説明

クリーンルーム用壁紙

【課題】VOCの放出が防止又は抑制されたクリーンルーム用壁紙を提供する。
【解決手段】塩化ビニル系樹脂を含まない壁紙であって、紙質基材上に、接着剤層、ポリオレフィン系非発泡樹脂層及び保護層1を順に積層してなるクリーンルーム用壁紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーンルーム用壁紙に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体、液晶、磁気ディスク、医療機器、光学機械等の製造施設のクリーンルームは、一定の空気清浄度が確保されている必要がある。そのため、クリーンルームの壁紙は、例えば、有機性揮発物質(VOC)等を放散しないことが求められている。
【0003】
従来より、一般的な壁紙として、紙質基材上にポリ塩化ビニル(PVC)樹脂層と柄印刷層とを設けた塩化ビニル壁紙や、塩化ビニルシート上に、発泡剤を含有する塩化ビニルペーストを塗布した後、該ペーストの層を発泡させることにより得られる表面に凹凸模様を有する発泡壁紙が知られている。
【0004】
しかしながら、これらの塩ビ系壁紙は、製造に際して、VOCを多量に使用するため、壁紙中にVOCを多く含んでいる。従って、VOCが壁紙から揮発しクリーンルーム内に放出されるという問題がある。
【0005】
一方、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂からなるフィルム(エバールフィルム)を表面に積層することによりVOCの放出を抑制する技術が提案されている(特許文献1)。
【0006】
しかしながら、壁紙の表面にエバールフィルムを積層したとしても、紙質基材側からVOCが放出されるおそれがある。特に、壁紙は、製造後、ロール状に巻き取られた状態(壁紙を構成する紙質基材とエバールフィルムとが接触した状態で)で保管される。そのため、壁紙の紙質基材側から放出されたVOCが表面のエバールフィルムに付着し、付着したVOCが施工後に空気中に放出されるおそれがある。このような場合には、クリーンルーム用として適しているとは言い難い。
【特許文献1】特開2006-282834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、VOCの放出が防止又は抑制されたクリーンルーム用壁紙を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、特定の構成を採用した壁紙が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の壁紙に関する。
1. 塩化ビニル系樹脂を含まない壁紙であって、紙質基材上に、接着剤層、ポリオレフィン系非発泡樹脂層及び保護層1を順に積層してなるクリーンルーム用壁紙。
2. 前記保護層1が帯電防止剤を含有する上記項1に記載のクリーンルーム用壁紙。
3. 前記保護層1上に、さらに保護層2を積層してなる上記項1に記載のクリーンルーム用壁紙。
4. 前記保護層1と前記保護層2との間に、絵柄模様層を有する上記項3に記載のクリーンルーム用壁紙。
5. 前記保護層2が帯電防止剤を含有する上記項3又は4に記載のクリーンルーム用壁紙。
【0010】
本発明のクリーンルーム用壁紙は、塩化ビニル系樹脂を含まない壁紙であって、紙質基材上に、接着剤層、ポリオレフィン系非発泡樹脂層及び保護層1を順に積層してなるものである。
【0011】
前記塩化ビニル系樹脂とは、塩化ビニルを単独重合させてなる重合体、塩化ビニルおよび塩化ビニルと共重合し得る他の単量体の共重合体、ならびに該重合体および該共重合体の混合物を言う。
【0012】
本発明によれば、紙質基材と保護層1との間に、接着剤層を介してポリオレフィン系非発泡樹脂層を積層させることにより、VOCの放出が防止又は抑制された壁紙が得られる。
【0013】
本発明では、前記ポリオレフィン系非発泡樹脂層を形成する際、VOCの発生原因となる材料の使用量を効果的に抑制できる。そのため、本発明の壁紙は、VOCの放出量が少ない。
【0014】
一方、塩ビ系壁紙を製造する際、塩化ビニル系樹脂に可塑性を付与する必要があるため、通常、可塑剤が使用される。前記可塑剤としては、フタル酸エステル(例えば、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジイソノニル等)、アジピン酸エステル、セバシン酸エステル等が使用される。これらの可塑剤はVOCの発生原因となるため、塩ビ系壁紙はVOCを多量に放出する。
【0015】
