説明

キャンセルカム構造及び回転コネクタ装置

【課題】キャンセルカム構造とラチェットとの接触音(打音)を小さく抑えることができるキャンセルカム構造及び回転コネクタ装置を提供すること。
【解決手段】カム部12を、ラチェット20の摺動を許容する外周カム壁13aと、該外周カム壁13aより径内側の内側壁13bと、外周カム壁13a及び内側壁13bの両端部同士を連結する連結カム壁13c,13dとで構成し、外周カム壁13a、内側壁13b、及び連結カム壁13c,13dをステアリングシャフトの軸方向Xに平行な方向に形成すると共に、外周カム壁13a、内側壁13b、及び連結カム壁13c,13dで囲繞する囲繞空間Sを構成し、該囲繞空間Sを分断する分断壁14,140を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の曲る方向を指示するターンレバーを、ステアリングホイールの回動によって左折指示回動位置又は右折指示回動位置から中立位置に回動復帰させるキャンセルカム構造及び回転コネクタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の運転者は、右折又は左折、或いは、車線変更する際、ターンレバーを反時計方向(左折指示回動方向)又は時計方向(右折指示回動方向)へ回動操作することで自動車の旋回方向を指示し、ステアリングホイールを中立位置から旋回方向へ回動操作する。
【0003】
その後、自動車が右折又は左折、或いは、車線変更し終わると、運転者は、ステアリングホイールを上記回動操作と反対方向へ回動操作して中立位置に戻す。このとき、近年の自動車においては、上述の運転者がステアリングホイールを中立位置に戻す回動操作に伴ってターンレバーが自動的に中立位置に復帰できる構成となっている。
【0004】
これは、例えば、図7及び図8(或いは、特許文献1)に示すように、上記ターンレバー40と、キャンセルカム構造10′と、ブラケット30と、ラチェット20とで構成するキャンセル機構1′によって実現している。
【0005】
上記キャンセルカム構造10′は、ステアリングホイール(図示省略)の回動操作によって該ステアリングホイール(図示省略)と同様に回動する構成である。また、上記ブラケット30は、ターンレバー40及びキャンセルカム構造10′の間に配置され、キャンセルカム構造10′及びターンレバー40の回動によって回動可能な構成である。さらに、上記ラチェット20は、ステアリングホイールを回動操作して中立位置Nに戻す際のキャンセルカム構造10′の回動力をブラケット30に伝達してブラケット30及びターンレバー40を中立位置Nに回動復帰させる構成である。
【0006】
詳述すると、図7に示すターンレバー40及びブラケット30が中立位置Nにある状態では、ラチェット20は、付勢手段を構成するラチェットスプリング22によりキャンセルカム構造10′側へ付勢されている。
また、このとき、当該ラチェット20にあってキャンセルカム構造10′とは反対側の反キャンセルカム側端部25は、ブラケット30に設けられたキャンセル用の2個の係合部32,33の間に位置されている。なお、ブラケット30は、節度手段(図示省略)により中立位置Nに保持されている。
【0007】
この状態から、図8に示す運転者によるターンレバー40の回動操作により、ターンレバー40及びブラケット30が、例えば、左折指示位置Lへ回動されると、ラチェットスプリング22の付勢力により、ラチェット20のキャンセルカム側端部24が、キャンセルカム構造10′におけるカム部12′に接触する状態となる。
【0008】
このとき、ラチェット20の反キャンセルカム側端部25は、前記2個の係合部32,33のうちの一方の係合部32に近接する状態となる。また、上記ブラケット30の回動に伴い、ターンシグナルスイッチが作動して左折用のターンシグナルランプが点滅するようになる。
【0009】
この左折指示状態で、運転者がステアリングホイールをターンレバー40の指示方向と同じ左方向(順方向)へ回動操作することによって、キャンセルカム構造10′が同左方向へ回動されると、キャンセルカム構造10′のカム部12′は、ラチェット20のキャンセルカム側端部24に一方から当たって、当該ラチェット20をラチェット軸部21を中心として揺動させる。
