説明

グラファイトフィルムの製造方法

【発明の詳細な説明】
産業上の利用分野 この発明は、電極、発熱体、構造体、ガスケット、耐熱シール材等として使用される柔軟性かつ弾力性を持ったグラファイトフィルムの製造方法に関し、特に、無機質フィラーや有機質フィラーを含有する特殊な高分子材料を原料とし、これを特定の温度および必要に応じ圧力下で熱処理することからなるグラファイトフィルムの製造方法に関する。
従来の技術 グラファイトは、抜群の耐熱性や耐薬品性、高電気伝導性、等のため工業材料として重要な地位を占め、電極、発熱体、構造材、ガスケット、耐熱シール材、等として広く使用されている。このようなグラファイトとしては、天然に産するものを使用するのが一つの方法であるが、良質のグラファイトは生産量が非常に限られており、しかも、取り扱いにくい粉末状またはブロック状の形態を有するため、人工的にグラファイトを製造することが行われている。特に、フィルム状のグラファイトは、天然には存在しないため、専ら人工的に作成されている。
フィルム状グラファイトの人工的な製造方法の代表例が、エキスパンド法と呼ばれる方法である。これは、主にグラファイトを濃硫酸と濃硝酸の混合液に浸漬し、その後加熱によってグラファイト層間を広げると言う方法である。このようにして製造されたグラファイトは、洗浄によって酸を取り除いたのち、高圧プレス加工することによってフィルム状に加工される。しかしながら、このようにして製造されたグラファイトフィルムのいろいろな特性は、天然の単結晶グラファイトには遠く及ばず、例えば、電気伝導度は通常1.5×103S/cm程度であり(単結晶では2.0×104S/cm)、フィルム強度も粉末から製造されるため弱いものであった。また、製造工程上多量の酸が必要であり、SOxやNOxガス発生の問題もあった。さらに、製造工程で使用した酸が完全には取り除けないため、フィルムを使用する際にはその残留酸の浸出による金属の腐食、など多くの問題があった。
このようなことから、従来、このエキスパンド法によらない高品質フィルム状グラファイトの製造方法の開発が望まれていた。
発明が解決しようとする課題 上記要望を満たすため、我々は、特殊な高分子フィルムを熱処理してグラファイト化することにより直接グラファイトフィルムを得る方法を開発した。この方法は、エキスパンド法に比べ遥かに簡単、容易な方法であり、単結晶に近い優れた物性値のグラファイトが得られるばかりでなく、残留酸の問題等もない、非常に優れた方法である。
しかし、この方法には、エキスパンドグラファイト法に比べ比較的薄いグラファイトしか得られないと言う欠点があった。すなわち、原料フィルムの厚さが一般に25μm以内の場合には通常の熱処理法により15μm以内の厚さのグラファイトフィルムが得られるが、原料フィルムの厚さが25μm以上になると、一般に、フィルム内部から発生するガスのためフィルムがボロボロになり、優れたフィルム状グラファイトが得られないと言う欠点である。このように、上記高分子フィルムからフィルム状グラファイトを得る方法では、普通、15μm以上の厚さのグラファイトフィルムを得ることが困難であった。
そこで、この発明は、上記高分子フィルムの直接グラファイト化による人造グラファイトフィルムの製造法における問題点を解決して、単結晶グラファイトに近い特性を有し、良質で柔軟性と強靱性に富み、しかも15μm以上の厚さを有するグラファイトフィルムを得させる方法を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段 前記目的を達成すべく、種々検討の結果、フィルムに無機質フィラーまたは有機質フィラーを添加して高温熱処理を施すことにより均一発泡状態を作り出し、所定の厚さ以下の厚みであればグラファイトフィルムが得られることを見出して、この発明に到達した。
作用 この発明の方法によれば、酸を用いないため、従来のエキスパンドグラファイトのような問題点がなく、しかも、前述のように、従来のグラファイトフィルムに比べ遥かにすぐれた柔軟性と弾力性を持ったグラファイトフィルムを得ることが出来る。
実 施 例 以下に本発明の実施例について説明する。
この発明の方法の要点は、(1)特定の分子構造を有し、かつ無機質または有機質のフィラーを含む高分子フィルム用いること、(2)特定の範囲内の厚みを有する高分子フィルムを用いること、(3)特定の条件で熱処理すること、そして必要に応じ、熱処理後に圧延処理を施すこと、の3点に要約することが出来る。
以下、各要点について詳しく説明する。
この発明に用いられる原料高分子フィルムは、各種ポリフェニレンオキサジアゾール(POD)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンゾビスチアゾール(PBBT)、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾビスオキサゾール(PBBO)、各種ポリ(ピロメリットイミド)(PI)、ポリ(フェニレンイソフタルアミド)(PPA)、ポリ(フェニレンベンゾイミタゾール)(PBI)、ポリ(フェニレンベンゾビスイミタゾール)(PPBI)、ポリチアゾール(PT)、ポリ(パラフェニレンビニレン)(PPV)のうちから選ばれた少なくとも1種類の高分子フィルムである。ここで、各種ポリオキサジアゾールとは、ポリパラフェニレン−1・3・4−オキサジアゾールとその異性体を言う。また、各種ポリ(ピロメリットイミド)とは、下記一般式で表されるポリイミドである。




