説明

キレート樹脂の製造方法

【課題】 フェノール類、アルデヒド類、カルバミン酸基を有する化合物を溶媒中で重合させてキレート樹脂を得る従来法では、モノマー成分の重合率があまり高くなく、樹脂の収率が低いと共に樹脂中に未反応のモノマー成分が残留するため、キレート樹脂を廃水処理に用いると廃水のCODが高くなるという問題があった。しかも得られたキレート樹脂の親水性や機械的強度が低く、キレート樹脂が廃水に浮遊したり、破砕してカラムの目詰まりを生じる虞れがあった。本発明はこのような問題を解決し得るキレート樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明のキレート樹脂の製造方法は、フェノール類、アルデヒド類、ジチオカルバミン酸基を有する化合物及びチオ尿素又はチオ尿素とともに、尿素を溶媒中で重合せしめ、次いで得られた重合体を溶媒と分離した後、重合体に酸性物質を添加して水系溶媒の存在下に加熱し、しかる後、溶媒を留去することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キレート樹脂の製造方法に関する
【背景技術】
【0002】
フェノール類、アルデヒド類及びジチオカルバミン酸基を有する化合物を重合させて得られる、ジチオカルバミン酸基を官能基として有するキレート樹脂は、廃水中の金属を吸着除去する等の目的で広く利用されている。この種のキレート樹脂は、通常、フェノール類、アルデヒド類、ジチオカルバミン酸基を有する化合物を、溶媒中で加熱して重合させた後、溶媒を濾過したり留去して重合体を分離することにより製造されている(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特公昭61−57847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来の方法は、モノマー成分の重合率があまり高くないため、キレート樹脂単位体積当たりの金属吸着量を高めることが困難であった。また従来法で得たキレート樹脂は親水性があまり高くないため、廃水処理の際にキレート樹脂が浮遊して処理操作の妨げになるという問題もあった。しかもキレート樹脂の強度が低く、このためカラム等にキレート樹脂を充填して使用した際に、カラム内でキレート樹脂が破砕され易く、破砕した樹脂によってカラムが目詰まりし易いという問題があった。更に上記のようにして得た重合体中には、多量の未反応モノマー成分が混在しているため、このような重合体を用いて廃水処理を行うと、排水中に未反応のモノマー成分が溶出して廃水のCODが高くなり、CODを低下させる処理コストや手間がかかるという問題もあった。
【0005】
本発明は上記課題を解決するために鋭意研究した結果、従来の方法によって重合体を得た後、この重合体に酸性物質を添加して水の存在下に加熱する方法を採用することにより、上記従来の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち本発明は、
(1)フェノール類、アルデヒド類、及びジチオカルバミン酸基を有する化合物及びチオ尿素を溶媒中で重合せしめ、次いで得られた重合体を溶媒と分離した後、重合体に酸性物質を添加して水系溶媒の存在下に加熱し、しかる後、溶媒を留去することを特徴とするキレート樹脂の製造方法、
(2)フェノール類、アルデヒド類、及びジチオカルバミン酸基を有する化合物及びチオ尿素とともに、尿素を溶媒中で重合せしめ、次いで得られた重合体を溶媒と分離した後、重合体に酸性物質を添加して水系溶媒の存在下に加熱し、しかる後、溶媒を留去することを特徴とするキレート樹脂の製造方法、
