説明

クッション体及び車両用シート

【課題】ウレタンフォーム以外の素材からなるクッション体において、表皮材の吊り込み状態が良好に保持されると共に、クッション体から表皮材が脱離しにくく、耐久性の高いクッション体及び該クッション体を用いた車両用シートを提供する。
【解決手段】蒸気を吹き付けることによって一体に成形される複数のシート状繊維構造体13,14,15と、乗員の荷重を受ける荷重受面に対してシート状繊維構造体13,14,15を介在させて配設される線状部材16と、を備え、荷重受面を構成するシート状繊維構造体13は、線状部材16と重なる位置において係合孔13aが切除され、複数のシート状繊維構造体13,14,15に蒸気を吹き付けて複数のシート状繊維構造体13,14,15を一体化させる際に、線状部材16が、係合孔13aを通じて露出され、且つ複数のシート状繊維構造体13,14,15間に挟まれてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クッション体及び車両用シートに係り、特にウレタンを使用しないクッション体において、表皮材の吊り込み状態が良好であると共に、耐久性の高いクッション体及び車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートに用いられるクッション体は、ウレタンフォームによって形成されたものが一般的であった。しかし、ウレタンフォームは、加水分解性を備えるため、用途によっては脆弱性があり、耐用年数が長くない。したがって、ウレタンフォームではなく、ポリエステル系繊維等によって構成されるクッション体が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
一方、車両用シートのように、乗員が着座するシートに用いられるクッション体は、乗員の着座感やデザイン性を向上させる等の理由から、被覆する表皮材の一部をクッション体に対して吊り込む構成としたものが一般的である。このように、表皮材の一部をクッション体に吊り込む、すなわち、表皮材をクッション体に密着するように固定することにより、表皮材はクッション体に強固に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−240332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1において開示された技術では、クッション体に備えられた縦パターン溝及び横パターン溝に対して、表皮材(トリム・カバー)が吊り込み状態で接着されている。したがって、ポリエステル系繊維によって形成されているため、耐久性が高く、且つ表皮材が吊り込まれた風合いを呈する車両用シートを提供することができる。
【0006】
また、ポリエステル系繊維によって形成されたクッション体を製造する際、表皮材を成形型内に収め、クッション体と一体成形することにより、表皮材が吊り込まれたような外観を備えた車両用シートを製造する技術が一般的であった。
【0007】
しかし、ポリエステル系繊維からなるクッション体に形成された縦パターン溝及び横パターン溝に対して表皮材を接着しただけのもの、或いは表皮材と一体成形したものでは、表皮材がクッション体から剥がれ、位置ずれしやすいという問題点があった。特に、車両用シートにおいては、乗員の荷重移動が頻繁に起こるため、表皮材がクッション体から剥がれやすく、その結果、表皮材とクッション材の摩擦が頻繁に起こり、クッション体が損傷しやすくなるという問題点があった。
【0008】
また、表皮材がクッション体の縦パターン溝及び横パターン溝から脱離すると、意匠上好ましくないという問題点があった。したがって、表皮材をクッション体に対して良好な吊り込み状態で保持可能なクッション体が望まれていた。
【0009】
さらにまた、特許文献1に開示された技術は、クッション体を成形した後、表皮材を接着する必要があるため、その製造時、作業工程が複雑になる。そして、良好な吊り込み状態で縦パターン溝及び横パターン溝に表皮材を接着する作業は、複雑な凹凸面に表皮材を接着する必要があるため、作業者の熟練を要し、製品品質を一定とすることが難しいという問題点があった。
【0010】
ウレタンフォームの発泡成形により形成されるクッション体には、表皮材を吊り込むための吊り込み用ワイヤを金型内に予め配設し、吊り込みワイヤを保持した状態でウレタンフォームを発泡成形させることにより、内部に吊り込み用ワイヤを備えたクッション体を製造することができる。このように、クッション体内に吊り込みワイヤを備えることにより、吊り込みワイヤに表皮材の一部を係合させ、表皮材を良好な状態で吊り込むことが可能となる。
【0011】
しかしながら、上述のように、ウレタンフォームは加水分解性があり、用途によっては、耐用年数が長くないため、ウレタンフォーム以外の素材によって形成されると共に、表皮材の吊り込み状態を良好にすることが可能なクッション体が望まれていた。
【0012】
本発明の目的は、ウレタンフォーム以外の素材からなるクッション体において、表皮材の吊り込み状態が良好に保持されると共に、クッション体から表皮材が脱離しにくく、耐久性の高いクッション体及び該クッション体を用いた車両用シートを提供することにある。また、本発明の他の目的は、ウレタンフォーム以外の素材からなるクッション体において、表皮材の吊り込み状態を、複数のクッション体において均一にすることが可能なクッション体及び該クッション体を用いた車両用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題は、請求項1のクッション体によれば、蒸気を吹き付けることによって一体に成形される複数のシート状繊維構造体と、乗員の荷重を受ける荷重受面に対して前記シート状繊維構造体を介在させて配設される線状部材と、を備え、前記荷重受面を構成するシート状繊維構造体は、前記線状部材と重なる位置において係合孔が切除され、前記複数のシート状繊維構造体に蒸気を吹き付けて前記複数のシート状繊維構造体を一体化させる際に、前記線状部材が、前記係合孔を通じて露出され、且つ前記複数のシート状繊維構造体間に挟まれてなること、により解決される。
【0014】
このように、本発明のクッション体は、ウレタンフォームのように成形型内で発泡成形される材料を用いるのではなく、蒸気を吹き付けることにより、成形型の形状に沿って一体に成形される複数のシート状繊維構造体を用いる。そして、線状部材と、乗員が着座する面である荷重受面との間にシート状繊維構造体が介在することにより、線状部材は、クッション体(シート状繊維構造体)の厚み方向に、荷重受面と離間して配設される。すなわち、線状部材は、クッション体内に埋設される構成である。
そしてこの時、乗員の荷重受面を構成するシート状繊維構造体上に、予め係合孔が設けられ、その係合孔と重なる位置に線状部材を配設することにより、線状部材は係合孔を通じて荷重受面に露出される。さらに、係合孔は、スチーム成形された後、開口部を形成する。係合孔によって形成される開口部は、表皮材を吊り込む際、表皮材に備えられた固定部材(線状部材に対して固定される部材)が挿通される。
従来、表皮材を吊り込むための線状部材が埋設したクッション体は、線状部材を金型内に設置し、ウレタンフォームを金型内で発泡させることにより形成されていたが、本発明によれば、スチーム成形可能なシート状繊維構造体を形成することができる材料であれば、ウレタンフォーム以外の材料を使用可能である。
したがって、強度を備えた材料でクッション材を構成することができるため、表皮材の吊り込み状態を良好に保持可能であり、表皮材が脱離しにくく、耐久性の高いクッション体とすることができる。さらに、ウレタンフォーム以外の材料であっても、線状部材を埋設することができるため、表皮材をクッション体表面に接着する方法を用いることなく、表皮材が吊り込まれた風合いを呈することができる。表皮材をクッション体に接着する必要がないため、製造時、作業者の熟練を必要とせず、複数のクッション体において表皮材の吊り込み状態を均一にすることができる。
