説明

クリーニング機構を備えたイオン発生器

【課題】電極針の清掃を自動又は遠隔操作で行うことができ、かつ全体をコンパクトに構成できるクリーニング機構を備えたイオン発生器を提供する。
【解決手段】クリーニング機構6は、ファン3の回転軸と同軸に回転可能に構成された回転部材61と、回転部材61に放射状に取り付けられた複数のロッド62a〜62dと、各ロッドの先端部に取り付けられたブラシ63a〜63dとを有する。回転部材61の駆動は、連結手段66を介して電磁ソレノイド64によって行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極針のクリーニング機構を備えたイオン発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
コロナ放電により空気イオンを発生させ、生じた空気イオンをファンによる送風とともに対象物に帯電した静電気を中和する、いわゆる送風式イオン発生器は種々のものが開発されている。この種のイオン発生器は、コロナ放電を発生させるための電極針(放電針)を有するが、使用により空気中の塵埃が電極針の先端に吸引されて放電性能が低下するので、電極針は定期的にクリーニングを行う必要がある。例えば特許文献1に記載の送風式イオン生成装置では、「フィン部が気流を受けて可動部材が動作する。そして、可動部材に取り付けられたブラシ部材が放電針の先端に触れ、放電針の先端に付着したダストが除去される」とされている。また特許文献1には、「清掃手段をモータ(電動機)により作動させるように構成してもよい」旨が記載されている。
【0003】
一方特許文献2には、「イオン発生電極から埃と汚れを自動的に除去するクリーニング装置」が開示されており、「クリーニング装置は通常、ブラシアセンブリ、重量部分及び復元機構を有する」旨が記載されている。またシシド静電気株式会社からは、電極針を清掃するブラシと、そのブラシの位置を検出するための光電管とを備えたエアーイオナイザ(型番BF−27C)が市販されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−234972号公報
【特許文献2】米国特許第5,768,087号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のようにイオン発生器では、電極針を適当な時間間隔で清掃する必要があるが、イオン発生器は半導体製造装置のような、相当の長期間にわたり連続運転する設備に使用されることもある。このような場合、電極針の清掃だけのために設備を停止することは効率化の観点から極力避けなければならず、故に電極針の清掃を自動又は遠隔操作で行うことが望まれる。
【0006】
また半導体製造設備等におけるイオン発生器の設置位置は比較的狭い場所が多く、故にイオン発生器はなるべくコンパクトであること、特に送風方向に関してその厚さが薄いことが望まれ、一方では所定の性能を発揮できること(具体的には十分な送風量が得られること)が要求される。従って電極針を清掃するための手段は、イオン発生器全体を大型化、特に送風方向に厚くせず、かつイオン発生器のファンの送風量を低下させないこと、すなわちファンの前面に気流の障害となるような部材を有さないことが望まれる。また、イオン発生器の稼動時に、複雑な回路等を有さずとも、ブラシ等の清掃手段を電極針から十分離れた位置に退避できることも望まれる。
【0007】
そこで本発明は、電極針の清掃を自動又は遠隔操作で行うクリーニング機構を有し、かつ全体がコンパクトに構成されたイオン発生器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一態様によれば、コロナ放電によりイオンを生成するための少なくとも1つの電極針と、前記電極針により生成されたイオンを運搬する気流を生成する送風手段と、前記電極針を清掃するクリーニング機構とを有するイオン発生器であって、前記クリーニング機構は、前記電極針に当接可能に構成された清掃部材と、前記清掃部材を前記電極針に対して移動させるように構成されたアクチュエータとを有する、イオン発生器が提供される。
【0009】
また本発明の他の態様によれば、コロナ放電によりイオンを生成するための少なくとも2つの電極針と、前記電極針により生成されたイオンを運搬する気流を生成する送風手段と、前記電極針を清掃するクリーニング機構とを有するイオン発生器であって、前記クリーニング機構は、1つの電極針に当接可能に構成された第1のブラシと、他の1つの電極針に当接可能に構成された第2のブラシとを有し、前記第1のブラシ及び前記第2のブラシは、異なるタイミングで対応する電極針に当接するように構成される、イオン発生器が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様に係るイオン発生器では、アクチュエータによりブラシを移動させるので、複雑な機構を有さずともブラシの可動範囲や停止位置を制御することができる。
