説明

グラフト、及び内装補強材の装着装置

【課題】本発明は体内管状器官に定置されるグラフト、及び内装補強材の装着装置に関し、動脈瘤等の治療に血管、気管等の体内管状器官内に定置されるグラフトに対する内装補強材の取付を容易かつ確実に行う。
【解決手段】グラフト本体1が合成繊維で形成された環状織物で円筒状に構成され、金属よりなるばね性を有する細線材料にて螺旋状に形成される内装補強材2を収容する螺旋溝3が内周面1aに軸長方向Iに形成したグラフトの前記螺旋溝には、金属よりなるばね性を有する細線材料にて形成された内装補強材2が取付可能に収容されている。そして、グラフト本体1の螺旋溝内に内装補強材2を螺旋状に復元して取付ける方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は体内管状器官に定置されるグラフト、及び内装補強材の装着装置に関し、さらに詳しくは、動脈瘤、癌等の疾病の治療において、或いは、事故で損傷した血管、胆道、尿道、気管等の体内管状器官内に定置されるグラフトに対する内装補強材の取付作業を容易かつ確実に行うものである。
【背景技術】
【0002】
心臓から拍出された血液は、大動脈と呼ばれる直径約20〜30mmの太い血管を通って、脳、腎臓、肝臓等の重要臓器に到達する。大血管系は、大動脈弁の直上から始まって上方に向かう。この部分の大血管は、上行大動脈と呼ばれている。次に大血管系は、脳を含む頭部や上肢を還流する3本の血管、すなわち、腕頭動脈、左総頚動脈、及び、左鎖骨下動脈を分岐した後は、急に方向を下方へ転換して下行大動脈となる。前記上行大動脈と下行大動脈との間になるところは、急なカーブを描くので、弓部大動脈とよばれているが、ここから頭頸部上肢へ前記3本の動脈が分岐している。下行大動脈については、横隔膜より上の部分を胸部下行大動脈とよび、そして、この下の部分を腹部大動脈とよんでいる。
【0003】
動脈瘤は、こうした動脈が局所的に拡大したものをいい、特に、動脈瘤の壁が壁構造を保ったまま拡大したものを真性動脈瘤とよぶ。そして、血管壁の一部が破壊されて外膜のみで瘤が形成されたものを解離性動脈瘤とよんでいる。動脈瘤の大部分(70%以上)は、動脈硬化性のものであるが、その他に、梅毒性、細菌感染性、外傷性等のものがある。動脈瘤が破裂してしまうと、大出血をおこすので、死に至る可能性がきわめて高い。
【0004】
従って、動脈瘤が破裂する前に退治する必要がある。大動脈瘤の退治においては、動脈瘤の切除された部分を人工血管としてグラフトで置き換える置換施術が行われている。このような置換手術は、実験的・臨床的報告によると、胆道、尿道、気管等の種々の体内管状器官においても行われている。これらのグラフトとしては多種のものが提案されている
(例えば特許文献1,2参照)。
【0005】
このような置換手術は、円筒状の人工血管が血管の両開放端部に内挿または外挿され、そして、該人工血管の両端部と該体内管状器官の両開放端部とが手術針を用いて糸で吻合される。
【0006】
そして、グラフトは、一般的には体内への置換施術において血管等の体内管状器管に吻合等の作業が迅速かつ容易にしかも安全に行えるように可撓性、柔軟性、弾性を発揮する材料により形成されなければならない。しかも、施術により定置に置換後には体内管状器官の組織ともなじみが良く、かつ人体に無害な材料により形成されなければならない。そして、グラフトは、内部を流れる血流に対して体内管状器管と同様の内腔断面が確保されなければならない。
【0007】
また、グラフトは、伸縮性を発揮するのと、所定の管腔断面を有する円筒状に形成されなければならない。それは、グラフトの定置施術が、済んでも、グラフト内を流れる血流は心臓の脈動を受けて拍動流となって流れるので、グラフトは常時変化する内圧を受けることになるため、膨張または収縮に繰り返して耐え得る材料により形成され、所定量の血液を流すのに充分な管腔断面を有しなければならないからである。
【0008】
このように、グラフトは、血液が拍動流となって内部に流れるのに対処して所定面積の内腔断面積を確保するのと、一定の保形性を維持するために、グラフト内部には耐食性、耐アルカリ性、耐酸性を有する金属、または合成樹脂よりなるばね性を発揮する材料にて例えば円筒状乃至は袋状に形成された内装補強材(ステント)がグラフト内に設けられているものがあった(特許文献3参照。)。
【0009】