さらに、線状部材は、スチーム成形時、クッション体成形型に対し、係合孔を介して固定可能であるため、シート状繊維構造体に対して、線状部材が位置ずれすることなく、正確な位置決めをすることができると共に、スチーム成形時、線状部材が位置ずれすることがない。
【0015】
このとき、請求項2のように、前記シート状繊維構造体は、アコーデオン状に折り畳まれ、林立状態に形成されたウェブによって形成され、前記ウェブは、折曲された折曲部と、平滑な面からなる面状部とを有し、前記係合孔は、前記ウェブの林立方向に沿って前記シート状繊維構造体を貫通するように切除されることにより形成され、前記線状部材の長手方向が、前記ウェブの前記折曲部上であって該折曲部の延在方向と交わる方向で配設されてなると好ましい。
このように、シート状繊維構造体を構成するウェブは、折曲部と面状部とを有するアコーデオン状に折り畳まれている。そして、シート状繊維構造体に対して係合孔を上記構成で形成することにより、線状部材に対して表皮材が吊り込まれた際、係合孔(開口部)の形状が安定して潰れるため、表皮材の吊り込み状態を安定させることができる。
また、線状部材の長手方向と、ウェブの折曲部の延在方向とが交わるように配設されるため、線状部材の保持強度を向上させることができる。
さらに、このような構成とすると、係合孔の形成時、ウェブの林立方向に沿ってシート状繊維構造体を切除する刃を侵入させ易いため、係合孔が形成しやすい。さらに、ウェブの林立した面によって係合孔が区画されるため、係合孔の形状が安定し、係合孔の寸法精度を向上させることができる。
【0016】
また、請求項3のように、前記シート状繊維構造体は、アコーデオン状に折り畳まれ、林立状態に形成されたウェブによって形成され、前記ウェブは、折曲された折曲部と、平滑な面からなる面状部とを有し、前記係合孔は、前記ウェブの林立方向に沿って前記シート状繊維構造体を貫通するように切除されることにより形成され、前記線状部材の長手方向が、前記ウェブの前記折曲部上であって該折曲部の延在方向に沿って配設されてなる構成であっても良い。
このように、シート状繊維構造体を構成するウェブは、折曲部と面状部とを有するアコーデオン状に折り畳まれている。そして、シート状繊維構造体に対して係合孔を上記構成で形成することにより、線状部材に対して表皮材が吊り込まれた際、係合孔(開口部)の形状が安定して潰れるため、表皮材の吊り込み状態を安定させることができる。
さらに、線状部材が折曲部の延在方向に沿って配設されるため、表皮材の吊り込み時、線状部材が折曲部同士の間に形成される微細な溝(凹部)に引っ掛かり、固定されやすくなる。また、折曲部同士の間に形成される微細な溝(凹部)に対し、線状部材が部分的に埋もれやすくなるため、線状部材とシート状繊維構造体が密着しやすくなる。さらに、ウェブは、折曲部ごとに変形しやすいため、線状部材をより大きく沈み込ませることができ、線状部材をシート状繊維構造体に対して確実に固定できるため、好適である。
【0017】
また、請求項4のように、前記シート状繊維構造体は、ポリエステル系繊維からなると特に好適である。
このように、ポリエステル系繊維によって構成されたシート状繊維構造体を用いてクッション体を形成すると、スチーム成形を好適に行うことができる。さらに、吹き付ける蒸気量を変化させることにより、表面の硬度を調整できるため、耐久性や乗員の着座感を向上させることができ、好適である。
【0018】
さらに、請求項5のように、前記係合孔は、複数設けられていると好ましい。
このように、係合孔が複数設けられることにより、線状部材が強固に成形型内に固定される。さらに、係合孔は、クッション体を成型した後は開口部となり、この開口部を介して表皮材が線状部材に吊り込まれる。したがって、係合孔がシート状線構造体において複数形成されていると、表皮材が複数箇所によって吊り込まれるため、クッション体に対してより確実に表皮材を吊り込むことがでる。また、複数箇所において表皮材を吊り込むため、一箇所に集中して表皮材が吊り込まれる状態を防止し、平均的に表皮材を吊り込むことができ、外観を良好にすることができる。
【0019】
さらにまた、前記課題は、請求項6の車両用シートによれば、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のクッション体と、該クッション体を覆う表皮材とを備えたこと、により解決される。
【0020】
このように、シート状繊維構造体に線状部材を狭持させて成型することにより、線状部材が埋設されて保持されたクッション体を製造することができる。そして、このようなクッション体は、強度を備えた材料で構成可能であるため、表皮材の吊り込み状態を良好に保持可能であり、表皮材が脱離しにくい。したがって、表皮材の吊り込み状態が良好に保持されると共に、耐久性の高い車両用シートとすることができる。さらに、ウレタンフォーム以外の材料であっても、線状部材が埋設されるため、表皮材の吊り込みが可能である。したがって、表皮材をクッション体の表面に接着する方法を用いることなく、表皮材を吊り込まれた風合いを呈することができる。その結果、表皮材をクッション体に接着する必要がないため、製造時、作業者の熟練度に依存せず、複数のクッション体において表皮材の吊り込み状態を均一にすることができる。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に記載のクッション体によれば、シート状繊維構造体を形成可能な材料であり、スチーム成形可能な材料であれば、線状部材を埋設することが可能であるため、表皮材を良好な状態で吊り込み可能なクッション体を提供することができる。したがって、ウレタンフォームを用いたクッション体でなくても、表皮材の吊り込み強度を確保し、表皮材が吊り込まれた風合いを呈するクッション体とすることができる。その結果、表皮材の吊り込み状態を強固に維持し、且つ、クッション体を構成する材料も耐久性を備えた材料を使用することができるため、耐久性の高いクッション体とすることができる。
請求項2に記載のクッション体によれば、係合孔が形成しやすく、且つ係合孔を寸法精度良く形成することができる。また、線状部材の長手方向をウェブの折曲部の延在方向と交わる方向とすることにより、線状部材の保持強度が向上する。さらに、係合孔がウェブWの林立方向に沿って形成された構成であるため、シート状繊維構造体が押圧された際、係合孔が安定して潰れ、表皮材の吊り込み状態を安定させることができる。したがって、耐久性の高いクッション体を提供することができる。
請求項3に記載のクッション体によれば、線状部材がシート状繊維構造体に対して埋もれやすくなるため、シート状繊維構造体と線状部材との密着性を向上させることができる。また、係合孔がウェブWの林立方向に沿って形成された構成であるため、シート状繊維構造体が押圧された際、係合孔が安定して潰れ、表皮材の吊り込み状態を安定させることができる。したがって、耐久性の高いクッション体を提供することができる。
請求項4に記載のクッション体によれば、クッション体の表面硬度を調整することが可能であるため、耐久性の高いクッション体を提供することができる。
請求項5に記載のクッション体によれば、表皮材を吊り込む際に、複数箇所によって吊り込み可能となるため、耐久性が高く、表皮材の吊り込み状態を均一にすることができるクッション体を提供することができる。
