説明

クルクミンのシャント送達

【課題】クルクミンを患者に送達する方法を提供する。
【解決手段】患者として処置を受けるヒトを選択すること、少なくとも第1の内腔を有する第1のカテーテルの近位端を患者の脳内の第1の硬膜下部位に配置して、第1の内腔と患者の脳脊髄液との間に開放型連通を確立することにより、脳脊髄液中の病原性物質の存在に関連するヒトの脳疾患を緩和又は予防する方法。長期間、クルクミン、クルクミンハイブリッド、及びクルクミン類似体のうちの少なくとも1つから選択されるクルクミン剤は、脳脊髄液に送達されて、病原性物質と相互作用し、脳に対するその作用を減弱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2009年1月26日出願の係属中の出願米国特許出願第12/359713号の一部継続出願である。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、クルクミンを患者に送達する方法、より具体的には、クルクミン剤を頭蓋内に導いてアルツハイマー病等のヒトの脳疾患を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ヒトの脳組織は、頭蓋内の脳脊髄液に浮遊しており、脳動脈を通して送達される血液により栄養分を与えられている灰白質及び白質を含む。灰白質は、大脳皮質等のニューロンの接近して離間している細胞体を有し、下層の白質は、シグナルを他のニューロンに伝える密に詰まっている軸索を含んでいる。脳組織は、異なる密度を有し、約80パーセントの頭蓋内容物を含み、血液及び脳脊髄液が、それぞれ通常約10パーセント含まれる。
【0004】
脳脊髄液は、脳室として知られている幾つかの連結されたチャンバで生成され、典型的には、1日あたり4回〜5回一新される。健常ヒトの脳脊髄液は、脳室を通して緩徐かつ継続的に流動し、脳動脈の脈動により推進され、脳組織及び脊柱の周囲を流動し、次いで小さな開口部を通じて、脳実質及び脳室を取り囲む髄膜の中層であるくも膜に流れ、そこで脳脊髄液は最終的に血流に再吸収される。
【0005】
脳脊髄液に蓄積し得る神経毒又は他の病原性物質が原因である脳疾患が多数存在する。例えば、脳脊髄液中に見られ得るタンパク質アミロイドベータの凝集が、アルツハイマー病として知られている変性状態の原因であることが長い間認識されている。脳組織の微細な損傷が萎縮及び認知症として知られている脳機能の全体的な低下を導く。
【0006】
Rubensteinらによる米国特許第5,980,480号は、正常な身体プロセスの機能不全により有害物質が脳脊髄液中に保持されるという前提に基づいて、アルツハイマー病に起因する成人発症認知症を処置する方法及び装置について記載している。患者の脳脊髄液の一部を制御された速度で除去して、患者の身体が脳脊髄液を置換するのを促進し、それにより頭蓋内の任意の有害物質の濃度を希釈する。回収した脳脊髄液を、腹膜腔等の身体空間に戻す。1つの実施形態では、透析液チャンバが提供され、その壁は回収された脳脊髄液中の標的剤に特異的な抗体でコーティングされている。あるいは、抗体は、透析液引き込み口を通して透析液チャンバ内で定期的に交換され得るビーズ、ストランド、又は他の構造に結合している。
【0007】
米国特許出願公開第2009/0131850号では、Mark Geigerは、脳脊髄液を清浄化及び濾過するための薬剤又は酵素を有する埋め込み式ポンプ及び濾過システムを開示している。二重内腔カテーテルの1つの内腔は、脳脊髄液を薬剤及び濾過リザーバに回収し、他の内腔は、処理された脳脊髄液を患者のくも膜下空間に戻す。
【0008】
脳組織内に位置する近位端と、脳外部の患者内に位置する遠位端とを有する、又は全体が患者外部に位置する閉塞防止水頭症シャントが、Koullickらによる米国特許第7,582,068号に開示されている。シャントの近位端は、凝固又は組織成長がシャントの内腔を塞ぐ傾向のある薬剤溶出領域に閉塞防止剤又は抗閉塞剤を運ぶ。クルクミンを含む多数の考えられ得る抗閉塞医薬品が列挙されている。
【0009】
クルクミンは、Shalabyによる米国特許出願公開第2008/0241352号に開示されているように、血管内ステントに適用されて、再狭窄を低減する。
【0010】
フェノール性分子であるクルクミンは、ジフェルロイルメタン又は(E,E)−1,7−ビス(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1,6−ヘプタジエン−3,5,−ジオンとしても既知である。クルクミンは、天然源である、ショウガ科(Zingiberaceae)の一員である多年生草本クルクマ・ロンガ(Curcuma longa L.)に由来する場合がある。スパイスのターメリックは、クルクマ・ロンガの根茎から抽出され、ヒンドゥー及び漢方医学で使用される伝統的な医学処置に長い間関連してきた。ターメリックは、これらの伝統的な処置方法において経口又は局所投与された。
【0011】
Yangらによる「Curcumin Inhibits Formation of Amyloid Beta Oligomers and Fibrils,Binds Plaques,and Reduces Amyloid in Vivo」,J.Biol.Chem.vol.280,pp.5892〜5901(2005)に記載されているように、クルクミンは、トランスジェニックマウスに餌として与えられた又は頸動脈に注入されている。この論文は、クルクミンがアルツハイマー病を予防又は恐らく治療し得るかどうかを調べるために、クルクミンについてヒト臨床試験を実施することを提案している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、ヒト脳脊髄液内の病原性物質を低減又は排除するための、より簡単で、より迅速で、かつより効率的な技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的は、長期間クルクミン剤を脳脊髄液に直接提供して、ヒトの脳における病原性物質の作用を減弱することにある。
【0014】
本発明の別の目的は、脳にクルクミン剤を送達することにより認知症を処置することにある。
【0015】
本発明の更なる目的は、標的神経毒が存在する又は潜在的に形成され得る身体領域にクルクミン剤を継続的に長期間送達して、アルツハイマー型認知症を緩和又は排除することにある。
【0016】
本発明は、脳内の硬膜下又は髄膜下部位に送達されるクルクミン、クルクミンハイブリッド、及びクルクミン類似体のうちの少なくとも1つが、アミロイドベータ等の神経毒及び他の病原体を低減又は排除して、脳疾患、特にアルツハイマー型認知症の発生を治療又は予防する可能性があるという認識に由来する。用語クルクミン、クルクミンハイブリッド、及びクルクミン類似体は、以下に定義する。用語硬膜下は、本明細書で使用するとき、髄膜の硬膜の最外層の下に存在する全ての組織、流体、及び空間を含むことを意図し、したがって、上矢状洞、並びに灰白質、白質、及び脳室等の硬膜内洞を含む。用語髄膜下は、本明細書で使用するとき、髄膜の最内層である軟膜の下に存在する全てを含むことを意図し、換言すれば、用語髄膜下は、くも膜及び硬膜、並びにくも膜及び硬膜内の任意の空間又は洞を除外する。用語脳実質は、本明細書で使用するとき、灰白質、白質、及びその機能を提供する脳の他の本質的な部分を含むことを意図する。
