説明

クロムマンガン窒素オーステナイト系ステンレス鋼

【課題】本発明は、クロムマンガン窒素オーステナイト系ステンレス鋼を提供する。
【解決手段】高価なニッケルの代わりに、適量のマンガン(Mn)と、窒素(N)とを使用し、クロム−マンガン−窒素(Cr−Mn−N)新鋼種を製造し、材料コストを下げ、本来の物理的性能および機械力学的性能を維持する。その組成元素は、重量%で0.005%〜0.08%の炭素元素と、0.3%〜0.9%のケイ素元素と、12.1%〜14.8%のマンガン元素と、0.001%〜0.04%のリン元素と、0.001%〜0.03%のイオウ元素と、16%〜19%のクロム元素と、0.5%〜1.8%のニッケル元素と、0.2%〜0.45%の窒素元素と、0.001%〜0.3%のモリブデン元素と、0.001%〜0.3%の銅元素と、製造過程における不可避の多数の微量元素とを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼に関し、特にニッケル元素の代わりにマンガン元素、窒素元素を用いるオーステナイト系ステンレス鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
通常よく見られるステンレス鋼は、表面に美しい白い光沢があり、かつ錆びにくいため消費者に広範に受け入れられており、例えばステンレス鋼台所用品、給水塔、機械部品、運動用品、航空宇宙材料、医療用品、IT産業などで大量に利用されている。ステンレス鋼の種類は多く、中でも最も広範かつ最も大量に使用されているステンレス鋼の1つは、304ステンレス鋼である。その標準的な成分は、クロム18%にニッケル8%を加えたもので、通常18−8ステンレス鋼と呼ばれている。
【0003】
このステンレス鋼の特性は、機械性質に優れ、磁性がなく、熱処理によってその金相組織構造が変わらず、耐久性、加工性に優れ、また比較的高いニッケル元素を含有しているため、耐食性に優れていることである。
【0004】
しかし、戦争のために世界的にニッケルが不足し、304ステンレス鋼の価格が高止まりしているため、前記クロムニッケル系ステンレス鋼でニッケルの成分を下げ、その成分の配合を利用してその固有の機械特性および耐食性を維持し、さらには向上させ、ニッケル資源を節約し、材料コストを下げることが重要な課題となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これに鑑み、本発明が解決しようとする課題は、低ニッケルのオーステナイト単相組織を提供し、かつその海洋大気および酸性大気における耐食性、強度、伸び率を304ステンレス鋼材質と同じレベルに保つか、または304鋼の性能よりも優れた、それに近い鋼種を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するため、本発明で開示する技術手段は、適量のマンガン(Mn)、窒素(N)を、高価なニッケルの代わりとし、クロム−マンガン−窒素(Cr−Mn−N)新鋼種を製造し、重量%で0.005%〜0.08%の炭素元素と、重量%で0.3%〜0.9%のケイ素元素と、重量%で12.1%〜14.8%のマンガン元素と、重量%で0.001%〜0.04%のリン元素と、重量%で0.001%〜0.03%のイオウ元素と、重量%で16%〜19%のクロム元素と、重量%で0.5%〜1.8%のニッケル元素と、重量%で0.2%〜0.45%の窒素元素と、重量%で0.001%〜0.3%のモリブデン元素と、重量%で0.001%〜0.3%銅元素と、製造過程において不可避の多数の微量元素とを含有するクロムマンガン窒素オーステナイト系ステンレス鋼を提供することにある。
【発明の効果】
【0007】
本発明により得られる効果は、次のとおりである。
【0008】
本発明は、オーステナイト系鋼形成機構に基づく、高価なニッケルの代わりに適量のマンガン、窒素を使用したクロム−マンガン−窒素新鋼種であり、オーステナイト単相組織であると同時に、海洋大気および酸性大気における耐食性、強度、伸び率は、304ステンレス鋼材質と同じレベルを保つか、さらに優れており、材料コストを下げる目的を達成する。
【0009】
本発明におけるニッケルの代わりにマンガンおよび窒素を使用する方法を応用した純オーステナイト系ステンレス鋼は、磁性がなく、機械性能UTSは304ステンレス鋼よりも高い200MPa弱であり、Y.Sは倍近くあり、伸び率は50%に達し、耐腐食性能は非常に高い。最も重要なことは、単価が304ステンレス鋼の半分以下であることである。また、優れた流動性、優れた鋳造成形性能、良好な高温抗酸化性能の特性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図面と合わせ、本発明の比較的優れた実施例を次のとおり詳細に説明する。
【実施例】
【0011】
本発明におけるクロム、マンガン、窒素を主に含有するオーステナイト系ステンレス鋼は、アーク炉または真空誘導炉を用いて溶解し精錬することができる。その元素重量%は、炭素元素0.005%〜0.08%と、ケイ素元素0.3%〜0.9%と、マンガン元素12.1%〜14.8%と、リン元素0.001%〜0.04%と、イオウ元素0.001%〜0.03%と、クロム元素16%〜19%と、ニッケル元素0.5%〜1.8%と、窒素元素0.2%〜0.45%と、モリブデン元素0.001%〜0.3%と、銅元素0.001%〜0.3%と、製造過程において不可避の微量元素とを含有する。
【0012】
前記各成分の組成の計算式は次のとおりとする。
Ni(ニッケル)当量=%Ni(ニッケル)+30×%C(炭素)+0.5×%Mn(マンガン)+30%N(窒素)
Cr(クロム)当量=%Cr(クロム)+%Mo(モリブデン)+1.5×%Si(ケイ素)+0.5×%Cb(コロンビウム)
【0013】
図1の相図では、縦座標をNi当量とし、横座標をCr当量としており、逆算後、この点がオーステナイト領域にある場合、表1に示した要求に適合する。
【0014】
【表1】

