クレードA/G、クレードB、およびクレードC改変HIVenv、gag、およびpol遺伝子を発現する組換えMVAウイルス
【課題】ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の遺伝子を発現する、ワクシニアウイルスの複製欠損株である改変ワクシニア・アンカラ(modified vaccinia Ankara;MVA)を提供する。
【解決手段】HIVのenv、gagおよびpol抗原を産生させるための、前記抗原の遺伝子またはそれらの改変遺伝子を発現する組換えMVAウイルスであり、HIVのenv遺伝子が、GP120、ならびにgp41の膜貫通および外部ドメインから構成されるがgp41の細胞質ドメインの一部またはすべてを欠くEnvタンパク質をコードするよう改変された組換えMVAウイルスを含む薬学的組成物。
【解決手段】HIVのenv、gagおよびpol抗原を産生させるための、前記抗原の遺伝子またはそれらの改変遺伝子を発現する組換えMVAウイルスであり、HIVのenv遺伝子が、GP120、ならびにgp41の膜貫通および外部ドメインから構成されるがgp41の細胞質ドメインの一部またはすべてを欠くEnvタンパク質をコードするよう改変された組換えMVAウイルスを含む薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV) env、gag、およびpol遺伝子を発現する、ワクシニアウイルスの複製欠損株である改変ワクシニアアンカラ(modified vaccinia Ankara;MVA)を提供する。
【0002】
関連出願の相互参照
本願は、2004年8月27日に出願された米国仮特許出願第60/604,918号の恩典を主張するものであり、その開示は全体が参照として本明細書に明確に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
有効なヒト免疫不全ウイルス(HIV)ワクチンを同定するための探究において、多くの新規な候補およびアプローチが開発されている。有効なHIV-1ワクチンの作製には、強力な細胞性免疫の誘導および一次HIV-1を中和し得る反応性の広い抗エンベロープ抗体が必要であり得り、理想的なワクチンはT細胞およびB細胞応答の両方を誘導することが必要であり得る。プラスミドDNAワクチン接種は液性免疫応答および細胞性免疫応答の両方を誘発することができ(Tang et al. 1992 Nature 356: 152-154;Ulmer et al. 1993 Science 259:1745-1749;およびWolff et al. 1990 Science 247:1465-1468)、これらは非病原性エイズウイルスによる攻撃から非ヒト霊長類を防御し(Boyer et al. 1997 Nat. Med. 3:526-532;およびLetvin et al. 1997 PNAS U.S.A. 94:9378-9383)、病原性サル免疫不全ウイルス(SIV)による疾患からの適度な防御を提供する(Egan et al. 2000 J. Virol. 74:7485-7495;およびLu et al. 1996 J. Virol. 70: 3978-3991)。
【0004】
細胞性免疫をもたらすように設計されたワクチンは、一部の例では、アカゲザルにおいて毒性ウイルスの攻撃を制御し、エイズ(AIDS)の発症を妨げ得る(Amara et al. 2001 Science 292: 69-74;;Barouch et al. 2000 Science 290: 486-492;Barouch et al. 2001 J. Virol. 75:5151-5158;Rose et al. 2001 Cell 106:539-549;およびShiver et al. 2002 Nature 415: 331-335)。プラスミドDNAによる免疫応答の初回刺激、ならびにその後の改変ワクシニアウイルスアンカラなどの組換えポックスウイルス追加免疫(Amara et al. 2001 Science 292:69-74、およびRobinson et al. 2000 AIDS Rev. 2:105-110)、またはVLPタンパク質ブーストおよびIL-12/GM-CSF(O'Neill et al. 2003 AIDS Res. Hum. Retrovir. 19: 883-890、およびO'Neill et al. 2002 J. Med. Primatol. 31: 217-227)は、細胞性免疫をもたらすための多くの異なるアプローチのうちの2つである。gagおよびenv応答の両方がウイルス攻撃に対する防御に重要であるため(Amara et al. 2002 J. Virol. 76:6138-6146)、同一ベクター上に複数のHIV-1遺伝子領域を含めることにより、DNAプライム-MVAブースト法が強化される。この潜在的利点が欠如するのは、Gagのみをコードするか、または別個のDNA構築物上にGag、Env、およびその他のウイルスタンパク質をコードするHIV-1 DNAワクチンである(Barouch et al. 2000 Science 290: 486-492;Barouch et al. 2002 Nature 415:335-339、およびKang et al. 1999 Biol. Chem. 380: 353-364)。HIVによる回避は、免疫応答が単一の支配的エピトープによって駆動される場合に可能であり(Barouch et al. 2000 Science 290: 486-492;Barouch et al. 2000 Nature 415:335-339、およびMortara et al. 1998 J. Virol. 72: 1403-1410);したがって、多エピトープまたは多タンパク質応答が有利なようである。
【0005】
VLPの構築および細胞からの放出は、Gagポリタンパク質を保存するための適切な細胞内プロテアーゼ調節に依存し(Gottlinger et al. 1989 PNAS USA 86: 5781-5785;Karacostas et al. 1993 Virology 193:661-671、およびPeng et al. 1989 J. Virol. 63:2550-2556)、Gagのみの発現系のトランスフェクションで観察され得る(Huang et al. 2001 J. Virol. 75: 4947-4951;Kang et al. 1999 Biol. Chem. 380: 353-364、およびSchneider et al. 1997 J. Virol. 71:4892-4903)ことは十分に確立している。以前の研究から、プロテアーゼの25番目の残基のアスパラギン酸(D)からアスパラギン(N)への変異により、プロテアーゼ活性が完全に消失することが実証された(Gottlinger et al. 1989 PNAS USA 86: 5781-5785;Kohl et al. 1988 PNAS USA 85:4686-4690、およびLoeb et al. 1989 J. Virol. 63: 111-121)。さらに、Jacobsen et al. (1995 Virology 206:527-534)は、48位(G48V)および90位(M90L)でのプロテアーゼの突然変異誘発により、酵素活性の効果が低下すること、ならびにgagおよびgag-polポリタンパク質のプロセシングが遅延することを実証した。アミノ酸48位および90位のアミノ酸におけるプロテアーゼ変異は、D25N変異とは異なり、プロテアーゼ酵素活性を遅延させるが消失させず、その他の点では野生型であるプロウイルス内に存在する場合に感染性ウイルスの産生を可能にする。最近の研究から、48位および90位における2つのプロテアーゼ変異体が、HIV-1タンパク質の高レベルの産生に関してばかりでなく、VLPの構築に関しても制限しないことが示唆された(Ellenberger et al. 2004 Virology 319: 118-130)。
【0006】
最も有望なHIVワクチンの1つは、異種プライム-ブースト法である。プライムは、HIVタンパク質を発現する組換えプラスミドDNAまたはウイルスベクターからなり得る。異種ブーストは、ベクター自体ではなくワクチン挿入物免疫原のブーストを最適化する組換えウイルスベクター(ポックスウイルスまたはアデノウイルス)または第2のウイルスベクターである。プライムおよびブーストに同じ組換えウイルスベクターを使用すると、組換えベクターに対する既存の免疫と類似した免疫応答が減少する(Vogels et al. 2003 J. Virol. 77: 8263-8271)。組換えプラスミドDNAによる初回刺激および組換えMVAによる追加免疫により、両ベクター内に含まれる共通の免疫原に対する細胞応答が増強される(Amara et al. 2001 Science 292: 69-74;Hanke et al. 1998 Vaccine 16: 439-445;Schneider et al. 1998 Nat. Med. 4: 397-402;およびSchneider et al. 2001 Vaccine 19: 4595-4602)。ワクチン手順に対する免疫応答のピークエフェクター相において、誘導されたCD8細胞は、全CD8細胞の非常に高い頻度に到達し得る(Allan et al. 2000 J. Immunol. 164:4968-4978;Amara et al. 2001 Science 292: 69-74;およびHorton et al. 2002 J. Virol. 76: 7187-7202)。
【発明の概要】
【0007】
発明の概要
本発明は、組換えMVAウイルスからの発現によりHIV Env、Gag、およびPol抗原を産生させるための、HIV env、gag、およびpol遺伝子、またはそれらの改変遺伝子を発現する組換えMVAウイルスであり、HIV env遺伝子が、gp120、ならびにgp41の膜貫通および外部ドメインから構成されるがgp41の細胞質ドメインの一部またはすべてを欠くHIV Envタンパク質をコードするよう改変された組換えMVAウイルス、ならびに薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物であって;HIV env、gag、もしくはpol遺伝子、またはそれらの改変遺伝子がクレードAGから採取され、かつHIV env遺伝子またはその改変遺伝子が配列番号:1またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有し、HIV gagおよびpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子が配列番号:2またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有するか;またはHIV env、gag、もしくはpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子がクレードBから採取され、かつHIV env遺伝子またはその改変遺伝子が配列番号:3またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有し、HIV gagおよびpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子が配列番号:4またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有するか;またはHIV env、gag、もしくはpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子がクレードCから採取され、かつHIV env遺伝子またはその改変遺伝子が配列番号:5またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有し、HIV gagおよびpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子が配列番号:6またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有する薬学的組成物;ならびに関連するその作製方法および使用方法に関する。
【0008】
微生物の寄託
以下の微生物は、ブダペスト条約の条項に従って、記載の日付でアメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection;ATCC)、バージニア州、マナッサスに寄託された:
【0009】
MVA 1974/NIHクローン1は、ATCCアクセッション番号:PTA-5095として、2003年3月27日にアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)、10801 University Blvd., Manassas, VA 20110-2209, USAに寄託された。この寄託は、特許手続きのための微生物寄託の国際認識に関するブダペスト条約およびそれに基づく規則(ブダペスト条約)の規定の下で行われた。これは、寄託の日付から30年間、寄託物の生存可能な培養物が維持されることを保証するものである。寄託物はブダペスト条約の条項の下で、また出願者とATCCとの間の合意を条件として、ATTCから入手することができ、これは、いずれが最初であろうとも、関連する米国特許の発行時または任意の米国もしくは外国特許出願の公開時に、寄託培養物の子孫を公衆が永続的かつ非限定的に入手できることを保証し、米国特許法第122条およびそれに準ずる特許庁長官規則(37 CFR第1.14条を含む)に従って権利を有すると米国特許庁長官が決定した者が子孫を入手できることを保証するものである。受託された株の入手可能性は、特許法に従いあらゆる政府の権限下で許可される権利に違反して本発明を実施するライセンスとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】pol遺伝子配列の同一性に基づいたHIV-1およびHIV-2の系統発生関係を示す。SIVcpzおよびSIVsmmは、それぞれチンパンジーおよびスーティーマンガベイザルから回収された類人猿レンチウイルスである。
【図2】全長pol遺伝子配列に基づいた、HIV-1 M、N、およびO群と4つの異なるSIVcpz分離株の系統発生関係を示す。バーは遺伝的距離0.1(10%ヌクレオチド相違)を示し、星印はenv配列に基づいたN群HIV-1分離株の位置を示す。
【図3】HIV-1分離株の向性特性および生物学的特性を示す。
【図4】HIVがコードするタンパク質を示す。HIV遺伝子の位置、一次翻訳産物(場合によってはポリタンパク質)の大きさ、およびプロセシングされた成熟ウイルスタンパク質を示す。
【図5】成熟HIV-1ビリオンの略図を示す。
【図6】HIV-1 Env糖タンパク質の直線図を示す。矢印は、gp120およびgp41となるgp160の切断部位を示す。gp120において、斜線領域は可変ドメイン(V1〜V5)を示し、白ボックスは保存配列(C1〜C5)を示す。gp41外部ドメイン内には、いくつかのドメインが示される:N末端融合ペプチドおよび2つの外部ドメインヘリックス(NヘリックスドメインおよびCへリックス)。膜貫通ドメインは黒ボックスで示す。gp41細胞質ドメイン内には、Tyr-X-X-Leu(YXXL)外部ドメインモチーフ(配列番号:13)および2つの予測されるヘリックスドメイン(ヘリックス-1およびヘリックス-2)が示される。アミノ酸番号を表示してある。
【図7】pJD-5伝達ベクターを示す。
【図8】pJD-6伝達ベクターを示す。
【図9】流れ図「組み換えMVA 65A/Gの構築」を示す。
【図10】MVA 65A/GのHIV Env発現を示す。
【図11】MVA 65A/GのHIV GagPol発現を示す。
【図12】MVA 65A/G Env配列(配列番号:1)を示す。
【図13】MVA 65A/G GagPol配列(配列番号:2)を示す。
【図13−2】図13の続きを示す図である。
【図14】pJD-16伝達ベクターを示す。
【図15】改変MVA 65A/Gからのエンベロープ発現の強化を示す。
【図16】MVA 65A/G構築物からのGag発現を示す。
【図17】免疫化マウスのクレードA/G gp140 ELISA力価を示す。
【図18】クレードA p24ペプチドICS応答を示す。
【図19】pLAS-1 HXB2/BH10 Gag Pol伝達ベクターを示す。
【図20】pLAS-2 ADA Env伝達ベクターを示す。
【図21】流れ図「組み換えMVA 62Bの構築」を示す。
【図22】MVA 62BからのHIV Envおよびgagの発現を示す。
【図23】MVA 62B ADA Env配列(配列番号:3)を示す。
【図24】MVA 62B中のHXB2/BH10 Gag Pol配列(配列番号:4)を示す。
【図24−2】図24の続きを示す図である。
【図25】MVA 62B免疫化マウスにおける細胞内サイトカイン染色(ICS)Envおよびgag応答を示す。
【図26】pLW-66伝達ベクターを示す。
【図27】pJD-17伝達ベクターを示す。
【図28】改変MVA 62B構築物の発現強化を示す。
【図29】改変MVA 62B構築物からのGagの発現を示す。
【図30】マウスにおける改変構築物によるgp140 ELISA力価の強化を示す。
【図31】改変構築物によるICS Env応答の強化を示す。
【図32】ICS Gag応答を示す。
【図33】MVA56用のpLAS-6伝達プラスミドを示す。
【図34】MVA組換え体MVA 48および56によるEnvおよびGagPol発現を示す。
【図35】pDC-3(LAS-1 C-IN3 gag pol)プラスミドを示す。
【図36】pJD-15(LAS-2 C-IN3 env)プラスミドを示す。
【図37】流れ図「組み換えMVA/HIV 71Cの構築」を示す。
【図38】MVA 71CのHIV EnvおよびGag Pol発現を示す。
【図39】MVA/HIV 71C Env配列(配列番号:5)を示す。
【図40】MVA/HIV 71C Gag Pol配列(配列番号:6)を示す。
【図41】HIV-1様粒子の解析を示す。(A) ウサギポリクローナル抗p24を用いたショ糖勾配精製VLPの免疫ブロット解析。HIV前駆体および産物の位置を右側に示す。各勾配による画分9をSDS-PAGEで分離し、ニトロセルロースに転写し、免疫ブロッティングにより解析した。ワクチン構築物pGA1/IC25(HIVプロテアーゼ活性の完全消失)を参照として含める(Ellenberger, D. et al. 2004 Virology 319:118-130)。(B) ワクチン構築物中に導入されたプロテアーゼ変異の概要および明白な発現産物。(C) ワクチン構築物IC1-90およびIC48をトランスフェクトした293T細胞におけるVLPおよび細胞内タンパク質凝集体の透過型電子顕微鏡観察。
【図42】pGA1/IC1-90 DNAおよびpGA1/IC48 DNA初回刺激群の時間的IFN-γELISPOT応答を示す。動物16匹を19のペプチドプールに対して試験した。記号は、それぞれの動物の全ELISPOT応答を示す。太いバーは、指定の群それぞれの算術平均を表す。ピークELISPOT応答(+42週;MVA追加免疫の1週間後)、記憶応答(MVAの8週間後)、および後期記憶(MVAの26週間後)を示す。バックグラウンド値(陰性対照の平均の2倍プラス10)をペプチドウェルの生数値から減算し、その後100万個のPBMCに変換した。
【図43】MVA追加免疫の1週間後のIFN-γELISPOT応答を示す。数字は、表示の遺伝子領域に対する応答の算術平均を示す。パネルの下の表示は、刺激に使用した遺伝子およびペプチドプールを示す。パネルの右側の表示は、DNAプライム群を示す。記号は個々の動物を示す。バックグラウンド値を減算してから、100万個のPBMCに変換した。
【図44】IC1-90およびIC48初回刺激群のピークELISPOT応答の幅を示す。ワクチン群当たり8匹の動物を、19のペプチドプール(5 Gag、6 Pol、および7 Env、ならびに1 Tat)に対して試験した。各ペプチドプールに関して陽性と記録された、動物当たりのELISPOT応答を示す。
【図45】MVA追加免疫の8週間後に決定されたELISPOT応答を示す。パネルの下の表示は、個々の動物およびDNAプライム群(動物8匹/群)を示す。積み重なったバーは、個々のペプチドプールに対する各動物のELISPOT応答を示す。白いバーはGagペプチドプールを表し、黒いバーはPolペプチドプールを表し、灰色のバーはEnvペプチドプールを表す。バックグラウンド値を減算してから、100万個のPBMCに変換した。
【図46】IFN-γおよびIL2細胞内サイトカイン染色により決定された応答CD8細胞およびCD4細胞を示す。(A) ピーク時(MVA追加免疫の1週間後)における個々の動物のGagおよびEnvに対するパーセント特異的CD8細胞。太いバーは、各群における応答の算術平均高を示す。パネルの上の表示は測定したサイトカイン(IFN-γおよびIL2)を明示し、パネルの下の表示はDNAプライム群を明示する。記号は個々の動物を示す。(B) ピーク時(MVA追加免疫の1週間後)における個々の動物のGagおよびEnvに対するパーセント特異的CD4細胞。パネルの上下の表示はpAと同様である。
【図47】HIV遺伝子の改変を示す。HIV env遺伝子では、ワクシニア初期終結シグナルがサイレント変異を作製することにより除去され、gp 41細胞質尾部の一部が切断された。pol遺伝子では、3つの変異がRT内に作製され、インテグラーゼが除去された。
【図48】組換えMVA/HIVの構築を示す。MVAと、一過性GFP、および初期/後期改変H5ワクシニアプロモーターによって制御されるHIV遺伝子の発現を含むMVA envまたはgagシャトルプラスミドの相同組換えにより、一重組み換えウイルスを作製した。両方の一重組換え体をMOI 5 pfu/細胞で感染させ、収集物をプレーティングして個々のプラークを採取した。免疫染色によりプラークを特徴づけ、EnvおよびGagタンパク質を両方発現するプラークをさらにプラーク精製し、二重組換え体を取得した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
好ましい態様の詳細な説明
組換えMVAウイルス
ポックスウイルス科のオルトポックスウイルス属のメンバーであるワクシニアウイルスは、ヒト天然痘疾患に対して免疫化するための生ワクチンとして使用された。ワクシニアウイルスによる世界的なワクチン接種の成功により、天然痘の原因因子である痘瘡ウイルス(variola virus)が根絶された(「The global eradication of smallpox. Final report of the global commission for the certification of smallpox eradication」. History of Public Health, No. 4, Geneva: World Health Organization, 1980)。そのWHOの宣言以来、ポックスウイルス感染症の危険性の高い人々(例えば、研究所員)を除き、ワクチン接種は一般に中断されている。
【0012】
より最近では、ワクシニアウイルスは、組換え遺伝子発現のため、および組換え生ワクチンとしての潜在的用途のために、ウイルスベクターを操作するのにも使用されている(Mackett, M. et al. 1982 PNAS USA 79:7415-7419;Smith, G.L. et al. 1984 Biotech Genet Engin Rev 2:383-407)。これは、DNA組換え技法を用いて、ワクシニアウイルスのゲノム中に導入される外来抗原をコードするDNA配列(遺伝子)を必要とする。ウイルスの生活環に必須でないウイルスDNA中の部位に遺伝子が組み込まれる場合、新たに産生される組換えワクシニアウイルスは感染性となり、すなわち外来細胞に感染し、ひいては組み込まれたDNA配列を発現することが可能である(欧州特許出願第83,286号および同第110,385号)。このようにして調製される組換えワクシニアウイルスは、一方では感染症の予防用の生ワクチンとして、他方では真核細胞における異種タンパク質の調製のために使用することができる。
【0013】
ベクターの適用に関しては、高度弱毒化ワクシニアウイルス株を使用することにより、健康上の危険性が減少する。特に、種痘の望ましくない副作用を回避するために、いくつかのそのようなワクシニアウイルス株が開発された。例えば、改変ワクシニアアンカラ(MVA)は、ワクシニアウイルスのアンカラ株(CVA)をニワトリ胚線維芽細胞上で長期にわたり連続継代することにより作製された(総説に関しては、Mayr, A. et al. 1975 Infection 3:6-14、スイス特許第568,392号を参照されたい)。MVAウイルスは、ATCC番号:VR-1508としてアメリカンタイプカルチャーコレクションから公的に入手可能である。MVAは、その優れた弱毒性により、すなわち良好な免疫原性を維持しつつ、毒性および霊長類細胞で複製する能力が減少していることにより特徴づけられる。MVAウイルスは、親CVA株に対するゲノムの変化を決定するために解析されている。合計31,000塩基対となるゲノムDNAの6つの主要な欠失(欠失I、II、III、IV、V、およびVI)が同定された(Meyer, H. et al. 1991 J Gen Virol 72:1031-1038)。得られたMVAウイルスは、宿主細胞がトリ細胞に厳格に限定されるようになった。
【0014】
さらに、MVAはその極度の弱毒性を特徴とする。種々の動物モデルで試験した場合、MVAは、免疫抑制動物においてさえも無毒であることが判明した。より重要なことには、MVA株の優れた特性が、広範な臨床試験で実証されている(Mayr A. et al. 1978 Zentralbl Bakteriol [B] 167:375-390;Stickl et al. 1974 Dtsch Med Wschr 99:2386-2392)。ハイリスク患者を含む120,000人を超えるヒトでのこれらの試験において、MVAワクチンの使用に伴う副作用は認められなかった。
【0015】
ヒト細胞中でのMVA複製は、感染後期で阻止され、成熟感染性ビリオンへの構築が妨げられることが判明した。それにもかかわらず、MVAは、非許容性細胞においてさえもウイルス遺伝子および組換え遺伝子を高レベルで発現し得り、効率的でかつ非常に安全な遺伝子発現ベクターとして役立つことが提唱された(Sutter, G. and Moss, B. 1992 PNAS USA 89:10847-10851)。さらに、MVAゲノム内の欠失IIIの部位に挿入された外来DNA配列を有するMVAに基づいて、新規ワクシニアベクターワクチンが確立された(Sutter, G. et al. 1994 Vaccine 12:1032-1040)。
【0016】
組換えMVAワクシニアウイルスは、以下に示すように調製することができる。MVAゲノム内の天然に存在する欠失(例えば、欠失III)またはその他の非必須部位に隣接するMVA DNA配列が隣接した外来ポリペプチドをコードするDNA配列を含むDNA構築物を、MVAに感染した細胞中に導入して、相同組換えさせる。DNA構築物が真核細胞中に導入され、外来DNAがウイルスDNAと組み換えられたならば、好ましくはマーカーを用いて、それ自体既知である方法で、所望の組換えワクシニアウイルスを単離することが可能である。挿入すべきDNA構築物は、線状であっても環状であってもよい。プラスミドまたはポリメラーゼ連鎖反応産物が好ましい。DNA構築物は、MVAゲノム内の天然に存在する欠失(欠失III)の左側および右側に隣接する配列を含む。外来DNA配列は、天然に存在する欠失に隣接する配列間に挿入する。DNA配列または遺伝子を発現させるには、遺伝子の転写に必要な調節配列がDNA上に存在する必要がある。そのような調節配列(プロモーターと称される)は当業者に周知であり、例えばEP-A-198,328に記載されているワクシニア11 kDa遺伝子のもの、および7.5 kDa遺伝子のもの(EP-A-110,385)が含まれる。DNA構築物は、例えばリン酸カルシウム沈殿(Graham et al. 1973 Virol 52:456-467;Wigler et al. 1979 Cell 16:777-785)により、エレクトロポレーション(Neumann et al. 1982 EMBO J 1:841-845)により、マイクロインジェクション(Graessmann et al. 1983 Meth Enzymol 101:482-492)により、リポソーム(Straubinger et al. 1983 Meth Enzymol 101:512-527)により、スフェロプラスト(Schaffner 1980 PNAS USA 77:2163-2167)により、または当業者に周知の他の方法によりトランスフェクションすることによって、MVA感染細胞中に導入することができる。
【0017】
HIVおよびその複製
後天性免疫不全症候群(エイズ)の病原因子は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)と称される、レンチウイルス属に典型的な特徴を示すレトロウイルスであると認識されている。ヒトレンチウイルスの系統発生関係を図1に示す。HIV-2は、HIV-1よりも、野生のスーティーマンガベイザルから単離されたウイルスであるSIVsmmとより近縁関係にある。現在では、HIV-2は、SIVsmmのヒトへの人畜共通感染を表すと考えられている。SIVcpzと命名された捕獲チンパンジーに由来する一連のレンチウイルス分離株は、HIV-1と近い遺伝的関係にある。
【0018】
HIV-1分離株の最初の系統発生解析は、欧州/北米およびアフリカからの試料に焦点を当て;世界のこれらの2つの地域から、ウイルスの別個のクラスターが同定された。続いてHIV-1の異なる遺伝的亜型またはクレードが定義され、3群:M(主要);O(外れ);およびN(非MまたはO)に分類された(図2)。全世界のウイルス分離株の95%を超える割合を含むHIV-1のM群は、全ウイルスゲノムの配列に基づいて、少なくとも8つの別個のクレード(A、B、C、D、F、G、H、およびJ)からなる。HIV-1 O群のメンバーは、カメルーン、ガボン、および赤道ギニアに居住する個体から回収され;それらのゲノムは、M群ウイルスと50%未満のヌクレオチド配列同一性を共有する。より最近発見されたN群 HIV-1株は感染カメルーン人で同定されたもので、これは標準的な全ウイルス酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)では血清学的に反応し得ないが、慣用的なウェスタンブロット解析により容易に検出可能である。
【0019】
多様な地理的起源のM群ウイルスを研究することにより、HIV-1の遺伝的変異に関する最新の知識がもたらされる。この10年間に収集されたデータから、感染個体内に存在するHIV-1集団はヌクレオチド配列が6%〜10%異なり得ることが示される。クレード内のHIV-1分離株は、gagコード配列で15%およびgp120コード配列で最大30%のヌクレオチド距離を示し得る。クレード間の遺伝的変異は、解析する遺伝子に応じて30%〜40%の範囲であり得る。
【0020】
HIV-1 M群亜型はすべてアフリカで見出すことができる。クレードAウイルスは遺伝的に最も多岐にわたり、流行初期にアフリカで最も多く見られるHIV-1亜型であった。1990年代の中期から後期にかけてHIV-1が南アフリカに急速に蔓延するにつれ、クレードCウイルスが優性亜型となり、今では世界中のHIV-1感染の48%を占めている。最も集中的に研究されたHIV-1亜型であるクレードBウイルスは、欧州および北米において依然として最も蔓延している分離株である。
【0021】
遺伝子組換えが高率であることはレトロウイルスの特徴である。遺伝的に多様なウイルス株による同時感染は、HIV-1の危険性がある個体において確立される可能性は低いと最初は考えられていた。しかしながら、1995年までに、HIV-1 M群の世界的な多様性のかなりの割合が、クレード間のウイルス組換え体を包むことが明らかとなってきた。現在では、HIV-1組変え体が、アフリカ、南米、および東南アジアなどの地理的地域で見出され、ここでは複数のHIV-1亜型が共存し、循環しているHIV-1株の10%を超える割合を占め得ることが認められている。分子的に、これらの組換えウイルスのゲノムは、隣接した多様なHIV-1亜型セグメントを伴うパッチワークモザイクのようであり、それらの生成に寄与する複数の交差事象を反映している。ほとんどのHIV-1組換え体はアフリカで生じ、大部分は本来クレードAウイルスに由来するセグメントを含む。タイでは、例えば、優勢循環株の組成は、クレードA gag+pol遺伝子セグメントおよびクレードE env遺伝子からなる。タイHIV-1株中のクレードE env遺伝子は、中央アフリカ共和国に由来するウイルス分離株中に存在するクレードE envと密接に関係しているため、元の組換え事象はアフリカで起こり、その後子孫ウイルスがタイに導入されたと考えられる。興味深いことに、全長HIV-1亜型E分離株(すなわち、亜型E gag、pol、およびenv遺伝子を有する)は今日まで報告されていない。
【0022】
αおよびβケモカイン受容体がウイルス融合および感受性CD4+細胞への侵入のためのコレセプターとして機能するという知見は、HIV-1に関する分類スキームの改訂をもたらした(図3)。今日では、分離株は、HIV-1 gp120およびCD4+コレセプタータンパク質を別個の細胞で発現させる融合アッセイ法におけるケモカイン受容体の利用に基づいて分類される。図3に示すように、CXCR4受容体を使用するHIV分離株(ここではX4ウイルスと称する)は通常、T細胞系(TCL)向性合胞体誘導(SI)株であるのに対して、もっぱらCCR5受容体を利用するHIV分離株(R5ウイルス)は、主にマクロファージ(M)向性であり、かつ非合胞体誘導性(NSI)である。親分離株の大部分を含み、一連の向性表現型を示し得る二重向性R5/X4株は、多くの場合SIである。
【0023】
複製可能なすべてのレトロウイルスの場合と同様に、いずれもが構造タンパク質をコードする3つの一次HIV-1翻訳産物がポリタンパク質前駆体として最初に合成され、続いてウイルスまたは細胞プロテアーゼにより成熟粒子関連タンパク質へとプロセシングされる(図4)。55-kd Gag前駆体Pr55Gagは、マトリックス(MA)、キャプシド(CA)、ヌクレオキャプシド(NC)、およびp6タンパク質に切断される。160-kd Gag-Polポリタンパク質、Pr160Gag-Polの自己触媒により、プロテアーゼ(PR)、ヘテロ二量体逆転写酵素(RT)、およびインテグラーゼ(IN)タンパク質が生じ、細胞酵素によるタンパク質分解消化により、グリコシル化160-kd Env前駆体gp160がgp120表面(SU)切断産物およびgp41膜貫通(TM)切断産物に変換される。残りの6つのHIV-1コードタンパク質(Vif、Vpr、Tat、Rev、Vpu、およびNef)は、スプライシングされたmRNAの一次翻訳産物である。
【0024】
Gag
HIVのGagタンパク質は、他のレトロウイルスと同様に、非感染性ウイルス様粒子の形成に必要かつ十分である。レトロウイルスGagタンパク質は一般的にポリタンパク質前駆体として合成され;HIV-1 Gag前駆体は、その見かけの分子量に基づいてPr55Gagと命名されている。上述したように、Pr55GagのmRNAは、細胞質中でのその発現にRevを必要とするスプライシングされていない9.2-kb転写産物である(図4)。pol ORFが存在する場合、ウイルスプロテアーゼ(PR)が、細胞からの出芽中またはその直後にPr55Gagを切断して、成熟Gagタンパク質p17(MA)、p24(CA)、p7(NC)、およびp6が生成される(図4を参照されたい)。ビリオン中、MAはウイルスエンベロープの脂質二重層のすぐ内側に局在し、CAは粒子の中心にある円錐形コア構造の外側部分を形成し、NCはウイルスRNAゲノムとのリボヌクレオタンパク質複合体内のコア中に存在する(図5)。
【0025】
HIV Pr55Gag前駆体はその翻訳後にオリゴマー形成し、原形質膜に標的化され、そこでEMで見るのに十分な大きさおよび密度の粒子が構築される。Pr55Gagによるウイルス様粒子の形成は自己集合過程であり、Gag前駆体に沿った複数のドメイン間で重要なGag-Gag相互作用が起こる。ウイルス様粒子の構築は、ゲノムRNA(核酸の存在は必須のようであるが)、polコード酵素、またはEnv糖タンパク質の関与を必要としないが、感染性ビリオンの産生は、ウイルスRNAゲノムのキャプシド形成、ならびにEnv糖タンパク質およびGag-Polポリタンパク質前駆体Pr160Gag-Polの取り込みを必要とする。
【0026】
Pol
gagの下流には、HIVゲノムの最も高度に保存された領域である、3つの酵素:PR、RT、およびINをコードするpol遺伝子が位置する(図4を参照されたい)。RTおよびINは、それぞれウイルスRNAゲノムの二本鎖DNAコピーへの逆転写のため、およびウイルスDNAの宿主細胞染色体への組込みのために必要とされる。PRは、成熟感染性ビリオンの産生を媒介することにより、生活環の後期に重要な役割を果たす。pol遺伝子産物は、Pr160Gag-Polと称される160-kd Gag-Pol融合タンパク質の酵素切断により導出される。この融合タンパク質は、Pr55Gagの翻訳過程におけるリボソームフレームシフトにより産生される(図4を参照されたい)。他の多くのレトロウイルスによっても利用されるGag-Pol発現のためのフレームシフト機構は、pol由来タンパク質が、Gagの約5%〜10%という低レベルで発現されることを確実にする。Pr55Gagと同様に、Pr160Gag-PolのN末端はミリスチル化され、原形質膜に標的化される。
【0027】
プロテアーゼ
トリレトロウイルスを用いて行われた初期のパルスチェイス研究から、レトロウイルスのGagタンパク質がポリタンパク質前駆体として最初に合成され、これが切断されてより小さな産物が生じることが示された。続く研究により、プロセシング機能は細胞酵素ではなくウイルス酵素により提供されること、ならびにGagおよびGag-Pol前駆体のタンパク質分解消化がウイルス感染力に必須であることが実証された。レトロウイルスPRの配列解析により、このPRが、ペプシンおよびレニンのような細胞の「アスパラギン酸」プロテアーゼに関連することが示された。これらの細胞酵素と同様に、レトロウイルスPRは、活性部位にある2つの並んだAsp残基を使用して、標的タンパク質中のペプチド結合の加水分解を触媒する水分子を配位する。偽二量体として機能する(活性部位を生じるために同一分子内の2つの折りたたみを使用する)細胞のアスパラギン酸プロテアーゼと異なり、レトロウイルスPRは真の二量体として機能する。HIV-1 PRからのx線結晶学的データより、2つの単量体が、各単量体のN末端およびC末端に由来する4本鎖逆平行βシートにより部分的にまとまっていることが示される。基質結合部位は、2つの単量体間に形成される間隙内に位置する。その細胞相同体と同様に、HIV PR二量体は、結合部位に突出した可動性「フラップ」を含み、間隙内の基質を安定化し得り;活性部位Asp残基は二量体の中心に位置する。興味深いことに、いくつかの限定されたアミノ酸相同性が活性部位残基の周囲に認められるものの、レトロウイルスPRの一次配列は高度に多岐にわたり、それにもかかわらずそれらの構造は著しく類似している。
【0028】
逆転写酵素
定義によると、レトロウイルスは、感染過程の初期にその一本鎖RNAゲノムを二本鎖DNAに変換する能力を有する。この反応を触媒する酵素はRTであり、その関連するRNアーゼH活性を伴う。レトロウイルスのRTは、3つの酵素活性を有する:(a) RNA依存性DNA重合(マイナス鎖DNA合成のため)、(b) RNアーゼH活性(DNA-RNAハイブリッド中間体に存在するtRNAプライマーおよびゲノムRNAの分解のため)、および(c) DNA依存性DNA重合(第二鎖またはプラス鎖DNA合成のため)。
【0029】
成熟HIV-1 RTホロ酵素は、66 kdおよび51 kdサブユニットのヘテロ二量体である。51-kdサブユニット(p51)は、p66のC末端15-kd RNアーゼHドメインのPRによるタンパク質分解除去により、66-kd(p66)サブユニットから導出される(図4を参照されたい)。HIV-1 RTの結晶構造から、p66およびp51サブユニットの配向性が実質的に異なる、高度に非対称である折りたたみが明らかにされる。p66サブユニットは、手掌内のポリメラーゼ活性部位、ならびに手掌、手指、および親指サブドメインによって形成される深い鋳型結合間隙を有する右手として可視化され得る。ポリメラーゼドメインは、結合サブドメインによりRNアーゼHに連結されている。手掌内に位置する活性部位は、極めて近接した3つの重要なAsp残基(110、185、および186)、および2つの配位Mg2+イオンを含む。これらのAsp残基の突然変異は、RT重合活性を消失させる。3つの活性部位Asp残基の配向性は、他のDNAポリメラーゼ(例えば、大腸菌(E. coli) DNA polIのクレノウ断片)で観察されるものと類似している。p51サブユニットは強固なようであり、重合間隙を形成せず;このサブユニットのAsp 110、185、および186は分子内に埋もれている。約18塩基対のプライマー-鋳型二重鎖は核酸結合間隙中に位置し、ポリメラーゼ活性部位からRNアーゼHドメインまで伸長している。
【0030】
