説明

キラル化合物の製造方法および製造中間体

【課題】キラル化合物の製造方法、及びキラル化合物の製造中間体を提供する。
【解決手段】中心部前駆体とカルボキシル基を有する側鎖部前駆体の混合酸無水物を反応させることにより、キラル化合物を含む反応液を得る工程(I)、及び、得られた反応液を分液操作することなく、反応液に所定量のアルコールを添加して、前記キラル化合物を結晶化させる工程(II)を含むキラル化合物の製造方法、並びに、下記式(1−1)で示される化合物。


(X17〜X20は、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、−OR、−C(=O)−OR等を表し、Rは炭素数1〜10のアルキル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール性水酸基を有する中心部前駆体のフェノール性水酸基と、カルボキシル基を有する側鎖部前駆体のカルボキシル基とがエステル結合してなるキラル化合物を工業的に有利に製造する方法、及びキラル化合物の製造中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
キラル化合物は、ネマチック液晶に添加されることによりコレステリック液晶を調製できる光学活性化合物として有用である。かかるキラル化合物として、フェノール性水酸基を有する中心部前駆体のフェノール性水酸基と、カルボキシル基を有する側鎖部前駆体のカルボキシル基とがエステル結合してなる光学活性化合物が知られている。
【0003】
従来、キラル化合物の製造方法としては、フェノール性水酸基を有する中心前駆体とカルボキシル基を有する側鎖部とをエステル結合〔−O−C(=O)−〕により連結する場合、側鎖部前駆体のカルボン酸を酸クロライドに変換し、このものを、フェノール性水酸基を有する中心前駆体とを反応させてエステル化する方法が知られている(非特許文献1、2)。
【0004】
しかし、この酸クロライドを経由する製造方法(酸クロライド法)は、酸クロライドの調製時において、塩化チオニル等の塩素化剤との反応により酸が発生するため、この方法を、酸に対し不安定な官能基(例えば、α、β-不飽和カルボニル基、アミド基、イミノ基等)を有する化合物に適用することが困難であった。また、アジン結合を有する化合物は酸性条件下において不均化反応を生じやすいため、酸クロライド法により、アジン結合及びフェノール性水酸基を有する中心前駆体に、側鎖部をエステル結合により連結する場合、収率よく目的物を得ることができない場合があった。
【0005】
更に、これら一連の反応の後処理には、一般的に水洗、酸洗浄、有機溶媒抽出、分液操作等の煩雑な操作を必要とする。また、有機溶媒抽出の際に、激しい乳化状態となって、非常に多量の有機溶媒及び水を必要とする場合や、結果として後処理できない事態に陥る場合も多く、高い生産効率で目的物を単離することが困難であった。
【0006】
一方、酸クロライド法以外のエステル化方法として、N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド等に代表される縮合剤を用いる方法も知られている(特許文献1)。この方法では、中性で比較的温和な条件でエステル化することが可能となる。しかし、これらの縮合剤は高価であるだけでなく、副生成物である尿素類の除去が非常に困難となる問題がある。この問題を改善した水溶性のカルボジイミド(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC))も開発されているが、高価なうえに、前述したとおりの煩雑な後処理が必要となるため、工業的に有利な方法とは言い難い(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2009−515818号公報
【特許文献2】特表2007−520491号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Mol.Cryst.Liq.,66巻、103頁(1981年)
【非特許文献2】Liquid Crystals,3巻、1087頁(1988年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術に鑑みてなされたものであり、第1に、キラル化合物の中心部となり得るフェノール性水酸基を有する中心部前駆体と、前記キラル化合物の側鎖部となり得るカルボキシル基を有する側鎖部前駆体とのエステル化反応を行うキラル化合物の製造方法であって、エステル化反応後において分液操作等の後処理を行うことなく、目的とするキラル化合物を効率よく単離することができるキラル化合物の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は第2に、新規な、キラル化合物の製造中間体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、キラル化合物の中心部となり得るフェノール性水酸基を有する中心部前駆体と、前記キラル化合物の側鎖部となり得るカルボキシル基を有する側鎖部前駆体とのエステル化反応を行う工程を有するキラル化合物の製造方法について鋭意研究した。その結果、前記中心部前駆体と、前記側鎖部前駆体の混合酸無水物とを反応させることにより、前記中心部前駆体のフェノール性水酸基と側鎖部前駆体のカルボキシル基とがエステル結合してなるキラル化合物を含む反応液を得た後、得られた反応液を分液操作することなく、反応液に所定量のアルコールを添加して、前記キラル化合物を結晶化させることにより、目的とするキラル化合物を高い純度で収率よく得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
かくして本発明の第1によれば、下記(1)〜(7)のキラル化合物の製造方法が提供される。
(1)キラル化合物の中心部となり得るフェノール性水酸基を有する中心部前駆体と、キラル化合物の側鎖部となり得るカルボキシル基を有する側鎖部前駆体の混合酸無水物とを反応させることにより、前記中心部前駆体のフェノール性水酸基と側鎖部前駆体のカルボキシル基とがエステル結合してなるキラル化合物を含む反応液を得る工程(I)、及び、工程(I)で得られた反応液を分液操作することなく、反応液に所定量のアルコールを添加して、前記キラル化合物を結晶化させる工程(II)を含むことを特徴とするキラル化合物の製造方法。
(2)前記中心部前駆体が、式(1)
【0012】
【化1】