このようなVOCの放出が防止又は抑制された本発明の壁紙は、住宅等の壁面はもちろんのこと、特に、精密機器等を製造するためのクリーンルームや病院の壁面に使用できる。特に、本発明の壁紙は、クリーンルーム用壁紙として好適に用いることができる。
【0016】
紙質基材
紙質基材は、壁紙基材として適した機械強度、耐熱性等を有する限り特に限定されず、繊維質シートが一般に使用できる。
【0017】
具体的には、繊維質シートの中でも、難燃紙(パルプ主体のシートをスルファミン酸グアニジン、リン酸グアジニン等の難燃剤で処理したもの);水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機添加剤を含む無機質紙;上質紙;薄用紙などが挙げられる。
紙質基材の坪量は限定的ではないが、50〜300g/m2程度が好ましく、50〜80g/m2程度がより好ましい。
【0018】
接着剤層
下記非発泡樹脂層と紙質基材との密着性を向上させるために、紙質基材及び下記非発泡樹脂層の間に、接着剤層を形成してもよい。
【0019】
前記接着剤層を構成する樹脂成分としては、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−メチルアクリレート共重合体(EMA)等の少なくとも1種を例示できる。この中でも特に、EVAが好ましい。
【0020】
紙質基材との貼り合わせ易さの観点から、接着剤層のメルトフローレート値(以下、「MFR」と略記する)は、下記非発泡樹脂層のMFRより大きいほうが好ましい。なお、前記MFRは、JIS K 7210(熱可塑性プラスチックの流れ試験方法)記載の試験方法により測定することができる。試験条件は、JIS K 6760記載の「190℃、21.18N(2.16kgf)」採用したものである。
【0021】
接着剤層の厚みは限定的ではないが、5〜20μm程度が好ましく、10〜15μm程度がより好ましい。
【0022】
ポリオレフィン系非発泡樹脂層
ポリオレフィン系非発泡樹脂層は、ポリオレフィン系樹脂を樹脂成分として用いて形成された樹脂層である。本発明の壁紙は、発泡壁紙とは異なり発泡樹脂層を有さない。本発明の壁紙は、発泡樹脂層の代わりにポリオレフィン系非発泡樹脂層を形成したものである。
【0023】
前記ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、エチレン−プロピレン共重合体、EVA、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)、EMMA、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー等の少なくとも1種が挙げられる。この中でも特に、EMAA又はEVAが好ましく、EMAAがより好ましい。
【0024】
前記非発泡樹脂層中におけるポリオレフィン系樹脂の含有量は、35〜80重量%程度が好ましく、40〜60重量%程度がより好ましい。
【0025】
その他、前記非発泡樹脂層は、必要に応じて公知の添加剤をさらに含有してもよい。公知の添加剤としては、例えば、無機充填剤、顔料、難燃剤、熱安定剤、滑剤、防カビ剤、抗菌剤等が挙げられる。
【0026】
無機充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、三酸化アンチモン、ホウ酸亜鉛、モリブデン化合物等が挙げられる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。無機充填剤を用いることにより、目隙抑制効果、表面特性向上効果等が得られる。無機充填剤の含有量は、前記ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、0〜100重量部程度が好ましく、20〜70重量部程度がより好ましい。
【0027】
顔料については、公知の無機顔料及び有機顔料の少なくとも1種を用いることができる。顔料を用いることにより、前記非発泡樹脂層を着色することができる。無機顔料としては、例えば、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック、黒色酸化鉄、黄色酸化鉄、黄鉛、モリブデートオレンジ、カドミウムイエロー、ニッケルチタンイエロー、クロムチタンイエロー、酸化鉄(弁柄)、カドミウムレッド、群青、紺青、コバルトブルー、酸化クロム、コバルトグリーン、アルミニウム粉、ブロンズ粉、雲母チタン、硫化亜鉛等が挙げられる。有機顔料としては、例えば、アニリンブラック、ペリレンブラック、アゾ系(アゾレーキ、不溶性アゾ、縮合アゾ)、多環式(イソインドリノン、イソインドリン、キノフタロン、ペリノン、フラバントロン、アントラピリミジン、アントラキノン、キナクリドン、ペリレン、ジケトピロロピロール、ジブロムアンザントロン、ジオキサジン、チオインジゴ、フタロシアニン、インダントロン、ハロゲン化フタロシアニン)等が挙げられる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。前記非発泡樹脂層中における顔料の含有量は、特に限定されず、意匠性等の観点から適宜設定すればよい。
