に関連する疼痛の治療
【0107】
一人の36際の女性は、不運なことに側頭下顎関節疾患および咀嚼筋と側頭筋に沿った慢性疼痛の15年の病歴を有している。評価の15年前、彼女は、顎が動きにくくなっており、顎開閉にともなう疼痛と顔の両側の圧痛に気づいた。左側は最初は右側より悪いと考えられていた。彼女は関節の亜脱臼を伴う側頭下顎関節 (TMJ) 機能障害と診断され、関節形成半月切除手術および関節丘切除術により治療された。
【0108】
彼女は外科手術後も顎の開閉に困難を有したままであり、このため、数年後、補綴関節を置換する外科手術を両側に行った。外科手術後、顎の進行性痙攣およびずれ(deviation)が続いた。元の手術に続いてさらに外科的修正を行い、補綴関節の弛緩を矯正した。これら外科手術の後も顎はかなりの疼痛を示し続け、動きにくかった。TMJには圧痛が残り、筋肉自体も圧痛を示した。側頭下顎関節に圧痛点があり、筋肉全体の緊張も増した。彼女は術後筋筋膜痛症候群であると診断され、咀嚼筋および側頭筋に修飾神経毒の注射を受けた;修飾神経毒はロイシンに基づくモチーフを含むE型ボツリヌスであった。具体的な用量および投与頻度は治療医の能力内の様々な因子に依存する。
【0109】
注射の数日後、彼女は疼痛のかなりの改善を感じ、顎が自由に感じると報告した。これは2〜3週間で徐々に改善し、その間、彼女の顎を開ける能力は向上し、疼痛は軽減した。患者は最近の4年間で疼痛がもっとも改善されたと述べた。症状の改善は修飾神経毒の最初の注射後27ヶ月間持続した。
【0110】
実施例2
脊髄損傷の後の疼痛治療:
【0111】
脊髄損傷後に疼痛を感じている39歳の患者を、例えば、脊髄タップまたはカテーテル法(注入のため)による修飾神経毒の脊髄へのくも膜下腔内投与により治療した;修飾神経毒は、ロイシンに基づくモチーフを含むE型ボツリヌスであった。具体的な毒素の用量および注射部位、ならびに毒素投与頻度は、先に示したように治療医に知られている様々な因子に依存する。修飾神経毒投与の約 1〜約 7日後までに、患者の疼痛はかなり軽減された。疼痛軽減は27ヶ月持続した。
【0112】
実施例 3 :肩手症候群の治療のための修飾神経毒の末梢投与:
【0113】
肩、腕および手における疼痛は、筋ジストロフィー、骨粗鬆症および関節固定にともなって起こりうる。冠動脈機能不全の後に非常によくおこるもののなかでも、この症候群は頸部骨関節炎または限局性肩疾患とともに、あるいは患者が床に伏す必要がある長い疾病の後に起こり得る。
【0114】
46歳の女性は肩手症候群型疼痛を示していた。疼痛は三角筋領域に特に限局していた。患者の肩の皮下に修飾神経毒をボーラス注射することによって治療した;好ましくは修飾神経毒は、ロイシンに基づくモチーフを含むE型ボツリヌスである。修飾神経毒はまた、例えば、ロイシンに基づくモチーフを含む修飾A、B、C1、C2、D、E、FまたはG型ボツリヌスでもよい。具体的な用量および投与頻度は、先に示したように治療医に知られている様々な因子に依存する。修飾神経毒投与の約 1〜約 7日後までに、患者の疼痛はかなり軽減された。疼痛軽減は約 7〜約27ヶ月持続した。
【0115】
実施例 4 :ヘルペス後神経痛の治療のための修飾神経毒の末梢投与:
【0116】
ヘルペス後神経痛は慢性疼痛の問題のなかでもっとも難治性のものの一つである。耐え難いほどの疼痛をともなう過程を患う患者の多くは老人、消耗性疾患患者であり、主な介入手順に適さない。診断はヘルペスの治癒した病巣の外観と患者の病歴により容易に行われる。疼痛は激しく、感情的苦悩をもたらす。ヘルペス後神経痛は体中何処でも起こりうるが、胸部に起こることが多い。
【0117】
76歳の男性はヘルペス後型疼痛を示した。疼痛は腹部領域に限局していた。患者は腹部の皮内への修飾神経毒のボーラス注射により治療された;修飾神経毒は、例えば、A、B、C1、C2、D、E、Fおよび/またはG型ボツリヌスである。修飾神経毒はロイシンに基づくモチーフおよび/またはさらなるチロシンに基づくモチーフを含む。具体的な用量および投与頻度は、先に示したように治療医に知られている様々な因子に依存する。修飾神経毒投与の約 1〜約 7日後までに、患者の疼痛はかなり軽減された。疼痛軽減は約 7〜約27ヶ月持続した。
【0118】
実施例 5:上咽頭腫瘍疼痛の治療のための修飾神経毒の末梢投与:
【0119】
かかる腫瘍は、もっとも多くは扁平上皮癌であり、通常ローゼンミューラー窩にあり、頭蓋底に侵入しうる。顔における疼痛が一般的である。それは持続性の鈍い痛みを特徴とする。
【0120】
35 歳の男性は上咽頭腫瘍型疼痛を示した。疼痛は下部左頬であった。患者は頬の筋肉内への修飾神経毒のボーラス注射により治療された。好ましくは修飾神経毒は、さらなる生物学的持続性強化性のアミノ酸誘導体、例えば、チロシンリン酸化を含むA、B、C1、C2、D、E、FまたはG型ボツリヌスである。具体的な用量および投与頻度は、治療医に知られている様々な因子に依存する。修飾神経毒投与の1〜7日後までに、患者の疼痛はかなり軽減された。疼痛軽減は約 7〜約27ヶ月持続した。
【0121】
実施例 6 :炎症性疼痛の治療のための修飾神経毒の末梢投与:
【0122】
45歳の患者は、胸部に炎症性疼痛を示した。患者は胸部の筋肉内への修飾神経毒のボーラス注射により治療された。好ましくは修飾神経毒はさらなるチロシンに基づくモチーフを含むA、B、C1、C2、D、E、FまたはG型ボツリヌスである。具体的な用量および投与頻度は、先に示すように治療医に知られている様々な因子に依存する。修飾神経毒投与の1-7日後までに、患者の疼痛はかなり軽減された。疼痛軽減は約 7〜約27ヶ月持続した。
【0123】
実施例 7:発汗過剰の治療:
【0124】
片側性発汗過剰の65歳の男性は、修飾神経毒の投与により治療された。用量および投与頻度は所望の効果の程度に依存する。好ましくは、修飾神経毒はA、B、C1、C2、D、E、F および/またはG型ボツリヌスである。修飾神経毒はロイシンに基づくモチーフを含む。投与は、腺神経集網、神経節、脊髄または中枢神経系に行った。投与の具体的な部位は、標的の腺および分泌細胞の解剖学と生理学に関する医師の知識によって決定される。さらに、適当な脊髄レベルまたは脳領域に毒素を注射してもよい。修飾神経毒治療後の発汗過剰の停止は27ヶ月続いた。
【0125】
実施例 8:手術後治療:
【0126】
22歳の女性は肩腱損傷を示し、整形外科にて腱を修復した。手術後、患者は肩の筋肉内に修飾神経毒の投与を受けた。修飾神経毒はA、B、C、D、E、F、および/またはG型ボツリヌスであり得、ここで生物学的持続性強化成分の1以上のアミノ酸が毒素から欠失している。例えば、ボツリヌス毒素血清型 Aにおけるロイシンに基づくモチーフから1以上のロイシン残基が欠失および/または突然変異していてもよい。あるいは、ロイシンに基づくモチーフの1以上のアミノ酸をその他のアミノ酸で置換してもよい。例えば、ロイシンに基づくモチーフにおける2つのロイシンをアラニンに置換してもよい。具体的な用量および投与頻度は、治療医に知られている様々な因子に依存する。投与の具体的な部位は、筋肉の解剖学と生理学に関する医師の知識によって決定される。投与した修飾神経毒により、腕の動きが低下し、手術からの回復を促進した。修飾神経毒の効果は約5週間以下であった。
【0127】
実施例 9:ボツリヌス神経毒軽鎖遺伝子のクローニング、発現および精製:
【0128】
本実施例は、ボツリヌス毒素軽鎖をコードするDNAヌクレオチド配列をクローニングおよび発現させる方法ならびにその結果得られるタンパク質産物の精製方法を記載する。ボツリヌス毒素軽鎖をコードするDNA 配列をPCR プロトコールによって増幅した。このPCRでは、軽鎖遺伝子の5'および3'末端領域に対応する配列を有する合成オリゴヌクレオチドを用いた。プライマーの設計は、ボツリヌス毒素軽鎖遺伝子 PCR 産物の5'および3'末端に制限部位、例えば、Stu I およびEcoR I 制限部位の導入を可能とするようにした。これら制限部位は後続の増幅産物の指向性サブクローニングを促進しうる。さらに、これらプライマーは軽鎖コード配列のC-末端に終止コドンを導入しうる。ボツリヌス菌、例えば、株 HallAからの染色体 DNAは、増幅反応におけるテンプレートとして役立ちうる。
【0129】
PCR 増幅は、10 mM Tris-HCI (pH 8.3)、50 mM KCI、1.5 mM MgCl2、0.2 mM 各デオキシヌクレオチド三リン酸 (dNTP)、50 pmol 各プライマー、200 ng ゲノムDNAおよび2.5 ユニットTaq DNA ポリメラーゼを含む0.1 mL 容積中で行うことが出来る。反応混合物を以下の35サイクルに供した:変性(1分、94℃)、アニーリング (2 分、55℃)および重合 (2 分、72℃)。最後に、5 分72℃の反応をさらに行った。
【0130】
