説明

クモ糸タンパク質およびクモ糸タンパク質の生産方法

本発明は、150〜420アミノ酸残基からなり、式REP−CTにより規定される単離された大瓶状腺スピドロインタンパク質を提供する。REPは、80〜300アミノ酸残基を有する反復的なN末端誘導タンパク質フラグメントである。CTは、70〜120アミノ酸残基を有するC末端誘導タンパク質フラグメントである。本発明はさらに、大瓶状腺スピドロインタンパク質である第一タンパク質フラグメントならびに融合パートナーおよび切断剤認識部位を含む第二タンパク質フラグメントからなる単離された融合タンパク質を提供する。第一タンパク質フラグメントは、切断剤認識部位を通じて融合パートナーに結合されている。本発明はまた、大瓶状腺スピドロインタンパク質およびそのポリマーの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質の組換え生産の分野に関係する。とりわけ、本発明は、クモ糸タンパク質(spider silk proteins)の組換え生産に関係している。本発明は、新規な単離された大瓶状腺(major ampullate)スピドロイン(spidroin)タンパク質、および大瓶状腺スピドロイン融合タンパク質、ならびにこのようなタンパク質の製造方法およびその製造のためのポリ核酸分子を提供する。大瓶状腺スピドロインタンパク質のポリマーおよびこのようなポリマーの製造方法もまた提供される。
【背景技術】
【0002】
クモ糸は、強度と弾性の組み合わせにより桁外れの強靱性を獲得する天然の高性能ポリマーである。クモには最大7つの特化した腺が存在し、これらは異なる機械的特性および機能を有する様々なタイプの糸繊維を産生する。大瓶状腺により産生されるしおり糸(dragline silk)は最も強靭な繊維であり、同重量では、人為的に製造された素材、例えば高張力鋼およびケブラー(Kevlar)より優れている。しおり糸の特性は、医療または技術目的の新素材の開発において注目されている。
【0003】
しおり糸は、2つの主要なポリペプチドからなり、これらはほとんどの場合大瓶状腺スピドロイン(MaSp)1および2と称されるがニワオニグモ(Araneus diadematus)においてはADF−3およびADF−4と称される。これらのタンパク質は、サンプルの経年数および分析条件に依存して200〜720kDaの範囲の見かけ上の分子量を有するが、クモしおり糸の全長遺伝子は未だ報告されていない。しおり糸ポリペプチドの特性については、Huemmerich,D.et al.Novel assembly properties of recombinant spider dragline silk proteins.Curr.Biol.14,2070−2074(2004)において議論されている。公知のしおり糸であるスピドロインは、その繊維内で結晶βシートを形成するアラニンリッチセグメントと、より柔軟性があり大部分が規則正しい構造を欠いているグリシンリッチセグメントが交互に並ぶ、高度に反復的なブロックから構成される。そのC末端領域は非反復的であり、種の間で高度に保存されており、αヘリックスの立体配座をとる。しおり糸タンパク質のN末端領域は、つい最近特徴付けられたばかりであり、種々のスピドロインの間で、かつ種々のクモ種の間でさえも高度に保存されているN末端ドメインであることが明らかにされた(Rising,A.et al.N−terminal nonrepetitive domain common to dragline,flagelliform,and cylindriform spider silk proteins.Biomacromolecules 7,3120−3124(2006))。
【0004】
しおり糸の機械的特性は種間で異なり;ユープロステノプス エスピー(Euprosthenops sp.)のしおり糸は、例えばニワオニグモまたはアメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)のしおり糸を上回る堅さ、強度(破るのにより強い力が必要となる)を有し、かつ伸縮性が小さい。ユープロステノプス エスピー由来のしおり糸は、ニワオニグモ由来のしおり糸よりも結晶βシート構造の割合が高いようであり、その原因はユープロステノプス エスピーのMaSpが今日までに分析されている全ての種の中で最高のポリアラニン含有量を有することによる可能性が高い(Pouchkina−Stantcheva,N.N.& McQueen−Mason,S.J.Molecular studies of a novel dragline silk from a nursery web spider,Euprosthenops sp.(Pisauridae).Comp Biochem Physiol B Biochem Mol Biol 138,371−376(2004))。
【0005】
人工的なクモ糸を生産する試みは、全長遺伝子が未だに報告されていないがために、しおり糸タンパク質をコードする天然または合成遺伝子のフラグメントを利用している。組換えしおり糸タンパク質は、細菌、酵母、哺乳動物細胞、植物、昆虫細胞、トランスジェニック蚕、およびトランスジェニックヤギを含む様々な系において発現されている。例えば、Lewis,R.V.et al.Expression and purification of a spider silk protein:a new strategy for producing repetitive proteins.Protein Expr.Purif.7,400−406(1996);Fahnestock,S.R.& Irwin,S.L.Synthetic spider dragline silk proteins and their production in Escherichia coli.Appl.Microbiol.Biotechnol.47,23−32(1997);Arcidiacono,S.et al.Purification and characterization of recombinant spider silk expressed in Escherichia coli.Appl.Microbiol.Biotechnol.49,31−38(1998);Fahnestock,S.R.& Bedzyk,L.A.Production of synthetic spider dragline silk protein in Pichia pastoris.Appl.Microbiol.Biotechnol.47,33−39(1997);およびLazaris,A.et al.Spider silk fibers spun from soluble recombinant silk produced in mammalian cells.Science 295,472−476(2002)を参照のこと。
【0006】
WO 2004/016651(The University of York)には、ユープロステノプス エスピー由来のMaSp1タンパク質の内部の反復部分をコードする核酸配列が記載されている。タンパク質は発現されていない。
【0007】
Huemmerich,D.et al.Primary structure elements of spider dragline silks and their contribution to protein solubility.Biochemistry 43,13604−13612(2004)には、全てオニグモ科(Araneus)由来のADF3から獲得した、反復的なAlaリッチおよびGly/Glnリッチフラグメントならびに非反復フラグメントをコードする合成遺伝子「(AQ)12NR3」が記載されている。この遺伝子は、凝集するがポリマーまたは繊維を形成しない可溶性タンパク質(59.8kD、>528aa)を発現させる。このタンパク質のアラニン含有量は10〜15%である。
【0008】
WO 03/057727には、哺乳動物細胞株および動物における可溶性組換えクモ糸ポリペプチドの発現が記載されている。一つの発現されたクモ糸ポリペプチド(ADF−3;60kD、652aa)は、反復単位および非反復的親水性ドメインからなる。別の発現されたクモ糸ポリペプチド(ADF−3 His;63kD、677aa)は、反復単位、非反復的親水性ドメイン、c−mycエピトープ、および6ヒスチジンタグからなる。反復単位のAla含量は低い(10〜20%)。得られたクモ糸ポリペプチドは、水性媒体に対する溶解性が乏しく、および/または沈殿物を形成する。得られたクモ糸ポリペプチドは自発的に重合しないので、ポリマーまたは繊維を得るために紡糸(spinning)が必要となる。
【0009】
いくつかの要因がしおり糸タンパク質の発現を困難にしている。その遺伝子の高度に反復的な性質、およびそれに付随するそのタンパク質の限局的なアミノ酸組成に起因して、転写および翻訳の誤りが生じる。その後の不連続的な翻訳で微生物発現系においてtRNAプールを使い果たすことによりタンパク質合成が完遂せずに終了することが別の理由であり得る。タンパク質合成の打ち切りについて議論されている他の理由は、mRNAの二次構造の形成および遺伝子の組換えである。2.5kbより大きいネイティブMaSp遺伝子は、細菌宿主において不安定であることが示されている。さらに、天然型のしおり糸フラグメントおよび設計されたブロックコポリマーは両方とも、特にMaSp1/ADF−4由来タンパク質は、容易に自己会合して無定形の凝集物を形成し、これが沈降およびタンパク質の減少を引き起こすため、組換えしおり糸タンパク質を可溶化形態で維持する困難性もある。Huemmerich,D.et al.Primary structure elements of spider dragline silks and their contribution to protein solubility.Biochemistry 43,13604−13612(2004)およびLazaris,A.et al.Spider silk fibers spun from soluble recombinant silk produced in mammalian cells.Science 295,472−476(2002)を参照のこと。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、クモ糸繊維を提供できる新規なクモ糸タンパク質を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、必要に応じて繊維に自己重合させることが容易に操作できる水溶性のクモ糸タンパク質を提供することである。これは、特有の用途、例えばその繊維上での真核細胞の培養を可能にする。さらに、この特性により、以下の工程の全てを生理学的条件下で行うことができ、これにより毒性およびタンパク質変性の危険が少なくなる。
【0012】
本発明のさらに別の目的は、新規なクモ糸タンパク質の繊維を提供することである。
【0013】
本発明の一つの目的は、必要に応じて繊維に自己重合させることが容易に操作できるクモ糸タンパク質をラージスケールで提供することである。
【0014】
本発明の目的はまた、クモ糸タンパク質およびクモ糸タンパク質の繊維の生産方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
これらおよび以下の開示から明らかとなる他の目的のために、本発明は、一つの側面に従い、150〜420アミノ酸残基からなり、式REP−CT[式中、REPは、80〜300アミノ酸残基を有するタンパク質フラグメントであり、ここで該フラグメントはL(AG)nL、L(AG)nAL、L(GA)nL、L(GA)nGL(式中、nは4〜8の整数であり;各個々のAセグメントは、8〜18アミノ酸残基のアミノ酸配列であり、アミノ酸残基の0〜3個がAlaではなく、残りのアミノ酸残基がAlaであり;各個々のGセグメントは、12〜30アミノ酸残基のアミノ酸配列であり、アミノ酸残基の少なくとも40%がGlyであり;かつ各個々のLセグメントは、0〜20アミノ酸残基のリンカーアミノ酸配列である)の群から選択され;そしてCTは、70〜120アミノ酸残基を有するタンパク質フラグメントであり、このフラグメントは大瓶状腺スピドロインタンパク質由来のC末端フラグメントである]により規定される、単離された大瓶状腺スピドロインタンパク質、またはその誘導体を提供する。
【0016】
本発明は、クモ糸様繊維を形成するのに十分なタンパク質モチーフの同定、および適する宿主、例えば細菌、好ましくは大腸菌において生産させることができる組換えMaSpタンパク質を構築するための上記モチーフの使用に基づくものである。
【0017】
本発明に従う特定の実施態様において、各個々のAセグメントは、配列番号3のアミノ酸残基7〜19、43〜56、71〜83、107〜120、135〜147、171〜183、198〜211、235〜248、266〜279、294〜306、330〜342、357〜370、394〜406、421〜434、458〜470、489〜502、517〜529、553〜566、581〜594、618〜630、648〜661、676〜688、712〜725、740〜752、776〜789、804〜816、840〜853、868〜880、904〜917、932〜945、969〜981、999〜1013、1028〜1042、および1060〜1073;配列番号9のアミノ酸残基31〜42、61〜75、90〜104、122〜135、および153〜171;配列番号13のアミノ酸残基12〜25、46〜60、75〜88、112〜119、150〜158、および173〜180;配列番号14のアミノ酸残基31〜42;ならびに配列番号15のアミノ酸残基122〜135の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有する。特定の実施態様において、各個々のAセグメントは、このアミノ酸配列群から選択されるアミノ酸配列である。
【0018】
本発明に従ういくつかの実施態様において、各個々のGセグメントは、配列番号3のアミノ酸残基20〜42、57〜70、84〜106、121〜134、148〜170、184〜197、212〜234、249〜265、280〜293、307〜329、343〜356、371〜393、407〜420、435〜457、471〜488、503〜516、530〜552、567〜580、595〜617、631〜647、662〜675、689〜711、726〜739、753〜775、790〜803、817〜839、854〜867、881〜903、918〜931、946〜968、982〜998、1014〜1027、1043〜1059、および1074〜1092;配列番号5;配列番号6;配列番号7;配列番号9のアミノ酸残基11〜30、43〜60、76〜89、105〜121、および136〜152;ならびに配列番号13のアミノ酸残基1〜11、26〜45、61〜74、89〜111、120〜149、および159〜172の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有する。特定の実施態様においては、各個々のGセグメントは、このアミノ酸配列群から選択されるアミノ酸配列と同一である。
