説明

クラッチカバー組立体

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明のクラッチカバー組立体は、車両、船舶、工作機械等に利用することができる。
【0002】
【従来の技術】従来型のクラッチカバー組立体については、特開昭62−220719号に開示されているものが従来技術として公知である。前記従来技術は、フライホイールに固定されたクラッチカバーと、前記フライホイールとでクラッチデイスクを挟圧するプレッシャープレートと、前記プレッシャープレートを付勢するべく前記クラッチカバーに支承されたダイヤフラムスプリングを備えたクラッチカバー組立体が開示されている。前記クラッチカバー組立体は、前記クラッチカバーの円周上数カ所に設けられた折曲部によって、前記ダイヤフラムスプリングが1組のピボットリングを介して挟持されている。
【0003】前記クラッチカバー組立体においては、回転力伝達機能を断つためにレリーズベアリングをストロークさせ前記ダイヤフラムスプリングの内周端を前記プレッシャープレート側へ変位させると、前記ダイヤフラムスプリングは前記ピボットリングを支点として反り返ることにより、前記ダイヤフラムスプリングの外周部が前記プレッシャープレートと反対側へ移動するため、前記ダイヤフラムスプリングの外周部と連結された前記プレッシャープレートを前記クラッチデイスクから引き離す。この時前記ダイヤフラムスプリングは前記引き離した分だけ傾くため前記1組のピボットリングの間隔は押し広げられる。又前記クラッチディスクの摩耗が進行すると前記レリーズベアリングをストロークさせた時と逆方向に前記ダイヤフラムスプリングは傾く、前記同様に1組のピボットリングの間隔は押し広げられる。
【0004】ところが、前記従来技術のクッチカバー組立体においては、前記ダイヤフラムスプリングは前記クラッチカバーに固定するため、前記折曲部において前記ピボットリングを介して挟圧されており、1組のピボットリングの間隔が押し広げられるのを妨げており、これが前記レリーズベアリングをストロークさせる時のレリーズ力増大すなわちクラッチペダル踏力を重くすると共に前記プレッシャープレートを前記ディスクから引離しにくくしている。さらに前記クラッチディスクの摩耗が進行した場合も前記ダイヤフラムスプリングの傾きを妨げるので前記クラッチカバー組立体が前記クラッチディスクを挟着する押圧力が低下してクラッチの滑りを生じさせるという問題がある。
【0005】前記問題点を解決すべく従来技術として、特開平1−312229号があるがこの従来技術はクラッチカバーのピボットリングを介してダイヤフラムスプリングを挟持する折曲部に切欠きを設け、前記折曲部の折曲点における前記折曲部の断面積を減少させ、折曲部における前記ピボットリングの挟圧力を低減させ前記ダイヤフラムスプリングの傾きを妨げる力を低減しようとするものがある。
【0006】しかしながら、前記従来技術は折曲点における前記折曲部の断面積を減少させているため、前記折曲部が機械的強度に劣り、クラッチカバー組立体の作動、或いは振動によって前記折曲部が破断する恐れがある。又、前記ダイヤフラムスプリングの挟圧力が小さいため、クラッチカバー組立体の繰り返し作動によって、前記ダイヤフラムスプリングがクラッチカバーに対してがたつく恐れもある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明の課題としては、クラッチカバーの折曲部の強度を低下させずにダイヤフラムスプリングの挟圧力を低減し、さらにダイヤフラムスプリングがクラッチカバーに対し、がたつく恐れもなくした構造でクラッチペダル踏力が軽くクラッチディスクが摩耗しても十分な押圧力が得られるクラッチカバー組立体を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために本発明においては、少なくともクラッチカバーとダイヤフラムスプリングとプレッシャープレートを備え、前記クラッチカバーの円周上適宜の位置に設けた折曲部が、前記ダイヤフラムスプリングの両側面に配設されたピボットリングを挟持したクラッチカバー組立体において、前記折曲部は円周方向における端部に薄肉部を備え、前記クラッチカバー組立体の非作動状態で前記薄肉部と前記ピボットリングとの間に空間が形成されることを特徴とするクラッチカバー組立体とした。
【0009】
