説明

グラフト共重合体、これを用いた衝撃強度改質剤、熱可塑性樹脂組成物ならびにグラフト共重合体の製造方法

本発明の要旨はポリオルガノシロキサンを含むゴム成分を有し、3〜7員環のジメチルシロキサン系環状体の含有量が3000ppm以下であるグラフト共重合体にあり、熱可塑性樹脂に添加した際に、優れた耐衝撃性等を発現するとともに、成形品中の残存揮発分が少なく、その存在意義は特に自動車内装、建造物室内部材等の用途において非常に大きい。 本発明のグラフト共重合体は、熱可塑性樹脂のうち、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、アクリロニトリル/スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂から選ばれる1種または2種以上からなる樹脂に特に好適に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃強度改質剤として用いられるグラフト共重合体およびこれを用いた熱可塑性樹脂組成物に関する。また、本発明はグラフト共重合体中に含まれるの特定のポリオルガノシロキサン量を一定の量以下にするためのグラフト共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオルガノシロキサンをゴム成分として含むグラフト共重合体は、自動車内装用途等に用いられる樹脂材料に配合され、衝撃強度改質剤として用いられている。
グラフト共重合体に含まれるポリオルガノシロキサンの製造方法としては、一般に乳化重合法が使用される。
特に、衝撃強度改質剤として使用する場合には、一般にコアシェル型グラフトゴムが好適であるため、粒子径制御、コアシェル型粒子の形成が容易な乳化重合法が用いられる。そのようなグラフト共重合体の一例として、ゴム成分としてポリオルガノシロキサン/アクリル複合ゴムを用いたグラフト共重合体が開示されている(特許文献1、2参照。)。
【0003】
しかし、乳化重合に用いられるポリオルガノシロキサンエマルジョンに関しては、その重合様式は平衡反応に支配され、重合度を高めることは現状において困難であった。重合度が低いことは、すなわち低分子量のオルガノシロキサンが生成していることを意味する。
【0004】
かかる問題に対しては、特定温度以下で長時間重合を行い、残存するオルガノシロキサン、特に低分子量環状オルガノシロキサンの含有量を通常よりも少なくする製造方法が特許文献3に開示されており、また特許文献4にも、同様に冷却下において重合度を高める製造方法が開示されている。
ここで、特許文献3、4に記載の製造方法は、ポリオルガノシロキサンのエマルジョンを直接使用する用途、例えば繊維処理剤、離形剤、シャンプー等の用途において環境的側面を考慮し、オルガノシロキサン重合の段階で、揮発しやすい低分子量オルガノシロキサンを低減することを目的としたものである。
しかし、オルガノシロキサンの重合に関る平衡反応は、アルカリあるいは酸性下において進行するため、中和により平衡反応を停止することができるものの、例えばアクリルとの複合ゴムを重合しようとする際などに、重合系のpHがアルカリ、あるいは酸性サイドに傾いた場合、再度オルガノシロキサンの平衡反応に伴う脱重合が進行し、低分子量オルガノシロキサンが増加する場合もありうる。
また特許文献3、4に記載のポリオルガノシロキサンの製造方法は、低温にするための設備を必要とし、あるいは重合に要する時間が長いため、コストの問題があった。
【0005】
そこで、ポリオルガノシロキサンを含むグラフト共重合体を得ようとする場合には、特許文献1や特許文献2に示される高温での重合を行い、そこで生じる低分子量オルガノシロキサンに対しては、グラフト共重合体を製造し、一般的な最終形態である粉体として回収する際の、凝集過程、あるいは乾燥工程で内在する低分子量オルガノシロキサンを除去、回収するのが通例である。このような方法で得られたグラフト共重合体粉末を用いれば、残存する低分子量オルガノシロキサン量はそれなりに低減され、一般的な使用上での問題が生じるレベルではなくなる。
【特許文献1】特開昭63−069859号公報
【特許文献2】特開平1−79257号公報
【特許文献3】特開2001−288269号公報
【特許文献4】特開2001−106788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に示される高温での重合を行い、そこで生じる低分子量オルガノシロキサンを、粉体として回収する際の凝集過程、乾燥工程で除去、回収する場合、粉体の取り扱いと揮発分の除去とを同時に行うため、作業性が悪く、また工程が煩雑となっていた。また、自動車内装用途等において定められる揮発分等に関する規格が厳しさを増していることに対応するため、また環境的側面からも、最終的な製品状態における低分子量オルガノシロキサンのレベルを、さらに低減することが望まれている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その重合特性ゆえに残存しやすいオルガノシロキサン、特にそれらの残存形態である低分子量環状オルガノシロキサンを簡便な工程で大幅に低減し、かつ、本来備わっている衝撃強度改質性等の機械的特性を損なわず、各性能を高いレベルで発現しうる熱可塑性樹脂組成物と、それに使用されるポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体を提供することを目的とし、またそのグラフト共重合体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明者らは、ポリオルガノシロキサンを含むゴム成分を有するポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体、特にポリオルガノシロキサン/アクリル複合ゴム系グラフト共重合体に関し、押出機を用い、その条件を工夫することによって、本来の衝撃強度改質特性を損ねず、また新たな揮発分の生成を抑制しながらグラフト共重合体中に含まれる低分子量環状オルガノシロキサンを除去し、これを熱可塑性樹脂組成物に使用することにより、ポリオルガノシロキサンに起因する揮発分を低減できることを見出した。
即ち、本発明の要旨は、ポリオルガノシロキサンを含むゴム成分を有し、3〜7員環のジメチルシロキサン系環状体の含有量が3000ppm以下であるグラフト共重合体にある。更に前記3〜7員環のジメチルシロキサン系環状体の含有量は2000ppm以下とすることが好ましい。
本発明のグラフト共重合体は、ゴム成分が、ポリオルガノシロキサンおよびアクリル系重合体からなる複合ゴムを使用することが好ましい。
本発明のグラフト共重合体は、グラフト共重合体中のポリオルガノシロキサンの含有量が、5〜90質量%であることが好ましい。
本発明のグラフト共重合体は、アルキルアルコールの含有量が50ppm以下であることが好ましい。
また、本発明の要旨は、前記グラフト共重合体からなる衝撃強度向上剤にある。
【0009】
更に本発明の要旨は、ベント付き押出機を用いて脱揮処理を施すことを特徴とするポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体の製造方法にある。
本発明の製造方法は、シリンダー有効長さLと口径Dの比L/Dが、35〜100であるベント付き押出機を使用することが好ましい。
また、本発明の要旨は、熱可塑性樹脂と、前記グラフト共重合体とからなる熱可塑性樹脂組成物にある。
本発明の樹脂組成物において、熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、アクリロニトリル/スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂から選ばれる1種または2種以上からなることが好ましい。
