説明

キャプスタンロールおよび伸線機

【課題】線材を伸線する際の、この線材の表面の微細な傷の発生を抑制する。
【解決手段】摺接面の輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が、0.005〜0.01mmであることを特徴とするキャプスタンロールを提供する。また、摺接面がジルコニアからなり、前記摺接面における単斜晶が5mol%以下であることを特徴とするキャプスタンロールを、提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属等の線材を伸線する伸線機、および伸線機に用いるキャプスタンロールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば半導体モジュールに使用されるボンディングワイヤ等の作製に、キャプスタンロールを備える伸線機が用いられてる。このような伸線機では、伸線ダイスとキャプスタンを用いて、Au、Cu、Ag、Alなどの金属線を連続的に伸線し、比較的小さな径の細線ワイヤを作成している。
【0003】
近年、半導体素子の高集積化や、半導体素子の組み立てコストの低減を目的とし、ボンディングワイヤの径も、10μm〜20μmと、従来よりも比較的小さいことが求められている。金属線は、線径が小さくなるほど抗張力は低減する傾向にあり、キャプスタンロールを備える伸線機を用いて金属線を伸線した場合、伸線後の金属線(ワイヤ)の表面に比較的多くの傷が発生する場合もあった。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、「案内キャプスタンのワイヤとの接触面の算術平均高さ(Ra)がRa0.05μm以下であり、駆動キャプスタンのワイヤとの接触面の算術平均高さ(Ra)がRa0.005〜0.05μmであるセラミックス製キャプスタン」が開示されている。下記特許文献1記載のキャプスタンによると、キャプスタンのワイヤと接触する面が滑らかであるため、キャプスタンによるボンディングワイヤ表面欠陥の発生が抑えられる、と下記特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特許第3767339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に規定されている算術平均高さ(Ra)のキャプスタンローラを用いても、金属線を伸線して形成したボンディングワイヤに、微細な傷等が生じている場合があった。このように微細な傷が生じているボンディングワイヤを用いた場合、半導体装置を製造する際のボール形成時に真球のボールが出来なかったり、ボンディングの途中でワイヤが破断したりするトラブルが、比較的発生し易かった。本願発明は、かかる課題を解決するキャプスタンロール、および該キャプスタンロールを備えた伸線機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、線材との摺接面を備えたキャプスタンロールであって、前記摺接面の輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が、0.005〜0.01mmであることを特徴とするキャプスタンロールを提供する。
【0007】
前記輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は、前記摺接面の、前記キャプスタンロールの軸方向に沿った輪郭線から求められた値であってもよい。
【0008】
なお、前記摺接面はジルコニアからなることが好ましい。また、前記摺接面はジルコニアからなり、前記摺接面における単斜晶が5mol%以下であることが好ましい。
【0009】
本発明は、また、線材との摺接面を備えたキャプスタンロールであって、前記摺接面はジルコニアからなり、前記摺接面における単斜晶が5mol%以下であるキャプスタンロールを提供する。
【0010】
なお、前記ジルコニアが、YOを焼結助剤とする部分安定化ジルコニアからなることが好ましい。
【0011】
また、前記YOの含有量が、2〜6mol%の範囲であることが好ましい。
【0012】
本発明は、また、上記キャプスタンロールと、キャプスタンロールを駆動する駆動手段と、を備えて構成されたことを特徴とする伸線機を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本願発明によれば、線材を伸線する際の、この線材の表面の微細な傷の発生を抑制する。本願発明によって形成されたワイヤを用いることで、ワイヤボンディング工程における不良の発生を比較的少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0015】