【0017】
本発明は、患者として処置を受けるヒトを選択すること、少なくとも第1の内腔を有する第1のカテーテルの近位端を患者の脳内の第1の硬膜下部位に配置して、第1の内腔と患者の脳脊髄液との間に開放型連通を確立することにより、脳脊髄液中の病原性物質の存在に関連するヒトの脳疾患を緩和又は予防する方法を特徴とする。長期間、クルクミン、クルクミンハイブリッド、及びクルクミン類似体のうちの少なくとも1つから選択されるクルクミン剤は、脳脊髄液に送達されて、病原性物質と相互作用して、脳に対するその作用を減弱する。
【0018】
1つの実施形態では、本発明に係る処置の目的のために患者が選択されるが、その理由は、脳疾患、好ましくはアルツハイマー病に罹患していると診断されたためである。好ましい実施形態では、クルクミンの脳組織濃度は、少なくとも0.1μM、より好ましくは少なくとも1μM、より好ましくは少なくとも5μM、より好ましくは少なくとも20μMに達する。
【0019】
幾つかの実施形態では、カテーテルの近位端は、第1の硬膜下部位としての脳の脳室内に配置され、クルクミン剤と混合された脳脊髄液が第1の硬膜下部位に直接戻される。幾つかの他の実施形態では、クルクミン剤と混合された脳脊髄液は、患者の脳内の別の硬膜下部位に直接戻される。曝露された脳脊髄液は、第1のカテーテルの第2の内腔、又は第2のカテーテルの第2の内腔を通して戻される。
【0020】
更なる実施形態では、クルクミン剤は、第1のカテーテルに連結されたリザーバから放出される。好ましくは、リザーバは、クルクミン剤を運ぶ取り外し可能なキャニスタを含み、そうでなければ、更なるクルクミン剤を添加して、処置期間を延長し得る又はクルクミン剤の投与量を増加させ得るように再充填可能である。1つの実施形態では、リザーバに連結された近位カテーテルは、クルクミン剤と混合された脳脊髄液を、腹膜腔等の患者内の別の部位に輸送する。別の実施形態では、クルクミン剤は、第1のカテーテルの少なくとも一部内に運ばれたコーティングから放出される。
【0021】
更に別の実施形態では、方法は、第1の硬膜下部位とは異なる硬膜下部位において脳脊髄液をサンプリングすること、この脳脊髄液中のクルクミン剤の濃度を測定して、その脳組織濃度を推定することを更に含む。
【0022】
本発明は、患者として処置を受けるヒトを選択すること、少なくとも第1の内腔を有する第1のカテーテルの近位端を患者の脳内の第1の硬膜下部位、好ましくは髄膜下部位に配置して、第1の内腔と患者の脳脊髄液との間に開放型連通を確立することにより、脳脊髄液中の病原性物質の存在に関連するヒトの脳疾患を緩和又は予防するシステム及び方法として表現することもできる。脳脊髄液は、第1の内腔を通して回収され、クルクミン、クルクミンハイブリッド、及びクルクミン類似体のうちの少なくとも1つから選択されるクルクミン剤に脳脊髄液を曝露して、病原性物質と相互作用させ、脳に対するその作用を減弱する。曝露された脳脊髄液は、クルクミン剤の脳組織濃度が少なくとも0.1μMに達するように患者に戻される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
以下に、図面を参照して本発明の好ましい実施形態をより詳細に説明する。
【図1A】本発明の1つの実施形態に係る患者の脳内の脳室に位置する近位カテーテルを示す患者の透視断面図。
【図1B】本発明に係るクルクミン剤を送達するための二重内腔オマヤ型リザーバシステムの垂直断面図。
【図1C】本発明の別の実施形態に係る送達ポンプシステムの斜視図。
【図1D】「Methylene Blue−Curcumin Analog for the Treatment of Alzheimer’s Disease」と題された2009年1月26日出願の米国特許出願第12/359,713号から参照することにより組み込まれる。
【図2】「Methylene Blue−Curcumin Analog for the Treatment of Alzheimer’s Disease」と題された2009年1月26日出願の米国特許出願第12/359,713号から参照することにより組み込まれる。
【図3】「Methylene Blue−Curcumin Analog for the Treatment of Alzheimer’s Disease」と題された2009年1月26日出願の米国特許出願第12/359,713号から参照することにより組み込まれる。
【図4】「Methylene Blue−Curcumin Analog for the Treatment of Alzheimer’s Disease」と題された2009年1月26日出願の米国特許出願第12/359,713号から参照することにより組み込まれる。
【図5】「Methylene Blue−Curcumin Analog for the Treatment of Alzheimer’s Disease」と題された2009年1月26日出願の米国特許出願第12/359,713号から参照することにより組み込まれる。
【図6】「Methylene Blue−Curcumin Analog for the Treatment of Alzheimer’s Disease」と題された2009年1月26日出願の米国特許出願第12/359,713号から参照することにより組み込まれる。
【図7】「Methylene Blue−Curcumin Analog for the Treatment of Alzheimer’s Disease」と題された2009年1月26日出願の米国特許出願第12/359,713号から参照することにより組み込まれる。
【図8】「Methylene Blue−Curcumin Analog for the Treatment of Alzheimer’s Disease」と題された2009年1月26日出願の米国特許出願第12/359,713号から参照することにより組み込まれる。
【図9】「Methylene Blue−Curcumin Analog for the Treatment of Alzheimer’s Disease」と題された2009年1月26日出願の米国特許出願第12/359,713号から参照することにより組み込まれる。
【図10】「Methylene Blue−Curcumin Analog for the Treatment of Alzheimer’s Disease」と題された2009年1月26日出願の米国特許出願第12/359,713号から参照することにより組み込まれる。
