説明

クロマトグラフ用検出器及びその調整方法

【課題】データサンプリングのタイミングを決めるクロック信号の周波数偏差があった場合でも、サンプリングの繰り返しに伴う検出器内部時間の進行を実時間の進行に一致させることで正確な保持時間の取得を可能とする。
【解決手段】所定数の連続するデータサンプリング間隔を時間調整周期とし、1つの時間調整周期の中で、補間値Mとして与えられる数だけサンプリング間隔を他よりも所定のクロック計数分だけ長くする。クロック信号が正の周波数偏差を持つ場合、このクロック信号により決まる装置内部時間は実時間よりも早く進むことになるが、その周波数偏差量に応じた補間値Mを与えることで、装置内部時間基準の時間調整周期を長くし、サンプリング周期で決まる実時間基準の時間調整周期に合わせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフ(LC)やガスクロマトグラフ(GC)などのクロマトグラフ用の検出器に関し、さらに詳しくは、アナログ検出信号を所定のデータサンプリング間隔でサンプリングしてデジタル値に変換するA/D変換部を内蔵したクロマトグラフ用検出器とその調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ(LC)では、吸光度検出器、蛍光検出器、示差屈折率検出器、電気伝導度検出器、など様々な種類の検出器が使用される。こうした検出器は、アナログ検出信号を所定のデータサンプリング間隔でサンプリングするとともにサンプリングされたアナログ値をデジタル値に変換するA/D変換部を備え、デジタル化された検出信号をパーソナルコンピュータなどへ送出してデータ処理に供する(特許文献1など参照)。A/D変換部でのサンプリング周期が短いと時間分解能は上がるが、単位時間当たりに発生するデータ量が増加し、通信やCPUの負荷が重くなるとともに必要なメモリ容量が増加する。一方、サンプリング周期が長いと、通信やCPUの負荷は軽いものの、時間分解能が低下して急峻なピークを再現性よく検出できなくなる。そこで、一般的には、上記のようなメリット・デメリットを考慮して、サンプリング周期は適当な値又は範囲、例えば1〜100[msec]程度の値に設定されている。
【0003】
一般的に、A/D変換部においてデータサンプリングのタイミングを決める信号は、水晶発振器を利用して生成される高周波の基準クロック信号を計数することにより生成される。そのため、水晶発振器(厳密には水晶振動子)の周波数偏差が、実時間(国際原子時に基づく時間)の進行とデータサンプリングの繰り返しに伴う検出器内部の時間(以下「装置内部時間」と称す)の進行とのずれの主な原因となる。検出信号に基づいて作成されるクロマトグラム上のピークの保持時間は装置内部時間に基づくから、上記の装置内部時間と実時間とのずれはクロマトグラム上で保持時間のずれとして現れることになる。
【0004】
一般的に入手可能な水晶発振器の周波数最大偏差は±100〜200[ppm]程度である。この周波数が高い方向にずれている場合には、装置内部時間は実時間よりも速く進むため、クロマトグラム上のピークの保持時間はそのずれ量に応じて実際よりも長くなってしまう。例えば水晶発振器の周波数偏差が+150[ppm]であるとすると、分析開始時点からの経過時間が30分である場合に時間ずれは0.015分であり、これは実用的に問題ないレベルであると言える。しかしながら、分析開始時点からの経過時間が2000分になると時間ずれは0.3分にまで拡大する。これは、ユーザがクロマトグラム表示上で容易に認識可能なずれであり、無視できないずれである。
【0005】
また、1つのカラムで成分分離した溶出液を2つに分岐して2台の検出器で同時並行的に検出する場合、各検出器は別々のA/D変換部を備え、それらA/D変換部は別々の基準クロック信号に従ってデータサンプリングを実行する。そのため、その2つの基準クロック信号の、つまりは基準クロック信号を生成するための水晶発振器の周波数偏差の差異が、検出器毎に得られるクロマトグラム上の保持時間の相違となって顕在化する。
【0006】