RT-プライマー-鋳型-dNTP構造では、プライマーの3'末端に位置するジデオキシヌクレオチドの存在により、新たなdNTPに攻撃する直前に捕捉された触媒複合体の可視化が可能になる。以前に得られた構造との比較から、プライマーの3'-OHが新たなdNTPに対して求核攻撃する前に、手指が鋳型およびdNTPを捕捉するために包囲するモデルが示唆される。新たなdNTPが伸長中の鎖に付加された後、手指はより開いた立体配置をとり、それによりピロリン酸が放出され、RTが次のdNTPを結合し得ることが提唱されている。HIV-1 RNアーゼHの構造もまたx線結晶学により決定されており;このドメインは、大腸菌RNアーゼHと類似した全体的な折りたたみを示す。
【0031】
インテグラーゼ
レトロウイルス複製の際立った特徴は、逆転写後のウイルスゲノムのDNAコピーの宿主細胞染色体への挿入である。組み込まれたウイルスDNA(プロウイルス)はウイルスRNAの合成のための鋳型として働き、感染細胞が存続する間、宿主細胞ゲノムの一部として維持される。組み込む能力が欠損したレトロウイルス変異体は一般に、増殖感染を確立することができない。
【0032】
ウイルスDNAの組込みは、HIV-1 Gag-Polポリタンパク質のC末端部分のPR媒介性切断により生成される32-kdタンパク質であるインテグラーゼにより触媒される(図4を参照されたい)。
【0033】
レトロウイルスINタンパク質は3つの構造的かつ機能的に異なるドメイン:N末端ジンクフィンガー含有ドメイン、コアドメイン、および比較的非保存的なC末端ドメインから構成される。その溶解性が低いため、全288アミノ酸HIV-1 INタンパク質の結晶化はいまだ達成されていない。しかしながら、3つのドメインすべての構造は、x線結晶学またはNMR法により個別に解明されている。トリ肉腫ウイルスINのコアドメインの結晶構造もまた決定されている。NMR分光法により構造が解明されたN末端ドメイン(残基1〜55)は、アミノ酸His-12、His-16、Cys-40、およびCys-43により配位された亜鉛を伴う4つのへリックスから構成される。N末端ドメインの構造は、いわゆるヘリックス・ターン・へリックスモチーフを含むヘリックスDNA結合タンパク質を連想させるが;HIV-1構造では、このモチーフは二量体形成に寄与する。当初は、溶解性が乏しいために、コアドメインの構造を解明するための試みは阻まれた。しかし、IN残基185におけるPheからLysへの変化により、インビトロ触媒活性に支障を来すことなく溶解性が著しく増大することが認められると、結晶学の試みが成功した。HIV-1 INコアドメイン(IN残基50〜212)の各単量体は、へリックスが隣接した5本鎖βシートから構成され;この構造は、RNアーゼHおよびバクテリオファージMuAトランスポザーゼを含む他のポリヌクレオチジルトランスフェラーゼとの顕著な類似点を有する。3つの高度に保存された残基が、他のポリヌクレオチジルトランスフェラーゼの類似した位置に見られ;HIV-INでは、これらはAsp-64、Asp-116、およびGlu-152であり、いわゆるD,D-35-Eモチーフである。これらの位置における変異は、インビボおよびインビトロの両方でHIV IN機能を妨げる。トリ肉腫ウイルスおよびHIV-1のコアドメインの結晶構造中でこれらの3つのアミノ酸が非常に近接していることから、これらの残基が、組込み過程の中核であるポリヌクレオチジル転移反応の触媒において中心的な役割を果たすという仮説が支持される。NMR分光法により構造が解明されたC末端ドメインは、Src相同性3(SH3)ドメインを連想させる5本鎖β-バレル折りたたみ形態をとる。最近になって、コアドメインおよびC末端ドメインの両方を含むSIVおよびラウス肉腫ウイルス(Rous sarcoma virus)のINタンパク質断片のx線構造が解明された。
【0034】
Env
HIV Env糖タンパク質は、ウイルスの生活環において主要な役割を果たす。HIV Env糖タンパク質は、CD4受容体およびコレセプターと相互作用する決定基を含み、またウイルスエンベロープの脂質二重層と宿主細胞原形質膜との間の融合反応を触媒する。さらに、HIV Env糖タンパク質は、診断的観点およびワクチン開発観点の両方から重要である、免疫応答を誘発するエピトープを含む。
【0035】
HIV Env糖タンパク質は、個々にスプライシングされる4.3-kb Vpu/Envバイシストロン性mRNAから合成され(図4を参照されたい);粗面小胞体(ER)に結合したリボソーム上で翻訳が行われる。160-kd ポリタンパク質前駆体(gp160)は、成熟TM Env糖タンパク質、gp41となる予定のドメイン中の疎水性輸送停止シグナルにより細胞膜に固定される内在性膜タンパク質である(図6)。gp160は翻訳時にグリコシル化され、ジスルフィド結合を形成し、ERにおいてオリゴマー形成する。主なオリゴマー形態は三量体であるようであるが、二量体および四量体も認められる。gp160はゴルジに輸送され、そこで他のレトロウイルスエンベロープ前駆体タンパク質と同様に、細胞酵素によって、成熟SU糖タンパク質gp120およびTM糖タンパク質gp41へとタンパク質分解で切断される(図6を参照されたい)。高度に保存されているLys/Arg-X-Lys/Arg-Argモチーフ後のレトロウイルスEnv前駆体の切断に関与する細胞酵素は、フューリンまたはフューリン様プロテアーゼであるが、他の酵素もまたgp160プロセシングを触媒し得る。gp160の切断は、Env誘導性融合活性およびウイルス感染力に必要である。gp160の切断に続いて、gp120およびgp41は、Env複合体をゴルジから細胞表面へ輸送するのに重要な非共有結合を形成する。gp120-gp41相互作用はかなり弱く、相当量のgp120がEnv発現細胞の表面から脱落する。
【0036】
HIV Env糖タンパク質複合体、特にSU(gp120)ドメインは非常に高度にグリコシル化され;gp160のおよそ半分の分子量はオリゴ糖側鎖から構成される。EnvがERにおけるその合成部位から原形質膜に輸送される間に、側鎖の多くは複合糖類の付加により修飾される。多くのオリゴ糖側鎖は、宿主免疫認識からgp120の多くを覆い隠す、糖の雲(sugar cloud)と想像され得るものを形成する。図6に示すように、gp120は、散在した保存ドメイン(C1〜C5)および可変ドメイン(V1〜V5)を含む。種々の分離株のgp120中に存在するCys残基は高度に保存されており、大きなループ中の最初の4つの可変領域を連結するジスルフィド結合を形成している。
【0037】
ウイルスEnv糖タンパク質の主な機能は、ウイルスエンベロープの脂質二重層と宿主細胞膜との間の膜融合反応を促進することである。この膜融合事象によって、ウイルスコアが宿主細胞の細胞質中に侵入することが可能となる。gp120およびgp41における多くの領域が、Env媒介性膜融合に直接または間接的に関与している。オルトミクソウイルス(orthomyxovirus)のHA2赤血球凝集素タンパク質およびパラミクソウイルス(paramyxovirus)のFタンパク質の研究から、融合ペプチドと称される、これらのタンパク質のN末端に位置する高疎水性ドメインが、膜融合において重要な役割を果たすことが示された。突然変異解析により、類似のドメインがHIV-1、HIV-2、およびSIV TM糖タンパク質のN末端に位置することが実証された(図6を参照されたい)。gp41のこの領域内を非疎水性に置換すると、合胞体形成が大幅に減少するかまたは阻止され、結果として非感染性子孫ビリオンが産生された。
【0038】
gp41融合ペプチドのC末端は、膜融合において中心的な役割を果たす2つの両親媒性へリックスドメインである(図6を参照されたい)。Leuジッパー様7アミノ酸繰り返しモチーフを含むN末端へリックス(N-ヘリックスと称される)における変異は、感染力および膜融合活性を損ない、これらの配列に由来するペプチドは培養において強力な抗ウイルス活性を示す。HIV-1およびSIV gp41の外部ドメイン、特に2つのへリックスモチーフの構造は、近年の構造解析の焦点である。へリックスドメインを含む融合タンパク質、NへリックスおよびCへリックスに由来するペプチドの混合物、またはSIV構造の場合には、残基27〜149の無傷のgp41外部ドメイン配列に関する構造が、x線結晶学またはNMR分光法により決定された。これらの研究から、2つのへリックスドメインが逆平行様式でパッキングして6へリックス束が生成されるという、基本的に類似した三量体構造が得られた。Nへリックスは束の中心でコイルドコイルを形成し、Cへリックスはパッキングして外側で疎水溝を形成する。
【0039】
膜融合をもたらす過程では、CD4結合が、コレセプター結合を促進するEnvの高次構造変化を誘導する。三元gp120/CD4/コレセプター複合体の形成後、gp41は、融合ペプチドの標的脂質二重層への挿入を可能にする仮説上の高次構造をとる。gp41の6へリックス束(gp41のNへリックスとCへリックスとの間の逆平行相互作用を含む)の形成は、ウイルス膜および細胞膜を結びつけ、そして膜融合が行われる。
【0040】
CD+8細胞免疫応答を高めるための組換えMVAウイルスの使用
本発明は、抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答の生成、および抗体応答の誘発に関する。より詳細には、本発明は、初回刺激組成物の投与により誘導される免疫応答を、追加免疫組成物の投与によって高める「プライムおよびブースト」免疫投与計画に関する。本発明は、組換え改変ワクシニアアンカラ(MVA)自体を含む種々の異なる種類の初回刺激組成物のいずれかによる初回刺激後に、MVAベクターを用いて効率的な追加免疫が達成され得るという本発明者らの実験的証明に基づく。
【0041】
多くの病原体に対する免疫応答の主な防御成分は、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)としても知られるCD8+型のTリンパ球によって媒介される。CD8+細胞の重要な機能はγインターフェロン(IFNγ)の分泌であり、これによりCD8+ T細胞免疫応答の尺度が提供される。免疫応答の第2の成分は、病原体のタンパク質に対して産生される抗体である。
【0042】
本発明は、以下に記載する実験によって示されるように、種々の異なる初回刺激組成物のいずれかを用いて抗原に対して初回刺激されたCD8+ T細胞免疫応答に対するブーストを提供し、およびまた抗体応答を誘発するための効果的な手段であることが判明したMVAを使用する。
【0043】
顕著なことには、以下に記載する実験研究から、本発明の態様を使用することで、HIV抗原を発現する組換えMVAウイルスがDNAワクチンによって初回刺激されたCD8+ T細胞免疫応答を高め得り、およびまた抗体応答を誘発し得ることが実証される。MVAは、筋肉内免疫化後にCD8+ T細胞応答を誘導することが見出された。
【0044】
以前の研究(Amara et al 2001 Science 292:69-74)に基づき、プラスミドDNAで免疫し、MVAで追加免疫した非ヒト霊長類が、生ウイルスによる粘膜内攻撃を効果的に防御することが予測される。有利には、本発明者らは、例えばヒトなどにおいてCD8+ T細胞を誘導し、およびまた抗体応答を誘発するのに適した一般的な免疫化投与計画を構成する、プライムおよびブーストに皮内、筋肉内、または粘膜内免疫化を使用するワクチン接種投与計画が用いられ得ることを意図する。
【0045】
本発明は、様々な局面および態様において、HIV抗原をコードする核酸の事前の投与により初回刺激された、抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答を高め、およびまた抗体応答を誘発するために、HIV抗原をコードするMVAベクターを使用する。
【0046】
本発明の一般的な局面は、HIV抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答を高め、およびまた抗体応答を誘発するためのMVAベクターの使用を提供する。
【0047】
本発明の1つの局面は、個体におけるHIV抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答を高め、およびまた抗体応答を誘発する方法であって、核酸からの発現により個体において抗原を産生させるための調節配列に機能的に連結された抗原をコードする核酸を含むMVAベクターを個体に提供することを含み、それにより個体における事前に初回刺激された抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答が高められる方法を提供する。
【0048】
HIV抗原に対する免疫応答は、プラスミドDNAを用いた免疫化により、または感染因子を用いた感染により初回刺激され得る。
【0049】
本発明のさらなる局面は、個体におけるHIV抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答を誘導し、およびまた抗体応答を誘発する方法であって、抗原をコードする核酸を含む初回刺激組成物を個体に投与し、次いで核酸からの発現により個体において抗原を産生させるための調節配列に機能的に連結された抗原をコードする核酸を含むMVAベクターを含む追加免疫組成物を投与する段階を含む方法を提供する。
【0050】
さらなる局面は、HIV抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答を高め、およびまた抗体応答を誘発するために哺乳動物に投与する医薬品の製造における、開示のMVAベクターの使用を提供する。そのような医薬品は一般的に、抗原をコードする核酸を含む初回刺激組成物の事前の投与後に投与するためのものである。
【0051】
初回刺激組成物は、ワクシニアウイルスベクター、例えば改変ワクシニアアンカラ(MVA)もしくはNYVAC(Tartaglia et al. 1992 Virology 118:217-232)などの複製欠損株、鶏痘またはカナリア痘などのアビポックス(avipox)ベクター、例えばALVACとして知られる株(Paoletti et al. 1994 Dev Biol Stand 82:65-69)、あるいはアデノウイルスベクターまたは水疱性口内炎ウイルス(vesicular stomatitis virus)ベクターまたはアルファウイルス(alphavirus)ベクターといった任意のウイルスベクターを含み得る。
【0052】
初回刺激組成物は抗原をコードするDNAを含み得り、そのようなDNAは好ましくは、哺乳動物細胞において複製することができない環状プラスミドの形態にある。任意の選択マーカーは、臨床的に使用される抗生物質に対して耐性であるべきではなく、したがって例えばカナマイシン耐性はアンピシリン耐性よりも好ましい。抗原発現は、哺乳動物細胞において活性のあるプロモーター、例えばサイトメガロウイルス(cytomegalovirus)前初期(CMV IE)プロモーターにより駆動されるべきである。
【0053】
本発明の様々な局面の特定の態様では、初回刺激組成物の投与後に、追加免疫組成物または第1および第2追加免疫組成物により追加免疫を行い、第1および第2追加免疫組成物は同じであるかまたは互いに異なる。本発明から逸脱することなく、さらなる追加免疫組成物が使用され得る。1つの態様において、三重免疫化投与計画は、DNA、次に第1追加免疫組成物としてのアデノウイルス、次に第2追加免疫組成物としてのMVAを使用し、任意にさらなる(第3)追加免疫組成物、または同じかもしくは異なるベクターの一方もしくは他方もしくは両方のその後の追加免疫投与を伴う。別の選択肢は、DNA、次にMVA、次にアデノウイルスであり、任意に同じかまたは異なるベクターの一方または他方または両方のその後の追加免疫投与を伴う。
【0054】
初回刺激組成物および追加免疫組成物(多くの追加免疫組成物を用いようとも)それぞれにおいてコードされるべき抗原は同一である必要はないが、少なくとも1つのCD8+ T細胞エピトープを共有すべきである。抗原は、完全な抗原またはその断片に相当し得る。抗原における不必要なタンパク質配列をより効率的に除外し、1つまたは複数のベクター中で配列をコードする、ペプチドエピトープまたは人工的な一連のエピトープを使用することができる。1つまたは複数のさらなるエピトープ、例えばTヘルパー細胞により認識されるエピトープ、特に異なるHLA型の個体で認識されるエピトープを含めてもよい。初回刺激および追加免疫は、皮内、筋肉内、または粘膜的に施され得る。
【0055】
組換えMVAウイルスによりコードされるべき本発明のHIV抗原には、少なくとも1つのCD8+ T細胞エピトープとしての、HIV Env、Gag、Pol、Vif、Vpr、Tat、Rev、Vpu、またはNefアミノ酸配列のアミノ酸配列により誘発される免疫原性活性を有するポリペプチドが含まれる。このアミノ酸配列は、既知HIV EnvまたはPolの少なくとも1つの10〜900アミノ酸断片および/もしくはコンセンサス配列;または既知HIV Gagの少なくとも1つの10〜450アミノ酸配列断片および/もしくはコンセンサス配列;または既知HIV Vif、Vpr、Tat、Rev、Vpu、もしくはNefの少なくとも1つの10〜100アミノ酸断片および/もしくはコンセンサス配列に実質的に相当する。
【0056】
本発明で使用するために全長Env前駆体配列が提供されるものの、Envは任意にサブ配列が除去される。例えば、gp120表面およびgp41膜貫通切断産物の領域を欠失させることができる。
【0057】
本発明で使用するために全長Gag前駆体配列が提供されるものの、Gagは任意にサブ配列が除去される。例えば、マトリックスタンパク質(p17)の領域、キャプシドタンパク質(p24)の領域、ヌクレオキャプシドタンパク質(p7)の領域、およびp6(Gagポリタンパク質のC末端ペプチド)の領域を欠失させることができる。
【0058】
本発明で使用するために全長Pol前駆体配列が提供されるものの、Polは任意にサブ配列が除去される。例えば、プロテアーゼタンパク質(p10)の領域、逆転写酵素タンパク質(p66/p51)の領域、およびインテグラーゼタンパク質(p32)の領域を欠失させることができる。
【0059】
そのようなHIV Env、Gag、またはPolは、既知のEnv、Gag、またはPolタンパク質アミノ酸配列と少なくとも50%の全体的同一性、例えば50〜99%同一性、または任意のその中の範囲もしくは値を有し得り、同時にHIVの少なくとも1つの株に対して免疫原性応答を誘発する。
【0060】
パーセント同一性は、例えばウィスコンシン大学遺伝学コンピューターグループ(University of Wisconsin Genetics Computer Group)(UWGCG)から入手可能なGAPコンピュータプログラム(バージョン6.0)を用いて、配列情報を比較することにより決定することができる。GAPプログラムは、SmithおよびWaterman (Adv Appl Math 1981 2:482)により改訂された、NeedlemanおよびWunsch (J Mol Biol 1970 48:443)のアラインメント法を使用する。簡潔に説明すると、GAPプログラムは、整列させた記号(すなわち、ヌクレオチドまたはアミノ酸)のうち同一であるものの数を、2つの配列の短い方の記号の総数で割ったものとして、同一性を定義する。GAPプログラムの好ましい初期設定パラメータには、(1) ユニタリー比較行列(同一性に対する1および非同一性に対する0の値を含む)、およびSchwartzおよびDayhoff (eds., Atlas of Protein Sequence and Structure, National Biomedical Research Foundation, Washington, D.C. 1979, pp. 353-358)により記載されているようなGribskovおよびBurgess (Nucl Acids Res 1986 14:6745)の加重比較行列、(2) 各ギャップに対するペナルティ3.0、および各ギャップ中の各記号に対する付加的なペナルティ0.10、ならびに(3) 末端ギャップに対するペナルティーなしが含まれる。
【0061】
好ましい態様において、本発明のEnvは、少なくとも1つのHIVエンベロープタンパク質の変種形態である。好ましくは、Envは、gp120ならびにgp41の膜貫通ドメインおよび外部ドメインから構成されるが、gp41の細胞質ドメインの一部または全てを欠いている。
【0062】
既知HIV配列は、例えばGENBANKなどの市販のおよび公共施設のHIV配列データベースから、またはMyers et al. eds., Human Retroviruses and AIDS, A Compilation and Analysis of Nucleic Acid and Amino Acid Sequences, Vol. I and II, Theoretical Biology and Biophysics, Los Alamos, N. Mex. (1993)、もしくはhttp://hiv-web.lanl.gov/などの公表された編集物として容易に入手可能である。
【0063】
本発明の組換えMVAウイルスで使用するための核酸によってコードされる、さらなるHIV Env、Gag、またはPolを得るためのHIV Env、Gag、またはPolの置換あるいは挿入は、少なくとも1つのアミノ酸残基(例えば、1〜25アミノ酸)の置換または挿入を含み得る。または、少なくとも1つのアミノ酸(例えば、1〜25アミノ酸)を、HIV Env、Gag、またはPol配列から欠失させることができる。好ましくは、そのような置換、挿入、または欠失は、安全性特性、発現レベル、免疫原性、およびMVAの高複製率との適合性に基づいて同定される。
【0064】
本発明のHIV Env、Gag、またはPolにおけるアミノ酸配列変化は、例えばDNAの突然変異により調製することができる。そのようなHIV Env、Gag、またはPolは、例えば、アミノ酸配列内の異なるアミノ酸残基をコードするヌクレオチドの欠失、挿入、または置換を含む。明らかに、HIV Env、Gag、またはPolをコードする核酸中に作製される変異は、配列をリーディングフレームから逸脱させてはならず、好ましくは二次mRNA構造を生じ得る相補ドメインを創出しない。
【0065】
本発明のHIV Env、Gag、またはPolコード核酸はまた、本明細書中に提示した教示および手引きに基づいて、HIV Env、Gag、もしくはPolをコードするDNAまたはRNA中のヌクレオチドを増幅または部位特異的突然変異誘発し、その後コードDNAを合成または逆転写して、HIV Env、Gag、もしくはPolをコードするDNAまたはRNAを生成することにより調製することができる。
【0066】
本発明のHIV Env、Gag、またはPolを発現する組換えMVAウイルスは、本明細書中に提示した教示および手引きに基づいて、必要以上に実験することなく当業者により日常的に得られ得る置換ヌクレオチドとして、限定された一組のHIV Env、Gag、またはPolコード配列を含む。タンパク質化学および構造の詳細な説明に関しては、Schulz, G.E. et al., 1978 Principles of Protein Structure, Springer-Verlag, New York, N.Y.、およびCreighton, T.E., 1983 Proteins: Structure and Molecular Properties, W. H. Freeman & Co., San Francisco, CAを参照されたい。コドン選択のようなヌクレオチド配列置換の提示に関しては、Ausubel et al. eds. Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Assoc., New York, N.Y. 1994 at §§ A.1.1-A.1.24、およびSambrook, J. et al. 1989 Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. at Appnedices C and Dを参照されたい。
【0067】
したがって、当業者は、本明細書中に提示した教示および手引きを考慮すれば、置換、欠失、または挿入変種を含む別のHIV Env、Gag、またはPolを得るために、HIV env、gag、もしくはpol DNAまたはRNAの他の位置で他のアミノ酸残基を置換する方法を理解されよう。
【0068】
MVAベクター内で、コードされる抗原を発現させるための調節配列は、天然、改変、または合成ポックスウイルスプロモーターを含む。「プロモーター」とは、下流に(すなわち、二本鎖DNAのセンス鎖上における3'方向に)機能的に連結されたDNAの転写が開始され得るヌクレオチド配列を意味する。「機能的に連結される」とは、同一核酸分子の一部として、プロモーターから開始されるべき転写のために適切に位置づけられかつ方向づけられ、結合されることを意味する。プロモーターに機能的に連結されたDNAは、プロモーターの「転写開始調節下」にある。ターミネーター断片、ポリアデニル化配列、マーカー遺伝子、およびその他の配列を含む他の調節配列を、当業者の知識および技量より必要に応じて含めてもよい;例えば、Moss, B. (2001). Poxviridae: the viruses and their replication. In Fields Virology, D.M. Knipe, and P.M. Howley, eds. (Philadelphia, Lippincott Williams & Wilkins), pp. 2849-2883を参照されたい。例えば核酸構築物の調製、突然変異誘発、配列決定、細胞へのDNAの導入、および遺伝子発現における核酸の操作、ならびにタンパク質解析に関する多くの周知の技法および手順は、Current Protocols in Molecular Biology, 1998 Ausubel et al. eds., John Wiley & Sonsに詳述されている。
【0069】
本発明の局面および態様で使用するためのプロモーターは、ポックスウイルス発現系と適合しなくてはならず、これには天然、改変、および合成配列が含まれる
【0070】
初回刺激組成物および追加免疫組成物のいずれかまたは両方は、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)またはそれらのコード核酸のようなアジュバントを含み得る。
【0071】
追加免疫組成物の投与は一般的に、初回刺激組成物の投与の約1〜10ヶ月後、好ましくは約1〜6ヶ月後、好ましくは約1〜4ヵ月後、好ましくは約1〜3ヵ月後である。
【0072】
好ましくは、初回刺激組成物、追加免疫組成物、または初回刺激組成物および追加免疫組成物の両方の投与は、皮内、筋肉内、または粘膜免疫化である。
【0073】
MVAワクチンの投与は、ウイルス懸濁液を注射するための針を用いることで達成され得る。代替法は、低温貯蔵を必要としない個別調製用量の製造を提供する、ウイルス懸濁液(例えばBiojector(商標)無針注射器を使用)またはワクチンを含有する再懸濁凍結乾燥粉末を投与するための無針注射装置の使用である。これは、アフリカの農村部で必要とされるワクチンにとって非常に有益である。
【0074】
MVAは、ヒト免疫化において優れた安全記録を有するウイルスである。組換えウイルスの生成は簡単に達成することができ、それらは大量に再現性よく製造することができる。したがって、組換えMVAウイルスの皮内、筋肉内、または粘膜投与は、CD8+ T細胞応答により制御され得るエイズに対するヒトの予防的または治療的ワクチン接種に非常に適している。
【0075】
個体は、抗原の送達および抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答の生成が有効であるか、または治療上有益な効果を有するようにエイズを有し得る。
【0076】
多くの場合、投与は、感染または症状の発症前にHIVまたはエイズに対する免疫応答を生成するという予防目的を有する。
【0077】
本発明に従って投与するための成分は、薬学的組成物中に製剤化され得る。これらの組成物は、薬学的に許容される賦形剤、担体、緩衝液、安定剤、または当業者に周知であるその他の物質を含み得る。このような物質は無毒性であるべきであり、有効成分の効力を妨げるべきでない。担体またはその他の物質の正確な性質は、投与経路、例えば静脈内、皮膚または皮下、経鼻、筋肉内、腹腔内経路に依存し得る。
【0078】
上述のように、投与は好ましくは皮内、筋肉内、または粘膜である。
【0079】
生理食塩水、デキストロースもしくその他の糖類溶液、またはグリコール、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、もしくはポリエチレングリコールを含めてもよい。
【0080】
静脈内、皮膚、皮下、筋肉内、もしくは粘膜注射、または罹患部位での注射のために、有効成分は、発熱物質を含まず、かつ適切なpH、等張性、および安定性を有する非経口的に許容される水溶液の形態にある。当業者は、例えば塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、乳酸加リンゲル注射液などの等張媒体を用いて、適切な溶液を十分に調製し得る。必要に応じて、防腐剤、安定剤、緩衝液、酸化防止剤、および/またはその他の添加剤を含めてもよい。
【0081】
徐放性製剤を使用してもよい。
【0082】
MVA粒子を産生し、そのような粒子を組成物中に任意に製剤化した後、粒子を個体、特にヒトまたはその他の霊長類に投与し得る。投与は、別の哺乳動物、例えばマウス、ラット、もしくはハムスターなどの齧歯動物、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウマ、ウシ、ロバ、イヌ、またはネコに対しても実施され得る。
【0083】
投与は好ましくは、「予防的有効量」または「治療的有効量」(場合によっては、予防は治療と見なされ得る)で行われ、これは個体に対して有益性を示すのに十分である。投与する実際の量、ならびに投与の速度および時間的経過は、治療されるものの性質および重症度に依存する。治療の処方、例えば投与量の決定などは、一般開業医およびその他の医師の、または獣医学的状況では獣医の責任の範囲内であり、典型的に、治療すべき障害、個々の患者の状態、送達部位、投与方法、および開業医に周知であるその他の要素を考慮する。上記の技法および手順の例は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, 1980, Osol, A. (ed.)に見出すことができる。
【0084】
1つの好ましい投与計画では、DNAを250μg〜2.5 mg/注射の用量で投与し、その後MVAを感染ウイルス粒子106〜109個/注射の用量で投与する。
【0085】
組成物は、単独で、または他の治療と併用して、治療する状態に応じて同時にもしくは経時的に投与し得る。
【0086】
非ヒト動物への送達は治療目的のためである必要はなく、実験的状況において、例えば関心対象の抗原に対する免疫応答、例えばHIVまたはエイズに対する防御の機構の研究において使用するためのものであってよい。
【0087】
本発明のさらなる局面および態様は、説明および非限定の手段として含めた上記の開示および以下の実験的例示を考慮し、添付の図面を参照すれば、当業者に明らかとなるであろう。
【実施例】
【0088】
実施例1
MVA/HIV組換え体を作製するために使用するプラスミドシャトルベクターLAS-1およびLAS-2の構築
1. プラスミドシャトルベクターLAS-1
このプラスミドシャトルベクターは、MVAゲノムの欠失IIIに挿入するものであり、以下の段階で構築した:P11ワクシニアウイルスプロモーターおよび大腸菌グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子を、AscIおよびSacI消化によりpLW-51(Wyatt, L.S. et al. 2004 AIDS Res. Human Retroviruses 20:645-653)から除去した。pLW-44(Bisht, H. et al. 2004 PNAS USA 101:6641-6646)からPCR増幅により得られた、AscIおよびSacI末端を有するP11ワクシニアプロモーターおよび緑色蛍光タンパク質(GFP)を、そのベクター中に連結して、pLW-51GFPを作製した。XhoIおよびNotI消化によりpsynIIプロモーターをpLW-51GFPから除去し、平滑末端化し、再連結してLAS-1を作製した。
【0089】
2. プラスミドシャトルベクターLAS-2
このプラスミドシャトルベクターは、MVAゲノムの欠失IIに挿入するものであり、以下の様式で構築した:開始点にHincII部位および末端にSmaIを有する、mH5プロモーター(Wyatt, L.S. et al. 1996 Vaccine 14:1451-58)の相補鎖を含む2つのオリゴをアニールし、これをpLW-16(Wyatt, L.S. et al. 1999 Vaccine 18:392-397)のSmaI部位に挿入して、pLW-37を作製した。MVAフランク(flank)2の最後の217塩基を、内部オリゴの末端上にKpnI、AscI、およびSacI部位を、ならびに外部オリゴの末端上にKpnI部位を有して複製し、pLW-37のKpnI部位に挿入した。pLW-37aと命名したこのプラスミドをAscIおよびSacIで消化し、これに、AscIおよびSacI末端を有するP11ワクシニアプロモーターおよび緑色蛍光タンパク質(GFP)(上記のように、pLW-44からP11プロモーターおよびGFPをPCR増幅することにより得た)を挿入した。得られたプラスミドpLAS-2と命名した。
【0090】
I. pLW-51
プラスミド伝達ベクターpLW-51は、以下のように構築した。欠失III(del III)に隣接するDNAの926 bpおよび530 bpを含むプラスミドpG01(Sutter and Moss. 1992 PNAS USA 89:10847-10851)に、mH5プロモーター(Wyatt et al. 1996 Vaccine 14:1451-1458)を挿入した。プラスミドGA2/JS2(Genbankアクセッション#AF42688)(Smith et al., 2004 AIDS Res Human Retroviruses 20:654-665)中のHIVクレードB(株BH10)DNAに由来するgag-pol配列を、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)により増幅し、TAクローニングプラスミドpCR2.1(Invitrogen Corp.、カリフォルニア州、カールズバッド)に挿入した。ウイルス様粒子(VLP)形成を増強するために、HIV株BH10 gag-polオープンリーディングフレーム(ORF)の最初の1872ヌクレオチドを、HXB2 gag ORFの相当する部分で置換した。このキメラgag-pol ORFを、改変pG01プラスミドのmH5プロモーター後に挿入した。一過性マーカー安定化組換えウイルス単離手順(Wyatt et al. 2004 AIDS Res. Human Retrovir. 20:645-653)を講じるために、左側MVAフランクの最後の280 bpを複製し、P11ワクシニアウイルスプロモーターおよび大腸菌グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子を2つの直接反復配列の間に挿入した。
【0091】
プラスミドpG01
プラスミド
MVAゲノムのHindIII A断片中の3500-bp欠失の部位に隣接するMVA DNAの配列をPCRにより増幅し、pGEM 4Z(Promega)にクローニングした。左側900-bp DNAフランク用のプライマーは、
および
であった(制限酵素EcoRIおよびKpn Iの部位を下線で示す)。右側600-bp DNAフランク用のプライマーは、
および
であった(制限酵素Pst IおよびHindIIIの部位を下線で示す)。MVA DNAのこれらのフランクの間に、ワクシニアウイルス後期プロモーターP11の制御下の大腸菌lacZ遺伝子、およびワクシニアウイルス初期/後期プロモーターP7.5の制御下の大腸菌gpt遺伝子をクローニングした(Sutter and Moss 1992 PNAS USA 89:10847-10851)。
【0092】
II. pLW44
pLW44は、ワクシニアウイルスP11後期プロモーターによって調節を受ける、強化GFPをコードする遺伝子を含む。
【0093】
III. pLW-16
MVAゲノムの左側に位置する欠失IIへの挿入を可能にするため、以下のようにして、新たなプラスミド伝達ベクター、pLW-17を構築した。欠失IIの左側の52ヌクレオチド前から始まるプライマーを用いてPCRすることによりフランク1を調製し、T-Aクローニングベクターにクローニングし、SphIで消化し、pGEM-4Z(Promega、ウィスコンシン州、マディソン)のSphI部位にクローニングした。欠失IIの右側から、EcoRIおよびKpnI適合末端を含むプライマーを用いてPCRすることによりフランク2を調製し、pGEM-4ZのEcoRIおよびKpnI部位にクローニングした。欠失IIの2つの隣接領域を含むこのプラスミドは、pLW-16と命名した。SmaIおよびPstIで消化してpLW-9から改変H5プロモーターを切り出し、pLW-16のSmaIおよびPstI部位にクローニングし、新たなプラスミド伝達ベクター、pLW-17を得た。P. Collinsより分与されたプラスミドからRSV-A2のFコード配列を切り出し、pLW-17のSmaI部位に平滑末端で連結した(Wyatt, L.S. et al. 1999 Vaccine 18:392-397)。
【0094】
実施例2
クレードA Env、Gag、およびPolを発現するMVA組換え体
MVA 65A/Gの構築および特徴づけ
本実施例は、クレードA/G HIV株928 EnvおよびGag Polを発現する改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)組換えウイルス、MVA 65A/Gの構築について説明する。この組換えウイルスの顕著な特徴を以下に示す:
1) MVA 65A/Gの構築では緑色蛍光タンパク質(GFP)の一過性スクリーニングマーカーが使用されたため、GFPは最終ウイルス産物から排除される。
2) A/G env遺伝子はMVAゲノムのdel IIに挿入され、A/G gag polはdel IIIに挿入される。
3) MVA 65A/Gのenvおよびgag polはいずれも、ワクシニアPmH5プロモーターにより制御される。
4) 組換えMVA 65A/Gを作製するために用いられるMVAウイルスは、MVA 1974/NIHクローン1である。
【0095】
プラスミド伝達ベクター
プラスミド伝達ベクター、pJD5およびpJD6(それぞれ図7および図8)を使用して、相同組換えにより一重組換えMVAを作製した。これらのプラスミドはそれぞれ一過性GFPマーカーを有し、以下のように構築した:
1. 逆転写酵素活性を不活化するための3つの変異を含み(クレードB組換え体に関して付与されるものに相当する)、インテグラーゼが除去されたHIV A/G 928のgag/pol遺伝子配列(pGA2/928/928+3RTに由来する)を、FailSafe PCRキットを用いてpCR2.1にクローニングした。gag/pol遺伝子を、SalI制限エンドヌクレアーゼ部位を介してMVA欠失III伝達ベクターpLAS-1(最終ウイルスにおいてGFPが排除されるように、2つの直接反復配列が隣接する一過性スクリーニングマーカーGFPを含む)にクローニングし、遺伝子発現を初期/後期改変H5プロモーターの制御下においた。HIV A/G 928 gag/pol遺伝子の配列をDNA配列決定により確認し、この構築物をpJD5 gag polと命名した(図7)。
2. HIV A/G 928のenv遺伝子配列(Harriet RobinsonによるpGA1/928/928から除去した)を、gp41の細胞質尾部中の114アミノ酸をPCR除去することにより切断し、pCR2.1にクローニングした。2つの初期ポックスウイルス終結5TNTシグナルを除去するためのサイレント変異を作製した(QuickChangeキット、Stratagene)。改変切断型env遺伝子をMVA欠失II伝達ベクターpLAS-2(最終ウイルスにおいてGFPが排除されるように、2つの直接反復配列が隣接する一過性スクリーニングマーカーGFPを含む)にクローニングし、遺伝子発現を初期/後期改変H5プロモーターの制御下においた。HIV A/G 928 env遺伝子の配列をDNA配列決定により確認し、この構築物をpJD6と命名した(図8)。
【0096】
一重組換えMVAの構築
1. Anton Mayr(ドイツ、ミュンヘン)より供与された、2/22/74からの継代572代目のMVAに由来し、国立衛生研究所(National Institute of Health)において最終的に3回希釈されたMVA 1974/NIHクローン1ウイルスを、組換えに使用した。
【0097】
2. 6ウェル培養プレート中の、10日齢SPAFAS受精ニワトリ卵(B&E Eggs、ペンシルベニア州、スティーブンスによる)から作製した二次CEFに、MVAをMOI 0.05で感染させ、約1.5μgのJD5またはJD6をトランスフェクトした(図9)。これら2つのウイルス構築物は、以下に記載するように同様に、しかし個別に運搬された。