【0019】
本発明に従う特定の実施態様において、CTフラグメントは、配列番号8に対して少なくとも50%の同一性、または配列番号4、配列番号9のアミノ酸残基172〜269、配列番号13のアミノ酸残基181〜276、および配列番号16のアミノ酸残基172〜269、ならびに図3の任意のアミノ酸配列、特に図3のMaSp1配列からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有する。特定の実施態様においては、CTフラグメントは、このアミノ酸配列群から選択されるアミノ酸配列である。
【0020】
本発明に従う特定の実施態様において、単離された大瓶状腺スピドロインタンパク質におけるリポ多糖類(LPS)および他の発熱物質の含量は、1内毒素単位(endotoxin unit)(EU)/mgタンパク質またはそれ未満である。
【0021】
別の側面によれば、本発明は、大瓶状腺スピドロインタンパク質である第一タンパク質フラグメント、および第二タンパク質フラグメントからなり、ここで該第二タンパク質フラグメントが融合パートナーおよび切断剤認識部位を含み、ここで上記第一タンパク質フラグメントが切断剤認識部位を介して融合パートナーに結合される、単離された融合タンパク質を提供する。
【0022】
本発明は、X−REP−CTおよびREP−CT−X[式中、REPおよびCTは本発明に従うタンパク質フラグメントであり;かつXは融合パートナーおよび切断剤認識部位を含むタンパク質フラグメントであり;ここでタンパク質フラグメント結合体REP−CTは切断剤認識部位を通じて融合パートナーに結合される]の群から選択される、単離された融合タンパク質を提供する。
【0023】
本発明に従う特定の実施態様において、単離された融合タンパク質におけるLPSおよび他の発熱物質の含量は、1 EU/mgタンパク質またはそれ未満である。
【0024】
さらに別の側面によれば、本発明は、(i)本発明の融合タンパク質の液体媒体中溶液を供給すること、(ii)融合タンパク質の切断剤認識部位での切断を達成するのに適した切断剤を上記液体媒体に加え、それによって大瓶状腺スピドロインタンパク質を得ること;および場合により(iii)工程(ii)において得られた大瓶状腺スピドロインタンパク質を上記液体媒体から単離すること、の工程を含む、本発明の大瓶状腺スピドロインタンパク質の生産方法を提供する。
【0025】
本発明はまた、(i)本発明の融合タンパク質の液体媒体中溶液を供給すること、(ii)融合タンパク質の切断剤認識部位での切断を達成するのに適した切断剤を上記液体媒体に加え、それによって大瓶状腺スピドロインタンパク質を得ること;(iii)工程(ii)において得られた大瓶状腺スピドロインタンパク質を液体媒体中で重合させること;および場合により(iv)工程(iii)において得られたポリマーを上記液体媒体から単離すること、の工程を含む、本発明の大瓶状腺スピドロインタンパク質のポリマーの生産方法を提供する。好ましい方法において、前記工程(iii)はさらに、前記液体媒体と、気相、液相、および固相からなる群より選択される別の相との間の界面を提供することを含み、ここで前記重合は上記界面または上記界面付近の領域で開始される。好ましい方法において、前記液体媒体は水性媒体であり、別の相は空気および水不混和性の有機溶媒からなる群より選択される。
【0026】
別の側面によれば、本発明は、本発明の大瓶状腺スピドロインタンパク質をコードする核酸配列またはその相補的核酸配列を含む、単離されたポリ核酸分子を提供する。
【0027】
さらに別の側面によれば、本発明は、本発明の融合タンパク質をコードする核酸配列またはその相補的核酸配列を含む、単離されたポリ核酸分子を提供する。
【0028】
本発明の別の側面は、(i)本発明の可溶性融合タンパク質をコードするポリ核酸分子を適した宿主において発現させること;および(ii)工程(i)において得られた可溶性融合タンパク質を単離すること、の工程を含む、本発明の可溶性融合タンパク質の生産方法にある。場合により、可溶性融合タンパク質を単離する前記工程(ii)はLPSおよび他の発熱物質の除去を含む。
【0029】
本発明はまた、(i)本発明の可溶性融合タンパク質をコードするポリ核酸分子を適する宿主において発現させること;(ii)工程(i)において得られた可溶性融合タンパク質を単離すること;(iii)工程(ii)において得られた上記可溶性融合タンパク質の液体媒体中溶液を供給すること、(iv)融合タンパク質の切断剤認識部位での切断を達成するのに適した切断剤を上記液体媒体に加え、それによって大瓶状腺スピドロインタンパク質を得ること;および場合により(v)工程(iv)において得られた大瓶状腺スピドロインタンパク質を上記液体媒体から単離すること、の工程を含む、からなる、本発明の大瓶状腺スピドロインタンパク質の生産方法を提供する。さらに、場合により、可溶性融合タンパク質を単離する前記工程(ii)および大瓶状腺スピドロインタンパク質を単離する場合による工程(v)は、LPSおよび他の発熱物質の除去を含む。
【0030】
本発明はさらに、(i)本発明の可溶型融合タンパク質をコードするポリ核酸分子を適する宿主において発現させること;(ii)工程(i)において得られた可溶性融合タンパク質を単離すること;(iii)工程(ii)において得られた上記可溶性融合タンパク質の液体媒体中溶液を供給すること、(iv)融合タンパク質の切断剤認識部位での切断を達成するのに適した切断剤を上記液体媒体に加え、それによって大瓶状腺スピドロインタンパク質を得ること;(v)工程(iv)において得られた大瓶状腺スピドロインタンパク質を液体媒体中で重合させること;および場合により(vi)工程(v)において得られたポリマーを上記液体媒体から単離すること、の工程を含む、本発明の大瓶状腺スピドロインタンパク質のポリマーの生産方法を提供する。好ましい方法において、前記工程(v)はさらに、液体媒体と、気相、液相、および固相からなる群より選択される別の相との間の界面を提供することを含み、前記重合は上記界面または上記界面付近の領域で開始される。好ましい方法において、前記液体媒体は水性媒体であり、別の相は空気および水不混和性の有機溶媒からなる群より選択される。
【0031】
別の側面によれば、本発明は、本発明の大瓶状腺スピドロインタンパク質のポリマーを提供する。本発明はまた、本発明に従う方法により得ることができる、大瓶状腺スピドロインタンパク質のポリマーを提供する。好ましい実施態様において、前記ポリマーは繊維である。他の好ましい実施態様において、前記ポリマーは、泡、ゲル、メッシュ、またはフィルムからなる群より選択される構造を形成する。
【0032】
さらに別の側面によれば、本発明は、融合パートナーおよび切断剤認識部位を含むタンパク質フラグメントの、上記切断剤認識部位を介してクモ糸タンパク質フラグメントに結合された上記タンパク質フラグメントを含む融合タンパク質を生産するための新規な使用を提供する。好ましい実施態様において、前記クモ糸タンパク質フラグメントは、150〜420アミノ酸残基からなる。
【0033】
最後の側面によれば、本発明は、配列番号1、および配列番号2〜16をコードする核酸配列、またはその相補的核酸配列からなる群より選択される核酸配列を含む、単離されたポリ核酸分子を提供する。本発明はまた、クモ糸タンパク質をコードする非天然型遺伝子を生産するための、単離されたポリ核酸分子の使用を提供する。
【0034】
発明の詳細な開示
本発明は概して、クモ糸繊維の組換え生産に十分なスピドロインタンパク質モチーフの同定に基づくものである。このモチーフは、ユープロステノプス オーストラリス(Euprosthenops australis)からの部分大瓶状腺スピドロイン1(MaSp1)cDNAのクローニングおよび配列決定からの推定アミノ酸配列に基づく。単離されたMaSp1 cDNAは、新規なスピドロイン遺伝子、例えば本明細書中で報告されている遺伝子の構築の出発点として有用である。この新規スピドロイン cDNAから得られるタンパク質から形成されるポリマーは、それらの物理的特性、特に高強度、弾性、および軽量という有用な組み合わせから有用である。それらはまた、細胞の付着および成長を支持する能力からも有用である。このしおり糸の特性は、医療目的または技術目的の新素材を開発する上で魅力的である。特に、本発明のクモ糸は、医療用デバイス、例えばインプラントおよび医療製品、例えば創縫合システム、バンドエンド、縫合糸、創傷包帯、ならびに組織工学および誘導細胞再生(guided cell regeneration)のスカフォールドにおいて有用である。本発明のクモ糸はまた、パラシュート、防弾チョッキ、シートベルト等の織物または編物として使用する上でも特に有用である。
【0035】
本明細書中で使用する場合、用語「繊維」は、少なくとも1μmの厚みを有するポリマー、好ましくは肉眼で視認できる、すなわち少なくとも1μmの厚みを有し、かつその厚みに対して長さでかなりの伸び、好ましくは5mm以上を有する巨視的なポリマーに関する。用語「繊維」は、構造化されていない凝集物または沈殿物を含まない。
【0036】
用語「大瓶状腺スピドロインタンパク質」、「スピドロインタンパク質」は、本明細書を通じて互換的に使用され、全ての公知の大瓶状腺スピドロインタンパク質、ニワオニグモの場合は典型的には「MaSp」または「ADF」と省略される、を包含する。これらの大瓶状腺スピドロインタンパク質は、一般的に二つのタイプ、1型および2型のものである。これらの用語はさらに、添付の特許請求の範囲において規定されるような本発明の新規タンパク質、ならびに公知の大瓶状腺スピドロインタンパク質に対して高度の同一性および/または類似性を有する他の非天然型タンパク質を包含する。
【0037】
本発明者らは、この同定したスピドロインタンパク質モチーフを、非天然型のスピドロインタンパク質をコードする新規な遺伝子構築物を構築するのに利用した。150〜420アミノ酸残基、換言すれば150以上、好ましくは220以上、好ましくは250以上で、かつ420以下、好ましくは380アミノ酸残基以下、好ましくは320アミノ酸残基以下、好ましくは280アミノ酸残基以下の、例えば220〜360のアミノ酸残基からなる大瓶状腺スピドロインタンパク質を、例えば細菌または他の適する生産生物において組換え生産させることができることを発見した。得られるスピドロインタンパク質は、本発明に従う巨視的なクモ糸繊維を自発的に形成する。これは驚くべき結果である。なぜならば、天然のスピドロインタンパク質および以前から知られている組換え生産された繊維形成性のスピドロインタンパク質は、本発明に従うタンパク質よりもずっと長いからである。さらに、天然のスピドロインタンパク質および以前から知られている組換え生産された繊維形成性のスピドロインタンパク質は、多量の内部リピートを含む傾向があり、重合のために紡糸および/または過酷な溶媒を使用する必要がある。
【0038】
スピドロインタンパク質がインビトロで自発的に繊維を形成できることを示したのは本発明が初めてである。本明細書中に示されるデータもまた、繊維形成を誘導するのにスピドロイン配列の一部のみが存在する必要があることを示している。さらに、ユープロステノプス属(Euprosthenops)の反復ドメインおよびジョロウグモ属(Nephila)の非反復C末端ドメイン(実施例6Cを参照のこと)を含む種間ハイブリッドも繊維を形成し、このことは、このモチーフの線維形成能が強力であることを示している。
【0039】
その全般的な側面において、本発明の大瓶状腺スピドロインタンパク質は、式REP−CTにより規定される。REPタンパク質フラグメントおよびCTタンパク質フラグメントは共有結合により、典型的にはペプチド結合を介して結合される。
【0040】
タンパク質フラグメントREPは、アラニンリッチストレッチとグリシンリッチストレッチが交互に並ぶ、反復的な特徴を有する。REPフラグメントは、一般的に、80以上、例えば140以上で、かつ300未満、好ましくは240未満、例えば200未満のアミノ酸残基を含み、そして、以下でより詳細に説明するが、それ自体をいくつかのL(リンカー)セグメント、A(アラニンリッチ)セグメント、およびG(グリシンリッチ)セグメントに分けることができる。典型的には、リンカーセグメント(これは任意のものである)はREPフラグメントの末端に位置し、残りのセグメントはアラニンリッチおよびグリシンリッチが順々に並ぶものである。従って、REPフラグメントは、一般的に、以下の構造[式中のnは整数である]:
L(AG)nL、例えばLA1122334455L;
L(AG)nAL、例えばLA11223344556L;
L(GA)nL、例えばLG1122334455L;または
L(GA)nGL、例えばLG11223344556
のいずれかであり得る。当然の結果として、アラニンリッチセグメントまたはグリシンリッチセグメントのどちらがN末端またはC末端のリンカーセグメントに隣接しているかは重要なことではないということになる。nは4〜8、より好ましくは4〜6の整数;すなわちn=4、n=5、またはn=6であることが好ましい。
【0041】
好ましい実施態様において、本発明に従うREPフラグメントのアラニン含量は、20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上で、かつ50%以下、好ましくは40%以下、より好ましくは35%以下である。アラニン含量の高さは、より堅くおよび/もしくは強くならびに/またはより延びない繊維を提供すると考えられるので、これは利点である。この理由は、アラニン含量の高さは、その繊維におけるβシート構造の含量の高さに関係するためであると考えられる。従って、好ましい実施態様において、本発明の大瓶状腺スピドロインタンパク質のポリマー、例えば繊維におけるβシート含量は50%以上である、すなわちそのタンパク質の二次構造の50%以上がβシート形態をとっている。
【0042】
特定の実施態様において、REPフラグメントは、プロリン残基を欠いている、すなわちREPフラグメントにはPro残基が存在しない。
【0043】
次に、本発明のREPフラグメントを構成するセグメントを見るに、各セグメントは独立している、すなわち、特定のREPフラグメントの任意の二つのAセグメント、任意の二つのGセグメント、または任意の二つのLセグメントは同一であっても同一でなくてもよいことが強調される。従って、特定のREPフラグメント内で各タイプのセグメントが同一であるということは本発明の一般的特徴ではない。むしろ、以下の開示は、当業者に対して、どのように個々のセグメントを設計するか、そして本発明の機能的なスピドロインタンパク質の一部であるREPフラグメントにそれらをどのように集成するかのガイドラインを提供するものである。