請求項6に記載の車両用シートによれば、表皮材をクッション体に接着しなくとも、表皮材がクッション体に吊り込まれた外観とすることができるため、接着等の方法と比較して、クッション体に表皮材を被覆するときの作業が簡素化される。したがって、製造時、作業者の熟練を必要とせず、一定な品質の車両用シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るシートの概略斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るシート状繊維構造体の製造工程の説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るシート状繊維構造体及びワイヤの積層前の説明図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るワイヤの載置部分の部分拡大図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るワイヤの積載状態及びシート状繊維構造体に形成される孔の構成に関する説明図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るクッション体に表皮材を装着する方法を示す断面図である。
【図7】図6のA−A線に相当する断面図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係るワイヤの積載状態及びシート状繊維構造体に形成される孔の構成に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることは勿論である。
【0024】
図1乃至図7は本発明の一実施形態に係るものであり、図1はシートの概略斜視図、図2はシート状繊維構造体の製造工程の説明図、図3はシート状繊維構造体及びワイヤの積層前の説明図、図4はワイヤの載置部分の部分拡大図、図5はワイヤの積載状態及びシート状繊維構造体に形成される孔の構成に関する説明図、図6はクッション体に表皮材を装着する方法を示す断面図、図7は図6のA−A線に相当する断面図であり、図8は本発明の他の実施形態に係るワイヤの積載状態及びシート状繊維構造体に形成される孔の構成に関する説明図である。
【0025】
本実施形態に係る車両用シートSは、図1で示すように、シートバックS1(背部)、着座部S2より構成されており、シートバックS1(背部)及び着座部S2はシートフレームにクッション体10,20を載置して、表皮材11,21で被覆されている。クッション体10,20には、それぞれ表皮材11,21が吊りこまれて配設される溝部10c,20cが形成されている。
なお、クッション体10,20を支持するシートフレームは、フレーム状のものに限られるものではなく、例えば、板状等であってもよい。
【0026】
本実施形態ではヘッドレストを備えない車両用シートSの構成を示しているが、車両用シートSの上方に適宜ヘッドレストピラー等を設け、シートバックS1の上方にヘッドレストが設けられる構成としても良い。
【0027】
シートバックS1は、シートバックフレームに、上記のようにクッション体10を載置して、クッション体10の上から表皮材11により覆われて形成されており、乗員の背中を後方から支持するものである。また、着座部S2は、着座フレームに、上記のようにクッション体20を載置して、クッション体20の上から表皮材21により覆われて形成されており、乗員の臀部及び大腿部を下方から支持するものである。
【0028】
本発明のクッション体10,20の構成について、以下、シートバックS1のクッション体10を例にとって説明する。なお、クッション体20についても同様の方法で形成される。
【0029】
クッション体10は、図3に示すように、シート状繊維構造体13、線状部材16、シート状繊維構造体14,15を順に積層し、第1型30と第2型40との間に狭持することにより形成される。
【0030】
[シート状繊維構造体13,14,15の構成]
まず、本例のシート状繊維構造体13,14,15を形成するためのウェブWについて説明する。ウェブWは、非弾性捲縮短繊維の集合体からなるマトリックス繊維中に、この短繊維よりも低い融点であって、少なくとも120℃以上の融点を有する熱接着性複合短繊維が接着成分として分散・混合されたものである。
【0031】
ウェブWは、非弾性捲縮短繊維としての非弾性ポリエステル系捲縮短繊維と、非弾性ポリエステル系捲縮短繊維を構成するポリエステルポリマーの融点より40℃以上低い融点を有する熱可塑性エラストマーと非弾性ポリエステルとからなる熱接着性複合短繊維とが、主に長さ方向に繊維の方向が向くように混綿されたものである。さらに、熱処理によって、熱接着性複合短繊維同士間、および熱接着性複合短繊維と非弾性ポリエステル系捲縮短繊維との間に立体的繊維交差点が形成される。
【0032】
例えば、非弾性ポリエステル系捲縮短繊維として、異方冷却により立体捲縮を有する単糸繊度12デニール、繊維長64mmの中空ポリエチレンテレフタレート繊維を用いると好ましい。
非弾性ポリエステル系捲縮短繊維は、通常のポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリ−1,4−ジメチルシクロヘキサンテレフタレート、ポリピバロラクトンまたはこれらの共重合エステルからなる短繊維ないしそれら繊維の混綿体、または上記のポリマー成分のうちの2種以上からなる複合繊維等を用いることができる。これら短繊維のうち好ましいのはポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートの短繊維である。さらに、固有粘度において互いに異なる2種のポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、またはその組み合わせからなり、熱処理等により捲縮がミクロクリンプを有する潜在捲縮繊維を用いることもできる。
【0033】
また、短繊維の断面形状は、円形、偏平、異型または中空のいずれであってもよい。また、その短繊維の太さは2〜200デニール、特に6〜100デニールの範囲にあることが好ましい。この短繊維の太さが小さいと、ソフト性はアップするもののクッション体の弾力性が低下する場合が多い。
【0034】
また、短繊維の太さが大きすぎると、取扱い性、特にウェブの形成性が悪化する。また構成本数も少なくなりすぎて、熱接着性複合短繊維との間に形成される交差点の数が少なくなり、クッション体の弾力性が発現しにくくなると同時に耐久性も低下するおそれがある。更には風合も粗硬になりすぎる。
【0035】
また、本実施形態では、熱接着性複合短繊維として、融点154℃の熱可塑性ポリエーテルエステル系エラストマーを鞘成分に用い、融点230℃ポリブチレンテレフタレートを芯成分に用いた単糸繊度6デニール、繊維長51mmの芯/鞘型熱融着性複合繊維(芯/鞘比=60/40:重量比)が好適に用いられる。
【0036】
熱接着性複合短繊維は、熱可塑性エラストマーと非弾性ポリエステルとで構成される。そして、前者が繊維表面の少なくとも1/2を占めるものが好ましい。重量割合でいえば、前者と後者が複合比率で30/70〜70/30の範囲にあるのが適当である。熱接着性複合短繊維の形態としては、サイド・バイ・サイド、シース・コア型のいずれであってもよいが、好ましいのは後者である。このシース・コア型においては、非弾性ポリエステルがコアとなるが、このコアは同心円上あるいは偏心状にあってもよい。特に偏心状のものにあっては、コイル状弾性捲縮が発現するので、より好ましい。
【0037】
熱可塑性エラストマーとしては、ポリウレタン系エラストマーやポリエステル系エラストマーが好ましく、特に後者が適当である。ポリウレタン系エラストマーとしては、分子量が500〜6000程度の低融点ポリオール、例えばジヒドロキシポリエーテル、ジヒドロキシポリエステル、ジヒドロキシポリカーボネート、ジヒドロキシポリエステルアミド等と、分子量500以下の有機ジイソシアネート、例えばp,p−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプロエート、ヘキサメチレンジイソシアネート等と、分子量500以下の鎖伸長剤、例えばグリコール、アミノアルコールあるいはトリオールとの反応により得られるポリマーである。これらのポリマーのうち、特に好ましいものはポリオールとしてポリテトラメチレングリコール、またはポリ−ε−カプロラクトンあるいはポリブチレンアジペートを用いたポリウレタンである。この場合、有機ジイソシアネートとしてはp,p’−ジフェニルメタンジイソシアネートが好適である。また、鎖伸長剤としては、p,p’ビジスヒドロキシエトキシベンゼンおよび1,4−ブタンジオールが好適である。