図6(a)は、従来のLCシステムにおいて分析開始から所定時間経過後に表示される出力画面(クロマトグラム表示画面のみ)の一例を示す図である。この例は、分析開始時点から2000分が経過した時点でクロマトグラムデータ等のプロットを開始し、4019分が経過した時点(プロット開始からは2019分経過)付近のプロットを示したものである。実時間の4019分は図中に白抜き矢印で示した位置であるが、蛍光検出器Bデータはそれよりも先のt1の位置まで進んでおり、実時間よりも0.3分程度長くなっている(水晶発振器の周波数偏差:+150[ppm]に相当)。一方、蛍光検出器Aデータは実時間:4019分の手前のt2の位置までしか進んでおらず、実時間よりも0.08分程度短くなっている(水晶発振器の周波数偏差:−40[ppm]に相当)。なお、セル温度やカラムオーブン温度は、パーソナルコンピュータからの読み出し要求に応じて、検出器とは別のユニットから送出されるモニタ情報に基づいて表示が更新されるようになっており、実時間とのずれは0.015分と僅かであることが分かる。
【0007】
一般的には実際のクロマトグラフ分析に上記のような長い時間が掛かるわけではないものの、例えば分析者が金曜日に帰宅する前に分析の開始を指示して夜間や休日中に分析を遂行し、月曜日の朝に出社して出力画面を見た場合などに、図6(a)のような状態が表示されていることになる。この出力画面からは装置内部時間にずれが生じていることが明らかであるから、仮に実質的な問題はないとしても、分析者は当該検出器の精度に不信感を抱くことになり、信頼性を大きく損なうおそれがある。特に、分析開始時点からの時間経過が長くなるほど、実時間と装置内部時間との差異が拡大するため、上記のような問題は顕著になる。
【0008】
また、近年、クロマトグラフ分析技術の進展に伴い非常に急峻なピークが得られるようになってきており、こうした急峻なピークの保持時間については従来よりも高い時間精度が求められている。しかしながら、上述のような装置内部時間の不正確性のために、保持時間の誤差を小さくすることが難しいという、より実質的な問題もある。
【0009】
【特許文献1】特開平6−174709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その主な目的は、データサンプリングの繰り返しに伴う装置内部時間を実時間にできるだけ一致させることにより、クロマトグラム上の各ピークの正確な保持時間を得ることができるとともに、同時並行的に動作する複数の検出器によるクロマトグラムの進行を揃えたり、他のモニタ情報の更新とクロマトグラムの進行とを揃えたりすることができるクロマトグラフ用検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた本発明は、クロマトグラフ分析により分離された試料成分を時間経過に伴って順次検出するクロマトグラフ用検出器において、
a)アナログ検出信号を所定のデータサンプリング間隔でサンプリングしてデジタル値に変換するA/D変換手段と、
b)基準クロック信号を計数して前記A/D変換手段に対しデータサンプリングのタイミングを指示する指示信号を生成する手段であって、N(Nは2以上の整数)個の連続するデータサンプリング間隔を1つの時間調整周期とし、1時間調整周期中でM(MはM<Nである整数)個のデータサンプリング間隔を他のN−M個のデータサンプリング間隔に対して所定計数分だけ長く又は短くするように時間調整を施した指示信号を生成する信号生成手段と、
を備えることを特徴としている。
【0012】
ここでいう「クロマトグラフ」は例えば液体クロマトグラフ(LC)やガスクロマトグラフ(GC)など、試料に含まれる成分を時間方向に分離するものであればよい。また、本発明に係るクロマトグラフ用検出器はその検出の方式や原理は特に限定されず、何らかの方法で時々刻々とアナログ検出信号を取得し、その検出信号をA/D変換手段によりデジタル値に変換するものであればよい。
【0013】
従来の一般的なクロマトグラフ用検出器では、データサンプリング間隔は1つのサンプリング周期の下では常に一定であった。これに対し、本発明に係るクロマトグラフ用検出器では、データサンプリング間隔は一定とは限らず、1つの時間調整周期の中でM個のデータサンプリング間隔が他のデータサンプリング間隔よりも長い又は短い場合があり得る。但し、その場合でも、N、M、及び上記「所定計数」が一定であれば、時間調整周期の長さは一定である。
【0014】
