説明

クロマトグラフィー用試験具

【課題】バックグラウンドを低減することが可能なクロマトグラフィー用試験具を提供する。
【解決手段】
血球成分及び液体成分を含む試料が通過する順に、液体成分に含まれる被検出物と特異的に結合可能な標識物質を備えた標識保持部材、試料中の所定の血球成分と液体成分とを分離するための血球分離部材、及び、被検出物と特異的に結合可能な捕捉物質を担持するクロマトグラフ担体を備えたクロマトグラフィー用試験具により、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出物に特異的に結合可能な物質を用いて、試料中の被検出物を検出するためのクロマトグラフィー用試験具であって、全血を用いて行う検査に使用されるクロマトグラフィー用試験具に関する。
【背景技術】
【0002】
被検出物に特異的に結合可能な物質を用いて、試料中の被検出物を検出する試験具としてクロマトグラフィー用試験具が挙げられる。従来、このようなクロマトグラフィー用試験具は、主に血清試料中の被検出物を検出するために用いられていたが、近年、全血にも用いられるクロマトグラフィー用試験具が登場している。
【0003】
例えば特許文献1には、全血中の血球成分を取り除き、血漿成分のみを通過させる血球分離部を備えたクロマトグラフィー用試験具が開示されている。この試験具に試料(全血)を添加すると、試料中の血漿成分のみが血球分離部を通過して試薬部に到達し、試料中の赤血球は血球分離部を通過することができない。そして、血漿中の被検出物と試薬部に含まれる標識化抗体とが結合して複合体が形成される。複合体は、血漿成分とともに展開層を展開していき、測定部において捕捉される。捕捉された複合体は着色された標識化抗体によって標識されているので、測定部を目視にて確認することにより試料中の被検出物を検出することができる。このとき、試料中の赤血球は血球分離部を通過することができないため、赤血球の色によって測定部の確認が困難となることがない。
【0004】
【特許文献1】特開2000―258418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているように、試料が通過する順に、血球分離部、試薬部を配置したクロマトグラフィー用試験具を用いた場合、展開層に標識化抗体が残留して、バックグラウンドが高くなるという問題があった。クロマトグラフィー用試験具において、被検出物の有無の判定は、標識物質によって標識された被検出物がクロマトグラフ担体に捕捉されることによって測定部に現れる標識を目視で確認することにより行うため、バックグラウンドが高くなると測定部の標識が識別しにくくなり、判定が困難になることがある。特に、被検出物が微量である場合には測定部の標識が不鮮明になることがあり、バックグラウンドが高いと標識を正確に読み取ることができず、誤判定を招くおそれがある。
【0006】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、バックグラウンドの低減を可能とするクロマトグラフィー用試験具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の第1の観点によるクロマトグラフィー用試験具は、血球成分及び液体成分を含む試料が通過する順に、液体成分に含まれる被検出物と特異的に結合可能な標識物質を備えた標識保持部材、試料中の所定の血球成分と液体成分とを分離するための血球分離部材、及び、被検出物と特異的に結合可能な捕捉物質を担持するクロマトグラフ担体を備えて構成されている。
従来のクロマトグラフィー用試験具のように、試料を血球分離部、標識保持部材の順に通過させる構成とした場合、添加された試料は、血球分離部から標識保持部材へ毛管現象によって少しずつ流入して標識物質を溶出させながら試験具上を展開する。このため、クロマトグラフ担体へ排出される試料中の標識物質の濃度は、最初にクロマトグラフ担体に排出されるときに過剰に高く、その後試料がクロマトグラフ担体に排出されると共に徐々に低下していくというように、時間的に不均一になる。加えて、標識保持部材を通過した試料はそのままクロマトグラフ担体へ排出されるため、試料に溶け出した標識物質は、十分に分散されないままクロマトグラフ担体に排出される。これにより、クロマトグラフ担体に最初に排出される試料には高濃度の標識物質が十分に分散されない状態で含有されることになり、試料がクロマトグラフ担体上をスムーズに移動することができず、クロマトグラフ担体上に標識物質が残留あるいは停滞し、バックグラウンドが高くなってしまうことがあった。
この点、本発明の第1の観点によるクロマトグラフィー用試験具は、上記のような構成を備えているため、添加された試料は血球分離部材より先に標識保持部材に接触することになり、単位時間あたりに標識保持部材に接触する試料を多くすることができる。よって、クロマトグラフ担体に排出される試料中の標識物質の濃度を時間的に均一にすることができ、試料中の標識物質の濃度が過剰に高濃度となることがない。さらに、標識物質は試料に溶出したのち血球分離部材を通過することになるから、血球分離部材を通過する際の物理的抵抗によって標識物質が試料中に十分に分散される。したがって、試料はクロマトグラフ担体をスムーズに移動することができ、クロマトグラフ担体への標識物質の残留あるいは停滞を減少させ、バックグラウンドを低減することができる。
【0008】
なお、本明細書において「バックグラウンド」とは、クロマトグラフ担体上に標識物質が残留し、あるいは停滞することによって生じる、判定部を除くクロマトグラフ担体上の非特異的標識の程度を意味する。例えば、標識物質が着色された物質である場合には、バックグラウンドとは判定部を除くクロマトグラフ担体の着色度合いである。したがって、標識物質が着色された物質である場合においてバックグラウンドが高いとは、判定部を除くクロマトグラフ担体の着色度合いが高いことを意味し、バックグラウンドが低いとは、判定部を除くクロマトグラフ担体の着色度合いが低いことを意味する。
