説明

グラウンドアンカー

【課題】グラウト拘束圧による摩擦力の低減を図る。
【解決手段】本発明に係るグラウンドアンカー1は、適当な地盤に形成されたアンカー体3と、アンカー体3により端部が地盤に定着され、地表と地盤との間で削孔されたアンカー孔7の開口部まで延設された引張り部4と、緊張力が加えられた引張り部4の他方の端部をアンカー孔7の開口部で定着するアンカー頭部2と、引張り部4の外側を覆うシース5と、引張り部4とシース5との間隙に充填された潤滑補助材9と、を備え、引張り部4は、緊張力を伝達するテンドン41と、テンドン41の外面を覆う外側形状保持材43と、テンドン41と外側形状保持材43との間隙及びテンドン41の内部間隙に充填された内側形状保持材42と、を含み、引張り部4の形状は、その外面がテンドン41の外面より滑らかな形状に保持されているを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラウンドアンカーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
適当な地盤に造成されるアンカー体と構造物などの補強対象物とを高強度のテンドンで連結させ、緊張力を利用して補強対象物を安定させるグラウンドアンカーが知られている。このようなグラウンドアンカーは、斜面の安定、構造物の転倒・浮き上り防止、コンクリートダムの補強など、土木建築分野において広く利用されている。特に、護岸やダム及び切土面の耐震補強を目的として利用されている。
【0003】
グラウンドアンカーは、例えば、緊張力を伝達する部材であるテンドンの外側を管状のシースで覆う構成を有する。このグラウンドアンカーにおいて、テンドンに緊張力が作用すると、テンドンを覆うシースの内面にテンドンが接触して移動し、テンドンとシースとの間に摩擦が生じる。この摩擦による損失である摩擦損失のため、緊張力を作用させるテンドンの端部である緊張端から離れるに従って、テンドンに作用する緊張力は減少する。グラウンドアンカーにおける摩擦損失は、設計上のシースの角変化および実際の施工における種々の要因によるシースの角変化に基づいて大きさが変化するものであることが知られている。なお、シースの角変化とは、緊張端におけるシースの配設角度に対するシースの角度の変化を意味する。グラウンドアンカーにおけるアンカー長と緊張力の損失量との関係を示す算定式が、下記の非特許文献1に示されている。
【0004】
その一方で、下記の非特許文献2においては、アンカー長と緊張力の損失量との関係について異なる報告がある。図7は、アンカー長と緊張力の損失量との関係を示すグラフである。図7には、下記の非特許文献1で示されている算定式によるアンカー長と緊張力の損失量との関係を表す曲線が第1曲線B1として表示されている。また、図7には、下記の非特許文献2で示されている従来のグラウンドアンカーを用いた場合の試験結果により得られたアンカー長と緊張力の損失量との関係を表す曲線が第2曲線B2として表示されている。
【0005】
図7に示すように、アンカー長が30m以下の場合には、第1曲線B1と第2曲線B2とはほぼ重なっており、従来のグラウンドアンカーを用いた場合の試験結果は、上記算定式で算定した摩擦量とほぼ一致している。しかし、アンカー長が30mを超えると、第2曲線B2が第1曲線B1を下回るようになる。この現象が生じる原因については、下記非特許文献2においては言及されておらず、特定されていなかった。
【0006】
他方、下記の特許文献1には、樹脂被覆PC鋼より線とこの樹脂被覆PC鋼より線の外側を覆う樹脂シースとの間に潤滑剤が充填されたアンボンドPC鋼より線が開示されている。特許文献1に開示されたアンボンドPC鋼より線によれば、樹脂シースと樹脂被覆PC鋼より線との間の摩擦抵抗を低減でき、摩擦損失を抑えることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−3606号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】地盤工学学会基準グラウンドアンカー設計・施工基準、同解説(JGS4101−2000)