【0013】
〔式中、X〜X16はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基、−OR、−O−C(=O)−R、又は−C(=O)−ORを表す。ここで、Rは、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表す。Rがアルキル基である場合、当該アルキル基には、−O−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、又は−C(=O)−が介在していてもよい(ただし、−O−が2以上隣接して介在する場合を除く。)。
及びAはそれぞれ独立して、化学的な単結合、−O−、−S−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−、−C(=O)−NR−、−O−C(=O)−NR−、−NR−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−NR−、−O−NR−、又は−NR−O−を表す。ここで、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。
Yは、下記(X−i)〜(X−iv)のいずれかの基を表す。
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、*は結合手を表す。)〕で示される化合物である(1)に記載のキラル化合物の製造方法。
(3)前記式(1)中、Yが、下記(X−iii)
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、*は結合手を表す。)である(2)に記載のキラル化合物の製造方法。
(4)前記中心部前駆体が、下記式(1−1)
【0018】
【化4】

【0019】
(式中、X17、X18、X19、X20はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基、−OR、−O−C(=O)−R、又は−C(=O)−ORを表す。ここで、Rは前記と同じ意味を表す。)で示される化合物である(1)〜(3)のいずれかに記載のキラル化合物の製造方法。
(5)前記側鎖部前駆体の混合酸無水物が、式(2)
【0020】
【化5】

【0021】
(式中、nは1〜20の整数を表す。)で示されるカルボン酸の混合酸無水物である(1)〜(4)のいずれかに記載のキラル化合物の製造方法。
(6)前記工程(I)を、分子内に、エーテル基、エステル基、カルボニル基及びアミド基よりなる群から選ばれる少なくとも一種の基を有する溶媒中で行う(1)〜(5)のいずれかに記載のキラル化合物の製造方法。
(7)前記工程(II)で添加するアルコールとして、式:R−OH(式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基を表す。)で示されるアルコールを用いる(1)〜(6)のいずれかに記載のキラル化合物の製造方法。
【0022】
本発明の第2によれば、下記(8)に記載の化合物が提供される。
(8)式(1−1)
【0023】
【化6】

【0024】
(式中、X17、X18、X19、X20はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基、−OR、−O−C(=O)−R、又は−C(=O)−ORを表す。ここで、Rは前記と同じ意味を表す。)で示される化合物。
【発明の効果】
【0025】
本発明の製造方法によれば、キラル化合物の中心部となり得るフェノール性水酸基を有する中心部前駆体と、前記キラル化合物の側鎖部となり得るカルボキシル基を有する側鎖部前駆体とのエステル化反応後において、水洗等の後処理を行うことなく、反応液に所定量のアルコールを添加して、キラル化合物の結晶を析出させるという簡便な方法により、目的とするキラル化合物を効率よく高純度で単離することができる。
また、前記式(1−1)で表される化合物は新規化合物であり、本発明の製造方法に用いる、キラル化合物の中心部となり得るフェノール性水酸基を有する中心部前駆体として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
1)キラル化合物の製造方法
本発明のキラル化合物の製造方法は、キラル化合物の中心部となり得るフェノール性水酸基を有する中心部前駆体と、キラル化合物の側鎖部となり得るカルボキシル基を有する側鎖部前駆体の混合酸無水物とを反応させることにより、前記中心部前駆体のフェノール性水酸基と側鎖部前駆体のカルボキシル基とがエステル結合してなるキラル化合物を含む反応液を得る工程(I)、及び、工程(I)で得られた反応液を分液操作することなく、反応液に所定量のアルコールを添加して、前記キラル化合物を結晶化させる工程(II)を含むことを特徴とする。
【0027】
(キラル化合物)
キラル化合物は、ネマチック液晶に添加されることによりコレステリック液晶を調製できる光学活性化合物である。
本発明の対象とするキラル化合物(以下、「本発明のキラル化合物」ということがある。)は、分子内に光学活性部位を有し、キラル化合物の中心部となり得るフェノール性水酸基を有する中心部前駆体と、キラル化合物の側鎖部となり得るカルボキシル基を有する側鎖部前駆体の混合酸無水物との反応により、前記中心部前駆体のフェノール性水酸基と側鎖部前駆体のカルボキシル基とがエステル結合を形成してなる化合物である。
【0028】
(フェノール性水酸基を有する中心部前駆体)
本発明に用いる、キラル化合物の中心部となり得るフェノール性水酸基を有する中心部前駆体は、分子内に、フェノール性水酸基を有する化合物であればよいが、分子内に、フェノール性水酸基及び光学活性部位を有するものが好ましく、分子内に、フェノール性水酸基、及び酸素原子を含む環構造を有する光学活性部位を有するものがより好ましく、分子内に、フェノール性水酸基、酸素原子を含む環構造を有する光学活性部位、及びアジン結合を有するものがさらに好ましい。
また、前記中心部前駆体の有するフェノール性水酸基の数は特に限定されないが、通常1〜4、好ましくは1〜3、特に好ましくは2である。
【0029】
これらの中でも、本発明においては、前記中心部前駆体として、下記式(1)
【0030】
【化7】