PCR 増幅産物は例えば、Stu IおよびEcoRにより消化されると、軽鎖をコードする、クローニングされた、PCR DNA フラグメントを遊離することが出来る。このフラグメントは、例えば、アガロースゲル電気泳動により次いで精製し、例えば、Sma IおよびEcoR Iで消化したpBluescript II SK ファージミドにライゲーションすることが出来る。細菌形質転換体、例えば、この組換えファージミドを担持する大腸菌は、標準的手順、例えば、ブルーホワイトスクリーニングにより同定することができる。軽鎖をコードするDNAを含むクローンは標準的方法により行われるDNA配列分析により同定することができる。クローニングされた配列は、クローニングされた該配列と、例えば、Binz, et al., J. Biol. Chem. 265, 9153(1990)、Thompson et al., Eur. J. Biochem. 189, 73(1990)およびMinton, Clostridial Neurotozins, The Molecular Pathogenesis of Tetanus and Botulism p. 161-191、Edited by C. Motecucco (1995)に記載のボツリヌス軽鎖について公表された配列とを比較することによって確認することが出来る。
【0131】
軽鎖は、発現ベクター、例えば、pMal-P2にサブクローニングすればよい。pMal-P2はMBP (マルトース結合タンパク質)をコードするmalE遺伝子を担持しており、これは強力な誘導性プロモーター、Ptacによって制御される。
【0132】
ボツリヌス毒素軽鎖の発現を確認するために、軽鎖遺伝子を含有するpMal-P2を担持する良好に単離された細菌コロニーを用いて、0.1 mg/ml アンピシリンおよび2% (w/v) グルコースを含むL-ブロスに播種し、30℃で振盪させながら一晩培養した。一晩培養物を0.1 mg/mlアンピシリンを含有する新しい L-ブロス中1: 10に希釈し2 時間インキュベートするとよい。融合タンパク質の発現は、終濃度0.1 mMとなるIPTGの添加により誘導することが出来る。さらに30℃で4 時間のインキュベーションの後、細菌を6,000 x g、10 分の遠心分離により回収することが出来る。
【0133】
スモールスケール SDS-PAGE 分析により、IPTGで誘導された細菌由来のサンプルにおける90 kDa タンパク質のバンドの存在が確認できた。この分子量(MW)はMBP (〜40 kDa)とボツリヌス毒素軽鎖(〜50kDa) 成分を有する融合タンパク質の予測サイズと一致するようである。
【0134】
IPTGで誘導された細菌抽出物における所望の融合タンパク質の存在は、Cenci di Bello etal、Eur. J. Biochem. 219,161 (1993)に記載のようにポリクローナル 抗-L 鎖 プローブを用いるウェスタンブロッティングにより確認できる。PDVFメンブレン(Pharmacia ; Keynes、UK)上の反応性バンドはセイヨウワサビペルオキシダーゼに結合した抗-ウサギイムノグロブリン(BioRad; Hemel Hempstead、UK)およびECL 検出システム (Amersham、UK)によって可視化することができる。ウェスタンブロッティングの結果により、典型的なことに、優位な融合タンパク質のバンドと、それにともなう完全なサイズの融合タンパク質より低分子量のいくつかのタンパク質に対応するかすかなバンドの存在が確認された。この観察は、細菌中または単離手順中に融合タンパク質の制限された分解が起こったことを示唆する。
【0135】
サブクローニングされた軽鎖を産生するために、野生型 ボツリヌス神経毒軽鎖タンパク質を発現する細菌の1 リットル培養物からのペレットを1mMフェニルメタンスルホニルフルオリド (PMSF)および10 mM ベンズアミジンを含むカラムバッファー [10 mM Tris-HCl (pH 8.0)、200 mM 1 mM EGTAおよび1 mM DTT]に再懸濁し、超音波処理により溶菌した。可溶化液を4℃、15,000 x g、15 分の遠心分離により清澄にした。上清をアミロースアフィニティーカラム[2x10 cm、30ml樹脂] (New England BioLabs; Hitchin、UK)にアプライした。非結合タンパク質を樹脂からカラムバッファーにより280 nmの安定な吸光度の読みによって判断して溶出液がタンパク質を含まなくなるまで洗浄した。結合したMBP-L 鎖融合タンパク質を10 mM マルトースを含むカラムバッファーで次いで溶出することが出来た。融合タンパク質を含むフラクションをプールし、150 mM NaCl、2 mM CaCl2、および1 mM DTT を添加した20 mM Tris-HCl (pH 8.0)に対して72 時間4℃で透析した。
【0136】
MBL-L鎖 融合タンパク質は宿主細菌からの放出後に精製することが出来る。細菌からの放出は細菌細胞膜の酵素による分解または機械的破壊により達成することが出来る。アミロースアフィニティークロマトグラフィーを精製に用いることが出来る。組換え野生型または突然変異体軽鎖は、活性化第X因子による部位特異的切断により融合タンパク質の糖結合ドメインから分離できる。この切断手順により典型的には遊離のMBP、遊離の軽鎖および少量の非切断融合タンパク質が生じる。かかる混合物中に存在する結果として得られた軽鎖は所望の活性を有することが示され得るが、さらなる精製工程を用いてもよい。例えば、切断産物の混合物をMBPと非切断融合タンパク質との両方に結合する第二アミロースアフィニティーカラムにアプライすればよい。遊離の軽鎖はフロースルーフラクション中に単離されうる。
【0137】
実施例 10:天然軽鎖、組換え野生型軽鎖と精製重鎖との再構成:
【0138】
天然重鎖および軽鎖は、BoNTから2 M 尿素により解離し、100 mM DTTで還元し、確立しているクロマトグラフィー手順にしたがって精製できる。例えば、Kozaki et al. (1981、Japan J. Med. Sci. Biol. 34,61)および Maisey et al. (1988、Eur. J. Biochem. 177,683)を参照。精製重鎖は、等モル量の天然軽鎖または組換え軽鎖と組みあわせることが出来る。再構成は25 mM Tris (pH 8.0)、50μM 酢酸亜鉛 および150 mM NaClからなるバッファーに対してサンプルを4日間4℃で透析することにより行うことが出来る。透析の後、組換え軽鎖および天然重鎖は結合して、ジスルフィド結合した150 kDaの二本鎖を形成し、それはSDS-PAGEによりモニターされ、および/または、濃度測定スキャニングにより定量される。
【0139】
実施例 11 :生物学的持続性が強化した修飾神経毒の産生:
【0140】
修飾神経毒は、組換え技術を常套の化学的技術と組みあわせて用いることにより産生することが出来る。
【0141】
神経毒鎖、例えば、生物学的持続性強化成分と融合されて修飾神経毒を形成するボツリヌス軽鎖は組換えにより産生でき、実施例 9に記載のように精製できる。
【0142】
組換え技術由来の組換え神経毒鎖は、生物学的持続性強化成分、例えば、ロイシンに基づくモチーフ、チロシンに基づくモチーフ、および/または、アミノ酸誘導体と共有結合により融合(またはそれらと結合)しうる。生物学的持続性強化成分を含むペプチド配列は標準的 t-Boc/Fmoc技術によって、当業者に知られているように溶液または固相において合成することが出来る。同様の合成技術も本発明に含まれ、例えば、Milton et al. (1992、Biochemistry 31,8799- 8809)およびSwain et (1993、Peptide Research 6,147-154)において用いられている方法が含まれる。1以上の合成生物学的持続性強化成分は、A、B、C1、C2、D、E、FまたはG型ボツリヌスの軽鎖に、例えば、毒素のカルボキシル末端にて融合しうる。生物学的持続性強化成分の融合は化学的結合によって当業者に知られた試薬と技術、例えば PDPH/EDACおよびTraut's試薬化学を用いて達成される。
【0143】
あるいは、修飾神経毒は生物学的持続性強化成分を組換えボツリヌス毒素鎖に融合させる工程なしに組換えにより産生できる。例えば、実施例 9の組換え技術由来のボツリヌス 軽鎖などの組換え神経毒鎖は、生物学的持続性強化成分、例えば、ロイシンに基づくモチーフ、チロシンに基づくモチーフおよび/またはアミノ酸誘導体とともに産生させてもよい。例えば、1以上の生物学的持続性強化成分をコードするDNA 配列をA、B、C1、C2、D、E、FまたはG型ボツリヌスの軽鎖をコードするDNA 配列に付加してもよい。この付加は当業者に周知の部位特異的変異誘発について知られている多数の方法のいずれによっても行うことが出来る。
【0144】
生物学的持続性強化成分が融合または付加した組換え修飾軽鎖は、神経毒の重鎖と、実施例 10に記載の方法によって再構成することが出来、それによって完全な修飾神経毒が得られる。