【0011】
また他の態様に係るイオン発生器では、全ての電極針に対してブラシが同時に接触することはないので、クリーニング機構を駆動するアクチュエータとして、より小型で出力の小さいものを使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明に係るイオン発生器の第1の実施形態を示す上面図であり、図2は図1のII−II線に沿う側断面図である。なお本実施形態では、直流型のイオン発生器を例として本発明を説明する。イオン発生器1は、筺体2と、筺体2の内部に配置された送風手段すなわちファン3と、コロナ放電によりイオンを発生させるための通常2対の電極針4a〜4dと、電極針4a〜4dに高電圧を送出する高電圧電源5a、5bとを有する。イオン発生器1はさらに、電極針4a〜4dとの間でコロナ放電を発生させる対向電極41を有する。対の電極針(図示例では電極針4aと4c、及び4bと4d)は互いに対向する位置に配置され、一方の対の電極針(4aと4c)はプラスの高電圧電源5aに電気的に接続され、他方の対の電極針(4bと4d)はマイナスの高電圧電源5bに電気的に接続される。これら高電圧電源からの印加電圧により、電極針と対向電極との間にコロナ放電が生じる。また対向電極は、筺体2を介して接地されている。このコロナ放電により空気イオンが生成され、生成された空気イオンはファン3により生じる気流とともに、除電すべき図示しない対象物に向けて運搬される。
【0013】
イオン発生器1はさらに、各電極針の清掃を行うクリーニング機構6を有する。クリーニング機構6は、ファン3の回転軸と同軸に回転可能に構成された回転部材61と、回転部材61に放射状に取り付けられた複数の(図示例では4つ)のロッド62a〜62dと、各ロッドの先端部に取り付けられたブラシ63a〜63dとを有する。なおロッド及びブラシの個数は電極針の個数より少なくてもよいし、電極針の個数と同数としてもよい。ブラシの個数が多い方が、回転部材61の回転角度範囲が小さくなり、清掃時間の短縮につながる。また1つのブラシで複数の電極針を清掃する場合は、各電極針やブラシの組付け誤差により電極針間で清掃効果にバラつきが生じ得るが、ブラシと電極針とを1対1で対応させれば、各ブラシと電極針との位置関係を個別に調整できる。なおブラシの毛の材質としては、ナイロン、PP又は金属が挙げられる。またブラシの代わりに、不織布等の清掃部材を用いることもできる。
【0014】
回転部材61の駆動はアクチュエータ64によって行われ、図示例ではアクチュエータ64として電磁ソレノイドが使用されている。ここで「アクチュエータ」とは、入力されたエネルギを物理運動量に変換するものであり、機械・電気回路を構成する機械要素を意味するが、本願明細書では電気信号等により作動して、ある部材をある位置と他の位置との間で双方向に移動(例えば直線移動や回転移動)させることができるものを指し、逆に電動機やエンジンのように動力を持続的に発生させるものは含まないものとする。また電磁ソレノイド以外のアクチュエータとしては、油圧式アクチュエータや、形状記憶合金を有し、入力電流により生じるジュール熱を利用するアクチュエータも使用可能である。これらのアクチュエータは基本的にはエネルギを付与することで運動を発生させるが、何らかの装置に使用される場合は、制御機構に組み込まれて電気的信号等によって制御される。
【0015】
図示例では、アクチュエータすなわち電磁ソレノイド64は、ファン3の周辺部すなわち送風方向に関してファン3の側方に配置される。また電磁ソレノイド64の動力は、連結手段66によって回転部材61に伝達される。なお連結手段66は公知のベルト、チェーン、ワイヤ又はクランク機構等が使用可能である。単純な構造の平ベルトやワイヤを使用すると、イオン発生器の製造コストや軽量化の観点から有利である。また各ブラシは各電極針に対して高い位置決め精度を必要としないことから、若干のスベリが生じ得る平ベルトやワイヤでも特段問題はない。
【0016】
上述のように本発明では、電磁ソレノイド64がファン3の側方に配置されるので、アクチュエータの存在によってイオン発生器1全体の厚さすなわち送風方向に関する長さが長くなることはなく、いわゆる薄型のイオン発生器を構成することができる。またファン3により気流が生じる領域内に存在するクリーニング機構の要素は、気流に対する抵抗が実質無視できるような平ベルトのみとすることができるので、イオン発生器の送風量が低減することもない。結果としてファンの容量を大きくする必要がなく、イオン発生器をコンパクトにすることができる。
【0017】