【図11】「Methylene Blue−Curcumin Analog for the Treatment of Alzheimer’s Disease」と題された2009年1月26日出願の米国特許出願第12/359,713号から参照することにより組み込まれる。
【図12】「Methylene Blue−Curcumin Analog for the Treatment of Alzheimer’s Disease」と題された2009年1月26日出願の米国特許出願第12/359,713号から参照することにより組み込まれる。
【図13】「Methylene Blue−Curcumin Analog for the Treatment of Alzheimer’s Disease」と題された2009年1月26日出願の米国特許出願第12/359,713号から参照することにより組み込まれる。
【図14】「Methylene Blue−Curcumin Analog for the Treatment of Alzheimer’s Disease」と題された2009年1月26日出願の米国特許出願第12/359,713号から参照することにより組み込まれる。
【図15】「Methylene Blue−Curcumin Analog for the Treatment of Alzheimer’s Disease」と題された2009年1月26日出願の米国特許出願第12/359,713号から参照することにより組み込まれる。
【図16】「Methylene Blue−Curcumin Analog for the Treatment of Alzheimer’s Disease」と題された2009年1月26日出願の米国特許出願第12/359,713号から参照することにより組み込まれる。
【図17】「Methylene Blue−Curcumin Analog for the Treatment of Alzheimer’s Disease」と題された2009年1月26日出願の米国特許出願第12/359,713号から参照することにより組み込まれる。
【図18】「Methylene Blue−Curcumin Analog for the Treatment of Alzheimer’s Disease」と題された2009年1月26日出願の米国特許出願第12/359,713号から参照することにより組み込まれる。
【図19】「Methylene Blue−Curcumin Analog for the Treatment of Alzheimer’s Disease」と題された2009年1月26日出願の米国特許出願第12/359,713号から参照することにより組み込まれる。
【図20】「Methylene Blue−Curcumin Analog for the Treatment of Alzheimer’s Disease」と題された2009年1月26日出願の米国特許出願第12/359,713号から参照することにより組み込まれる。
【図21】「Methylene Blue−Curcumin Analog for the Treatment of Alzheimer’s Disease」と題された2009年1月26日出願の米国特許出願第12/359,713号から参照することにより組み込まれる。
【図22】「Methylene Blue−Curcumin Analog for the Treatment of Alzheimer’s Disease」と題された2009年1月26日出願の米国特許出願第12/359,713号から参照することにより組み込まれる。
【図23】「Methylene Blue−Curcumin Analog for the Treatment of Alzheimer’s Disease」と題された2009年1月26日出願の米国特許出願第12/359,713号から参照することにより組み込まれる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
用語「クルクミン剤」について、以下により詳細に記載する。近位カテーテル12、リザーバ14、及び遠位カテーテル16を有する、本発明の1つの態様に係るシステム10の一部を図1Aに図示する。患者Pは、アルツハイマー病等の脳疾患を有すると診断された等、1以上の基準に基づいて選択される。リザーバ14は、患者Pの頭皮下に埋め込まれ、この構造では脳室カテーテルとも呼ばれる近位カテーテル12の先行部18は、近位端24の入口孔22が右室RVにおける脳脊髄液と連通するように第1の硬膜下部位に穿頭孔20を通して定置される。あるいは、近位端24は、患者Pの脳脊髄液と連通している左室LV又は他の硬膜下部位、好ましくは髄膜下部位に定置される。
【0025】
この構造では、カテーテル12は、近位端24において入口孔22と、及び遠位端26においてリザーバ14と連通している少なくとも第1の内腔を画定する。脳脊髄液は、第1の内腔を通してリザーバ14に回収され、リザーバ14には接近口30を有する取り外し可能なキャニスタ28が含まれる。好ましくは、クルクミン剤は、システム10を埋め込む前にキャニスタ28に充填され、次いで投与量のクルクミン剤を、接近口30を通して針注入により広げる又は増やすことができる。キャニスタ28はまた、必要に応じて取り外して再充填する、又は置換することができる。クルクミン剤は、長期間送達されて、1以上の病原性物質と相互作用し、患者の脳に対する病原性物質の作用を減弱する。好ましくは、クルクミン剤の所望の脳組織濃度は、以下に記載のように達成される。
【0026】
遠位カテーテル16は、本発明に係るクルクミン剤に曝露された脳脊髄液を、腹膜腔等の患者P内の別の部位に戻す。あるいは、本発明の別の態様に係るオマヤ型システム40について図1Bに示すように、別の内腔が、曝露された脳脊髄液を硬膜下部位に戻す。それぞれ内腔46及び48を有する第1のカテーテル42及び第2のカテーテル44は、患者Pの頭蓋Sの穿頭孔50を通過する。代替構造では、内腔46及び48は、単一カテーテルにより画定される。典型的には、第1のカテーテル42の近位端51は、第1の硬膜下部位に定置されて脳脊髄液を回収し、近位端53は、脳の同じ空間、組織、又は領域であってもよく異なっていてもよい第2の硬膜下部位に定置されて、曝露された脳脊髄液を直接脳に戻す。別の構造では、クルクミン剤は、単に内腔48を通して脳脊髄液に送達され、一方他の脳脊髄液は、サンプリング及び測定目的のために内腔46を通して回収される。
【0027】
システム40は、毛細管を通過するとき濃度を上昇させることによりクルクミン剤の投与量を増加させる、Codman 3000一定流量巻毛細管装置等の装置に由来し得る、又はこの装置を使用し得る。別の装置は、送達される流体の流量を規定するための蛇行状経路を有するエッチングされたチップを備えるArchimedes装置である。両方の装置は、現在Raynham,MassachusettsのCodman & Shurtleff,Inc.から市販されている。
【0028】
