説明

クラッチ

【課題】 逆入力を確実に遮断することができるクラッチを提供する。
【解決手段】 クラッチ1は、基板12及び底板22を備えたハウジング4と、基板に軸線回りに回転可能かつ軸線方向に移動不能に支持された入力軸5と、入力軸と同軸になるように底板に軸線回りに回転可能かつ軸線方向に移動不能に支持され、入力軸に対して軸線回りに所定の角度範囲で相対回転可能に連結された出力軸6と、入力軸及び出力軸に回転可能かつ軸線方向に変位可能に支持されたスリーブ7と、出力軸とスリーブとの間に設けられ、スリーブを基板側に付勢する圧縮コイルばね8とを有し、入力軸は第1カム37を備え、出力軸は第2カム57を備え、スリーブは、基板と係合してスリーブの回転に抵抗力を発生する係合部80と、第1カムと係合する第3カム72と、第2カムと係合する第4カム77とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチに係り、より詳細には入力軸及び出力軸を有し、入力軸に回転力が加えられた場合には出力軸を入力軸と共に回転し、出力軸に回転力が加えられた場合には入力軸の回転を阻止するクラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
入力軸及び出力軸を有するクラッチにおいて、入力軸に回転力が加えられた場合に出力軸を駆動する一方、出力軸に回転力が加えられた場合に入力軸に回転力が加わらないようにした逆入力遮断機構を備えたクラッチが公知となっている(例えば、特許文献1)。特許文献1に係るクラッチは、第1支持部及び第2支持部を備えたハウジングと、第1支持部に回転可能に支持され、第1カムを備えた入力軸と、入力軸と同軸に第2支持部に回転可能に支持された出力軸と、出力軸に相対回転不能かつ軸方向に移動可能に支持され、第1カムに係合する第2カム及び第1支持部に係合する係合部を備えたスリーブと、係合部と第1支持部とを係合させるべくスリーブを第1支持部側に付勢する付勢部材とを有している。入力軸に回転力が加えられた場合には、第1カムが第2カムを駆動することによって、スリーブを第1支持部から離間する方向に変位させ、係合部と第1支持部との係合を解除し、スリーブを介して入力軸の回転を出力軸に伝達する。一方、出力軸に回転力が加えられた場合には、係合部と第1支持部との係合によってハウジングに対するスリーブの回転が規制されているため、出力軸の回転が規制され、入力軸の回転が阻止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−199532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に係るクラッチでは、係合部と第1支持部との係合が付勢部材の付勢力によって維持されているため、出力軸に加えられる回転力が付勢部材の付勢力より大きい場合には係合部と第1支持部との係合が解除され、入力軸に回転が伝達されるという問題がある。すなわち、遮断できる回転力は付勢部材の付勢力によって決まり、比較的小さいという問題がある。
【0005】
本発明は、以上の問題を鑑みてなされたものであって、逆入力を確実に遮断することができるクラッチを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るクラッチ(1)は、第1支持部(12)及び第2支持部(22)を備えたハウジング(4)と、前記第1支持部に軸線回りに回転可能かつ軸線方向に移動不能に支持された入力軸(5)と、前記入力軸と同軸になるように前記第2支持部に軸線回りに回転可能かつ軸線方向に移動不能に支持され、前記入力軸に対して軸線回りに所定の角度範囲で相対回転可能に連結された出力軸(6)と、前記入力軸及び前記出力軸の少なくとも一方に回転可能かつ前記入力軸及び前記出力軸の軸線方向に変位可能に支持されたスリーブ(7)と、前記入力軸又は前記出力軸と前記スリーブとの間に設けられ、前記スリーブを前記第1支持部側に付勢する付勢部材(8)とを有し、前記入力軸は、第1カム(37)を備え、前記出力軸は、第2カム(57)を備え、前記スリーブは、前記第1支持部と係合して前記第1支持部に対する前記スリーブの回転に抵抗力を発生する係合部(80)と、前記第1カムと係合する第3カム(72)と、前記第2カムと係合する第4カム(77)とを備え、初期状態においては、前記付勢部材に付勢された前記スリーブが前記第1支持部側に位置して、前記係合部が前記