説明

キャパシタ用セパレータおよびキャパシタ

【課題】 耐熱性に優れ、正負電極から剥がれた電極物質などの遮蔽性能に優れ、空隙率が大きくて電解液の通過性に優れ、力学的特性、耐久性、取扱性に優れるキャパシタ用セパレータの提供。
【解決手段】 (i)ナノファイバー層を内側に有し、両方の表面に保護層を有する積層体からなるキャパシタ用セパレータあって、(ii)ナノファイバー層がジカルボン酸単位の60モル%以上がテレフタル酸単位でジアミン単位の60モル%以上が1,9−ノナンジアミン単位及び/又は2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位であるポリアミド(a)からなる平均繊維径10〜600nmのポリアミドフィラメントから形成され、(iii)保護層がジカルボン酸単位の60モル%以上がテレフタル酸単位でジアミン単位の60モル%以上が1,9−ノナンジアミン単位及び/又は2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位であるポリアミド(a)繊維を含む繊維から形成されているキャパシタ用セパレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はキャパシタ用セパレータおよび当該セパレータを使用したキャパシタ、並びに当該セパレータ用の積層体に関する。より詳細には、本発明は、有機系電解液を使用する電気二重層キャパシタで用いるのに好適なキャパシタ用セパレータおよび当該セパレータを備えるキャパシタ並びに当該セパレータ用の積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタは、ニッカド電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池にせまる大容量を有することから、従来のキャパシタ(別名:コンデンサ)の主な用途であった電源平滑化、ノイズ吸収用などの用途以外に、パーソナルコンピュータのメモリーバックアップ電源、二次電池の補助や代替などに用いられるようになってきた。
従来の二次電池は高容量を有するものの、比較的寿命が短く、しかも急速な充放電が困難であった。それに対して、電気二重層キャパシタは比較的大きな容量を持ちながら、キャパシタ本来の長所である長寿命、急速充放電が可能という好特性を併せ持つ。
電気二重層キャパシタは、一般に正負電極、電解液、セパレータ、集電板などから構成されており、セパレータの使用目的は、正負両極の接触を防ぎながら電解液を流通させることである。セパレータは、厚みが大きくなるほど電極間の通路が長くなって、内部抵抗が増すため、セパレータを構成する繊維を極細化して厚みを薄くすることが望まれている。
【0003】
電解液としては、水系電解液(硫酸水溶液など)または有機系電解液(例えばテトラエチルアンモニウム・テトラフルオロボレートをプロピレンカーボネートに溶解したものなど)が用いられてきているが、有機系電解液は、その分解電圧が水の電気分解電圧よりも高くてエネルギー密度を高くできるために近年注目を集めている。有機系電解液では、水は不純物となりキャパシタ性能を低下させるため、水分を極力除去する必要がある。そのため、有機系電解液を使用するキャパシタに用いるセパレータでは、セパレータの乾燥処理を真空下に高温で行って水を十分に除去する処理が一般に行われることから、高温での乾燥に十分に耐えることのできる高い耐熱性が求められている。
【0004】
電気二重層キャパシタ用のセパレータとしては、セルロース系繊維よりなるセパレータ(特許文献1〜3を参照)、スルホン化処理して親水化したポリオレフィン系繊維を主体とする不織布又は織布よりなる水系電解液を用いる電気二重層キャパシタ用のセパレータ(特許文献4を参照)が知られている。
しかしながら、セルロース系繊維よりなるセパレータは、150℃以上に加熱すると茶色に変色して物性低下を生じ易く、耐熱性に劣っている。
また、スルホン化処理したポリオレフィン系繊維よりなるセパレータも、耐熱性に劣っているため、一般に高温で乾燥処理して水分を完全に除去する必要のある、有機系電解液を用いる電気二重層キャパシタ用のセパレータとしては適していない。
【0005】
さらに、耐熱性のフィブリル繊維および/または耐熱性の短繊維を含む抄紙用原料を湿式抄造して得られる湿式不織布からなる電気二重層キャパシタ用のセパレータが知られている(特許文献5〜9を参照)。
これらのセパレータは、耐熱性のフィブリル繊維および/または短繊維から形成されているため耐熱性は向上している。しかし、これらの従来技術のうち、微細なフィブリル繊維や細繊度の短繊維を用いて湿式抄造して得られたセパレータでは、湿式抄造を行っていることによって空隙率が小さくなり過ぎて、電解液が良好に通過せず、キャパシタに用いたときに内部抵抗が高くなり、滑らかで安定した充放電ができにくい。一方、汎用のμmオーダーまたはそれに近い平均繊維径の短繊維を用いて湿式抄造した得られたセパレータは、孔が大きすぎて、キャパシタに使用したときに正負電極から剥がれた電極物質などがセパレータを通過してしまうため、リーク電流が大きくなったり、短絡を起こし易い。
また、キャパシタ用セパレータでは、セパレータやキャパシタの生産工程において、損傷が生じず、取り扱い性、耐久性に優れるものが求められているが、耐熱性、正負電極から剥がれた電極物質などの遮蔽性および電解液の通過性に優れると共に耐摩耗性や強度などにも優れるキャパシタ用セパレータは得られていないのが現状であった。
【0006】
【特許文献1】特開平9−129509号公報
【特許文献2】特開平11−168033号公報
【特許文献3】特開2000−40641号公報
【特許文献4】特開2001−68380号公報
【特許文献5】特開2001−185455号公報
【特許文献6】特開2002−151358号公報
【特許文献7】特開2005−159283号公報
【特許文献8】特開2006−135243号公報
【特許文献9】特開2007−150122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐熱性に優れていて、乾燥時や加工時の加熱によって物性や性能の低下がなく、しかも正負電極から剥がれた電極物質などの遮蔽性に優れ、その一方で電解液の通過性に優れる、キャパシタ用セパレータを提供することである。
さらに、本発明の目的は、前記した優れた特性に加えて、強度や耐摩耗性などの力学的特性に優れていて、セパレータやキャパシタの生産工程において損傷が生じず、取り扱い性および耐久性に優れるキャパシタ用セパレータを提供することである。
そして、本発明の目的は、前記した優れた特性を有するセパレータを備える、リーク電流や短絡の発生がなく、その一方で電解液の通過性に優れていて内部抵抗が小さくて滑らかで安定した充放電が可能なキャパシタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく検討を重ねてきた。その結果、フィブリル繊維や短繊維を湿式抄造して得られる抄造シート(湿式抄造紙)をキャパシタ用セパレータとしてそのまま用いる上記した従来技術に代えて、内側に特定のポリアミドからなる所定のナノサイズのポリアミドフィラメント層(ナノファイバー層)を有し、両方の表面に特定のポリアミド繊維からなる保護層を有する積層体からキャパシタ用セパレータを形成すると、耐熱性に優れていて、乾燥時や加工時の加熱によって物性や性能の低下がないこと、微細な孔がナノファイバー層全体に均一に分布していて正負電極から剥がれた電極物質などの遮蔽性能に優れること、その一方で空隙率が大きくて電解液の通過性に優れることを見出した。
【0009】
また、本発明者らは、前記した積層体からなるキャパシタ用セパレータは、ナノファイバー層と保護層の接着強度が高くて層間剥離などが生じず、しかも超微小なサイズを有する極細のナノフィラメント層(ナノファイバー層)の両面が保護層によって保護されていてナノファイバー層が表面に露出していないために、ナノフィラメントの損傷が生じず、耐摩耗性、強度などの力学的特性、耐久性に優れていること、そのため当該積層を用いてキャパシタ用のセパレータおよびキャパシタを生産すると、生産時に不良品が発生せず、性能に優れるキャパシタ用セパレータおよびセパレータを高い歩留りで円滑に製造できることを見出した。
【0010】
そして、本発明者らは、前記したセパレータを用いてキャパシタを作製すると、正負電極から剥がれた電極物質などの遮蔽性能に優れていてリーク電流や短絡の発生がなく、その一方で空隙率が高くて電解液の通過性に優れていて内部抵抗が小さくて滑らかで安定した充放電が可能なキャパシタが得られることを見出し、それらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)(i) 内部にナノファイバー層を有し、両方の表面に保護層を有する積層体からなるキャパシタ用セパレータであって;
(ii) キャパシタ用セパレータをなす積層体におけるナノファイバー層が、ジカルボン酸単位とジアミン単位よりなるポリアミドであって、ジカルボン酸単位の60モル%以上がテレフタル酸単位であり、ジアミン単位の60モル%以上が1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位であるポリアミド(a)からなる平均繊維径10〜600nmのポリアミドフィラメントから形成され;且つ、
(iii) キャパシタ用セパレータをなす積層体における保護層が、ジカルボン酸単位とジアミン単位よりなるポリアミドであって、ジカルボン酸単位の60モル%以上がテレフタル酸単位であり、ジアミン単位の60モル%以上が1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位であるポリアミド(a)からなるポリアミド繊維を少なくとも含む繊維から形成されている;
ことを特徴とするキャパシタ用セパレータである。
【0012】
さらに、本発明は、
(2) キャパシタ用セパレータをなす積層体における保護層が、ポリアミド(a)からなるポリアミド繊維と共に、ジカルボン酸単位とジアミン単位よりなるポリアミドであってジカルボン酸単位の60モル%以上がテレフタル酸単位および/またはイソフタル酸単位であり、ジアミン単位の60モル%以上が2,2,4−トリメチルヘキサンジアミン単位、2,4,4−トリメチルヘキサンジアミン単位および1,6−ヘキサンジアミン単位から選ばれる1つ以上のジアミン単位であるポリアミド(b)と、ジカルボン酸単位とジアミン単位よりなるポリアミドであってジカルボン酸単位の60モル%以上がテレフタル酸単位であり、ジアミン単位の60モル%以上が1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位であるポリアミド(a)を混合した混合ポリアミドからなるポリアミド繊維を含む繊維混合物を用いて形成されている前記(1)のキャパシタ用セパレータ;