図1Bに示すように、部分垂直断面図では、内腔46は、ドーム型壁56により画定される第1のチャンバ52と連通し、内腔48は、隔膜60によりチャンバ52から分離される、ドーム型壁58により画定される第2のチャンバ54と連通する。ドーム型壁56及び58は、別個に触知的に識別及び触接でき、それを通して流体を移動させる。ファントムに示されるような別の構造では、隔膜60は、隔膜60’として、両方のチャンバ52及び54を画定又は被覆する単一のドーム型壁62まで上方に続く。いずれの構造でも、逆止弁を設けて、触接中チャンバ52と54との間の一方向のみに流体を流すこともできる。必要に応じて機械的又は電気機械的に活動化させるために、別個の「絞り弁(squeeze-bulb)」型チャンバを設けてもよい。
【0029】
図1Bに更に図示するように、1つの構造のシステム40は、チャンバ52と連通する内腔72及びチャンバ54と連通する内腔74を画定する多内腔カテーテル70を含み、各チャンバ52、54について別々にかつ独立して、流体を遠隔で回収、送達、及び/又は戻すことができる。遠隔送達ポンプ90は、図1Cに示すように利用して、患者Pの皮膚下に埋め込まれたカテーテル92を通して1以上の内腔と連通することができる。好適なポンプの一例は、Raynham,MassachusettsのCodman & Shurtleff,Inc.から現在市販されている可変負荷サイクルを有する圧電弁を備えるCODMAN Medstreamポンプである。他の種類のポンプ又は送達装置を利用して、本発明に従って所望の通り数日、数週間、又は数ヶ月間、脳脊髄液に直接クルクミン剤を提供することができる。
【0030】
脳脊髄液は、1以上のリザーバ内で、又はクルクミン剤を含有するコーティング、表面又は多孔質基材と接触させることにより、本発明に係るクルクミン剤に曝露することができる。1つの構造では、好ましくは取り外し可能であり、かつ交換可能なカートリッジで運ばれる親水性、親油性膜がクルクミン剤を含有するゲルを捕捉して、脳脊髄液のみを流すことができる。最低気孔率を提供して、結合しているアミロイドベータ粒子又は他の結合している病原性物質等の粒子をその中に捕捉することができる。あるいは、参照することにより本明細書に組み込まれる「Hydrocephalus Shunt」と題されたMaugeらの米国特許出願公開第2006/0004317号に開示されているもののように、クルクミン剤をシリコーン等のカテーテル材料に配合する、又は基材により機械的に封入する。直接脳脊髄液に溶出するように、カテーテルの長さの一部又は全てをクルクミン剤で「ドープ」してもよい。
【0031】
カテーテル92が別の内腔を画定せずにクルクミンに曝露した脳脊髄液を硬膜下部位に戻す構造では、曝露された脳脊髄液は、カテーテル94により腹膜腔等の患者内の別の部位に戻される。クルクミン剤に曝露される前及び/又は後の脳脊髄液のサンプルは、引き込み口96を通して到達する。あるいは、結合している病原性物質は、患者の脳脊髄液から定期的に回収され、試験又は安全に廃棄することができる。
【0032】
用語「クルクミン剤」は、本明細書で使用するとき、以下及びその全文が参照することにより本明細書に組み込まれる2009年1月26日出願の「Methylene Blue−Curcumin Analog for the Treatment of Alzheimer’s Disease」と題された優先出願米国特許出願第12/359,713号に定義されているように、「クルクミン」、「クルクミンハイブリッド」、及び/又は「クルクミン類似体」を含む。市販のクルクミンは、典型的には、3つの主な成分:クルクミン(77%)、デメトキシクルクミン(17%)及びビスデメトキシクルクミン(3%)を含み、これらは「クルクミノイド」と称されることが多い。本明細書で使用されるとき、用語「クルクミン」は、これら市販のクルクミンの3つの主な成分の任意の1つ又はそれ以上、及びこれらの剤の任意の活性誘導体を含む。これは、クルクミンの天然及び合成誘導体、並びにクルクミノイドを含み、また2つ以上のクルクミノイド又はクルクミン誘導体の任意の組み合わせを含む。クルクミン誘導体及びクルクミノイドには、参照により本明細書に特に組み込まれる米国特許出願公開第20020019382号に開示されている誘導体が挙げられる。
【0033】
アルツハイマー病を処置する能力を向上させるか又はあまり影響を与えないかのいずれかのクルクミン及びその機能的断片の修飾も、用語「クルクミン」に含まれる。そのような修飾には、例えば、1つ又はそれ以上の官能基の付加、削除、又は置換が挙げられる。これらの修飾は、クルクミン又はその機能的断片の構造、立体配座又は機能的活性を向上させるか又は有意に変更しないかのいずれかであろう。加えて、クルクミン又はその機能的断片は、その精製を補助し、その活性にあまり影響を与えないエピトープタグ又は他の配列の付加により修飾することができる。本明細書に使用されるとき、クルクミンに関連した用語「機能的断片」は、酸化を阻害する、又はアミロイドベータオリゴマーの形成を阻止するために維持するクルクミンの任意の部分を意味することが意図される。所望であれば、機能的断片は、酸化又はオリゴマー形成を阻害する能力と有利に協働する活性を有するクルクミンの領域を含むことができる。
【0034】
クルクミンは、エタノール、アルカリ、ケトン、酢酸及びクロロホルムに可溶である。クルクミンは、水に不溶である。したがって、クルクミンは親油性であり、一般に脂質と容易に会合する。特定の実施形態において、クルクミンは、金属キレートとして配合することもできる。
【0035】
本発明によれば、公知のクルクミン類似体を使用することもできる。本明細書で使用するとき、「クルクミン類似体」は、クルクミンに対する構造的類似性により、癌細胞に対してクルクミンと同様の抗増殖又はアポトーシス促進効果を示す化合物である。クルクミンと同様の抗癌効果を有し得るクルクミン類似体には、Ar−トゥメロン(tumerone)、メチルクルクミン、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン、ナトリウムクルクミネート(curcuminate)、ジベンゾイルメタン、アセチルクルクミン、フェルロイルメタン、テトラヒドロクルクミン、1,7−ビス(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1,6−ヘプタジエン−3,5−ジオン(クルクミン1)、1,7−ビス(ピペロニル)−1,6−ヘプタジエン−3,5−ジオン(ピペロニルクルクミン)1,7−ビス(2−ヒドロキシナフチル)−1,6−ヘプタジエン−2,5−ジオン(2−ヒドロキシルナフチルクルクミン)、1,1−ビス(フェニル)−1,3,8,10−ウンデカテトラエン−5,7−ジオン(シンナミルクルクミン)等が挙げられる(Araujo and Leon,2001;Lin et al.,2001;John et al.,2002;またIshida et al.,2002も参照)。クルクミン類似体としては、クルクミンの(Z、E)及び(Z、Z)異性体などのクルクミン異性体を挙げてもよい。関連した実施形態において、クルクミンと同様の抗癌効果を有するクルクミン代謝産物も本発明に使用することができる。既知のクルクミン代謝産物には、テトラヒドロクルクミン及びヘキサヒドロクルクミンのグルクロニド(glucoronides)、及びジヒドロフェルラ酸が挙げられる。特定の実施形態において、クルクミン類似体又は代謝産物は、金属キレート、特に銅キレートとして配合することができる。他の好適なクルクミン誘導体、本発明に使用するのに好適なクルクミン類似体及びクルクミン代謝産物は、当業者に明らかであろう。
