説明

キャピラリ電気泳動装置

【課題】分析工程の種類や分析時間に応じた最適分量のバッファ溶液を必要個数だけ提供するキャピラリ電気泳動装置を得る。
【解決手段】本発明に係るキャピラリ電気泳動装置は、キャピラリとポリマーを用いて電気泳動によりサンプルを分離、検出するキャピラリ電気泳動装置であって、複数のバッファ容器を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャピラリ電気泳動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
キャピラリ電気泳動装置は、キャピラリ内にサンプル(分析試料)を吸引して電気泳動を行う装置である。サンプルとバッファ溶液(緩衝液)は、それぞれサンプル容器とバッファ容器に入れられる。また、サンプルとバッファ溶液の蒸発を防ぐため、ゴム等の素材で形成された蒸発防止膜で各容器の上面を覆う。
【0003】
キャピラリ電気泳動装置を用いてサンプルを分析する際には、キャピラリをサンプル容器内のサンプルに浸漬してサンプルをキャピラリ内に吸引する。次にキャピラリをバッファ容器内のバッファ溶液に浸漬してキャピラリ内に電気泳動媒体を供給し、電圧を印加して電気泳動を行う。電気泳動が終了すると、キャピラリを別のサンプルに浸漬してサンプルを吸引し、次にバッファ溶液に浸漬する。この工程を繰り返して分析を実行する。
【0004】
サンプルが複数個ある場合、キャピラリをサンプルとバッファ溶液に交互に浸漬することになる。一般にバッファ溶液は各サンプルに対して共通的に用いるため、バッファ容器は1つのみ設けられている。
【0005】
従来のキャピラリ電気泳動装置の1例として、下記特許文献1に記載のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2002/090968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
バッファ溶液内のイオンは電気泳動によって消耗し、その消耗量はサンプルの分析時間や回数に依存する。しかし、分析するサンプル数や分析工程の種類は、毎回の分析で異なる。任意のサンプル数や分析工程に対応するためには、最大サンプル数および最長分析時間に対応できるだけのバッファ溶液をあらかじめ準備しておく必要がある。
【0008】
バッファ溶液の保存期間は限られているので、サンプル数が少ない場合や分析時間が短い場合に大量のバッファ溶液をあらかじめ準備してしまうと、余分なバッファ溶液を廃棄しなければならず、無駄となってしまう。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、分析工程の種類や分析時間に応じた最適分量のバッファ溶液を必要個数だけ提供するキャピラリ電気泳動装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るキャピラリ電気泳動装置は、キャピラリとポリマーを用いて電気泳動によりサンプルを分離、検出するキャピラリ電気泳動装置であって、複数のバッファ容器を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るキャピラリ電気泳動装置によれば、バッファ容器を複数備えている。そのため、ある分析工程で必要となるバッファ溶液をバッファ容器に収納し、他の分析工程で必要となるバッファ溶液は別のバッファ容器に収納する、といった個別の調整を容易に行うことができる。これにより、バッファ溶液の分量を最適に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態1に係る電気泳動装置100の構成図である。
【図2】オートサンプラ107が分析工程にしたがって移動ステージ200を移動させる様子を示す図である。
【図3】2つ目のサンプルの電気泳動を実施する工程を示す図である。
【図4】実施の形態2におけるオートサンプラ107の移動機構300の具体構成を示す図である。
【図5】図4を回転軸の左端から見た側面図である。
【図6】図4を移動ステージ200の正面から見た正面図である。
【図7】ドラムカム301の回転にともなって移動ステージ200が移動する過程を示す図である。
【図8】図7で説明した動作を移動ステージ200の座標として示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施の形態1に係る電気泳動装置100の構成図である。電気泳動装置100は、キャピラリアレイ102、ポンプ機構103、光学系104、高圧電源105、オーブン106、オートサンプラ107を備える。
