説明

クリンカダストの有効利用方法及びクリンカの発塵抑制方法

【課題】クリンカダストの有効利用を図ることができるとともに、そのように有効利用を図るべく、再利用しても、クリンカからの発塵を生じさせることがない、クリンカダストの有効利用方法と、そのようなクリンカダストの有効利用によってクリンカの発塵を抑制するクリンカの発塵抑制方法を提供することを課題とする
【解決手段】クリンカ製造時に発生するクリンカダストの重量に対して、1〜5重量%の量の脂肪族多価アルコール類からなる発塵抑制剤を前記クリンカダストに添加することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリンカダストの有効利用方法及びクリンカの発塵抑制方法、さらに詳しくは、セメント原料をキルンで焼成した際に得られる焼成物であるセメントクリンカからセメントを製造する過程、特に焼成後のクリンカの搬送工程で発生するクリンカダストを有効利用する有効利用方法と、そのようにして発生したクリンカダストを有効利用してクリンカの発塵を抑制するクリンカの発塵抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、クリンカは、セメント原料をキルンで焼成した際に得られる塊状の物質であり、このクリンカを粉砕することによってセメントが製造される。このようなクリンカは、ロータリーキルンで焼成され、エアー・クエンチング・クーラ(以下、AQC)と称される冷却部を経てサイロまで供給されるが、そのサイロまで供給される過程において粉塵が発生する。特に、AQCでの発塵が多いものとなっている。
【0003】
このような発塵は、作業環境上好ましくないために、集塵機で捕集される。このように捕集された粉塵は、たとえばタンクやサイロに貯蔵することも可能であるが、貯蔵するためのタンクやサイロが必要となり、粉塵を処理するためのコストが増大することとなる。そこで、このような余分なコストを低減させるために、クリンカの製造工程に戻して再利用することも行われており、そのような技術として、たとえば下記特許文献1に係る発明がある。
【0004】
この特許文献1に係る発明は、当該特許文献1の請求項1に記載されているように、「セメント焼成設備のサスペンションプレヒータ上部から排出される排ガスを、原料粉砕工程でセメント原料の乾燥に使用し、原料粉砕工程から排出される排ガスを集塵機で浄化排ガスと集塵ダストとに分離した後、浄化排ガスを大気中に放出し、集塵ダストをセメント原料の一部としてサスペンションプレヒータ上部に送入するセメント製造工程において、集塵ダストの一部を、セメントクリンカ製造工程の循環経路から排出する(A)工程と、(A)工程により排出した集塵ダストを、加熱装置内に導入し、還元雰囲気中で加熱処理する(B)工程と、(B)工程により加熱処理した集塵ダストを、急速冷却する(C)工程と、(C)工程により急速冷却した集塵ダストを、セメントクリンカ製造工程の循環経路に戻し、サスペンションプレヒータ上段からセメント原料として再度送入する(D)工程と、を含むことを特徴とするセメントの製造方法。」に係るものであり、上記(D)工程において、集塵ダストがセメントクリンカ製造工程の循環経路に戻されて再利用されている。
【0005】
しかし、集塵ダストで捕集した粉塵をクリンカの製造工程に戻して再利用すると、その粉塵が、セメント製造のためのクリンカの輸送途中で再び発塵の原因となる。焼成されたクリンカは、石膏等と混合され、粉砕されてセメントの製造に供されるが、特にクリンカの焼成場所と、石膏等との混合、粉砕の場所が異なるような場合には、輸送するクリンカの積み込み時や、輸送したクリンカの荷揚げ時等において著しい発塵が生じることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−184902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、焼成後のクリンカから発生し、捕集された粉塵の有効利用を図ることができるとともに、そのように有効利用を図るべく、再利用しても、従来のようなクリンカからの発塵を生じさせることがない、クリンカダストの有効利用方法と、そのようなクリンカダストの有効利用によってクリンカの発塵を抑制するクリンカの発塵抑制方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、このような課題を解決するために、クリンカ製造時に発生するクリンカダストの重量に対して、1〜5重量%の量の脂肪族多価アルコール類からなる発塵抑制剤を前記クリンカダストに添加することを特徴とするクリンカダストの有効利用方法を提供するものである。
【0009】
また本発明は、上記のようにして発塵抑制剤が添加されたクリンカダストを、クリンカに添加してクリンカの発塵を抑制することを特徴とするクリンカの発塵抑制方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上述のように、クリンカ製造時に発生するクリンカダストの重量に対して、1〜5重量%の量の脂肪族多価アルコール類からなる発塵抑制剤を前記クリンカダストに添加する方法であるため、そのような発塵抑制剤が添加されたクリンカダストをクリンカに添加することで、上記従来の特許文献1に記載されたようなクリンカダストを単にクリンカの製造工程に戻して再利用する方法のように、クリンカダストの再利用後にクリンカからの発塵が生じるようなこともなく、クリンカダストをクリンカに添加しない場合と同様に、クリンカの発塵を好適に抑制することが可能となった。
【0011】
しかも、このようにクリンカダストの再利用によるクリンカの発塵を好適に抑制することができるので、従来では困難であったクリンカダストの有効利用を図ることが可能となった。
【0012】
さらに、クリンカの発塵を好適に抑制することができるので、特に、クリンカの焼成場所と、石膏等との混合、粉砕の場所が異なるような場合において、輸送するクリンカの積み込み時や、輸送したクリンカの荷揚げ時等においても従来のように著しい発塵が生じるようなことがなく、発塵抑制が難しい輸送先の荷揚げ時等におけるクリンカの発塵を抑制して作業環境を向上させることができるという効果がある。
【0013】