【0098】
3. 37℃で2日間インキュベートした後、ウイルスを回収し、3回凍結融解し、CEF上にプレーティングした。
【0099】
4. 感染後の3日目に、GFPを発現した(プラスミドと感染ウイルスの間で組換えが起こったことを示す)感染のフォーカスを採取し、CEF上に再度プレーティングした。再び、GFPを発現したフォーカスを採取した。この工程をもう一度繰り返した。
【0100】
5. 3回プラーク精製したこれらのGFP発現フォーカスを、2つ組のCEFプレートにプレーティングし、2枚のプレートをGFP蛍光について、およびT24モノクローナル抗体(エンベロープ発現)またはGagに特異的なmAb 3537(183-H12-5C、NIH AIDS Research and Reference Reagent Program)を用いてGagまたはEnv発現について解析した。それら試料の2つ組複製プレートから、GFP蛍光がほとんどなく、かつ大部分がGagまたはEnv染色された個々のフォーカスを採取した。
【0101】
6. これらのフォーカスを再度2つ組でプレーティングし、同様の方法でさらに1〜2回解析した。その結果得られた導出された組換えウイルスは、Gag Pol(vJD5gag/pol)またはEnv(vJD6env)タンパク質を発現したが、二重反復配列の組換えによりGFP遺伝子は除去されていた。
【0102】
二重組換えMVAの構築
1. 二重MVA組換え体、MVA 65A/Gを作製するため、それぞれGag PolおよびEnvを発現する2つの一重組換えMVAウイルス、vJD5gag polおよびvJD6 envを用いて、CEF細胞を共にMOI 5で感染させ、37℃で2日間培養し、回収した(図9)。
【0103】
2. 回収物の2つ組プレートを異なる希釈で感染させ、集団中に二重組換え体が存在することを確実にするために、一方のプレートを固定し、T24 mAbで染色し、円形化CPE(Gag Pol組換え体の特徴)を有した感染細胞のフォーカスの数を記録した。次いで、円形化形態を有するフォーカスを、未染色の2つ組プレートから採取した。
【0104】
3. これらのフォーカスを様々な希釈で3つ組でプレーティングし、Env発現(T24 mAb)およびGag発現(3537 mAb)に関して免疫染色した。EnvおよびGag発現の両方に関して染色されたフォーカスを、さらに5回プラーク精製した。
【0105】
4. ウイルスをCEF細胞において拡大し、MVA/HIV 65A/GのLVD種保存液 5.5 x108 pfu/mlを作製した。ATCCによるマイコプラズマ試験は陰性であった。BioRelianceによる無菌性試験も陰性であった。DNA配列決定により、envおよびgag pol ORF、ならびにGFPレポーター遺伝子の欠失が確認された。
【0106】
MVA組換えウイルス、MVA 65A/Gの特徴づけ
1. MVA 65A/G感染BS-C-1細胞溶解液の一定分量を、エンベロープおよびGagタンパク質の発現について、それぞれモノクローナル抗体T24および3537を用いて放射性免疫沈降法(RIP)により解析した(図10および図11)。これらのタンパク質のそれぞれに相当する正確な大きさのバンドが検出された。ARA-Cの存在下で細胞を感染させることにより、組換えタンパク質の初期発現が確認された。20%スクロースクッション上で35S標識粒子をペレット化させることにより、組換えウイルスが感染細胞の上清中にgag粒子を産生することが示された。
【0107】
2. MVA 65A/Gの繰り返し継代および得られたウイルスの解析から、MVA 65A/GがLVD種保存液の10継代を通して安定であることが確認された。
【0108】
3. HIV挿入物、およびHIVの両側に隣接するMVAゲノムの1000塩基対領域からなるMVA/HIV 62ゲノムの領域の配列決定から、GFP遺伝子が除去されていること、およびHIV挿入遺伝子の配列が正確であることが確認された。図12および13は、プラスミド中のenvおよびgag pol遺伝子の配列を示す。
【0109】
4. 107 pfuの精製MVA 65A/Gを0週目および4週目にマウスに接種することにより、免疫原性を評価した。抗原としてgp140クレードA envを使用する捕獲ELISAで、ELISA血清抗体をアッセイした。表1から、クレードA envに免疫原性があることが示される。
【0110】
要約
要約すると、本発明者らは、A/G 928改変切断型エンベロープおよび変異gag polを発現する組換えMVAウイルス、MVA 65A/Gを作製した。MVA二重組換えウイルスは、一方がEngを発現し、他方がGag Polを発現する、一重MVA組換え体の相同組換えにより作製した。これらの一重MVA組換え体は、最終ウイルスにおいて除去される一過性発現GFPマーカーを用いて作製した。MVA/HIV 65A/Gは、LVD種保存液の繰り返し継代を通して安定であることが示された。
【0111】
発現および免疫原性を増大させるためのMVA 65A/G構築物に対する改変
抗原としてMVAクレードA gp140 envを使用するELISAで測定されたMVA 65A/G組換えウイルスの免疫原性から、MVA 65A/Gエンベロープは期待するほど免疫原性がないことが示された(表1を参照されたい)。本実施例では、A/Gエンベロープの発現および免疫原性を増大するために行った、MVA 65A/Gプラスミド伝達ベクター、pJD-6に対する改変、および原型MVA 65A/Gウイルスとの比較について記載する。
【0112】
(表1)MVA 65A/Gの免疫原性*
*107 PFUの指定のウイルスで2回免疫したマウス5匹の血清の、個々にアッセイしたELISA力価。血清抗体応答は、クレードA ELISA応答の抗原として分泌クレードA 928 gp140、市販のp24、および精製ワクシニアウイルスを使用して、2日間ELISAによりアッセイした。
【0113】
pJD-6に対する改変
プラスミド伝達ベクター、pJD-6は以下の方法で改変した:
1. クレードA/Gの5'末端にSmaI部位を、およびenv遺伝子の3'末端にNotI部位を組み入れたオリゴを用いて、pJD-6からA/Gエンベロープ遺伝子をPCR増幅した。この挿入物をpLAS-2挿入ベクターのSmaIおよびNotI部位にクローニングして、伝達ベクター、JD-16を作製した(図14)。このプラスミドは、マルチクローニング領域におけるプロモーターの末端とenv遺伝子の開始部位との間の介在配列という1つの観点でのみ、pJD-6(MVA 65 A/G組換えウイルスを作製するために使用した)と異なる(さらなる説明については#2を参照されたい)。
2. pJD-6では、A/G 928 envはNotI制限部位を用いてpLAS-2のマルチクローニング部位にクローニングした。この配置では、プロモーターとエンベロープの開始コドンとの間に介在開始コドンが存在する(SphI制限酵素部位の部分)。pJD-16では、A/G 928 envは、遺伝子の最初に位置するSmaI部位および遺伝子の末端にあるNot Iを用いてpLAS-2のマルチクローニング部位にクローニングし、したがってこの介在開始コドンは除去された。そのため、マルチクローニング領域におけるプロモーターの末端とenv遺伝子の開始部位との間の介在配列のみが、以下に記載するように2つのプラスミドにおける唯一の相違である:
【0114】
二重組換えMVAの構築
JD-16プラスミドを用いて二重組換えMVAウイルスを作製するため、原型MVA 65A/G構築物において上記した、A/Gウイルスのgag polを発現する一重MVA組換えウイルス、vJD5gag polを用いてCEFを感染させ、pJD-16をこの感染培養物にトランスフェクションした。原型MVA/HIV 65A/Gウイルスについて上記したようにウイルス単離を進行し、得られた二重組換えウイルス(クローンD1.3266-15)をMVA/HIV 65A/G(SmaI)と命名した。
【0115】
原型MVA/HIV 65A/Gと改変MVA/HIV 65A/G(SmaI)の特徴づけおよび比較
1. MVA/HIV 65A/GおよびMVA/HIV 65A/G(SmaI)感染BS-C-1細胞の一定分量を、envについてはモノクローナル抗体T24およびT32 mAbを用いて(図15)、ならびにgag発現については3537(183-H12-5C、NIH AIDS Research and Reference Reagent Program)mAbを用いて(図16)、RIPにより解析した。Image Quantプログラムを使用して、各構築物によるT24で免疫沈降されたタンパク質の量を定量した。Env発現は、MVA 65A/Gと比較して改変65A/G(SmaI)で2倍高かった。20%スクロースクッションを通して35S標識粒子をペレット化させることにより、MVA 65A/G (SmaI)が感染細胞の上清中にgag粒子を産生することが示された。
【0116】
2. 107用量のMVA 65A/Gまたは改変MVA 65A/G(SmaI)を3週間あけてIM投与し、2回免疫したマウスで、改変MVA A/G(SmaI)ウイルスの免疫原性を評価した。指定のウイルスを用いたマウス5匹の血清による(個々にアッセイした)平均ELISA力価を決定した。血清抗体応答は、抗原として分泌クレードA 928株gp140を使用して、2日間ELISAによりアッセイした。図17の結果から、改変構築物(MVA 65A/G (SmaI) Envの免疫原性が原型MVA 65A/G構築物よりも約40倍高いことが示される。
【0117】
2つの異なるウイルスはまた、細胞内サイトカイン染色により測定される、Gagタンパク質の細胞性免疫応答を誘導する能力についても試験した。マウス(5匹/群)を、107 pfuの指定のウイルスで2回免疫した。個々のマウスの脾細胞を、2つの異なるgag p24ペプチドパルスP815細胞と共に一晩培養した後に、エクスビボで直接アッセイした。CD8+ IFN-γ+細胞をフローサイトメトリーで計数した。図18に示されるように、構築物はいずれも、gagペプチドに対して同様の細胞内サイトカイン染色(ICS)応答を有した。これは、2つの構築物を作製するために使用したgagウイルスが同一であったためと予測される。
【0118】
3. MVA 65A/G(SmaI)の繰り返し継代および得られたウイルスの発現の解析から、表2に示されるように、改変MVA 65A/G(SmaI)のエンベロープ発現が極めて不安定であることが確認された。
【0119】
(表2)改変MVA A/G構築物の不安定性
【0120】
要約
このように、プロモーターにより近い部位にエンベロープを再クローニングして介在コドン開始部位を除去すると、より大量のenvを発現し、かつ免疫原性がはるかに高いウイルスが作製されたが;このウイルスは極めて不安定であるために、候補ワクチンとして探究し得なかった(表3)。
【0121】
(表3)クレードA/Gの概要
【0122】
実施例3
クレードB Env、Gag、およびPolを発現するMVA組換え体
MVA/HIV 62Bの構築および特徴づけ
本実施例は、クレードB HIV株ADA EnvおよびキメラHXB2/BH10 Gag Polを発現する改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)組換えウイルス、MVA/HIV 62Bの構築について説明する。このウイルスは、以前のMVAクレードB組換え体、MVA/HIV 48(同様に同じHIV株ADA EnvおよびHXB2/BH10 Gag Polを発現する)と4つの点で異なる:
1) MVA/HIV 62Bは、MVA/HIV 48で使用されたGUSスクリーニングマーカーの代わりに、緑色蛍光タンパク質(GFP)の一過性スクリーニングマーカーを使用する。
2) env遺伝子はMVAゲノムのdel IIに挿入され、gag polはdel IIIに挿入される。MVA/HIV 48では、envおよびgag polはいずれもdel IIIに挿入される。
3) MVA/HIV 62Bのenvおよびgag polはいずれもPmH5プロモーターにより制御され、MVA/HIV 48ではこれと同じプロモーターがgag polを制御する。
4) 組換えMVA/HIV 62Bを作製するために用いられるMVAウイルスは、MVA/HIV 48を作製するために用いられたMVA 1983/NIHクローン1に代えて、MVA 1974/NIHクローン1である。
【0123】
プラスミド伝達ベクター
プラスミド伝達ベクター、pLAS-1 HXB2/BH10 Gag PolおよびpLAS-2 ADA Env(それぞれ図19および図20)を使用して、相同組換えにより一重組換えMVAを作製した。これらのプラスミドはそれぞれ一過性GFPマーカーを有し、以下のように構築した:
1. インテグラーゼが除去されるようにクレードB gag polを切断し、mH5プロモーターにより制御されるようにプラスミドにクローニングした。この遺伝子は、gagの完全なHXB2配列を含んでいた。pol遺伝子は、RTの活性部位内のアミノ酸185、鎖転移活性を阻害するアミノ酸266、およびRnアーゼH活性を阻害するアミノ酸478において逆転写酵素安全性変異を有する。さらに、インテグラーゼ遺伝子はEcoRI部位を越えて除去されている。
2. pLW-51GFPからPsyn IIワクシニアプロモーターを除去し、平滑末端化し、再連結してpLAS-1を作製した。MVA/HIV 48に由来するクレードB HXB2/BH10 gag pol配列をpLAS-1にクローニングし、プラスミド伝達ベクター、pLAS-1 HXB2/BH10 Gag Polを作製した(図19)。
3. ADAエンベロープは、サイレント5TNT変異を有する切断型である。エンベロープをgp41遺伝子の細胞質尾部中で切断し、細胞質尾部の115アミノ酸を除去した。この切断により、感染細胞の表面上のエンベロープタンパク質の量が増加し、マウスにおけるエンベロープタンパク質の免疫原性および組織培養における組換えウイルスの安定性が増強されることが、本発明者らによって示された。
4. LAS-2構築において記載したようにMVAフランクの直接反復配列を挿入し、その後P11ワクシニアプロモーターにより制御されるGFPを挿入して、pLAS-2を構築した。MVA/HIV 48に由来する上記のADA改変env配列を付加して、プラスミド伝達ベクターpLAS-2 ADA Envを作製した(図20)。
【0124】
一重組換えMVAの構築
1. Anton Mayr(ドイツ、ミュンヘン)より供与された、2/22/74からの継代572代目のMVAに由来し、国立衛生研究所において最終的に3回希釈されたMVA 1974/NIHクローン1ウイルスを、組換えに使用した。
【0125】
2. 二次CEF細胞にMVAをMOI 0.05で感染させ、2μgのpLAS-1 HXB2/BH10 Gag Polまたは2μgのpLAS-2 ADA Envをトランスフェクトした(図21)。これら2つのウイルス構築物は、以下に記載するように同様に、しかし個別に運搬された。
【0126】
3. 37℃で2日間インキュベートした後、ウイルスを回収し、3回凍結融解し、CEF上にプレーティングした。
【0127】
4. 感染後の3日目に、GFP蛍光を示した(プラスミドと感染ウイルスの間で組換えが起こったことを示す)感染のフォーカスを採取し、CEF上に再度プレーティングした。再び、GFPを発現したフォーカスを採取した。
【0128】
5. 2回プラーク精製したこれらのGFP発現フォーカスを、3つ組のCEFプレートにプレーティングし、2枚のプレートをGFP蛍光およびGagまたはEnv発現について解析した。それら試料の3枚目の複製プレートから、GFP蛍光がほとんどなく、かつ大部分がGagまたはEnv染色された個々のフォーカスを採取した。
【0129】
6. これらのフォーカスを再度3つ組でプレーティングし、同様の方法でさらに2回解析した(Gag Pol構築物については3回)。その結果得られた導出されたウイルスは、Gag Pol(MVA 60)またはEnv(MVA 61)タンパク質を発現したが、二重反復配列の組換えによりGFP遺伝子は除去されていた。
【0130】
二重組換えMVAの構築
1. 二重MVA組換え体、MVA/HIV 62Bを作製するため、それぞれGag PolおよびEnvを発現する2つの一重組換えMVAウイルス、MVA 60およびMVA 61を用いて、CEF細胞を共にMOI 5で感染させ、37℃で2日間培養し、回収した(図21)。
【0131】
2. 回収物の2つ組プレートを異なる希釈で感染させ、集団中に二重組換え体が存在することを確実にするために、一方のプレートを固定し、T8 mAbで染色し、円形化CPE(Gag Pol組換え体の特徴)を有した感染細胞のフォーカスの数を記録した。次いで、円形化形態を有するフォーカスを、未染色の2つ組プレートから採取した。
【0132】
3. これらのフォーカスを様々な希釈で3つ組でプレーティングし、Env発現(T8 mAb)およびGag発現(3537 mAb、183-H12-5C、NIH AIDS Research and Reference Regent Program)に関して免疫染色した。EnvおよびGag発現の両方に関して染色されたフォーカスをさらにプラーク精製した。
【0133】
4. ウイルスをCEF細胞において拡大し、MVA/HIV 62のLVD種保存液を作製した。ATCCによるマイコプラズマ試験は陰性であった。BioRelianceによる無菌性試験も陰性であった。
【0134】
MVA組換えウイルス、MVA/HIV 62Bの特徴づけ
1. MVA/HIV 62B感染BS-C-1細胞溶解液の一定分量を、エンベロープおよびGagタンパク質の発現について、それぞれモノクローナル抗体T8および3537を用いて放射性免疫沈降法(RIP)により解析した(図22)。これらのタンパク質のそれぞれに相当する正確な大きさのバンドが検出された。ARA-Cの存在下で細胞を感染させることにより、組換えタンパク質の初期発現が確認された。20%スクロースクッション上で35S標識粒子をペレット化させることにより、組換えウイルスが感染細胞の上清中にgag粒子を産生することが示された。
【0135】
2. MVA/HIV 62Bの繰り返し継代および得られたウイルスの解析から、MVA 62BがLVD種保存液の10継代を通して比較的安定であることが確認された。
【0136】
3. HIV挿入物、およびHIV挿入物の両側に隣接するMVAゲノムの1000塩基対領域からなるMVA/HIV 62Bゲノムの領域の配列決定から、GFP遺伝子が除去されていること、およびHIV挿入遺伝子の配列が正確であることが確認された。ADA Envの配列を図23に提供する。Gag Polの配列を図24に提供する。
【0137】
4. 107 pfuの精製MVA 62Bを0週目および4週目にマウスに接種することにより、免疫原性を評価した。抗原としてgp140 ADA envを使用する捕獲ELISAで、ELISA血清抗体をアッセイした。表4から、ADA envに免疫原性があることが示される。図25は、MVA 62Bに対するマウスのICS envおよびgag応答を示す。
【0138】
(表4)マウスにおけるMVA 62Bの免疫原性*
*107 PFUの指定のウイルスで2回免疫したマウス5匹の血清の、個々にアッセイしたELISA力価。血清抗体応答は、クレードB ELISA応答の抗原として分泌クレードB ADA gp140、市販のp24、および精製ワクシニアウイルスを使用して、2日間ELISAによりアッセイした。
【0139】
要約
要約すると、本発明者らは、ADA改変切断型エンベロープおよびHXB2/BH10 Gag Polを発現する組換えMVAウイルス、MVA/HIV 62Bを作製した。MVA二重組換えウイルスは、一方がEngを発現し、他方がGag Polを発現する、一重MVA組換え体の相同組換えにより作製した。これらの一重MVA組換え体は、最終ウイルスにおいて除去される一過性発現GFPマーカーを用いて作製した。MVA 62Bウイルスは、粒子を作製し、マウスにおいて免疫原性があることが示された。MVA/HIV 62Bは、LVD種保存液の繰り返し継代を通して安定であることが示された。
【0140】
発現および免疫原性を増大させるためのMVA 62B構築物に対する改変
抗原としてMVAクレードB gp140を使用するELISAで測定された、マウスにおけるMVA 62Bの免疫原性から(表4)、MVA 62Bエンベロープは期待するほど免疫原性がないことが示された。本実施例では、最終的なMVA 62B二重組換えウイルスにおけるADAエンベロープの発現および免疫原性を増大するために行った、MVA 62Bプラスミド伝達ベクター、pLAS-2 ADA Envに対する改変について記載する。
【0141】
プラスミド伝達ベクターの改変
プラスミド伝達ベクター、pLAS-2 ADA Envは以下の方法で改変した:
1. 制限酵素、XmaI(SmaIの平滑末端切断と比較して、切断して重複末端を生じる、SmaIのアイソシゾマーである)で処理することによりADA envをJD-9 ADA Envから切り出し、LAS-2のXmaI部位に挿入して、pLW-66とも称するpLAS ADA Env (SmaI)を作製した(図26)。このプラスミドは、マルチクローニング領域におけるプロモーターの末端とenv遺伝子の開始部位との間の介在配列という1つの顕著な観点でのみ、pLAS-2 ADA Env(MVA 62 B組換えウイルスを作製するために使用した)と異なる。(これはまた、env遺伝子をプラスミドにクローニングする方法が理由で、env遺伝子の末端のクローニング領域においてpLAS-2 ADA Envと異なるが、このことは遺伝子の発現にとって重要ではない。)(さらなる説明については#3を参照されたい)。
2. pLAS-2 ADA Envを制限酵素Sal Iおよび次いでXhoIで消化してSphI部位(開始コドンを含む)を除去し、再連結して、pJD-17を作製した(図27)。このプラスミドは、マルチクローニング領域におけるプロモーターの末端とenv遺伝子の開始部位との間の介在配列という1つの観点でのみ、pLAS-2 ADA Env(MVA 62B組換えウイルスを作製するために使用した)と異なる(さらなる説明については#3を参照されたい)。
3. プラスミドpLAS-2 ADA Envでは、ADAエンベロープはNotI部位にクローニングされ、プロモーターとの間に以下のヌクレオチド配列を生じた。pLW-66では、ADA envはXmaI部位(SmaI)にクローニングされ、ワクシニアmH5プロモーターとADA env開始コドンとの間に以下に示すような配列を生じた。pJD-17では、SphI部位が単に除去された。これらをすべて、以下に示す:
【0142】
二重組換えMVAの構築
pLW-66およびpJD-17プラスミドを用いて二重組換えMVAウイルスを作製するため、上記のクレードBウイルスのgag polを発現する一重MVA組換えウイルス、MVA 60を用いてCEF細胞を感染させ、pLW-66またはpJD-17をこれらの感染CEF培養物にトランスフェクトした。原型MVA/HIV 62Bウイルスについて上記したようにウイルス単離を進行し、それぞれ得られた二重組換えウイルスの2つのクローンを、以下のように命名した:
【0143】
原型MVA/HIV 62Bと4つの改変MVA/HIV 62Bウイルスの特徴づけおよび比較
1. MVA/HIV 62Bおよび4つの改変MVA 62Bウイルス感染BS-C-1細胞の一定分量を、envについてはモノクローナル抗体T8を用いて(図28)、およびgag発現については3537 mAbを用いて(図29)、RIPにより解析した。Image Quantプログラムを使用して、各構築物によるT8で免疫沈降されたタンパク質の量を定量した。Env発現は、MVA 62Bと比較して改変構築物で2.6〜3.3倍高かった。MVA 62B構築物はすべて、20%スクロースクッションを通して35S標識粒子をペレット化させることにより、感染細胞の上清中にgag粒子を産生することが示された。
【0144】
2. 107用量の原型または改変MVA 62Bウイルスを3週間あけてIM投与し、2回免疫したマウスで、改変MVA 62B構築物の免疫原性を評価した。図30に、マウス5匹の血清による(個々にアッセイした)平均ELISA力価を示す。血清抗体応答は、抗原として分泌クレードB ADA gp140を使用して、2日間ELISAによりアッセイした。結果から、改変構築物の免疫原性が、エンベロープ免疫原性のこのアッセイ法において、原型構築物よりも11〜32倍高いことが示される。
【0145】
種々のウイルスはまた、細胞内サイトカイン染色(ICS)により測定される、EnvまたはGagタンパク質に対する細胞性免疫応答を誘導する能力についても試験した。マウス(5匹/群)を、107 pfuの指定のウイルスで2回免疫した。個々のマウスの脾細胞を、envペプチドまたはgag p24ペプチドパルスP815細胞と共に一晩培養した後に、エクスビボで直接アッセイした。CD8+ IFN-γ+細胞をフローサイトメトリーで計数した。
【0146】
図31に示されるように、改変62B構築物はいずれも、原型構築物と比較してICS Env応答の増強をもたらした。いずれも、原型MVA 62Bよりも3〜5倍高かった。
【0147】
図32に示されるように、MVA 62B構築物はいずれも、原型であろうと改変型であろうと、gagペプチドに対して同様のICS応答を有した(2倍以下の変化)。これは、改変MVA 62B構築物を作製するために使用したgagウイルスが同一であったためと予測される。
【0148】
3. 改変MVA/HIV 62Bウイルスの繰り返し継代および得られたウイルスの解析から、MVA 62BがLVD種保存液の10継代を通して比較的安定であることが確認された。
【0149】
要約
このように、プロモーターにより近い部位にエンベロープを再クローニングして介在コドン開始部位を除去することで、より大量のenvを発現し、かつ免疫原性がはるかに高いウイルスが作製された。これらのウイルスは、候補ワクチンとして探究中である(表5)。
【0150】
(表5)原型および改変MVA 62B構築物
【0151】
MVA 56の構築および特徴づけ
本実施例は、HIV株ADA envおよびキメラHXB2/BH10 gag polを発現する改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)組換えウイルス、MVA/HIVクレードBの構築について説明する。このウイルスは、以前のMVA組換え体、MVA/HIV 48(同様にHIV株ADA envおよびHXB2/BH10 gag polを発現する)と3つの点で異なる:
1) MVA/HIV 56は、MVA/HIV 48で使用されたGUSスクリーニングマーカーの代わりに、緑色蛍光タンパク質(GFP)の一過性スクリーニングマーカーを使用する。
2) MVA/HIV 56のADA envは、MVA/HIV 48においてADA envを発現させるために用いられたPsyn IIプロモーターよりも初期のADA env発現を可能にする新たな改変ワクシニアウイルスプロモーター、Pm2H5により制御される。(gag polは、MVA 48においてgag polを制御するのと同じプロモーターである、ワクシニアウイルスmH5プロモーターにより制御される)。
3) 組換えMVA/HIV 56を作製するために用いられるMVAウイルスは、MVA/HIV 48を作製するために用いられたMVA 1983/NIHクローン1に代えて、MVA 1974/NIHクローン1である。
【0152】
これは、原型MVA62Bおよび改変MVA62Bという後の構築物と、envおよびgag遺伝子が、MVA 48と同様に直列した2つのワクシニアウイルスプロモーターにより制御され、MVAゲノムの欠失IIIのみに挿入されるという点で異なる。これにより、この種類の構築物には、MVA 62B構築物の構築計画と比較して一連のプラーク精製しか行う必要がないために、MVA 62B構築物に優る構築利点が付与される。
【0153】
記載のクレードB構築物はすべて、同じ改変ADA envおよび改変HXB2/BH10 gag polを有する。
【0154】
プラスミド伝達ベクター
相同組換えによりMVA/HIV 56を作製するために使用したプラスミド伝達ベクター、pLAS-6は、以下のように構築した:
1. GUSスクリーニングマーカーをプラスミド、pLW-48(WO 002/072759を参照されたい)から除去し、ワクシニアウイルスP11プロモーターにより起動されるGFPスクリーニングマーカーで置換した(pLW-51 GFP)。このGFPスクリーニングマーカーを一過性に使用して、組換えウイルスを2回プラーク精製したが、このマーカーは相同組換えにより最終組換え体において除去された(GFPには2つの直接反復配列が隣接していたため)。
2. XhoIおよびNotI消化によりPsyn IIワクシニアプロモーターをpLW-51GFPから除去し、同じ部位において新たなさらなる改変H5ワクシニアウイルスプロモーター、pm2H5で置換した。この新たなプラスミドをpLAS-5と命名した。
m2H5プロモーターの配列:
3. プラスミドのNotI酵素消化によりADA envをpLW-48から除去し、ワクシニアウイルスm2H5プロモーターにより制御されるpLAS-5のNotI部位にクローニングした。SalI消化によりHXB2/BH10 gag pol遺伝子をpLW-48から除去し、mH5プロモーターの制御下にあるSalI部位に配置し、組換えウイルスMVA/HIV 56を作製するために使用するプラスミド伝達ベクター、pLAS-6を作製した(図33)。組換えHIV遺伝子は、トランスフェクションにより発現することが示された。
【0155】
組換えMVA/HIV 56の構築
1. Anton Mayr(ドイツ、ミュンヘン)より供与された、2/22/74からの継代572代目のMVAに由来し、国立衛生研究所において最終的に3回希釈されたMVA 1974/NIHクローン1ウイルスを、組換えに使用した。
【0156】
2. 二次CEF細胞にMVAをMOI 0.05で感染させ、2μgの上記プラスミド、pLAS-6をトランスフェクトした。37℃で2日間インキュベートした後、ウイルスを回収し、3回凍結融解し、CEF上にプレーティングした。
【0157】
3. 3日目に、GFPを発現した(プラスミドと感染ウイルスの間で組換えが起こったことを示す)感染のフォーカスを採取し、CEF上に再度プレーティングした。再び、GFPを発現したフォーカスを採取した。
【0158】
4. 2回プラーク精製したこれらのGFP発現フォーカスを、3つ組のCEFプレートにプレーティングし、2枚のプレートをGFP蛍光およびgag pol発現について解析した。それら試料の3枚目の複製プレートから、GFP染色がほとんどなく、かつ大部分がgag染色された個々のフォーカスを採取した。
【0159】
5. これらのフォーカスを再度3つ組でプレーティングし、同様の方法でさらに2回解析した。その結果得られた導出されたウイルスは、gagタンパク質を発現したが、二重反復配列の組換えによりGFP遺伝子は除去されていた。免疫染色によると、このウイルスはまたenvタンパク質を発現した。このウイルスをCEF細胞において拡大し、LVD種保存液を作製し、無菌性およびマイコプラズマをそれぞれBioRelianceおよびATCCで試験してもらった。
【0160】
MVA組換えウイルス、MVA/HIV 56の特徴づけ
1. MVA/HIV 56感染細胞溶解液の一定分量を、ARA-Cの存在下および非存在下において、エンベロープおよびgagタンパク質の発現についてモノクローナル抗体を用いて放射性免疫沈降法(RIP)により解析した。RIPでは、ARA-Cの存在下および非存在下のいずれにおいてもこれらのタンパク質のそれぞれに相当する正確な大きさのバンドが検出され、組換えタンパク質の初期および後期発現の両方が示された(図34)。
【0161】
2. 20%スクロースクッション上でMVA/HIV 56感染BS-C-1細胞の上清から35S標識粒子をペレット化させ、PAGEによって解析することにより、MVA/HIV 56が感染細胞の上清中にgag粒子を産生することが示された。
【0162】
3. HIV挿入物、およびHIV挿入物の両側に隣接するMVAゲノムの1000塩基対領域からなるMVA/HIV 56ゲノムの領域の配列決定から、GFP遺伝子が除去されていること、およびHIV挿入遺伝子の配列が正確であることが確認された。
4. 改変MVA/HIV 62Bウイルスの繰り返し継代および得られたウイルスの解析から、MVA 62BがLVD種保存液の5継代を通して比較的安定であることが確認された。
【0163】
5. 107 pfuを3週間あけて2回免疫したマウスにおいて、MVA 56の免疫原性を評価した。図28に、マウス5匹の血清による(個々にアッセイした)平均ELISA力価を示す。血清抗体応答は、抗原として分泌クレードB ADA gp140を使用して、2日間ELISAによりアッセイした。結果から、MVA 56が血清抗体を誘発し得ることが示される。MVA 56はまた、ICSにより測定される、EnvまたはGagタンパク質の細胞性免疫応答を誘導する能力についても試験した。マウス(5匹/群)を、107 pfuのMVA 56で2回免疫した。個々のマウスの脾細胞を、envペプチドまたはgag p24ペプチドパルスP815細胞と共に一晩培養した後に、エクスビボで直接アッセイした。CD8+ IFN-γ+細胞をフローサイトメトリーで計数した。図29に示されるように、MVA 56はenv細胞性免疫応答を誘導する。図29に示されるように、MVA 56はまた、他のクレードB構築物と同様のICS gag p24応答を誘導する。
【0164】
要約
要約すると、本発明者らは、ADA改変切断型エンベロープおよびHXB2/BH10 gag polの高発現を有し、MVAゲノムの欠失III内への挿入物を有する組換えMVAウイルス、MVA/HIV 56を作製した。MVA組換えウイルスは、最終ウイルスにおいて除去される一過性発現GFPマーカーを用いて作製した。ADAエンベロープの高発現は、新たなハイブリッド初期/後期プロモーター、Pm2H5により可能となった。MVA 56組換え体は、スクロースを介してペレット化し、PAGEによって解析することにより示されるgag粒子を生成する。MVAゲノムの組換え領域の配列決定から、GFPの不在およびHIV遺伝子の正確な配列が確認された。Env ELISAにより、ADAエンベロープの免疫原性が確認され、またエンベロープおよびp24 gagに対する細胞応答が検出された。
【0165】
実施例4
クレードC Env、Gag、Polを発現するMVA組換え体
MVA/HIV 71Cの構築および特徴づけ
本実施例は、インドクレードC HIV IN3 EnvおよびGag Polを発現する改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)組換えウイルス、MVA/HIV 71Cの構築について説明する。この組換えウイルスの顕著な特徴を以下に示す:
1) MVA/HIV 71Cの構築では緑色蛍光タンパク質(GFP)の一過性スクリーニングマーカーが使用されたため、GFPは最終ウイルス産物から排除される。
2) 71C env遺伝子はMVAゲノムのdel IIに挿入され、71C gag polはdel IIIに挿入される。
3) MVA 71Cのenvおよびgag polはいずれも、ワクシニアmH5プロモーターにより制御される。
4) 組換えMVA/HIV 71Cを作製するために用いられるMVAウイルスは、MVA 1974/NIHクローン1である。
【0166】
プラスミド伝達ベクター
プラスミド伝達ベクター、pDC3およびpJD15、それぞれ図35および図36を使用して、相同組換えにより二重組換えMVAを作製した。これらのプラスミドはそれぞれ、最終ウイルス産物においてGFPが排除されるように、直接反復配列が両側に隣接するGFPマーカーを有する。プラスミドは以下のように構築した:
1. 逆転写酵素活性を不活化するための3つの変異を含み(クレードB組換え体に関して付与されるものに相当する)、インテグラーゼが除去されたHIV C IN3 gag polの遺伝子配列(Harriet Robinson、エモリー大学によるインド分離株GenBank #AF286231に由来する)を、FailSafe PCRキットを用いてpCR2.1にクローニングした。gag/pol遺伝子を、SmaI制限エンドヌクレアーゼ部位を介してMVA欠失III伝達ベクターpLAS-1(最終ウイルスにおいてGFPが排除されるように、2つの直接反復配列が隣接するスクリーニングマーカーGFPを含む)にクローニングし、遺伝子発現を初期/後期改変H5プロモーターの制御下においた。HIV C IN3 gag pol遺伝子の配列をDNA配列決定により確認し、この構築物をpDC3と命名した(図35)。
2. HIV C IN3 envの遺伝子配列(Harriet Robinson、エモリー大学によるインド分離株GenBank #AF286231に由来する)を、gp41の細胞質尾部中の120アミノ酸をPCR除去することにより切断し、pCR2.1にクローニングした。2つの初期ポックスウイルス終結5TNTシグナルを除去するためのサイレント変異を作製した(QuickChangeキット、Stratagene)。改変切断型env遺伝子をMVA欠失II伝達ベクターpLAS-2(最終ウイルスにおいてGFPが排除されるように、2つの直接反復配列が隣接するスクリーニングマーカーGFPを含む)のNot I部位にクローニングし、その後、SalI次いでXhoIで順次切断することによりクローニング領域内のSphI部位を除去し、末端を連結してpJD-15を作製した。このプラスミドにおける遺伝子発現は、初期/後期改変H5プロモーターの制御下にある。HIV C IN3 env遺伝子の配列をDNA配列決定により確認し、この構築物をpJD-15と命名した(図36)。
【0167】
一重組換えクレードC MVA/HIV gag pol
1. Anton Mayr(ドイツ、ミュンヘン)より供与された、2/22/74からの継代572代目のMVAに由来し、国立衛生研究所において最終的に3回希釈されたMVA 1974/NIHクローン1ウイルスを、組換えに使用した。
【0168】
2. 6ウェル培養プレート中の、10日齢SPAFAS受精ニワトリ卵(B&E Eggs、ペンシルベニア州、スティーブンスによる)から作製した二次CEFに、MVAをMOI 0.05で感染させ、約3.0μgのpDC3をトランスフェクトした(図37)。
【0169】
3. 37℃で2日間インキュベートした後、ウイルスを回収し、3回凍結融解し、CEFプレートにプレーティングした。
【0170】
4. 感染後の3日目に、GFPを発現した(プラスミドと感染ウイルスの間で組換えが起こったことを示す)感染のフォーカスを採取し、CEF上に再度プレーティングした。再び、GFPを発現したフォーカスを採取した。
【0171】
5. 2回プラーク精製したこれらのGFP発現フォーカスを、2つ組のCEFプレートにプレーティングし、2枚のプレートをGFP蛍光について、およびGagに特異的なMAb 183-H12-5C(3537)を用いてGag発現について解析した。それら試料の2つ組複製プレートから、GFP染色がほとんどなく、かつ大部分がGag染色された個々のフォーカスを採取した。
【0172】
6. これらのフォーカスを再度2つ組でプレーティングし、同様の方法でさらに3回解析した。その結果得られた組換えウイルスは、Gag Polタンパク質を発現したが、二重反復配列の組換えによりGFP遺伝子は除去されていた。最初に最終的に採取したプラークを6ウェルプレートの1ウェル中で培養し、次いでT-25フラスコ、その後T-150フラスコで培養することにより、種保存液を作製した。MVA 68C(LAS1 gag pol)と命名したこのウイルスを使用して、二重組換え体を作製した。
【0173】
二重組換えMVAの構築
1. EnvおよびGag Polタンパク質の両方を発現する二重MVA組換え体を作製するため、Gag Polを発現する一重組換えMVAウイルス(MVA 68C)を用いてCEF細胞をMOI 0.05で感染させ、その後1μgのpJD15をトランスフェクトして、37℃で2日間培養し、回収した(図37)。
【0174】
2. 感染後の3日目に、GFPを発現した(プラスミドと感染ウイルスの間で組換えが起こったことを示す)感染のフォーカスを採取し、CEF上に再度プレーティングした。再び、GFPを発現したフォーカスを採取した。
【0175】
3. 2回プラーク精製したこれらのGFP発現フォーカスを、2つ組のCEFプレートにプレーティングし、2枚のプレートをGFP蛍光について、およびEnvタンパク質に特異的なT-43 mAbを用いてEnv発現について解析した。それら試料の2つ組複製プレートから、GFP蛍光がほとんどなく、かつ大部分がEnv染色された個々のフォーカスを採取した。
【0176】
4. これらのフォーカスを再度2つ組でプレーティングし、同様の方法でさらに4回解析した。その結果得られた二重組換えウイルスは、EnvおよびGag Polタンパク質を発現したが、二重反復配列の組換えによりGFP遺伝子は除去されていた。最初に最終的に採取したプラークを6ウェルプレートの1ウェル中で培養し、次いでT-25フラスコ、その後T-150フラスコで培養することにより、LVD種保存液を作製した。免疫染色によると、MVA/HIV 71C(研究室名称-クローン2 C4 6.21121)と命名したこのウイルスは、EnvおよびGagの両方を発現した。
【0177】
MVA二重組換えウイルス、MVA/HIV 71Cの特徴づけ
