説明

キャスタブル耐火物の蒸気抜き構造

【課題】 樹脂チューブを引き抜くことなく、乾燥初期の昇温時に熱収縮することで蒸気抜き孔が形成させるものとしたキャスタブル耐火物の蒸気抜き構造を提供する。
【解決手段】 キャスタブル耐火物の蒸気抜き孔において、キャスタブルの施工中或いは施工直後に、100℃以下の収縮温度で収縮する熱収縮チューブを蒸気抜き丸棒に通した状態で、キャスタブルの厚み方向に貫入させ、キャスタブルの固化完了後に蒸気抜き丸棒のみを引抜き、該キャスタブルの熱乾燥時に蒸気抜き孔として作用せしめるようなしたことを特徴とするキャスタブル耐火物の蒸気抜き構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャスタブル耐火物の乾燥技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水練を主体とするキャスタブル耐火物において、キャスタブル自然固化後のキャスタブルは、水和反応によって生成した結晶水と遊離水とが残留する。特にこの遊離水は、キャスタブルの温度上昇に伴い、蒸気圧が急激に上昇し、キャスタブルの強度を超えた蒸気圧に達するとキャスタブルが破壊する。このため、事前にキャスタブルの遊離水を取り除く乾燥作業が必要となる。キャスタブルの乾燥は内部の水の蒸気圧が急激に上がらないようキャスタブルの昇温速度及び入熱をコントロールして行い、蒸気圧力により、キャスタブル内を外に向かって拡散することで乾燥が進行する。
【0003】
図4は、従来のキャスタブルの施工例を示す図である。図4(a)はキャスタブル施工後の断面図であり、図4(b)は施工後の乾燥時の入熱および蒸気の放出状態を示す。この図4(a)、(b)に示すように、一般にキャスタブル1の施工は、缶体2の熱保護を行うもので、一端は、缶体2に接触支持されているため、乾燥時の蒸気は他端の内面側に放出されることになる。一方、キャスタブル1への入熱は内面側の熱風により行うため、キャスタブル1は内面側から、キャスタブル表面側4に向かって乾燥が進むことになる。この場合、缶体側に近いキャスタブルの水蒸気はキャスタブルの通過距離が長くなり、過度に蒸気圧が上昇しやすいという問題がある。このため、缶体側にも蒸気抜き孔3を多数設置している。
【0004】
上述のように、缶体側に蒸気抜き孔3を多数設置することは、缶体の製作コスト上の問題がある。さらに、乾燥終了後はキャップ等で蒸気抜き孔3を閉止する必要がある。また、緻密性の高いキャスタブルでは、一層蒸気抜き孔3を増加させる必要がある。さらに、施工厚が厚くなると、缶体の蒸気抜きを増してもキャスタブルの厚み中心付近の蒸気が抜けにくくなり、蒸気圧の上昇によるキャスタブル破壊を防止するため、入熱が制限され、乾燥に長時間を要するという問題があった。
【0005】
特に、炭化珪素質のキャスタブルでは熱伝導率が高く、緻密な材料であり、乾燥という観点で捉えると、熱が伝わり易く、蒸気が逃げにくい材料であるため、100℃を超え、蒸気圧が発生する温度域では、厚みに応じて、蒸気の逃げる時間を確保するため十分時間をかける必要があった。かかる問題を解決するため、キャスタブル表面側で開放した蒸気抜き孔をキャスタブルに形成する手段が提案されている。キャスタブル内部の蒸気をキャスタブル表面側に逃がすため、耐火物施工後に厚み方向に丸棒を差し抜いて蒸気抜き孔とする方法である。
【0006】
図5は、従来の蒸気抜き孔の形成方法を示す図である。この図に示すように、型枠5の中に予め蒸気抜き丸棒6をセットし、この蒸気抜き丸棒6はプラスチック樹脂チューブ7で被覆し、キャスタブル1が硬化した後、型枠を除去するタイミングで、先ず、蒸気抜き丸棒6を引き抜き、続いてプラスチック樹脂チューブ7を引き抜いて、蒸気抜き孔を形成する方法である。この方法は、特に蒸気抜き孔を形成するタイミングが問題となり、硬化前であれば、形成した孔は容易に潰れ、硬化が進むと貫入できない。
【0007】
上述のような問題を解決するため、例えば特開平7−208870号公報(特許文献1)に開示されているように、プラスチック樹脂チューブで被覆した丸棒をキャスタブル施工時に貫入させ、キャスタブル硬化後に、先ず丸棒を引き抜き、続いて、チューブを引き抜いて蒸気抜き孔として形成する方法が提案されている。