本発明の樹脂組成物においては、3〜7員環のジメチルシロキサン系環状体の含有量が550ppm以下であることが好ましい。
本発明の樹脂組成物においては、3〜6員環のジメチルシロキサン系環状体の含有量が250ppm以下であることが好ましい。
更に本発明の樹脂組成物においては、アルキルアルコールの含有量が20ppm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のグラフト共重合体によれば、オルガノシロキサン、特に低分子量環状オルガノシロキサンが大幅に低減されており、衝撃強度改質剤として好適に用いられる。また、これを用いた熱可塑性樹脂組成物は、成形品に含まれる揮発分が少なく、各性能を高いレベルで発現することができる。
また、本発明のグラフト共重合体の製造方法によれば、簡易な装置を用いて高い効率で低分子量環状オルガノシロキサンを低減させたグラフト共重合体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のグラフト共重合体は、ポリオルガノシロキサンを含むゴム成分を有するものであり、ポリオルガノシロキサンを含むゴム成分に、1種または2種以上のビニル系単量体をグラフト重合して得ることができる。
ポリオルガノシロキサンとしては、オルガノシロキサン単位を有するものであればよく、オルガノシロキサン単量体、またはオルガノシロキサン単量体が重合したオリゴマーを原料として得ることができる。
オルガノシロキサン単量体が重合したオリゴマーとしては、例えば、ジメチルシロキサンを主原料とする環状体(ジメチルシロキサン系環状体)を用いることができ、ジメチルシロキサン系環状体の中でも、3員環以上のものが好ましく、特に3〜7員環のジメチルシロキサン系環状体が好適に用いられる。ジメチルシロキサン系環状体は、ゴム成分として後述の複合ゴムを用いる場合に、特に好適に用いられる。
3〜7員環のジメチルシロキサン系環状体としては、具体的には、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)等が挙げられる。これらは単独でまたは二種以上混合して用いられるが、環状オルガノシロキサンオリゴマーとして3量体1〜10質量%、4量体30〜95%、5量体5〜40質量%、6量体以上が0〜10質量%からなるオリゴマー混合物を原料として使用することが好ましい。
【0012】
ポリオルガノシロキサンの製造方法としては特に制限はないが、強制乳化重合によることが好ましく、例えば、以下の製造方法を採用できる。
まず、ジメチルシロキサン系環状体と、必要に応じてシロキサン系架橋剤とを含むシロキサン混合物を乳化剤と水によって乳化させてラテックスを調製し、ラテックスを微粒子化した後、酸触媒を用いて高温下で重合させ、次いでアルカリ性物質により酸を中和してポリオルガノシロキサンのラテックス(ポリオルガノシロキサンラテックス)を得る。
【0013】
ここで、ラテックスを微粒子化する方法としては、高速回転による剪断力で微粒子化するホモミキサーを用いる方法、高圧発生機による噴出力で微粒子化するホモジナイザー等を使用する方法などが挙げられる。
重合に用いる酸触媒の添加方法としては、シロキサン混合物、乳化剤および水とともに一括して添加し、混合する方法、酸触媒の水溶液中にシロキサン混合物が微粒子化したラテックスを滴下する方法等が挙げられるが、乳化剤および水とともに一括して添加する方法が好ましく用いられる。さらに好ましい添加方法として、酸触媒をラテックスに投入したのち、昇温と同時に強制乳化工程を行なうこと、ならびに該強制乳化工程において予備乳化機および5MPa以上の圧力を発生可能な強制乳化機を使用することで、ポリオルガノシロキサンの粒子径分布を容易に制御することができる。
シロキサン混合物、乳化剤、水および/または酸触媒を混合する方法は、高速攪拌による混合、ホモジナイザーなどの高圧乳化装置による混合などがあるが、インラインミキサーのような予備乳化機を用いて予備乳化した後、5MPa以上の圧力を発生可能なホモジナイザーのような装置を用いる方法が、ポリオルガノシロキサンラテックスの粒子径分布を所望の分布に制御することができるので好ましい方法である。
【0014】
ポリオルガノシロキサンを得るための重合時間は、酸触媒をシロキサン混合物、乳化剤および水とともに一括して添加する方法を用いた場合は、所望の温度に達してから通常2時間以上、好ましくは5時間以上である。酸触媒の水溶液中にシロキサン混合物が微粒子化したラテックスを滴下する方法の場合では、ラテックスの滴下終了後1時間程度保持することが好ましい。なお酸触媒をシロキサン混合物、乳化剤および水とともに一括して添加する場合、所望の温度に達してから約5時間で平衡状態に達するので、重合時間としては6時間程度が妥当であるが、長くする分には、重合そのものには問題はない。
重合の停止は、反応液を冷却し、さらにラテックスを苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)、苛性カリ(水酸化カリウム)、炭酸ナトリウムなどのアルカリ性物質で中和することによって行うことができる。
【0015】
ポリオルガノシロキサンの製造の際に用いられる乳化剤としては、アニオン系乳化剤が好ましい。アニオン系乳化剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム等が挙げられ、これらの中でも、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルスルホン酸ナトリウムが好ましい。
また、ポリオルガノシロキサンの製造に用いられる酸触媒としては、脂肪族スルホン酸、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸、脂肪族置換ナフタレンスルホン酸や芳香族を含むスルホン酸等のスルホン酸類;硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸類などが挙げられる。これらの酸触媒は単独でまたは二種以上を組み合わせて用いられる。これらの酸触媒の中では、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸が、ポリオルガノシロキサンラテックスの安定化作用に優れている点で好ましく、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸の中でもn−ドデシルベンゼンスルホン酸が特に好ましい。また、n−ドデシルベンゼンスルホン酸と、硫酸などの鉱酸とを併用すると、ポリオルガノシロキサンラテックスの乳化剤成分に起因する樹脂組成物の外観不良を低減させることができる。
【0016】
シロキサン系架橋剤としては、3官能性または4官能性のシラン系架橋剤、例えば、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン等を用いることができる。
【0017】
ゴム成分を構成するポリオルガノシロキサン以外の成分としては、種々のものがあるが、耐衝撃性が必要とされる場合には、ジエン系重合体、オレフィン系重合体、ビニル系重合体等が挙げられ、特にアクリル系重合体が好ましく用いられる。
特に、前記ゴム成分は、ポリオルガノシロキサンおよびアクリル系重合体からなる複合ゴムであることが好ましい。アクリル系重合体成分は、具体的には、(メタ)アクリレート類の重合体である。
ここでいう複合ゴムは、ポリオルガノシロキサンとアクリル系重合体とが互いに分離できないように絡み合った構造を有するものである。
ゴム成分として上記の複合ゴムを用いたグラフト共重合体は、樹脂組成物に用いられたときの耐衝撃性、特に低温下における耐衝撃性や、その他機械的特性を向上させる効果を増大させることができる。
【0018】