【非特許文献2】下田薫,中村和博,田久勉:大規模地すべり対策に用いた長尺グラウンドアンカー工の課題と検証 ―鳥取道 美成地すべり―,高速道路調査会 技術情報誌「EXTEC」,No.87,pp.9-12,2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1に開示されたアンボンドPC鋼より線を使用した長尺のグラウンドアンカーでは、樹脂シースと樹脂被覆PC鋼より線との間の摩擦抵抗を低減し、摩擦損失を抑えている。しかし、上記非特許文献2に記載されるように、30mを超える長尺のグラウンドアンカーでは、上記非特許文献1に示されている算定式によるアンカー長と緊張力の損失量との関係に比べて、より大きな緊張力の損失が生じる。したがって、上記した算定式により算定したテンドンとシースとの摩擦による摩擦損失より大きな緊張力の損失について抑制することができないという問題があった。
【0010】
このため、上記特許文献1に開示されたアンボンドPC鋼より線を使用した長尺グラウンドアンカーでは、上記したシースの角変化により算定した摩擦損失に加えて拘束摩擦による摩擦損失が生じるという問題があった。
【0011】
そこで本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、緊張力の損失の低減を図るグラウンドアンカー及びグラウンドアンカー工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記非特許文献1に開示された算定式により算定したテンドンとシースとの摩擦による摩擦損失よりも大きな緊張力の損失について、本発明者らは、シースの外部に充填された外部固化材であるグラウトの拘束圧に着目した。シースの外部に充填された外部固化材であるグラウトの水頭圧が大きくなると、このグラウトの水頭圧がシースを内側に押し込むように作用する圧力が大きくなる。このような、シースを内側に押し込むように作用した際に生じる圧力を、グラウトの拘束圧とよぶ。グラウトの拘束圧は、グラウンドアンカーが長尺であるほど大きくなる。テンドンとしてPC鋼より線を用いる場合、このグラウトの拘束圧により、シースがPC鋼より線のよりに沿って変形する。
【0013】
そして、このPC鋼より線に緊張力が加えられて、PC鋼より線とシースとの間に相対変位が生じる。シースとPC鋼より線とが咬み合った状態でPC鋼より線とシースとの間に相対変位が生じると、シースとPC鋼より線との咬み合わせによって摩擦(以下、「拘束摩擦」という。)が発生する。このため、グラウンドアンカーでは、上記算定式により算定した摩擦損失に加えて拘束摩擦による摩擦損失が生じると考えられる。
【0014】
そこで、上記課題を解決するため、本発明に係るグラウンドアンカーは、適当な地盤に形成されたアンカー体と、アンカー体により一方の端部が地盤に定着され、地表と地盤との間で削孔されたアンカー孔の開口部まで延設された引張り部と、緊張力が加えられた引張り部の他方の端部をアンカー孔の開口部で定着するアンカー頭部と、引張り部の外側を覆うシースと、引張り部とシースとの間隙に充填された潤滑補助材と、を備え、引張り部は、緊張力を伝達するテンドンと、テンドンの外面を覆う外側形状保持材と、テンドンと外側形状保持材との間隙及びテンドンの内部間隙に充填された内側形状保持材と、を含み、引張り部の形状は、その外面がテンドンの外面より滑らかな形状に保持されていることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、引張り部が、緊張力を伝達するテンドンと、引張り部の形状を保持する形状保持材とを含んでいる。この形状保持材によって引張り部の外面がテンドンの外面より滑らかな形状に保持されることにより、引張り部の外面は、テンドンの外面より凹凸を軽減したものとすることができる。このため、グラウトの拘束圧によりシースが引張り部に沿って変形したとしても、シースと引張り部との咬み合わせによる拘束摩擦を減らすことができる。その結果、緊張力の摩擦損失による減少を抑えることができる。ここで、適当な地盤とは、引張り部に加えられる緊張力に応じた強度を有する地盤を意味し、グラウンドアンカーが設けられる可能性がある地盤をいい、例えば、支持地盤やその他のある程度の強度を持った地盤等が含まれる。
【0016】
また、本発明に係るグラウンドアンカーにおいて、テンドンは、より線又はPC鋼より線であり、引張り部の形状は、引張り部の延設方向に沿った断面において、引張り部の中心線から引張り部の外面までの距離の変化量が、テンドンの中心線からテンドンの外面までの距離の変化量より小さい形状に保持されていることが好ましい。より線又はPC鋼より線は、よりのためその外面に凹凸を有する。しかしながら、形状保持材によって、引張り部の延設方向に沿った断面において、引張り部の外面は、テンドンの外面より凹凸を軽減したものとすることができる。このため、グラウトの拘束圧によりシースが引張り部に沿って変形したとしても、シースと引張り部との咬み合わせによる拘束摩擦を減らすことができる。その結果、緊張力の摩擦損失による減少を抑えることができる。
