説明

グラフェン及び酸化グラフェン塩の作製方法、並びに酸化グラフェン塩

【課題】グラフェンの原料である酸化グラフェン塩、及びグラフェンを、生産性を高く作製する。
【解決手段】グラファイト及びアルカリ金属塩を含む酸化剤を溶液中で混合して、第1の沈殿物を生成する。次に、酸性溶液を用いて、第1の沈殿物に含まれるアルカリ金属塩を含む酸化剤を電離させ、第1の沈殿物からアルカリ金属塩を含む酸化剤を除去して、第2の沈殿物を生成する。次に、第2の沈殿物と水を混合して混合液を形成した後、混合液に超音波を印加して、または混合液を機械的に攪拌して、第2の沈殿物に含まれる、グラファイトが酸化された酸化グラファイトから酸化グラフェンを分離し、酸化グラフェンが分散する分散液を調製する。次に、分散液と、塩基性溶液及び有機溶媒とを混合し、分散液に含まれる酸化グラフェン及び塩基性溶液に含まれる塩基を反応させ、酸化グラフェン塩を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン及び酸化グラフェン塩の作製方法、酸化グラフェン塩、並びに酸化グラフェン及びグラフェンを有する蓄電装置、並びに半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置において、導電性を有する電子部材としてグラフェンを用いることが検討されている。グラフェンとは、炭素で構成される六員環が平面方向に連続した炭素層であり、特に、当該炭素層が2層以上100層以下積層される場合を多層グラフェンという。
【0003】
グラフェンは化学的に安定であり、且つ電気特性が良好であるため、半導体装置に含まれるトランジスタのチャネル領域、ビア、配線等への応用に期待されている。
【0004】
一方、リチウムイオンバッテリ用の電極材料の導電性を高めるために、活性電極材料にグラフェンを被覆している。
【0005】
また、グラフェンを作製する方法として、酸化グラファイトまたは酸化グラフェンを塩基存在下で還元する方法がある。この方法において、酸化グラファイトを形成する方法として、硫酸、硝酸及び塩素酸カリウムを酸化剤として用いる方法、硫酸及び過マンガン酸カリウムを酸化剤として用いる方法、塩素酸カリウム及び発煙硝酸を酸化剤として用いる方法等がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−500488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
グラファイト及び酸化剤として硫酸及び過マンガン酸カリウムを用いて形成した酸化グラファイトを用いてグラフェンを作製する方法として、Modified Hummers法がある。図3を用いて、Modified Hummers法によりグラフェンを作製する方法を説明する。
【0008】
ステップS101に示すように、グラファイトを酸化剤により酸化し、酸化グラファイトを含む混合液1を形成する。こののち、残留した酸化剤を除去するため、混合液1に過酸化水素及び水を加え、混合液2を形成する。過酸化水素により、未反応の過マンガン酸カリウムが還元され、硫酸と反応し、硫酸マンガンを形成することができる。次に、ステップS102に示すように、混合液2から酸化グラファイトを回収する。次に、ステップS103に示すように、残留した酸化剤を除去するため、酸性溶液を用いて酸化グラファイトを洗浄する。次に、多量の水で酸化グラファイトを希釈し遠心分離し、ステップS104に示すように、酸化グラファイトから酸を分離し、酸化グラファイトを回収する。次に、ステップS105に示すように、回収した酸化グラファイトを含む混合液に超音波を印加し、酸化グラファイトを構成する酸化された炭素層を剥離し、酸化グラフェンを形成する。次に、ステップS106に示すように、不活性雰囲気で、炭素層に結合する酸素を還元する還元処理を行うことで、グラフェンを得ることができる。
【0009】
しかしながら、ステップS103に示す酸化グラフェンの洗浄工程では、多量の水が必要である。また、ステップS103を繰り返し行うことで、酸化グラファイトから酸を除去することが可能であるが、その反面、酸の含有量が少なくなると、沈殿物である酸化グラファイトと上澄み液に含まれる酸との分離が困難となり、酸化グラファイトの収率が減少してしまう。これはグラフェンの収率の低下の原因となる。
【0010】
また、蓄電装置に含まれる電極は、集電体及び活物質層で構成される。従来の電極では、活物質層には、活物質以外に導電助剤、バインダー等が含まれており、活物質層重量あたりの放電容量の低減の原因である。さらには、活物質層に含まれるバインダーは、電解液と接触すると膨潤してしまい、電極が変形し、破壊されやすい。
【0011】
そこで、本発明の一態様は、グラフェンの原料である酸化グラフェン塩、及びグラフェンを、生産性を高く作製する方法を提供する。また、生産性高くグラフェンを作製することが可能な原料である酸化グラフェン塩を提供する。また、放電容量を向上させることが可能であり、電気特性の良好な蓄電装置を提供する。また、信頼性及び耐久性の高い蓄電装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様である酸化グラフェン塩は、一般式(G1)で表される。
【0013】
【化1】

(式中、nは自然数、Aは、カルボニル基、カルボキシル基、または水酸基のいずれかを表し、Bは、アンモニウム基、アミノ基、またはアルカリ金属を表す。)
【0014】
すなわち、本発明の一態様である酸化グラフェン塩は、骨格構造として上記一般式においてCで表されるグラフェンと、上記一般式においてAで表される、グラフェンを構成する炭素と結合する、カルボニル基、カルボキシル基、または水酸基と、上記一般式においてBで表される、カルボニル基、カルボキシル基、または水酸基のいずれかと結合する、アンモニウム基、アミノ基、またはアルカリ金属とを有する。
【0015】
グラフェンは、炭素で構成される六員環が平面方向に広がっており、一部に、七員環、八員環、九員環、十員環等の、六員環の一部の炭素結合が切断された多員環が形成される。当該多員環を構成する炭素で囲まれた領域が間隙となる。
【0016】
酸化グラフェン塩は、還元雰囲気または真空雰囲気により加熱することで、還元されて、グラフェンとなる。このため、還元雰囲気または真空雰囲気において焼成することで、酸化グラフェン塩を還元し、グラフェンを生成することができる。
【0017】
本発明の一態様は、グラファイト及びアルカリ金属塩を含む酸化剤を溶液中で混合して、第1の沈殿物を生成する。次に、酸性溶液を用いて、第1の沈殿物に含まれるアルカリ金属塩を含む酸化剤を電離させ、第1の沈殿物からアルカリ金属塩を含む酸化剤を除去して、第2の沈殿物を生成する。次に、第2の沈殿物と水を混合して混合液を形成した後、混合液に超音波を印加して、または混合液を機械的に攪拌して、第2の沈殿物に含まれる、グラファイトが酸化された酸化グラファイトから酸化グラフェンを分離し、酸化グラフェンが分散する分散液を調製する。次に、分散液と、塩基性溶液及び有機溶媒とを混合し、分散液に含まれる酸化グラフェン及び塩基性溶液に含まれる塩基を反応させ、酸化グラフェン塩を生成することを特徴とする酸化グラフェン塩の作製方法である。
【0018】
また、本発明の一態様は、グラファイト及び酸化剤を溶液中で混合して、酸化グラファイト及び酸化剤を含む第1の沈殿物を有する第1の混合液を調製する。次に、第1の混合液から、第1の沈殿物を回収した後、酸性溶液を用いて第1の沈殿物から酸化剤を除去して、酸化グラファイトを含む第2の沈殿物を生成する。次に、第2の沈殿物と水を混合した後、超音波を印加し、または機械的攪拌により、酸化グラファイトから酸化グラフェンを分離し、酸化グラフェンが分散した第2の混合液を調製する。次に、第2の混合液に塩基性溶液及び有機溶媒を混合し、第2の混合液に含まれる酸化グラフェンと塩基を反応させて酸化グラフェン塩を沈殿させ、酸化グラフェン塩を回収することを特徴とする酸化グラフェン塩の作製方法である。
【0019】
また、本発明の一態様は、グラファイト及びアルカリ金属塩を含む酸化剤を溶液中で混合して、第1の沈殿物を生成し、酸性溶液を用いて第1の沈殿物に含まれるアルカリ金属塩を含む酸化剤を電離させ、第1の沈殿物からアルカリ金属塩を含む酸化剤を除去して、第2の沈殿物を生成する。次に、第2の沈殿物と水を混合した後、塩基性溶液及び有機溶媒を混合し、第2の沈殿物に含まれる、グラファイトが酸化された酸化グラファイト及び塩基性溶液に含まれる塩基性溶液を反応させ、酸化グラファイト塩を含む第3の沈殿物を生成する。次に、第3の沈殿物と水を混合して、第3の沈殿物に含まれる、酸化グラファイト塩から酸化グラフェン塩を分離し、酸化グラフェンを生成することを特徴とする酸化グラフェン塩の作製方法である。
【0020】
また、本発明の一態様は、グラファイト及び酸化剤を溶液中で混合して、酸化グラファイト及び酸化剤を含む第1の沈殿物を有する第1の混合液を調製する。次に、第1の混合液から、第1の沈殿物を回収した後、酸性溶液を用いて第1の沈殿物から酸化剤を除去して酸化グラファイトを含む第2の沈殿物を生成する。次に、第2の沈殿物と水を混合した後、塩基性溶液及び有機溶媒を混合し、第2の沈殿物に含まれる酸化グラファイトと塩基を反応させて酸化グラファイト塩を含む第3の沈殿物を生成する。次に、第3の沈殿物と水を混合した後、超音波を印加し、または機械的攪拌により、第3の沈殿物に含まれる酸化グラファイト塩から酸化グラフェン塩を分離し、前記酸化グラフェン塩が分散した第2の混合液を調製し、前記第2の混合液に含まれる前記酸化グラフェン塩を回収することを特徴とする酸化グラフェン塩の作製方法である。
【0021】
また、本発明の一態様は、上記酸化グラフェン塩の作製方法により得られた酸化グラフェン塩を還元して、グラフェンを生成することを特徴とするグラフェンの作製方法である。
【0022】
なお、上記酸化剤は、硝酸及び塩素酸カリウム、硫酸及び過マンガン酸カリウム、または硝酸、硫酸及び塩素酸カリウムである。
【0023】
また、上記酸性溶液は、塩酸、希硫酸、または硝酸である。
【0024】
また、上記塩基性溶液は、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、メチルアミン溶液、エタノールアミン溶液、ジメチルアミン溶液、またはトリメチルアミン溶液である。
【0025】
酸化剤を除去した酸化グラファイトまたは酸化グラフェンを含む混合液と塩基性溶液とを混合した後、有機溶媒を混合することで、効率よく酸化グラファイト塩または酸化グラフェン塩を沈殿させることができる。さらには、酸化グラファイト塩を含む混合液に超音波を印加し、または機械的攪拌により酸化グラファイト塩から酸化グラフェン塩を分離させる。これらの方法により得られた酸化グラフェン塩を還元処理することで、グラフェンを作製することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一態様により、グラフェンの原料である酸化グラフェン塩、及びグラフェンを、生産性を高く作製することができる。また、グラフェンの原料である酸化グラフェン塩を提供することができる。また、酸化グラフェン塩を用い、蓄電装置の正極または負極を作製することで、蓄電装置の放電容量を向上させることができる。また、蓄電装置の正極または負極に含まれるバインダーの代わりに上記グラフェンを用いることで、蓄電装置の信頼性及び耐久性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一形態に係る酸化グラフェン塩及びグラフェンの作製方法を説明する図である。