【0038】
一方、ポリエステル系エラストマーとしては、熱可塑性ポリエステルをハードセグメントとし、ポリ(アレキレンオキシド)グリコールをソフトセグメントとして共重合してなるポリエーテルエステルブロック共重合体、より具体的にはテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、3−スルホイソフタル酸ナトリウム等の芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、コハク酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体などから選ばれたジカルボン酸の少なくとも1種と、1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール等の脂肪族ジオール、あるいは1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール等の脂環族ジオール、またこれらのエステル形成性誘導体などから選ばれたジオール成分の少なくとも1種、および平均分子量が約400〜5000程度の、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2−および1,3−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランとの共重合体等のポリ(アレキレンオキシド)グリコールのうち少なくとも1種から構成される三元共重合体である。
【0039】
しかしながら、非弾性ポリエステル系捲縮短繊維との接着性や温度特性、強度の面からすれば、ポリブチレン系テレフタレートをハードセグメントとし、ポリオキシブチレングリコールをソフトセグメントとするブロック共重合ポリエーテルポリエステルが好ましい。この場合、ハードセグメントを構成するポリエステル部分は、主たる酸成分テレフタル酸、主たるジオール成分がブチレングリコール成分であるポリブチレンテレフタレートである。勿論、この酸成分の一部(通常30モル%以下)は他のジカルボン酸成分やオキシカルボン酸成分で置換されていてもよく、同様にグリコール成分の一部(通常30モル%以下)はブチレングリコール成分以外のジオキシ成分で置換されてもよい。
【0040】
また、ソフトセグメントを構成するポリエーテル部分は、ブチレングリコール以外のジオキシ成分で置換されたポリエーテルであってもよい。なお、ポリマー中には、各種安定剤、紫外線吸収剤、増粘分岐剤、艶消剤、着色剤、その他各種の改良剤等も必要に応じて配合されていてもよい。
【0041】
このポリエステル系エラストマーの重合度は、固有粘度で0.8〜1.7dl/g、特に0.9〜1.5dl/gの範囲にあることが好ましい。この固有粘度が低すぎると、マトリックスを構成する非弾性ポリエステル系捲縮短繊維とで形成される熱固着点が破壊され易くなる。一方、この粘度が高すぎると、熱融着時に紡錘状の節部が形成されにくくなる。
【0042】
熱可塑性エラストマーの基本的特性としては、破断伸度が500%以上が好ましく、更に好ましくは800%以上である。この伸度が低すぎると、クッション体10が圧縮されその変形が熱固着点に及んだとき、この部分の結合が破壊され易くなる。
【0043】
一方、熱可塑性エラストマーの300%の伸長応力は0.8kg/mm以下が好ましく、更に好ましくは0.8kg/mmである。この応力が大きすぎると、熱固着点が、クッション体10に加わる力を分散しにくくなり、クッション体10が圧縮されたとき、その力で熱固着点が破壊されるおそれがあるか、あるいは破壊されない場合でもマトリックスを構成する非弾性ポリエステル系捲縮短繊維まで歪ませたり、捲縮をへたらせてしまったりすることがある。
【0044】
また、熱可塑性エラストマーの300%伸長回復率は60%以上が好ましく、さらに好ましくは70%以上である。この伸長回復率が低いと、クッション体10が圧縮されて熱固着点は変形しても、もとの状態に戻りにくくなるおそれがある。これらの熱可塑性エラストマーは、非弾性ポリエステル系捲縮短繊維を構成するポリマーよりも低融点であり、かつ熱固着点の形成のための融着処理時に捲縮短繊維の捲縮を熱的にへたらせないものであることが必要である。この意味から、その融点は短繊維を構成するポリマーの融点より40℃以上、特に60℃以上低いことが好ましい。かかる熱可塑性エラストマーの融点は例えば120〜220℃の範囲の温度とすることができる。
【0045】
この融点差が40℃より小さいと、以下に述べる融着加工時の熱処理温度が高くなり過ぎて、非弾性ポリエステル系捲縮短繊維の捲縮のへたりを惹起し、また捲縮短繊維の力学的特性を低下させてしまう。なお、熱可塑性エラストマーについて、その融点が明確に観察されないときは、融点は軟化点をもって交替する。
【0046】
一方、上記複合繊維の熱可塑性エラストマーの相手方成分として用いられる非弾性ポリエステルとしては、既に述べたような、マトリックスを形成する捲縮短繊維を構成するポリエステル系ポリマーが採用されるが、そのなかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートがより好ましく採用される。
【0047】
上記の複合繊維は、ウェブの重量を基準として、20〜100%、好ましくは30〜80%の範囲で分散・混入される。
本実施形態のウェブでは、バインダ繊維としての熱接着性複合短繊維と、主体繊維としての非弾性捲縮短繊維が、60:40の重量比率で混綿されている。
【0048】
複合繊維の分散・混入率が低すぎると、熱固着点の数が少なくなり、クッション体10が変形し易くなったり、弾力性、反撥性および耐久性が低くなったりするおそれがある。また、クッション体10の表面に配列した山間(連続して形成された凸部同士の間)の割れも発生するおそれがある。
【0049】
本実施形態では、非弾性ポリエステル系短繊維と、熱接着性複合短繊維とを、重量比率40:60で混綿し、ローラーカードに通して、目付20g/mのウェブに形成したものを用いると好適である。
【0050】
この連続ウェブ中の長さ方向(連続している方向)に向いている繊維Xと横方向(ウェブWの幅方向)に向いている繊維Yの単位体積当りの総数に関し、本実施形態のウェブWは、上記のように長さ方向に向いている繊維の方が、横方向に向いている繊維よりも相対的割合が多くなるように形成されている。すなわち、本実施形態のウェブWは、単位体積当りにおいて、X≧3Y/2、好ましくはX≧2Yの関係を満足するように形成されている。
【0051】
ここでウェブWの長さ方向に向いている繊維とは、ウェブWの長さ方向に対する繊維の長さ方向の角度θが、0°≦θ≦45゜の条件を満足する繊維であり、横方向(ウェブの幅方向)に向いている繊維とは、θが45°<θ≦90゜を満足する繊維である。
また、シート状繊維構造体13,14,15を構成する繊維の向きについても、シート状繊維構造体13,14,15の厚さ方向、および厚さ方向に垂直な方向に沿う方向とは、これらの方向に対して±45°の範囲にあるものを意味する。
【0052】
各繊維の向いている方向は、ウェブWの表層部、内層部でランダムな箇所を抽出し、透過型光学顕微鏡で観察することによって観察した。
なお、ウェブの厚みは5mm以上、好ましくは10mm以上、更に好ましくは20mm以上である。通常5〜150mm程度の厚みである。
【0053】
そして、主に長さ方向に繊維が沿うように形成されたウェブWを、所定の密度と構造体としての所望の厚さになるようにアコーデオンの如く折り畳んでいき、複合繊維同士間、および非弾性ポリエステル系捲縮短繊維と複合繊維間に立体的な繊維交差点を形成せしめた後、ポリエステルポリマーの融点よりも低く、熱可塑性エラストマーの融点(または流動開始点)より10〜80℃高い温度で熱処理することにより、上記繊維交差点でエラストマー成分が熱融着され、可撓性熱固着点が形成される。