【0044】
本明細書中に示される実験データから、各個々のAセグメントが8〜18アミノ酸残基を有するアミノ酸配列であることが結論付けられた。各個々のAセグメントは13〜15アミノ酸残基を含むことが好ましい。Aセグメントの大部分または二つ以上が13〜15アミノ酸残基を含み、そしてAセグメントの少数派、例えば一つまたは二つが8〜18アミノ酸残基、例えば8〜12または16〜18アミノ酸残基を含むことも可能である。これらのアミノ酸残基の圧倒的多数がアラニン残基である。とりわけ、アミノ酸残基の0〜3個がアラニン残基ではなく、残りのアミノ酸残基がアラニン残基である。従って、各個々のAセグメントにおける全てのアミノ酸残基が例外なく、または一つ、二つ、もしくは三つのアミノ酸残基(任意のアミノ酸であり得る)を除いてアラニン残基である。アラニンに置き換わるアミノ酸は天然アミノ酸であり、好ましくは個々にセリン、グルタミン酸、システイン、およびグリシンの群から選択されることが好ましく、より好ましくはセリンである。当然のことであるが、Aセグメントの一つまたはそれ以上が完全アラニンセグメントであり、残りのAセグメントが1〜3個の非アラニン残基、例えばセリン、グルタミン酸、システイン、またはグリシンを含むことも可能である。
【0045】
好ましい実施態様において、各Aセグメントは、上記のように、10〜15個のアラニン残基および0〜3個の非アラニン残基を含む13〜15アミノ酸残基を含む。より好ましい実施態様において、各Aセグメントは、上記のように、12〜15個のアラニン残基および0〜1個の非アラニン残基を含む13〜15アミノ酸残基を含む。
【0046】
各個々のAセグメントは、配列番号3のアミノ酸残基7〜19、43〜56、71〜83、107〜120、135〜147、171〜183、198〜211、235〜248、266〜279、294〜306、330〜342、357〜370、394〜406、421〜434、458〜470、489〜502、517〜529、553〜566、581〜594、618〜630、648〜661、676〜688、712〜725、740〜752、776〜789、804〜816、840〜853、868〜880、904〜917、932〜945、969〜981、999〜1013、1028〜1042、および1060〜1073の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有することが好ましい。この群の各配列は、対応するcDNAのクローニングから推定される、ユープロステノプス オーストラリス MaSp1タンパク質の天然型配列のセグメントの対応する。実施例1〜2および図1〜2Aを参照のこと。あるいは、各個々のAセグメントは、配列番号9のアミノ酸残基31〜42、61〜75、90〜104、122〜135、および153〜171、配列番号13のアミノ酸残基12〜25、46〜60、75〜88、112〜119、150〜158、および173〜180、配列番号14のアミノ酸残基31〜42、ならびに配列番号15のアミノ酸残基122〜135の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有する。この群の各配列は、適切な条件下でクモ糸繊維を形成する能力を有する、本発明の発現された非天然型のスピドロインタンパク質のセグメントに対応する。実施例5〜8、12、および図2Bを参照のこと。いずれかの特定の理論に拘束されることを望まないが、本発明のAセグメントはヘリックス構造またはベータシートを形成するものと予想される。
【0047】
本明細書および添付の特許請求の範囲を通して使用される用語「%同一性」は、以下の通りに算出される。CLUSTAL Wアルゴリズム(Thompson,J.D.,Higgins,D.G.and Gibson,T.J.,Nucleic Acids Research,22:4673−4680(1994))を用いて、クエリー配列と標的配列のアラインメントを行う。各位置のアミノ酸残基を比較し、標的配列において完全一致(identical correspondences)を示すクエリー配列上の位置の割合を、%同一性として表す。
【0048】
本明細書および添付の特許請求の範囲を通して使用される用語「%類似性」は、疎水性の残基Ala、Val、Phe、Pro、Leu、Ile、Trp、Met、およびCysが類似し;塩基性の残基Lys、Arg、およびHisが類似し;酸性の残基GluおよびAspが類似し;そして親水性の非荷電残基Gln、Asn、Ser、Thr、およびTyrが類似する点を除いて「%同一性」について記載した通りに算出される。残った天然アミノ酸Glyはこの文脈では他のアミノ酸と類似しない。
【0049】
本明細書を通じて、本発明に従う代替の実施態様は、特定された割合の同一性の代わりにそれに対応する割合の類似性を満たすものである。他の代替の実施態様は、特定の割合の同一性に加えて、各配列における好ましい同一性の割合の群から選択される、別のより高い割合の類似性を満たすものである。例えば、ある配列は、別の配列に対して70%類似であり得;別の配列に対して70%同一であり得:または別の配列に対して70%同一かつ90%類似でもあり得る。
【0050】
本発明に従う好ましい実施態様において、各個々のAセグメントは、配列番号3のアミノ酸残基7〜19、43〜56、71〜83、107〜120、135〜147、171〜183、198〜211、235〜248、266〜279、294〜306、330〜342、357〜370、394〜406、421〜434、458〜470、489〜502、517〜529、553〜566、581〜594、618〜630、648〜661、676〜688、712〜725、740〜752、776〜789、804〜816、840〜853、868〜880、904〜917、932〜945、969〜981、999〜1013、1028〜1042、および1060〜1073;配列番号9のアミノ酸残基31〜42、61〜75、90〜104、122〜135、および153〜171;配列番号13のアミノ酸残基12〜25、46〜60、75〜88、112〜119、150〜158、および173〜180;配列番号14のアミノ酸残基31〜42;ならびに配列番号15のアミノ酸残基122〜135の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%、より好ましくは95%、最も好ましくは100%の同一性を有する。従って、本発明に従う特定の実施態様においては、各個々のAセグメントは、上記アミノ酸セグメントから選択されるアミノ酸配列と同一である。
【0051】
さらに、本明細書中に示される実験データから、各個々のGセグメントが12〜30アミノ酸残基のアミノ酸配列であることが結論付けられた。各個々のGセグメントは14〜23アミノ酸残基からなることが好ましい。各Gセグメントのアミノ酸残基の少なくとも40%はグリシン残基である。典型的には、各個々のGセグメントのグリシン含量は40〜60%の範囲である。
【0052】
各個々のGセグメントは、配列番号3のアミノ酸残基20〜42、57〜70、84〜106、121〜134、148〜170、184〜197、212〜234、249〜265、280〜293、307〜329、343〜356、371〜393、407〜420、435〜457、471〜488、503〜516、530〜552、567〜580、595〜617、631〜647、662〜675、689〜711、726〜739、753〜775、790〜803、817〜839、854〜867、881〜903、918〜931、946〜968、982〜998、1014〜1027、1043〜1059、および1074〜1092の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有することが好ましい。この群の各配列は、対応するcDNAのクローニングから推定される、ユープロステノプス オーストラリス MaSp1タンパク質の天然型配列のセグメントに対応する。実施例1〜2および図1〜2Aを参照のこと。あるいは、各個々のGセグメントは、配列番号9のアミノ酸残基11〜30、43〜60、76〜89、105〜121、および136〜152、ならびに配列番号13のアミノ酸残基1〜11、26〜45、61〜74、89〜111、120〜149、および159〜172の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有する。この群の各配列は、適切な条件下でクモ糸繊維を形成する能力を有する、本発明に従う発現された非天然型のスピドロインタンパク質の一セグメントに対応する。実施例5〜8、12、および図2Bを参照のこと。
【0053】
本発明に従う好ましい実施態様において、各個々Gセグメントは、配列番号3のアミノ酸残基20〜42、57〜70、84〜106、121〜134、148〜170、184〜197、212〜234、249〜265、280〜293、307〜329、343〜356、371〜393、407〜420、435〜457、471〜488、503〜516、530〜552、567〜580、595〜617、631〜647、662〜675、689〜711、726〜739、753〜775、790〜803、817〜839、854〜867、881〜903、918〜931、946〜968、982〜998、1014〜1027、1043〜1059、および1074〜1092;配列番号9のアミノ酸残基11〜30、43〜60、76〜89、105〜121、および136〜152;ならびに配列番号13のアミノ酸残基1〜11、26〜45、61〜74、89〜111、120〜149、および159〜172の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%、より好ましくは95%、最も好ましくは100%の同一性を有する。従って、本発明に従う特定の実施態様においては、各個々のGセグメントは、上記アミノ酸セグメントから選択されるアミノ酸配列と同一である。
【0054】
特定の実施態様において、本発明の各Gセグメントの最初の二つのアミノ酸残基は−Gln−Gln−でない。
【0055】
特定の実施態様において、保存されたTyr残基に対応する(すなわち、配列番号5の16位、配列番号6の10位、および配列番号7の7位に対応する)位置は、本発明の全てのGセグメントにおいてPheではない。
【0056】
特定の実施態様において、保存されたTyr残基に対応する(すなわち、配列番号5の16位、配列番号6の10位、および配列番号7の7位に対応する)位置は、本発明に従う各GセグメントにおいてTyrである。
【0057】
当然の結果として、本発明のタンパク質の特定の実施態様は、上記の制限の組み合わせを示す、すなわち本発明の各Gセグメントの最初の二つのアミノ酸残基が−Gln−Gln−でなくかつ保存されたTyr残基(すなわち、配列番号5の16位、配列番号6の10位、および配列番号7の7位に対応)が本発明の各GセグメントにおいてTyrとなるということである。特定の実施態様において、個別に、または任意の起りうる組み合わせで採られた上記の制限はさらに、前で議論したようなREPフラグメントがプロリン残基を欠いているという制限と組み合わせることができる。
【0058】
図1〜2および実施例3〜4を参照すれば、本発明のGセグメントには三つのサブタイプがあることが分かる。この分類は、ユープロステノプス オーストラリス MaSp1タンパク質配列の注意深い分析(図1〜2A)に基づいており、そしてこの情報は新規な非天然型のクモ糸タンパク質の構築において利用され、検証されている(図2B)。
【0059】
本発明のGセグメントの第一のサブタイプは、図2Aおよび配列番号5に示されるように、アミノ酸一文字コンセンサス配列GQG(G/S)QGG(Q/Y)GG(L/Q)GQGGYGQGA GSSにより表される。この第一の、かつ全体の中で最長のGセグメントサブタイプは、典型的には23アミノ酸残基を含むが、それより少ない17アミノ酸残基を含みかつ荷電残基を欠くまたは荷電残基を一つ含む場合もある。従って、この第一のGセグメントサブタイプは、17〜23アミノ酸残基を含むのが好ましいが、それより少ない12アミノ酸残基またはそれより多い30アミノ酸残基を含む場合もあることが想定される。いずれかの特定の理論に拘束されることを望まないが、このサブタイプは、コイル構造または31ヘリックス構造を形成すると予想される。この第一サブタイプの典型的なGセグメントは、配列番号3のアミノ酸残基20〜42、84〜106、148〜170、212〜234、307〜329、371〜393、435〜457、530〜552、595〜617、689〜711、753〜775、817〜839、881〜903、946〜968、1043〜1059、および1074〜1092;配列番号9のアミノ酸残基11〜30、105〜121、および136〜152;ならびに配列番号13のアミノ酸残基26〜45および89〜111である。この第一サブタイプの代替のGセグメントは、配列番号13のアミノ酸残基120〜149および159〜172である。特定の実施態様において、本発明に従うこの第一サブタイプの各Gセグメントの最初の二つのアミノ酸残基は−Gln−Gln−でない。
【0060】
本発明のGセグメントの第二のサブタイプは、図2Aおよび配列番号6に示されるように、アミノ酸一文字コンセンサス配列GQGGQGQG(G/R)Y GQG(A/S)G(S/G)Sにより表される。この第二の、全体の中で中間サイズのGセグメントサブタイプは、典型的には17アミノ酸残基を含み、かつ荷電残基を欠くかまたは荷電残基を一つ含む。この第二のGセグメントサブタイプは、14〜20アミノ酸残基を含むのが好ましいが、それより少ない12アミノ酸残基またはそれより多い30アミノ酸残基を含む場合もあることが想定される。いずれかの特定の理論に拘束されることを望まないが、このサブタイプは、コイル構造を形成すると予想される。この第二サブタイプの典型的なGセグメントは、配列番号3のアミノ酸残基249〜265、471〜488、631〜647、および982〜998;ならびに配列番号9のアミノ酸残基43〜60である。
【0061】