しかし、この内装補強材は、ばね性を発揮し、グラフト自体の保形を維持するものであるが、グラフトを体内管状器官に吻合する作業を行うのには、高度の専門的知識と技能とが必要不可欠であり、しかも、多くの時間がかかり、大規模な施術と困難な作業を伴うものであり、患者にも過酷な負担であった。
【0010】
また、前記内装補強材は、身体の運動や老朽化のために折損と、血行阻害を起こしたり、新たな動脈瘤の発生の直接的原因になっていた。
【0011】
上行大動脈から解離が始まっている典型的なスタンフォードA型解離性大動脈瘤に対しては、置換手術が選択されている。また、下行大動脈から胸腹部大動脈までの領域では、真性動脈瘤が生じやすいので、これに対してもグラフトによる置換手術が行われている。
これらの胸部大動脈瘤の手術においては、体外循環という補助手段が用いられている。この補助手段は、人工心肺装置を用いて行われる。人工心肺装置は、静脈にビニールチューブを挿入し脱血し、同装置を通した後に、血液を再びチューブを介して動脈に送り込む装置である。
【0012】
かかる人工心肺装置を用いる場合には、人工心肺装置及びチューブに長時間にわたり血液が接触しても、血液凝固が起こらないように、大量の抗凝固剤が血液中に投与されており、また、臓器保護が必要な症例では、超低体温・循環停止法がとられて、血液が20度まで冷却されているので、血液はきわめて凝固しにくい状態になっている。このような血液に止血機転が働かない状況下での大動脈と人工血管との吻合部における出血のコントロールは、きわめて困難となっている。このため、大量の輸血および抗凝固剤が大動脈と人工血管との吻合部からの出血のコントロールのために用いられているのが現状である。
【0013】
また、胸部大動脈、弓部大動脈等の大動脈の全置換手術においては、人工血管としてグラフトをそれらの大動脈の両端開放端部に内挿又は外挿し、そして該グラフトの両端部とそれらの大動脈の両開放端部とを手術針を用いて糸で吻合しているが、最近ではこのようなグラフトの両端部と大動脈の両端部とを手術針を用いて糸で吻合する等の手術を行う代わりにステントグラフトをそれらの大動脈における動脈瘤の存在部位にカテーテルを用いて血管内を誘導する措置が提案されている(特許文献4参照。)。
【特許文献1】特開平8−80342号公報
【特許文献2】特開平5−161664号公報
【特許文献3】特開2003−79742号公報
【特許文献4】特開平8−299456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献3に記載の上記従来のグラフトでは、円筒状乃至は袋状に形成された内装補強材(ステント)がグラフト内に設けられたものであり、心臓の脈動を受けて拍動流として血液が流れるグラフトの膨張または収縮により内装補強材は、局部的な負荷がかかって機械的な疲労により折損したり、押潰されたりする。しかも、グラフトに対して内装補強材が移動して偏在することになり、グラフトの保形性が維持されずに、所定の管腔断面が確保することができず、血流が損なわれることがあった。
【0015】
また、特許文献3に記載のグラフトでは、内装補強材が円筒状乃至は袋状に形成されたものであるので、グラフトの内面に対する内装補強材の接触面積が大きく、大きな摩擦力を伴うため、カテーテルを用いてグラフト内に内装補強材を挿入して装着するための装着作業に困難を極めていた。
【0016】
しかも、グラフトの両端部と大動脈の両端部とを手術針を用いて糸で吻合するという大規模な手術を行うのに代えてカテーテルを用いて血管内をグラフトと内装補強材(ステント)を誘導し、留置するという従来のステントグラフトは、カテーテルを抜くと、ステントが急激に血管内で拡大するため、血管を傷付けることがあった。
【0017】
本発明は留置されるグラフトに対して金属よりなるばね性を有する細線材料にて形成される内装補強材の装着が容易かつ確実に行え、しかも血管を傷付けることなく、グラフト内に内装補強材を内装することによりグラフトの保形を維持して充分な内腔断面を確保し、もって拍動流となって流れる血液の血行を円滑にかつ促進し、しかも、機械的疲労により折損したり、押潰れることなく構造堅牢なグラフト、並びに内装補強材の装着装置を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は上記課題に鑑みなされ、請求項1に記載の発明は、