【作用】上記クラッチカバー組立体によれば、クラッチカバーの折曲部は円周方向に置ける端部に薄肉部を備え、クラッチカバー組立体の非作動状態で前記薄肉部とダイヤフラムスプリングを挟持したピボットリングの間に空間が生ずることにより、前記ダイヤフラムスプリングと前記折曲部との間で前記ピボットリングの撓みが可能となり前記ダイヤフラムスプリングの姿勢変化を妨害しなくなり前記クラッチカバーの折曲部も押し広げられる事もなくなる。
【0010】従って前記のクラッチペダル踏力が重くなる事もなくクラッチディスク摩耗時のクラッチカバー押圧力の低下もない。さらに前記ダイヤフラムスプリングがクラッチカバーに対しがたつく恐れがなくなる。
【0011】
【実施例】以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【0012】図2は本発明に基づいたクラッチカバー組立体の平面図であり、図1は図2のA−A断面図である。図において1はクラッチカバーであり、図示しないエンジンのフライホイールに固定されている。2はプレッシャープレートであり、フライホイールとによって図示しないクラッチデイスクを挟圧する。ダイヤフラムスプリング3は前記クラッチカバー1の内周端に円周上等分に設けられた折曲部4において、ピボットリング5、6を介して挟圧されることによって前記クラッチカバー1に取付けられている。前記ダイヤフラムスプリング3は、その外周端において前記プレッシャープレート2の突起7と当接し、更に、前記プレッシャープレート2に円周上等分位置にボルト8によって固定されたリトラクトスプリング9のカール部10と係合している。又、前記ダイヤフラムスプリング3には一般的なダイヤフラムスプリングと同様に、その内周端よりスリット部11が複数個設けられ前記スリットはピボットリングによって挟持されている部位を過ぎる位置まで切欠が設けられている。
【0013】図3は前記クラッチカバー1の折曲部4をプレス曲げする以前の形状を表している。図3において前記クラッチカバー1の内周端に前記ダイヤフラムスプリング3及びピボットリング5、6を介在させた後、先端部12を図の下方において反時計回りに略90°プレス曲げすることによって、前記ダイヤフラムスプリング3の取付けが完成する。図4は図3のB視を表す図である。プレス曲げ後、前記ダイヤフラムスプリング3を挟圧する一側となる部位には、B視において中央部に平坦面14が設けられ、前記平坦面14から両側に向かって前記折曲部4において薄肉部を形成する傾斜面15、15が備えられている。前記ダイヤフラムスプリング3と当接する前記ピボットリング6の、図1の左右方向の位置は前記平坦面14によって決定されるため、前記ダイヤフラムスプリング3の前記クラッチカバー1への取付け状態において、前記ピボットリング6と前記傾斜面15、15との間には空間が形成される。
【0014】次に、前記クラッチカバー組立体の作動について説明する。
【0015】非作動状態にある前記クラッチカバー組立体は、前記ダイヤフラムスプリング3が前記クラッチカバー1に取付けられる際に、その外周端が前記プレッシャープレート2の突起7から押圧されるため、前記プレッシャープレート2が前記ダイヤフラムスプリング3からその反力を受けて、クラッチデイスクをフライホイールに向けて押圧している。
【0016】車両の図示しないクラッチベダルが踏まれクラッチケースに取付けられたレリーズフォークが作動することによって、やはり図示しないレリーズベアリングが移動して、前記ダイヤフラムスプリング3の内周端16を図1において左方向に押圧すると、前記ダイヤフラムスプリング3は前記ピボットリング5、6によって挟圧されている部位を支点として反り返り、その外周端は図1において右方向に移動する。この時、前記プレッシャープレート2は前記ダイヤフラムスプリング3からの付勢力が解除されるのと同時に、前記リトラクトスプリング9を介して前記ダイヤフラムスプリング3によって図1において右方向に引っ張られて同方向に移動するため、クラッチデイスクを押圧する力も解除される。クラッチペダルが原位置に戻され、前記プレッシャープレート2が再び前記ダイヤフラムスプリング3からの付勢力を受ける作動は、前記したレリーズ作動の逆であるだけであるので、ここでは説明を省略する。