【図2】本発明の一形態に係る酸化グラフェン塩及びグラフェンの作製方法を説明する図である。
【図3】従来のグラフェンの作製方法を説明する図である。
【図4】本発明の一形態に係る負極を説明する図である。
【図5】本発明の一形態に係る正極を説明する図である。
【図6】本発明の一形態に係る蓄電装置を説明する図である。
【図7】電気機器を説明する図である。
【図8】電池1及び比較電池1の放電特性及び充電特性を説明する図である。
【図9】13C−NMRチャートを説明する図である。
【図10】赤外吸収スペクトルを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、実施の形態について図面を参照しながら説明する。但し、実施の形態は多くの異なる態様で実施することが可能であり、趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は、以下の実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0029】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一である酸化グラフェン塩について説明する。
【0030】
本実施の形態に示す酸化グラフェン塩は、一般式(G1)で表される。
【0031】
【化2】

(式中、nは自然数、Aは、カルボニル基、カルボキシル基、または水酸基のいずれかを表し、Bは、アンモニウム基、アミノ基、またはアルカリ金属を表す。)
【0032】
すなわち、本実施の形態に示す酸化グラフェン塩は、骨格構造として上記一般式においてCで表されるグラフェンと、上記一般式においてAで表される、グラフェンを構成する炭素と結合する、カルボニル基、カルボキシル基、または水酸基と、上記一般式においてBで表される、カルボニル基、カルボキシル基、または水酸基のいずれかと結合する、アンモニウム基、アミノ基、またはアルカリ金属とを有する。
【0033】
グラフェンは、炭素で構成される六員環が平面方向に広がっており、一部に、七員環、八員環、九員環、十員環等の、六員環の一部の炭素結合が切断された多員環が形成される。当該多員環を構成する炭素で囲まれた領域が間隙となる。
【0034】
ここで、一般式(G1)の具体例である一般式(G2)〜一般式(G9)を以下に示す。なお、当該具体例は、一般式(G2)〜一般式(G9)に限定されない。
【0035】
【化3】

【0036】
酸化グラフェン塩は、還元雰囲気または真空雰囲気により加熱することで、還元されて、グラフェンとなる。このため、正極または負極の活物質と酸化グラフェン塩を混合し、還元雰囲気または真空雰囲気において焼成することで、正極または負極の活物質層を形成すると共に、酸化グラフェン塩を還元しグラフェンとすることができる。
【0037】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1に示す酸化グラフェン塩、及びグラフェンまたは多層グラフェンの作製方法について、図1を用いて説明する。
【0038】
図1は、酸化グラフェン塩、及びグラフェンまたは多層グラフェンの作製工程を説明する図である。
【0039】
<グラファイトの酸化処理>
ステップS111に示すように、グラファイトを酸化剤により酸化し、酸化グラファイトを形成する。
【0040】
酸化剤としては、硫酸、硝酸及び塩素酸カリウム、硫酸及び過マンガン酸カリウム、または塩素酸カリウム及び発煙硝酸を用いる。ここでは、グラファイトと、硫酸及び過マンガン酸カリウムを混合し、グラファイトを酸化する。さらに水を加えて、酸化グラファイトを含む混合液1を形成する。
【0041】
こののち、残留した酸化剤を除去するため、混合液1に過酸化水素及び水を加えてもよい。過酸化水素により、未反応の過マンガン酸カリウムが還元され、硫酸と反応し、硫酸マンガンを形成することができる。硫酸マンガンは水溶性であるため、水に不溶である酸化グラファイトと分離できる。
【0042】
<酸化グラファイトの回収>
次に、ステップS112に示すように、混合液1から酸化グラファイトを回収する。混合液1を、濾過、遠心分離、透析等のいずれか一以上を行うことで、混合液1から酸化グラファイトを含む沈殿物1を回収する。なお、沈殿物1には未反応のグラファイトを含む。
【0043】
<酸化グラファイトの洗浄>
次に、ステップS113に示すように、酸性溶液を用いて酸化グラファイトを含む沈殿物1から、金属イオン及び硫酸イオンを除去する。ここでは、酸化グラファイトを含む沈殿物1に含まれる、酸化剤由来の金属イオンを酸性溶液に溶解させることで、酸化グラファイトから金属イオン及び硫酸イオンを除去することができる。
【0044】
酸化グラファイトは、グラファイトを構成する一部の炭素に酸素が結合するため、酸性溶液中ではカルボニル基、カルボキシル基、水酸基等の官能基を有する。このため、酸化グラファイトは酸性溶液に溶解せず、沈殿物として分離が可能である。一方、中性または塩基性溶液中では、酸化グラファイトが有するカルボニル基、カルボキシル基、水酸基等の官能基が電離しやすく、カルボニルイオン、カルボキシルイオン、水酸化物イオン等となって、中性または塩基性溶液に溶解しやすくなる。のちに得られるグラフェンの収量の低下の原因となるため、酸化グラファイトの洗浄には酸性溶液を用いる。
【0045】
酸性溶液の代表例としては、塩酸、希硫酸、硝酸等がある。なお、揮発性の高い酸、代表的には塩酸で当該処理を行うと、残留した酸性溶液が後の乾燥工程において容易に除去されるため好ましい。
【0046】
沈殿物1から、金属イオン及び硫酸イオンを除去する方法としては、沈殿物1及び酸性溶液を混合した後、濾過、遠心分離、透析等のいずれか一以上を行う方法、濾紙上に沈殿物1を設け、沈殿物1に酸性溶液を流す方法等がある。ここでは、濾紙上に沈殿物1を設け、酸性溶液を用いて沈殿物1から金属イオン及び硫酸イオンを洗い流し、酸化グラファイトを含む沈殿物2を回収する。なお、沈殿物2には未反応のグラファイトを含む。
【0047】
<酸化グラフェンの生成>
次に、ステップS114に示すように、沈殿物2を水と混合し、沈殿物2が分散する混合液2を調製する。次に、混合液2に含まれる酸化グラファイトを構成する酸素を含む炭素層をそれぞれ分離し、酸化グラフェンを分散させる。酸化グラファイトから酸化グラフェンを分離させる方法としては、超音波の印加、機械的攪拌等がある。なお、酸化グラフェンが分散する混合液を混合液3とする。
【0048】
なお、当該工程により形成された酸化グラフェンは、炭素で構成される六員環が平面方向に広がっており、一部に、七員環、八員環、九員環、十員環等の、六員環の一部の炭素結合が切断された多員環が形成される。当該多員環を構成する炭素で囲まれた領域が間隙となる。また、六員環または多員環を構成する炭素にカルボニル基、カルボキシル基、または水酸基が結合する。なお、分散する酸化グラフェンの代わりに、多層酸化グラフェンが分散してもよい。多層酸化グラフェンは、六員環または多員環を構成する炭素にカルボニル基、カルボキシル基、または水酸基が結合する炭素層(酸化グラフェン)が2層以上100層以下で構成される。
【0049】
<酸化グラフェンの回収>
次に、ステップS115に示すように、混合液3を濾過、遠心分離、透析等のいずれか一以上を行うことで、酸化グラフェンを含む混合液と、グラファイトを含む沈殿物3とに分離し、酸化グラフェンを含む混合液を回収する。なお、酸化グラフェンを含む混合液を混合液4とする。なお、酸化グラフェンは、水等の極性を有する混合液中においては、カルボニル基、カルボキシル基、または水酸基に含まれる酸素がマイナスに帯電するため、異なる酸化グラフェン同士が凝集しにくく、分散する。
【0050】
<酸化グラフェン塩の生成>
次に、ステップS116に示すように、混合液4に塩基性溶液を混合し、酸化グラフェン塩を生成した後、有機溶媒を加え、沈殿物4として酸化グラフェン塩が沈殿する混合液5を調製する。
【0051】
塩基性溶液の代表例としては、酸化グラフェンの炭素に結合する酸素を還元せず、且つ酸化グラフェンと中和反応する塩基を含む混合液が好ましく、代表的には、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、メチルアミン溶液、エタノールアミン溶液、ジメチルアミン溶液、トリメチルアミン溶液等がある。
【0052】
有機溶媒は、酸化グラフェン塩を沈殿させるために用いるため、有機溶媒としては、代表的には、アセトン、メタノール、エタノール等がある。
【0053】
<酸化グラフェン塩の回収>
次に、ステップS117に示すように、混合液5を、濾過、遠心分離、透析等のいずれか一以上を行うことで、溶媒と、酸化グラフェン塩を含む沈殿物4とに分離し、酸化グラフェン塩を含む沈殿物4を回収する。
【0054】
次に、沈殿物4を乾燥させ、酸化グラフェン塩を得ることができる。
【0055】
酸化グラフェン塩は、炭素で構成される六員環または多員環に結合するカルボニル基、カルボキシル基、または水酸基に、アンモニウム基、アミノ基、アルカリ金属等が結合している。なお、酸化グラフェン塩は2層以上100層以下積層されていてもよい。このような積層された酸化グラフェン塩を多層酸化グラフェン塩という。
【0056】
<グラフェンの生成>
なお、ステップS116の後、ステップS118に示すように、酸化グラフェン塩を含む混合液5を、基体上に設けた後、酸化グラフェン塩を還元処理することで、グラフェンを生成することができる。なお、グラフェンの代わりに、多層グラフェンが生成される場合もある。
【0057】
基体上に酸化グラフェン塩を含む混合液を設ける方法としては、塗布法、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、電気泳動法等がある。また、これらの方法を複数組み合わせてもよい。例えば、ディップ法により、基体上に酸化グラフェン塩を含む混合液を設けた後、スピンコート法と同様に基体を回転させることで、酸化グラフェン塩を含む混合液の厚さの均一性を高めることができる。
【0058】
還元処理としては、真空、不活性ガス(窒素あるいは希ガス等)、あるいは空気等の雰囲気で、150℃以上、好ましくは200℃以上の温度で加熱する。加熱する温度が高い程、また、加熱する時間が長いほど、酸化グラフェン塩が還元されやすく、純度の高い(すなわち、炭素以外の元素の濃度の低い)グラフェンが得られる。なお、グラフェンの代わりに、多層グラフェンが得られる場合もある。
【0059】
なお、Modified Hummers法では、グラファイトを硫酸で処理するため、酸化グラファイトは、スルホン基等も結合しているが、この分解(脱離)は、300℃前後で開始する。したがって、酸化グラフェン塩の還元は300℃以上で行うことが好ましい。
【0060】
上記還元処理において、隣接するグラフェンが結合し、より巨大な網目状またはシート状となる。また、当該還元処理において、酸素の脱離により、グラフェンには多員環を構成する炭素で囲まれた領域で間隙が形成される。更には、グラフェン同士が基体の表面に対して、平行に重なり合う。この結果、多層グラフェンが形成される。