グラフト本体が合成繊維で形成された環状織物で円筒状に構成され、
該グラフト本体には、金属よりなるばね性を有する細線材料にて螺旋状に形成される内装補強材を収容する螺旋溝が内周面に軸長方向に形成されているグラフトであって、
前記螺旋溝には金属よりなるばね性を有する細線材料にて形成された内装補強材が取付可能に収容されていることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の請求項2は、請求項1において、前記グラフト本体が、ポリエステル繊維で形成されることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の請求項3は、請求項1または2において、前記内装補強材が、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、又はタンタルで構成される形状記憶金属にて形成されていることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の請求項4は、請求項1〜3の何れか1の請求項において、前記グラフト本体の両端内部に、側面波形で正面略環状のばね性を有する脚部補強材を装着したことを特徴とする。
【0022】
また、本発明の請求項5の発明は、駆動輪からの駆動力を受動して回転自在となる歯車群および線材送りローラを有するベース上に設けられた駆動機構部と、
金属よりなるばね性を発揮する細線材料により螺旋状に形成された内装補強材を挿通して直線状に変形・案内可能に前記ベースの一次側に設けられたガイド管と、
前記駆動機構部の駆動により前記ベースに立設する立壁部に対して回転自在にかつ進退自在に前記ガイド管の軸線延長線上の二次側に設けられた螺旋筒体と、
所定長さの突出部を保有して前記螺旋筒体内に挿着されて筒状であって、先端には半径方向に折曲された導出・導入口を設けるとともに、内部には所定個所に留置されたグラフト本体に導かれる前記内装補強材が挿通された線材導出・導入管とを備え、
そして、前記駆動機構部の駆動により、前記螺旋筒体および前記線材導出・導入管を留置されたグラフト本体に対して回転させながら螺入したり、螺退させることによりグラフト本体内に設けた螺旋溝に倣って前記内装補強材をグラフト本体内に直線状態から螺旋状に復元して取付けるようにしたことを特徴とする。
【0023】
また、本発明の請求項6は、請求項5において、前記駆動機構部が、前記ベース上に案内ロッドに沿って進退可能に摺動する保持体と、
該保持体に軸着されてハンドル操作にて手動又はモータの駆動により回転される駆動輪と、
前記保持体に夫々軸架され前記駆動輪からの駆動力を受動して後段に伝達する駆動歯車、および該駆動歯車に噛合する受動歯車、並びに駆動伝達歯車、および該駆動伝達歯車に噛合する第1受動歯車、該第1受動歯車に噛合して前記螺旋筒体の後端に装設された第2受動歯車で構成される前記歯車群と、
前記内装補強材を挟持して回転自在に対向配置され内装補強材に前方または後方への推力を付与する一対の線材送りローラとで構成されていることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の請求項7は、請求項5または6において、前記内装補強材が、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、又はタンタルで構成される形状記憶金属にて形成されていることを特徴とする。
【0025】
また、本発明の請求項8は、請求項5〜7の何れか1の請求項において、前記線材導出・導入管が、可撓性乃至は柔軟性を有する合成樹脂可塑物、またはフレキシブル性を有する金属管により形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明は上記従来の欠点を解決し、請求項1に記載の発明によれば、グラフト本体が合成繊維で形成された環状織物で円筒状に構成され、該グラフト本体には、金属よりなるばね性を有する細線材料にて螺旋状に形成される内装補強材を収容する螺旋溝が内周面に軸長方向に形成されているグラフトであって、前記螺旋溝には金属よりなるばね性を有する細線材料にて形成された内装補強材が取付可能に収容されていることを特徴とするので、留置されるグラフト本体の内周面に軸長方向に形成されている螺旋溝内に金属よりなるばね性を有する細線材料にて螺旋状に形成される内装補強材が収容されているため、心臓の脈動を受けて拍動流として血液が流れるグラフトの膨張または収縮を受けても内装補強材は、折損されたり、押潰されることなく、グラフトの保形は維持され、充分な内腔断面を確保できる。従って、拍動流となって流れる血液は、血行が円滑に促進される。