Ni当量下限=0.5+30×0.002+0.5×12.1+30×0.2=12.61
Ni当量上限=1.3+30×0.08+0.5×14.8+30×0.45=24.6
Cr当量下限=16+0+1.5×0.3+0.5×0=16.45
Cr当量上限=19+0.3+1.5×0.9+0.5×0=20.65
【0015】
図1における斜線領域の主要成分は、オーステナイトである。
【0016】
サンプルを分析した結果、成分は表2のとおりであった。
【0017】
【表2】

Ni当量上限=1.68+30×0.0079+0.5×12.27+30×0.42=20.652
Cr当量下限=17.06+0+1.5×0.65+0.5×0=18.035
【0018】
図1の相図において、この点はオーステナイト領域にあり、要求に適合した。
【0019】
本発明は、主に一部または全部のニッケルの代わりにマンガン、窒素元素を利用するものであり、以下、マンガン元素および窒素元素の特性について分析する。
【0020】
マンガン元素の組織構造に対する影響は次のとおりであった。
(a)マンガンを脱酸素元素とする場合、含量は≦2%でなければならない。
(b)マンガンを合金元素とする場合、含量は20%以上とすることができる。
(c)ニッケルの代わりにマンガンを使用する場合、窒素の溶解度を増加し、ニッケルを節約し強度を向上させる作用を達成することができた。
【0021】
マンガン元素の力学性能に対する影響は次のとおりであった。
a.マンガン≦2%のとき、硬度に対し影響はなかったが、引張強さおよび降伏強さを下げることがある。
b.Ni−Cr γS.Sの高温熱塑性を改善した。
【0022】
マンガン元素の耐食性に対する影響は次のとおりであった。
マンガンイオウ夾雑物のため、耐点食・隙間腐食性能が下がった。
【0023】
窒素の組織構造に対する影響は次のとおりであった。
(a)窒素はγ相領域を強烈に形成し拡大し、γの安定性を増加させた。
(b)炭化物の析出を抑制し、σ相の析出を遅らせることができ、鋼の耐鋭敏化粒界腐食および鋼の靱性に対し、有利な影響をもたらした。
【0024】
窒素の力学性能に対する影響は次のとおりであった。
(a)固溶強化(侵入型固溶体の形成)を介し、鋼の強度を顕著に向上することができたと同時に、塑性および靱性が下がった。
(b)窒素が多すぎる(≧0.84%)と、塑性の脆性への変化が見られた。
【0025】
図1のNi−Cr当量図のシェフラー図により、γステンレス鋼において、一部または全部のニッケルの代わりにマンガン、窒素を使用して、鋼の組織を変えずに強度を向上し、伸び率を304ステンレス鋼と同じに保つことができた。
【0026】
精錬過程において、炉内の鉄溶液はリン、イオウなどの有害元素成分を生成しやすく、リンは0.04以下に、イオウは0.04以下に制御する必要がある。
【0027】
本発明の実施例および対照材料の元素成分は、下表3のとおりであった。
【0028】
【表3】