図1は本発明に係るキャプスタンロールの一実施形態を示す斜視図である。
【0016】
図1に示すキャプスタンロール1は、いわゆるコーン型のキャプスタンロールであって、軸方向に沿って分割された各部分毎に径が異なる、複数段の表面を有するキャプスタンロールである。
【0017】
図1に示すキャプスタンロールは、内周に回転軸(不図示)が挿入自在な貫通孔4を備えており、軸方向に沿って分割された各部分毎に径が異なる、複数段の摺接面2を備えている。キャプスタンロール1は、各摺接面2を挟み込むように、摺接面2よりも径の大きい鍔3を備えている。
【0018】
図1に示すキャプスタンロールは、摺接面2がジルコニアからなる。摺接面2をジルコニアで構成した場合、キャプスタンロール表面の耐久性、耐衝撃性、耐熱性を、比較的高いものとすることができる。なお、キャプスタンロールの表面は、ジルコニアでなく、例えばジルコニア以外のセラミックス、例えば窒化珪素等から構成されていてもよい。なお、キャプスタンロールの表面は、セラミックスであることにも限定されない。
【0019】
また、図1に示すキャプスタンロールは、後に詳述するように、摺接面2が研削加工されて作製されたものである。一般的なセラミックス材料は、例えば金属等と比較すると破壊靱性値が比較的小さいが、ジルコニアはそのセラミックスの中でも比較的破壊靱性値が大きい。このため、ジルコニアは、研削加工した際、研削後の表面の欠陥(ボイド等)が比較的少なく、表面(摺接面2)が鏡面になり易い傾向を有している。また、一方、ジルコニアは、セラミックスの中で比較的破壊靱性値が大きい為、研削面に、塑性流動型の研削状痕を生じやすい。すなわち、研削加工によって形成されたキャプスタンロールの摺接面2には、摺接面2の周方向に沿って比較的長く、細かい凹部および凸部が存在している。図1に示すキャプスタンロール1にも、周方向に沿って連続した凹部および凸部からなる、研削状痕が存在している。
【0020】
キャプスタンロール1について詳細に説明するに先がけて、本発明のキャプスタンロール1を備えて構成される伸線機の一実施形態について説明し、キャプスタンロール1の機能について説明しておく。
【0021】
図2は、図1に示すキャプスタンロールを備えて構成される伸線機の一実施例を示す概略断面図である。図2の伸線機100は、いわゆる並列掛け伸線構造となっている。伸線機100では、機台12に回転軸13および回転軸14が設けられており、回転軸13および回転軸14の双方に、キャプスタンロール1が固定されている。すなわち、回転軸13および回転軸14の回転に従動し、各々の回転軸に固定されたキャプスタンロール1が、それぞれ回転する。回転軸13と回転軸14との間隙には、複数のダイス(ダイス群6)が配置されている。上述のように、キャプスタンロール1は、各部分毎に径が異なる、複数段の摺接面2を備えている。
【0022】
機台12の底部には、駆動モータ15、駆動プーリー18、従動プーリー16および17、駆動ベルト19が備えられている。駆動プーリー18と従動プーリー16および17には、駆動ベルト19が掛け回されており、駆動モータ15によって駆動プーリー18が回転され、従動プーリー16および17の双方も従動して回転する。従動プーリー16は回転軸13と接続され、駆動プーリー17は回転軸14と接続されており、駆動モータ15によって、回転軸13および14が回転駆動される。
【0023】
伸線機100では、案内ローラ20を介して外部から送られてくる線材Wを、2つのキャプスタンロール1に掛け回しながら搬送する。具体的には、外部から送られてくる線材Wを、キャプスタンロール1間に配置したダイス群6に通過させ、駆動モータ15の駆動によりキャプスタンロール1を回転させる。この際、線材Wは、キャプスタンロール1の複数段状の摺接面2のうち、径の小さい方から径の大きい方へと、順次掛け回されていく。線材Wは、例えば金(Au)からなる。線材Wは、金(Au)以外でも、例えばCu、Ag、Alなど各種金属線であってもよい。
【0024】
伸線機100では、伸線機100の駆動モータ15の駆動により、キャプスタンロール1が回転され、線材Wはダイス群6内を強制的に順次通過しつつ縮径されて伸線される。
【0025】
本実施形態のキャプスタンロール1は、例えば図2に一例を示す伸線機に用いる。かかる伸線機において、キャプスタンロール1は線材Wを引き伸ばすとともに、線材Wの搬送方向を規定して、線材Wの搬送をガイドする。
【0026】
図1に示すキャプスタンロール1は、セラミックス製キャプスタンロールであり、キャプスタンロール上へは金属細線による機械的応力がほとんどかからない上、セラミックスの一般的な特徴として耐摩耗性に優れていることから、軟質の高純度金属の細線であってもダイヤモンド・ダイスによって縮径され、キャプスタンロール上を摺接しながら連続的に伸線を行うことが出来る。