【0027】
また、本発明の請求項2によれば、前記グラフト本体が、ポリエステル繊維で形成されることを特徴とするので、グラフト本体の強度及び柔軟性を確保することができ、しかも、グラフト本体中における血液等の体液のスムーズな流れを確保できる。
【0028】
また、本発明の請求項3に記載の発明によれば、前記内装補強材は、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、又はタンタルで構成される形状記憶金属にて形成されることを特徴とするので、定置されるグラフト本体に対してばね性と形状記憶性を発揮して取付操作が迅速かつ簡単に行える。また、内装補強材は、ばね性を発揮し、グラフトの膨張または収縮を受けても折損されたり、押潰されることはない。しかも、それらの金属が体液により腐食されない。
【0029】
また、本発明の請求項4によれば、前記グラフト本体の両端内部に、側面波形で正面略環状のばね性を有する脚部補強材を装着したことを特徴とするので、カテーテル内に折り畳まれた状態にて所定位置まで誘導されたグラフト本体が、カテーテルが僅かに後退してカテーテルから引き抜かれると、グラフト本体の一端内部に装着された側面波形で正面略環状の脚部補強材はばね性を発揮して拡開することにより血管に係止されてグラフト本体は保形され、所定の内腔断面を確保して血管内に定置される。
【0030】
また、本発明の請求項5に記載の発明によれば、駆動輪からの駆動力を受動して回転自在となる歯車群および線材送りローラを有し、ベース上に設けられた駆動機構部と、金属よりなるばね性を発揮する細線材料により螺旋状に形成された内装補強材を挿通して直線状に変形・案内可能に前記ベースの一次側に設けられたガイド管と、前記駆動機構部の駆動により前記ベースに立設する立壁部に対して回転自在にかつ進退自在に前記ガイド管の軸線延長線上の二次側に設けられた螺旋筒体と、所定長さの突出部を保有して前記螺旋筒体内に挿着されて筒状であって、先端には半径方向に折曲された導出・導入口を設けるとともに、内部には所定個所に留置されたグラフト本体に導かれる前記内装補強材が挿通された線材導出・導入管とを備え、前記駆動機構部の駆動により、前記螺旋筒体および前記線材導出・導入管を定置されたグラフト本体内に設けた螺旋溝に倣って前記内装補強材をグラフト本体内に回動操作して直線状態から螺旋状に復元して取付けるようにしたことを特徴とするので、留置されるグラフト本体の内周面に軸長方向に形成されている螺旋溝内に金属よりなるばね性を有する細線材料にて螺旋状に形成された内装補強材をカテーテルを介して回動操作して内装補強材を迅速かつ確実に取付けることができる。
【0031】
また、本発明の請求項6に記載の発明によれば、前記駆動機構部が、前記ベース上に案内ロッドに沿って進退可能に摺動する保持体と、該保持体に軸着されてハンドル操作にて手動又はモータの駆動により回転される駆動輪と、前記保持体に夫々軸架され前記駆動輪からの駆動力を受動して後段に伝達する駆動歯車、および該駆動歯車に噛合する受動歯車、並びに駆動伝達歯車、および該駆動伝達歯車に噛合する第1受動歯車、該第1受動歯車に噛合して前記螺旋筒体の後端に装設された第2受動歯車で構成される前記歯車群と、前記内装補強材を挟持して回転自在に対向配置され内装補強材に前方または後方への推力を付与する一対の線材送りローラとで構成されていることを特徴とするので、ハンドル操作にて手動又はモータの駆動により駆動輪を自動的に回転することにより駆動歯車、および該駆動歯車に噛合する受動歯車、並びに駆動伝達歯車、および該駆動伝達歯車に噛合する第1受動歯車、該第1受動歯車に噛合して前記螺旋筒体の後端に装設された第2受動歯車により前記歯車群を介して螺旋筒体および前記線材導出・導入管を定置されたグラフト本体に対して回転させながら螺進したり、または螺退させることによりグラフト本体内に設けた螺旋溝に倣って前記内装補強材をグラフト本体内に直線状態から螺旋状に復元することにより、内装補強材を取付けることができる。