ゴム成分として複合ゴムを用いる場合、ポリオルガノシロキサンは、ビニル重合性官能基含有シロキサンを構成成分として含むものが好ましい。このようなポリオルガノシロキサンを得るためには、上述のポリオルガノシロキサンの製造方法において、シロキサン混合物に、ビニル重合性官能基含有シロキサンを配合すればよい。
ビニル重合性官能基含有シロキサンは、ビニル重合性官能基を含有しジメチルシロキサンあるいはジメチルシロキサン系環状体とシロキサン結合を介して結合しうるものであり、アクリル系重合体との複合化を容易とするものである。
ビニル重合性官能基含有シロキサンとしては、ジメチルシロキサンとの反応性を考慮するとビニル重合性官能基を含有する各種アルコキシシラン化合物が好ましい。
具体的には、β−メタクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメトキシジメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルエトキシジエチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルエトキシジエトキシメチルシラン及びδ−メタクリロイルオキシブチルジエトキシメチルシラン等のメタクリロイルオキシシラン;テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン等のビニルシロキサン;p−ビニルフェニルジメトキシメチルシラン等のビニルフェニルシラン;γ−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン、等を用いることができる。
なお、これらビニル重合性官能基含有シロキサンは、単独でまたは2種以上の混合物として用いることができる。
【0019】
前記ゴム成分として複合ゴムを用いる場合、この複合ゴムの製造方法としては、上述のポリオルガノシロキサンの製造方法において、中和されたポリオルガノシロキサンラテックス中に、アルキル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類、架橋剤、グラフト交叉剤を添加し、ポリオルガノシロキサン中にアルキル(メタ)アクリレートを含浸させた後、公知のラジカル重合開始剤を作用させて重合する方法を用いることができる。
(メタ)アクリレート類としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ラウリルメタクリレート(ドデシルメタクリレート)、ステアリルメタクリレート(オクタデシルメタクリレート)等が挙げられる。これらの(メタ)アクリレート類は単独でまたは2種以上併用して用いられる。
【0020】
さらに、複合ゴムを得るための単量体中には、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族アルケニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;メタクリル酸変性シリコーン;フッ素含有ビニル化合物等の、アルキル(メタ)アクリレート以外の各種のビニル系単量体を30質量%以下の範囲で共重合成分として含んでいてもよい。
また、架橋剤またはグラフト交叉剤としては、例えば分子中に2個以上の不飽和結合を有する単量体を、単独でまたは混合して使用できる。架橋剤としては、例えばエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、多官能メタクリル基変性シリコーン等が挙げられる。
また、グラフト交叉剤としては、例えばアリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。アリルメタクリレートは架橋剤として用いることもできる。
架橋剤またはグラフト交叉剤は、ポリアルキル(メタ)アクリレート部中に、質量を基準として0.1から2.5%となるよう使用することが必要である。この使用量が0.1%未満であると粉体として回収することが困難と成るので好ましくなく、また2.5%を超えると耐衝撃性の低下が見られるため好ましくない。
【0021】
複合ゴムを得るための重合方法は特に限定されないが、通常は乳化重合、必要があれば強制乳化重合によって行うことができる。例えば、アクリル系重合体を構成する単量体として、2−エチルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレートを選択した場合は、これら単量体が水溶性に乏しいため、強制乳化重合法でアクリル系重合体を生成させることが好ましい。
複合ゴムを構成するポリオルガノシロキサン/アクリル系重合体の比率は、通常、質量比で1/99〜99/1の範囲であり、好ましくは1/99〜80/20、より好ましくは2/98〜60/40の範囲、さらに好ましくは5/95〜60/40の範囲である。ポリオルガノシロキサンが複合ゴム100質量%に対して1質量%未満であると低温の耐衝撃性が低下する傾向にあり、逆に99質量%を超えると、引っ張り等の機械的特性が低下する傾向にある。
複合ゴムの製造方法において、ポリオルガノシロキサンラテックスにアルキル(メタ)アクリレートを添加する方法としては、ポリオルガノシロキサンラテックスに全量を一括して添加する方法、ポリオルガノシロキサンラテックス中に一定速度で滴下して添加する方法が挙げられる。
また、複合ゴムの製造に用いるラジカル重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤または酸化剤・還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤が用いられる。この中でも、レドックス系開始剤が好ましく、特に硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ロンガリット・ハイドロパーオキサイドを組み合わせたレドックス系開始剤が好ましい。
【0022】
上述のポリオルガノシロキサンを含むゴム成分の存在下で、1種または2種以上のビニル系単量体をラジカル重合して、ゴム成分にビニル系重合体からなるグラフト部を形成することで、ポリオルガノシロキサンを含むグラフト共重合体が得られる。
具体的な製造方法としては、乳化グラフト重合による製造方法が挙げられる。
この乳化グラフト重合による製造方法では、複合ゴムのラテックスにビニル系単量体を加え、ラジカル重合法により一段であるいは多段でグラフト重合して、複合ゴム系グラフト共重合体ラテックスを得る。次いで、この複合ゴム系グラフト共重合体ラテックスを、凝固剤を溶解した熱水中に投入し、塩析、固化することによりグラフト共重合体を分離し、粉末状で回収して、グラフト共重合体の粉体を得る。
【0023】
グラフト共重合体のグラフト部を構成するビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族アルケニル化合物;メチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸エステル;メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物等が例示でき、これらを単独で使用または2種以上併用することができる。
また、ビニル系単量体には必要に応じて、架橋剤、グラフト交叉剤を、所期の目的を損なわない範囲で添加して使用することができる。架橋剤としては、分子中に2個以上の不飽和結合を有するエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、多官能メタクリル基変性シリコーンなどがあげられる。グラフト交叉剤としては、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0024】