例えば、Nと上記「所定計数」が予め決められていれば、Mの値によって時間調整周期の長さが変わる。1時間調整周期中でM個のデータサンプリング間隔を他のN−M個のデータサンプリング間隔に対して所定計数分だけ長くするようにした場合、Mの値を大きくすれば時間調整周期は相対的に長くなる。基準クロック信号を生成する元の水晶発振器の周波数偏差が正の或る値である場合には周波数偏差がゼロである場合と比較して、同一の計数値に対する時間が短くなる。そこで、Mの値を大きくすれば時間調整周期当たりの計数が増加するため、1つの時間調整周期を長くすることができ、実時間上の時間調整周期の長さと周波数偏差を有する基準クロック信号に基づく装置内部時間上の時間調整周期の長さとをほぼ一致させることが可能となる。
【0015】
同様の時間調整を行うために、Mの値ではなく上記「所定計数」を変えることも可能であるが、或る程度の周波数偏差の範囲をカバーしようとした場合、データサンプリング間隔が極端に相違することになるおそれがある。これは、あまり好ましいことではないため、実際には、「所定計数」の値を予め固定し、Mの値でもって時間ずれを調整するのがよい。即ち、本発明に係るクロマトグラフ用検出器の一態様として、サンプリング周期に応じて、前記N−M個のデータサンプリング間隔に対応した第1パラメータと前記Mの値を示す第2パラメータとを時間調整用パラメータとして前記信号生成手段に設定するパラメータ設定手段、をさらに備える構成とするとよい。
【0016】
また、この態様においては、前記基準クロック信号に基づいたデータサンプリングの繰り返しに伴う当該検出器内部の時間の進行が実時間の進行に一致するように前記時間調整用パラメータが決定されるものとすることができる。
【0017】
水晶発振器に周波数偏差があったとしても、その偏差のばらつきが小さいのであるならば、上記時間調整用パラメータを予め実験的に決めておき、周波数偏差のばらつきの小さな水晶発振器を使用する検出器には共通の時間調整用パラメータを適用することができる。つまり、検出器毎に異なる時間調整用パラメータを用いる必要はない。しかしながら、周波数偏差のばらつきが大きい場合や周波数偏差の温度依存性などのばらつきが大きい場合には、検出器毎に適切な時間調整用パラメータを用いる必要がある。そうした場合に、検出器1台ずつ手作業で、適切な時間調整用パラメータを求める作業を行うことは効率が悪い。
【0018】
そこで、本発明に係るクロマトグラフ用検出器の調整方法として、所定の標準時間の長さを計時する治具を当該検出器に接続し、該標準時間に対する前記信号生成手段における基準クロック信号の計数値を求め、該計数値に基づいて前記時間調整用パラメータを自動的に計算し、前記パラメータ設定手段の記憶部に記憶させるようにするとよい。
【0019】
この調整方法によれば、治具を検出器と接続し、例えば調整開始を指示するボタンを押す等の単純な作業のみで、自動的に適切な時間調整用パラメータが設定される。そのため、検出器毎に装置内部時間と実時間との差異がなくなるように簡単に調整を行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るクロマトグラフ用検出器によれば、基準クロック信号を生成するための水晶発振器の周波数偏差が大きい場合であっても、装置内部時間と実時間との一致性が高くなる。それにより、クロマトグラムに現れる各ピークの保持時間の絶対的な精度が向上する。また、例えばカラムからの溶出液を分岐して複数の検出器で同時並行的に検出する場合でも、複数の検出器による検出信号に基づいてそれぞれリアルタイムで作成されるクロマトグラムの進行を揃え、同一成分に対するピークの保持時間も揃えることができる。さらにまた、検出器とは別にカラムオーブンなどから直接得られるモニタ情報の更新とクロマトグラムの進行とを揃えることもできる。それにより、クロマトグラムを表示する出力画面上での表示の不自然さがなくなり、装置に対するユーザの信頼感を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係るクロマトグラフ用検出器を利用した液体クロマトグラフ(LC)システムの一実施例について、添付の図面を参照して説明する。図1は本実施例によるLCシステムの概略全体構成図である。
【0022】
図1において、送液ポンプ2は移動相容器1から移動相を吸引し、略一定流量でインジェクタ3を経てカラム5へと送給する。インジェクタ3は制御部8から供給される制御信号に応じ、所定の時点で試料液を移動相中に注入する。試料液は移動相の流れに乗ってカラム5に送り込まれ、カラム5を通過する間に試料液中の各種成分は時間方向に分離される。カラム5はカラムオーブン4内に収容されており、制御部8の制御の下に、一定温度に又は所定の昇温プログラムに従って温調される。カラム5から出た溶出液は検出器6に導入され、検出器6は溶出液に含まれる成分を順次検出して、その濃度に応じた検出信号を発生する。