【0031】
で示される化合物がより好ましい。
式中、X〜X16はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基、−OR、−O−C(=O)−R、又は−C(=O)−ORを表す。
ここで、Rは、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表す。
また、Rがアルキル基である場合、当該アルキル基には、−O−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、又は−C(=O)−が介在していてもよい(ただし、−O−が2以上隣接して介在する場合を除く。)。
【0032】
前記X〜X16のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
の置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基の炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられる。
【0033】
前記置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−へキシルオキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;等が挙げられる。
【0034】
としては、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基がより好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基又はイソプロピル基がより好ましく、水素原子又はメチル基が特に好ましい。
【0035】
本発明においては、前記X1、X、X14、X16がそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基、−OR、−O−C(=O)−R、又は−C(=O)−OR(ここで、Rは前記と同じ意味を表す。)であり、X、X〜X13、X15が水素原子であるのが好ましく、前記X1、X、X14、X16がそれぞれ独立して、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、−OR、又は−C(=O)−OR(ここで、Rは前記と同じ意味を表す。)であり、X、X〜X13、X15が水素原子であるのがより好ましい。
【0036】
及びAはそれぞれ独立して、化学的な単結合、−O−、−S−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−、−C(=O)−NR−、−O−C(=O)−NR−、−NR−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−NR−、−O−NR−、又は−NR−O−を表す。
【0037】
ここで、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子;又は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基;を表す。
Yは、下記(X−i)〜(X−iv)
【0038】
【化8】

【0039】
(式中、*は結合手を表す。)のいずれかの基を表し、(X−iii)で表される基が好ましい。
本発明においては、前記中心部前駆体として、下記(1−1)
【0040】
【化9】

【0041】
(式中、X17、X18、X19、X20はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基、−OR、−O−C(=O)−R、又は−C(=O)−ORを表す。ここで、Rは前記と同じ意味を表す。)で示される化合物が特に好ましい。
【0042】
前記X17、X18、X19、X20の、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基の具体例としては、前記X〜X16のハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基の具体例として列挙したものと同様のものが挙げられる。
【0043】
フェノール性水酸基を有する中心部前駆体の多くは公知物質であり、公知の方法により製造することができる。例えば、前記式(1)で表される化合物は、下記に示す方法により製造することができる。
【0044】
【化10】

【0045】
(式中、X〜X16、A、A及びYは前記と同じ意味を表す。)
すなわち、式(3)で表される化合物に2当量のヒドラジン(1水和物)を反応させて、式(4)で表されるヒドラゾン化合物を得た後、さらに、式(5−1)及び(5−2)で表されるアルデヒド化合物を反応させることにより、式(1)で表される化合物を得ることができる。この場合、式(5−1)で表されるアルデヒド化合物と式(5−2)で表されるアルデヒド化合物が同一物である場合には、式(4)で表される化合物に、2当量の式(5−1)で表わされるアルデヒド化合物を反応させればよい。
また、式(3)で表される化合物の多くは公知物質であり、公知の方法により製造・入手することができる。
【0046】
(カルボキシル基を有する側鎖部前駆体の混合酸無水物)
本発明に用いるカルボキシル基を有する側鎖部前駆体の混合酸無水物は、カルボキシル基を有する側鎖部前駆体と、他の種類の酸(カルボン酸又はスルホン酸)から誘導される酸無水物である。
すなわち、本発明に用いるカルボキシル基を有する側鎖部前駆体の混合酸無水物は、例えば、カルボキシル基を有する側鎖部前駆体が式:A−COOH(Aは任意の有機基を表す。以下にて同じ。)で表される化合物の場合、式:A−C(=O)−O−C(=O)−B(Bは任意の有機基を表す。以下にて同じ。)、又は、式:A−C(=O)−O−SO−Bで表される化合物である。
【0047】
前記カルボキシル基を有する側鎖部前駆体としては、キラル化合物の側鎖部となり得る側鎖部前駆体であって、分子内にカルボキシル基を有する化合物であればよいが、分子末端に、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基等の重合性基を有するものが好ましい。また、側鎖部前駆体が有するカルボキシル基の数は特に限定されないが、通常1〜4、好ましくは1〜2、特に好ましくは1である。
これらの中でも、本発明においては、カルボキシル基を有する側鎖部前駆体としては、下記式(2)
【0048】
【化11】