【0028】
前記非発泡樹脂層の厚みは限定的ではないが、5〜200μm程度が好ましく、20〜100μm程度がより好ましい。
【0029】
保護層1
前記非発泡樹脂層の上部に、保護層1を形成する。保護層1を形成することにより、壁紙の耐傷性等を向上させることができる。
【0030】
保護層1を構成する樹脂は、特に限定されないが、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)が好ましい。EMAAの含有量は特に限定されないが、例えば、本発明の壁紙が後述する保護層2を有する場合、保護層1中におけるEMAAの含有量は70〜100重量%程度が好ましい。
【0031】
保護層1が壁紙の最表面にある場合、保護層1は帯電防止剤を含有することが好ましい。帯電防止剤と含有することにより、壁紙の帯電が防止または抑制されている。その結果、空気中の微小な浮遊物(例えば、チリ、ホコリ等)が壁紙に吸着しにくい。
【0032】
帯電防止剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、非イオン性界面活性剤、イオン性高分子等が挙げられる。これらは一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。この中でも特にイオン性高分子化合物が好ましく、リチウムイオン性高分子化合物がより好ましい。リチウムイオン性高分子化合物としては、例えば、ポリアルキレングリコールを主成分とするポリマーに過塩素酸リチウム等を複合化させた化合物、ポリスチレンスルホン酸にリチウムを複合化させた化合物、ポリスチレンスルホン酸−マレイン酸コポリマーにリチウムを複合化させた化合物等が挙げられる。
【0033】
その他、前記例示の帯電防止剤以外にも、金属系帯電防止剤、カーボン系帯電防止剤、有機錯体系帯電防止剤等の公知の帯電防止剤を使用することもできる。
【0034】
保護層1中における前記帯電防止剤の含有量は、特に限定されないが、樹脂成分100重量部に対して5〜100重量部程度が好ましく、10〜50重量部程度がより好ましい。
【0035】
保護層1の厚みは限定的ではないが、1〜50μm程度が好ましく、3〜20μm程度がより好ましい。
【0036】
絵柄模様層
保護層1上に、必要に応じて、絵柄模様層を形成してもよい。絵柄模様層を設けることにより、壁紙に意匠性を好適に付与できる。
【0037】
絵柄模様としては、例えば、木目模様、石目模様、砂目模様、タイル貼模様、煉瓦積模様、布目模様、皮絞模様、幾何学図形、文字、記号、抽象模様等が挙げられる。絵柄模様は、壁紙の種類に応じて選択できる。
【0038】
絵柄模様層は、例えば、保護層1上に絵柄模様を印刷することにより形成できる。印刷手法としては、例えば、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、オフセット印刷等が挙げられる。印刷インキとしては、着色剤、ビヒクル、溶剤を含む公知の印刷インキが使用できる。
【0039】
着色剤としては、例えば、公知の無機顔料および有機顔料を用いることができる。無機顔料としては、例えば、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック、黒色酸化鉄、黄色酸化鉄、黄鉛、モリブデートオレンジ、カドミウムイエロー、ニッケルチタンイエロー、クロムチタンイエロー、酸化鉄(弁柄)、カドミウムレッド、群青、紺青、コバルトブルー、酸化クロム、コバルトグリーン、アルミニウム粉、ブロンズ粉、雲母チタン、硫化亜鉛等が挙げられる。有機顔料としては、例えば、アニリンブラック、ペリレンブラック、アゾ系(アゾレーキ、不溶性アゾ、縮合アゾ)、多環式(イソインドリノン、イソインドリン、キノフタロン、ペリノン、フラバントロン、アントラピリミジン、アントラキノン、キナクリドン、ペリレン、ジケトピロロピロール、ジブロムアンザントロン、ジオキサジン、チオインジゴ、フタロシアニン、インダントロン、ハロゲン化フタロシアニン)等が挙げられる。
【0040】
