説明

グラフト共重合体及びグラフト共重合体の製造方法

【課題】 アニオン性物質とのイオンコンプレックス形成効率が高く、アニオン性物質との親和性の良い、線状のカチオン性ブロックを有する分子鎖をグラフト化したポリビニルアルコール系グラフト共重合体及びそのグラフト共重合体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 ポリビニルアセテート又はポリビニルエチルエステルなどのポリビニルアルキルエステルを主鎖とし、ポリ(エチレンイミン)構造単位を有する直鎖状ポリマー鎖を側鎖として有するグラフト共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン性化合物とイオンコンプレックスを形成し得るカチオン性ブロックからなる分子鎖又は該カチオン性ブロックと非イオン性ブロックからなる分子鎖を有するポリビニルアルコール系グラフト共重合体、及びそのグラフト共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ここ数年来、カチオン性重合体であるポリ(エチレンイミン)が、アニオン性生体高分子、たとえばDNAなどとの静電気的なイオン相互作用により、イオンコンプレックスを形成できるため、遺伝子キャリアなどの用途に有用であるとして注目を集めている。
【0003】
カチオン性重合体であるポリ(エチレンイミン)は、水溶性であるが、アニオン性物質、例えばDNAのようなアニオン性生体高分子とイオンコンプレックスを形成すると水に対して不溶となってしまうため、その用途は非常に限られたものとなる。そこで、水溶性のカチオン性重合体とアニオン性生体高分子とのイオンコンプレックスに、水溶性あるいは水分散性を付与する方法としては、二重親水性共重合体を使用する方法がある。
【0004】
二重親水性共重合体は、従来の疎水・親水両親媒性共重合体と異なり、両ブロック共に水溶性であるが、両ブロックそれぞれが異なった機能を有する。すなわち、一方のブロックは水中で基質と相互作用し、他方のブロックは水溶性に寄与する。たとえば、ともに水溶性であるカチオン性ブロックと非イオン性ブロックとからなる水溶性共重合体を使用した場合、カチオン性ブロックがアニオン性化合物とのイオンコンプレックス形成能を有し、非イオンブロックが水溶性を有する。そして水中で均一に分散してナノミセルを形成し、該ナノミセルは、DNAキャリアなどの広い用途に応用可能である。
【0005】
カチオン性ブロックとして、ポリ(エチレンイミン)ブロックを有する二重親水性共重合体としては、たとえば、分子鎖片末端にスルホン酸エステル構造を有するポリ(エチレングリコール)を開始剤として、2−メチル−2−オキサゾリンまたは2−エチル−2−オキサゾリンをカチオン開環重合させ、ポリ(エチレングリコール)ブロックとポリ(N−アシル−エチレンイミン)ブロックからなる水溶性共重合体を合成した後、ポリ(N−アシル−エチレンイミン)ブロックを加水分解してポリ(エチレンイミン)ブロックとしたものなどが知られている(たとえば、非特許文献1、非特許文献2参照。)。
【0006】
しかし、上記した二重親水性共重合体は、DNAなどのアニオン性物質とのイオンコンプレックスを形成する効率が低く、生体高分子との親和性に乏しいという問題点があった。
【0007】
【非特許文献1】ヨシツグ・アキヤマ(Yoshitsugu Akiyama),外3名,「マクロモレキュールズ(Macromolecules)」、2000年,第33巻,p.5841−5845
【非特許文献2】ミロス・セドラック(Milos Sedlak),外2名,「マクロモレキュラー・ケミストリー・アンド・フィジクス(Macromolecular Chemistry and Physics)」,1999年,第199巻,p.247−254
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、アニオン性物質とのイオンコンプレックス形成効率が高く、アニオン性物質との親和性の良い、線状のカチオン性ブロックを有する分子鎖をグラフト化したポリビニルアルコール系グラフト共重合体及びそのグラフト共重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記式(1)で表されるポリビニルアルコール系グラフト共重合体を提供することにより上記課題を解決した。
【0010】
【化1】

[式(1)中、Xは下記式(2)
【0011】
【化2】

(式(2)中、Rは水素原子又は炭素数が1〜18のアシル基、Rは炭素数が1〜18のアシル基を表し、p、pはそれぞれ2又は3であり、qは2〜10000、qは0〜9998の範囲であり、q+qが2〜10000の範囲である。)
又は、下記式(3)
【0012】
【化3】

(式(3)中、Rは水素原子又は炭素数が1〜18のアシル基を表し、p、pはそれぞれ2又は3であり、q、qはいずれも1以上でありq+qが2〜10000の範囲である。)
で表される直鎖状ポリマー鎖の少なくとも一種を表し、n/nが300/700〜999/1の範囲であり、n+nは10〜100000の範囲である。]
【0013】
また、本発明の下記工程からなるポリビニルアルコール系グラフト共重合体の製造方法により上記課題を解決した。
(a)下記式(i)
【0014】
【化4】

(式(i)中、Rは炭素数1〜18のアシル基を表し、nは10〜100000の範囲である。)
で表されるポリマー中の側鎖アシル基の一部を、金属有機アニオンを用いて金属置換反応させることによりアルコキシド化する工程、
【0015】
【化5】