1. MVA/HIV 71C感染BS-C-1細胞溶解液の一定分量を、エンベロープおよびGagタンパク質の発現について、それぞれモノクローナル抗体T-43および3537を用いて放射性免疫沈降法(RIP)により解析した(図38)。これらのタンパク質のそれぞれに相当する正確な大きさのバンドが検出された。ARA-Cの存在下で発現が起こり、mH5プロモーターの初期部分の機能性が示された。20%スクロースクッション上で35S標識粒子をペレット化させることにより、組換えウイルスが感染細胞の上清中にgag粒子を産生することが示された。発現したクレードCエンベロープの機能性は、融合アッセイ法において、以前の構築物中の同一のC配列を用いて示されていた。
【0178】
2. MVA/HIV 71Cの繰り返し継代および得られたウイルスの解析から、このウイルスがLVD種保存液の9継代を通して安定であることが確認された。
【0179】
3. HIV挿入物、およびHIV挿入物の両側に隣接するMVAゲノムの1000塩基対領域からなるMVA/HIV 71Cゲノムの領域の配列決定から、GFP遺伝子が除去されていること、および逆転写酵素遺伝子内に3つの変異を含むHIV挿入遺伝子の配列が正確であることが確認された。図39および40は、プラスミド中のenvおよびgag pol遺伝子の配列を示す。
【0180】
4. 筋肉内経路により0週目および4週目にマウスに接種した用量107 pfuの精製MVA/HIV 71Cの免疫原性を評価した。抗原としてgp140クレードC envを使用する捕獲ELISAで、ELISA血清抗体をアッセイした。表6から、クレードC envに免疫原性があることが示される。
【0181】
要約
要約すると、本発明者らは、クレードC IN3改変切断型エンベロープおよび変異gag polを発現する組換えMVAウイルス、MVA/HIV 7Cを作製した。MVA二重組換えウイルスは、Gag Polタンパク質を発現する一重MVA組換え体とクレードC Envを発現するプラスミドの相同組換えにより作製した。この二重MVA組換え体は、最終ウイルスにおいて除去される一過性発現GFPマーカーを用いて作製した。RIP実験から、MVA/HIV 71C EnvおよびGag Polタンパク質の発現、ならびにgag粒子の産生が示された。二重組換え体は、LVD種保存液の繰り返し継代を通して比較的安定であることが示された。マウスにおける免疫原性実験から、クレードC envに免疫原性があることが示される(表6を参照されたい)。
【0182】
(表6)107個の組換えMVAを免疫したマウスにおけるクレードC Env ELISAa抗体力価
a抗原としてgp140クレードC envを使用する捕獲ELISA;
bそれぞれ0週目および4週目に107用量をIM投与してマウス5匹を免疫化。2回目の免疫化から2週間後に採血;
c逆終点希釈度。
【0183】
実施例5
成熟および未成熟VLPを発現する多タンパク質HIV-1(CRF02_AG)DNA/MVAワクチンのアカゲザルにおける相対的免疫原性
本発明者らは、HIV-1亜型CRF02_AGに基づく、西アフリカおよび西中央アフリカ用のエイズワクチンを開発した。アカゲザルを、Gag-Pol-Env発現プラスミドDNAで初回刺激し、対応するタンパク質を発現する組換え改変ワクシニアウイルスアンカラ(rMVA)で追加免疫した。gagおよびpol中の点変異によって異なる2つのDNAワクチン構築物(IC1-90およびIC48)を比較した。IC1-90は主に未成熟(コアがプロセシングされていないPr55Gagを含む)HIV様粒子(VLP)を産生し、IC48はPr55Gagがプロセシングされた成熟VLP、未成熟VLP、および細胞内タンパク質凝集体を産生する。いずれのワクチンも、Gag、Pol、およびEnvに対する顕著な細胞応答を生じた。ピークMVA後エフェクター相(P=0.028)および後期記憶相(P=0.051)それぞれにおいて、IC48動物ではIC1-90動物よりも約2倍高い、GagおよびEnvエピトープに対するELISPOT応答が認められた。ピーク応答時には、IC48初回刺激動物ではIC1-90初回刺激動物よりも広い幅が観察された(P=0.03)。本発明者らの結果から、ワクチンが高頻度T細胞応答を誘発し、抗Env抗体を刺激することが示された。これらの結果からまた、様々な形態のVLPの発現が、誘発する細胞性免疫および液性免疫に顕著な影響を及ぼすことも示唆される。
【0184】
結果
ワクチン免疫原
VLPの構築を評価するため、トランスフェクション培養上清をショ糖勾配によりバンド化し、その結果得られた画分をGagの存在について試験した。ピークVLP画分を、ウサギポリクローナル抗p24抗体を用いて免疫ブロッティングにより解析した(図41A)。IC1-90では、2つのGagポリタンパク質、p55およびp41のみが検出された。IC48では、3つの形態のGag(p55、p41、およびp24)が観察された。Gag p24の存在により、Gagポリタンパク質の切断が示される。以前に実証されているように、サキナビル(HIV-1プロテアーゼ阻害剤)によるHIVプロテアーゼ活性の完全阻害またはワクチン構築物IC25(プロテアーゼ活性の遺伝的改変物)は、主にp55であるGagタンパク質をもたらし、Gagポリタンパク質が切断されていないことが示される(Ellenberger, D. et al. 2004 Virology 319:118-130)。HIVタンパク質凝集体、およびGagの完全切断物から部分切断物を含有するVLPを含む、種々の産物の産生をもたらす対応するプロテアーゼ変異を有するワクチン構築物の概要を図41Bに示す。
【0185】
プロテアーゼ活性の部分阻害がVLP構築および潜在的粒子成熟を可能にすることを確認するため、プロテアーゼ変異ワクチン構築物をトランスフェクトした細胞を電子顕微鏡観察により調べた(図41C)。IC1-90では、未成熟VLPが認められた(図41C)。これらの粒子の大きさは均一であり、数は多く、サキナビルの存在下での発現およびIC25により形成される粒子と外観(電子密度の高い殻および透明の中央部分)が類似していた(Ellenberger, D. et al. 2004 Virology 319:118-130)。IC48では、出芽構造および多くのVLPもまた観察された(図41C)。しかし、2つの異なる粒子形態が認められた:球状のタンパク質殻を有するVLP(未成熟)および電子密度の高い中央部を有するその他の粒子(成熟)。さらに、電子密の高い中央部を有するVLPは、成熟HIV粒子に匹敵する、Gag p55の切断およびウイルスコアの凝縮を示唆する薄い球状タンパク質殻を有した。IC48トランスフェクション細胞はまた、HIVタンパク質の細胞内凝集体を含むことが認められた(図41C)。
【0186】
293T細胞をトランスフェクションした後に、抗原捕獲ELISAにより全Gag発現を検出した;IC1-90発現はIC48と比較して急に減少するようであり、それぞれ131および878 ng/mlであった。上清および細胞溶解液中、Gagタンパク質レベルは、それぞれ77および54 ng/ml(IC1-90)ならびに624および254 ng/ml(IC48)であった。しかしながら、以前報告されているように(Schneider, R. et al. 1997 J. Virol. 71:4892-4903)、Gag p55の検出効率はGag p24の効率よりも実質的に低かった。そのため、ホスフォイメージャーによって測定されるウェスタンブロット解析によるトランスフェクション上清の全Gagタンパク質の定量からは、IC1-90がGagタンパク質をIC48と同様のレベルまで(1771および1570相対単位)発現することが実証された。Envタンパク質の産生もELISAにより検出したが、IC1-90およびIC48 Envレベルは同等であり、それぞれ696および665 ng/mlであった。両構築物において、全Envタンパク質の多くの割合は上清中に検出された。
【0187】
前臨床安全性試験
0、8、および26週目における3回のDNAプライムならびに41週目における1回のrMVA追加免疫を、IM針注射により1 mlで行った。DNA初回刺激は注射当たり0.6 mgのIC1-90またはIC48であり、MVA追加免疫は1 x 108 pfuであった。16匹のマカクすべてに、初回刺激物質、IC1-90またはIC48によってのみ異なる同一の一定分量を投与した。身体検査、日々の観察、体重、血液学、および臨床化学の測定を行った。注射部における局所発赤も硬化も認められなかった。
【0188】
ELISPOT解析
ワクチン誘発性T細胞は、MVA追加免疫後に急速に拡大した(図42)。MVA追加免疫前には、HIV-1特異的ELISPOT応答は、DNAプライムそれぞれの後で、本発明者らの検出バックグラウンドかまたはそれ未満であった。時間的ELISPOT解析から、最も高いELISPOT応答は、MVA追加免疫の1週間後(ピーク)であることが判明した。100万個の末梢血単核細胞(PBMC)当たり最大で5300スポットの頻度が、ピーク応答で認められた。特定細胞のこのピークは、DNA/MVA記憶プールへと3倍の縮小を起こした(MVA後8週目)。ピーク後26週目には、T細胞応答はさらに3倍縮小した(後期記憶)。免疫相にかかわらず(ピーク、記憶、または後期記憶)、全ELISPOTは、IC1-90初回刺激動物よりもIC48初回刺激動物で高かった;IC48動物のT細胞応答は、IC1-90動物よりも2.2倍高かった(算術平均)。群および時間における総ELISPOT値の直線回帰を用いた変量効果モデルから、IC48はIC1-90よりも高く、群効果はこのモデルにおいてP値=0.002を有することが実証される。さらに、ピーク応答時(P=0.028)および後期記憶時(P=0.051)に、IC-48初回刺激動物による有意に高い応答が認められた。
【0189】
ピーク応答時において、試験したプラスミドDNAはいずれも、Gag、Pol、およびEnv配列に対する抗ウイルスIFN-γELISPOT応答に関してMVA追加免疫の刺激に成功していた。解析から、IC48プライムとIC1-90プライムとの間の2倍を超える相違が明らかになった(図43)。2倍の相違は有意であり、Gag(P=0.015)、Pol(P=0.047)、およびEnv(P=0.0003)を含む、試験したすべてのウイルス遺伝子領域で観察された。PolおよびEnvでは、全ELISPOT平均応答はGagで認められる応答よりも低いものの、2倍の相違は明白である。Tatは組換えプラスミドおよびrMVAにおいて共通した免疫原でないことから、限定されたTat応答が予測された。
【0190】
GagおよびEnvに関する幅広いELISPOT応答が、MVA追加免疫の1週間後に存在した(図44)。IC48初回刺激動物では、IC1-90初回刺激動物よりも幅広い、ペプチドプールに対する応答が認められた(P=0.03)。ピーク応答時には、5プールのGagペプチドおよび7プールのEnvペプチドのそれぞれが、免疫化動物の少なくとも3匹により認識された。動物当たりに平均すると、2.8のGagペプチドプールおよび2.9のEnvペプチドプールが、ELISPOTにより測定される細胞応答を刺激した。PR、RT、およびTatに関しては、はるかに低い頻度の応答が誘発されたが、これらのプールは少なくとも1匹または複数匹の動物より認識された。16匹の動物うち4匹がPRペプチドの1つのプールを認識し、7匹が5プールのRTペプチドのうちの1つを認識し、1匹の動物の細胞がTatペプチドのプールにより刺激された。
【0191】
ELISPOT応答の高さと一致して、IC48初回刺激動物のT細胞は、IC1-90初回刺激動物で観察されるよりも多くのペプチドプールを認識した(表7)。IC1-90群では、動物8匹のうち6匹が少なくとも1つのGagプールに応答し、全体平均として5プールのうち2.5プールが認識された(表7、図44)。IC48群に関しては、動物8匹のうち7匹が少なくとも2つのGagプール応答し、全体平均として3.1プールが認識された。Env応答はIC48群において類似しており、動物8匹中7匹が少なくとも2つのプールに応答した。IC1-90群では、動物8匹中6匹のみがEnvに応答し、少なくとも1つのEnvプールを認識した。免疫応答の記憶相では、ワクチン接種した動物すべてにおいて、より少ないペプチドプールがT細胞応答を刺激したが、IC48動物はそれぞれIC1-90群よりも多くのペプチドプールに応答した(5.3対3プール)。
【0192】
(表7)ELISPOTおよび細胞内サイトカイン染色解析により陽性と記録された動物当たりのペプチドプールの平均数
aバックグラウンドの2倍のELISPOT数値(>100)を陽性と見なした。
bIFN-γおよびIL-2発現の組み合わせ。
cMVA追加免疫の1週間後。
dMVA追加免疫の8週間後。
eGag、5プール;Pol、6プール(プロテアーゼプールを含む);Env、7プール。
fND、未実施。
g動物当たりの平均CD8+細胞応答、2.2プール。
h動物当たりの平均CD4+細胞応答、6.25プール。
【0193】
GagおよびEnvに対する幅広い応答は、MVA追加免疫後8週目でも保持された(図45)。記憶相において、IC48初回刺激動物は、IC1-90初回刺激動物よりも多くのエピトープ(P=0.004)に応答した。100万個のPBMC当たり最大で2125スポットの頻度が、記憶相で見出された。動物16匹中15匹が、ペプチドの少なくとも1つのプールを認識した。MVA後1週目において最初は非応答者であったサルAC36およびM509は、MVA後8週目に少なくとも1つのGagプールを認識することが示された。動物O2Lは、ペプチドプールに対して依然として非応答者であった。記憶相において、5プールのGagペプチドのそれぞれおよび7つのEnvペプチドプールのうち5プールが、免疫化動物の少なくとも1匹により認識された。
【0194】
細胞内サイトカイン解析
応答するCD4およびCD8 T細胞の頻度を決定するため、細胞内サイトカインアッセイを行った(図46)。CD4およびCD8リンパ球におけるIFN-γおよびIL-2発現のペプチド誘導を測定したが、試験したプラスミドDNAはいずれもMVA追加免疫の刺激に成功していた。MVA追加免疫の1週間後、ELISPOT解析によって見られるようにピーク応答が観察された。遺伝子領域にかかわらず、IC48初回刺激動物による応答は、IC1-90初回刺激動物よりも有意に高かった:Env(P=0.006)およびGag(P=0.026)。Gagエピトープに特異的なCD8細胞は、1匹の動物においては、全CD8 T細胞の2.6%という頻度にまで拡大した。IFN-γ発現およびIL-2の細胞内サイトカイン染色から、DNAプラスミド間でのGagペプチドに対する約4倍の相違が明らかになった;IC48はIC1-90よりも多くのCD8細胞を刺激した。パーセント特異的CD8細胞の幾何平均は、IC48群およびIC1-90群に関してそれぞれ0.54対0.14であった。Env領域では、2倍の相違が検出された(0.28対0.14)。発現するサイトカインにかかわらず、同様の比率が認められた。
【0195】
数匹の動物において、Gagエピトープに特異的なCD4細胞が全CD4 T細胞の0.5%という頻度にまで拡大した(図46)。統計解析から、IC48初回刺激動物ではIC1-90細胞よりも有意に多くの、Envエピトープに特異的なCD4細胞が認められることが明らかになった(P=0.006)。また一方で、IFN-γ発現およびIL-2の染色から、DNAプラスミド間での、Envペプチドに対する4倍の相違(0.39対0.11幾何平均)およびGagペプチドに関する2倍の相違(0.31対0.15)が明らかになった。全体として、CD4細胞応答は、CD8細胞応答よりも有意に高かった(P<0.0001)。
【0196】
図46のデータに基づき、幾何平均を決定して、特定細胞(CD4およびCD8)、サイトカインの発現(IFN-γおよびIL-2)、およびHIV遺伝子領域を比較した。CD4リンパ球におけるIL-2発現のペプチド誘導は、パーセント特異的CD8リンパ球よりも2倍高かった(0.113対0.056幾何平均)。しかしながら、IFN-γ発現に関しては、CD8およびCD4細胞は同等であった(0.089対0.078幾何平均)。Gag領域では、IFN-γ発現はIL-2発現よりも有意に高かったが(P=0.013)、CD4-IL2、CD8-IL2、およびCD8-IFN-γ発現はCD4-IFNよりも有意に高かった(P=0.032)。
【0197】
IFN-γおよびIL-2発現の両方を含め、細胞内サイトカイン染色により陽性と記録されたペプチドプールの平均数は、遺伝子領域にかかわらず、DNA初回刺激群の間で相対的に同等であることが判明した(表7)。ピーク免疫応答時には、IC1-90動物は、CD8およびCD4細胞に関してIC48動物の応答と等しくするために、ペプチドプール応答のそれぞれ31%および11%の増加を必要とする。しかしながら、CD4細胞ではCD8細胞よりも3倍多いペプチドプールが、IFN-γおよびIL-2発現を誘導した(6.25対2.2プール)。この同じ3倍という比率は、IC1-90およびIC48初回刺激動物のいずれにおいても認められた。
【0198】
抗体応答
抗体応答は、MVAによって強く高められた。ウェスタンブロット解析によれば、ごくわずかな結合抗体がDNA初回刺激により誘発されたが、動物16匹中11匹(6匹のIC1-90サルおよび5匹のIC48サル)は、MVAの3週間後にHIV-1亜型AGウイルス溶解液に対してEnv反応性を示した。11匹の反応性動物はすべて、Env gp120を検出する抗体を産生し、1匹の動物のみがGag p24に応答した。初回刺激動物の2群間に差は認められなかった。
【0199】
固相 Env ELISAにより、ワクチン接種した動物について抗Env力価を決定した。MVA後3週目において、平均逆力価は、IC1-90およびIC48初回刺激動物についてそれぞれ1075(±1569)および2119(±1898)であった。追加免疫の8週間後には、力価はそれぞれ953(±979)および850(±563)に減少した。2群の動物間に実質的な差は認められなかった。
【0200】
中和抗体に関する試験から、ワクチンに使用した一次分離株に対する非常に低いレベルの活性が明らかになった;1匹の動物しか陽性を示さなかった。一次分離株、組換えHIV-1亜型AGは、多くの他の血清および中和モノクローナル抗体による中和に対して比較的耐性があった。血漿の中和活性は、HIV-1-MN(亜型B)、HIV-1に対する実験室適合化分離株についても示されなかった。
【0201】
材料および方法
DNA免疫原
DNA構築物は、プロモーターカセット内にイントロンAを含み、RNAを発現するためにCMV前初期プロモーターおよびウシ成長ホルモンポリアデニル化配列を使用するpGA1発現ベクター(GenBankアクセッション番号:AF425297)で作製した(Chapman, B.S. et al. 1991 PNAS USA 19:3979-3986、およびRoss, T.M. et al. 2000 Nat. Immunol. 1:127-131)。付随する組換えHIV-1亜型AG(CRF02_AG)株IC0928を逆転写し(GenBankアクセッション番号:AY227361およびAY227362)、DNA PCRにによって生成された断片をpGA1発現ベクターにクローニングした(Ellenberger, D.L. et al. 2002 Virology 302:155-163、およびEllenberger, D. et al. 2004 Virology 319:118-130)。pGA1-IC48(IC48)の構築および説明は、以前に記載されている(Ellenberger, D. et al. 2004 Virology 319:118-130)。pGA1/IC1-90(IC1-90)は、gagおよびpol中の点変異によりIC48と異なる。簡潔に説明すると、IC1-90は、IC48について以前に記載されている、gag NCジンクフィンガーおよびpol RT中に導入された点変異を欠いている(Ellenberger, D. et al. 2004 Virology 319:118-130、Smith, J.M. et al. 2004 AIDS Res. Hum. Retrovir. 20:1335-1347、およびSmith, J.M. et al. 2004 AIDS Res. Hum. Retrovir. 20:654-665)。IC1-90およびIC48はまたプロテアーゼ配列においても異なり、IC1-90中には、70位でのArgからGlyへの置換および90位でのMetからLeuへの置換という2つの置換が存在する。IC48は、以前に記載されているように、48位におけるGlyからValへの置換を有する。プロテアーゼ変異は、部位特異的変異誘発キット(Stratagene、カリフォルニア州、ラホーヤ)を使用し、製造業者の手順に従って作製した。変異はすべて、配列決定により確認した。
【0202】
組換えMVA免疫原
IC0928に由来するgag、pol、およびenv領域を発現する組換えMVAは、上記されている。簡潔に説明すると、これは、組換えウイルスを得るための一過性GFPマーカーを、Wyatt et al. (Wyatt, L.S. et al. 2004 AIDS Res. Hum. Retrovir. 20:645-653)により記載されている一過性GUSと同様に使用するという変更を加え、MVA/SHIV89.6について以前に記載されている通りに(Earl, P.L. et al. 2002 Virology 294:270-281)gag-polを欠失IIIに、および切断型envをdel IIに挿入して構築した。
【0203】
細胞株および一過性トランスフェクション
ヒト293T細胞、ヒト腎臓由来細胞株は、10%ウシ胎児血清を添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で維持した。293T細胞を、DMEM増殖培地2 ml中に106個細胞/Costar 6ウェルプレートのウェルで添加し、5% CO2加湿雰囲気中、37℃で24時間インキュベートした。24時間後、リポフェクトアミン2000(LipofectAmine2000)試薬(Invitrogen、カリフォルニア州、カールズバッド)とプラスミドDNAを製造業者の手順に従って混合し、各ウェルに添加した。トランスフェクション試薬を添加してから24または48時間後に、上清を回収した。
【0204】
粒子の精製
293T細胞の一過性トランスフェクションの24時間後、培養上清を回収し、200 x gで5分間遠心分離して清澄化し、1 mlを10〜50%ショ糖勾配上に重層した。それぞれ2 mlの50%、40%、30%、20%、および10%ショ糖溶液からなる10 mlの勾配は、超遠心チューブの底から上に添加した。勾配を、SW41Tiローターで40,000 rpmにて16時間遠心分離した。1 mlの画分を、上から底に向かって回収した。画分分割量を、HIV-1 p24抗原捕獲アッセイで解析した。
【0205】
電子顕微鏡観察
トランスフェクションした293T細胞を、0.1 Mカコジル酸緩衝液中の2.5%グルタルアルデヒド1 mlを用いて、マルチウェルプレート中で4℃で2時間固定した。同じ緩衝液で3回洗浄した後、0.1 Mカコジル酸緩衝液中の1.0%四酸化オスミウムを添加して1時間インキュベートし、エタノール系で脱水し、エポネート(Eponate)樹脂を用いて包埋した。樹脂を重合した後、細胞を面で切断し、水中の4%酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛で染色し、Hitachi H-7500透過型電子顕微鏡で観察した。
【0206】
抗原捕獲アッセイ法
アッセイは、HIV-1抗原捕獲EIAキット(Coulter、フロリダ州、ハイアリーア)を用いて、製造業者の説明書に従って行った。
【0207】
Env ELISA
プールされたヒト免疫グロブリン抗HIV(カタログ番号3957)は、米国立アレルギー感染病研究所(National Institute of Allergy and Infectious Diseases)AIDS Research and Reference Reagent Program(メリーランド州、ロックビル)から入手した。Env ELISAは、以前に記載されている通りに行った(Ellenberger, D. et al. 2004 Virology 319:118-130)。
【0208】
マカクおよび免疫原性試験
インド起源の成年初期雄非近交系アカゲザル(Macaca mulatta)16匹を、体重により8匹の2つのワクチン群に無作為に分類した。IC1-90群には0.6 mgのIC1-90 DNAを0、8、および26週目に筋肉内(IM)投与し、IC48群には0.6 mgのIC48 DNAを同様に投与した。DNA免疫化は、針およびシリンジを用いてリン酸緩衝食塩水中で行った。1 ml/注射の量で、全部で3回の注射を上外側右大腿に行った。3回目のDNA免疫化の15週間後(41週目)に、すべての動物に、針およびシリンジを用いて、1 x 108 pfuの改変ワクシニアアンカラウイルス(MVA/HIV)追加免疫を上外側右大腿にIM投与した。MVA免疫化は、1 ml量のリン酸緩衝食塩水中で行った。注射部位を、局所炎症反応についてモニターした。
【0209】
液性応答
全ウイルス溶解液およびショ糖精製VLPのウェスタンブロット解析は、以前に記載されている通りに行った(Sambrook, J. et al. 1989 Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd ed.), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY)。全ウイルス溶解液(IC0928)は4〜15%勾配SDSゲルで泳動し、ニトロセルロースに転写した。血漿試料は、ブロッキング緩衝液で1:100希釈した。二次抗体は抗ヒトIgG(Fab)-ホスファターゼであり、検出はBCIP/NBTホスファターゼ基質システム(KPL、メリーランド州、ゲイサーズバーグ)を用いて、製造業者の説明書に従って完了した。ショ糖精製VLPの解析は、米国立アレルギー感染病研究所AIDS Research and Reference Reagent Programから入手したウサギポリクローナル抗p24(カタログ番号4250)を用いて行った。HIV-1 Gagタンパク質バンドは、ECLウェスタンブロッティング検出試薬(Amersham Pharmacia Biotech、ニュージャージー州、ピスカタウェイ)を用いて、製造業者により記載される通りに可視化した。発現レベルはホスフォイメージャーを用いて決定した。
【0210】
免疫したサルの血清中のEnv IgGのレベルを測定するには、以前に記載されている通りに、96ウェルU底プレートをgp120のC末端に対するヒツジ抗体で、およびその後精製CRF02_AG gp140でコーティングした(Earl, P.E. et al. 2002 Virology 294:270-281)。血清希釈物のインキュベーション時間は、ELISAの感度を上げるために2時間から一晩に延長した。
【0211】
中和は、TZM-bl細胞における1ラウンドの感染後のルシフェラーゼレポーター遺伝子発現の減少の関数として測定した。TZM-bl細胞は、John KappesおよびXiaoyun Wuにより寄与されたNIH AIDS Research and Reference Reagent Programから入手した。簡潔に説明すると、96ウェル平底培養プレートにおいて、200 TCID50のウイルスを血清試料の3倍段階希釈物と共に、全量150μlの3つ組で37℃で1時間インキュベートした。新たにトリプシン処理した細胞(75μg/ml DEAEデキストランを含む増殖培地100μl中の10,000個の細胞)を各ウェルに添加した。HIV-1 MNの場合には、複製を妨げるためにインジナビルを最終濃度1μMで添加した。1組の対照ウェルには細胞+ウイルスを添加し(ウイルス対照)、別の組には細胞のみを添加した(バックグラウンド対照)。48時間インキュベートした後、100μlの細胞を96ウェル黒均質プレート(Coster)に移し、供給業者(Promega)によって記載される通りにBright Glo基質溶液を用いて発光を測定した。CRF02_AGワクチン株に由来するgp160に関する偽型ウイルスのアッセイ保存液は、293T細胞でのトランスフェクションにより調製し、TZM-bl細胞で力価測定した。HIV-1 MNのアッセイ保存液は、H9細胞で調製した。
【0212】
ペプチドプール
HIV-1組換え亜型CRF02_AGペプチドは、ワクチン株に由来する、11が重複した15merであった。ペプチドは、約25ペプチドを含むプールとなるよう集合化した。ペプチドは50〜100 mg/mlでDMSO中に溶解し、保存溶液は-70℃で維持した。ペプチド作業溶液は-20℃で1週間維持した。
【0213】
T細胞アッセイ法
ELISPOTアッセイ法は、ヒトCD28およびCD49dに対する2μg/mlの抗体(Becton Dickinson、カリフォルニア州、サンノゼ)をインキュベーションに含めること以外は(Waldrop, S.L. et al. 1998 J. Immunol. 161:5284-5295)、以前に記載されている通りに行った(Amara et al., 2001、およびAmara et al., 2002)。精製PBMCを、各ペプチドについて10μg/mlの最終濃度で使用するペプチドプールと共に、2 x 105細胞/ウェルで96ウェルプレートに2つ組でプレーティングした。4ウェルには、培地のみを添加した。プレートを37℃、5% CO2で36時間インキュベートし、ELISPOTリーダーを用いてスポットを計数した。バックグラウンドは、陰性対照の平均の2倍プラス10と設定した。このバックグラウンド値をペプチドウェルの生数値から減算し、その後100万個のPBMCに変換した。バックグラウンドの2倍(>100)のELISPOT数値のみを有意であると見なした。
【0214】
IFN-γおよびIL-2の細胞内サイトカイン(ICC)染色アッセイ法は、以前に記載されている(Amara, R.R. et al. 2001 Science 292:69-74、およびAmara, R.R. et al. 2002 J. Virol. 76:6138-6146)。このようなアッセイのため、100万個のPBMCを5-mlポリプロピレンチューブ中でRPMI 100μlに再懸濁し、最終濃度1μg/mlの抗CD28および抗体CD49d抗体の存在下において、100μg/mlのペプチドプールで刺激した。細胞は、100μl中、5°の角度をなして組織培養インキュベーター中で37℃でインキュベートした。2時間後、ブレフェルジンA 10μgを含む培地900μlを添加し、インキュベーションをさらに4時間続けた。次いで、細胞をCD3、CD8、CD69、IFN-γ、およびIL-2について染色し、PBS中の1%ホルムアルデヒドで固定し、FACScaliber(Becton Dickinson、カリフォルニア州、サンノゼ)で24時間以内に捕捉した。各試料について、約150,000個のリンパ球が捕捉された。データは、FloJoソフトウェア(Tree Star, Inc.、カリフォルニア州、サンカルロス)を用いて解析した。
【0215】
統計解析
2つのDNAワクチンで初回刺激した群による免疫原性試験の比較には、独立試料のウィルコクソン検定およびウィルコクソン符号順位検定を用いた。サルを変量効果とし、群(IC-48またはIC1-90)および時間における総ELISPOT値の直線回帰を用いる混合効果モデルを使用した。また、CD4対CD8 T細胞の応答、Gag対Envに対するT細胞応答、ならびにIFN-γおよびIL-2発現の試験にも、混合効果直線回帰モデルを使用した。
【0216】
明瞭性および理解の目的で本発明をやや詳細に説明したが、本発明の真の範囲を逸脱することなく、形態および詳細において種々の変更がなされ得ることを当業者は理解されよう。上記に参照した図、表、および添付物、ならびに特許、出願、および刊行物はすべて、参照により本明細書に組み入れられる。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV) env、gag、およびpol遺伝子を発現する、ワクシニアウイルスの複製欠損株である改変ワクシニアアンカラ(modified vaccinia Ankara;MVA)を提供する。
【0002】
関連出願の相互参照
本願は、2004年8月27日に出願された米国仮特許出願第60/604,918号の恩典を主張するものであり、その開示は全体が参照として本明細書に明確に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
有効なヒト免疫不全ウイルス(HIV)ワクチンを同定するための探究において、多くの新規な候補およびアプローチが開発されている。有効なHIV-1ワクチンの作製には、強力な細胞性免疫の誘導および一次HIV-1を中和し得る反応性の広い抗エンベロープ抗体が必要であり得り、理想的なワクチンはT細胞およびB細胞応答の両方を誘導することが必要であり得る。プラスミドDNAワクチン接種は液性免疫応答および細胞性免疫応答の両方を誘発することができ(Tang et al. 1992 Nature 356: 152-154;Ulmer et al. 1993 Science 259:1745-1749;およびWolff et al. 1990 Science 247:1465-1468)、これらは非病原性エイズウイルスによる攻撃から非ヒト霊長類を防御し(Boyer et al. 1997 Nat. Med. 3:526-532;およびLetvin et al. 1997 PNAS U.S.A. 94:9378-9383)、病原性サル免疫不全ウイルス(SIV)による疾患からの適度な防御を提供する(Egan et al. 2000 J. Virol. 74:7485-7495;およびLu et al. 1996 J. Virol. 70: 3978-3991)。
【0004】
細胞性免疫をもたらすように設計されたワクチンは、一部の例では、アカゲザルにおいて毒性ウイルスの攻撃を制御し、エイズ(AIDS)の発症を妨げ得る(Amara et al. 2001 Science 292: 69-74;;Barouch et al. 2000 Science 290: 486-492;Barouch et al. 2001 J. Virol. 75:5151-5158;Rose et al. 2001 Cell 106:539-549;およびShiver et al. 2002 Nature 415: 331-335)。プラスミドDNAによる免疫応答の初回刺激、ならびにその後の改変ワクシニアウイルスアンカラなどの組換えポックスウイルス追加免疫(Amara et al. 2001 Science 292:69-74、およびRobinson et al. 2000 AIDS Rev. 2:105-110)、またはVLPタンパク質ブーストおよびIL-12/GM-CSF(O'Neill et al. 2003 AIDS Res. Hum. Retrovir. 19: 883-890、およびO'Neill et al. 2002 J. Med. Primatol. 31: 217-227)は、細胞性免疫をもたらすための多くの異なるアプローチのうちの2つである。gagおよびenv応答の両方がウイルス攻撃に対する防御に重要であるため(Amara et al. 2002 J. Virol. 76:6138-6146)、同一ベクター上に複数のHIV-1遺伝子領域を含めることにより、DNAプライム-MVAブースト法が強化される。この潜在的利点が欠如するのは、Gagのみをコードするか、または別個のDNA構築物上にGag、Env、およびその他のウイルスタンパク質をコードするHIV-1 DNAワクチンである(Barouch et al. 2000 Science 290: 486-492;Barouch et al. 2002 Nature 415:335-339、およびKang et al. 1999 Biol. Chem. 380: 353-364)。HIVによる回避は、免疫応答が単一の支配的エピトープによって駆動される場合に可能であり(Barouch et al. 2000 Science 290: 486-492;Barouch et al. 2000 Nature 415:335-339、およびMortara et al. 1998 J. Virol. 72: 1403-1410);したがって、多エピトープまたは多タンパク質応答が有利なようである。
【0005】
VLPの構築および細胞からの放出は、Gagポリタンパク質を保存するための適切な細胞内プロテアーゼ調節に依存し(Gottlinger et al. 1989 PNAS USA 86: 5781-5785;Karacostas et al. 1993 Virology 193:661-671、およびPeng et al. 1989 J. Virol. 63:2550-2556)、Gagのみの発現系のトランスフェクションで観察され得る(Huang et al. 2001 J. Virol. 75: 4947-4951;Kang et al. 1999 Biol. Chem. 380: 353-364、およびSchneider et al. 1997 J. Virol. 71:4892-4903)ことは十分に確立している。以前の研究から、プロテアーゼの25番目の残基のアスパラギン酸(D)からアスパラギン(N)への変異により、プロテアーゼ活性が完全に消失することが実証された(Gottlinger et al. 1989 PNAS USA 86: 5781-5785;Kohl et al. 1988 PNAS USA 85:4686-4690、およびLoeb et al. 1989 J. Virol. 63: 111-121)。さらに、Jacobsen et al. (1995 Virology 206:527-534)は、48位(G48V)および90位(M90L)でのプロテアーゼの突然変異誘発により、酵素活性の効果が低下すること、ならびにgagおよびgag-polポリタンパク質のプロセシングが遅延することを実証した。アミノ酸48位および90位のアミノ酸におけるプロテアーゼ変異は、D25N変異とは異なり、プロテアーゼ酵素活性を遅延させるが消失させず、その他の点では野生型であるプロウイルス内に存在する場合に感染性ウイルスの産生を可能にする。最近の研究から、48位および90位における2つのプロテアーゼ変異体が、HIV-1タンパク質の高レベルの産生に関してばかりでなく、VLPの構築に関しても制限しないことが示唆された(Ellenberger et al. 2004 Virology 319: 118-130)。
【0006】
最も有望なHIVワクチンの1つは、異種プライム-ブースト法である。プライムは、HIVタンパク質を発現する組換えプラスミドDNAまたはウイルスベクターからなり得る。異種ブーストは、ベクター自体ではなくワクチン挿入物免疫原のブーストを最適化する組換えウイルスベクター(ポックスウイルスまたはアデノウイルス)または第2のウイルスベクターである。プライムおよびブーストに同じ組換えウイルスベクターを使用すると、組換えベクターに対する既存の免疫と類似した免疫応答が減少する(Vogels et al. 2003 J. Virol. 77: 8263-8271)。組換えプラスミドDNAによる初回刺激および組換えMVAによる追加免疫により、両ベクター内に含まれる共通の免疫原に対する細胞応答が増強される(Amara et al. 2001 Science 292: 69-74;Hanke et al. 1998 Vaccine 16: 439-445;Schneider et al. 1998 Nat. Med. 4: 397-402;およびSchneider et al. 2001 Vaccine 19: 4595-4602)。ワクチン手順に対する免疫応答のピークエフェクター相において、誘導されたCD8細胞は、全CD8細胞の非常に高い頻度に到達し得る(Allan et al. 2000 J. Immunol. 164:4968-4978;Amara et al. 2001 Science 292: 69-74;およびHorton et al. 2002 J. Virol. 76: 7187-7202)。
【発明の概要】
【0007】
発明の概要
本発明は、組換えMVAウイルスからの発現によりHIV Env、Gag、およびPol抗原を産生させるための、HIV env、gag、およびpol遺伝子、またはそれらの改変遺伝子を発現する組換えMVAウイルスであり、HIV env遺伝子が、gp120、ならびにgp41の膜貫通および外部ドメインから構成されるがgp41の細胞質ドメインの一部またはすべてを欠くHIV Envタンパク質をコードするよう改変された組換えMVAウイルス、ならびに薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物であって;HIV env、gag、もしくはpol遺伝子、またはそれらの改変遺伝子がクレードAGから採取され、かつHIV env遺伝子またはその改変遺伝子が配列番号:1またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有し、HIV gagおよびpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子が配列番号:2またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有するか;またはHIV env、gag、もしくはpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子がクレードBから採取され、かつHIV env遺伝子またはその改変遺伝子が配列番号:3またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有し、HIV gagおよびpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子が配列番号:4またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有するか;またはHIV env、gag、もしくはpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子がクレードCから採取され、かつHIV env遺伝子またはその改変遺伝子が配列番号:5またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有し、HIV gagおよびpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子が配列番号:6またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有する薬学的組成物;ならびに関連するその作製方法および使用方法に関する。