この発明では、上記高分子フィルムに無機質や有機質のフィラーが添加される。この目的に使用されるフィラーとしては、リン酸エステル系、リン酸カルシウム系、ポリエステル系、エポキシ系、ステアリン酸系、トリメリット酸系、酸化金属系、有機錫系、鉛系、アゾ系、ニトロソ系およびスルホニルヒドラジド系の各化合物を挙げることが出来る。より具体的には、リン酸エステル系化合物として、リン酸トリクレジル、リン酸(トリスイソプロピルフェニル)、トリブチルホスフェ−ト、トリエチルホスフェ−ト、トリスジクロロプロピルホスフェート、トリスブトキシエチルフォスフェート、等を、リン酸カルシウム系化合物として、リン酸二水素カルシウム、リン水素カルシウム、リン酸三カルシウム、等をあげることができる。また、ポリエステル系化合物として、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、フタル酸などとグリコール、グリセリン類とのポリマー、等をあげることが出来る。また、ステアリン酸系化合物としては、セバシン酸ジオクチル、セバシン酸ジブチル、クエン酸アセチルトリブチル、等、酸化金属系化合物としては、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉛、等、トリメリット酸系化合物としては、ジブチルフマレート、ジエチルフタレート、等、鉛系化合物としては、ステアリン酸鉛、ケイ酸鉛、等、アゾ系化合物としては、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、等、ニトロソ系化合物としては、ニトロソペンタメチレンテトラミン、等、スルホニルヒドラジド系化合物としては、p−トルエンスルホニルヒドラジド、等を挙げることが出来る。フィラーの添加量は、0.2〜20重量%の範囲が適当で、より好ましくは1〜10重量%の範囲である。その最適添加量は、高分子の厚さによって異なり、高分子の厚さが薄い場合には添加量が多い方がよく、厚い場合には添加量は少なくてよい。
フィラーの役割は熱処理後のフィルムを均一発泡の状態にすることにある。すなわち、添加されたフィラーは、加熱中にガスを発生し、このガスの発生した後の空洞が通り道となってフィルム内部からの分解ガスの穏やかな通過を助ける。フィラーはこうして均一発泡状態を作り出すのに役立つ。
この発明の方法では、出発原料として200μm以下の厚さを有するフィルムが用いられる。200μmを越える厚さを有する原料を用いた場合には、この発明の方法によっても良質のグラファイトを得ることは難しく、ボロボロのグラファイトしか得られない。本実施例においては、上記課題を解決する手段で記載している所定の厚さ以下の厚みとは、200um以下の厚みを有するフィルムである。
