グラデーション表現を有する印刷物、及び、その印刷方法
【課題】特に凹版印刷や孔版印刷において、ヘアラインや幾何学柄が徐々に消えていくグラデーション表現のうち、特にハイライト部を高精彩に表現することを可能とした印刷物及び印刷方法を提供する。
【解決手段】グラデーション表現を有する印刷物であって、被印刷物の上に、第1の色のインキで加飾部全面にわたって印刷した第1印刷層と、前記第1印刷層の上の一部に、前記第1の色と異なる第2の色のインキで柄を印刷した第2印刷層と、前記第2印刷層の前記柄の全面にわたって、前記第1の色のインキでグラデーション表現を印刷した第3印刷層と、を含む。
【解決手段】グラデーション表現を有する印刷物であって、被印刷物の上に、第1の色のインキで加飾部全面にわたって印刷した第1印刷層と、前記第1印刷層の上の一部に、前記第1の色と異なる第2の色のインキで柄を印刷した第2印刷層と、前記第2印刷層の前記柄の全面にわたって、前記第1の色のインキでグラデーション表現を印刷した第3印刷層と、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘアラインや幾何学柄が徐々に消えていくグラデーション表現を有する印刷物、及び、特に凹版印刷や孔版印刷において、グラデーション表現を有する印刷物を印刷する製版および印刷技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘアラインや幾何学柄などのパターンの濃度が段階的に変化するグラデーションあるいは階調表現を印刷において再現する場合、柄を構成する微細な網点の大きさを連続的あるいは段階的に変化させて、グラデーションあるいは階調表現を再現する製版技術が利用されている。版を用いる印刷方式には大きく分けて凸版・平版・凹版・孔版と4種があるが、この網点の大きさを変えてグラデーションあるいは階調表現を再現する方法は印刷方式を限定することなく利用されている。
【0003】
柄を構成する網点の大きさが小さい部分は、ハイライト部と呼ばれる色の濃度が薄い側(0%側)に当たる。逆に網点が大きい部分は、シャドウ部と呼ばれる色の濃度が濃い側(100%側)に当たる。網点の大きさは、凹版の場合にはセルと呼ばれる窪みの開孔率に、孔版の場合にはスクリーン上の孔の大きさに依存している。
【0004】
このグラデーション調意匠をパターンで再現するには、製版時にグラデーション調にしたいパターン部分をマスクするか、あるいは、グラデーション以外の部分を隠すようにマスクして、その上から予め用意したグラデーション表現された柄を当てる方法が一般的に知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。
【0005】
上記の方法では、製版時、グラデーション調模様の準備段階と、マスク作成の段階とを踏み、二版分の画像データを用意する。また、意図した位置にグラデーション調模様を再現するために、予め用意したグラデーション調模様の大きさの調整や、マスクを当てる位置の調整作業を経て、最終的に製版用の一つの画像を形成する。こうして作成した製版用データを元に印刷用の版をおこし、この版を用いて印刷することで、グラデーションの再現が可能となる。
【0006】
しかし、グラデーションのハイライト部分になると網点が小さくなる。特に凹版や孔版では、小さなセルや孔から被印刷物へのインキ(インク)の転移が困難になり、ハイライト部分の表現が困難であった。その結果、濃度変化が滑らかなグラデーション表現された柄の再現が難しいという印刷時の問題があった。具体的には、網点を形成するセル(凹版)やスクリーン上の孔(孔版)でインキが詰ると、その部分のインキの転移不良が生じる。これが、ハイライト部分のように網点が小さくなると、インキが転移しにくくなる一要因である。
【0007】
図12は、従来の製版の仕方でグラデーション表現を再現する版によって印刷された印刷物80の平面図の一例である。この例では、柄81は、左のシャドウ部「濃い部分」から右のハイライト部「薄い部分」にむかって柄が薄くなっていくようにグラデーション表現されている。しかし、右のハイライト部で、小さな網点部分でインキが転移せずに周辺領域82と同じになってしまいハイライト部の再現が不十分になる問題が生じている。
【0008】
また、製版時にセル形状の面積を濃度と近似的に比例するように調整してグラデーションの濃淡の階調表現を良くすることも検討されている(例えば、特許文献3参照。)。しかし、この方法でも、ハイライト部の網点がシャドウ部の網点に対して相対的に小さくなる点は変わらないため、依然としてハイライト部における小さな網点部分のインキの転移不良のリスクが残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−174845号公報
【特許文献2】特開平2−110674号公報
【特許文献3】特開平9−43835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、従来の製版の仕方にてグラデーション表現を行う場合、その製版自体は可能であっても、印刷した際に特にハイライト部の小さな網点部分でインキが転移しない状態が生じる。このため、再現できる意匠の幅が狭くなるため、特に凹版や孔版では、グラデーションのハイライト部の再現性を良くする方法が求められている。
【0011】
本発明の目的は、特に凹版印刷や孔版印刷において、ヘアラインや幾何学柄が徐々に消えていくグラデーション表現のうち、特にハイライト部の再現性が良好な印刷物及び印刷方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る第1の態様のグラデーション表現を有する印刷物は、被印刷物の上に、第1の色のインキで加飾部全面にわたって印刷した第1印刷層と、
前記第1印刷層の上の一部に、前記第1の色と異なる第2の色のインキで柄を印刷した第2印刷層と、
前記第2印刷層の前記柄の全面にわたって、前記第1の色のインキで構成したグラデーション表現を形成した第3印刷層と、
を含む。
以上の構成を有するので、この印刷物は、前記第2の色のインキでグラデーション表現された柄を有する。
【0013】
本発明に係る第2の態様のグラデーション表現を有する印刷物は、被印刷物の上の一部に、第1の色のインキで構成された柄を印刷した第1印刷層と、
前記第1印刷層の前記柄の全面について前記第1の色と異なる第2の色のインキで構成したグラデーション表現を形成すると共に、前記第1印刷層の前記柄を囲む周辺部について前記第2の色のインキを印刷した第2印刷層と、
を含む。
以上の構成を有するので、この印刷物は、前記第1の色のインキでグラデーション表現された柄を有する。
【0014】
なお、前記グラデーション表現は、網点の大きさを変化させて濃淡を表現しているものであってもよい。
【0015】
本発明に係る第3の態様の印刷物の印刷方法は、被印刷物の上に、地色である第1の色のインキを加飾部全面にわたる第1版で印刷して、前記第1の色のインキが加飾部全面にわたる第1印刷層を形成する第1印刷ステップと、
前記第1印刷層の上に、前記第1の色と異なる第2の色のインキで構成される柄を有する第2版で印刷して、前記第2の色のインキで構成された柄を有する第2印刷層を形成する第2印刷ステップと、
前記第2印刷層の前記柄の上に、前記第1の色のインキで構成するグラデーション表現を有する第3版で印刷して、前記第2印刷層の前記柄の上に前記第1の色のインキで構成したグラデーション表現を積層した第3印刷層を形成する第3印刷ステップと、
を含む。
以上によって、前記第2の色のインキでグラデーション表現された柄を有する印刷物を得ることができる。
【0016】
本発明に係る第4の態様の印刷物の印刷方法は、被印刷物の上に、第1の色のインキで構成される柄を有する第1版で印刷して、前記第1の色のインキで構成された柄を有する第1印刷層を形成する第1印刷ステップと、
前記第1印刷層の前記柄の全面について前記第1の色と異なる第2の色のインキで構成するグラデーション表現を有すると共に、前記第1印刷層の前記柄を囲む周辺部について前記第2の色のインキを地色とした第2版で印刷して、前記第1印刷層の前記柄の上に前記第2の色のインキで構成したグラデーション表現を積層すると共に、前記第1印刷層の前記柄を囲む周辺部について前記第2の色のインキを積層した第2印刷層を形成する第2印刷ステップと、
を含む。
以上によって、第1の色のインキでグラデーション表現された柄を有する印刷物を得ることができる。
【0017】