さらに、クリンカ全体に対して発塵抑制剤を添加するのではなく、発塵の要因となるクリンカダストのみに対して発塵抑制剤を添加し、それをクリンカに添加するので、発塵の要因となりにくい粒径の大きいクリンカの部分に対しては発塵抑制剤が添加されないこととなり、発塵抑制剤が無駄に消費されることがないので、発塵の抑制を効率良く行うことができるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、上述のように、クリンカ製造時に発生するクリンカダストの重量に対して、1〜5重量%の量の脂肪族多価アルコール類からなる発塵抑制剤を前記クリンカダストに添加するクリンカダストの有効利用方法である。
【0015】
発塵抑制剤である脂肪族多価アルコール類としては、たとえばジエチレングリコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール等のグリコール類、グリセリン等を用いることができる。脂肪族多価アルコール類の炭素数も特に限定されるものではないが、炭素数3〜20の脂肪族多価アルコールを好適に使用することができる。
【0016】
脂肪族多価アルコール類からなる発塵抑制剤の添加量を、クリンカダストに対して1〜5重量%としたのは、5重量%を超えると、クリンカダストが凝集し、セメント中で発塵抑制剤が偏在化し、セメントの水和反応に悪影響を及ぼすおそれがあるからである。一方、1重量%未満であると、十分なクリンカの発塵抑制効果が得られないおそれがあるからである。
【0017】
発塵抑制剤をクリンカダストに添加する手段としては、たとえば発塵抑制剤をクリンカダストに滴下し、或いは噴霧することによって発塵抑制剤をクリンカダストに添加する手段等を採用することができる。
【0018】
また発塵抑制剤をクリンカダストに添加する際に、発塵抑制剤の粘度が障害となる場合には、水、エタノール、メタノールで希釈して添加することも可能である。さらに、発塵抑制剤をクリンカダストに添加する際に、攪拌すると、発塵抑制剤をクリンカダストに好適に混合することができる。
【0019】
さらに、本発明は、上記のようにして発塵抑制剤が添加されたクリンカダストを、クリンカに添加してクリンカの発塵を抑制するクリンカの発塵抑制方法である。
【0020】
発塵抑制剤が添加されたクリンカダストを、クリンカに添加する場所や時期は特に問うものではない。たとえば、焼成されたクリンカをコンベア等で搬送する工程において、発塵抑制剤が添加されたクリンカダストをクリンカに添加することが可能である。
【0021】
さらに、セメントの製造を行う場合の製造現場でのクリンカの取り扱い時に、発塵抑制剤が添加されたクリンカダストをクリンカに添加するのみならず、焼成場所とは別の場所へクリンカを輸送し、輸送先でクリンカを粉砕してセメントを製造するような場合にも、そのクリンカに、発塵抑制剤が添加されたクリンカダストを添加して発塵を抑制することができる。
【0022】
たとえばクリンカの焼成場所と、石膏等との混合、粉砕の場所が異なるような場合である。また、たとえばクリンカを海外へ輸出し、輸出先でセメントを製造するような場合に、輸出先での荷揚げ時に、クリンカに発塵抑制剤を添加して発塵を抑制することもできる。本発明においては、このような荷揚げ時におけるクリンカの発塵抑制に適用できる点に実益がある。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0024】
(実施例1)
集塵機で捕集した集塵ダストに、そのダストに対して3重量%のジエチレングリコールを添加した後、そのジエチレングリコールが添加されたダストを、クリンカに対して5重量%添加した。
【0025】
(実施例2)
集塵機で捕集した集塵ダストに、そのダストに対して3重量%のジエチレングリコールを添加した後、そのジエチレングリコールが添加されたダストを、クリンカに対して10重量%添加した。
【0026】
(比較例1)
ジエチレングリコール等の発塵抑制剤を添加していない集塵ダストを、クリンカに対して5重量%添加したものを準備し、比較例1とした。
【0027】
(比較例2)
ジエチレングリコール等の発塵抑制剤を添加していない集塵ダストを、クリンカに対して10重量%添加したものを準備し、比較例2とした。
【0028】
(比較例3)
集塵ダストを添加していないクリンカを準備し、比較例3とした。
【0029】
(試験例1)
上記実施例1、実施例2、比較例1、比較例2、比較例3の各試料を用いて発塵試験を行った。試験方法は次のとおりである。すなわち、クリンカ10kgを空のボールミルの中に入れ、1分間攪拌する。攪拌後、ミルの蓋を空け、粉塵計(柴田科学器械工業株式会社:デジタル粉塵計 P−5H2型)で粉塵濃度を測定した。その結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1からも明らかなように、集塵ダストにジエチレングリコールを添加した実施例1及び実施例2では、粉塵濃度はそれぞれ450CPM、620CPMであったが、ジエチレングリコールを添加しない集塵ダストを用いた比較例1及び比較例2では、1850CPM、及び2370CPMと、粉塵濃度が非常に高かった。従って、ジエチレングリコールを添加した集塵ダストをクリンカに添加することで、ジエチレングリコールを添加しない集塵ダストをクリンカに添加する場合に比べて発塵が抑制されることがわかった。
【0032】
尚、集塵ダストをクリンカに添加しない比較例3では、当然のことながら比較例1及び比較例2よりも粉塵濃度が低いが、実施例1及び実施例2では、この比較例3と遜色のない結果が得られ、特に実施例1では比較例3とほぼ同等の粉塵濃度であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリンカ製造時に発生するクリンカダストの重量に対して、1〜5重量%の量の脂肪族多価アルコール類からなる発塵抑制剤を前記クリンカダストに添加することを特徴とするクリンカダストの有効利用方法。
【請求項2】
請求項1記載のクリンカダストを、クリンカに添加してクリンカの発塵を抑制することを特徴とするクリンカの発塵抑制方法。

【公開番号】特開2011−73924(P2011−73924A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227510(P2009−227510)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】