【0010】
この場合には、ラチェット20は、反キャンセルカム側端部25が近接した上記係合部32から離間する方向へ揺動されるのでカム部12′の通過を許容するようになり、ブラケット30及びターンレバー40は左折指示位置Lに保持されたままとなる。このような順回動時には、ターンシグナルスイッチもそのままで、左折用のターンシグナルランプは点滅した状態が継続する。
【0011】
これに対して、上記左折指示状態において、運転者がステアリングホイールをターンレバー40の指示方向とは反対の右方向へ回動操作し、キャンセルカム構造10′が同右方向へ回動されると、キャンセルカム構造10′のカム部12′がラチェット20のキャンセルカム側端部24に上記とは反対方向から当たって、当該ラチェット20を上述とは反対方向へ揺動するようになる。
【0012】
この場合には、ラチェット20は、反キャンセルカム側端部25が近接した係合部32に係合する方向へ回動するため、上記係合部32を介してブラケット30ひいてはターンレバー40が左折指示位置Lから中立位置N方向へ回動されて、中立位置Nに戻されるようになる。これに伴い、ターンシグナルスイッチ(図示省略)がオフして、左折用のターンシグナルランプ(図示省略)が消灯するようになる。
【0013】
なお、上記の説明はブラケット30が左折指示位置Lへ回動操作された場合についての説明であるが、ブラケット30が右折指示位置Rへ回動操作された場合には、各部材の回動方向が逆方向になるのみで、基本的な動作は上記と同様である。
【0014】
ところで、従来のキャンセルカム構造10′のカム部12′は、プラスチック製で、例えば、図9に示すように、ラチェット20のキャンセルカム側端部24が接触する円筒形の外周カム壁13a′と、該円筒形と中心軸の位置が同じで径が小さい円筒形の内側壁13b′と、径方向に張られた2つの連結カム壁13c′,13d′とで囲まれた筒状に形成され、その内部は空洞(囲繞空間S′)となっていた。
【0015】
この様なキャンセルカム構造10′のカム部12′の構成において、上記のターンレバーの左折指示位置L(或いは、右折指示位置R)への回動操作により、カム部12′にキャンセルカム側端部24が接触するとき、キャンセルカム構造10′のカム部12′とラチェット20のキャンセルカム側端部24との接触音(打音)が大きく、運転者にとって耳障りであるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2010−143460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
そこで、この発明は、キャンセルカム構造とラチェットとの接触音(打音)を小さく抑えることができるキャンセルカム構造及び回転コネクタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明は、ラチェットの接触を許容するカム部を有すると共に、ステアリングシャフトの軸方向に対する径外側に配置され、該ステアリングシャフトに接続されたステアリングホイールの回動に伴って回動するキャンセルカム構造であって、前記カム部を、前記ラチェットの摺動を許容する外周カム壁と、該外周カム壁より径内側の内側壁と、前記外周カム壁及び前記内側壁の両端部同士を連結する連結カム壁とで構成し、前記外周カム壁、前記内側壁、及び連結カム壁を前記軸方向に平行な方向に形成すると共に、前記外周カム壁、前記内側壁、及び連結カム壁で囲繞する囲繞空間を構成し、前記外周カム壁、前記内側壁、及び連結カム壁のうち少なくとも1つに前記囲繞空間に向かって突出する突出部を備えたことを特徴とする。
【0019】
この発明において、前記内側面には、周面や平面等様々な形状の面が含まれる。
この発明により、前記キャンセルカム構造と前記ラチェットとの接触音(打音)を小さく抑えることができる。
