説明

クリーム風味を有するバター及びその製造方法

【課題】バターの製造工程中に失われるクリーム風味をバター風味との調和を保った形で有しており、かつ、従来のバターの有するバターとしての展延性や他の物性がバターとして問題のないバターを提供することを課題とする。
【解決手段】 クリームをバター粒子が形成された後に一定量添加して練圧することで、「ボロツキ」「遊離水」「色調」において従来のバターと同様の結果を示し、またクリーム風味とバター風味が調和した芳醇なクリーム風味を有するバターとなることを見出し、先の課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好なクリーム風味を有するバターとその製造方法に関する。より詳しくはバターの物性に影響を与えずにバターにクリームを添加して良好なクリーム風味を有するバターを製造する方法とその結果得られる、新規で有用なバターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
バターは通常次の工程によって得られる。つまり乳から遠心分離等で乳脂肪を30%から40%に濃縮してクリームとし、そのクリームを加熱殺菌してリパーゼ等の脂肪分解酵素を失活させた後5℃程度に急冷し、その状態で一定時間エージングして脂肪球を安定な結晶に調整する。さらにチャーニング(チャーン容器による攪拌操作)によって脂肪球を凝集させてバター粒にし、水溶成分(バターミルク)を取り除く。加塩バターの場合は塩を加え、ワーキング(練圧)してバター粒を充分に練り合わせて製造される。
【0003】
以上の製造工程を実行することによって、バターとしての展延性や融解特性等の良好なバターが得られる。しかしながら、原料としてクリームを用いているにもかかわらず、クリームの芳醇な風味は取り除かれるバターミルクと共に散逸あるいは除去されてしまい、最終製品のバターに残らないという問題点を有していた。従来バターの風味を良好にする方法としてはクリームを乳酸発酵させてから作る発酵バターがあり、また先のワーキング工程中にジアセチル等の乳酸菌の生成する風味成分を微量添加する方法も行われている。しかしながらこの場合の風味は、発酵バターとしての風味であり、先のクリーム風味が除去されずに残り、クリームの風味が加わった芳醇な風味を有するバターを製造するという目的からは外れたものとなっている。
【0004】
このようにクリーム風味が散逸してしまうという問題点があるにもかかわらず、バターの製造方法に関する検討は主にバターの物性の改良に向けられており、例えばバターに通常よりもさらに適度な硬度と展延性を与える方法として、バター脂肪を溶融し、これを冷却して固体脂肪と液体脂肪に分別し、得られる固体脂肪とバターミルクとを混合溶解し予備乳化してクリーム状とし、このクリーム状物と生乳より分離した生クリームとを混合し、剪断及び超音波によって乳化し、これを原料として常法によりバターとすることで、先の物性をバターに与えるバターの製造法が開示されている(特許文献1)。しかしながら、バターの製造方法において、バターの物性に影響を与えることなくクリーム風味をバターに付与し、これまでにない良好な風味を有するバターとして提供するという検討は報告されていない。
【0005】
【特許文献1】特開平03-232455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はバターの商品性に関係する物性に影響を与えずに、バターがその製造工程中に失ってしまうクリームとしての芳醇な風味を有したバターとなる製造方法を提供し、その結果、従来無い良好な風味と従来同様の物性を有する新規で有用なバターを提供することを課題として成し遂げられたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、以上の課題につき鋭意検討を行った結果、バターの製造工程において、ワーキング工程中あるいはその後にクリームを添加することで、バターの組織中にクリームが分散され、従来のバターの物性を保持していながら従来のバターにはない良好なクリーム風味を有する新規で有用なバターが得られることを見出した。そして、そのようにして得られたバターはO/W/O型の2重乳化構造となっていることを確認した。
【0008】
そして、先の方法の内、ワーキング途中でクリームを比例注入する場合は全ての工程を連続的に行うことも可能な為、製造工程上の有用性も高い方法となっていることも確認した。
【0009】
すなわち本発明は以下の1)から6)の内容を持つものである。
1)クリームをバター粒子が形成された後に添加して練圧すること、を特徴とするクリーム風味を有するバターの製造方法。
2)クリームをバター粒子が形成された後に添加して練圧することでボロツキや遊離水においてクリーム添加の影響が出ないこと、を特徴とするクリーム風味を有するバターの製造方法。
3)クリーム添加がワーキング工程中に行われる、前記1)または2)に記載のクリーム風味を有するバターの製造方法。
4)クリームの添加方法が比例注入法である、1)ないし3)に記載のクリーム風味を有するバターの製造方法。
5)クリーム添加によって増加する無脂乳固形分が0.06wt%から0.3wt%であること、を特徴とする1)ないし4)に記載のクリーム風味を有するバターの製造方法。
6)1)ないし5)の製造方法で得られるクリーム風味を有するバター。
【発明の効果】
【0010】
本発明によればこれまでバター製造時に失われていたクリーム風味をバターとしての商品性に影響を与える物性の変化を伴うことなく付加することができ、その結果従来のバターに無かったクリーム風味とバター風味の融合した芳醇な風味を有するバターを提供することができる。また本発明によれば先のバターを通常の製造工程の流れを滞らせることなく連続的な工程で得ることができるという効果も有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明についてより詳細に説明する。本発明でバターの製造に用いるクリームは、原乳を50℃程度に加温・遠心分離して脂肪分30〜50%程度のクリームとして得、その一部を添加用として別タンクで保管しておく。チャーニングまでのバターの製造は常法にて行えば良い。尚、以下の%は全て重量%である。
【0012】
チャーニングによってクリームがバター粒子に相転換した後、ワーキング部の添加用ノズルから予め保管してあったクリームをバターに対して、クリーム風味とバター風味のバランスを考慮して、無脂乳固形分(以下SNF)として0.06%から0.3%、好ましくは0.09%から0.21%程度のクリームが添加された状態となるように比例注入し、更に練圧する。ワーキング後にクリームを添加混合する方法も可能であるが、ワーキング中に連続的な工程でクリームを添加する方が工程上、装置、さらに設備上の負荷が少なくより好適に用いられる方法である。
【0013】
クリームの添加量が多くなるとクリームとしての風味は当然強まるがバター風味とのバランスを考えた場合、クリームの添加量は先の添加範囲で用いた場合に従来無い芳醇な風味を持つ新規で有用なクリーム風味バターとなる。また、この添加量であれば得られたバターは実製造ラインの開始から終了まで一貫してボロツキがなく展延性が良好で堅さや遊離水においてもバターとしての良好な物性を維持した状態で製造することができる。
【0014】
以下に本発明をその実施例、試験例、比較例を示すことでより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、%はいずれも重量基準である。
【実施例】
【0015】
(実施例1)
基本配合を無塩バター95.0%、FAT47%クリームを5.0%とした場合の本発明品の製造方法を以下に記載する。
原乳を50℃程度に加温後遠心分離して得られたクリームを90℃60秒で殺菌後5℃から6℃程度に冷却し、8時間エージングした。添加用としてクリームを別タンクで貯乳し、バターを製造した。10℃程度まで加温後、チャーニングによってクリームをバター粒子に相転換した後、ワーキング部の添加用ノズルから先に貯乳しておいたクリームをバター重量に対して5%比例注入し、更に練圧した。得られたバターは展延性や融解特性の良好なバターとなっており、且つクリーム風味とバター風味がほどよく調和した芳醇な風味を有する新規なバターとなっていた。
【0016】
(試験例1)クリーム添加量がバターの風味に与える影響の検討。
ホバートミキサーを用いて生クリーム800gをチャーニングし、バター粒子を400g得た。バターミルクを排除し、生クリームを0%〜20%各々添加後、混練したバターの組成、風味の変化を比較検討した。結果を表1に示す。
【0017】
【表1】