【0049】
(式中、nは1〜20の整数を表し、1〜10の整数が好ましい。)で示される化合物が好ましい。
【0050】
カルボキシル基を有する側鎖部前駆体の混合酸無水物は、例えば、カルボキシル基を有する側鎖部前駆体を、塩基の存在下、他の種類のカルボン酸ハライド又はスルホン酸ハライドと反応させることにより得ることができる。
【0051】
用いる他の種類のカルボン酸ハライドとしては、特に限定されないが、例えば、アセチルクロライド、プロピオン酸クロライド、ベンゾイルクロライド等が挙げられる。
用いるスルホニルハライドとしては、例えば、メタンスルホニルクロライド、トリフルオロメタンスルホニルクロライド、フェニルスルホニルクロライド、パラトルエンスルホニルクロライド等が挙げられる。
他の種類のカルボン酸ハライド又はスルホン酸ハライドの使用量は、カルボキシル基を有する側鎖部前駆体に対して、通常1〜10倍モルである。
【0052】
用いる塩基としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン等の有機塩基;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基;が挙げられる。
塩基の使用量は、カルボキシル基を有する側鎖部前駆体に対して、通常1〜10倍モルである。
【0053】
カルボキシル基を有する側鎖部前駆体の混合酸無水物を得る反応の反応温度は、通常、0℃から溶媒の還流温度、好ましくは10℃〜50℃である。
反応時間は、反応規模等にもよるが、通常、数分から数十時間、好ましくは数十分から数時間である。
【0054】
混合酸無水物を得る反応に用いる溶媒としては、反応に不活性な溶媒であれば特に限定されないが、より収率よく目的物を得ることができる観点から、分子内に、エーテル基、エステル基、カルボニル基及びアミド基よりなる群から選ばれる少なくとも一種の基を有する溶媒が好ましい。
【0055】
分子内に、エーテル基、エステル基、カルボニル基及びアミド基よりなる群から選ばれる少なくとも一種の基を有する溶媒の具体例としては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン等の、分子内にエーテル基を有する溶媒;
酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、乳酸エチル等の、分子内にエステル基を有する溶媒;
アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等の、分子内にカルボニル基を有する溶媒;
N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセタミド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の、分子内にアミド基を有する溶媒;等が挙げられる。これらは一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
溶媒の使用量は、前記カルボキシル基を有する側鎖部前駆体1gに対して、通常1〜100gである。
【0057】
カルボキシル基を有する側鎖部前駆体の混合酸無水物としては、カルボキシル基を有する側鎖部前駆体を、塩基の存在下、他の種類のカルボン酸ハライド又はスルホン酸ハライドと反応させて得られる反応液より単離したものであっても、カルボキシル基を有する側鎖部前駆体の混合酸無水物として市販されているものであっても用いることができる。また、カルボキシル基を有する側鎖部前駆体を、塩基の存在下、他の種類のカルボン酸ハライド又はスルホン酸ハライドと反応させて得られる反応液をそのまま次の反応に用いてもよい。
【0058】
本発明において用いるカルボキシル基を有する側鎖部前駆体の混合酸無水物として、下記式(6)
【0059】
【化12】

【0060】
(式中、nは前記と同じ意味を表し、Rは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基又は置換基を有していてもよいフェニル基を表す。)で示される化合物が特に好ましい。
【0061】
(工程(I))
本発明の製造方法は、前記フェノール性水酸基を有する中心部前駆体とカルボキシル基を有する側鎖部前駆体の混合酸無水物とを反応させることにより、前記中心部前駆体のフェノール性水酸基と側鎖部前駆体のカルボキシル基とがエステル結合してなるキラル化合物を含む反応液を得る工程(I)を有する。
【0062】
工程(I)における反応を、前記フェノール性水酸基を有する中心部前駆体として、前記式(1)で表される化合物を、カルボキシル基を有する側鎖部前駆体の混合酸無水物として、前記式(6)で表される化合物を用いる場合を例にして、下記に示す。
【0063】
【化13】