第1支持部に係合し、前記入力軸に前記ハウジングに対する回転力が加えられた場合には、前記第1カムが前記第3カムを駆動して前記スリーブを前記付勢部材の付勢力に抗して前記第2支持部側に変位させて前記係合部と前記第1支持部との係合を解除すると共に、前記出力軸を前記入力軸と共に回転させ、前記出力軸に前記ハウジングに対する回転力が加えられた場合には、前記第2カムが前記第4カムを押圧して前記スリーブを前記第1支持部側に押圧し、前記係合部と前記第1支持部の係合が維持されると共に、前記第4カムに前記第2カムが突き当たることによって、前記出力軸の前記ハウジングに対する回転が阻止されることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、クラッチは、入力軸に回転力が加えられた場合には回転力を出力軸に伝達する一方、出力軸に回転力が加えられた場合には回転力を入力に伝達しない。特に、出力軸に回転力が加えられる場合には、出力軸の回転を規制するスリーブ7が、出力軸の第2カムに押圧されて、第1支持部との係合をより強めるため、出力軸の回転を確実に規制することができる。
【0008】
本発明の他の側面は、前記係合部は、前記スリーブの端面に形成された摩擦係合部であり、前記第1支持部に当接することによって前記スリーブと前記第1支持部との間に抵抗力を発生することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、係合部が第1支持部に係合した際に、スリーブに第1支持部に対する回転抵抗力を付与することができる。
【0010】
本発明の他の側面は、前記摩擦係合部は、前記スリーブの径方向に延在する山及び谷を複数備え、前記第1支持部は、前記山及び谷と噛み合う座部(14)を備えることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、係合部が第1支持部に係合した際に、スリーブに付与される回転抵抗力を増大させることができる。
【0012】
本発明の他の側面は、前記第1カム、前記第2カム、前記第3カム及び前記第4カムは、前記入力軸及び前記出力軸の軸線を中心とした環状の端面カムであることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、入力軸又は出力軸の回転に対してスリーブを安定性良く駆動することができる。
【0014】
本発明の他の側面は、前記第2カムは、前記第3カムと対向する側と相反する側に補強リブ(62)を備えることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、第2カムの変形を抑制することができる。
【0016】
本発明の他の側面は、前記付勢部材は、圧縮コイルばねであり、前記入力軸の外周面と前記スリーブの内周面との間に形成される空隙に前記入力軸を囲むように配置され、一端が前記スリーブに当接する一方、他端が前記出力軸に当接することを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、圧縮コイルばねの倒れを防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上の構成によれば、逆入力を確実に遮断することができるクラッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態に係るクラッチの分解斜視図
【図2】実施形態に係る第1ハウジングの斜視図
【図3】実施形態に係る入力軸の斜視図
【図4】実施形態に係る出力軸の斜視図
【図5】実施形態に係るスリーブの斜視図
【図6】実施形態に係るスリーブの斜視図
【図7】実施形態に係るクラッチの側面図
【図8】図7のVIII−VIII断面図
【図9】図8のIX−IX断面図
【図10】クラッチの動作を示す模式図であって、(A)初期状態、(B)入力軸に回転力が加えられた状態、(C)入力軸に加えられていた回転力がなくなった状態を示す
【図11】クラッチの動作を示す模式図であって、(D)出力軸に回転力が加えられた状態を示す
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明を電動モータからの動力を他の機構に伝達するクラッチに適用した実施形態を詳細に説明する。本実施形態に係るクラッチは、入力側が電動モータに連結され、出力側が他の機構に連結され、電動モータから入力側に加えられる回転力を出力側に伝達する一方、他の機構から出力側に加えられる回転力を入力側に伝達しないようになっている。本実施形態に係るクラッチは、例えば、電動モータの動力によってカーテンを開閉する電動開閉カーテン機構に適用される。