本発明のGセグメントの第三のサブタイプは、図2Aおよび配列番号7に示されるように、アミノ酸一文字コンセンサス配列G(R/Q)GQG(G/R)YGQG(A/S/V)GGNにより表される。この第三のGセグメントサブタイプは典型的には14アミノ酸残基を含み、全体の中では本発明に従うGセグメントサブタイプの中で最短である。この第三のGセグメントサブタイプは、12〜17アミノ酸残基を含むのが好ましいが、それより多い23アミノ酸残基を含む場合もあることが想定される。いずれかの特定の理論に拘束されることを望まないが、このサブタイプは、ターン構造を形成すると予想される。この第三サブタイプの典型的なGセグメントは、配列番号3のアミノ酸残基57〜70、121〜134、184〜197、280〜293、343〜356、407〜420、503〜516、567〜580、662〜675、726〜739、790〜803、854〜867、918〜931、1014〜1027;配列番号9のアミノ酸残基76〜89;ならびに配列番号13のアミノ酸残基61〜74である。この第三サブタイプの代替のGセグメントは、配列番号13のアミノ酸残基1〜11である。
【0062】
従って、好ましい実施態様において、各個々のGセグメントは、配列番号5、配列番号6、および配列番号7から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは95%の同一性を有する。
【0063】
REPフラグメントのAセグメントおよびGセグメントの交互配列の好ましい実施態様において、一つおきのGセグメントが第一サブタイプのものであり、残りのGセグメントが第三サブタイプのもの、例えば...A1short2long3short4long5short...である。REPフラグメントの別の好ましい実施態様において、一つの第二サブタイプのGセグメントが、このGセグメントの規則性を挿入によって中断している、例えば...A1short2long3mid4short5long...である。
【0064】
各個々のLセグメントは、任意のリンカーアミノ酸配列を表し、0〜20アミノ酸残基、例えば0〜10アミノ酸残基を含み得る。このセグメントは任意であり機能的にはスピドロインタンパク質にとって重要でないが、それでもその存在により、本発明のクモ糸繊維を形成する完全に機能的なスピドロインタンパク質が実現したとも言える。リンカーアミノ酸配列はまた、ユープロステノプス オーストラリス由来のMaSp1タンパク質の推定アミノ酸配列の反復部分(配列番号3)にも存在する。特に、リンカーセグメントのアミノ酸配列は、記載されるAセグメントまたはGセグメントのいずれかと似ている場合もあるが、通常、本明細書中に規定されるようなそれらの基準を十分に満たすものではない。
【0065】
図2Aに示されるように、REPフラグメントのC末端部分に配置されたリンカーセグメントは、アミノ酸一文字コンセンサス配列ASASAAASAASTVANSVSおよびASAASAAAにより表すことができ、これらはアラニンが豊富である。実際、二番目の配列は本発明のAセグメントであると考えることができ、一番目の配列は本発明のAセグメントに対して高い類似性を有する。本発明のリンカーセグメントの別の例は、一文字アミノ酸配列GSAMGQGSを有し、これはグリシンが豊富であり本発明のGセグメントに対して高い類似性を有する。
【0066】
代表的なLセグメントは、配列番号3のアミノ酸残基1〜6および1093〜1110;配列番号9のアミノ酸残基1〜10および153〜171;ならびに配列番号13のアミノ酸残基173〜180であるが、当業者はこれらのセグメントに関して多くの適切な代替のアミノ酸配列が存在することを容易に認識するであろう。本発明に従うREPフラグメントの一つの実施態様において、Lセグメントの一つは0アミノ酸を含む、すなわちLセグメントの一つは存在しない。本発明に従うREPフラグメントの別の実施態様において、両方のLセグメントが0アミノ酸を含む、すなわち両方のLセグメントとも存在しない。従って、本発明に従うREPフラグメントのこれらの実施態様は、概略的に、以下のように(AG)nL、(AG)nAL、(GA)nL、(GA)nGL; L(AG)n、L(AG)nA、L(GA)n、L(GA)nG;および(AG)n、(AG)nA、(GA)n、(GA)nGで表され得る。これらのREPフラグメントはいずれも、以下に規定される任意のCTフラグメントと共に使用するのに適している。
【0067】
本発明に従うスピドロインタンパク質のC末端(CT)フラグメントは、スピドロインタンパク質のC末端アミノ酸配列に対して高い類似性を有する。図3に示されるように、このアミノ酸配列は様々な種ならびにMaSp1およびMaSp2を含むスピドロインタンパク質の間で十分に保存されている。以下の実施例においては、CTフラグメントが完全に欠失していない限り、具体的にどのCTフラグメントが本発明に従うスピドロインタンパク質に存在するかは重要なことではないことが実証されている。従って、本発明に従うCTフラグメントは、図3に示されるアミノ酸配列または類似性の高い配列のいずれかから選択できる。配列番号13のCThybフラグメントは配列番号8のコンセンサスアミノ酸配列に対して96%の同一性を有するが、配列番号9のCTnatフラグメントは配列番号8のコンセンサスアミノ酸配列に対して59%の同一性しか示さないことに注目されたい。このことは、幅広い様々なC末端配列が本発明のスピドロインタンパク質において使用できることを示している。
【0068】
本発明に従うCTフラグメントの配列は、図3のアミノ酸配列に基づく配列番号8のコンセンサスアミノ酸配列に対して少なくとも50%の同一性、好ましくは少なくとも60%の同一性を有する。好ましい実施態様において、本発明のCTフラグメントの配列は、配列番号8のコンセンサスアミノ酸配列のアミノ酸残基1〜71に対して少なくとも65%の同一性、好ましくは少なくとも70%の同一性を有する。好ましい実施態様において、本発明のCTフラグメントはさらに、配列番号8のコンセンサスアミノ酸配列またはそのアミノ酸残基1〜71に対して70%の同一性、好ましくは80%の類似性を有する。
【0069】
本発明の典型的なCTフラグメントは、配列番号4のユープロステノプス オーストラリス配列、配列番号9のユープロステノプス オーストラリス由来アミノ酸残基172〜269、ならびにユープロステノプス エスピー由来であると主張されている(Pouchkina−Stantcheva,N.N.& McQueen−Mason,S.J.Molecular studies of a novel dragline silk from a nursery web spider,Euprosthenops sp.(Pisauridae).Comp Biochem Physiol B Biochem Mol Biol 138,371−376(2004))が、アメリカジョロウグモおよびセネガルジョロウグモ(Nephila senegalensis)由来のMaSp1に対する類似性が高い配列番号13のアミノ酸残基181〜276である。従って、本発明の好ましい側面によれば、CTフラグメントは、配列番号4、配列番号9のアミノ酸残基172〜269、配列番号13のアミノ酸残基181〜276、配列番号16のアミノ酸残基172〜269、または図3および実施例4の任意の個々のMaSp1/ADF−4アミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有する。本発明の好ましい側面において、CTフラグメントは、配列番号4、配列番号9のアミノ酸残基172〜269、配列番号13のアミノ酸残基181〜276、配列番号16のアミノ酸残基172〜269、または図3および実施例4の任意の個々のMaSp1/ADF−4アミノ酸配列に対して少なくとも90%、例えば少なくとも95%の同一性を有する。本発明の好ましい側面において、CTフラグメントは、配列番号4、配列番号9のアミノ酸残基172〜269、配列番号13のアミノ酸残基181〜276、配列番号16のアミノ酸残基172〜269、または図3および実施例4の任意の個々のMaSp1/ADF−4アミノ酸配列と同一である。
【0070】
CTフラグメントは、典型的には、70〜120アミノ酸残基からなる。CTフラグメントは、少なくとも70、または80以上、好ましくは90以上のアミノ酸残基を含むのが好ましい。CTフラグメントが、最大120または110未満のアミノ酸残基を含むことも好ましい。典型的なCTフラグメントは、およそ100アミノ酸残基を含む。
【0071】
別の側面によれば、本発明は、好ましくは150〜420アミノ酸残基からなる大瓶状腺スピドロインタンパク質である第一タンパク質フラグメント、ならびに融合パートナーおよび切断剤認識部位を含む第二タンパク質フラグメントからなる単離された融合タンパク質を提供する。第一タンパク質フラグメントは切断剤認識部位を介して融合パートナーに結合されていて、すなわち適切な条件下で適切な切断剤によって融合タンパク質を処理することによって融合パートナーを切り出し、好ましくは150〜420アミノ酸残基からなる大瓶状腺スピドロインタンパク質を提供することができる。この融合タンパク質を用いる利点は、沈降および適切な宿主、例えば細菌、好ましくは大腸菌で生産させる場合のその他の生産上の問題を引き起こさずに、溶液中で、好ましくは生理学的な媒体、典型的には緩衝化水性媒体、例えば10〜100mM Tris−HCl緩衝液、pH6〜9中で大量に生産させることができる点である。溶液中の融合タンパク質は、長い期間、典型的には数日または数週間の間、可溶性であり、これによりラージスケールでの生産が容易になり、タンパク質の凝集の危険が小さくなる。用語「可溶性」および「溶液中」は、タンパク質が目に見えて凝集せず、60000×gで溶媒から沈降しないことを意味する。必要あらば、溶液中の融合タンパク質は、適当な切断剤を用いた切断に供され、自発的にクモ糸繊維を形成する大瓶状腺スピドロインタンパク質を提供することができる。
【0072】
好ましい側面において、本発明は、X−REP−CTおよびREP−CT−Xの群から選択される単離された融合タンパク質、好ましくはX−REP−CTを提供する。REPおよびCTは、本発明に従うタンパク質フラグメントであり、得られるREP−CTの形態のMaSpタンパク質が本発明に従うMaSpタンパク質であることを意味する。Xは、上記のような融合パートナーおよび切断剤認識部位を含むタンパク質フラグメントである。タンパク質フラグメント結合体REP−CTは、切断剤認識部位を介して融合パートナーに結合される。
【0073】
本発明の融合パートナーには、その相手となるタンパク質フラグメント、ここでは本発明のMaSpタンパク質、の溶解性および/または安定性を改善する任意のタンパク質フラグメントが含まれる。融合パートナーはまた、アフィニティ精製に適したハンドルを提供する。本発明に従う融合パートナーの例には、チオレドキシン、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、MTB32−C、Gb1、ZZ、およびNus Aが含まれるがこれらに限定されない。当業者は、代替の適切な融合パートナーを十分承知している。本発明の好ましい実施態様において、融合パートナーは、HisタグおよびSタグと組み合わせのチオレドキシン部分(ThrX)である。本発明の一つの好ましい実施態様において、融合パートナーは、二つのHisタグを有するThrX部分、すなわちHisタグ/ThrX/Hisタグである。本発明の別の好ましい実施態様において、融合パートナーは、チオレドキシン部分(ThrX)である。
【0074】
切断剤認識部位は、MaSpタンパク質フラグメントに結合されるXタンパク質フラグメントの末端に置かれて、その認識部位における切断によりMaSpタンパク質および融合パートナーが生じる。本発明に従う切断剤認識部位の例には、アミノ酸配列LVPRGS(RとGの間で切断される)を有するトロンビン認識部位;アミノ酸配列DDDK(Kの後ろで切断される)を有するエンテロキナーゼ認識部位;アミノ酸配列NG(NとGの間で切断される)を有するヒドロキシルアミン認識部位;アミノ酸配列LGVLFQGP(QとGの間で切断される)を有するHRV 3Cプロテアーゼ認識部位;アミノ酸配列I(E/D)GR(Rの後ろで切断される)を有する第Xa因子認識部位;アミノ酸配列EXXYXQ(G/S)、一般的にはENLYFQG(QとG/Sの間で切断される)を有するTEV認識部位;アミノ酸配列EDNLYFQG(QとGの間で切断される)を有するAc−TEV認識部位;およびアミノ酸配列LEVLFQGP(QとGの間で切断される)を有するPreScission認識部位が含まれるがこれらに限定されない。他の適当な認識部位は、トリプシン、エンドプロテイナーゼ、V8プロテアーゼ、ペプシン、およびCNBrの切断部位である。好適な切断認識部位のさらなる例は、十分に当業者の手の届く範囲内にある。本発明の好ましい実施態様において、切断剤認識部位はトロンビン認識部位である。
【0075】
好ましい実施態様において、本発明のXフラグメントは、ThrX/Hisタグ/Sタグ/トロンビン切断部位という構造を有し、かつXフラグメントは本発明のREP−CTタンパク質フラグメントのN末端に結合される。
【0076】
一つの好ましい実施態様において、本発明のXフラグメントはHisタグ/ThrX/Hisタグ/トロンビン切断部位という構造を有し、かつXフラグメントは本発明のREP−CTタンパク質フラグメントのN末端に結合される。
【0077】
別の側面によれば、本発明は、本発明の大瓶状腺スピドロインタンパク質の生産方法を提供する。その第一工程において、本発明の融合タンパク質の液体媒体中溶液を供給する。好ましくは、融合タンパク質は凝集せず、従って再溶解手順は必要ない。融合タンパク質は組換え生産され、融合タンパク質上のアフィニティハンドル、例えばHisタグまたは融合タンパク質中の任意の適切なエピトープを用いて精製され得る。液体媒体は、任意の適している媒体、好ましくは生理学的媒体、典型的には緩衝化水性媒体、例えば10〜100mM Tris−HCl緩衝液、pH6〜9であり得る。第二工程においては、切断剤認識部位において融合タンパク質の切断を達成するために、本発明に従う切断剤が液体媒体に加えられる。上記のように、本発明の大瓶状腺スピドロインタンパク質は、これによって得られる。第三の場合による工程においては、このようにして得た大瓶状腺スピドロインタンパク質を、適する単離技術、例えばクロマトグラフィおよび/または濾過を用いて液体媒体から単離する。
【0078】