【0014】
キャピラリアレイ102は、1本以上のキャピラリ101を有する。
キャピラリ101は交換可能な部材であり、測定手法を変更する場合や、キャピラリ101が破損または品質劣化したときに、必要に応じて交換する。キャピラリ101は、内径が数十〜数百ミクロン、外径が数百ミクロンのガラス管で構成され、表面はポリイミドでコーティングされている。キャピラリ101の内部には、電気泳動を実施する時にサンプルに泳動速度差を与え、これに基づく分析を行うための分離媒体が充填される。分離媒体は流動性のものと非流動性のものの双方が存在するが、本実施の形態1では流動性のポリマーを用いる。
【0015】
キャピラリ101の一端にはキャピラリヘッド117が設けられ、他端にはキャピラリ陰極端115が形成されている。キャピラリヘッド117は、キャピラリ101の端部を束ねる部材であり、ポンプ機構103とキャピラリ101を接続する機能を有する。キャピラリ陰極端115は、試料、溶液等に接触する。キャピラリ101のキャピラリ陰極端115側は、ロードヘッダ116によって固定されている。ロードヘッダ116には陰極電極114が設けられている。
【0016】
光学系104は、照射系と検出系を有する。照射系は、キャピラリ101のポリイミド被膜が除去されている部分、すなわち検出部に励起光を照射する機能を有する。検出系は、キャピラリ101の検出部の内部に存在するサンプルから発した蛍光を検出する機能を有する。検出系によって検出された光を用いて試料を分析することができる。
【0017】
ポンプ機構103は、シリンジ108、ブロック109、逆支弁110、ポリマー容器111、陽極バッファ容器112を有する。キャピラリヘッド117をブロック109に接続することにより、キャピラリ101とブロック109内の流路が接続される。シリンジ108を操作すると、ポリマー容器111内のポリマーがブロック109内の流路を経由してキャピラリ101に充填されまたは詰め替えられる。測定性能を向上するため、測定を実施する毎にキャピラリ101内のポリマーを詰め替える。
【0018】
陽極バッファ容器112には、陽極電極113が配置されている。高圧電源105は、陽極電極113と陰極電極114の間に高圧電圧を印加する。
【0019】
オーブン106は、断熱材とヒータが取り付けられた温度制御板を用いてキャピラリアレイ102を平面状に挟み込み、キャピラリの温度を一定に保つ。温度制御板にはフィードバック用の温度センサが取り付けられている。また、キャピラリアレイのロードヘッダ116をオーブン106に固定することにより、キャピラリヘッド117の先端を所望の位置に固定することができる。
【0020】
オートサンプラ107は、サンプル容器とバッファ容器を保持する移動ステージ200(後述)を移動させる機能を有する。オートサンプラ107は、1つの電動モータとリニアガイドを備えており、移動ステージ200を分析の順番にしたがって、上下/左右の2軸方向に移動させる。移動ステージ200は、上記動作により、バッファ容器とサンプル容器を分析の順番にしたがってキャピラリ陰極端115まで搬送する。
【0021】
図2は、オートサンプラ107が分析工程にしたがって移動ステージ200を移動させる様子を示す図である。ここでは、移動ステージ200の内部構造を移動過程とともに説明するため、側断面図を示した。はじめに移動ステージ200および周辺部材の構成を説明し、次に移動ステージ200の移動過程を説明する。
【0022】
移動ステージ200は、バッファ容器とサンプル容器を配置する窪みを有する。ここではバッファ容器211、212および213と、サンプル容器221および222を配置した例を示した。
【0023】
バッファ容器とサンプル容器は、分析の過程でキャピラリ101をバッファ溶液およびサンプルに浸漬させる順番と同じ順番で配置される。したがって移動ステージ200が有する上記窪みも、その順番と同じ順番で設けられている。バッファ容器の形状とサンプル容器の形状やサイズが異なる場合は、窪みの形状とサイズもこれに合わせて形成される。
【0024】
バッファ容器211〜213とサンプル容器221〜222には、それぞれ同じバッファ溶液230とサンプル240を収納してもよいし、容器毎に異なるバッファ溶液230とサンプル240を収納してもよい。
【0025】
