説明

グラフト重合体粉体の製造方法、熱可塑性樹脂組成物及び成形体

【課題】ポリカーボネートの熱分解や加水分解を抑制しつつ、熱可塑性樹脂組成物の溶融流動性と成形体の機械特性を向上させるグラフト重合体粉体の製造方法を提供する。
【解決手段】アルキル基の炭素数が2以上のアルキル(メタ)アクリレート(a1)を主成分とする単量体成分(a)を重合して得られた重合体(A)ラテックスの存在下で、シアン化ビニル単量体(b1)及び芳香族ビニル単量体(b2)を含む単量体成分(b)を重合し、得られたグラフト重合体ラテックスを噴霧乾燥するグラフト重合体粉体の製造方法であって、単量体成分(a)と単量体成分(b)の重合に用いる硫黄含有塩化合物量の合計が0.0080mol以下であり、グラフト重合体粉体のアセトンの可溶成分の比率が90質量%以上であり、グラフト重合体粉体のテトラヒドロフランの可溶成分の質量平均分子量が5,000〜100,000である、グラフト重合体粉体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフト重合体粉体の製造方法、該製造方法により得られるグラフト重合体粉体を含む熱可塑性樹脂組成物及び該熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート/ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂アロイ、ポリカーボネート/ABS樹脂/AS(アクリロニトリル・スチレン)樹脂アロイ等のポリカーボネート系樹脂は、優れた機械特性、耐薬品性を有することから、車両分野、家電分野、建材分野等の広範な分野において使用されている。近年では、ポリカーボネート系樹脂の射出成形品に関して、形状の複雑化、リブやボス等の凹凸の形成、省資源の見地からの軽量化や薄肉化等の理由から、成形加工時の溶融流動性の向上、即ち、成形加工性に優れた熱可塑性樹脂組成物が求められている。
ポリカーボネート系樹脂の溶融流動性を向上させる方法としては、例えば、特許文献1では、アルキル(メタ)アクリレートの重合体の存在下で、シアン化ビニル単量体と芳香族ビニル単量体とをグラフト重合して得られたグラフト重合体ラテックスを凝固により粉体化する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第03/072620号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に提案されている凝固により粉体化する方法は、ガラス転移温度が高い重合体等、凝固困難な重合体には適用できず、その適用範囲が限られている。
また、噴霧乾燥により粉体化する方法は、他のプロセスと比較して、生産性が高く、工程が簡便であり、排水の問題が無いという利点がある一方で、乳化剤等の重合助剤由来の塩類が残存するため、噴霧乾燥した粉体をポリカーボネート系樹脂に配合した場合に、ポリカーボネートの熱分解や加水分解を促進してしまうという課題を有する。
【0005】
本発明の目的は、ポリカーボネート系樹脂に配合した場合に、ポリカーボネートの熱分解や加水分解を抑制しつつ、熱可塑性樹脂組成物の溶融流動性と成形体の機械特性を向上させるグラフト重合体粉体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、アルキル基の炭素数が2以上のアルキル(メタ)アクリレート(a1)を主成分とする単量体成分(a)を重合して得られた重合体(A)ラテックスの存在下で、シアン化ビニル単量体(b1)及び芳香族ビニル単量体(b2)を含む単量体成分(b)を重合し、得られたグラフト重合体ラテックスを噴霧乾燥するグラフト重合体粉体の製造方法であって、単量体成分(a)と単量体成分(b)の重合に用いる硫黄含有塩化合物量の合計が、用いる単量体成分(a)と単量体成分(b)の合計100gに対して、0.0080mol以下であり、グラフト重合体粉体のアセトンの可溶成分の比率が90質量%以上であり、グラフト重合体粉体のテトラヒドロフランの可溶成分の質量平均分子量が5,000〜100,000である、グラフト重合体粉体の製造方法である。
【0007】
また、本発明は、該製造方法により得られるグラフト重合体粉体と熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物である。
更に、本発明は、該熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形体である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、ポリカーボネート系樹脂に配合した場合に、ポリカーボネートの熱分解や加水分解を抑制しつつ、熱可塑性樹脂組成物の溶融流動性と成形体の機械特性を向上させるグラフト重合体粉体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のグラフト重合体は、重合体(A)ラテックスの存在下で、単量体成分(b)を重合して得られる。
【0010】
