説明

クラック剤含有スラリー組成物

【課題】スラリー組成物を提供する。
【解決手段】クラック剤を含有する本スラリー組成物は、ペースト1.5〜4.0重量%と、油1.0〜3.0重量%と、界面活性剤0.2〜0.5重量%と、軟化剤0.1〜0.5重量%と、クラック剤0.005〜5.0重量%とを含む。ガラス繊維ヤーン用の既知の原スラリーの組成と比較して、クラック剤を含有する本スラリー組成物は、ガラス繊維布の糊抜き効率を改善すること、第2糊抜きプロセスに必要な温度を下げること、糊抜き時間を短縮すること、強熱減量を低減すること、及びガラス繊維布の強度を向上させることを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリー組成物、特に、クラック剤を含有しガラス繊維の糊抜き効率を改善するのを助けるスラリー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維粗紡を製造するための従来のプロセスは、主に3つの工程、即ち、ガラス溶融工程、溶融紡糸工程、及び撚る工程を含む。溶融紡糸では、紡糸、糊付け、及び巻くの各ステップが実行される。ここで溶融塊は白金ブッシングの紡糸口金を通過し、次に重力により下方へ流れ水霧中で直ちに冷却された後、ガラス繊維ヤーンにするために糊付け装置で従来のスラリーを表面に含浸させる(以下、「糊付け」と称する)。その後、集束機が数百のガラス繊維糸を束ねてストランドにし、これらのストランドが高速巻取機により巻き取られてガラス繊維ケーキができる。
【0003】
ガラス繊維ヤーンのための潤滑剤と結合剤の両方として働く上記スラリーは、主にペースト、油、連結剤、界面活性剤、静電防止剤、酸化防止剤、色素、及び水からなる。
【0004】
スラリーを表面に含浸させた糊付ガラス繊維ストランドは、繊維間の摩耗及び摩滅から保護されている。従って、ガラス繊維粗紡を製造する間、又はガラス繊維ストランドでできたラップ及び布を織る間、スラリーはガラス繊維ストランドを覆い、摩擦と壊れたヤーンを減らすのを助けるので、織る効率と布品質とを改善する。
【0005】
布が完成した時、ガラス繊維を覆うスラリーはその役目を終え、次の布処置の前に除去される(以下、「糊抜き」と称する)必要があり、これによりガラス繊維が本質的に持つべき高い物理的強度を保証する。
【0006】
ガラス繊維布製造において、高温糊抜きは、2つの糊抜きプロセスにより実行される。第1糊抜きプロセスは、布のスラリーの80〜90%を360〜380℃で40〜90m/分の速度で焼き尽くす連続処理である。第1糊抜きプロセスの後、ガラス繊維布をバッチで第2糊抜き炉に入れ残りのスラリーを除去するので、布の強熱減量(LOI)は0.05%以下で実質的に無視できるほどに低減される。しかし、第2糊抜きプロセスは360〜380℃もの高温で36〜65時間実行される必要があり、エネルギーをかなり消費し、得られるガラス繊維布の強度に悪影響がありうる。
【0007】
ガラス繊維ヤーンのためのスラリーに関する幾つかの発明が先行特許文献に開示されているが、スラリーにクラック剤を加えることについては記載されていない。
【0008】
例えば、特許文献1は、澱粉、ワックス、可塑剤、乳化剤、陽イオン潤滑剤、及び湿潤剤からなる熱可塑性材料をガラス繊維に塗布するガラス繊維の結束プロセスを提案する。
【0009】
特許文献2は、ポリビニルアルコール、第2膜形成ポリマー、鯨蝋、12〜32炭素原子を有する直鎖脂肪酸及びその水酸化誘導体、及びこれらの混合物からなるガラス繊維の糊付け組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4932108号明細書
【特許文献2】米国特許第4530876号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
この事実に鑑みて、ガラス繊維ヤーンの既知のスラリーの特性を改善し乗り越えるために、本発明はガラス繊維糊付けに使用するスラリー組成物であって、繊維粗紡から織られたガラス繊維布の糊抜き効率を向上させるためにクラック剤を含有するスラリー組成物を開示する。その効果は、ガラス繊維布の第2糊抜きプロセスに必要な温度を下げること、糊抜き時間を短縮すること、強熱減量(LOI)を0.05%以下に低減してエネルギーを節約すること、及びガラス繊維布の強度を10〜50%向上させることを含む。