バッファ容器211〜213とサンプル容器221〜222を移動ステージ200に配置した後、バッファ溶液およびサンプルが蒸発することを防ぐため、蒸発防止膜260を用いて各容器の上部を覆う。さらにクリップ250を蒸発防止膜260の上から被せて蒸発防止膜260を移動ステージ200との間に挟み込み、移動ステージ200側部の突起にクリップ250を引っ掛けてクリップ250を固定する。
【0026】
以上、移動ステージ200および周辺部材の構成を説明した。次に、移動ステージ200の移動過程を、図2〜図3にしたがって説明する。
【0027】
図2(a)は、キャピラリ101にポリマーを充填する工程を示す。キャピラリ101をバッファ容器211内のバッファ溶液230に浸漬させた状態で、ポンプ機構103を稼動させ、ポリマー容器111内のポリマーをキャピラリ101内に供給し、キャピラリ101内にポリマーを充填する。余分なポリマーや先にキャピラリ101内に充填されていたポリマーなどは、バッファ容器211内に吐出される。
【0028】
図2(b)は、キャピラリ101にサンプルを注入する工程を示す。図2(a)の工程の後、キャピラリ101の位置はそのままで移動ステージ200を移動させ、キャピラリ101をサンプル容器221内のサンプル240に浸漬させる。この状態で、キャピラリ101にサンプル240を供給する。
【0029】
図2(c)は、電気泳動を行う工程を示す。図2(b)の工程の後、キャピラリ101の位置はそのままで移動ステージ200を移動させ、キャピラリ101をバッファ容器212内のバッファ溶液230に浸漬させる。この状態で高電圧を印加し、電気泳動を実施する。
【0030】
図3は、2つ目のサンプルの電気泳動を実施する工程を示す図である。以下、図3の各工程について説明する。
【0031】
図3(d)は、図2(c)の工程に続いてキャピラリ101にポリマーを充填する工程を示す。キャピラリ101をバッファ容器212内のバッファ溶液230に浸漬させた状態で、ポリマー容器111内のポリマーをキャピラリ101内に供給し、キャピラリ101内にポリマーを充填する。余分なポリマーや先にキャピラリ101内に充填されていたポリマーなどは、バッファ容器212内に吐出される。
【0032】
図3(e)〜図3(f)における動作は、図2(b)〜図2(c)と同様である。すなわち、サンプル容器222内のサンプルをキャピラリ101内に供給し、キャピラリ101をバッファ容器213内のバッファ溶液230に浸漬させて電気泳動を実施する。
【0033】
以上、分析工程にしたがってオートサンプラ107が移動ステージ200を移動させる過程を説明した。
【0034】
図2〜図3の説明では、サンプル容器221〜222およびサンプルはそれぞれ2つとしたが、より多くのサンプル容器およびサンプルを後段に設けてもよい。この場合、バッファ容器およびバッファ溶液を、サンプルの数に合わせて増やすことになる。移動ステージ200を移動させる手順は、図2〜図3と同様である。
【0035】
また、図2〜図3の説明ではキャピラリ101を1本のみ用いたが、図面の法線方向に沿ってキャピラリ101を複数本並列に配置してもよい。このとき、バッファ容器211〜213とサンプル容器221〜222も、キャピラリ101の配置に合わせて図面の法線方向に複数並列に配置する。この構成により、複数の分析工程を同時並列で実施することができる。
【0036】
また、キャピラリ101を図2〜図3の左右方向に複数本配置してもよい。例えばキャピラリ101を2本用いる場合、バッファ容器とサンプル容器をそれぞれ2組ずつ移動ステージ200上に配置する。各容器の配置は、バッファ容器211a、バッファ容器211b、サンプル容器221a、サンプル容器221b、バッファ容器212a、バッファ容器212b、サンプル容器222a、サンプル容器222b、バッファ容器213a、バッファ容器213bとなる。この場合、工程毎の移動ステージ200の移動量は、図2〜図3の2倍となる。
【0037】
以上のように、本実施の形態1によれば、キャピラリ電気泳動装置100は複数のバッファ容器211〜213を備え、各バッファ容器には個々の分析工程で必要となる分量のバッファ溶液230を小分けして収納する。これにより、余分なバッファ溶液230を大量に準備しておく必要がなくなるので、使用しなかったバッファ溶液230を廃棄するような状況を回避することができる。
【0038】
また、本実施の形態1によれば、バッファ容器211〜213と同様にサンプル容器221〜222を複数備え、各サンプル容器には個々の分析工程で分析するサンプル240を小分けして収納する。これにより、分析に必要な分量のサンプル240のみを準備しておけばよいので、バッファ溶液230と同様に、使用しなかったサンプル240を廃棄するような状況を回避することができる。