【0027】
さらに、図1に示すキャプスタンロール1は、線材Wと摺接する摺接面2の輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が、0.005〜0.01mmとされている。輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)を、これらの範囲とすることで、線材Wが比較的小さくい場合でも、線材Wに生じる傷等のダメージの程度を比較的小さくすることが出来る。なお、キャプスタンロールの輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は、0.005mmより小さくとも構わない。キャプスタンロールの輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が、0.005mmより小さくとも、算術平均粗さのみを規定したキャプスタンロールに比べて、線材Wに生じる傷等のダメージの程度を比較的小さくすることが出来る。
【0028】
ここで、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は、JIS B0601−2001に準拠した値である。輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)の測定には、例えば、株式会社小坂研究所 表面粗さ測定器 サーフコーダSE−2300を用いて、基準長さ0.4mmでカットオフ値を0.08mmとすればよい。なお、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は、JIS B0601−2001に準拠した値であればよく、上記測定器を用いた値でなくとも構わない。
【0029】
図3は、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)について説明する図である。輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)とは、基準長さにおける輪郭曲線要素Xsの平均を表している。表面粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜き取り部分において隣り合う一対の山と谷の横方向の和を求め、算術平均値をミリメートルで表したものをいう。
【0030】
本実施形態において、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は、摺接面のキャプスタンロールの軸方向に沿った輪郭線から求められた値である。
【0031】
図4は、キャプスタンロールの摺接面近傍を拡大して示す模式図であり、(a)は、本実施形態のキャプスタンロール1の摺接面2と線材Wの概略を模式的に示す断面図であり、(b)は本実施形態とは異なるキャプスタンロールについて模式的に示す断面図である。
【0032】
従来、算術平均高さによって、キャプスタンロールの表面性状を規定することが行われていた。例えば算術平均高さの測定には、JIS0601に準拠し、先端径が半径5μmの触針を用いている。従来規定していた算術平均高さは、この測定対象体の表面に接触させて輪郭曲線を取得し、この輪郭曲線から得られた値である。なお、図4では、線材Wの断面形状を略円形で示しているが、例えば多角形状であってもよく、線材Wの断面形状は特に限定されない。
【0033】
ジルコニアなどのセラミックスからなるキャプスタンロールの表面には、結晶粒子の脱落などの伴う微細な剥離痕が生じている場合もあった。このため、キャプスタンロールの表面には、算術平均高さの測定値では有意な違いとして表れないレベルの、微細な凹凸が生じていることもある。本願出願人は、ジルコニア等のセラミックスの表面状態について、金属顕微鏡を用いて表面を比較観察した結果、算術平均高さ(Ra)の値が低くとも、見かけ上のボイドなどの凹凸は比較的多く存在している場合があることを確認している。
【0034】
また、上述のように、ジルコニアは、セラミックスの中で比較的破壊靱性値が大きい為、研削面に、塑性流動型の研削状痕を生じやすい。研削加工によって形成されたキャプスタンロールの摺接面2には、摺接面2の周方向に沿って比較的長く、細かい凹部および凸部が存在している。本実施形態において、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は、摺接面のキャプスタンロールの軸方向に沿った輪郭線から求められた値であり、本実施形態における輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)の大きさは、概略的には、研削状痕における凸部と凹部を一対とした時の間隔を表している。輪郭曲線要素の数値が比較的小さいほど、研削条痕の間隔が狭い傾向となる。