【0061】
なお、上記作製方法により得られるグラフェンまたは多層グラフェンには、酸素が残存する。酸素の割合が低い程、グラフェンまたは多層グラフェンの導電性を高めることができる。また、酸素の割合を高める程、グラフェンまたは多層グラフェンにおいてイオンの通路となる間隙をより多く形成することができる。
【0062】
以上の工程により、グラフェンの原料となる酸化グラフェン塩を、生産性高く作製することができる。また、グラフェン若しくは多層グラフェンを、生産性高く作製することができる。
【0063】
(実施の形態3)
本実施の形態では、実施の形態2と異なる方法により、実施の形態1に示す酸化グラフェン塩、及びグラフェンまたは多層グラフェンを作製する方法について、図2を用いて説明する。本実施の形態では、酸化グラファイト塩を形成した後、酸化グラファイト塩を構成する炭素層を分離させ、酸化グラフェン塩を生成することを特徴とする。
【0064】
図2は、酸化グラフェン塩、及びグラフェンまたは多層グラフェンの作製工程を説明する図である。
【0065】
<グラファイトの酸化処理>
ステップS121に示すように、グラファイトを酸化剤により酸化し、酸化グラファイトを形成する。さらに水を加えて、酸化グラファイトを含む混合液11を形成する。なお、ステップS121は、実施の形態2に示すステップS111と同様に行えばよい。
【0066】
<酸化グラファイトの回収>
次に、ステップS122に示すように、混合液11から酸化グラファイトを回収する。混合液11を、濾過、遠心分離、透析等のいずれか一以上を行うことで、混合液11から酸化グラファイトを含む沈殿物11を回収する。なお、沈殿物11には未反応のグラファイトを含む。また、ステップS122は実施の形態2に示すステップS112と同様に行えばよい。
【0067】
<酸化グラファイトの洗浄>
次に、ステップS123に示すように、酸性溶液を用いて酸化グラファイトを含む沈殿物11から、金属イオン及び硫酸イオンを除去する。このとき、金属イオン及び硫酸イオンを除去した沈殿物を沈殿物12とする。なお、沈殿物12には未反応のグラファイトを含む。
【0068】
<酸化グラファイト塩の生成>
次に、ステップS124に示すように、沈殿物12を水と混合した後、塩基性溶液を混合し、酸化グラファイト塩を生成した後、有機溶媒を加え、沈殿物13である酸化グラファイト塩が沈殿する混合液12を調製する。塩基性溶液及び有機溶媒としては、実施の形態2に示すステップS116で用いた塩基性溶液及び有機溶媒をそれぞれ選択して用いればよい。
【0069】
<酸化グラファイト塩の回収>
次に、ステップS125に示すように、混合液12を、濾過、遠心分離、透析等のいずれか一以上を行うことで、有機溶媒と、酸化グラファイト塩を含む沈殿物13とに分離し、酸化グラファイト塩を含む沈殿物13を回収する。
【0070】
<酸化グラフェン塩の生成>
次に、ステップS126に示すように、沈殿物13を水と混合し、沈殿物13が分散する混合液13を形成する。次に、混合液13に含まれる酸化グラファイト塩を構成する炭素層をそれぞれ分離し、酸化グラフェン塩を分散させる。酸化グラファイト塩から酸化グラフェン塩を分離させる方法としては、超音波の印加、機械的攪拌等がある。なお、酸化グラフェン塩が分散する混合液を混合液14とする。なお、酸化グラフェン塩の代わりに、多層酸化グラフェン塩が生成される場合もある。
【0071】
<酸化グラフェン塩の回収>
次に、ステップS127に示すように、混合液14を、濾過、遠心分離、透析等のいずれか一以上を行うことで、酸化グラフェン塩を含む沈殿物14を沈殿させ、酸化グラフェン塩を含む沈殿物14を回収する。
【0072】
次に、沈殿物14を乾燥させ、酸化グラフェン塩を得ることができる。なお、ステップS127は実施の形態2に示すステップS117と同様に行えばよい。
【0073】
<グラフェンの生成>
なお、ステップS126の後、ステップS128に示すように、酸化グラフェン塩を含む混合液14を、基体上に設けた後、酸化グラフェン塩を還元処理することで、グラフェンまたは多層グラフェンを生成することができる。
【0074】
基体上に酸化グラフェン塩を含む混合液を設ける方法、及び還元処理はそれぞれ、実施の形態2に示すステップS118と同様に行えばよい。
【0075】
以上の工程により、グラフェンの原料となる酸化グラフェン塩を、生産性高く作製することができる。また、グラフェン若しくは多層グラフェンを、生産性高く作製することができる。
【0076】
(実施の形態4)
本実施の形態では、蓄電装置の電極の構造及び作製方法について説明する。
【0077】
はじめに、負極及びその作製方法について説明する。
【0078】
図4(A)は負極205の断面図である。負極205は、負極集電体201上に負極活物質層203が形成される。
【0079】
なお、活物質とは、キャリアであるイオンの挿入及び脱離に関わる物質を指す。よって、活物質と活物質層は区別される。
【0080】
負極集電体201は、銅、ステンレス、鉄、ニッケル等の導電性の高い材料を用いることができる。また、負極集電体201は、箔状、板状、網状等の形状を適宜用いることができる。
【0081】
負極活物質層203としては、キャリアであるイオンの吸蔵放出が可能な負極活物質を用いる。負極活物質の代表例としては、リチウム、アルミニウム、グラファイト、シリコン、錫、及びゲルマニウムなどがある。または、リチウム、アルミニウム、グラファイト、シリコン、錫、及びゲルマニウムから選ばれる一以上を含む化合物がある。なお、負極集電体201を用いず負極活物質層203を単体で負極として用いてもよい。負極活物質として、グラファイトと比較すると、ゲルマニウム、シリコン、リチウム、アルミニウムの方が、理論容量が大きい。金属イオンを吸蔵する容量が大きいと負極活物質量を低減することが可能であり、コストの節減及び金属イオン二次電池、代表的にはリチウムイオン二次電池の小型化につながる。
【0082】
なお、リチウムイオン二次電池以外の金属イオン二次電池に用いるキャリアイオンとしては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、またはマグネシウムイオン等がある。
【0083】
図4(B)は、負極活物質層203の平面図である。負極活物質層203は、キャリアイオンの吸蔵放出が可能な粒子状の負極活物質211と、当該負極活物質211の複数を覆いつつ、当該負極活物質211が内部に詰められたグラフェンまたは多層グラフェン213とを有する。複数の負極活物質211の表面を異なるグラフェンまたは多層グラフェン213が覆う。また、一部において、負極活物質211が露出していてもよい。
【0084】
図4(C)は、図4(B)の負極活物質層203の一部における断面図である。負極活物質層203は、負極活物質211、及び該負極活物質211を内包する、グラフェンまたは多層グラフェン213を有する。グラフェンまたは多層グラフェン213は断面図においては線状で観察される。同一のグラフェンまたは複数のグラフェンにより、複数の負極活物質を内包する。または、同一の多層グラフェンまたは複数の多層グラフェンにより、複数の負極活物質を内包する。なお、グラフェンまたは多層グラフェンは袋状になっており、該内部において、複数の負極活物質を内包する場合がある。また、グラフェンまたは多層グラフェンは、一部開放部があり、当該領域において、負極活物質が露出している場合がある。
【0085】
負極活物質層203の厚さは、20μm以上100μm以下である。
【0086】
なお、負極活物質層203には、グラフェンまたは多層グラフェンの体積の0.1倍以上10倍以下のアセチレンブラック粒子や1次元の拡がりを有するカーボン粒子(カーボンナノファイバー等)、公知のバインダーを有してもよい。
【0087】
なお、負極活物質層203にリチウムをプレドープしてもよい。スパッタリング法により負極活物質層203表面にリチウム層を形成することで、負極活物質層203にリチウムをプレドープすることができる。または、負極活物質層203の表面にリチウム箔を設けることで、負極活物質層203にリチウムをプレドープすることができる。
【0088】
なお、負極活物質においては、キャリアとなるイオンの吸蔵により体積が膨張する材料がある。このため、充放電により、負極活物質層が脆くなり、負極活物質層の一部が崩落してしまい、この結果蓄電装置の信頼性が低下する。しかしながら、負極活物質211の周辺をグラフェンまたは多層グラフェン213で覆うことで、負極活物質が充放電により体積膨張しても、負極活物質の分散や負極活物質層の崩落を妨げることが可能である。即ち、グラフェンまたは多層グラフェンは、充放電にともない負極活物質の体積が増減しても、負極活物質同士の結合を維持する機能を有する。
【0089】
また、グラフェンまたは多層グラフェン213は、複数の負極活物質と接しており、活物質及び導電助剤としても機能する。また、キャリアイオンの吸蔵放出が可能な負極活物質を保持する機能を有する。このため、負極活物質層にバインダーを混合する必要が無く、負極活物質層当たりの負極活物質量を増加させることが可能であり、さらには、活物質としても機能するため、蓄電装置の放電容量を高めることができる。
【0090】
次に、図4(B)及び(C)に示す負極活物質層203の作製方法について説明する。
【0091】
粒子状の負極活物質及び酸化グラフェン塩を含むスラリーを形成する。次に、負極集電体上に、当該スラリーを塗布した後、実施の形態2または実施の形態3に示すグラフェンまたは多層グラフェンの作製方法と同様に、還元雰囲気での加熱により還元処理を行って、負極活物質を焼成すると共に、酸化グラフェン塩から酸素の一部を脱離させ、グラフェンまたは多層グラフェンに間隙を形成する。なお、酸化グラフェン塩に含まれる酸素は全て還元されず、一部の酸素はグラフェンまたは多層グラフェンに残存する。以上の工程により、負極集電体201上に負極活物質層203を形成することができる。
【0092】
次に、図4(D)に示す負極の構造について説明する。
【0093】
図4(D)は、負極集電体201に負極活物質層203が形成される負極の断面図である。負極活物質層203は、表面が凹凸状である負極活物質221と、当該負極活物質221の表面を覆うグラフェンまたは多層グラフェン223を有する。
【0094】
凹凸状の負極活物質221は、共通部221aと、共通部221aから突出する凸部221bとを有する。凸部221bは、円柱状、角柱状等の柱状、円錐状または角錐状の針状等の形状を適宜有する。なお、凸部の頂部は湾曲していてもよい。また、負極活物質221は、負極活物質211と同様に、キャリアであるイオン、代表的にはリチウムイオンの吸蔵放出が可能な負極活物質を用いて形成される。なお、共通部221a及び凸部221bが同じ材料を用いて構成されてもよい。または、共通部221a及び凸部221bが異なる材料を用いて構成されてもよい。
【0095】
なお、負極活物質の一例であるシリコンは、キャリアとなるイオンの吸蔵により体積が4倍程度まで増える。このため、充放電により、負極活物質221が脆くなり、負極活物質層203の一部が崩落してしまい、蓄電装置の信頼性が低下する。しかしながら、負極活物質221の周辺をグラフェンまたは多層グラフェン223で覆うことで、シリコンが充放電により体積膨張しても、負極活物質の分散や負極活物質層203の崩落が低減するため、蓄電装置の信頼性を高めることができると共に、耐久性を高めることができる。