【0023】
検出器6は、A/D変換部(ADC)61とこれを駆動する駆動部62を含む。A/D変換部61はアナログ信号である検出信号を、所定のサンプリング周期でもってサンプリングし、サンプリングされたアナログ値をデジタル値に変換して検出データとしてデータ処理部9へと出力する。なお、検出器6は、例えば蛍光検出器、紫外可視吸光検出器、フォトダイオードアレイ検出器、示差屈折率検出器、電気伝導度検出器など、適宜の検出器とすることができる。即ち、溶出液中の成分の検出の方式は特にここでは限定しない。
【0024】
制御部8は、送液ポンプ2、インジェクタ3、カラムオーブン4、検出器6などの動作を制御し、データ処理部9は検出器6から検出データを受け取ってこれをバッファリングし、所定のデータ処理を実行する。制御部8及びデータ処理部9は、操作部10や表示部11が付設されたパーソナルコンピュータ(PC)7に予めインストールされた専用の制御・処理ソフトウエアを実行することで、その機能を達成するものとすることができる。もちろん、それら機能の一部を専用のハードウエアで実現しても構わない。
【0025】
本実施例のLCシステムでは、検出器6に内蔵された駆動部62が特徴的な構成を有し、特徴的な動作を実行する。図2はこの駆動部62の要部の機能ブロック図である。駆動部62は機能ブロックとして、時間調整値メモリ20、インターバルレジスタ21、補間レジスタ22、プリセット値生成部23、基準クロック発生部24、ダウンカウンタ25、256分周カウンタ26、などを含む。
【0026】
基準クロック発生部24は水晶発振器を含み、所定周波数の基準クロック信号を生成してダウンカウンタ25に供給する。ここでは、基準クロック信号の公称周波数が1MHz(厳密には水晶発振器の周波数偏差分の周波数ずれがある)であるとする。ダウンカウンタ25は基準クロック信号の入力毎にプリセット値からダウンカウントを実行し、カウント値がゼロになるとパルス信号を出力する。このパルス信号により、ダウンカウンタ25は再びプリセット値をロードし、256分周カウンタ26はカウントアップする。また、そのパルス信号はAD開始信号ともなる。このAD開始信号はA/D変換部61でデータサンプリングを実行するタイミングを指示する信号であり、時間的に隣接する2つのAD開始信号の間隔がデータサンプリング間隔である。
【0027】
プリセット値生成部23には、インターバルレジスタ21に格納されているインターバル値と、補間レジスタ22に格納されている補間値と、256分周カウンタ26の出力(0〜255までのいずれかの値)が入力されており、256分周カウンタ26の出力値に対応してインターバル値及び補間値で決まるプリセット値を出力する。時間調整値メモリ20には、複数のサンプリング周期(例えば20[msec]と5[msec])に対応したインターバル値及び補間値が予め記憶されており、制御部8からのサンプリング周期の指示に応じて適当なインターバル値及び補間値を出力してインターバルレジスタ21及び補間レジスタ22にそれぞれセットする。
【0028】
なお、図2に示した駆動部62は個別のロジックICを組み合わせて構成してもよいが、例えばCPLD(Complex Programmable Logic Device)に所定のプログラムを書き込むことで同様の機能を実現することもできる。
【0029】
図3は駆動部62の動作の一例を示すタイムチャートである。図2、図3を参照して駆動部62の動作の一例を説明する。
【0030】
いま、一例としてサンプリング周期:5[msec]に対応して、インターバル値=5000、補間値=3、が時間調整値メモリ20に記憶されているものとする。サンプリング周期が5[msec]であるとの指示が制御部8から駆動部62に与えられると、時間調整値メモリ20から上記インターバル値及び補間値が読み出されて、それぞれインターバルレジスタ21及び補間レジスタ22にセットされる。ここでは256分周カウンタ26の出力が0〜255まで変化する期間を1つの時間調整周期として考える。つまり、N=256であり、補間値がMである。プリセット値生成部23は、インターバル値を基本的なプリセット値とし、時間調整周期の始点から補間値で与えられた数のデータサンプリング間隔だけ、インターバル値に「1」を加算した値をプリセット値と定める。したがって、上述したようにインターバル値=5000、補間値(M)=3である場合には、時間調整周期の初めから3個のデータサンプリング間隔のプリセット値は5001となり、残りのN−Mである253個のデータサンプリング間隔のプリセット値は5000となる。
