説明

クモ用卵のう処理剤

【課題】クモ類に対して高い殺卵効果を奏するとともに、使用性に優れたクモ用卵のう処理剤の提供。
【課題の解決手段】(a)節足動物に対して活性を有する害虫防除成分から選ばれる1種又は2種以上と、(b)動粘度が1.0〜30mm/S(40℃)であるパラフィン系溶剤を含有する薬液であって、この薬液の粘度が3〜100mPa・S/20℃であるクモ用卵のう処理剤。(a)節足動物に対して活性を有する害虫防除成分が、シフルトリンであって、更に、(c)炭素数が14〜18の高級脂肪酸と炭素数が14〜18の分枝飽和アルコールとの高級脂肪酸エステル化合物が含有されるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クモ類を防除するためのクモ用卵のう処理剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、毒グモであるセアカゴケグモが日本に外来し、刺されると死に至ることもあることから恐れられている。また、室内や倉庫、樹木等でクモの巣が張られ、外観が損なわれたり、不衛生になるなどしてクモの巣に悩まされることは多い。そこで、クモ類を防除するために、殺虫剤を使用する提案が種々なされている。例えば、特開平9−169609号公報(特許文献1)は、ピレスロイドのイミプロトリンを含有するクモ防除剤を開示し、速効的にクモ成虫を防除できるとしている。また、特開2008−162951号公報(特許文献2)には、害虫防除剤及びシリコーンを含有する原液、ならびに噴射剤を含有するクモの営巣防止エアゾール剤が記載されているが、殺虫剤の残効性を高めるよりはむしろ、噴霧箇所での展着性、平滑性を改善し、クモの巣を除去しやすくする目的でシリコーンの併用に至っている。特許文献1や特許文献2の提案は、クモ成虫の防除やクモの営巣防止について一定の効果を示すものの、必ずしも満足のいく結果は得られていない。
【0003】
一方、害虫の成虫や幼虫を対象にするのではなく、卵の段階で孵化を阻止する防除技術も知られている。例えば、特開2004−26777号公報(特許文献3)は、ゴキブリや繊維害虫のイガを対象とし、パラフィン系炭化水素を有効成分として含有する殺卵剤を開示するが、密閉空間で蒸散させて用いる施用方式であり、オープンな屋外での使用には適さない。また、特開2007−45813号公報(特許文献4)には、放卵誘発作用を有する化合物を含有したゴキブリ用製剤を、抱卵しているゴキブリに経口摂取させ、体外に卵を放出させることによって卵を殺す技術が記載されている。しかしながら、この殺卵方法は、あくまで成虫を対象とし間接的に殺卵効果を得ようとするもので、その効果は安定したものとは言い難い。
【0004】
ところで、クモ類は他の種の害虫と異なり、産卵された卵は卵のうに被膜されている。このクモ類特有の生態に起因して、例えば、非特許文献1によれば、フェノトリンやペルメトリンなどのピレスロイド系害虫防除成分は、クモ類に対して高い駆除効果を示すものの、卵のうに対しては効果が乏しい旨報告されている。従って、一般に通常の殺虫エアゾールではクモ類の卵を殺すことが難しく、効率的な殺卵効果を奏しうるクモ用卵のう処理剤は未だ開発されていないのが現状である。
しかるに、本発明者らは、クモ用卵のう処理剤の薬液に特定の動粘度を有するパラフィン系溶剤を配合し、クモ用卵のう処理剤の薬液として最適な粘度を採用することにより、有用なクモ用卵のう処理剤を発明するに至ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−169609号公報
【特許文献2】特開2008−162951号公報
【特許文献3】特開2004−26777号公報
【特許文献4】特開2007−45813号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】衛生動物、48巻(No.2)、135−139(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、クモ類に対して高い殺卵効果を奏するとともに、使用性に優れたクモ用卵のう処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成が上記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。
(1)(a)節足動物に対して活性を有する害虫防除成分から選ばれる1種又は2種以上と、(b)動粘度が1.0〜30mm/S(40℃)であるパラフィン系溶剤を含有する薬液であって、この薬液の粘度が3〜100mPa・S/20℃であるクモ用卵のう処理剤。