【0021】
図1に示すように、実施形態に係るクラッチ1は、第1ハウジング2及び第2ハウジング3からなるハウジング4と、入力軸5と、出力軸6と、スリーブ7と、圧縮コイルばね(付勢部材)8とから構成されている。各部材は、それぞれ所定の軸線を有し、各軸線がクラッチ1の回転軸線Aと一致するように組み付けられる。以下の説明では、各部材を説明する際には、軸線Aを基準として説明する。また、説明のために、図1に示すように、軸線Aの方向において、ハウジング4に対して入力軸5が設けられる側を入力側、ハウジング4に対して出力軸6が設けられる側を出力側とする。
【0022】
第1ハウジング2、第2ハウジング3、入力軸5、出力軸6及びスリーブ7は、樹脂を射出成形することによって形成されている。樹脂は、例えばポリアセタール(POM)等の熱可塑性樹脂であってよい。なお、他の実施形態では、各部材を金属から形成してもよい。
【0023】
図1及び2に示すように、第1ハウジング2は、軸線Aを軸線とする円筒形状の内筒11と、内筒11の一端を閉塞するように設けられた基板(第1支持部)12とを備え、内筒11の他端は開口している。基板12は、その主面が軸線Aに対して垂直となるように配置されている。また、基板12は、内筒11の径方向外方へと延出し、フランジを形成している。基板12には、内筒11と同軸に、円形の貫通孔である第1軸受孔13が形成されている。第1軸受孔13の直径は、内筒11の内径よりも小さく形成されている。
【0024】
基板12の主面であって、内筒11の内周縁と第1軸受孔13の孔縁とに囲まれた円環状部分における内周側部分は平面に形成されており、外周側部分は後述するようにスリーブ7が当接する座部14を形成している。座部14には、内筒11の径方向に延在する断面三角形の山が、周方向に複数個列設されている。これにより座部14の表面は、周方向において山及び谷が交互に繰り返すジグザグの波形となっている。
【0025】
内筒11には、その外周面から内周面へと貫通すると共に、U字状をなすスリット16が形成されており、スリット16に囲まれた部分には、片持ち片状の弾性爪17が形成されている。弾性爪17は、内筒11の径方向外方へと突出する爪部を備えている。本実施形態では、スリット16及び弾性爪17は、内筒11の軸線Aを対称軸とした180°回転位置にも設けられている。なお、他の実施形態では、スリット16及び弾性爪17は、3つ以上形成されてもよく、内筒11の任意の位置に配置してよい。
【0026】
図1に示すように、第2ハウジング3は、軸線Aを軸線とする円筒形状の外筒21と、外筒21の一端を閉塞するように設けられた底板(第2支持部)22とを備え、外筒21の他端は開口している。底板22には、外筒21と同軸に、円形の貫通孔である第2軸受孔23が形成されている。底板22の外面側であって、第2軸受孔23の縁部には、第2軸受孔23を延長するように円形のボス24が突設されている。第2軸受孔23の内端側の開口端は外端側に進むほどテーパ状に縮径されており、外端側の開口端は等径の円孔となっている。
【0027】
外筒21には、係止孔26が設けられている。本実施形態では、係止孔26は、一対設けられており、軸線Aを対称軸とした180°回転対称位置に形成されている。なお、他の実施形態では、係止孔26は弾性爪17の数及び位置に応じて形成すればよい。係止孔26は、外筒21の内周面から外周面へと貫通している。なお、他の実施形態では、係止孔26は、外筒21の内周面に凹設された有底孔であってもよい。
【0028】
図7に示すように、第1ハウジング2と第2ハウジング3とは同軸に組み合わされて1つのハウジング4を形成する。第1ハウジング2の内筒11は第2ハウジング3の外筒21内に挿入され、第1ハウジング2の弾性爪17が第2ハウジング3の係止孔26に係止されることによって、第1ハウジング2と第2ハウジング3との結合状態が維持される。このとき、内筒11の開口端が第2ハウジング3の底板22に当接し、外筒21の開口端が第1ハウジング2の基板12に当接し、内筒11の外周面が外筒21の内周面に摺接することによって、第1ハウジング2と第2ハウジング3とはがたつきなく結合される。
【0029】