詳しくは、前記外周カム壁、前記内側壁、及び、前記連結カム壁のうち少なくとも1つから前記囲繞空間に向かって突出する前記突出部を備えたことで、前記カム部の剛性が高くなり、前記ラチェットが前記カム部に接触することによる前記カム部の振動の範囲及び振幅を小さくすることができる。従って、前記キャンセルカム構造と前記ラチェットとの接触音(打音)を小さく抑えることができ、運転者の乗り心地を向上させることができる。
【0020】
また、例えば、前記外周カム壁に前記囲繞空間へ突出する前記突出部を設けると、前記外周カム壁の質量が増大し、慣性により前記外周壁の振動が遅くなるため、前記キャンセルカム構造と前記ラチェットとの接触音を低くすることができる。
【0021】
この発明の態様として、前記外周カム壁を、前記軸方向に垂直な任意の断面の形状が、ステアリングシャフトの軸中心と前記任意の断面との交点を中心とし一定の径を有する円弧状であり、前記軸方向に一様に延びる構成とし、前記内側壁を、前記軸方向に垂直な任意の断面の形状が、前記軸中心と前記任意の断面との交点を中心とし、前記外周カム壁の径より小さい一定の径を有する円弧状であり、前記軸方向に一様に延びる構成とし、前記突出部を、前記軸方向に沿って直立する、前記囲繞空間を分断する平板状の分断壁で構成することができる。
【0022】
この発明により、前記キャンセルカムと前記ラチェットとの接触音(打音)をより小さく抑えることができる。
詳しくは、前記突出部を、前記軸方向に直立するように配置され、前記囲繞空間を分断する平板状の前記分断壁で構成したことで、前記突出部が前記分断壁でない場合に比べ前記カム部の剛性を高くすることができる。従って、記ラチェットが前記カム部に接触することによる前記カム部の振動の範囲及び振幅をより小さくすることができ、前記キャンセルカムと前記ラチェットとの接触音(打音)をより小さく抑えることができる。
【0023】
また、この発明により、前記カム部は前記軸方向に一様な形状であるので、上述の効果を発揮できる前記カム部のプラスチック成形を容易にできる。
また、この発明の態様として、前記分断壁は、径方向に沿って直立する配置とすることができる。
【0024】
この発明により、前記カム部における径方向の剛性を高くすることができる。従って、前記ラチェットが前記カム部の前記外周カム壁に径方向の外側から内側へ向かって接近して接触する場合の前記カム部の振動を大幅に抑制することができる。よって、前記ラチェットが前記カム部の中心軸に向かって接触する際に発生する接触音(打音)を大幅に小さく抑えることができる。
【0025】
また、この発明により、前記分断壁によって分割されることで区分けされた前記外周カム壁の部分の周方向の長さと、それと対向する前記内側壁の部分の周方向の長さとが各々異なるため、前記外周カム壁の振動による前記内側壁の共振が起こり難くなる。従って、前記ラチェットが前記カム部に接触する際に発生する接触音(打音)を小さく抑えることができる。
【0026】
また、この発明の態様として、前記分断壁を複数備えることができる。
この発明により、前記分断壁を1つだけ備えた前記カム部に比べて剛性が高くなるので、前記ラチェットと前記キャンセルカム構造との接触による前記キャンセルカム構造の振動をより小さくすることができ、従って、接触音(打音)をより小さく抑えることができる。
【0027】
また、この発明の態様として、前記分断壁を所定間隔を隔てて複数備え、隣り合う前記連続カム壁と前記分断壁、並びに、隣り合う前記分断壁同士の間隔を少なくとも2種類以上に設定することができる。
【0028】
この発明により、前記分断壁で仕切られる前記囲繞空間が形状の異なる2種類以上の空間から構成されるので、前記キャンセルカム構造の固有振動数を2つ以上に分散させることができる。従って、前記キャンセルカム構造の前記カム部の共振を抑制することができる。
【0029】