上記ラジカル重合に用いるラジカル重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤、または酸化剤・還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤が用いられる。これらの中でも、レドックス系開始剤が好ましく、特に硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ロンガリット・ハイドロパーオキサイドを組み合わせたレドックス系開始剤が好ましい。
さらに、グラフト重合の際には、ラテックスを安定化させ、さらにグラフト共重合体の平均粒子径を制御するために乳化剤を添加することができる。用いる乳化剤としては特に限定されないが、好ましいものとしてはカチオン系乳化剤、アニオン系乳化剤およびノニオン系乳化剤が挙げられ、さらに好ましいものとしてはスルホン酸塩乳化剤あるいは硫酸塩乳化剤とカルボン酸塩乳化剤との併用が挙げられる。
複合ゴム系グラフト共重合体ラテックスの塩析の際に添加される凝固剤としては、例えば、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸アルミニウムなどの金属塩が挙げられる。
【0025】
以上述べてきたポリオルガノシロキサンを含むゴム成分を有するグラフト共重合体において、耐衝撃性、その他機械的特性をより優れたものにするためには、上述したように、ゴム成分としてポリオルガノシロキサンとアクリル系重合体とからなる複合ゴムを用いることが好ましい。該複合ゴムおよびグラフト部に使用される(メタ)アクリレート類の好ましい例は、複合ゴムに関しては、炭素数1〜18のアルキル基をもつ、アルキル(メタ)アクリレートを主成分として含むもの、またグラフト部に関しては、炭素数1〜18のアルキル基をもつ、アルキルメタクリレートを主成分として含むものである。
本発明のグラフト共重合体中に占めるゴム成分の含有量は、添加剤として使用することを考慮し、耐衝撃性の面からは好ましくはグラフト共重合体100質量%中、ゴム成分を60質量%以上含有することが好ましい。ただし、ゴム成分が99.0質量%以上になると、粉体回収性が悪化するので好ましくない。加工性等が十分となるため、より好ましい範囲としてはゴム成分が90質量%以下である。
なお、グラフト共重合体の粉体特性を改良する目的で、目的とする耐衝撃性を損なわない範囲で硬質非弾性体を主成分とする非架橋の1段または多段の(共)重合体をラテックス同士、あるいは粉体の状態で混合してもよい。具体的には、グラフト共重合体100質量部に対して、0〜50質量部、好ましくは0〜40質量部である。
また、グラフト共重合体中のポリオルガノシロキサンの含有率は、グラフト共重合体100質量%中の5〜90質量%であることが好ましい。ポリオルガノシロキサン含有量が5質量%未満では耐衝撃性が低下する傾向にあり、90質量%を超えると耐衝撃性が低下する傾向にある。
【0026】
上記のグラフト共重合体の粉体を、ベント付き押出機を用いて脱揮処理することにより、グラフト共重合体に含まれる揮発成分を除去し、低分子量環状オルガノシロキサンを低減することができる。
押出機としては、特に制限はないが、好適には同方向2軸押出機が使用される。脱揮効率と生産性、コストを勘案すると、できるだけ少ない押出回数で目的の値を達成することが好ましく、そのためには(シリンダ有効長さ:L)/(口径:D)の比(L/D)をできるだけ大きくすることが好ましい。
工業的に使用される押出機としては、L/D=30程度までのものが一般的であるが、本発明の目的とするグラフト共重合体を得るためには、L/Dが35〜100程度、好ましくは38〜75、さら好ましくは40〜70の押出機を使用することが好ましい。なおL/Dが35未満である場合、脱揮効果が低下する傾向にある。また100を超える場合、脱揮そのものには効果があるが、押出機の軸ぶれによる装置の破損等、機械的な問題がある場合が考えられ、まだ実用的ではない。
また押出機において、脱揮の為のベントについては1個以上備わっていなければならず、好ましくは2箇所、さらに好ましくは3箇所以上である。
また、ベントの開口面積は、各々10〜500cmとすることが好ましい。ベントの開口面積が10cm未満となると脱揮が不十分となる傾向にあり、500cmを超えるとベントアップの原因となる傾向にある。ベントの開口面積は、好ましくは20〜200cm、更に好ましくは30〜100cmである。
なお、ここでいうベント開口面積とは、シリンダー部に空いた開口部、すなわち実質的な開口部面積を言う。
【0027】
脱揮を行なうためには、対象となるグラフト共重合体の押出機中における表面更新が積極的に行なわれるべきであるが、そのためにスクリューを過剰な高回転にすることは、重合体の過剰な発熱を誘発し、重合体を分解させるので好ましくない。好ましくは30から400rpm、さらに好ましくは50から300rpmの範囲でスクリューの回転数を設定する。
また、効率的な脱揮を行うには、共沸を促す気体、あるいは液体を補助的に添加することが好ましい。好ましい具体例としては水、あるいは二酸化炭素、窒素、その他不活性ガスが挙げられる。特に好ましいものは水である。これらの添加量は重量として重合体100質量部に対して0.01から10質量部の範囲内であり、好ましくは0.1〜5質量部以内である。添加量が0.01質量部未満では効果が低下し、また10質量%を超えてもそれ以下の場合と効果が変わらず、逆に気化によるガスが、押出物の逆流を引き起こしたり、ベントアップが発生する傾向にある。
スクリューの配置は、各ベント前に表面更新可能なエレメントを設置し、液体等を添加する場合には、逆流を防止し、また添加する液体等とグラフト共重合体の混合を良好にし、またガス化した気体、あるいは樹脂そのもの逆流を防止するためのシール性の高いエレメントを選択する。液体等を添加する場合の添加個所の数は、L/Dによって適宜決定するが、少なくとも、最終ベントの後方(下流側)に設置してはならない。
押出機の設定温度は、除去しようとする脱揮成分の沸点等を勘案して決定するが、この場合、160℃〜240℃とすることが好ましい。
但し、フィード口の直下付近は温度が高すぎると樹脂が溶融してフィードネックを起こす原因となるため、その温度を、室温(調温なし)〜200℃の範囲内とすることが好ましい。なお200℃を超えると樹脂が溶融し、フィードネックとなる傾向にある。
また押出機中でポリマーは剪断による発熱を受けるが、押出機出口、すなわちダイス部分での樹脂温度が280℃を超えると、グラフト共重合体自体が分解し、黄変、発煙などの現象が起こる恐れがある。すなわち、ダイス部分における樹脂温度は、160℃から280℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは180℃〜270℃である。
【0028】
グラフト共重合体中に含まれる3〜7員環のジメチルシロキサン系環状体、具体的にはヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、およびテトラデカメチルシクロヘプタシロキサン(D7)(以下、「D3〜D7」という)の量は3000ppm以下であることが必要であり、好ましくは2000ppm以下である。3000ppmを超える場合、グラフト共重合体を用いた最終的な樹脂組成物に含まれるD3〜D7の量が増加し、成形品からの揮発分が増加するので好ましくない。
これらの数値は、グラフト共重合体に含まれるポリオルガノシロキサン量によって異なって然るべきではあるが、グラフト共重合体を粉体として回収する場合の凝析、あるいは乾燥条件によっても左右され、一概にポリオルガノシロキサンが少ないからといって、そこに含まれるD3〜D7の量が少ないとは限らない。このことに対し、上述の押出機を用いる方法によれば、グラフト共重合体中に含まれるD3〜D7の量を安定して低く抑えることができる。
【0029】