【0035】
図4(a)に示すように、これらの輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が細かい場合、摺接面2と線材Wとの接触点(表面積)が小さくなり、摩擦力が低減する。加えて、摺接面2に線材Wが当接された状態において、線材Wの高さ位置が揃うとともに、線材Wが摺接面2に沿って移動する際の抵抗(すなわち、引っ掛かりを生じるような部分)が少ない。一方、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)の数値が比較的大きいと、図4(b)に示すように、研削条痕の間隔が広い傾向となる。これらの輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が比較的大きいと、摩擦力は比較的大きくなる。また、線材Wが、摺接面2の凹部に嵌り込む状態が生じる場合も発生する。この場合、線材Wが摺接面2に沿って移動する際に、抵抗(すなわち、引っ掛かり等)が生じる。
【0036】
本実施形態のキャプスタンロール1では、摺接面2の輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が、0.005〜0.01mmとされており、摺接面2で線材がスリップすることなく効率的に伸線される程度な摩擦係数にすることができる。なお、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)の数値を、線材Wの直径未満にしておくことで、線材Wが摺接面2の凹部に嵌り込む状態も抑制され、線材Wを伸線する際の、断線や傷の発生を抑制することができる。また、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が、これらの値であることで、凹凸の谷の部分に潤滑材を十分に溜め込むことが出来る。凹凸の谷に一定の潤滑材を収容することで、磨耗を抑制することが出来る。
【0037】
また、本実施形態のキャプスタンロール1では、表面の単斜晶率が5mol%以下となっている。単斜晶率の測定方法としては、摺接面2をX線回折により結晶構造を解析することで算出することができる。X線回折による結晶構造の解析には、例えば、スペクトリス株式会社製PW3050を用い、測定条件2Θ=26°〜36°の範囲で、X線出力40Kvの50mAで測定すればよい。算出方法としては、数1の通りである。
【0038】
【数1】

【0039】
上述したように、従来行われていた算術平均高さ(Ra)は、結晶の脱粒程度の、微細な表面状態を有意に示しておらず、算術平均高さを管理するだけでは、比較的細い径の線材Wを作製するためのキャプスタンロール1の表面を管理することは難しかった。上述のように、算術平均高さ(Ra)の数値が同じ値であっても、微視的な表面状態は異なっており、線材Wよっては、算術平均高さを管理するだけでは、表面の傷や断線を充分に抑制することができない場合もあった。
【0040】
例えば、セラミック製キャプスタンローラで代表的なジルコニアの場合、加工ストレスにより、表面の結晶相が相変態することが知られている。例えば、正方晶が応力を受けることで相変態し、単斜晶に変化するわけであるが、それに伴い体積膨張を引き起こし、表面に劣化した層が形成されることがある。あるいは加工によって破壊変質層が形成されることがある。加工によって破壊変質層が形成されている表面では、表面のジルコニア結晶が容易に脱粒しやすく、脱粒した箇所がボイドとなって表面の欠陥となってしまう。これらの欠陥のあるキャプスタンロールを用いて線材を伸線加工した場合、線材の表面に傷が付いたり、線材の磨耗粉の付着が行われるので、線材の品質を粗悪にしたり、断線などの欠陥につながる。
【0041】
摺接面の表面の単斜晶率を5mol%以下とすれば、摺接面の表面の破壊変質層を比較的低く抑えることができる。キャプスタンロールの、摺接面の表面の単斜晶率を5mol%以下とすることで、表面のジルコニア結晶の脱粒を比較的少なくすることができる。摺接面の表面の単斜晶率が5mol%以下のキャプスタンロールによれば、線材を伸線する際に生じる、この線材の表面の傷や断線を、充分に抑制することができる。
【0042】
なお、本実施形態のキャプスタンロール1では、摺接面2の算術平均高さ(Ra)は0.2μm以下であることが好ましい。算術平均高さ(Ra)がRa0.2μm以下とすれば、線材の摩擦は比較的小さくすることができ、線材の表面の傷の発生を抑制することができる。本発明において、摺接面の算出平均高さは、0.05μm以下であることが好ましく、0.01μm以下であることがさらに好ましい。
【0043】
