説明

クッション材及びその製造方法

【課題】繭の有する吸放湿性・保温性等の特長を備えつつ、繭殻の原形によって生じる不具合を減少させ得る。
【解決手段】布団や枕等の内部に収納されるクッション材2であって、このクッション材2が、略楕円状の複数の繭殻1を、所定の厚みHを有した状態で、互いに対向する両側2a,2bが扁平又は窪むように押し潰されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布団や枕等の寝具或いはクッション等の内部に収納されるクッション材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繭は、保温性に優れ、静電気を帯び難い、という特長を有する。又、繭は、水分を吸収して放湿する特性を有し、吸湿性・放湿性に優れている。そのため、繭殻を寝具等のクッション材として使用することにより、寝汗等を効果的に吸収・乾燥することができる。又、繭殻は静電気を帯び難いので、冬場における静電気の不快感を防止できる。
【0003】
そこで、特許文献1や特許文献2のような、繭殻をクッション材として用いた布団等が提案されている。特許文献1に記載された考案は、家蚕又は野蚕の繭殻を詰め物として、これを布地で縫いくるんだ繭層入り布団である。特許文献2に記載された発明は、布団等のカバー体に内装されるクッション材であって、このクッション材は内部に弾性資材を充填した複数の繭からなるものである。
【0004】
上記したものは、原形の繭殻を加工することなくそのまま使用し、比較的硬い楕円状(俵型)の繭殻をクッション材として充填している。この繭殻特有の楕円形状(凸状)によって、布団に寝る人が寝返りを打つ度に、繭殻の有する硬い凹凸感によって不快感を伴い、度々目を覚まし熟睡できないことがある。更に、寝てる際に身体を横向けたとき(一方側へ体重をかけたとき)、繭殻は楕円形(球状)で不安定なので、多数の繭殻が布団の他方側へ移動してしまい、心地良く眠ることができない。座布団やクッションに充填した場合にも、繭殻が体重をかけた部分(尻等)から移動してしまい、心地良さに欠ける。又、枕に使用したとき、繭殻の移動により雑音が生じ、不快感を与える。
【特許文献1】実公平6−4761号公報
【特許文献2】特許第2599401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、繭の有する吸放湿性・保温性等の特長を備えつつ、上記した繭殻の原形によって生じる不具合を減少させ得るクッション材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るクッション材は、布団や枕等の内部に収納されるクッション材であって、略楕円状の複数の繭殻が、所定の厚みを有した状態で、互いに対向する両側が扁平又は窪むように押し潰されてなる。
【0007】
好ましくは、複数の繭殻は、加水分解シルク液が塗布され形状保持されている。
【0008】
更に好ましくは、複数の繭殻は、上側と下側が長手方向に押し潰されてなる。
【0009】
本発明に係るクッション材の製造方法は、略楕円状の複数の繭殻に加水分解シルク液を塗布し、その後、この複数の繭殻を、繭殻の厚みよりも狭い間隔を置いて配置された一対の回転ローラへ送り、この各回転ローラの間で、所定の厚みを有した状態で、互いに対向する両側が扁平又は窪むように押し潰してなる。
【0010】
好ましくは、各回転ローラの間隔を繭殻原形又は使用態様に応じて適宜変更する。
【発明の効果】
【0011】
上記したように、本発明に係るクッション材は、略楕円状の複数の繭殻を、所定の厚みを有した状態で、互いに対向する両側が扁平又は窪むように押し潰されてなる。繭殻は、内部が空洞になっており大量の空気が存在するので保温性に優れる、という特性を有する。従って、本発明では、繭殻を、所定の厚みを有した状態(内部に空洞が残存する状態)に押し潰すことにより、空気層を設けて保温性を確保すると共に、クッション材としての弾力性を保持することができる。
【0012】