ビヒクルは、基材シートの種類に応じて設定できるが、例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アルキド系樹脂、石油系樹脂、ケトン樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、繊維素誘導体、ゴム系樹脂等が挙げられる。
【0041】
印刷インキに含まれる溶剤(または分散媒)としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の石油系有機溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸−2−メトキシエチル、酢酸−2−エトキシエチル等のエステル系有機溶剤;メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系有機溶剤;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤、;ジクロロメタン、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の塩素系有機溶剤;水などが挙げられる。
【0042】
絵柄模様層の厚みは絵柄模様の種類より異なるが、0.1〜10μm程度が好ましい。
【0043】
なお、前記絵柄模様層と前記保護層1との間に、絵柄模様を有しない着色層(ベタ層)を形成してもよい。また、前記絵柄模様層の代わりに、前記着色層を形成してもよい。前記着色層は、前記印刷インキを用いて全面ベタ塗りすることにより形成できる。
【0044】
保護層2
前記絵柄模様層を形成する場合、該絵柄模様層上にさらに保護層2を形成することが好ましい。
【0045】
前記保護層2としては、水性エマルション組成物または電離放射線硬化型樹脂を用いて形成した層が望ましい。
【0046】
水性エマルション組成物としては、具体的には、樹脂成分を水系溶媒に分散させたエマルション(水性エマルション樹脂)に着色剤を含有させたものを使用することができる。
【0047】
樹脂成分としては、例えば、公知の水系塗工剤、水性塗料等に使用されている樹脂を使用できる。そのような樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上で使用することができる。これらの中でも、耐熱性、耐水性、耐候性等の点において、アクリルウレタン系樹脂を用いることが好ましい。アクリルウレタン系樹脂を使用する場合、その数平均分子量は1万〜100万程度とすることが好ましい。
【0048】
水系溶媒としては、水、または、水と有機溶媒との混合溶媒を使用できる。水は、例えば公知の水系塗工剤等に使用されているグレードの工業用水が使用できる。
【0049】
有機溶媒としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール等の低級アルコールや、グリコール類、グリコールエステル類等の水溶性有機溶剤を好適に用いることができる。なお、水溶性有機溶剤は、水性エマルション樹脂の流動性改良、前記絵柄模様層に対する濡れ性の向上、乾燥性の調整等の目的で使用されるものであり、その目的に応じてその種類、使用量等が決定される。混合溶媒の場合、水及び有機溶媒の割合は特に限定されず、混合溶媒中の有機溶媒の割合が80%以下となるように適宜調整すればよい。
【0050】
水性エマルション組成物には、さらに耐ブロッキング性、エンボス加工時の耐熱性の向上、アンカー効果による接着力の向上等の少なくとも1つを目的として、必要に応じて体質顔料を添加することができる。
【0051】
体質顔料としては、公知又は市販のものを使用でき、特に限定はない。例えば、白土、タルク、クレー、ケイソウ土、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナホワイト、シリカ、カオリン、マイカ、水酸化アルミニウム等の無機系顔料、ポリアクリル酸エステル、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリシロキサン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の有機系顔料、あるいはこれらの共重合体からなる有機系顔料が利用できる。これらは、通常は粒子の形態で使用することが望ましい。
【0052】
水性エマルション組成物における水系溶媒の使用量は、水性エマルション組成物中の固形分含有量が20〜80重量%となるような範囲内から適宜決定すれば良い。
【0053】