【0096】
また、負極活物質層203表面が電解質と接触することにより、電解質及び負極活物質が反応し、負極の表面に被膜が形成される。当該被膜はSEI(Solid Elctrolyte Interface)と呼ばれ、電極と電解質の反応を和らげ、安定化させるために必要であると考えられている。しかしながら、当該被膜が厚くなると、キャリアイオンが負極に吸蔵されにくくなり、電極と電解液間のキャリアイオン伝導性の低下及びそれに伴う放電容量の低減、電解液の消耗などの問題がある。
【0097】
負極活物質層203表面をグラフェンまたは多層グラフェンで被覆することで、当該被膜の膜厚の増加を抑制することが可能であり、放電容量の低下を抑制することができる。
【0098】
次に、図4(D)に示す負極活物質層203の作製方法について説明する。
【0099】
印刷法、インクジェット法、CVD等により、凹凸状の負極活物質を負極集電体上に設ける。または、塗布法、スパッタリング法、蒸着法などにより膜状の負極活物質を設けた後、選択的に除去して、凹凸状の負極活物質を負極集電体上に設ける。または、リチウム、アルミニウム、グラファイト、及びシリコンで形成される箔または板の表面を一部除去して凹凸状の負極集電体及び負極活物質とする。または、リチウム、アルミニウム、グラファイト、及びシリコンで形成される網を負極及び負極集電体として用いることができる。
【0100】
次に、実施の形態2と同様に、酸化グラフェン塩を含む混合液を、負極活物質上に設ける。負極活物質上に酸化グラフェン塩を含む混合液を設ける方法としては、塗布法、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、電気泳動法等がある。次に、実施の形態2に示すグラフェンまたは多層グラフェンの作製方法と同様に、還元雰囲気での加熱により還元処理を行って、負極活物質に設けられた酸化グラフェン塩から酸素の一部を脱離させ、グラフェンまたは多層グラフェンに間隙を形成する。なお、酸化グラフェン塩に含まれる酸素は全て脱離されず、脱離しなかった酸素はグラフェンまたは多層グラフェンに残存する。以上の工程により、負極活物質221の表面にグラフェンまたは多層グラフェン223が被覆された負極活物質層203を形成することができる。
【0101】
酸化グラフェン塩を含む混合液を用いてグラフェンまたは多層グラフェンを形成することで、凹凸状の負極活物質の表面に均一な膜厚のグラフェンまたは多層グラフェンを被覆させることができる。
【0102】
なお、シラン、塩化シラン、フッ化シラン等を原料ガスとするLPCVD法により、負極集電体上に、シリコンで形成された、凹凸状の負極活物質(以下、シリコンウィスカーという。)を設けることができる。
【0103】
シリコンウィスカーは、非晶質構造でもよい。非晶質構造であるシリコンウィスカーを負極活物質層として用いることで、イオンの貯蔵及び放出に伴う体積変化に強い(例えば、体積膨張に伴う応力を緩和する)ため、繰り返しの充放電によって、負極活物質層が微粉化及び剥離することを防止でき、サイクル特性がさらに向上した蓄電装置を作製することができる。
【0104】
または、シリコンウィスカーは、結晶構造でもよい。この場合、導電性及びイオン移動度に優れた結晶性を有する領域が集電体と広範囲に接している。そのため、負極全体の導電性をさらに向上させることができ、さらに高速な充放電が可能となり、充放電容量がさらに向上した蓄電装置を作製することができる。
【0105】
または、シリコンウィスカーは、結晶性を有する領域である芯と、該芯を覆って設けられ、非晶質な領域である外殻と、を有してもよい。
【0106】
外殻である非晶質構造は、イオンの貯蔵及び放出に伴う体積変化に強い(例えば、体積膨張に伴う応力を緩和する)という特色を有する。また、芯である結晶性を有する構造は、導電性及びイオン移動度に優れており、イオンを貯蔵する速度及び放出する速度が単位質量あたりで速いという特徴と有する。従って、芯及び外殻を有するシリコンウィスカーを負極活物質層として用いることで、高速に充放電が可能となり、充放電容量及びサイクル特性が向上した蓄電装置を作製することができる。
【0107】
なお、負極活物質の一例であるシリコンは、キャリアとなるイオンの吸蔵により体積が4倍程度まで増える。このため、充放電により、負極活物質層が脆くなり、負極活物質層の一部が崩落してしまい、この結果蓄電装置の信頼性が低下する。しかしながら、シリコンウィスカーの表面にグラフェンまたは多層グラフェンが被覆されると、シリコンウィスカーの体積膨張による負極活物質層の崩落が低減するため、蓄電装置の信頼性を高めることができると共に、耐久性を高めることができる。
【0108】
次に、正極及びその作製方法について説明する。
【0109】
図5(A)は正極311の断面図である。正極311は、正極集電体307上に正極活物質層309が形成される。
【0110】
正極集電体307は、白金、アルミニウム、銅、チタン、ステンレス等の導電性の高い材料を用いることができる。また、正極集電体307は、箔状、板状、網状等の形状を適宜用いることができる。
【0111】
正極活物質層309は、LiFeO、LiCoO、LiNiO、LiMn、V、Cr、MnO等を材料として用いることができる。
【0112】
または、オリビン型構造のリチウム含有複合酸化物(一般式LiMPO(Mは、Fe(II),Mn(II),Co(II),Ni(II)の一以上)を用いることができる。一般式LiMPOの代表例としては、LiFePO、LiNiPO、LiCoPO、LiMnPO、LiFeNiPO、LiFeCoPO、LiFeMnPO、LiNiCoPO、LiNiMnPO(a+bは1以下、0<a<1、0<b<1)、LiFeNiCoPO、LiFeNiMnPO、LiNiCoMnPO(c+d+eは1以下、0<c<1、0<d<1、0<e<1)、LiFeNiCoMnPO(f+g+h+iは1以下、0<f<1、0<g<1、0<h<1、0<i<1)等のリチウム化合物を材料として用いることができる。
【0113】
または、一般式LiMSiO(Mは、Fe(II),Mn(II),Co(II),Ni(II)の一以上)のリチウム含有複合酸化物を用いることができる。一般式LiMSiOの代表例としては、LiFeSiO、LiNiSiO、LiCoSiO、LiMnSiO、LiFeNiSiO、LiFeCoSiO、LiFeMnSiO、LiNiCoSiO、LiNiMnSiO(k+lは1以下、0<k<1、0<l<1)、LiFeNiCoSiO、LiFeNiMnSiO、LiNiCoMnSiO(m+n+qは1以下、0<m<1、0<n<1、0<q<1)、LiFeNiCoMnSiO(r+s+t+uは1以下、0<r<1、0<s<1、0<t<1、0<u<1)等のリチウム化合物を材料として用いることができる。
【0114】
なお、キャリアイオンが、リチウムイオン以外のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、またはマグネシウムイオンの場合、正極活物質層309として、上記リチウム化合物及びリチウム含有複合酸化物において、リチウムの代わりに、アルカリ金属(例えば、ナトリウムやカリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等)、ベリリウム、またはマグネシウムを用いてもよい。
【0115】
図5(B)は、正極活物質層309の平面図である。正極活物質層309は、キャリアイオンの吸蔵放出が可能な粒子状の正極活物質321と、当該正極活物質321の複数を覆いつつ、当該正極活物質321が内部に詰められたグラフェンまたは多層グラフェン323とを有する。複数の正極活物質321の表面を異なるグラフェンまたは多層グラフェン323が覆う。また、一部において、正極活物質321が露出していてもよい。
【0116】
正極活物質321の粒径は、20nm以上100nm以下が好ましい。なお、正極活物質321内を電子が移動するため、正極活物質321の粒径はより小さい方が好ましい。
【0117】
また、正極活物質層309はグラフェンまたは多層グラフェン323を有することで、正極活物質321の表面に炭素膜が被覆されていなくとも十分な特性が得られるが、炭素膜が被覆されている正極活物質と、グラフェンまたは多層グラフェン323とを共に用いると、電子が正極活物質間をホッピングしながら伝導するためより好ましい。
【0118】
図5(C)は、図5(B)の正極活物質層309の一部における断面図である。正極活物質層309は、正極活物質321、及び該正極活物質321を覆うグラフェンまたは多層グラフェン323を有する。グラフェンまたは多層グラフェン323は断面図においては線状で観察される。同一のグラフェンまたは複数のグラフェンにより、複数の正極活物質を内包する。または、同一の多層グラフェンまたは複数の多層グラフェンにより、複数の正極活物質を内包する。なお、グラフェンまたは多層グラフェンは袋状になっており、該内部において、複数の正極活物質を内包する場合がある。また、グラフェンまたは多層グラフェンは、一部に開放部があり、当該領域において、正極活物質が露出している場合がある。
【0119】
正極活物質層309の厚さは、20μm以上100μm以下とする。なお、クラックや剥離が生じないように、正極活物質層309の厚さを適宜調整することが好ましい。
【0120】
なお、正極活物質層309には、グラフェンまたは多層グラフェンの体積の0.1倍以上10倍以下のアセチレンブラック粒子や1次元の拡がりを有するカーボン粒子(カーボンナノファイバー等)、公知のバインダーを有してもよい。
【0121】
なお、正極活物質においては、キャリアとなるイオンの吸蔵により体積が膨張する材料がある。このため、充放電により、正極活物質層が脆くなり、正極活物質層の一部が崩落してしまい、蓄電装置の信頼性が低下する。しかしながら、正極活物質の周辺をグラフェンまたは多層グラフェン323で覆うことで、正極活物質が充放電により体積膨張しても、正極活物質の分散や正極活物質層の崩落を妨げることが可能である。即ち、グラフェンまたは多層グラフェンは、充放電にともない正極活物質の体積が増減しても、正極活物質同士の結合を維持する機能を有する。
【0122】
また、グラフェンまたは多層グラフェン323は、複数の正極活物質と接しており、導電助剤としても機能する。また、キャリアイオンの吸蔵放出が可能な正極活物質321を保持する機能を有する。このため、正極活物質層にバインダーを混合する必要が無く、正極活物質層当たりの正極活物質量を増加させることが可能であり、蓄電装置の放電容量を高めることができる。
【0123】
次に、正極活物質層309の作製方法について説明する。
【0124】
粒子状の正極活物質及び酸化グラフェン塩を含むスラリーを形成する。次に、正極集電体上に、当該スラリーを塗布した後、実施の形態2に示すグラフェンまたは多層グラフェンの作製方法と同様に、還元雰囲気での加熱により還元処理を行って、正極活物質を焼成すると共に、酸化グラフェン塩に含まれる酸素を脱離させ、グラフェンまたは多層グラフェン323に間隙を形成する。なお、酸化グラフェン塩に含まれる酸素は全て還元されず、一部の酸素はグラフェンまたは多層グラフェン323に残存する。以上の工程により、正極集電体307上に正極活物質層309を形成することができる。この結果、正極活物質層の導電性が高まる。