更に、繭殻を、互いに対向する両側を扁平又は窪むように潰すことにより、繭殻本来の形状(楕円状)による不快感を減少することができる。即ち、繭殻の凹凸感による強い刺激がなく、熟睡でき目を覚ますことがなくなる。更に、繭殻が安定し、寝返り等をしても、繭殻が余り移動しなくなり、座布団等に充填したときにも、上に載る使用者に安定感を与えることができ、又枕に使用した際の雑音もなくなる、という優れた効果を奏する。
【0013】
尚、繭殻をどの程度押し潰すかは、保温性、吸放湿性のほか、健康上有益な刺激を与えるべく弾力性や凹凸感を考慮して、繭殻の原形や大きさ、使用目的等に応じ、適宜変更して決定することができる。
【0014】
そして、繭殻は、形状を保持するために、加水分解シルク液が塗布されている。加水分解シルク液は、シルク繊維を加水分解して抽出して得られた液体であり、セリシン(アミノ酸)とシルク(絹)フィブロインとからなる溶液である。加水分解シルク液は粘性を有しているので、この加水分解シルク液を繭殻に塗布することにより、繭殻の特性を確保しつつ形状を保持することができ、使用による変形を少なくし、布団やクッションの詰め物として良好に作用する。
【0015】
又、繭殻は、原形が楕円状で上下側が長尺なので、長手方向に上側及び下側を潰しやすく、加工性、生産性に優れている。
【0016】
更に、上記したように、本発明に係るクッション材の製造方法によれば、複数の繭殻に加水分解シルク液を塗布した後に、一対の回転ローラで押し潰す。このように、押し潰す前に加水分解シルク液を塗布することにより、繭殻に所定の強度を与えた状態で押し潰すので、押し潰された繭殻の形を均一にすることができる。又、回転ローラを用いることにより、大量の繭殻を短時間で押し潰すことができ、生産性・コスト性に優れる。
【0017】
又、一対の回転ローラの間隙を変更することにより、繭殻の原形や使用目的等に応じて、比較的簡単にクッション材(押し潰された繭殻)の形状を変更することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面に基づいて、本発明に係るクッション材及びその製造方法について詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明に係るクッション材及びその製造方法を説明するための全体図であり、(a)は原形の繭殻を示す斜視図、(b)は押圧装置を示す斜視図、(c)は押し潰した繭殻(クッション材)を示す側面図である。図2は、押圧装置を示す断面側面図である。各図において、1は、一部切開して開口部1aを形成し、この開口部1aから内部のサナギを取り出した繭殻である。3は、繭殻1を押し潰すための押圧装置である。押圧装置3は、本体33を備えている。本体33の上部には、ホッパー30が連設されている。
【0020】
押圧装置3は、本体33の内部に、第1ローラ4及び第2ローラ5を備えている。第1及び第2ローラ4,5は、押圧装置3の幅方向(図2の奥行方向)に延設されている。第1ローラ4と第2ローラ5とは、所定の間隔Lを置いて、平行に配設されている。各ローラ4,5は、後述する駆動モータ6(図3)により、回転駆動するように構成されている。駆動モータ6は、本体33に設けられたスイッチ31に接続されており、スイッチ31のON/OFFにより、起動・停止するようになっている。各ローラ4,5の下方には、吐出プレート32が設けられている。吐出プレート32は、下方に傾斜している。
【0021】
次に、本発明のクッション材の製造方法について説明する。先ず、押圧装置3に設けられたスイッチ31をONにして、駆動モータ6を起動する。これにより、各ローラ4,5が回転駆動する。そして、ホッパー30上端の投入口30aに、複数の繭殻1を投入する。この繭殻1は、予め所定量の加水分解シルク液をスプレー塗布したものである。この加水分解シルク液は、粘性を有し、シルク繊維を加水分解したものなので、繭殻本来の特性を損なうことなく、繭殻1の形状を保持することができる。これにより、クッション材(押し潰された繭殻)2の形状を整えることができると共に、弾性による原形への復元を防止できる。
【0022】