【0036】
幾つかの実施形態において、クルクミン類似体は、米国特許出願公開第2005/0181036号に見出されるものである。他の実施形態において、クルクミン類似体は、米国特許出願公開第2006/0067998号に見出されるものである。更に他の実施形態において、クルクミン類似体は、米国特許出願公開第2005/0267221号に見出されるものである。
【0037】
特定の態様において、1,7,−ビス(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1,6−ヘプタジ−エン−3,5−ジオンは、本発明に使用してもよいクルクミンである。使用してもよい他のクルクミン類似体(クルクミノイド)には、例えば、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン、ジヒドロクルクミン、テトラヒドロクルクミン、ヘキサヒドロクルクミン、ジヒドロキシテトラヒドロクルクミン、ヤクチノンA及びヤクチノンB、並びにそれらの塩、酸化剤、還元剤、配糖体及びそれらのエステルが挙げられる。それらの類似体は、その両方がその全体において参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願第20030147979号;及び米国特許第5,891,924号に記載されている。
【0038】
本明細書に従って使用し得る他のクルクミン類似体(クルクミノイド)としては、ジヒドロキシクルクミン及びNDGAが挙げられる。クルクミン類似体の更なる例には、(a)フェルラ酸、(すなわち、4−ヒドロキシ−3−メトキシ桂皮酸;3,4−メチレンジオキシ桂皮酸;及び3,4−ジメトキシ桂皮酸);(b)芳香族ケトン(すなわち、4−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−3−ブテン−2−オン;ジンゲロン(zingerone);−4−(3,4−メチレンジオキシフェニル(methylenedioxyphenyly)−2−ブタノン;4−(p−ヒドロキシフェニル)−3−ブテン−2−オン;4−ヒドロキシバレロフェノン;4−ヒドロキシベンジラクトン(benzylactone);4−ヒドロキシベンゾフェノン;1,5−ビス(4−ジメチルアミノフェン−イル)−1,4−ペンタジエン−3−オン);(c)芳香族ジケトン(すなわち、6−ヒドロキシジベンゾイルメタン)(d)コーヒー酸化合物(すなわち、3,4−ジヒドロキシ桂皮酸);(e)桂皮酸;(f)芳香族カルボン酸(すなわち、3,4−ジヒドロキシヒドロ桂皮酸;2−ヒドロキシ桂皮酸;3−ヒドロキシ桂皮酸及び4−ヒドロキシ桂皮酸);(g)芳香族ケトカルボン酸(すなわち、4−ヒドロキシフェニルピルビン酸);並びに(h)芳香族アルコール(すなわち、4−ヒドロキシフェネチルアルコール)が挙げられるが、これらに限定されない。本発明で使用できるこれらの類似体及び他の代表的な類似体は、更に、その全体が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第9518606号及び同第01040188号に記載されている。
【0039】
クルクミン又はその類似体は、植物から精製され、又は周知の、当業者により使用される方法を用いて化学的に合成され得る。植物由来のクルクミン及び/又はその類似体は、ショウガ科クルクマ属(Zingiberaceae Curcuma)、例えばクルクマ・ロンガ(Curcuma longa)(ターメリック)、クルクマ・アロマチカ(Curcuma aromatica)(野生ターメリック)、クルクマ・ゼドアリア(Curcuma zedoaria)(ゼドアリー(zedoary))、クルクマ・キサントリザ(Curcuma xanthorrhiza)、マンゴージンジャー(mango ginger)、インドネシアン・アロールート(Indonesian arrowroot)、イエロー・ゼドアリー(yellow zedoary)、ブラック・ゼドアリー(black zedoary)及びガランガル(galangal)などの植物からの抽出物により得ることができる。ターメリックからクルクミノイドを単離する方法は、当該技術分野にて周知である(Janaki and Bose,1967)。また更に、クルクミンは商業的に入手してもよく、例えばクルクミンは、Sigma Chemicals Co(St.Louis,Mo.)から得てもよい。
【0040】
本発明で使用するべきクルクミン及びその類似体の調製には、任意の従来の方法を使用することができる。例えば、クルクミンを本質的に含有する食品添加物であるターメリック色素(turmericoleoresin)は、ターメリック根茎の乾燥製品から、高温でエタノールにより、高温の油及び脂肪若しくはプロピレングリコールにより、又は室温〜高温でヘキサン若しくはアセトンにより、抽出して生成することができる。代替的に、それらは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる特開2000−236843号、特開平11−235192号及び特開平6−9479号、並びに米国特許出願第20030147979号に開示されている方法により生成することができる。
【0041】
特定の実施形態では、少なくとも1種のクルクミン及び/又はその類似体の精製産物を、本明細書に従って脳脊髄液に送達してもよい。代替的に、薬学的又は食品として許容し得ない不純物を含有しない限り、その半精製又は粗製品を使用してもよい。
【0042】
アミロイドベータに対するクルクミン類似体の有効性についての限られた試験が存在する。Park,J.Nat.Prod.,65,9,Sept.2002は、PC12細胞にインビトロでアミロイドベータに対する保護を提供する能力について以下のクルクミン類似体を試験した結果を報告している(参照することにより本明細書に組み込まれる米国特許出願第12.359,713号の図1dの番号31〜34を参照)。
4’’−(3’’’−メトキシ−4’’’ヒドロキシフェニル)−2’’−オキソ−3’’−エンブタニル3−(3’−メトキシ−4’ヒドロキシフェニル)プロピオネート(31);
1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−7−(4−ヒドロキシフェニル)−1,6−ヘプタジエン−3,5−ジオン(デメトキシクルクミン)(32);