さらに別の側面によれば、本発明は、本発明の大瓶状腺スピドロインタンパク質のポリマーの生産方法を提供する。その第一工程において、本発明の融合タンパク質の液体媒体中溶液を供給する。好ましくは、融合タンパク質は凝集せず、従って再溶解手順は必要ない。融合タンパク質は組換え生産され、融合タンパク質上のアフィニティハンドル、例えばHisタグまたは融合タンパク質中の任意の適切なエピトープを用いて精製され得る。液体媒体は、任意の適している媒体、好ましくは生理学的媒体、典型的には緩衝化水性媒体、例えば10〜100mM Tris−HCl緩衝液、pH6〜9であり得る。第二工程においては、切断剤認識部位において融合タンパク質の切断を達成するために、本発明に従う切断剤が液体媒体に加えられる。上記のように、本発明の大瓶状腺スピドロインタンパク質は、これによって得られる。第三工程においては、このようにして得られた大瓶状腺スピドロインタンパク質を液体媒体中で重合させる。重合は、典型的には、二つの異なる相の間の界面で、例えば液体/空気、液体/固体、および水/油の界面で開始される。従って、この第三工程はさらに、液体媒体と別の相の間の界面の提供も含み得る。別の相は、気相、液相、および固相からなる群より選択される。上記のように、液体媒体は典型的には水性媒体であり、適当な別の相は、例えば空気および水不混和性の有機溶媒、例えば油、例えばPCR反応に適した鉱油である。生じる界面の存在は、その界面またはその界面付近の液体媒体に及ぶ領域において重合を刺激し、それによってこの界面または界面領域において重合が開始される。好ましい界面には、水/空気および水/油の界面が含まれる。重合は、典型的には、室温でのインキュベーションによって、数分または数時間以内に、例えば1分〜5時間以内に自然に起こる。第四の場合による工程においては、このようにして得られた大瓶状腺スピドロインタンパク質のポリマーを、適切な単離技術を用いて液体媒体から単離する。
【0079】
上記のように、繊維の形成は、融合タンパク質からのミニチュアスピドロインのタンパク質分解による遊離により誘導される。切断反応を、穏やかに左右に揺すられているチューブ内で行うと、繊維は、そのチューブに沿う空気−水の界面で形成される。チューブは任意の適切な素材、例えばプラスチックまたはガラスから製造され得る。切断混合物を静置すると、空気−水の界面にフィルムが形成される。水性の切断混合物の上面に油を添加すると、静置する場合であっても揺する場合であっても、フィルムは油−水の界面で形成される。切断混合物を、例えば空気によるバブリングまたはホイッピングにより泡立てると、この泡は安定であり、乾燥させれば固化する。
【0080】
本発明の方法を用いれば、必要に応じて切断できおよび重合させ得る、本発明の融合タンパク質を多量に組換え生産することが可能である。これにより、重合工程の制御性が良くなり、望ましい特性を有するクモ糸繊維を獲得するためにパラメータを最適化させることができる。
【0081】
本発明の大瓶状腺スピドロインタンパク質は、典型的には、様々な好適な宿主を用いて組換え生産される。従って、別の側面によれば、本発明は、本発明の大瓶状腺スピドロインタンパク質、例えば配列番号9〜13、好ましくは配列番号9、12、および13、をコードする核酸配列またはその相補的核酸配列を含む単離されたポリ核酸分子を提供する。これらのポリ核酸分子および本明細書中に開示される様々なタンパク質(配列番号2〜16)をコードするポリ核酸分子もまた、非天然型のスピドロインタンパク質またはその生産系のさらなる開発に有用であり得る。
【0082】
本発明に従う融合タンパク質は、典型的には、様々な適する宿主、例えば細菌、酵母、哺乳動物細胞、植物、昆虫細胞、およびトランスジェニック動物を用いて組換え生産される。本発明に従う融合タンパク質を細菌中で生産させるのが好ましい。
【0083】
従って、別の側面によれば、本発明は、本発明の融合タンパク質をコードする核酸配列またはその相補的核酸配列を含む単離されたポリ核酸分子を提供する。このポリ核酸分子はまた、非天然型のスピドロインタンパク質またはその生産系のさらなる開発にも有用であり得る。
【0084】
本発明に従うポリ核酸分子は、cDNA分子を含むDNA分子またはRNA分子であり得る。当業者なら十分に認識するように、ある核酸配列は、さらにその相補的核酸配列をも表わし得る。従って、本発明に従う核酸配列に相補的な核酸配列もまた、本発明の保護範囲に含まれる。
【0085】
一つの側面によれば、本発明は、本発明に従う可溶性融合タンパク質の生産方法を提供する。その第一工程において、本発明の融合タンパク質をコードするポリ核酸分子を、適した宿主において発現する。第二工程においては、このようにして得られた可溶性融合タンパク質を、例えばクロマトグラフィおよび/または濾過を用いて単離する。場合により、可溶性融合タンパク質を単離する第二工程は、LPSおよび他の発熱物質の除去を含む。
【0086】
本発明はさらに、本発明の大瓶状腺スピドロインタンパク質の製造方法を提供する。その第一工程において、本発明の融合タンパク質をコードするポリ核酸分子を、適した宿主において発現する。第二工程においては、このようにして得られた可溶性融合タンパク質を、例えばクロマトグラフィおよび/または濾過を用いて単離する。第三工程においては、単離された融合タンパク質の溶液を供給し、第四工程においては、その液体媒体に適した切断剤を添加する。これにより、切断剤認識部位における融合タンパク質の切断が達成され、それによって大瓶状腺スピドロインタンパク質が提供される。場合による第五工程においては、このようにして得られた大瓶状腺スピドロインタンパク質を液体媒体から単離する。さらに、場合により、可溶性融合タンパク質を単離する第二工程および大瓶状腺スピドロインタンパク質を単離する場合による第五工程は、LPSおよび他の発熱物質の除去を含む。
【0087】
本発明はまた、本発明の大瓶状腺スピドロインタンパク質のポリマーの生産方法を提供する。その第一工程において、本発明の融合タンパク質をコードするポリ核酸分子を、適した宿主において発現する。第二工程においては、このようにして得られた可溶性融合タンパク質を、例えばクロマトグラフィおよび/または濾過を用いて単離する。第三工程においては、単離された融合タンパク質の溶液を供給し、第四工程においては、その液体媒体に適した切断剤を添加する。これにより、切断剤認識部位における融合タンパク質の切断が達成され、それによって大瓶状腺スピドロインタンパク質が提供される。第五工程においては、このようにして得られた大瓶状腺スピドロインタンパク質を液体媒体中で重合させる。重合は、典型的には、二つの異なる相の間の界面で、例えば液体/空気、液体/固体、および水/油の界面で開始する。従って、この第五工程はさらに、液体媒体と別の相の間の界面を提供することも含み得る。別の相は、気相、液相、および固相からなる群より選択される。上記のように、液体媒体は典型的には水性媒体であり、適した別の相は、例えば空気および水不混和性の有機溶媒、例えば油、例えばPCR反応に適した鉱油である。生じる界面の存在は、その界面またはその界面付近の液体媒体に及ぶ領域において重合を刺激し、それによってこの界面または界面領域において重合が開始される。好ましい界面には、水/空気および水/油の界面が含まれる。重合は、典型的には、室温でインキュベーションすると、数分または数時間以内に、例えば1分〜5時間以内に自然に起こる。場合による第六工程においては、このようにして得られたポリマーを、液体媒体から単離する。
【0088】
インビボで生体材料として使用する上での必須の、低発熱物質含量のタンパク質を得るため、リポ多糖類(LPS)の除去に最適化された精製プロトコルを開発した。遊離したLPSの混入を回避するため、産生細菌細胞を、CaCl2およびEDTAの交互の洗浄工程に供する。細胞溶解後の後続の全ての精製工程は、標的タンパク質とLPSの間の疎水性相互作用を最小限に抑えるために、低伝導率の緩衝液中で行われる。LPS含量は、このタンパク質溶液を、LPSを特異的に吸着するリガンドを有するEndotrapカラムに通すことによってさらに最小限に抑える。LPSおよび他の発熱物質が絶えず低含量であることを確認するため、全てのバッチを、インビトロ発熱性物質試験法(IPT)および/またはリムルスアメーバ様細胞溶解産物(LAL)動態アッセイを用いて分析する。グラム陰性細菌の宿主において生産されたにもかかわらず、組換えスピドロインタンパク質を、LPSおよび他の発熱物質の残留レベルが動物試験において要求される限界以下、すなわち25 EU/インプラント以下にまで精製することができる。本発明に従う特定の実施態様において、単離された融合タンパク質中のLPSおよび他の発熱物質の含量は、1 EU/mgタンパク質またはそれ未満である。本発明に従う特定の実施態様において、単離された大瓶状腺スピドロインタンパク質中のLPSおよび他の発熱物質の含量は、1 EU/mgタンパク質またはそれ未満、好ましくは0.25 EU/mgタン
パク質またはそれ未満である。
【0089】
別の側面によれば、本発明は、本発明の大瓶状腺スピドロインタンパク質のポリマーを提供する。好ましい実施態様において、このタンパク質のポリマーは、本発明に従う方法のいずれか一つによって獲得できる。
【0090】
好ましい実施態様において、本発明の大瓶状腺スピドロインタンパク質のポリマーのβシート含量は50%以上である、すなわちこのタンパク質のポリマーの二次構造の50%より多くがβシート形態をとっている。より高いβシート構造の含量は、より堅くおよび/もしくは強く、ならびに/またはより延びない繊維を提供すると考えられるので、これは利点である。
【0091】
本発明に従うスピドロインタンパク質のポリマーは、巨視的な大きさの、すなわち1μm以上、好ましくは10μm以上の直径および5mm以上の長さを有する繊維であるのが好ましい。繊維は10〜400μm、好ましくは60〜120μmの範囲の直径、および0.5〜300cm、好ましくは1〜100cmの範囲の長さを有することが好ましい。他の好ましい範囲は、0.5〜30cmおよび1〜20cmである。本発明のスピドロインタンパク質のポリマーは1MPa以上、好ましくは2MPa以上、より好ましくは10MPaまたはそれ以上の引張強度を有することも好ましい。本発明のスピドロインタンパク質のポリマーは、100MPa以上、より好ましくは200MPaまたはそれ以上の引張強度を有することが好ましい。本繊維は、物理的操作の間もインタクトな状態を維持する能力を有する、すなわち、紡糸、製織(weaving)、撚糸(twisting)、かぎ針編み(crocheting)、および類似の方法に使用できる。
【0092】
好ましい実施態様において、本発明に従うスピドロインタンパク質のポリマーは、泡、ゲル、メッシュ、またはフィルムを形成する。
【0093】
さらに別の側面によれば、本発明は、融合タンパク質を製造するための、融合パートナーおよび切断剤認識部位を含むタンパク質フラグメントの新規な使用を提供する。本融合タンパク質は、前記タンパク質フラグメントおよび本発明のクモ糸タンパク質フラグメントを含むものであり、二つのフラグメントは切断剤認識部位を介して結合されている。クモ糸タンパク質フラグメントは、好ましくは、150〜420アミノ酸残基からなる。
【0094】
以下、本発明を下記の非限定的な実施例によってさらに説明する。
【実施例】
【0095】
実施例
実施例1 ユープロステノプス オーストラリス MaSp1 cDNAのクローニングおよび配列決定
南アフリカで採取した、およそ100匹の雌成体ユープロステノプス オーストラリスのクモ由来の大瓶状腺を用いて特注のpDONR222ベースのCloneMiner cDNAライブラリ(Invitrogen,Paisley,UK)を構築した。MaSp1タンパク質をコードするcDNAクローンは、ユープロステノプス属の未知の亜種のクモを起源とするアラニンリッチおよびグリシンリッチフラグメントをコードするcDNAプローブを用いてライブラリをスクリーニングすることによって得た。コロニーブロッティングおよび検出はECL direct labelling and detection system(Amersham Biosciences,Uppsala,Sweden)を製造元の指示に従い用いて行った。
一つの単一クローンをさらなる特徴付けのために選択した。このクローンからcDNAインサートの全長配列を得るため、Erase−a−Base System(Promega,Southampton,UK)を用いて塩基配列段階的削除(nested deletions)を作製し、配列決定をMegaBase 1000機器(Amersham Biosciences)において行った。
得られた3.8kb cDNA(配列番号1)は、34のアラニンリッチセグメントおよびグリシンリッチセグメントの反復フラグメント(配列番号3)ならびに97アミノ酸残基のC末端非反復フラグメント(配列番号4)を含む、1207アミノ酸残基のMaSp1タンパク質(配列番号2)をコードするものであった。
【0096】
実施例2 ユープロステノプス オーストラリス MaSp1タンパク質の反復フラグメントの配列分析
実施例1のユープロステノプス オーストラリス MaSp1タンパク質配列の反復フラグメント(配列番号3)を、このフラグメントの反復セグメントのアラインメントによりさらに分析した。図1を参照のこと。このアラインメントを注意深く精査し、以下の構造情報を得た。
ユープロステノプス オーストラリス MaSp1タンパク質のアラニンリッチセグメントは13〜15アミノ酸残基長であり、アラニン残基のみからなるかまたは一つの残基(セリン、グルタミン酸、またはグリシン残基であった)を除いて全てがアラニン残基からなるものであった。
ユープロステノプス オーストラリス MaSp1タンパク質の反復フラグメントはさらに、三つの関連する、しかし異なるタイプのグリシンリッチセグメントをさらに含んでいた。図2Aを参照のこと。このグリシンリッチセグメントのうちの二つは、ほぼ長さおよび出現率のみが異なり;最も共通のグリシンリッチセグメントは23アミノ酸残基を含むが、より数の少ないバリアントは17アミノ酸残基を含むものであった。これらのグリシンリッチセグメントは両方とも、全般的に、荷電残基を欠いているかまたは一つの荷電残基を含むものであった。対照的に、14アミノ酸残基を含む最短型のグリシンリッチセグメントは、N末端に配列GRGQGまたはGQGQGおよびC末端にGNを含む点が独特であった。
最長型のグリシンリッチセグメントは、アミノ酸一文字コンセンサス配列GQG(G/S)QGG(Q/Y)GG (L/Q)GQGGYGQGA GSS(配列番号5)により表され、荷電残基を欠いていた。このセグメントはコイル構造または31−ヘリックス構造を形成することが予想された。中間サイズのグリシンリッチセグメントは、アミノ酸一文字コンセンサス配列GQGGQGQG(G/R)Y GQG(A/S)G(S/G)S(配列番号6)により表され、荷電残基を欠いているかまたは一つの荷電残基を含むものであった。このセグメントはコイル構造を形成することが予想された。最小型グリシンリッチセグメントは、アミノ酸一文字コンセンサス配列G(R/Q)GQG(G/R)YGQG (A/S/V)GGN(配列番号7)により表されるものであった。このセグメントはターン構造を形成することが予想された。
ユープロステノプス オーストラリス MaSp1タンパク質の反復フラグメントは、アラニンリッチセグメントとグリシンリッチセグメントを交互にすることで構築されるものであった。例えば、
....A1122334455...