(3) キャパシタ用セパレータをなす積層体におけるナノファイバー層の空隙率が65〜95%である前記(1)または(2)のキャパシタ用セパレータ;
(4) キャパシタ用セパレータをなす積層体における保護層を構成する繊維の単繊維繊度が0.01〜5.0dtexである前記(1)〜(3)のいずれかのキャパシタ用セパレータ;
(5) キャパシタ用セパレータをなす積層体におけるナノファイバー層と保護層との剥離強力が5〜100gである前記(1)〜(4)のいずれかのキャパシタ用セパレータ;(6) ポリアミド(a)の有機溶媒溶液または溶融液を用いて静電紡糸を行って、ポリアミド(a)からなる平均繊維径10〜600nmのポリアミドフィラメントよりなるナノファイバー層を、第1の保護層上に積層した後、ナノファイバー層上に更に第2の保護層を積層して形成したものである前記(1)〜(5)のいずれかのキャパシタ用セパレータ;
である。
【0013】
そして、本発明は、
(7) 前記(1)〜(6)のいずれかのキャパシタ用セパレータを使用したキャパシタである。
さらに、本発明は、
(8)(i) 内側にナノファイバー層を有し、両方の表面に保護層を有する積層体からなるキャパシタ用セパレータ用の積層体であって;
(ii) ナノファイバー層が、ジカルボン酸単位とジアミン単位よりなるポリアミドであって、ジカルボン酸単位の60モル%以上がテレフタル酸単位であり、ジアミン単位の60モル%以上が1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位であるポリアミド(a)からなる平均繊維径10〜600nmのポリアミドフィラメントから形成され;且つ、
(iii) 保護層が、ジカルボン酸単位とジアミン単位よりなるポリアミドであって、ジカルボン酸単位の60モル%以上がテレフタル酸単位であり、ジアミン単位の60モル%以上が1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位であるポリアミド(a)からなるポリアミド繊維を少なくとも含む繊維から形成されている;
ことを特徴とするキャパシタ用セパレータ用の積層体である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のキャパシタ用セパレータ用の積層体および当該積層体よりなるキャパシタ用セパレータは、耐熱性に優れていて、乾燥時や加工時の加熱によって物性や性能の低下がなく、しかもナノファイバー層と保護層の接着強度が高くて層間剥離などが生じず、力学的特性、耐久性および取り扱い性に優れている。
本発明のキャパシタ用セパレータ用の積層体および当該積層体よりなるキャパシタ用セパレータは、超極細のフィラメントからなるナノファイバー層が積層体の内側に存在し積層体の両方の表面が保護層で覆われているために、キャパシタ用セパレータやキャパシタの生産時などにナノファイバー層を構成するナノフィラメントの切断や損傷などのトラブルが発生せず、性能に優れるキャパシタ用セパレータおよびキャパシタを高い歩留まりで生産性良く製造することができる。
本発明のキャパシタ用セパレータは、微細な孔がナノファイバー層全体に均一に分布していて正負電極から剥がれた電極物質などの遮蔽性能に優れており、その一方で空隙率が大きくて電解液の通過性に優れている。
そして、本発明のキャパシタ用セパレータを用いて作製したキャパシタは、正負電極から剥がれた電極物質などの遮蔽性能に優れるため、リーク電流や短絡の発生がなく、その一方で空隙率が高くて電解液の通過性に優れるため、内部抵抗が小さくて滑らかで安定した充放電が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明のキャパシタ用セパレータ(以下単に「セパレータ」ということがある)は、内側にナノファイバー層を有して、両方の表面に保護層を有する(両方の表面が保護層で覆われている)積層体からなっている。
【0016】
本発明のセパレータをなす積層体におけるナノファイバー層は、ジカルボン酸単位とジアミン単位よりなるポリアミドであって、ジカルボン酸単位の60モル%以上がテレフタル酸単位であり、ジアミン単位の60モル%以上が1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位であるポリアミド(a)(1,9−ノナンジアミン単位と2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位の両方を有する場合は両単位の合計が60モル%以上であるポリアミド)からなる平均繊維径10〜600nmのポリアミドフィラメントから形成されている。
ナノファイバー層を形成する、ポリアミド(a)からなるポリアミドフィラメントの平均繊維径が600nmよりも大きいと、ナノファイバー層における孔のサイズ(ポアサイズ)が大きくなり、セパレータとしての電極物質などの遮蔽性能が低下し、キャパシタに使用した際に漏れ電流が大きくなり、キャパシタの性能の低下を招く。一方、ポリアミド(a)からなるポリアミドフィラメントの平均繊維径が10nm未満であると、セパレータ用の積層体を製造する際の加工性が低下して安定な生産が困難になる場合がある。
[以下、ポリアミド(a)よりなるナノサイズの平均繊維径を有するポリアミドフィラメントを、「ポリアミド(a)ナノフィラメント」ということがある。]
セパレータとしての遮蔽性能およびセパレータ用の積層体を製造する際の生産性の両方を考慮すると、ポリアミド(a)ナノフィラメントの平均繊維径は、40〜500nmであることが好ましく、100〜400nmであることがより好ましい。
ここで、本明細書における「平均繊維径」は、以下の実施例に記載した方法で求められる平均繊維径をいう。
【0017】
本発明のセパレータをなす積層体では、ナノファイバー層が、ジカルボン酸単位とジアミン単位よりなるポリアミドであって、ジカルボン酸単位の60モル%以上がテレフタル酸単位であり、ジアミン単位の60モル%以上が1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位であるポリアミド(a)よりなるポリアミド(a)ナノフィラメントから形成されていることにより、セパレータの耐熱性が良好になり、電解液に侵されにくくなり耐電解液性が良好になる。
【0018】
ポリアミド(a)におけるテレフタル酸単位の割合が全ジカルボン酸単位に対して60モル%未満であると、セパレータの耐熱性、耐電解液性などが低下する。
ポリアミド(a)では、耐熱性、耐電解液性などの点から、ポリアミド(a)を構成する全ジカルボン酸単位に対して、70モル%以上がテレフタル酸単位であることが好ましく、80モル%以上がテレフタル酸単位であることがより好ましく、90〜100モル%がテレフタル酸単位であることが更に好ましい。
【0019】
ポリアミド(a)が、テレフタル酸単位と共に他のジカルボン酸単位を有する場合は、他のジカルボン酸単位として、例えば、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、ジ安息香酸、4,4'−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4'−ジカルボン酸、4,4'−ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、3,3−ジエチルコハク酸、グルタル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸などの脂肪族ジカルボン酸;1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸の1種または2種以上に由来するジカルボン酸単位を有することができる。
【0020】
また、ポリアミド(a)は、必要に応じて、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸に由来する構造単位を、上記したポリアミド(a)ナノフィラメントの形成が可能な範囲で有していてもよい。
そのうちでも、ポリアミド(a)では、ポリアミド(a)を構成する全ジカルボン酸単位に対して、芳香族ジカルボン酸単位の割合が、75モル%以上、特に100モル%であることが、セパレータの耐熱性、耐電解液性などの点から好ましい。
【0021】
全ジアミン単位に対する1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位の割合(1,9−ノナンジアミン単位と2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位の両方を有する場合は両単位の合計割合)が60モル%未満であるポリアミドは、一般に耐熱性、耐電解液性などに劣る。
かかる点から、ポリアミド(a)の耐熱性および耐電解液性を良好なものとするために、ポリアミド(a)を構成する全ジアミン単位に対して、1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位の割合が70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90〜100モル%であることが更に好ましい。ポリアミド(a)における全ジアミン単位が1,9−ノナンジアミン単位からなっていても、または全ジアミン単位が2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位からなっていてもよいが、ポリアミド(a)は1,9−ノナンジアミン単位と2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位の両方を有していることが好ましく、特に1,9−ノナンジアミン単位:2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位の含有比率が、モル比(質量)で30:70〜99:1、特に40:60〜95:5であることが耐熱性の点からより好ましい。
【0022】
ポリアミド(a)が、1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位と共に他のジアミン単位を有する場合は、他のジアミン単位として、1,9−ノナンジアミンおよび2−メチル−1,8−オクタンジアミン以外の炭素数が6〜12のアルキレンジアミン、具体例としては、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミン;前記した炭素数6〜12のアルキレンジアミン以外のジアミン、具体例としては、エチレンジアミン、1,4−ブタンジアミンなどの脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジメチルジアミン、トリシクロデカンジメチルジアミンなどの脂環式ジアミン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、キシレンジアミン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、4,4'−ジアミノジフェニルエーテルなどの芳香族ジアミンの1種または2種以上に由来するジアミン単位を有していることができる。