【0009】
さらに、標識保持部材は、試料が添加される試料添加部を備えることが好ましい。
このような構成とすることにより、単位時間あたりに標識保持部材に接触する試料をより多くすることができ、クロマトグラフ担体を展開する試料中の標識物質の濃度をより均一にすることができる。これにより、試料はクロマトグラフ担体をよりスムーズに移動することができ、バックグラウンドがさらに低減される。
【0010】
さらに、標識保持部材及び血球分離部材は多孔質部材からなり、標識保持部材の孔径が、血球分離部材の孔径より大であることが好ましい。
このような構成とすることにより、試料が標識保持部材へ迅速に浸透し、血球分離部材に徐々に浸透することになるため、試料と標識保持部材との接触時間を長くすることができ、標識物質を十分に溶出させることができる。
【0011】
さらに、標識保持部材と血球分離部材とは、試験具が水平に載置された状態において垂直方向に重なり合って配置されることが好ましい。
このような構成とすることにより、クロマトグラフ担体に到達する試料を多くすることができ、被検出物をより精度良く検出できる。
【0012】
さらに、血球分離部材は、試料が通過する順に、液体成分を所定の血球成分よりも速く移動させることにより、前記所定の血球成分と液体成分とを分離する第1血球分離部材と、所定の血球成分を捕捉し且つ液体成分を通過させることにより前記所定の血球成分と液体成分とを分離するための第2血球分離部材と、を含むことが好ましい。
このような構成とすることにより、試料中の液体成分が最初に第1血球分離部材から排出されて第2血球分離部材を通過し、試料中の所定の血球成分は、液体成分に遅れて第2血球分離部材に到達する。このため、試料中の所定の血球成分によって第2血球分離部材が目詰まりを起こす前に、液体成分が第2血球分離部材を通過するので、液体成分がスムーズにクロマトグラフ担体に排出され、迅速な検査が可能になる。
【0013】
さらに、本発明によるクロマトグラフィー用試験具は、クロマトグラフ担体を通過した試料中の液体成分を吸収する吸収部材をさらに備えることが好ましい。
このような構成とすることにより、試料の展開を促進させることができ、より迅速な検査が可能になる。
【0014】
さらに、本発明によるクロマトグラフィー用試験具は、試料中の液体成分の蒸発を防ぐための保護部材をさらに備えることが好ましい。
このような構成とすることにより、試料中の液体成分がクロマトグラフ担体上において蒸発して試料中の標識物質がクロマトグラフ担体上に残留、あるいは停滞することを防止することができ、バックグラウンドを低減することができる。
【0015】
また本発明の第2の観点によるクロマトグラフィー用試験具は、血球成分及び液体成分を含む試料が通過する順に、試料中の所定の血球成分と液体成分とを分離するための第1血球分離部材、液体成分に含まれる被検出物と特異的に結合可能な標識物質を備えた標識保持部材、第1血球分離部材によって分離された血球成分と液体成分とをさらに分離するための第2血球分離部材、及び、被検出物と特異的に結合可能な捕捉物質を担持するクロマトグラフ担体を備えたことを特徴とする。
【0016】
また本発明の第3の観点によるクロマトグラフィー用試験具は、血球成分及び液体成分を含む試料が通過する順に、液体成分に含まれる被検出物と特異的に結合可能な標識物質を備え、液体成分と所定の血球成分とを分離するための第1血球分離部材、第1血球分離部材によって分離された液体成分と血球成分とをさらに分離する第2血球分離部材、及び、被検出物と特異的に結合可能な捕捉物質を担持するクロマトグラフ担体を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、バックグラウンドの低減を可能とするクロマトグラフィー用試験具を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明のクロマトグラフィー用試験具の実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
1.クロマトグラフィー用試験具の構成
図1は、本発明の一実施形態のクロマトグラフィー用試験具(以下、「試験具」とも呼ぶ。)の構造を示す断面図である。図1に示すように、試験具1は主に、添加された試料Sが通過する順に、標識保持部材2、第1血球分離部材3、第2血球分離部材4、クロマトグラフ担体5、及び吸収部材7を備えて構成されている。
なお、試料Sは、本実施形態の試験具を用いて試料S中に被検出物が含まれているか否かの検査に供されるものである。試料Sは、血球成分及び液体成分を含むものであれば、血液自体でもよく、血液を展開溶媒に希釈したものであってもよく、血液から一部の成分を取り除く処理を行ったものであってもよい。血球成分は、例えば赤血球、白血球、血小板などを含む。液体成分は、試料Sが血液である場合は血液中の血漿であり、試料Sが血液を展開溶媒に希釈したものである場合は血液中の血漿と展開溶媒である。
【0020】
なお、一般的にクロマトグラフィー用試験具の特定の部分(例えば図1の試料添加部10)に試料を添加すると、添加された試料は各部材を順次移動してクロマトグラフ担体上に出現し、クロマトグラフ担体上を展開(移動)して判定部に到達するように構成されている。本明細書では、図1に示すように試験具1を水平に載置した状態において、試料がクロマトグラフ担体上を展開する方向(図1の矢印Aの方向)を「試料展開方向」といい、試料展開方向に対して垂直な方向(図1の矢印Bの方向)を「垂直方向」として説明する。
【0021】