【0039】
また、本実施の形態1において、バッファ容器211〜213とサンプル容器221〜222は、分析工程にしたがってキャピラリ101を浸漬させる順番と同じ順番で配置されている。これにより、オートサンプラ107は、上下移動を除いて単一方向に移動ステージ200を移動させればよいので、移動制御を簡易化することができる利点がある。
【0040】
また、本実施の形態1によれば、バッファ溶液230とサンプル240の間のコンタミネーションに関し、以下に説明する利点を得ることができる。
【0041】
従来のキャピラリ電気泳動装置では、キャピラリをバッファ溶液およびサンプルに浸漬させる合間で、キャピラリを適宜洗浄水に浸してサンプルまたはバッファを洗い流し、サンプルとバッファの間のコンタミネーションを防止している。しかし、分析するサンプル数が多い場合、キャピラリをサンプルとバッファ溶液に交互に浸漬する回数が多くなる。これに起因して、キャピラリを洗浄水に浸しても洗浄できない箇所にサンプルが残留し、この残留サンプルが各容器に付着する可能性が高くなる。
【0042】
例えば、キャピラリ101をバッファ容器230またはサンプル240に浸漬させる過程で、キャピラリ101が蒸発防止膜260に接触し、キャピラリ101に残留しているバッファ溶液230またはサンプル240が蒸発防止膜260に付着してしまう可能性がある。仮に、バッファ容器またはサンプル容器が1つしかない場合、同一のバッファ容器またはサンプル容器が収納しているバッファ溶液230またはサンプル240を複数回数使用することになる。このとき、前回蒸発防止膜260に付着したバッファ溶液230またはサンプル240とキャピラリ101が再接触し、コンタミネーションが生じる可能性がある。
【0043】
本実施の形態1では、バッファ容器230とサンプル240を小分けにし、各分析工程で使用する分量を各容器に収納するようにしている。そのため、キャピラリ101が同じ容器を何度も出入りすることはなく、蒸発防止膜260に付着した溶液等に起因するコンタミネーションなど、洗浄水で洗浄することができない部分に起因するコンタミネーションを防止することができる。
【0044】
なお、本実施の形態1では、キャピラリ101の洗浄については説明していないが、各工程の合間にキャピラリ101を洗浄する工程を実施してもよい。キャピラリ101を洗浄水に浸漬させる手法としては、例えば以下のようなものが考えられる。
(洗浄手法その1)オートサンプラ107が洗浄水容器をキャピラリ101まで運搬し、キャピラリ101を洗浄水に浸漬させる。
(洗浄手法その2)洗浄水容器をキャピラリ101まで運搬する移動機構を別途設ける。
(洗浄手法その3)バッファ容器211〜213、サンプル容器221〜222と併せて洗浄水容器を移動ステージ200に配置する。洗浄水容器の配置順は、キャピラリ101を洗浄する工程を実施する順番に合わせる。
【0045】
また、以上の説明では、バッファ溶液230およびサンプル240を分析工程毎に小分けにした構成を説明したが、いずれか一方の容器のみ小分けにする構成を採用することもできる。例えば、サンプル240のみを小分けにし、バッファ溶液230を各工程で共通的に用いることが考えられる。この場合、サンプル容器221〜222は各工程で独立して用いられるので、コンタミネーションを低減することができる。
【0046】
<実施の形態2>
実施の形態1では、バッファ容器211〜213とサンプル容器221〜222を分析工程の順番にしたがって配置することを説明した。これにより、移動ステージ200の移動過程を単純化することができる。本発明の実施の形態2では、この特徴を利用し、オートサンプラ107の移動機構を簡易化した構成を説明する。オートサンプラ107の移動機構以外の構成は、実施の形態1と同様である。
【0047】
図4は、本実施の形態2におけるオートサンプラ107の移動機構300の具体構成を示す図である。移動機構300は、ドラムカム301、上下動作カムフォロワ302、左右動作カムフォロワ303、上下動作リニアガイド304、左右動作リニアガイド305を備える。
【0048】
本実施の形態2における「支持部」は、上下動作カムフォロワ302、左右動作カムフォロワ303、上下動作リニアガイド304、左右動作リニアガイド305が相当する。
【0049】
ドラムカム301は、全体としては柱状の細長い形状を有し、長手方向が移動ステージ200の横向き(水平方向)の移動方向に沿うようにして配置されている。
【0050】