図1及び3に示すように、入力軸5は、軸線Aを軸線とする円柱状の軸部31を有している。軸部31の外周面は、一部が切除されていてもよい。軸部31の一端には、結合端部32が形成されている。結合端部32は、軸部31よりも扁平状に形成され、その断面は軸部31の外形内に収まるようになっている。結合端部32は、軸部31と同軸に連続する共に、軸部31よりも小径の円柱をなす中央部33と、中央部33の外周部から径方向に突出した突出部34とを有している。本実施形態では、突出部34は一対設けられ、中央部33から互いに相反する方向に突出している。なお、他の実施形態では、突出部34を1つ、或いは3つ以上としてもよい。突出部34の軸部31の径方向における突出端は、軸部31の外周面まで到達している。軸部31の他端面には、有底のキー孔35が形成されている(図8参照)。
【0030】
軸部31の外周面には径方向外方に突出するともに、軸部31の周方向に延在する環状の第1鍔部36が形成されている。第1鍔部36の突出端面は、軸線Aを中心とした円周面を形成している。第1鍔部36の、軸線A方向において出力側を向く部分には、軸線Aを回転中心とした環状の端面カムである第1カム37が形成されている。本実施形態では、第1カム37は180°の周期をもつカムであり、1周期の内に軸線A方向において出力側に突出する1つの山部38と、入力側に凹んだ1つの谷部39とを有する。山部38と谷部39とは滑らかな曲面で連続している。なお、他の実施形態では、第1カム37の周期及び形状を適宜変更してもよい。第1鍔部36の軸線A方向において入力側を向く部分には、軸線Aと垂直な平面である当接面41が形成されている。
【0031】
入力軸5は、軸部31の第1鍔部36よりも入力側の端部42において第1軸受孔13に回転可能に支持される(図8参照)。軸部31の第1軸受孔13に対する挿入深さは、当接面41が第1軸受孔13の周縁部に当接することによって規制されている。軸部31の端部42が第1軸受孔13に支持された状態で、第1鍔部36及び結合端部32が内筒11の内部に配置される。
【0032】
図1及び4に示すように、出力軸6は、軸線Aを軸線とする円柱状の小径軸部51と、小径軸部51の一端に同軸に連続する大径軸部52とを有する。大径軸部52の外面は、概ね円周面となっており、一部が切り欠かれている。大径軸部52の外径は、小径軸部51の外径よりも大きく形成されている。
【0033】
図4に示すように、大径軸部52の端面には、有底の結合孔53が凹設されている。図8に示すように、結合孔53には、入力軸5の結合端部32が挿入される。結合端部32の突出端が、結合孔53の底面に摺接することによって、結合端部32の結合孔53に対する挿入深さが規制される。図4及び9に示すように、結合孔53は、大径軸部52の中央に設けられ、結合端部32の中央部33が回転可能に嵌合する中央室54と、中央室54の側部に連通すると共に、中央室54から径方向外方に延出し、突出部34が遊嵌する側室55とを有している。本実施形態では、側室55は、中央室54から互いに相反する方向に延出するように一対設けられ、結合孔53の断面は略8字となっている。これにより、結合端部32の突出部34が側室55内を変位する場合には、入力軸5及び出力軸6が軸線A回りに相対回転可能になっており、突出部34と側室55の側壁とが当接し、当接が維持される方向に入力軸5又は出力軸6が回転する場合には入力軸5と出力軸6とは軸線A回りに一体回転する。すなわち、結合端部32と結合孔53との係合によって、入力軸5と出力軸6とは所定の角度範囲で相対回転可能に同軸に連結されている。図9に示すように、各突出部34が各側室55の中央に配置されたときの入力軸5及び出力軸6の相対回転位置を中立位置とする。本実施形態では、中立位置から入力軸5は出力軸6に対して正転方向(軸線Aに沿って入力側から見て出力軸6に対して入力軸5が時計回りに回転する方向)に30°、負転方向に(軸線Aに沿って入力側から見て出力軸6に対して入力軸5が反時計回りに回転する方向)に30°回転可能となっている。他の実施形態では、結合端部32の形状、すなわち突出部34の数や位置、形状に応じて、結合孔53の形状、すなわち側室55の数や位置、形状を適宜変更してよい。また、中立位置からの入力軸5及び出力軸6の相対回転可能範囲を適宜変更してよい。
【0034】