(b)(a)の工程によりアルコキシド化した側鎖部位を、下記式(ii)
(式(ii)中、Rは炭素数1〜5のアルキル基を表し、Xは式(1)と同様であり、YはCl、Br、I、スルホネートオキシ基のいずれかである。)
で表される反応末端を有する直鎖状ポリマー鎖で置換する工程、
(c)残存している側鎖アシル基を加水分解する工程からなる
製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリビニルアルコール系グラフト共重合体は、ポリビニルアルコールを主鎖として櫛型にグラフトされた多くのカチオン性重合体であるポリ(エチレンイミン)側鎖が、アニオン性物質、たとえばDNAのようなアニオン性生体高分子などとの静電気的なイオン相互作用により、効率的にイオンコンプレックスを形成できる。また、主鎖のポリビニルアルコールブロックは多くのヒドロキシ基と生体高分子との相互作用により優れた生体高分子との親和性を示すため遺伝子キャリアや、生体材料など、幅広い用途に有用に利用できる。
【0017】
また、上記のポリビニルアルコール系グラフト共重合体は、一部の側鎖アシル基のアルコキシド化工程、そのアルコキシド化された側鎖部位を直鎖状ポリマー鎖で置換する工程、残存している側鎖アシル基を加水分解する工程からなる簡便な方法で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のポリビニルアルコール系グラフト共重合体は、下記式(1)で表されるものである。
【0019】
【化6】

[式(1)中、Xは下記式(2)
【0020】
【化7】

(式(2)中、Rは水素原子又は炭素数が1〜18のアシル基、Rは炭素数が1〜18のアシル基を表し、p、pはそれぞれ2又は3であり、qは2〜10000、qは0〜9998の範囲であり、q+qが2〜10000の範囲である。)
又は、下記式(3)
【0021】
【化8】