【0012】
本発明のスラリー組成物は水含有スラリー液の4.0〜8.0重量%を占める固形物であり、下記の成分:
1.該スラリー液の1.5〜4.0重量%を占めるペーストと、
2.該スラリー液の1.0〜3.0重量%を占める油と、
3.該スラリー液の0.2〜0.5重量%を占める界面活性剤と、
4.該スラリー液の0.1〜0.5重量%を占める軟化剤と、
5.該スラリー液の0.005〜5.0重量%を占めるクラック剤と
を含み、該クラック剤は0.005〜5重量%の金属酸化物と、0〜5重量%の過酸化物と、0〜5重量%の増感剤とを含む。
【0013】
ガラス繊維ヤーンの既知のスラリーの組成と比較して、本発明はクラック剤をスラリー組成物に加え、ガラス繊維布の糊抜き効率を改善する、第2糊抜きプロセスに必要な温度を下げる、糊抜き時間を短縮する、強熱減量を低減する、及びガラス繊維布の強度を向上させるという利点をもたらす。特に、既知の手法が、強熱減量を0.05%以下に限定した場合、360〜380℃で36〜65時間のか焼(calcination)を必要とするのに対して、クラック剤が提供する触媒作用によって、第2糊抜きプロセスはたった300〜380℃、12〜60時間を必要とするだけである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明はクラック剤を含有しスラリー液の4.0〜8.0重量%の固形成分であるスラリー組成物を開示する。開示されるスラリー組成物は下記の成分を含む。
1.スラリー液の1.5〜4.0重量%を占め、澱粉、ビニル乳剤、及び重縮合乳剤からなるグループから選択された1つであるか又は2つ以上の混合物であるペースト。該澱粉はトウモロコシ、小麦、又はジャガイモ由来であってよく、該ビニル乳剤はポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、又はポリビニルプロプリオネートであってよく、該重縮合乳剤はエポキシポリマーまたはポリエステルポリマーであってよく、該ペーストはトウモロコシ澱粉及び/又はジャガイモ澱粉であるのが好ましい。
2.スラリー液の1.0〜3.0重量%を占め、硬化トウモロコシ油、大豆油、屍蝋、及び植物油からなるグループから選択された1つであるか又は2つ以上の混合物である油。該油は硬化大豆油及び/又は屍蝋であるのが好ましい。
3.スラリー液の0.2〜0.5重量%を占め、ポリエチレングリコールソルビタン及びポリエチレンオキシドからなるグループから選択された1つであるか又はこれらの混合物である界面活性剤。ポリエチレングリコールソルビタンがより好ましい。
4.スラリー液の0.1〜0.5重量%を占め、アミン、ビニルアミンオキシド、第4級アンモニウム塩、及び陽イオン誘導体からなるグループから選択された1つであるか又は2つ以上の混合物である軟化剤。該アミンは好ましくは第一アミンであり、該陽イオン誘導体は好ましくはアミドである。
5.スラリー液の0.005〜5.0重量%を占め、澱粉のクラック発生を容易にするよう働き、下記を含有するクラック剤。
a)金属酸化物0.005〜5重量%、
b)過酸化物0〜5重量%、及び
c)増感剤0〜5重量%。
【0015】
本発明のスラリー組成物は、幾つかの特定の利点を提供する上記クラック剤を特徴とする。
第1に、金属酸化物はナノサイズにしてスラリーに加えられた時、非常に活性であるので、スラリー内の界面活性剤と軟化剤とのクラック発生開始温度を効果的に下げる働きをし、所望の低温クラック発生を実現する。
採用される金属酸化物は、酸化アルミニウム、二酸化シリコン、酸化ゲルマニウム、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化銅、酸化コバルト、酸化鉄、酸化マンガン、酸化クロム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、及び酸化ガリウムからなるグループから選択された1つであるか又は2つ以上の混合物であるか、又は上記のグループから選択された1つ以上を高温で焼成または共焼成することで形成される焼結物であってよい。それらの主粒子径は、相対的に大きな全反応面積を提供し、これにより低温クラック発生を実現するよう3〜200nmであるのが好ましい。
【0016】