【0145】
この実施例によって産生された修飾神経毒は生物学的持続性が強化している。好ましくは、生物学的持続性は付加的な生物学的持続性強化成分を有さない同一の神経毒と比較して約 20%〜約 300%強化している。
【0146】
実施例 12:ボツリヌス毒素血清型 A〜G 軽鎖(LC)のアミノ酸配列のアミノ末端(N-末端)の最初の30 残基およびカルボキシル末端(C-末端)の最後の50 残基を表2に示す。
【表2】
【0147】
これら血清型のアミノ酸配列における変化には、アミノ酸置換、突然変異、欠失、またはかかる変化の様々な組合せが含まれうる。かかる変化は軽鎖のN-末端の最初の30アミノ酸(AA) および/または軽鎖のC-末端の最後の50アミノ酸(AA)において当該技術分野において標準的な組換えDNA技術的方法を用いて操作することが出来る。
【0148】
例えば、研究によると、N-末端から8アミノ酸残基(PFVNKQFN) (配列番号120)が欠失しているGFP-LCA コンストラクト(C-末端は欠失無し)は、Cおよび N末端の両方が欠失した切断GFP-LCA コンストラクトの PC12 細胞における局在と非常によく似たパターンにてPC12 細胞に局在していることが示された。
【0149】
さらなる研究によると、C-末端から22 アミノ酸残基(KNFTG LFEFYKLLCV RGIITSK) (配列番号121)が欠失したGFP-LCA コンストラクト (N-末端は欠失無し) はGFP-LCA (LL-->AA) 突然変異体と非常によく似た様式でPC12 細胞において局在していることが示された。
【0150】
N-末端から8アミノ酸残基(PFVNKQFN) (配列番号122)が欠失し、C-末端から22アミノ酸 残基(KNFTG LFEFYKLLCV RGIITSK) (配列番号123)が欠失しているGFP-LCA コンストラクトは細胞内に蓄積した。
【0151】
アミノ酸配列置換の例としては、軽鎖のN-末端の最初の30アミノ酸および/またはC-末端の最後の50アミノ酸における1以上の連続または非連続アミノ酸の、野生型配列とは異なる同じ数および配置のアミノ酸による置換が含まれる。置換はアミノ酸の特徴について保存的であっても非保存的であってもよい。例えば、野生型配列における特定の位置のアミノ酸バリンは置換される配列における同じ位置のアラニンにより置換されていてもよい。さらに、塩基性残基、例えば、アルギニンまたはリジンは高度に疎水性の残基、例えば、トリプトファンにより置換されてもよい。プロリンまたはヒスチジン残基は、タンパク質の潜在的に重要な構造または触媒要素を形成または破壊するために置換されてもよい。アミノ酸置換のいくつかの例を表3に記載する配列において下線を引いた太字で示す。
【表3−1】
【表3−2】
【0152】
アミノ酸配列突然変異の例としては、軽鎖配列のN-末端の最初の30アミノ酸および/またはC-末端の最後の50アミノ酸における変化が含まれ、1または数個のアミノ酸が付加、置換および/または欠失したものであり、野生型軽鎖配列におけるアミノ酸の同一性、数および位置は必ずしも突然変異した軽鎖配列において保存されている必要はない。アミノ酸配列突然変異のいくつかの例を表4に記載し、示された配列においてアミノ酸の付加は下線を引いた太字で、欠失は破線で示す。
【表4−1】
【表4−2】
【0153】
アミノ酸配列欠失の例には、軽鎖配列のN-末端の最初の30アミノ酸および/またはC-末端の最後の50アミノ酸からの1以上の連続または非連続アミノ酸の除去が含まれる。アミノ酸配列欠失のいくつかの例を表5に示す配列において破線で示す。
【表5−1】
【表5−2】
【0154】
実施例 13
本発明のある態様において、毒素の生物学的持続性および/または酵素活性は、毒素を構造的に修飾することによって変化させうる。ある態様において、構造的修飾には、毒素におけるアミノ酸の置換、突然変異または欠失が含まれる。ある態様において、構造的修飾には生物学的持続性強化成分または酵素活性強化成分がボツリヌス毒素の軽鎖末端に融合、交換または組込まれるキメラ融合コンストラクトが含まれる。ある態様において、構造的修飾にはボツリヌス毒素の軽鎖末端に生物学的持続性低下成分または酵素活性低下成分が融合、交換または組込まれるキメラ融合コンストラクトが含まれる。ある態様において、持続性または活性強化または持続性または活性低下成分はボツリヌス毒素の軽鎖の最初の30 アミノ酸を含むN-末端領域であるか、ボツリヌス毒素の軽鎖の最後の50 アミノ酸を含むC-末端領域である。この生物学的持続性または酵素活性強化成分あるいは生物学的持続性または酵素活性低下成分はボツリヌス毒素の軽鎖のN-および/またはC-末端に交換、融合または組み込まれ、その生物学的持続性および/または酵素活性を増減する。
【0155】
ある態様において、BoNT/Aの軽鎖N-末端領域のキメラコンストラクトへの融合、付加または交換の結果、生物学的持続性および/または酵素活性が上昇する。ある態様において、キメラコンストラクトにおけるBoNT/Aの軽鎖N-末端領域の置換、突然変異または欠失の結果、生物学的持続性および/または酵素活性が低下する。ある態様において、BoNT/Aの軽鎖のC-末端領域のキメラコンストラクトへの融合、付加または交換の結果、生物学的持続性および/または酵素活性が上昇する。ある態様において、キメラコンストラクトにおけるBoNT/Aの軽鎖のC-末端領域の置換、突然変異または欠失の結果、生物学的持続性および/または酵素活性は低下する。
【0156】
一般に、キメラ毒素は、構造的修飾を有さない同じ毒素と比較して約 20%〜300%高い生物学的持続性を有するのが好適である。キメラ毒素の生物学的持続性は約 100%強化されうる。即ち、例えば、生物学的持続性強化成分を含む修飾ボツリヌス神経毒は、構造的修飾を有さない神経毒と比べて神経末端からの神経伝達物質 (例えば、アセチルコリン) 放出を約 20%〜約 300%長期にわたって実質的に阻害する。
【0157】
同様に、キメラボツリヌス毒素軽鎖は変化した酵素活性を有するのが好適である。例えば、キメラ毒素は、その修飾神経毒の生物学的持続性の変化を伴ってまたは伴わずに標的細胞からのエキソサイトーシス (例えば、神経伝達物質のエキソサイトーシス)の低下または強化した阻害を示しうる。酵素活性の変化には、効力または有効性の増減、原形質膜への局在化の増減、基質特異性の増減、および/またはSNAP/SNARE タンパク質のタンパク質分解速度の増減が含まれる。酵素活性の上昇は天然または非修飾軽鎖の生物活性よりも1.5〜5倍高くなりうる。例えば、酵素活性強化成分を含むキメラボツリヌス神経毒は構造的修飾を有さない神経毒と比較してSNAP-25 基質のタンパク質分解速度の上昇により、神経末端からの神経伝達物質 (例えば、アセチルコリン) 放出の実質的阻害をもたらしうる。
【0158】
A型ボツリヌス毒素軽鎖のN-末端から8アミノ酸残基(PFVNKQFN)が欠失し、C- 末端から22アミノ酸残基(KNFTG LFEFYKLLCV RGIITSK)が欠失した組換えコンストラクトは、活性の低下を示し、C-末端の22アミノ酸のみが欠失した同様のコンストラクトと比較して10倍近くもSNAP-25 基質を切断するのに必要な有効濃度 (EC50)が上昇する(EC50 ΔN8ΔC22=4663 pMに対して、EC50 ΔC22 =566 pM)。 A型ボツリヌス毒素の組換え軽鎖を対照として用い (EC50 rLC/A =7 pM)、それゆえ、rLC/A コンストラクトと比較すると、666倍高い濃度のΔN8ΔC22 コンストラクトが必要である。ジロイシンモチーフがジアラニンに突然変異した組換え軽鎖コンストラクト[rLC/A (LL-->AA)]もまた、活性の低下を示す(EC50 rLC/A (LL-->AA) =184 pM); しかし、ΔN8ΔC22コンストラクトの有効濃度はrLC/A (LL-->AA) コンストラクトと比べて25倍高い。
【0159】
修飾軽鎖には、A、B、C1、D、E、FまたはG型ボツリヌス毒素からの軽鎖が含まれうる。N-および/またはC-末端の1または複数のドメインを付加、欠失または置換によって修飾しうる。例えば、修飾キメラ軽鎖成分には、BoNT/A 軽鎖からの1以上のN-および/または C-末端配列の付加または交換/置換により修飾されたBoNT/Eからの軽鎖が含まれうる。その結果、一方または両方の末端が、原形質膜への限局能力の増減、生物学的持続性の増減および/または酵素活性の増減を付与する1以上の 配列を有する、キメラ BoNT/E- BoNT/A キメラ 軽鎖が生ずる。
【0160】
キメラボツリヌス毒素は1つのボツリヌス毒素血清型の軽鎖のC-末端部分が別のボツリヌス毒素血清型の軽鎖の類似のC-末端部分を置換するように構築できる。例えば、BoNT/A軽鎖C-末端のジ-ロイシンモチーフを含む最後の22アミノ酸残基は、BoNT/E軽鎖C-末端の最後の22 アミノ酸残基を置換することができる。かかるキメラコンストラクトの軽鎖全体のアミノ酸配列を以下に示す:
【表6】
【0161】
上記コンストラクトにおいて、大多数のアミノ酸配列は BoNT/E 血清型由来であり、下線を引いた太字で示すアミノ酸はジ-ロイシンモチーフを有するBoNT/A軽鎖C-末端の最後の22 アミノ酸残基由来である。
【0162】
さらなる例において、BoNT/A軽鎖N- 末端からの最初の30アミノ酸残基は、BoNT/B軽鎖N-末端の最初の30アミノ酸残基を置換しうる。かかるキメラコンストラクトの軽鎖全体のアミノ酸配列を以下に示す:
【表7】
【0163】
上記コンストラクトにおいて大多数のアミノ酸配列は、BoNT/B血清型由来であり、下線を引いた太字で示すアミノ酸はBoNT/A軽鎖N-末端の最初の30アミノ酸残基由来である。
【0164】
さらに、キメラコンストラクトはN-末端とC-末端との両方の置換を有しうる。例えば、BoNT/A軽鎖N- 末端からの最初の9アミノ酸残基はBoNT/E軽鎖N- 末端からの最初の9アミノ酸残基を置換しうる。さらに、同じコンストラクトにおいて、BoNT/A軽鎖C-末端からの最後の22 アミノ酸残基はBoNT/E軽鎖C-末端からの最後の22 アミノ酸残基を置換しうる。かかるキメラコンストラクトの軽鎖全体のアミノ酸配列を以下に示す:
【表8−1】
【表8−2】
【0165】
上記コンストラクトにおいて、大多数のアミノ酸配列はBoNT/E 血清型由来であり、および下線を引いた太字のアミノ酸は、BoNT/A軽鎖のN-末端の最初の9アミノ酸残基およびC-末端の最後の22 アミノ酸残基由来である。
【0166】
同様に、BoNT/A軽鎖N- 末端からの最初の9アミノ酸残基はBoNT/B軽鎖N- 末端の最初の9アミノ酸残基を置換しうる。さらに、同じコンストラクトにおいて、BoNT/A軽鎖C-末端からの最後の22 アミノ酸残基はBoNT/B軽鎖C-末端の最後の22 アミノ酸残基を置換しうる。かかるキメラコンストラクトの軽鎖全体のアミノ酸配列を以下に示す:
【表9】
【0167】
上記コンストラクトにおいて、大多数のアミノ酸配列は血清型BoNT/B由来であり、および、下線を引いた太字のアミノ酸は、BoNT/A軽鎖のN-末端最初の9アミノ酸残基およびC-末端最後の22 アミノ酸残基由来である。
【0168】
さらに、BoNT/A軽鎖N- 末端の最初の9アミノ酸残基は、BoNT/F軽鎖N- 末端の最初の9アミノ酸残基を置換しうる。さらに、同じコンストラクトにおいて、BoNT/A軽鎖C-末端からの最後の22 アミノ酸残基は、BoNT/F軽鎖C-末端からの最後の22 アミノ酸残基を置換しうる。かかるキメラコンストラクトの軽鎖全体のアミノ酸配列を以下に示す:
【表10】
【0169】
上記コンストラクトにおいて、大多数のアミノ酸配列はBoNT/F 血清型由来であり、下線を引いた太字のアミノ酸はBoNT/A軽鎖N-末端の最初の9アミノ酸残基およびC-末端の最後の22 アミノ酸残基由来である。
【0170】
ある態様において、軽鎖を操作して、1以上の毒素血清型の1以上の軽鎖セグメントを、別の毒素血清型の軽鎖内の同じまたは異なる長さの1以上のセグメントと置換しうる。この種のキメラコンストラクトの非限定的な例において、BoNT/A軽鎖N- 末端の50アミノ酸残基はBoNT/B軽鎖N-末端の8アミノ酸残基を置換することが出来、その結果、軽鎖キメラのN-末端領域において42アミノ酸長の正味の増加が導かれる。かかるキメラコンストラクトの軽鎖全体のアミノ酸配列を以下に示す:
【表11】
【0171】
上記コンストラクトにおいて、大多数のアミノ酸配列はBoNT/B血清型由来であり、下線を引いた太字のアミノ酸はBoNT/A軽鎖N- 末端の最初の50アミノ酸残基由来である。
【0172】
この種のキメラコンストラクトの非限定的な例において、BoNT/A軽鎖C-末端からの最後の50アミノ酸残基がBoNT/E軽鎖C-末端の15アミノ酸残基を置換し得、その結果、軽鎖キメラのC-末端領域において正味35アミノ酸が増加する。かかるキメラコンストラクトの軽鎖全体のアミノ酸配列を以下に示す:
【表12】
【0173】
上記コンストラクトにおいて、大多数のアミノ酸配列はBoNT/E 血清型由来であり、下線を引いた太字のアミノ酸はBoNT/A軽鎖C-末端の最後の50アミノ酸残基由来である。
【0174】
この種のキメラコンストラクトの非限定的な例において、BoNT/A軽鎖N- 末端からの30アミノ酸残基がBoNT/E軽鎖N-末端の10 アミノ酸残基を置換することが出来、その結果キメラN-末端領域において正味20アミノ酸長が増加する。さらに、同じコンストラクトにおいて、BoNT/A軽鎖C-末端からの最後の50アミノ酸残基が、BoNT/E軽鎖C-末端 からの最後の50アミノ酸残基を置換することが出来る。かかるキメラコンストラクトの軽鎖全体のアミノ酸配列を以下に示す:
【表13】
【0175】
上記コンストラクトにおいて、大多数のアミノ酸配列は BoNT/E 血清型由来であり、下線を引いた太字のアミノ酸はBoNT/A軽鎖N-末端の30アミノ酸残基およびC-末端の最後の50アミノ酸残基由来である。
【0176】
この種のキメラコンストラクトの非限定的な例において、BoNT/A軽鎖N- 末端からの30アミノ酸残基が、BoNT/B軽鎖N-末端の10アミノ酸残基を置換することが出来、その結果キメラのN-末端領域において正味20アミノ酸長増加する。さらに、同じコンストラクトにおいて、BoNT/A軽鎖C-末端からの最後の50アミノ酸残基が、BoNT/B軽鎖C-末端からの最後の50アミノ酸残基を置換することが出来る。かかるキメラコンストラクトの軽鎖全体のアミノ酸配列を以下に示す:
【表14】
【0177】
上記コンストラクトにおいて、大多数のアミノ酸配列はBoNT/B血清型由来であり、下線を引いた太字のアミノ酸はBoNT/A軽鎖N-末端の30アミノ酸残基およびC-末端の最後の50アミノ酸残基由来である。
【0178】
この種のキメラコンストラクトの非限定的な例において、BoNT/A軽鎖N- 末端からの30アミノ酸残基はBoNT/Fの軽鎖N-末端の10アミノ酸残基を置換することが出来、その結果、キメラN-末端領域の長さが正味20アミノ酸増加する。さらに、同じコンストラクトにおいて、BoNT/A軽鎖C-末端からの最後の50アミノ酸残基は、BoNT/F軽鎖C-末端からの最後の50アミノ酸残基を置換しうる。かかるキメラコンストラクトの軽鎖全体のアミノ酸配列を以下に示す:
【表15】
【0179】
上記コンストラクトにおいて、大多数のアミノ酸配列はBoNT/F 血清型由来であり、下線を引いた太字のアミノ酸は、BoNT/A軽鎖N-末端の30アミノ酸残基およびC-末端の最後の50アミノ酸残基由来である。
【0180】
ある態様において、交換される(swapped)配列は2種類の血清型由来であり得、その結果、全部で3種類の血清型由来の領域を有するキメラとなる。この例において、BoNT/B軽鎖N-末端由来の8アミノ酸残基はBoNT/Eの軽鎖N-末端の5アミノ酸残基を置換することが出来、その結果、キメラのN-末端領域の長さが正味3アミノ酸増加する。さらに、同じコンストラクトにおいて、BoNT/A軽鎖C-末端のジロイシンリピートを含む30 アミノ酸残基は、BoNT/E の軽鎖C-末端の10アミノ酸残基を置換することが出来、その結果、キメラのC-末端領域の長さが正味20 アミノ酸増加する。かかるキメラコンストラクトの軽鎖全体のアミノ酸配列を以下に示す:
【表16】
【0181】
上記コンストラクトにおいて、大多数のアミノ酸配列はBoNT/E 血清型由来であり、斜体の太字で示すアミノ酸はBoNT/B軽鎖N-末端の8アミノ酸残基由来であり、下線を引いた太字で示す30アミノ酸残基は、BoNT/A軽鎖C-末端の30アミノ酸残基由来である。
【0182】
非限定的な例において、BoNT/B軽鎖N- 末端からの8アミノ酸残基は、BoNT/F軽鎖N- 末端の5アミノ酸残基を置換することが出来、その結果、キメラのN-末端領域の長さが正味3アミノ酸増加する。さらに、同じコンストラクトにおいて、BoNT/A軽鎖C-末端のジロイシンリピートを含む30 アミノ酸残基は、BoNT/F軽鎖C-末端の10アミノ酸残基を置換することが出来、その結果、キメラのC-末端領域において正味20 アミノ酸増加する。かかるキメラコンストラクトの軽鎖全体のアミノ酸配列を以下に示す:
【表17】
【0183】
上記コンストラクトにおいて、大多数のアミノ酸配列は BoNT/F 血清型由来であり、斜体の太字で示すアミノ酸はBoNT/B軽鎖N-末端の8アミノ酸残基由来であり、下線を引いた太字で示す30アミノ酸残基はBoNT/A軽鎖C-末端の30アミノ酸残基由来である。
【0184】
実施例 14