【0064】
(式中、X〜X16、A、A、Y、R及びnは前記と同じ意味を表す。)
すなわち、式(1)で表される化合物(フェノール性水酸基を有する中心部前駆体)と、2当量の式(6)で表される混合酸無水物(カルボキシル基を有する側鎖部前駆体の混合酸無水物)とを、塩基の存在下に反応させることにより、エステル結合を有する式(7)で表される化合物を得ることができる。
【0065】
工程(I)は、例えば、(i)前記フェノール性水酸基を有する中心部前駆体の溶媒溶液に、所定量の前記カルボキシル基を有する側鎖部前駆体の混合酸無水物及び塩基を添加して、全容を攪拌する方法、又は、(ii)前記カルボキシル基を有する側鎖部前駆体の混合酸無水物の溶媒溶液に、所定量の前記フェノール性水酸基を有する中心部前駆体及び塩基を添加して、全容を攪拌する方法により実施することができる。なかでも、収率よく目的物が得られること、及び生産効率の観点から、(ii)の方法が好ましい。また、この場合、カルボキシル基を有する側鎖部前駆体の混合酸無水物を調製した反応液からカルボキシル基を有する側鎖部前駆体の混合酸無水物を単離することなく、カルボキシル基を有する側鎖部前駆体の混合酸無水物を調製した反応液に、所定量のフェノール性水酸基を有する中心部前駆体及び塩基を添加して、全容を攪拌するようにしてもよい。
【0066】
前記カルボキシル基を有する側鎖部前駆体の混合酸無水物の使用量は、前記フェノール性水酸基を有する中心部前駆体に対して、通常2〜5当量である。
【0067】
工程(I)における反応に用いる溶媒としては、反応に不活性な溶媒であれば特に限定されないが、より収率よく目的物を得ることができる観点から、分子内に、エーテル基、エステル基、カルボニル基及びアミド基よりなる群から選ばれる少なくとも一種の基を有する溶媒が好ましい。
【0068】
分子内に、エーテル基、エステル基、カルボニル基及びアミド基よりなる群から選ばれる少なくとも一種の基を有する溶媒の具体例としては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン等の、分子内にエーテル基を有する溶媒;
酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、乳酸エチル等の、分子内にエステル基を有する溶媒;
アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等の、分子内にカルボニル基を有する溶媒;
N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセタミド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の、分子内にアミド基を有する溶媒;等が挙げられる。これらは一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0069】
溶媒の使用量は、前記フェノール性水酸基を有する中心部前駆体1gに対して、通常1〜100gである。
【0070】
工程(I)における反応に用いる塩基としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン等の有機塩基;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基;が挙げられる。
塩基の使用量は、前記カルボキシル基を有する側鎖部前駆体の混合酸無水物に対して、通常1〜5倍モルである。
【0071】
また、この場合、反応を促進する目的で、反応液に4−ジメチルアミノピリジンを添加することも好ましい。
4−ジメチルアミノピリジンの添加量は、カルボキシル基を有する側鎖部前駆体混合酸無水物に対して、通常0.01〜1倍モルである。
【0072】
工程(I)における反応の反応温度は、通常、0℃から溶媒の還流温度、好ましくは10℃〜50℃である。
反応時間は、反応規模等にもよるが、通常、数分から数十時間、好ましくは数十分から数時間である。
【0073】
(工程(II))
次いで、工程(I)で得られた反応液を分液操作することなく、反応液に所定量のアルコールを添加して、前記キラル化合物を結晶化させる(工程(II))。
すなわち、工程(I)で得られた反応液に、キラル化合物に対して貧溶媒であるアルコールの所定量を添加することにより、反応後において分液操作を行うことなく、効率よく目的とするキラル化合物を結晶として単離することができる。
【0074】
ここで用いるアルコールとしては、特に限定されないが、収率よく、目的とするキラル化合物を結晶化させる観点から、式:R−OH(式中、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、メトキシメチル基、メトキシエチル基、ヒドロキシエチル基等の、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基を表す。)で示されるアルコールが好ましい。なかでも、炭素数1〜3のアルコールがより好ましく、メタノールが特に好ましい。
【0075】
アルコールの添加量は、キラル化合物の種類や用いる反応溶媒の種類にも依存し、目的とするキラル化合物の高純度な結晶を、反応液から収率よく析出させることができる量であればよい。本発明においては、かかるアルコールの添加量を半経験的に定めることができる。
【0076】
また、本発明においては、所望により、アルコールとともに水を添加してもよい。アルコールとともに水(蒸留水または脱イオン水が好ましい。)を添加することにより、より高純度なキラル化合物の結晶を効率よく析出させることができる場合がある。水を添加する場合、水添加量は、アルコール1gに対し、通常0.1〜10gの範囲である。
【0077】
次いで、析出した結晶をろ取し、必要により、得られる粗結晶を前述したアルコールで洗浄あるいは再結晶することにより、目的とするキラル化合物を得ることができる。
【0078】
2)式(1−1)で表される化合物
本発明の第2は、前記式(1−1)で表される化合物である。このものは新規化合物であり、本発明の製造方法に用いる、キラル化合物の中心部となり得るフェノール性水酸基を有する中心部前駆体として有用である。
【0079】
前記式(1−1)で示される化合物の好ましい具体例としては、以下のものが挙げられる。式(1−1)で示される化合物はこれらに限定されるものではない。
【0080】
【化14】