第2に、スラリー内の過酸化物は、ナノサイズの金属酸化物と共に低温クラック発生を実現するだけでなく、スラリーがひび割れるのを促進する遊離基を生成して高温糊抜きプロセス後のガラス繊維布の最終残留スラリー量を最小にするよう働く。該過酸化物は、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(tert‐ブチルペルオキシ)ヘキサン、過酸化ジ‐t‐ブチル、過酸化ジクミル、過酸化ジベンゾイル、過酸化t‐ブチルクミル、及びtert‐ブチルペルオキシベンゾアートからなるグループから選択された1つであるか又は2つ以上の混合物であってよい。
【0017】
ここで、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(tert‐ブチルペルオキシ)ヘキサンはC16344の分子式を有し、トリゴノックス101として商業上知られている。
過酸化ジ‐t‐ブチルはC8182の分子式を有し、トリゴノックスBとして商業上知られている。
過酸化ジクミルはC18222の分子式を有し、DCPと略称される。
過酸化ジベンゾイルはC14104の分子式を有し、BPOと略称される。
過酸化t‐ブチルクミルはC13202の分子式を有し、TBCPと略称される。
tert‐ブチルペルオキシベンゾアートはC11143の分子式を有し、TBPBと略称される。
【0018】
第3に、このスラリーは増感剤とナノサイズの金属酸化物とを含有するか、又は更に過酸化物を含有することで、低温クラック発生を実現する。また、共振構造を特徴とする増感剤は共振によりエネルギーをスラリーに伝えて、スラリーがひび割れし高温糊抜きプロセス後のガラス繊維布の最終残留スラリー量を最小にするのを助ける。増感剤は、4,4’‐アゾビス(4‐シアノペンタン酸)、2,2‐アゾビス(2,4,4‐トリメチルペンタン)、N‐フェニルグリシン、テトラエチルミヒラーズケトン、及び1,7‐ビス(9‐アクリジニル)ヘプタンからなるグループから選択された1つであるか又は2つ以上の混合物であってよい。
【0019】
ここで、4,4’‐アゾビス(4‐シアノペンタン酸)はC121644の分子式を有し、V−501として商業上知られている。
2,2‐アゾビス(2,4,4‐トリメチルペンタン)はC16342の分子式を有し、VR−110またはアゾ‐tert‐オクタンとして商業上知られている。
N‐フェニルグリシンはC89NO2の分子式を有し、NPGと略称される。
テトラエチルミヒラーズケトンはC21282Oの分子式を有し、4,4’‐ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンとしても知られている。
1,7‐ビス(9‐アクリジニル)ヘプタンはC33302の分子式を有し、CHEMCURE‐96として商業上知られている。
【0020】
以下、本発明のスラリー組成物の特徴を示すために幾つかの実施例と比較例を説明する。しかし、これらは本発明を限定するよう全く意図されていない。
【0021】
実験において、実施例及び比較例のスラリー組成物をガラス繊維布に含浸させるために使用した。特定の試験を行いガラス繊維布の糊抜きの強熱減量(LOI%)を測定した。最後に、ASTM‐D638試験を行いガラス繊維布の引張り強度のMD/CD比を評価した。
1.実施例1〜7と比較例1〜4のスラリー組成物を表1に示すように調製した。
2.ガラス繊維布に調製したスラリーを、吸収を容易にするためにローラーを使用しながら含浸させた。
3.吸収後、ガラス繊維を160℃で1分間ベークした。
4.該ガラス繊維を正方形の試料に折り畳んだ。
5.これらの試料をそれぞれ380℃で55時間、380℃で42時間、又は350℃で55時間か焼するために高温炉に入れた。
6.か焼された試料の重さを計量した(W1)。
7.該高温炉を625℃まで加熱し、引き続き30分間か焼し、か焼された該試料を再び計量した(W2)。この時、含浸したスラリーは焼き尽くされ、ガラス繊維布だけが残された。
8.強熱減量をLOI%=(W1−W2)/W1×100%により計算した。糊抜きの強熱減量(LOI%)が低いほど、そのスラリー組成がガラス繊維の糊抜き効率の向上により効果的であったことを意味する。
9.ステップ7の糊抜きプロセス後、ガラス繊維の引張り強度のMD/CD比を評価するためにASTM‐D638試験を行い、Zwick1474を23℃、20mm/分で使用した。