【0017】
また、本発明に係るグラウンドアンカーにおいて、引張り部の形状は、引張り部の延設方向に直交する断面において、引張り部の中心から引張り部の外面までの距離の変化量が、テンドンの中心からテンドンの外面までの距離の変化量より小さい形状に保持されていることが好ましい。これによれば、引張り部の延設方向に直交する断面において、引張り部の外面は、テンドンの外面より凹凸を軽減したものとすることができる。このため、グラウトの拘束圧によりシースが引張り部に沿って変形したとしても、シースと引張り部との咬み合わせによる拘束摩擦を減らすことができる。その結果、緊張力の摩擦損失による減少を抑えることができる。
【0018】
また、本発明に係るグラウンドアンカーにおいて、形状保持材は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂は、表面が滑らかであり、鋼線や鋼棒に比べて摩擦係数が小さい。これによれば、引張り部の外面をテンドンの外面より滑らかな形状に保持することができる。その結果、緊張力の摩擦損失による減少を抑えることができる。
【0019】
また、本発明に係るグラウンドアンカー工法は、アンカー長が30mを超える長尺グラウンドアンカーを用いたグラウンドアンカー工法であって、緊張力を伝達するテンドンと、テンドンの外面を覆う外側形状保持材と、テンドンと外側形状保持材との間隙及びテンドンの内部間隙に充填された内側形状保持材と、を含み、その外面がテンドンの外面より滑らかな形状に保持されている引張り部と、引張り部の外側を覆うシースと、の間隙に潤滑補助材を充填して、適当な地盤に削孔されたアンカー孔内に引張り部とシースとを挿入する挿入工程と、地盤に引張り部の一方の端部を定着するアンカー体を造成する造成工程と、シースの外部に外部固化材を充填する充填工程と、アンカー孔の開口部において引張り部の他方の端部に緊張力を加える緊張工程と、緊張工程において緊張力が加えられた引張り部の他方の端部をアンカー孔の開口部で定着する定着工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るグラウンドアンカー及びグラウンドアンカー工法によれば、緊張力の損失の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係るグラウンドアンカーの概略構成図である。
【図2】図1に示したグラウンドアンカーの引張り部のA−A線断面図である。
【図3】図1に示したグラウンドアンカーの引張り部の側面透視図である。
【図4】従来のグラウンドアンカーの引張り部のグラウト拘束圧による影響を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係るグラウンドアンカーの引張り部のグラウト拘束圧による影響を示す図である。
【図6】図1に示したグラウンドアンカーのアンカー長と緊張力の損失量との関係を示すグラフである。
【図7】アンカー長と緊張力の損失量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0023】
図1は、本実施形態に係るグラウンドアンカー1の構造を示す図である。図2は、図1に示したグラウンドアンカー1の引張り部4のA−A線断面図である。図3は、図1に示したグラウンドアンカー1の引張り部4の側面透視図である。
【0024】
図1に示すように、グラウンドアンカー1は、アンカー頭部2と、アンカー体3と、アンカー体3からアンカー頭部2まで延設された引張り部4と、引張り部4の外面を覆うシース5と、引張り部4とシース5との間隙に充填された潤滑補助材9と、を備えて構成されている。
【0025】
アンカー頭部2は、アンカー孔7の開口部に設けられ、引張り部4の端部を補強対象物6に定着するものである。アンカー頭部2は、例えば、PC鋼より線束などのテンドンをアンカー頭部2で定着させる部材である定着具と、定着具と補強対象物6との間に設置される板状の部材である支圧板と、を含んで構成されている。また、アンカー頭部2は、構造物などの補強対象物6からの力を引張り力である緊張力として引張り部4に伝達させるための部分である。
【0026】