尚、算術平均高さ(Ra)の測定方法としては、例えば、株式会社小坂研究所 表面粗さ測定器 サーフコーダSE−2300を用いればよい。なお、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は、JIS B0601−2001に準拠した値であればよく、上記測定器を用いた値でなくとも構わない。
【0044】
また、本発明では、摺接面がジルコニアであることが好ましい。また、ジルコニアは、YOを焼結助剤とする部分安定化ジルコニアであることが好ましく、さらには、前記YOの含有量が、2〜6mol%の範囲であることがよい。これらのジルコニアは、耐食性、耐摩耗性に優れており、摺接面として用いることで、強度・破壊靭性を比較的高いものとすることができる。特に、線材として金(Au)線を用いて、この金線を延線する場合、メンテナンスの際に、摺接面に付着した金を王水にて溶解・洗浄することがある。YOを焼結助剤とする部分安定化ジルコニアは、王水に対しても耐食性が高く、摺接面2として用いることでメンテナンス性を向上させることができる。
【0045】
なお、YOの含有量が2〜6mol%の範囲とすると、正方晶から単斜晶への相変態し難くなり、摺接面は比較的高い耐摩耗性や耐食性を発揮することができる。耐摩耗性や耐食性を、より高くするには、YOの含有量を2〜4mol%の範囲とすることが、より好ましい。
【0046】
次にキャプスタンロール1の製造方法について説明する。
【0047】
本発明のキャプスタンロール1は、ジルコニア単体で形成されるものでも、摺接面2のみをジルコニアで形成した複数のリング状部材を、金属などに組み付けて形成したものであってもよい。また、摺接面と鍔を1つのジルコニア部材として形成したものであってもよい。
【0048】
また、ジルコニアとしては、公知な製造方法で得られるものでよく、ジルコニア粉末をCIPなどの成形方法にて、0.8〜1.5ton/cmの成形圧にて成形し、所望の形状に切削加工した後、1350〜1600℃にて焼成し、所望の形状に研削加工し、摺接面2を上記本発明のものとなるよう研磨加工すればよい。また、さらにボイドを小さく、且つ、強度・硬度を高める方法として、焼結後にHIP(熱間部水圧成形)を行うことをしてもよい。
【0049】
尚、必要に応じて仕上げ加工として、ホーニング加工や、ELID研削、テープ研磨などで仕上げてもよい。例えば、鋳鉄ボンドにて、60Vか90Vの20〜90%の範囲で電圧をかけて研削加工を行えばよい。また、例えば、砥粒の入ったテープにて研磨加工を行えばよい。
【0050】
セラミックスの研削加工においては、例えば、ダイヤモンド砥粒がセラミックスに当たってその接触応力によりクラックを発生させ、砥粒の通過とともに切り屑として掘り起こし加工が進行する。このときに発生する加工面の微視的な破壊は、応力の大小等に左右されるものである。研削加工の条件を制御することで、摺接面の表面形状や単斜晶率の割合を制御することができる。
【0051】
なお、本発明では、図1に示すコーン型のキャプスタンロール1以外に、図5や図6に示すようなキャプスタン径が一定であるロール型のものであってもよい。
【0052】
図5及び図6はそれぞれ本発明に係るキャプスタンロールの一実施例を示す斜視図である。
【0053】
図5は、鍔3を有するロール型のキャプスタンロール1で、図6は鍔のないロール型のキャプスタンロール1をそれぞれ示している。摺接面2と鍔3をセラミックスで製作しても良いし、摺接面2はセラミックスで、鍔3は金属で製作しても良い。また、図6のような鍔のないロール型であって、図7のように両端面に鍔がある形状でも良い。さらに、シャフト7は、内径がテーパーシャフトであっても良い。テーパーシャフトにすることで、同軸度を減少させることが出来る。
【0054】
尚、本発明は上記実施例で示す構造に限られるものではなく、例えばキャプスタンロール1の構造や駆動系統、張力制御機構、速度同調手段の構造及び回路構成等は適宜変更して設計される。また、本発明は、キャプスタンロールのみではなく、ダイスや圧延ロールなど、線材を摺接して用いるものに対して適用することができる。
【実施例】
【0055】