次に、クリーニング機構6の作用について説明する。電磁ソレノイド64のための図示しない電源スイッチをオンにすると、電磁ソレノイド64が作動(ここでは電磁ソレノイド64が有するプーリ等の要素65が回転)する。但しプーリ65は連続的に一方向に回転するのではなく、所定の角度範囲での往復運動を行う。ここで所定の角度範囲とは、各ブラシが各電極針を互いに反対向きの両方向から清掃でき、かつ電磁ソレノイド64が作動していないとき(あるいは作動が終了したとき)は各ブラシが電極針の放電による熱等の影響を受けない程度に各電極針から離れて位置するような範囲である。所定の角度範囲が広すぎると清掃時間が長くなり、逆に狭すぎると電極針からブラシが十分な距離だけ離れることができなくなる。例えば図示例のように4つの電極針に対し4つのブラシが設けられている場合、回転部材61に取り付けられた各ロッドの可動角度範囲は、典型的には約20°以上である。また、その可動角度範囲は典型的には60°以下である。このような構成により、電磁ソレノイド64の要素65に連結手段66を介して連結された回転部材61と実質一体の各ブラシは、各電極針を左右両方向から清掃することができる。
【0018】
例えば電磁ソレノイド64の作動による回転部材61の回転角度範囲が45°の場合、電磁ソレノイド64の作動前は各ロッドが対応する電極から左回りに22.5°離れた初期位置すなわち第1の位置に位置決めされる。ここで電磁ソレノイド64を起動すると、電磁ソレノイド64に連結されたプーリ65が右回りに回転し、各ブラシは対応する電極針に当接(清掃)した後さらに22.5°右回りに電極針から離れた第2の位置まで移動して停止する。次に、プーリ65を逆方向すなわち左回りに回転させると、各ブラシは先程と逆方向に対応する電極針を清掃し、初期位置に戻って停止する。清掃操作は一度の清掃について片道分だけ行ってもよいし、一往復分行ってもよい。往復した清掃操作を行うと、電極針の両側面を清掃できるため、清掃効果が高くなる。このような清掃操作を、適当な時間間隔(例えば24時間に1回)で行うことにより、電極針をその性能が発揮できる程度に清浄な状態に保つことができる。なお清掃操作は、一度に数往復行ってもよい。
【0019】
このように本発明では、複雑な回路等を使用することなく、単純な動作を行うアクチュエータを用いてブラシの停止位置を制御することができる。なお電磁ソレノイド64としては、図示しない電源スイッチがオンになったときや制御信号が入力されたときに第1の位置から第2の位置に回転し、電源スイッチがオフになったときや別の制御信号が入力されたときに第1の位置に戻る単方向型ソレノイドを使用してもよいし、双方向に電磁力で回転する双方向型ソレノイドを使用してもよい。単方向ソレノイドは、第2の位置から第1の位置に復帰するときはバネ等の部材を利用するため、ソレノイドを回転させる駆動力がそのバネによって一部相殺されてしまう。また、駆動力がソレノイドの回転方向で大きく異なる傾向にある。一方双方向ソレノイドは、双方向に電磁力で回転するので、単方向ソレノイドよりも一般に高い駆動トルクが得られ、左右方向のトルクの違いが少ない。また、バネ等によるトルクの相殺分がなくエネルギ効率が一般に高い。なお図示例では回転式の電磁ソレノイドを用いているが、代わりに直動式電磁ソレノイドやエアソレノイドを使用することもできる。
【0020】
電極針の清掃時に、全てのブラシが同時に電極針に当接すると、その瞬間に大きな回転抵抗が生じることになるので、その抵抗に打ち勝つために比較的大きいトルクを生じさせるアクチュエータやその動力源が必要となる。従ってより低いトルクで清掃を行えるように、クリーニング機構は、その全てのブラシが同時に電極針を清掃(すなわち電極針に当接)しないように構成することができる。具体的には、図1のように電極針が等間隔で配置されている場合に、図3に示す変形例のように、回転部材161に固定され隣接するロッドの角度間隔が均等(図示例ではロッドが4本なので90°)ではなく、ロッド162aと162bとの間、及びロッド162cと162dとの間の角度αを90°よりいくらか小さくし、逆にロッド162bと162cとの間、及びロッド162dと162aとの間の角度βを90°よりいくらか大きくすることができる。つまり、対向する電極針(例えば4aと4c)を清掃するブラシ(例えば163aと163c)は、対応する電極針を同時に清掃できるように互いに180°離れて配置される。個々のブラシがそれぞれ異なったタイミングで電極針を清掃するように各ロッド間の角度を調整することもできるが、図3のような構成とすると、回転部材、ロッド及びブラシを含むクリーニング機構全体が電極針との接触抵抗により傾く(図2において斜めになる)ことを抑制し、安定した回転動作や清掃結果をもたらす。明らかなように、電極針が等間隔に配置されていない場合には、ロッド間の角度を均等としても同様の効果が得られる。