【特許文献1】特開平7−208870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1においても、プラスチック樹脂チューブの引き抜き作業において、プラスチック樹脂チューブはキャスタブルと密着しているため引き抜きは容易でなく、チューブが途中で破断する等の問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述したような問題を解消するために、発明者等は鋭意開発を進めた結果、本発明は、チューブを100℃以下で収縮する熱収縮性の材料とし、チューブを引き抜くことなく、乾燥初期の昇温時に熱収縮することで蒸気抜き孔が形成させるものとしたキャスタブル耐火物の蒸気抜き構造を提供するものである。
【0010】
その発明の要旨とするところは、
(1)キャスタブル耐火物の蒸気抜き孔において、キャスタブルの施工中或いは施工直後に、100℃以下の収縮温度で収縮する熱収縮チューブを蒸気抜き丸棒に通した状態で、キャスタブルの厚み方向に貫入させ、キャスタブルの固化完了後に蒸気抜き丸棒のみを引抜き、該キャスタブルの熱乾燥時に蒸気抜き孔として作用せしめるようなしたことを特徴とするキャスタブル耐火物の蒸気抜き構造。
【0011】
(2)前記(1)に記載の蒸気抜き丸棒の設置するピッチをキャスタブルの施工厚の1/2〜1/3とすることを特徴とするキャスタブル耐火物の蒸気抜き構造。
(3)前記(1)に記載の熱収縮チューブがポリエチレン樹脂、ポリピロピレン樹脂、ポリイソブチレン、ポリ塩化ビニール、およびゴム類であることを特徴とするキャスタブル耐火物の蒸気抜き構造。
(4)前記(1)に記載の蒸気抜き丸棒が鉄、非鉄金属であることを特徴とするキャスタブル耐火物の蒸気抜き構造にある。
【発明の効果】
【0012】
以上述べたように、本発明により缶体側に特に蒸気抜きノズルの設置を必要とせず、しかも設置が容易で、確実に蒸気抜き孔を形成できる。また、特にキャスタブル施工厚が厚い場合や炭化珪素質のように乾燥時に水蒸気による圧力破壊し易い材料の乾燥に効果があり、乾燥時間を大幅に短縮できる極めて優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について図面に従って詳細に説明する。
図1は、本発明に係る蒸気抜き方法による蒸気抜き丸棒の設置状態を示す図である。図1(a)は円形の炉壁に適用した例を示す断面図であり、図1(b)は垂直の炉壁に適用した例を示す縦断面図である。この図に示すように、缶体2に内張キャスタブル1が施され、施工段階で蒸気抜き丸棒6が設置されている。このキャスタブル硬化後引き抜かれる蒸気抜き丸棒6の設置するピッチは、主にキャスタブルの施工厚によって決定され、施工厚の1/2〜1/3のピッチで施工することが望ましい。なお、符号8は熱収縮チューブを示す。
【0014】
図2は、本発明に係る型枠を使用して流し込み施工した場合の施工状態および蒸気抜き丸棒の断面を示す図である。この図に示すように、施工状態では蒸気抜き丸棒6の外側に熱収縮チューブ8が差し込まれている。蒸気抜き丸棒6は型枠5に固定されている。この蒸気抜き丸棒6は、キャスタブル硬化後型枠5を外すタイミングで引抜かれるが、引き抜き抵抗を小さくし、引き抜きを容易にするため、鉄製、非鉄金属、特にSUS丸鋼が望ましい。
【0015】
また、蒸気抜き丸棒6を挿入する孔形状は、一般的には丸棒の方が挿入、引き抜きが容易な関係から丸がよいが、特に限定するものではない。また、丸棒状体は中実体および中空体でもよく、これも特に限定するものでない。径は蒸気がキャスタブル内から円滑に放散される程度の太さを持つものであれば良く、一般的には5〜20mmが望ましい。さらに、内径は棒状体と熱収縮チューブが一体に挿入可能なために、0.5〜1.0mm程度大きくして、スムーズに挿入し、最終的に蒸気抜き丸棒6のみを引き抜くことが容易とすればよい。
【0016】