【0008】
微生物の寄託
以下の微生物は、ブダペスト条約の条項に従って、記載の日付でアメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection;ATCC)、バージニア州、マナッサスに寄託された:
【0009】
MVA 1974/NIHクローン1は、ATCCアクセッション番号:PTA-5095として、2003年3月27日にアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)、10801 University Blvd., Manassas, VA 20110-2209, USAに寄託された。この寄託は、特許手続きのための微生物寄託の国際認識に関するブダペスト条約およびそれに基づく規則(ブダペスト条約)の規定の下で行われた。これは、寄託の日付から30年間、寄託物の生存可能な培養物が維持されることを保証するものである。寄託物はブダペスト条約の条項の下で、また出願者とATCCとの間の合意を条件として、ATTCから入手することができ、これは、いずれが最初であろうとも、関連する米国特許の発行時または任意の米国もしくは外国特許出願の公開時に、寄託培養物の子孫を公衆が永続的かつ非限定的に入手できることを保証し、米国特許法第122条およびそれに準ずる特許庁長官規則(37 CFR第1.14条を含む)に従って権利を有すると米国特許庁長官が決定した者が子孫を入手できることを保証するものである。受託された株の入手可能性は、特許法に従いあらゆる政府の権限下で許可される権利に違反して本発明を実施するライセンスとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】pol遺伝子配列の同一性に基づいたHIV-1およびHIV-2の系統発生関係を示す。SIVcpzおよびSIVsmmは、それぞれチンパンジーおよびスーティーマンガベイザルから回収された類人猿レンチウイルスである。
【図2】全長pol遺伝子配列に基づいた、HIV-1 M、N、およびO群と4つの異なるSIVcpz分離株の系統発生関係を示す。バーは遺伝的距離0.1(10%ヌクレオチド相違)を示し、星印はenv配列に基づいたN群HIV-1分離株の位置を示す。
【図3】HIV-1分離株の向性特性および生物学的特性を示す。
【図4】HIVがコードするタンパク質を示す。HIV遺伝子の位置、一次翻訳産物(場合によってはポリタンパク質)の大きさ、およびプロセシングされた成熟ウイルスタンパク質を示す。
【図5】成熟HIV-1ビリオンの略図を示す。
【図6】HIV-1 Env糖タンパク質の直線図を示す。矢印は、gp120およびgp41となるgp160の切断部位を示す。gp120において、斜線領域は可変ドメイン(V1〜V5)を示し、白ボックスは保存配列(C1〜C5)を示す。gp41外部ドメイン内には、いくつかのドメインが示される:N末端融合ペプチドおよび2つの外部ドメインヘリックス(NヘリックスドメインおよびCへリックス)。膜貫通ドメインは黒ボックスで示す。gp41細胞質ドメイン内には、Tyr-X-X-Leu(YXXL)外部ドメインモチーフ(配列番号:13)および2つの予測されるヘリックスドメイン(ヘリックス-1およびヘリックス-2)が示される。アミノ酸番号を表示してある。
【図7】pJD-5伝達ベクターを示す。
【図8】pJD-6伝達ベクターを示す。
【図9】流れ図「組み換えMVA 65A/Gの構築」を示す。
【図10】MVA 65A/GのHIV Env発現を示す。
【図11】MVA 65A/GのHIV GagPol発現を示す。
【図12】MVA 65A/G Env配列(配列番号:1)を示す。
【図13】MVA 65A/G GagPol配列(配列番号:2)を示す。
【図13−2】図13の続きを示す図である。
【図14】pJD-16伝達ベクターを示す。
【図15】改変MVA 65A/Gからのエンベロープ発現の強化を示す。
【図16】MVA 65A/G構築物からのGag発現を示す。
【図17】免疫化マウスのクレードA/G gp140 ELISA力価を示す。
【図18】クレードA p24ペプチドICS応答を示す。
【図19】pLAS-1 HXB2/BH10 Gag Pol伝達ベクターを示す。
【図20】pLAS-2 ADA Env伝達ベクターを示す。
【図21】流れ図「組み換えMVA 62Bの構築」を示す。
【図22】MVA 62BからのHIV Envおよびgagの発現を示す。
【図23】MVA 62B ADA Env配列(配列番号:3)を示す。
【図24】MVA 62B中のHXB2/BH10 Gag Pol配列(配列番号:4)を示す。
【図24−2】図24の続きを示す図である。
【図25】MVA 62B免疫化マウスにおける細胞内サイトカイン染色(ICS)Envおよびgag応答を示す。
【図26】pLW-66伝達ベクターを示す。
【図27】pJD-17伝達ベクターを示す。
【図28】改変MVA 62B構築物の発現強化を示す。
【図29】改変MVA 62B構築物からのGagの発現を示す。
【図30】マウスにおける改変構築物によるgp140 ELISA力価の強化を示す。
【図31】改変構築物によるICS Env応答の強化を示す。
【図32】ICS Gag応答を示す。
【図33】MVA56用のpLAS-6伝達プラスミドを示す。
【図34】MVA組換え体MVA 48および56によるEnvおよびGagPol発現を示す。
【図35】pDC-3(LAS-1 C-IN3 gag pol)プラスミドを示す。
【図36】pJD-15(LAS-2 C-IN3 env)プラスミドを示す。
【図37】流れ図「組み換えMVA/HIV 71Cの構築」を示す。
【図38】MVA 71CのHIV EnvおよびGag Pol発現を示す。
【図39】MVA/HIV 71C Env配列(配列番号:5)を示す。
【図40】MVA/HIV 71C Gag Pol配列(配列番号:6)を示す。
【図41】HIV-1様粒子の解析を示す。(A) ウサギポリクローナル抗p24を用いたショ糖勾配精製VLPの免疫ブロット解析。HIV前駆体および産物の位置を右側に示す。各勾配による画分9をSDS-PAGEで分離し、ニトロセルロースに転写し、免疫ブロッティングにより解析した。ワクチン構築物pGA1/IC25(HIVプロテアーゼ活性の完全消失)を参照として含める(Ellenberger, D. et al. 2004 Virology 319:118-130)。(B) ワクチン構築物中に導入されたプロテアーゼ変異の概要および明白な発現産物。(C) ワクチン構築物IC1-90およびIC48をトランスフェクトした293T細胞におけるVLPおよび細胞内タンパク質凝集体の透過型電子顕微鏡観察。
【図42】pGA1/IC1-90 DNAおよびpGA1/IC48 DNA初回刺激群の時間的IFN-γELISPOT応答を示す。動物16匹を19のペプチドプールに対して試験した。記号は、それぞれの動物の全ELISPOT応答を示す。太いバーは、指定の群それぞれの算術平均を表す。ピークELISPOT応答(+42週;MVA追加免疫の1週間後)、記憶応答(MVAの8週間後)、および後期記憶(MVAの26週間後)を示す。バックグラウンド値(陰性対照の平均の2倍プラス10)をペプチドウェルの生数値から減算し、その後100万個のPBMCに変換した。
【図43】MVA追加免疫の1週間後のIFN-γELISPOT応答を示す。数字は、表示の遺伝子領域に対する応答の算術平均を示す。パネルの下の表示は、刺激に使用した遺伝子およびペプチドプールを示す。パネルの右側の表示は、DNAプライム群を示す。記号は個々の動物を示す。バックグラウンド値を減算してから、100万個のPBMCに変換した。
【図44】IC1-90およびIC48初回刺激群のピークELISPOT応答の幅を示す。ワクチン群当たり8匹の動物を、19のペプチドプール(5 Gag、6 Pol、および7 Env、ならびに1 Tat)に対して試験した。各ペプチドプールに関して陽性と記録された、動物当たりのELISPOT応答を示す。
【図45】MVA追加免疫の8週間後に決定されたELISPOT応答を示す。パネルの下の表示は、個々の動物およびDNAプライム群(動物8匹/群)を示す。積み重なったバーは、個々のペプチドプールに対する各動物のELISPOT応答を示す。白いバーはGagペプチドプールを表し、黒いバーはPolペプチドプールを表し、灰色のバーはEnvペプチドプールを表す。バックグラウンド値を減算してから、100万個のPBMCに変換した。
【図46】IFN-γおよびIL2細胞内サイトカイン染色により決定された応答CD8細胞およびCD4細胞を示す。(A) ピーク時(MVA追加免疫の1週間後)における個々の動物のGagおよびEnvに対するパーセント特異的CD8細胞。太いバーは、各群における応答の算術平均高を示す。パネルの上の表示は測定したサイトカイン(IFN-γおよびIL2)を明示し、パネルの下の表示はDNAプライム群を明示する。記号は個々の動物を示す。(B) ピーク時(MVA追加免疫の1週間後)における個々の動物のGagおよびEnvに対するパーセント特異的CD4細胞。パネルの上下の表示はpAと同様である。
【図47】HIV遺伝子の改変を示す。HIV env遺伝子では、ワクシニア初期終結シグナルがサイレント変異を作製することにより除去され、gp 41細胞質尾部の一部が切断された。pol遺伝子では、3つの変異がRT内に作製され、インテグラーゼが除去された。
【図48】組換えMVA/HIVの構築を示す。MVAと、一過性GFP、および初期/後期改変H5ワクシニアプロモーターによって制御されるHIV遺伝子の発現を含むMVA envまたはgagシャトルプラスミドの相同組換えにより、一重組み換えウイルスを作製した。両方の一重組換え体をMOI 5 pfu/細胞で感染させ、収集物をプレーティングして個々のプラークを採取した。免疫染色によりプラークを特徴づけ、EnvおよびGagタンパク質を両方発現するプラークをさらにプラーク精製し、二重組換え体を取得した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
好ましい態様の詳細な説明
組換えMVAウイルス
ポックスウイルス科のオルトポックスウイルス属のメンバーであるワクシニアウイルスは、ヒト天然痘疾患に対して免疫化するための生ワクチンとして使用された。ワクシニアウイルスによる世界的なワクチン接種の成功により、天然痘の原因因子である痘瘡ウイルス(variola virus)が根絶された(「The global eradication of smallpox. Final report of the global commission for the certification of smallpox eradication」. History of Public Health, No. 4, Geneva: World Health Organization, 1980)。そのWHOの宣言以来、ポックスウイルス感染症の危険性の高い人々(例えば、研究所員)を除き、ワクチン接種は一般に中断されている。
【0012】
より最近では、ワクシニアウイルスは、組換え遺伝子発現のため、および組換え生ワクチンとしての潜在的用途のために、ウイルスベクターを操作するのにも使用されている(Mackett, M. et al. 1982 PNAS USA 79:7415-7419;Smith, G.L. et al. 1984 Biotech Genet Engin Rev 2:383-407)。これは、DNA組換え技法を用いて、ワクシニアウイルスのゲノム中に導入される外来抗原をコードするDNA配列(遺伝子)を必要とする。ウイルスの生活環に必須でないウイルスDNA中の部位に遺伝子が組み込まれる場合、新たに産生される組換えワクシニアウイルスは感染性となり、すなわち外来細胞に感染し、ひいては組み込まれたDNA配列を発現することが可能である(欧州特許出願第83,286号および同第110,385号)。このようにして調製される組換えワクシニアウイルスは、一方では感染症の予防用の生ワクチンとして、他方では真核細胞における異種タンパク質の調製のために使用することができる。
【0013】
ベクターの適用に関しては、高度弱毒化ワクシニアウイルス株を使用することにより、健康上の危険性が減少する。特に、種痘の望ましくない副作用を回避するために、いくつかのそのようなワクシニアウイルス株が開発された。例えば、改変ワクシニアアンカラ(MVA)は、ワクシニアウイルスのアンカラ株(CVA)をニワトリ胚線維芽細胞上で長期にわたり連続継代することにより作製された(総説に関しては、Mayr, A. et al. 1975 Infection 3:6-14、スイス特許第568,392号を参照されたい)。MVAウイルスは、ATCC番号:VR-1508としてアメリカンタイプカルチャーコレクションから公的に入手可能である。MVAは、その優れた弱毒性により、すなわち良好な免疫原性を維持しつつ、毒性および霊長類細胞で複製する能力が減少していることにより特徴づけられる。MVAウイルスは、親CVA株に対するゲノムの変化を決定するために解析されている。合計31,000塩基対となるゲノムDNAの6つの主要な欠失(欠失I、II、III、IV、V、およびVI)が同定された(Meyer, H. et al. 1991 J Gen Virol 72:1031-1038)。得られたMVAウイルスは、宿主細胞がトリ細胞に厳格に限定されるようになった。
【0014】
さらに、MVAはその極度の弱毒性を特徴とする。種々の動物モデルで試験した場合、MVAは、免疫抑制動物においてさえも無毒であることが判明した。より重要なことには、MVA株の優れた特性が、広範な臨床試験で実証されている(Mayr A. et al. 1978 Zentralbl Bakteriol [B] 167:375-390;Stickl et al. 1974 Dtsch Med Wschr 99:2386-2392)。ハイリスク患者を含む120,000人を超えるヒトでのこれらの試験において、MVAワクチンの使用に伴う副作用は認められなかった。
【0015】
ヒト細胞中でのMVA複製は、感染後期で阻止され、成熟感染性ビリオンへの構築が妨げられることが判明した。それにもかかわらず、MVAは、非許容性細胞においてさえもウイルス遺伝子および組換え遺伝子を高レベルで発現し得り、効率的でかつ非常に安全な遺伝子発現ベクターとして役立つことが提唱された(Sutter, G. and Moss, B. 1992 PNAS USA 89:10847-10851)。さらに、MVAゲノム内の欠失IIIの部位に挿入された外来DNA配列を有するMVAに基づいて、新規ワクシニアベクターワクチンが確立された(Sutter, G. et al. 1994 Vaccine 12:1032-1040)。
【0016】
組換えMVAワクシニアウイルスは、以下に示すように調製することができる。MVAゲノム内の天然に存在する欠失(例えば、欠失III)またはその他の非必須部位に隣接するMVA DNA配列が隣接した外来ポリペプチドをコードするDNA配列を含むDNA構築物を、MVAに感染した細胞中に導入して、相同組換えさせる。DNA構築物が真核細胞中に導入され、外来DNAがウイルスDNAと組み換えられたならば、好ましくはマーカーを用いて、それ自体既知である方法で、所望の組換えワクシニアウイルスを単離することが可能である。挿入すべきDNA構築物は、線状であっても環状であってもよい。プラスミドまたはポリメラーゼ連鎖反応産物が好ましい。DNA構築物は、MVAゲノム内の天然に存在する欠失(欠失III)の左側および右側に隣接する配列を含む。外来DNA配列は、天然に存在する欠失に隣接する配列間に挿入する。DNA配列または遺伝子を発現させるには、遺伝子の転写に必要な調節配列がDNA上に存在する必要がある。そのような調節配列(プロモーターと称される)は当業者に周知であり、例えばEP-A-198,328に記載されているワクシニア11 kDa遺伝子のもの、および7.5 kDa遺伝子のもの(EP-A-110,385)が含まれる。DNA構築物は、例えばリン酸カルシウム沈殿(Graham et al. 1973 Virol 52:456-467;Wigler et al. 1979 Cell 16:777-785)により、エレクトロポレーション(Neumann et al. 1982 EMBO J 1:841-845)により、マイクロインジェクション(Graessmann et al. 1983 Meth Enzymol 101:482-492)により、リポソーム(Straubinger et al. 1983 Meth Enzymol 101:512-527)により、スフェロプラスト(Schaffner 1980 PNAS USA 77:2163-2167)により、または当業者に周知の他の方法によりトランスフェクションすることによって、MVA感染細胞中に導入することができる。
【0017】
HIVおよびその複製
後天性免疫不全症候群(エイズ)の病原因子は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)と称される、レンチウイルス属に典型的な特徴を示すレトロウイルスであると認識されている。ヒトレンチウイルスの系統発生関係を図1に示す。HIV-2は、HIV-1よりも、野生のスーティーマンガベイザルから単離されたウイルスであるSIVsmmとより近縁関係にある。現在では、HIV-2は、SIVsmmのヒトへの人畜共通感染を表すと考えられている。SIVcpzと命名された捕獲チンパンジーに由来する一連のレンチウイルス分離株は、HIV-1と近い遺伝的関係にある。
【0018】
HIV-1分離株の最初の系統発生解析は、欧州/北米およびアフリカからの試料に焦点を当て;世界のこれらの2つの地域から、ウイルスの別個のクラスターが同定された。続いてHIV-1の異なる遺伝的亜型またはクレードが定義され、3群:M(主要);O(外れ);およびN(非MまたはO)に分類された(図2)。全世界のウイルス分離株の95%を超える割合を含むHIV-1のM群は、全ウイルスゲノムの配列に基づいて、少なくとも8つの別個のクレード(A、B、C、D、F、G、H、およびJ)からなる。HIV-1 O群のメンバーは、カメルーン、ガボン、および赤道ギニアに居住する個体から回収され;それらのゲノムは、M群ウイルスと50%未満のヌクレオチド配列同一性を共有する。より最近発見されたN群 HIV-1株は感染カメルーン人で同定されたもので、これは標準的な全ウイルス酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)では血清学的に反応し得ないが、慣用的なウェスタンブロット解析により容易に検出可能である。
【0019】
多様な地理的起源のM群ウイルスを研究することにより、HIV-1の遺伝的変異に関する最新の知識がもたらされる。この10年間に収集されたデータから、感染個体内に存在するHIV-1集団はヌクレオチド配列が6%〜10%異なり得ることが示される。クレード内のHIV-1分離株は、gagコード配列で15%およびgp120コード配列で最大30%のヌクレオチド距離を示し得る。クレード間の遺伝的変異は、解析する遺伝子に応じて30%〜40%の範囲であり得る。
【0020】
HIV-1 M群亜型はすべてアフリカで見出すことができる。クレードAウイルスは遺伝的に最も多岐にわたり、流行初期にアフリカで最も多く見られるHIV-1亜型であった。1990年代の中期から後期にかけてHIV-1が南アフリカに急速に蔓延するにつれ、クレードCウイルスが優性亜型となり、今では世界中のHIV-1感染の48%を占めている。最も集中的に研究されたHIV-1亜型であるクレードBウイルスは、欧州および北米において依然として最も蔓延している分離株である。
【0021】
遺伝子組換えが高率であることはレトロウイルスの特徴である。遺伝的に多様なウイルス株による同時感染は、HIV-1の危険性がある個体において確立される可能性は低いと最初は考えられていた。しかしながら、1995年までに、HIV-1 M群の世界的な多様性のかなりの割合が、クレード間のウイルス組換え体を包むことが明らかとなってきた。現在では、HIV-1組変え体が、アフリカ、南米、および東南アジアなどの地理的地域で見出され、ここでは複数のHIV-1亜型が共存し、循環しているHIV-1株の10%を超える割合を占め得ることが認められている。分子的に、これらの組換えウイルスのゲノムは、隣接した多様なHIV-1亜型セグメントを伴うパッチワークモザイクのようであり、それらの生成に寄与する複数の交差事象を反映している。ほとんどのHIV-1組換え体はアフリカで生じ、大部分は本来クレードAウイルスに由来するセグメントを含む。タイでは、例えば、優勢循環株の組成は、クレードA gag+pol遺伝子セグメントおよびクレードE env遺伝子からなる。タイHIV-1株中のクレードE env遺伝子は、中央アフリカ共和国に由来するウイルス分離株中に存在するクレードE envと密接に関係しているため、元の組換え事象はアフリカで起こり、その後子孫ウイルスがタイに導入されたと考えられる。興味深いことに、全長HIV-1亜型E分離株(すなわち、亜型E gag、pol、およびenv遺伝子を有する)は今日まで報告されていない。
【0022】
αおよびβケモカイン受容体がウイルス融合および感受性CD4+細胞への侵入のためのコレセプターとして機能するという知見は、HIV-1に関する分類スキームの改訂をもたらした(図3)。今日では、分離株は、HIV-1 gp120およびCD4+コレセプタータンパク質を別個の細胞で発現させる融合アッセイ法におけるケモカイン受容体の利用に基づいて分類される。図3に示すように、CXCR4受容体を使用するHIV分離株(ここではX4ウイルスと称する)は通常、T細胞系(TCL)向性合胞体誘導(SI)株であるのに対して、もっぱらCCR5受容体を利用するHIV分離株(R5ウイルス)は、主にマクロファージ(M)向性であり、かつ非合胞体誘導性(NSI)である。親分離株の大部分を含み、一連の向性表現型を示し得る二重向性R5/X4株は、多くの場合SIである。
【0023】
複製可能なすべてのレトロウイルスの場合と同様に、いずれもが構造タンパク質をコードする3つの一次HIV-1翻訳産物がポリタンパク質前駆体として最初に合成され、続いてウイルスまたは細胞プロテアーゼにより成熟粒子関連タンパク質へとプロセシングされる(図4)。55-kd Gag前駆体Pr55Gagは、マトリックス(MA)、キャプシド(CA)、ヌクレオキャプシド(NC)、およびp6タンパク質に切断される。160-kd Gag-Polポリタンパク質、Pr160Gag-Polの自己触媒により、プロテアーゼ(PR)、ヘテロ二量体逆転写酵素(RT)、およびインテグラーゼ(IN)タンパク質が生じ、細胞酵素によるタンパク質分解消化により、グリコシル化160-kd Env前駆体gp160がgp120表面(SU)切断産物およびgp41膜貫通(TM)切断産物に変換される。残りの6つのHIV-1コードタンパク質(Vif、Vpr、Tat、Rev、Vpu、およびNef)は、スプライシングされたmRNAの一次翻訳産物である。
【0024】
Gag
HIVのGagタンパク質は、他のレトロウイルスと同様に、非感染性ウイルス様粒子の形成に必要かつ十分である。レトロウイルスGagタンパク質は一般的にポリタンパク質前駆体として合成され;HIV-1 Gag前駆体は、その見かけの分子量に基づいてPr55Gagと命名されている。上述したように、Pr55GagのmRNAは、細胞質中でのその発現にRevを必要とするスプライシングされていない9.2-kb転写産物である(図4)。pol ORFが存在する場合、ウイルスプロテアーゼ(PR)が、細胞からの出芽中またはその直後にPr55Gagを切断して、成熟Gagタンパク質p17(MA)、p24(CA)、p7(NC)、およびp6が生成される(図4を参照されたい)。ビリオン中、MAはウイルスエンベロープの脂質二重層のすぐ内側に局在し、CAは粒子の中心にある円錐形コア構造の外側部分を形成し、NCはウイルスRNAゲノムとのリボヌクレオタンパク質複合体内のコア中に存在する(図5)。
【0025】
HIV Pr55Gag前駆体はその翻訳後にオリゴマー形成し、原形質膜に標的化され、そこでEMで見るのに十分な大きさおよび密度の粒子が構築される。Pr55Gagによるウイルス様粒子の形成は自己集合過程であり、Gag前駆体に沿った複数のドメイン間で重要なGag-Gag相互作用が起こる。ウイルス様粒子の構築は、ゲノムRNA(核酸の存在は必須のようであるが)、polコード酵素、またはEnv糖タンパク質の関与を必要としないが、感染性ビリオンの産生は、ウイルスRNAゲノムのキャプシド形成、ならびにEnv糖タンパク質およびGag-Polポリタンパク質前駆体Pr160Gag-Polの取り込みを必要とする。
【0026】
Pol
gagの下流には、HIVゲノムの最も高度に保存された領域である、3つの酵素:PR、RT、およびINをコードするpol遺伝子が位置する(図4を参照されたい)。RTおよびINは、それぞれウイルスRNAゲノムの二本鎖DNAコピーへの逆転写のため、およびウイルスDNAの宿主細胞染色体への組込みのために必要とされる。PRは、成熟感染性ビリオンの産生を媒介することにより、生活環の後期に重要な役割を果たす。pol遺伝子産物は、Pr160Gag-Polと称される160-kd Gag-Pol融合タンパク質の酵素切断により導出される。この融合タンパク質は、Pr55Gagの翻訳過程におけるリボソームフレームシフトにより産生される(図4を参照されたい)。他の多くのレトロウイルスによっても利用されるGag-Pol発現のためのフレームシフト機構は、pol由来タンパク質が、Gagの約5%〜10%という低レベルで発現されることを確実にする。Pr55Gagと同様に、Pr160Gag-PolのN末端はミリスチル化され、原形質膜に標的化される。
【0027】
プロテアーゼ
トリレトロウイルスを用いて行われた初期のパルスチェイス研究から、レトロウイルスのGagタンパク質がポリタンパク質前駆体として最初に合成され、これが切断されてより小さな産物が生じることが示された。続く研究により、プロセシング機能は細胞酵素ではなくウイルス酵素により提供されること、ならびにGagおよびGag-Pol前駆体のタンパク質分解消化がウイルス感染力に必須であることが実証された。レトロウイルスPRの配列解析により、このPRが、ペプシンおよびレニンのような細胞の「アスパラギン酸」プロテアーゼに関連することが示された。これらの細胞酵素と同様に、レトロウイルスPRは、活性部位にある2つの並んだAsp残基を使用して、標的タンパク質中のペプチド結合の加水分解を触媒する水分子を配位する。偽二量体として機能する(活性部位を生じるために同一分子内の2つの折りたたみを使用する)細胞のアスパラギン酸プロテアーゼと異なり、レトロウイルスPRは真の二量体として機能する。HIV-1 PRからのx線結晶学的データより、2つの単量体が、各単量体のN末端およびC末端に由来する4本鎖逆平行βシートにより部分的にまとまっていることが示される。基質結合部位は、2つの単量体間に形成される間隙内に位置する。その細胞相同体と同様に、HIV PR二量体は、結合部位に突出した可動性「フラップ」を含み、間隙内の基質を安定化し得り;活性部位Asp残基は二量体の中心に位置する。興味深いことに、いくつかの限定されたアミノ酸相同性が活性部位残基の周囲に認められるものの、レトロウイルスPRの一次配列は高度に多岐にわたり、それにもかかわらずそれらの構造は著しく類似している。
【0028】
逆転写酵素
定義によると、レトロウイルスは、感染過程の初期にその一本鎖RNAゲノムを二本鎖DNAに変換する能力を有する。この反応を触媒する酵素はRTであり、その関連するRNアーゼH活性を伴う。レトロウイルスのRTは、3つの酵素活性を有する:(a) RNA依存性DNA重合(マイナス鎖DNA合成のため)、(b) RNアーゼH活性(DNA-RNAハイブリッド中間体に存在するtRNAプライマーおよびゲノムRNAの分解のため)、および(c) DNA依存性DNA重合(第二鎖またはプラス鎖DNA合成のため)。
【0029】
成熟HIV-1 RTホロ酵素は、66 kdおよび51 kdサブユニットのヘテロ二量体である。51-kdサブユニット(p51)は、p66のC末端15-kd RNアーゼHドメインのPRによるタンパク質分解除去により、66-kd(p66)サブユニットから導出される(図4を参照されたい)。HIV-1 RTの結晶構造から、p66およびp51サブユニットの配向性が実質的に異なる、高度に非対称である折りたたみが明らかにされる。p66サブユニットは、手掌内のポリメラーゼ活性部位、ならびに手掌、手指、および親指サブドメインによって形成される深い鋳型結合間隙を有する右手として可視化され得る。ポリメラーゼドメインは、結合サブドメインによりRNアーゼHに連結されている。手掌内に位置する活性部位は、極めて近接した3つの重要なAsp残基(110、185、および186)、および2つの配位Mg2+イオンを含む。これらのAsp残基の突然変異は、RT重合活性を消失させる。3つの活性部位Asp残基の配向性は、他のDNAポリメラーゼ(例えば、大腸菌(E. coli) DNA polIのクレノウ断片)で観察されるものと類似している。p51サブユニットは強固なようであり、重合間隙を形成せず;このサブユニットのAsp 110、185、および186は分子内に埋もれている。約18塩基対のプライマー-鋳型二重鎖は核酸結合間隙中に位置し、ポリメラーゼ活性部位からRNアーゼHドメインまで伸長している。
【0030】
RT-プライマー-鋳型-dNTP構造では、プライマーの3'末端に位置するジデオキシヌクレオチドの存在により、新たなdNTPに攻撃する直前に捕捉された触媒複合体の可視化が可能になる。以前に得られた構造との比較から、プライマーの3'-OHが新たなdNTPに対して求核攻撃する前に、手指が鋳型およびdNTPを捕捉するために包囲するモデルが示唆される。新たなdNTPが伸長中の鎖に付加された後、手指はより開いた立体配置をとり、それによりピロリン酸が放出され、RTが次のdNTPを結合し得ることが提唱されている。HIV-1 RNアーゼHの構造もまたx線結晶学により決定されており;このドメインは、大腸菌RNアーゼHと類似した全体的な折りたたみを示す。
【0031】
インテグラーゼ
レトロウイルス複製の際立った特徴は、逆転写後のウイルスゲノムのDNAコピーの宿主細胞染色体への挿入である。組み込まれたウイルスDNA(プロウイルス)はウイルスRNAの合成のための鋳型として働き、感染細胞が存続する間、宿主細胞ゲノムの一部として維持される。組み込む能力が欠損したレトロウイルス変異体は一般に、増殖感染を確立することができない。
【0032】
ウイルスDNAの組込みは、HIV-1 Gag-Polポリタンパク質のC末端部分のPR媒介性切断により生成される32-kdタンパク質であるインテグラーゼにより触媒される(図4を参照されたい)。
【0033】
レトロウイルスINタンパク質は3つの構造的かつ機能的に異なるドメイン:N末端ジンクフィンガー含有ドメイン、コアドメイン、および比較的非保存的なC末端ドメインから構成される。その溶解性が低いため、全288アミノ酸HIV-1 INタンパク質の結晶化はいまだ達成されていない。しかしながら、3つのドメインすべての構造は、x線結晶学またはNMR法により個別に解明されている。トリ肉腫ウイルスINのコアドメインの結晶構造もまた決定されている。NMR分光法により構造が解明されたN末端ドメイン(残基1〜55)は、アミノ酸His-12、His-16、Cys-40、およびCys-43により配位された亜鉛を伴う4つのへリックスから構成される。N末端ドメインの構造は、いわゆるヘリックス・ターン・へリックスモチーフを含むヘリックスDNA結合タンパク質を連想させるが;HIV-1構造では、このモチーフは二量体形成に寄与する。当初は、溶解性が乏しいために、コアドメインの構造を解明するための試みは阻まれた。しかし、IN残基185におけるPheからLysへの変化により、インビトロ触媒活性に支障を来すことなく溶解性が著しく増大することが認められると、結晶学の試みが成功した。HIV-1 INコアドメイン(IN残基50〜212)の各単量体は、へリックスが隣接した5本鎖βシートから構成され;この構造は、RNアーゼHおよびバクテリオファージMuAトランスポザーゼを含む他のポリヌクレオチジルトランスフェラーゼとの顕著な類似点を有する。3つの高度に保存された残基が、他のポリヌクレオチジルトランスフェラーゼの類似した位置に見られ;HIV-INでは、これらはAsp-64、Asp-116、およびGlu-152であり、いわゆるD,D-35-Eモチーフである。これらの位置における変異は、インビボおよびインビトロの両方でHIV IN機能を妨げる。トリ肉腫ウイルスおよびHIV-1のコアドメインの結晶構造中でこれらの3つのアミノ酸が非常に近接していることから、これらの残基が、組込み過程の中核であるポリヌクレオチジル転移反応の触媒において中心的な役割を果たすという仮説が支持される。NMR分光法により構造が解明されたC末端ドメインは、Src相同性3(SH3)ドメインを連想させる5本鎖β-バレル折りたたみ形態をとる。最近になって、コアドメインおよびC末端ドメインの両方を含むSIVおよびラウス肉腫ウイルス(Rous sarcoma virus)のINタンパク質断片のx線構造が解明された。
【0034】
Env
HIV Env糖タンパク質は、ウイルスの生活環において主要な役割を果たす。HIV Env糖タンパク質は、CD4受容体およびコレセプターと相互作用する決定基を含み、またウイルスエンベロープの脂質二重層と宿主細胞原形質膜との間の融合反応を触媒する。さらに、HIV Env糖タンパク質は、診断的観点およびワクチン開発観点の両方から重要である、免疫応答を誘発するエピトープを含む。
【0035】
HIV Env糖タンパク質は、個々にスプライシングされる4.3-kb Vpu/Envバイシストロン性mRNAから合成され(図4を参照されたい);粗面小胞体(ER)に結合したリボソーム上で翻訳が行われる。160-kd ポリタンパク質前駆体(gp160)は、成熟TM Env糖タンパク質、gp41となる予定のドメイン中の疎水性輸送停止シグナルにより細胞膜に固定される内在性膜タンパク質である(図6)。gp160は翻訳時にグリコシル化され、ジスルフィド結合を形成し、ERにおいてオリゴマー形成する。主なオリゴマー形態は三量体であるようであるが、二量体および四量体も認められる。gp160はゴルジに輸送され、そこで他のレトロウイルスエンベロープ前駆体タンパク質と同様に、細胞酵素によって、成熟SU糖タンパク質gp120およびTM糖タンパク質gp41へとタンパク質分解で切断される(図6を参照されたい)。高度に保存されているLys/Arg-X-Lys/Arg-Argモチーフ後のレトロウイルスEnv前駆体の切断に関与する細胞酵素は、フューリンまたはフューリン様プロテアーゼであるが、他の酵素もまたgp160プロセシングを触媒し得る。gp160の切断は、Env誘導性融合活性およびウイルス感染力に必要である。gp160の切断に続いて、gp120およびgp41は、Env複合体をゴルジから細胞表面へ輸送するのに重要な非共有結合を形成する。gp120-gp41相互作用はかなり弱く、相当量のgp120がEnv発現細胞の表面から脱落する。
【0036】
HIV Env糖タンパク質複合体、特にSU(gp120)ドメインは非常に高度にグリコシル化され;gp160のおよそ半分の分子量はオリゴ糖側鎖から構成される。EnvがERにおけるその合成部位から原形質膜に輸送される間に、側鎖の多くは複合糖類の付加により修飾される。多くのオリゴ糖側鎖は、宿主免疫認識からgp120の多くを覆い隠す、糖の雲(sugar cloud)と想像され得るものを形成する。図6に示すように、gp120は、散在した保存ドメイン(C1〜C5)および可変ドメイン(V1〜V5)を含む。種々の分離株のgp120中に存在するCys残基は高度に保存されており、大きなループ中の最初の4つの可変領域を連結するジスルフィド結合を形成している。
【0037】
ウイルスEnv糖タンパク質の主な機能は、ウイルスエンベロープの脂質二重層と宿主細胞膜との間の膜融合反応を促進することである。この膜融合事象によって、ウイルスコアが宿主細胞の細胞質中に侵入することが可能となる。gp120およびgp41における多くの領域が、Env媒介性膜融合に直接または間接的に関与している。オルトミクソウイルス(orthomyxovirus)のHA2赤血球凝集素タンパク質およびパラミクソウイルス(paramyxovirus)のFタンパク質の研究から、融合ペプチドと称される、これらのタンパク質のN末端に位置する高疎水性ドメインが、膜融合において重要な役割を果たすことが示された。突然変異解析により、類似のドメインがHIV-1、HIV-2、およびSIV TM糖タンパク質のN末端に位置することが実証された(図6を参照されたい)。gp41のこの領域内を非疎水性に置換すると、合胞体形成が大幅に減少するかまたは阻止され、結果として非感染性子孫ビリオンが産生された。
【0038】
gp41融合ペプチドのC末端は、膜融合において中心的な役割を果たす2つの両親媒性へリックスドメインである(図6を参照されたい)。Leuジッパー様7アミノ酸繰り返しモチーフを含むN末端へリックス(N-ヘリックスと称される)における変異は、感染力および膜融合活性を損ない、これらの配列に由来するペプチドは培養において強力な抗ウイルス活性を示す。HIV-1およびSIV gp41の外部ドメイン、特に2つのへリックスモチーフの構造は、近年の構造解析の焦点である。へリックスドメインを含む融合タンパク質、NへリックスおよびCへリックスに由来するペプチドの混合物、またはSIV構造の場合には、残基27〜149の無傷のgp41外部ドメイン配列に関する構造が、x線結晶学またはNMR分光法により決定された。これらの研究から、2つのへリックスドメインが逆平行様式でパッキングして6へリックス束が生成されるという、基本的に類似した三量体構造が得られた。Nへリックスは束の中心でコイルドコイルを形成し、Cへリックスはパッキングして外側で疎水溝を形成する。
【0039】
膜融合をもたらす過程では、CD4結合が、コレセプター結合を促進するEnvの高次構造変化を誘導する。三元gp120/CD4/コレセプター複合体の形成後、gp41は、融合ペプチドの標的脂質二重層への挿入を可能にする仮説上の高次構造をとる。gp41の6へリックス束(gp41のNへリックスとCへリックスとの間の逆平行相互作用を含む)の形成は、ウイルス膜および細胞膜を結びつけ、そして膜融合が行われる。
【0040】
CD+8細胞免疫応答を高めるための組換えMVAウイルスの使用
本発明は、抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答の生成、および抗体応答の誘発に関する。より詳細には、本発明は、初回刺激組成物の投与により誘導される免疫応答を、追加免疫組成物の投与によって高める「プライムおよびブースト」免疫投与計画に関する。本発明は、組換え改変ワクシニアアンカラ(MVA)自体を含む種々の異なる種類の初回刺激組成物のいずれかによる初回刺激後に、MVAベクターを用いて効率的な追加免疫が達成され得るという本発明者らの実験的証明に基づく。
【0041】
多くの病原体に対する免疫応答の主な防御成分は、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)としても知られるCD8+型のTリンパ球によって媒介される。CD8+細胞の重要な機能はγインターフェロン(IFNγ)の分泌であり、これによりCD8+ T細胞免疫応答の尺度が提供される。免疫応答の第2の成分は、病原体のタンパク質に対して産生される抗体である。
【0042】
本発明は、以下に記載する実験によって示されるように、種々の異なる初回刺激組成物のいずれかを用いて抗原に対して初回刺激されたCD8+ T細胞免疫応答に対するブーストを提供し、およびまた抗体応答を誘発するための効果的な手段であることが判明したMVAを使用する。
【0043】
顕著なことには、以下に記載する実験研究から、本発明の態様を使用することで、HIV抗原を発現する組換えMVAウイルスがDNAワクチンによって初回刺激されたCD8+ T細胞免疫応答を高め得り、およびまた抗体応答を誘発し得ることが実証される。MVAは、筋肉内免疫化後にCD8+ T細胞応答を誘導することが見出された。
【0044】