その他、前記保護層2を構成する樹脂として、電離放射線硬化型樹脂を用いても良い。電離放射線硬化型樹脂を用いて形成した樹脂層を電子線照射によって硬化させてなる保護層2は、壁紙の表面強度、耐汚染性等をより一層向上させることができる。また、電離放射線硬化型樹脂を用いる場合は、絵柄模様層との密着性を向上されるために絵柄模様層上にプライマー層を形成した後に電離放射線硬化型樹脂層を形成する形態をとっても良い。
【0054】
電離放射線硬化型樹脂としては特に限定されず、紫外線、電子線等の電離放射線の照射により重合架橋反応可能なラジカル重合性二重結合を分子中に含むプレポリマー(オリゴマーを含む)及び/又はモノマーを主成分とする透明性樹脂を使用できる。これらのプレポリマー又はモノマーは、単体又は複数を混合して使用できる。硬化反応は、通常、架橋硬化反応である。
【0055】
具体的には、前記プレポリマー又はモノマーとしては、分子中に(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基等のラジカル重合性不飽和基、エポキシ基等のカチオン重合性官能基等を有する化合物が挙げられる。また、ポリエンとポリチオールとの組み合わせによるポリエン/チオール系のプレポリマーも好ましい。ここで、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基又はメタクリロイル基の意味である。
【0056】
保護層2が壁紙の最表面にある場合、保護層2は帯電防止剤を含有することが好ましい。帯電防止剤と含有することにより、壁紙の帯電が防止または抑制されている。その結果、空気中の微小な浮遊物(例えば、チリ、ホコリ等)が壁紙に吸着しにくい。
【0057】
帯電防止剤としては、例えば、上記保護層1の項目で例示した帯電防止剤を一種又は二種以上で使用できる。この中でも特にイオン性高分子化合物が好ましく、リチウムイオン性高分子化合物がより好ましい。リチウムイオン性高分子化合物としては、例えば、ポリアルキレングリコールを主成分とするポリマーに過塩素酸リチウム等を複合化させた化合物、ポリスチレンスルホン酸にリチウムを複合化させた化合物、ポリスチレンスルホン酸−マレイン酸コポリマーにリチウムを複合化させた化合物等が挙げられる。
【0058】
保護層2中における前記帯電防止剤の含有量は、特に限定されないが、樹脂成分100重量部に対して35〜140重量部程度が好ましく、70〜100重量部程度がより好ましい。
【0059】
保護層2の厚みは絵柄模様の種類等より異なるが、0.1〜15μm程度が好ましい。
【0060】
プライマー層
前記絵柄模様層を形成するのに先立って、前記保護層1上にプライマー層を形成してもよい。前記プライマー層を形成することにより、前記絵柄模様層および前記保護層2を容易に形成できる。
【0061】
前記プライマー層は、公知のプライマー剤を前記保護層1上に塗布することにより形成できる。
【0062】
例えば、前記プライマー剤として、基体樹脂、添加剤および溶剤からなるプライマー剤を使用できる。
【0063】
基体樹脂としては、例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂、EVA等が挙げられる。これら基体樹脂は、一種単独でまたは二種以上を併用して使用できる。
【0064】
特に、アクリル樹脂は、ウレタン樹脂と併用することが好ましい。アクリル樹脂は粘着性が低いため、基体樹脂としてアクリル樹脂を単独で使用する場合、プライマー剤が被塗物上に十分に塗装されず、ロールに付着するという問題(ロール取られの問題)が生じるおそれがある。また、基体樹脂としてウレタン樹脂を単独で使用する場合、該ウレタン樹脂の粘着性が高いため、ロール取られやブロッキングの問題が生じるおそれがある。アクリル樹脂とウレタン樹脂を併用することにより、これらの問題を好適に解決できる。アクリル樹脂とウレタン樹脂との配合割合は、プライマー剤の粘着性等に応じて適宜設定すればよい。
【0065】
添加剤としては、例えば、シリカ、アクリルビーズ等の体質顔料;シリコン;増粘剤(粘度調整剤)等が挙げられる。
【0066】
体質顔料をプライマー剤中に含有させることにより、下地(前記非発泡樹脂層、保護層1等)を好適に隠蔽できる。特に、体質顔料としてアクリルビーズを含有させる場合、プライマー層の滑り性を向上させ、前記ロール取られやブロッキングを好適に回避できる。
【0067】
シリコンをプライマー剤中に含有させることにより、プライマー剤の粘着性を緩和できる。また、プライマー層の滑り性を向上させ、前記ロール取られやブロッキングを好適に回避できる。
【0068】
増粘剤をプライマー剤中に含有させることにより、基体樹脂や添加剤の分散性を向上させることができる。
【0069】