標識保持部材2は、被検出物と特異的に結合可能な標識物質を有している。第1血球分離部材3は、試料Sに含まれる液体成分を赤血球や白血球などの所定の血球成分よりも速く移動させることにより、所定の血球成分と液体成分を分離するように構成されている。第2血球分離部材4は、血球成分を捕捉し且つ液体成分を通過させることにより所定の血球成分と液体成分とを分離するように構成されている。クロマトグラフ担体5は、被検出物と特異的に結合可能な捕捉物質を判定部6に担持している。
【0022】
図1に示すように、標識保持部材2と第1血球分離部材3とは、試験具1が水平に載置された状態において垂直方向に上下に重なって配置されており、接触面3aを介して垂直方向においてのみ接触している。第1血球分離部材3と第2血球分離部材4とは、接触面4aを介して接触して配置されている。第1血球分離部材3と第2血球分離部材4との間には、試料Sが第1血球分離部材3から第2血球分離部材4へ試料展開方向から進入することを防ぐためのシール部材9が配置されている。第2血球分離部材4とクロマトグラフ担体5とは、試料展開方向及び垂直方向に接触して配置されている。
【0023】
クロマトグラフ担体5の試料展開方向下流側には、クロマトグラフ担体5と接触するように吸収部材7が配置されている。上記の第1血球分離部材3、第2血球分離部材4、クロマトグラフ担体5、吸収部材7は、プラスチック、紙又はガラス等からなる基材8上に貼り付けられている。試験具1は、保護シート11〜13によって被覆されている。
以下、各構成部材について詳細に説明する。
【0024】
標識保持部材2
標識保持部材2は、試料S中の液体成分に含まれる被検出物と特異的に結合可能な標識物質を含有した部材である。この標識保持部材2は、試験具1において試料Sが最初に通過する位置に配置されており、試料Sが添加される試料添加部10を有している。
【0025】
ここで「被検出物」は、ヒトなどの血液中に含まれるものであり、且つ、後述する第2血球分離部材4によって濾過されないものであればその種類は特に限定されない。被検出物の例としては、抗原、抗体、ホルモン、ホルモンレセプター、レクチン、レクチン結合性糖質、薬物若しくはその代謝物、薬物レセプター、核酸及びこれらの断片、変異体、組合せ等が挙げられる。被検出物としては、具体的には、細菌、原生生物や真菌などの細胞、ウイルス、タンパク質、多糖類等、例えば、前記インフルエンザウイルスのほか、パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、マイコプラズマニューモニエ、ロタウイルス、カルシウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、ヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、肝炎ウイルス、重症急性呼吸器症候群の病原ウイルス、大腸菌、スタフィロコッカスアウレウス、ストレプトコッカスニューモニエ、ストレプトコッカスピヨゲネス、マラリア原虫、その他、消化器系疾患、中枢神経系疾患、出血熱等の様々な疾患の病原体、これらの代謝産物、癌胎児性抗原やシフラなどの腫瘍マーカー、ホルモンなどが例示される。
なおイヌの血液を用いる場合、被検出物としてはさらに、フィラリア成虫抗原が例示される。またネコの血液を用いる場合、被検出物としてはさらに、ネコ白血病ウイルス、ネコ免疫不全ウイルス及びその抗体などが例示される。
【0026】
標識保持部材2に含有される標識物質は、上記被検出物と特異的に結合可能な物質である。このような標識物質としては、例えば被検出物と特異的に結合可能な物質を有色の粒子で標識したものを用いることができる。
被検出物と特異的に結合可能な物質としては、例えば被検出物が抗原又は抗体である場合に、その抗原又は抗体と抗原抗体反応により結合可能な抗原又は抗体を使用することができる。その他、例えばリガンド−レセプター結合のような生物学的親和性に基づいて被検出物と特異的に結合可能な物質を使用することもできる。
有色の粒子としては、例えば、着色されたラテックス粒子、金などの金属コロイドなどが挙げられる。
このように、被検出物と特異的に結合可能な物質を有色の粒子で標識したものを用いることにより、試料中の被検出物の有無を目視で確認することができる。
【0027】
この標識保持部材2には不織布や多孔質部材などの種々の素材のものを用いることができ、特にグラスファイバー、セルロースファイバーなどの多孔質部材を用いることが好ましい。また、後述する第1血球分離部材3として多孔質部材を用いる場合には、標識保持部材2に用いる多孔質部材の孔径は、第1血球分離部材3のそれより大きいことが好ましい。このように構成することにより、標識保持部材2に試料が浸透し易く、試料が標識保持部材2に十分に広がったうえで第1血球分離部材3に移動するため、展開効率が向上する。また、標識保持部材2の孔径が第1血球分離部材3の孔径より大きいことにより、試料が標識保持部材2に十分に浸透したのち、徐々に第1血球分離部材3に移動することになるため、試料が標識保持部材2に接触する時間が長くなり、標識物質の溶出がより十分になされる。
【0028】
標識保持部材2は、後述する第1血球分離部材3と垂直方向に上下に重なり合って配置されることが好ましい。このように構成することにより、標識保持部材2に浸透した試料Sの多くが自重によって第1血球分離部材3へ移動するから、最終的にクロマトグラフ担体5の判定部6に到達する試料を多くすることができ、被検出物をより精度良く検出できる。
【0029】
第1血球分離部材3
第1血球分離部材3は、試料Sに含まれる液体成分を、赤血球や白血球などの血球成分よりも早く移動させることにより、血球成分と液体成分とを分離するための部材である。
より具体的には、第1血球分離部材3は多孔質部材からなり、その細孔の径が血球(特に赤血球)と同程度か血球よりも僅かに大きく形成されている。このような部材を用いることにより、試料Sに含まれる液体成分は細孔をスムーズに移動できるのに対し、赤血球や白血球などの所定の血球成分は細孔をスムーズに移動できないので、液体成分は第1血球分離部材3を血球成分よりも速く移動する。したがって、血球成分と液体成分とが分離される。