アンカー体3は、引張り部4の端部から引張り部4の延長方向に、延設されている。アンカー体3は、一定長を有しており、例えば、一定の強度を有する安定した地盤にグラウトの注入により造成され、引張り部4からの緊張力を地盤との摩擦抵抗もしくは支圧抵抗によって地盤に伝達させるために設置される抵抗部分である。グラウンドアンカー1を複数設ける場合には、引張り部4に加えられる緊張力が分散されるため、アンカー体3は、安定な地盤より強度の弱い地盤に設置されることも可能である。すなわち、アンカー体3は、引張り部4に加えられる緊張力に応じた強度を有する適当な地盤に設置されることができる。
【0027】
引張り部4は、アンカー頭部2からの緊張力をアンカー体3に伝達させるためのものであって、アンカー体3からアンカー頭部2まで延設されている。引張り部4は、例えば、アンカー体3により一方の端部が安定した地盤に定着され、地表と地盤との間で削孔されたアンカー孔7の開口部まで延設されている。引張り部4の他方の端部は、所定の緊張力が加えられた後、その緊張力を保持するようにアンカー頭部2により補強対象物6に定着される。引張り部4は、アンカー体3により一方の端部が安定した地盤に定着され、アンカー頭部2により他方の端部が補強対象物6に定着されることで、引張り部4に加えられた緊張力を利用して補強対象物6を補強することができる。なお、アンカー体3が、引張り部4に加えられる緊張力に応じた強度を有する適当な地盤に設けられている場合には、引張り部4は、アンカー体3により一方の端部が適当な地盤に定着される。
【0028】
本実施形態において、引張り部4は、図2に示すように、緊張力を伝達する部材であるテンドン41と、引張り部4の形状を保持する部材である内側形状保持材42、外側形状保持材43とを含んで構成されている。テンドン41は、一方の端部がアンカー頭部2に定着され、他方の端部がアンカー体3に定着されており、アンカー頭部2とアンカー体3との間に緊張力を伝達している。テンドン41は、例えば、PC鋼より線である。内側形状保持材42は、テンドン41の内部間隙に充填されるものであって、特に外力作用時に変形しない材料であることが好ましい。内側形状保持材42は、例えば、ポリエチレン系樹脂からなる。外側形状保持材43は、テンドン41の外面を覆うものであって、摩擦低減効果のある材料であることが好ましい。外側形状保持材43は、例えば、高耐久性のポリエステル系硬質樹脂からなる。
【0029】
また、引張り部4は、熱可塑性樹脂である内側形状保持材42を用いて、PC鋼より線の内部間隙を充填し、かつ、硬質の樹脂である外側形状保持材43によりPC鋼より線の外面を完全に被膜するのが好ましい。引張り部4は、特に、表面の凹凸がPC鋼より線と比較して少ない形状とすることが好ましい。引張り部4は、内側形状保持材42、外側形状保持材43により、外部から圧力を受けたとしても、変形を抑制し、その形状を保持することができる。引張り部4は、特に、内側形状保持材42及び外側形状保持材43の両方を組み合わせることで、より一層その形状を保持することができる。この場合、内側形状保持材42は、テンドン41と外側形状保持材43との間隙にも充填されるのが好ましい。
【0030】
通常、テンドン41は、より線又は引張強度を増加させたPC鋼より線が用いられる。これに代えて、テンドン41は、PC鋼線、PC鋼棒などとしてもよい。また、内側形状保持材42は、塩化ビニル系樹脂、ゴムなどの熱可塑性樹脂を用いてもよい。外側形状保持材43は、ポリエステル系硬質樹脂以外の硬質樹脂を用いてもよい。
【0031】
図2に示すように、引張り部4は、引張り部4の延設方向と直交する断面において、テンドン41の外周より、凹凸が少ない滑らかな外周を有する。例えば、テンドン41として断面が円形の同一の素線7本を、中央に1本、その周囲に6本配置してより合わせたPC鋼より線を用いた場合の説明を以下に行う。ここで、引張り部4の延設方向と直交する断面において、PC鋼より線の重心Gsを中心とした角変化量をΔθs、PC鋼より線の重心GsからPC鋼より線の外周までの距離の変化量をΔls、引張り部4の重心Gcを中心とした角変化量をΔθc、引張り部4の重心Gcから引張り部4の外周までの距離の変化量をΔlcとする。
【0032】
PC鋼より線はよりを有するため、角変化量Δθsに対する距離の変化量Δlsが大きく変動する。PC鋼より線の重心GsからPC鋼より線の外周までの距離の最大値は、素線の半径rの3倍である。一方、PC鋼より線の重心GsからPC鋼より線の外周までの距離の最小値は、素線の半径rの1.73倍である。PC鋼より線の重心GsからPC鋼より線の外周までの距離は、PC鋼より線の重心Gsを中心として30°角変化する毎に、最大値と最小値との間で変動する。すなわち、PC鋼より線の重心GsからPC鋼より線の外周までの距離は、PC鋼より線の重心Gsを中心として30°角変化する間に、1.27rの変化を生じる。