また、この発明は、環状の固定側リング板及び該固定側リング板の外周縁から垂直に延びる円筒状の外周筒部で構成する固定ケースと、環状の回転側リング板及び該回転リング板の内周縁から前記固定ケース側へ垂直に延びる円筒状の内周筒部で構成する回転ケースとを、時計回り方向及び反時計回り方向に相対回転可能に嵌合し、前記固定ケースの固定側リング板及び外周筒部と、前記回転ケースの回転側リング板及び内周筒部とで収容空間を構成し、前記収容空間に、前記固定ケース側と前記回転ケース側とを電気的に接続するフラットケーブルを巻き回して収容した回転コネクタに、上記キャンセルカム構造を備えた回転コネクタ装置であることを特徴とする。
【0030】
この発明により、前記キャンセルカム構造によって、前記ラチェットが前記キャンセルカム構造に接触することによる振動を小さく抑えることができるため、前記回転コネクタ本体に与える振動を小さく抑えた前記回転コネクタ装置を構成することができる。
【発明の効果】
【0031】
この発明により、キャンセルカム構造とラチェットとの接触音(打音)を小さく抑えることができるキャンセルカム構造及び回転コネクタ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】回転コネクタ装置の斜視図。
【図2】キャンセル機構の中立状態を示す説明図。
【図3】キャンセル機構の左折指示状態を示す説明図。
【図4】のキャンセルカム構造の平面図。
【図5】キャンセルカム構造の斜視図。
【図6】他の実施形態のキャンセルカム構造の平面図。
【図7】従来例のキャンセルカム機構の中立状態を示す説明図。
【図8】従来例のキャンセルカム機構の左折指示状態を示す説明図。
【図9】従来例のキャンセルカム構造の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
図1は、本実施形態のキャンセルカム構造10を有する回転コネクタ装置2を示す斜視図である。また、図2は、ステアリングホイール側から見たキャンセル機構1の中立状態を示す説明図であり、図3は、同じくステアリングホイール側から見たキャンセル機構1の左折指示状態を示す説明図である。
【0034】
また、図4は、コンビネーションスイッチ側(車体側)から見たキャンセルカム構造10の平面図であり、図5(a)は、コンビネーションスイッチ側(車体側)から見たキャンセルカム構造10の斜視図、図5(b)は、図5(a)におけるA−A断面図である。
【0035】
本実施形態の回転コネクタ装置2は、図1に示すように、回転コネクタ70にキャンセルカム構造10を備えた構成である。
図1における回転コネクタ装置2の下方には、図示しないステアリングホイールが備えられており、図1における回転コネクタ装置2の上面は、図示しない車体側のコンビネーションスイッチに取り付けられている。また、回転コネクタ装置2の中空部Hには、図示しないステアリングシャフトが挿入される。
【0036】
回転コネクタ70は、主に固定ケース71と、回転ケース72と、図示しないフラットケーブルとで構成している。
この固定ケース71は、環状の固定側リング板71a及び該固定側リング板71aの外周縁から垂直に図1の下方に延びる外周筒部71bで構成し、図1の上方に設けられた車体側の上記コンビネーションスイッチに固定されている。
【0037】
また、回転ケース72は、図示しない環状の回転側リング板及び該回転側リング板の内周縁から図1の上方に向かって垂直に延びる円筒状の内周筒部72bで構成している。また、図1の下方に備えられた上記ステアリングホイールに固定され、ステアリングホイールと共に回動する。なお、回転コネクタ装置2は、回転ケース72が上側となるように車載される。
【0038】
また、固定ケース71の固定側リング板71a及び外周筒部71bと、回転ケース72の回転側リング板及び内周筒部72bとで、フラットケーブルを収容する収容空間を構成している。このフラットケーブルは、収容空間に巻き回されて収容されており、固定ケース71側と回転ケース72側とを電気的に接続している。さらに、回転ケース72の内周筒部72bには、キャンセルカム構造10が取り付けられており、ステアリングホイールと共に一体に回動する構成である。
【0039】
本実施形態のキャンセル機構1は、図2及び図3に示すように、上述のキャンセルカム構造10、ブラケット30、ターンレバー40及びラチェット20で構成している。