前記グラデーション表現は、網点の大きさを変化させて濃淡を表現しているものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る印刷物及び印刷方法によれば、特に凹版印刷や孔版印刷においてグラデーション表現のハイライト部の再現性が良く、かつその濃度変化が滑らかなグラデーション表現された柄を有する印刷物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態1に係るグラデーション表現された柄を有する印刷物の平面図である。
【図2】図1の印刷物を印刷するための第1版のみの版20の平面図である。
【図3】図1の印刷物を印刷するための第2版のみの版30の平面図である。
【図4】図1の印刷物を印刷するための第3版のみの版40の平面図である。
【図5】図1の印刷物の変形例1を印刷するための別例の第3版のみの版40の平面図である。
【図6】図1の印刷物の各印刷層ごとの積層構造を示す概略断面図である。
【図7】図1の印刷物の変形例2の各印刷層ごとの積層構造を示す概略断面図である。
【図8】(a)は、グラデーションのシャドウ部の網点の大きさを示す概略図であり、(b)はシャドウ部とハイライト部との中間の網点の大きさを示す概略図であり、(c)は、ハイライト部の網点の大きさを示す概略図である。
【図9】実施の形態2に係るグラデーション表現された柄を有する印刷物の各印刷層ごとの積層構造を示す概略断面図である。
【図10】図9の印刷物を印刷するための第1版のみの版30の平面図である。
【図11】図9の印刷物を印刷するための第2版のみの版40の平面図である。
【図12】従来のグラデーション表現された柄を有する印刷物の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を用いて、本発明の実施の形態に係るグラデーション表現を有する印刷物、及び、その印刷物を印刷する印刷方法について説明する。なお、図面において、実質的に同一の部材は同一の符号を付している。
【0021】
(実施の形態1)
<印刷物>
図1は、実施の形態1に係るグラデーション表現を有する印刷物10の平面図である。図2は、地色である第1のインキで印刷する第1版にあたる版20の平面図である。図3は、第2の色のインキによるグラデーション表現するための柄を印刷する第2版にあたる版30の平面図である。図4は、地色である第1の色によるグラデーション表現を含む第3版にあたる版40の平面図である。図5は、図1の印刷物の変形例1を印刷するための別例の第3版にあたる版40の平面図である。また、図6は、図1の印刷物の積層構造を示す概略断面図である。図7は、図1の印刷物の変形例2の積層構造を示す概略断面図である。図1に示すように、印刷物10は、地色である第1の色が均一な周辺領域12と、周辺領域12の中で左から右に向かって第2の色の濃度が100%側から0%側に変化するグラデーション表現された柄11と、を有する。この印刷物10は、被印刷物64の上に、第1版、第2版、第3版を順に刷り重ねて形成されたものである。
【0022】
また、図6の断面図で模式的に示したように、この印刷物10は、被印刷物64の上に、地色となる第1の色のインキで加飾部全面にわたって印刷された第1印刷層63と、第1印刷層63の上の一部に、第1の色と異なる第2の色のインキで構成された柄31が印刷された第2印刷層62と、第2印刷層62の柄31の全面にわたって、第1の色のインキで構成したグラデーション表現が印刷された第3印刷層61と、を含む。第1印刷層63は、第1版で形成され、地色である第1の色を全面21、22(図6の領域611、612)にわたって形成された印刷層である。第2印刷層62は、第2版で印刷され、最終的にグラデーションを表現したい柄31(図6の領域611に対応)が形成された第2色の印刷層である。第3印刷層61は、第3版で印刷され、第2印刷層62の柄31の上に重ねられた第1の色によるグラデーション表現41(図6の領域611に対応)を含む印刷層である。図6の領域611は、第2版の版30の柄31及び第3版の版40の領域41に対応する。また、図6の領域612は、第1版の版20の領域22、第2版の版30の領域32(印刷層を有しない領域)及び第3版の版40の領域42に対応する。
【0023】
ここで、第3印刷層61において、地色である第1の色のインキで構成されたグラデーション表現は、第1の色のインキによる網点で構成されており、網点の大きな部分が第1の色の「濃い部分」、つまりシャドウ部にあたる。一方、網点の大きさが小さい部分が第1の色の「薄い部分」、つまりハイライト部分にあたる。
【0024】
図8の(a)は、グラデーションのシャドウ部の網点71の大きさを示す概略図であり、(b)はシャドウ部とハイライト部との中間の網点72の大きさを示す概略図であり、(c)は、ハイライト部の網点73の大きさを示す概略図である。
【0025】
この場合、視点を変えて、図8に示すように、本来のグラデーション表現を行っている第1の色のインキによる網点71、72、73が印刷されない部分から見える第2の色のインキに着目する。この場合、第2の色のインキが見える部分の大きさは、第1の色のインキによる網点71、72、73の大きさの変化とは逆に変化している。つまり、第3印刷層61の第1の色によるグラデーション表現は、下層の第2印刷層62上の第2の色のインキによる柄31に対して「ネガ」として作用して、第1の色のインキによるシャドウ部は、第2の色のインキについてハイライト部となり、逆に、第1の色のインキによるハイライト部は、第2の色のインキについてシャドウ部となる。
【0026】
印刷物では、被印刷物64の上に積層された第1印刷層63、第2印刷層62、第3印刷層61をそれぞれ分離して見るのではなく、一番上に積層された第3印刷層61の上から全体を見ることになる。印刷物を、第3印刷層61を通して第2印刷層62上の第2の色による柄を見ると、第3印刷層61で第1の色によるグラデーション表現のシャドウ部「濃い部分」は、第1の色のインキによる大きな網点71によって表される(図8(a))。一方、第1の色の大きな網点71で覆われた部分の隙間から見える第2の色の柄は、相対的に小さい面積となる。つまり、図4で示すように、第3印刷層61における第1の色によるグラデーション表現とは全く逆に、図1で示すように、網点が印刷されない部分から見える第2の色のインキで表される柄は相対的に面積が小さいためハイライト部「薄い部分」として見える。
【0027】
さらに、この場合、柄の周辺領域42も第1の色のインキによる均一な地色となっているため、柄の上にわたって形成されている第1の色のインキによるグラデーション表現が意識されにくくなる。逆に第1の色のインキの大きな網点71が「ネガ」として作用して、周辺領域42の第1の色と異なる第2の色の柄についてのグラデーション表現が「ポジ」として意識されやすくなる。そのため、第2の色のインキ単独の網点では通常では表現できないほど小さな網点も第1の色の大きな網点71が印刷されない部分から見える第2の色の小さな面積として表現可能である。
【0028】
また、第1の色によるグラデーション表現のハイライト部「薄い部分」は、第1の色のインキによる小さな網点73によって表される(図8(c))。一方、第1の色の小さな網点73で覆われた部分の隙間から見える第2の色の柄は、相対的に大きな面積となる。つまり、第3印刷層61における第1の色によるグラデーション表現とは全く逆に、網点が印刷されない部分から見える第2の色で表される柄は相対的に面積が大きいためシャドウ部「濃い部分」として見える。
【0029】
なお、第1の色のインキによる小さな網点73は、上記課題で指摘したように転移不良で表現されない場合があるが、この場合、第2の色のインキによる柄31は、全体としてそのまま見えることとなる。この場合、第2の色のインキによるグラデーション表現のうちシャドウ部の濃くなっていく段階において階調表現の再現性が乏しくなる場合があるが、ハイライト部とは異なってシャドウ部での濃さの変化は視覚的に区別しにくいためにあまり問題とならない。
【0030】
なお、地色である第1の色に対して、第2の色は異なる色である。この場合、第1の色と第2の色とが異なる色であるとは、その色差ΔEが1.5より大きいことを意味している。また、第1版による第1の色と第3版による第1の色は実質的に同じ色である。つまり、第1版による第1の色と、第3版による第1の色との色差ΔEが1.5以下である。
【0031】
<色差>
物体の色がどの程度異なっているかを評価する指標として、色差が広く使われている。色差は測色計を用いて容易に求められる。一般的に、L*a*b*色空間における2点(L1*、a1*、b1*)及び(L2*、a2*、b2*)間の色差ΔEは、その座標間の距離として下記式で表される。
ΔE=((L1*−L2*)2+(a1*−a2*)2+(b1*−b2*)2)1/2)
【0032】