【0032】
また、本発明の請求項7に記載の発明によれば、前記内装補強材が、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、又はタンタルで構成される形状記憶金属にて形成されていることを特徴とするので、留置されるグラフト本体に対してばね性と形状記憶性を発揮して取付操作が迅速かつ簡単に行える。また、内装補強材は、ばね性を発揮し、グラフトの膨張または収縮を受けても折損されたり、押潰されることはない。しかも、それらの金属が体液により腐食されない。
【0033】
また、本発明の請求項8に記載の発明によれば、前記線材導出・導入管が、可撓性乃至は柔軟性を有する合成樹脂可塑物、またはフレキシブル性を有する金属管により形成されていることを特徴とするので、カテーテルの動きに追従して線材導出・導入管は可撓性乃至は柔軟性を発揮することにより内装補強材をグラフト本体に対して滑らかに導出したり、動入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面に従って本発明の実施の最良の形態により、本発明の詳細を説明する。
【0035】
図1は本発明のグラフトの実施形態1を示す拡大斜視図、図2は同じくグラフトを構成する内装補強材をグラフト内に取付けるのに用いる内装補強材の装着装置を示す斜視図、図3は同じくグラフト内に内装補強材を取付ける状態を示す説明用の拡大断面図、図4は同じくグラフト内に内装補強材を取付終了直前を示す説明用の拡大断面図である。
【0036】
図1において、1は動脈瘤、癌等の疾病の治療において、或いは、事故で損傷した血管、胆道、尿道、気管等の体内管状器管にカテーテルK内に折り畳まれるとともにカテーテルKを通じて血管内に誘導されて置換されるグラフト本体であり、このグラフト本体1は合成繊維で形成された環状織物で円筒状に構成される。このように、グラフト本体1を形成するための合成繊維としては、例えばポリエステル繊維がある。このように、グラフト本体1を例えばポリエステル繊維により形成したことによりグラフト本体1の強度及び柔軟性を確保することができ、しかも、グラフト本体1中における血液等の体液のスムーズな流れを確保することができる。
【0037】
2はカテーテルKを通じて前記グラフト本体1内に内装される内装補強材であり、この内装補強材2は金属よりなるばね性を有する細線材料にて螺旋状に形成され、この内装補強材2は前記グラフト本体1の内周面1aに軸長方向Iに形成される螺旋溝3内に取付可能に収容される。この内装補強材2のグラフト本体1に対する装着長さは適当に設定される。
【0038】
この内装補強材2は、例えばチタン、ニッケル、ステンレス鋼、又はタンタルで構成される形状記憶金属よりなる細線材料にて螺旋状に形成される。このように内装補強材2は、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、又はタンタルで構成される形状記憶金属にて形成されるので、留置されるグラフト本体1に対してばね性と形状記憶性を発揮することにより、グラフトの内面に対して接触面積が小さく、摩擦力が小さいため、回動操作されるだけで取付操作が迅速かつ簡単に行える。また、内装補強材2は、それらの金属が血液等の体液により腐食されない。
【0039】
2aはグラフト本体1を体内管状器官にカテーテルKを通じて留置するのと、グラフト本体1の両端内部を補強して保形を保って所定の内腔断面を確保するためにグラフト本体1の両端内部に装着された側面波形で正面略環状のばね性を有する脚部補強材であり、この脚部補強材2aは前記内装補強材2と同様材料により形成される。
【0040】
このように、グラフト本体1内に内装補強材2を内装するのは、螺旋状ではばね性を発揮する内装補強材2により心臓の脈動により膨張または収縮を繰り返すグラフト本体1の保形を維持し、グラフト本体1内に充分な内腔断面Sを確保することにより、グラフト本体1内を拍動流となって流れる血液の血行を円滑に促進するためである。
【0041】