【0022】
実施例1
表1によれば、100gの既知の原スラリーに1gの10nm酸化アルミニウムを加え、よく混合して均一なスラリーにした。糊抜きの強熱減量(LOI%)とガラス繊維布の引張り強度のMD/CD比とを上記の方法で評価した。
試験結果を表1に示す。380℃で55時間のか焼の場合、強熱減量は0.038%で、MD/CD引張り強度は21.6/13.6kg/cm2であった。380℃で42時間のか焼の場合、強熱減量は0.047%で、MD/CD引張り強度は22.2/13.8kg/cm2であった。350℃で55時間のか焼の場合、強熱減量は0.049%で、MD/CD引張り強度は28.4/18.4kg/cm2であった。
全ての場合で、スラリーは0.05%未満の強熱減量を維持し、350℃で55時間のか焼の結果が最も高い引張り強度を示した。このことは、低温が良好な引張り強度に有益であることを示唆する。
【0023】
実施例2
表1によれば、100gの既知の原スラリーに1gの10nm酸化アルミニウムと3gの過酸化物とを加え、よく混合して均一なスラリーにした。
試験結果を表1に示す。380℃で55時間のか焼の場合、強熱減量は0.035%で、MD/CD引張り強度は21.8/13.7kg/cm2であった。380℃で42時間のか焼の場合、強熱減量は0.045%で、MD/CD引張り強度は22.3/13.9kg/cm2であった。350℃で55時間のか焼の場合、強熱減量は0.048%で、MD/CD引張り強度は29.3/18.6kg/cm2であった。
全ての場合で、スラリーは0.05%未満の強熱減量を維持し、350℃で55時間のか焼の結果が最も高い引張り強度を示した。このことは、低温が良好な引張り強度に有益であることを示唆する。
【0024】
実施例3
表1によれば、100gの既知の原スラリーに1gの10nm酸化アルミニウムと1gの増感剤NPGとを加え、よく混合して均一なスラリーにした。
試験結果を表1に示す。380℃で55時間のか焼の場合、強熱減量は0.038%で、MD/CD引張り強度は21.7/13.6kg/cm2であった。380℃で42時間のか焼の場合、強熱減量は0.047%で、MD/CD引張り強度は22.4/14.2kg/cm2であった。350℃で55時間のか焼の場合、強熱減量は0.049%で、MD/CD引張り強度は28.4/18.7kg/cm2であった。
全ての場合で、スラリーは0.05%未満の強熱減量を維持し、350℃で55時間のか焼の結果が最も高い引張り強度を示した。このことは、低温が良好な引張り強度に有益であることを示唆する。
【0025】
実施例4
表1によれば、100gの既知の原スラリーに1gの10nm酸化アルミニウムと1gの増感剤NPGと3gの過酸化物DCPとを加え、よく混合して均一なスラリーにした。
試験結果を表1に示す。380℃で55時間のか焼の場合、強熱減量は0.031%で、MD/CD引張り強度は21.9/13.8kg/cm2であった。380℃で42時間のか焼の場合、強熱減量は0.038%で、MD/CD引張り強度は22.5/13.9kg/cm2であった。350℃で55時間のか焼の場合、強熱減量は0.045%で、MD/CD引張り強度は30.8/19.3kg/cm2であった。
本実施例では、スラリーは0.045%未満の強熱減量(実施例1〜3よりも低い)を維持した。また、本実施例では、350℃で55時間のか焼の結果はMD/CD引張り強度30.8/19.3kg/cm2であり、実施例1〜3よりも好ましい。
【0026】
実施例5
表1によれば、100gの既知の原スラリーに1gの10nm酸化ジルコニウムと1gの増感剤CHEMCURE96と3gの過酸化物TBCPとを加え、よく混合して均一なスラリーにした。
試験結果を表1に示す。380℃で55時間のか焼の場合、強熱減量は0.033%で、MD/CD引張り強度は21.6/13.4kg/cm2であった。380℃で42時間のか焼の場合、強熱減量は0.045%で、MD/CD引張り強度は22.6/13.8kg/cm2であった。350℃で55時間のか焼の場合、強熱減量は0.047%で、MD/CD引張り強度は29.5/18.2kg/cm2であった。
全ての場合で、スラリーは0.05%未満の強熱減量を維持し、350℃で55時間のか焼の結果が最も高い引張り強度を示した。このことは、低温が良好な引張り強度に有益であることを示唆する。
【0027】
実施例6