1,7−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,6−ヘプタジエン−3,5−ジオン(ビスデメトキシクルクミン)、(33);及び、
1,7−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−ヘプテン−3,5−ジオン(34)。
【0043】
Parkのデータの解析により、化合物(31)〜(34)のそれぞれは、クルクミンよりも強力なアミロイドベータに対する神経保護剤であり、化合物(31)及び化合物(34)は、5〜10倍のオーダーでより強力であることが明らかとなる。したがって、好ましい実施形態において、各化合物(31)〜(34)は、クルクミンプロドラッグの製造及び使用のために、親化合物として単独で使用され、又は組み合わせて使用される。各親化合物は、Parkにて開示された方法により得てもよい。
【0044】
他の実施形態では、クルクミンは、第2の親油性治療剤、好ましくはレスベラトロル等の別のポリフェノールと組み合わせられて、本明細書に従って脳脊髄液に送達される「クルクミンハイブリッド」を形成する。幾つかの実施形態では、クルクミンは、イチョウ抽出物、レスベラトロル、ヒスピジン、ゲニステイン、エラグ酸、1,25ジヒドロキシビタミンD3、緑茶カテキンEGCG、及びドコサヘキサエン酸(DHA)からなる群から選択される別の化合物との製剤で提供される。
【0045】
本明細書に従って脳脊髄液に送達するための、参照することにより本明細書に組み込まれる米国特許出願第12/359,713号に記載されているクルクミンハイブリッド及び類似体が多数存在する。米国特許出願第12/359,713号の図2〜16は、クルクミンと、様々な他の天然ポリフェノールとのハイブリッドである様々なクルクミン誘導体を開示する。これらの各誘導体は、クルクミンの中間のジケトン構造がフェノール基で置き換えられているトリフェノール化合物である。得られた化合物は、クルクミンの2つのフェノール間の間隔を保持し、また追加のポリフェノールのビフェノール間隔も所有している。米国特許出願第12/359,713号の図2は、クルクミン、レスベラトロル、及び2つのクルクミン−レスベラトロルハイブリッドの構造を開示している。各ハイブリッドは、クルクミン及びレベラトロル(reveratrol)のそれぞれのフェノール間の間隔を保持している。米国特許出願第12/359,713号の図3は、クルクミン−レスベラトロルIハイブリッドの作製方法を開示している。米国特許出願第12/359,713号の図4は、クルクミン−レスベラトロルIIハイブリッドの作製方法を開示している。米国特許出願第12/359,713号の図5は、中央フェノール基及び側部フェノール基のそれぞれにおいて3つのヒドロキシル基を有するクルクミン−レスベラトロルハイブリッドの作製方法を開示している。米国特許出願第12/359,713号の図6は、クルクミン、レスベラトロル及びこれらのハイブリッドを開示し、天然化合物の全てのフェノールがハイブリッドで表され、トリヒドロキシル側部フェノール基及びジヒドロキシル中央フェノール基を提供する。米国特許出願第12/359,713号の図7は、図6のクルクミン−レスベラトロルハイブリッドの作製方法を開示する。米国特許出願第12/359,713号の図8は、図6のハイブリッドと同様であるが、ベースのクルクミン分子のメトキシ基が保持されている。米国特許出願第12/359,713号の図9は、クルクミン、オキシレスベラトロル及びこれらのハイブリッドを開示し、天然化合物の全てのヒドロキシル/フェノールがハイブリッドで表され、トリヒドロキシル側部フェノール基及びトリヒドロキシル中央フェノール基を提供する。米国特許出願第12/359,713号の図10は、クルクミン、ピセタノール及びこれらのハイブリッドを開示し、天然化合物の全てのヒドロキシル/フェノールがハイブリッドで表され、トリヒドロキシル側部フェノール基及びトリヒドロキシル中央フェノール基を提供する。米国特許出願第12/359,713号の図11は、クルクミン−レスベラトロルハイブリッドの作製方法を開示し、天然化合物の全てのヒドロキシル/フェノールがハイブリッドで表され、トリヒドロキシル側部フェノール基及びジヒドロキシル中央フェノール基を提供する。
【0046】
参照することにより本明細書に組み込まれる米国特許出願第12/359,713号の図12は、クルクミン、BDMC、レスベラトロル、及びそのクルクミンハイブリッドを開示し、天然化合物の全てのフェノールがハイブリッドで表され、ヒドロキシルデメトキシ側部フェノール基及びヒドロキシ又はジヒドロキシル中央フェノール基を提供する。米国特許出願第12/359,713号の図13は、ヒドロキシルデメトキシ側部フェノール基及びヒドロキシ中央フェノール基を有する、図12の化合物の作製方法を提供する。図13に示されるクルクミン類似体分子は、1−ヒドロキシル3,5−ビス(4’−ヒドロキシルスチリル)ベンゼンである。反応体の1つにおけるメトキシ基を単純に除去することにより、図13に示すのと実質的に同様の方法で3,5−ビス(4’−ヒドロキシルスチリル)ベンゼンを作製することができる。米国特許出願第12/359,713号の図14は、ヒドロキシルデメトキシ側部フェノール基及びジヒドロキシ中央フェノール基を有する、図12の化合物の作製方法を提供する。図14に示されるクルクミン類似体分子は、1,3−ジヒドロキシル4,6−ビス(4’−ヒドロキシルスチリル)ベンゼンである。
【0047】
米国特許出願第12/359,713号の図15は、クルクミン、ピセタノール、及びこれらのハイブリッドを開示し、天然化合物のヒドロキシルの大部分がハイブリッドで表され、2つの天然化合物が共有している位置において、末端フェノール基にジヒドロキシル及び中央フェノール基に単一ヒドロキシルを提供する。Kim,Ann N Y Acad Sci.,2007 Jan;1095:473〜82は、ピセタノール処理が、AbによるPC12細胞の処理により誘導されるROSの細胞内蓄積を減弱し、ヌクレオソーム間DNA断片化、核凝縮、ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP)の切断、及びカスパーゼ−3の活性化を含むAb−誘導性アポトーシス機構を阻害することを報告している。図15に示されるクルクミン−ピセタノール類似体分子は、1−ヒドロキシル3,5−ビス(3’,4’−ジヒドロキシルスチリル)ベンゼンである。反応体の1つにおけるメトキシ基を単純に除去することにより、図15に示すのと実質的に同様の方法で3,5−ビス(3’,4’−ジヒドロキシルスチリル)ベンゼンを作製することができる。米国特許出願第12/359,713号の図16は、図15の化合物の作製方法を提供する。
【0048】
幾つかの実施形態では、
a)1−ヒドロキシル3,5−ビス(4’ヒドロキシルスチリル)ベンゼン、