こうして得られたグラフト共重合体は、ペレット、あるいは顆粒の状態で得られるため、粉の状態よりも取り扱い性が向上し、粉立ち等もおこらず作業環境面でもメリットがある。
さらに、押出機を用いて脱揮を行うことができるので、ポリオルガノシロキサンを含む重合系の重合条件が制限されず、例えばpH等も制限されることなく、最終製品における揮発成分を低減することができるため、ポリオルガノシロキサンおよびアクリル系重合体からなる複合ゴムを用いたグラフト共重合体を使用することもでき、衝撃強度向上剤として、熱可塑性樹脂に添加した際の機械特性向上の効果を増大させることができる。
また、この時グラフト共重合体中に含まれるアルキルアルコールの含有量は50ppm、好ましくは40ppm以下であることが好ましい。
このアルキルアルコールは複合ゴムを構成する(メタ)アクリレート重合体の分解に起因するものと推定されるが、グラフト共重合体中のアルキルアルコールの含有量が50ppmを越えると、グラフト共重合体を熱可塑性樹脂に添加した熱可塑性樹脂組成物の揮発分が増加するので好ましくない。実際の樹脂組成物の製造において、この数値のもつ意味は、単に成型物中の残存物を低減するためだけではない。グラフト共重合体は熱可塑性樹脂組成物を成型する際にも熱履歴を受けるため、成形時にもグラフト共重合体を構成する(メタ)アルキルアクリレートが分解し、アルキルアルコールが増加することが予測されるが、グラフト共重合体中のアルキルアルコールの含有量が予め50ppm以下となっていれば、樹脂組成物を成型する際の分解度合いが低く、成形に影響しない範囲内となる。
グラフト共重合体中のアルキルアルコールの含有量を50ppm以下とするためには、
ベント付押出機を用いた脱揮処理において、できるだけ低い剪断力で、熱履歴を少なくすることにより達せられる。
【0030】
以上のようにして得られたグラフト共重合体は、衝撃強度向上剤として熱可塑性樹脂に配合してこれを成形することにより、良好な衝撃強度改質効果を発揮する。
グラフト共重合体を熱可塑性樹脂に添加した熱可塑性樹脂組成物中に含まれるD3〜D7の量は550ppm以下であることが好ましく、さらに好ましくは500ppm以下、特に好ましくは450ppm以下である。550ppmを超える場合、成形品からの揮発分が多くなるので好ましくない。
またD7に比べて、6員環以下のジメチルシロキサン系環状体(「D6以下」)は揮発しやすい成分であり、その観点からすれば、熱可塑性樹脂組成物において、D3〜D6の合計が250ppm以下であることが好ましい。さらに好ましくは220ppm以下、より好ましくは180ppm以下である。この数値は、上記グラフト共重合体に含まれるD3〜D6の数値と関連しているが、基本的にはグラフト共重合体に含まれるD3〜D7を上述の量を3000ppm以下としたグラフト共重合体を使用することにより、D3〜D6の合計を250ppm以下とすることができる。
【0031】
前記熱可塑性樹脂の具体例としては、硬質塩化ビニル系樹脂(PVC系樹脂)、半硬質、軟質塩化ビニル系樹脂(PVC系樹脂)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などのオレフィン系樹脂、ポリスチレン(PS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、(メタ)アクリル酸エステル・スチレン共重合体(MS)、スチレン・アクリロニトリル共重合体(SAN)、スチレン・無水マレイン酸共重合体(SMA)、ABS、ASA、AES、などのスチレン系樹脂(St系樹脂)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などのアクリル系樹脂(Ac系樹脂)、ポリカーボネート系樹脂(PC系樹脂)、ポリアミド系樹脂(PA系樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル系樹脂(PEs系樹脂)、(変性)ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE系樹脂)、ポリオキシメチレン系樹脂(POM系樹脂)、ポリスルフォン系樹脂(PSO系樹脂)、ポリアリレート系樹脂(PAr系樹脂)、ポリフェニレン系樹脂(PPS系樹脂)、熱可塑性ポリウレタン系樹脂(PU系樹脂)などのエンジニアリングプラスチックス;スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、フッ素系エラストマー、1,2−ポリブタジエン、トランス1,4−ポリイソプレンなどの熱可塑性エラストマー(TPE);PC/ABSなどのPC系樹脂/St系樹脂アロイ、PVC/ABSなどのPVC系樹脂/St系樹脂アロイ、PA/ABSなどのPA系樹脂/St系樹脂アロイ、PA系樹脂/TPEアロイ、PA/PPなどのPA系樹脂/ポリオレフィン系樹脂アロイ、PBT系樹脂/TPE、PC/PBTなどのPC系樹脂/PEs系樹脂アロイ、ポリオレフィン系樹脂/TPE、PP/PEなどのオレフィン系樹脂どうしのアロイ、PPE/HIPS、PPE/PBT、PPE/PAなどのPPE系樹脂アロイ、PVC/PMMAなどのPVC系樹脂/Ac系樹脂アロイなどのポリマーアロイ;等が挙げられる。
これらの内、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、アクリロニトリル/スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂から選ばれる1種または2種以上からなる樹脂は、自動車内装部材等に用いられており、この分野は揮発分に対する要求が高く、衝撃強度の向上も求められることから、本発明のグラフト共重合体はこれらの樹脂に対して特に好適に用いられる。
なお、グラフト共重合体の配合量は、添加する熱可塑性樹脂の種類、使用目的等によっても変わるが、衝撃強度の向上効果の観点から、熱可塑性樹脂100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましい。また、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。
【0032】
ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、アクリロニトリル/スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂から選ばれる1種または2種以上からなる樹脂用の衝撃強度向上剤として使用する際には、前述したポリオルガノシロキサン/アクリル系重合体の複合ゴムをゴム成分として使用したグラフト共重合体を使用するのが好ましい。この時、グラフト共重合体中に占めるゴム成分の割合は、65〜95質量%とすることが好ましい。また、複合ゴムを構成するポリオルガノシロキサン/アクリル系重合体の比率は、質量比で8/92〜35/65の範囲内とすることが好ましい。また、グラフト共重合体のグラフト部を形成させるために使用するビニル系単量体としては、先に述べた単量体のうち、メチルメタクリレート、アクリロニトリル、スチレンから選ばれる少なくとも1種以上の単量体を主成分とする単量体もしくは単量体混合物を使用することが好ましい。特にアクリロニトリルとスチレンの両方を含有する単量体混合物を使用すると、ポリカーボネート等の樹脂との相溶性が高く、高い耐熱性を発現する。
【0033】