(2)(a)節足動物に対して活性を有する害虫防除成分が、シフルトリンである(1)に記載のクモ用卵のう処理剤。
(3)更に、(c)炭素数が14〜18の高級脂肪酸と炭素数が14〜18の分枝飽和アルコールとの高級脂肪酸エステル化合物を含有する(1)又は(2)に記載のクモ用卵のう処理剤。
(4)前記薬液に噴射剤を加えて耐圧容器に充填し、エアゾール形態となした(1)ないし(3)のいずれかに記載のクモ用卵のう処理剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明のクモ用卵のう処理剤は、クモ類に対して高い殺卵効果を奏するとともに、使用性に優れているので極めて実用的である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明では、(a)節足動物に対して活性を有する害虫防除成分として、例えば、シフルトリン、フタルスリン、フェノトリン、ぺルメトリン、シフェノトリン、シペルメトリン、トラロメトリン、フェンプロパトリン、レスメトリン、アレスリン、プラレトリン、フラメトリン、イミプロトリン、エムペントリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、エトフェンプロックス等のピレスロイド系殺虫成分、シラフルオフェン等の有機ケイ素系殺虫成分、フェニトロチオン、マラチオン、ジクロルボス等の有機リン系殺虫成分、プロポクスル、カルバリル等のカーバメイト系殺虫成分、ジノテフラン、イミダクロプリド、アセタミプリド、チアメトキサム、ニテンピラム等のネオニコチノイド系殺虫成分、フィプロニル等のフェニルピラゾール系殺虫成分、メトキサジアゾン等のオキサジアゾール系殺虫成分があげられる。なかんずく、シフルトリンは殺虫効力とその持続性に優れるので好適である。
かかる害虫防除成分のなかには、その不斉炭素や二重結合に基づく光学異性体や幾何異性体が存在するが、これらの各々やそれらの任意の混合物の使用も本発明に含まれるのは勿論である。
なお、必要ならば、他種の害虫防除成分を添加してもよい。
【0011】
本発明で用いる薬液中に配合される害虫防除成分の含有量は、使用目的や使用期間等を考慮して適宜決定すればよいが、薬液中0.01〜5.0w/v%程度が適当である。0.01w/v%未満であると所望の効果が得られないし、一方、5.0w/v%を超えて配合しても格段のメリットはない。
【0012】
本発明は、有用なクモ用卵のう処理剤を達成するにあたり、上記害虫防除成分と特定の卵のう処理助剤を組み合わせたことに特徴を有する。
係る卵のう処理助剤は、上記害虫防除成分の卵のう透過性を高めるものであり、適正な粘性を有することが要求される。本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、動粘度が1.0〜30mm/S(40℃)、好ましくは2.0〜15mm/S(40℃)であるパラフィン系溶剤の使用が本発明の目的に合致し、更に、害虫防除成分と組み合わせた薬液の粘度が、3〜100mPa・S/20℃の範囲であればクモ用卵のう処理剤として有用であることを知見したものである。
このようなパラフィン系溶剤としては、出光石油化学株式会社製のIPソルベント1620、IPソルベント2028及びIPソルベント2835、エクソン化学株式会社製のアイソパーH、アイソパーL及びアイソパーM、日本石油株式会社製のアイソゾール300及びアイソゾール400などのイソパラフィンや、中央化成株式会社製のネオチオゾール、
日本石油株式会社製のソルベントHなどのノルマルパラフィンがあげられるがこれらに限定されない。
なお、本発明においては、ノルマルパラフィンよりもイソパラフィンの方が好ましい。通常、ノルマルパラフィン系溶剤の使用の方が一般的なのであるが、検討の結果、卵のう透過性の点や後記する高級脂肪酸エステル化合物との相溶性の点で、特に、炭素数が10〜16主体のイソパラフィン系溶剤が本発明の目的に最適であることが認められた。
【0013】
薬液中に配合されるパラフィン系溶剤の配合量は、害虫防除成分の卵のう透過性を保持するために40w/v%以上が適当である。40w/v%より少ないと卵のう透過性が劣り、十分な殺卵効果を奏し得ない。
【0014】
本発明は、(c)高級脂肪酸エステル化合物を更なる卵のう処理助剤として用いてもよい。