【0054】
具体的には、図2に示すように、駆動ローラ101により、ウェブWを熱風サクション式熱処理機102内へ押し込むことでアコーデオン状に折り畳み、熱処理炉にて約190℃で数分間処理し熱融着することにより、適当な厚さのシート状繊維構造体13,14,15が形成される。
【0055】
このようにして形成されたシート状繊維構造体13,14,15中には、熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点、および熱接着性複合短繊維と非弾性捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点とが散在した状態となっている。
シート状繊維構造体13,14,15の密度は、0.015〜0.20g/cmの範囲とすると、クッション性、通気性、弾力性を適度に発現することができるため、好ましい。
【0056】
長さ方向に繊維が沿うように形成されたウェブWを折り畳んで形成することにより、シート状繊維構造体13,14,15は、厚さ方向に向いている繊維の方が、厚さ方向と垂直な方向を向いている繊維よりも多く、主に繊維方向が厚さ方向と平行となる。つまり、本実施形態のシート状繊維構造体13,14,15は、単位体積当りにおいて、厚さ方向に沿って配列している繊維の総数をα、厚さ方向に対して垂直な方向に沿って配列している繊維の総数をβとしたときに、α≧3β/2、好ましくはα≧2βの関係を満足するように形成される。
【0057】
[クッション体10、第1型30,第2型40の構成]
クッション体10は、上記のように、ウェブWを林立状態(積層状態)に折り畳んだシート状繊維構造体13,14,15、さらに線状部材16によって形成される。シート状繊維構造体13,14,15は複数積層された状態で、無数の蒸気孔(スチーム通気孔)31,41(図3参照)が型面に形成された第1型30及び第2型40の間に配置される。そして、シート状繊維構造体13,14,15は、蒸気が吹き付けられることによって一体に成形される。より詳細には、積層されたシート状繊維構造体13,14,15は、圧締めされた状態で、高圧スチーム成形機内で高圧スチーム成形され、クッション体10が製造される。
【0058】
所定形状に裁断されたシート状繊維構造体13,14,15は、図3に示すように、シート状繊維構造体13,14,15の厚さ方向(縦方向)に積層される。本実施形態では、略矩形状に形成されたシート状繊維構造体13,14,15の例を示すが、例えば、シートバックS1よりもシート状繊維構造体を大きく形成し、第1型(下型)30と第2型(上型)40を圧締めした際、側方の余剰部分を切除しても良い。また、余剰部分を折り込んで第1型30と第2型40の間に挟み込んで圧締めしても良い。さらに、シート状繊維構造体13,14,15を全て略同形、同大に形成する必要はなく、異なる形状、大きさに形成しても良い。
【0059】
これらのシート状繊維構造体13,14,15は、その厚さ方向に積層される。つまり、繊維方向が縦方向に揃うように積層される。なお、シート状繊維構造体13,14,15は、厚さに応じてそれぞれ複数のシート状繊維構造体を積層したものであってもよい。
また、シート状繊維構造体13,14,15が互いに当接する部分には、必要に応じホットメルトフィルム、ホットメルト不織布、ホットメルト接着剤等が配設される。
【0060】
このように積層したシート状繊維構造体13,14,15を、図3に示すような、第1型30及び第2型40に狭持させ、圧締めする。本実施形態の第1型30及び第2型40は、第1型30と第2型40からなる。第1型30と第2型40を型締めすると所望のクッション体10の凹凸形状を有するキャビティが形成される。
【0061】
第1型30は、クッション体10において、主に着座時に着座者と当接して直接荷重が掛かる部位を含む表面側、すなわち荷重受面10aを形成するものである。第2型40は、クッション体10において、シートバックフレームに取付ける部位を含むクッション体10の裏面側、すなわち非荷重受面10bを形成するものである。
【0062】
第1型30及び第2型40には、それぞれ、荷重受面10a及び非荷重受面10bに付される膨出部等の凹凸、溝等を形成するための凹凸が設けられている。なお、図3では、説明のため、第1型30及び第2型40の内部について、簡略化した状態を図示している。特に第1型30には、溝部10cを構成するための凸条部が設けられていてもよい。
【0063】
第1型30及び第2型40の側方には、それぞれ板材からなる支持部材が配設されていてもよい。たとえば、支持部材は、第1型30又は第2型40の側面を狭持可能な断面コ字状に形成されているとよい。第1型30及び第2型40の間にシート状繊維構造体13,14,15及び線状部材16を載置する際、支持部材にそれぞれ下方向及び上方向の力を加えることにより第1型30及び第2型40が開閉される。
【0064】
そして、第1型30と第2型40を閉状態とした後、それぞれ第1型30と第2型40に配設された支持部材同士を係止することにより第1型30と第2型40は互いに圧締めされる。したがって、支持部材には締結手段が配設されていると、第1型30と第2型40とを容易に型締めできるため、好適である。
【0065】
本実施形態では、第1型30及び第2型40が互いに対向して配設される。第1型30の側方は第2型40側に折曲されて形成されると共に、第2型40の側方は第1型30側に折曲されて形成されている(図3参照)。そして、第1型30と第2型40とが対向して閉じられた際、第1型30及び第2型40の側方面はシート状繊維構造体13,14,15に接し、クッション体10の厚みを構成する。
【0066】
なお、本実施形態では第1型30と第2型40との間で四方を閉じた筐体構造とし、且つクッション体10の厚みが保持できる構成を示したが、第1型30及び第2型40間に支持部材を架設し、第1型30、第2型40、支持部材とが接することによってキャビティが区画される構成としても良い。
【0067】
図3に示すように、第1型30の型面、第2型40の型面には、それぞれ一部又は全面に蒸気孔31,41が形成されている。
第1型30及び第2型40は、高圧スチーム成形に耐えうる機械的強度を備えた材料が用いられる。例えば、鉄,鋼,アルミニウム等の金属、ガラス繊維,カーボン繊維を使用し樹脂で形成したもの、又、合成樹脂等が挙げられる。
【0068】
シート状繊維構造体13,14,15は、自然状態で第1型30及び第2型40の間に形成されるキャビティよりも、容積で1.2〜3.0倍程度大きく形成されている。したがって、型締め時には、シート状繊維構造体13,14,15は、キャビティの形状に圧縮された状態となる。
【0069】
本実施形態の第1型30及び第2型40は、型面の各部位によって蒸気孔31,41の開口(面積)率が異なるように設定されていると好ましい。ここで、開口率とは、型面の単位表面積当たりの蒸気孔31,41の総開口面積の比率である。
【0070】
このように、第1型30及び第2型40の型面の各部位によって蒸気孔31,41の開口率が異なるように設定されていると、クッション体10の各部位の硬さを部位毎に変化させることができる。開口率が大きいほど、高圧スチーム成形時に外部から内部に吹き込む蒸気量、すなわちシート状繊維構造体13,14,15に吹き付けられる蒸気量が大きくなるため、蒸気孔31,41の開口率が高い部分はクッション体10の相当する部分が固く形成される。一方、開口率が低い部分はスチーム成形時に蒸気が直接吹き付けられることがないため、その表層はシート状繊維構造体13,14,15の柔らかい風合を残した状態に形成される。これにより、ソフトな着座感を得ることができ、着座感を良好とすることができる。
【0071】
なお、本実施形態では、蒸気孔31,41の開口率を異ならせるために、単位面積当たりの同形状(同面積)の蒸気孔31,41の数を調整する構成であるが、これに限らず、蒸気孔31,41自体の大きさを異ならせるようにしてもよい。