【0033】
これに対して、角変化量Δθcに対する距離の変化量Δlcは、角変化Δθsに対する距離の変化量Δlsに比べて変動幅が小さい。例えば、図2に示す引張り部4において、引張り部4の重心Gcから引張り部4の外周までの距離の最大値は、素線の半径rの3倍に外側形状保持材43の厚みdを加えた値となる。一方、引張り部4の重心Gcから引張り部4の外周までの距離の最小値は、素線の半径rの2.73倍に外側形状保持材43の厚みdを加えた値となる。引張り部4の重心Gcから引張り部4の外周までの距離は、引張り部4の重心Gcを中心として30°角変化する毎に、最大値と最小値との間で変動する。すなわち、引張り部4の重心Gcから引張り部4の外周までの距離は、引張り部4の重心Gcを中心として30°角変化する間に、0.27rの変化を生じる。
【0034】
なお、上記説明は、PC鋼より線が断面円形の同一の素線をより合わせたものである場合の理論値に基づくものである。引張り部4は、上記関係を満たすものに限定されるものではなく、素線の本数も7本に限定されるものではない。また、引張り部4の延設方向と直交する断面形状は、重心を中心とした角変化に対する、引張り部4の重心から引張り部4の外周までの距離の変化量が、テンドン41に比べて小さいものであれば、如何なる形状であってもよい。例えば、引張り部4の延設方向と直交する断面形状は、円形とするのが好適である。
【0035】
図3に示すように、引張り部4は、引張り部4の延設方向と平行な断面において、テンドン41の外周より、凹凸が少ない滑らかな外周を有する。例えば、PC鋼より線はよりを有するため、引張り部4の延設方向と平行な断面において、PC鋼より線の中心線LsからPC鋼より線の外周までの距離は、外周位置により変動する。これに対して、引張り部4は、PC鋼より線と比較して凹凸の少ない外側形状保持材43がPC鋼より線の外面を覆っており、さらに内側形状保持材42がPC鋼より線の間隙に充填されている。このため、引張り部4の延設方向と平行な断面において、引張り部4の中心線Lcから引張り部4の外周までの距離は、外周位置によらずほぼ一定である。なお、引張り部4の延設方向と平行な断面形状は、引張り部4の中心線から引張り部4の外周までの距離の変化量が、テンドン41に比べて小さいものであれば、如何なる形状であってもよい。
【0036】
シース5は、引張り部4の外面を覆うものであって、引張り部4との間に所定の幅の間隙を有するように設けられている。シース5は、高密度ポリエチレンからなるものである。また、シース5の外部には、外部固化材であるグラウト8が充填される。潤滑補助材9は、シース5と引張り部4との間隙に充填された、摩擦低減型の潤滑材である。潤滑補助材9は、例えばグリスである。引張り部4に緊張力が作用すると、引張り部4を覆うシース5の内面に引張り部4が接触して移動し、シース5と引張り部4との間に摩擦が生じる。しかしながら、摩擦低減型の潤滑補助材9が充填されることにより、シース5と引張り部4との摩擦をさらに低減することが可能となる。
【0037】
続いて、本実施形態に係るグラウンドアンカーを用いた施工方法を説明する。
【0038】
まず、所定の場所において、削孔機を使用して適当な地盤までアンカー孔7を削孔する(削孔工程)。次に、アンカー孔7に引張り部4、シース5を一体挿入する(挿入工程)。この際、グラウト注入用のホースも併せて挿入する。そして、アンカー体3を適当な地盤に造成する(造成工程)。その後、シース5の周囲の空隙にグラウト8を充填し、さらにアンカー孔7の上部に構造物を構築する(充填工程)。グラウト8が硬化した後、アンカー孔7の開口部において、引張り部4の端部に緊張力を導入し(緊張工程)、引張り部4をアンカー頭部2により定着する(定着工程)。なお、引張り部4及びシース5は、アンカー孔7に挿入する前に摩擦低減型の潤滑補助材9を介して、一体的に組み立てられている。
【0039】
引き続いて、本実施形態に係る引張り部4を用いた場合のグラウト8による拘束摩擦の低減効果を、従来の引張り部を用いた場合と比較して説明する。
【0040】