を要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明方法は、フェノール類、アルデヒド類、ジチオカルバミン酸基を有する化合物及びチオ尿素を溶媒中で重合させて得た重合体を溶媒と分離した後、更に重合体に酸性物質を加えて水系溶媒の存在下で加熱した後、溶媒を留去する方法を採用したことにより、フェノール類、アルデヒド類、ジチオカルバミン酸基を有する化合物を溶媒中で重合させた後、溶媒を留去するだけの従来法に比べ、単位体積当たりの金属吸着量の高いキレート樹脂を得ることができる。またフェノール類、アルデヒド類、ジチオカルバミン酸基を有する化合物及びチオ尿素とともに尿素を併用すると、樹脂の親水性、機械的強度を更に向上させることができる。本発明の方法で得られるキレート樹脂は、未反応のモノマー成分の樹脂中における残存量が少ないため、廃水処理等に使用した際に廃水のCODが高くなる虞れがない。さらに、本発明方法で得られるキレート樹脂は、親水性が高いとともに、機械的強度に優れるため、廃水処理に使用する際に、キレート樹脂が浮遊したり、カラム内で破砕して目詰まりを生じ、作業性を低下させる虞れがない等の種々の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明においてフェノール類としては、例えばフェノール、クレゾール、3,5−キシレノール、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコール、β−ナフトール、ビスフェノール等のフェノール性水酸基を有する化合物が挙げられる。これらフェノール類は、2種以上を混合して用いることができる。またアルデヒド類としては、例えばホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、フルフラール等が挙げられる。アルデヒド類は、2種以上を混合して用いることができる。
【0009】
一方、ジチオカルバミン酸基を有する化合物(以下、単にジチオカルバミン酸化合物と呼ぶことがある。)としては、例えば分子量300以上のポリエチレンイミン1分子当たり、少なくとも1個のジチオカルバミン酸基又はその塩を有するもの等が挙げられる。ジチオカルバミン酸化合物は、2種以上の化合物を混合して用いることができる。
【0010】
上記フェノール類、アルデヒド類としては、フェノール、レゾルシン、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサンが好ましい。またジチオカルバミン酸化合物としてはポリエチレンイミンジチオカルバミン酸類が好ましい。フェノール類、アルデヒド類、ジチオカルバミン酸化合物及びチオ尿素を重合させる際のこれら各成分の比率(モル比)は、フェノール類:アルデヒド類:ジチオカルバミン酸化合物:チオ尿素=1:2:2:1〜1:7:2:1が好ましい。
【0011】
上記フェノール類、アルデヒド類、ジチオカルバミン酸化合物及びチオ尿素を重合させる際に用いる溶媒としては、水、トルエン、テトラクロロエチレン、ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、トリクレン、ヘキサン等が挙げられ、これらの溶媒は、2種以上を混合して用いることができる。
【0012】
上記フェノール類、アルデヒド類、ジチオカルバミン酸類及びチオ尿素を重合させるに際し、これらの成分の合計:溶媒=1:10〜10:3(重量比)が好ましい。本発明方法では、まず上記各成分と溶媒とを反応容器中に入れ、撹拌下しながら加熱下に反応させる。反応時の加熱温度は通常、30〜100℃で、反応時間は通常、0.5〜10時間程度である。
【0013】
フェノール類、アルデヒド類、ジチオカルバミン酸類及びチオ尿素を重合させる際に、更に尿素を併用すると、得られる樹脂の親水性を良好にし、収量を増やすことができるとともに、機械的強度の高い樹脂を得ることができる。尿素を併用する場合、その使用量はチオ尿素1モル当たり、2〜5モルが好ましい。
【0014】
上記のようにしてフェノール類、アルデヒド類、ジチオカルバミン酸化合物及びチオ尿素を重合した後、反応系から溶媒を除去して重合体を分離する。反応系から溶媒を除去するには、減圧濾過、留去等の方法が挙げられる。この溶媒除去工程では、反応系内の溶媒を完全に除去する必要はなく、80%程度の溶媒を除去すれば良い。
【0015】
次いで上記のようにして反応後、溶媒を留去して分離した重合体に酸性物質を添加して水系溶媒の存在下で加熱する。水系溶媒としては通常は水が使用される。また酸性物質としては、硝酸、硫酸、塩酸、酢酸等が用いられるが、機械的強度の高い樹脂が得られる点で硫酸が好ましい。酸性物質は重合体に対し、1〜10重量%用いることが好ましく、水系溶媒は重合体に対し10〜60重量%用いることが好ましい。