本発明はまた、A型ボツリヌス毒素軽鎖N-末端からの最初の約30 アミノ酸およびA型ボツリヌス毒素軽鎖C-末端の最後の約50 アミノ酸を含むB、C1、D、E、FまたはG型ボツリヌス毒素の軽鎖も提供する。ここでA型のN-末端の最初の30アミノ酸は全部であっても一部であってもよく、30 アミノ酸の、例えば 2-16の連続または非連続アミノ酸である。ここで最後の50 アミノ酸も全部であっても一部であってもよく、例えば50 アミノ酸の5-43の連続または非連続アミノ酸である。
【0185】
ある態様において、かかる軽鎖は、A型ボツリヌス毒素軽鎖N-末端からの最初の約20アミノ酸およびA型ボツリヌス毒素軽鎖C-末端からの最後の約30アミノ酸を含む。A型N-末端の最初の20 アミノ酸は全部であっても一部であってもよく、例えば20 アミノ酸の2-16 の連続または非連続アミノ酸である。ここで、最後の30アミノ酸も全部であっても一部であってもよく、例えば30 アミノ酸の5-23の連続または非連続アミノ酸である。
【0186】
ある態様において、かかる軽鎖は、A型ボツリヌス毒素軽鎖N-末端の最初の約 4〜8、例えば最初の8アミノ酸およびA型ボツリヌス毒素軽鎖C- 末端からの最後の約7〜22アミノ酸、例えば最後の22アミノ酸を含む。A型N-末端の最初の8 アミノ酸は全部であっても一部であってもよく、例えば7 アミノ酸の2-7の連続または非連続アミノ酸である。最後の22 アミノ酸も全部であっても一部であってもよく、例えば20 アミノ酸の5-16の連続または非連続アミノ酸である。
【0187】
ある態様において、A型軽鎖のN-末端からの最初の約30 アミノ酸およびC-末端からの最後の約50 アミノ酸を含めることにより、B、C1、D、E、FまたはG型ボツリヌス毒素軽鎖のN-およびC-末端の1以上のアミノ酸を置換しうる。A型 N-末端の最初の30アミノ酸は全部であっても一部であってもよく、例えば30 アミノ酸の2-16の連続または非連続アミノ酸である。最後の50 アミノ酸も全部であっても一部であってもよく、例えば50 アミノ酸の5-43の連続または非連続アミノ酸である。
【0188】
ある態様において、A型軽鎖のN-末端からの約20 アミノ酸およびC-末端からの約30 アミノ酸を含めることにより、B、C1、D、E、FまたはG型ボツリヌス毒素軽鎖のそれぞれN-およびC-末端の1以上のアミノ酸を置換することが出来る。A型N-末端の最初の20 アミノ酸は全部であっても一部であってもよく、例えば20 アミノ酸の2-16の連続または非連続アミノ酸である。最後の30アミノ酸も全部であっても一部であってもよく、例えば30 アミノ酸の5-23の連続または非連続アミノ酸である。
【0189】
ある態様において、A型軽鎖N-末端からの最初の約 4〜8、例えば最初の8アミノ酸および、C-末端からの最後の約7〜22、例えば最後の22アミノ酸を含めることにより、B、C1、D、E、FまたはG型ボツリヌス毒素軽鎖のN-およびC-末端の1以上のアミノ酸をそれぞれ置換することが出来る。A型N- 末端の最初の8 アミノ酸は全部であっても一部であってもよく、例えば7 アミノ酸の2-7の連続または非連続アミノ酸である。最後の22 アミノ酸も全部であっても一部であってもよく、例えば20 アミノ酸の5-16の連続または非連続アミノ酸である。
【0190】
本発明はまた、上記の実施例に記載したものを含む本明細書に記載の軽鎖を含む修飾ボツリヌス毒素を提供する。
【0191】
実施例 15 : LC/E キメラの作成
【0192】
LC/AのN-末端の8 アミノ酸の切断は完全に原形質膜局在化を破壊する。LC/A(△N8)は細胞質にあり、LC/Eと同様の分布を示す。LC/AおよびLC/EのN-末端の配列は互いに異なる (図1)。
【0193】
LC/AのN-末端を有するLC/Eを作成するために、本発明者らは2種類のアプローチを進めた。第一のアプローチは、LC/AのN-末端を含む5'プライマーを用いて野生のベルーガ(beluga)LC/E 遺伝子に対するPCRを行うというものであった。PCR用プライマーは以下の通り:
N-ter LC/A フォワード:
【表18】
N-ter LC/A リバース:
【表19】
【0194】
PCRは、0.4μgのプラスミドテンプレートpQBI25fC3beruga LC/E、および125ngの各プライマーを用いて行った。サイクリングプログラムは以下の通り:
変性:95℃、15分
5 サイクル: 94℃、30秒;50℃、30秒;72℃、1分:
25 サイクル: 94℃、30秒;68℃、30秒;72℃、1分:
伸長:72℃、10分。
【0195】
低アニーリング温度での最初の5サイクルにより、配列における相違にもかかわらず、LC/Eの5'配列にプライマーがアニーリングすることが可能となる。第二セットの25 サイクルにより、さらなるより制限された増幅のための正しい配列の産物を使用することになる。
【0196】
LC/AのN- 末端を有するLC/E キメラを作成するための第二の戦略は、部位特異的変異誘発を用いて一度に(as a time)一つのアミノ酸を突然変異させることであった。設計したプライマーは以下の通りであった:
1.Pro-Lys-Ileから Pro-Phe-ValへのLC/E配列変化:
【表20】
2. Pro-Phe-Val-Asn-SerからPro-Phe-Val-Asn-Lysへの配列変化:
【表21】
3. LC/E におけるLC/AのN-末端配列を完全にするためのグルタミン挿入:
【表22】
【0197】
示したプライマーはセンス鎖上のものであり、アンチセンス鎖に対応する相補的プライマーも注文し、PCRに用いた。QuikChange 突然変異誘発に使用したテンプレートはpQBI25fC3beruga LC/Eであった。
【0198】
本発明者らはまた、C-末端の同様の領域のLC/E中にモチーフを作成することによって、LC/A にのみ存在するジロイシンモチーフの重要性を分析した(図 2)。LC/Eにおける配列は、LxxxIIである。公表されたモチーフのいくつかにおいてイソロイシンがロイシンを置換しうることから、本発明者らはExxxIIを生じるプライマー、およびExxxLLを生じるプライマーを設計した。これら突然変異は天然 LC/E 遺伝子において、そしてLC/AのN-末端を含むLC/Eにおいて行った。
【0199】
本発明者らは、図 3に示すようにLC/AのN- 末端のすべての組合せを有し、ジロイシンモチーフ構築の様々な状態の全部で5つのキメラを作成した。野生型 LC/E、LC/AのN-末端を有するキメラ LC/E、C-末端にLC/Aジロイシンモチーフを有するキメラ LC/EおよびLC/AからのN-末端とジロイシンモチーフの両方を有する完全なキメラ LC/Eの完全DNAおよびアノテートされたアミノ酸配列を図14-17に示す。本発明者らはこれらすべての突然変異体の、発現、活性、および細胞内局在について試験した。
【0200】
細胞株および増殖条件
【0201】
SH-SY5Y (ヒト神経芽細胞腫細胞株)細胞を通気性キャップを有するCostar(商標)ポリスチレンフラスコで培養した。増殖培地は、アール塩(Earle's salt)およびL-グルタミンを含む最小必須培地、L-グルタミンを含むF-12 栄養素混合物 (Ham)、10% 胎児ウシ血清 (熱不活性化)、非必須アミノ酸、HEPES、L-グルタミン、ペニシリン/ストレプトマイシンからなるものとした。PC-12 (ラットクロマフィンクロム親和細胞腫細胞株) 細胞をIV型コラーゲンで被覆したBD Biocoat ディッシュ(BD Biosciences、Bedford、MA)に維持した。増殖培地はL-グルタミン、10% ウマ血清 (熱不活性化)、5% 胎児ウシ血清 (熱不活性化)、HEPES、D-グルコース (Sigma)、ピルビン酸ナトリウム、ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI-1640からなるものとした。すべての(D-グルコース、Sigmaを除く)増殖培地成分はInvitrogen から購入したGibco 製品であり、すべての細胞株は、37℃、7.5% CO2にて培養および維持した。
【0202】
一過性トランスフェクション:
【0203】
トランスフェクションの前日、SH-SY5Y細胞を1 x 106にて6-ウェルプレートに播種した。トランスフェクションはOPTI-MEM低血清(Reduced Serum)培地中60μl/mlとなるようにLipofectAmine 2000 (Invitrogen、Carlsbad、CA)に希釈することによって行い、次いで室温で5分インキュベーションした。次いで、本発明者らはOPTI- MEM 中20μgDNA/mlに希釈し、等量のDNA混合物とLipofectAmine 2000 (LF) 混合物とを混合し、室温でさらに20分間インキュベートした。その間、プレート中の培地を2 mlの無血清培地と交換し、0.5 mlのDNA + LF混合物をウェルに添加し、37℃のC02 インキュベーターで6 時間インキュベートした。インキュベーションの後、培地を除き、10% FCS培地と交換した。細胞はトランスフェクションの24 時間後にさらなる分析のために収集した。共焦点分析のために、トランスフェクションは通常試薬を段階的に減少させた2-ウェルの培養スライスにて行った。