以前の研究(Amara et al 2001 Science 292:69-74)に基づき、プラスミドDNAで免疫し、MVAで追加免疫した非ヒト霊長類が、生ウイルスによる粘膜内攻撃を効果的に防御することが予測される。有利には、本発明者らは、例えばヒトなどにおいてCD8+ T細胞を誘導し、およびまた抗体応答を誘発するのに適した一般的な免疫化投与計画を構成する、プライムおよびブーストに皮内、筋肉内、または粘膜内免疫化を使用するワクチン接種投与計画が用いられ得ることを意図する。
【0045】
本発明は、様々な局面および態様において、HIV抗原をコードする核酸の事前の投与により初回刺激された、抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答を高め、およびまた抗体応答を誘発するために、HIV抗原をコードするMVAベクターを使用する。
【0046】
本発明の一般的な局面は、HIV抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答を高め、およびまた抗体応答を誘発するためのMVAベクターの使用を提供する。
【0047】
本発明の1つの局面は、個体におけるHIV抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答を高め、およびまた抗体応答を誘発する方法であって、核酸からの発現により個体において抗原を産生させるための調節配列に機能的に連結された抗原をコードする核酸を含むMVAベクターを個体に提供することを含み、それにより個体における事前に初回刺激された抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答が高められる方法を提供する。
【0048】
HIV抗原に対する免疫応答は、プラスミドDNAを用いた免疫化により、または感染因子を用いた感染により初回刺激され得る。
【0049】
本発明のさらなる局面は、個体におけるHIV抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答を誘導し、およびまた抗体応答を誘発する方法であって、抗原をコードする核酸を含む初回刺激組成物を個体に投与し、次いで核酸からの発現により個体において抗原を産生させるための調節配列に機能的に連結された抗原をコードする核酸を含むMVAベクターを含む追加免疫組成物を投与する段階を含む方法を提供する。
【0050】
さらなる局面は、HIV抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答を高め、およびまた抗体応答を誘発するために哺乳動物に投与する医薬品の製造における、開示のMVAベクターの使用を提供する。そのような医薬品は一般的に、抗原をコードする核酸を含む初回刺激組成物の事前の投与後に投与するためのものである。
【0051】
初回刺激組成物は、ワクシニアウイルスベクター、例えば改変ワクシニアアンカラ(MVA)もしくはNYVAC(Tartaglia et al. 1992 Virology 118:217-232)などの複製欠損株、鶏痘またはカナリア痘などのアビポックス(avipox)ベクター、例えばALVACとして知られる株(Paoletti et al. 1994 Dev Biol Stand 82:65-69)、あるいはアデノウイルスベクターまたは水疱性口内炎ウイルス(vesicular stomatitis virus)ベクターまたはアルファウイルス(alphavirus)ベクターといった任意のウイルスベクターを含み得る。
【0052】
初回刺激組成物は抗原をコードするDNAを含み得り、そのようなDNAは好ましくは、哺乳動物細胞において複製することができない環状プラスミドの形態にある。任意の選択マーカーは、臨床的に使用される抗生物質に対して耐性であるべきではなく、したがって例えばカナマイシン耐性はアンピシリン耐性よりも好ましい。抗原発現は、哺乳動物細胞において活性のあるプロモーター、例えばサイトメガロウイルス(cytomegalovirus)前初期(CMV IE)プロモーターにより駆動されるべきである。
【0053】
本発明の様々な局面の特定の態様では、初回刺激組成物の投与後に、追加免疫組成物または第1および第2追加免疫組成物により追加免疫を行い、第1および第2追加免疫組成物は同じであるかまたは互いに異なる。本発明から逸脱することなく、さらなる追加免疫組成物が使用され得る。1つの態様において、三重免疫化投与計画は、DNA、次に第1追加免疫組成物としてのアデノウイルス、次に第2追加免疫組成物としてのMVAを使用し、任意にさらなる(第3)追加免疫組成物、または同じかもしくは異なるベクターの一方もしくは他方もしくは両方のその後の追加免疫投与を伴う。別の選択肢は、DNA、次にMVA、次にアデノウイルスであり、任意に同じかまたは異なるベクターの一方または他方または両方のその後の追加免疫投与を伴う。
【0054】
初回刺激組成物および追加免疫組成物(多くの追加免疫組成物を用いようとも)それぞれにおいてコードされるべき抗原は同一である必要はないが、少なくとも1つのCD8+ T細胞エピトープを共有すべきである。抗原は、完全な抗原またはその断片に相当し得る。抗原における不必要なタンパク質配列をより効率的に除外し、1つまたは複数のベクター中で配列をコードする、ペプチドエピトープまたは人工的な一連のエピトープを使用することができる。1つまたは複数のさらなるエピトープ、例えばTヘルパー細胞により認識されるエピトープ、特に異なるHLA型の個体で認識されるエピトープを含めてもよい。初回刺激および追加免疫は、皮内、筋肉内、または粘膜的に施され得る。
【0055】
組換えMVAウイルスによりコードされるべき本発明のHIV抗原には、少なくとも1つのCD8+ T細胞エピトープとしての、HIV Env、Gag、Pol、Vif、Vpr、Tat、Rev、Vpu、またはNefアミノ酸配列のアミノ酸配列により誘発される免疫原性活性を有するポリペプチドが含まれる。このアミノ酸配列は、既知HIV EnvまたはPolの少なくとも1つの10〜900アミノ酸断片および/もしくはコンセンサス配列;または既知HIV Gagの少なくとも1つの10〜450アミノ酸配列断片および/もしくはコンセンサス配列;または既知HIV Vif、Vpr、Tat、Rev、Vpu、もしくはNefの少なくとも1つの10〜100アミノ酸断片および/もしくはコンセンサス配列に実質的に相当する。
【0056】
本発明で使用するために全長Env前駆体配列が提供されるものの、Envは任意にサブ配列が除去される。例えば、gp120表面およびgp41膜貫通切断産物の領域を欠失させることができる。
【0057】
本発明で使用するために全長Gag前駆体配列が提供されるものの、Gagは任意にサブ配列が除去される。例えば、マトリックスタンパク質(p17)の領域、キャプシドタンパク質(p24)の領域、ヌクレオキャプシドタンパク質(p7)の領域、およびp6(Gagポリタンパク質のC末端ペプチド)の領域を欠失させることができる。
【0058】
本発明で使用するために全長Pol前駆体配列が提供されるものの、Polは任意にサブ配列が除去される。例えば、プロテアーゼタンパク質(p10)の領域、逆転写酵素タンパク質(p66/p51)の領域、およびインテグラーゼタンパク質(p32)の領域を欠失させることができる。
【0059】
そのようなHIV Env、Gag、またはPolは、既知のEnv、Gag、またはPolタンパク質アミノ酸配列と少なくとも50%の全体的同一性、例えば50〜99%同一性、または任意のその中の範囲もしくは値を有し得り、同時にHIVの少なくとも1つの株に対して免疫原性応答を誘発する。
【0060】
パーセント同一性は、例えばウィスコンシン大学遺伝学コンピューターグループ(University of Wisconsin Genetics Computer Group)(UWGCG)から入手可能なGAPコンピュータプログラム(バージョン6.0)を用いて、配列情報を比較することにより決定することができる。GAPプログラムは、SmithおよびWaterman (Adv Appl Math 1981 2:482)により改訂された、NeedlemanおよびWunsch (J Mol Biol 1970 48:443)のアラインメント法を使用する。簡潔に説明すると、GAPプログラムは、整列させた記号(すなわち、ヌクレオチドまたはアミノ酸)のうち同一であるものの数を、2つの配列の短い方の記号の総数で割ったものとして、同一性を定義する。GAPプログラムの好ましい初期設定パラメータには、(1) ユニタリー比較行列(同一性に対する1および非同一性に対する0の値を含む)、およびSchwartzおよびDayhoff (eds., Atlas of Protein Sequence and Structure, National Biomedical Research Foundation, Washington, D.C. 1979, pp. 353-358)により記載されているようなGribskovおよびBurgess (Nucl Acids Res 1986 14:6745)の加重比較行列、(2) 各ギャップに対するペナルティ3.0、および各ギャップ中の各記号に対する付加的なペナルティ0.10、ならびに(3) 末端ギャップに対するペナルティーなしが含まれる。
【0061】
好ましい態様において、本発明のEnvは、少なくとも1つのHIVエンベロープタンパク質の変種形態である。好ましくは、Envは、gp120ならびにgp41の膜貫通ドメインおよび外部ドメインから構成されるが、gp41の細胞質ドメインの一部または全てを欠いている。
【0062】
既知HIV配列は、例えばGENBANKなどの市販のおよび公共施設のHIV配列データベースから、またはMyers et al. eds., Human Retroviruses and AIDS, A Compilation and Analysis of Nucleic Acid and Amino Acid Sequences, Vol. I and II, Theoretical Biology and Biophysics, Los Alamos, N. Mex. (1993)、もしくはhttp://hiv-web.lanl.gov/などの公表された編集物として容易に入手可能である。
【0063】
本発明の組換えMVAウイルスで使用するための核酸によってコードされる、さらなるHIV Env、Gag、またはPolを得るためのHIV Env、Gag、またはPolの置換あるいは挿入は、少なくとも1つのアミノ酸残基(例えば、1〜25アミノ酸)の置換または挿入を含み得る。または、少なくとも1つのアミノ酸(例えば、1〜25アミノ酸)を、HIV Env、Gag、またはPol配列から欠失させることができる。好ましくは、そのような置換、挿入、または欠失は、安全性特性、発現レベル、免疫原性、およびMVAの高複製率との適合性に基づいて同定される。
【0064】
本発明のHIV Env、Gag、またはPolにおけるアミノ酸配列変化は、例えばDNAの突然変異により調製することができる。そのようなHIV Env、Gag、またはPolは、例えば、アミノ酸配列内の異なるアミノ酸残基をコードするヌクレオチドの欠失、挿入、または置換を含む。明らかに、HIV Env、Gag、またはPolをコードする核酸中に作製される変異は、配列をリーディングフレームから逸脱させてはならず、好ましくは二次mRNA構造を生じ得る相補ドメインを創出しない。
【0065】
本発明のHIV Env、Gag、またはPolコード核酸はまた、本明細書中に提示した教示および手引きに基づいて、HIV Env、Gag、もしくはPolをコードするDNAまたはRNA中のヌクレオチドを増幅または部位特異的突然変異誘発し、その後コードDNAを合成または逆転写して、HIV Env、Gag、もしくはPolをコードするDNAまたはRNAを生成することにより調製することができる。
【0066】
本発明のHIV Env、Gag、またはPolを発現する組換えMVAウイルスは、本明細書中に提示した教示および手引きに基づいて、必要以上に実験することなく当業者により日常的に得られ得る置換ヌクレオチドとして、限定された一組のHIV Env、Gag、またはPolコード配列を含む。タンパク質化学および構造の詳細な説明に関しては、Schulz, G.E. et al., 1978 Principles of Protein Structure, Springer-Verlag, New York, N.Y.、およびCreighton, T.E., 1983 Proteins: Structure and Molecular Properties, W. H. Freeman & Co., San Francisco, CAを参照されたい。コドン選択のようなヌクレオチド配列置換の提示に関しては、Ausubel et al. eds. Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Assoc., New York, N.Y. 1994 at §§ A.1.1-A.1.24、およびSambrook, J. et al. 1989 Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. at Appnedices C and Dを参照されたい。
【0067】
したがって、当業者は、本明細書中に提示した教示および手引きを考慮すれば、置換、欠失、または挿入変種を含む別のHIV Env、Gag、またはPolを得るために、HIV env、gag、もしくはpol DNAまたはRNAの他の位置で他のアミノ酸残基を置換する方法を理解されよう。
【0068】
MVAベクター内で、コードされる抗原を発現させるための調節配列は、天然、改変、または合成ポックスウイルスプロモーターを含む。「プロモーター」とは、下流に(すなわち、二本鎖DNAのセンス鎖上における3'方向に)機能的に連結されたDNAの転写が開始され得るヌクレオチド配列を意味する。「機能的に連結される」とは、同一核酸分子の一部として、プロモーターから開始されるべき転写のために適切に位置づけられかつ方向づけられ、結合されることを意味する。プロモーターに機能的に連結されたDNAは、プロモーターの「転写開始調節下」にある。ターミネーター断片、ポリアデニル化配列、マーカー遺伝子、およびその他の配列を含む他の調節配列を、当業者の知識および技量より必要に応じて含めてもよい;例えば、Moss, B. (2001). Poxviridae: the viruses and their replication. In Fields Virology, D.M. Knipe, and P.M. Howley, eds. (Philadelphia, Lippincott Williams & Wilkins), pp. 2849-2883を参照されたい。例えば核酸構築物の調製、突然変異誘発、配列決定、細胞へのDNAの導入、および遺伝子発現における核酸の操作、ならびにタンパク質解析に関する多くの周知の技法および手順は、Current Protocols in Molecular Biology, 1998 Ausubel et al. eds., John Wiley & Sonsに詳述されている。
【0069】
本発明の局面および態様で使用するためのプロモーターは、ポックスウイルス発現系と適合しなくてはならず、これには天然、改変、および合成配列が含まれる
【0070】
初回刺激組成物および追加免疫組成物のいずれかまたは両方は、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)またはそれらのコード核酸のようなアジュバントを含み得る。
【0071】
追加免疫組成物の投与は一般的に、初回刺激組成物の投与の約1〜10ヶ月後、好ましくは約1〜6ヶ月後、好ましくは約1〜4ヵ月後、好ましくは約1〜3ヵ月後である。
【0072】
好ましくは、初回刺激組成物、追加免疫組成物、または初回刺激組成物および追加免疫組成物の両方の投与は、皮内、筋肉内、または粘膜免疫化である。
【0073】
MVAワクチンの投与は、ウイルス懸濁液を注射するための針を用いることで達成され得る。代替法は、低温貯蔵を必要としない個別調製用量の製造を提供する、ウイルス懸濁液(例えばBiojector(商標)無針注射器を使用)またはワクチンを含有する再懸濁凍結乾燥粉末を投与するための無針注射装置の使用である。これは、アフリカの農村部で必要とされるワクチンにとって非常に有益である。
【0074】
MVAは、ヒト免疫化において優れた安全記録を有するウイルスである。組換えウイルスの生成は簡単に達成することができ、それらは大量に再現性よく製造することができる。したがって、組換えMVAウイルスの皮内、筋肉内、または粘膜投与は、CD8+ T細胞応答により制御され得るエイズに対するヒトの予防的または治療的ワクチン接種に非常に適している。
【0075】
個体は、抗原の送達および抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答の生成が有効であるか、または治療上有益な効果を有するようにエイズを有し得る。
【0076】
多くの場合、投与は、感染または症状の発症前にHIVまたはエイズに対する免疫応答を生成するという予防目的を有する。
【0077】
本発明に従って投与するための成分は、薬学的組成物中に製剤化され得る。これらの組成物は、薬学的に許容される賦形剤、担体、緩衝液、安定剤、または当業者に周知であるその他の物質を含み得る。このような物質は無毒性であるべきであり、有効成分の効力を妨げるべきでない。担体またはその他の物質の正確な性質は、投与経路、例えば静脈内、皮膚または皮下、経鼻、筋肉内、腹腔内経路に依存し得る。
【0078】
上述のように、投与は好ましくは皮内、筋肉内、または粘膜である。
【0079】
生理食塩水、デキストロースもしくその他の糖類溶液、またはグリコール、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、もしくはポリエチレングリコールを含めてもよい。
【0080】
静脈内、皮膚、皮下、筋肉内、もしくは粘膜注射、または罹患部位での注射のために、有効成分は、発熱物質を含まず、かつ適切なpH、等張性、および安定性を有する非経口的に許容される水溶液の形態にある。当業者は、例えば塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、乳酸加リンゲル注射液などの等張媒体を用いて、適切な溶液を十分に調製し得る。必要に応じて、防腐剤、安定剤、緩衝液、酸化防止剤、および/またはその他の添加剤を含めてもよい。
【0081】
徐放性製剤を使用してもよい。
【0082】
MVA粒子を産生し、そのような粒子を組成物中に任意に製剤化した後、粒子を個体、特にヒトまたはその他の霊長類に投与し得る。投与は、別の哺乳動物、例えばマウス、ラット、もしくはハムスターなどの齧歯動物、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウマ、ウシ、ロバ、イヌ、またはネコに対しても実施され得る。
【0083】
投与は好ましくは、「予防的有効量」または「治療的有効量」(場合によっては、予防は治療と見なされ得る)で行われ、これは個体に対して有益性を示すのに十分である。投与する実際の量、ならびに投与の速度および時間的経過は、治療されるものの性質および重症度に依存する。治療の処方、例えば投与量の決定などは、一般開業医およびその他の医師の、または獣医学的状況では獣医の責任の範囲内であり、典型的に、治療すべき障害、個々の患者の状態、送達部位、投与方法、および開業医に周知であるその他の要素を考慮する。上記の技法および手順の例は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, 1980, Osol, A. (ed.)に見出すことができる。
【0084】
1つの好ましい投与計画では、DNAを250μg〜2.5 mg/注射の用量で投与し、その後MVAを感染ウイルス粒子106〜109個/注射の用量で投与する。
【0085】
組成物は、単独で、または他の治療と併用して、治療する状態に応じて同時にもしくは経時的に投与し得る。
【0086】
非ヒト動物への送達は治療目的のためである必要はなく、実験的状況において、例えば関心対象の抗原に対する免疫応答、例えばHIVまたはエイズに対する防御の機構の研究において使用するためのものであってよい。
【0087】
本発明のさらなる局面および態様は、説明および非限定の手段として含めた上記の開示および以下の実験的例示を考慮し、添付の図面を参照すれば、当業者に明らかとなるであろう。
【実施例】
【0088】
実施例1
MVA/HIV組換え体を作製するために使用するプラスミドシャトルベクターLAS-1およびLAS-2の構築
1. プラスミドシャトルベクターLAS-1
このプラスミドシャトルベクターは、MVAゲノムの欠失IIIに挿入するものであり、以下の段階で構築した:P11ワクシニアウイルスプロモーターおよび大腸菌グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子を、AscIおよびSacI消化によりpLW-51(Wyatt, L.S. et al. 2004 AIDS Res. Human Retroviruses 20:645-653)から除去した。pLW-44(Bisht, H. et al. 2004 PNAS USA 101:6641-6646)からPCR増幅により得られた、AscIおよびSacI末端を有するP11ワクシニアプロモーターおよび緑色蛍光タンパク質(GFP)を、そのベクター中に連結して、pLW-51GFPを作製した。XhoIおよびNotI消化によりpsynIIプロモーターをpLW-51GFPから除去し、平滑末端化し、再連結してLAS-1を作製した。
【0089】
2. プラスミドシャトルベクターLAS-2
このプラスミドシャトルベクターは、MVAゲノムの欠失IIに挿入するものであり、以下の様式で構築した:開始点にHincII部位および末端にSmaIを有する、mH5プロモーター(Wyatt, L.S. et al. 1996 Vaccine 14:1451-58)の相補鎖を含む2つのオリゴをアニールし、これをpLW-16(Wyatt, L.S. et al. 1999 Vaccine 18:392-397)のSmaI部位に挿入して、pLW-37を作製した。MVAフランク(flank)2の最後の217塩基を、内部オリゴの末端上にKpnI、AscI、およびSacI部位を、ならびに外部オリゴの末端上にKpnI部位を有して複製し、pLW-37のKpnI部位に挿入した。pLW-37aと命名したこのプラスミドをAscIおよびSacIで消化し、これに、AscIおよびSacI末端を有するP11ワクシニアプロモーターおよび緑色蛍光タンパク質(GFP)(上記のように、pLW-44からP11プロモーターおよびGFPをPCR増幅することにより得た)を挿入した。得られたプラスミドpLAS-2と命名した。
【0090】
I. pLW-51
プラスミド伝達ベクターpLW-51は、以下のように構築した。欠失III(del III)に隣接するDNAの926 bpおよび530 bpを含むプラスミドpG01(Sutter and Moss. 1992 PNAS USA 89:10847-10851)に、mH5プロモーター(Wyatt et al. 1996 Vaccine 14:1451-1458)を挿入した。プラスミドGA2/JS2(Genbankアクセッション#AF42688)(Smith et al., 2004 AIDS Res Human Retroviruses 20:654-665)中のHIVクレードB(株BH10)DNAに由来するgag-pol配列を、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)により増幅し、TAクローニングプラスミドpCR2.1(Invitrogen Corp.、カリフォルニア州、カールズバッド)に挿入した。ウイルス様粒子(VLP)形成を増強するために、HIV株BH10 gag-polオープンリーディングフレーム(ORF)の最初の1872ヌクレオチドを、HXB2 gag ORFの相当する部分で置換した。このキメラgag-pol ORFを、改変pG01プラスミドのmH5プロモーター後に挿入した。一過性マーカー安定化組換えウイルス単離手順(Wyatt et al. 2004 AIDS Res. Human Retrovir. 20:645-653)を講じるために、左側MVAフランクの最後の280 bpを複製し、P11ワクシニアウイルスプロモーターおよび大腸菌グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子を2つの直接反復配列の間に挿入した。
【0091】
プラスミドpG01
プラスミド
MVAゲノムのHindIII A断片中の3500-bp欠失の部位に隣接するMVA DNAの配列をPCRにより増幅し、pGEM 4Z(Promega)にクローニングした。左側900-bp DNAフランク用のプライマーは、
および
であった(制限酵素EcoRIおよびKpn Iの部位を下線で示す)。右側600-bp DNAフランク用のプライマーは、
および
であった(制限酵素Pst IおよびHindIIIの部位を下線で示す)。MVA DNAのこれらのフランクの間に、ワクシニアウイルス後期プロモーターP11の制御下の大腸菌lacZ遺伝子、およびワクシニアウイルス初期/後期プロモーターP7.5の制御下の大腸菌gpt遺伝子をクローニングした(Sutter and Moss 1992 PNAS USA 89:10847-10851)。
【0092】
II. pLW44
pLW44は、ワクシニアウイルスP11後期プロモーターによって調節を受ける、強化GFPをコードする遺伝子を含む。
【0093】
III. pLW-16
MVAゲノムの左側に位置する欠失IIへの挿入を可能にするため、以下のようにして、新たなプラスミド伝達ベクター、pLW-17を構築した。欠失IIの左側の52ヌクレオチド前から始まるプライマーを用いてPCRすることによりフランク1を調製し、T-Aクローニングベクターにクローニングし、SphIで消化し、pGEM-4Z(Promega、ウィスコンシン州、マディソン)のSphI部位にクローニングした。欠失IIの右側から、EcoRIおよびKpnI適合末端を含むプライマーを用いてPCRすることによりフランク2を調製し、pGEM-4ZのEcoRIおよびKpnI部位にクローニングした。欠失IIの2つの隣接領域を含むこのプラスミドは、pLW-16と命名した。SmaIおよびPstIで消化してpLW-9から改変H5プロモーターを切り出し、pLW-16のSmaIおよびPstI部位にクローニングし、新たなプラスミド伝達ベクター、pLW-17を得た。P. Collinsより分与されたプラスミドからRSV-A2のFコード配列を切り出し、pLW-17のSmaI部位に平滑末端で連結した(Wyatt, L.S. et al. 1999 Vaccine 18:392-397)。
【0094】
実施例2
クレードA Env、Gag、およびPolを発現するMVA組換え体
MVA 65A/Gの構築および特徴づけ
本実施例は、クレードA/G HIV株928 EnvおよびGag Polを発現する改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)組換えウイルス、MVA 65A/Gの構築について説明する。この組換えウイルスの顕著な特徴を以下に示す:
1) MVA 65A/Gの構築では緑色蛍光タンパク質(GFP)の一過性スクリーニングマーカーが使用されたため、GFPは最終ウイルス産物から排除される。
2) A/G env遺伝子はMVAゲノムのdel IIに挿入され、A/G gag polはdel IIIに挿入される。
3) MVA 65A/Gのenvおよびgag polはいずれも、ワクシニアPmH5プロモーターにより制御される。
4) 組換えMVA 65A/Gを作製するために用いられるMVAウイルスは、MVA 1974/NIHクローン1である。
【0095】
プラスミド伝達ベクター
プラスミド伝達ベクター、pJD5およびpJD6(それぞれ図7および図8)を使用して、相同組換えにより一重組換えMVAを作製した。これらのプラスミドはそれぞれ一過性GFPマーカーを有し、以下のように構築した:
1. 逆転写酵素活性を不活化するための3つの変異を含み(クレードB組換え体に関して付与されるものに相当する)、インテグラーゼが除去されたHIV A/G 928のgag/pol遺伝子配列(pGA2/928/928+3RTに由来する)を、FailSafe PCRキットを用いてpCR2.1にクローニングした。gag/pol遺伝子を、SalI制限エンドヌクレアーゼ部位を介してMVA欠失III伝達ベクターpLAS-1(最終ウイルスにおいてGFPが排除されるように、2つの直接反復配列が隣接する一過性スクリーニングマーカーGFPを含む)にクローニングし、遺伝子発現を初期/後期改変H5プロモーターの制御下においた。HIV A/G 928 gag/pol遺伝子の配列をDNA配列決定により確認し、この構築物をpJD5 gag polと命名した(図7)。
2. HIV A/G 928のenv遺伝子配列(Harriet RobinsonによるpGA1/928/928から除去した)を、gp41の細胞質尾部中の114アミノ酸をPCR除去することにより切断し、pCR2.1にクローニングした。2つの初期ポックスウイルス終結5TNTシグナルを除去するためのサイレント変異を作製した(QuickChangeキット、Stratagene)。改変切断型env遺伝子をMVA欠失II伝達ベクターpLAS-2(最終ウイルスにおいてGFPが排除されるように、2つの直接反復配列が隣接する一過性スクリーニングマーカーGFPを含む)にクローニングし、遺伝子発現を初期/後期改変H5プロモーターの制御下においた。HIV A/G 928 env遺伝子の配列をDNA配列決定により確認し、この構築物をpJD6と命名した(図8)。
【0096】
一重組換えMVAの構築
1. Anton Mayr(ドイツ、ミュンヘン)より供与された、2/22/74からの継代572代目のMVAに由来し、国立衛生研究所(National Institute of Health)において最終的に3回希釈されたMVA 1974/NIHクローン1ウイルスを、組換えに使用した。
【0097】
2. 6ウェル培養プレート中の、10日齢SPAFAS受精ニワトリ卵(B&E Eggs、ペンシルベニア州、スティーブンスによる)から作製した二次CEFに、MVAをMOI 0.05で感染させ、約1.5μgのJD5またはJD6をトランスフェクトした(図9)。これら2つのウイルス構築物は、以下に記載するように同様に、しかし個別に運搬された。
【0098】
3. 37℃で2日間インキュベートした後、ウイルスを回収し、3回凍結融解し、CEF上にプレーティングした。
【0099】
4. 感染後の3日目に、GFPを発現した(プラスミドと感染ウイルスの間で組換えが起こったことを示す)感染のフォーカスを採取し、CEF上に再度プレーティングした。再び、GFPを発現したフォーカスを採取した。この工程をもう一度繰り返した。
【0100】
5. 3回プラーク精製したこれらのGFP発現フォーカスを、2つ組のCEFプレートにプレーティングし、2枚のプレートをGFP蛍光について、およびT24モノクローナル抗体(エンベロープ発現)またはGagに特異的なmAb 3537(183-H12-5C、NIH AIDS Research and Reference Reagent Program)を用いてGagまたはEnv発現について解析した。それら試料の2つ組複製プレートから、GFP蛍光がほとんどなく、かつ大部分がGagまたはEnv染色された個々のフォーカスを採取した。
【0101】
6. これらのフォーカスを再度2つ組でプレーティングし、同様の方法でさらに1〜2回解析した。その結果得られた導出された組換えウイルスは、Gag Pol(vJD5gag/pol)またはEnv(vJD6env)タンパク質を発現したが、二重反復配列の組換えによりGFP遺伝子は除去されていた。
【0102】
二重組換えMVAの構築
1. 二重MVA組換え体、MVA 65A/Gを作製するため、それぞれGag PolおよびEnvを発現する2つの一重組換えMVAウイルス、vJD5gag polおよびvJD6 envを用いて、CEF細胞を共にMOI 5で感染させ、37℃で2日間培養し、回収した(図9)。
【0103】
2. 回収物の2つ組プレートを異なる希釈で感染させ、集団中に二重組換え体が存在することを確実にするために、一方のプレートを固定し、T24 mAbで染色し、円形化CPE(Gag Pol組換え体の特徴)を有した感染細胞のフォーカスの数を記録した。次いで、円形化形態を有するフォーカスを、未染色の2つ組プレートから採取した。
【0104】
3. これらのフォーカスを様々な希釈で3つ組でプレーティングし、Env発現(T24 mAb)およびGag発現(3537 mAb)に関して免疫染色した。EnvおよびGag発現の両方に関して染色されたフォーカスを、さらに5回プラーク精製した。
【0105】
4. ウイルスをCEF細胞において拡大し、MVA/HIV 65A/GのLVD種保存液 5.5 x108 pfu/mlを作製した。ATCCによるマイコプラズマ試験は陰性であった。BioRelianceによる無菌性試験も陰性であった。DNA配列決定により、envおよびgag pol ORF、ならびにGFPレポーター遺伝子の欠失が確認された。
【0106】
MVA組換えウイルス、MVA 65A/Gの特徴づけ
1. MVA 65A/G感染BS-C-1細胞溶解液の一定分量を、エンベロープおよびGagタンパク質の発現について、それぞれモノクローナル抗体T24および3537を用いて放射性免疫沈降法(RIP)により解析した(図10および図11)。これらのタンパク質のそれぞれに相当する正確な大きさのバンドが検出された。ARA-Cの存在下で細胞を感染させることにより、組換えタンパク質の初期発現が確認された。20%スクロースクッション上で35S標識粒子をペレット化させることにより、組換えウイルスが感染細胞の上清中にgag粒子を産生することが示された。
【0107】
2. MVA 65A/Gの繰り返し継代および得られたウイルスの解析から、MVA 65A/GがLVD種保存液の10継代を通して安定であることが確認された。
【0108】
3. HIV挿入物、およびHIVの両側に隣接するMVAゲノムの1000塩基対領域からなるMVA/HIV 62ゲノムの領域の配列決定から、GFP遺伝子が除去されていること、およびHIV挿入遺伝子の配列が正確であることが確認された。図12および13は、プラスミド中のenvおよびgag pol遺伝子の配列を示す。
【0109】
4. 107 pfuの精製MVA 65A/Gを0週目および4週目にマウスに接種することにより、免疫原性を評価した。抗原としてgp140クレードA envを使用する捕獲ELISAで、ELISA血清抗体をアッセイした。表1から、クレードA envに免疫原性があることが示される。
【0110】
要約
要約すると、本発明者らは、A/G 928改変切断型エンベロープおよび変異gag polを発現する組換えMVAウイルス、MVA 65A/Gを作製した。MVA二重組換えウイルスは、一方がEngを発現し、他方がGag Polを発現する、一重MVA組換え体の相同組換えにより作製した。これらの一重MVA組換え体は、最終ウイルスにおいて除去される一過性発現GFPマーカーを用いて作製した。MVA/HIV 65A/Gは、LVD種保存液の繰り返し継代を通して安定であることが示された。
【0111】
発現および免疫原性を増大させるためのMVA 65A/G構築物に対する改変
抗原としてMVAクレードA gp140 envを使用するELISAで測定されたMVA 65A/G組換えウイルスの免疫原性から、MVA 65A/Gエンベロープは期待するほど免疫原性がないことが示された(表1を参照されたい)。本実施例では、A/Gエンベロープの発現および免疫原性を増大するために行った、MVA 65A/Gプラスミド伝達ベクター、pJD-6に対する改変、および原型MVA 65A/Gウイルスとの比較について記載する。
【0112】
(表1)MVA 65A/Gの免疫原性*
*107 PFUの指定のウイルスで2回免疫したマウス5匹の血清の、個々にアッセイしたELISA力価。血清抗体応答は、クレードA ELISA応答の抗原として分泌クレードA 928 gp140、市販のp24、および精製ワクシニアウイルスを使用して、2日間ELISAによりアッセイした。
【0113】
pJD-6に対する改変
プラスミド伝達ベクター、pJD-6は以下の方法で改変した:
1. クレードA/Gの5'末端にSmaI部位を、およびenv遺伝子の3'末端にNotI部位を組み入れたオリゴを用いて、pJD-6からA/Gエンベロープ遺伝子をPCR増幅した。この挿入物をpLAS-2挿入ベクターのSmaIおよびNotI部位にクローニングして、伝達ベクター、JD-16を作製した(図14)。このプラスミドは、マルチクローニング領域におけるプロモーターの末端とenv遺伝子の開始部位との間の介在配列という1つの観点でのみ、pJD-6(MVA 65 A/G組換えウイルスを作製するために使用した)と異なる(さらなる説明については#2を参照されたい)。
2. pJD-6では、A/G 928 envはNotI制限部位を用いてpLAS-2のマルチクローニング部位にクローニングした。この配置では、プロモーターとエンベロープの開始コドンとの間に介在開始コドンが存在する(SphI制限酵素部位の部分)。pJD-16では、A/G 928 envは、遺伝子の最初に位置するSmaI部位および遺伝子の末端にあるNot Iを用いてpLAS-2のマルチクローニング部位にクローニングし、したがってこの介在開始コドンは除去された。そのため、マルチクローニング領域におけるプロモーターの末端とenv遺伝子の開始部位との間の介在配列のみが、以下に記載するように2つのプラスミドにおける唯一の相違である:
【0114】
二重組換えMVAの構築
JD-16プラスミドを用いて二重組換えMVAウイルスを作製するため、原型MVA 65A/G構築物において上記した、A/Gウイルスのgag polを発現する一重MVA組換えウイルス、vJD5gag polを用いてCEFを感染させ、pJD-16をこの感染培養物にトランスフェクションした。原型MVA/HIV 65A/Gウイルスについて上記したようにウイルス単離を進行し、得られた二重組換えウイルス(クローンD1.3266-15)をMVA/HIV 65A/G(SmaI)と命名した。
【0115】
原型MVA/HIV 65A/Gと改変MVA/HIV 65A/G(SmaI)の特徴づけおよび比較
1. MVA/HIV 65A/GおよびMVA/HIV 65A/G(SmaI)感染BS-C-1細胞の一定分量を、envについてはモノクローナル抗体T24およびT32 mAbを用いて(図15)、ならびにgag発現については3537(183-H12-5C、NIH AIDS Research and Reference Reagent Program)mAbを用いて(図16)、RIPにより解析した。Image Quantプログラムを使用して、各構築物によるT24で免疫沈降されたタンパク質の量を定量した。Env発現は、MVA 65A/Gと比較して改変65A/G(SmaI)で2倍高かった。20%スクロースクッションを通して35S標識粒子をペレット化させることにより、MVA 65A/G (SmaI)が感染細胞の上清中にgag粒子を産生することが示された。
【0116】
2. 107用量のMVA 65A/Gまたは改変MVA 65A/G(SmaI)を3週間あけてIM投与し、2回免疫したマウスで、改変MVA A/G(SmaI)ウイルスの免疫原性を評価した。指定のウイルスを用いたマウス5匹の血清による(個々にアッセイした)平均ELISA力価を決定した。血清抗体応答は、抗原として分泌クレードA 928株gp140を使用して、2日間ELISAによりアッセイした。図17の結果から、改変構築物(MVA 65A/G (SmaI) Envの免疫原性が原型MVA 65A/G構築物よりも約40倍高いことが示される。
【0117】
2つの異なるウイルスはまた、細胞内サイトカイン染色により測定される、Gagタンパク質の細胞性免疫応答を誘導する能力についても試験した。マウス(5匹/群)を、107 pfuの指定のウイルスで2回免疫した。個々のマウスの脾細胞を、2つの異なるgag p24ペプチドパルスP815細胞と共に一晩培養した後に、エクスビボで直接アッセイした。CD8+ IFN-γ+細胞をフローサイトメトリーで計数した。図18に示されるように、構築物はいずれも、gagペプチドに対して同様の細胞内サイトカイン染色(ICS)応答を有した。これは、2つの構築物を作製するために使用したgagウイルスが同一であったためと予測される。
【0118】
3. MVA 65A/G(SmaI)の繰り返し継代および得られたウイルスの発現の解析から、表2に示されるように、改変MVA 65A/G(SmaI)のエンベロープ発現が極めて不安定であることが確認された。
【0119】
(表2)改変MVA A/G構築物の不安定性
【0120】
要約
このように、プロモーターにより近い部位にエンベロープを再クローニングして介在コドン開始部位を除去すると、より大量のenvを発現し、かつ免疫原性がはるかに高いウイルスが作製されたが;このウイルスは極めて不安定であるために、候補ワクチンとして探究し得なかった(表3)。
【0121】
(表3)クレードA/Gの概要
【0122】
実施例3
クレードB Env、Gag、およびPolを発現するMVA組換え体
MVA/HIV 62Bの構築および特徴づけ