この発明にかかる製造方法では、最終的な最も高温の処理温度は2400℃以上であることが必要である。この処理温度が2400℃未満であると、得られたフィルムは、硬く脆いものであり、圧延処理を施すことが出来ない。また、この発明にかかる製造方法では、少なくとも、2000℃以上の温度領域での熱処理は不活性ガス中で行うことが必要である。これは、常圧下で行うことが出来る。フィラーを含まない高分子フィルムを原料とするときは加圧焼成が不可欠となるが、この発明のように、フィラーを含む高分子フィルムを原料とする場合には加圧焼成は必ずしも必要ではない。さきに述べた原理にもとづいて、フィラーによって発生するガスのため、加圧焼成を行わないでも、均一な発泡状態にあるグラファイトフィルムを得ることが出来るからである。
次に、この発明の製造方法の最後の要点である圧延工程について述べる。上記のような方法で作成された均一な発泡状態にあるフィルムは、多くの場合、脆く割れ易いものであるが、圧延処理によって強靱で柔軟性に富むグラファイトフィルムに転化することが出来る。この圧延処理は、通常、2本の金属またはセラミック製のロールの間を通過させることによって行われるが、原理的に同様の効果を有する手法であれば、その手段の如何によらず優れた性質のグラファイトフィルムを得ることが出来る。第1図(a)の均一発泡状態のグラファイトを圧延処理した場合のフィルムの状態を第1図(c)に示す(図(b)は従来のボロボロな状態のグラファイトフィルムを示す)。図(a)の状態のグラファイトは、発泡状態にあるが、グラファイト結晶子が連続しておりそのサイズが大きい。そのため、上記圧延処理によって結晶子が一方向にそろった優れた物性を有するフィルムに転化できる。この圧延処理によって優れた物性を有するグラファイトフィルムに転化出来るのは、上記均一発泡の状態にあるグラファイトフィルムのみであって、第1図(b)の状態のフィルムは、圧延処理によってものその性質は改善されない。
次に、この発明をより具体的に説明する。
−実施例1− フィラーを含まないものと、3重量%のステアリン酸カルシウムを含む、2種類の厚さ100μmのポリパラフェニレン−1・3・4−オキサジアゾールフィルム(POD)を産協電炉(株)製LTF−8型電気炉を用いて窒素ガス中10℃/minの速度で1000℃まで昇温し、1000℃で1時間保ち予備熱処理をした。次に、得られた炭素化フィルムを自由に伸び縮み出来るようグラファイト製の円筒の内部にセットし、進成電炉(株)製超高温炉46−5型を用いてグラファイト筒と共に20℃/minの速度で3000℃まで加熱した。加熱はアルゴン雰囲気中常圧で行った。
フィラーを含む原料から得られたグラファイト化フィルムは均一な発泡状態にあったが、フィラーを含まない原料から得られたフィルムはボロボロの状態にあった。
次に、試料によっては得られたフィルムをさらにステンレス製の2本のローラー(熊谷理機工業(株)製、ローラー)の間を通すことにより圧延処理を施した。均一発泡の状態にある試料は圧延処理により柔軟で強靱なフィルムとなった。得られたフィルムの引っ張り強度を測定した結果を第1表に示す。