図2においてAはグラフト本体1内に内装補強材2を供給して取付けるために使用するグラフトへの内装補強材2の装着装置であり、この内装補強材2の装着装置Aは、本実施形態1では駆動輪4からの駆動力を受動して回転自在となる歯車群5および線材送りローラ6A,6Bを有し、ベース7上に設けられた駆動機構部8と、金属よりなるばね性を発揮する細線材料により螺旋状に形成された内装補強材2を挿通して直線状に変形・案内可能に前記ベース7の一次側に設けられた直線状のガイド管9と、前記駆動機構部8の駆動により前記ベース7に立設する立壁部7Aに対して回転自在にかつ進退自在に前記ガイド管9の軸線延長線I′上の二次側に設けられた螺旋筒体10と、所定長さLの突出部11aを保有して前記螺旋筒体10内に挿着され、先端には半径方向Rに折曲された導出・導入口11bを設けるとともに、カテーテルKを通じて血管の所定個所に定置されるグラフト本体1に同じくカテーテルKを通じて導かれる前記内装補強材2が挿通される線材導出・導入管11とを備え、前記駆動機構部8の駆動により、前記螺旋筒体10および前記線材導出・導入管11を定置されたグラフト本体1に対して回転させながら前記内装補強材2を螺入したり、螺退させることによりグラフト本体1内に設けた螺旋溝3に倣って前記内装補強材2をグラフト本体1内に直線状態から螺旋状に復元して取付ける構成である。lは前記導出・導入口11bの長さであり、この長さlはグラフト本体1の半径R1、グラフト本体1の内周に設ける螺旋溝3等を考慮して内装補強材2を導入したり、導出するのに適当長さに決定される。
【0042】
また、前記駆動機構部8は、前記ベース7上に案内ロッド12に沿って進退可能に摺動する保持体13と、該保持体13に軸着されてハンドルHを把持したハンドル操作にて手動又は図には示さないモータの駆動により回転させる前記駆動輪4と、前記保持体13に夫々軸架され前記駆動輪4からの駆動力を受動して後段に伝達する駆動歯車15、および該駆動歯車15に噛合する受動歯車16、並びに駆動伝達歯車17、および該駆動伝達歯車17に噛合する第1受動歯車18、該第1受動歯車18に噛合して前記螺旋筒体10の後端に装設された第2受動歯車19で構成される前記歯車群5と、前記内装補強材2を挟持して回転自在に対向配置され内装補強材2に前方または後方への推力を付与する一対の線材送りローラ6A,6Bとで構成されている。
【0043】
本実施形態1の内装補強材2の装着装置Aの実施形態1は以上の構成からなり、体内管状器管としての血管内にカテーテルKを通じて折り畳まれた状態にて所定位置まで誘導されたグラフト本体1が、カテーテルKが僅かに後退してカテーテルKから引き抜かれると、グラフト本体1の両端のうち、一端内部に装着された側面波形で正面略環状の脚部補強材2aはばね性を発揮して拡開することにより血管に係止されてグラフト本体1は保形され、所定の内腔断面Sをもって血管内に定置される。次いで、ハンドルHを把持してハンドル操作を行うか、又は図には示さないモータの駆動により駆動輪4が自動的に回転されると、駆動歯車15、および該駆動歯車15に噛合する受動歯車16、駆動伝達歯車17、および駆動伝達歯車17に噛合する第1受動歯車18、該第1受動歯車18に噛合して前記螺旋筒体10の後端に装設された第2受動歯車19よりなる歯車群5を介して螺旋筒体10および前記線材導出・導入管11は前述のように定置されたグラフト本体1に対して回転される。
【0044】
このようにして、螺旋筒体10が正転方向に回転されたり、または逆転方向に回転されることによりこの螺旋筒体10が螺入されている立壁部7Aを有するベース7に対して駆動機構部8が内設された保持体13は、ベース7上を案内ロッド12に案内されながら前進したり、または後退する。
【0045】
そして、前述のように駆動機構部8の駆動輪4を駆動して螺旋筒体10を線材導出・導入管11と一緒に正転方向に回転したり、または逆転方向に回転させながら微調整して内装補強材2をグラフト本体1内、すなわち、図3に示すようにグラフト本体1の内周面1aに軸長方向Iに設けた螺旋溝3に倣って金属よりなり、ばね性を有する細線材料にて螺旋状に形成された前記内装補強材2をカテーテルKを介して回動操作して螺退させれながらカテーテルKから抜け出るのに伴って迅速かつ確実にグラフト本体1内に直線状態から螺旋状に復元して留置することにより取付ける。こうして、効率的に且つ安全なグラフトの定置を行うことができる。
【0046】