【0125】
極性溶媒中では酸化グラフェン塩に含まれる酸素が負に帯電する。この結果、酸化グラフェン塩は互いに分散する。このため、スラリーに含まれる正極活物質が凝集しにくくなり、焼成による正極活物質の粒径の増大を抑制することができる。このため、正極活物質内の電子の移動が容易となり、正極活物質層の導電性を高めることができる。
【0126】
(実施の形態5)
本実施の形態では、蓄電装置の作製方法について説明する。
【0127】
本実施の形態の蓄電装置の代表例であるリチウムイオン二次電池の一形態について図6を用いて説明する。ここでは、リチウムイオン二次電池の断面構造について、以下に説明する。
【0128】
図6は、リチウムイオン二次電池の断面図である。
【0129】
リチウムイオン二次電池400は、負極集電体407及び負極活物質層409で構成される負極411と、正極集電体401及び正極活物質層403で構成される正極405と、負極411及び正極405で挟持されるセパレータ413とで構成される。なお、セパレータ413中には電解質415が含まれる。また、負極集電体407は外部端子419と接続し、正極集電体401は外部端子417と接続する。外部端子419の端部はガスケット421に埋没されている。即ち、外部端子417、419は、ガスケット421によって絶縁されている。
【0130】
負極集電体407及び負極活物質層409は、実施の形態3に示す負極集電体201及び負極活物質層203を適宜用いて形成すればよい。
【0131】
正極集電体401及び正極活物質層403はそれぞれ、実施の形態3に示す正極集電体307及び正極活物質層309を適宜用いることができる。
【0132】
セパレータ413は、絶縁性の多孔体を用いる。セパレータ413の代表例としては、セルロース(紙)、ポリエチレン、ポリプロピレン等がある。
【0133】
電解質415の溶質は、キャリアイオンを移送可能で、且つキャリアイオンが安定に存在する材料を用いる。電解質の溶質の代表例としては、LiClO、LiAsF、LiBF、LiPF、Li(CSON等のリチウム塩がある。
【0134】
なお、キャリアイオンが、リチウムイオン以外のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、またはマグネシウムイオンの場合、電解質415の溶質として、上記リチウム塩において、リチウムの代わりに、アルカリ金属(例えば、ナトリウムやカリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等)、ベリリウム、またはマグネシウムを用いてもよい。
【0135】
また、電解質415の溶媒としては、キャリアイオンの移送が可能な材料を用いる。電解質415の溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ましい。非プロトン性有機溶媒の代表例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γーブチロラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等があり、これらの一つまたは複数を用いることができる。また、電解質415の溶媒としてゲル化される高分子材料を用いることで、漏液性を含めた安全性が高まる。また、リチウムイオン二次電池400の薄型化及び軽量化が可能である。ゲル化される高分子材料の代表例としては、シリコンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、フッ素系ポリマー等がある。
【0136】
また、電解質415として、LiPO等の固体電解質を用いることができる。なお、電解質415として固体電解質を用いる場合は、セパレータ413は不要である。
【0137】
外部端子417、419は、ステンレス鋼板、アルミニウム板なとの金属部材を適宜用いることができる。
【0138】
なお、本実施の形態では、リチウムイオン二次電池400として、ボタン型リチウムイオン二次電池を示したが、封止型リチウムイオン二次電池、円筒型リチウムイオン二次電池、角型リチウムイオン二次電池等様々な形状のリチウムイオン二次電池とすることができる。また、正極、負極、及びセパレータが複数積層された構造、正極、負極、及びセパレータが捲回された構造であってもよい。
【0139】
リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高く、容量が大きい。また、出力電圧が高い。これらのため、小型化及び軽量化が可能である。また、充放電の繰り返しによる劣化が少なく、長期間の使用が可能であり、コスト削減が可能である。
【0140】
次に、本実施の形態に示すリチウムイオン二次電池400の作製方法について説明する。
【0141】
実施の形態4に示す作製方法により、適宜正極405及び負極411を作製する。
【0142】
次に、正極405、セパレータ413、及び負極411を電解質415に含浸させる。次に、外部端子417に、正極405、セパレータ413、ガスケット421、負極411、及び外部端子419の順に積層し、「コインかしめ機」で外部端子417及び外部端子419をかしめてコイン型のリチウムイオン二次電池を作製することができる。
【0143】
なお、外部端子417及び正極405の間、または外部端子419及び負極411の間に、スペーサ、及びワッシャを入れて、外部端子417及び正極405の接続、並びに外部端子419及び負極411の接続をより高めてもよい。
【0144】
(実施の形態6)
本発明の一態様に係る蓄電装置は、電力により駆動する様々な電気機器の電源として用いることができる。
【0145】
本発明の一態様に係る蓄電装置を用いた電気機器の具体例として、表示装置、照明装置、デスクトップ型或いはノート型のパーソナルコンピュータ、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体に記憶された静止画または動画を再生する画像再生装置、携帯電話、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、電子書籍、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ等のカメラ、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器、電気洗濯機、エアコンディショナーなどの空調設備、電気冷蔵庫、電気冷凍庫、電気冷凍冷蔵庫、DNA保存用冷凍庫、透析装置などが挙げられる。また、蓄電装置からの電力を用いて電動機により推進する移動体なども、電気機器の範疇に含まれるものとする。上記移動体として、例えば、電気自動車、内燃機関と電動機を併せ持った複合型自動車(ハイブリッドカー)、電動アシスト自転車を含む原動機付自転車などが挙げられる。
【0146】
なお、上記電気機器は、消費電力の殆ど全てを賄うための蓄電装置(主電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。或いは、上記電気機器は、上記主電源や商用電源からの電力の供給が停止した場合に、電気機器への電力の供給を行うことができる蓄電装置(無停電電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。或いは、上記電気機器は、上記主電源や商用電源からの電気機器への電力の供給と並行して、電気機器への電力の供給を行うための蓄電装置(補助電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。
【0147】
図7に、上記電気機器の具体的な構成を示す。図7において、表示装置5000は、本発明の一態様に係る蓄電装置5004を用いた電気機器の一例である。具体的に、表示装置5000は、TV放送受信用の表示装置に相当し、筐体5001、表示部5002、スピーカー部5003、蓄電装置5004等を有する。本発明の一態様に係る蓄電装置5004は、筐体5001の内部に設けられている。表示装置5000は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5004に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5004を無停電電源として用いることで、表示装置5000の利用が可能となる。
【0148】
表示部5002には、液晶表示装置、有機EL素子などの発光素子を各画素に備えた発光装置、電気泳動表示装置、DMD(Digital Micromirror Device)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field Emission Display)などの、半導体表示装置を用いることができる。
【0149】
なお、表示装置には、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用など、全ての情報表示用表示装置が含まれる。
【0150】
図7において、据え付け型の照明装置5100は、本発明の一態様に係る蓄電装置5103を用いた電気機器の一例である。具体的に、照明装置5100は、筐体5101、光源5102、蓄電装置5103等を有する。図7では、蓄電装置5103が、筐体5101及び光源5102が据え付けられた天井5104の内部に設けられている場合を例示しているが、蓄電装置5103は、筐体5101の内部に設けられていても良い。照明装置5100は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5103に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5103を無停電電源として用いることで、照明装置5100の利用が可能となる。
【0151】
なお、図7では天井5104に設けられた据え付け型の照明装置5100を例示しているが、本発明の一態様に係る蓄電装置は、天井5104以外、例えば側壁5105、床5106、窓5107等に設けられた据え付け型の照明装置に用いることもできるし、卓上型の照明装置などに用いることもできる。
【0152】
また、光源5102には、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を用いることができる。具体的には、白熱電球、蛍光灯などの放電ランプ、LEDや有機EL素子などの発光素子が、上記人工光源の一例として挙げられる。
【0153】