図2に示すように、本体33の上辺には、案内口30bが設けられている。この案内口30bは、各ローラ4,5の間隔の直上に位置する。従って、ホッパー30に投入された複数の繭殻1は、案内口30bに導かれ、各ローラ4,5間に案内される。各ローラ4,5の間隔距離Lは、繭殻1の径より小さく配置されている。更に、各ローラ4,5は、その近接部において、上方から下方へ向けて回転している(図2の矢印参照)。そのため、各ローラ4,5間に案内された繭殻1は、押し潰されて下方へ落下するようになっている。原形の繭殻1は、楕円状(俵型)なので、各ローラ4,5間に導かれた繭殻1は、自然にその長手方向の上下側が各ローラ4,5で押し潰される。押し潰された繭殻2は、吐出プレート32に落下して案内され、押圧装置3から吐き出される。
【0023】
図1(c)に示すように、クッション材(押し潰された繭殻)2は、長手方向を前後方向として上側2a及び下側2bが扁平又は窪んでいる。その高さHは、各ローラ4,5の間隔距離Lに応じて決まる。各ローラ4,5間の距離Lは、後述するように、繭殻1の原形や大きさ又はクッション材2の使用態様等に応じて、クッション材(押し潰された繭殻)2の高さH(厚さ)を調整できるように、変更可能である。尚、クッション材2としての保温性を確保するために、繭殻1を完全に(各ローラ4,5がぴたりと当接した状態で)押し潰すことはなく、押し潰された繭殻2の高さHが、好ましくは原形繭殻1の高さの1/3〜2/3程度になっている。
【0024】
上述した方法により、多数のクッション材(押し潰された繭殻)2を製造し、布団や枕カバー、クッションカバーに充填して、本発明に係るクッション材2を用いた布団等を生産する。この布団等に充填されたクッション材2は、繭殻1から生成されているので、繭殻の特長である、吸湿・放湿性に優れ、静電気を帯び難い、という効果を奏する。更に、繭殻2の高さHを確保することにより、内部に空気を存在させることができ、保温性にも優れ、更に、クッション材としての弾力性を保持できる。又、クッション材2の上下側が扁平又は窪んでいるので、安定しており、殆ど移動しないようになっている。
【0025】
次に、上記の押圧装置3について詳細に説明する。図3は、押圧装置の一部を示す右側面図である。図4は、押圧装置の一部を示す左側面図である。図5は、図4に示すI−I線断面図である。尚、図3は、理解しやすいように、図1に示す本体33右側に設けられたカバー34及びスイッチ31を省略したものである。
【0026】
図3及び図5に示すように、押圧装置3は、本体33の右側に、第1ギア40及び第2ギア50を備えている。各ギア40,50は、互いに嵌合され噛み合っている。第1ギア40は、第1ローラ4における第1軸46の右側に連結されている。第2ギア50は、第2ローラ5における第2軸56の右側に連結されている。更に、第1ギア40は、第1プーリ41が連結されている。第1プーリ41の下方には、第2プーリ42が設けられている。各プーリ41,42は、無端ベルト43が架け渡されている。
【0027】
第2プーリ42は、本体内部に設けられた駆動モータ6(点線)により、回転駆動するように構成されている。上述したとおり、駆動モータ6は、スイッチ31に接続されており、スイッチ31をON/OFFして、起動・停止する。駆動モータ6の駆動により、第2プーリ42が回転し、無端ベルト43を介して、第1プーリ41が回転する。この第1プーリ41の回転により、第1ギア41が回転し、これに追従して第2ギア50が回転する。各ギア40,50の回転により、各ローラ4,5が相対的に逆回転し、上述したように、繭殻1を押し潰しながら上方から下方へ落下する。
【0028】
図4及び図5に示すように、押圧装置3は、本体33の左右両側に、第1軸受45,45及び第2軸受55,55を備えている。第1軸受45,45は、第1ローラ4における第1軸46を軸支し、第2軸受55は、第2ローラ5における第2軸56を軸支する。更に、各第2軸受55,55は、夫々に第2ローラ移動手段7,7を備えており、この移動手段7により、第2ローラ5をその軸方向に対して直角方向に移動可能に構成されている。第2ローラ5を移動することにより、各ローラ4,5間の間隔距離Lを原形繭殻1等に応じて変更できるようになっている。
【0029】