【0023】
ポリアミド(a)では、ポリアミド(a)を構成する全ジアミン単位に対して、炭素数6〜12のアルキレンジアミン単位の割合が、1,9−ノナンジアミン単位および2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位をも含めて、75モル%以上、特に90モル%以上であることが、耐熱性の点から好ましい。
【0024】
また、ポリアミド(a)では、当該ポリアミド分子鎖におけるアミド結合(−CONH−)とメチレン基(−CH2−)のモル比[(−CONH−)/(−CH2−)]が、1/2〜1/8、特に1/3〜1/5であることが好ましい。ポリアミド(a)におけるアミド結合とエチレン基のモル比が前記範囲内であると、セパレータの耐電解液性および耐熱性が優れたものになる。
【0025】
ポリアミド(a)は、その極限粘度(濃硫酸30℃で測定した値)が0.6〜2.0dl/gであることが好ましく、0.6〜1.8dl/gであることがより好ましく、0.7〜1.6dl/gであることが更に好ましい。ポリアミド(a)の極限粘度が前記範囲内であると、繊維化時の溶融粘度特性が良好になり、しかもセパレータの強度、耐電解液性、耐熱性が優れたものになる。
なお、本明細書におけるポリアミドの極限粘度は、以下の実施例に記載した方法で求めた極限粘度である。
【0026】
また、ポリアミド(a)は、その分子鎖の末端基の10%以上、更には40%以上、特に70%以上が末端封止剤により封止されていることが好ましい。ポリアミド(a)の分子鎖の末端が前記割合で封止されていると、セパレータの強度、耐電解液性、耐熱性等が優れたものとなる。
末端封止剤としては、ポリアミド末端のアミノ基またはカルボキシル基と反応性を有する単官能性の化合物であればとくに制限はないが、反応性および封止末端の安定性などの点からモノカルボン酸、モノアミンが好ましい。取り扱いの容易さ、反応性、封止末端の安定性、価格の点でモノカルボン酸が好ましい。モノカルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸などを挙げることができる。なお、末端の封止率は1H−NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値より求めることができる。
【0027】
キャパシタに用いた際に内部抵抗を低くして電解液の通過が良好に行われるセパレータを得るために、ポリアミド(a)ナノフィラメントよりなるナノファイバー層の空隙率は、65〜95%であることが好ましく、70〜90%であることがより好ましい。ナノファイバー層の空隙率が65%未満であると、キャパシタのセパレータとして使用したときに、内部抵抗が高くなって、電解液の通過が円滑に行われなくなり、キャパシタの性能が劣ったものになり易い。一方、ナノファイバー層の空隙率が95%よりも大きいと、空隙が広くなりすぎて、電極物質などの遮蔽性が低下して漏れ電流が大きくなり、キャパシタの性能が劣ったものになり易い。
微細なフィブリル繊維や細繊度の短繊維を含む抄造原料を湿式抄造して製造した従来のセパレータでは、空隙率を高くする(65%以上にする)ことが困難で、内部抵抗が高いため、キャパシタに用いたときに電解液が良好に通過せず、滑らかで安定した充放電ができにくいが、本発明のセパレータでは、電極物質などの遮蔽層として機能するナノファイバー層が、短繊維やフィブリル繊維を用いる湿式抄造ではなくて、平均繊維径10〜600nmのポリアミド(a)ナノフィラメントが堆積(集積)した層(不織布層)であるため、ナノファイバー層の空隙率を上記した65〜95%という高い値にすることができる。
ここで、本明細書における「空隙率」は、以下の実施例に記載する方法で求められる空隙率をいう。
【0028】
また、本発明のセパレータをなす積層体では、電極物質などの遮蔽性能を良好なものとし且つ内部抵抗を低くするために、セパレータ全体での平均ポアサイズ(平均孔径)は、0.1〜10μmであることが好ましい。本発明のセパレータでは、ナノファイバー層を、平均繊維径10〜600nmのポリアミド(a)ナノフィラメントから形成しているので、ナノファイバー層の平均ポアサイズを前記した好ましい範囲に容易に調整することができる。
【0029】
本発明のセパレータをなす積層体では、セパレータを薄葉化してキャパシタにおける電極物質の充填容積を増大させ、それによってキャパシタにおける電極物質の充填量を増加させてキャパシタの性能を向上させるために、ポリアミド(a)ナノフィラメントよりなるナノファイバー層の厚さは、3〜30μmであることが好ましく、5〜27μmであることがより好ましく、7〜25μmであることが更に好ましい。
また、本発明のセパレータをなす積層体では、内部抵抗の低減、電極物質の遮蔽性能などの点から、ナノファイバー層の目付は、0.1〜10g/m2であることが好ましく、0.2〜5g/m2であることがより好ましい。
そして、本発明のセパレータをなす積層体では、内部抵抗の低減、電極物質の遮蔽性能などの点から、ナノファイバー層の密度(嵩密度)は、0.08〜0.50g/cm3であることが好ましく、0.10〜0.45g/cm3であることがより好ましく、0.14〜0.40g/cm3であることが更に好ましい。
【0030】
平均繊維径が10〜600nmのポリアミド(a)ナノフィラメントから構成される前記した物性を有するナノファイバー層は、以下で説明するように、ポリアミド(a)の有機溶媒溶液または溶融液を用いて静電紡糸を行って、ポリアミド(a)ナノフィラメントの層を、保護層上に不織布状に積層(堆積)することによって円滑に形成することができる。
【0031】
本発明のセパレータをなす積層体における保護層は、ジカルボン酸単位とジアミン単位よりなるポリアミドであって、ジカルボン酸単位の60モル%以上がテレフタル酸単位であり、ジアミン単位の60モル%以上が1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位であるポリアミド(a)からなる繊維を少なくとも含む繊維から形成されている。
保護層を構成している「ポリアミド(a)からなるポリアミド繊維」[以下「ポリアミド(a)繊維」ということがある]を形成しているポリアミド(a)は、ナノファイバー層を構成するポリアミド(a)ナノフィラメントを形成しているポリアミド(a)と同じ範疇に属するポリアミドである。保護層を構成するポリアミド(a)繊維は、ポリアミド(a)ナノフィラメントを形成しているポリアミド(a)と全く同じポリアミドから形成されていてもよいし、またはポリアミド(a)の範疇に属するがポリアミド(a)ナノフィラメントを形成しているのとは異なるポリアミドから形成されていてもよい。
【0032】
本発明のセパレータでは、セパレータをなす積層体におけるナノファイバー層がポリアミド(a)ナノフィラメントから形成され、保護層がポリアミド(a)繊維を少なくとも含む繊維から形成されていて、ナノファイバー層と保護層とが同じ又は同種のポリアミドから形成されているので、ナノファイバー層と保護層とが強固に接着してナノファイバー層と保護層との間のズレがなく、機械的特性、耐久性、取り扱い性に優れ、しかもキャパシタに使用した際にナノファイバー層と保護層のズレによる漏れ電流の発生などが生じない。
ポリアミド(a)ナノフィラメントから構成されるナノファイバー層と、ポリアミド(a)繊維を含む繊維から構成される保護層とが積層した積層体からなる本発明のセパレータは通常5g/30mm以上の高い剥離強力を有している。本発明のセパレータにおけるナノファイバー層と保護層との剥離強力は5〜100g/30mmであることが好ましく、10〜50g/30mmであることがより好ましい。
保護層を、ポリアミド(a)繊維と共に接着成分をなすポリアミドバインダー繊維を含む繊維混合物を用いて形成することによって、ナノファイバー層と保護層の剥離強力をより高くすることができる。但し、剥離強力が100g/30mmを超えるセパレータは、多量の接着成分を含むことになり、セパレータの空隙が接着成分で塞がれて抵抗の高いセパレータとなってしまうので、セパレータの剥離強力の上限は100g/30mmが好ましい。
なお、本願明細書における剥離強力は以下の実施例に記載する方法で測定した剥離強力をいう。
【0033】
保護層は、ポリアミド(a)繊維単独から形成されていてもよいが、ナノファイバー層と保護層の接着を強固にし、且つ保護層を形成する繊維間の結合を強くして、機械的特性、耐久性、取り扱い性により優れ、漏れ電流の発生の原因となる層間のズレのないセパレータを得るためには、保護層を、ポリアミド(a)繊維と、バインダー成分をなすポリアミドバインダー繊維との繊維混合物から形成することが好ましい。
その際の、バインダー成分をなすポリアミドバインダー繊維としては、ジカルボン酸単位とジアミン単位よりなるポリアミドであってジカルボン酸単位の60モル%以上がテレフタル酸単位および/またはイソフタル酸単位であり、ジアミン単位の60モル%以上が2,2,4−トリメチルヘキサンジアミン単位、2,4,4−トリメチルヘキサンジアミン単位および1,6−ヘキサンジアミン単位から選ばれる1つ以上のジアミン単位であるポリアミド(b)と、前記したポリアミド(a)(すなわちジカルボン酸単位とジアミン単位よりなるポリアミドであってジカルボン酸単位の60モル%以上がテレフタル酸単位であり、ジアミン単位の60モル%以上が1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位であるポリアミド)を混合した混合ポリアミド(ポリアミド組成物)[以下「混合ポリアミド(ab)」ということがある]から形成した繊維[以下「混合ポリアミド(ab)繊維」ということがある]が好ましく用いられる。
保護層を、ポリアミド(a)繊維と混合ポリアミド(ab)繊維を混合した繊維混合物から形成することによって、上記した5〜100g/30mmという高い接着強力を有するセパレータを円滑に得ることができる。
【0034】
混合ポリアミド(ab)繊維の製造に用いるポリアミド(b)では、ポリアミドを構成する全ジカルボン酸単位の60モル%以上がテレフタル酸単位および/またはイソフタル酸単位からなる。ポリアミド(b)におけるテレフタル酸単位および/またはイソフタル酸単位の含有割合が60モル%未満であると、混合ポリアミド(ab)繊維の接着性、セパレータの耐電解液性などが低下する。