(c)高級脂肪酸エステル化合物としては、炭素数が14〜18の高級脂肪酸と炭素数が14〜18の分枝飽和アルコールとのエステル化合物が好ましく、具体的には、ステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イソセチル、パルミチン酸イソステアリル、ミリスチン酸イソセチルなどがあげられるが、これらに限定されない。これらの化合物は、パラフィン系溶剤と良く相溶する一方、揮散性が低く常温で液状を維持するため、害虫防除成分の持続性アップにも貢献する。なかんずく、ステアリン酸イソセチルは、性能的に好適で使いやすい。
高級脂肪酸エステル化合物の配合量は、害虫防除成分に対して1.0〜10倍程度が適当である。
【0015】
また、本発明の作用効果に支障を来たさない限りにおいて、他の有機溶剤、例えば、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコールなどの炭素数3〜6のグリコール、これらのグリコールエーテル、ケトン系溶剤、エステル系溶剤などを適宜配合することができる。
【0016】
本発明のクモ用卵のう処理剤は、更に水を配合して水性エアゾール剤としてもよく、この場合、必要に応じて適宜、界面活性剤もしくは可溶化剤が添加される。このような界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル類などのエーテル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類などの脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンスチレン化フェノール、脂肪酸のポリアルカロールアミドなどの非イオン系界面活性剤や、例えば、ポリオキシエチレン(POE)スチリルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン(POE)アルキルエーテル硫酸塩、ドデシルベンゼン硫酸塩などのアニオン系界面活性剤があげられる。
但し、界面活性剤の配合量は、薬液の粘度が100mPa・S/20℃を超えないように規定されなければならない。
【0017】
更に、殺ダニ剤をはじめ、カビ類、菌類等を対象とした防カビ剤、抗菌剤や殺菌剤、あるいは、安定剤、消臭剤、帯電防止剤、消泡剤、香料、賦形剤等を適宜配合してももちろん構わない。殺ダニ剤としては、5−クロロ−2−トリフルオロメタンスルホンアミド安息香酸メチル、サリチル酸フェニル、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート等があり、一方、防カビ剤、抗菌剤や殺菌剤としては、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−(4−チアゾリル)ベンツイミダゾール、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、トリホリン、3−メチル−4−イソプロピルフェノール、オルト−フェニルフェノール等を例示できる。
【0018】
本発明のクモ用卵のう処理剤では、薬液に噴射剤を加えて耐圧容器に充填し、エアゾール形態となしてもよい。噴射剤としては、ジメチルエーテル、液化石油ガス(LPG)、圧縮ガス(窒素ガス、炭酸ガス、亜酸化窒素、圧縮空気等)、あるいはこれらの混合ガスが用いられ、充填容器は、その使用場面、使用目的等に応じて、適宜バルブ、噴口、ノズル等の形状を選択すればよい。エアゾール剤とすれば、フェンス周辺や排溝など手の届きにくい所でも簡便に使用できるので非常に便利である。
なお、エアゾール剤の場合、ジメチルエーテルやLPGを配合することによってエアゾール内容液の粘度を下げることができるが、噴射剤は噴霧後直ちに揮散する。従って、クモ類の卵のうに実際付着するのは薬液であり、本発明で用いる粘度は、エアゾール剤であっても噴射剤配合前の薬液で定義されることはもちろんである。
【0019】
こうして得られた本発明のクモ用卵のう処理剤は、屋外ではフェンス周辺や排溝、墓地、軒先、エアコン室外機周辺など、屋内では天井付近や冷蔵庫周辺などの物陰、床下などに処理すればよく、目安として2〜50mL/m2程度が適当である。そして、本発明によれば、クモ類の卵のうに直接処理することにより優れた殺卵効果を得ることができる。また、クモ類の成虫に処理した場合でも、本剤は高い殺成虫効力と残効性を有し、結局孵化阻止に繋がるので極めて実用的である。
【0020】