【0029】
前記表3の実施例において、その力学性能は表4のとおりであった。
【0030】
【表4】

【0031】
図2Aおよび図2Bの異なる部位のミクロ金相図のように、ミクロ金相観察の結果、図2A、図2Bは熱処理前であり、その組織はγであるため、本鋼は全γ系ステンレス鋼である。
【0032】
前記は、本発明において課題を解決するために採用した技術手段の比較的優れた実施方式または実施例を記載したに過ぎず、本発明の特許実施の範囲を限定するためのものではない。本発明の特許請求の範囲の内容に適合するもの、または本発明の特許請求の範囲に基づく同等の変更および修飾は、本発明の特許の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明におけるクロムマンガン窒素オーステナイト系ステンレス鋼の実施例のNi−Cr当量図のシェフラー図である。
【図2A】本発明におけるクロムマンガン窒素オーステナイト系ステンレス鋼の実施例の異なる部位のミクロ金相図である。
【図2B】本発明におけるクロムマンガン窒素オーステナイト系ステンレス鋼の実施例の異なる部位のミクロ金相図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で0.005%〜0.08%の炭素元素と、
重量%で0.3%〜0.9%のケイ素元素と、
重量%で12.1%〜14.8%のマンガン元素と、
重量%で0.001%〜0.04%のリン元素と、
重量%で0.001%〜0.03%のイオウ元素と、
重量%で16%〜19%のクロム元素と、
重量%で0.5%〜1.8%のニッケル元素と、
重量%で0.2%〜0.45%の窒素元素と、
重量%で0.001%〜0.3%のモリブデン元素と、
重量%で0.001%〜0.3%の銅元素と、
製造過程において不可避の多数の微量元素と、
を含有するクロムマンガン窒素オーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項2】
重量%で0.0642%の炭素元素と、
重量%で0.69%のケイ素元素と、
重量%で12.43%のマンガン元素と、
重量%で0.031%のリン元素と、
重量%で0.012%のイオウ元素と、
重量%で16.87%のクロム元素と、
重量%で1.21%のニッケル元素と、
重量%で0.59%の窒素元素と、
重量%で0.026%のモリブデン元素と、
重量%で0.106%の銅元素と、
製造過程において不可避の多数の微量元素と、
を含有する請求項1記載のクロムマンガン窒素オーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項3】
重量%で0.0547%の炭素元素と、
重量%で0.81%のケイ素元素と、
重量%で13.92%のマンガン元素と、
重量%で0.01%のリン元素と、
重量%で0.001%のイオウ元素と、
重量%で16.71%のクロム元素と、
重量%で0.82%のニッケル元素と、
重量%で0.24%の窒素元素と、
重量%で0.025%のモリブデン元素と、
重量%で0.104%の銅元素と、
製造過程において不可避の多数の微量元素と、
を含有する請求項1記載のクロムマンガン窒素オーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項4】
重量%で0.0432%の炭素元素と、
重量%で0.85%のケイ素元素と、
重量%で12.12%のマンガン元素と、
重量%で0.012%のリン元素と、
重量%で0.005%のイオウ元素と、
重量%で16.38%のクロム元素と、
重量%で0.09%のニッケル元素と、
重量%で0.35%の窒素元素と、
重量%で0.027%のモリブデン元素と、
重量%で0.109%の銅元素と、
製造過程における不可避の多数の微量元素と、
を含有する請求項1記載のクロムマンガン窒素オーステナイト系ステンレス鋼。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【公開番号】特開2009−57626(P2009−57626A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249166(P2007−249166)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(501106263)明安國際企業股▲分▼有限公司 (12)