溶剤としては、水や有機溶媒(例えばイソプロピルアルコール等)を使用できる。
【0070】
プライマー剤の塗布量は、0.1〜50程度g/m2が好ましく、1〜10程度g/m2がより好ましい。
【0071】
塗布方法としては、例えば、スピンコート法、グラビアコート法、コンマコート法等が挙げられる。
【0072】
前記プライマー剤を塗布後、必要に応じて、得られた塗膜を乾燥させてもよい。乾燥条件については、前記塗膜の状態等に応じて適宜設定すればよい。
【0073】
前記プライマー層の厚みは、0.1〜20μm程度が好ましく、0.5〜5μm程度がより好ましい。
【0074】
壁紙の製造方法
本発明の壁紙は、例えば、前記紙質基材上に、前記接着剤層、前記非発泡樹脂層および前記保護層1を順に形成した後、得られた積層体の保護層1上に、プライマー層、絵柄模様層および保護層2を順に形成することにより得られる。
【0075】
前記積層体の作製方法は、特に限定されない。例えば、紙質基材上に、前記接着剤層、前記非発泡樹脂層および前記保護層1を順に積層させる場合、前記非発泡樹脂層を形成するための組成物、前記保護層1を形成するための組成物、及び前記接着剤層を形成するための組成物を各々別個のシリンダー中に入れて、3種3層を同時に押出し成膜・積層すればよい。 保護層1に前記帯電防止剤を含有させる場合は、前記保護層1を形成するための組成物に前記帯電防止剤を含有させればよい。
【0076】
前記押出し成形により形成した3層の積層体は、直接に紙質基材上に押出ししてもよく、紙質基材上とは別に形成してもよい。前者の場合には、樹脂層は溶融熱により良好な接着性を有するため、紙質基材と密着する。後者の場合には、紙質基材上に積層体を載せて、熱ラミネートすることにより接着できる。
【0077】
保護層2を形成する場合であって、該保護層2に前記帯電防止剤を含有させる場合は、前記保護層2を形成するための組成物に前記帯電防止剤を含有させればよい。
【0078】
保護層1が壁紙の最表面にある場合、保護層1に電子線照射を行ってもよい。また、保護層2が壁紙の最表面にある場合、得られた積層体の保護層1上に、プライマー層、絵柄模様層および保護層2を順に形成した後、保護層2に電子線照射を行ってもよい。保護層1又は保護層2に電子線を照射することにより、壁紙の耐傷性等を向上させることができる。
【0079】
電子線のエネルギーは、150〜250kV程度が好ましい。照射線量は、10〜100kGy程度が好ましい。電子線源としては、公知の電子線照射装置が使用できる。
【0080】
電子線照射を行う場合には、前記組成物中に架橋助剤を含有してもよい。
【0081】
架橋助剤としては、電子線照射による架橋を促進するものであればよい。例えば、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等の多官能性モノマー、オリゴマーなどが挙げられる。これらは、1種又は2種以上で用いることができる。架橋助剤の含有量は、樹脂成分100重量部に対して、0〜10重量部程度が好ましく、1〜4重量部がより好ましい。
【発明の効果】
【0082】
本発明によれば、紙質基材と保護層1との間に、接着剤層を介してポリオレフィン系非発泡樹脂層を積層させることにより、VOCの放出が防止又は抑制された壁紙が得られる。
【0083】
しかも、本発明の壁紙の最表面の層(保護層1又は保護層2)が帯電防止剤を含有する場合、帯電を防止または抑制できる。そのため、空気中の微小な浮遊物(例えば、チリ、ホコリ等)が吸着しにくい。
【0084】
従って、本発明の壁紙は、住宅等の壁面はもちろんのこと、特に、精密機器等を製造するためのクリーンルームや病院の壁面に使用でき、特にクリーンルーム用壁紙として好適に使用できる。
【0085】
加えて、本発明の壁紙は、塩化ビニル系樹脂を含まないため、環境への影響も少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0086】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0087】
実施例1
保護層1を形成するために、EMAA(製品名「ニュクレルN1560」、MFR:60g/10分、MA含有量:15重量%、三井・デュポンポリケミカル製)を100重量部用意した。
【0088】
接着剤層を形成するために、EVA(製品名「エバフレックスEV150」、MFR:30g/10分、VA含有量:33重量%、三井・デュポンポリケミカル製)を100重量部用意した。
【0089】
ポリオレフィン系非発泡樹脂層を形成するために、下記表1に記載の成分を含む組成物を用意した。