ドラムカム301は、底面側(回転軸側)から見ると、回転軸が中心からずれた偏心カムとして構成されている。ドラムカム301が図4に示す回転軸を中心として回転すると、偏心カム動作により上下動作リニアガイド304を上下運動させて移動ステージ200を上下(垂直方向)に移動させる。
【0051】
ドラムカム301の側面には、上下動作カムフォロワ302と左右動作カムフォロワ303が嵌合する溝が形成されている。この溝は、全体としてはドラムカム301の回転軸に対して斜めに交わる向きに形成されている。これにより、ドラムカム301の回転にともなって上下動作カムフォロワ302と左右動作カムフォロワ303を図4の左右方向に移動させる作用が発揮される。
【0052】
すなわち、ドラムカム301は、回転軸を中心として回転することにより、移動ステージ200を上下方向に移動させる機能と左右方向に移動させる機能をともに発揮することができる。ただし、移動ステージ200を上下方向に移動させる区間は、キャピラリ101をバッファ容器またはサンプル容器に抜き差しする区間に対応していなければならない。同様に、移動ステージ200を左右方向に移動させる区間は、キャピラリ101を次のバッファ容器またはサンプル容器に向かって移動させる区間に対応していなければならない。この上下移動および左右移動とドラムカム301の形状との関係について、以下の図5〜図6を用いて説明する。
【0053】
図5は、図4を回転軸の左端から見た側面図である。ドラムカム301の底面形状は、回転中心を中心とし、半径が小さい部分、大きい部分、半径が小さい部分から大きい部分へ連続的に大きくなる部分、を有する。ドラムカム301の回転にともない、上下動作カムフォロワ302がいずれの上記各部分に接触するかが変化する。以下、この形状が発揮する作用について説明する。
【0054】
(半径が大きいほうの円弧部分に接する区間)
半径が大きいほうの円弧部分と、上下動作カムフォロワ302とが接触している区間では、上下動作カムフォロワ302の動作軌跡は、底面が真円の円柱に上下動作カムフォロワ302を接触させている場合の動作軌跡と概ね同様の状態となる。すなわちこの区間では、回転軸から上下動作カムフォロワ302までの距離が他の区間と比べて大きく変化しないので、上下動作カムフォロワ302は上下方向には大きく移動しないことになる。したがって、キャピラリ101をバッファ容器またはサンプル容器内に挿入した状態を、この区間に対応させるとよい。換言すると、移動ステージ200を持ち上げて最上部に達する時点で、回転軸と上下動作カムフォロワ302との間の距離が最大となるようにしておくとよい。
【0055】
(半径が小さいほうの円弧部分に接する区間)
区間1に続いてドラムカム301を回転させると、上下動作カムフォロワ302は半径が小さいほうの円弧部分に近づく。これにより、回転軸と上下動作カムフォロワ302の間の距離が近くなり、移動ステージ200はキャピラリ101から離れる方向(下向き)に移動することになる。本区間では、区間1と比較して上下方向の移動量が大きくなるため、キャピラリ101がバッファ容器またはサンプル容器の外に出ている区間を本区間に対応させるとよい。
【0056】
図6は、図4を移動ステージ200の正面から見た正面図である。ドラムカム301の側面に形成されている溝は、全体としては回転軸に対して斜めに交わるように形成されているが、より厳密には、回転軸に対して略直交する向きに形成されている直交部分と、回転軸に対して斜交する向きに形成されている斜交部分とを有する。図6(b)に、その様子を簡略化して模式的に示した。ドラムカム301の回転にともない、左右動作カムフォロワ303がいずれの上記各部分に接触するかが変化する。以下、この形状が発揮する作用について説明する。
【0057】
(直交部分に接する区間)
左右動作カムフォロワ303が直交部分に接している区間では、左右動作カムフォロワ303の移動軌跡は回転軸に略直交する。すなわちこの区間では、ドラムカム301が回転しても、左右動作カムフォロワ303の左右方向の位置は大きく変化しない。したがって、キャピラリ101をバッファ容器またはサンプル容器内に抜き差しする区間およびその状態を維持する区間を、この区間に対応させるとよい。
【0058】
(斜交部分に接する区間)
左右動作カムフォロワ303が斜交部分に接している区間では、左右動作カムフォロワ303の移動軌跡は回転軸に斜交する。すなわちこの区間では、ドラムカム301が回転すると、左右動作カムフォロワ303の左右方向の位置が大きく変化する。したがって、キャピラリ101を次のバッファ容器またはサンプル容器に向けて移動させる区間を、この区間に対応させるとよい。