【0031】
上記プリセット値がダウンカウンタ25にロードされ、装置内部時間基準で周期が1[μsec]である基準クロック信号によりダウンカウントされるから、プリセット値が5000であればAD開始信号の間隔(データサンプリング間隔)は装置内部時間基準で5[msec]となり、プリセット値が5001であればAD開始信号の間隔は装置内部時間基準で5.001[msec]となる。つまり、図3中に示すように、1つの時間調整周期の中で初めから3個のデータサンプリング間隔は装置内部時間基準で5.001[msec]であり、残りの253個のデータサンプリング間隔は装置内部時間基準で5[msec]である。したがって、1時間調整周期は装置内部時間基準で1280.003[msec]であり、これが繰り返されることになる。これは平均してみれば、データサンプリング間隔が5000+(3/256)[μsec]になったことと同じである。
【0032】
サンプリング周期:5[msec]において、実時間上のデータサンプリング間隔は5.000[msec]であるべきであるから、上記の装置内部時間基準での5.00001172[msec]との差は+2.3[ppm]に相当する。言い換えると、基準クロック発生部24の水晶発振器の周波数偏差が+2.3[ppm]あった場合に、インターバル値=5000、補間値=3、とすれば、平均的なデータサンプリング間隔は実時間上で5[msec]となり、装置内部時間と実時間との時間ずれがほぼなくなって、装置内部時間が実時間に一致したことになる。
【0033】
補間値Mが1のときには、水晶発振器の周波数偏差が+0.78[ppm]であっても装置内部時間と実時間との時間ずれがほぼなくなり、これが時間調整の最小分解能である。一方、補間値Mは0〜255の任意の値に設定可能であるから、最大199[ppm]までの周波数偏差に対しても時間ずれの調整が行える。ここで、インターバル値を「4999」として補間値Mを0〜255の間で設定すれば、負の周波数偏差に対応可能である。さらに、インターバル値を「4998」以下や「5001」以上にも設定できるため、上記構成の駆動部62では、サンプリング周期が5[msec]である場合に、周波数範囲無制限で周波数偏差を0.78[ppm]の分解能で調整できることになる。いま、分析時間を週末の2.5日分の3600分であると仮定すると、0.78[ppm]は約0.003分=0.2秒に相当する。つまり、分析開始から2.5日後でもクロマトグラムの進行と実時間とは0.2秒のずれで済むことになり、これは実用上問題ないレベルであると言える。
【0034】
なお、上記の時間調整動作では、データサンプリング間隔が装置内部時間基準で5[msec]のときと5.001[msec]のときとの2つが存在することになるが、この程度の相違は巨視的にみれば何ら問題とならない。
【0035】
上記数値例はサンプリング周期が5[msec]の場合のものであるが、例えばサンプリング周期が20[msec]の場合には、インターバル値が相違し、さらに時間調整の分解能が相違することは明らかである。
【0036】
駆動部62では上記のような時間調整動作が実行されるので、インターバル値と補間値とを適宜に定めておくことにより、装置内部時間と実時間とのずれをほぼゼロにすることができる。水晶発振器の周波数偏差は振動子が持つ固有の初期的偏差が最も大きく、そのほか発振用コンデンサの容量変動、温度や湿度などの環境条件に依存する偏差も若干ある。一方、使用に伴う経時的な偏差の変動は無視できる程度である。一般に、水晶振動子の製造時の初期的な周波数偏差は同じ製造ロットの製品であればほぼ同程度であるとみなすことができるから、或るサンプリング周期に対する適切なインターバル値及び補間値は初期的に定めておけばよく、ユーザ自身による校正の必要は殆どない。そこで、通常、本検出器の製造メーカにおいて、標準的な環境の下で複数台の検出器の基準クロック信号の周波数偏差を調べ、この結果に基づいて装置内部時間と実時間とのずれが最小になるようなインターバル値及び補間値を決定しておけばよい。
【0037】