図4は、従来のグラウンドアンカーのシース5がグラウト拘束圧による影響を受けてシース5が変形した状態を示す図である。図4(a)は、引張り部の延設方向と直交する断面におけるシース5の変形状態を示す断面図である。図4(b)は、引張り部の延設方向に沿った面におけるシース5の変形状態を示す側面透視図である。例えば、打設角度が45度でアンカー長100mの場合に、最深部に作用するグラウト8の拘束圧は、約1.4MPaである。このグラウト8による拘束圧によって、ポリエチレン樹脂で形成されたシース5は内側に押し込まれる。その結果、図4(a)、(b)に示したように、PC鋼より線41のよりに沿ってシース5が変形し、シース5とPC鋼より線41とが互いに咬合する。
【0041】
このように、シース5が変形した状態でグラウト8が硬化した後、PC鋼より線41に緊張力が加えられた際に、PC鋼より線41とシース5との間に相対変位が生じる。このような相対変位が生じた結果、よりに沿って凹凸変形したシース5とPC鋼より線41との間に、咬合による摩擦が生じる。
【0042】
図5は、本実施形態に係るグラウンドアンカー1のシース5のグラウト拘束圧による影響を示す図である。図5(a)は、引張り部4の延設方向と直交する断面における、グラウト拘束圧による影響を示す図である。図5(b)は、引張り部4の延設方向に沿った面における、グラウト拘束圧による影響を示す図である。引張り部4は、引張り部4の外面に凹凸がない滑らかな形状となっている。また、引張り部4は、内部に充填された樹脂である内側形状保持材42と、外部を覆う樹脂である外側形状保持材43とにより、外圧が加わったとしてもその形状を保持することが可能である。
【0043】
したがって、図5(a)、(b)に示したように、グラウト8の拘束圧によって、シース5が内側に押し込まれたとしても、引張り部4の外面はPC鋼より線41のよりに沿った凹凸変形が防止されているため、シース5と引張り部4とが互いに咬合することはない。その結果、グラウト8の硬化後に引張り部4に緊張力が加えられた際に、PC鋼より線41とシース5との間に相対変位は生じるものの、シース5と引張り部4との間における咬合による摩擦の発生を防止することができる。
【0044】
(実施例)
本実施形態に係るグラウンドアンカー1を用いて、アンカー長に対する緊張力の損失量を確認する試験を行った。図6は、本実施形態に係るグラウンドアンカー1を用いた場合の試験結果により得られたアンカー長と緊張力の損失量との関係を示すグラフである。第1曲線B1は、上記非特許文献1で示されている算定式によるアンカー長と緊張力の損失量との関係を表す曲線である。第2曲線B2は、従来のグラウンドアンカーを用いた場合の試験結果により得られたアンカー長と緊張力の損失量との関係を表す曲線である。第3曲線B3は、本実施形態に係るグラウンドアンカー1を用いた場合の試験結果により得られたアンカー長と緊張力の損失量との関係を表す曲線である。
【0045】
第1曲線B1と、第2曲線B2と、第3曲線B3とを比較すると、アンカー長が30m以下では、いずれの曲線もほぼ同等の緊張力の損失量を示している。アンカー長が30mを超えるあたりから、第1曲線B1に対して第2曲線B2及び第3曲線B3の緊張力の損失量が増加している。しかしながら、第3曲線B3の緊張力の損失量は、第2曲線B2の緊張力の損失量と比較すると、アンカー長が30mを超えるあたりから低減が見られ、アンカー長が40mを超えるあたりから大幅に低減されていることが分かる。アンカー長が長くなるにつれ、その効果は顕著である。このように、グラウンドアンカー1を用いることで、従来のグラウンドアンカーを用いた場合と比較して、アンカー長が40mを超える場合に緊張力の損失量を大幅に低減することができた。
【0046】
本実施形態によれば、グラウンドアンカー1は、引張り部4の外面がテンドン41の外面より滑らかな形状に保持されることにより、引張り部4の外面を、テンドン41の外面より凹凸を軽減したものとすることができる。このため、グラウト8の拘束圧によりシース5が引張り部4に沿って変形したとしても、シースと引張り部との咬み合わせによる拘束摩擦を減らすことができる。そして、拘束摩擦が低減するため、緊張力がより有効にアンカー体3に伝達される。また、摩擦損失が小さくなるため、摩擦係数のばらつきによる緊張時の伸びの変化が小さくなり、施工精度が向上する。さらに、定着後の摩擦切れの進行による固定端の緊張力の低下が小さくなり、アンカーとしての定着力の低下が小さくなる。