【0030】
なお、血液に含まれる血球はその種類によってサイズも異なる。ゆえに、試料には、様々なサイズの血球成分が含まれ得る。例えば、試料がヒトの全血を含むものである場合、試料中に含まれうる血球とその大きさは次の通りである。白血球のうちリンパ球は6〜15μm、単球は12〜18μm、好中球は10〜12μm、好塩基球は10〜15μm、好酸球は10〜15μmであり、赤血球は7〜8μm、血小板は1〜4μmである。なお、血小板などの比較的サイズが小さい血球成分は、赤血球等の比較的サイズが大きい血球成分とほぼ変わらない速度で第1血球分離部材3内を移動することがありうるが、血小板が判定部6に出現したとしても、血小板の色によって判定部6の判定が困難になることはなく、検出結果に及ぼす影響は小さいことから、本実施形態の作用効果には大きな影響を与えない。
【0031】
ところで、赤血球などの血球の大きさは、動物種によって様々である。例えば、ヒトの赤血球の大きさと比較した場合、イヌの赤血球の大きさは約80%であり、ネコの赤血球の大きさは約50%である。ゆえに、第2血球分離部材4は、試料として用いる血液の動物種の赤血球の大きさによって細孔のサイズを適宜選択される。
【0032】
第1血球分離部材3には、ペーパークロマトグラフィーや薄相クロマトグラフィーで使用されているような膜を用いることができる。例えば、ニトロセルロース、ナイロン(例えば、カルボキシル基やアルキル基を置換基として有してもよいアミノ基が導入された修飾ナイロン)、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)、セルロースアセテートなどの種々の素材の膜を用いることができる。具体的には、MF1(Lateral Flow Type, Whatman社)、LF1(Lateral Flow Type, Whatman社)、FUSION5(Whatman社)などの市販されているものを用いてもよい。第1血球分離部材3は、好ましくは膜状であり、試料展開方向に試料を移動させ、試料展開方向に試料を分離するものであるが、第1血球分離部材3の構成や第1血球分離部材3による試料を分離する方向は特に限定されない。例えば、第1血球分離部材3は、ブロック状であってもよく、垂直方向に試料を分離するものであってもよい。
【0033】
なお、第1血球分離部材3と第2血球分離部材との間には、試料が第1血球分離部材3から第2血球分離部材4へ試料展開方向から進入することを防ぐためのシール部材9が配置されている。シール部材9は、試料の進入を防ぐことができるものであればその構成や素材は特に限定されない。シール部材としては、具体的には、ARcareシリーズ(Adhesives社)などの市販されているものを用いてもよい。
【0034】
また、本実施形態においては、第1血球分離部材3と第2血球分離部材4とは、接触面4aを介して直接接触するよう構成されているが、第1血球分離部材3と第2血球分離部材4の間に、第1血球分離部材3から第2血球分離部材4への試料の移動を妨げない別の部材を設けてもよい。
【0035】
第2血球分離部材4
第2血球分離部材4は、赤血球を捕捉し且つ液体成分を通過させることよって赤血球や白血球などの血球成分と液体成分とを分離するための部材である。
第2血球分離部材4は、例えば捕捉対象の血球(例えば、赤血球)よりもサイズが小さい細孔を有する多孔質部材からなる。このような構成により、捕捉対象の血球は細孔を通り抜けられず、第2血球分離部材4に捕捉される。また、多孔質部材中の細孔のサイズは、前記多孔質部材の上面から下面に向かって小さくなってもよい。この場合、前記多孔質部材の上面側では細孔が比較的大きいので試料が広がりやすく、十分に広がった状態で試料が前記多孔質部材の下面側の比較的小さなサイズの細孔に到達し、この細孔によって血球成分が捕捉されるので、効率的な分離が可能である。
【0036】
第2血球分離部材4には市販されている濾過膜を用いてもよく、市販されている濾過膜としては、例えば、BTS SP 100、BTS SP 200、BTS SP 300(Vertical Flow Type, PALL社)などが挙げられる。第2血球分離部材4は、好ましくは膜状であり、垂直方向に試料を移動させ、垂直方向に試料を分離するものである。第2血球分離部材4の構成や第2血球分離部材4による試料を分離する方向は特に限定されない。例えば、第2血球分離部材4は、ブロック状であってもよく、試料展開方向に試料を分離するものであってもよい。
【0037】
クロマトグラフ担体5、判定部6
クロマトグラフ担体5は、被検出物と特異的に結合可能な捕捉物質を判定部6に担持する部材である。
【0038】
捕捉物質は、被検出物と特異的に結合可能なものであればよい。この被検出物と捕捉物質の特異的な結合としては、例えば、抗原抗体反応による結合やリガンド−レセプター結合等の生物学的親和性に基づく結合が挙げられる。
例えば被検出物が抗原である場合、抗原に対する抗体を標識物質や捕捉物質として使用することができる。この場合、標識物質として使用する抗体と捕捉物質として使用する抗体は、それぞれ抗原の異なる部位(エピトープ)を認識することが好ましい。
例えば被検出物が抗体である場合、抗体に対する抗原を捕捉物質として使用することができ、抗体に特異的に結合可能な物質(抗体)を標識物質として使用することができる。
【0039】
クロマトグラフ担体5には、ニトロセルロース、ナイロン(例えば、カルボキシル基やアルキル基を置換基として有してもよいアミノ基が導入された修飾ナイロン)、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)、セルロースアセテートなどの種々の素材のものを用いることができる。吸収部材7には、セルロースやグラスファイバーなどの種々の素材のものを用いることができる。
【0040】
吸収部材7