b)1,3−ジヒドロキシル4,6−ビス(4’−ヒドロキシルスチリル)ベンゼン、
c)1−ヒドロキシル3,5−ビス(3’,4’−ジヒドロキシルスチリル)ベンゼン、及び
d)3,5−ビス(3’,4’−ジヒドロキシルスチリル)ベンゼン、からなる群から選択される少なくとも1つの構造を含むクルクミン類似体が利用される。
【0049】
幾つかの実施形態では、1−ヒドロキシル3,5−ビス(4’−ヒドロキシルスチリル)ベンゼンを含むクルクミン類似体が利用される。幾つかの実施形態では、3,5−ビス(4’−ヒドロキシルスチリル)ベンゼンを含むクルクミン類似体が提供される。幾つかの実施形態では、1,3−ジヒドロキシル4,6−ビス(4’−ヒドロキシルスチリル)ベンゼンを含むクルクミン類似体が提供される。幾つかの実施形態では、1−ヒドロキシル3,5−ビス(3’,4’−ジヒドロキシルスチリル)ベンゼンを含むクルクミン類似体が提供される。幾つかの実施形態では、3,5−ビス(3’,4’−ジヒドロキシルスチリル)ベンゼンを含むクルクミン類似体が提供される。
【0050】
本明細書に従って脳脊髄液に送達される更なるクルクミンハイブリッドは、米国特許出願第12/359,713号の図17〜22に開示されており、参照することにより本明細書に組み込まれる。米国特許出願第12/359,713号の図17は、クルクミン、3,3’,4’フィセチン及びクルクミン−3,3’,4’フィセチンハイブリッドの構造を開示し、クルクミン及び3,3’,4’フィセチン化合物のヒドロキシルの全てがハイブリッドで表され、末端フェノール基にジヒドロキシル及び各二重結合の代わりにヒドロキシルを提供する。Maher,Free Radic Res.2006 Oct;40(10):1105〜11は、一般にフィセチン、特に3,3’,4’フィセチンが強力な(低マイクロモル)神経栄養特性を有することを報告している。米国特許出願第12/359,713号の図18は、図17のクルクミン−3,3’,4’フィセチンハイブリッドの作製方法を開示している。米国特許出願第12/359,713号の図19は、クルクミン、ホノキオール、及びクルクミン−ホノキオールハイブリッドの構造を開示し、クルクミン及びホノキオール化合物の全てのヒドロキシルはハイブリッドで表され、末端フェノール基に単一ヒドロキシル及び各二重結合の代わりにヒドロキシルを提供する。Fukuyama,Bioorg Med Chem Lett.2002 Apr 22;12(8):1163〜6は、ホノキオールが強力な神経栄養特性を有することを報告している。米国特許出願第12/359,713号の図20は、図19のクルクミン−ホノキオールハイブリッドの作製方法を開示している。米国特許出願第12/359,713号の図21は、図13のホノキオールハイブリッドの作製方法を開示しており、天然化合物のヒドロキシルの全てはハイブリッドで表され、2つの天然化合物が共有している位置における末端フェノール基に単一ヒドロキシル、中央フェノール基にヒドロキシル、及び各クルクミン二重結合の代わりにヒドロキシルを提供する。米国特許出願第12/359,713号の図22は、図15の3,3’,4’フィセチンハイブリッドの作製方法を開示しており、天然化合物のフェノールの全てはハイブリッドで表され、末端フェノール基に単一ヒドロキシル、2つの天然化合物が共有している位置におけるヒドロキシル中央フェノール基、及び各クルクミン二重結合の代わりに更なるヒドロキシルを提供する。
【0051】
本発明に従って脳脊髄液に送達される別のクルクミンハイブリッドとしては、参照することにより本明細書に組み込まれる米国特許出願第12/359,713号に開示されているようにメチレンブルーが挙げられる。米国特許出願第12/359,713号に記されているように、クルクミン(又はBDMC)の7炭素疎水性内側部は、メチレンブルーの非極性三環系内側部位と同じ長さを有する。更に、クルクミン(又はBDMC)の7炭素疎水性内側部位は、メチレンブルーの非極性三環部の二重結合と機能的に類似の方式で離間している二重結合を通して共鳴をもたらす。更に、クルクミン(又はBDMC)の側方ヒドロキシフェニル基の対は、空間的関係(ひいてはアミロイド結合能)及びクルクミンの中央二重結合との相互作用の両方を保つ方式でメチレンブルーに付加し得る。その結果は、クルクミン及びメチレンブルーの所望の品質の多くを有する分子(50)である。この分子(50)は、米国特許出願第12/359,713号の図29に示されており、2,6−ビス(4’,4’’ジヒドロキシフェニル),3.7−ビス(ジメチルアミノ)−フェンアザチオニウムクロリドと命名されている。したがって、本発明の別の実施形態では、本発明に従って脳脊髄液に送達されるクルクミン(又はBDMC)とメチレンブルーとのハイブリッドが提供される。このBDMCとメチレンブルーとのハイブリッドは、米国特許出願第12/359,713号の図29に分子(50)として示されている。
【0052】
したがって、本発明の好ましい実施形態に適用されるように本発明の基本的な新規特徴を図示し、記載し、また指摘してきたが、本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく、当業者は、図示した装置の形態及び詳細、並びにその装置の操作において種々の削除、置換、及び変更を行い得ることが理解される。例えば、本発明の範囲内と同様の結果を得るために、実質的に同じ方法で、実質的に同じ機能を行う要素及び/又は工程の全ての組み合わせが明確に意図される。ある記載された実施形態の要素を別の実施形態の要素に置換することも十分意図され、想到される。また、図面は必ずしも縮尺通りではないが、実際には単に概念的なものである。よって、添付の請求項の範囲によって示されている通りに限り限定されることが意図される。
【0053】
本明細書に引用される全ての発行済み特許、係属中の特許出願、刊行物、論文、書籍、又は任意の他の参照文献は、その全文が参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0054】
〔実施の態様〕
(1) 脳脊髄液中の病原性物質の存在に関連するヒトの脳疾患を緩和又は予防する方法であって、
患者として処置を受けるヒトを選択することと、
少なくとも第1の内腔を有する第1のカテーテルの近位端を前記患者の脳内の第1の硬膜下部位に配置して、前記第1の内腔と前記患者の脳脊髄液との間に開放型連通を確立することと、
クルクミン、クルクミンハイブリッド、及びクルクミン類似体のうちの少なくとも1つから選択されるクルクミン剤を長期間前記脳脊髄液に送達して、前記病原性物質と相互作用させ、前記脳に対する前記病原性物質の作用を減弱することと、を含む、方法。
(2) 前記患者が、脳疾患を有すると診断されている、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記患者が、アルツハイマー病を有すると診断されている、実施態様1に記載の方法。