【0072】
本実施形態の第1型30及び第2型40では、着座時に着座者と直接当接する着座部を形成する部位と、土手部(シートバックS1の左右において、上下方向に沿って形成される膨出した部分)のうち座席中央側の面を形成する部位と、土手部のうち座席外側の面を形成する部位と、クッション体10の裏面側を形成する部位には、それぞれ異なる開口率で蒸気孔31,41が形成されている。本実施形態では、乗員を十分に支持するため、シートフレームに組み付けられる部位(非荷重受面10b)の方が、着座時に着座者が接する部分(荷重受面10a)よりも固く形成されていると好ましい。したがって、蒸気孔31の開口率よりも蒸気孔41の開口率が高く設定されている。
【0073】
このように、蒸気孔31,41が部位によって異なる開口率で形成された第1型30及び第2型40の間にシート状繊維構造体13,14,15を狭持させ、支持部材等で締結することにより第1型30及び第2型40を圧締めする。その後、シート状繊維構造体13,14,15が内部に配設された第1型30及び第2型40を支持部材等によって締結した状態で高圧スチーム成形機内に入れる。そして、高圧スチーム成形機内部を大気圧よりも高い気圧である2〜8気圧程度に加圧し、1〜3分間、成形型30,40に120℃〜180℃程度の蒸気を吹き付ける。蒸気を吹き付けた後、冷却し、脱型してクッション体10を得る。
【0074】
本実施形態では、5.5気圧に加圧し、約1分10秒間蒸気を吹き付けると好ましい。蒸気の温度は、熱接着性複合短繊維の融点、すなわち、熱可塑性エラストマーの融点よりも高い温度であって、非弾性捲縮短繊維の融点よりも低い温度に設定される。また、タクトタイムを3〜5分とすると好ましい。
【0075】
シート状繊維構造体13,14,15は通気性を有するため、このように蒸気を吹き付けることによって、第1型30、第2型40及び支持部材の蒸気孔31,41から蒸気がシート状繊維構造体13,14,15内に入り込む。シート状繊維構造体13,14,15は、圧縮状態で第1型30及び第2型40内に配設されており、蒸気熱によって、熱接着性複合短繊維同士、および熱接着性複合短繊維と非弾性捲縮短繊維との交差点が熱融着され、第1型30及び第2型40の間に形成されるキャビティの形状に形成される。
【0076】
また、シート状繊維構造体13,14,15間に配設されたホットメルトフィルム、ホットメルト不織布、ホットメルト接着剤等が、蒸気熱によって溶融し、シート状繊維構造体13,14,15同士を固着する。
このように、蒸気によってシート状繊維構造体13,14,15内の繊維同士が熱融着されると共に、ホットメルトフィルム、ホットメルト不織布、ホットメルト接着剤等がシート状繊維構造体13,14,15同士を固着することによって、所定形状のクッション体10が形成される。なお、必要に応じ表面に布帛を入れても良い。
【0077】
なお、荷重受面10aを構成するシート状繊維構造体13は、線状部材16と重なる位置において、複数の係合孔としての係合孔13aが予め切除されている。係合孔13aは、シート状繊維構造体13の厚さ方向を貫通するように形成されている。係合孔13aは、スリット状に形成されていても良い。係合孔13aをスリット状に形成する場合は、スリットの長手方向がウェブWの林立方向(図5中のy方向)に沿った構成となるように形成すると、スリットを形成し易い。
【0078】
[線状部材16、第1型30、第2型40及びシート状繊維構造体13の構成]
シート状繊維構造体13,14,15間にスチール等のワイヤからなる線状部材16が配設される。以下、線状部材16の構成、第1型30、第2型40及びシート状繊維構造体13との関係について詳細に説明する。
【0079】
線状部材16は、表皮材11に備えられた固定部材としてのリング11dと係合し、表皮材11をクッション体10に対して吊り込むために備えられる部材であり、一般に金属製のワイヤが用いられる。線状部材16は、荷重受面10aに対してシート状繊維構造体13を介在させて配設される。表皮材11を吊り込む構成については、後述する。
【0080】
第1型30には、クッション体10において荷重受面10aに形成される溝部10cを構成するための凸条部が、第1型30の内面に複数設けられていてもよい。シート状繊維構造体13が第1型30に対して押圧、圧縮された際、シート状繊維構造体13において凸条部に当接する部分が凹み、この状態でスチーム成形されることにより、クッション体10において凸条部に相当する位置に溝部10cが形成される。
【0081】
そして、第1型30の内面には、線状部材16をシート状繊維構造体13上に固定するための係合部33が突出して複数形成されている。係合部33は、第1型30の内側の面から、第2型40が配設される方向に突出して形成されている。
【0082】
図4に示すように、係合部33は、上方(第1型30において、第2型40が配設される方向)に突出した突出部であり、後述するように、線状部材16の鉤状部16bと係合する。したがって、線状部材16の鉤状部16b(略垂直に折曲された部分)と係合しやすいように、係合部33は、少なくとも外側方向(クッション体10の左右方向外側)において、略垂直に形成された面を備えていると好ましい。本実施形態では、係合部33は、略直方体状に形成されている。
【0083】
さらに、係合部33は、シート状繊維構造体13に形成された係合孔13aに対して挿通されることにより、シート状繊維構造体13が容易に位置決めされる。
このように、線状部材16は、シート状繊維構造体13が形成された係合孔13aを介して第1型30の係合部33に係合し、固定される。
【0084】
本実施形態において、係合孔13aは線状部材16の長手方向に対し、その長辺が沿うように略矩形状に開口し、略角柱状にシート状繊維構造体13が切り欠かれるようにして形成されている。
【0085】
一方、線状部材16は、スチーム成形によってシート状繊維構造体13,14,15を一体化する際、係合孔13aを通じて荷重受面10a側に露出され、シート状繊維構造体13,14,15の間に狭持される。
【0086】
線状部材16の構成について、以下、詳細に説明する。係合孔13a上に架設された状態で、シート状繊維構造体13上に載置される。そして、線状部材16は、その先端部が略U字状に折曲されることにより屈曲部16aを備えている。さらに、線状部材16は、クッション体10の左右方向に沿って、複数形成された係合孔13aに架設される架設部16cを備えており、架設部16cの両端すなわち屈曲部16aの近傍に、鉤状に折曲された鉤状部16bが備えられている。
【0087】
線状部材16の両端部には、U字状に折曲された屈曲部16aが形成されている。そして、鉤状部16bが係合孔13aから突出した係合部33の略垂直な部分に当接することにより、線状部材16が位置決めされる。
【0088】
このとき、係合部33は、屈曲部16aと、架設部16cとの間に位置する。そして、線状部材16の鉤状部16bは、係合部33対して係合可能となるように設計される。
【0089】
そして、線状部材16の配設位置の固定及び位置決めをより容易に行うため、係合部33の近傍において、例えば、内部に磁性体が埋設された固定部が形成されていてもよい。
【0090】
固定部は、係合部33の近傍であって、架設部16cが配設される部分に形成されていると好ましい。固定部によって線状部材16がシート状繊維構造体13を第1型30側へ押圧されるため、シート状繊維構造体13が第1型30に対して固定され、位置ずれを防止することができる。したがって、係合部33の近傍に固定部を設けることにより、線状部材16の固定、位置決めが容易になるだけでなく、シート状繊維構造体13の固定を容易に行うことができる。
【0091】
上記構成でシート状繊維構造体13に対して線状部材16を固定した後、係合孔が形成されていないシート状繊維構造体14,15が積層された状態でスチーム成形されることにより、クッション体10が製造される。