混合ポリアミド(ab)繊維の接着性、セパレータの耐電解液性などの点から、ポリアミド(b)では、全ジカルボン酸単位に対して、70モル%以上がテレフタル酸単位および/またはイソフタル酸単位であることが好ましく、80モル%以上がテレフタル酸単位および/またはイソフタル酸単位であることがより好ましく、90〜100モル%がテレフタル酸単位および/またはイソフタル酸単位であることが更に好ましい。
【0035】
ポリアミド(b)が、テレフタル酸単位および/またはイソフタル酸単位と共に他のジカルボン酸単位を有する場合は、他のジカルボン酸単位として、例えば、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、ジ安息香酸、4,4’−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、3,3−ジエチルコハク酸、グルタル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸などの脂肪族ジカルボン酸;1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸の1種または2種以上に由来するジカルボン酸単位を有することができる。
なかでもセパレータの強度、耐電解液性、耐酸化性、耐熱性などの点から、ポリアミド(b)では、ジカルボン酸単位の100%がテレフタル酸および/またはイソフタル酸であることが好ましい。また、ポリアミド(b)におけるテレフタル酸単位:イソフタル酸単位の比率(モル比)は、100:0〜0:100とすることができ、特に70:30〜50:50であることが好ましい。
【0036】
ポリアミド(b)では、全ジアミン単位に対して、2,2,4−トリメチルヘキサンジアミン単位、2,4,4−トリメチルヘキサンジアミン単位および1,6−ヘキサンジアミン単位から選ばれる1つ以上のジアミン単位を、60モル%以上の割合で有しており、70モル%以上の割合で有することが好ましく、80モル%以上の割合で有することがより好ましく、100モル%の割合で有することが更に好ましい。
ポリアミド(b)において、2,2,4−トリメチルヘキサンジアミン単位、2,4,4−トリメチルヘキサンジアミン単位および1,6−ヘキサンジアミン単位から選ばれる1つ以上のジアミン単位の割合が60モル%未満であると、接着性が低下し、セパレータの耐電解液性、強度などが低下する。
【0037】
2,2,4−トリメチルヘキサンジアミン単位、2,4,4−トリメチルヘキサンジアミン単位および1,6−ヘキサンジアミン単位から選ばれる1つ以上のジアミン単位を60モル%以上の割合で有するポリアミド(b)においては、[1,6−ヘキサンジアミン単位]:[1,9−ノナンジアミン単位と2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位の合計]のモル比が100:0〜50:50、特に100:0〜60:40であることが好ましい。また、ポリアミド(b)が1,9−ノナンジアミン単位と2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位を有する場合は、[1,9−ノナンジアミン単位]:[2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位]のモル比が99:1〜40:60、特に90:10〜45:55であることが好ましい。ジアミン単位を前記範囲のモル比にすることにより、バインダー繊維である混合ポリアミド(ab)繊維の接着性能と分散性能のバランスが良好になる。
【0038】
また、ポリアミド(b)では、当該ポリアミド分子鎖におけるアミド結合(−CONH−)とメチレン基(−CH2−)のモル比[(−CONH−)/(−CH2−)]が、1/2〜1/8、特に1/3〜1/5であることが好ましい。ポリアミド(b)におけるアミド結合とエチレン基のモル比が前記範囲内であると、セパレータの耐電解液性および耐熱性が優れたものになる。
【0039】
ポリアミド(b)は、その極限粘度(濃硫酸30℃で測定した値)が0.6〜2.5dl/gであることが好ましく、0.7〜2.0dl/gであることがより好ましく、0.8〜1.7dl/gであることが更に好ましい。ポリアミド(b)の極限粘度が前記範囲内であると、繊維化時の溶融粘度特性が良好になり、しかもセパレータの強度、耐電解液性、耐熱性が優れたものになる。
【0040】
また、ポリアミド(b)は、その分子鎖の末端基の10%以上、更には40%以上、特に70%以上が末端封止剤により封止されていることが好ましい。ポリアミド(b)の分子鎖の末端が前記割合で封止されていると、セパレータの強度、耐電解液性、耐熱性等が優れたものとなる。
末端封止剤としては、ポリアミド末端のアミノ基またはカルボキシル基と反応性を有する単官能性の化合物であればとくに制限はないが、反応性および封止末端の安定性などの点からモノカルボン酸、モノアミンが好ましい。取り扱いの容易さ、反応性、封止末端の安定性、価格の点でモノカルボン酸が好ましい。モノカルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸などを挙げることができる。なお、末端の封止率は1H−NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値より求めることができる。
【0041】
混合ポリアミド(ab)繊維を製造するための混合ポリアミド(ab)におけるポリアミド(a)とポリアミド(b)の混合割合は、質量比で、ポリアミド(a):ポリアミド(b)=10:90〜90:10が好ましく、15:85〜70:30がより好ましく、20:80〜40:60が更に好ましい。ポリアミド(a)とポリアミド(b)の混合比率を前記範囲にすることにより、接着性能および分散性能においてバランスのとれた混合ポリアミド(ab)繊維が得られる。
混合ポリアミド(ab)は、ポリアミド(a)とポリアミド(b)を押出機などを用いて溶融混練することによって得ることができる。
【0042】
保護層を、主体繊維であるポリアミド(a)繊維とバインダー繊維である混合ポリアミド(ab)繊維を混合した繊維混合物から形成する場合は、両者の混合割合は、質量比で、ポリアミド(a)繊維:混合ポリアミド(ab)繊維=90:10〜50:50であることが好ましく、80:20〜55:45であることがより好ましい。バインダー繊維である混合ポリアミド(ab)繊維の割合が多くなり過ぎると、セパレータの力学的強度や剥離強力は増すが、混合ポリアミド(ab)繊維によってセパレータをなす積層体の空隙が埋まってしまって空隙率が低下し、内部抵抗の高いセパレータとなり、キャパシタに使用しても性能に優れるキャパシタが得られなくなる。
保護層は、性能の低下を招かない範囲で、ポリアミド(a)繊維および混合ポリアミド(ab)繊維以外の他の繊維を含んでいてもよい。
【0043】
保護層を形成するポリアミド(a)繊維および混合ポリアミド(ab)繊維の繊維形態としては、短繊維、フィラメント(長繊維)、それらの混合物などのいずれであってもよい。
保護層を構成するポリアミド(a)繊維および混合ポリアミド(ab)繊維の単繊維繊度は、0.01〜5.0dtexであることが好ましく、0.06〜3.0dtexであることがより好ましい。保護層を構成する繊維の単繊維繊度が0.01dtexよりも小さいと、強度に耐える目付とした場合に抵抗値が高くなってしまい、電解液の通過性に劣るようになり、一方単繊維繊度が5.0dtexを超えると保護層を構成する繊維の本数が少なくなり、保護層、ひいてはセパレータの強度が低下し易くなる。
保護層を形成するポリアミド(a)繊維および混合ポリアミド(ab)繊維の製造方法は特に制限されず、例えば溶融紡糸方法などによって製造することができる。
【0044】
保護層の形態としては、不織布、織布、編布などのいずれであってもよく、セパレート性、機械的特性などの点から不織布であることが好ましい。
保護層が不織布からなる場合は、湿式抄造不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、スパンレース不織布、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、エアレイド不織布、ニードルパンチ不織布などのいずれであってもよい。そのうちでも、湿式抄造不織布であることが、薄くて均一な保護層用シート(不織布)が得られる点から好ましい。
【0045】
保護層は、セパレータをなす積層体の製造時にナノファイバー層を支持するための支持体として役割およびナノファイバー層の保護層としての役割を持つことから、セパレータをなす積層体の生産工程に耐えうる強力物性が必要であり、そのため保護層の目付は、5〜50g/m2であることが好ましく、7〜30g/m2であることがより好ましい。保護層の目付が5g/m2未満であると、積層体の生産工程に耐えうる強力を確保できず、一方50g/m2を超えると、保護層の厚くなり過ぎ、それに伴ってセパレータの厚さが大きくなりすぎて、キャパシタに用いたときに電極間距離が遠くなり、キャパシタの抵抗が大きくなり、性能に優れるキャパシタが得られなくなる。
【0046】
保護層の空隙率は50〜85%であることが好ましく、60〜80%であることがより好ましい。保護層の空隙率が低くなりすぎると、キャパシタのセパレータとして使用したときに、内部抵抗が高くなって、電解液の通過が円滑に行われなくなり、キャパシタの性能が劣ったものになり易い。一方、保護層の空隙率が大きすぎると、保護層の強度が低下し、ナノファイバー層の支持層および保護層として機能しにくくなる。
【0047】
本発明のセパレータでは、セパレータを薄葉化してキャパシタにおける電極物質の充填容積を増大させ、それによってキャパシタにおける電極物質の充填量を増加させてキャパシタの性能を向上させるために、1つの保護層の厚さは、7〜60μmであることが好ましく、15〜50μmであることがより好ましく、20〜40μmであることが更に好ましい。
【0048】
ナノファイバー層および保護層を有する積層体よりなる本発明のセパレータでは、ナノファイバー層が、セパレータをなす積層体の内側に存在し、当該積層体の両方の表面に保護層が存在する。積層体の内側に存在するナノファイバーは、電極から脱落した電極物質の通過を阻止する遮蔽層として機能する。
本発明のセパレータをなす積層体の具体例としては、保護層/ナノファイバー層/保護層からなる3層構造積層体、保護層/ナノファイバー層/保護層/ナノファイバー層/保護層からなる5層構造積層体、保護層/ナノファイバー層/保護層/ナノファイバー層/保護層/ナノファイバー層/保護層からなる7層構造積層体などを挙げることができる。