もちろん、水晶振動子の周波数偏差の個体差まで考慮する場合には、検出器毎にそれぞれ最適なインターバル値及び補間値を決め、これを時間調整値メモリ20に格納しておくことが望ましい。検出器毎に最適なインターバル値及び補間値を決めるためのパラメータ自動設定方法の一例を次に説明する。この自動設定を行う際には、図4に示すような時間調整用治具30を利用する。時間調整用治具30は、外部から供給される開始信号により計時を開始し、60分経過時に停止信号を出力する非常に高い時間精度の60分タイマ31を含む。また、検出器6は、上述した駆動部62と時間調整用治具30とのインターフェイスに相当する時間調整制御部63を備え、時間調整制御部63はAD開始信号をカウントする時間調整用カウンタ64を含む。
【0038】
図5はパラメータ自動設定処理の流れを示すフローチャートである。この例は、サンプリング周期:5[msec]に対するパラメータ設定を行うものである。まず、時間調整制御部63は駆動部62のインターバルレジスタ21に「5000」、補間レジスタ22に「0」をセットする(ステップS10)。したがって、プリセット値生成部23で生成されるプリセット値は常に「5000」となる。次にダウンカウンタ25にプリセット値をロードさせ、時間調整用カウンタ64を0にリセットするとともに、時間調整用治具30に開始信号を送出する(ステップS11)。これにより、ダウンカウンタ25はプリセット値つまり「5000」からカウントダウンを開始し、時間調整用カウンタ64と60分タイマ31とで同時にカウントが開始される。時間調整用カウンタ64はAD開始信号が入力される毎にカウントアップする(ステップS12)、
【0039】
次に時間調整制御部63は時間調整用治具30から停止信号が入力されたか否かを判定し(ステップS13)、停止信号が入力されていなければステップS12に戻る。上述したように、60分タイマ31が正確に60分になる時点まで停止信号は入力されないから、それまで時間調整用カウンタ64はAD開始信号の計数を続行する。時間調整用治具30に開始信号が入力されてからちょうど60分が経過して停止信号が時間調整制御部63に入力されると、ステップS13からS14へと進み、時間調整制御部63は時間調整用カウンタ64のカウントを停止し、そのときのカウント値Cを取得する。次いで、次の(1)式により、装置内部時間基準のデータサンプリング間隔T[μsec]を計算する(ステップS15)。
T=5000×(カウント値C/720000) …(1)
ここで「720000」は、データサンプリング間隔が厳密に(つまり実時間基準で)5[msec]である場合の60分間のカウント値である。
【0040】
その後、上記(1)式で求めたTの整数部と[Tの小数部]×256とをそれぞれ計算し、前者をインターバル値、後者を補間値として決定する(ステップS16)。例えば、いま基準クロック発生部24の水晶発振器の周波数偏差が+150[ppm]であるとすると、その周波数偏差の分だけカウント値Cが多くなり、720108となる筈である。上記(1)式にこのカウント値Cを代入して、T=5000.75と求まる。したがって、ステップS16により、インターバル値は5000と求まる。一方、補間値は0.75×256=192と求まる。こうして求まったインターバル値及び補間値をサンプリング周期に対応付けて時間調整値メモリ20に記憶する(ステップS17)。サンプリング周期が複数ある場合には、各サンプリング周期毎にステップS10におけるインターバル値の初期値を変更し、それに合わせて上記(1)式も修正して、上記フローチャートと同様の処理を繰り返せばよい。
【0041】
上述したような時間調整用治具30を用いたパラメータ自動設定を行えば、検出器毎に簡単に適切なインターバル値及び補間値を設定することが可能になり、各検出器において装置内部時間と実時間とのずれが殆どなくなる。その結果、図6(a)と同一の条件の下での出力画面は例えば図6(b)に示すようになる。即ち、同一の溶出液を並行して検出する複数の検出器による検出データ(クロマトグラムデータ)の時間の進行は実時間にほぼ一致するようになり、図6(a)に示したような表示上の不自然さがなくなるとともに、クロマトグラムピークの保持時間の正確性が向上する。
【0042】
なお、上記実施例は本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜に変更や修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【0043】