【0090】
【表1】

【0091】
上記樹脂および樹脂含有組成物を溶融し、Tダイ押出し機を用いて、3層同時押出し積層することにより、保護層1/オレフィン系非発泡樹脂層/接着剤層からなる積層体を得た。保護層1、オレフィン系非発泡樹脂層および接着剤層の厚みについては、それぞれ10μm、100μmおよび10μmとした。なお、このTダイ押出し機において、保護層1を形成するためのEMAAの入ったシリンダー、接着剤層を形成するためのEVAの入ったシリンダーおよびオレフィン系非発泡樹脂層を形成するための表1の各成分の入ったシリンダーの温度は、それぞれ140℃、100℃および120℃とした。また、ダイス温度は、すべて120℃とした。
【0092】
得られた積層体を厚み110μmの紙質基材(坪量70g)に、紙質基材と接着剤層とが接触するよう加圧・積層した。なお、加圧・積層前に予め、紙質基材表面を120℃で10秒間加熱した。
さらに、保護層1上にウレタンーアクリル水性インキ(製品名「ハイドリック」大日精化工業製)を用いて布目模様(絵柄模様層)を印刷した。前記絵柄模様層の厚みは、1μmであった。
【0093】
そして、ウレタンーアクリル系樹脂を水中に分散させた水性エマルション組成物に帯電防止剤(リチウムイオン性高分子化合物;商品名「SD−NT静防剤L−1」大日精化工業製)を含有させた樹脂組成物(ウレタンアクリレート系電子線硬化型樹脂100重量部に対して帯電防止剤を10重量部含有する樹脂組成物)をグラビア印刷にて前記絵柄模様層上に印刷することにより、2μm厚の保護層2を形成した。
【0094】
以上の過程を経て、壁紙を作製した。
【0095】
実施例2
ウレタンーアクリル水性インキの代わりに、有機系インキ(商品名「UE(NT)ベタ」昭和インク工業所製)を用いて絵柄模様層を形成した以外は、実施例1と同様の方法により壁紙を作製した。
【0096】
比較例1〜3
下記表2に記載の市販の塩ビ系壁紙(3種類)を用意した。
【0097】
試験例1(VOC放散速度の測定)
実施例1〜2及び比較例1〜3の壁紙のVOC放散濃度を測定した。測定は、JIS A1901「建築材料の揮発性有機化合物(VOC)、ホルムアルデヒドおよび他のカルボニル化合物放散測定方法-小形チャンバー法」に準拠して行った。VOC分析にはガスクロマトグラフ質量分析装置(商品名「TurboMatrix ATD,TurboMass Gold」PERKINELMER社製)を使用した。n-Hexaneからn-Hexadecaneまでの範囲で検出されたVOCのピーク面積の総和をToluene換算することにより、VOCの放散速度(TVOC:μg/m2・hr)を求めた。
【0098】
結果を表2に示す。
【0099】
表2から、実施例1〜2の壁紙は、比較例1〜3の壁紙に比べ、VOCの放散速度が極めて低いことがわかる。これは、実施例1〜2の壁紙が、比較例1〜3の壁紙に比べ、VOCの放出量が極めて低いことを意味する。
【0100】
なお、実施例2の壁紙が実施例1の壁紙に比べ、VOC放出速度が高いのは、絵柄模様層の形成に有機系インキを用いたためである。
【0101】
試験例2(帯電防止性能)
実施例1〜2および比較例1〜3の壁紙に対して、JISK6911の規定に従って表面抵抗値を測定した。測定には、平板試料用電極(商品名「SME8310」TOA製)およびデジタル超絶縁計(商品名「DMS-8103」TOA製)を用いた。
【0102】
測定結果を表2に示す。
【0103】
表2から、いずれの壁紙も、表面抵抗値が11乗台以下であり、帯電防止性能を有することがわかる。
【0104】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂を含まない壁紙であって、紙質基材上に、接着剤層、ポリオレフィン系非発泡樹脂層及び保護層1を順に積層してなるクリーンルーム用壁紙。
【請求項2】
前記保護層1が帯電防止剤を含有する請求項1に記載のクリーンルーム用壁紙。
【請求項3】
前記保護層1上に、さらに保護層2を積層してなる請求項1に記載のクリーンルーム用壁紙。
【請求項4】
前記保護層1と前記保護層2との間に、絵柄模様層を有する請求項3に記載のクリーンルーム用壁紙。
【請求項5】
前記保護層2が帯電防止剤を含有する請求項3又は4に記載のクリーンルーム用壁紙。

【公開番号】特開2010−84248(P2010−84248A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252529(P2008−252529)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】