【0204】
PC12 細胞へのトランスフェクションは以下のようにして行った:トランスフェクションの前日にPC12 細胞をIV型コラーゲンで被覆したディッシュに10 x 106 細胞/100 mm ディッシュおよび2 x 106 細胞/60 mm ディッシュにて播種した。プレートをそれぞれOPTI-MEM 培地中でLipofectAmine2000を用いて20μgまたは10μgにてトランスフェクトした。トランスフェクションの48 時間後、細胞を分化培地に播種し、ウェスタンブロット用に収集するか、あるいは共焦点画像処理用に4%パラホルムアルデヒド中にて固定した。
【0205】
ウェスタンブロット分析:
【0206】
細胞を15 ml ファルコンチューブに回収し、lmlのPBSで1回洗浄し、1.5ml 微量遠心管に移した。細胞をローテータ上で4℃で1 時間、 0.5 mlの溶解バッファー (50 mM HEPES、150 mM NaCl、1.5 mM MgCl2、1mM EGTA、10%グリセロールおよび10%Triton X-100)中で溶解した。溶解した細胞を5000 rpmで4℃で10分間遠心し、細片を除いた; 上清を新しいシリコン処理チューブに移した。タンパク質濃度はブラッドフォード法により測定し、1 x SDS サンプルバッファーに1mg/ml以上の濃度に再懸濁した。サンプルを5分間煮沸し、20〜40μlのサンプルを、4-12% Tris-HClゲルにローディングした。タンパク質をPVDF メンブレンにトランスファーし、室温で1 時間TBST バッファー中5% 脱脂乳でブロッキングした。切断されたSNAP25 を抗SNAP25197抗体で検出するか、またはブロッキングバッファーに希釈した抗SNAP25180抗体で検出した; ブロットを十分に洗浄し、結合した抗体を種-特異的抗体に結合したセイヨウワサビペルオキシダーゼで検出した。
【0207】
SNAP25のN-末端に対するモノクローナル抗体 SMI-81を用いて同一のブロット中のSNAP25206、SNAP25197およびSNAP25205を検出する必要がある場合、細胞可溶化液を12% Bis-Trisゲルで泳動して切断されたSNAP25の分離を可能とした。
【0208】
本発明者らはウェスタンブロット分析のために従来型のフィルムではなく、Typhoon 9410 撮像装置 (Amersham)を使用した。最後の洗浄後、メンブレンをECL Plus ウェスタンブロット検出試薬(Amersham)と反応させ、以前に用いた SuperSignal試薬は用いなかった。ブロットを室温で5分インキュベートして現像した。ピクセルサイズおよびPMT 電圧設定の選択は個々のブロットに依存する。メンブレンをスキャンし、Typhoon Scanner およびImager Analysisソフトウェアを用いて定量した。
【0209】
SNAP-25 免疫細胞化学のためのSH-SY5Y一過性トランスフェクション
【0210】
トランスフェクションの前日、SH-SY5Y 細胞を60 mm 組織培養ディッシュに密度1.5x106または1.6 x106細胞/ディッシュにて播種し、トランスフェクションの時に90- 95% 集密となるようにした。トランスフェクションは、25μlのLipofectAmine2000 (Invitrogen)を0.5 ml Opti-MEM(登録商標)I低血清(Reduced Serum)培地 (Invitrogen)に希釈することにより行い、次いで室温で5分インキュベーションした。DNA (10μg)を0.5 ml Opti-MEM(登録商標)I低血清培地に希釈した。希釈したDNAを希釈したLipofectAmine 2000とともに穏やかに混合した。この混合物を20分間室温でインキュベートした。この間、プレート中の培地を2 mlの無血清・抗生物質-非含有培地と交換した。DNAとLipofectAmine2000 複合物を細胞に滴下し、プレートを前後に揺り動かすことによって培地中に混合した。細胞を37℃、7.5% C02で24 時間インキュベートした。トランスフェクション効率は蛍光顕微鏡で細胞を観察することにより判定した。GFP コンストラクトによるトランスフェクション効率は約40-50%であった。GFP-LCE コンストラクトではトランスフェクション効率はより低く、約10-15%であった。細胞の抗生物質選択を0.5 mg/ml ジェネテシン G418 (Invitrogen)を含む完全培地で行い、48 時間後に免疫細胞化学を行った。
【0211】
SNAP-25 免疫細胞化学のためのPC-12 一過性トランスフェクション
【0212】
細胞をトランスフェクションの前日にIV型コラーゲンで被覆したディッシュ (BD Biosciences)に1-2 x 106 細胞/ 60 mm ディッシュにて播種した。プレートを10μg DNA および25μl LipofectAmine2000 (それぞれ0.5 ml Opti- MEM(登録商標) I 低血清培地に希釈)を用いてトランスフェクトした。細胞をDNA/ LipofectAmine 2000 複合物とともに7.5%CO2、37℃で無血清抗生物質-非含有培地にて24 時間インキュベートした。トランスフェクション培地を0.5 mg/ml G418 (抗生物質選択)を含む完全増殖培地 (血清および抗生物質含有)と交換し、インキュベーションを37℃、7.5% C02でさらに48 時間続けた。細胞を、神経増殖因子 (NGF) (Harlan Bioproducts for Science、Indianapolis、IN)を50 ng/mlの終濃度にて含む分化培地(L-グルタミン、D-グルコース (Sigma)、ピルビン酸ナトリウム、ペニシリン/ストレプトマイシン、BSA (ALBUMAX II、脂質多含有)、N2-サプリメントを含むRPMI-1640)に24 時間入れ、GFP、SNAP25206およびSNAP25180に特異的な抗体で染色した(表6)。
表6:免疫細胞化学実験に用いた抗体のリスト
【表23】
【0213】
SNAP25206およびSNAP25180のための固定用パラホルムアルデヒドを用いた免疫細胞化学
【0214】
増殖培地を吸引により細胞から除き、細胞をPBS (Invitrogen、Carlsbad、CA)で2回洗浄した。細胞をPBS中4%パラホルムアルデヒド (Electron Microscopy Sciences、Washington、PA)で15〜30分間室温で固定し、PBSで3回洗浄した。細胞をPBS 中0.5% Triton X-100にて5分間室温で透過性にし、PBSで計3回洗浄した。細胞を氷冷メタノール中で6分間-20℃で再び透過性にした。メタノールを吸引により除き、ディッシュを反転させて細胞を室温で乾燥させた。ウェルを細胞のまわりにPap pen (Zymed、San Francisco、CA)を用いて描き、細胞をPBSを6回交換して洗浄し、再水和させた。細胞をPBS 中100 mM グリシンにて30分間室温でブロッキングし、次いでPBSで3回洗浄した。細胞をPBS中0.5% BSAと30分間室温でインキュベートし、PBSを3回交換して洗浄し、PBS中0.5% BSAに希釈した一次抗体を添加した (表 6)。細胞を室温で加湿チャンバ中2 時間または4℃で一晩インキュベートした。一次抗体をインキュベーションせずにPBSによる洗浄により除き、PBS中で3回、それぞれ5分洗浄した。細胞を0.5% BSA/PBS中に希釈した蛍光標識化二次抗体 (Alexa Fluor 抗-マウスまたは抗-ウサギ抗体、Molecular Probes、表6)とともに加湿チャンバ中1 時間室温でインキュベートし、PBSで洗浄した。細胞をVectashield(登録商標)マウンティング培地 (Vector、Burlingham、CA)を用いてマウントし、カバーグラスをかけた。細胞を4℃で保存した後、 Leica 共焦点顕微鏡にて観察した。
【0215】
結果
【0216】
LC/Aについての局在化シグナルを含むLC/E キメラの作成
【0217】
本発明者らは、原形質膜へのタンパク質の局在化に重要であるLC/AのN-末端およびC-末端における配列を同定した。N-末端の最初の8 アミノ酸の欠失により、原形質膜局在化は完全に消失し、LC/A(△N8)は核を除く細胞質に局在する。C-末端のジ-ロイシンモチーフの破壊によっても、局在化の変化が起こる。これらシグナルを確認するために、本発明者らはLC/AとLC/Eとのキメラを作成した。というのは両者は同じ基質を異なる部位で切断するが、細胞内局在および作用持続は異なっているからである。LC/Eは細胞質に局在し、1-2 週間持続する。本発明者らは野生のベルーガ LC/E 配列を用いて以下のコンストラクトを作成した: LC/E (N-LCA)、LC/E(ExxxII)、 LC/E (ExxxLL)、LC/E (N-LCA/ExxxII)、および LC/E (N-LCA/ExxxLL) (図 3および表7)。これはそれぞれのシグナルのそれ自体の効果および、両シグナルが一緒になったときの効果を分析するためである。これらコンストラクトをヒト神経芽細胞腫細胞株SH-SY5Yにトランスフェクトした。細胞可溶化液を調製し、突然変異体の活性 を、切断されたSNAP25とインタクトな SNAP25の両方を認識するSMI-81 抗体を用いて分析した (図 4)。