本発明の対象となるクモ類としては、セアカゴケグモ、ジョロウグモ、ナガコガネグモ、クロガケジグモ、オオヒメグモ、クサグモなどがあげられるが、これらに限定されない。また、本剤は、各種の蚊類、ユスリカ類、イエバエ類、チョウバエ、ショウジョウバエ等のコバエ類、ハチ類などの飛翔害虫、ゴキブリ類、アリ類などの匍匐害虫にも優れた殺虫効果を示し、広範囲な適用が可能である。
【0021】
次に具体的な実施例に基づき、本発明のクモ用卵のう処理剤について更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
害虫防除成分としてシフルトリン0.5w/v%と、卵のう処理助剤としてステアリン酸イソセチル4.0w/v%とをイソパラフィン[製品名:IPソルベント2028、動粘度:2.6mm/S(40℃)]に加え100mLにした薬液を調製した。この薬液の粘度は17mPa・S/20℃であった。しかる後、この薬液90mLを耐圧容器に入れ、噴射剤として液化石油ガスを210mL加圧充填してエアゾール形態の本発明のクモ用卵のう処理剤を得た。
一戸建て家屋の床下付近にいたセアカゴケグモ及びその周囲約2mを目がけてこのエアゾール剤を約20mL噴射したところ、セアカゴケグモは速やかに致死し、またその後の経過観察の結果、付近に存在したクモの卵のうから幼虫が孵化することはなかった。
【実施例2】
【0023】
実施例1で用いた薬液に準じ、表1に示す各種クモ用卵のう処理剤を調製し、下記に示す試験を行った。
[殺卵試験]
直径9cmのガラスシャーレに濾紙を敷き、その上にオオヒメグモが産卵した卵のう10個を置いた。供試薬液1mLを卵のうに均一に滴下し、6週間後まで孵化の状況を観察した。結果は10個中の孵化数で示す。


【0024】
【表1】

【0025】
試験の結果、卵のう処理助剤として動粘度が1.0〜30mm/S(40℃)であるパラフィン系溶剤を含有し、かつ薬液の粘度が3〜100mPa・S/20℃である本発明のクモ用卵のう処理剤は、クモ類の卵のうに対して高い殺卵効果を示した。パラフィン系溶剤としては、ノルマルパラフィンよりイソパラフィンの方が好ましく、また、炭素数が14〜18の高級脂肪酸と炭素数が14〜18の分枝飽和アルコールとのエステル化合物の配合は、害虫防除成分の持続性アップに貢献するので一層好適であった。なお、害虫防除成分としては、アレスリンよりも残効性の高いシフルトリンのようなピレスロイド系化合物の方が有利であることも認められた。
これに対し、比較例1に示すように、パラフィン系溶剤以外の溶剤や、比較例2及び3の如く、パラフィン系溶剤であってもその動粘度が1.0〜30mm/S(40℃)の範囲から外れるものは不適であった。更に、薬液の粘度が100mPa・S/20℃を超えた比較例4も殺卵効果が劣った。
これらのことから、害虫防除成分と動粘度が1.0〜30mm/S(40℃)であるパラフィン系溶剤を組合わせ、かつ薬液の粘度を3〜100mPa・S/20℃となすことによって、極めて実用的なクモ用卵のう処理剤を提供しうることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のクモ用卵のう処理剤は、屋内、屋外を問わず広範な害虫駆除を目的として利用することが可能である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)節足動物に対して活性を有する害虫防除成分から選ばれる1種又は2種以上と、(b)動粘度が1.0〜30mm/S(40℃)であるパラフィン系溶剤を含有する薬液であって、この薬液の粘度が3〜100mPa・S/20℃であることを特徴とするクモ用卵のう処理剤。
【請求項2】
(a)節足動物に対して活性を有する害虫防除成分が、シフルトリンであることを特徴とする請求項1に記載のクモ用卵のう処理剤。
【請求項3】
更に、(c)炭素数が14〜18の高級脂肪酸と炭素数が14〜18の分枝飽和アルコールとの高級脂肪酸エステル化合物を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のクモ用卵のう処理剤。
【請求項4】
前記薬液に噴射剤を加えて耐圧容器に充填し、エアゾール形態となしたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のクモ用卵のう処理剤。



【公開番号】特開2012−106965(P2012−106965A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258534(P2010−258534)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【Fターム(参考)】