大径軸部52の外周面には径方向外方に突出すると共に、大径軸部52の周方向に延在する環状の第2鍔部56が形成されている。第2鍔部56の、軸線A方向において入力側を向く部分には、軸線Aを回転中心とした環状の端面カムである第2カム57が形成されている。本実施形態では、第2カム57は180°の周期をもつカムであり、1周期の内に軸線A方向において入力側に突出する1つの山部58と、出力側に凹んだ1つの谷部59とを有する。山部58と谷部59とは滑らかな曲面で連続している。なお、他の実施形態では、第2カム57の周期及び形状を適宜変更してもよい。第2鍔部56の軸線A方向において出力側を向く部分には、軸線Aを中心とした環状当接部61が突設されている。環状当接部61の突出端は、軸線Aと垂直な仮想平面上に配置されている。また、第2鍔部56の環状当接部61によって囲まれた部分には、小径軸部51の外周部へと延びる複数の補強リブ62が突設されている。複数の補強リブ62は、小径軸部51の外周部に放射状に配置されている。補強リブ62により、第2鍔部56及び第2カム57の剛性が高められ、変形が抑制される。小径軸部51の端面には、有底のキー孔63が形成されている(図8参照)。
【0035】
出力軸6は、小径軸部51において第2ハウジング3の第2軸受孔23に回転可能に支持される。このとき、環状当接部61が第2軸受孔23の周縁部に当接することによって小径軸部51の第2軸受孔23に対する挿入深さが規制される。
【0036】
図8に示すように、第1ハウジング2に入力軸5が支持され、第2ハウジング3に出力軸6が支持され、第1ハウジング2と第2ハウジング3とが結合された状態では、入力軸5の当接面41が第1軸受孔13の周縁部に当接し、出力軸6の環状当接部61が第2軸受孔23の周縁部に当接し、入力軸5の結合端部32の突出端が出力軸6の結合孔53の底部に当接するため、入力軸5及び出力軸6はハウジング4に対して軸線A方向に移動不能となっている。また、入力軸5及び出力軸6が連結された状態で、中立位置に位置するときには、軸線A方向において第1カム37の山部38と第2カム57の谷部59とが軸線A方向において正対するようにようになっている。
【0037】
図1、5及び6に示すように、スリーブ7は軸線Aを軸線とした円筒形をなす。スリーブ7は、その内部に第1鍔部36及び大径軸部52を受容可能な大きさに内径が設定される共に、内筒11内に挿入可能な大きさに外径が設定されている。スリーブ7の内径は、その内周面が第1鍔部36及び大径軸部52の外周面に摺接可能な大きさに形成されていることが好ましい。また、スリーブ7の外径は、その外周面が内筒11の内周面に摺接可能な大きさに形成してもよい。スリーブ7は、連結された入力軸5及び出力軸6に、同軸かつ軸線A回りに回転可能に支持されている。
【0038】
スリーブ7の内周面には、軸線A側へと内向きに突出すると共に、周方向に延在する環状の第3鍔部71が形成されている。第3鍔部71の突出端(内端)は、軸部31の外周面と摺接可能な円周面に形成されている。第3鍔部71の第1カム37と対向する部分(軸線A方向において入力側を向く部分)には、第3カム72が形成されている。第3カム72は、第1カム37と相補的な形状を有する軸線Aを中心とした環状の端面カムであり、軸線A方向において入力側に突出した山部73と、出力側に凹んだ谷部74とを有している。
【0039】
図6及び8に示すように、第3鍔部71の軸線A方向において出力側を向く部分は、軸線Aと垂直をなす平面に形成された環状のばね座75となっている。ばね座75は、軸線A方向において大径軸部52の端面と対向している。
【0040】
スリーブ7の出力側の端部は、第2カム57と対向し、その端面は第4カム77となっている。第4カム77は、第2カム57と相補的な形状を有する軸線Aを中心とした環状の端面カムであり、軸線A方向において出力側に突出した山部78と、入力側に凹んだ谷部79とを有している。第3カム72と第4カム77とは、軸線A方向において山部73と谷部79とが対応し、谷部74と山部78とが対応するように設けられている。
【0041】
スリーブ7の他端は、第1ハウジング2の座部14と対向し、座部14に係合可能な係合部80となっている。係合部80は、座部14と相補的な形状に形成され、山及び谷が交互に配設されたジグザグ形の波形となっている。
【0042】