また、色差ΔEとその感覚表現については、次のように言われている。例えば、ΔE=0〜0.5の範囲では"Trace"、ΔE=0.5〜1.5の範囲では"Slight"、ΔE=1.5〜3.0の範囲では"Noticeable"、ΔE=3.0〜6.0の範囲では"Appreciable"、ΔE=6.0〜12.0の範囲では"Much"、ΔEが12.0以上では"Very much"、となる。つまり、ΔEが1.5以下ではほぼ同じ色として感知されるが、ΔEが1.5を超えるにつれて異なる色として認識され始め、ΔEが12.0以上では全くの別の色として感知されることになる。
なお、本願明細書において同じ色と表現している箇所は、ΔEが1.5以下を指し、望ましくはΔEが0.5以下である。また、グラデーション表現する第2の色に対して、下地や上に重ねる第1の色との色差は、ΔEが1.5以上であることが好ましい。
【0033】
以下に本発明に係る印刷物を構成する被印刷物及びインキの例を示す。なお、以下の被印刷物及びインキの例は例示であって、これだけに限定するものではない。
【0034】
<被印刷物>
絵柄を刷る紙やフィルムなどの被印刷物64の素材については、使用するインキと適合するものであれば特に限定されない。なお、グラデーション表現のハイライト部において、インキの転移性に難がある素材の被印刷物であっても、上記のような本発明の効果が得られるので使用できる場合がある。また、インキの転移性を高めるため、被印刷物64の表面にコロナ処理による改質や、受容層や易接着層を設けるなどの表面処理がされていても構わない。
【0035】
<インキ>
印刷に当たっては印刷方式に合ったインキを用いるのが望ましい。それぞれの印刷方式に合ったインキを用いることで印刷適性が発揮されるため印刷品質面で好ましい結果が得られる。例えば、凹版印刷では凹版用インキを用いることが好ましく、孔版印刷では孔版印刷用インキを用いることが好ましい。
【0036】
また、使用するインキの組成については特に限定しない。インキを構成する色材としても顔料系であっても染料系であっても、また両者の混合系であってもよい。また、地色である第1の色のインキとグラデーション表現の柄とする第2のインキの間で上記のように色差ΔEが明らかに生じる色材であれば用いることができる。また、樹脂系は、アクリル系、ウレタン系、ビニル系等があるが、用いる印刷方式で使用できるインキであればその成分を限定しない。溶剤系についても、トルエン、キシレンなどの芳香族系、メチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系、酢酸エチル、酢酸n−ブチルなどエステル系、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系など、またそれらの混合系も存在するが、本発明ではインキとして印刷適性のある状態を保てる系であれば、その成分を限定しない。
【0037】
<印刷方法>
次に、実施の形態1に係る印刷物の印刷方法について説明する。印刷は、被印刷物64の上に第1版、第2版、第3版の順に刷り重ねて行う。つまり、意匠としては最後に第3版で印刷した側から見ることになる。
(a)被印刷物64の上に、地色である第1の色のインキが加飾部全面にわたる第1版から印刷して、第1の色のインキが加飾部全面にわたる第1印刷層63を形成する。
(b)第1印刷層63の上に、第1の色と異なる第2の色のインキで構成された柄を有する第2版から印刷して、第2の色のインキで構成された柄を有する第2印刷層62を形成する。
(c)第2印刷層62の柄の上に、第1の色のインキで構成したグラデーションを有する第3版かで印刷して、第1の色のインキで構成したグラデーションを有する第3印刷層61を形成する。
以上の各工程によって、第2の色のインキでグラデーション表現された柄を有する印刷物を得ることができる。
【0038】
次に、各印刷層を形成するための第1版、第2版及び第3版のそれぞれをどのように構成するかについて説明する。
【0039】
<第1版>
図2は、地色である第1の色のインキで印刷する第1版のみの版20の平面図である。第1版では、領域21と領域22の両方にセル(ないし孔)を形成する。つまり、図2の黒く塗った領域には第1の色のインキによって画線部が形成されている。この場合、セルの形状は一定の大きさのものが使用される。なお、領域21を囲む白の点線部分はその形状に沿った画線部が形成されていない部分ではなく、その上に柄が形成される位置であるため、その位置関係を明らかにするための補助的な表示である。また、領域21は網点を形成せずに0%としてもよい。つまり、その上に柄が形成される領域21については第1の色のインキによる印刷を行わなくともよい。
【0040】
<第2版>
図3は、第2の色のインキによるグラデーション表現するための柄を印刷する第2版のみの版30の平面図である。第2版では、画線部としてセルを形成する領域は、柄又はパターンを形成する領域31の部分となる。一方、領域32にはセルを形成しない。つまり、図3の黒く塗った領域31のみに網点が形成されている。なお、領域32を囲む点線部分はその形状に沿った画線部ではなく、他の版との位置関係を明らかにするための補助的な表示である。また、従来の方法であれば、グラデーションを掛けるパターン部に形成する網点の大きさは、その濃度変化に合わせて網点の大きさを変化させる。
しかし、本発明では、グラデーションを掛ける柄又はパターンの網点の大きさを変化させず、第2版の柄又はパターンのある部分全体において網点の大きさを一定としている。
【0041】
<第3版>
図4は、地色である第1の色によるグラデーション表現を含む第3版のみの版40の平面図である。第3版では、第2版の柄又はパターンの位置に対応する領域41、周辺領域42ともにセルを形成する。このとき、領域41については、再現したいグラデーション表現の濃度変化に応じて第1の色のインキによる網点71、72、73の大きさを変化させる(図8(a)〜(c))。網点の大きさの変化については、図1の領域11の第2の色のインキの一番濃度の濃いシャドウ部にあたる部分を、図4の領域41の第1の色のインキのハイライト部分に対応させる。逆に図1の領域11の第2の色のインキの一番濃度の薄いハイライト部にあたる部分を、図4の領域41の第1の色のインキのシャドウ部に対応させる。つまり、図1の領域11での第2の色のインキ濃度を「ポジ」とすれば、図4の領域41の第1の色のインキによる網点によって再現する濃度は「ネガ」の関係になる。
【0042】
なお、図4の領域41の第1の色のインキによるハイライト部分は、網点が小さくインキの転移性が悪い。この図4の領域41の第1の色のインキによるハイライト部分は、図1の最終的に得ようとするグラデーション表現の領域11の第2の色のインキによるシャドウ部にあたる。そのため、第3版の印刷時に第1の色のインキが転移していないハイライト部分があっても、第2版で印刷する領域31の第2の色の濃度を損なう影響が少ない。また、図4の領域41の第1の色のインキによるシャドウ部は、網点が大きくインキの転移性が良い。図4の領域41の第1の色のインキによるシャドウ部は、図1の領域11のハイライト部にあたる。そのため、第2版で印刷した第2の色のインキによる領域31の色を十分隠すことが可能となる。つまり、第1の色のインキによるシャドウ部によって、第2の色のインキによるハイライト部として表すことができる。
【0043】
印刷においては、第2版はグラデーション表現するための柄となる領域31を一番濃度の濃いシャドウ部の第2の色のインキによって印刷する。また、第1版と第3版とは、柄21、41の周辺領域22、42を地色である第1の色のインキによって印刷する。これにより、第1版、第2版及び第3版を刷り重ねることによって、徐々に絵柄が消えていくような意匠表現を再現できる。
また、グラデーション柄の乗っていない地色の濃度が乗算されることで、地色とパターンとのコントラストが強まり、パターンの鮮明さを強めることもできる。
【0044】
<製版方式>
上記の第1版、第2版、及び第3版の各版は、通常の製版方式で作成できる。凹版の製版について述べると、版となるシリンダーの表面にセルを形成する方法は、大きく分けてフォトリソグラフィ方式と彫刻方式がある。
まず、フォトリソグラフィ方式とは、感光剤を塗ったシリンダーの表面にパターンを焼付け、化学処理による腐蝕でセルを形成する化学的な加工方式である。このフォトリソグラフィ式には、カメラワークの名残からのフィルムを介して絵柄を焼き付ける写真製版と、1990年に日本のシンク・ラボラトリーが開発したレーザー光線で直接焼き付けるレーザーストリーム方式の2方式があり、今日ではハンドリングの良さから後者が広く使用されている。