【0092】
次に、シート状繊維構造体13と線状部材16との関係に関し、図5を参照して説明する。なお、図5は、説明のため、ウェブWの厚さを誇張して図示している。
シート状繊維構造体13を構成するウェブWは、アコーデオン状に折曲された際、折曲部W1と、平滑な面からなる面状部W2を備えている。
線状部材16は、シート状繊維構造体13上に載置され、線状部材16の長手方向がウェブWの折り目方向に対して略平行になるように配設される。そして、本実施形態では、ウェブWの林立する方向(図5のy方向)がシート状繊維構造体13の厚さ方向となるようにシート状繊維構造体13が形成されている。そして、線状部材16の架設部16cの延在方向は、林立状態に折り畳まれたウェブWの折曲部W1の延在方向(図5のx方向)に対して交わるように、より詳細には略垂直に交わるように配設される。このとき、図5のように、ウェブWの折曲部W1上に線状部材16が配設される。したがって、線状部材16は、その長手方向が、ウェブWの林立方向(図5のy方向)に対して直交するように配設される。
【0093】
そして、シート状繊維構造体13において角柱状に形成された係合孔13aは、その高さ方向がウェブWの林立方向(図5のy方向)となるように形成されている。すなわち、係合孔13aは、ウェブWの林立方向(図5のy方向)に沿ってシート状繊維構造体13を貫通するように切除されている。
このような構成とすると、係合孔13aは、ウェブWの林立方向に沿って切除可能となるため、容易に係合孔13aを形成することが可能である。さらに、ウェブWに沿って切除することが可能であるので、係合孔13aの形状が安定し、寸法均一性を保つことができる。
【0094】
また、ウェブWの折曲部W1に沿って形成された上記構成の係合孔13aは、線状部材16によって表皮材11が吊り込まれる際、シート状繊維構造体13の係合孔13aの近傍の形状が安定する。そして、係合孔13aはウェブWの林立方向(図5のy方向)に沿って形成されているため、線状部材16によってシート状繊維構造体13が押圧される際、安定して潰れやすくなるという効果を奏する。
【0095】
[クッション体10の製造方法]
上記構成のクッション体10の製造方法について、以下説明する。
まず、第1型30に対し、最も下方に配設され、荷重受面10aを構成するシート状繊維構造体13を載置する。この時、シート状繊維構造体13は、複数の貫通孔、すなわち、第1型30に形成された係合部33を挿通又は嵌合可能な係合孔13aが予め切除されていると好ましい。
【0096】
その後、シート状繊維構造体13の上面に線状部材16を載置する。より詳細には、シート状繊維構造体13の係合孔13aから突出した係合部33に対して、線状部材16を係合させる。このとき、線状部材16の鉤状部16bは、係合部33に係合するように配設される。
【0097】
なお、この時、線状部材16の長手方向が、林立状態に折り畳まれたシート状繊維構造体13のウェブWの折曲部W1上に沿って配設されていると良い。または、後述のように、林立状態に折り畳まれたウェブWの面状部W2上に線状部材16が配設されていてもよい。
【0098】
そして、表皮材11を吊り込む際、表皮材11に備えられた部材(後述のリング11d)と係合する線状部材16の鉤状部16bを、第1型30に設けられた係合部33に対して係止する。
【0099】
これにより、係合部33付近のシート状繊維構造体13が線状部材16によって押圧され、シート状繊維構造体13及び線状部材16が強固に固定される。
【0100】
そして、線状部材16をシート状繊維構造体13上に載置した後、さらにその上方に他のシート状繊維構造体14,15を積層する。そして、さらにその上方に第2型40を載置した後、第1型30及び第2型40を型締めする。
【0101】
次に、そのキャビティ内にシート状繊維構造体13,14,15及び線状部材16が収められた状態の第1型30及び第2型40を、そのままの状態で高圧スチーム機内に収納する。
【0102】
その後、高圧スチーム機内を所定の圧力、温度、水蒸気量とした後に所定時間保持し、十分に冷却した後、第1型30及び第2型40が締結された状態で高圧スチーム機内から取り出す。
【0103】
第1型30及び第2型40を高圧スチーム機内から取り出した後、十分に冷却し、その後、クッション体10を第1型30及び第2型40から取り出す。
このように、上記工程を経ることにより、シート状繊維構造体13,14,15によって形成されると共に線状部材16が埋設されたクッション材10が製造される。
【0104】
そして、後述の吊り込みワイヤ11c等が備えられた表皮材11をクッション材10に設けられた溝部10cに対して吊り込むことにより、良好な外観の車両用シートSを製造することができる。
【0105】
したがって、本発明には、以下の態様が含まれる。
複数のシート状繊維構造体を成形してなるクッション体の製造方法であって、
成形型に、荷重受面を構成し、係合孔が切除されたシート状繊維構造体を配設するシート状繊維構造体配設工程と、
前記シート状繊維構造体の前記係合孔上に線状部材を架設する線状部材配設工程と、
前記線状部材の上に他のシート状繊維構造体を少なくとも1枚以上載置する他のシート状繊維構造体配設工程と、
前記成形型を締結する成形型締結工程と、
前記成形型に対して蒸気を吹き付けて、クッション体を形成するクッション体成形工程が含まれることを特徴とする車両用シートの製造方法。
【0106】
このとき、前記シート状繊維構造体は、折曲部によって林立状態に折り畳まれたウェブによって構成され、前記線状部材配設工程において、前記線状部材の長手方向を前記折曲部の延在方向と交わる方向に載置すると好ましい。
【0107】
また、後述するように、前記シート状繊維構造体は、折曲部によって林立状態に折り畳まれたウェブによって構成され、前記線状部材配設工程において、前記線状部材の長手方向を前記折曲部の延在方向に沿って載置すると好ましい。
【0108】
さらにこのとき、前記成形型は前記線状部材を固定する固定部を備え、前記線状部材配設工程において、前記線状部材を前記固定部に対して固定すると好ましい。
【0109】
また、さらに、前記成形型は、所定形状のキャビティを有すると共に型面に形成された蒸気孔の開口率が前記型面の部位に応じて異なるように設定され、
前記クッション体成形工程において、前記シート状繊維構造体を圧縮した状態で配設し、前記成形型に対して蒸気を吹き付けることによって、前記蒸気孔の開口率に応じて表層の硬度が部位によって異なるように形成すると好適である。
【0110】
[表皮材11の吊り込み構成]
クッション体10に対して表皮材11を吊り込む構成について、図6及び図7を参照して説明する。なお、図7では、説明のため、線状部材16の太さに対してクッション体10の開口部10dの深さを誇張して示している。
【0111】
表皮材11には、その加飾部(表側)を内側にして貼り合わせた状態で、その端部が縫合部11eによって縫い合わされており、縫合部11eには、さらに吊布11aが縫合されている。吊布11aは、クッション体10の溝部10cの延在方向に沿って配設される部材であり、線状部材16の長手方向(クッション体10の溝部10cの延在方向)に沿って配設される長尺の吊り込みワイヤ11cを保持する。
【0112】
吊り込みワイヤ11cは、吊布11aにおいて縫合部11eと離間して対向した開放端部側に保持されている。より詳細には、吊り込みワイヤ11cの周囲において吊布11aが巻き付けられるように吊布11aが縫製されており、これによって吊り込みワイヤ11cが保持されている。
そして、吊り込みワイヤ11cは、吊布11aから脱落することがないように、その両端部が屈曲した状態で、吊布11aの環状に縫製された部分に挿通されている。
【0113】
吊布11aには、リング通し穴11bが複数形成されており、固定部材であるリング11dが挿通される。一方、リング11dは、クッション体10内に備えられた線状部材16に係合する。このとき、リング11dは、クッション体10に形成された開口部10d(係合孔13a)を介して、線状部材16の架設部16cに引っかけられるようにして係合する。