【0040】
本実施形態のキャンセルカム構造10は、プラスチック製で、図4及び図5に示すように、ステアリングシャフトの挿入を許容する径を有するともに、概ね、ステアリングシャフトの軸方向Xに延びる円筒状の内筒11aと、該内筒11aと中心軸が同一で該内筒11aよりも径の大きい円筒状の外筒11bとで筒状に形成している。なお、ステアリングシャフトの軸中心と、内筒11a及び外筒11bの中心軸とが一致する構成である。
【0041】
さらに、キャンセルカム構造10は、中心軸方向に突出したカム部12を左右に対称に備えている。一方の側のカム部12は、筒状の外壁13と該外壁13で囲まれた囲繞空間Sを分断する分断壁14とで構成している。
【0042】
この外壁13は、外周カム壁13aと内側壁13bと連結カム壁13c,13dとで囲まれた筒状に形成している。
外周カム壁13aは、後述するラチェット20のキャンセルカム側端部24が接触する、ステアリングシャフトの軸方向Xに垂直な任意の断面が上記中心軸を中心とすると共に一定の径を有する円弧状であり、該軸方向Xに一様に延びる形状に形成している。
【0043】
また、内側壁13bは、外周カム壁13aと同様、該任意の断面の形状が上記中心軸を中心とすると共に外周カム壁13aの径より小さい一定の径を有する円弧状であり、上記軸方向Xに一様に延びる形状に形成している。
さらに、連結カム壁13c、12a4は、外周カム壁13a及び内側壁13bの端部同士を連結する、軸方向Xに沿って直立する平板状に形成している。
【0044】
また、分断壁14は、第1分断壁14aと第2分断壁14bと第2分断壁14cとで構成している。分断壁14(第1分断壁14a、第2分断壁14b、及び、第2分断壁14c)は、全て同じ厚みを有する平板状に形成しており、キャンセルカム構造10の軸方向X及び径方向に沿って直立するように配置されている。
【0045】
また、分断壁14は、図5(b)に示すように、軸方向Xにおけるカム部12の上端12Uから下端12Dにわたって設けられ、外周カム壁13aと内側壁13bとの間を接続している。さらに、分断壁14は、外壁13によって囲まれた囲繞空間Sをキャンセルカム構造10の周方向に4等分するように、周方向に等間隔に配置している。
【0046】
図2におけるキャンセルカム構造10の右側の近傍には、キャンセル機構内蔵ボディ50のボディ本体51が車体側に固定された状態に設けられている。このキャンセル機構内蔵ボディ50は、下部側のボディ本体51と、このボディ本体51の上面に装着される図示しないカバーとで構成している。
【0047】
キャンセル機構内蔵ボディ50のボディ本体51には、ブラケット30、ターンレバー40及びラチェット20が配置されている。
このブラケット30は、ブラケット軸部31を中心に、図2の矢印A1及びA2方向に回動可能に設けられている。ブラケット30の上面部には、キャンセル用の2個の係合部32,33を有するバックプレート34が設けられている。
【0048】
このバックプレート34は、図2中、矢印C1及び矢印C2方向に移動可能に設けられていると共に、通常時、バックスプリング35により、図2に示すバックスプリング35の平衡位置に保持されている。2個の係合部32,33は、キャンセルカム構造10側から見てハの字形に配置されている。
【0049】
また、ブラケット30の先端部側(キャンセルカム構造10側)には、山形状をなしコンビネーションスイッチ側(すなわち図2における紙面に対して垂直方向手前側)に突出しているガイド凸部36(図3参照)が形成されている。さらに、そのガイド凸部36の両側に当該ガイド凸部36より低いガイド凹部37が形成されている。
【0050】
ブラケット30の上面部の先端部側にはラチェット20が配置されていて、このラチェット20は、カバーにより上方から覆われている。ラチェット20の長手方向のほぼ中間部には上下方向に突出するラチェット軸部21がラチェット20と一体に設けられていて、ラチェット20は、ラチェット軸部21を中心として揺動可能となっている。
【0051】