一方、彫刻方式とは、ダイヤモンドの針でシリンダーの表面に直接セルを刻み付けてセルを形成する物理的な加工方式である。なお、この製版方式は、1963年にドイツのHELL社が開発したヘリオクリショグラフにちなんで、ヘリオと呼ばれることもある。
なお、上記製版方式は例示であって、本発明の実施においては、製版方式による限定を受けないことはもちろんである。場合によっては、無版方式であっても印刷層を積層する工程を経れば本発明の効果を利用できる。
【0045】
(変形例1)
図5は、図1の印刷物の変形例1を印刷するための別例の第3版のみの版50の平面図である。第3版に関して、図5のように柄の領域51だけでなく、図1の領域12を印刷する周辺領域52の網点の大きさも連動させて変化させてよい。この場合にも周辺領域52の下層である第1印刷層63で地色である第1の色のインキでシャドウ部と同様の濃さで均一に印刷されているので、第3印刷層61における周辺領域52のグラデーションは印刷物としては影響しない。その一方、ヘアラインのように、特に領域11にあたる部分が狭い柄やパターンの場合に各版の高精度な位置合わせを必要としないという効果が得られるため有効である。
【0046】
(変形例2)
図7は、図1の印刷物の変形例2の積層構造を示す概略断面図である。変形例2の印刷物では、第3版による印刷時に柄の周辺領域42には絵柄を形成しない(図7の点線部分)。つまり、柄の上にのみ第1の色のインキによるグラデーション表現41を積層するが、柄以外の周辺領域42には第1のインキによる印刷を行わない。この場合にも第1版による第1印刷層63によって地色である第1の色のインキが均一に印刷されているので、実施の形態1と同様の効果を奏することができる。すなわち、第1版の第1の色のインキによる柄の周辺領域22の均一な地色によって、第1の色の大きな網点71が「ネガ」として作用する。そのため、第2の色のインキ単独の網点では通常では表現できないほど小さな網点も第1の色の大きな網点71の印刷されない部分から見える第2の色の小さな面積として表現可能である。
【0047】
(実施の形態2)
<印刷物>
図9は、実施の形態2に係るグラデーション表現を有する印刷物の各印刷層ごとの積層構造を示す概略断面図である。図10は、第1の色のインキによるグラデーション表現するための柄を形成する第1版のみの版30の平面図である。図11は、地色である第2の色によるグラデーション表現を含む第2版のみの版40の平面図である。
実施の形態2に係る印刷物では、実施の形態1に係る印刷物と比較すると、実施の形態1における地色である第1の色のインキで加飾部全面を印刷した第1印刷層63を設けていない点で相違する。なお、実施の形態1と実施の形態2とでは、上記相違点のため、第1の色と第2の色との表現が入れ替わっている。そのため、実施の形態2では、グラデーション表現するための柄を第1の色のインキで構成し、地色を第2の色のインキで構成している。この実施の形態2の印刷物では、被印刷物64の上に、第1の色のインキで構成された柄が印刷された第1印刷層62(実施の形態1の第2印刷層62に対応)と、第1印刷層62の柄の全面にわたって、第1の色と異なる第2の色のインキで構成したグラデーション表現が形成されると共に、第1印刷層62の柄を囲む周辺部について第2の色のインキを印刷された第2印刷層61(実施の形態1の第3印刷層61に対応)と、を含む。
【0048】
この実施の形態2に係る印刷物においても、実施の形態1に係る印刷物と同様にグラデーション表現のうちハイライト部を鮮明に表現できる。つまり、実施の形態2においても、地色である第2の色のインキによる柄の周辺領域42の均一な地色によって、第2の色の大きな網点71が「ネガ」として作用する。そのため、第1の色のインキ単独の網点では通常では表現できないほど小さな網点も第2の色の大きな網点71の印刷されない部分から見える第2の色の小さな面積として表現可能である
【0049】
<印刷方法>
次に、実施の形態2に係る印刷物の印刷方法について説明する。印刷は、被印刷物64の上に第1版、第2版の順に刷り重ねて行う。実施の形態2に係る印刷物の印刷方法では、実施の形態1に係る印刷物の印刷方法と比較すると、実施の形態1における地色である第1の色のインキで加飾部全面を印刷した第1印刷層63を設けるステップを含まない点で相違する。
(a)被印刷物64の上に、第1の色のインキで構成される柄を有する第1版で印刷して、第1の色のインキで構成された柄を有する第1印刷層62を形成する。
(b)第1印刷層62の柄31の全面について第1の色と異なる第2の色のインキで構成したグラデーション表現を有すると共に、第1印刷層62の柄31を囲む周辺部32について第2の色のインキを地色とする第2版で印刷して、第1印刷層62の柄の上に第2の色のインキで構成したグラデーション表現を形成すると共に、第1印刷層62の柄31を囲む周辺部32について第2の色のインキを積層した第2印刷層61を形成する。
以上の各工程によって、第1の色のインキでグラデーション表現された柄を有する印刷物を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る印刷物及び印刷方法は、グラデーション表現のうち、特にハイライト部分を鮮明に表現できるので、特に凹版印刷及び孔版印刷におけるグラデーション表現を有する印刷物及び印刷方法として有用である。
【符号の説明】
【0051】
10 印刷物
11 グラデーション表現された柄の領域
12 地色の領域
20 第1版のみの画線部
21 第2版で柄を載せる領域
22 地色の領域
30 第2版のみの画線部(実施の形態2:第1版のみの画線部)
31 柄の領域
32 柄の周辺領域
40 第3版のみの画線部(実施の形態2:第2版のみの画線部)
41 第1の色のインキによるグラデーション表現(実施の形態2:第2の色のインキによるグラデーション表現)
42 地色である第1の色のインキを均一に印刷した領域
50 変形例1の第3版のみの画線部
61 第3印刷層(実施の形態2:第2印刷層)
62 第2印刷層(実施の形態2:第1印刷層)
63 第1印刷層
64 被印刷物
71、72、73 第1の色のインキによる網点
80 印刷物
81 グラデーション表現された柄
82 周辺領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘアラインや幾何学柄が徐々に消えていくグラデーション表現を有する印刷物、及び、特に凹版印刷や孔版印刷において、グラデーション表現を有する印刷物を印刷する製版および印刷技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘアラインや幾何学柄などのパターンの濃度が段階的に変化するグラデーションあるいは階調表現を印刷において再現する場合、柄を構成する微細な網点の大きさを連続的あるいは段階的に変化させて、グラデーションあるいは階調表現を再現する製版技術が利用されている。版を用いる印刷方式には大きく分けて凸版・平版・凹版・孔版と4種があるが、この網点の大きさを変えてグラデーションあるいは階調表現を再現する方法は印刷方式を限定することなく利用されている。
【0003】
柄を構成する網点の大きさが小さい部分は、ハイライト部と呼ばれる色の濃度が薄い側(0%側)に当たる。逆に網点が大きい部分は、シャドウ部と呼ばれる色の濃度が濃い側(100%側)に当たる。網点の大きさは、凹版の場合にはセルと呼ばれる窪みの開孔率に、孔版の場合にはスクリーン上の孔の大きさに依存している。
【0004】
このグラデーション調意匠をパターンで再現するには、製版時にグラデーション調にしたいパターン部分をマスクするか、あるいは、グラデーション以外の部分を隠すようにマスクして、その上から予め用意したグラデーション表現された柄を当てる方法が一般的に知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。
【0005】
上記の方法では、製版時、グラデーション調模様の準備段階と、マスク作成の段階とを踏み、二版分の画像データを用意する。また、意図した位置にグラデーション調模様を再現するために、予め用意したグラデーション調模様の大きさの調整や、マスクを当てる位置の調整作業を経て、最終的に製版用の一つの画像を形成する。こうして作成した製版用データを元に印刷用の版をおこし、この版を用いて印刷することで、グラデーションの再現が可能となる。
【0006】
しかし、グラデーションのハイライト部分になると網点が小さくなる。特に凹版や孔版では、小さなセルや孔から被印刷物へのインキ(インク)の転移が困難になり、ハイライト部分の表現が困難であった。その結果、濃度変化が滑らかなグラデーション表現された柄の再現が難しいという印刷時の問題があった。具体的には、網点を形成するセル(凹版)やスクリーン上の孔(孔版)でインキが詰ると、その部分のインキの転移不良が生じる。これが、ハイライト部分のように網点が小さくなると、インキが転移しにくくなる一要因である。