【0218】
表7:作成し、PC-12およびSH-SY5Y細胞へトランスフェクションしたキメラ LC/Eの説明
【表24】
【0219】
SH-SY5Y にて発現するすべてのキメラはSNAP25206をSNAP25180へと切断することが出来、それらはその他の部位では基質を切断しない(図 4)。行った2つの実験からの予備的データは、天然LC/Eと比較した場合のキメラの活性レベルの変化を示す。本発明者らは、かかる変化が突然変異体の発現レベルの増減によるのか、触媒活性の実際の変化によるのか区別することは出来なかった。なぜならキメラ LC/Eを検出する免疫沈降を行うために十分な材料が無かったからである。図 5は新しいセットの3つの独立した実験の結果を示し、これら実験ではキメラ LC/EをPC12およびSH-SY5Y細胞にトランスフェクトした。各コンストラクトの発現レベルは相異なっていたが、それらはすべてSNAP25切断に対する触媒活性を保持していた。コンストラクトのなかには、野生型 LC/Eと比較して触媒活性が低下しているようなものもみられたが、かかる変化はタンパク質を組換え発現させて、ELISAまたはGFPアッセイを行わなければ確認することは出来ない程度である。
【0220】
Fernandez-Salas,Steward et al. (PNAS 101,3208-3213、2004)により以前に公表された研究は、分化したPC12細胞におけるGFP-LC/AおよびGFP- LC/E タンパク質の細胞内局在化を示した(図 6)。GFP-LC/Aは細胞体および神経突起の原形質膜の特定の領域において点状に限局し、細胞の細胞質においてはGFP-LC/A タンパク質は局在しなかった(図6A)。GFP-LC/Eは核を除く細胞質への局在を示した。細胞は丸い形態を示し、分化培地においてさえも神経突起は見られなかった(図 6B)。
【0221】
図 6の結果は、BoNT 血清型AおよびEからの軽鎖が異なる細胞内区画に向いていることを示す。LC/Aの原形質膜への局在化において重要な配列を同定するために、PC-12およびSH-SY5Y細胞をGFP-LC/EおよびGFP- LC/E (N-LCA/ExxxLL)プラスミドコンストラクトにより一過性にトランスフェクトした。トランスフェクトされたSH-SY5Y細胞を0.5 mg/ml G418を含む増殖培地で2日間選択した後、 抗-SNAP25および抗-GFP 抗体で染色した。トランスフェクトされたPC-12 細胞を2日間選択培地に曝し、次いで分化培地(NGFを50 ng/ml 終濃度にて含有)に24 時間曝した後、染色した。
【0222】
LC/E キメラのGFP 部分の染色は、ほとんどのGFP-LCE (N-LCA/ExxxLL) タンパク質は点状に原形質膜に限局することを示し(図 7AおよびC)、先に報告したGFP-LC/A 局在と類似していた (図 6A)。SNAP25180に対するこの染色に用いたマウスモノクローナル抗体は高いバックグラウンドの染色を示したが、LC/Eを発現する細胞はより強いシグナルを示した。さらに、GFP- LCE (N-LCA/ExxxLL) キメラを発現する細胞は細胞質に維持されるSNAP25180を含んでいた。
【0223】
図8Aおよび8Cに示されるGFP染色は、細胞の原形質膜へのGFP-LC/E (N-LCA/ExxxLL) タンパク質の点状の局在を示し、これは図 6Aに示すGFP-LC/A 局在と類似していた。GFP-LC/E (N-LCA/ExxxLL) キメラタンパク質を発現する細胞 (図8Aおよび8Cにおいて、細胞「a」、「b」および「e」に対応する矢印によって示す)は抗-SNAP25206抗体による染色を示さなかった (図 8B および8Dにおける細胞「a」、「b」および「e」)。これは、これら細胞において発現したGFP-LC/E(N- LCA/ExxxLL)タンパク質のタンパク分解活性を確認するものであり、SNAP25206を切断する能力によって示されるとおりである。一方、図 8Cにおいて「c」および「d」と示すGFP-LC/E (N- LCA/ExxxLL) タンパク質を発現しない細胞は、図 8D における細胞「c」および「d」によって示されるように、全長SNAP25206タンパク質の存在に対する良好なシグナルを与えた。
【0224】
GFP-LC/E タンパク質はFernandez-Salas、Steward et al. およびFernandez-Salas、Ho et al. (Movement Disorders 19、S23-S34.、2004)によって以前に報告されたように点状にて細胞質内の構造に局在することが示され、これを図 6Bに示す。 SNAP25180タンパク質もまた、GFP-LCEを発現する細胞の細胞質に局在し、粒状構造にあるようである(図 9B)。
【0225】
GFP-LC/EのSH-SY5Y 局在
【0226】
GFP-LC/Eタンパク質はSH-SY5Y細胞の細胞質に局在する。図10に示すように両方の細胞の核においてGFPが排除されている大きな領域を注目されたい。
【0227】
GFP-LCE (N-LCA/ExxxLL)キメラもSH-SY5Y細胞で発現させた。抗-GFP 抗体による染色(図11)は原形質膜への局在化を示し、PC-12 細胞にて発現させたキメラについてみられたものと同様であった。
【0228】
キメラ GFP-LC/E (N-LCA/ExxxLL)をコードするプラスミドをヒト神経芽細胞腫細胞株 SH-SY5Yにトランスフェクトした。キメラタンパク質を発現させ、ディッシュを免疫染色用に固定した。GFP (モノクローナル抗体)について陽性に染色された細胞 (図12Aおよび12Cにて矢印で示す)は、GFP-LCE (N-LCA/ExxxLL) タンパク質が原形質膜へ限局することを示した。図12Bおよび12Dにおいて矢印で示すように全長SNAP25206タンパク質はGFP-LCE (N- LCA/ExxxLL) タンパク質を発現する細胞においては検出されなかった。これは、 GFP-LCE(N- LCA/ExxxLL)キメラタンパク質が機能性であり、SNAP25206を切断することを示唆する。
【0229】
活性をさらに確認するためにトランスフェクトされた細胞をGFPおよびSNAP25180に対するモノクローナル抗体によって染色した。 GFPに対する染色(ポリクローナル抗体)により、先の図 (図13A)に示したようにGFP-LC/E(N- LCA/ExxxLL)タンパク質が原形質膜に限局することが示された。SNAP25180の染色に用いた1A3A7腹水マウスモノクローナル抗体は高いバックグラウンド染色を示し非常に弱かった (図13Bの矢印は、SNAP25180染色について陽性の細胞群を示す)。この抗体は先の実験において1: 100 希釈にて用いた。しかし、図13AにおいてGFP-LCE (N-LCA/ExxxLL) タンパク質を発現する細胞は図13Bにおいて矢印で示すように細胞質においてSNAP25180を含んでいた。
【0230】
GFP-LC/E 融合タンパク質は以前にPC12、HIT-T15およびHeLa 細胞の細胞質に局在することが示されている。N-末端 LC/A シグナル (8 アミノ酸)およびLC/AのC-末端ジロイシンモチーフ(ExxxLL)のLCE タンパク質配列への付加(GFP-LCE (N-LCA/ExxxLL))はLC/Eの細胞内局在化を劇的に変化させた。 LC/EへのLC/A 局在化シグナルの付加は、LC/E (N-LCA/ExxxLL) キメラを原形質膜に局在化させ、これらモチーフ/配列がLC/A 局在化に重要なシグナルであることを確認した。SNAP25のLC/Eによる切断は、SNAP25のN- 末端に対する抗体を用いて検出した。全長SNAP25206に対する抗体による共染色により、機能性GFP-LCE (N-LCA/ExxxLL) キメラタンパク質を発現する細胞におけるインタクトな SNAP25の欠失が示された。SNAP25180タンパク質はGFP-LCE (N-LCA/ExxxLL)を発現する細胞の細胞質においても検出され、これはLC/EのSNAP25 タンパク質分解を示す。パラホルムアルデヒド固定細胞におけるSNAP25180切断産物の最適な染色を行うためにさらなる研究が必要である。というのは、この研究に用いた抗- SNAP25180抗体は弱かったからである。LC/A、LC/E およびLC/E (N-LCA/ExxxLL)タンパク質が存在する区画を同定するために、細胞質のオルガネラおよび原形質膜タンパク質(チャンネルおよび受容体)に対して特異的な色素および抗体のパネルを用いる。 PC-12 細胞は野生型 GFP-LC/E、GFP-LC/E (ExxxLL)、GFP-LC/E (ExxxII)、GFP-LC/E (N- LCA)、GFP-LC/E(N-LCA/ExxxII)および野生型 GFP-LC/A コンストラクトでトランスフェクトした。これらキメラタンパク質の局在化により、LC/A 局在化に重要な配列が確認されるであろう。LC/AのN-末端およびジ-ロイシンモチーフを含むLC/E キメラは非常に異なる局在化を示し、より長い作用持続時間を有するLC/Eを構成する可能性がある。