この結果より明らかなように、フィラーを含む高分子フィルムの処理によって得られるグラファイトフィルムの引っ張り強度は大きく、圧延処理を施すことによりその強度はさらに大きくなる。
上記の手法によって得られたフィラーを含まないPODフィルムより作製したグラファイトフィルムの面方向の電気伝導度は1.5×103S/cmであったが、フィラーを含むフィルムの場合は、面方向の電気伝導度が1.6〜2.0×104S/cmであり、単結晶並の優れた電気伝導度を示した。
−実施例2− 5重量%のリン酸水素カルシウムを含む厚さ25μm、50μm、75μm、125μmのポリピロメリットイミド(デュポン(Dupont)社製、カプトンHフィルム)をそれぞれ実施例1の方法に従って2800℃で熱処理し、試料によっては得られたフィルムをさらに圧延処理した。得られたフィルムの引っ張り強度試験を行った結果を第2表に示す。


フィラーを含む厚さ250μmのフィルムを原料とした場合、常圧処理によってはボロボロの状態のフィルムとなり、良好な均一フィルムは得られなかった。しかし、200μm以下の厚さの原料フィルムでは、均一発泡状態となり、圧延処理でより柔軟フィルムと成った。
柔軟なフィルムの電気伝導度は1.4〜2.0×104S/cmであり、単結晶並の優れた電気伝導度を示した。また、元素分析による測定では、フィルムの純度は100%炭素であり、その他の元素は検出されなかった。すなわち、この手法により機械的強度に優れ、かつ高品質なフィルムが得られることが分かった。
−実施例3− 5重量%のリン酸三カルシウムを含む、厚さ50μmのPBT、PBBT、PBO、PBBO、PPA、PBI、PPBI、PT、PPV各フィルムを常圧下で3000℃の温度で熱処理し、試料によってはさらに圧延処理を施して、その引っ張り強度を測定した。その結果を第3表に示す。


以上の結果より明らかであるように、ここに示したそれぞれの高分子から、いずれも、この発明の手法により優れた物理的性質を有するグラファイトフィルムを得ることが出来ることが分かる。各フィルムの電気伝導度は1.2〜2.0×104S/cmであり、単結晶並の優れた電気伝導度を示した。
発明の効果 この発明にかかるフィルム状グラファイトの製造方法は、以上のように構成されているため、これによれば、柔軟性に富み、強靱なグラファイトフィルムを容易に得ることが出来る。得られたグラファイトフィルムは、従来のグラファイト粉末から得られるグラファイトフィルムに比べ、より強靱でかつ不純物の少ない高品質のグラファイトであって、ガスケットやパッキン等に広く使用することが出来る。この方法は、従来の高分子フィルムの高温処理によるグラファイトフィルムへ直接軟化法に比べて、遥かに厚さの厚いグラファイトを作成することが出来る利点を有する。
【図面の簡単な説明】
第1図(a)は発生するガスのため発泡状態にあり、しかも全体的に均一状態にあるグラファイトフィルムの模型図、第1図(b)は発生するガスのためボロボロな状態にあるグラファイトフィルムの模型図、第1図(c)は第1図(a)の状態のグラファイトを圧延処理した場合のフィルムの模型図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】リン酸エステル系、リン酸カルシウム系、ポリエステル系、エポキシ系、ステアリン酸系、トリメリット酸系、酸化金属系、有機錫系、鉛系、アゾ系化合物、ニトロン系およびスルホニルヒドラジド系の各化合物のうちから選択された少なくとも1種類のフィラーを含有し、加熱の際のフィルムからのガスの発生によっても、グラファイトフィルムを得られる厚みを有する高分子フィルムを2400℃以上で熱処理するグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項2】高分子フィルムは、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリ(ピロメリットイミド)、ポリ(フェニレンイソフタルアミド)、ポリ(フェニレンベンゾイミタゾール)、ポリ(フェニレンベンゾビスイミタゾール)、ポリチアゾール、ポリパラフェニレンビニレンのうちから選ばれた少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1記載のグラファイトフィルムの製造方法。

【第1図】
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【特許番号】第2976486号
【登録日】平成11年(1999)9月10日
【発行日】平成11年(1999)11月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−127289
【出願日】平成2年(1990)5月16日
【公開番号】特開平4−21508
【公開日】平成4年(1992)1月24日
【審査請求日】平成9年(1997)5月12日
【出願人】(999999999)松下電器産業株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭61−275114(JP,A)
【文献】特開 昭61−275117(JP,A)