(式(3)中、Rは水素原子又は炭素数が1〜18のアシル基を表し、p、pはそれぞれ2又は3であり、q、qはいずれも1以上でありq+qが2〜10000の範囲である。)
で表される直鎖状ポリマー鎖の少なくとも一種を表し、n/nが300/700〜999/1の範囲であり、n+nは10〜100000の範囲である。]
【0022】
上記のポリビニルアルコール系グラフト共重合体におけるグラフト化された側鎖Xは上記式(2)又は(3)で表される直鎖状ポリマー鎖の少なくとも一種を表す。
【0023】
上記式(2)で表される直鎖状ポリマー鎖は、カチオン性の構造単位であるエチレンイミン構造単位、N−アシルエチレンイミン構造単位またはN−アシルプロピレンイミン構造単位からなるポリマー鎖であり、上記式(3)で表される直鎖状ポリマー鎖は、これらカチオン性の構造単位と非イオン性の構造単位であるエチレングリコール構造単位からなる直鎖状ポリマー鎖である。
【0024】
具体的には、上記式(2)又は(3)で表される直鎖状ポリマー鎖はN−アシルエチレンイミン構造単位のみからなる直鎖状ポリマー鎖、エチレンイミン構造単位のみからなる直鎖状ポリマー鎖、N−アシルプロピレンイミン構造単位のみからなる直鎖状ポリマー鎖、プロピレンイミン構造単位のみからなる直鎖状ポリマー鎖、そしてエチレン又はプロピレンイミン構造単位とN−アシルエチレン又はプロピレンイミン構造単位との組み合わせからなる直鎖状ポリマー鎖、N−アシルエチレン又はプロピレンイミン構造単位とN−アシルプロピレン又はエチレンイミン構造単位との組み合わせとして、同じ又は異なるアシル基を有する構造単位を使用した直鎖状ポリマー鎖、N−アシルエチレンイミン構造単位、N−アシルプロピレンイミン構造単位、エチレンイミン構造単位又はプロピレンイミン構造単位とエチレングリコール構造単位又はプロピレングリコール構造単位との組み合わせからなる直鎖状ポリマー鎖を使用できる。
【0025】
上記式(2)中のR、Rはそれぞれ水素原子又は炭素数が1〜18のアシル基のものを使用でき、該アシル基は炭素数が1〜5のアシル基であることが更に好ましい。
【0026】
また、上記式(2)の直鎖状ポリマー鎖の重合度については、qは2〜10000で良いが、10〜1000がより望ましく、qは0〜9998で良いが、0〜1000がより望ましい。また、q+qが2〜10000の範囲で良いが、10〜2000がより望ましく、20〜200が更に望ましい範囲である。そして、q、qはいずれも1以上でありq+qが2〜10000の範囲で良いが、20〜2000がより望ましく、20〜200が更に望ましい範囲である。重合度が上記範囲のものであれば、好適にアニオン性物質とのイオンコンプレックスを形成できる。
【0027】
その中でも、例えば、N−アシルエチレンイミン又はN−アシルプロピレンイミン構造単位からなるポリマー鎖は親水性が高く、その塩酸塩などの塩はさらに水溶性が高い。
【0028】
これら直鎖状ポリマー鎖のうち、二種以上の構造単位からなる直鎖状ポリマー鎖は、ランダムポリマー鎖であってもブロックポリマー鎖であってもよいが、各構造単位の有する機能を効果的に発現させるためには、各々の構造単位のブロックからなるブロックポリマー鎖であることが好ましい。
【0029】
また、上記式(2)で表されるポリマー鎖のうち、二種以上の構造単位からなる直鎖状ポリマー鎖を使用する場合には、各構造単位の反応性の違いを利用して一方の構造単位を選択的にカチオン化することで二重親水性のポリマー鎖とすることができる。また、上記式(3)で表されるポリマー鎖は同様に二重親水性構造を有するものである。このような二重親水性のポリマー鎖を側鎖として使用することにより、本発明の共重合体中の親水性度合いの調節や、イオンコンプレックスの形成能を調節することが可能となる。
【0030】
本発明のポリビニルアルコール系グラフト共重合体は、その構造中にカチオン性の構造単位と非イオン性の構造単位とを有することが特徴である。本発明のポリビニルアルコール系グラフト共重合体中のカチオン性構造単位の割合としては、全構造単位の1〜50質量%の範囲であることが好ましく、3〜30質量%の範囲であることが更に好ましい。共重合体のカチオン性構造単位の割合が上記範囲のものは、特にアニオン性物質とのイオンコンプレックス形成能に優れる。
【0031】
上記直鎖状ポリマー鎖のうちN−アシルエチレンイミン構造単位、及び/又はN−アシルプロピレンイミン構造単位からなる直鎖状ポリマー鎖は、一般にオキサゾリンモノマーのカチオンリビング重合により得られるポリオキサゾリンであり、エチレンイミン構造単位からなる直鎖状ポリマー鎖、プロピレンイミン構造単位からなる直鎖状ポリマー鎖は、一般に上記のカチオンリビング重合により得たポリオキサゾリンを酸又は塩基を用いて加水分解することにより得られる。
【0032】
その内、エチレンイミン構造単位の例としては、ポリ(N−ホルミルエチレンイミン)、ポリ(N−アセチルエチレンイミン)、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)、ポリ(N−ブチリルエチレンイミン)、ポリ(N−イソブチリルエチレンイミン)、ポリ(N−ピバロイルエチレンイミン)、ポリ(N−ラウロイルエチレンイミン)、ポリ(N−ステアロイルエチレンイミン)、ポリ(N−(3−(パーフロロオクチル)プロピオニル)エチレンイミン)などの脂肪族飽和カルボン酸でアシル化されたポリエチレンイミン、ポリ(N−アクリロイルエチレンイミン)、ポリ(N−メタクリロイルエチレンイミン)、ポリ(N−オレオイルエチンイミン)などの脂肪族不飽和カルボン酸でアシル化されたエチレンイミン、ポリ(N−ベンゾイルエチレンイミン)、ポリ(N−トルイロイルエチレンイミン)、ポリ(N−ナフトイルエチレンイミン)、ポリ(N−シンナモイルエチレンイミン)、などの芳香族カルボン酸でアシル化されたポリエチレンイミンなどが挙げられる。
【0033】
また、プロピレンイミン構造単位の例としては、例えば、ポリ(N−ホルミルプロピレンイミン)、ポリ(N−アセチルプロピレンイミン)、ポリ(N−プロピオニルプロピレンイミン)、ポリ(N−ブチリルプロピレンイミン)、ポリ(N−イソブチリルプロピレンイミン)、ポリ(N−ピバロイルプロピレンイミン)、ポリ(N−ラウロイルプロピレンイミン)、ポリ(N−ステアロイルプロピレンイミン)、ポリ(N−(3−(パーフロロオクチル)プロピオニル)プロピレンイミン)などの脂肪族飽和カルボン酸でアシル化されたポリプロピレンイミン、ポリ(N−アクリロイルプロピレンイミン)、ポリ(N−メタクリロイルプロピレンイミン)、ポリ(N−オレオイルエチンイミン)などの脂肪族不飽和カルボン酸でアシル化されたプロピレンイミン、ポリ(N−ベンゾイルプロピレンイミン)、ポリ(N−トルイロイルプロピレンイミン)、ポリ(N−ナフトイルプロピレンイミン)、ポリ(N−シンナモイルプロピレンイミン)、などの芳香族カルボン酸でアシル化されたポリプロピレンイミンなどが挙げられる。