吸収部材7は、クロマトグラフ担体5を通過した試料中の液体成分を吸収することによって試料の展開を促進するための部材であり、クロマトグラフ担体5の試料展開方向下流側に配置されている。吸収部材7は、毛管現象によって液体成分を吸収しうる部材であれば特に限定されず、例えば、不織布や多孔質部材を用いることができる。吸収部材7は省略しても構わない。この場合、例えば、クロマトグラフ担体5をより長くすることで試料の展開を促進してもよい。
【0041】
保護シート11、12、13
本実施形態に係る試験具1は、さらに、試料Sに含まれる液体成分の蒸発を防ぐための保護シート11、12、13を備えている。保護シート11は、試験具1の試料展開方向上流側に配置されており、上流側に配置された保護シート11は標識保持部材2の下流側の端部と、第1血球分離部材3と、第2血球分離部材4を被覆している。保護シート12は、試験具1の試料展開方向下流側に配置されており、吸収部材7を被覆している。保護シート13は、保護シート11、保護シート12の間に配置されており、判定部6を含むクロマトグラフ担体5を被覆している。
試料展開方向上流側及び下流側に配置される保護シート11、12は同じ部材を使用することができる。クロマトグラフ担体5を被覆する保護シート13は、判定部6の視認を妨げないよう、透明又は半透明の部材を使用することが好ましい。これら保護シート11、12、13を備えることにより、試料に含まれる液体成分の蒸発を防ぐことができ、試料の展開効率を向上させることができる。なお、保護シート11、12、13を、判定部6の視認を妨げない一つの部材によって構成してもよい。
【0042】
2.クロマトグラフィー用試験具の使用方法等
以下、図1を用いて、本実施形態における試験具1の使用方法と、試験具1による作用について詳細に説明する。なお、検査時に試験具1を配置する方向は、特に限定されない。試験具1は、水平に配置した状態で使用してもよく、垂直に配置した状態で使用してもよい。以下、試験具1を水平に配置した状態で使用する場合を例にとって説明を進める。
【0043】
(1)試料Sの添加
まず、試料添加部10に試料Sを添加する。試料Sに被検出物が含まれているかどうかはこの時点では不明である。以下、試料Sに被検出物が含まれている場合を想定して説明を進める。
なお、以下の説明においては、試料Sとして全血を使用した場合を例にとり説明する。
【0044】
試料添加部10は、試験具において試料が添加される部分である。試料添加部10とは、使用説明書、試験具1自体、又は試験具1を収容する容器等に設けられた表示によって試料を添加すべき部位であると指定された部位を意味する。本実施形態における試験具1において、試料添加部10は、標識保持部材2の試料展開方向の最も上流側の位置にある。
【0045】
試料添加部10に添加された試料Sは、標識保持部材2内に染み込み、毛管現象により、第1血球分離部材3、第2血球分離部材4、クロマトグラフ担体5、及び吸収部材7を順次移動する。
【0046】
(2)複合体の形成
試料添加部10に添加された試料Sは、標識保持部材2内に染み込み、標識保持部材2に保持された標識物質を溶出させながら、毛管現象により標識保持部材2中を移動する。標識保持部材2は、被検出物と特異的に結合可能な標識物質を有しているため、試料Sに被検出物が含まれている場合には、被検出物と標識物質とが特異的に結合して複合体が形成される。形成された複合体は、試料Sに含まれる液体成分と共に標識保持部材2内を移動し、標識保持部材2と垂直方向に上下に重なり合って配置された第1血球分離部材3へ移動する。なお、複合体を形成していない状態(液体成分に浮遊した状態)の被検出物と標識物質も、試料Sと共に第1血球分離部材3に移動する。
【0047】
(3)第1血球分離部材による分離
標識保持部材2を通過した試料Sは、第1血球分離部材3に進入し、第1血球分離部材3内でクロマトグラフ的に分離される。第1血球分離部材3は、試料Sに含まれる液体成分を血球成分よりも早く移動させることにより、血球成分と液体成分とを分離するように構成されているため、試料S中の液体成分が最初に第1血球分離部材3から排出される。試料S中の血球成分は、液体成分よりも後に第1血球分離部材3から排出される。
【0048】
第1血球分離部材3から排出された試料Sは、第1血球分離部材3と第2血球分離部材4の接触部を通って第2血球分離部材4に移動する。本実施形態では、第1血球分離部材3と第2血球分離部材4との間には、試料Sが第2血球分離部材4へ試料展開方向から進入することを防ぐためのシール部材9が配置されている。これにより、第1血球分離部材3と第2血球分離部材4とは、接触面4aを介して垂直方向においてのみ接触するため、第1血球分離部材3から排出された試料Sは、垂直方向に第2血球分離部材4へ進入する。本実施形態において、血球成分を分離するための第2血球分離部材4は、後述するように、垂直方向に血球成分を分離する構成されているため、上記のようにシール部材9を配置して、第2血球分離部材4への試料Sの進入方向を規制することにより、第2血球分離部材4による血球成分の分離をより適切に行うことができる。
【0049】
(4)第2血球分離部材による分離
第2血球分離部材4に移動した試料Sは、第2血球分離部材4中を垂直方向に移動する。第2血球分離部材4は、試料Sを濾過的に分離するものであり、赤血球などの血球成分は第2血球分離部材4によって捕捉されるが、液体成分は捕捉されずに第2血球分離部材4から排出される。
よって、試料Sに含まれる赤血球や白血球などの血球成分は、濾過的分離部材である第2血球分離部材3によって捕捉され、判定部6に到達することができないため、判定部6が赤血球の色によって赤く染まることがなく、判定が困難になることがない。
【0050】