本発明のセパレータをなす積層体では、積層体の両方の表面に存在する2つの保護層は、ポリアミド(a)繊維から形成されているか、またはポリアミド(a)繊維と混合ポリアミド(ab)繊維の混合繊維から形成されている限りは、互いにその内容が全く同じであってもよいし、または異なっていてもよい。
ナノファイバー層が複数ある積層体(例えば全体で5層以上の積層体など)は、電極から脱落した電極物質などの遮蔽性能がより高くなる。但し、全体の層数が多くなると、セパレータの厚さが大きくなり、内部抵抗の増加を招き易くなるので、内部抵抗が高くならないようにすることが必要である。
セパレータ(積層体)が厚くなり過ぎず、遮蔽性能、キャパシタに用いたときに内部抵抗の増加の防止、積層体(セパレータ)の製造工程の簡素化、ナノファイバー層の保護、セパレータの薄葉化によるキャパシタにおける電極物質の充填容積の増大と電極物質の充填量の増加によるキャパシタの高性能化などの点から、セパレータは、保護層/ナノファイバー層/保護層からなる3層構造の積層体、保護層/ナノファイバー層/保護層(基材)/ナノファイバー層/保護層からなる5層構造の積層体からなっていることが好ましい。
本発明のセパレータでは、セパレータ全体の厚さが18〜100μm、特に25〜80μmであることが、強度、取り扱い性、内部抵抗の低減、セパレータの薄葉化によるキャパシタにおける電極物質の充填容積の増大と電極物質の充填量の増加によるキャパシタの高性能化などの点から好ましい。
【0049】
本発明のセパレータをなす積層体では、電極物質などの遮蔽性能を良好なものとし且つ内部抵抗を低くするために、セパレータをなす積層体全体での平均ポアサイズ(平均孔径)が0.1〜10μmであることが好ましく、0.2〜9μmであることがより好ましく、0.3〜8μmであることが更に好ましい。セパレータにおける平均ポアサイズが小さすぎると、電極物質などの遮蔽性能は向上するが内部抵抗が高くなって電解液の通過性が低下し、一方平均ポアサイズが大きすぎると電極物質などの遮蔽性が低下して漏れ電流が大きくなり易い。
ここで、本明細書でいうセパレータの「平均ポアサイズ(平均孔径)」は、以下の実施例に記載する方法で測定した平均ポアサイズ(平均孔径)である。
【0050】
本発明のセパレータをなす積層体の製法は特に制限されないが、本発明のセパレータをなす積層体は、ポリアミド(a)繊維から構成される保護層用の第1の繊維シート、またはポリアミド(a)繊維と混合ポリアミド(ab)繊維の繊維混合物から構成される保護層用の第1の繊維シートに向けて、ポリアミド(a)の有機溶媒溶液または溶融液を用いて静電紡糸して、保護層用の第1の繊維シート上に平均繊維径10〜600nmのポリアミド(a)ナノフィラメントよりなるナノファイバー層を不織布状に堆積(積層)した後、ナノファイバー層の上面(第1の繊維シートと接合してないもう一方の面)に保護層用の第2の繊維シートを製造し、次いで必要に応じて(好ましくは)当該積層体を、混合ポリアミド(ab)繊維は軟化または溶融するが、ポリアミド(a)ナノフィラメントおよびポリアミド(a)繊維は軟化および溶融しない温度で熱プレスすることによって円滑に製造することができる。
【0051】
静電紡糸に当たって、ポリアミド(a)を有機溶媒に溶解して調製した溶液を紡糸原液として用いる場合は、有機溶媒としては、ポリアミド(a)を溶解し得る有機溶媒のいずれもが使用でき、具体例としては、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、フェノール、クレゾール、濃硫酸、蟻酸などのプロトン性極性溶媒、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAc)などの非プロトン性極性溶媒などを挙げることができる。そのうちでも、有機溶媒としては、ヘキサフルオロイソプロパノール、蟻酸が紡糸原液の安定性の点から好ましく用いられる。
ポリアミド(a)の有機溶媒溶液におけるポリアミド(a)の濃度は、2〜20質量%が好ましく、特に3〜15質量%であることが、平均繊維径10〜600nmのポリアミド(a)ナノフィラメントを円滑に製造できる点から好ましい。ポリアミド(a)の有機溶媒溶液におけるポリアミド(a)の濃度が低すぎると、静電紡糸したときにビーズ状の塊になり易く、一方濃度が高すぎると、ポリアミド(a)ナノフィラメントの平均繊維径が前記範囲よりも大きくなり易い。
また、ポリアミド(a)を加熱溶融して調製した溶融液を紡糸原液として用いる場合には、ポリアミド(a)を好ましくは250〜370℃、より好ましくは270〜350℃に加熱溶融して静電紡糸を行うとよい。溶融温度が低すぎると、溶融液の粘度が高くなり過ぎて、得られるポリアミド(a)ナノフィラメントの平均繊維径が大きくなり、平均繊維径10〜600nmのポリアミド(a)ナノフィラメントが得られにくくなる。一方、溶融温度が高すぎると、ポリアミドの熱分解による劣化が生じ易い。
【0052】
静電紡糸方法には特に制限はなく、紡糸原液を供給できる導電性部材に高電圧を印加することで、接地した対極側にナノファイバーを堆積させる方法であればいずれの方法を採用してもよい。その際に対極側に一方の表面での保護層をなす第1の繊維シートを配置しておくことにより、保護層(第1の繊維シート)上にポリアミド(a)ナノフィラメントからなるナノファイバー層が不織布状に堆積・積層した積層体が形成される。
紡糸原液の供給部から吐出された紡糸原液は、高電圧の印加によって帯電分割され、次いで電場により液滴の一点から繊維(ナノフィラメント)が連続的に引き出され、分割された繊維が多数拡散する。有機溶媒溶液を紡糸原液として用いた場合には紡糸原液におけるポリアミド(a)の濃度が10質量%下であっても有機溶媒は繊維形成と細化の段階で容易に蒸発して除かれて、また溶融液を紡糸原液として用いた場合には溶融温度以下に冷却されて、紡糸原液の供給部より数cm〜数十cm離れて設置された捕集ベルトまたは捕集シート上に配置した保護層用の第1の繊維シート上に堆積する。堆積と共に半乾燥状態にあるナノフィラメント同士が微膠着し、ナノフィラメント間の移動が阻止され、新たなナノフィラメントが逐次堆積し、ナノフィラメントよりなるナノファイバー層が形成される。次いで、半乾燥上体にあるナノフィラメントよりなるナノファイバー層上に保護層用の第2の繊維シートを積層することによって、保護層用の第2の繊維シートと、ナノファイバー層を形成しているナノフィラメントとの接着が強固になされて、内側にナノファイバー層が存在し、両方の表面に保護層が存在するセパレータ用の積層体が形成される。
【0053】
何ら限定されるものではないが、本発明のセパレータをなす積層体の製造に好ましく用いられる製造装置の一例として、図1に示す静電紡糸装置を挙げることができる。
図1において、1は紡糸原液を供給するためのポンプ、2は分配整流ブロック、3は口金部、4は突出した口金、5は電気絶縁部、6は直流高電圧発生電源、7は無端コンベアからなる移送装置、8は導電性部材を示す。
図1の装置を使用して、本発明のセパレータをなすナノファイバー層を内側に有し、両方の表面に保護層を有する積層体を製造する方法について説明する。
ポリアミド(a)の有機溶媒溶液または溶融液よりなる紡糸原液は、定量ポンプ1により計量されて、分配整流ブロック2により均一な圧力と液量となるように分配されて口金部3に送られる。口金部3には中空針状の1ホール毎に突出させた口金4が取り付けられ、電気絶縁部5によって電気が口金部3全体に洩れるのを防止している。導電材料で作られた突出した口金4は無端コンベアからなる移送装置7の進行方向に直角方向に多数並列に垂直下向きに取り付けられ、直流高電圧発生電源6の一方の出力端子を該突出した口金4に取り付け、各突出口金4は導線により印加を可能にしている。移送装置7の無端コンベアにはアースをとった導電性部材8が取り付けられ、印加された電位が中和できるようになっている。図1には示してないが、保護層を形成する第1の繊維シートを移送装置7の無端コンベアに取り付けた導電性部材上に無端コンベアを包囲するようにして巻き付けるか、または移送装置7の無端コンベアに取り付けた導電性部材8上に長尺または短尺の保護層用の第1の繊維シートを載置して、繊維シートを無端コンベアによって図1の右側から左側へと移送させる。口金部3より突出口金4に圧送された紡糸原液は帯電分裂され、次いで電場により液滴の1点からファイバーが連続的に引き出され分割された繊維(ナノフィラメント)が多数拡散し、半乾燥の状態で移送装置7に取り付けられた導電性部材8の上に巻き付けられているかまたは導電性部材8上に載置されている保護層用の繊維シート上に堆積し、微膠着が進み、移送装置7により移動され、その移動と共に次の突出口金からのナノフィラメントの堆積を受け、次々と堆積を繰り返しながら均一なシート状のナノファイバー層が第1の繊維シート上に形成される。次いで、ナノファイバー層上に、好ましくはナノファイバー層を構成しているナノフィラメントが未だ半乾燥状態にあるときに、保護層用の第2の繊維シートを積層して、ナノファイバー層を内側に有し、両方の表面に保護層を有するセパレータ用の積層体が形成される。
【0054】
上記により得られるナノファイバー層と保護層よりなるセパレータ用の積層体は、必要に応じて、エンボス処理やカレンダー処理による熱圧融着を行ってナノファイバー層と保護層をより強固に接着させてもよい。
また、上記により得られるセパレータ用の積層体は、必要に応じて熱プレスまたは冷間プレスを行って、目的とする厚さに調整してもよい。
【0055】
そして、本発明のセパレータを正極と負極との間に配置して素子を形成し、当該素子に電解液を含浸させることによって、キャパシタ(電気二重層キャパシタ)を形成することができる。前記キャパシタにおける正極および負極の種類、電解液の種類などは特に限定されず、キャパシタ、特に電気二重層キャパシタにおいて従来から採用されているものを用いることができる。特に、本発明のセパレータは、炭素質の正極および負極を備え、電解液として非水系の有機系電解液[例えば、テトラアルキルアンモニウムカチオンとBF4-,PF6-,SO3CF3-,AsF6-,N(SO2CF32-,ClO4−などのアニオンとの塩をプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、スルホラン、メチルスルホランなどの有機溶媒に溶解した電解液]を用いる電気二重層キャパシタ用のセパレータとして適している。
【実施例】
【0056】
以下に本発明を実施例などにより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下の例において、各物性値は以下のようにして測定した。
【0057】
(1)ポリアミドの極限粘度:
硫酸中、30℃にて、ポリアミドの濃度が0.05g/dl、0.1g/dl、0.2g/dl、0.4g/dlの試料溶液を調製し、それぞれの試料溶液の固有粘度(ηinh)を測定し、これを濃度0g/dlに外挿した値を極限粘度[η]とした。