【0034】
上記式(2)で表されるグラフト化された直鎖状ポリマー鎖であるN−アシルエチレン又はプロピレンイミン構造単位とN−アシルプロピレン又はエチレンイミン構造単位の組み合わせとして、同じ又は異なるアシル基を有する構造単位を使用した直鎖状ブロックポリマー鎖は、その内例えば、2−オキサゾリンまたは2−メチル−2−オキサゾリンをカチオン開環リビング重合した後、得られたリビングポリマーに、さらに2−エチル−2−オキサゾリンを重合させることによって得られる。同様にして、2−オキサゾリンまたは2−メチル−2−オキサゾリンの重合と、2−エチル−2−オキサゾリンの重合を交互に繰り返すことによって、多ブロックの直鎖状ポリマー鎖も得られる。
【0035】
上記式(2)で表されるグラフト化された直鎖状ポリマー鎖であるエチレン又はプロピレンイミン構造単位とN−アシルエチレン又はプロピレンイミン構造単位の組み合わせからなる直鎖状ブロックポリマー鎖は、その内例えば、ポリ(エチレンイミン)ブロックと、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)ブロックとからなる分子鎖を有するブロックは、その前駆体である、ポリ(N−ホルミルエチレンイミン)ブロックまたはポリ(N−アセチルエチレンイミン)ブロックと、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)ブロックとからなる分子鎖を有するブロックのポリ(N−ホルミルエチレンイミン)ブロックまたはポリ(N−アセチルエチレンイミン)ブロックを優先的に加水分解することによって得られる。
【0036】
そのポリ(N−ホルミルエチレンイミン)ブロックまたは(N−アセチルエチレンイミン)ブロックの優先的な加水分解反応は、エマルジョン状態で行わなければならない。該エマルジョンは、基本的には水溶性ブロック共重合体、水、および、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)ブロックを溶解するが水と非相溶の有機溶媒からなる。該混合物を撹拌すると、水溶性ブロック共重合体のポリ(N−ホルミルエチレンイミン)ブロックまたは(N−アセチルエチレンイミン)ブロックは水相に溶解し、一方、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)ブロックは有機溶媒相に溶解してエマルジョンを形成する。この場合、水溶性ブロック共重合体は乳化剤として作用する。該エマルジョンは、O/W型あるいはW/O型いずれであってもよい。
【0037】
上記水と非相溶の有機溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、メトキシベンゼン、トルエンなど、およびこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0038】
加水分解反応時、水相には、公知の加水分解触媒として酸またはアルカリを添加する。酸としては、塩酸、硫酸、硝酸など通常の無機酸類を、またアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなど通常の無機アルカリ類を使用することができる。
【0039】
加水分解反応温度は100℃以下が好ましく、使用する酸またはアルカリの濃度に合わせて設定するとよい。酸またはアルカリの濃度が高い場合は、温度を低く、たとえば室温程度に設定し、酸またはアルカリの濃度が低い場合は、反応温度を高めに設定するとよい。
【0040】
そして、上記式(3)で表されるグラフト化された直鎖状ポリマー鎖であるN−アシルエチレンイミン構造単位又はN−アシルプロピレンイミン構造単位とエチレングリコール構造単位又はプロピレングリコール構造単位の組み合わせからなる直鎖状ブロックポリマー鎖は、一般に市販のアルコキシポリエチレングリコールまたはアルコキシポリプロピレングリコールをトシル化した後、オキサゾリンモノマーを用いてカチオンリビング重合を行うことにより得られる。また、このようにして得られたアシルイミンのブロックポリマーを酸又は塩基を用いて加水分解することによりエチレンイミン構造単位又はプロピレンイミン構造単位とエチレングリコール構造単位又はプロピレングリコール構造単位の組み合わせからなる直鎖状ブロックポリマー鎖が得られる。
【0041】
上記カチオン開環リビング重合の開始剤としては、低分子化合物と高分子化合物を用いることができる。低分子化合物類の重合開始剤としては、分子中に塩化アルキル基、臭化アルキル基、ヨウ化アルキル基、トルエンスルホニルオキシ基、あるいはトリフルオロメチルスルホニルオキシ基などの官能基を有する化合物を用いることができる。具体的には、たとえば、塩化ベンジル、臭化ベンジル、ヨウ化ベンジル、トルエンスルホン酸ベンジル、トリフルオロメチルスルホン酸ベンジル、臭化メチル、ヨウ化メチル、トルエンスルホン酸メチルまたはトルエンスルホン酸無水物、トリフルオロメチルスルホン酸無水物、などが挙げられる。
【0042】
これらの中でも、臭化アルキル、ヨウ化アルキル、トルエンスルホン酸アルキル、トリフルオロメチルスルホン酸アルキルは重合開始効率が高く、特に臭化アルキル、トルエンスルホン酸アルキルを使用するのが好ましい。
【0043】
上記式(3)で表されるグラフト化された直鎖状ポリマー鎖の場合、高分子化合物の重合開始剤としては、たとえば、ポリ(エチレン又はプロピレングリコール)の末端炭素原子に臭素原子あるいはヨウ素原子が結合したもの、末端酸素原子にトルエンスルホニル基が結合したものなどを使用することができる。
【0044】
カチオン開環リビング重合反応に使用する溶媒としては、非プロトン性不活性溶媒や非プロトン性極性溶媒など、公知慣用の溶媒を使用することができる。
【0045】
本発明の上記式(1)で表されるポリビニルアルコール系グラフト共重合体のポリビニルアルコールブロックと直鎖状ブロックがグラフトされたブロックの重合度については、n/nが300/700〜999/1の範囲で良いが、600/400〜999/1の範囲がより望ましく、n+nは10〜100000の範囲で良いが、100〜10000がより望ましい範囲である。各数値を上記範囲とすることで、本発明の効果を好適に発現できる。
【0046】
本発明の上記式(1)で表されるポリビニルアルコール系グラフト共重合体、線状のカチオン性ブロックを有しており、生体高分子などとの水中ナノミセル形成に用いることができる。該ナノミセルはナノ医療分野での、臨床用診断剤、治療剤として有用である。
【0047】
本発明の上記式(1)で表されるポリビニルアルコール系グラフト共重合体は、
(a)下記式(i)
【0048】
【化9】