熱可塑性樹脂組成物には、その物性を損なわない限りにおいて、目的に応じて樹脂のコンパウンド時、混練時、成形時等に、公知の安定剤、充填剤等を添加することができる。安定剤としては、例えば三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、塩基性亜硫酸鉛、ケイ酸鉛などの鉛系安定剤、カリウム、マグネシウム、バリウム、亜鉛、カドミウム、鉛等の金属と2−エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、ベヘン酸等の脂肪酸から誘導される金属石けん系安定剤、アルキル基、エステル基と脂肪酸塩、マレイン酸塩、含硫化物から誘導される有機スズ系安定剤、Ba−Zn系、Ca−Zn系、Ba−Ca−Sn系、Ca−Mg−Sn系、Ca−Zn−Sn系、Pb−Sn系、Pb−Ba−Ca系等の複合金属石けん系安定剤、バリウム、亜鉛などの金属基と2ーエチルヘキサン酸、イソデカン酸、トリアルキル酢酸などの分岐脂肪酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸などの不飽和脂肪酸、ナフテン酸などの脂肪環族酸、石炭酸、安息香酸、サリチル酸、それらの置換誘導体などの芳香族酸といった通常二種以上の有機酸から誘導される金属塩系安定剤、これら安定剤を石油系炭化水素、アルコール、グリセリン誘導体などの有機溶剤に溶解し、さらに亜リン酸エステル、エポキシ化合物、発色防止剤、透明性改良剤、光安定剤、酸化防止剤、プレートアウト防止剤、滑剤等の安定化助剤を配合してなる金属塩液状安定剤等といった金属系安定剤を挙げることができる。
また安定剤として、エポキシ樹脂、エポキシ化大豆油、エポキシ化植物油、エポキシ化脂肪酸アルキルエステルなどのエポキシ化合物、リンがアルキル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシル基などで置換され、かつプロピレングリコールなどの2価アルコール、ヒドロキノン、ビスフェノールA、などの芳香族化合物を有する有機亜リン酸エステル、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)や硫黄やメチレン基などで二量体化したビスフェノールなどのヒンダードフェノール、サリチル酸エステル、ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾールなどの紫外線吸収剤、ヒンダードアミンまたはニッケル錯塩などの光安定剤、カーボンブラック、ルチル型酸化チタン等の紫外線遮蔽剤、トリメロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトールなどの多価アルコール、β−アミノクロトン酸エステル、2−フェニルインドール、ジフェニルチオ尿素、ジシアンジアミドなどの含窒素化合物、ジアルキルチオジプロピオン酸エステルなどの含硫黄化合物、アセト酢酸エステル、デヒドロ酢酸、β−ジケトンなどのケト化合物、有機珪素化合物、ほう酸エステルなどといった非金属系安定剤が挙げられる。
これらの安定剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0034】
充填剤としては、例えば、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウムなどの炭酸塩;酸化チタン、クレー、タルク、マイカ、シリカ、カーボンブラック、グラファイト、ガラスビーズ、ガラス繊維、カーボン繊維、金属繊維のような無機質系のもの;ポリアミド等のような有機繊維;シリコーンのような有機質系のもの;木粉のような天然有機物が挙げられる。
【0035】
その他、MBS、ABS、AES、NBR、EVA、塩素化ポリエチレン、アクリルゴム、ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴム系グラフト共重合体、熱可塑性エラストマーなどの衝撃強度改質剤、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体などの加工助剤、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジウンデシルフタレート、トリオクチルトリメリテート、トリイソオクチルトリメリテート、ピロメットなどの芳香族多塩基酸のアルキルエステル、ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジシオノニルアジペート、ジブチルアゼレート、ジオクチルアゼレート、ジイソノニルアゼレートなどの脂肪酸多塩基酸のアルキルエステル、トリクレジルフォスフェートなどのリン酸エステル、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸などの多価カルボン酸とエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコールなどの多価アルコールとの分子量600〜8,000程度の重縮合体の末端を一価アルコールまたは一価カルボン酸で封止したものなどのポリエステル系可塑剤、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化トール油脂肪酸−2−エチルヘキシルなどのエポキシ系可塑剤、塩素化パラフィンなどの可塑剤、流動パラフィン、低分子量ポリエチレンなどの純炭化水素、ハロゲン化炭化水素、高級脂肪酸、オキシ脂肪酸などの脂肪酸などの脂肪酸アミド、グリセリドなどの脂肪酸の多価アルコールエステル、脂肪酸の脂肪アルコールエステル(エステルワックス)、金属石けん、脂肪アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール、脂肪酸と多価アルコールの部分エステル、脂肪酸とポリグリコール、ポリグリセロールの部分エステルなどのエステル、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体など、これら滑剤、塩素化パラフィン、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、ハロゲン化合物などの難燃剤、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体、イミド系共重合体、スチレン・アクリロニトリル系共重合体などの耐熱向上剤、離型剤、結晶核剤、流動性改良剤、着色剤、帯電防止剤、導電性付与剤、界面活性剤、防曇剤、発泡剤、抗菌剤等を添加することができる。
【0036】
熱可塑性樹脂組成物を製造する方法には特に制限はなく、通常の方法が使用できるが、溶融混合法で製造することが好ましい。また、必要に応じて少量の溶剤を使用しても良い。使用する装置としては、押出機、バンバリーミキサー、ローラー、ニーダー等を例として挙げることができ、これらを回分的または連続的に運転する。成分の混合順は特に限定されない。
また、得られた熱可塑性樹脂組成物はその成形方法、用途に制限はなく、例えば、建材、自動車、玩具、文房具などの雑貨、さらにはOA機器、家電機器などの耐衝撃性が必要とされる成形品に広く利用される。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。なお、特に断りがない限り、「部」は「質量部」を「%」は「質量%」を示し、試薬は市販の良好品を使用した。
(製造例S1)ポリオルガノシロキサン(S1)ラテックスの製造
テトラエトキシシランからなるシロキサン系架橋剤2.0部、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシランからなるビニル重合性官能基含有シロキサン0.5部及びジメチルシロキサン系環状体(ヘキサメチルシクロトリシロキサン約5%、オクタメチルシクロテトラシロキサン約75%、デカメチルシクロヘキサシロキサン約20%の混合物)97.5部を混合し、シロキサン混合物100部を得た。乳化剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを0.75部溶解した蒸留水200部に、上記シロキサン混合物100部を加えたものを、特殊機化(株)製のインラインミキサーで予備乳化した後、ホモジナイザーで強制乳化し、プレエマルジョンを得た。ホモジナイザーの圧力は29MPaであった。次いで、予め酸触媒としてアルキルベンゼンスルホン酸0.75部を仕込んだセパラブルフラスコに、上記プレエマルジョンを仕込み80℃に昇温し、その温度を保持しながら5時間保持し、その後20℃まで冷却し、水酸化ナトリウム水溶液でこのラテックスのpHを7.4に中和し、重合反応を完結しポリオルガノシロキサン(S1)ラテックスを得た。