【0114】
例えばリング11dとしては、Cリングが用いられ、吊り込みワイヤ11c及び線状部材16の周囲を取り囲むように配設され、工具等を用いてCリングの開口部が閉じられる。これにより、クッション体10に形成された溝部10cに対して表皮材11が吊り込まれる。
なお、表皮材11を吊り込む構成はこれに限定されるものではなく、線状部材16に表皮材11が吊り込まれる構成であれば、公知の手法が用いられる。
【0115】
[他の実施形態]
以下、他の実施形態に関するシート状繊維構造体13と線状部材16との関係について、図8を参照して説明する。なお、図8は、説明のため、ウェブWの厚さを誇張して図示している。本実施形態は、上述の実施形態と比較して、線状部材16の長手方向が、ウェブWの折曲部W1の延在方向に沿って配設されていることを特徴とする。
シート状繊維構造体13を構成するウェブWは、アコーデオン状に折曲された際、折曲部W1と、平滑な面からなる面状部W2を備えている。
線状部材16は、シート状繊維構造体13上に載置され、線状部材16の長手方向がウェブWの折り目方向に対して略平行になるように配設される。そして、本実施形態では、ウェブWの林立する方向(図8のy方向)がシート状繊維構造体13の厚さ方向となるようにシート状繊維構造体13が形成されている。そして、線状部材16の架設部16cの延在方向は、林立状態に折り畳まれたウェブWの折曲部W1の延在方向(図8のz方向)に沿って配設される。このとき、図8のように、ウェブWの折曲部W1上に線状部材16が配設される。したがって、線状部材16は、その長手方向が、ウェブWの林立方向(図8のy方向)に対して直交するように配設される。
【0116】
このように、線状部材16の架設部16cの延在方向が、林立状態に折り畳まれたウェブWの折曲部W1の延在方向(図8のz方向)に沿って配設された構成とすると、線状部材16がシート状繊維構造体13に載置される際、互いに隣り合う折曲部W1同士の間に形成される微細な溝(凹部)に対して線状部材16が引っ掛かるように固定され易くなり、より線状部材16の固定が容易になる。また、線状部材16が折曲部W1同士の間に形成される微細な溝(凹部)に対し、部分的に線状部材16が埋設されるため、線状部材16とシート状繊維構造体13の密着性が向上する。
【0117】
また、シート状繊維構造体13において角柱状に形成された係合孔13aは、その高さ方向がウェブWの林立方向(図8のy方向)となるように形成されている。すなわち、係合孔13aは、ウェブWの林立方向(図8のy方向)に沿ってシート状繊維構造体13を貫通するように切除されている。
【0118】
このように、シート状繊維構造体13において角柱状に形成された係合孔13aは、その高さ方向がウェブWの林立方向(図8のy方向)となるように形成されている。したがって、係合孔13aはウェブWの折曲部W1に沿って形成することが可能である。その結果、線状部材16によって表皮材11が吊り込まれる際、シート状繊維構造体13の係合孔13aの近傍の形状が安定する。そして、線状部材16によってシート状繊維構造体13が押圧される際、安定して潰れやすくなるという効果を奏する。
【0119】
上記実施形態では、クッション体10を形成する際、シート状繊維構造体13,14,15を3層重ねて形成した例を示したが、所望のクッション体の厚さ、弾力性に応じて異なる層数としても良いのは勿論である。さらに、線状部材16はシート状繊維構造体13上に載置される構成だけでなく、上記の係合孔13aのような係合孔が設けられたシート状繊維構造体を複数積層し、その上に線状部材を載置する構成としてもよい。このような構成とすると、クッション体に対する表皮材の吊り込み深度が深くなる。
【0120】
さらに、線状部材16は、クッション体10において、シート幅方向に架設される例を示したが、クッション体10において上下方向(縦方向)に架設された構成としても良いのは勿論である。
【0121】
さらにまた、上記実施形態では線状部材16をシート状繊維構造体13,14,15の間に埋設する構成を説明したが、その他の部材としても良い。その他の埋設可能な部材として、例えば、ヒーター線、乗員検知センサー等が挙げられるが、高圧スチーム成形に耐えうる耐熱性及び耐圧性、耐水性を備えていることが必要である。
【0122】
なお、上記各実施形態では、具体例として、自動車のフロントシートのシートバックS1について説明したが、これに限らず、後部座席のシートバックについても、同様の構成を適用可能であることは勿論である。また、事務椅子、介護椅子、マッサージチェア、座椅子等の各種椅子にも好適に適用可能である。
【符号の説明】
【0123】
S 車両用シート
S1 シートバック
S2 着座部
W ウェブ
W1 折曲部
W2 面状部
10,20 クッション体
10a 荷重受面
10b 非荷重受面
10c,20c 溝部
10d 開口部
11,21 表皮材
11a 吊布
11b リング通し穴
11c 吊り込みワイヤ
11d リング(固定部材)
11e 縫合部
13,14,15 シート状繊維構造体
13a 係合孔
16 線状部材
16a 屈曲部
16b 鉤状部
16c 架設部
30 第1型(成形型)
31,41 蒸気孔
33 係合部
40 第2型(成形型)
101 駆動ローラ
102 熱風サクション式熱処理機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気を吹き付けることによって一体に成形される複数のシート状繊維構造体と、乗員の荷重を受ける荷重受面に対して前記シート状繊維構造体を介在させて配設される線状部材と、を備え、
前記荷重受面を構成するシート状繊維構造体は、前記線状部材と重なる位置において係合孔が切除され、
前記複数のシート状繊維構造体に蒸気を吹き付けて前記複数のシート状繊維構造体を一体化させる際に、前記線状部材が、前記係合孔を通じて露出され、且つ前記複数のシート状繊維構造体間に挟まれてなることを特徴とするクッション体。
【請求項2】
前記シート状繊維構造体は、アコーデオン状に折り畳まれ、林立状態に形成されたウェブによって形成され、
前記ウェブは、折曲された折曲部と、平滑な面からなる面状部とを有し、
前記係合孔は、前記ウェブの林立方向に沿って前記シート状繊維構造体を貫通するように切除されることにより形成され、
前記線状部材の長手方向が、前記ウェブの前記折曲部上であって該折曲部の延在方向と交わる方向で配設されてなることを特徴とする請求項1に記載のクッション体。
【請求項3】
前記シート状繊維構造体は、アコーデオン状に折り畳まれ、林立状態に形成されたウェブによって形成され、
前記ウェブは、折曲された折曲部と、平滑な面からなる面状部とを有し、
前記係合孔は、前記ウェブの林立方向に沿って前記シート状繊維構造体を貫通するように切除されることにより形成され、
前記線状部材の長手方向が、前記ウェブの前記折曲部上であって該折曲部の延在方向に沿って配設されてなることを特徴とする請求項1に記載のクッション体。
【請求項4】
前記シート状繊維構造体は、ポリエステル系繊維からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のクッション体。
【請求項5】
前記係合孔は、複数設けられたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のクッション体。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のクッション体と、該クッション体を覆う表皮材とを備えたことを特徴とする車両用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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