また、本実施形態においては、血球成分を移動速度に応じて分離するための第1血球分離部材3が配置されているため、第2血球分離部材4には、液体成分が最初に進入し、血球成分は液体成分に遅れて進入することになる。第2血球分離部材4は、血球を捕捉しながらも液体成分を通過させる機能を有しているから、最初に第2血球分離部材4に進入した液体成分は、第2血球分離部材4をスムーズに移動してそのまま排出される。一方、液体成分より遅れて第2血球分離部材4に進入した血球成分は、液体成分の多くが排出された後に第2血球分離部材4において捕捉される。従って、液体成分が通過する前に血球成分が第2血球分離部材4に捕捉され第2血球分離部材4が目詰まりすることがないので、液体成分が第2血球分離部材4をスムーズに通過する。
第2血球分離部材4から排出された試料S中の液体成分は、第2血球分離部材4とクロマトグラフ担体5の接触部を通ってクロマトグラフ担体5に移動する。
【0051】
なお、上述したように、試料Sには様々なサイズの血球成分が含まれ得る。そして、試料Sに含まれる赤血球や白血球などの血球成分よりも比較的サイズが小さい血球成分、例えば血小板は、第2血球分離部材4中で補足されず、液体成分と共に通過する可能性がある。しかしながら、血小板が判定部6に出現したとしても、血小板の色によって判定部6の判定が困難になることはなく、検出結果に及ぼす影響は小さいことから、血小板が第2血球分離部材4を液体成分と共に通過したとしても、本実施形態の作用効果には大きな影響を与えない。
【0052】
(5)検査結果の判定
クロマトグラフ担体5に移動した試料S中の液体成分は、毛管現象によりクロマトグラフ担体5中を移動する。このクロマトグラフ担体5は、被検出物と特異的に結合可能な捕捉物質を判定部6に担持している。このため、液体成分が判定部6に到達すると、判定部6に担持された捕捉物質と、液体成分中の被検出物又は被検出物と標識物質との複合体とが特異的に結合して判定部6に固定される。被検出物と標識物質との複合体が判定部6に固定されると、標識物質による標識が判定部6に現れる。例えば、標識物質が有色粒子で標識された物質であれば、その有色粒子の色が判定部6に現れ、試料S中に被検出物が存在していることが確認される。なお、被検出物と標識物質が結合した後に被検出物と捕捉物質が結合する場合と、被検出物と捕捉物質が結合した後に被検出物と標識物質が結合する場合の両方があり得る。
【0053】
判定部6を通過した液体成分は、クロマトグラフ担体5から排出され、吸収部材7に吸収される。この吸収部材7が液体成分を吸収することによって、液体成分の移動が促進される。
【0054】
本実施形態による試験具1は、上述のとおり、試料Sが通過する順に、標記保持部材2、第1血球分離部材3を備えて構成されているため、試料添加部10に添加された試料Sは、十分な量の液体成分を含んで標識保持部材2内に染み込み、標識保持部材2に保持された標識物質を十分に溶出させたのち、徐々に第1血球分離部材3へ移動する。
したがって、第1血球分離部材3から排出される試料S中の液体成分には時間的に均一な濃度で標識物質が含まれ、過剰に高濃度な標識物質が含まれることはない。また、標識保持部材2を通過する試料Sには標識物質が塊となって含まれる場合もあるが、そのような標識物質は第1血球分離部材3、第2血球分離部材4を通過する際の物理的抵抗によって分散されるか、あるいは第2血球分離部材4において濾過されるため、クロマトグラフ担体5に出現することはない。
よって、クロマトグラフ担体5を移動する試料S中の液体成分には、過剰に高濃度の標識物質が含まれたり、あるいは標識物質が塊として混在したりすることがなく、試料S中の液体成分は、クロマトグラフ担体5をスムーズに移動することができる。したがって本実施形態による試験具によれば、標識物質がクロマトグラフ担体5上に残留することが少なくなり、バックグラウンドを低減することが可能である。
【0055】
さらに、本実施形態による試験具1によれば、試料Sに含まれる標識物質の濃度を均一にすることができるため、試料Sの展開速度が向上し、検査時間の短縮を図ることが可能である。
【0056】
さらに、本実施形態において標識保持部材2は、試料添加部10を有するよう構成されている。このような構成とすることにより、単位時間あたりに標識保持部材2に接触する試料Sの量をより多くすることができ、クロマトグラフ担体5を展開する液体成分中の標識物質の濃度を経過時間の前後でより均一にすることができる。これにより、標識物質を含有する液体成分が、クロマトグラフ担体をよりスムーズに移動することができ、バックグラウンドがさらに低減される。
【0057】
さらに、本実施形態における試験具1は、標識保持部材2を試料Sが最初に接触する位置に配置しているため、試料Sと標識物質とが接触してから判定部6に到達するまでの時間、すなわち反応時間を長くすることができる。これにより、試料Sの液体成分に含まれる被検出物を十分に標識することができ、感度が良好になる。
【0058】
なお、上記実施形態においては、試料S中の液体成分の蒸発を防ぐための保護シート11〜13を備えた構成としたが、図3に示すように、この保護シート11〜13は、省略してもよい。
【0059】
また、上記の実施形態においては、標識保持部材2と第1血球分離部材3とは、垂直方向に上下に重なり合って配置され、接触面3aを介して垂直方向にのみ接触する構成であったが、このような構成に限らず、図4に示すように、標識保持部材2と第1血球分離部材3とが、試料展開方向及び垂直方向において接触する構成であってもよい。
【0060】
また、上記の実施形態においては、試料中の血球成分を分離する血球分離部材として第1血球分離部材3と第2血球分離部材4とを使用する構成としたが、このような構成に限らず、これらのいずれか一方のみを使用する構成であってもよい。例えば図5に示すように、血球分離部材として第2血球分離部材4のみを備えた試験具としてもよい。このような構成であっても、赤血球がクロマトグラフ担体5へ移動することを阻止することができるから、判定部6における判定結果の確認が困難となることがない。
【0061】