【0017】前記したクラッチカバー組立体のレリーズ作動においては、前記ダイヤフラムスプリング3が、前記ピボットリング5、6によって挟圧されている部位を支点にして反り返る時に、前記ピボットリング5,6の間隔は押し広げられるが前記ピボットリング6と前記クラッチカバー1の傾斜面15との間には空間が設けられているため、前記ピボットリング6を押圧している前記平坦面14を除いて前記ピボットリング5,6の間隔は容易に押し広げられ前記ダイヤフラムスプリング3の反り返りを妨げることなく、そのレリーズ力は重くならない。又、前記折曲部4に切欠等を設けていないため、折曲部の強度も十分確保でき、折り曲げ部が押し広げられることもないので作動中に前記ダイヤフラムスプリング3ががたつくこともない。
【0018】尚、本発明による折曲部の薄肉部の形状は、前記した実施例に限定されるものではなく、図5〜7等の実施例で示す様に本発明の目的を満足する範囲内において種々の変更は可能である。
【0019】図5は、薄肉部をダイヤフラムスプリングを挟持する平担部に対し段差をもった平坦面とし、図6R>6は薄肉部を平坦面に繋がる曲面とし、図7は折曲部のダイヤフラムスプリング挟持する側を一つの曲面で形成したものである。
【0020】
【発明の効果】本発明によるように、ダイヤフラムスプリングを取付けるためにクラッチカバーの内周端に設けられた折曲部に、薄肉部を設けたので、クラッチカバー組立体のレリーズ力を軽減し、クラッチディスク摩粍時の押圧力低下もない、又折曲部に切欠き等を設けていないため、クラッチカバーの機械的強度を低下させることもなく、クラッチカバー組立体の長寿命を維持できる。又、折曲部が押し広げられる事もないため、ダイヤフラムスプリングががたつくこともなく、車両等の騒音防止にも有用である。
【0021】更に、クラッチカバー組立体の構造を大幅に変更することもないため、クラッチカバー以外の部品を従来品と共用でき、低コスト化が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のクラッチカバー組立体の断面図
【図2】本発明のクラッチカバー組立体の平面図
【図3】本発明のクラッチカバーの断面図
【図4】本発明のクラッチカバーの折曲部の詳細図
【図5】他の実施例を示すクラッチカバー折曲部の詳細図
【図6】他の実施例を示すクラッチカバー折曲部の詳細図
【図7】他の実施例を示すクラッチカバー折曲部の詳細図
【符号の説明】
1 クラッチカバー 2 プレッシャープレート
3 ダイヤフラムスプリング 4 折曲部 5、6 ピボットリング
14 平坦面 15 傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくともクラッチカバーとダイヤフラムスプリングとプレッシャープレートを備え、前記クラッチカバーの円周上適宜の位置に設けた折曲部が、前記ダイヤフラムスプリングの両側面に配設されたピボットリングを挟持したクラッチカバー組立体において、前記折曲部は円周方向における端部に薄肉部を備え、前記クラッチカバー組立体の非作動状態で前記薄肉部と前記ピボットリングとの間に空間が形成されることを特徴とするクラッチカバー組立体。
【請求項2】 前記薄肉部は前記ダイヤフラムスプリングを挟持する平坦部に繋がる傾斜面であることを特徴とする請求項1を満足するクラッチカバー組立体。
【請求項3】 前記薄肉部は前記ダイヤフラムスプリングを挟持する平坦部に繋がる曲面である事を特徴とする請求項1を満足するクラッチカバー組立体。
【請求項4】 前記薄肉部は前記ダイヤフラムスプリングを挟持する平坦部に対し、段差をもった平坦面である事を特徴とする請求項1を満足するクラッチカバー組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【特許番号】特許第3240693号(P3240693)
【登録日】平成13年10月19日(2001.10.19)
【発行日】平成13年12月17日(2001.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−187052
【出願日】平成4年7月14日(1992.7.14)
【公開番号】特開平6−33948
【公開日】平成6年2月8日(1994.2.8)
【審査請求日】平成11年5月18日(1999.5.18)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【参考文献】
【文献】実開 平4−41121(JP,U)
【文献】実開 昭58−125733(JP,U)
【文献】実開 平4−62423(JP,U)
【文献】実開 平3−124020(JP,U)