第2ローラ移動手段7は、第2軸受55に連結されたボルト71を備えている。ボルト71は、移動方向(第2ローラ5の軸方向に対して直角方向)に延設されている。ボルト71は、本体33に固設された規制プレート72に螺合されている。ボルト71における規制プレート72から突出した部分には、ナット73が設けられている。更に、第2軸受55の上下に、本体33に固設され、移動方向に延びる案内プレート74,74が設けられている。
【0030】
そして、ナット73を正逆回転することにより、ボルト71と共に第2軸受55を進退移動可能になっている。その際、第2軸受55は、案内プレート74,74によって上下方向の移動が規制され、スムーズに移動方向へ移動する。従って、第2軸受55を移動することにより、第2ローラ5が移動する。更に、ボルト71には、圧縮バネ70が環装されている。圧縮バネ70は、ボルト71に固設された環状の突片71aと第2軸受55との間に設けられ、夫々71a,55を押圧付勢している。この圧縮バネ70の作用により、第2軸受55及び第2ローラ5が位置決め付勢されている。
【0031】
図5に示すように、第1ローラ4は、複数の溝部4aを備えている。溝部4aは、軸方向に対して互いに異なる方向に傾斜した2本の溝により構成され、ローラ4の中央で交叉している。第2ローラ5は、複数の溝部5aを備えており、この溝部5aは、軸方向に延設されている。各ローラ4,5において、夫々4,5の溝部4a,5aの配置を上記のように構成することにより、繭殻1が詰まることなくスムーズに落下すると共に、クッション材(押し潰された繭殻)2の形状を整えることができる。
【0032】
上述した押圧装置で押し潰す外に、プレス装置やアイロン等で上下方向からプレートで押し潰してもよい。又、繭殻の長手方向の上下側を扁平又は窪ませる外に、長手方向の前後方向に扁平又は窪ませてもよい。又、押し潰す前に繭殻に加水分解シルク液を塗布することが好ましいが、押し潰した後の繭殻に加水分解シルク液を塗布して形状保持することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係るクッション材及びその製造方法を説明するための全体図であり、(a)は原形の繭殻を示す斜視図、(b)は押圧装置を示す斜視図、(c)は押し潰した繭殻(クッション材)を示す側面図である。
【図2】押圧装置を示す断面側面図である。
【図3】押圧装置の一部を示す右側面図である。
【図4】押圧装置の一部を示す左側面図である。
【図5】図4に示すI−I線断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 原形繭殻
2 クッション材(押し潰された繭殻)
2a クッション材の上側
2b クッション材の下側
H クッション材の高さ(厚み)
3 押圧装置
4 第1ローラ
5 第2ローラ
L 第1ローラと第2ローラとの間隔距離
7 第2ローラ移動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布団や枕等の内部に収納されるクッション材であって、略楕円状の複数の繭殻が、所定の厚みを有した状態で、互いに対向する両側が扁平又は窪むように押し潰されてなることを特徴とするクッション材。
【請求項2】
前記複数の繭殻は、加水分解シルク液が塗布され形状保持されていることを特徴とする請求項1に記載のクッション材。
【請求項3】
前記複数の繭殻は、上側と下側が長手方向に押し潰されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載のクッション材。
【請求項4】
略楕円状の複数の繭殻に加水分解シルク液を塗布し、その後、この複数の繭殻を、前記繭殻の厚みよりも狭い間隔を置いて配置された一対の回転ローラへ送り、この各回転ローラの間で、所定の厚みを有した状態で、互いに対向する両側が扁平又は窪むように押し潰してなることを特徴とするクッション材の製造方法。
【請求項5】
前記各回転ローラの間隔を繭殻原形又は使用態様に応じて適宜変更することを特徴とする請求項4に記載のクッション材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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