【0016】
酸性物質を添加するには、通常、重合体に水系溶媒を添加して加熱保持しながら、酸性物質を30分〜1時間かけて滴下する方法が採用されるが、酸性物質と水系溶媒とを別々に重合体に添加しても良い。酸性物質を添加して加熱する温度は、40〜50℃程度が好ましい。また加熱は酸性物質を滴下する方法の場合、滴下開始から終了まで行うのが好ましい。
【0017】
上記酸性物質を重合体に添加して水系溶媒の存在下に加熱した後、還流させながら水系溶媒とともに、フェノール類、アルデヒド類、ジチオカルバミン酸類、チオ尿素及び必要により更に尿素を重合反応せしめる工程において使用した溶媒の残りの分を共沸させて留去し、キレート樹脂を得ることができる。このようにして得られたキレート樹脂は、水洗した後、必要に応じて酸を添加して樹脂の中和を行う。
【0018】
本発明方法によって得られるキレート樹脂は、従来法で得られるキレート樹脂と同様の金属に対して優れた捕集を発現するが、従来法で得たキレート樹脂に比して、水銀、銀、白金、パラジウムに対する捕集能が優れており、特に水銀に対する捕集が優れている。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
実施例1
レゾルシン74g、ホルムアルデヒド155g、ポリエチレンイミン(分子量10000)1分子当たり、1個のジチオカルバミン酸ナトリウム基を導入した化合物83g、チオ尿素12g、尿素74gを、トルエン550gとともに反応容器に入れ、85℃で2時間撹拌しながら反応させた。反応終了後、減圧濾過して溶媒を除去して重合体を回収し、この重合体に、水400mlを添加して45℃に保持しながら、10重量%硫酸溶液30gを30分間かけて滴下した。滴下終了後、還流させながら溶媒を留去してキレート樹脂を得た。
【0020】
得られたキレート樹脂の単位体積当たりの金属吸着量、キレート樹脂中の残存COD成分量、親水性、機械的強度を以下のようにして測定した。これらの結果を表1に示す。
【0021】
単位体積当たりの水銀吸着量:
水銀100mg/l含有している水溶液に得られたキレート樹脂0.5mlを入れ、2時間攪拌した。攪拌中にキレート樹脂0.5mlが吸着した水銀重量を基に、キレート樹脂1リットル当たりの水銀吸着量に換算することによって、単位体積当たりの水銀吸着量(g/l)とした。
【0022】
残存COD成分量:
JIS K0101の工業用水試験法に準じ、SV=5での通水を行い、10倍量の通液水のCODを求めた。
【0023】
親水性:
水を入れたメスシリンダーにキレート樹脂を入れ、水面に浮遊した樹脂の沈殿した樹脂に対する割合で示した。
【0024】
機械的強度:
機械的強度は、木屋式硬度計を用いて測定した。得られた樹脂10粒を採取し、木屋式硬度計により荷重をかけ、樹脂粒が潰れたときの荷重を強度とした。
【0025】
(表1)

【0026】
比較例1
実施例1と同様のフェノール類、ホルムアルデヒド、ジチオカルバミン酸類を、実施例1と同様にして水中で85℃、2時間撹拌しながら反応させ、反応終了後、減圧濾過して溶媒を除去して重合体(キレート樹脂)を回収した。得られた重合体の単位体積当たりの水銀吸着量、収量、残存COD成分量、親水性、機械的強度を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0027】
実施例2
レゾルシン74g、ホルムアルデヒド155g、ポリエチレンイミン(分子量10000)1分子当たり、1個のジチオカルバミン酸ナトリウム基を導入した化合物83g、チオ尿素12g、尿素74gを、トルエン550gとともに反応容器に入れ、80℃で2時間撹拌しながら反応させた。反応終了後、減圧濾過して溶媒を除去して重合体を回収し、この重合体に、水400mlを添加して、45℃に保持しながら酢酸30gを30分かけて滴下した。次いで還流させながら溶媒を留去してキレート樹脂を得た。得られた重合体の単位体積当たりの水銀吸着量、残存COD成分量、親水性、機械的強度を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0028】