このように、本実施形態1の内装補強材2の装着装置Aによれば、グラフト本体1をカテーテルKを通じて体内管状器官に定置した後に、駆動機構部8の駆動輪4を駆動することにより合成繊維で形成されて環状織物で構成される円筒状のグラフト本体1の内周に設けた螺旋溝3に、金属よりなるばね性を発揮する細線材料にて形成した螺旋状の内装補強材2を体内管状器官内に導入されるカテーテルK内を通じてグラフト本体1内に逆転されながら導き、螺退されながら留置することにより前記グラフト本体1内の螺旋溝3に倣って内装補強材2を直線状態から螺旋状に収容してグラフト本体1内に取付けるので、留置されるグラフト本体1の内周面に軸長方向Iに形成されている螺旋溝3内に内装補強材2はグラフトの内面に対する接触面積が小さく、摩擦力が低減された状態で迅速かつ確実に収容される(図3参照)。このため、心臓の脈動を受けて連続的に膨張または収縮を繰返すグラフト本体1は、内装補強材2がばね性を発揮することにより保形されて充分な内腔断面Sを確保できる。従って、拍動流となってグラフト本体1内を流れる血液は、血行が円滑に促進される。以て効率的に且つ従来のステントグラフトのようにステントの急激な拡大により血管を傷付けることなく安全なグラフトの定置を行うことができる。
【0047】
この際、グラフト本体1の螺旋溝3のピッチP1と、螺旋状の内装補強材2のピッチP2と、内装補強材2を導出するための線材導出・導入管11と一緒に回動しながら前進する螺旋筒体10のピッチP3とは等ピッチであり、螺旋筒体10と一緒に線材導出・導入管11を螺旋溝3のピッチP1に合わせて回動しながら螺進したり、螺退するようにして正確に内装補強材2を螺旋溝3内に収容するようにする。しかも、導出・導入口11bの長さlをグラフト本体1の半径R1、グラフト本体1の内周に設ける螺旋溝3等を考慮して適当長さに決定すれば、内装補強材2を螺旋溝3に容易かつ確実に導出することができる。
【0048】
また、本実施形態1で用いる線材導出・導入管11は、可撓性乃至は柔軟性を有する合成樹脂可塑物、またはフレキシブル性を有する金属管により形成されるので、カテーテルKの動きに追従して線材導出・導入管11は可撓性乃至は柔軟性を発揮することにより内装補強材2をグラフト本体1内に滑らかに導入することができる。
【0049】
しかも、内装補強材2は、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、又はタンタルよりなる形状記憶金属にて形成されるので、定置されるグラフト本体1に対してばね性を発揮するから、前述のように内装補強材2の取付操作を迅速かつ簡単に行うことができるとともに形状記憶性によりグラフト1の膨張または収縮により偏在することなく保形性を維持する。
従って、グラフト本体1は常時、所定の管腔断面を維持し、血流は円滑かつ速やかに流れ、滞って血栓を生ずることはない。
【0050】
また、本実施形態1で用いる内装補強材2は、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、又はタンタルで構成される形状記憶金属にて形成されるので、内装補強材2は、それらの金属が体液により腐食されないため、長期間の使用に耐え、機械的寿命は長い。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は定置されるグラフトに対して金属よりなるばね性を有する細線材料にて形成される内装補強材の取付が容易かつ確実に行え、血管を傷付けることもなくしかもグラフト内に内装補強材を内装することによりグラフトの保形を維持して充分な内腔断面を確保し、もって拍動流となって流れる血液の血行を円滑にかつ促進し、しかも、機械的疲労により折損したり、押潰されることなく構造堅牢な分野、用途に適する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は本発明のグラフトの実施形態1を示す拡大斜視図である。
【図2】図2は同じくグラフトを構成する内装補強材をグラフト内に取付けるのに用いる内装補強材の装着装置を示す斜視図である。
【図3】図3は同じくグラフト内に内装補強材を取付ける状態を示す説明用の拡大断面図である。
【図4】図4は同じくグラフト内への内装補強材の取付終了直前の状態を示す説明用の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 グラフト本体
2 内装補強材
2a 脚部補強材
3 螺旋溝
4 駆動輪
5 歯車群
6A 線材送りローラ
6B 線材送りローラ
7 ベース
8 駆動機構部
9 ガイド管
10 螺旋筒体