【0059】
図7は、ドラムカム301の回転にともなって移動ステージ200が移動する過程を示す図である。図7(a)はドラムカム301の正面図、図7(b)は図7(a)と同時刻におけるドラムカム301の側面図、図7(c)は図7(a)と同時刻における移動ステージ200とキャピラリ101の位置関係を示す図である。以下、図7に示す各区間について説明する。
【0060】
(区間1:キャピラリ101と移動ステージ200が離れている区間)
本区間は、キャピラリ101と移動ステージ200の間の上下方向の距離が最も遠い区間である。キャピラリ101の位置は固定であるため、キャピラリ101と移動ステージ200の間の距離を最も遠くするためには、回転軸と上下動作カムフォロワ302との間の距離を最も小さくすればよい。すなわち、ドラムカム301の半径が小さいほうの円弧部分と上下動作カムフォロワ302を接触させればよい。
【0061】
(区間2:移動ステージ200を次の容器に移動させる区間:左右方向)
本区間では、移動ステージ200を左右方向に移動させ、次の容器に向かわせる。すなわち本区間は、左右動作カムフォロワ303と、図6で説明した斜交部分とが接している区間に相当する。
【0062】
(区間2:移動ステージ200を次の容器に移動させる区間:上下方向)
本区間では、ドラムカム301の回転にともなって、上下動作カムフォロワ302は半径が大きいほうの円弧部分に近づき、回転軸と上下動作カムフォロワ302との間の距離が次第に広がる。これにより、キャピラリ101と移動ステージ200の間の上下方向の距離が狭まる。
【0063】
(区間3:移動ステージ200を次の容器に移動させる区間その2:左右方向)
本区間では、区間2に続いて移動ステージ200が左右方向に移動する。ただし、左右動作カムフォロワ303が図6で説明した直交部分に次第に近づくため、移動ステージ200の左右方向の移動距離は次第に小さくなる。
【0064】
(区間3:移動ステージ200を次の容器に移動させる区間その2:上下方向)
本区間では、区間2に続いて移動ステージ200が上下方向に移動する。ただし、上下動作カムフォロワ302は半径が大きいほうの円弧部分に近づくため、移動ステージ200の上下方向の移動距離は次第に小さくなる。
【0065】
(区間4:キャピラリ101を容器に挿入している区間:上下方向)
本区間では、ドラムカム301の半径が大きいほうの円弧部分と上下動作カムフォロワ302とが接触しているため、回転軸と上下動作カムフォロワ302との間の距離は最も大きくなる。キャピラリ101の位置は固定であるため、キャピラリ101と移動ステージ200は本区間において最も接近し、キャピラリ101が容器内に挿入される。本区間では、図5で説明したように、移動ステージ200は上下方向にはあまり移動しない。
【0066】
(区間4:キャピラリ101を容器に挿入している区間:左右方向)
本区間では、左右動作カムフォロワ303と、図6で説明した直交部分とが接しているため、移動ステージは左右方向にはあまり移動しない。
【0067】
図8は、図7で説明した動作を移動ステージ200の座標として示した図である。図8に示すように、ドラムカム301の回転にともなって、移動ステージ200は左右方向と上下方向ともに移動する。ただし、区間4ではキャピラリ101を容器内に挿入した状態で留めておきたいため、上下方向/左右方向ともに、移動量は少なくなっている。その他の区間では、移動ステージ200は上下方向/左右方向ともに比較的大きく移動する。
【0068】
以上のように、本実施の形態2によれば、ドラムカム301は、移動ステージ200を左右方向に移動させる動作と、上下方向に移動させる動作を、並行して行なうように構成されている。これにより、移動機構300の構成を簡易化し、キャピラリ電気泳動装置100の製造コストを低減するなどの効果を発揮することができる。また、構造が簡易化されることにより、構造的な脆弱性が緩和され、信頼性の観点からも好ましい。
【0069】
また、本実施の形態2によれば、ドラムカム301は上下動作カムフォロワ302を上下運動させる偏心カムとして構成されるとともに、左右動作カムフォロワ303を溝に沿って左右方向に移動させるように構成されている。これにより、簡易な構造で上記機能を発揮することができる。
【0070】
また、本実施の形態2によれば、ドラムカム301の底面は半径が大きい部分と小さい部分を有する。半径が大きいほうの円弧部分と上下動作カムフォロワ302とが接触している区間(図7における区間4)では、上下動作カムフォロワ302の上下方向の移動量が少なくなっている。これにより、キャピラリ101を容器内に挿入している間は、移動ステージ200が上下方向にあまり移動せず、キャピラリ101を容器内に略固定させることができる。