表1によれば、100gの既知の原スラリーに酸化アルミニウムと酸化シリコンとの混合物1gと1gの増感剤EABと3gの過酸化物TBPとを加え、よく混合して均一なスラリーにした。
試験結果を表1に示す。380℃で55時間のか焼の場合、強熱減量は0.035%で、MD/CD引張り強度は21.7/13.2kg/cm2であった。380℃で42時間のか焼の場合、強熱減量は0.046%で、MD/CD引張り強度は22.4/13.7kg/cm2であった。350℃で55時間のか焼の場合、強熱減量は0.048%で、MD/CD引張り強度は29.3/18.9kg/cm2であった。
全ての場合で、スラリーは0.05%未満の強熱減量を維持し、350℃で55時間のか焼の結果が最も高い引張り強度を示した。このことは、低温が良好な引張り強度に有益であることを示唆する。
【0028】
実施例7
表1によれば、100gの既知の原スラリーに0.5gの10nm酸化アルミニウムと0.5gの10nm酸化ジルコニウムと1gの増感剤EABと3gの過酸化物BPOとを加え、よく混合して均一なスラリーにした。
試験結果を表1に示す。380℃で55時間のか焼の場合、強熱減量は0.034%で、MD/CD引張り強度は21.5/13.6kg/cm2であった。380℃で42時間のか焼の場合、強熱減量は0.043%で、MD/CD引張り強度は22.3/13.9kg/cm2であった。350℃で55時間のか焼の場合、強熱減量は0.046%で、MD/CD引張り強度は28.4/18.3kg/cm2であった。
全ての場合で、スラリーは0.05%未満の強熱減量を維持し、350℃で55時間のか焼の結果が最も高い引張り強度を示した。このことは、低温が良好な引張り強度に有益であることを示唆する。
【0029】
比較例1
表1によれば、100gの既知の原スラリーを混ぜて均一なスラリーにした。
試験結果を表1に示す。380℃で55時間のか焼の場合、強熱減量は0.050%で、MD/CD引張り強度は21.6/13.3kg/cm2であった。380℃で42時間のか焼の場合、強熱減量は0.072%で、MD/CD引張り強度は22.1/13.8kg/cm2であった。350℃で55時間のか焼の場合、強熱減量は0.081%で、MD/CD引張り強度は28.4/18.3kg/cm2であった。
0.05%のLOIは380℃で55時間のか焼によってだけ達成された。温度を下げることも時間を短くすることも強熱減量を0.050%未満にできなかった。350℃で55時間のか焼の結果が最も高い引張り強度を示した。
【0030】
比較例2
表1によれば、100gの既知の原スラリーに1.0gの粒子径3〜5μmの酸化アルミニウムを加え、よく混合して均一なスラリーにした。
試験結果を表1に示す。380℃で55時間のか焼の場合、強熱減量は0.052%で、MD/CD引張り強度は21.5/13.0kg/cm2であった。380℃で42時間のか焼の場合、強熱減量は0.078%で、MD/CD引張り強度は21.9/13.7kg/cm2であった。350℃で55時間のか焼の場合、強熱減量は0.085%で、MD/CD引張り強度は28.2/18.1kg/cm2であった。
380℃で55時間のか焼後、LOIは0.052%であった。温度を下げることも時間を短くすることも強熱減量を0.050%未満にできなかった。
【0031】
比較例3
表1によれば、100gの既知の原スラリーに1gの増感剤NPGを加え、よく混合して均一なスラリーにした。
試験結果を表1に示す。380℃で55時間のか焼の場合、強熱減量は0.049%で、MD/CD引張り強度は21.3/13.2kg/cm2であった。380℃で42時間のか焼の場合、強熱減量は0.070%で、MD/CD引張り強度は22.0/13.8kg/cm2であった。350℃で55時間のか焼の場合、強熱減量は0.076%で、MD/CD引張り強度は28.6/18.9kg/cm2であった。
0.05%のLOIは380℃で55時間のか焼によってだけ達成された。結果は助剤が添加されていない比較例1の結果と類似していた。このことは、増感剤NPGだけの使用の効果は限定されることを示す。350℃で55時間のか焼の結果が最も高い引張り強度を示した。
【0032】
比較例4
表1によれば、100gの既知の原スラリーに3gの過酸化物DCPを加え、よく混合して均一なスラリーにした。