本実施例は、クレードB HIV株ADA EnvおよびキメラHXB2/BH10 Gag Polを発現する改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)組換えウイルス、MVA/HIV 62Bの構築について説明する。このウイルスは、以前のMVAクレードB組換え体、MVA/HIV 48(同様に同じHIV株ADA EnvおよびHXB2/BH10 Gag Polを発現する)と4つの点で異なる:
1) MVA/HIV 62Bは、MVA/HIV 48で使用されたGUSスクリーニングマーカーの代わりに、緑色蛍光タンパク質(GFP)の一過性スクリーニングマーカーを使用する。
2) env遺伝子はMVAゲノムのdel IIに挿入され、gag polはdel IIIに挿入される。MVA/HIV 48では、envおよびgag polはいずれもdel IIIに挿入される。
3) MVA/HIV 62Bのenvおよびgag polはいずれもPmH5プロモーターにより制御され、MVA/HIV 48ではこれと同じプロモーターがgag polを制御する。
4) 組換えMVA/HIV 62Bを作製するために用いられるMVAウイルスは、MVA/HIV 48を作製するために用いられたMVA 1983/NIHクローン1に代えて、MVA 1974/NIHクローン1である。
【0123】
プラスミド伝達ベクター
プラスミド伝達ベクター、pLAS-1 HXB2/BH10 Gag PolおよびpLAS-2 ADA Env(それぞれ図19および図20)を使用して、相同組換えにより一重組換えMVAを作製した。これらのプラスミドはそれぞれ一過性GFPマーカーを有し、以下のように構築した:
1. インテグラーゼが除去されるようにクレードB gag polを切断し、mH5プロモーターにより制御されるようにプラスミドにクローニングした。この遺伝子は、gagの完全なHXB2配列を含んでいた。pol遺伝子は、RTの活性部位内のアミノ酸185、鎖転移活性を阻害するアミノ酸266、およびRnアーゼH活性を阻害するアミノ酸478において逆転写酵素安全性変異を有する。さらに、インテグラーゼ遺伝子はEcoRI部位を越えて除去されている。
2. pLW-51GFPからPsyn IIワクシニアプロモーターを除去し、平滑末端化し、再連結してpLAS-1を作製した。MVA/HIV 48に由来するクレードB HXB2/BH10 gag pol配列をpLAS-1にクローニングし、プラスミド伝達ベクター、pLAS-1 HXB2/BH10 Gag Polを作製した(図19)。
3. ADAエンベロープは、サイレント5TNT変異を有する切断型である。エンベロープをgp41遺伝子の細胞質尾部中で切断し、細胞質尾部の115アミノ酸を除去した。この切断により、感染細胞の表面上のエンベロープタンパク質の量が増加し、マウスにおけるエンベロープタンパク質の免疫原性および組織培養における組換えウイルスの安定性が増強されることが、本発明者らによって示された。
4. LAS-2構築において記載したようにMVAフランクの直接反復配列を挿入し、その後P11ワクシニアプロモーターにより制御されるGFPを挿入して、pLAS-2を構築した。MVA/HIV 48に由来する上記のADA改変env配列を付加して、プラスミド伝達ベクターpLAS-2 ADA Envを作製した(図20)。
【0124】
一重組換えMVAの構築
1. Anton Mayr(ドイツ、ミュンヘン)より供与された、2/22/74からの継代572代目のMVAに由来し、国立衛生研究所において最終的に3回希釈されたMVA 1974/NIHクローン1ウイルスを、組換えに使用した。
【0125】
2. 二次CEF細胞にMVAをMOI 0.05で感染させ、2μgのpLAS-1 HXB2/BH10 Gag Polまたは2μgのpLAS-2 ADA Envをトランスフェクトした(図21)。これら2つのウイルス構築物は、以下に記載するように同様に、しかし個別に運搬された。
【0126】
3. 37℃で2日間インキュベートした後、ウイルスを回収し、3回凍結融解し、CEF上にプレーティングした。
【0127】
4. 感染後の3日目に、GFP蛍光を示した(プラスミドと感染ウイルスの間で組換えが起こったことを示す)感染のフォーカスを採取し、CEF上に再度プレーティングした。再び、GFPを発現したフォーカスを採取した。
【0128】
5. 2回プラーク精製したこれらのGFP発現フォーカスを、3つ組のCEFプレートにプレーティングし、2枚のプレートをGFP蛍光およびGagまたはEnv発現について解析した。それら試料の3枚目の複製プレートから、GFP蛍光がほとんどなく、かつ大部分がGagまたはEnv染色された個々のフォーカスを採取した。
【0129】
6. これらのフォーカスを再度3つ組でプレーティングし、同様の方法でさらに2回解析した(Gag Pol構築物については3回)。その結果得られた導出されたウイルスは、Gag Pol(MVA 60)またはEnv(MVA 61)タンパク質を発現したが、二重反復配列の組換えによりGFP遺伝子は除去されていた。
【0130】
二重組換えMVAの構築
1. 二重MVA組換え体、MVA/HIV 62Bを作製するため、それぞれGag PolおよびEnvを発現する2つの一重組換えMVAウイルス、MVA 60およびMVA 61を用いて、CEF細胞を共にMOI 5で感染させ、37℃で2日間培養し、回収した(図21)。
【0131】
2. 回収物の2つ組プレートを異なる希釈で感染させ、集団中に二重組換え体が存在することを確実にするために、一方のプレートを固定し、T8 mAbで染色し、円形化CPE(Gag Pol組換え体の特徴)を有した感染細胞のフォーカスの数を記録した。次いで、円形化形態を有するフォーカスを、未染色の2つ組プレートから採取した。
【0132】
3. これらのフォーカスを様々な希釈で3つ組でプレーティングし、Env発現(T8 mAb)およびGag発現(3537 mAb、183-H12-5C、NIH AIDS Research and Reference Regent Program)に関して免疫染色した。EnvおよびGag発現の両方に関して染色されたフォーカスをさらにプラーク精製した。
【0133】
4. ウイルスをCEF細胞において拡大し、MVA/HIV 62のLVD種保存液を作製した。ATCCによるマイコプラズマ試験は陰性であった。BioRelianceによる無菌性試験も陰性であった。
【0134】
MVA組換えウイルス、MVA/HIV 62Bの特徴づけ
1. MVA/HIV 62B感染BS-C-1細胞溶解液の一定分量を、エンベロープおよびGagタンパク質の発現について、それぞれモノクローナル抗体T8および3537を用いて放射性免疫沈降法(RIP)により解析した(図22)。これらのタンパク質のそれぞれに相当する正確な大きさのバンドが検出された。ARA-Cの存在下で細胞を感染させることにより、組換えタンパク質の初期発現が確認された。20%スクロースクッション上で35S標識粒子をペレット化させることにより、組換えウイルスが感染細胞の上清中にgag粒子を産生することが示された。
【0135】
2. MVA/HIV 62Bの繰り返し継代および得られたウイルスの解析から、MVA 62BがLVD種保存液の10継代を通して比較的安定であることが確認された。
【0136】
3. HIV挿入物、およびHIV挿入物の両側に隣接するMVAゲノムの1000塩基対領域からなるMVA/HIV 62Bゲノムの領域の配列決定から、GFP遺伝子が除去されていること、およびHIV挿入遺伝子の配列が正確であることが確認された。ADA Envの配列を図23に提供する。Gag Polの配列を図24に提供する。
【0137】
4. 107 pfuの精製MVA 62Bを0週目および4週目にマウスに接種することにより、免疫原性を評価した。抗原としてgp140 ADA envを使用する捕獲ELISAで、ELISA血清抗体をアッセイした。表4から、ADA envに免疫原性があることが示される。図25は、MVA 62Bに対するマウスのICS envおよびgag応答を示す。
【0138】
(表4)マウスにおけるMVA 62Bの免疫原性*
*107 PFUの指定のウイルスで2回免疫したマウス5匹の血清の、個々にアッセイしたELISA力価。血清抗体応答は、クレードB ELISA応答の抗原として分泌クレードB ADA gp140、市販のp24、および精製ワクシニアウイルスを使用して、2日間ELISAによりアッセイした。
【0139】
要約
要約すると、本発明者らは、ADA改変切断型エンベロープおよびHXB2/BH10 Gag Polを発現する組換えMVAウイルス、MVA/HIV 62Bを作製した。MVA二重組換えウイルスは、一方がEngを発現し、他方がGag Polを発現する、一重MVA組換え体の相同組換えにより作製した。これらの一重MVA組換え体は、最終ウイルスにおいて除去される一過性発現GFPマーカーを用いて作製した。MVA 62Bウイルスは、粒子を作製し、マウスにおいて免疫原性があることが示された。MVA/HIV 62Bは、LVD種保存液の繰り返し継代を通して安定であることが示された。
【0140】
発現および免疫原性を増大させるためのMVA 62B構築物に対する改変
抗原としてMVAクレードB gp140を使用するELISAで測定された、マウスにおけるMVA 62Bの免疫原性から(表4)、MVA 62Bエンベロープは期待するほど免疫原性がないことが示された。本実施例では、最終的なMVA 62B二重組換えウイルスにおけるADAエンベロープの発現および免疫原性を増大するために行った、MVA 62Bプラスミド伝達ベクター、pLAS-2 ADA Envに対する改変について記載する。
【0141】
プラスミド伝達ベクターの改変
プラスミド伝達ベクター、pLAS-2 ADA Envは以下の方法で改変した:
1. 制限酵素、XmaI(SmaIの平滑末端切断と比較して、切断して重複末端を生じる、SmaIのアイソシゾマーである)で処理することによりADA envをJD-9 ADA Envから切り出し、LAS-2のXmaI部位に挿入して、pLW-66とも称するpLAS ADA Env (SmaI)を作製した(図26)。このプラスミドは、マルチクローニング領域におけるプロモーターの末端とenv遺伝子の開始部位との間の介在配列という1つの顕著な観点でのみ、pLAS-2 ADA Env(MVA 62 B組換えウイルスを作製するために使用した)と異なる。(これはまた、env遺伝子をプラスミドにクローニングする方法が理由で、env遺伝子の末端のクローニング領域においてpLAS-2 ADA Envと異なるが、このことは遺伝子の発現にとって重要ではない。)(さらなる説明については#3を参照されたい)。
2. pLAS-2 ADA Envを制限酵素Sal Iおよび次いでXhoIで消化してSphI部位(開始コドンを含む)を除去し、再連結して、pJD-17を作製した(図27)。このプラスミドは、マルチクローニング領域におけるプロモーターの末端とenv遺伝子の開始部位との間の介在配列という1つの観点でのみ、pLAS-2 ADA Env(MVA 62B組換えウイルスを作製するために使用した)と異なる(さらなる説明については#3を参照されたい)。
3. プラスミドpLAS-2 ADA Envでは、ADAエンベロープはNotI部位にクローニングされ、プロモーターとの間に以下のヌクレオチド配列を生じた。pLW-66では、ADA envはXmaI部位(SmaI)にクローニングされ、ワクシニアmH5プロモーターとADA env開始コドンとの間に以下に示すような配列を生じた。pJD-17では、SphI部位が単に除去された。これらをすべて、以下に示す:
【0142】
二重組換えMVAの構築
pLW-66およびpJD-17プラスミドを用いて二重組換えMVAウイルスを作製するため、上記のクレードBウイルスのgag polを発現する一重MVA組換えウイルス、MVA 60を用いてCEF細胞を感染させ、pLW-66またはpJD-17をこれらの感染CEF培養物にトランスフェクトした。原型MVA/HIV 62Bウイルスについて上記したようにウイルス単離を進行し、それぞれ得られた二重組換えウイルスの2つのクローンを、以下のように命名した:
【0143】
原型MVA/HIV 62Bと4つの改変MVA/HIV 62Bウイルスの特徴づけおよび比較
1. MVA/HIV 62Bおよび4つの改変MVA 62Bウイルス感染BS-C-1細胞の一定分量を、envについてはモノクローナル抗体T8を用いて(図28)、およびgag発現については3537 mAbを用いて(図29)、RIPにより解析した。Image Quantプログラムを使用して、各構築物によるT8で免疫沈降されたタンパク質の量を定量した。Env発現は、MVA 62Bと比較して改変構築物で2.6〜3.3倍高かった。MVA 62B構築物はすべて、20%スクロースクッションを通して35S標識粒子をペレット化させることにより、感染細胞の上清中にgag粒子を産生することが示された。
【0144】
2. 107用量の原型または改変MVA 62Bウイルスを3週間あけてIM投与し、2回免疫したマウスで、改変MVA 62B構築物の免疫原性を評価した。図30に、マウス5匹の血清による(個々にアッセイした)平均ELISA力価を示す。血清抗体応答は、抗原として分泌クレードB ADA gp140を使用して、2日間ELISAによりアッセイした。結果から、改変構築物の免疫原性が、エンベロープ免疫原性のこのアッセイ法において、原型構築物よりも11〜32倍高いことが示される。
【0145】
種々のウイルスはまた、細胞内サイトカイン染色(ICS)により測定される、EnvまたはGagタンパク質に対する細胞性免疫応答を誘導する能力についても試験した。マウス(5匹/群)を、107 pfuの指定のウイルスで2回免疫した。個々のマウスの脾細胞を、envペプチドまたはgag p24ペプチドパルスP815細胞と共に一晩培養した後に、エクスビボで直接アッセイした。CD8+ IFN-γ+細胞をフローサイトメトリーで計数した。
【0146】
図31に示されるように、改変62B構築物はいずれも、原型構築物と比較してICS Env応答の増強をもたらした。いずれも、原型MVA 62Bよりも3〜5倍高かった。
【0147】
図32に示されるように、MVA 62B構築物はいずれも、原型であろうと改変型であろうと、gagペプチドに対して同様のICS応答を有した(2倍以下の変化)。これは、改変MVA 62B構築物を作製するために使用したgagウイルスが同一であったためと予測される。
【0148】
3. 改変MVA/HIV 62Bウイルスの繰り返し継代および得られたウイルスの解析から、MVA 62BがLVD種保存液の10継代を通して比較的安定であることが確認された。
【0149】
要約
このように、プロモーターにより近い部位にエンベロープを再クローニングして介在コドン開始部位を除去することで、より大量のenvを発現し、かつ免疫原性がはるかに高いウイルスが作製された。これらのウイルスは、候補ワクチンとして探究中である(表5)。
【0150】
(表5)原型および改変MVA 62B構築物
【0151】
MVA 56の構築および特徴づけ
本実施例は、HIV株ADA envおよびキメラHXB2/BH10 gag polを発現する改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)組換えウイルス、MVA/HIVクレードBの構築について説明する。このウイルスは、以前のMVA組換え体、MVA/HIV 48(同様にHIV株ADA envおよびHXB2/BH10 gag polを発現する)と3つの点で異なる:
1) MVA/HIV 56は、MVA/HIV 48で使用されたGUSスクリーニングマーカーの代わりに、緑色蛍光タンパク質(GFP)の一過性スクリーニングマーカーを使用する。
2) MVA/HIV 56のADA envは、MVA/HIV 48においてADA envを発現させるために用いられたPsyn IIプロモーターよりも初期のADA env発現を可能にする新たな改変ワクシニアウイルスプロモーター、Pm2H5により制御される。(gag polは、MVA 48においてgag polを制御するのと同じプロモーターである、ワクシニアウイルスmH5プロモーターにより制御される)。
3) 組換えMVA/HIV 56を作製するために用いられるMVAウイルスは、MVA/HIV 48を作製するために用いられたMVA 1983/NIHクローン1に代えて、MVA 1974/NIHクローン1である。
【0152】
これは、原型MVA62Bおよび改変MVA62Bという後の構築物と、envおよびgag遺伝子が、MVA 48と同様に直列した2つのワクシニアウイルスプロモーターにより制御され、MVAゲノムの欠失IIIのみに挿入されるという点で異なる。これにより、この種類の構築物には、MVA 62B構築物の構築計画と比較して一連のプラーク精製しか行う必要がないために、MVA 62B構築物に優る構築利点が付与される。
【0153】
記載のクレードB構築物はすべて、同じ改変ADA envおよび改変HXB2/BH10 gag polを有する。
【0154】
プラスミド伝達ベクター
相同組換えによりMVA/HIV 56を作製するために使用したプラスミド伝達ベクター、pLAS-6は、以下のように構築した:
1. GUSスクリーニングマーカーをプラスミド、pLW-48(WO 002/072759を参照されたい)から除去し、ワクシニアウイルスP11プロモーターにより起動されるGFPスクリーニングマーカーで置換した(pLW-51 GFP)。このGFPスクリーニングマーカーを一過性に使用して、組換えウイルスを2回プラーク精製したが、このマーカーは相同組換えにより最終組換え体において除去された(GFPには2つの直接反復配列が隣接していたため)。
2. XhoIおよびNotI消化によりPsyn IIワクシニアプロモーターをpLW-51GFPから除去し、同じ部位において新たなさらなる改変H5ワクシニアウイルスプロモーター、pm2H5で置換した。この新たなプラスミドをpLAS-5と命名した。
m2H5プロモーターの配列:
3. プラスミドのNotI酵素消化によりADA envをpLW-48から除去し、ワクシニアウイルスm2H5プロモーターにより制御されるpLAS-5のNotI部位にクローニングした。SalI消化によりHXB2/BH10 gag pol遺伝子をpLW-48から除去し、mH5プロモーターの制御下にあるSalI部位に配置し、組換えウイルスMVA/HIV 56を作製するために使用するプラスミド伝達ベクター、pLAS-6を作製した(図33)。組換えHIV遺伝子は、トランスフェクションにより発現することが示された。
【0155】
組換えMVA/HIV 56の構築
1. Anton Mayr(ドイツ、ミュンヘン)より供与された、2/22/74からの継代572代目のMVAに由来し、国立衛生研究所において最終的に3回希釈されたMVA 1974/NIHクローン1ウイルスを、組換えに使用した。
【0156】
2. 二次CEF細胞にMVAをMOI 0.05で感染させ、2μgの上記プラスミド、pLAS-6をトランスフェクトした。37℃で2日間インキュベートした後、ウイルスを回収し、3回凍結融解し、CEF上にプレーティングした。
【0157】
3. 3日目に、GFPを発現した(プラスミドと感染ウイルスの間で組換えが起こったことを示す)感染のフォーカスを採取し、CEF上に再度プレーティングした。再び、GFPを発現したフォーカスを採取した。
【0158】
4. 2回プラーク精製したこれらのGFP発現フォーカスを、3つ組のCEFプレートにプレーティングし、2枚のプレートをGFP蛍光およびgag pol発現について解析した。それら試料の3枚目の複製プレートから、GFP染色がほとんどなく、かつ大部分がgag染色された個々のフォーカスを採取した。
【0159】
5. これらのフォーカスを再度3つ組でプレーティングし、同様の方法でさらに2回解析した。その結果得られた導出されたウイルスは、gagタンパク質を発現したが、二重反復配列の組換えによりGFP遺伝子は除去されていた。免疫染色によると、このウイルスはまたenvタンパク質を発現した。このウイルスをCEF細胞において拡大し、LVD種保存液を作製し、無菌性およびマイコプラズマをそれぞれBioRelianceおよびATCCで試験してもらった。
【0160】
MVA組換えウイルス、MVA/HIV 56の特徴づけ
1. MVA/HIV 56感染細胞溶解液の一定分量を、ARA-Cの存在下および非存在下において、エンベロープおよびgagタンパク質の発現についてモノクローナル抗体を用いて放射性免疫沈降法(RIP)により解析した。RIPでは、ARA-Cの存在下および非存在下のいずれにおいてもこれらのタンパク質のそれぞれに相当する正確な大きさのバンドが検出され、組換えタンパク質の初期および後期発現の両方が示された(図34)。
【0161】
2. 20%スクロースクッション上でMVA/HIV 56感染BS-C-1細胞の上清から35S標識粒子をペレット化させ、PAGEによって解析することにより、MVA/HIV 56が感染細胞の上清中にgag粒子を産生することが示された。
【0162】
3. HIV挿入物、およびHIV挿入物の両側に隣接するMVAゲノムの1000塩基対領域からなるMVA/HIV 56ゲノムの領域の配列決定から、GFP遺伝子が除去されていること、およびHIV挿入遺伝子の配列が正確であることが確認された。
4. 改変MVA/HIV 62Bウイルスの繰り返し継代および得られたウイルスの解析から、MVA 62BがLVD種保存液の5継代を通して比較的安定であることが確認された。
【0163】
5. 107 pfuを3週間あけて2回免疫したマウスにおいて、MVA 56の免疫原性を評価した。図28に、マウス5匹の血清による(個々にアッセイした)平均ELISA力価を示す。血清抗体応答は、抗原として分泌クレードB ADA gp140を使用して、2日間ELISAによりアッセイした。結果から、MVA 56が血清抗体を誘発し得ることが示される。MVA 56はまた、ICSにより測定される、EnvまたはGagタンパク質の細胞性免疫応答を誘導する能力についても試験した。マウス(5匹/群)を、107 pfuのMVA 56で2回免疫した。個々のマウスの脾細胞を、envペプチドまたはgag p24ペプチドパルスP815細胞と共に一晩培養した後に、エクスビボで直接アッセイした。CD8+ IFN-γ+細胞をフローサイトメトリーで計数した。図29に示されるように、MVA 56はenv細胞性免疫応答を誘導する。図29に示されるように、MVA 56はまた、他のクレードB構築物と同様のICS gag p24応答を誘導する。
【0164】
要約
要約すると、本発明者らは、ADA改変切断型エンベロープおよびHXB2/BH10 gag polの高発現を有し、MVAゲノムの欠失III内への挿入物を有する組換えMVAウイルス、MVA/HIV 56を作製した。MVA組換えウイルスは、最終ウイルスにおいて除去される一過性発現GFPマーカーを用いて作製した。ADAエンベロープの高発現は、新たなハイブリッド初期/後期プロモーター、Pm2H5により可能となった。MVA 56組換え体は、スクロースを介してペレット化し、PAGEによって解析することにより示されるgag粒子を生成する。MVAゲノムの組換え領域の配列決定から、GFPの不在およびHIV遺伝子の正確な配列が確認された。Env ELISAにより、ADAエンベロープの免疫原性が確認され、またエンベロープおよびp24 gagに対する細胞応答が検出された。
【0165】
実施例4
クレードC Env、Gag、Polを発現するMVA組換え体
MVA/HIV 71Cの構築および特徴づけ
本実施例は、インドクレードC HIV IN3 EnvおよびGag Polを発現する改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)組換えウイルス、MVA/HIV 71Cの構築について説明する。この組換えウイルスの顕著な特徴を以下に示す:
1) MVA/HIV 71Cの構築では緑色蛍光タンパク質(GFP)の一過性スクリーニングマーカーが使用されたため、GFPは最終ウイルス産物から排除される。
2) 71C env遺伝子はMVAゲノムのdel IIに挿入され、71C gag polはdel IIIに挿入される。
3) MVA 71Cのenvおよびgag polはいずれも、ワクシニアmH5プロモーターにより制御される。
4) 組換えMVA/HIV 71Cを作製するために用いられるMVAウイルスは、MVA 1974/NIHクローン1である。
【0166】
プラスミド伝達ベクター
プラスミド伝達ベクター、pDC3およびpJD15、それぞれ図35および図36を使用して、相同組換えにより二重組換えMVAを作製した。これらのプラスミドはそれぞれ、最終ウイルス産物においてGFPが排除されるように、直接反復配列が両側に隣接するGFPマーカーを有する。プラスミドは以下のように構築した:
1. 逆転写酵素活性を不活化するための3つの変異を含み(クレードB組換え体に関して付与されるものに相当する)、インテグラーゼが除去されたHIV C IN3 gag polの遺伝子配列(Harriet Robinson、エモリー大学によるインド分離株GenBank #AF286231に由来する)を、FailSafe PCRキットを用いてpCR2.1にクローニングした。gag/pol遺伝子を、SmaI制限エンドヌクレアーゼ部位を介してMVA欠失III伝達ベクターpLAS-1(最終ウイルスにおいてGFPが排除されるように、2つの直接反復配列が隣接するスクリーニングマーカーGFPを含む)にクローニングし、遺伝子発現を初期/後期改変H5プロモーターの制御下においた。HIV C IN3 gag pol遺伝子の配列をDNA配列決定により確認し、この構築物をpDC3と命名した(図35)。
2. HIV C IN3 envの遺伝子配列(Harriet Robinson、エモリー大学によるインド分離株GenBank #AF286231に由来する)を、gp41の細胞質尾部中の120アミノ酸をPCR除去することにより切断し、pCR2.1にクローニングした。2つの初期ポックスウイルス終結5TNTシグナルを除去するためのサイレント変異を作製した(QuickChangeキット、Stratagene)。改変切断型env遺伝子をMVA欠失II伝達ベクターpLAS-2(最終ウイルスにおいてGFPが排除されるように、2つの直接反復配列が隣接するスクリーニングマーカーGFPを含む)のNot I部位にクローニングし、その後、SalI次いでXhoIで順次切断することによりクローニング領域内のSphI部位を除去し、末端を連結してpJD-15を作製した。このプラスミドにおける遺伝子発現は、初期/後期改変H5プロモーターの制御下にある。HIV C IN3 env遺伝子の配列をDNA配列決定により確認し、この構築物をpJD-15と命名した(図36)。
【0167】
一重組換えクレードC MVA/HIV gag pol
1. Anton Mayr(ドイツ、ミュンヘン)より供与された、2/22/74からの継代572代目のMVAに由来し、国立衛生研究所において最終的に3回希釈されたMVA 1974/NIHクローン1ウイルスを、組換えに使用した。
【0168】
2. 6ウェル培養プレート中の、10日齢SPAFAS受精ニワトリ卵(B&E Eggs、ペンシルベニア州、スティーブンスによる)から作製した二次CEFに、MVAをMOI 0.05で感染させ、約3.0μgのpDC3をトランスフェクトした(図37)。
【0169】
3. 37℃で2日間インキュベートした後、ウイルスを回収し、3回凍結融解し、CEFプレートにプレーティングした。
【0170】
4. 感染後の3日目に、GFPを発現した(プラスミドと感染ウイルスの間で組換えが起こったことを示す)感染のフォーカスを採取し、CEF上に再度プレーティングした。再び、GFPを発現したフォーカスを採取した。
【0171】
5. 2回プラーク精製したこれらのGFP発現フォーカスを、2つ組のCEFプレートにプレーティングし、2枚のプレートをGFP蛍光について、およびGagに特異的なMAb 183-H12-5C(3537)を用いてGag発現について解析した。それら試料の2つ組複製プレートから、GFP染色がほとんどなく、かつ大部分がGag染色された個々のフォーカスを採取した。
【0172】
6. これらのフォーカスを再度2つ組でプレーティングし、同様の方法でさらに3回解析した。その結果得られた組換えウイルスは、Gag Polタンパク質を発現したが、二重反復配列の組換えによりGFP遺伝子は除去されていた。最初に最終的に採取したプラークを6ウェルプレートの1ウェル中で培養し、次いでT-25フラスコ、その後T-150フラスコで培養することにより、種保存液を作製した。MVA 68C(LAS1 gag pol)と命名したこのウイルスを使用して、二重組換え体を作製した。
【0173】
二重組換えMVAの構築
1. EnvおよびGag Polタンパク質の両方を発現する二重MVA組換え体を作製するため、Gag Polを発現する一重組換えMVAウイルス(MVA 68C)を用いてCEF細胞をMOI 0.05で感染させ、その後1μgのpJD15をトランスフェクトして、37℃で2日間培養し、回収した(図37)。
【0174】
2. 感染後の3日目に、GFPを発現した(プラスミドと感染ウイルスの間で組換えが起こったことを示す)感染のフォーカスを採取し、CEF上に再度プレーティングした。再び、GFPを発現したフォーカスを採取した。
【0175】
3. 2回プラーク精製したこれらのGFP発現フォーカスを、2つ組のCEFプレートにプレーティングし、2枚のプレートをGFP蛍光について、およびEnvタンパク質に特異的なT-43 mAbを用いてEnv発現について解析した。それら試料の2つ組複製プレートから、GFP蛍光がほとんどなく、かつ大部分がEnv染色された個々のフォーカスを採取した。
【0176】
4. これらのフォーカスを再度2つ組でプレーティングし、同様の方法でさらに4回解析した。その結果得られた二重組換えウイルスは、EnvおよびGag Polタンパク質を発現したが、二重反復配列の組換えによりGFP遺伝子は除去されていた。最初に最終的に採取したプラークを6ウェルプレートの1ウェル中で培養し、次いでT-25フラスコ、その後T-150フラスコで培養することにより、LVD種保存液を作製した。免疫染色によると、MVA/HIV 71C(研究室名称-クローン2 C4 6.21121)と命名したこのウイルスは、EnvおよびGagの両方を発現した。
【0177】
MVA二重組換えウイルス、MVA/HIV 71Cの特徴づけ
1. MVA/HIV 71C感染BS-C-1細胞溶解液の一定分量を、エンベロープおよびGagタンパク質の発現について、それぞれモノクローナル抗体T-43および3537を用いて放射性免疫沈降法(RIP)により解析した(図38)。これらのタンパク質のそれぞれに相当する正確な大きさのバンドが検出された。ARA-Cの存在下で発現が起こり、mH5プロモーターの初期部分の機能性が示された。20%スクロースクッション上で35S標識粒子をペレット化させることにより、組換えウイルスが感染細胞の上清中にgag粒子を産生することが示された。発現したクレードCエンベロープの機能性は、融合アッセイ法において、以前の構築物中の同一のC配列を用いて示されていた。
【0178】
2. MVA/HIV 71Cの繰り返し継代および得られたウイルスの解析から、このウイルスがLVD種保存液の9継代を通して安定であることが確認された。
【0179】
3. HIV挿入物、およびHIV挿入物の両側に隣接するMVAゲノムの1000塩基対領域からなるMVA/HIV 71Cゲノムの領域の配列決定から、GFP遺伝子が除去されていること、および逆転写酵素遺伝子内に3つの変異を含むHIV挿入遺伝子の配列が正確であることが確認された。図39および40は、プラスミド中のenvおよびgag pol遺伝子の配列を示す。
【0180】
4. 筋肉内経路により0週目および4週目にマウスに接種した用量107 pfuの精製MVA/HIV 71Cの免疫原性を評価した。抗原としてgp140クレードC envを使用する捕獲ELISAで、ELISA血清抗体をアッセイした。表6から、クレードC envに免疫原性があることが示される。
【0181】
要約
要約すると、本発明者らは、クレードC IN3改変切断型エンベロープおよび変異gag polを発現する組換えMVAウイルス、MVA/HIV 7Cを作製した。MVA二重組換えウイルスは、Gag Polタンパク質を発現する一重MVA組換え体とクレードC Envを発現するプラスミドの相同組換えにより作製した。この二重MVA組換え体は、最終ウイルスにおいて除去される一過性発現GFPマーカーを用いて作製した。RIP実験から、MVA/HIV 71C EnvおよびGag Polタンパク質の発現、ならびにgag粒子の産生が示された。二重組換え体は、LVD種保存液の繰り返し継代を通して比較的安定であることが示された。マウスにおける免疫原性実験から、クレードC envに免疫原性があることが示される(表6を参照されたい)。
【0182】
(表6)107個の組換えMVAを免疫したマウスにおけるクレードC Env ELISAa抗体力価
a抗原としてgp140クレードC envを使用する捕獲ELISA;
bそれぞれ0週目および4週目に107用量をIM投与してマウス5匹を免疫化。2回目の免疫化から2週間後に採血;
c逆終点希釈度。
【0183】
実施例5
成熟および未成熟VLPを発現する多タンパク質HIV-1(CRF02_AG)DNA/MVAワクチンのアカゲザルにおける相対的免疫原性
本発明者らは、HIV-1亜型CRF02_AGに基づく、西アフリカおよび西中央アフリカ用のエイズワクチンを開発した。アカゲザルを、Gag-Pol-Env発現プラスミドDNAで初回刺激し、対応するタンパク質を発現する組換え改変ワクシニアウイルスアンカラ(rMVA)で追加免疫した。gagおよびpol中の点変異によって異なる2つのDNAワクチン構築物(IC1-90およびIC48)を比較した。IC1-90は主に未成熟(コアがプロセシングされていないPr55Gagを含む)HIV様粒子(VLP)を産生し、IC48はPr55Gagがプロセシングされた成熟VLP、未成熟VLP、および細胞内タンパク質凝集体を産生する。いずれのワクチンも、Gag、Pol、およびEnvに対する顕著な細胞応答を生じた。ピークMVA後エフェクター相(P=0.028)および後期記憶相(P=0.051)それぞれにおいて、IC48動物ではIC1-90動物よりも約2倍高い、GagおよびEnvエピトープに対するELISPOT応答が認められた。ピーク応答時には、IC48初回刺激動物ではIC1-90初回刺激動物よりも広い幅が観察された(P=0.03)。本発明者らの結果から、ワクチンが高頻度T細胞応答を誘発し、抗Env抗体を刺激することが示された。これらの結果からまた、様々な形態のVLPの発現が、誘発する細胞性免疫および液性免疫に顕著な影響を及ぼすことも示唆される。
【0184】
結果
ワクチン免疫原
VLPの構築を評価するため、トランスフェクション培養上清をショ糖勾配によりバンド化し、その結果得られた画分をGagの存在について試験した。ピークVLP画分を、ウサギポリクローナル抗p24抗体を用いて免疫ブロッティングにより解析した(図41A)。IC1-90では、2つのGagポリタンパク質、p55およびp41のみが検出された。IC48では、3つの形態のGag(p55、p41、およびp24)が観察された。Gag p24の存在により、Gagポリタンパク質の切断が示される。以前に実証されているように、サキナビル(HIV-1プロテアーゼ阻害剤)によるHIVプロテアーゼ活性の完全阻害またはワクチン構築物IC25(プロテアーゼ活性の遺伝的改変物)は、主にp55であるGagタンパク質をもたらし、Gagポリタンパク質が切断されていないことが示される(Ellenberger, D. et al. 2004 Virology 319:118-130)。HIVタンパク質凝集体、およびGagの完全切断物から部分切断物を含有するVLPを含む、種々の産物の産生をもたらす対応するプロテアーゼ変異を有するワクチン構築物の概要を図41Bに示す。
【0185】
プロテアーゼ活性の部分阻害がVLP構築および潜在的粒子成熟を可能にすることを確認するため、プロテアーゼ変異ワクチン構築物をトランスフェクトした細胞を電子顕微鏡観察により調べた(図41C)。IC1-90では、未成熟VLPが認められた(図41C)。これらの粒子の大きさは均一であり、数は多く、サキナビルの存在下での発現およびIC25により形成される粒子と外観(電子密度の高い殻および透明の中央部分)が類似していた(Ellenberger, D. et al. 2004 Virology 319:118-130)。IC48では、出芽構造および多くのVLPもまた観察された(図41C)。しかし、2つの異なる粒子形態が認められた:球状のタンパク質殻を有するVLP(未成熟)および電子密度の高い中央部を有するその他の粒子(成熟)。さらに、電子密の高い中央部を有するVLPは、成熟HIV粒子に匹敵する、Gag p55の切断およびウイルスコアの凝縮を示唆する薄い球状タンパク質殻を有した。IC48トランスフェクション細胞はまた、HIVタンパク質の細胞内凝集体を含むことが認められた(図41C)。
【0186】
293T細胞をトランスフェクションした後に、抗原捕獲ELISAにより全Gag発現を検出した;IC1-90発現はIC48と比較して急に減少するようであり、それぞれ131および878 ng/mlであった。上清および細胞溶解液中、Gagタンパク質レベルは、それぞれ77および54 ng/ml(IC1-90)ならびに624および254 ng/ml(IC48)であった。しかしながら、以前報告されているように(Schneider, R. et al. 1997 J. Virol. 71:4892-4903)、Gag p55の検出効率はGag p24の効率よりも実質的に低かった。そのため、ホスフォイメージャーによって測定されるウェスタンブロット解析によるトランスフェクション上清の全Gagタンパク質の定量からは、IC1-90がGagタンパク質をIC48と同様のレベルまで(1771および1570相対単位)発現することが実証された。Envタンパク質の産生もELISAにより検出したが、IC1-90およびIC48 Envレベルは同等であり、それぞれ696および665 ng/mlであった。両構築物において、全Envタンパク質の多くの割合は上清中に検出された。
【0187】
前臨床安全性試験
0、8、および26週目における3回のDNAプライムならびに41週目における1回のrMVA追加免疫を、IM針注射により1 mlで行った。DNA初回刺激は注射当たり0.6 mgのIC1-90またはIC48であり、MVA追加免疫は1 x 108 pfuであった。16匹のマカクすべてに、初回刺激物質、IC1-90またはIC48によってのみ異なる同一の一定分量を投与した。身体検査、日々の観察、体重、血液学、および臨床化学の測定を行った。注射部における局所発赤も硬化も認められなかった。
【0188】
ELISPOT解析
ワクチン誘発性T細胞は、MVA追加免疫後に急速に拡大した(図42)。MVA追加免疫前には、HIV-1特異的ELISPOT応答は、DNAプライムそれぞれの後で、本発明者らの検出バックグラウンドかまたはそれ未満であった。時間的ELISPOT解析から、最も高いELISPOT応答は、MVA追加免疫の1週間後(ピーク)であることが判明した。100万個の末梢血単核細胞(PBMC)当たり最大で5300スポットの頻度が、ピーク応答で認められた。特定細胞のこのピークは、DNA/MVA記憶プールへと3倍の縮小を起こした(MVA後8週目)。ピーク後26週目には、T細胞応答はさらに3倍縮小した(後期記憶)。免疫相にかかわらず(ピーク、記憶、または後期記憶)、全ELISPOTは、IC1-90初回刺激動物よりもIC48初回刺激動物で高かった;IC48動物のT細胞応答は、IC1-90動物よりも2.2倍高かった(算術平均)。群および時間における総ELISPOT値の直線回帰を用いた変量効果モデルから、IC48はIC1-90よりも高く、群効果はこのモデルにおいてP値=0.002を有することが実証される。さらに、ピーク応答時(P=0.028)および後期記憶時(P=0.051)に、IC-48初回刺激動物による有意に高い応答が認められた。
【0189】
ピーク応答時において、試験したプラスミドDNAはいずれも、Gag、Pol、およびEnv配列に対する抗ウイルスIFN-γELISPOT応答に関してMVA追加免疫の刺激に成功していた。解析から、IC48プライムとIC1-90プライムとの間の2倍を超える相違が明らかになった(図43)。2倍の相違は有意であり、Gag(P=0.015)、Pol(P=0.047)、およびEnv(P=0.0003)を含む、試験したすべてのウイルス遺伝子領域で観察された。PolおよびEnvでは、全ELISPOT平均応答はGagで認められる応答よりも低いものの、2倍の相違は明白である。Tatは組換えプラスミドおよびrMVAにおいて共通した免疫原でないことから、限定されたTat応答が予測された。
【0190】
GagおよびEnvに関する幅広いELISPOT応答が、MVA追加免疫の1週間後に存在した(図44)。IC48初回刺激動物では、IC1-90初回刺激動物よりも幅広い、ペプチドプールに対する応答が認められた(P=0.03)。ピーク応答時には、5プールのGagペプチドおよび7プールのEnvペプチドのそれぞれが、免疫化動物の少なくとも3匹により認識された。動物当たりに平均すると、2.8のGagペプチドプールおよび2.9のEnvペプチドプールが、ELISPOTにより測定される細胞応答を刺激した。PR、RT、およびTatに関しては、はるかに低い頻度の応答が誘発されたが、これらのプールは少なくとも1匹または複数匹の動物より認識された。16匹の動物うち4匹がPRペプチドの1つのプールを認識し、7匹が5プールのRTペプチドのうちの1つを認識し、1匹の動物の細胞がTatペプチドのプールにより刺激された。