比較例2
実施例2と同様のフェノール類、ホルムアルデヒド、ジチオカルバミン酸類を、実施例2と同様にして水中で80℃で2時間撹拌しながら反応させ、反応終了後、減圧濾過して溶媒を除去して重合体(キレート樹脂)を回収した。得られた重合体の単位体積当たりの水銀吸着量、残存COD成分量、親水性、機械的強度を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0029】
実施例3
レゾルシン74g、ホルムアルデヒド30g、ポリエチレンイミン(分子量10000)1分子当たり、1個のジチオカルバミン酸ナトリウム基を導入した化合物83g、チオ尿素80gを、トルエン550gとともに反応容器に入れ、85℃で2時間撹拌しながら反応させた。反応終了後、減圧濾過して溶媒を除去して重合体を回収し、この重合体に、水400mlを添加して45℃に保持しながら、10重量%硫酸水溶液30gを30分間かけて滴下した。滴下終了後、還流させながら溶媒を留去してキレート樹脂を得た。得られた重合体の単位体積当たりの水銀吸着量、残存COD成分量、親水性、機械的強度を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0030】
比較例3
実施例3と同様のフェノール類、ホルムアルデヒド、ジチオカルバミン酸類を、実施例3と同様にして水中で85℃で2時間撹拌しながら反応させ、反応終了後、減圧濾過して溶媒を除去して重合体(キレート樹脂)を回収した。得られた重合体の単位体積当たりの水銀吸着量、残存COD成分量、親水性、機械的強度を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0031】
実施例4
レゾルシン74g、ホルムアルデヒド30g、ポリエチレンイミン(分子量10000)1分子当たり、1個のジチオカルバミン酸ナトリウム基を導入した化合物83g、チオ尿素12g、尿素74gを、トルエン550gとともに反応容器に入れ、85℃で2時間撹拌しながら反応させた。反応終了後、減圧濾過して溶媒を除去して重合体を回収し、この重合体に、水400mlを添加して45℃に保持しながら、10重量%硫酸水溶液50gを30分間かけて滴下した。滴下終了後、還流させながら溶媒を留去してキレート樹脂を得た。得られた重合体の単位体積当たりの水銀吸着量、残存COD成分量、親水性、機械的強度を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0032】
比較例4
実施例4と同様のフェノール類、ホルムアルデヒド、ジチオカルバミン酸類を、実施例4と同様にして水中で85℃で2時間撹拌しながら反応させ、反応終了後、減圧濾過して溶媒を除去して重合体(キレート樹脂)を回収した。得られた重合体の単位体積当たりの水銀吸着量、残存COD成分量、親水性、機械的強度を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0033】
実施例5
実施例3と同様にして、レゾルシン、ホルムアルデヒド、チオ尿素を重合した後、溶媒を除去して得た重合体に、水400mlを添加して45℃に保持しながら、酢酸30gを30分間かけて滴下し、滴下終了後、還流させながら溶媒を留去してキレート樹脂を得た。得られた重合体の単位体積当たりの水銀吸着量、残存COD成分量、親水性、機械的強度を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール類、アルデヒド類、及びジチオカルバミン酸基を有する化合物及びチオ尿素を溶媒中で重合せしめ、次いで得られた重合体を溶媒と分離した後、重合体に酸性物質を添加して水系溶媒の存在下に加熱し、しかる後、溶媒を留去することを特徴とするキレート樹脂の製造方法。
【請求項2】
フェノール類、アルデヒド類、及びジチオカルバミン酸基を有する化合物及びチオ尿素とともに、尿素を溶媒中で重合せしめ、次いで得られた重合体を溶媒と分離した後、重合体に酸性物質を添加して水系溶媒の存在下に加熱し、しかる後、溶媒を留去することを特徴とするキレート樹脂の製造方法。