【0007】
図12は、従来の製版の仕方でグラデーション表現を再現する版によって印刷された印刷物80の平面図の一例である。この例では、柄81は、左のシャドウ部「濃い部分」から右のハイライト部「薄い部分」にむかって柄が薄くなっていくようにグラデーション表現されている。しかし、右のハイライト部で、小さな網点部分でインキが転移せずに周辺領域82と同じになってしまいハイライト部の再現が不十分になる問題が生じている。
【0008】
また、製版時にセル形状の面積を濃度と近似的に比例するように調整してグラデーションの濃淡の階調表現を良くすることも検討されている(例えば、特許文献3参照。)。しかし、この方法でも、ハイライト部の網点がシャドウ部の網点に対して相対的に小さくなる点は変わらないため、依然としてハイライト部における小さな網点部分のインキの転移不良のリスクが残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−174845号公報
【特許文献2】特開平2−110674号公報
【特許文献3】特開平9−43835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、従来の製版の仕方にてグラデーション表現を行う場合、その製版自体は可能であっても、印刷した際に特にハイライト部の小さな網点部分でインキが転移しない状態が生じる。このため、再現できる意匠の幅が狭くなるため、特に凹版や孔版では、グラデーションのハイライト部の再現性を良くする方法が求められている。
【0011】
本発明の目的は、特に凹版印刷や孔版印刷において、ヘアラインや幾何学柄が徐々に消えていくグラデーション表現のうち、特にハイライト部の再現性が良好な印刷物及び印刷方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る第1の態様のグラデーション表現を有する印刷物は、被印刷物の上に、第1の色のインキで加飾部全面にわたって印刷した第1印刷層と、
前記第1印刷層の上の一部に、前記第1の色と異なる第2の色のインキで柄を印刷した第2印刷層と、
前記第2印刷層の前記柄の全面にわたって、前記第1の色のインキで構成したグラデーション表現を形成した第3印刷層と、
を含む。
以上の構成を有するので、この印刷物は、前記第2の色のインキでグラデーション表現された柄を有する。
【0013】
本発明に係る第2の態様のグラデーション表現を有する印刷物は、被印刷物の上の一部に、第1の色のインキで構成された柄を印刷した第1印刷層と、
前記第1印刷層の前記柄の全面について前記第1の色と異なる第2の色のインキで構成したグラデーション表現を形成すると共に、前記第1印刷層の前記柄を囲む周辺部について前記第2の色のインキを印刷した第2印刷層と、
を含む。
以上の構成を有するので、この印刷物は、前記第1の色のインキでグラデーション表現された柄を有する。
【0014】
なお、前記グラデーション表現は、網点の大きさを変化させて濃淡を表現しているものであってもよい。
【0015】
本発明に係る第3の態様の印刷物の印刷方法は、被印刷物の上に、地色である第1の色のインキを加飾部全面にわたる第1版で印刷して、前記第1の色のインキが加飾部全面にわたる第1印刷層を形成する第1印刷ステップと、
前記第1印刷層の上に、前記第1の色と異なる第2の色のインキで構成される柄を有する第2版で印刷して、前記第2の色のインキで構成された柄を有する第2印刷層を形成する第2印刷ステップと、
前記第2印刷層の前記柄の上に、前記第1の色のインキで構成するグラデーション表現を有する第3版で印刷して、前記第2印刷層の前記柄の上に前記第1の色のインキで構成したグラデーション表現を積層した第3印刷層を形成する第3印刷ステップと、
を含む。
以上によって、前記第2の色のインキでグラデーション表現された柄を有する印刷物を得ることができる。
【0016】
本発明に係る第4の態様の印刷物の印刷方法は、被印刷物の上に、第1の色のインキで構成される柄を有する第1版で印刷して、前記第1の色のインキで構成された柄を有する第1印刷層を形成する第1印刷ステップと、
前記第1印刷層の前記柄の全面について前記第1の色と異なる第2の色のインキで構成するグラデーション表現を有すると共に、前記第1印刷層の前記柄を囲む周辺部について前記第2の色のインキを地色とした第2版で印刷して、前記第1印刷層の前記柄の上に前記第2の色のインキで構成したグラデーション表現を積層すると共に、前記第1印刷層の前記柄を囲む周辺部について前記第2の色のインキを積層した第2印刷層を形成する第2印刷ステップと、
を含む。
以上によって、第1の色のインキでグラデーション表現された柄を有する印刷物を得ることができる。
【0017】
前記グラデーション表現は、網点の大きさを変化させて濃淡を表現しているものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る印刷物及び印刷方法によれば、特に凹版印刷や孔版印刷においてグラデーション表現のハイライト部の再現性が良く、かつその濃度変化が滑らかなグラデーション表現された柄を有する印刷物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態1に係るグラデーション表現された柄を有する印刷物の平面図である。
【図2】図1の印刷物を印刷するための第1版のみの版20の平面図である。
【図3】図1の印刷物を印刷するための第2版のみの版30の平面図である。
【図4】図1の印刷物を印刷するための第3版のみの版40の平面図である。
【図5】図1の印刷物の変形例1を印刷するための別例の第3版のみの版40の平面図である。
【図6】図1の印刷物の各印刷層ごとの積層構造を示す概略断面図である。
【図7】図1の印刷物の変形例2の各印刷層ごとの積層構造を示す概略断面図である。
【図8】(a)は、グラデーションのシャドウ部の網点の大きさを示す概略図であり、(b)はシャドウ部とハイライト部との中間の網点の大きさを示す概略図であり、(c)は、ハイライト部の網点の大きさを示す概略図である。
【図9】実施の形態2に係るグラデーション表現された柄を有する印刷物の各印刷層ごとの積層構造を示す概略断面図である。
【図10】図9の印刷物を印刷するための第1版のみの版30の平面図である。
【図11】図9の印刷物を印刷するための第2版のみの版40の平面図である。
【図12】従来のグラデーション表現された柄を有する印刷物の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を用いて、本発明の実施の形態に係るグラデーション表現を有する印刷物、及び、その印刷物を印刷する印刷方法について説明する。なお、図面において、実質的に同一の部材は同一の符号を付している。
【0021】
(実施の形態1)
<印刷物>
図1は、実施の形態1に係るグラデーション表現を有する印刷物10の平面図である。図2は、地色である第1のインキで印刷する第1版にあたる版20の平面図である。図3は、第2の色のインキによるグラデーション表現するための柄を印刷する第2版にあたる版30の平面図である。図4は、地色である第1の色によるグラデーション表現を含む第3版にあたる版40の平面図である。図5は、図1の印刷物の変形例1を印刷するための別例の第3版にあたる版40の平面図である。また、図6は、図1の印刷物の積層構造を示す概略断面図である。図7は、図1の印刷物の変形例2の積層構造を示す概略断面図である。図1に示すように、印刷物10は、地色である第1の色が均一な周辺領域12と、周辺領域12の中で左から右に向かって第2の色の濃度が100%側から0%側に変化するグラデーション表現された柄11と、を有する。この印刷物10は、被印刷物64の上に、第1版、第2版、第3版を順に刷り重ねて形成されたものである。
【0022】
また、図6の断面図で模式的に示したように、この印刷物10は、被印刷物64の上に、地色となる第1の色のインキで加飾部全面にわたって印刷された第1印刷層63と、第1印刷層63の上の一部に、第1の色と異なる第2の色のインキで構成された柄31が印刷された第2印刷層62と、第2印刷層62の柄31の全面にわたって、第1の色のインキで構成したグラデーション表現が印刷された第3印刷層61と、を含む。第1印刷層63は、第1版で形成され、地色である第1の色を全面21、22(図6の領域611、612)にわたって形成された印刷層である。第2印刷層62は、第2版で印刷され、最終的にグラデーションを表現したい柄31(図6の領域611に対応)が形成された第2色の印刷層である。第3印刷層61は、第3版で印刷され、第2印刷層62の柄31の上に重ねられた第1の色によるグラデーション表現41(図6の領域611に対応)を含む印刷層である。図6の領域611は、第2版の版30の柄31及び第3版の版40の領域41に対応する。また、図6の領域612は、第1版の版20の領域22、第2版の版30の領域32(印刷層を有しない領域)及び第3版の版40の領域42に対応する。