(式(i)中、Rは炭素数1〜18のアシル基を表し、nは10〜100000の範囲である。)
で表されるポリマー中の側鎖アシル基の一部を、金属有機アニオンを用いて金属置換反応させることによりアルコキシド化する工程、
【0049】
【化10】

(b)(a)の工程によりアルコキシド化した側鎖部位を、下記式(ii)
(式(ii)中、Rは炭素数1〜5のアルキル基を表し、Xは式(1)と同様であり、YはCl、Br、I、スルホネートオキシ基のいずれかである。)
で表される反応末端を有する直鎖状ポリマー鎖で置換する工程、及び
(c)残存している側鎖アシル基を加水分解する工程
からなる製造方法により水溶性グラフト共重合体であるポリビニルアルコール系グラフト共重合体が容易に製造できる。
【0050】
上記式(i)で表されるポリビニルアセテート又はポリビニルエチルエステルなどのポリビニルアルキルエステルの重合度については、nは10〜100000の範囲で良いが、100〜10000がより望ましい範囲である。
【0051】
上記(a)の工程において使用する、金属有機アニオンとしては、例えば、ナトリウム、リチウム、ソジウム又はカリウムなどの金属を用いた有機金属アニオンを使用できる。
【0052】
上記式(i)中の側鎖アシル基のうち、金属有機アニオンを用いて置換反応させる割合としては、(側鎖アシル重合度)/(側鎖アルコキシド化重合度)が300/700〜999/1の範囲で良いが、600/400〜999/1がより望ましい範囲である。
【0053】
上記工程(ii)においては、アルコキシド化反応させた側鎖部位を、上記式(ii)で表される反応末端を有する直鎖状ポリマー鎖で置換することにより、上記式(2)又は(3)で表される直鎖状ポリマー鎖を導入できる。
【0054】
上記式(ii)中のDで表される反応末端は、塩素、臭素又はヨウ素などのハロゲン原子又は、スルホネートオキシ基であれば良い。これら反応末端は、上記式(2)又は(3)で表されるポリマー鎖を重合する際に使用する上記カチオン開環リビング重合開始剤残基をそのまま使用できる。
【0055】
次いで、上記(iii)の工程により、残存している側鎖アシル基を酸又は塩基により加水分解することで、本発明の上記式(1)で表されるポリビニルアルコール系グラフト共重合体が容易に製造できる。加水分解に使用する酸、塩基は通常の加水分解で使用する酸、塩基を使用できる。
【0056】
本発明の製造方法によって得られる本発明の上記式(1)で表されるポリビニルアルコール系グラフト共重合体は、生体高分子との親和性の良いことからDNAキャリア、あるいは、アニオン性の染料、顔料との水中ナノ分散体作製に有用であり、前記、ナノ医療分野における臨床用診断剤や治療剤、あるいは、ナノリアクター(nanoreactor)やナノ粒子型触媒などの用途以外に、各種水性塗料や水性インキ、中でも水性ジェットインキなどにも好適に使用することができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。なお、特に断わりがない限り、「部」および「%」は、それぞれ「質量部」および「質量%」を表わす。
【0058】
(合成例1)
<直鎖状ポリマー鎖の合成1>
容積100mlの反応容器内部を窒素ガスで置換した後、カチオン開環リビング重合開始剤であるp−トルエンスルホン酸メチル0.20g(1.07mmol)、N,N−ジメチルアセトアミド40ml、2−メチル−2−オキサゾリン10.0g(118mmol)を加えた後、100℃で24時間攪拌しながら2−メチル−2−オキサゾリンをカチオン開環リビング重合させた。酢酸エチル300mlに得られた反応混合物を加え、室温で強力攪拌した後、生成物の固形物を濾過した。その固形物は酢酸エチル100mlを用いて2回洗浄した後、減圧乾燥して、ポリ(N−アセチルエチレンイミン)の直鎖状ポリマー鎖の固体を9.7g得た。
【0059】
1H−NMR(日本電子株式会社製、AL300、300MHz)測定結果を以下に示す。
1H−NMR(CDCl3)測定結果:
δ(ppm):7.72(d),7.18(d),3.50〜3.30(bs),2.22〜2.08(m)
【0060】
(合成例2)
<直鎖状ポリマー鎖の合成2>
上記合成例1で得られた直鎖状ポリマー鎖5.0gを、5規定塩酸水24.4g中、90℃で6時間攪拌し、加水分解反応を行った。放冷後、時間とともに生成してきた白色沈殿を含む反応混合溶液をアセトン約150mlに加え、室温で約30分間攪拌した後、生成物の固形物を濾過、アセトンで2回洗浄、減圧乾燥して白色固体4.5gを得た。1H−NMRによる分析から、加水分解反応によりポリ(N−アセチルエチレンイミン)の側鎖アセチル水素(δ:2.22〜2.08ppm)]がない、ポリ(エチレンイミン)の直鎖状ポリマー鎖を得た。
【0061】
1H−NMR(日本電子株式会社製、AL300、300MHz)測定結果を以下に示す。
1H−NMR(DMSO)測定結果:
δ(ppm):3.31〜3.19(bs)
【0062】
(合成例3)
<直鎖状ポリマー鎖の合成3>
容積100mlの反応容器内部を窒素ガスで置換した後、カチオン開環リビング重合開始剤であるp−トルエンスルホン酸メチル0.20g(1.07mmol)、N,N−ジメチルアセトアミド40ml、2−メチル−2−オキサゾリン4.26g(50mmol)を加えた後、100℃で24時間攪拌しながら2−メチル−2−オキサゾリンをカチオン開環リビング重合させた。反応液温度を60℃に下げた後、2−エチル−2−オキサゾリン4.95g(50mmol)を加えた後、100℃に加熱し24時間攪拌した。反応混合液の温度を室温に下げ、メタノール10mlを加えた後、反応混合液を減圧濃縮した。この濃縮液をジエチルエーテル100ml中に注いで、重合体を沈殿させた。
【0063】