ラチェット軸部21の下部は、上記ガイド凹部37に挿入され、ラチェット軸部21の上部は、カバーの内面に形成されたガイド溝52aに移動可能に挿入されている。ガイド溝52aは、ブラケット30の回動中心であるブラケット軸部31の中心と、キャンセルカム構造10の回動中心とを結ぶ線に沿う方向に延設されている。
【0052】
ラチェット20の下部にはスプリング用凹部が形成されていて、このスプリング用凹部に、引張りコイルスプリングからなるラチェットスプリング22の中間部が挿入されている。ラチェットスプリング22の長手方向の両端部はボディ本体51に引っ掛けられていて、ラチェット20は、このラチェットスプリング22の付勢力によりキャンセルカム構造10側(図2の矢印D方向)に付勢されている。
【0053】
ここで、ラチェット20は、上述のラチェット軸部21を中心に揺動が可能で、かつガイド溝52aに沿ってキャンセルカム構造10に対して近接及び離間する方向に移動可能に設けられている。ラチェット20において、キャンセルカム構造10側となるキャンセルカム側端部24は、ボディ本体51の開口部51aからキャンセルカム構造10側へ突出し、キャンセルカム構造10とは反対側の反キャンセルカム側端部25が、上記2個の係合部32,33間に位置している。
【0054】
ターンレバー40及びブラケット30が、図2に示す中立位置Nに配置された状態では、ラチェット20のラチェット軸部21の下部は、ガイド凹部37におけるガイド凸部36の先端部に対向する位置にあり、ラチェット20は、ラチェットスプリング22の付勢力に抗してキャンセルカム構造10から離間する方向(矢印Dとは反対方向)に変位している。
【0055】
この中立状態では、キャンセルカム側端部24が、キャンセルカム構造10におけるカム部12の回動軌跡E(図2参照)の外側に位置している。また、ラチェット20の反キャンセルカム側端部25は、2個の係合部32,33間のほぼ中央に位置している。
【0056】
この中立状態から、ターンレバー40が、例えば、左折指示方向である矢印A1方向へ回動操作されると、そのターンレバー40と共にブラケット30がブラケット軸部31を中心に同矢印A1方向へ回動され、図3に示す、左折指示位置Lに回動された状態となる。
【0057】
さらに、上述のブラケット30の左折支持位置Lへの回動により、ラチェット20のラチェット軸部21の下部がガイド凸部36の先端から外れ、ガイド凸部36の斜面に沿って、裾野側へ移動すると共に、ラチェットスプリング22の付勢力により矢印D方向へ変位した状態となる。また、ラチェット20のキャンセルカム側端部24が、キャンセルカム構造10におけるカム部12の外側カム壁12a1にラチェットスプリング22の付勢力により勢いよく接触する。この接触により打音が発生する。
【0058】
このとき、ラチェット20の反キャンセルカム側端部25は、一方の係合部32に近接もしくは接触した状態となる。また、前記ブラケット30の矢印A1方向への回動に伴い、図示しないターンシグナルスイッチは、左折用スイッチがオンされ、図示しない左折用のターンシグナルランプが点滅するようになる。
【0059】
この左折指示位置Lの投入状態で、ステアリングホイールの回動により、キャンセルカム構造10が、ターンレバー40の指示方向と同じ左方向(矢印F1方向)(順方向)へ回動されると、カム部12がキャンセルカム側端部24に矢印F1方向から当接する。
【0060】
この場合、ラチェット20は、ラチェット軸部21を中心にして、反キャンセルカム側端部25が近接した係合部32から離間する方向(矢印G1方向)に揺動するので、カム部12の矢印F1方向への通過を許容する。よって、ブラケット30及びターンレバー40は、左折指示位置Lに保持されたままとなる。
【0061】
これに対して、図3の左折指示位置Lの左折指示状態で、ステアリングホイールの回動により、キャンセルカム構造10がターンレバー40の指示方向と反対の右方向(矢印F2方向)へ回動されると、カム部12がキャンセルカム側端部24に矢印F2方向から当接する。