【0023】
ここで、第3印刷層61において、地色である第1の色のインキで構成されたグラデーション表現は、第1の色のインキによる網点で構成されており、網点の大きな部分が第1の色の「濃い部分」、つまりシャドウ部にあたる。一方、網点の大きさが小さい部分が第1の色の「薄い部分」、つまりハイライト部分にあたる。
【0024】
図8の(a)は、グラデーションのシャドウ部の網点71の大きさを示す概略図であり、(b)はシャドウ部とハイライト部との中間の網点72の大きさを示す概略図であり、(c)は、ハイライト部の網点73の大きさを示す概略図である。
【0025】
この場合、視点を変えて、図8に示すように、本来のグラデーション表現を行っている第1の色のインキによる網点71、72、73が印刷されない部分から見える第2の色のインキに着目する。この場合、第2の色のインキが見える部分の大きさは、第1の色のインキによる網点71、72、73の大きさの変化とは逆に変化している。つまり、第3印刷層61の第1の色によるグラデーション表現は、下層の第2印刷層62上の第2の色のインキによる柄31に対して「ネガ」として作用して、第1の色のインキによるシャドウ部は、第2の色のインキについてハイライト部となり、逆に、第1の色のインキによるハイライト部は、第2の色のインキについてシャドウ部となる。
【0026】
印刷物では、被印刷物64の上に積層された第1印刷層63、第2印刷層62、第3印刷層61をそれぞれ分離して見るのではなく、一番上に積層された第3印刷層61の上から全体を見ることになる。印刷物を、第3印刷層61を通して第2印刷層62上の第2の色による柄を見ると、第3印刷層61で第1の色によるグラデーション表現のシャドウ部「濃い部分」は、第1の色のインキによる大きな網点71によって表される(図8(a))。一方、第1の色の大きな網点71で覆われた部分の隙間から見える第2の色の柄は、相対的に小さい面積となる。つまり、図4で示すように、第3印刷層61における第1の色によるグラデーション表現とは全く逆に、図1で示すように、網点が印刷されない部分から見える第2の色のインキで表される柄は相対的に面積が小さいためハイライト部「薄い部分」として見える。
【0027】
さらに、この場合、柄の周辺領域42も第1の色のインキによる均一な地色となっているため、柄の上にわたって形成されている第1の色のインキによるグラデーション表現が意識されにくくなる。逆に第1の色のインキの大きな網点71が「ネガ」として作用して、周辺領域42の第1の色と異なる第2の色の柄についてのグラデーション表現が「ポジ」として意識されやすくなる。そのため、第2の色のインキ単独の網点では通常では表現できないほど小さな網点も第1の色の大きな網点71が印刷されない部分から見える第2の色の小さな面積として表現可能である。
【0028】
また、第1の色によるグラデーション表現のハイライト部「薄い部分」は、第1の色のインキによる小さな網点73によって表される(図8(c))。一方、第1の色の小さな網点73で覆われた部分の隙間から見える第2の色の柄は、相対的に大きな面積となる。つまり、第3印刷層61における第1の色によるグラデーション表現とは全く逆に、網点が印刷されない部分から見える第2の色で表される柄は相対的に面積が大きいためシャドウ部「濃い部分」として見える。
【0029】
なお、第1の色のインキによる小さな網点73は、上記課題で指摘したように転移不良で表現されない場合があるが、この場合、第2の色のインキによる柄31は、全体としてそのまま見えることとなる。この場合、第2の色のインキによるグラデーション表現のうちシャドウ部の濃くなっていく段階において階調表現の再現性が乏しくなる場合があるが、ハイライト部とは異なってシャドウ部での濃さの変化は視覚的に区別しにくいためにあまり問題とならない。
【0030】
なお、地色である第1の色に対して、第2の色は異なる色である。この場合、第1の色と第2の色とが異なる色であるとは、その色差ΔEが1.5より大きいことを意味している。また、第1版による第1の色と第3版による第1の色は実質的に同じ色である。つまり、第1版による第1の色と、第3版による第1の色との色差ΔEが1.5以下である。
【0031】
<色差>
物体の色がどの程度異なっているかを評価する指標として、色差が広く使われている。色差は測色計を用いて容易に求められる。一般的に、L*a*b*色空間における2点(L1*、a1*、b1*)及び(L2*、a2*、b2*)間の色差ΔEは、その座標間の距離として下記式で表される。
ΔE=((L1*−L2*)2+(a1*−a2*)2+(b1*−b2*)2)1/2)
【0032】
また、色差ΔEとその感覚表現については、次のように言われている。例えば、ΔE=0〜0.5の範囲では"Trace"、ΔE=0.5〜1.5の範囲では"Slight"、ΔE=1.5〜3.0の範囲では"Noticeable"、ΔE=3.0〜6.0の範囲では"Appreciable"、ΔE=6.0〜12.0の範囲では"Much"、ΔEが12.0以上では"Very much"、となる。つまり、ΔEが1.5以下ではほぼ同じ色として感知されるが、ΔEが1.5を超えるにつれて異なる色として認識され始め、ΔEが12.0以上では全くの別の色として感知されることになる。
なお、本願明細書において同じ色と表現している箇所は、ΔEが1.5以下を指し、望ましくはΔEが0.5以下である。また、グラデーション表現する第2の色に対して、下地や上に重ねる第1の色との色差は、ΔEが1.5以上であることが好ましい。
【0033】
以下に本発明に係る印刷物を構成する被印刷物及びインキの例を示す。なお、以下の被印刷物及びインキの例は例示であって、これだけに限定するものではない。
【0034】
<被印刷物>
絵柄を刷る紙やフィルムなどの被印刷物64の素材については、使用するインキと適合するものであれば特に限定されない。なお、グラデーション表現のハイライト部において、インキの転移性に難がある素材の被印刷物であっても、上記のような本発明の効果が得られるので使用できる場合がある。また、インキの転移性を高めるため、被印刷物64の表面にコロナ処理による改質や、受容層や易接着層を設けるなどの表面処理がされていても構わない。
【0035】
<インキ>
印刷に当たっては印刷方式に合ったインキを用いるのが望ましい。それぞれの印刷方式に合ったインキを用いることで印刷適性が発揮されるため印刷品質面で好ましい結果が得られる。例えば、凹版印刷では凹版用インキを用いることが好ましく、孔版印刷では孔版印刷用インキを用いることが好ましい。
【0036】
また、使用するインキの組成については特に限定しない。インキを構成する色材としても顔料系であっても染料系であっても、また両者の混合系であってもよい。また、地色である第1の色のインキとグラデーション表現の柄とする第2のインキの間で上記のように色差ΔEが明らかに生じる色材であれば用いることができる。また、樹脂系は、アクリル系、ウレタン系、ビニル系等があるが、用いる印刷方式で使用できるインキであればその成分を限定しない。溶剤系についても、トルエン、キシレンなどの芳香族系、メチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系、酢酸エチル、酢酸n−ブチルなどエステル系、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系など、またそれらの混合系も存在するが、本発明ではインキとして印刷適性のある状態を保てる系であれば、その成分を限定しない。
【0037】
<印刷方法>
次に、実施の形態1に係る印刷物の印刷方法について説明する。印刷は、被印刷物64の上に第1版、第2版、第3版の順に刷り重ねて行う。つまり、意匠としては最後に第3版で印刷した側から見ることになる。
(a)被印刷物64の上に、地色である第1の色のインキが加飾部全面にわたる第1版から印刷して、第1の色のインキが加飾部全面にわたる第1印刷層63を形成する。
(b)第1印刷層63の上に、第1の色と異なる第2の色のインキで構成された柄を有する第2版から印刷して、第2の色のインキで構成された柄を有する第2印刷層62を形成する。
(c)第2印刷層62の柄の上に、第1の色のインキで構成したグラデーションを有する第3版かで印刷して、第1の色のインキで構成したグラデーションを有する第3印刷層61を形成する。