得られた重合体のメタノール溶液を、ジエチルエーテル中に注いで再沈殿させ、吸引濾過後、濾過物を真空乾燥し、ポリ(N−アセチルエチレンイミン)ブロックとポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)ブロックとからなる直鎖状ブロックポリマー鎖の固体8.95gを得た。
【0064】
1H−NMR(日本電子株式会社製、AL300、300MHz)測定結果を以下に示す。
1H−NMR(D2O)測定結果:
δ(ppm):7.70(d),7.18(d),3.70〜3.40(m),2.50〜2.30(m),2.24〜1.97(m),1.19〜1.00(m)
【0065】
(合成例4)
<直鎖状ポリマー鎖の合成4>
上記合成例3で得た直鎖状ブロックポリマー鎖0.5gを、5mol/l塩酸20mlに溶解し、これにクロロホルム3mlを加えて30分間撹拌してエマルジョンを得た。該エマルジョンを50℃に加熱し、10時間攪拌した。反応液にアセトン50mlを加えて重合体を沈殿させた後、吸引濾過し、アセトンで洗浄した。得られた固体を乾燥し、0.45gを得た。1H−NMRによる分析から、加水分解反応によりポリ(N−アセチルエチレンイミン)ブロックの側鎖アセチル水素(δ:2.24〜1.97ppm)]がない、ポリ(エチレンイミン)ブロックとポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)ブロックとからなる直鎖状ブロックポリマー鎖を得た。
【0066】
1H−NMR(日本電子株式会社製、AL300、300MHz)測定結果を以下に示す。
1H−NMR(DMSO)測定結果:
δ(ppm):3.70〜3.40(m),2.50〜2.30(m),1.19〜1.00(m)
【0067】
(合成例5)
<直鎖状ポリマー鎖の合成5>
窒素雰囲気下、メトキシポリエチレングリコール[Mn=2,000]15.0g(7.5mmol)、ピリジン6.0g(75.0mmol)、クロロフォルム20mlの混合溶液に、p−トルエンスルフォン酸クロライド7.15g(37.5mmol)を含むクロロフォルム(20ml)溶液を、氷冷撹拌しながら30分間滴下した。滴下終了後、浴槽温度40℃でさらに4時間攪拌した。反応終了後、クロロフォルム40mlを加えて反応液を希釈した。引き続き、5%塩酸水溶液50ml、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、そして飽和食塩水溶液で順次に洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過、減圧濃縮した。得られた固形物をヘキサンで数回洗浄した後、濾過、80℃で減圧乾燥して、トシル化された生成物15.1gを得た。
【0068】
1H−NMR(日本電子株式会社製、AL300、300MHz)測定結果を以下に示す。
1H−NMR(CDCl3)測定結果:
δ(ppm):7.82(d),7.28(d),3.74〜3.54(bs),3.41(s),2.40(s)
【0069】
上記で合成した末端にp−トルエンスルホニルオキシ基を有するメトキシポリエチレングリコール化合物3.0g(1.6mmol)、2−メチルオキサゾリン6.8g(80.0mmol)及びN,N−ジメチルアセトアミド40mlを、窒素雰囲気下、100℃で24時間攪拌した。得られた反応混合物を酢酸エチルとヘキサンの混合溶液(V/V=1/2)300mlを加え、室温で強力攪拌した後、生成物の固形物を濾過した。その固形物は酢酸エチルとヘキサンの混合溶液(V/V=1/2)100mlを用いて2回洗浄した後、減圧乾燥してポリエチレングリコールとポリメチルオキサゾリンのブロックポリマーの固体を8.7g得た。
【0070】
1H−NMR(日本電子株式会社製、AL300、300MHz)測定結果を以下に示す。
1H−NMR(CDCl3)測定結果:
δ(ppm):7.71(d),7.18(d),3.50〜3.30(bs),3.45(s),2.36(s),2.22〜2.08(m)
【0071】
(合成例6)
<直鎖状ポリマー鎖の合成6>
上記合成例5で得られたポリエチレングリコールとポリメチルオキサゾリンのブロックポリマー4.3g(0.69mmol)を、5規定塩酸水14.0g中、90℃で6時間攪拌し、加水分解反応を行った。放冷後、時間とともに生成してきた白色沈殿を含む反応混合溶液をアセトン約150mlに加え、室温で約30分間攪拌した後、生成物の固形物を濾過、アセトンで2回洗浄、減圧乾燥して白色固体3.9gを得た。1H−NMRによる分析から、加水分解反応によりポリ(N−アセチルエチレンイミン)を側鎖アセチル水素(δ:2.22〜2.08ppm)]がなく、得られた上記固体は、ポリエチレングリコールとポリエチレンイミンからなる二重親水性ブロックポリマーであると認められる。
【0072】
1H−NMR(日本電子株式会社製、AL300、300MHz)測定結果を以下に示す。
1H−NMR(D2O)測定結果:
δ(ppm):3.49(s),3.31〜3.19(bs)
【0073】
(実施例1)
<ポリビニルアセテートのアルコキシ化反応1>
窒素雰囲気下、アドリチ(Aldrich)製のポリビニルアセテート(Mwt:83,000)16.7gのN,N−ジメチルアセトアミド40ml溶液に、0〜5℃でソジウムメトキシド(25wt%)2.08gを攪拌しながら20分間滴下した。滴下終了後、室温でさらに2時間反応させ、ポリビニルアセテートの部分アルコキシ体を得た。
【0074】
<部分アルコキシ体への直鎖状ポリマー鎖の置換反応1>