本願発明の複数のキャプスタンロール、および、本願発明とは異なる複数のキャプスタンロールを用いて金(Au)線材を伸線した結果を、下記表1に示す。下記表1に示す各実験例のキャプスタンロールを伸線機に装着し、線径0.025mmから線径0.015mmに伸線した。線径15μm〜25μmの破断荷重は83〜235mN程度であり、15μmの金属細線の破断荷重は、約83mN程度ある。伸線速度は、いずれの実験例の場合も100m/minとした。各実験例について、1000m伸線させるまでのたわみの発生の有無と、線材の断線の有無を確認した。表1において「断線する」とは、伸線の最中に線材が完全に切れてしまったことを示す。また、「たわみ」とは、線材の入り側と出側の張力差によって発生し、キャプスタンロールの前後にテンションメータを取り付けて定量的に測定することが出来る。これは、入り側をT、出側をTとした時にT/Tという比によって求めるもので、0.9以下の場合に、「たわみが発生した」という判定をしている。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示すように、摺接面の輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が、0.005〜0.01mmにある場合、いずれの実験例でもスリップは発生していない。また、摺接面における単斜晶が5mol%以下である場合、いずれの実験例でも断線は発生しなかった。
【0058】
逆に、実験例16に示されるように、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.01mmより大きい場合、単斜晶が5mol%以下であってもスリップが発生した。また、実験例15に示されるように、単斜晶が5mol%より大きい場合、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が、0.005〜0.01mmの範囲にあっても、断線が生じた。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係るキャプスタンロールの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示すキャプスタンロールを備えて構成される伸線機の一実施例を示す概略断面図である。
【図3】輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)について説明する図である。
【図4】キャプスタンロールの摺接面近傍を拡大して示す模式図であり、(a)は図1に示すキャプスタンロールの摺接面と線材を模式的に示す断面図であり、(b)は図1とは異なるキャプスタンロールについて模式的に示す断面図である。
【図5】本発明に係るキャプスタンロールの他の例を示す斜視図である。
【図6】本発明に係るキャプスタンロールの他の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0060】
1 キャプスタンロール
2 摺接面
3 鍔
4 貫通孔
12 機台
13、14 回転軸
15 駆動モータ
16、17 従動プーリー
18 駆動プーリー
19 駆動ベルト
100 伸線機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材との摺接面を備えたキャプスタンロールであって、
前記摺接面の輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が、0.005〜0.01mmであることを特徴とするキャプスタンロール。
【請求項2】
前記輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は、前記摺接面の、前記キャプスタンロールの軸方向に沿った輪郭線から求められた値であることを特徴とする請求項1記載のキャプスタンロール
【請求項3】
前記摺接面はジルコニアからなることを特徴とする請求項1または2記載のキャプスタンロール。
【請求項4】
前記摺接面における単斜晶が5mol%以下であることを特徴とする請求項3記載のキャプスタンロール。
【請求項5】
線材との摺接面を備えたキャプスタンロールであって、
前記摺接面はジルコニアからなり、
前記摺接面における単斜晶が5mol%以下であることを特徴とするキャプスタンロール。
【請求項6】
前記ジルコニアが、YOを焼結助剤とする部分安定化ジルコニアからなることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載のキャプスタンロール。
【請求項7】
前記YOの含有量が、2〜6mol%の範囲であることを特徴とする請求項6に記載のキャプスタンロール。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかのキャプスタンロールと、前記キャプスタンロールを駆動する駆動手段と、を備えて構成されたことを特徴とする伸線機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−178719(P2009−178719A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17435(P2008−17435)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】