試験結果を表1に示す。380℃で55時間のか焼の場合、強熱減量は0.049%で、MD/CD引張り強度は21.4/13.3kg/cm2であった。380℃で42時間のか焼の場合、強熱減量は0.061%で、MD/CD引張り強度は22.2/13.9kg/cm2であった。350℃で55時間のか焼の場合、強熱減量は0.072%で、MD/CD引張り強度は28.9/18.7kg/cm2であった。
0.05%のLOIは380℃で55時間のか焼によってだけ達成された。350℃で55時間のか焼の結果が最も高い引張り強度を示した。
【0033】
結論
表1に示した実施例1〜7と比較例1〜4との結果を比較することで、下記の事が結論できる。
1.実施例1と比較例1との結果から、提案した金属酸化物としての10nm酸化アルミニウムの添加は、380℃×55時間のか焼の結果として、助剤が添加されていない比較例1が示した0.05%LOIより望ましい0.038%LOIをもたらした。か焼時間を55時間から42時間に短縮した場合でも、その0.047%のLOIは比較例1が示した0.072%よりまだ低い。か焼時間を55時間に維持しか焼温度を380℃から350℃に下げた場合、得られた強熱減量0.049%は比較例1の0.081%LOIより好ましく、ナノ金属酸化物はひび割れを助けることを証明している。
【0034】
2.実施例1と比較例2の両方が金属酸化物を含んでいるが、それらの結果は、提案したナノ金属酸化物としての10nm酸化アルミニウムの添加により、得られた強熱減量値(LOI%)は、3つの異なるか焼条件において通常の粒子径の金属酸化物の場合よりずっと良かった。
【0035】
3.実施例2と比較例1との結果から、提案した金属酸化物として1gの10nm酸化アルミニウムと提案した過酸化物として3gのDCPとを添加することにより、380℃×55時間のか焼で得られた0.035%LOIは、助剤が添加されていない比較例1が示した0.05%LOIより望ましい。か焼時間を55時間から42時間に短縮した場合でも、得られた0.045%LOIは比較例1が示した0.072%よりまだ低い。か焼時間を55時間に維持しか焼温度を380℃から350℃に下げた場合、得られたLOIは0.047%で比較例1の0.081%より良好であった。このことは、提案した金属酸化物と共に提案した過酸化物としてDCPを使用することにより、相乗効果が得られることを示す。
【0036】
4.提案した金属酸化物として1gの10nm酸化アルミニウムと提案した増感剤として1gのNPGとを含有する実施例3のか焼後のLOIは、実施例2より若干高いが、助剤が添加されていない比較例1より良好であった。
【0037】
5.実施例4のスラリー組成物が本発明の好適な実施形態である。3つの異なるか焼条件において、このスラリー組成物は0.045%未満のLOIを維持し、ガラス繊維布は350℃で55時間のか焼後、最も高い引張り強度を示した。このことは、提案した過酸化物としてのDCPと金属酸化物と共に増感剤を使用することにより、相乗効果が得られることを示す。
【0038】
6.実施例1〜7のスラリー組成物を含浸させたガラス繊維布試料を試験し、全て0.05%未満の強熱減量を示した。比較例1〜4の組成物と比較すると、このことは、望ましいスラリー組成物は、ガラス繊維布の強熱減量を低減しガラス繊維布の良好な引張り強度を維持しガラス繊維布の糊抜き効率を向上させるという目的を効果的に達成するために、金属酸化物に加えて増感剤と過酸化物とのうち1つ以上を必要とするだけであることを示す。
【0039】
7.実施例1〜7のスラリー組成物を含浸させ、380℃又は350℃で55時間か焼したガラス繊維布試料をか焼後引張り強度について試験し、350℃で55時間か焼した全ての試料がより高い引張り強度を示した。このことは、望ましいスラリー組成物は、ガラス繊維布の糊抜き温度を下げてエネルギ−を節約するという目的を効果的に達成するために、金属酸化物に加えて増感剤と過酸化物とのうち1つ以上を必要とするだけであることを示す。
【0040】
8.実施例1〜7のスラリー組成物を含浸させ、380℃で42時間又は55時間か焼したガラス繊維布試料をか焼後引張り強度について試験し、380℃で42時間か焼した全ての試料がより高い引張り強度を示した。このことは、望ましいスラリー組成物は、ガラス繊維布の糊抜き時間を短縮してエネルギ−を節約するという目的を効果的に達成するために、金属酸化物に加えて増感剤と過酸化物とのうち1つ以上を必要とするだけであることを示す。