また、上記の実施形態においては、試料が通過する順に、標識保持部材2、第1血球分離部材3、第2血球分離部材4を備える構成としたが、試験具1の構成はこのような構成に限られない。例えば図6に示すように、標識保持部材2を、第1血球分離部材3と第2血球分離部材4との間に配置した構成としてもよい。または、例えば図7に示すように、標識保持部材3に保持される標識物質を、第1血球分離部材3に保持させた構成としてもよい。
上述のとおり、第1血球分離部材3は、血球と同程度か、血球より僅かに大きい程度の微細孔を有する多孔質部材からなるため、赤血球を含む所定の血球成分は第1血球分離部材3によって移動が阻害されるものの、液体成分は第1血球分離部材3をスムーズに移動することができる。つまり、図6又は図7に例示したような構成であっても、クロマトグラフ担体5に排出される液体成分中の標識物質の濃度を時間的に均一にするために十分な量の液体成分を標識物質と接触させることができ、バックグラウンドが十分に低減される。
【実施例】
【0062】
1.実施例1の試験具の作製
図1に示すように、実施例1の試験具を作製した。部材の仕様は表1のとおりである。部材間の重なりは図1に示したとおりである。図1に示されるように、この実施例1の試験具は、試料が通過する順に、標識保持部材2、第1血球分離部材3、第2血球分離部材4、クロマトグラフ担体5、吸収部材7を備えて構成されている。標識保持部材2は、試料Sが添加される試料添加部10を有している。
【0063】
【表1】

【0064】
2.比較例1の試験具の作製
図2に示すように、比較例1の試験具を作製した。比較例1の試験具は、実施例1の試験具と異なり、試料が通過する順に、第1血球分離部材3、第2血球分離部材4、標識保持部材2を備えて構成されている。また、標識保持部材2の位置を変更したことに伴い、比較例1の試験具において試料が添加される試料添加部10は、第1血球分離部材3に設けられている。比較例1は、これらの点を除いては実施例1の試験具と同じ構成である。
【0065】
3.効果確認試験
次に、以下の方法で、本発明の効果を実証するための試験を行った。
【0066】
3−1.バックグラウンドの低減の効果確認
実施例1の試験具と、比較例1の試験具とを使用して、それぞれの試料添加部に全血100μLを添加して試験具1上を展開させ、クロマトグラフ担体5上に現れたバックグラウンドを観測した。その結果を図8に示す。図8は、実施例1及び比較例1の試験具についての時間経過ごとの試料の展開状況を示す写真である。
【0067】
図8からも明らかなように、実施例1の試験具は、試料添加から3分後、5分後、10分後、15分後のいずれの時点においても、比較例1の試験具に比べてクロマトグラフ担体5上の標識物質の残留が少なくなっている。特に、試料添加から5分後以降は、クロマトグラフ担体5上の標識物質の残留は目視では確認できない程度であり、バックグラウンドは限りなく低いレベルまで低減されている。
一方、比較例1の試験具は、試料添加から3分後、5分後、10分後、15分後のいずれの時点においても、クロマトグラフ担体5上に標識物質が残留しており、実施例1に比べてバックグラウンドが高い。
この結果から、本実施例1の試験具を用いて全血を検査した場合、クロマトグラフ担体に残留する標識物質が少なくなり、バックグラウンドが低減されることが実証された。
【0068】
上記の実験と同様に、実施例1の試験具と、比較例1の試験具とを使用して、それぞれの試料添加部にHBs抗原を含有させた血清100μLを添加して試験具1上を展開させ、クロマトグラフ担体5上に現れたバックグラウンドを観測した。なお、実施例1及び比較例1の標識保持部材2には、HBs抗原と特異的に結合可能な物質を標識物質で標識したものを含有させ、判定部6にはHBs抗原と特異的に結合可能な物質を担持させたもの使用した。その結果を図9に示す。図9は、実施例1及び比較例1の試験具についての時間経過ごとの試料の展開状況を示す写真である。
【0069】
図9からも明らかなように、実施例1の試験具は、試料添加から3分後、5分後、10分後のいずれの時点においても、比較例1の試験具に比べてクロマトグラフ担体5上の標識物質の残留が少なくなっており、バックグラウンドが低減されていることがわかる。
一方、比較例1の試験具は、試料添加から3分後、5分後、10分後の時点におけるクロマトグラフ担体5上の標識物質の残留が多く、実施例1に比べてバックグラウンドが高い。また、15分後の時点では、比較例1と実施例1とでバックグラウンドに大きな差はなくなったものの、図9からもわかるように、実施例1の判定部6は、比較例1の判定部6に比べて色が濃く、鮮明であった。
この結果から、本実施例1の試験具を用いて血清を検査することにより、クロマトグラフ担体に残留する標識物質が少なくなり、バックグラウンドが低減されることが実証された。
【0070】
以上より、本実施例1の試験具によれば、全血や血清などの試料の種類に関わらず、バックグラウンドを低減できる。したがって、本実施例1のクロマトグラフィー用試験具を使用することにより、誤判定の危険性の低い、より正確な検査が可能となることが実証された。
【0071】
3−2.展開速度の効果確認
次に、本実施例による試験具を用いた場合の展開速度を確認するため、以下の実験を行った。
実施例1の試験具と、比較例1の試験具とを使用して、それぞれの試料添加部に全血100μLを添加して試験具1上を展開させ、試料を添加してから試料がクロマトグラフ担体5に出現するまでの所要時間、及び試料を添加してから吸収部材7に試料が到達するまでの所要時間を計測した。この実験は、それぞれ別の生体から採取された全血を使用して3回行った。その結果を表2−1及び表2−2に示す。
【0072】
【表2−1】

【0073】
【表2−2】

【0074】
表2−1及び表2−2から、実施例1の試験具を使用した場合、添加された試料がクロマトグラフ担体5に出現するまでの時間、添加された試料が吸収部材7に到達するまでの時間のいずれにおいても、比較例1の試験具に比べて所要時間が短縮されていることがわかる。