上記の最小型および最長型のグリシンリッチセグメントの各々は、概ね、グリシンリッチセグメント二つごとに出現することが観察された。例えば、
...A1short2long3short4long5short...
対照的に、より数の少ない中間サイズのグリシンリッチフラグメントは、概ね、それより長いタイプのグリシンリッチセグメントとそれより短いタイプのグリシンリッチセグメントの間に出現するものであった。例えば、
...A1short2long3mid4short5long...
【0097】
実施例3 ユープロステノプス オーストラリス MaSp1タンパク質の反復フラグメ
ントの二次構造および三次構造の推定
溶液中のスピドロインポリペプチドは、典型的には、ヘアピン構造の形成により折り畳まれることから、成熟型の繊維においては逆平行βシート構造を前もって示すことが予想された。実施例1〜2のユープロステノプス オーストラリス MaSp1タンパク質の反復フラグメント(配列番号3)において可能性のあるフォールディングパターンを理解するため、ヘアピンまたはターン構造の形成に適合するタンパク質領域を同定した。アラニンリッチセグメントは、ヘリックス構造を形成することが予想されることから、ターン形成の候補としての可能性は低く、それよりも、これらのセグメントは、繊維内でβシートを構成するのに一般的に保持されることの方が重要であった。
最近発表されたターン予測アルゴリズム(Fuchs,PF & Alix,AJ,High accuracy prediction of beta−turns and their types using propensities and multiple alignments.Proteins 59,828−839(2005))を用いたところ、最短型グリシンリッチセグメントは、タイプII βターンの形成の可能性が高いことを示し、二つのより長いグリシンリッチセグメントは、コイル構造を形成することが予測された。より長いGlyリッチセグメントにおいてGGXトリプレットする含量が高いことは、これらが31−ヘリックス構造を形成できることを示唆していた。
スピドロインアミノ酸配列の反復的性質は、フォールディングパターンの同等に反復的な性質を示唆する。まとめると、これらの観察により、図2Aに示されるようなユープロステノプス オーストラリス MaSp1タンパク質の反復フラグメントのフォールディングを得た。正に荷電した残基が、ほぼ必ずこの提唱したターン構造に存在することに注目されたい。
ユープロステノプス オーストラリス MaSp1タンパク質の反復フラグメントのフォールディングパターンから、アラニンリッチセグメント/(より長い)グリシンリッチコイルセグメント/アラニンリッチセグメント/(より短い)グリシンリッチターンセグメント/アラニンリッチセグメント/(より長い)グリシンリッチコイルセグメント/アラニンリッチセグメントを見出すことができた(図2Aに概略的に示されている)。
【0098】
実施例4 MaSp1タンパク質の非反復C末端フラグメントの配列分析
実施例1において得られたユープロステノプス オーストラリス由来のMaSp1タンパク質のC末端非反復フラグメント(配列番号4)の一次構造を、多くの公知の、特にユープロステノプス エスピー(Pouchkina−Stantcheva,NN & McQueen−Mason,SJ,Molecular studies of a novel dragline silk from a nursery web spider,Euprosthenops sp.(Pisauridae).Comp Biochem Physiol B Biochem Mol Biol 138,371−376(2004))、Nephila clavipes P19837−5(Xu,M & Lewis,RV,Structure of a protein superfiber:spider dragline silk.Proc Natl Acad Sci USA 87,7120−7124(1990))、およびその他由来のMaSp1およびMaSp2タンパク質のC末端フラグメントとアラインメントを行なった。
図3に示される、反復フラグメントの最後のSerから始めたアラインメントから、MaSp1およびMaSp2のC末端領域がよく保存されていることが明らかとなった。ユープロステノプス エスピーおよびアメリカジョロウグモは、95%同一の残基を有し、ユープロステノプス オーストラリスおよびアメリカジョロウグモは、54%同一の残基を有し;そしてユープロステノプス オーストラリスおよびユープロステノプス エスピーは、55%同一の残基を有していた。MaSp1およびMaSp2のC末端領域のコンセンサス配列を配列番号8として表す。図3において、以下のMaSpタンパク質のアラインメントを行った。これを、適用可能な場合はGenBankアクセッションエントリーと共に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
実施例5 MaSp1遺伝子の構築
ユープロステノプス オーストラリス由来タンパク質5Gly/Ala−CTnat(配列番号9)をコードするDNA配列を、テンプレートとして実施例1のcDNAライブラリ由来のMaSp1クローンを用いて、Advantage GC2キット(BD Biosciences,San Jose,CA,USA)によるPCRにより増幅した。設計したプライマーを使用して、制限酵素認識部位BamHIおよびHindIIIを、それぞれ5’末端および3’末端に導入し、停止コドンをHindIII部位の上流に導入した。次いでBamHI−5Gly/Ala−CTnat−HindIII構築物を、以下の実施例6(C)に記載されるようにして調製した修飾型pET32ベクター(Merck Biosciences,Darmstadt,Germany)にサブクローニングした。
【0101】
実施例6 キメラMaSp1遺伝子の構築
(A)REP遺伝子フラグメント
3Gly/Alaおよび4Gly/Alaで表される部分反復フラグメント(REP)をコードするDNA配列を、テンプレートとしてユープロステノプス エスピー MaSp1タンパク質の反復領域をコードする部分cDNAクローン(Pouchkina−Stantcheva,NN & McQueen−Mason,SJ,Molecular studies of a novel dragline silk from a nursery web spider,Euprosthenops sp.(Pisauridae).Comp Biochem Physiol B Biochem Mol Biol 138,371−376(2004))(GenBankエントリーCQ974358またはCQ816656)を用いて、ベタインの存在下で(Henke W et al,Betaine improves the PCR amplification of GC−rich DNA sequences.Nucleic Acids Res 25,3957−3958(1997))、LA Taq(TaKaRa Bio;Saint Germain−en−laye,France)によるPCRにより増幅した。制限酵素認識部位を5’末端および3’末端に導入し、以下の構築物を得た:CTフラグメント(下記参照)とつなぐ予定のNcoI−3Gly/Ala−NheIおよびNcoI−4Gly/Ala−NheI;および個別に発現させる予定の、停止コドンをXhoI部位の上流に直接導入したNcoI−4Gly/Ala−XhoIクローン。
【0102】
(B)CT遺伝子フラグメント
ユープロステノプス エスピー由来の(しかしアメリカジョロウグモおよびセネガルジョロウグモ由来のMaSp1との類似性が高い)非反復C末端ドメインをコードするDNA配列を、C末端MaSp1ドメインをコードするゲノムDNAクローンを用いてPCRにより増幅した(Pouchkina−Stantcheva,NN & McQueen−Mason,SJ,Molecular studies of a novel dragline silk from a nursery web spider,Euprosthenops sp.(Pisauridae).Comp Biochem Physiol B Biochem Mol Biol 138,371−376(2004))。制限酵素認識部位を5’末端および3’末端に導入し、3Gly/Alaおよび4Gly/Ala部分REPクローン(上記参照)とつなぐ予定のNheI−2Gly/Ala−CThyb−XhoIおよび個別に発現させる予定のNcoI−2Gly/Ala−CThyb−XhoIを得た。
【0103】
(C)REP−CTハイブリッドMaSp1遺伝子の構築
3Gly/Alaおよび4Gly/Ala REPクローンを、pCR(登録商標)2.1−TOPO(登録商標)ベクター(Invitrogen)を用いてCTクローンとつないだ。次いで、得られた、融合型5Gly/Ala−CThybおよび6Gly/Ala−CThybクローンをNcoIおよびXhoIで切り出し、元々あったトロンビン切断部位を除去しエンテロキナーゼ切断部位の下流に新規なトロンビン部位を導入した修飾型pET32ベクター(Novagen)にサブクローニングした。
【0104】
実施例7 MaSp1融合タンパク質の発現
実施例5〜6において構築した遺伝子によりコードされるMaSp1タンパク質を、以下のように、T7プロモーターの制御下で、チオレドキシン/His6/Sタグ/トロンビン切断部位/MaSp1タンパク質およびアンピシリン耐性遺伝子をコードする修飾型pET32ベクター:チオレドキシンタグ/Hisタグ/Sタグ/トロンビン切断部位/MaSp1遺伝子を用いて、(X−REP−CTタイプの)融合タンパク質として発現させた。
種々のMaSp1構築物を含むpET32発現ベクターで、大腸菌BL21(DE3)細胞(Merck Biosciences)を形質転換した。細胞を、アンピシリンを含むLuria−Bertani培地中、30℃で、OD600が1.0〜1.5になるまで培養し、IPTGで誘導し、さらに室温で4時間インキュベートした。細胞を遠心分離により採取し、20mM Tris−HCl、pH8.0、20mMイミダゾール、および0.5M NaCl中でDNAseIおよびリゾチームによって溶解させ、さらにNi−NTAアガロース(Qiagen,West Sussex,UK)のHisタグアフィニティクロマトグラフィによって精製した。結合した融合タンパク質を、20mM Tris−HCl中200mMイミダゾール、pH8.0、および0.5M NaClでNi−NTAカラムから溶出させ、20mM Tris−HCl、pH8.0に対して透析した。得られた融合タンパク質は、クマシー染色したSDSポリアクリルアミドゲルによる判定で>90%の純度であり、20mM Tris−HCl、pH8.0中で可溶性であった。このプロセスにより、およそ40mg/l培養物の融合タンパク質を得、これは数週間の間有意な沈降をみせずに安定であった。
別の実験において、融合タンパク質を、His6/チオレドキシン/His6/トロンビン切断部位/MaSp1タンパク質として、T7プロモーターの制御下に対応する遺伝子およびカナマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドから発現させた。
【0105】
実施例8 MaSp1タンパク質からの繊維の形成
実施例7から得た融合タンパク質からのタグの切断は、20mM Tris−HCl、pH8中、室温で非常に穏やかに揺動させながら、1:1000(w/w)のトロンビン:融合タンパク質比で行った。トロンビン切断を、SDS−PAGEによる判定して30〜60分以内に完了させた。生じたMaSp1タンパク質(図2B、配列番号9〜13)は、自発的に、様々な程度の巨視的な繊維へと重合した。表1を参照のこと。これらの繊維は、最初に、水/空気の界面で形成させた。その形成は、インキュベーション約1時間で肉眼で観察できるようになり(図4A、4Bを参照のこと)、約5時間以降はさらなる繊維の成長が生じなくなった。6Gly/Ala−CThyb繊維は最大約2cm長、5Gly/Ala−CTnat繊維は≧10cm長であった。実験を繰り返すことにより、≧20cmの5Gly/Ala−CTnat繊維(図4Cを参照のこと)を、さらには≧2m長に至るものすら獲得した。繊維形成は、インキュベーション約10分で肉眼で観察することができるようになった。
繊維を単離し、緩衝液で洗浄し、その後にN末端アミノ酸配列分析に供したところ、MaSp1タンパク質の配列のみが示された。これにより、切断されたタグがこの繊維上に存在しないことが示された。
【0106】
実施例9 MaSp1タンパク質繊維の分析
A.引張強度の測定
実施例8の6Gly/Ala−CThyb(配列番号13)および5Gly/Ala−CTnat(配列番号9)繊維の引張強度を以下の通りに決定した。引張強度測定用のより短い型(1〜2cm)の6Gly/Ala−CThyb繊維を扱うために、それらを15%グリセロール水溶液中で軽くインキュベートした後、風乾させた。より長い型(10cm)の5Gly/Ala−CTnat繊維は未処理のままか、15%グリセロール中で軽くイン
キュベートするか、または75%メタノール中で手で引っ張った(drawn by hand)後、風乾させた。風乾させた繊維の引張強度は、Zwick Material Testerにおいてこれらの繊維を10mm/分の速度で引っ張ることによって測定した。表1を参照のこと。