【0081】
【化15】

【0082】
【化16】

【実施例】
【0083】
次に、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0084】
(製造例1)中心部前駆体(1a)の合成
【0085】
【化17】

ステップ1:下記式(3a)で表される中間体(3a)の合成
【0086】
【化18】

【0087】
温度計を備えた4つ口反応器に窒素気流中、テレフタルアルデヒド酸150.0g(1.00mol)、イソソルビド69.6g(0.48mol)をアセトニトリル300.0gに溶解した。そこに、N−メチルイミダゾール170.4g(2.10mon)を撹拌下に添加した。この溶液に、氷浴下、メタンスルホニルクロライド117.3g(1.02mol)を滴下し、15℃で1時間撹拌した。得られた反応液にメタノール450.0gを添加し、次いで、水1050.0gを加えて結晶化を行い、中間体(3a)の白色固体を99.6g(収率51%)得た。
【0088】
(中間体(3a)のH−NMRデータ)
H−NMR(500MHz,CDCl,TMS,δppm):10.13(s,1H)、10.11(s,1H)、8.26(d,2H,J=8.0Hz)、8.19(d,2H,J=8.0Hz)、8.00(d,2H,J=8.0Hz)、7.97(d,2H,J=8.0Hz)、5.53(s,1H)、5.48(q,1H,J=5.0Hz,J=10.5Hz)、5.12(t,1H,J=5.0Hz)、4.72(d,1H,J=5.0Hz)、4.15−4.10(m,4H)。
【0089】
ステップ2:中心部前駆体(4a)の合成
温度計を備えた4つ口反応器に窒素気流中、ヒドラジン1水和物40.0g(0.80mol)、メタノール410.0g、水410.0gを仕込み、撹拌下に中間体(3a)82.0g(0.20mol)のTHF410.0g溶液を滴下した。20℃で2時間反応させ、その後、0℃まで冷却し、析出している結晶をろ過によりろ取し、下記式(4a)で表される中間体の白色固体93.5gを得た。
【0090】
【化19】

【0091】
ステップ3:
次いで、下記式(5a)
【0092】
【化20】

【0093】
で表されるアルデヒド化合物72.0g(0.40mol)のメタノール1476.0g溶液に、攪拌下、上記で得られた中間体(4a)を添加した。全容をさらに20℃で5時間攪拌した後、反応液から析出した結晶をろ過によりろ取し、中心部前駆体(1a)の黄色結晶を125.0g(収率82%)得た。
【0094】
(製造例2)中心部前駆体(1b)の合成
【0095】
【化21】

【0096】
製造例1において、前記式(5a)で表されるアルデヒド化合物を、下記式(5b)
【0097】
【化22】

【0098】
で表されるアルデヒド化合物に変えた以外は製造例1と同様にして、中心部前駆体(1b)の黄色結晶を収率81%で得た。
【0099】
(製造例3) 中心部前駆体(1c)の合成
【0100】
【化23】

【0101】
製造例1において、式(5a)で表されるアルデヒド化合物を、下記式(5c)
【0102】
【化24】

【0103】
で表されるアルデヒド化合物に変えた以外は製造例1と同様にして、中心部前駆体(1c)の黄色結晶を収率78%で得た。
【0104】
(実施例1)下記式(7a)で表される重合性キラル化合物(7a)の合成
【0105】
【化25】