【0038】
(製造例S2)ポリオルガノシロキサン(S2)の製造
テトラエトキシシランを添加せず、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン1.0部とした以外は、製造例S1と同様の処理を行い、ポリオルガノシロキサン(S2)を得た。
【0039】
(製造例G1)グラフト共重合体(G1)粉体の製造
上記で得られたポリオルガノシロキサン(S1)ラテックスを、その固形分として30部となるように採取し、攪拌機を備えたセパラブルフラスコにいれ、系内の蒸留水量が195部となるように蒸留水を追加し、次いで、(メタ)アクリレート系ゴム成分の単量体((メタ)アクリレート類)としてアリルメタクリレート1.0%を含むn−ブチルアクリレート40部、およびtert−ブチルヒドロペルオキシド0.32部の混合液を仕込み10分間攪拌し、この混合液をポリオルガノシロキサン(S1)に浸透させた。さらにポリオキシエチレンエーテル硫酸塩を0.4部追加し、さらに10分間撹拌した後、窒素置換を行い、系内を50℃に昇温し、硫酸第一鉄0.002部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.006部、ロンガリット0.26部および蒸留水5部の混合液を仕込みラジカル重合を開始させ、その後内温70℃で2時間保持し重合を完了して複合ゴムのラテックスを得た。
このラテックスを一部採取し粒子径分布を測定したところ平均粒子径は170nmであった。
この複合ゴムに、tert−ブチルヒドロペルオキシド0.06部とアクリロニトリル、スチレンを1:3の割合で混合した物30部を、70℃にて60分間にわたり滴下し、その後70℃で4時間保持し、複合ゴムへのグラフト重合を完了した。メチルメタクリレートの重合率は、99.1%であった。得られたグラフト共重合体ラテックスを塩化カルシウム1.5%の熱水200部中に滴下し、凝固、分離し洗浄した後、75℃で8時間乾燥し、粉末状のグラフト共重合体(G1)を得た。なお、製造途中発生した排水は回収して分離し、水分以外は回収し、また排ガスについてはトラップを設けて有機成分を捕集した。
【0040】
(製造例G2)グラフト共重合体(G2)粉体の製造
製造例G1におけるポリオルガノシロキサン(S1)ラテックスを、その固形分として50部、n−ブチルアクリレート22部、アクリロニトリル、スチレンを1:3の割合で混合した物28部とした以外は製造例G1と同様の操作を行い、粉末状のグラフト共重合体(G2)を得た。
(製造例G3)グラフト共重合体(G3)粉体の製造
製造例G1におけるポリオルガノシロキサン(S1)ラテックスを、その固形分として20部、n−ブチルアクリレート65部、またアクリロニトリル、スチレンに代えて、メチルメタクリレートを14.5部、ブチルアクリレート0.5部とした以外は製造例G1と同様の操作を行い、粉末状のグラフト共重合体(G3)を得た。
(製造例G4)グラフト共重合体(G4)粉体の製造
製造例G1におけるポリオルガノシロキサンラテックスを、(S1)から(S2)とした以外は製造例G1と同様の操作を行い、粉末状のグラフト共重合体(G4)を得た。
【0041】
以下に押出機を用いた脱揮加工の製造例を示すが、共通の事項として、使用される押出機に付帯する各ベントは、真空ポンプにより真空ゲージ読みで750mmHg以上が保証される状況であり、また注水を行うものについては、プランジャー圧力ポンプを用いて、液体状態の水を押出機内に導入した。
(製造例R1)グラフト共重合体(R1)の製造
グラフト共重合体(G1)粉体を、真空ベント数が3個(各開口面積:30cm)の、内径41mm(41mmφ)、L/D=41の2軸押出機を200℃に昇温し、スクリュー回転数200rpm、毎時10kgの割合で押出した。得られたペレット状のグラフト共重合体を、R1とした。ダイス部分の樹脂温度は250℃であった。
【0042】
(製造例R2)グラフト共重合体(R2)の製造
グラフト共重合体(G2)粉体を、真空ベント数が5個(各開口面積:70cm)の65mmφ、L/D=60の2軸押出機を200℃に昇温し、スクリュー回転数200rpm、毎時40kgの割合で押出した。なお押出し方向に向かって3番目と4番目のベント間、および4番目と5番目のベント間の2個所に水を注入する個所を設け、各注入口につき毎時0.5kgで添加した。得られたペレット状のグラフト共重合体を、R2とした。ダイス部分の樹脂温度は250℃であった。
【0043】
(製造例R3)グラフト共重合体(R3)の製造
グラフト共重合体(G3)粉体を真空ベント数が3個(各開口面積:30cm)の41mmφ、L/D=41の2軸押出機を200℃に昇温し、スクリュー回転数200rpm、毎時10kgで押出した。なお、押出し方向に向かって2番目と3番目のベント間に水を注入する個所を設け、毎時0.5kgで添加した。得られたペレット状のグラフト共重合体を、R3とした。ダイス部分の樹脂温度は245℃であった。
【0044】
(製造例R4)グラフト共重合体(R4)の製造
グラフト共重合体(G1)粉体を、真空ベント数が5個(各開口面積:70cm)の65mmφ、L/D=60の2軸押出機を200℃に昇温し、スクリュー回転数200rpm、毎時60kgの割合で押出した。なお押出し方向に向かって3番目と4番目のベント間、および4番目と5番目のベント間の2個所に水を注入する個所を設け、各注入口につき毎時0.5kgで添加した。得られたペレット状のグラフト共重合体を、R4とした。ダイス部分の樹脂温度は245℃であった。
【0045】
(製造例R5)グラフト共重合体(R5)の製造
グラフト共重合体(G4)粉体を、真空ベント数が5個(各開口面積:70cm)の65mmφ、L/D=60の2軸押出機を200℃に昇温し、スクリュー回転数200rpm、毎時15kgの割合で押出した。なお押出し方向に向かって3番目と4番目のベント間、および4番目と5番目のベント間の2個所に水を注入する個所を設け、各注入口につき毎時0.8kgで添加した。得られたペレット状のグラフト共重合体を、R5とした。ダイス部分の樹脂温度は240℃であった。
【0046】
(製造例R6)グラフト共重合体(R6)の製造
グラフト共重合体(G1)粉体を、真空ベント数が4個(各開口面積:50cm)の58mmφ、L/D=54.8の2軸押出機を200℃に昇温し、スクリュー回転数150rpm、毎時60kgの割合で押出した。なお押出し方向に向かって2番目と3番目のベント間、および3番目と4番目のベント間の2個所に水を注入する個所を設け、各注入口につき毎時0.25kgで添加した。得られたペレット状のグラフト共重合体を、R6とした。ダイス部分の樹脂温度は260℃であった。
【0047】
(製造例R7)グラフト共重合体(R7)の製造
グラフト共重合体(G1)粉体を、真空ベント数が3個(各開口面積:80cm)の70mmφ、L/D=32の2軸押出機を200℃に昇温し、スクリュー回転数60rpm、毎時60kgの割合で押出した。得られたペレット状のグラフト共重合体を、R7とした。ダイス部分の樹脂温度は290℃であった。
【0048】
(製造例R8)グラフト共重合体(R8)の製造
グラフト共重合体(G1)粉体を、真空ベント数が2個(各開口面積:80cm)の70mmφ、L/D=32の2軸押出機を200℃に昇温し、スクリュー回転数100rpm、毎時80kgの割合で押出した。得られたペレット状のグラフト共重合体を、R7とした。ダイス部分の樹脂温度は300℃であった。
【0049】
(コンパウンド)