6Gly/Ala−CThyb(配列番号13)製のグリセロール処理・風乾した1〜2cm長の繊維の引張強度は約2MPaであり、5Gly/Ala−CTnat(配列番号9)製の10cm繊維の強度は4〜5MPaであった。脱水溶媒であるメタノール中で引っ張った後に風乾させた10cm長の5Gly/Ala−CTnat繊維は、同じタイプのグリセロール処理繊維よりも若干小さい2〜3MPaの引張強度を示した。ここでの最高の引張強度は、さらなる処理を施さずに風乾させた10cm長の5Gly/Ala−CTnat繊維において見られた10MPaであった。
引張強度の範囲(2〜10MPa)は、再生されたクモ糸繊維(2〜230MPa)について報告されている下限値に匹敵するものであった。最長の、自発的に形成される繊維は、5Gly/Ala−CTnat構築物から得られ、このような風乾した繊維もまた、最高の引張強度を示した。これは、12〜15残基というポリAlaセグメントが6Gly/Ala−CThybにおける8〜14残基のAlaセグメントに対して長く、それによって前者のタンパク質において結晶βシートコンホメーションの比率が高くなったことに起因する可能性がある。
【0107】
【表2】

【0108】
B.走査電子顕微鏡
6Gly/Ala−CThybおよび5Gly/Ala−CTnat繊維の微視的構造を、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて分析した(図5)。簡単に説明すると、サンプルをSEMスタブ上に適用し、金およびパラジウムの6nm層で真空コーティングした。検体を、LEO 1550 FEG SEMにおいて10kVの加速電圧を用いて観察および撮影した。
これにより、単一の繊維の直径が10〜30μmであること、および個々の繊維がかなり均一な直径を示すことが明らかになった(図5aは6Gly/Ala−CThyb、配列番号13を示す)。巨視的な繊維に加えて、ゲル様の粒子も見られた。このような6Gly/Ala−CThybの粒子をSEMスタブ上で直接的に風乾させた後、およそ10〜15μm径の繊維が見られた(図5b、c)。75%メタノール中で引っ張り、風乾させた5Gly/Ala−CTnat(配列番号9)の巨視的な繊維の直径は60〜120μmであり、それらは、整列した繊維を数本含んでいるようであった(図5d〜f)。風乾前に撚った繊維(図5e)、繊維の端部(図5f)。
【0109】
C.円偏光二色性分光法
実施例8において調製された、6Gly/Ala−CThybタンパク質(配列番号13)または5Gly/Ala−CTnat(配列番号9)からなる繊維を、20mMリン酸緩衝液、pH7で洗浄し、2%SDSを含む同一緩衝液に懸濁した。250〜190nmの円偏光二色性スペクトルを、22℃で、0.1cm光路長の石英キュベットにおいて、Jasco J−810分光偏光計を用いて記録した。スキャン速度は50nm/分であり、応答時間は2秒であり、取得インターバルは0.1nmであり、帯域幅は1nmであった。
図6に示されるスペクトルは、6Gly/Ala−CThybタンパク質(配列番号13)の繊維の三回のスキャンの累積である。これは、逆平行βシート構造に特有の特徴である220nmにおける最小値および195nmにおける最大値を示している。5Gly/Ala−CTnatの繊維についても非常に似通ったスペクトルが得られた(データは示さず)。つまり、自発的に形成された繊維は、ネイティブのおよび再生されたクモ糸繊維と類似の形態および構造を示した。
【0110】
実施例10 組換えクモ糸の生体適合性
クモ糸繊維を生物医学的用途で使用するのが望ましいので、この繊維の生体適合性を、組換え生成されたクモ糸の効果を二つの異なる細胞型を用いて調査することによって評価した。
MaSp1タンパク質5Gly/Ala−CTnat(配列番号9)を、実施例7〜8に記載されるようにして細菌中で発現させた。精製されたタンパク質を使用して、長さ>10cm、さらには長さ>20〜200cmで、直径約100μmの人工クモ糸繊維を製造した。
【0111】
A.胚性マウスマスト細胞
胚性(12.5日)マウスマスト細胞(IL−8およびマスト幹細胞因子を用いて8週間インビトロ培養した)を、2つの異なる細胞密度、高い方の密度は低い方の密度の約4倍、で播種した。これらの細胞はプラスチック表面に付着しないが、懸濁物中で培養した。各々約0.5cm長のクモ糸繊維片をウェルに加えた。マスト細胞を、クモ糸繊維の存在下または非存在下で3日間インキュベートし、その後、生存細胞および死滅細胞をトリパンブルー染色後に計数した(図7)。バーは標準誤差平均を伴うn=2の平均値を示し、各サンプルを三連で計数した。
マスト細胞は、クモ糸繊維の存在による影響を受けなかった。三日間の培養後、クモ糸繊維の非存在下で培養したネガティブコントロールと比較して、細胞の死滅または増殖に関して有意な差が見られなかった。
【0112】
B.ヒト胎児腎臓(HEK)293細胞
約0.5cm長のクモ糸繊維片を、少量の緩衝液から乾燥させることによって、6ウェルマイクロタイタープレートの底部に吸着させた。この繊維は、細胞培養培地を加えても剥がれなかった。次いで、ヒト胎児腎臓(HEK)293細胞を、種々の細胞密度でプレーティングし、計6日間培養した。HEK−293細胞は、プラスチックセルの表面に付着し、付着状態で成長した。この繊維付近で成長したHEK−293細胞の能力およびこの繊維に対する細胞の物理的付着を検討した。
HEK−293細胞は、クモ糸繊維を含むウェルにおいて通常通り付着および増殖した(光学顕微鏡下での観察)。この細胞は繊維の縁に非常に近いところで成長し、かつ部分的に剥がれた繊維の下でさえも成長したようであった(図8)。7日後、繊維をプラスチック表面から注意深く剥がしたところ、細胞群がこの繊維に物理的に付着していることがはっきりと見てとれた。この繊維は、図の右上半分を覆っている。HEK293細胞は、繊維の縁に付着していることが確認され、かつ繊維の下でさえも成長していた。
検討した二つの異なる細胞型(マスト細胞、HEK−293)は、組換えクモ糸の存在による影響を、比較的多量のクモ糸の存在下であっても受けなかった。このことは、試験した人工クモ糸繊維が、非毒性であり生体適合性である点で、ユープロステノプス オーストラリスの野生型しおり糸と類似することを示している。従って人工クモ糸繊維は生物医学的用途に適しているようである。
【0113】
実施例11 MaSp1タンパク質繊維の機械的特性および構造
5Gly/Ala−CTnat(配列番号9)製の繊維の機械的特性を、行った引張試験を用いて試験し、応力−ひずみ曲線を作製した(図9)。引張り特性は、Zwick Roell Z2.5物性試験装置(Zwick,Ulm,Germany)を用いて特徴付けた。試験は、10mm/分の負荷速度を用いて、周囲条件の大気(20℃および52%相対湿度)の下で行った。繊維片を緩衝液から直接移し、マウントし、二回の延伸−弛緩サイクルに供した。引張試験に適した均一なクモ糸を作製するため、延伸−弛緩サイクルを用いて繊維を引き延ばした。まず、最大0.1Nの力で引っ張ることによって繊維を引き延ばした。弛緩させた後、これらに0.25Nの力がかかるまでさらに引っ張った。
この処理により、Mitutoyo IDC−112B機器(Mitutoyo Corp,Tokyo,Japan)を用いる高さ測定で決定して、直径およそ80μmの引き延ばされた均一な繊維を得、これを以下の通りに走査電子顕微鏡(SEM)により確認した。延伸−弛緩サイクルの前後に、繊維片をSEMスタブ上に適用し、一晩風乾させた。このサンプルを、金およびパラジウムの6nm層で真空コーティングした。検体を、LEO 1550 FEG顕微鏡(Carl Zeiss,Oberkochen,Germany)において10kVの加速電圧を用いて観察および撮影した。
引き延ばした繊維を切断して小片とし、その端部を接着剤(Loctite 420,Loctite,Goeteborg,Sweden)で段ボール紙の間に固定した。次いで、繊維サンプルを物性試験装置のグリップに固定し、破れるまで伸ばした。事前に引き延ばしておいた繊維の初期断面積を用い、円形の断面と仮定して応力−ひずみ曲線を作製した。応力値をこの繊維の初期断面積に対して標準化した。ひずみは、dL/L0(L0はこの繊維の初期の長さでありdLは繊維の長さの変化率である)に対応する。図9では、5Gly/Ala−CTnat(配列番号9)の二倍に引き延ばした繊維(double drawn fibers)の三つの異なるサンプルについての応力−ひずみ曲線が示されており、これらの引張強度はおよそ0.2GPaであることが測定された。
この繊維の微視的構造をSEMにより分析した(図10)。自発的に形成された繊維は、均一で平らな外観および数百マイクロメートルまでの幅を有し、高さは数十マイクロメートルと測定された(図10a、b)。
繊維を延伸−弛緩サイクルに供した後のそれらの断面は、フィブリルが緊密に整列したコンパクトなサブ構造を有するより丸みを帯びた形状を有していた(図10c〜f)。切断面または破損面の外見(図10e、f)は、生産された繊維の緊密さをさらに証明するものであった。
結論として、自発的に形成された繊維は、紡糸せずとも、ネイティブのまたは再生されたクモ糸繊維と類似の形態および機械的特性を示す。
【0114】
実施例12 Spidroinタンパク質バリアント
クモ糸の優れた引張強度には、強力な分子間相互作用が寄与しているものと考えた。従って、繊維内での分子間共有結合性架橋を可能とするミニチュアスピドロインのバリアントを作製した。二つの異なる変異型スピドロインタンパク質を、部位特異的変異誘発によりそれぞれ第一(配列番号14、36位および37番目)ならびに第四(配列番号15、128位および129番目)アラニンブロックに二つのシステイン残基を導入することによって構築した。これらのバリアントを発現させ、実施例5〜6において構築された遺伝子について実施例7〜8に記載されているのと同じプロトコルを用いて単離した。これらのバリアント(配列番号14〜15)は、5Gly/Ala−CTnat(配列番号9)と同じ様式で繊維を形成した。
C末端ドメインの二量体化の重要性を解明するため、C末端ドメインのシステイン残基をセリン残基に交換したバリアントを構築した(配列番号16、222番目)。しかし、このバリアント(配列番号16)は、5Gly/Ala−CTnat(配列番号9)と同じ様式で繊維を形成した。
【0115】
実施例13 発現されたスピドロインタンパク質からのLPSおよび他の発熱物質の除去
所望のスピドロイン融合タンパク質を発現する大腸菌細胞を以下の緩衝液:
A:100mM Tris、pH8、
B:5mM CaCl2、100mM Tris、pH8、
C:10mM EDTA、100mM Tris、pH8、
D:100mM Tris、pH8、および
E:100mM Tris、pH 8
で洗浄した。
その後、細胞を、リゾチームおよびDNaseIを補充した20mM Tris、pH8に溶解させた。次いで、このタンパク質サンプルをNi−セファロースマトリクス上にロードし、20mM Tris、10〜100mMイミダゾール、pH8で洗浄した後、20mM Tris、100〜300mMイミダゾール、pH8で溶出した。関係のあるフラクションをプールし、これを20mM Tris、pH8に対して一晩透析した。次いで、このタンパク質サンプルに100μM CaCl2を補充し、最後に予め20mM
Tris、100μM CaCl2、pH8で平衡化させておいたEndoTrap Blueカラムを通した。このようにして、IPTおよびLAL動態アッセイで判定して発熱物質含量が1EU/mgタンパク質のタンパク質サンプルを獲得することができた。
次いで、トロンビンを1:1000(w/w)のトロンビン:融合タンパク質比で用いて、この融合タンパク質をタンパク質分解により切断し、(上記のように)繊維の形成を誘導した。この繊維を20mM Tris、pH8で三回、最後に水で三回洗浄した。これにより、発熱物質含量が0.25EU/mg繊維の繊維を得た。
【0116】
この繊維の構造上の特徴は、125℃および1.5バールで10分間のオートクレーブ処理によって影響を受けず、この素材を効果的に滅菌することができた。この繊維は化学的に安定であり、8M尿素、6M GuaHCl、または純粋なHAcのいずれによっても溶解させることができなかった。しかし、この繊維は、純粋なHFIPまたはギ酸によって溶解させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】ユープロステノプス オーストラリス MaSp1タンパク質の反復部分、すなわち配列番号3内のセグメントのアラインメントである。
【図2】Aは、ユープロステノプス オーストラリス MaSp1タンパク質の反復部分(配列番号3)の概略的な、予測される構造的構成を表す。Bは、実施例5〜8に従い構築されたスピドロインタンパク質(配列番号9〜13)の概略的な、予測される構造的構成を表す。
【図3】MaSp1およびMaSp2のC末端領域のアラインメントであり、それらの保存的性質を表している。
【図4】実施例5〜8に従い構築されたスピドロインタンパク質から形成された繊維の巨視的な外観を表す。(A)6Gly/Ala−CThybタンパク質(配列番号13)繊維、バーは0.5cm;(B)5Gly/Ala−CTnat(配列番号9)タンパク質繊維、バーは1cm;(C)5Gly/Ala−CTnat(配列番号9)タンパク質繊維、バーは1cm。