【0106】
窒素気流下、下記式(2a)
【0107】
【化26】

【0108】
で表される側鎖部前駆体(2a)(日本シイベルへグナー社製)83.3g(0.29mol)をTHF763.0gに溶解させた。そこへ、メタンスルホニルクロライド32.8g(0.29mol)を添加して0℃に冷却した。この溶液に、トリエチルアミン29.8g(0.30mol)を滴下し、0℃で1時間撹拌した。得られた溶液に、4−(ジメチルアミノ)ピリジン3.5g(0.03mol)、中心部前駆体(1a)76.3g(0.1mol)を添加し、さらに、トリエチルアミン26.8g(0.27mol)を滴下し、滴下終了後、さらに20℃で2時間撹拌した。反応液にメタノールを1526.0g加え結晶化を行い、キラル化合物5aの粗結晶121.5gを得た。
得られた粗結晶にトリエチルアミン0.9g、酢酸エチル1311.8g、炭酸水素ナトリウム2.6gを添加し、55℃で1時間撹拌後、重曹をろ過により除去した。次いで、得られたろ液にメタノール1311.8gを加えて結晶化を行い、粗結晶108.3gを得た。
【0109】
更に、得られた粗結晶にトリエチルアミン0.8g、酢酸エチル1180.6g、ろ過助剤4.7gを添加し、55℃で1時間撹拌後、ろ過助剤及び不溶分をろ過により除去した。次いで、得られたろ液にメタノール1180.6gを加えて結晶化を行い、キラル化合物(7a)の黄色結晶を97.1g(収率74%)得た。
【0110】
(重合性キラル化合物(7a)のH−NMRデータ)
H−NMR(400MHz,CDCl,TMS,δppm):8.68(m,4H)、8.48(s,2H)、8.16−8.08(m,10H)、7.92(t,4H,J=9.0Hz)、7.33(d,2H,J=8.2Hz)、6.97(d,4H,J=8.2Hz)、6.38(d,2H,J=17.4Hz)、6.13(dd,2H,J=10.1Hz,J=17.4Hz)、5.81(d,2H,J=10.1Hz)、5.51(s,1H)、5.45(dd,1H,J=5.0Hz,J=10.5Hz)、5.09(t,1H,J=5.0Hz)、4.71(d,1H,J=4.6Hz)、4.19−3.99(m,12H)、3.77(s,6H)、1.83−1.45(m,16H)。
【0111】
(実施例2)下記式(7b)で表される重合性キラル化合物(7b)の合成
【0112】
【化27】

【0113】
実施例1において、中心部前駆体(1a)を中心部前駆体(1b)に変えた以外は、実施例1と同様にして、キラル化合物(7b)の黄色結晶を得た(収率:73%)。
【0114】
(重合性キラル化合物(7b)のH−NMRデータ)
H−NMR(400MHz,CDCl,TMS,δppm):8.70(d,2H,J=6.0Hz)、8.64(d,2H,J=2.7Hz)、8.21−8.09(m,8H)、7.93(t,4H,J=9.2Hz)、7.64(s,4H)、6.98(d,4H,J=8.7Hz)、6.40(d,2H,J=17.4Hz)、6.12(dd,2H,J=10.1Hz,J=17.4Hz)、5.81(d,2H,J=10.1Hz)、5.54(s,1H)、5.47(dd,1H,J=5.2Hz,J=10.5Hz)、5.11(t,1H,J=5.0Hz)、4.73(d,1H,J=4.6Hz)、4.20−4.04(m,12H)、2.26(s,12H)、1.83−1.45(m,16H)。
【0115】
(実施例3) 下記式(7c)で表される重合性キラル化合物(7c)の合成
【0116】
【化28】

【0117】
実施例1において、中心部前駆体(1a)を中心部前駆体(1c)に変えた以外は、実施例1と同様にして、キラル化合物(7c)の黄色結晶を得た(収率:71%)。
【0118】
(重合性キラル化合物(7c)のH−NMRデータ)
H−NMR(400MHz,CDCl,TMS,δppm):8.53(d,2H,J=6.0Hz)、8.49(d,2H,J=2.8Hz)、8.02−7.94(m,8H)、7.77(t,4H,J=9.2Hz)、7.46(s,2H)、7.21(d,2H,J=8.2Hz)、7.09(m,2H)、6.82(d,4H,J=8.7Hz)、6.40(d,2H,J=17.4Hz)、6.12(dd,2H,J=10.1Hz,J=17.4Hz)、5.83(d,2H,J=10.1Hz)、5.53(s,1H)、5.46(dd,1H,J=5.5Hz,J=10.5Hz)、5.10(t,1H,J=5.5Hz)、4.72(d,1H,J=4.6Hz)、4.20−4.06(m,16H)、1.83−1.45(m,22H)。
【0119】
(比較例1)重合性キラル化合物(7a)の合成
窒素気流下、側鎖部前駆体(2a)8.3g(29.0mmol)をTHF76.3gに溶解させ、メタンスルホニルクロライド3.3g(29.0mmol)を添加して0℃に冷却し、この溶液にトリエチルアミン3.0g(30.0mmol)を滴下した。0℃で1時間撹拌後、4−(ジメチルアミノ)ピリジン0.4g(2.9mmol)、中心部前駆体(1a)7.6g(10.0mmol)を添加し、次いで、トリエチルアミン2.7g(27.0mmol)を滴下した。20℃で2時間撹拌後、反応液に酢酸エチル76.3gを添加し、10%食塩水76.3gで水洗をしようとしたところ、完全に乳化し、目的物を取り出すに至らなかった。(収率0%)
【0120】
(比較例2) 重合性キラル化合物(7a)の合成
窒素気流下、中心部前駆体(1a)7.6g(10.0mmol)、側鎖部前駆体(2a)8.3g(29.0mmol)、4−(ジメチルアミノ)ピリジン0.35g(2.9mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200.0gに溶解させ、その後、室温下で、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC)5.6g(29.0mmol)を加えた。室温で18時間撹拌後、酢酸エチル200.0gを添加し、10%食塩水200.0gで2回水洗を行った。次いで、酢酸エチル溶液にメタノールを300.0g加え結晶化を行い、キラル化合物(7a)の粗結晶9.4gを得た。
更に、得られた粗結晶にトリエチルアミン0.1g、酢酸エチル130.7g、ろ過助剤0.5gを添加し、55℃で1時間撹拌後、ろ過助剤及び不溶分をろ過により除去した。次いで、得られたろ液にメタノール130.7gを加え結晶化を行い、キラル化合物(7a)の黄色結晶を7.9g(収率60%)得た。
【0121】
実施例1〜3及び比較例1、2における目的物の収率(%)を下記表1にまとめた。
【0122】
【表1】