11 線材導出・導入管
11b 導出・導入口
12 案内ロッド
13 保持体
15 駆動歯車
16 受動歯車
17 駆動伝達歯車
18 第1受動歯車
19 第2受動歯車
A 内装補強材2の装着装置
I 軸長方向
I′ 軸線延長線
R 半径方向
S 内腔断面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフト本体が合成繊維で形成された環状織物で円筒状に構成され、
該グラフト本体には、金属よりなるばね性を有する細線材料にて螺旋状に形成される内装補強材を収容する螺旋溝が内周面に軸長方向に形成されているグラフトであって、
前記螺旋溝には金属よりなるばね性を有する細線材料にて形成された内装補強材が取付可能に収容されていることを特徴とするグラフト。
【請求項2】
前記グラフト本体が、ポリエステル繊維で形成されることを特徴とする請求項1に記載のグラフト。
【請求項3】
前記内装補強材が、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、又はタンタルで構成される形状記憶金属にて形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のグラフト。
【請求項4】
前記グラフト本体の両端内部に、側面波形で正面略環状のばね性を有する脚部補強材を装着したことを特徴とする請求項1〜3の何れか1の請求項に記載のグラフト。
【請求項5】
駆動輪からの駆動力を受動して回転自在となる歯車群および線材送りローラを有するベース上に設けられた駆動機構部と、
金属よりなるばね性を発揮する細線材料により螺旋状に形成された内装補強材を挿通して直線状に変形・案内可能に前記ベースの一次側に設けられたガイド管と、
前記駆動機構部の駆動により前記ベースに立設する立壁部に対して回転自在にかつ進退自在に前記ガイド管の軸線延長線上の二次側に設けられた螺旋筒体と、
所定長さの突出部を保有して前記螺旋筒体内に挿着されて筒状であって、先端には半径方向に折曲された導出・導入口を設けるとともに、内部には所定個所に留置されたグラフト本体に導かれる前記内装補強材が挿通された線材導出・導入管とを備え、
そして、前記駆動機構部の駆動により、前記螺旋筒体および前記線材導出・導入管を留置されたグラフト本体に対して回転させながら螺入したり、螺退させることによりグラフト本体内に設けた螺旋溝に倣って前記内装補強材をグラフト本体内に直線状態から螺旋状に復元して取付けることを特徴とするグラフトへの内装補強材の装着装置。
【請求項6】
前記駆動機構部が、前記ベース上に案内ロッドに沿って進退可能に摺動する保持体と、
該保持体に軸着されてハンドル操作にて手動又はモータの駆動により回転される駆動輪と、
前記保持体に夫々軸架され前記駆動輪からの駆動力を受動して後段に伝達する駆動歯車、および該駆動歯車に噛合する受動歯車、並びに駆動伝達歯車、および該駆動伝達歯車に噛合する第1受動歯車、該第1受動歯車に噛合して前記螺旋筒体の後端に装設された第2受動歯車で構成される前記歯車群と、
前記内装補強材を挟持して回転自在に対向配置され内装補強材に前方または後方への推力を付与する一対の線材送りローラと
で構成されていることを特徴とする請求項5に記載のグラフトへの内装補強材の装着装置。
【請求項7】
前記内装補強材が、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、又はタンタルで構成される形状記憶金属にて形成されていることを特徴とする請求項5または6に記載のグラフトへの内装補強材の装着装置。
【請求項8】
前記線材導出・導入管が、可撓性乃至は柔軟性を有する合成樹脂可塑物、またはフレキシブル性を有する金属管により形成されていることを特徴とする請求項5〜7の何れか1の請求項に記載のグラフトへの内装補強材の装着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−144065(P2007−144065A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−346107(P2005−346107)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(592205045)株式会社北村製作所 (10)
【Fターム(参考)】