【0041】
【表1】


表1(続き)

注:
(1)酸化アルミニウムは10nmの粒子径を有した。
(2)酸化ジルコニウムは10nmの粒子径を有した。
(3)酸化アルミニウムは酸化シリコンと混合された(粒子径は10〜20nm)。
(4)酸化アルミニウムは3〜5μmの粒子径を有した。
(5)NPGはCHEMBRIDGE INTL.社から入手した。
(6)CHEMCURE96はCHEMBRIDGE INTL.社から入手した。
(7)EABはHODOGAYA CHEMICAL社から入手した。
(8)TBCP、商品名トリゴノックスTはAKZO NOBEL社から入手した。
(9)DCP、商品名パーカドックスBC‐FFはAKZO NOBEL社から入手した。
(10)TBP、商品名トリゴノックスCはAKZO NOBEL社から入手した。
(11)BPO、商品名パーカドックスL‐50SはAKZO NOBEL社から入手した。
(12)該既知の原スラリーはペースト、油、界面活性剤、軟化剤、及び水を含有した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水含有スラリー液の4.0〜8.0重量%の固形成分でありクラック剤を含有するスラリー組成物であって、
(a)該スラリー液の1.5〜4.0重量%を占め、澱粉、ビニル乳剤、及び重縮合乳剤からなるグループから選択された1つであるか又は2つ以上の混合物であるペーストと、
(b)該スラリー液の1.0〜3.0重量%を占め、硬化トウモロコシ油、大豆油、屍蝋、及び植物油からなるグループから選択された1つであるか又は2つ以上の混合物である油と、
(c)該スラリー液の0.2〜0.5重量%を占め、ポリエチレングリコールソルビタン及びポリエチレンオキシドからなるグループから選択された1つであるか又はこれらの混合物である界面活性剤と、
(d)該スラリー液の0.1〜0.5重量%を占め、アミン、ビニルアミンオキシド、第4級アンモニウム塩、及び陽イオン誘導体からなるグループから選択された1つであるか又は2つ以上の混合物である軟化剤と、
(e)該スラリー液の0.005〜5.0重量%を占めるクラック剤と
を含むスラリー組成物。
【請求項2】
前記クラック剤は0.005〜5重量%の金属酸化物と、0〜5重量%の過酸化物と、0〜5重量%の増感剤とを含む請求項1に記載のスラリー組成物。
【請求項3】
前記金属酸化物は、酸化アルミニウム、二酸化シリコン、酸化ゲルマニウム、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化銅、酸化コバルト、酸化鉄、酸化マンガン、酸化クロム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、及び酸化ガリウムからなるグループから選択された1つであるか又は2つ以上の混合物である請求項2に記載のスラリー組成物。
【請求項4】
前記金属酸化物は、酸化アルミニウム、二酸化シリコン、酸化ゲルマニウム、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化銅、酸化コバルト、酸化鉄、酸化マンガン、酸化クロム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、及び酸化ガリウムからなるグループから選択された1つ以上を高温で焼成または共焼成することで形成される焼結物である請求項2に記載のスラリー組成物。
【請求項5】
前記金属酸化物は3〜200nmの粒子径を有する請求項3又は4に記載のスラリー組成物。
【請求項6】
前記過酸化物は、2,5‐ジメチル‐2,5‐ビス(tert‐ブチルペルオキシ)ヘキサン、過酸化ジ‐t‐ブチル、過酸化ジクミル、過酸化ベンゾイル、過酸化t‐ブチルクミル、及びtert‐ブチルペルオキシベンゾアートからなるグループから選択された1つであるか又は2つ以上の混合物である請求項2に記載のスラリー組成物。
【請求項7】
前記増感剤は、4,4’‐アゾビス(4‐シアノペンタン酸)、2,2‐アゾビス(2,4,4‐トリメチルペンタン)、N‐フェニルグリシン、テトラエチルミヒラーズケトン、及び1,7‐ビス(9‐アクリジニル)ヘプタンからなるグループから選択された1つであるか又は2つ以上の混合物である請求項2に記載のスラリー組成物。