スリーブ7は、第3カム72が入力軸5の第1カム37と対向し、第4カム77が出力軸6の第2カム57と対向しているため、入力軸5及び出力軸6に対する軸線A方向の変位が所定の範囲に制限されている。第3カム72の山部73が第1カム37の谷部39と対向し、第4カム77の山部78が第2カム57の谷部59と対向するように、スリーブ7は入力軸5及び出力軸6に配置される。スリーブ7の入力軸5及び出力軸6に対する軸線A回りの回転範囲は、第3カム72の山部73が第1カム37の山部38に突き当たり、第4カム77の山部78が第2カム57の山部58に突き当たることによって規制されている。すなわち、第3カム72の山部73は周方向に第1カム37の山部38を越えることができず、第4カム77の山部78は周方向に第2カム57の山部58を越えることができないようになっている。
【0043】
図1及び8に示すように、圧縮コイルばね8は、入力軸5の軸部31の外周面とスリーブ7の内周面との間に画成される環状の空間に軸部31を囲むように配置され、その一端は大径軸部52の端面に当接し、他端はスリーブ7のばね座75に当接する。これにより、スリーブ7は、圧縮コイルばね8によって出力軸6に対して軸線A方向に入力側、すなわち基板12側に付勢されている。
【0044】
次に、図10及び11を参照し、以上のように構成したクラッチ1の作用効果について説明する。本実施形態に係るクラッチ1は、ハウジング4が他の装置等に固定された状態で使用される。入力軸5にはキー孔35に嵌合する電動モータの出力軸等の任意の回転部材が結合され、出力軸6にはキー孔63に嵌合する他の任意の回転部材が結合される。
【0045】
図10及び11は、各状態(A)〜(D)における入力軸5、出力軸6、スリーブ7、第1カム37、第2カム57、第3カム72、第4カム77、係合部80、座部14の位置関係と、結合端部32及び結合孔53の位置関係とを模式的に示す図である。図10(A)は、クラッチ1の初期状態を表す。初期状態においては、入力軸5と出力軸6とは、中立位置にあり、第1カム37の山部38と第2カム57の谷部59とが軸線A方向において正対している。スリーブ7は、圧縮コイルばね8に付勢されて入力側(基板12側)に変位し、第3カム72が第1カム37と全周にわたって接触した状態、すなわち軸線A方向において第1カム37と最も接近した状態となっている。このとき、スリーブ7は、係合部80において第1ハウジング2の座部14に係合し、第1ハウジング2(ハウジング4)に対して回転不能となっている。
【0046】
初期状態において、入力軸5に、ハウジング4に対して正転方向(軸線A方向に沿って入力側から見て入力軸5をハウジング4に対して軸線A回りの時計回り方向)に回転させる回転力が加えられると、中立位置から結合端部32の突出部34が結合孔53の側室55の壁面に当接するまでの回転範囲(30°)においては、入力軸5が出力軸6に対して相対回転する。すなわち、入力軸5が出力軸6に対して空転する。このとき、スリーブ7は、係合部80が座部14に係合しているため、入力軸5と共に回転することができず、入力軸5と共に回転する第1カム37に第3カム72が押圧され、圧縮コイルばね8の付勢力に抗して出力側に変位する。これにより、図10(B)に示すように、係合部80と座部14との係合が解除され、スリーブ7は入力軸5と共に一体回転するようになる。結合端部32の突出部34が結合孔53の側室55の壁面に当接した後は、出力軸6は入力軸5の正転に応じて一体回転する。以上のようにして、入力軸5に回転力が加えられた場合には、出力軸6も一体となって回転する。このとき、第1カム37の山部38と第2カム57の谷部59とは、軸線A回りに30°偏倚した状態となる。
【0047】
入力軸5の回転速度が一定となり、スリーブ7が入力軸5と共に回転するようになると、第1カム37が第3カム72を出力側に押圧する力が減少し、圧縮コイルばね8の付勢力によってスリーブ7が入力側に変位することがある。この場合には、係合部80と座部14とが接触した時点で入力軸5とスリーブ7との間に速度差が生じ、スリーブ7は第3カム72において第1カム37に押圧され、再び入力側へと変位する。このようなスリーブ7の入力側への変位を抑制するために、スリーブ7の外周面と第1ハウジング2の内筒11の内周面との間に摩擦力を発生させてもよい。スリーブ7と内筒11との間で摩擦力を発生させることによって、入力軸5は回転中常にスリーブ7を出力側に押圧することができる。
【0048】