図7において、室内機5200及び室外機5204を有するエアコンディショナーは、本発明の一態様に係る蓄電装置5203を用いた電気機器の一例である。具体的に、室内機5200は、筐体5201、送風口5202、蓄電装置5203等を有する。図7では、蓄電装置5203が、室内機5200に設けられている場合を例示しているが、蓄電装置5203は室外機5204に設けられていても良い。或いは、室内機5200と室外機5204の両方に、蓄電装置5203が設けられていても良い。エアコンディショナーは、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5203に蓄積された電力を用いることもできる。特に、室内機5200と室外機5204の両方に蓄電装置5203が設けられている場合、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5203を無停電電源として用いることで、エアコンディショナーの利用が可能となる。
【0154】
なお、図7では、室内機と室外機で構成されるセパレート型のエアコンディショナーを例示しているが、室内機の機能と室外機の機能とを1つの筐体に有する一体型のエアコンディショナーに、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることもできる。
【0155】
図7において、電気冷凍冷蔵庫5300は、本発明の一態様に係る蓄電装置5304を用いた電気機器の一例である。具体的に、電気冷凍冷蔵庫5300は、筐体5301、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303、蓄電装置5304等を有する。図7では、蓄電装置5304が、筐体5301の内部に設けられている。電気冷凍冷蔵庫5300は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5304に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5304を無停電電源として用いることで、電気冷凍冷蔵庫5300の利用が可能となる。
【0156】
なお、上述した電気機器のうち、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器などの電気機器は、短時間で高い電力を必要とする。よって、商用電源では賄いきれない電力を補助するための補助電源として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることで、電気機器の使用時に商用電源のブレーカーが落ちるのを防ぐことができる。
【0157】
また、電気機器が使用されない時間帯、特に、商用電源の供給元が供給可能な総電力量のうち、実際に使用される電力量の割合(電力使用率と呼ぶ)が低い時間帯において、蓄電装置に電力を蓄えておくことで、上記時間帯以外において電力使用率が高まるのを抑えることができる。例えば、電気冷凍冷蔵庫5300の場合、気温が低く、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303の開閉が行われない夜間において、蓄電装置5304に電力を蓄える。そして、気温が高くなり、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303の開閉が行われる昼間において、蓄電装置5304を補助電源として用いることで、昼間の電力使用率を低く抑えることができる。
【0158】
本実施の形態は、上記実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【実施例1】
【0159】
本実施例では、電池1及び比較電池1の放電特性及び充電特性を測定した。
【0160】
はじめに、サンプルの作製方法について説明する。
【0161】
(酸化グラフェン塩の作製)
<グラファイトの酸化>
はじめに、2gのグラファイトと92mlの濃硫酸を混合し混合液A1を調製した。次に、氷浴中で撹拌しながら混合液A1に12gの過マンガン酸カリウムを加え、混合液A2を調製した。次に、氷浴を取り除き、室温で2時間撹拌した後、35℃で30分放置し、グラファイトを酸化し、酸化グラファイトを有する混合液A3を得た。
【0162】
<金属イオンの還元>
次に、氷浴中で撹拌しながら混合液A3に184mlの純水を加え、混合液A4を得た。次に、およそ98℃のオイルバス中で、混合液A4を15分撹拌し、反応させた後、撹拌しながら混合液A4に580mlの純水及び36mlの過酸化水素水(濃度30wt%)を加えて、未反応の過マンガン酸カリウムを失活させ、可溶性の硫酸マンガン及び酸化グラファイトを有する混合液A5を得た。
【0163】
<酸化グラファイトの回収>
次に、目の粗さが0.1μmのメンブレンフィルタを使用して、混合液A5を吸引濾過した後、沈殿物A1を得た。次に、沈殿物A1及び3wt%の塩酸を混合して、混合液中にマンガンイオン、カリウムイオン、硫酸イオンが溶解する混合液A6を得た。次に、混合液A6を吸引濾過して、酸化グラファイトを有する沈殿物A2を得た。
【0164】
<酸化グラフェンの生成>
沈殿物A2に500mlの純水を混合し、混合液A7を得た後、混合液A7に周波数40kHzの超音波を1時間印加し、酸化グラファイトを構成する炭素層をそれぞれ剥離し、酸化グラフェンを生成した。なお、酸化グラフェンの代わりに多層酸化グラフェンが生成される場合もある。
【0165】
<酸化グラフェンの回収>
次に、4000rpmでおよそ30分遠心分離を行い、酸化グラフェンを含む上澄み液を回収した。当該上澄み液を混合液A8とする。
【0166】
<酸化グラフェン塩の生成>
次に、混合液A8に、アンモニア水を加えおよそpH11となるように調整し、混合液A9を調製した。この後、混合液A9に2500mlのアセトンを加え混合し混合液A10を得た。このとき、混合液A8に含まれていた酸化グラフェンは、アンモニア水に含まれるアンモニアと反応し、酸化グラフェン塩として沈殿物A3となった。なお、酸化グラフェン塩の代わりに、多層酸化グラフェン塩が生成される場合もある。
【0167】
<酸化グラフェン塩の回収>
沈殿物A3を室温の真空雰囲気で乾燥させ、酸化グラフェン塩を回収した。
【0168】
(電池の作製)
次に、電池を作製した。電池の作製方法を以下に示す。
【0169】
正極としては、アルミニウム箔を集電体とし、集電体上にリン酸鉄リチウム(LiFePO)粒子及び上記工程によって得た酸化グラフェン塩を混合した正極活物質層を形成した。
【0170】
リン酸鉄リチウム粒子の作製方法を示す。原料である炭酸リチウム(LiCO)、蓚酸鉄(FeCO・2HO)、及びリン酸二水素アンモニウム(NHPO)を1:2:2のモル比で秤量をおこない、湿式ボールミル(ボール径3mm、溶媒としてアセトンを使用)で回転数を400rpmとし、2時間の粉砕及び混合をおこなった。
【0171】
上記粉砕及び混合を行った後乾燥し、窒素雰囲気で350℃、10時間の仮焼成を行ったのち、再度、湿式ボールミル(ボール径3mm)で回転数を400rpmとし、2時間の粉砕及び混合を行った。その後、窒素雰囲気で600℃、10時間の焼成を行った。
【0172】
次に、5wt%の酸化グラフェン塩及び95wt%のリン酸鉄リチウム粒子と、それらの合計重量の約3倍の重量のNMPとを混合して、集電体に塗布し、120℃で60分間真空乾燥した後、円形に打ち抜き、真空中300℃で8時間乃至10時間加熱して、活物質層の厚さが11μmである正極を作製した。なお、酸化グラフェン塩は導電助剤及びバインダーとして用いた。
【0173】
負極としては、円形に打ち抜いたリチウム箔を用いた。
【0174】
次に、エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)の混合液(体積比1:1)に、1mol/lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を溶解させたものを電解液とし、ポリプロピレンセパレータをセパレータとして用いて、電池1を作製した。
【0175】
(電池1の充放電特性の測定)
作製した電池1の放電特性を測定した後、充電特性を測定した。なお、放電レート及び充電レートは0.2Cとした。充電の終止条件は定電圧4.3Vとした。
【0176】
図8に、電池の放電特性および充電特性を示す。横軸に正極の活物質の重量あたりの容量値を示し、縦軸に充放電時の電圧を示す。曲線501は電池1の放電特性、曲線503は電池1の充電特性を示す。電池1は、正極活物質であるLiFePOの理論容量値に近い165mAh/gの放電容量を示すことがわかる。
【0177】
次に、比較電池として、正極の活物質としてLiFePOを用い、導電性助剤としてアセチレンブラックを用い、バインダーとしてPVDFを用いた正極を有する比較電池1の充放電特性を測定した。放電レートは0.2C、充電レートは1Cとした。充電の終止条件は定電圧4.3Vとした。また、電池1と同様に形成した85wt%のリン酸鉄リチウム粒子、8wt%のアセチレンブラック、及び7wt%のPVDFと、それら合計重量の約2倍の重量のNMPとを混合して、集電体に塗布し、120℃で1時間、真空乾燥した後、ローラーで圧着し、活物質とアセチレンブラックの密着性を高めた。この後、円形に打ち抜いて厚さ32.4μmの正極活物質層を有する正極とした。負極、電解質、及びセパレータは、電池1と同様とした。
【0178】
図8において、曲線511は比較電池1の放電特性、曲線513は比較電池1の充電特性を示す。
【0179】
電池1の方が、比較電池1よりも放電容量が高いことがわかる。このことから、正極活物質に酸化グラフェン塩を用いることで、単位重量当たりの正極活物質量を増加させることができ、電池の放電容量を理論放電容量に近づけることができることがわかる。
【実施例2】
【0180】
本実施例では、実施の形態1を用いて形成する酸化グラフェン塩と、従来の方法で作製したグラフェンについて、NMRを用いて測定した結果について、説明する。
【0181】
試料1として、実施例1と同様の方法により酸化グラフェン塩を得た。
【0182】
さらに、試料1を還元処理して、グラフェン(試料2)を作製した。試料2は、試料1を300℃の真空雰囲気で10時間焼成し、酸化グラフェン塩の還元処理を行った試料である。
【0183】
比較試料1として、従来の作製方法により酸化グラフェンを形成した。以下に比較試料1の作製方法を示す。
【0184】
はじめに、5gのグラファイトと126mlの濃硫酸を混合し混合液A11を得た。次に、氷浴中で撹拌しながら混合液A11に12gの過マンガン酸カリウムを加え、混合液A12を得た。次に、氷浴を取り除き、室温で2時間撹拌した後、35℃で30分放置しグラファイトを酸化し、酸化グラファイトを有する混合液A13を得た。
【0185】
次に、氷浴中で撹拌しながら混合液A13に純水184mlを加え、混合液A14を得た。次に、およそ95℃のオイルバス中で、混合液A14を15分撹拌し、反応させた後、撹拌しながら混合液A14に560mlの純水及び36mlの過酸化水素水(濃度30wt%)を加えて、過マンガン酸カリウムを失活させ、可溶性の硫酸マンガン及び酸化グラファイト有する混合液A15を得た。
【0186】
目の粗さが1μmのメンブレンフィルタを使用して、混合液A15を吸引濾過した後、塩酸を混合して硫酸を取り除き、酸化グラファイトを有する混合液A16を得た。
【0187】
混合液A16に純水を加え、3000rpmでおよそ30分遠心分離を行い、上澄み液を取り除いた。また、沈殿物に再び純水を加えて遠心分離を行い、上澄み液を取り除く作業を複数回繰り返した。上澄み液が取り除かれた混合液A16のpHがおよそ5〜6になったところで、超音波処理を2時間行い、酸化グラファイトを剥離し、酸化グラフェンが分離する混合液A17を得た。