以上の各工程によって、第2の色のインキでグラデーション表現された柄を有する印刷物を得ることができる。
【0038】
次に、各印刷層を形成するための第1版、第2版及び第3版のそれぞれをどのように構成するかについて説明する。
【0039】
<第1版>
図2は、地色である第1の色のインキで印刷する第1版のみの版20の平面図である。第1版では、領域21と領域22の両方にセル(ないし孔)を形成する。つまり、図2の黒く塗った領域には第1の色のインキによって画線部が形成されている。この場合、セルの形状は一定の大きさのものが使用される。なお、領域21を囲む白の点線部分はその形状に沿った画線部が形成されていない部分ではなく、その上に柄が形成される位置であるため、その位置関係を明らかにするための補助的な表示である。また、領域21は網点を形成せずに0%としてもよい。つまり、その上に柄が形成される領域21については第1の色のインキによる印刷を行わなくともよい。
【0040】
<第2版>
図3は、第2の色のインキによるグラデーション表現するための柄を印刷する第2版のみの版30の平面図である。第2版では、画線部としてセルを形成する領域は、柄又はパターンを形成する領域31の部分となる。一方、領域32にはセルを形成しない。つまり、図3の黒く塗った領域31のみに網点が形成されている。なお、領域32を囲む点線部分はその形状に沿った画線部ではなく、他の版との位置関係を明らかにするための補助的な表示である。また、従来の方法であれば、グラデーションを掛けるパターン部に形成する網点の大きさは、その濃度変化に合わせて網点の大きさを変化させる。
しかし、本発明では、グラデーションを掛ける柄又はパターンの網点の大きさを変化させず、第2版の柄又はパターンのある部分全体において網点の大きさを一定としている。
【0041】
<第3版>
図4は、地色である第1の色によるグラデーション表現を含む第3版のみの版40の平面図である。第3版では、第2版の柄又はパターンの位置に対応する領域41、周辺領域42ともにセルを形成する。このとき、領域41については、再現したいグラデーション表現の濃度変化に応じて第1の色のインキによる網点71、72、73の大きさを変化させる(図8(a)〜(c))。網点の大きさの変化については、図1の領域11の第2の色のインキの一番濃度の濃いシャドウ部にあたる部分を、図4の領域41の第1の色のインキのハイライト部分に対応させる。逆に図1の領域11の第2の色のインキの一番濃度の薄いハイライト部にあたる部分を、図4の領域41の第1の色のインキのシャドウ部に対応させる。つまり、図1の領域11での第2の色のインキ濃度を「ポジ」とすれば、図4の領域41の第1の色のインキによる網点によって再現する濃度は「ネガ」の関係になる。
【0042】
なお、図4の領域41の第1の色のインキによるハイライト部分は、網点が小さくインキの転移性が悪い。この図4の領域41の第1の色のインキによるハイライト部分は、図1の最終的に得ようとするグラデーション表現の領域11の第2の色のインキによるシャドウ部にあたる。そのため、第3版の印刷時に第1の色のインキが転移していないハイライト部分があっても、第2版で印刷する領域31の第2の色の濃度を損なう影響が少ない。また、図4の領域41の第1の色のインキによるシャドウ部は、網点が大きくインキの転移性が良い。図4の領域41の第1の色のインキによるシャドウ部は、図1の領域11のハイライト部にあたる。そのため、第2版で印刷した第2の色のインキによる領域31の色を十分隠すことが可能となる。つまり、第1の色のインキによるシャドウ部によって、第2の色のインキによるハイライト部として表すことができる。
【0043】
印刷においては、第2版はグラデーション表現するための柄となる領域31を一番濃度の濃いシャドウ部の第2の色のインキによって印刷する。また、第1版と第3版とは、柄21、41の周辺領域22、42を地色である第1の色のインキによって印刷する。これにより、第1版、第2版及び第3版を刷り重ねることによって、徐々に絵柄が消えていくような意匠表現を再現できる。
また、グラデーション柄の乗っていない地色の濃度が乗算されることで、地色とパターンとのコントラストが強まり、パターンの鮮明さを強めることもできる。
【0044】
<製版方式>
上記の第1版、第2版、及び第3版の各版は、通常の製版方式で作成できる。凹版の製版について述べると、版となるシリンダーの表面にセルを形成する方法は、大きく分けてフォトリソグラフィ方式と彫刻方式がある。
まず、フォトリソグラフィ方式とは、感光剤を塗ったシリンダーの表面にパターンを焼付け、化学処理による腐蝕でセルを形成する化学的な加工方式である。このフォトリソグラフィ式には、カメラワークの名残からのフィルムを介して絵柄を焼き付ける写真製版と、1990年に日本のシンク・ラボラトリーが開発したレーザー光線で直接焼き付けるレーザーストリーム方式の2方式があり、今日ではハンドリングの良さから後者が広く使用されている。
一方、彫刻方式とは、ダイヤモンドの針でシリンダーの表面に直接セルを刻み付けてセルを形成する物理的な加工方式である。なお、この製版方式は、1963年にドイツのHELL社が開発したヘリオクリショグラフにちなんで、ヘリオと呼ばれることもある。
なお、上記製版方式は例示であって、本発明の実施においては、製版方式による限定を受けないことはもちろんである。場合によっては、無版方式であっても印刷層を積層する工程を経れば本発明の効果を利用できる。
【0045】
(変形例1)
図5は、図1の印刷物の変形例1を印刷するための別例の第3版のみの版50の平面図である。第3版に関して、図5のように柄の領域51だけでなく、図1の領域12を印刷する周辺領域52の網点の大きさも連動させて変化させてよい。この場合にも周辺領域52の下層である第1印刷層63で地色である第1の色のインキでシャドウ部と同様の濃さで均一に印刷されているので、第3印刷層61における周辺領域52のグラデーションは印刷物としては影響しない。その一方、ヘアラインのように、特に領域11にあたる部分が狭い柄やパターンの場合に各版の高精度な位置合わせを必要としないという効果が得られるため有効である。
【0046】
(変形例2)
図7は、図1の印刷物の変形例2の積層構造を示す概略断面図である。変形例2の印刷物では、第3版による印刷時に柄の周辺領域42には絵柄を形成しない(図7の点線部分)。つまり、柄の上にのみ第1の色のインキによるグラデーション表現41を積層するが、柄以外の周辺領域42には第1のインキによる印刷を行わない。この場合にも第1版による第1印刷層63によって地色である第1の色のインキが均一に印刷されているので、実施の形態1と同様の効果を奏することができる。すなわち、第1版の第1の色のインキによる柄の周辺領域22の均一な地色によって、第1の色の大きな網点71が「ネガ」として作用する。そのため、第2の色のインキ単独の網点では通常では表現できないほど小さな網点も第1の色の大きな網点71の印刷されない部分から見える第2の色の小さな面積として表現可能である。
【0047】
(実施の形態2)
<印刷物>
図9は、実施の形態2に係るグラデーション表現を有する印刷物の各印刷層ごとの積層構造を示す概略断面図である。図10は、第1の色のインキによるグラデーション表現するための柄を形成する第1版のみの版30の平面図である。図11は、地色である第2の色によるグラデーション表現を含む第2版のみの版40の平面図である。
実施の形態2に係る印刷物では、実施の形態1に係る印刷物と比較すると、実施の形態1における地色である第1の色のインキで加飾部全面を印刷した第1印刷層63を設けていない点で相違する。なお、実施の形態1と実施の形態2とでは、上記相違点のため、第1の色と第2の色との表現が入れ替わっている。そのため、実施の形態2では、グラデーション表現するための柄を第1の色のインキで構成し、地色を第2の色のインキで構成している。この実施の形態2の印刷物では、被印刷物64の上に、第1の色のインキで構成された柄が印刷された第1印刷層62(実施の形態1の第2印刷層62に対応)と、第1印刷層62の柄の全面にわたって、第1の色と異なる第2の色のインキで構成したグラデーション表現が形成されると共に、第1印刷層62の柄を囲む周辺部について第2の色のインキを印刷された第2印刷層61(実施の形態1の第3印刷層61に対応)と、を含む。
【0048】
この実施の形態2に係る印刷物においても、実施の形態1に係る印刷物と同様にグラデーション表現のうちハイライト部を鮮明に表現できる。つまり、実施の形態2においても、地色である第2の色のインキによる柄の周辺領域42の均一な地色によって、第2の色の大きな網点71が「ネガ」として作用する。そのため、第1の色のインキ単独の網点では通常では表現できないほど小さな網点も第2の色の大きな網点71の印刷されない部分から見える第2の色の小さな面積として表現可能である