【0071】
また、本実施の形態2によれば、半径が大きいほうの円弧部分と上下動作カムフォロワ302とが接している区間(図7における区間4)では、左右動作カムフォロワ303と直交部分とが接するように構成されている。これにより、キャピラリ101を容器内に挿入している間は、移動ステージ200が左右方向にあまり移動せず、キャピラリ101を容器内に略固定させることができる。
【0072】
<実施の形態3>
実施の形態2において、ドラムカム301と上下動作カムフォロワ302は、移動ステージ200の自重により接しているが、バネ等を用いて押し付けてもよい。
【0073】
また、図5で説明したドラムカム301の底面形状(断面形状)は、ドラムカム301全体で共通であるが、断面形状を部位によって変えてもよい。これにより、部位によって移動ステージ200が到達する高さが異なることになるため、様々な上下動作を実現することができる。
【0074】
また、図6で説明したドラムカム301の溝形状は、ドラムカム301全体で共通であるが、溝形状を部位によって変えてもよい。これにより、部位によって移動ステージ200の左右方向の移動軌跡が異なることになるため、様々な左右動作を実現することができる。
【0075】
<実施の形態4>
本発明の実施の形態4では、各容器、移動ステージ200、クリップ250などの形状を工夫し、誤配置を防止する構成を説明する。その他の構成は、実施の形態1〜3いずれかと同様である。
【0076】
以上の実施の形態1〜3において、キャピラリ電気泳動装置100を用いて分析を行う手順はあらかじめ決まっている。したがって、バッファ容器211〜213およびサンプル容器221〜222は、所定位置にのみ配置することができるように構成されていることが望ましい。
【0077】
そこで本実施の形態4では、バッファ容器211〜213とサンプル容器221〜222のサイズまたは形状をそれぞれ違うものとし、各容器を配置する移動ステージ200の窪みの形状を容器に合わせて形成しておく。これにより、容器の位置を誤って配置すると、各容器の上面が揃わず、容器の配置位置を誤ったことを操作者が目視によって容易に認識することができる。また、容器上面が揃っていないとクリップ250を移動ステージ200に取り付けることができないため、同様に操作者が容器の誤配置を容易に認識することができる。
【0078】
また、蒸発防止膜260の外径が各容器の内径とマッチしていない場合、蒸発防止膜260を各容器に取り付けることができないため、同様に操作者が容器の誤配置を容易に認識することができる。すなわち、蒸発防止膜260と容器の組合せが整合しないため、操作者は異常があることを明確に認識し、誤配置を確実に防止することができる。蒸発防止膜260は、容器毎にバラで提供することもできるが、上記観点から、各容器の配置に合わせた形状で一体的に形成することが望ましい。
【0079】
サンプル容器221〜222は、前処理などの観点から、バッファ容器211〜213と一体でない方が使い勝手がよいが、誤配置を防ぐため、サンプル容器221〜222とバッファ容器211〜213を一体的に構成してもよい。このとき、バッファ容器211〜213の中にバッファ溶液230があらかじめ入れられた状態でユーザに提供してもよい。これにより、サンプル240を入れる箇所をユーザが間違える可能性が低くなるため、誤配置防止の観点から望ましい。
【0080】
バッファ溶液230は、フィルムなどでバッファ容器211〜213に密封された状態でユーザに提供するとよい。ユーザは、バッファ容器211〜213を使用する際にこのフィルムを剥がす。これにより、バッファ溶液230が使用前に汚染されることを防止できる。
【0081】
バッファ容器211〜213は、容器毎にバッファ溶液230の容量を変えてもよい。すなわち、分析種類に応じてバッファ溶液230の分量を調整することもできる。この場合、電気泳動を実施する時のバッファ溶液230の液面は、アノード側のバッファ液面と同一とする必要がある。そこで、バッファ容器の深さを調整し、液面をアノード側のバッファ液面と同一に保ちつつ、容量を変更するとよい。
【符号の説明】
【0082】