【0188】
エバポレータで混合液A17の水を除去し、残留物を乳鉢粉砕し、300℃の真空雰囲気のガラスチューブオーブンで10時間加熱し、酸化グラフェンの酸素を還元し、一部の酸素を脱離させ、グラフェンを得た。
【0189】
次に、試料1、試料2、及び比較試料1の核磁気共鳴(NMR)の13C−NMRチャートを図9に示し、分析結果を以下に示す。図9において、曲線601は試料1の13C−NMRチャートであり、曲線603は比較試料1の13C−NMRチャートであり、曲線605は試料2の13C−NMRチャートである。
【0190】
シグナル606はカルボニル炭素を示し、シグナル607は芳香族炭素を示し、シグナル608は脂肪族炭素を示す。試料1は比較試料1と比較してカルボニル炭素を示すシグナル606にシフトが見られるものの、芳香族炭素を示すシグナル607及び脂肪族炭素を示すシグナル608に大きな違いは見られないことから、実施例1で得られた酸化グラフェン塩は従来の酸化グラフェンの炭素骨格と同様であることがわかる。
【0191】
また、試料1を還元して得られた試料2では、脂肪族炭素を示すシグナル608が小さくなっており、炭素に結合する酸素の還元が進行していることが分かる。
【0192】
次に、試料1、比較試料1、及び試料2を、赤外線分光で測定した赤外吸収スペクトルを図10に示す。なお、図10では、ピーク位置を比較するために各曲線を表示しており、縦軸の透過率は任意単位である。
【0193】
曲線611は試料1の赤外吸収スペクトル、曲線613は比較試料1の赤外吸収スペクトル、曲線615は試料2の赤外吸収スペクトルを示す。
【0194】
ピーク621はアンモニウム基の吸収を示すピークである。ピーク623はカルボキシル基の吸収を示すピークである。このことから、試料1は、カルボキシル基を有さず、アンモニウム基を有することがわかる。一方、比較試料1は、カルボキシル基を有することがわかる。また、曲線615から、還元処理を行うことにより、カルボキシル基及びアンモニウム基が脱離することが分かる。
【0195】
以上のことから、実施例1により酸化グラフェン塩を作製することが可能であり、また、当該酸化グラフェン塩を還元処理することで、グラフェンを作製できることが分かる。
【実施例3】
【0196】
本実施例では、実施の形態1を用いて形成する酸化グラフェン及び酸化グラフェン塩と、従来の方法で作製したグラフェンについて、X線光電子分光法(XPS:X−ray Photoelectron Spectroscopy)及びCHN元素分析(Elemental Analysis(Carbon,Hydrogen,Nitrogen)を用いて測定した。
【0197】
はじめに、試料の作製方法について、説明する。
【0198】
<グラファイトの酸化>
はじめに、1gのグラファイトと46mlの濃硫酸を混合し混合液A21を調製した。次に、氷浴中で撹拌しながら混合液A21に6gの過マンガン酸カリウムを加え、混合液A22を調製した。次に、氷浴を取り除き、室温で2時間撹拌した後、35℃で30分反応させて、酸化グラファイトを有する混合液A23を得た。
【0199】
<金属イオンの還元>
次に、氷浴中で撹拌しながら混合液A23に92mlの純水を加え、混合液A24を得た。次に、およそ95℃のオイルバス中で、混合液A24を15分撹拌し、反応させた後、撹拌しながら混合液A24に280mlの純水及び18mlの過酸化水素水(濃度30wt%)を加えて、過マンガン酸カリウムを失活させ、可溶性の硫酸マンガン及び酸化グラファイトを有する混合液A25を得た。
【0200】
<酸化グラファイトの回収>
次に、目の粗さが0.1μmのメンブレンフィルタを使用して、混合液A25を吸引濾過して沈殿物A21を得た。次に、沈殿物A21に3%塩酸を加えて撹拌した混合液A26を吸引濾過して、酸化グラファイトを有する沈殿物A22を得た。
【0201】
<酸化グラフェンの生成>
沈殿物A22に純水を加えて混合液A27を得た後、混合液A27に周波数40kHzの超音波を1時間印加し、酸化グラファイトを構成する炭素層をそれぞれ剥離し、酸化グラフェンを生成した。なお、酸化グラフェンの代わりに多層酸化グラフェンが生成される場合もある。
【0202】
<酸化グラフェンの回収>
次に、4000rpmでおよそ30分遠心分離を行い、酸化グラフェンを含む上澄み液を回収した。当該上澄み液を混合液A28とする。
【0203】
<酸化グラフェン塩の生成>
次に、混合液A28に、アンモニア水を加えておよそpH11となるように調整し、混合液A29を調製した。この後、混合液A29にアセトンを加え混合した。このとき、混合液A28に含まれていた酸化グラフェンは、アンモニア水に含まれるアンモニアと反応し、酸化グラフェン塩として沈殿物A23となった。なお、酸化グラフェン塩の代わりに、多層酸化グラフェン塩が生成される場合もある。
【0204】
<酸化グラフェン塩の回収>
沈殿物A23を室温の真空雰囲気で乾燥させ、酸化グラフェン塩を回収した。
【0205】
以上の工程により、試料3を得た。
【0206】
また、試料3を乳鉢で粉砕し、300℃の真空雰囲気の炉で10時間加熱し、酸化グラフェンの酸素を還元し、一部の酸素を脱離させ、グラフェンを得た。
【0207】
以上の工程により、試料4を得た。
【0208】
また、比較試料2として、従来の作製方法により酸化グラフェンを形成した。以下に比較試料2の作製方法を示す。
【0209】
はじめに、0.25gのグラファイトと11.5mlの濃硫酸を混合し混合液A31を調製した。次に、氷浴中で撹拌しながら混合液A31に1.5gの過マンガン酸カリウムを加え、混合液A32を得た。次に、氷浴を取り除き、室温で2時間撹拌した後、35℃で30分反応させて、酸化グラファイトを有する混合液A33を得た。
【0210】
次に、氷浴中で撹拌しながら混合液A33に23mlの純水を加え、混合液A34を得た。次に、およそ95℃のオイルバス中で、混合液A34を15分撹拌し、反応させた後、撹拌しながら混合液A34に70mlの純水及び4.5mlの過酸化水素水(濃度30wt%)を加えて、過マンガン酸カリウムを失活させ、酸化グラファイトを有する混合液A35を得た。
【0211】
次に、目の粗さが0.1μmのメンブレンフィルタを使用して、混合液A35を吸引濾過して沈殿物A31を得た。次に、沈殿物A31に3%塩酸を加えて撹拌した混合液A36を吸引濾過して、酸化グラファイトを有する沈殿物A32を得た。
【0212】
沈殿物A32に9mlの純水を加えて混合液A37を得た後、4000rpmでおよそ30分遠心分離して、酸化グラファイトを含む上澄み液を回収した。当該上澄み液を混合液A38とする。
【0213】
次に、混合液A38に10mlの純水を加え、3000rpmでおよそ30分遠心分離を行い、上澄み液を取り除いた。また、沈殿物に再び純水を加えて遠心分離を行い、上澄み液を取り除く作業を複数回繰り返した。上澄み液が取り除かれた混合液A38のpHがおよそ5〜6になった所で、周波数40kHzの超音波を1時間印加し、酸化グラファイトを剥離し、酸化グラフェンが分散された混合液A39を得た。
【0214】
<酸化グラフェンの回収>
エバポレータで混合液A39の水を除去し、得られた残留物を室温真空乾燥して、酸化グラフェンを得た。
【0215】
以上の工程により、比較試料2を得た。
【0216】
ここで、試料3及び試料4、並びに比較試料2に含まれる炭素、酸素、硫黄、及び窒素の組成をXPSを用いて測定した結果を表1に示す。本実施例のXPSでは、測定装置としてPHI社製QuanteraSXMを、X線源としては単色化AlKα線(1.486keV)を用いた。
【0217】
【表1】

【0218】
表1から、試料3及び試料4、並びに比較試料2には窒素及び酸素を含むことが分かる。また、試料3を加熱処理することで、酸化グラフェンに含まれる酸素の含有量を低減できることがわかる。また、試料3及び比較試料2を比較すると、試料3の方が酸素濃度が少ない。この結果から、本実施例により、酸化グラフェンにおける酸素の含有量を低減することができる。
【0219】
次に、試料3及び試料4に含まれる炭素、水素、窒素、及び酸素(試料3のみ)の含有率をCHN元素分析を用いて測定した結果を表2に示す。本実施例のCHN元素分析では、炭素、水素、及び窒素の測定においては、測定装置としてエレメンタール社製varioELを、酸素の測定においては、堀場製作所社製EMGA−920を用いた。なお、表1は各元素の組成である。一方、表2は各元素の含有率であり、各試料に水素が含まれているため、炭素及び酸素の値が表1と異なる。
【0220】
【表2】

【0221】
表2から、試料3及び試料4には少なくとも水素及び窒素を含むことが分かる。また、試料3を加処理熱することで、酸化グラフェンに含まれる水素の含有量を低減できることがわかる。
【実施例4】
【0222】
本実施例では、実施の形態1を用いて形成した酸化グラフェン塩と、従来の方法で作製した酸化グラフェンに含まれる硫黄及び塩素の含有量について、酸素燃焼−イオンクロマトグラフ法及びラスコ燃焼−イオンクロマトグラフ法を用いて測定した。
【0223】
はじめに、試料の作製方法について、説明する。
【0224】
<グラファイトの酸化>
はじめに、4gのグラファイトと138mlの濃硫酸を混合し混合液A41を調製した。次に、氷浴中で撹拌しながら混合液A41に18gの過マンガン酸カリウムを加え、混合液A42を調製した。次に、氷浴を取り除き、室温で2時間撹拌した後、35℃で30分反応させて、酸化グラファイトを有する混合液A43を得た。
【0225】
次に、氷浴中で撹拌しながら混合液A43に276mlの純水を加え、混合液A44を得た。次に、およそ95℃のオイルバス中で、混合液A44を15分撹拌し、反応させた後、撹拌しながら混合液A44に400mlの水及び54mlの過酸化水素水(濃度30wt%)を加えて、過マンガン酸カリウムを失活させ、混合液A45を得た。
【0226】
次に、目の粗さが0.45μmのメンブレンフィルタを使用して、混合液A45を吸引濾過して沈殿物A41を得た。次に、沈殿物A41に3%塩酸を加えて撹拌した混合液A46を吸引濾過して、酸化グラファイトを有する沈殿物A42を得た。
【0227】
沈殿物A42に4000mlの純水を加えて混合液A47を得た後、混合液A47に周波数40kHzの超音波を1時間印加し、酸化グラファイトを構成する炭素層をそれぞれ剥離し、酸化グラフェンを生成した。なお、酸化グラフェンの代わりに多層酸化グラフェンが生成される場合もある。
【0228】
<酸化グラフェンの回収>
次に、9000rpmで遠心分離して、沈殿した酸化グラフェンを回収した。また、沈殿物に再び同量の純水を加えて遠心分離して上澄み液を取り除く作業を合計1回、或いは4回、7回、10回になるよう繰り返して沈殿物を得た。それぞれ沈殿物A41、沈殿物A42、沈殿物A43、沈殿物A44とする。
【0229】
上記4回洗浄して得られた沈殿物A43に純水を加え、更にアンモニア水を加えておよそpH11となるように調整し、混合液A48を調製した。この後、混合液A48にアセトンを加えて混合した。このとき、混合液A48に含まれていた酸化グラフェンは、アンモニア水に含まれるアンモニアと反応し、酸化グラフェン塩として沈殿物A45となった。なお、酸化グラフェン塩の代わりに、多層酸化グラフェン塩が生成される場合もある。この後、混合液A48を吸引濾過して沈殿物A45を得た。