【0049】
<印刷方法>
次に、実施の形態2に係る印刷物の印刷方法について説明する。印刷は、被印刷物64の上に第1版、第2版の順に刷り重ねて行う。実施の形態2に係る印刷物の印刷方法では、実施の形態1に係る印刷物の印刷方法と比較すると、実施の形態1における地色である第1の色のインキで加飾部全面を印刷した第1印刷層63を設けるステップを含まない点で相違する。
(a)被印刷物64の上に、第1の色のインキで構成される柄を有する第1版で印刷して、第1の色のインキで構成された柄を有する第1印刷層62を形成する。
(b)第1印刷層62の柄31の全面について第1の色と異なる第2の色のインキで構成したグラデーション表現を有すると共に、第1印刷層62の柄31を囲む周辺部32について第2の色のインキを地色とする第2版で印刷して、第1印刷層62の柄の上に第2の色のインキで構成したグラデーション表現を形成すると共に、第1印刷層62の柄31を囲む周辺部32について第2の色のインキを積層した第2印刷層61を形成する。
以上の各工程によって、第1の色のインキでグラデーション表現された柄を有する印刷物を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る印刷物及び印刷方法は、グラデーション表現のうち、特にハイライト部分を鮮明に表現できるので、特に凹版印刷及び孔版印刷におけるグラデーション表現を有する印刷物及び印刷方法として有用である。
【符号の説明】
【0051】
10 印刷物
11 グラデーション表現された柄の領域
12 地色の領域
20 第1版のみの画線部
21 第2版で柄を載せる領域
22 地色の領域
30 第2版のみの画線部(実施の形態2:第1版のみの画線部)
31 柄の領域
32 柄の周辺領域
40 第3版のみの画線部(実施の形態2:第2版のみの画線部)
41 第1の色のインキによるグラデーション表現(実施の形態2:第2の色のインキによるグラデーション表現)
42 地色である第1の色のインキを均一に印刷した領域
50 変形例1の第3版のみの画線部
61 第3印刷層(実施の形態2:第2印刷層)
62 第2印刷層(実施の形態2:第1印刷層)
63 第1印刷層
64 被印刷物
71、72、73 第1の色のインキによる網点
80 印刷物
81 グラデーション表現された柄
82 周辺領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被印刷物の上に、第1の色のインキで加飾部全面にわたって印刷した第1印刷層と、
前記第1印刷層の上の一部に、前記第1の色と異なる第2の色のインキで柄を印刷した第2印刷層と、
前記第2印刷層の前記柄の全面にわたって、前記第1の色のインキで構成したグラデーション表現を形成した第3印刷層と、
を含み、前記第2の色のインキでグラデーション表現された柄を有する印刷物。
【請求項2】
被印刷物の上の一部に、第1の色のインキで構成された柄を印刷した第1印刷層と、
前記第1印刷層の前記柄の全面について前記第1の色と異なる第2の色のインキで構成したグラデーション表現を形成すると共に、前記第1印刷層の前記柄を囲む周辺部について前記第2の色のインキを印刷した第2印刷層と、
を含む、前記第1の色のインキでグラデーション表現された柄を有する印刷物。
【請求項3】
前記グラデーション表現は、網点の大きさを変化させて濃淡を表現していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の印刷物。
【請求項4】
被印刷物の上に、地色である第1の色のインキを加飾部全面にわたる第1版で印刷して、前記第1の色のインキが加飾部全面にわたる第1印刷層を形成する第1印刷ステップと、
前記第1印刷層の上に、前記第1の色と異なる第2の色のインキで構成する柄を有する第2版で印刷して、前記第2の色のインキで構成された柄を有する第2印刷層を形成する第2印刷ステップと、
前記第2印刷層の前記柄の上に、前記第1の色のインキで構成するグラデーション表現を有する第3版で印刷して、前記第2印刷層の前記柄の上に前記第1の色のインキで構成したグラデーション表現を積層した第3印刷層を形成する第3印刷ステップと、
を含む、前記第2の色のインキでグラデーション表現された柄を有する印刷物の印刷方法。
【請求項5】
被印刷物の上に、第1の色のインキで構成する柄を有する第1版で印刷して、前記第1の色のインキで構成された柄を有する第1印刷層を形成する第1印刷ステップと、
前記第1印刷層の前記柄の全面について前記第1の色と異なる第2の色のインキで構成するグラデーション表現を有すると共に、前記第1印刷層の前記柄を囲む周辺部について前記第2の色のインキを地色とする第2版で印刷して、前記第1印刷層の前記柄の上に前記第2の色のインキで構成したグラデーション表現を積層すると共に、前記第1印刷層の前記柄を囲む周辺部について前記第2の色のインキを積層した第2印刷層を形成する第2印刷ステップと、
を含む、前記第1の色のインキでグラデーション表現された柄を有する印刷物の印刷方法。
【請求項6】
前記グラデーション表現は、網点の大きさを変化させて濃淡を表現していることを特徴とする、請求項4又は5に記載の印刷物の印刷方法。
【請求項1】
被印刷物の上に、第1の色のインキで加飾部全面にわたって印刷した第1印刷層と、
前記第1印刷層の上の一部に、前記第1の色と異なる第2の色のインキで柄を印刷した第2印刷層と、
前記第2印刷層の前記柄の全面にわたって、前記第1の色のインキで構成したグラデーション表現を形成した第3印刷層と、
を含み、前記第2の色のインキでグラデーション表現された柄を有する印刷物。
【請求項2】
被印刷物の上の一部に、第1の色のインキで構成された柄を印刷した第1印刷層と、
前記第1印刷層の前記柄の全面について前記第1の色と異なる第2の色のインキで構成したグラデーション表現を形成すると共に、前記第1印刷層の前記柄を囲む周辺部について前記第2の色のインキを印刷した第2印刷層と、
を含む、前記第1の色のインキでグラデーション表現された柄を有する印刷物。
【請求項3】
前記グラデーション表現は、網点の大きさを変化させて濃淡を表現していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の印刷物。
【請求項4】
被印刷物の上に、地色である第1の色のインキを加飾部全面にわたる第1版で印刷して、前記第1の色のインキが加飾部全面にわたる第1印刷層を形成する第1印刷ステップと、
前記第1印刷層の上に、前記第1の色と異なる第2の色のインキで構成する柄を有する第2版で印刷して、前記第2の色のインキで構成された柄を有する第2印刷層を形成する第2印刷ステップと、
前記第2印刷層の前記柄の上に、前記第1の色のインキで構成するグラデーション表現を有する第3版で印刷して、前記第2印刷層の前記柄の上に前記第1の色のインキで構成したグラデーション表現を積層した第3印刷層を形成する第3印刷ステップと、
を含む、前記第2の色のインキでグラデーション表現された柄を有する印刷物の印刷方法。
【請求項5】
被印刷物の上に、第1の色のインキで構成する柄を有する第1版で印刷して、前記第1の色のインキで構成された柄を有する第1印刷層を形成する第1印刷ステップと、
前記第1印刷層の前記柄の全面について前記第1の色と異なる第2の色のインキで構成するグラデーション表現を有すると共に、前記第1印刷層の前記柄を囲む周辺部について前記第2の色のインキを地色とする第2版で印刷して、前記第1印刷層の前記柄の上に前記第2の色のインキで構成したグラデーション表現を積層すると共に、前記第1印刷層の前記柄を囲む周辺部について前記第2の色のインキを積層した第2印刷層を形成する第2印刷ステップと、
を含む、前記第1の色のインキでグラデーション表現された柄を有する印刷物の印刷方法。
【請求項6】
前記グラデーション表現は、網点の大きさを変化させて濃淡を表現していることを特徴とする、請求項4又は5に記載の印刷物の印刷方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−126049(P2012−126049A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280487(P2010−280487)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】
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