【図5】実施例5〜8に従い構築されたスピドロインタンパク質から形成された繊維の走査電子顕微鏡(SEM)写真を示す。6Gly/Ala−CThyb(配列番号13)製の一本の繊維(a)およびゲル相(b、c)。5Gly/Ala−CTnat(配列番号9)の繊維を75%メタノール中で引っ張り、風乾させ、SEMスタブに適用した(d、e、f)。風乾前のねじれた繊維(e)、繊維の端部(f)。
【図6】6Gly/Ala−CThyb(配列番号13)繊維の円偏光二色性(CD)スペクトルを示す。
【図7】マウスマスト細胞の毒性試験の結果を表し、インビトロ生産されたクモ糸繊維の存在下または非存在下での三日間の培養後の生存細胞および死滅細胞の数を示している。
【図8】生体適合性研究においてインビトロ生産されたクモ糸繊維にさらした後のHEK293細胞の図である。
【図9】5Gly/Ala−CTnat(配列番号9)製の二倍に引き延ばされた繊維の引張強度を示す応力−ひずみ曲線である。
【図10】5Gly/Ala−CTnat(配列番号9)製の組換え繊維のSEM顕微鏡写真を示す。a、b、自発的に形成された繊維。拡大画像(b)は、フィブリルの細部構造を示す。突出した小さなフィブリル(矢印)は、約300nmの幅を有する。c〜f、二回の延伸−弛緩サイクル後の繊維。cおよびdは同じ繊維を異なる倍率で示している。eは切断繊維面を示し、fは引張試験後の破損箇所を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
150〜420アミノ酸残基からなり、式REP−CT
[式中、
REPは、80〜300アミノ酸残基を有するタンパク質フラグメントであり、ここで、該フラグメントは、L(AG)nL、L(AG)nAL、L(GA)nL、L(GA)nGL
(ここで、
nは4〜8の整数であり;
各個々のAセグメントは、8〜18アミノ酸残基のアミノ酸配列であり、アミノ酸残基の0〜3個がAlaではなく、残りのアミノ酸残基がAlaであり;
各個々のGセグメントは、12〜30アミノ酸残基のアミノ酸配列であり、アミノ酸残基の少なくとも40%がGlyであり;かつ
各個々のLセグメントは、0〜20アミノ酸残基のリンカーアミノ酸配列である)
の群から選択され;そして
CTは、70〜120アミノ酸残基を有するタンパク質フラグメントであり、このフラグメントは大瓶状腺スピドロインタンパク質由来のC末端フラグメントである]
により定義されることを特徴とする、単離された大瓶状腺スピドロインタンパク質。
【請求項2】
各個々のAセグメントが、配列番号3のアミノ酸残基7〜19、43〜56、71〜83、107〜120、135〜147、171〜183、198〜211、235〜248、266〜279、294〜306、330〜342、357〜370、394〜406、421〜434、458〜470、489〜502、517〜529、553〜566、581〜594、618〜630、648〜661、676〜688、712〜725、740〜752、776〜789、804〜816、840〜853、868〜880、904〜917、932〜945、969〜981、999〜1013、1028〜1042、および1060〜1073;配列番号9のアミノ酸残基31〜42、61〜75、90〜104、122〜135、および153〜171;配列番号13のアミノ酸残基12〜25、46〜60、75〜88、112〜119、150〜158、および173〜180;配列番号14のアミノ酸残基31〜42;ならびに配列番号15のアミノ酸残基122〜135の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有する、請求項1に記載の単離されたタンパク質。
【請求項3】
各個々のAセグメントが、請求項2に記載のアミノ酸配列の群から選択されるアミノ酸配列である、請求項2に記載の単離されたタンパク質。
【請求項4】
各個々のGセグメントが、配列番号3のアミノ酸残基20〜42、57〜70、84〜106、121〜134、148〜170、184〜197、212〜234、249〜265、280〜293、307〜329、343〜356、371〜393、407〜420、435〜457、471〜488、503〜516、530〜552、567〜580、595〜617、631〜647、662〜675、689〜711、726〜739、753〜775、790〜803、817〜839、854〜867、881〜903、918〜931、946〜968、982〜998、1014〜1027、1043〜1059、および1074〜1092;配列番号5〜7;配列番号9のアミノ酸残基11〜30、43〜60、76〜89、105〜121、および136〜152;ならびに配列番号13のアミノ酸残基1〜11、26〜45、61〜74、89〜111、120〜149、および159〜172の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の単離されたタンパク質。
【請求項5】
各個々のGセグメントが、請求項4に記載のアミノ酸配列の群から選択されるアミノ酸配列と同一である、請求項4に記載の単離されたタンパク質。
【請求項6】
CTフラグメントが、配列番号8に対して少なくとも50%の同一性、または配列番号4、配列番号9のアミノ酸残基172〜269、配列番号13のアミノ酸残基181〜276、および配列番号16のアミノ酸残基172〜269からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の単離されたタンパク質。
【請求項7】
CTフラグメントが、請求項6に記載のアミノ酸配列の群から選択されるアミノ酸配列である、請求項6に記載の単離されたタンパク質。
【請求項8】
大瓶状腺スピドロインタンパク質である第一タンパク質フラグメント、および第二タンパク質フラグメントからなる単離された融合タンパク質であって、第二タンパク質フラグメントが融合パートナーおよび切断剤認識部位を含み、ここで第一タンパク質フラグメントが切断剤認識部位を介して融合パートナーに結合されることを特徴とする、単離された融合タンパク質。
【請求項9】
X−REP−CTおよびREP−CT−X
(式中、
REPおよびCTは請求項1〜7のいずれか一項に記載のタンパク質フラグメントであり;そして
Xは融合パートナーおよび切断剤認識部位を含むタンパク質フラグメントであり;
ここで、タンパク質フラグメント結合体REP−CTは切断剤認識部位を介して融合パートナーに結合される)
の群から選択される、単離された融合タンパク質。
【請求項10】
(i)請求項8または9に記載の融合タンパク質の液体媒体中溶液を供給する工程、
(ii)融合タンパク質の切断剤認識部位での切断を達成するのに適した切断剤を上記液体媒体に加え、それによって大瓶状腺スピドロインタンパク質を得る工程;および、場合により
(iii)工程(ii)において得られた大瓶状腺スピドロインタンパク質を上記液体媒体から単離する工程、
を含む、請求項1〜7のいずれか一項に規定された大瓶状腺スピドロインタンパク質の生産方法。
【請求項11】
(i)請求項8または9に記載の融合タンパク質の液体媒体中溶液を供給する工程、
(ii)融合タンパク質の切断剤認識部位での切断を達成するのに適した切断剤を上記液体媒体に加え、それによって大瓶状腺スピドロインタンパク質を得る工程;
(iii)工程(ii)において得られた大瓶状腺スピドロインタンパク質を液体媒体中で重合させる工程;および、場合により
(iv)工程(iii)において得られたポリマーを上記液体媒体から単離する工程、を含む、請求項1〜7のいずれか一項に規定された大瓶状腺スピドロインタンパク質のポリマーの生産方法。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の大瓶状腺スピドロインタンパク質をコードする核酸配列またはその相補的核酸配列を含む、単離されたポリ核酸分子。
【請求項13】
請求項8または9に記載の融合タンパク質をコードする核酸配列またはその相補的核酸配列を含む、単離されたポリ核酸分子。
【請求項14】
(i)請求項13に記載のポリ核酸分子を適した宿主において発現させる工程;および
(ii)工程(i)において得られた可溶性融合タンパク質を単離する工程、
を含む、請求項8または9に記載の可溶性融合タンパク質の生産方法。
【請求項15】
(i)請求項13に記載のポリ核酸分子を適した宿主において発現させる工程;
(ii)工程(i)において得られた可溶性融合タンパク質を単離する工程;
(iii)工程(ii)において得られた上記可溶性融合タンパク質の液体媒体中溶液を供給する工程、
(iv)融合タンパク質の切断剤認識部位での切断を達成するのに適した切断剤を上記液体媒体に加え、それによって大瓶状腺スピドロインタンパク質を得る工程;および、場合により
(v)工程(iv)において得られた大瓶状腺スピドロインタンパク質を上記液体媒体から単離する工程、
を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の大瓶状腺スピドロインタンパク質の生産方法。
【請求項16】
(i)請求項13に記載のポリ核酸分子を適する宿主において発現させる工程;
(ii)工程(i)において得られた可溶性融合タンパク質を単離する工程;
(iii)工程(ii)において得られた上記可溶性融合タンパク質の液体媒体中溶液を供給する工程、
(iv)融合タンパク質の切断剤認識部位での切断を達成するのに適した切断剤を上記液体媒体に加え、それによって大瓶状腺スピドロインタンパク質を得る工程;
(v)工程(iv)において得られた大瓶状腺スピドロインタンパク質を液体媒体中で重合させる工程;および、場合により
(vi)工程(v)において得られたポリマーを上記液体媒体から単離する工程、
を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の大瓶状腺スピドロインタンパク質のポリマーの生産方法。
【請求項17】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の大瓶状腺スピドロインタンパク質のポリマー。
【請求項18】
請求項11および16のいずれか一項に記載の方法により得られる、大瓶状腺スピドロインタンパク質のポリマー。
【請求項19】
融合パートナーおよび切断剤認識部位を含むタンパク質フラグメントの、切断剤認識部位を介してクモ糸タンパク質フラグメントに結合された上記タンパク質フラグメントを含む融合タンパク質を生産するための使用。
【請求項20】
配列番号1、配列番号2〜16をコードする核酸配列、またはその相補的核酸配列からなる群より選択される核酸配列を含む、単離されたポリ核酸分子。
【請求項21】
クモ糸タンパク質をコードする非天然型遺伝子を生産するための、請求項20に記載の単離されたポリ核酸分子の使用。
【請求項22】
工程(ii)において得られた大瓶状腺スピドロインタンパク質を液体媒体中で重合させる工程(iii)がさらに、該液体媒体と、気相、液相、および固相からなる群より選択される別の相との間の界面を提供することを含み、該重合が該界面または界面付近の領域で開始される、請求項11に記載の方法。
【請求項23】
工程(iv)において得られた大瓶状腺スピドロインタンパク質を液体媒体中で重合させる工程(v)がさらに、該液体媒体と、気相、液相、および固相からなる群より選択される別の相との間の界面を提供することを含み、該重合が該界面または界面付近の領域で開始される、請求項16に記載の方法。
【請求項24】
液体媒体が水性媒体であり、別の相が空気および水不混和性の有機溶媒からなる群より選択される、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
可溶性融合タンパク質を単離する工程(ii)が、LPSおよび他の発熱物質の除去を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項26】
可溶性融合タンパク質を単離する工程(ii)、および場合により大瓶状腺スピドロインタンパク質を単離する工程(v)が、LPSおよび他の発熱物質の除去を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項27】
LPSおよび他の発熱物質の含量が1 EU/mgタンパク質またはそれ未満である、請求項8または9に記載の単離された融合タンパク質。
【請求項28】
LPSおよび他の発熱物質の含量が1 EU/mgタンパク質またはそれ未満である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の単離された大瓶状腺スピドロインタンパク質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2009−521921(P2009−521921A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−548463(P2008−548463)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際出願番号】PCT/SE2006/001505
【国際公開番号】WO2007/078239
【国際公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(508194663)スパイバー・テクノロジーズ・アーベー (1)
【Fターム(参考)】