この場合、ラチェット20は、ラチェット軸部21を中心にして、反キャンセルカム側端部25が、近接した係合部32に係合する矢印G2方向に振られるように回動するようになる。
【0062】
このラチェット20の矢印G2方向への回動に伴い、反キャンセルカム側端部25が係合部32に係合して、ブラケット30を矢印A2方向へ回動させる回動力が作用する。これにより、ブラケット30及びターンレバー40が矢印A2方向へ回動して、図2に示す中立位置Nに戻され、以てキャンセル機構1によるセルフキャンセル動作がなされる。これに伴い、ターンシグナルスイッチの左折用スイッチはオフされ、左折用のターンシグナルランプは消灯される。
【0063】
上述のキャンセル機構1の動作説明では、ターンレバー40が左折指示位置L方向へ回動操作された場合について説明したが、ターンレバー40が右折指示位置R方向へ回動操作された場合には、各部材の回動方向が逆方向になるのみで、基本的な動作は上記と同様であるので、説明は省略する。
【0064】
上述したキャンセルカム構造10により、以下に述べる作用効果を奏する。
まず、キャンセルセルカム構造10のカム部12に外壁13で囲まれた囲繞空間Sを分断する分断壁14を備えたことで、カム部12の剛性が高くなり、ラチェット20のキャンセルカム側端部24がキャンセルカム構造10のカム部12に接触することによるカム部12の振動の範囲及び振幅を小さくすることができる。従って、キャンセルカム構造10とラチェット20との接触音(打音)を小さく抑えることができ、運転者の乗り心地を向上させることができる。
【0065】
また、カム部12は中心軸方向に一様な形状であるので、上述の効果を発揮できるカム部12のプラスチック成形を容易にできる。
また、分断壁14を径方向に沿って直立するように設けたことにより、カム部12は、特に径方向の剛性が高くなり、ラチェット20のキャンセルカム側端部24がキャンセルカム構造10におけるカム部12の外周カム壁13aに径方向の外側から内側へ向かって接近し、接触する場合のカム部12の振動を大幅に抑制することができる。よって、ラチェット20がカム部12の中心軸に向かって接触する際に発生する接触音(打音)を大幅に小さく抑えることができる。
【0066】
また、分断壁14によって分割されることで周方向に区分けされた外周カム壁13aの各部分の周方向の長さと、それと対向する内側壁13bの各部分の周方向の長さとが各々異なるため、外周カム壁13aの振動による内側壁13bの共振が起こり難い。従って、ラチェット20がカム部12に接触する際に発生する接触音(打音)を小さく抑えることができる。
【0067】
また、カム部12に囲繞空間Sを分断する分断壁14を複数備えたことにより、分断壁14を1つだけ備えたキャンセルカム構造に比べて、キャンセルカム構造10のカム部12の剛性が高く、ラチェット20のキャンセルカム側端部24とキャンセルカム構造10のカム部12との接触によるカム部12の振動音をより小さくすることができる。
【0068】
また、上述の如くキャンセルカム構造10は、ラチェット20のキャンセルカム側端部24がキャンセルカム構造10にカム部12に接触することによる振動を小さく抑えることができる。従って、回転コネクタ70本体に与える振動を小さく抑えた回転コネクタ装置2を構成することができる。
【0069】
なお、上述の作用効果は、ターンレバー40を左折指示方向(或いは、右折指示方向)に回動操作してラチェット20がカム部12に接触する際のみならず、キャンセル機構1のセルフキャンセル動作が完了するまでの間におけるラチェット20とカム部12とのあらゆる接触により発生する接触音に対しても有効に発揮される。
【0070】
この発明は、上述の本実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施形態を得ることができる。
例えば、図6に示すように、連結カム壁13cと第1分断壁140aとの間隔、及び、第3分断壁140cと連結カム壁13dとの間隔が、第1分断壁140aと第2分断壁14bとの間隔、及び、第2分断壁14bと第3分断壁140cとの間隔より広い構成としてもよい。
【0071】