以下に示す割合で上記製造例にて得られたグラフト共重合体をポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量約23000のビスフェノールAタイプポリカーボネート)60部、SAN樹脂:スチレン・アクリロニトリル共重合体(旭化成(株)製、商品名AP789)25部、製造例で得られたグラフト共重合体15部を配合し、1個のベント(開口面積:25cm)を有する35mmφの2軸押出機にてペレット化した。設定は、シリンダー温度260℃、スクリュー回転数200rpmとした。押出機のL/Dは30、ベントは開放状態とした。得られたペレットを120℃で4時間乾燥し、次いで射出成形機にて厚み3.0mm、幅12.0mm、長さ12.7cmの試験片を得た。また平板用金型を用いて厚み3.0mm、100mm四方の試験片を得た。得られた試験片を各種試験に供した。
【0050】
(実施例および比較例)
上記で得られたグラフト共重合体、およびそれらを用いた射出成形品について、以下に示す評価を行った。なお、比較例1〜3は、脱揮処理を行う前のグラフト共重合体G1〜G3を用いて実施例と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
(評価)
各実施例について以下に示す測定を行なった。
1)D3〜D7、アルキルアルコール量等の測定
下記の装置および条件で、グラフト共重合体、および射出成形にて得られたサンプルに含まれるD3〜D7の量を測定した。
装置:GC−Mass((株)島津製作所製 GC−17A/QP−5050A)
カラム:DB−WAX、内径0.32mm、長さ30m、膜厚0.25μm
カラム温度:初期温度38℃、3分保持
昇温速度:20℃/minで160℃まで昇温
カラム条件:流量1.5ml/min
(スプリット比)=50:1
全流量:50ml/min
注入口温度:200℃
インターフェイス温度:230℃
検出器電圧:1.20kV
フラグメントイオン質量(定量用イオン)
D3:207.15
D4:281.10
D5:73.05
D6:73.10
D7:73.10
ブチルアルデヒド:44.05
ブタノール:56.10
n−ブチルアクリレート:55.05
酢酸n−ブチル(内部標準):42.95
試料:(試料1g)+(アセトン20ml)
内部標準:酢酸n−ブチル
2)耐衝撃性の測定
ASTMD256に準拠して0℃でのアイゾット衝撃強度(J/m)を測定した。
試験片は厚み3.0mm、幅12.0mm、長さ12.7cmのものから切り出して使用した。
3)曇り試験(成型品加熱時揮発分の目視試験)
高温時に成型品から揮発する成分量を確認するために、以下の曇り試験を行った。
まず、鏡面メッキ処理を施した30cm四方の平滑なステンレス板を、100tプレス機下段に設置し、130℃に昇温した。この場合のプレス機は、ホットプレートとしての役割を持たせている。したがって、下部は加熱されているが、上部は過熱されていない状態である。そこに、先に成型した厚み3.0mm、100mm四方の試験片を置き、その試験片を覆うように、直径180mm、高さ52mmの硬質ガラス製透明シャーレーを被せ、その後24時間静置した。
24時間後経過後、プレス機よりステンレス板ごと取り出し、2時間室温にて静置した後、被せたシャーレーを観察し、シャーレーに付着した揮発分に起因する曇り状態を目視により観察した。評価基準は以下の通りである。
状態 評価
曇りがない(特に良好) ◎
はほとんど曇りがない(良好) ○
曇りがある(やや良好) △
非常に曇っている(不良) ×
【0051】


【0052】
表1から明らかなように、実施例のグラフト共重合体は、D3〜D7の量がいずれも3000ppm以下であり、これらのグラフト共重合体を適用して作製した射出成形品は耐衝撃性が良好であり、かつ、D3〜D7あるいはD3〜D6の量は非常に低く抑えられており、曇り試験の結果も良好であった。一方、押出機を用いることなく製造したグラフト共重合体は、D3〜D7の量が3000ppmを超えており、これを適用して作製した射出成形品において、D3〜D7の量がいずれも550ppmを超えており、曇り試験の結果は不良であった。また脱揮処理を行っても、分解が進行したと考えられるものは最終的に良好な結果を得ることができなかった。
以上、実施例は所期の目的を達成し、良好な結果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のグラフト共重合体を用いた熱可塑性樹脂組成物は、優れた衝撃強度に優れるとともに、環境的要求に応え得る特性を有し、その存在意義は特に自動車内装、建造物室内部材等の用途において非常に大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオルガノシロキサンを含むゴム成分を有し、3〜7員環のジメチルシロキサン系環状体の含有量が3000ppm以下であるグラフト共重合体。
【請求項2】
3〜7員環のジメチルシロキサン系環状体の含有量が2000ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載のグラフト共重合体。
【請求項3】
ゴム成分が、ポリオルガノシロキサンおよびアクリル系重合体からなる複合ゴムであることを特徴とする請求項1または2に記載のグラフト共重合体。
【請求項4】
グラフト共重合体中のポリオルガノシロキサンの含有量が、5〜90質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のグラフト共重合体。
【請求項5】
アルキルアルコールの含有量が50ppm以下であることを特徴とする請求項3または4記載のグラフト共重合体。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項記載のグラフト共重合体からなる衝撃強度向上剤。
【請求項7】
ベント付き押出機を用いて脱揮処理を施すことを特徴とするポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体の製造方法。
【請求項8】
シリンダー有効長さLと口径Dの比L/Dが、35〜100であるベント付き押出機を使用することを特徴とする請求項7記載のグラフト共重合体の製造方法。
【請求項9】
熱可塑性樹脂と、請求項1〜4のいずれかに記載のグラフト共重合体とからなる熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、アクリロニトリル/スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂から選ばれる1種または2種以上からなることを特徴とする請求項9記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
3〜7員環のジメチルシロキサン系環状体の含有量が550ppm以下であることを特徴とする請求項9記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項12】
3〜6員環のジメチルシロキサン系環状体の含有量が250ppm以下であることを特徴とする請求項9記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項13】
アルキルアルコールの含有量が20ppm以下であることを特徴とする請求項9記載の熱可塑性樹脂組成物。

【国際公開番号】WO2005/056624
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516131(P2005−516131)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018246
【国際出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】