【0230】
エバポレータを用いて沈殿物A41、沈殿物A42、沈殿物A43、及び沈殿物A44から水を除去し、残留物を乳鉢粉砕し、得られた粉末を室温真空乾燥して、比較試料3、比較試料4、比較試料5、比較試料6を得た。また、沈殿物A45に対して同様の工程を得て、試料5を得た。
【0231】
次に、酸素燃焼−イオンクロマトグラフ法を用いて、試料5、比較試料3、比較試料4、比較試料5、比較試料6に含まれる塩素を測定した。ここでは、三菱化学アナリテック社製のQF−02を用いて各試料を燃焼した。また、フラスコ燃焼−イオンクロマトグラフ法を用いて、上記に含まれる硫黄を測定した。ここでは、硬質ガラスを用いて各試料を燃焼した。また、イオンクロマトグラフ装置としてダイオネクス社製DX−AQ−1120を用いた。各試料における塩素及び硫黄の含有率を表3に示す。
【0232】
【表3】

【0233】
表3の比較試料3〜比較試料6においては、塩素の含有量の変化が少ない。また、比較試料3と比較して、比較試料4では硫黄の含有量が低下したが、比較試料5及び比較試料6においては、硫黄の含有量が変化していない。このことから、塩酸の混合による硫酸の洗浄回数を増やしても、具体的には7回以上行っても、酸化グラフェンに含まれる塩素及び硫黄の含有量を低減することが困難である。一方、比較試料4と比較して、試料5は塩素及び硫黄の含有量が低減している。このことから、酸化グラフェンを含む液体に、塩基性溶液及び有機溶媒を混合し、酸化グラフェン及び塩基性溶液に含まれる塩基を反応させ、酸化グラフェン塩を形成することで、酸化グラフェンに含まれる硫黄及び塩素の含有率をさらに低減することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイト及びアルカリ金属塩を含む酸化剤を溶液中で混合して、第1の沈殿物を生成し、
酸性溶液を用いて前記第1の沈殿物に含まれる前記アルカリ金属塩を含む酸化剤を電離させ、前記第1の沈殿物から前記アルカリ金属塩を含む酸化剤を除去して、第2の沈殿物を生成し、
前記第2の沈殿物と水を混合して混合液を形成した後、前記混合液に超音波を印加して、または前記混合液を機械的に攪拌して、前記第2の沈殿物に含まれる、前記グラファイトが酸化された酸化グラファイトから酸化グラフェンを分離し、前記酸化グラフェンが分散する分散液を調製し、
前記分散液と、塩基性溶液及び有機溶媒とを混合し、前記分散液に含まれる酸化グラフェン及び前記塩基性溶液に含まれる塩基を反応させ、酸化グラフェン塩を生成する
ことを特徴とする酸化グラフェン塩の作製方法。
【請求項2】
グラファイト及び酸化剤を溶液中で混合して、酸化グラファイト及び前記酸化剤を含む第1の沈殿物を有する第1の混合液を調製し、
前記第1の混合液から、前記第1の沈殿物を回収した後、酸性溶液を用いて前記第1の沈殿物から前記酸化剤を除去して、前記酸化グラファイトを含む第2の沈殿物を生成し、
前記第2の沈殿物と水を混合した後、超音波を印加し、または機械的攪拌により、前記酸化グラファイトから酸化グラフェンを分離し、前記酸化グラフェンが分散した第2の混合液を調製し、
前記第2の混合液に塩基性溶液及び有機溶媒を混合し、前記第2の混合液に含まれる酸化グラフェンと塩基を反応させて酸化グラフェン塩を沈殿させ、前記酸化グラフェン塩を回収する
ことを特徴とする酸化グラフェン塩の作製方法。
【請求項3】
グラファイト及びアルカリ金属塩を含む酸化剤を溶液中で混合して、第1の沈殿物を生成し、
酸性溶液を用いて前記第1の沈殿物に含まれる前記アルカリ金属塩を含む酸化剤を電離させ、前記第1の沈殿物から前記アルカリ金属塩を含む酸化剤を除去して、第2の沈殿物を生成し、
前記第2の沈殿物と水を混合した後、塩基性溶液及び有機溶媒を混合し、前記第2の沈殿物に含まれる、前記グラファイトが酸化された酸化グラファイト及び前記塩基性溶液を反応させ、酸化グラファイト塩を含む第3の沈殿物を生成し、
前記第3の沈殿物と水を混合して、前記第3の沈殿物に含まれる、酸化グラファイト塩から酸化グラフェン塩を分離し、酸化グラフェンを生成する
ことを特徴とする酸化グラフェン塩の作製方法。
【請求項4】
グラファイト及び酸化剤を溶液中で混合して、酸化グラファイト及び前記酸化剤を含む第1の沈殿物を有する第1の混合液を調製し、
前記第1の混合液から、前記第1の沈殿物を回収した後、酸性溶液を用いて前記第1の沈殿物から前記酸化剤を除去して前記酸化グラファイトを含む第2の沈殿物を生成し、
前記第2の沈殿物と水を混合した後、塩基性溶液及び有機溶媒を混合し、前記第2の沈殿物に含まれる酸化グラファイトと塩基を反応させて酸化グラファイト塩を含む第3の沈殿物を生成し、
前記第3の沈殿物と水を混合した後、超音波を印加し、または機械的攪拌により、前記第3の沈殿物に含まれる酸化グラファイト塩から酸化グラフェン塩を分離し、前記酸化グラフェン塩が分散した第2の混合液を調製し、前記第2の混合液に含まれる前記酸化グラフェン塩を回収する
ことを特徴とする酸化グラフェン塩の作製方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項において、前記酸化剤は、硝酸及び塩素酸カリウム、硫酸及び過マンガン酸カリウム、または硝酸、硫酸及び塩素酸カリウムであることを特徴とする酸化グラフェン塩の作製方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項において、前記酸性溶液は、塩酸、希硫酸、または硝酸であることを特徴とする酸化グラフェン塩の作製方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項において、前記塩基性溶液は、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、メチルアミン溶液、エタノールアミン溶液、ジメチルアミン溶液、またはトリメチルアミン溶液であることを特徴とする酸化グラフェン塩の作製方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項において、前記有機溶媒は、アセトン、メタノール、またはエタノールであることを特徴とする酸化グラフェン塩の作製方法。
【請求項9】
グラファイト及びアルカリ金属塩を含む酸化剤を溶液中で混合して、第1の沈殿物を生成し、
酸性溶液を用いて前記第1の沈殿物に含まれる前記アルカリ金属塩を含む酸化剤を電離させ、前記第1の沈殿物から前記アルカリ金属塩を含む酸化剤を除去して、第2の沈殿物を生成し、
前記第2の沈殿物と水を混合して混合液を形成した後、前記混合液に超音波を印加して、または前記混合液を機械的に攪拌して、前記第2の沈殿物に含まれる、前記グラファイトが酸化された酸化グラファイトから酸化グラフェンを分離し、前記酸化グラフェンが分散する分散液を調製し、
前記分散液と、塩基性溶液及び有機溶媒とを混合し、前記分散液に含まれる酸化グラフェン及び前記塩基性溶液に含まれる塩基を反応させ、酸化グラフェン塩を生成し、
前記酸化グラフェン塩を還元して、グラフェンを生成する
ことを特徴とするグラフェンの作製方法。
【請求項10】
グラファイト及び酸化剤を溶液中で混合して、酸化グラファイト及び前記酸化剤を含む第1の沈殿物を有する第1の混合液を調製し、
前記第1の混合液から、前記第1の沈殿物を回収した後、酸性溶液を用いて前記第1の沈殿物から前記酸化剤を除去して、前記酸化グラファイトを含む第2の沈殿物を生成し、
前記第2の沈殿物と水を混合した後、超音波を印加し、または機械的攪拌により、前記酸化グラファイトから酸化グラフェンを分離し、前記酸化グラフェンが分散した第2の混合液を調製し、
前記第2の混合液に塩基性溶液及び有機溶媒を混合し、前記第2の混合液に含まれる酸化グラフェンと塩基を反応させて酸化グラフェン塩を沈殿させ、前記酸化グラフェン塩を回収し、
前記酸化グラフェン塩を還元して、グラフェンを生成する
ことを特徴とするグラフェンの作製方法。
【請求項11】
グラファイト及びアルカリ金属塩を含む酸化剤を溶液中で混合して、第1の沈殿物を生成し、
酸性溶液を用いて前記第1の沈殿物に含まれる前記アルカリ金属塩を含む酸化剤を電離させ、前記第1の沈殿物から前記アルカリ金属塩を含む酸化剤を除去して、第2の沈殿物を生成し、
前記第2の沈殿物と水を混合した後、塩基性溶液及び有機溶媒を混合し、前記第2の沈殿物に含まれる、前記グラファイトが酸化された酸化グラファイト及び前記塩基性溶液を反応させ、酸化グラファイト塩を含む第3の沈殿物を生成し、
前記第3の沈殿物と水を混合して、前記第3の沈殿物に含まれる、酸化グラファイト塩から酸化グラフェン塩を分離し、酸化グラフェンを生成し、
前記酸化グラフェン塩を還元して、グラフェンを生成する
ことを特徴とするグラフェンの作製方法。
【請求項12】
グラファイト及び酸化剤を溶液中で混合して、酸化グラファイト及び前記酸化剤を含む第1の沈殿物を有する第1の混合液を調製し、
前記第1の混合液から、前記第1の沈殿物を回収した後、酸性溶液を用いて前記第1の沈殿物から前記酸化剤を除去して前記酸化グラファイトを含む第2の沈殿物を生成し、
前記第2の沈殿物と水を混合した後、塩基性溶液及び有機溶媒を混合し、前記第2の沈殿物に含まれる酸化グラファイトと塩基を反応させて酸化グラファイト塩を含む第3の沈殿物を生成し、
前記第3の沈殿物と水を混合した後、超音波を印加し、または機械的攪拌により、前記第3の沈殿物に含まれる酸化グラファイト塩から酸化グラフェン塩を分離し、前記酸化グラフェン塩が分散した第2の混合液を調製し、前記第2の混合液に含まれる前記酸化グラフェン塩を回収し、
前記酸化グラフェン塩を還元して、グラフェンを生成する
ことを特徴とするグラフェンの作製方法。
【請求項13】
請求項9乃至請求項12のいずれか一項において、前記酸化剤は、硝酸及び塩素酸カリウム、硫酸及び過マンガン酸カリウム、または硝酸、硫酸及び塩素酸カリウムであることを特徴とするグラフェンの作製方法。
【請求項14】
請求項9乃至請求項13のいずれか一項において、前記酸性溶液は、塩酸、希硫酸、または硝酸であることを特徴とするグラフェンの作製方法。
【請求項15】
請求項9乃至請求項14のいずれか一項において、前記塩基性溶液は、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、メチルアミン溶液、エタノールアミン溶液、ジメチルアミン溶液、またはトリメチルアミン溶液であることを特徴とするグラフェンの作製方法。
【請求項16】
請求項9乃至請求項15のいずれか一項において、前記有機溶媒は、アセトン、メタノール、またはエタノールであることを特徴とするグラフェンの作製方法。
【請求項17】
一般式(G1)で表されることを特徴とする酸化グラフェン塩。
【化1】

(式中、nは自然数、Aは、カルボニル基、カルボキシル基、または水酸基のいずれかを
表し、Bは、アンモニウム基、アミノ基、またはアルカリ金属を表す。)
【請求項18】
請求項17において、前記Cはグラフェンであることを特徴とする酸化グラフェン塩。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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