また、熱収縮チューブは、例えばポリエチレン樹脂、ポリピロピレン樹脂、ポリイソブチレン、ポリ塩化ビニール、およびゴム類を素材とし、かつ100℃以下で収縮する材料とする。上記素材を100℃以下で熱収縮する材料としたのは、キャスタブルを乾燥させるに当たり、入熱として100℃以下の加熱蒸気にて処理する関係上、その条件で熱収縮する材料を選定した。また、キャスタブル吹付施工の場合は、吹付直後の硬化前に蒸気抜き丸棒6を貫入し、硬化後に引き抜くものである。
【0017】
図3は、熱収縮チューブが収縮した状態での蒸気抜き孔を示す図である。この図に示すように、図3(a)は昇温開始前の丸棒を引き抜いた状態でキャスタブルの穴の内面に熱収縮チューブ8が残っている。図3(b)は、100℃に昇温した状態を示し、熱収縮チューブ8が収縮して、キャスタブルの穴から熱収縮チューブ8が離れ、蒸気抜き孔9が形成されている。この蒸気抜き孔9からキャスタブル1の表面側に蒸気が放出され、キャスタブル内の蒸気を外に向かって拡散することで乾燥作業が円滑に行われ、乾燥が進行する。一方、熱収縮チューブは収縮した状態で残り、最終的には炭化して消失し、キャスタブルと一体となり、キャスタブルに何らの悪影響を及ぼすことはない。
【0018】
以上にように、缶体側に特に蒸気抜きノズルの設置を必要とせず、しかも設置が容易で、確実に蒸気抜き孔を形成できる。また、特にキャスタブル施工厚が厚い場合や炭化珪素質のように乾燥時に水蒸気による圧力破壊し易い材料の乾燥に効果があり、乾燥時間を大幅に短縮できることは勿論のこと、完全に乾燥することができるので、爆発防止をも図ることができる極めて優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る蒸気抜き方法による蒸気抜き棒の設置状態を示す図である。
【図2】本発明に係る型枠を使用して流し込み施工した場合の施工状態および蒸気抜き丸棒の断面を示す図である。
【図3】熱収縮チューブが収縮した状態での蒸気抜き孔を示す図である。
【図4】従来のキャスタブルの施工例を示す図である。
【図5】従来の蒸気抜き孔の形成方法を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
1 キャスタブル
2 缶体
3 蒸気抜き孔
4 キャスタブル表面側
5 型枠
6 蒸気抜き用丸棒
7 プラスチック樹脂チューブ
8 熱収縮チューブ
9 蒸気抜き孔


特許出願人 新日鉄エンジニアリング株式会社 他1名
代理人 弁理士 椎 名 彊 他1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャスタブル耐火物の蒸気抜き孔において、キャスタブルの施工中或いは施工直後に、100℃以下の収縮温度で収縮する熱収縮チューブを蒸気抜き丸棒に通した状態で、キャスタブルの厚み方向に貫入させ、キャスタブルの固化完了後に蒸気抜き丸棒のみを引抜き、該キャスタブルの熱乾燥時に蒸気抜き孔として作用せしめるようなしたことを特徴とするキャスタブル耐火物の蒸気抜き構造。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸気抜き丸棒の設置するピッチをキャスタブルの施工厚の1/2〜1/3とすることを特徴とするキャスタブル耐火物の蒸気抜き構造。
【請求項3】
請求項1に記載の熱収縮チューブがポリエチレン樹脂、ポリピロピレン樹脂、ポリイソブチレン、ポリ塩化ビニール、およびゴム類であることを特徴とするキャスタブル耐火物の蒸気抜き構造。
【請求項4】
請求項1に記載の蒸気抜き丸棒が鉄、非鉄金属であることを特徴とするキャスタブル耐火物の蒸気抜き構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−17451(P2011−17451A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160367(P2009−160367)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(390022873)日鐵プラント設計株式会社 (275)
【Fターム(参考)】