100:電気泳動装置、101:キャピラリ、102:キャピラリアレイ、103:ポンプ機構、104:光学系、105:高圧電源、106:オーブン、107:オートサンプラ、108:シリンジ、109:ブロック、110:逆支弁、111:ポリマー容器、112:陽極バッファ容器、113:陽極電極、114:陰極電極、115:キャピラリ陰極端、116:ロードヘッダ、117:キャピラリヘッド、200:移動ステージ、211〜213:バッファ容器、221〜222:サンプル容器、230:バッファ溶液、240:サンプル、250:クリップ、260:蒸発防止膜、300:移動機構、301:ドラムカム、302:上下動作カムフォロワ、303:左右動作カムフォロワ、304:上下動作リニアガイド、305:左右動作リニアガイド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャピラリとポリマーを用いて電気泳動によりサンプルを分離、検出するキャピラリ電気泳動装置であって、
1本以上のキャピラリと、
前記キャピラリに供給するバッファ溶液を収納する複数のバッファ容器と、
を備えることを特徴とするキャピラリ電気泳動装置。
【請求項2】
前記キャピラリに供給する試料を収納するサンプル容器と、
前記キャピラリを移動させて前記バッファ容器内の前記バッファ溶液および前記サンプル容器内の前記試料に接触させる移動機構と、
を備え、
前記バッファ容器と前記サンプル容器は、
前記移動機構が前記キャピラリを前記バッファ溶液および前記試料に接触させる順番と同じ順番で配置されている
ことを特徴とする請求項1記載のキャピラリ電気泳動装置。
【請求項3】
前記バッファ容器および前記サンプル容器を保持する移動ステージを備え、
前記移動機構は、
前記移動ステージを前記順番にしたがって水平方向に移動させる水平移動と、
前記移動ステージを垂直方向に移動させて前記キャピラリを前記バッファ容器内および前記サンプル容器内に挿入する垂直移動と、
を並行して行うように構成されている
ことを特徴とする請求項2記載のキャピラリ電気泳動装置。
【請求項4】
前記移動機構は、
側面に溝を有し水平方向に沿って配置されたドラムカムと、
前記移動ステージを前記ドラムに対して支持する支持部と、
を備え、
前記ドラムカムは、
前記支持部を垂直方向に移動させるカムとして構成されており、
前記支持部を前記溝に嵌合させて回転することにより前記支持部を前記溝に沿って滑動させて前記移動ステージを水平方向に移動させる
ことを特徴とする請求項3記載のキャピラリ電気泳動装置。
【請求項5】
前記ドラムカムのカム形状は、半径が大きい部分と小さい部分を有し、
前記移動機構は、
前記円弧部のうち半径が大きいほうと前記支持部とが接している区間では、前記移動ステージの垂直方向の移動量がその他の区間よりも少なくなるように構成されている
ことを特徴とする請求項4記載のキャピラリ電気泳動装置。
【請求項6】
前記溝は、
前記ドラムカムの回転軸方向に対して斜交する斜交部分と、
前記ドラムカムの回転軸方向に対して略直交する直交部分と、
を有し、
前記円弧部のうち半径が大きいほうと前記支持部とが接している区間では、前記支持部が前記直交部分と接するように構成されている
ことを特徴とする請求項5記載のキャピラリ電気泳動装置。
【請求項7】
前記キャピラリに供給する試料を収納するサンプル容器と、
前記バッファ容器および前記サンプル容器を保持する移動ステージと、
を備え、
前記バッファ容器の形状と前記サンプル容器の形状またはサイズのうち少なくともいずれかが異なっている
ことを特徴とする請求項1記載のキャピラリ電気泳動装置。
【請求項8】
前記移動ステージのうち前記バッファ容器と前記サンプル容器を保持する部分は、それぞれ前記バッファ容器の形状と前記サンプル容器の形状およびサイズに合致する形状を有する
ことを特徴とする請求項7記載のキャピラリ電気泳動装置。
【請求項9】
前記バッファ溶液および前記試料が前記バッファ容器および前記サンプル容器から蒸発することを防ぐ蒸発防止膜を備え、
前記蒸発防止膜は、前記バッファ容器の形状または前記サンプル容器の形状に合致して各容器の上部を覆う蓋部を有し、
前記蓋部は、前記バッファ容器および前記サンプル容器が配置される順番と同じ順番で配置されている
ことを特徴とする請求項8記載のキャピラリ電気泳動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−122963(P2011−122963A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281453(P2009−281453)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)