(4) 前記カテーテルの前記近位端が、前記第1の硬膜下部位としての前記脳の脳室内に配置される、実施態様1に記載の方法。
(5) 前記クルクミン剤と混合された脳脊髄液が、前記第1の硬膜下部位に直接戻される、実施態様1に記載の方法。
(6) 前記クルクミン剤と混合された脳脊髄液が、前記患者の前記脳内の別の硬膜下部位に直接戻される、実施態様1に記載の方法。
(7) 前記クルクミン剤の脳組織濃度が、少なくとも0.1μMに達する、実施態様1に記載の方法。
(8) 前記クルクミン剤の脳組織濃度が、少なくとも1μMに達する、実施態様1に記載の方法。
(9) 前記クルクミン剤の脳組織濃度が、少なくとも5μMに達する、実施態様1に記載の方法。
(10) 前記クルクミン剤の脳組織濃度が、少なくとも20μMに達する、実施態様1に記載の方法。
【0055】
(11) 前記クルクミン剤が、前記第1のカテーテルに連結されているリザーバから放出される、実施態様1に記載の方法。
(12) 前記リザーバに連結された近位カテーテルが、前記クルクミン剤と混合された脳脊髄液を、前記患者内の別の部位に輸送する、実施態様11に記載の方法。
(13) 前記リザーバが、クルクミン剤を運ぶ取り外し可能なキャニスタを含む、実施態様11に記載の方法。
(14) 前記クルクミン剤の少なくとも一部が、前記第1のカテーテルの少なくとも一部内に運ばれるコーティングから放出される、実施態様1に記載の方法。
(15) 前記第1の硬膜下部位とは異なる硬膜下部位において脳脊髄液をサンプリングすることと、前記脳脊髄液中の前記クルクミン剤の濃度を測定することと、を更に含む、実施態様1に記載の方法。
(16) 脳脊髄液中の病原性物質の存在に関連するヒトの脳疾患を緩和又は予防する方法であって、
患者として処置を受けるヒトを選択することと、
少なくとも第1の内腔を有する第1のカテーテルの近位端を前記患者の脳内の第1の硬膜下部位に配置して、前記第1の内腔と脳脊髄液との間に開放型連通を確立することと、
前記第1の内腔を通して脳脊髄液を回収し、クルクミン、クルクミンハイブリッド、及びクルクミン類似体のうちの少なくとも1つを含むクルクミン剤に脳脊髄液を曝露して、前記病原性物質と相互作用させ、前記脳に対する前記病原性物質の作用を減弱することと、
前記曝露された脳脊髄液を前記患者に戻すことであって、前記クルクミン剤の脳組織濃度が少なくとも0.1μMに達する、ことと、を含む、方法。
(17) 前記曝露された脳脊髄液が、前記第1のカテーテルの第2の内腔を通して前記患者に戻される、実施態様16に記載の方法。
(18) 前記曝露された脳脊髄液が、第2のカテーテルの内腔を通して前記患者に戻される、実施態様16に記載の方法。
(19) 前記第1の硬膜下部位とは異なる硬膜下部位において脳脊髄液をサンプリングすることと、前記脳脊髄液中の前記クルクミン剤の濃度を測定して、その脳組織濃度を推定することと、を更に含む、実施態様16に記載の方法。
(20) 脳脊髄液中の病原性物質の存在に関連するヒトの脳認知症を緩和する方法であって、
認知症と診断されている患者として処置を受けるヒトを選択することと、
少なくとも第1の内腔を有する第1のカテーテルの近位端を前記患者の脳内の第1の髄膜下部位に配置して、前記第1の内腔と前記患者の脳脊髄液との間に開放型連通を確立することと、
クルクミン、クルクミンハイブリッド、及びクルクミン類似体のうちの少なくとも1つから選択されるクルクミン剤を長期間前記脳脊髄液に送達して、前記病原性物質と相互作用させ、前記脳に対する前記病原性物質の作用を減弱することであって、前記クルクミン剤が、前記第1のカテーテルに連結されているリザーバから放出され、脳組織濃度が少なくとも1μMに達する、ことと、を含む、方法。
【0056】
(21) 前記第1の硬膜下部位とは異なる硬膜下部位において脳脊髄液をサンプリングすることと、前記脳脊髄液中の前記クルクミン剤の濃度を測定して、その脳組織濃度を推定することと、を更に含む、実施態様20に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳脊髄液中の病原性物質の存在に関連するヒトの脳疾患を緩和又は予防する方法であって、
患者として処置を受けるヒトを選択することと、
少なくとも第1の内腔を有する第1のカテーテルの近位端を前記患者の脳内の第1の硬膜下部位に配置して、前記第1の内腔と前記患者の脳脊髄液との間に開放型連通を確立することと、
クルクミン、クルクミンハイブリッド、及びクルクミン類似体のうちの少なくとも1つから選択されるクルクミン剤を長期間前記脳脊髄液に送達して、前記病原性物質と相互作用させ、前記脳に対する前記病原性物質の作用を減弱することと、を含む、方法。
【請求項2】
脳脊髄液中の病原性物質の存在に関連するヒトの脳疾患を緩和又は予防する方法であって、
患者として処置を受けるヒトを選択することと、
少なくとも第1の内腔を有する第1のカテーテルの近位端を前記患者の脳内の第1の硬膜下部位に配置して、前記第1の内腔と脳脊髄液との間に開放型連通を確立することと、
前記第1の内腔を通して脳脊髄液を回収し、クルクミン、クルクミンハイブリッド、及びクルクミン類似体のうちの少なくとも1つを含むクルクミン剤に脳脊髄液を曝露して、前記病原性物質と相互作用させ、前記脳に対する前記病原性物質の作用を減弱することと、
前記曝露された脳脊髄液を前記患者に戻すことであって、前記クルクミン剤の脳組織濃度が少なくとも0.1μMに達する、ことと、を含む、方法。
【請求項3】
脳脊髄液中の病原性物質の存在に関連するヒトの脳認知症を緩和する方法であって、
認知症と診断されている患者として処置を受けるヒトを選択することと、
少なくとも第1の内腔を有する第1のカテーテルの近位端を前記患者の脳内の第1の髄膜下部位に配置して、前記第1の内腔と前記患者の脳脊髄液との間に開放型連通を確立することと、
クルクミン、クルクミンハイブリッド、及びクルクミン類似体のうちの少なくとも1つから選択されるクルクミン剤を長期間前記脳脊髄液に送達して、前記病原性物質と相互作用させ、前記脳に対する前記病原性物質の作用を減弱することであって、前記クルクミン剤が、前記第1のカテーテルに連結されているリザーバから放出され、脳組織濃度が少なくとも1μMに達する、ことと、を含む、方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−157357(P2011−157357A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−16290(P2011−16290)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(500140415)コドマン・アンド・シャートレフ・インコーポレイテッド (34)
【氏名又は名称原語表記】Codman & Shurtleff, Inc.
【住所又は居所原語表記】325 Paramount Drive, Raynham, Massachusetts 02767−0350, U.S.A.
【Fターム(参考)】