【0047】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、引張り部4は、図2に示した断面を有するが、円形などの断面であってもよい。少なくともテンドン41の断面と比較して滑らかであれば、摩擦を軽減することが可能である。同様に、引張り部4の延設方向に沿った面においても、少なくともテンドン41と比較して滑らかであれば、シースと引張り部との咬み合わせによる拘束摩擦を軽減することが可能である。また、上記実施形態では、引張り部4は、内側形状保持材42、外側形状保持材43を含むが、引張り部4の形状を保持可能であれば、いずれか一方の形状保持材のみを含む構成としてもよい。
【0048】
また、アンカー頭部2には、アンカー頭部2を覆う頭部キャップが設けられてもよい。頭部キャップは、アンカー頭部2を覆うとともに防食用材料が充填でき、かつ管理点検時には取り外しが可能なものを用いることができる。この頭部キャップとしては、例えばアルミニウム製のキャップが好適に用いられる。
【符号の説明】
【0049】
1…グラウンドアンカー、2…アンカー頭部、3…アンカー体、4…引張り部、5…シース、6…補強対象物、7…アンカー孔、8…グラウト、9…潤滑補助材、41…テンドン、42…内側形状保持材、43…外側形状保持材、Gc…引張り部の重心、Gs…PC鋼より線の重心、Lc…引張り部の中心線、Ls…PC鋼より線の中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
適当な地盤に形成されたアンカー体と、
前記アンカー体により一方の端部が前記地盤に定着され、地表と前記地盤との間で削孔されたアンカー孔の開口部まで延設された引張り部と、
緊張力が加えられた前記引張り部の他方の端部を前記アンカー孔の開口部で定着するアンカー頭部と、
前記引張り部の外側を覆うシースと、
前記引張り部と前記シースとの間隙に充填された潤滑補助材と、
を備え、
前記引張り部は、緊張力を伝達するテンドンと、前記テンドンの外面を覆う外側形状保持材と、前記テンドンと前記外側形状保持材との間隙及び前記テンドンの内部間隙に充填された内側形状保持材と、を含み、
前記引張り部の形状は、その外面が前記テンドンの外面より滑らかな形状に保持されている
ことを特徴とするグラウンドアンカー。
【請求項2】
前記テンドンは、より線又はPC鋼より線であり、
前記引張り部の形状は、前記引張り部の延設方向に沿った断面において、前記引張り部の中心線から前記引張り部の外面までの距離の変化量が、
前記テンドンの中心線から前記テンドンの外面までの距離の変化量より小さい形状に保持されている
ことを特徴とする請求項1に記載のグラウンドアンカー。
【請求項3】
前記引張り部の形状は、前記引張り部の延設方向に直交する断面において、前記引張り部の中心から前記引張り部の外面までの距離の変化量が、
前記テンドンの中心から前記テンドンの外面までの距離の変化量より小さい形状に保持されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載のグラウンドアンカー。
【請求項4】
前記形状保持材は、熱可塑性樹脂である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のグラウンドアンカー。
【請求項5】
アンカー長が30mを超える長尺グラウンドアンカーを用いたグラウンドアンカー工法であって、
緊張力を伝達するテンドンと、前記テンドンの外面を覆う外側形状保持材と、前記テンドンと前記外側形状保持材との間隙及び前記テンドンの内部間隙に充填された内側形状保持材と、を含み、その外面が前記テンドンの外面より滑らかな形状に保持されている引張り部と、前記引張り部の外側を覆うシースと、の間隙に潤滑補助材を充填して、適当な地盤に削孔されたアンカー孔内に前記引張り部と前記シースとを挿入する挿入工程と、
前記地盤に前記引張り部の一方の端部を定着するアンカー体を造成する造成工程と、
前記シースの外部に外部固化材を充填する充填工程と、
前記アンカー孔の開口部において前記引張り部の他方の端部に緊張力を加える緊張工程と、
前記緊張工程において緊張力が加えられた前記引張り部の前記他方の端部を前記アンカー孔の開口部で定着する定着工程と、
を備えるグラウンドアンカー工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−149455(P2012−149455A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9810(P2011−9810)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】