【0191】
ELISPOT応答の高さと一致して、IC48初回刺激動物のT細胞は、IC1-90初回刺激動物で観察されるよりも多くのペプチドプールを認識した(表7)。IC1-90群では、動物8匹のうち6匹が少なくとも1つのGagプールに応答し、全体平均として5プールのうち2.5プールが認識された(表7、図44)。IC48群に関しては、動物8匹のうち7匹が少なくとも2つのGagプール応答し、全体平均として3.1プールが認識された。Env応答はIC48群において類似しており、動物8匹中7匹が少なくとも2つのプールに応答した。IC1-90群では、動物8匹中6匹のみがEnvに応答し、少なくとも1つのEnvプールを認識した。免疫応答の記憶相では、ワクチン接種した動物すべてにおいて、より少ないペプチドプールがT細胞応答を刺激したが、IC48動物はそれぞれIC1-90群よりも多くのペプチドプールに応答した(5.3対3プール)。
【0192】
(表7)ELISPOTおよび細胞内サイトカイン染色解析により陽性と記録された動物当たりのペプチドプールの平均数
aバックグラウンドの2倍のELISPOT数値(>100)を陽性と見なした。
bIFN-γおよびIL-2発現の組み合わせ。
cMVA追加免疫の1週間後。
dMVA追加免疫の8週間後。
eGag、5プール;Pol、6プール(プロテアーゼプールを含む);Env、7プール。
fND、未実施。
g動物当たりの平均CD8+細胞応答、2.2プール。
h動物当たりの平均CD4+細胞応答、6.25プール。
【0193】
GagおよびEnvに対する幅広い応答は、MVA追加免疫後8週目でも保持された(図45)。記憶相において、IC48初回刺激動物は、IC1-90初回刺激動物よりも多くのエピトープ(P=0.004)に応答した。100万個のPBMC当たり最大で2125スポットの頻度が、記憶相で見出された。動物16匹中15匹が、ペプチドの少なくとも1つのプールを認識した。MVA後1週目において最初は非応答者であったサルAC36およびM509は、MVA後8週目に少なくとも1つのGagプールを認識することが示された。動物O2Lは、ペプチドプールに対して依然として非応答者であった。記憶相において、5プールのGagペプチドのそれぞれおよび7つのEnvペプチドプールのうち5プールが、免疫化動物の少なくとも1匹により認識された。
【0194】
細胞内サイトカイン解析
応答するCD4およびCD8 T細胞の頻度を決定するため、細胞内サイトカインアッセイを行った(図46)。CD4およびCD8リンパ球におけるIFN-γおよびIL-2発現のペプチド誘導を測定したが、試験したプラスミドDNAはいずれもMVA追加免疫の刺激に成功していた。MVA追加免疫の1週間後、ELISPOT解析によって見られるようにピーク応答が観察された。遺伝子領域にかかわらず、IC48初回刺激動物による応答は、IC1-90初回刺激動物よりも有意に高かった:Env(P=0.006)およびGag(P=0.026)。Gagエピトープに特異的なCD8細胞は、1匹の動物においては、全CD8 T細胞の2.6%という頻度にまで拡大した。IFN-γ発現およびIL-2の細胞内サイトカイン染色から、DNAプラスミド間でのGagペプチドに対する約4倍の相違が明らかになった;IC48はIC1-90よりも多くのCD8細胞を刺激した。パーセント特異的CD8細胞の幾何平均は、IC48群およびIC1-90群に関してそれぞれ0.54対0.14であった。Env領域では、2倍の相違が検出された(0.28対0.14)。発現するサイトカインにかかわらず、同様の比率が認められた。
【0195】
数匹の動物において、Gagエピトープに特異的なCD4細胞が全CD4 T細胞の0.5%という頻度にまで拡大した(図46)。統計解析から、IC48初回刺激動物ではIC1-90細胞よりも有意に多くの、Envエピトープに特異的なCD4細胞が認められることが明らかになった(P=0.006)。また一方で、IFN-γ発現およびIL-2の染色から、DNAプラスミド間での、Envペプチドに対する4倍の相違(0.39対0.11幾何平均)およびGagペプチドに関する2倍の相違(0.31対0.15)が明らかになった。全体として、CD4細胞応答は、CD8細胞応答よりも有意に高かった(P<0.0001)。
【0196】
図46のデータに基づき、幾何平均を決定して、特定細胞(CD4およびCD8)、サイトカインの発現(IFN-γおよびIL-2)、およびHIV遺伝子領域を比較した。CD4リンパ球におけるIL-2発現のペプチド誘導は、パーセント特異的CD8リンパ球よりも2倍高かった(0.113対0.056幾何平均)。しかしながら、IFN-γ発現に関しては、CD8およびCD4細胞は同等であった(0.089対0.078幾何平均)。Gag領域では、IFN-γ発現はIL-2発現よりも有意に高かったが(P=0.013)、CD4-IL2、CD8-IL2、およびCD8-IFN-γ発現はCD4-IFNよりも有意に高かった(P=0.032)。
【0197】
IFN-γおよびIL-2発現の両方を含め、細胞内サイトカイン染色により陽性と記録されたペプチドプールの平均数は、遺伝子領域にかかわらず、DNA初回刺激群の間で相対的に同等であることが判明した(表7)。ピーク免疫応答時には、IC1-90動物は、CD8およびCD4細胞に関してIC48動物の応答と等しくするために、ペプチドプール応答のそれぞれ31%および11%の増加を必要とする。しかしながら、CD4細胞ではCD8細胞よりも3倍多いペプチドプールが、IFN-γおよびIL-2発現を誘導した(6.25対2.2プール)。この同じ3倍という比率は、IC1-90およびIC48初回刺激動物のいずれにおいても認められた。
【0198】
抗体応答
抗体応答は、MVAによって強く高められた。ウェスタンブロット解析によれば、ごくわずかな結合抗体がDNA初回刺激により誘発されたが、動物16匹中11匹(6匹のIC1-90サルおよび5匹のIC48サル)は、MVAの3週間後にHIV-1亜型AGウイルス溶解液に対してEnv反応性を示した。11匹の反応性動物はすべて、Env gp120を検出する抗体を産生し、1匹の動物のみがGag p24に応答した。初回刺激動物の2群間に差は認められなかった。
【0199】
固相 Env ELISAにより、ワクチン接種した動物について抗Env力価を決定した。MVA後3週目において、平均逆力価は、IC1-90およびIC48初回刺激動物についてそれぞれ1075(±1569)および2119(±1898)であった。追加免疫の8週間後には、力価はそれぞれ953(±979)および850(±563)に減少した。2群の動物間に実質的な差は認められなかった。
【0200】
中和抗体に関する試験から、ワクチンに使用した一次分離株に対する非常に低いレベルの活性が明らかになった;1匹の動物しか陽性を示さなかった。一次分離株、組換えHIV-1亜型AGは、多くの他の血清および中和モノクローナル抗体による中和に対して比較的耐性があった。血漿の中和活性は、HIV-1-MN(亜型B)、HIV-1に対する実験室適合化分離株についても示されなかった。
【0201】
材料および方法
DNA免疫原
DNA構築物は、プロモーターカセット内にイントロンAを含み、RNAを発現するためにCMV前初期プロモーターおよびウシ成長ホルモンポリアデニル化配列を使用するpGA1発現ベクター(GenBankアクセッション番号:AF425297)で作製した(Chapman, B.S. et al. 1991 PNAS USA 19:3979-3986、およびRoss, T.M. et al. 2000 Nat. Immunol. 1:127-131)。付随する組換えHIV-1亜型AG(CRF02_AG)株IC0928を逆転写し(GenBankアクセッション番号:AY227361およびAY227362)、DNA PCRにによって生成された断片をpGA1発現ベクターにクローニングした(Ellenberger, D.L. et al. 2002 Virology 302:155-163、およびEllenberger, D. et al. 2004 Virology 319:118-130)。pGA1-IC48(IC48)の構築および説明は、以前に記載されている(Ellenberger, D. et al. 2004 Virology 319:118-130)。pGA1/IC1-90(IC1-90)は、gagおよびpol中の点変異によりIC48と異なる。簡潔に説明すると、IC1-90は、IC48について以前に記載されている、gag NCジンクフィンガーおよびpol RT中に導入された点変異を欠いている(Ellenberger, D. et al. 2004 Virology 319:118-130、Smith, J.M. et al. 2004 AIDS Res. Hum. Retrovir. 20:1335-1347、およびSmith, J.M. et al. 2004 AIDS Res. Hum. Retrovir. 20:654-665)。IC1-90およびIC48はまたプロテアーゼ配列においても異なり、IC1-90中には、70位でのArgからGlyへの置換および90位でのMetからLeuへの置換という2つの置換が存在する。IC48は、以前に記載されているように、48位におけるGlyからValへの置換を有する。プロテアーゼ変異は、部位特異的変異誘発キット(Stratagene、カリフォルニア州、ラホーヤ)を使用し、製造業者の手順に従って作製した。変異はすべて、配列決定により確認した。
【0202】
組換えMVA免疫原
IC0928に由来するgag、pol、およびenv領域を発現する組換えMVAは、上記されている。簡潔に説明すると、これは、組換えウイルスを得るための一過性GFPマーカーを、Wyatt et al. (Wyatt, L.S. et al. 2004 AIDS Res. Hum. Retrovir. 20:645-653)により記載されている一過性GUSと同様に使用するという変更を加え、MVA/SHIV89.6について以前に記載されている通りに(Earl, P.L. et al. 2002 Virology 294:270-281)gag-polを欠失IIIに、および切断型envをdel IIに挿入して構築した。
【0203】
細胞株および一過性トランスフェクション
ヒト293T細胞、ヒト腎臓由来細胞株は、10%ウシ胎児血清を添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で維持した。293T細胞を、DMEM増殖培地2 ml中に106個細胞/Costar 6ウェルプレートのウェルで添加し、5% CO2加湿雰囲気中、37℃で24時間インキュベートした。24時間後、リポフェクトアミン2000(LipofectAmine2000)試薬(Invitrogen、カリフォルニア州、カールズバッド)とプラスミドDNAを製造業者の手順に従って混合し、各ウェルに添加した。トランスフェクション試薬を添加してから24または48時間後に、上清を回収した。
【0204】
粒子の精製
293T細胞の一過性トランスフェクションの24時間後、培養上清を回収し、200 x gで5分間遠心分離して清澄化し、1 mlを10〜50%ショ糖勾配上に重層した。それぞれ2 mlの50%、40%、30%、20%、および10%ショ糖溶液からなる10 mlの勾配は、超遠心チューブの底から上に添加した。勾配を、SW41Tiローターで40,000 rpmにて16時間遠心分離した。1 mlの画分を、上から底に向かって回収した。画分分割量を、HIV-1 p24抗原捕獲アッセイで解析した。
【0205】
電子顕微鏡観察
トランスフェクションした293T細胞を、0.1 Mカコジル酸緩衝液中の2.5%グルタルアルデヒド1 mlを用いて、マルチウェルプレート中で4℃で2時間固定した。同じ緩衝液で3回洗浄した後、0.1 Mカコジル酸緩衝液中の1.0%四酸化オスミウムを添加して1時間インキュベートし、エタノール系で脱水し、エポネート(Eponate)樹脂を用いて包埋した。樹脂を重合した後、細胞を面で切断し、水中の4%酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛で染色し、Hitachi H-7500透過型電子顕微鏡で観察した。
【0206】
抗原捕獲アッセイ法
アッセイは、HIV-1抗原捕獲EIAキット(Coulter、フロリダ州、ハイアリーア)を用いて、製造業者の説明書に従って行った。
【0207】
Env ELISA
プールされたヒト免疫グロブリン抗HIV(カタログ番号3957)は、米国立アレルギー感染病研究所(National Institute of Allergy and Infectious Diseases)AIDS Research and Reference Reagent Program(メリーランド州、ロックビル)から入手した。Env ELISAは、以前に記載されている通りに行った(Ellenberger, D. et al. 2004 Virology 319:118-130)。
【0208】
マカクおよび免疫原性試験
インド起源の成年初期雄非近交系アカゲザル(Macaca mulatta)16匹を、体重により8匹の2つのワクチン群に無作為に分類した。IC1-90群には0.6 mgのIC1-90 DNAを0、8、および26週目に筋肉内(IM)投与し、IC48群には0.6 mgのIC48 DNAを同様に投与した。DNA免疫化は、針およびシリンジを用いてリン酸緩衝食塩水中で行った。1 ml/注射の量で、全部で3回の注射を上外側右大腿に行った。3回目のDNA免疫化の15週間後(41週目)に、すべての動物に、針およびシリンジを用いて、1 x 108 pfuの改変ワクシニアアンカラウイルス(MVA/HIV)追加免疫を上外側右大腿にIM投与した。MVA免疫化は、1 ml量のリン酸緩衝食塩水中で行った。注射部位を、局所炎症反応についてモニターした。
【0209】
液性応答
全ウイルス溶解液およびショ糖精製VLPのウェスタンブロット解析は、以前に記載されている通りに行った(Sambrook, J. et al. 1989 Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd ed.), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY)。全ウイルス溶解液(IC0928)は4〜15%勾配SDSゲルで泳動し、ニトロセルロースに転写した。血漿試料は、ブロッキング緩衝液で1:100希釈した。二次抗体は抗ヒトIgG(Fab)-ホスファターゼであり、検出はBCIP/NBTホスファターゼ基質システム(KPL、メリーランド州、ゲイサーズバーグ)を用いて、製造業者の説明書に従って完了した。ショ糖精製VLPの解析は、米国立アレルギー感染病研究所AIDS Research and Reference Reagent Programから入手したウサギポリクローナル抗p24(カタログ番号4250)を用いて行った。HIV-1 Gagタンパク質バンドは、ECLウェスタンブロッティング検出試薬(Amersham Pharmacia Biotech、ニュージャージー州、ピスカタウェイ)を用いて、製造業者により記載される通りに可視化した。発現レベルはホスフォイメージャーを用いて決定した。
【0210】
免疫したサルの血清中のEnv IgGのレベルを測定するには、以前に記載されている通りに、96ウェルU底プレートをgp120のC末端に対するヒツジ抗体で、およびその後精製CRF02_AG gp140でコーティングした(Earl, P.E. et al. 2002 Virology 294:270-281)。血清希釈物のインキュベーション時間は、ELISAの感度を上げるために2時間から一晩に延長した。
【0211】
中和は、TZM-bl細胞における1ラウンドの感染後のルシフェラーゼレポーター遺伝子発現の減少の関数として測定した。TZM-bl細胞は、John KappesおよびXiaoyun Wuにより寄与されたNIH AIDS Research and Reference Reagent Programから入手した。簡潔に説明すると、96ウェル平底培養プレートにおいて、200 TCID50のウイルスを血清試料の3倍段階希釈物と共に、全量150μlの3つ組で37℃で1時間インキュベートした。新たにトリプシン処理した細胞(75μg/ml DEAEデキストランを含む増殖培地100μl中の10,000個の細胞)を各ウェルに添加した。HIV-1 MNの場合には、複製を妨げるためにインジナビルを最終濃度1μMで添加した。1組の対照ウェルには細胞+ウイルスを添加し(ウイルス対照)、別の組には細胞のみを添加した(バックグラウンド対照)。48時間インキュベートした後、100μlの細胞を96ウェル黒均質プレート(Coster)に移し、供給業者(Promega)によって記載される通りにBright Glo基質溶液を用いて発光を測定した。CRF02_AGワクチン株に由来するgp160に関する偽型ウイルスのアッセイ保存液は、293T細胞でのトランスフェクションにより調製し、TZM-bl細胞で力価測定した。HIV-1 MNのアッセイ保存液は、H9細胞で調製した。
【0212】
ペプチドプール
HIV-1組換え亜型CRF02_AGペプチドは、ワクチン株に由来する、11が重複した15merであった。ペプチドは、約25ペプチドを含むプールとなるよう集合化した。ペプチドは50〜100 mg/mlでDMSO中に溶解し、保存溶液は-70℃で維持した。ペプチド作業溶液は-20℃で1週間維持した。
【0213】
T細胞アッセイ法
ELISPOTアッセイ法は、ヒトCD28およびCD49dに対する2μg/mlの抗体(Becton Dickinson、カリフォルニア州、サンノゼ)をインキュベーションに含めること以外は(Waldrop, S.L. et al. 1998 J. Immunol. 161:5284-5295)、以前に記載されている通りに行った(Amara et al., 2001、およびAmara et al., 2002)。精製PBMCを、各ペプチドについて10μg/mlの最終濃度で使用するペプチドプールと共に、2 x 105細胞/ウェルで96ウェルプレートに2つ組でプレーティングした。4ウェルには、培地のみを添加した。プレートを37℃、5% CO2で36時間インキュベートし、ELISPOTリーダーを用いてスポットを計数した。バックグラウンドは、陰性対照の平均の2倍プラス10と設定した。このバックグラウンド値をペプチドウェルの生数値から減算し、その後100万個のPBMCに変換した。バックグラウンドの2倍(>100)のELISPOT数値のみを有意であると見なした。
【0214】
IFN-γおよびIL-2の細胞内サイトカイン(ICC)染色アッセイ法は、以前に記載されている(Amara, R.R. et al. 2001 Science 292:69-74、およびAmara, R.R. et al. 2002 J. Virol. 76:6138-6146)。このようなアッセイのため、100万個のPBMCを5-mlポリプロピレンチューブ中でRPMI 100μlに再懸濁し、最終濃度1μg/mlの抗CD28および抗体CD49d抗体の存在下において、100μg/mlのペプチドプールで刺激した。細胞は、100μl中、5°の角度をなして組織培養インキュベーター中で37℃でインキュベートした。2時間後、ブレフェルジンA 10μgを含む培地900μlを添加し、インキュベーションをさらに4時間続けた。次いで、細胞をCD3、CD8、CD69、IFN-γ、およびIL-2について染色し、PBS中の1%ホルムアルデヒドで固定し、FACScaliber(Becton Dickinson、カリフォルニア州、サンノゼ)で24時間以内に捕捉した。各試料について、約150,000個のリンパ球が捕捉された。データは、FloJoソフトウェア(Tree Star, Inc.、カリフォルニア州、サンカルロス)を用いて解析した。
【0215】
統計解析
2つのDNAワクチンで初回刺激した群による免疫原性試験の比較には、独立試料のウィルコクソン検定およびウィルコクソン符号順位検定を用いた。サルを変量効果とし、群(IC-48またはIC1-90)および時間における総ELISPOT値の直線回帰を用いる混合効果モデルを使用した。また、CD4対CD8 T細胞の応答、Gag対Envに対するT細胞応答、ならびにIFN-γおよびIL-2発現の試験にも、混合効果直線回帰モデルを使用した。
【0216】
明瞭性および理解の目的で本発明をやや詳細に説明したが、本発明の真の範囲を逸脱することなく、形態および詳細において種々の変更がなされ得ることを当業者は理解されよう。上記に参照した図、表、および添付物、ならびに特許、出願、および刊行物はすべて、参照により本明細書に組み入れられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えMVAウイルスからの発現によりHIV Env、Gag、およびPol抗原を産生させるための、HIV env、gag、およびpol遺伝子、またはそれらの改変遺伝子を発現する組換えMVAウイルスであり、HIV env遺伝子が、gp120、ならびにgp41の膜貫通および外部ドメインから構成されるがgp41の細胞質ドメインの一部またはすべてを欠くHIV Envタンパク質をコードするよう改変された組換えMVAウイルス、ならびに薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物であって;
HIV env、gag、もしくはpol遺伝子、またはそれらの改変遺伝子がクレードAGから採取され、かつHIV env遺伝子またはその改変遺伝子が配列番号:1またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有し、HIV gagおよびpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子が配列番号:2またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有するか;
またはHIV env、gag、もしくはpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子がクレードBから採取され、かつHIV env遺伝子またはその改変遺伝子が配列番号:3またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有し、HIV gagおよびpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子が配列番号:4またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有するか;
またはHIV env、gag、もしくはpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子がクレードCから採取され、かつHIV env遺伝子またはその改変遺伝子が配列番号:5またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有し、HIV gagおよびpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子が配列番号:6またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有する、薬学的組成物。
【請求項2】
HIV env、gag、もしくはpol遺伝子、またはそれらの改変遺伝子がクレードAGから採取され、かつHIV env遺伝子またはその改変遺伝子が配列番号:1またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有し、HIV gagおよびpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子が配列番号:2またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有する、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項3】
HIV env、gag、もしくはpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子がクレードBから採取され、かつHIV env遺伝子またはその改変遺伝子が配列番号:3またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有し、HIV gagおよびpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子が配列番号:4またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有する、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項4】
HIV env、gag、もしくはpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子がクレードCから採取され、かつHIV env遺伝子またはその改変遺伝子が配列番号:5またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有し、HIV gagおよびpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子が配列番号:6またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有する、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項5】
HIV env、gag、もしくはpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子が、MVAゲノム内の欠失IIIの部位に挿入される、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項6】
組換えMVAウイルスがMVA 1974/NIHクローン1である、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項7】
組換えMVAウイルスが、該組換えMVAウイルスからの発現によりHIV抗原を産生させるためのさらなるHIV遺伝子またはその改変遺伝子をさらに発現し、該さらなるHIV遺伝子が、vif、vpr、tat、rev、vpu、およびnefからなる群より選択されるメンバーである、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項8】
HIV env、gag、もしくはpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子がmH5プロモーターの転写調節下にある、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項9】
HIV env、gag、もしくはpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子がプロモーターの転写調節下にあり、かつプロモーターの末端とenv遺伝子またはその改変遺伝子の開始部位との間の介在配列が介在開始コドンを欠く、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項10】
介在配列が配列番号:9または11を有する、請求項9記載の薬学的組成物。
【請求項11】
配列番号:12を有するプロモーターm2H5を含むポックスウイルス。
【請求項12】
霊長類においてHIV Env、Gag、またはPol抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答を高める方法であって、請求項1〜10のいずれか一項記載の組成物を霊長類に提供することを含み、それにより霊長類における事前に初回刺激された抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答が高められる方法。
【請求項13】
霊長類においてHIV Env、Gag、またはPol抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答を誘導する方法であって、請求項1〜10のいずれか一項記載の組成物を霊長類に提供することを含み、それにより霊長類における抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答が誘導される方法。
【請求項14】
霊長類においてHIV Env、Gag、またはPol抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答を誘導する方法であって、該抗原をコードする核酸を含む初回刺激組成物を霊長類に提供し、続いて請求項1〜10のいずれか一項記載のものを含む追加免疫組成物を霊長類に提供することを含み、それにより抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答が誘導される方法。
【請求項15】
霊長類がヒトである、請求項12〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
組換えMVAウイルスの投与が無針注射による、請求項12〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
初回刺激組成物が抗原をコードするプラスミドDNAを含む、請求項14記載の方法。
【請求項18】
HIV end、gag、およびpol遺伝子、またはそれらの改変遺伝子をコードするプラスミド伝達ベクターであって、HIV env遺伝子が、gp120、ならびにgp41の膜貫通および外部ドメインから構成されるがgp41の細胞質ドメインの一部またはすべてを欠くHIV Envタンパク質をコードするよう改変されているプラスミド伝達ベクターを調製する段階、および請求項1〜10のいずれか一項記載の組成物を産生させるために該プラスミド伝達ベクターをMVAウイルスと組み換える段階を含む、請求項1〜10のいずれか一項記載の組成物を作製する方法。
【請求項1】
組換えMVAウイルスからの発現によりHIV Env、Gag、およびPol抗原を産生させるための、HIV env、gag、およびpol遺伝子、またはそれらの改変遺伝子を発現する組換えMVAウイルスであり、HIV env遺伝子が、gp120、ならびにgp41の膜貫通および外部ドメインから構成されるがgp41の細胞質ドメインの一部またはすべてを欠くHIV Envタンパク質をコードするよう改変された組換えMVAウイルス、ならびに薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物であって;
HIV env、gag、もしくはpol遺伝子、またはそれらの改変遺伝子がクレードAGから採取され、かつHIV env遺伝子またはその改変遺伝子が配列番号:1またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有し、HIV gagおよびpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子が配列番号:2またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有するか;
またはHIV env、gag、もしくはpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子がクレードBから採取され、かつHIV env遺伝子またはその改変遺伝子が配列番号:3またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有し、HIV gagおよびpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子が配列番号:4またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有するか;
またはHIV env、gag、もしくはpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子がクレードCから採取され、かつHIV env遺伝子またはその改変遺伝子が配列番号:5またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有し、HIV gagおよびpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子が配列番号:6またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有する、薬学的組成物。
【請求項2】
HIV env、gag、もしくはpol遺伝子、またはそれらの改変遺伝子がクレードAGから採取され、かつHIV env遺伝子またはその改変遺伝子が配列番号:1またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有し、HIV gagおよびpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子が配列番号:2またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有する、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項3】
HIV env、gag、もしくはpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子がクレードBから採取され、かつHIV env遺伝子またはその改変遺伝子が配列番号:3またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有し、HIV gagおよびpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子が配列番号:4またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有する、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項4】
HIV env、gag、もしくはpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子がクレードCから採取され、かつHIV env遺伝子またはその改変遺伝子が配列番号:5またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有し、HIV gagおよびpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子が配列番号:6またはそれと少なくとも約97%、98%、99%、もしくは99.9%の同一性を有する配列を有する、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項5】
HIV env、gag、もしくはpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子が、MVAゲノム内の欠失IIIの部位に挿入される、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項6】
組換えMVAウイルスがMVA 1974/NIHクローン1である、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項7】
組換えMVAウイルスが、該組換えMVAウイルスからの発現によりHIV抗原を産生させるためのさらなるHIV遺伝子またはその改変遺伝子をさらに発現し、該さらなるHIV遺伝子が、vif、vpr、tat、rev、vpu、およびnefからなる群より選択されるメンバーである、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項8】
HIV env、gag、もしくはpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子がmH5プロモーターの転写調節下にある、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項9】
HIV env、gag、もしくはpol遺伝子またはそれらの改変遺伝子がプロモーターの転写調節下にあり、かつプロモーターの末端とenv遺伝子またはその改変遺伝子の開始部位との間の介在配列が介在開始コドンを欠く、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項10】
介在配列が配列番号:9または11を有する、請求項9記載の薬学的組成物。
【請求項11】
配列番号:12を有するプロモーターm2H5を含むポックスウイルス。
【請求項12】
霊長類においてHIV Env、Gag、またはPol抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答を高める方法であって、請求項1〜10のいずれか一項記載の組成物を霊長類に提供することを含み、それにより霊長類における事前に初回刺激された抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答が高められる方法。
【請求項13】
霊長類においてHIV Env、Gag、またはPol抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答を誘導する方法であって、請求項1〜10のいずれか一項記載の組成物を霊長類に提供することを含み、それにより霊長類における抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答が誘導される方法。
【請求項14】
霊長類においてHIV Env、Gag、またはPol抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答を誘導する方法であって、該抗原をコードする核酸を含む初回刺激組成物を霊長類に提供し、続いて請求項1〜10のいずれか一項記載のものを含む追加免疫組成物を霊長類に提供することを含み、それにより抗原に対するCD8+ T細胞免疫応答が誘導される方法。
【請求項15】
霊長類がヒトである、請求項12〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
組換えMVAウイルスの投与が無針注射による、請求項12〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
初回刺激組成物が抗原をコードするプラスミドDNAを含む、請求項14記載の方法。
【請求項18】
HIV end、gag、およびpol遺伝子、またはそれらの改変遺伝子をコードするプラスミド伝達ベクターであって、HIV env遺伝子が、gp120、ならびにgp41の膜貫通および外部ドメインから構成されるがgp41の細胞質ドメインの一部またはすべてを欠くHIV Envタンパク質をコードするよう改変されているプラスミド伝達ベクターを調製する段階、および請求項1〜10のいずれか一項記載の組成物を産生させるために該プラスミド伝達ベクターをMVAウイルスと組み換える段階を含む、請求項1〜10のいずれか一項記載の組成物を作製する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図13−2】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図24−2】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図13−2】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図24−2】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【公開番号】特開2013−27396(P2013−27396A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−180606(P2012−180606)
【出願日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【分割の表示】特願2007−530312(P2007−530312)の分割
【原出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(394002800)アメリカ合衆国 (4)
【出願人】(503124447)エモリー ユニバーシティ (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【分割の表示】特願2007−530312(P2007−530312)の分割
【原出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(394002800)アメリカ合衆国 (4)
【出願人】(503124447)エモリー ユニバーシティ (8)
【Fターム(参考)】
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