【0075】
次に、上記と同様に、実施例1の試験具と、比較例1の試験具とを使用して、それぞれの試料添加部に血清100μLを添加して試験具1上を展開させ、試料を添加してから試料がクロマトグラフ担体5に出現するまでの所要時間、及び試料を添加してから吸収部材7に試料が到達するまでの所要時間を計測した。この実験は、それぞれ別の生体から採取された血清を使用して3回行った。その結果を表3−1及び表3−2に示す。
【0076】
【表3−1】

【0077】
【表3−2】

【0078】
表3−1及び表3−2から、実施例1の試験具は、試料添加からクロマトグラフ担体5に出現するまでの時間、吸収部材7に到達するまでの時間のいずれにおいても、比較例1の試験具に比べて所要時間が短縮されていることがわかる。
【0079】
以上より、本実施例1の試験具によれば、全血や血清などの試料の種類に関わらず、試料の展開速度を向上することができる。したがって、本実施例1のクロマトグラフィー用試験具を使用することにより、より迅速な検査が可能となることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の一実施形態のクロマトグラフィー用試験具の構造を示す断面図である。
【図2】比較例1のクロマトグラフィー用試験具の構造を示す断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態のクロマトグラフィー用試験具の構造を示す断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態のクロマトグラフィー用試験具の構造を示す断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態のクロマトグラフィー用試験具の構造を示す断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態のクロマトグラフィー用試験具の構造を示す断面図である。
【図7】本発明の他の実施形態のクロマトグラフィー用試験具の構造を示す断面図である。
【図8】試料として全血を使用した場合の実施例1及び比較例1の試験具についての時間経過ごとの試料の展開状況を示す写真である。
【図9】試料として血清を使用した場合の実施例1及び比較例1の試験具についての時間経過ごとの試料の展開状況を示す写真である。
【符号の説明】
【0081】
1 クロマトグラフィー用試験具
2 標識保持部材
3 第1血球分離部材
4 第2血球分離部材
5 クロマトグラフ担体
6 判定部
7 吸収部材
8 基材
9 シール部材
10 試料添加部
11、12、13 保護シート
S 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血球成分及び液体成分を含む試料が通過する順に、
液体成分に含まれる被検出物と特異的に結合可能な標識物質を備えた標識保持部材、
試料中の所定の血球成分と液体成分とを分離するための血球分離部材、及び、
被検出物と特異的に結合可能な捕捉物質を担持するクロマトグラフ担体を備えたクロマトグラフィー用試験具。
【請求項2】
前記標識保持部材は、試料が添加される試料添加部を備える請求項1に記載のクロマトグラフィー用試験具。
【請求項3】
前記標識保持部材及び前記血球分離部材は多孔質部材からなり、前記標識保持部材の孔径が、前記血球分離部材の孔径より大である請求項1又は2に記載のクロマトグラフィー用試験具。
【請求項4】
前記標識保持部材と前記血球分離部材とは、試験具が水平に載置された状態において垂直方向に重なり合って配置される請求項1〜3のうち何れか一項に記載のクロマトグラフィー用試験具。
【請求項5】
前記血球分離部材は、試料が通過する順に、
液体成分を所定の血球成分よりも速く移動させることにより、前記所定の血球成分と液体成分とを分離する第1血球分離部材と、
所定の血球成分を捕捉し且つ液体成分を通過させることにより前記所定の血球成分と液体成分とを分離する第2血球分離部材と、を含む請求項1〜4のうち何れか一項に記載のクロマトグラフィー用試験具。
【請求項6】
クロマトグラフ担体を通過した試料中の液体成分を吸収するための吸収部材をさらに備える請求項1〜5のうち何れか一項に記載のクロマトグラフィー用試験具。
【請求項7】
試料中の液体成分の蒸発を防ぐための保護部材をさらに備える請求項1〜6のうち何れか一項に記載のクロマトグラフィー用試験具。
【請求項8】
血球成分及び液体成分を含む試料が通過する順に、
試料中の所定の血球成分と液体成分とを分離するための第1血球分離部材、
液体成分に含まれる被検出物と特異的に結合可能な標識物質を備えた標識保持部材、
第1血球分離部材によって分離された血球成分と液体成分とをさらに分離するための第2血球分離部材、及び、
被検出物と特異的に結合可能な捕捉物質を担持するクロマトグラフ担体を備えたクロマトグラフィー用試験具。
【請求項9】
血球成分及び液体成分を含む試料が通過する順に、
液体成分に含まれる被検出物と特異的に結合可能な標識物質を備え、液体成分と所定の血球成分とを分離するための第1血球分離部材、
第1血球分離部材によって分離された液体成分と血球成分とをさらに分離する第2血球分離部材、及び、
被検出物と特異的に結合可能な捕捉物質を担持するクロマトグラフ担体を備えたクロマトグラフィー用試験具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−236685(P2009−236685A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83171(P2008−83171)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】