【0021】
図4は、本発明に係るイオン発生器の第2の実施形態を示す上面図であり、図5は図4のV−V線に沿う側断面図である。なお第1の実施形態と同様の構成要素には、第1の実施形態の各要素の参照符号に200を付した参照符号が付されている。第2の実施形態は、ロッド262a〜262dに対するブラシ263a〜263dの取り付け方向が第1の実施形態と異なる。具体的には、各ブラシが各ロッドの先端からその長手方向に延びるように配置され、各電極針の延びる方向と各ブラシの毛先の延びる方向とが概ね一致している。第2の実施形態では、クリーニング機構206全体としての厚さ(送風方向長さ)を第1の実施形態のクリーニング機構6よりさらに薄くできるので、イオン発生器201全体としての厚さもさらに薄くすることができる。第2の実施形態の他の部分については第1の実施形態と同様でよいので、詳細な説明は省略する。
【0022】
上述の各実施例は直流型のイオン発生装置を例に説明したが、交流型のイオン発生装置においても本発明を同様に実施することができる。交流型のイオン発生装置では、必ずしも電極針を対向した位置に配置する必要性はなく、例えば電極針は1つでもよい。また、全ての電極針は、1つの交流電源に電気的に接続可能であり、電極針と対向して配置される対向電極との間でコロナ放電を行う。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るイオン発生器の上面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う側断面図である。
【図3】図1のイオン発生器が有するクリーニング機構の好適な変形例を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るイオン発生器の上面図である。
【図5】図4のV−V線に沿う側断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 イオン発生器
2 筺体
3 ファン
4a〜4d 電極針
41 対向電極
5a、5b 電源
6 クリーニング機構
61 回転部材
62a〜62d ロッド
63a〜63d ブラシ
64 アクチュエータ
65 プーリ
66 連結手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロナ放電によりイオンを生成するための少なくとも1つの電極針と、前記電極針により生成されたイオンを運搬する気流を生成する送風手段と、前記電極針を清掃するクリーニング機構とを有するイオン発生器であって、
前記クリーニング機構は、前記電極針に当接可能に構成された清掃部材と、前記清掃部材を前記電極針に対して移動させるように構成されたアクチュエータとを有する、イオン発生器。
【請求項2】
前記アクチュエータは、前記送風手段の送風方向に関して前記送風手段の側方に配置されている、請求項1に記載のイオン発生器。
【請求項3】
前記清掃部材はブラシである、請求項1又は2に記載のイオン発生器。
【請求項4】
前記清掃部材は、往復動して前記電極針を両方向から清掃可能に構成される、請求項1〜3のいずれか1項に記載のイオン発生器。
【請求項5】
前記アクチュエータは双方向型ソレノイドである、請求項4に記載のイオン発生器。
【請求項6】
コロナ放電によりイオンを生成するための少なくとも2つの電極針と、前記電極針により生成されたイオンを運搬する気流を生成する送風手段と、前記電極針を清掃するクリーニング機構とを有するイオン発生器であって、
前記クリーニング機構は、1つの電極針に当接可能に構成された第1のブラシと、他の1つの電極針に当接可能に構成された第2のブラシとを有し、前記第1のブラシ及び前記第2のブラシは、異なるタイミングで対応する電極針に当接するように構成される、イオン発生器。
【請求項7】
1つの電極針と、該1つの電極針に対向する位置に配置された電極針とに対して、異なるブラシが同時に当接する、請求項6に記載のイオン発生器。
【請求項8】
前記クリーニング機構は、1つの回転軸について回転可能な回転部材と、前記回転部材から放射状に延びるように前記回転部材に取り付けられて、各々が前記第1及び第2のブラシの各々を有する複数のロッドとを有し、前記複数のロッドは前記回転部材に対して異なる角度間隔で取り付けられる、請求項6又は7に記載のイオン発生器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−54315(P2009−54315A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217268(P2007−217268)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)