図10(B)の状態において入力軸5に加えられる回転力が消滅すると、入力軸5は停止し、これに伴って出力軸6も停止する。この状態では、スリーブ7の第3カム72を出力側に押圧する力がなくなるため、スリーブ7は、圧縮コイルばね8に付勢されて入力側に変位する。このとき、第3カム72が第1カム37上を摺動し、スリーブ7は入力軸5に対して軸線A回りに回転しつつ、入力側に変位する。そして、図10(C)に示すように、第3カム72が第1カム37と全周にわたって接触した状態、すなわち軸線A方向において第1カム37と最も接近した状態となる。この状態では、スリーブ7は、係合部80において第1ハウジング2の座部14に係合し、第1ハウジング2に対して回転不能となる。
【0049】
図10(C)の状態において、入力軸5にハウジング4に対して正転方向に回転力が加えられた場合には、入力軸5は初期状態における場合と同様に第1カム37においてスリーブ7を出力側に変位させる。このとき、スリーブ7は入力軸5に対して回転しつつ出力側に変位し、図10(B)と同様の状態となる。
【0050】
入力軸5をハウジング4に対して負転方向(軸線A方向に沿って入力側から見て入力軸5をハウジング4に対して軸線A回りの時計回り方向)に回転させた場合も、正転方向に回転させた場合と同様に、出力軸6が回転する。また、入力軸5に加えられる回転力がなくなった場合も同様にスリーブ7が第1ハウジング2に対して回転不能となる。
【0051】
次に、入力軸5の回転が停止した状態(図10(A)及び(C))で、出力軸6に回転力が加えられた場合について説明する。
【0052】
図10(A)に示す初期状態において、出力軸6をハウジング4に対して正転方向に回転させた場合には、図11(D)に示すように、出力軸6の第2カム57がスリーブ7の第4カム77に当接する。初期状態においては、スリーブ7が係合部80において座部14に係合し、軸線A回りの回転が規制されているため、図11(D)の状態では出力軸6の回転はスリーブ7によって規制される。このとき、出力軸6は、第2カム57で第4カム77を押圧し、スリーブ7を入力側に押圧するため、係合部80と座部14との係合がより強化される。また、出力軸6がハウジング4に対して正転して第2カム57が第4カム77に当接するまでの間は、結合端部32が結合孔53内を空転し、入力軸5は出力軸6の回転に関わらず回転しない。以上のようにして、出力軸6に加えられた回転力が入力軸5に伝達されることはない。なお、出力軸6をハウジング4に対して負転方向に回転させた場合も同様である。
【0053】
図10(C)に示す第1カム37の山部38と第2カム57の谷部59とが軸線A回りに30°偏倚した状態において、出力軸6をハウジング4に対して正転方向に回転させた場合には、図11(D)に示すように、出力軸6の第2カム57がスリーブ7の第4カム77に当接し、出力軸6の回転が規制される。出力軸6がハウジング4に対して正転して第2カム57が第4カム77に当接するまでの間は、結合端部32が結合孔53内を空転し、入力軸5は出力軸6の回転に関わらず回転しない。結合端部32が結合孔53内を空転する間に、出力軸6と入力軸5との位置関係は一度、中立状態に復帰する。以上のようにして、出力軸6に加えられた回転力が入力軸5に伝達されることはない。
【0054】
図10(C)に示す第1カム37の山部38と第2カム57の谷部59とが軸線A回りに30°偏倚した状態において、出力軸6をハウジング4に対して負転方向に回転させる場合には、既に第2カム57が第4カム77に当接しているため、出力軸6の負転は規制される。以上のように、出力軸6に加えられた回転力が入力軸5に伝達されることはない。
【0055】
以上に説明したように、本実施形態に係るクラッチ1は、入力軸5に外部から回転力が加えられた場合には回転力を出力軸6に伝達し、出力軸6に外部から回転力が加えられた場合には回転力を入力軸5に伝達する。特に、出力軸6に外部から回転力が加えられる場合には、出力軸6の回転を規制するスリーブ7が、出力軸6の第2カム57に押圧されて、第1ハウジング2(ハウジング4)との係合をより強めるため、出力軸6の回転を確実に規制することができる。
【0056】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、実施形態に係る係合部80及び座部14の構成は例示であり、様々な変形実施が可能である。例えば、係合部80及び座部14の山部及び谷部を削除して平面同士が当接するようにしてもよい。この場合には各平面の摩擦力を高めるために表面をサンドブラスト等によって粗面化したり、ゴム等の高摩擦力部材を配置してもよい。また、スリーブ7の入力側の端部を先細となるテーパ面(円錐面)に形成し、座部14をテーパ面と相補的な形状を有する円錐台状の凹部としてもよい。その他、各カムの形状は例示であって、実施形態の形状に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0057】