なお、各試料溶液の固有粘度(ηinh)は、下記の数式(i)から求められる。

固有粘度(ηinh)(dl/g)=[In(t1/t0)]/c (i)

[式中、t1は溶媒(硫酸)の流下時間(秒)、t0は各試料溶液の流下時間(秒)、cは試料溶液中のポリアミドの濃度(g/dl)を示す。]
【0058】
(2)ナノファイバー層、保護層および不織布シートを構成する繊維の平均繊維径:
下記の実施例および比較例で得られたセパレータ(ナノファイバー層と保護層からなる積層体または不織布シート)を、厚さ方向に切断し、その切断断面を日立製作所製の電子顕微鏡により倍率5000倍で写真撮影し、その写真の縦×横=20mm×20mmの正方形の面積部分に含まれる全ての繊維横断面について、繊維径(繊維横断面において最も大きな値となる径を繊維径とする)を測定し、その平均値を採って平均繊維径とした。なお、ナノファイバー層と保護層からなる積層体については、各層ごとに層を構成する繊維の平均繊維径を求めた。
平均繊維径は、ナノファイバー層では約20個の繊維横断面の平均値であり、保護層および不織布シートでは約20個の繊維横断面の平均値である。
【0059】
(3)積層体、ナノファイバー層、保護層および不織布の目付(g/m2):
下記の実施例および比較例で得られたセパレータ(ナノファイバー層と保護層からなる積層体または不織布)について、セパレータ(積層体)全体の目付、積層体におけるナノファイバー層と保護層の目付および不織布シートの目付を、JIS P 8124「紙のメートル目付測定方法」に準じて測定した。
【0060】
(4)積層体、ナノファイバー層、保護層および不織布の厚さ(μm):
下記の実施例および比較例で得られたセパレータ(ナノファイバー層と保護層からなる積層体または不織布)について、積層体全体の厚さ、ナノファイバー層と保護層の厚さおよび不織布の厚さをJIS P 8118「紙及び板紙の厚さと密度の試験方法」に準じて測定した。
【0061】
(5)積層体、ナノファイバー層、保護層および不織布の空隙率:
下記の実施例および比較例で得られたセパレータ(ナノファイバー層と保護層からなる積層体または不織布シート)について、積層体全体、ナノファイバー層、保護層および不織布の空隙率(%)を下記の数式(ii)から求めた。

空隙率(%)={(d1−E)/d1}×100 (ii)

式(ii)中、
1は、ナノファイバー層、保護層または不織布シートを構成する繊維を形成している樹脂(重合体)の比重(g/cm3)(2種類以上の繊維の混合物を用いている場合は、混合割合に応じて比重を算出)であり;
Eは、上記(3)で求めたナノファイバー層、保護層または不織布シートの目付と上記(4)で求めたナノファイバー層、保護層または不織布シートの厚さの積(ナノファイバー層、保護層または不織布シートの嵩密度;単位g/cm3)である。
【0062】
(6)セパレータの平均ポアサイズ(平均孔径):
下記の実施例および比較例で得られたセパレータ(ナノファイバー層と基材層からなる積層体または不織布)について、コールターエレクトロニクス社製の「colter POROMETER II」を用いて、バブルポイント法によりシート(セパレータ)の孔径分布を測定し、その平均値を平均ポアサイズ(μm)とした。
【0063】
(7)セパレータの剥離強力:
下記の実施例および比較例で得られたセパレータ(ナノファイバー層と保護層からなる積層体)から巾30mm×長さ170mmの試料を採取し、当該試料の長さ方向の一方の端部でナノファイバー層と片方の保護層を長さ方向に50mm剥離させ、引張り試験機(インストロン社製「Model 5540」)を使用して剥離試験を行い、剥離時の強力を測定して、剥離時の最大荷重を剥離強力とした。
【0064】
(8)セパレータの耐電解液性:
下記の実施例および比較例で得られたセパレータ(ナノファイバー層と保護層からなる積層体または不織布シート)から採取した試験片(巾×長さ=15mm×170mm)について、JIS P 8113に準じて、耐電解液性処理前後の試験片の強力(N/15mm)を測定して、電解液処理後の強力保持率(%)を求めて耐電解液性とした。
なお、試験片の電解液処理は、試験片を窒素雰囲気下で50℃のプロピレンカーボネート液(和光純薬株式会社製)中に1時間浸漬して行った。
【0065】
(9)セパレータの耐熱性:
下記の実施例および比較例で得られたセパレータ(ナノファイバー層と保護層からなる積層体または不織布シート)を温度23℃および湿度65%RHの条件下で24時間調湿した後、それから縦×横=20cm×20cmの試験片を採取し、試験片を真空下で200℃に保持した乾燥機中で24時間乾燥処理し、次いで試験片を乾燥機から取り出して温度23℃および湿度65%RHの条件下で24時間調湿し、それによって得られた試験片の縦および横の寸法を測定した。そして、縦および横の少なくとも1方の寸法変化が、乾燥処理を行う前の寸法(20cm)に比べて、2.5%未満である場合を耐熱性が良好(○)、2.5%以上5%未満である場合を耐熱性がやや不良(△)、および5%以上である場合を耐熱性が不良(×)として評価した。
【0066】
(10)セパレータの耐摩耗性:
JIS L−1069記載のマーチンデール摩耗試験機を用い、標準摩耗布を取り付ける側に下記の実施例および比較例で得られたセパレータ(ナノファイバー層と保護層からなる積層体または不織布シート)から採取した試料(試験片:縦×横=14cm×14cm)を取付け、試料ホルダー側に円形に切断した平滑な金属板を取付けた。円を描くように100回転擦過させた後の試験片の表面の状態を目視によって観察して、表面に変化がなく且つ層間剥離が生じていない場合を耐摩耗性が良好(○)、層間剥離および/または毛羽が発生していた場合を耐摩耗性が不良(×)として評価した。
【0067】
(11)電気二重層キャパシタの漏れ電流および内部抵抗:
以下の実施例および比較例で作製した電気二重層キャパシタを、充電電流20mAにて2.7Vまで充電後、2.7Vの定電圧条件にて2時間充電を行い、放電電流20mAにて0Vまで放電を行った。この充電−放電サイクルを5回繰り返し、5サイクル目の定電圧充電で2時間保持後の電流値を漏れ電流とした。
また、内部抵抗値は、前記したサイクルの放電直後の電圧低下より求めた。
漏れ電流については、高性能キャパシタに求められるレベルとして、50μA未満を極めて良好(◎)、100μA未満を良好(○)とし、通常のキャパシタとしての性能に満たないレベルとなる100μA以上を不良(×)とした。
内部抵抗については、高性能キャパシタとして求められるレベルとして、1.5Ω未満を極めて良好(◎)、2.0Ω未満を良好(○)とし、通常のキャパシタとしての性能に満たないレベルとなる2.0Ω以上を不良(×)とした。
【0068】
《実施例1》
(1)保護層用の湿式不織布の製造:
(i) ジカルボン酸単位の100モル%がテレフタル酸単位からなり、ジアミン単位の50モル%が1,9−ノナンジアミン単位および50モル%が2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位からなるポリアミド(極限粘度0.73dl/g、末端封止率91%)(以下「ポリアミド9T」という)を溶融紡糸・延伸して、単繊維繊度0.1dtexのポリアミド延伸糸(延伸繊維)を製造し、これを切断して繊維長10mmの短繊維(主体繊維)にした。
(ii) ジカルボン酸単位の80モル%がテレフタル酸単位および20モル%がイソフタル酸単位からなり、ジアミン単位の100モル%が1,6−ヘキサンジアミン単位からなるポリアミド(三井・デュポンポリケミカル株式会社製「シーラーPA3426」)(以下「ポリアミド6IT」という)40質量部と、前記(i)で用いたのと同じポリアミド9T60質量部をドライブレンドし溶融混練した後に溶融紡糸して、単繊維繊度2.9dtexのポリアミド繊維を製造し、これを切断して繊維長10mmの短繊維(バインダー繊維)にした。
(iii) 上記(i)で得られた主体繊維70質量部および上記(ii)で得られたバインダー繊維30質量部を水に分散させて抄造原料(繊維含量0.2質量%)を調製し、当該抄造原料を用いて長網抄造機にて抄造し、次いでヤンキー型乾燥機にて乾燥して、目付7.0g/m2の保護層用の湿式不織布を製造した。
【0069】
(2)セパレータ用の積層体の製造:
(i) 上記(1)の(i)で使用したのと同じポリアミド9Tをヘキサフルオロイソプロパノール溶媒に投入し、25℃で静置溶解して濃度5質量%の紡糸原液を調製した。
(ii) 上記(i)で得られた紡糸原液を使用して、図1に示す紡糸装置にて静電紡糸を行って、保護層上にナノファイバー層が積層した積層体を製造した。
具体的には、口金4として内径が0.9mmのニードルを使用し、口金4と移送装置7との間の距離を8cmとし、移送装置7に設けた導電性部材8の上面全体に上記(1)で得られた保護層用の湿式不織布を巻き付けて配置した。次いで、移送速度0.1m/分で移送装置7を移送しながら、紡糸原液を所定の供給量で口金4から紡出し、口金4に20kVの印加電圧を与えて、導電性部材8の上面に配置した湿式不織布上に平均繊維径332nmのポリアミド9Tよりなるナノフィラメントを4.0g/m2になるように均一な厚さに積層(堆積)させてナノファイバー層と保護層が積層した積層体(積層シート)を製造した。
(iii) 次いで、上記(ii)で得られた積層体(積層シート)のナノファイバー層の上に上記(1)で得られた保護層用の湿式不織布を積層して、ナノファイバー層を内側に有し、両方の表面に保護層を有する3層構造の積層体(積層シート)を製造した。
(iv) 上記(iii)で得られた積層体(積層シート)を装置から取り外し、170℃で60秒間熱プレス処理して保護層とナノファイバー層を一体化して、セパレータ用の積層体を得た。
これによって得られたセパレータ用の積層体の物性を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0070】
(3)電気二重層キャパシタの作製:
(i) 活性炭(クラレケミカル製「YP17D」)とポリテトラフロロエチレンとカーボンブラック(電気化学工業製「デンカブラック」)を80:10:10の質量比で混錬した後、圧延して厚さ150μmのシートにし、当該シートから縦×横=30mm×30mmの正方形のシート片を2枚切り出して、シート状の分極性電極とした。
(ii) 上記(2)で得られたセパレータ用の積層体から、縦×横=40mm×40mmの正方形の片をセパレータとして切り出し、このセパレータを、上記(i)で得られたシート状の分極性電極2枚と共に、150℃に保持した真空乾燥機で12時間乾燥した後、分極性電極およびセパレータを−60℃以下の露点雰囲気のドライボックスに収容した。