上記に引き続き、窒素雰囲気下、得られたポリビニルアセテートの部分アルコキシ体の反応混合物に上記合成例1で得られた直鎖状ポリマー鎖の反応混合物の溶液20.9mlを室温下、攪拌しながら約30分間で徐々に滴下した。滴下終了後、50℃に反応温度上げてさらに8時間攪拌しながら反応を行った。反応終了後、得られた反応混合物を酢酸エチルとヘキサンの混合溶液(V/V=1/2)300mlを加え、室温で強力攪拌した後、生成物の固形物を濾過した。その固形物は酢酸エチルとヘキサンの混合溶液(V/V=1/2)100mlを用いて2回洗浄した後、減圧乾燥して固体を17.7g得た。得られた上記固体は、ポリ(N−アセチルエチレンイミン)側鎖を有するポリビニルアルコール系グラフト共重合体であると認められる。
【0075】
1H−NMR(日本電子株式会社製、AL300、300MHz)測定結果を以下に示す。
1H−NMR(DMSO)測定結果:
δ(ppm):5.20〜4.40(m),3.50〜3.25(m),2.05〜1.90(m),1.90〜1.40(m)
(実施例2)
<側鎖アシル基の加水分解反応1>
実施例1で得られた共重合体17.7gを、5規定塩酸水100.0g中、90℃で6時間攪拌し、加水分解反応を行った。放冷後、時間とともに生成してきた白色沈殿を含む反応混合溶液をアセトン約300mlに加え、室温で約30分間攪拌した後、生成物の固形物を濾過、アセトンで2回洗浄、減圧乾燥して固体13.5gを得た。1H−NMRによる分析から、加水分解反応によりポリビニルアセテート及びポリ(N−アセチルエチレンイミン)の側鎖アセチル水素(δ:2.05〜1.90ppm)]がなく、得られた上記固体は、ポリ(エチレンイミン)側鎖を有するポリビニルアルコール系グラフト共重合体であると認められる。
【0076】
1H−NMR(日本電子株式会社製、AL300、300MHz)測定結果を以下に示す。
1H−NMR(D2O)測定結果:
δ(ppm):3.85〜3.75(m),3.55〜2.95(m),1.55〜1.25(m)
【0077】
(実施例3)
<ポリビニルアセテートのアルコキシ化反応2>
窒素雰囲気下、アドリチ(Aldrich)製のポリビニルアセテート(Mwt:12、800)15.8gのN,N−ジメチルアセトアミド50ml溶液に、0〜5℃でソジウムメトキシド(25wt%)1.97gを攪拌しながら20分間滴下した。滴下終了後、室温でさらに2時間反応させ、ポリビニルアセテートの部分アルコキシ体を得た。
【0078】
<部分アルコキシ体に直鎖状ポリマー鎖の置換反応2>
上記に引き続き、窒素雰囲気下、得られたポリビニルアセテートの部分アルコキシ体の反応混合物に上記合成例1で得られた直鎖状ポリマー鎖の反応混合物の溶液19.8mlを室温下、攪拌しながら約30分間で徐々に滴下した。滴下終了後、50℃に反応温度上げてさらに8時間攪拌しながら反応を行った。反応終了後、得られた反応混合物を酢酸エチルとヘキサンの混合溶液(V/V=1/2)300mlを加え、室温で強力攪拌した後、生成物の固形物を濾過した。その固形物は酢酸エチルとヘキサンの混合溶液(V/V=1/2)100mlを用いて2回洗浄した後、減圧乾燥して固体を16.2g得た。得られた上記固体は、ポリ(N−アセチルエチレンイミン)側鎖を有するポリビニルアルコール系グラフト共重合体であると認められる。
【0079】
1H−NMR(日本電子株式会社製、AL300、300MHz)測定結果を以下に示す。
1H−NMR(DMSO)測定結果:
δ(ppm):5.20〜4.40(m),3.50〜3.25(m),2.05〜1.90(m),1.90〜1.40(m)
【0080】
(実施例4)
<側鎖アシル基の加水分解反応2>
上記実施例10で得られた直鎖状ポリマー鎖の置換体のポリマー8.1gを、5規定塩酸水46.0g中、90℃で6時間攪拌し、加水分解反応を行った。放冷後、時間とともに生成してきた白色沈殿を含む反応混合溶液をアセトン約300mlに加え、室温で約30分間攪拌した後、生成物の固形物を濾過、アセトンで2回洗浄、減圧乾燥して固体5.5gを得た。1H−NMRによる分析から、加水分解反応によりポリビニルアセテート及びポリ(N−アセチルエチレンイミン)の側鎖アセチル水素(δ:2.05〜1.90ppm)]がなく、得られた上記固体は、ポリ(エチレンイミン)側鎖を有するポリビニルアルコール系グラフト共重合体であると認められる。
【0081】
1H−NMR(日本電子株式会社製、AL300、300MHz)測定結果を以下に示す。
1H−NMR(D2O)測定結果:
δ(ppm):3.85〜3.75(m),3.55〜2.95(m),1.55〜1.25(m)
【0082】
(応用例1)
上記の実施例2又は4で得られたポリビニルアルコール系グラフト共重合体は純水を加えて攪拌し溶解させ、その溶液でのポリビニルアルコール系グラフト共重合体の粒径分布を測るために散乱強度分布を測定したところ、平均粒径数十から数百nmが得られ、水中で良好にミセルを形成していることが示された。
【0083】
(応用例2)
上記の実施例2又は4で得られたポリビニルアルコール系グラフト共重合体100mgを1mlの蒸留水に溶解し、この溶液を、サケの精子から抽出したDNAを含む濃度2.2mg/mlの水溶液4ml中に滴下し、1時間攪拌した。該分散液について、動的光散乱法によって、ポリビニルアルコール系グラフト共重合体とDNAとの会合粒子の形成を確認したところ、単分散状態のナノ粒子が観測された。
【0084】
上記実施例及び応用例より明らかなように、本発明の上記式(1)で表されるポリビニルアルコール系グラフト共重合体は、主鎖構造であるポリビニルアルコールが生体高分子と良好な親和性を有し、また、グラフトされた直鎖状ポリマー鎖の有するカチオン性構造単位を有することから、アニオン性の生体高分子であるDNAとイオンコンプレックスを形成し、ナノ粒子となって水相に分散させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるポリビニルアルコール系グラフト共重合体。
【化1】