1…クラッチ、2…第1ハウジング、3…第2ハウジング、4…ハウジング、5…入力軸、6…出力軸、7…スリーブ、8…圧縮コイルばね(付勢部材)、12…基板(第1支持部)、13…第1軸受孔、14…座部、22…底板(第2支持部)、23…第2軸受孔、32…結合端部、37…第1カム、51…小径軸部、52…大径軸部、53…結合孔、57…第2カム、62…補強リブ、72…第3カム、75…ばね座、77…第4カム、80…係合部、A…軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1支持部及び第2支持部を備えたハウジングと、
前記第1支持部に軸線回りに回転可能かつ軸線方向に移動不能に支持された入力軸と、
前記入力軸と同軸になるように前記第2支持部に軸線回りに回転可能かつ軸線方向に移動不能に支持され、前記入力軸に対して軸線回りに所定の角度範囲で相対回転可能に連結された出力軸と、
前記入力軸及び前記出力軸の少なくとも一方に回転可能かつ前記入力軸及び前記出力軸の軸線方向に変位可能に支持されたスリーブと、
前記入力軸又は前記出力軸と前記スリーブとの間に設けられ、前記スリーブを前記第1支持部側に付勢する付勢部材とを有し、
前記入力軸は、第1カムを備え、
前記出力軸は、第2カムを備え、
前記スリーブは、前記第1支持部と係合して前記第1支持部に対する前記スリーブの回転に抵抗力を発生する係合部と、前記第1カムと係合する第3カムと、前記第2カムと係合する第4カムとを備え、
初期状態においては、前記付勢部材に付勢された前記スリーブが前記第1支持部側に位置して、前記係合部が前記第1支持部に係合し、
前記入力軸に前記ハウジングに対する回転力が加えられた場合には、前記第1カムが前記第3カムを駆動して前記スリーブを前記付勢部材の付勢力に抗して前記第2支持部側に変位させて前記係合部と前記第1支持部との係合を解除すると共に、前記出力軸を前記入力軸と共に回転させ、
前記出力軸に前記ハウジングに対する回転力が加えられた場合には、前記第2カムが前記第4カムを押圧して前記スリーブを前記第1支持部側に押圧し、前記係合部と前記第1支持部の係合が維持されると共に、前記第4カムに前記第2カムが突き当たることによって、前記出力軸の前記ハウジングに対する回転が阻止されることを特徴とするクラッチ。
【請求項2】
前記係合部は、前記スリーブの端面に形成された摩擦係合部であり、前記第1支持部に当接することによって前記スリーブと前記第1支持部との間に摩擦力を発生することを特徴とする請求項1に記載のクラッチ。
【請求項3】
前記摩擦係合部は、前記スリーブの径方向に延在する山及び谷を複数備え、
前記第1支持部は、前記山及び谷と噛み合う座部を備えることを特徴とする請求項2に記載のクラッチ。
【請求項4】
前記第1カム、前記第2カム、前記第3カム及び前記第4カムは、前記入力軸及び前記出力軸の軸線を中心とした環状の端面カムであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つの項に記載のクラッチ。
【請求項5】
前記第2カムは、前記第3カムと対向する側と相反する側に補強リブを備えることを特徴とする請求項4に記載のクラッチ。
【請求項6】
前記付勢部材は、圧縮コイルばねであり、前記入力軸の外周面と前記スリーブの内周面との間に形成される空隙に前記入力軸を囲むように配置され、一端が前記スリーブに当接する一方、他端が前記出力軸に当接することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1つの項に記載のクラッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−61049(P2013−61049A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201383(P2011−201383)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000135209)株式会社ニフコ (972)