(iii) 分極性電極およびセパレータに、テトラエチルアンモニウムテトラフロロボレートを1mol%/Lの濃度で含有するプロピレンカーボネート溶液(水分率20ppm以下)を真空下で含浸させた後、分極性電極、セパレータ、分極性電極の順に重ね合せることで電気二重層キャパシタを作製した。
(iv) 上記(iii)で得られた電気二重層キャパシタの性能(漏れ電流および内部抵抗)を上記した方法で評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0071】
《実施例2》
(1) 実施例1の(2)の(i)において、ナノファイバー層を形成するためのポリアミド9Tの紡糸原液におけるポリアミド9Tの濃度を5.0質量%から4.0質量%に変えて、湿式不織布上に平均繊維径95nmのポリアミド9Tよりなるナノフィラメントを3.9g/m2になるように均一な厚さに積層(堆積)させた以外は、実施例1の(1)および(2)と同様の工程および操作を行って、セパレータ用の積層体を製造した。
これによって得られたセパレータ用の積層体の物性を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られたセパレータ用の積層体を用いて、実施例1の(3)と同様にして、電気二重層キャパシタを作製し、その性能(漏れ電流および内部抵抗)を上記した方法で評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0072】
《実施例3》
(1) 実施例1の(2)の(i)において、ナノファイバー層を形成するためのポリアミド9Tの紡糸原液におけるポリアミド9Tの濃度を5.0質量%から6.0質量%に変えて、湿式不織布上に平均繊維径547nmのポリアミド9Tよりなるナノフィラメントを3.7g/m2になるように均一な厚さに積層(堆積)させた以外は、実施例1の(1)および(2)と同様の工程および操作を行って、セパレータ用の積層体を製造した。
これによって得られたセパレータ用の積層体シートの物性を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られたセパレータ用の積層体を用いて、実施例1の(3)と同様にして、電気二重層キャパシタを作製し、その性能(漏れ電流および内部抵抗)を上記した方法で評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0073】
《実施例4》
(1)保護層用の湿式不織布の製造:
(i) 実施例1で用いたポリアミド9Tを島成分とし、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合した易アルカリ減量性ポリエステルを海成分とした海島型複合繊維を溶融紡糸・延伸した後、アルカリ減量することによって海成分を完全に除去して得られた単繊維繊度が0.08dtexのポリアミド延伸繊維を切断して繊維長3mmの短繊維(主体繊維)を製造した。
(ii) 実施例1の(1)で使用したのと同じポリアミド6ITの40質量部とポリアミド9Tの60質量部をドライブレンドし溶融混練した後に溶融紡糸して、単繊維繊度2.9dtexのポリアミド繊維を製造し、これを切断して繊維長10mmの短繊維(バインダー繊維)にした。
(iii) 上記(i)で得られた主体繊維70質量部および上記(ii)で得られたバインダー繊維30質量部を水に分散させて抄造原料(繊維含量0.2質量%)を調製し、当該抄造原料を用いて長網抄造機にて抄造し、次いでヤンキー型乾燥機にて乾燥して、目付6.2g/m2の湿式不織布を製造した。
(2)セパレータ用の積層体の製造:
上記(1)で得られた湿式不織布を保護層用シートとして用いて、実施例1の(2)と同様の工程および操作を行って、セパレータ用の積層体を製造した。
これによって得られたセパレータ用の積層体の物性を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(3) 上記(2)で得られたセパレータ用の積層体を用いて、実施例1の(3)と同様にして、電気二重層キャパシタを作製し、その性能(漏れ電流および内部抵抗)を上記した方法で評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0074】
《比較例1》
(1) 実施例1の(2)の(i)において、ナノファイバー層を形成するためのポリアミド9Tの紡糸原液におけるポリアミド9Tの濃度を5.0質量%から7.0質量%に変えて、湿式不織布上に平均繊維径963nmのポリアミド9Tよりなるナノフィラメントを3.5g/m2になるように均一な厚さに積層(堆積)させた以外は、実施例1の(1)および(2)と同じ工程および操作を行って、セパレータ用の積層体を製造した。
これによって得られたセパレータ用の積層体の物性を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られたセパレータ用の積層体を用いて、実施例1の(3)と同様にして、電気二重層キャパシタを作製し、その性能(漏れ電流および内部抵抗)を上記した方法で評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0075】
《比較例2》
(1) 実施例1で用いたポリアミド9Tを島成分とし、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合した易アルカリ減量性ポリエステルを海成分とした海島型複合繊維を溶融紡糸・延伸した後、アルカリ減量することによって海成分を完全に除去して得られた単繊維繊度が0.005dtexのポリアミド延伸繊維を切断して繊維長1mmの短繊維(主体繊維)を製造した。
(2) 実施例1の(1)で使用したのと同じポリアミド6ITの40質量部とポリアミド9Tの60質量部をドライブレンドし溶融混練した後に溶融紡糸して、単繊維繊度2.9dtexのポリアミド繊維を製造し、これを切断して繊維長10mmの短繊維(バインダー繊維)にした。
(3) 上記(1)で得られた主体繊維70質量部および上記(2)で得られたバインダー繊維30質量部を水に分散させて抄造原料(繊維含量0.2質量%)を調製し、当該抄造原料を用いて長網抄造機にて抄造し、次いでヤンキー型乾燥機にて乾燥して、目付14.2g/m2の湿式不織布を製造した。
この湿式不織布の物性を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
(4) 上記(3)で得られた湿式不織布から縦×横=40mm×40mmの不織布片を切り出し、この不織布片をセパレータとして用いて、実施例1の(3)と同様にして、電気二重層キャパシタを作製し、その性能(漏れ電流および内部抵抗)を上記した方法で評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0076】
《比較例3》
(1)(i) 溶解槽に予め開繊したパルプ(ウエスタンパルプ、重合度DP=621、ALICELL社製)を入れ、80℃に加熱して1時間放置した。
(ii) また、上記(i)とは別に、90℃に加熱したN−メチルモルホリン−N−オキサイド水和物液に、没食子酸−n−プロピル(溶液安定剤、パルプに対して0.25質量%の量)およびラウリル硫酸ナトリウム(界面活性剤、パルプに対して0.25質量%となる量)で添加し、攪拌、溶解した溶液を調製した。
(iii) 上記(ii)で調製した溶液を、上記(i)の80℃に加熱されたパルプに振りかけ、溶解槽の蓋をして窒素置換を行い、30分間放置してパルプを十分に膨潤させ、溶解槽設置の攪拌機で1時間攪拌してパルプを完全に溶解させた。その後溶解槽の温度を100℃に昇温し、攪拌を停止して4時間放置して十分に脱泡を行って紡糸原液を調製した。
(2)(i) 上記(1)で調製した紡糸原液を用いる以外は、実施例1の(2)と同様の静電紡糸操作を行って、導電性部材8の上面に配置した湿式不織布[実施例1の(1)で得られたのと同じ湿式不織布]上に平均繊維径450nmのセルロースよりなるナノフィラメントを3.9g/m2になるように均一な厚さに積層(堆積)させてナノファイバー層と保護層が積層した2層構造の積層体(積層シート)を製造した。
(ii) 次いで、上記(i)で得られた積層体(積層シート)のナノファイバー層の上に実施例1の(1)で製造したのと同じ保護層用の湿式不織布を積層して、ナノファイバー層を内側に有し、両方の表面に保護層を有する3層構造の積層体(積層シート)を製造した。
(iii) 上記(ii)で得られた積層体(積層シート)を装置から取り外し、170℃で60秒間熱プレス処理して保護層とナノファイバー層を一体化して、セパレータ用の積層体を得た。これによって得られたセパレータ用の積層体の物性を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
なお、これによって得られた積層体は、耐熱性が低く、熱プレス時の加熱によってナノファイバー層が脆化してしまい、キャパシタ用のセパレータとして用いることができなったので、電気二重層キャパシタの作製およびその性能評価は行わなかった。
【0077】
《比較例4》
(1)保護層用の湿式不織布の製造:
ポリエチレンテレフタレート繊維(主体繊維)(単繊維繊度0.5dtex、株式会社クラレ製「EP043×3」)70質量部と、ポリエチレンテレフタレート未延伸繊維(バインダー繊維)(単繊維繊度1.1dtex、株式会社クラレ製「EP101×5」)30質量部を水に分散させて抄造原料(繊維含量0.2質量%)を調製し、当該抄造原料を用いて長網抄造機にて抄造し、次いでヤンキー型乾燥機にて乾燥して目付9.1g/m2の保護層用の湿式不織布を製造した。
(2)セパレータ用の積層体の製造:
(i) 実施例1の(2)において、保護層用の湿式不織布として、実施例1の(1)で得られたポリアミド繊維からなる湿式不織布を用いる代わりに、本比較例の上記(1)で得られたポリエチレンテレフタレート繊維からなる湿式不織布を用い、それ以外は実施例1の(2)と同様の操作を行って、ポリエチレンテレフタレート繊維製湿式不織布よりなる保護層上にポリアミド9Tのナノフィラメントからなるナノファイバー層が積層したセパレータ用の2層構造の積層体を製造した。
(ii) 次いで、上記(i)で得られた積層体(積層シート)のナノファイバー層の上に上記(1)で製造した保護層用の湿式不織布を積層して、ナノファイバー層を内側に有し、両方の表面に保護層を有する3層構造の積層体(積層シート)を製造した。
(iii) 上記(ii)で得られた積層体(積層シート)を装置から取り外し、170℃で60秒間熱プレス処理して保護層とナノファイバー層を一体化して、セパレータ用の積層体を得た。これによって得られたセパレータ用の積層体の物性を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