例えば、上述したような駆動部62の構成は一例にすぎず、同等の機能を実現できる構成は当業者であれば容易に想到する。また、Nの値や、補間値Mで指定されたデータサンプリング間隔において増やす計数値(上記例では「1」)も適宜に変えることができる。また、補間値Mで指定されたデータサンプリング間隔において所定の計数値を減らすようにしてもよく、また計数値の増減を行うデータサンプリング間隔の位置も時間調整周期の中でいずれの位置でもよい。
【0044】
さらにまた上記実施例はLCシステム用の検出器であるが、ガスクロマトグラフなどの他のクロマトグラフ分析用の検出器に適用できることも当然である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係るクロマトグラフ用検出器を利用したLCシステムの一実施例の概略構成図。
【図2】図1中の駆動部の要部の機能ブロック図。
【図3】図2に示した駆動部の動作の一例を示すタイムチャート。
【図4】時間調整用パラメータの自動設定のための概略構成図。
【図5】パラメータ自動設定処理の流れを示すフローチャート。
【図6】従来のLCシステム及び本実施例のLCシステムにおいて分析開始から所定時間経過後に表示される出力画面の一例を示す図。
【符号の説明】
【0046】
1…移動相容器
2…送液ポンプ
3…インジェクタ
4…カラムオーブン
5…カラム
6…検出器
61…A/D変換部
62…駆動部
63…時間調整制御部
64…時間調整用カウンタ
8…制御部
9…データ処理部
10…操作部
11…表示部
20…時間調整値メモリ
21…インターバルレジスタ
22…補間レジスタ
23…プリセット値生成部
24…基準クロック発生部
25…ダウンカウンタ
26…256分周カウンタ
30…時間調整用治具
31…60分タイマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロマトグラフ分析により分離された試料成分を時間経過に伴って順次検出するクロマトグラフ用検出器において、
a)アナログ検出信号を所定のデータサンプリング間隔でサンプリングしてデジタル値に変換するA/D変換手段と、
b)基準クロック信号を計数して前記A/D変換手段に対しデータサンプリングのタイミングを指示する指示信号を生成する手段であって、N(Nは2以上の整数)個の連続するデータサンプリング間隔を1つの時間調整周期とし、1時間調整周期中でM(MはM<Nである整数)個のデータサンプリング間隔を他のN−M個のデータサンプリング間隔に対して所定計数分だけ長く又は短くするように時間調整を施した指示信号を生成する信号生成手段と、
を備えることを特徴とするクロマトグラフ用検出器。
【請求項2】
請求項1に記載のクロマトグラフ用検出器であって、
サンプリング周期に応じて、前記N−M個のデータサンプリング間隔に対応した第1パラメータと前記Mの値を示す第2パラメータとを時間調整用パラメータとして前記信号生成手段に設定するパラメータ設定手段、をさらに備えることを特徴とするクロマトグラフ用検出器。
【請求項3】
請求項2に記載のクロマトグラフ用検出器であって、
前記基準クロック信号に基づいたデータサンプリングの繰り返しに伴う当該検出器内部の時間の進行が実時間の進行に一致するように前記時間調整用パラメータが決定されることを特徴とするクロマトグラフ用検出器。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のクロマトグラフ用検出器の調整方法であって、
所定の標準時間の長さを計時する治具を当該検出器に接続し、該標準時間に対する前記信号生成手段における基準クロック信号の計数値を求め、該計数値に基づいて前記時間調整用パラメータを自動的に計算し、前記パラメータ設定手段の記憶部に記憶させるようにしたことを特徴とするクロマトグラフ用検出器の調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−117214(P2010−117214A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289817(P2008−289817)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)