FAT 47%のクリームを添加した場合、添加量は2%から10%(SNF増加量で0.06%から0.3%)の間が比較的良好な風味を示し、3%から7%(SNF増加量で0.09%から0.21%)ではより良好な風味を示し、3%から5%(SNF増加量で0.09%から0.15%)では特にクリーム風味とバター風味のバランスが良好でこれまでにない芳醇な風味を有するバターとなった。クリーム添加量が2%以下(SNF増加量が0.06%以下)ではクリーム風味が弱く、通常のバターとの風味の差を認めにくく、一方、クリーム添加量が10%を越えた場合(SNF増加量が0.3%以上)にはクリーム風味は強くなるがバター風味とのバランスが悪くなり、目的としたこれまでにない芳醇な風味を有するバターとはならないことが確認された。 また添加したクリームはバター中でO/W/O型の2重乳化を形成していることを確認した。
【0018】
(試験例2)。
実製造ラインにおいて実施例1と同様にクリームを添加量5%で比例注入し、製造時間1分から40分の間にサンプリングした試料の水分、油分、SNFの変動の有無について検討を行った。得られた結果を表2に示す。製造開始時から終了時に至るまで、ほぼ同様の水分値、油分値、SNFを示した。この結果によりクリーム添加バターが実製造ラインにおいても製造工程中一定の品質を持つクリーム添加バターとして製造できることが確認された。
【0019】
【表2】

【0020】
また、試験例2で製造し、製造開始直後にサンプリングした試料と製造開始後40分でサンプリングした試料、及びクリームを添加していないバター3種類を5人の評価者によって「ボロツキ」「遊離水」「色調」の3つの評価軸における評価を行ったところ、3つの評価軸とも先のバター3種類は同様の結果となり、本発明品はバターとしての物性に無添加品との差を認めず通常のバターの物性を保持していることが確認された。
尚、「ボロツキ」は15℃に調温したバターをバターナイフで一さじ採取後押しつぶし、つぶれた端面の形状、展延性を調べて判定した。「遊離水」は15℃に調温したバターの表面にバターナイフを直角に当て、軽く圧しながら前方に押し出し、その際にバターナイフ上面に波状に集まったバターの間に溜まった水滴の大きさと数により判定した。
【0021】
先の5%クリーム添加バターと対照のクリーム無添加バターに対する官能評価実施者のコメントを表3にまとめた。その結果、本発明のクリーム添加バターは対照のバターに比べて良好な官能評価結果が得られ、総体として従来のバターに比べて芳醇なクリーム風味を有しており、新規で有用なバターとなっていることが確認された。
【0022】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリームをバター粒子が形成された後に添加して練圧すること、を特徴とするクリーム風味を有するバターの製造方法。
【請求項2】
クリームをバター粒子が形成された後に添加して練圧することでボロツキや遊離水においてクリーム添加の影響が出ないこと、を特徴とするクリーム風味を有するバターの製造方法。
【請求項3】
クリーム添加がワーキング工程中に行われる、請求項1または2に記載のクリーム風味を有するバターの製造方法。
【請求項4】
クリームの添加方法が比例注入法である、請求項1ないし3に記載のクリーム風味を有するバターの製造方法。
【請求項5】
クリーム添加によって増加する無脂乳固形分が0.06wt%から0.3wt%であること、を特徴とする請求項1ないし4に記載のクリーム風味を有するバターの製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5の製造方法で得られるクリーム風味を有するバター。

【公開番号】特開2007−20429(P2007−20429A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−203790(P2005−203790)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【特許番号】特許第3856457号(P3856457)
【特許公報発行日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【Fターム(参考)】