【0231】
本発明を様々な特定の実施例および態様に関して記載したが、本発明はそれらに限定されず、添付の請求の範囲内で様々に実施できることを理解されたい。上記のすべての論文、参考文献、刊行物、および特許はその内容全体が引用により本明細書に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0232】
【図1】LC/A (Allergan Hall A)、LC/BおよびLC/EのN-末端配列の比較。
【図2】Allergan Hall A LC/AのC-末端と、LC/Eの様々な株のC-末端との配列比較。
【図3】LC/Aの局在化シグナルを LC/Eに付加することによって作成したLC/E キメラ。
【図4】LC/Aからの局在化シグナルを含み、SH-SY5Y細胞において発現しているLC/E キメラのSNAP25の切断についての触媒活性。
【図5】GFP-LC/E キメラをコードするプラスミドをPC-12およびSH-SY5Y 細胞にトランスフェクトした。
【図6】PNAS 文献より。(1) GFP-LC/A (A) および GFP-LC/E (B) を発現する分化したPC12細胞。
【図7】GFP-LCE (N- LCA/ExxxLL)でトランスフェクトした分化したPC12細胞。
【図8】GFP-LC/E (N- LCA/ExxxLL)でトランスフェクトした分化したPC12細胞。
【図9】野生のベルーガ GFP-LC/Eでトランスフェクトした分化したPC12細胞。
【図10】GFP-LCE コンストラクトでトランスフェクトしたSH-SY5Y 細胞。
【図11】GFP-LCE (N- LCA/ExxxLL)でトランスフェクトしたSH-SY5Y 細胞。
【図12】GFP-LCE (N- LCA/ExxxLL)でトランスフェクトしたSH-SY5Y 細胞。
【図13】GFP-LC/E (N- LCA/ExxxLL)でトランスフェクトした SH-SY5Y 細胞。
【図14】野生型 ベルーガ LC/Eの配列。
【図15】LC/A のN-末端を有するキメラ LC/Eの配列。
【図16】C-末端にLC/A ジ-ロイシンモチーフを有するキメラ LC/Eの配列。
【図17】LC/A N-末端およびC-末端 ジ-ロイシンモチーフを有するキメラ LC/Eの配列。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
E型ボツリヌス毒素の修飾軽鎖を含む修飾毒素、ここで修飾軽鎖は以下を含む:
修飾軽鎖のN-末端のアミノ酸配列:配列番号144 (PFVNKQFN)、および、
修飾軽鎖のC-末端のアミノ酸配列:配列番号112 (xExxxLL)、ここで、xはいずれのアミノ酸でもよい。
【請求項2】
アミノ酸配列:配列番号144 (PFVNKQFN)が修飾軽鎖のN-末端の最初の12のアミノ酸の一部であり、アミノ酸配列:配列番号112 (xExxxLL)が修飾軽鎖のC-末端の最後の27のアミノ酸の一部である、請求項1の毒素。
【請求項3】
アミノ酸配列:配列番号144 (PFVNKQFN)が修飾軽鎖のN-末端の最初の8のアミノ酸の一部であり、アミノ酸配列 xExxxLL (配列番号112)が修飾軽鎖のC-末端の最後の23のアミノ酸の一部である、請求項1の毒素。
【請求項4】
アミノ酸配列:配列番号144 (PFVNKQFN)が修飾軽鎖のN-末端の最初の8のアミノ酸であり、アミノ酸配列:配列番号112 (xExxxLL)が修飾軽鎖のC-末端の最後の16のアミノ酸に先行する、請求項1の毒素。
【請求項5】
クロストリジウム毒素の重鎖をさらに含む、請求項1、2、3または4の毒素。
【請求項6】
重鎖がA、B、C1、D、E、F、またはG型ボツリヌス毒素の重鎖である請求項5の毒素。
【請求項7】
重鎖がE型ボツリヌス毒素の重鎖である請求項5の毒素。
【請求項8】
配列番号142のアミノ酸配列を含む修飾毒素。
【請求項9】
クロストリジウム毒素の重鎖をさらに含む、請求項8の毒素。
【請求項10】
重鎖がA、B、C1、D、E、F、またはG型ボツリヌス毒素の重鎖である請求項9の毒素。
【請求項11】
重鎖がE型ボツリヌス毒素の重鎖である請求項9の毒素。
【請求項12】
配列番号142のアミノ酸配列をコードする領域を含む核酸配列。
【請求項13】
配列番号143を含む請求項12の核酸配列。
【請求項14】
クロストリジウム毒素の重鎖をコードする領域をさらに含む請求項12の核酸配列。
【請求項15】
重鎖がA、B、C1、D、E、F、またはG型ボツリヌス毒素の重鎖である請求項14の核酸配列。
【請求項16】
重鎖がE型ボツリヌス毒素の重鎖である請求項14の核酸配列。
【請求項1】
E型ボツリヌス毒素の修飾軽鎖を含む修飾毒素、ここで修飾軽鎖は以下を含む:
修飾軽鎖のN-末端のアミノ酸配列:配列番号144 (PFVNKQFN)、および、
修飾軽鎖のC-末端のアミノ酸配列:配列番号112 (xExxxLL)、ここで、xはいずれのアミノ酸でもよい。
【請求項2】
アミノ酸配列:配列番号144 (PFVNKQFN)が修飾軽鎖のN-末端の最初の12のアミノ酸の一部であり、アミノ酸配列:配列番号112 (xExxxLL)が修飾軽鎖のC-末端の最後の27のアミノ酸の一部である、請求項1の毒素。
【請求項3】
アミノ酸配列:配列番号144 (PFVNKQFN)が修飾軽鎖のN-末端の最初の8のアミノ酸の一部であり、アミノ酸配列 xExxxLL (配列番号112)が修飾軽鎖のC-末端の最後の23のアミノ酸の一部である、請求項1の毒素。
【請求項4】
アミノ酸配列:配列番号144 (PFVNKQFN)が修飾軽鎖のN-末端の最初の8のアミノ酸であり、アミノ酸配列:配列番号112 (xExxxLL)が修飾軽鎖のC-末端の最後の16のアミノ酸に先行する、請求項1の毒素。
【請求項5】
クロストリジウム毒素の重鎖をさらに含む、請求項1、2、3または4の毒素。
【請求項6】
重鎖がA、B、C1、D、E、F、またはG型ボツリヌス毒素の重鎖である請求項5の毒素。
【請求項7】
重鎖がE型ボツリヌス毒素の重鎖である請求項5の毒素。
【請求項8】
配列番号142のアミノ酸配列を含む修飾毒素。
【請求項9】
クロストリジウム毒素の重鎖をさらに含む、請求項8の毒素。
【請求項10】
重鎖がA、B、C1、D、E、F、またはG型ボツリヌス毒素の重鎖である請求項9の毒素。
【請求項11】
重鎖がE型ボツリヌス毒素の重鎖である請求項9の毒素。
【請求項12】
配列番号142のアミノ酸配列をコードする領域を含む核酸配列。
【請求項13】
配列番号143を含む請求項12の核酸配列。
【請求項14】
クロストリジウム毒素の重鎖をコードする領域をさらに含む請求項12の核酸配列。
【請求項15】
重鎖がA、B、C1、D、E、F、またはG型ボツリヌス毒素の重鎖である請求項14の核酸配列。
【請求項16】
重鎖がE型ボツリヌス毒素の重鎖である請求項14の核酸配列。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14−a】
【図14−b】
【図15−a】
【図15−b】
【図16−a】
【図16−b】
【図17−a】
【図17−b】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14−a】
【図14−b】
【図15−a】
【図15−b】
【図16−a】
【図16−b】
【図17−a】
【図17−b】
【公表番号】特表2007−537718(P2007−537718A)
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549655(P2006−549655)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【国際出願番号】PCT/US2005/001370
【国際公開番号】WO2005/068494
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【国際出願番号】PCT/US2005/001370
【国際公開番号】WO2005/068494
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]