なお、これによって得られた積層体は、熱プレス時の加熱によってナノファイバー層と保護層が剥離してしまい、耐熱性も劣っており、キャパシタ用のセパレータとして用いることができなったので、電気二重層キャパシタの作製およびその性能評価は行わなかった。
【0078】
《比較例5》
(1) メタ系アラミド繊維(2.0dtex、帝人株式会社製「コーネックス」)を繊維長1mmに切断して得られた短繊維を、シングルディスクリファイナーで叩解処理して平均繊維径500nmの微細繊維を得た。
(2) 上記(1)で得られたメタ系アラミド微細繊維70質量部と、実施例1の(1)の(i)で得られたのと同じバインダー繊維(ポリアミド繊維)30質量部を水に分散させて抄造原料(繊維含量0.2質量%)を調製し、当該抄造原料を用いて長網抄造機にて抄造し、次いでヤンキー型乾燥機にて乾燥して、目付21.1g/m2の湿式不織布を製造した。
この湿式不織布の物性を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
(3) 上記(2)で得られた湿式不織布から縦×横=40mm×40mmの不織布片を切り出し、この不織布片をセパレータとして用いて、実施例1の(3)と同様にして、電気二重層キャパシタを作製し、その性能(漏れ電流および内部抵抗)を上記した方法で評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
上記の表1の結果にみるように、実施例1〜4のセパレータをなす積層体は、ポリアミド(a)の範疇に属するポリアミド9Tからなる平均繊維径が10〜600nmの範囲内のナノフィラメントからなるナノファイバー層を内側に有し、両方の表面に、ポリアミド(a)繊維を少なくとも含む繊維から形成された保護層、特にポリアミド(a)繊維と混合ポリアミド(ab)繊維(バインダー繊維)との混合繊維から形成された保護層を有していることにより、耐熱性に優れていて、乾燥時や加工時の加熱によって物性や性能の低下がなく、しかも耐電解液性に優れ、ナノファイバー層と保護層の接着が強固に行われていて剥離強力が高く、その上耐摩耗性に優れている。
その上、実施例1〜4のセパレータ用の積層体からなるセパレータは、正負電極から剥がれた電極物質などの遮蔽性能に優れ、その一方で電解液の通過性に優れるため、電気二重層キャパシタのセパレータとして用いたときに、漏れ電流が少なく且つ内部抵抗の低い、高性能のキャパシタを作製することができる。
【0082】
それに対して、上記の表2の結果にみるように、比較例1のセパレータをなす積層体は、ポリアミド(a)の範疇に属するポリアミド9Tのナノフィラメントからなるナノファイバー層を、ポリアミド(a)繊維と混合ポリアミド(ab)繊維(バインダー繊維)との混合繊維から形成された保護層を両方の表面に有しているが、ナノファイバー層を構成するポリアミド9Tのナノフィラメントの平均繊維径が963nmであって、10〜600nmの範囲から外れているために、電気二重層キャパシタのセパレータとして用いたときに漏れ電流が大きくて、性能の良好なキャパシタが得られない。
また、比較例2のセパレータは、ポリアミド9Tのナノフィラメントからなるナノファイバー層を有しておらず、ポリアミド9Tからなる微細繊維(主体繊維)と混合ポリアミド(ab)繊維(バインダー繊維)との混合繊維から形成された湿式不織布単独からなっているために、空隙率が低くて抵抗が大きく、電気二重層キャパシタのセパレータとして用いたときに電解液が円滑に通過せず、性能の良好なキャパシタが得られない。
【0083】
さらに、比較例3のセパレータをなす積層体は、ナノファイバー層がポリアミド(a)繊維から形成されておらず、セルロースナノフィラメントから形成されていることにより、耐熱性に劣っていて、熱処理時に寸法の変化か大きく、キャパシタ用のセパレータとして有効に使用できない。
また、比較例4のセパレータをなす積層体は、保護層がポリアミド(a)繊維を含む繊維から形成されておらず、ポリエチレンテレフタレート繊維から形成されているために、ポリアミド(a)ナノフィラメントよりなるナノファイバー層と保護層とが強固に接着しておらず、接着強力が低い。
比較例5のセパレータは、ポリアミド9Tのナノフィラメントからなるナノファイバー層を有しておらず、メタ系アラミドからなる微細繊維(主体繊維)と混合ポリアミド(ab)繊維(バインダー繊維)との混合繊維から形成された湿式不織布単独からなっているために空隙率が低くて抵抗が大きく、電気二重層キャパシタのセパレータとして用いたときに電解液が円滑に通過せず、性能の良好なキャパシタが得られない。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のキャパシタ用セパレータは、耐熱性に優れていて、乾燥時や加工時の加熱によって物性や性能の低下がなく、またナノファイバー層を内側に有し両方の表面に保護層を有するために、ナノファイバー層が保護層で保護されていて、セパレータやキャパシタの生産時にナノファイバー層を形成する超極細のナノフィラメントの損傷が生じず、セパレータおよびキャパシタを高い歩留りで生産性良く製造することができ、しかも微細な孔がナノファイバー層全体に均一に分布していて正負電極から剥がれた電極物質などの遮蔽性能に優れ、その一方で空隙率が大きくて電解液の通過性に優れ、しかもナノファイバー層と保護層の接着強度が高くて層間剥離が生じず、力学的特性、耐久性および取り扱い性に優れているため、キャパシタ、特に電気二重層キャパシタ用のセパレータとして有効に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明のキャパシタ用セパレータをなす、ナノファイバー層と保護層を有する積層体の製造に好適に用いられる静電紡糸装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0086】
1 紡糸原液を供給するためのポンプ
2 分配整流ブロック
3 口金部
4 突出した口金
5 電気絶縁部
6 直流高電圧発生電源
7 無端コンベアからなる移送装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i) 内側にナノファイバー層を有し、両方の表面に保護層を有する積層体からなるキャパシタ用セパレータであって;
(ii) キャパシタ用セパレータをなす積層体におけるナノファイバー層が、ジカルボン酸単位とジアミン単位よりなるポリアミドであって、ジカルボン酸単位の60モル%以上がテレフタル酸単位であり、ジアミン単位の60モル%以上が1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位であるポリアミド(a)からなる平均繊維径10〜600nmのポリアミドフィラメントから形成され;且つ、
(iii) キャパシタ用セパレータをなす積層体における保護層が、ジカルボン酸単位とジアミン単位よりなるポリアミドであって、ジカルボン酸単位の60モル%以上がテレフタル酸単位であり、ジアミン単位の60モル%以上が1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位であるポリアミド(a)からなるポリアミド繊維を少なくとも含む繊維から形成されている;
ことを特徴とするキャパシタ用セパレータ。
【請求項2】
キャパシタ用セパレータをなす積層体における保護層が、ポリアミド(a)からなるポリアミド繊維と共に、ジカルボン酸単位とジアミン単位よりなるポリアミドであってジカルボン酸単位の60モル%以上がテレフタル酸単位および/またはイソフタル酸単位であり、ジアミン単位の60モル%以上が2,2,4−トリメチルヘキサンジアミン単位、2,4,4−トリメチルヘキサンジアミン単位および1,6−ヘキサンジアミン単位から選ばれる1つ以上のジアミン単位であるポリアミド(b)と、ジカルボン酸単位とジアミン単位よりなるポリアミドであってジカルボン酸単位の60モル%以上がテレフタル酸単位であり、ジアミン単位の60モル%以上が1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位であるポリアミド(a)を混合した混合ポリアミドからなるポリアミド繊維を含む繊維混合物を用いて形成されている請求項1に記載のキャパシタ用セパレータ。
【請求項3】
キャパシタ用セパレータをなす積層体におけるナノファイバー層の空隙率が65〜95%である請求項1または2に記載のキャパシタ用セパレータ。
【請求項4】
キャパシタ用セパレータをなす積層体における保護層を構成する繊維の単繊維繊度が0.01〜5.0dtexである請求項1〜3のいずれか1項に記載のキャパシタ用セパレータ。
【請求項5】
キャパシタ用セパレータをなす積層体におけるナノファイバー層と保護層との剥離強力が5〜100gである請求項1〜4のいずれか1項に記載のキャパシタ用セパレータ。
【請求項6】
ポリアミド(a)の有機溶媒溶液または溶融液を用いて静電紡糸を行って、ポリアミド(a)からなる平均繊維径10〜600nmのポリアミドフィラメントよりなるナノファイバー層を、第1の保護層上に積層した後、ナノファイバー層上に更に第2の保護層を積層して形成したものである請求項1〜5のいずれか1項に記載のキャパシタ用セパレータ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のキャパシタ用セパレータを使用したキャパシタ。
【請求項8】
(i) 内部にナノファイバー層を有し、両方の表面に保護層を有する積層体からなるキャパシタ用セパレータ用の積層体であって;
(ii) ナノファイバー層が、ジカルボン酸単位とジアミン単位よりなるポリアミドであって、ジカルボン酸単位の60モル%以上がテレフタル酸単位であり、ジアミン単位の60モル%以上が1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位であるポリアミド(a)からなる平均繊維径10〜600nmのポリアミドフィラメントから形成され;且つ、
(iii) 保護層が、ジカルボン酸単位とジアミン単位よりなるポリアミドであって、ジカルボン酸単位の60モル%以上がテレフタル酸単位であり、ジアミン単位の60モル%以上が1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位であるポリアミド(a)からなるポリアミド繊維を少なくとも含む繊維から形成されている;
ことを特徴とするキャパシタ用セパレータ用の積層体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−99836(P2009−99836A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271129(P2007−271129)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】