[式(1)中、Xは下記式(2)
【化2】

(式(2)中、Rは水素原子又は炭素数が1〜18のアシル基、Rは炭素数が1〜18のアシル基を表し、p、pはそれぞれ2又は3であり、qは2〜10000、qは0〜9998の範囲であり、q+qが2〜10000の範囲である。)
又は、下記式(3)
【化3】

(式(3)中、Rは水素原子又は炭素数が1〜18のアシル基を表し、p、pはそれぞれ2又は3であり、q、qはいずれも1以上でありq+qが2〜10000の範囲である。)
で表される直鎖状ポリマー鎖の少なくとも一種を表し、n/nが300/700〜999/1の範囲であり、n+nは10〜100000の範囲である。]
【請求項2】
前記式(1)で表されるポリビニルアルコール系グラフト共重合体中のカチオン性構造単位の割合が、全構造単位の1〜50質量%の範囲にある請求項1に記載のポリビニルアルコール系グラフト共重合体。
【請求項3】
前記式(2)で表されるポリマー鎖がホモポリマー鎖又はブロックポリマー鎖であり、前記式(3)で表されるポリマー鎖がブロックポリマー鎖である請求項1又は2に記載のポリビニルアルコール系グラフト共重合体。
【請求項4】
下記工程からなるポリビニルアルコール系グラフト共重合体の製造方法。
【化4】

(a)下記式(i)
(式(i)中、Rは炭素数1〜18のアシル基を表し、nは10〜100000の範囲である。)
で表されるポリマー中の側鎖アシル基の一部を、金属有機アニオンを用いて金属置換反応させることによりアルコキシド化する工程、
(b)(a)の工程によりアルコキシド化した側鎖部位を、下記式(ii)
【化5】

(式(ii)中、Rは炭素数1〜5のアルキル基を表し、Xは式(1)と同様であり、YはCl、Br、I、スルホネートオキシ基のいずれかである。)
で表される反応末端を有する直鎖状ポリマー鎖で置換する工程、
(c)残存している側鎖アシル基を加水分解する工程。

【公開番号】特開2006−199779(P2006−199779A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−11456(P2005−11456)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】