【0123】
表1より、実施例1〜3では、高い収率で、高純度な目的物(重合性キラル化合物)を得ることができたことがわかる。一方、反応終了後に通常の分液操作を行った場合(比較例1)には、処理液が乳化し、目的物を単離することができなかった。また、縮合剤であるWSCを用いた場合(比較例2)は、目的物を単離することはできたものの、実施例1に比して収率が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キラル化合物の中心部となり得るフェノール性水酸基を有する中心部前駆体と、前記キラル化合物の側鎖部となり得るカルボキシル基を有する側鎖部前駆体の混合酸無水物とを反応させることにより、前記中心部前駆体のフェノール性水酸基と側鎖部前駆体のカルボキシル基とがエステル結合してなるキラル化合物を含む反応液を得る工程(I)、および、工程(I)で得られた反応液を分液操作することなく、反応液に所定量のアルコールを添加して、前記キラル化合物を結晶化させる工程(II)を含むことを特徴とするキラル化合物の製造方法。
【請求項2】
前記中心部前駆体が、式(1)
【化1】

〔式中、X〜X16はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基、−OR、−O−C(=O)−R、又は−C(=O)−ORを表す。ここで、Rは、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表す。Rがアルキル基である場合、当該アルキル基には、−O−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、又は−C(=O)−が介在していてもよい(ただし、−O−が2以上隣接して介在する場合を除く。)。
及びAはそれぞれ独立して、化学的な単結合、−O−、−S−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−、−C(=O)−NR−、−O−C(=O)−NR−、−NR−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−NR−、−O−NR−、又は−NR−O−を表す。ここで、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。
Yは、下記(X−i)〜(X−iv)のいずれかの基を表す。
【化2】

(式中、*は結合手を表す。)〕
で示される化合物である請求項1に記載のキラル化合物の製造方法。
【請求項3】
前記式(1)中、Yが、下記(X−iii)
【化3】

(式中、*は結合手を表す。)
である請求項2に記載のキラル化合物の製造方法。
【請求項4】
前記中心部前駆体が、下記式(1−1)
【化4】

(式中、X17、X18、X19、X20はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基、−OR、−O−C(=O)−R、又は−C(=O)−ORを表す。ここで、Rは前記と同じ意味を表す。)
で示される化合物である請求項1〜3のいずれかに記載のキラル化合物の製造方法。
【請求項5】
前記側鎖部前駆体の混合酸無水物が、式(2)
【化5】

(式中、nは1〜20の整数を表す。)
で示されるカルボン酸の混合酸無水物である請求項1〜4のいずれかに記載のキラル化合物の製造方法。
【請求項6】
前記工程(I)を、分子内に、エーテル基、エステル基、カルボニル基およびアミド基よりなる群から選ばれる少なくとも一種の基を有する溶媒中で行う請求項1〜5のいずれかに記載のキラル化合物の製造方法。
【請求項7】
前記工程(II)で添加するアルコールとして、式:R−OH(式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基を表す。)で示されるアルコールを用いる請求項1〜6のいずれかに記載のキラル化合物の製造方法。
【請求項8】
式(1−1)
【化6】

〔式中、X17、X18、X19、X20はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基、−OR、−O−C(=O)−R、又は−C(=O)−ORを表す。ここで、Rは、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表す。Rがアルキル基である場合、当該アルキル基には、−O−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、又は−C(=O)−が介在していてもよい(ただし、−O−が2以上隣接して介在する場合を除く。)〕で示される化合物。

【公開番号】特開2011−32179(P2011−32179A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177726(P2009−177726)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】