この場合、分断壁140で仕切られる内部空間が形状の異なる2種類以上の空間から構成されるので、キャンセルカム構造100のカム部120の固有振動数を2つ以上に分散させることができ、従って、キャンセルカム構造100のカム部120の共振を抑制することができる。
【0072】
また、例えば、上述の本実施形態においては、キャンセルカム構造10を回転コネクタ70に備える構成であるが、これに限らず、キャンセルカム構造10を回転コネクタ70とは別部材に備えてもよい。
また、例えば、上述の本実施形態のキャンセルカム構造10は、キャンセル機構1のみならず、ラチェットとカム部12、120とが接触する他のあらゆるキャンセル機構に用いることができる。
【符号の説明】
【0073】
2…回転コネクタ装置
10,100…キャンセルカム構造
12,120…カム部
13a…外周カム壁
13b…内側壁
13c,13d…連結カム壁
14,140…分断壁
14a,140a…第1分断壁
14b…第2分断壁
14c,140c…第3分断壁
20…ラチェット
70…回転コネクタ
71…固定ケース
71a…固定側リング板
71b…外周筒部
72…回転ケース
72b…内周筒部
S…囲繞空間
X…軸方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラチェットの接触を許容するカム部を有すると共に、ステアリングシャフトの軸方向に対する径外側に配置され、該ステアリングシャフトに接続されたステアリングホイールの回動に伴って回動するキャンセルカム構造であって、
前記カム部を、
前記ラチェットの摺動を許容する外周カム壁と、
該外周カム壁より径内側の内側壁と、
前記外周カム壁及び前記内側壁の両端部同士を連結する連結カム壁とで構成し、
前記外周カム壁、前記内側壁、及び連結カム壁を前記軸方向に平行な方向に形成すると共に、前記外周カム壁、前記内側壁、及び連結カム壁で囲繞する囲繞空間を構成し、
前記外周カム壁、前記内側壁、及び連結カム壁のうち少なくとも1つに前記囲繞空間に向かって突出する突出部を備えた
キャンセルカム構造。
【請求項2】
前記外周カム壁を、
前記軸方向に垂直な任意の断面の形状が、ステアリングシャフトの軸中心と前記任意の断面との交点を中心とすると共に、一定の径を有する円弧状であり、前記軸方向に一様に延びる構成とし、
前記内側壁を、
前記軸方向に垂直な任意の断面の形状が、前記軸中心と前記任意の断面との交点を中心とすると共に、前記外周カム壁の径より小さい一定の径を有する円弧状であり、前記軸方向に一様に延びる構成とし、
前記突出部を、
前記軸方向に沿って直立し、前記囲繞空間を分断する平板状の分断壁で構成する
請求項1に記載のキャンセルカム構造。
【請求項3】
前記分断壁は、径方向に沿って直立する配置である
請求項2に記載のキャンセルカム構造。
【請求項4】
前記分断壁を複数備える構成である
請求項2又は3に記載のキャンセルカム構造。
【請求項5】
前記分断壁を所定間隔を隔てて複数備え、隣り合う前記連続カム壁と前記分断壁、並びに、隣り合う前記分断壁同士の間隔を少なくとも2種類以上に設定する
請求項3又は4に記載のキャンセルカム構造。
【請求項6】
環状の固定側リング板及び該固定側リング板の外周縁から垂直に延びる円筒状の外周筒部で構成する固定ケースと、
環状の回転側リング板及び該回転リング板の内周縁から前記固定ケース側へ垂直に延びる円筒状の内周筒部で構成する回転ケースとを、
時計回り方向及び反時計回り方向に相対回転可能に嵌合し、
前記固定ケースの固定側リング板及び外周筒部と、前記回転ケースの回転側リング板及び内周筒部とで収容空間を構成し、
前記収容空間に、前記固定ケース側と前記回転ケース側とを電気的に接続するフラットケーブルを巻き回して収容した回転コネクタに、
請求項1から5のいずれかに記載のキャンセルカム構造を備えた
回転コネクタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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