本発明の重合体(A)は、アルキル基の炭素数が2以上のアルキル(メタ)アクリレート(a1)を主成分とする単量体成分(a)を重合して得られる。アルキル基の炭素数が2以上のアルキル(メタ)アクリレート(a1)としては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−メチルブチル(メタ)アクリレート、3−メチルブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらのアルキル基の炭素数が2以上のアルキル(メタ)アクリレート(a1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
尚、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」又は「メタクリレート」を示す。
これらのアルキル基の炭素数が2以上のアルキル(メタ)アクリレート(a1)の中でも、単独重合体のガラス転移点が25℃以下となるアルキル基の炭素数が2以上のアルキル(メタ)アクリレート(a1)が好ましく、熱可塑性樹脂組成物の溶融流動性に優れることから、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートがより好ましい。
尚、単独重合体のガラス転移温度は、動的粘弾性測定、示差走査熱量測定、示差熱熱重量同時測定、熱機械特性分析等により測定できる。
【0011】
単量体成分(a)は、必要に応じて、グラフト交叉剤となる不飽和基を2つ以上有する単量体(a2)を用いてもよく、例えば、アリル(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの不飽和基を2つ以上有する単量体(a2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの不飽和基を2つ以上有する単量体(a2)の中でも、グラフト重合体粉体のアセトンの可溶成分の比率を90%以上に保ちつつ重合体(A)にグラフト活性点を付与する観点から、アリル(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等の不飽和基の反応性が異なる単量体が好ましく、単量体成分(b)のグラフト効率及び得られる熱可塑性樹脂組成物の溶融流動性に優れることから、アリル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0012】
単量体成分(a)は、必要に応じて、アルキル基の炭素数が2以上のアルキル(メタ)アクリレート(a1)、不飽和基を2つ以上有する単量体(a2)以外にも、共重合可能な他の単量体(a3)を用いてもよく、例えば、メチル(メタ)アクリレート;スチレン、α−メチルスチレン、アルキル置換スチレン等の芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;ヒドロキシ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を有するビニル単量体;(メタ)アクリル基変性シリコーン;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ハロゲン含有ビニル単量体が挙げられる。これらの他の単量体(a3)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
単量体成分(a)の組成比としては、単量体成分(a)100質量%中、アルキル基の炭素数が2以上のアルキル(メタ)アクリレート(a1)50〜100質量%、不飽和基を2つ以上有する単量体(a2)0〜20質量%、他の単量体(a3)0〜30質量%であり、アルキル基の炭素数が2以上のアルキル(メタ)アクリレート(a1)50〜99.9質量%、不飽和基を2つ以上有する単量体(a2)0.1〜20質量%、他の単量体(a3)0〜30質量%であることが好ましく、アルキル基の炭素数が2以上のアルキル(メタ)アクリレート(a1)70〜99.9質量%、不飽和基を2つ以上有する単量体(a2)0.1〜10質量%、他の単量体(a3)0〜20質量%であることがより好ましく、アルキル基の炭素数が2以上のアルキル(メタ)アクリレート(a1)90〜99.5質量%、不飽和基を2つ以上有する単量体(a2)0.5〜5質量%、他の単量体(a3)0〜5質量%であることが更に好ましい。
アルキル基の炭素数が2以上のアルキル(メタ)アクリレート(a1)の含有率が50質量%以上であると、得られる成形体の機械特性に優れる。
不飽和基を2つ以上有する単量体(a2)の含有率が0.1質量%以上であると、重合体(A)にグラフト活性点を付与でき、得られる成形体の機械特性に優れる。また、不飽和基を2つ以上有する単量体(a2)の含有率が20質量%以下であると、グラフト重合体粉体のアセトンの可溶成分の比率を90%以上に保つことができ、得られる熱可塑性樹脂組成物の溶融流動性に優れる。
他の単量体(a3)の含有率が30質量%以下であると、アルキル基の炭素数が2以上のアルキル(メタ)アクリレート(a1)単位の本来の特性を損なわない。
【0014】
単量体成分(a)の重合の際に、必要に応じて、連鎖移動剤を用いてもよく、例えば、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンが挙げられる。これらの連鎖移動剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
連鎖移動剤の使用量としては、単量体成分(a)の種類にもよるが、単量体成分(a)100質量部に対して、0.2〜5質量部であることが好ましく、0.5〜2質量部であることがより好ましい。
連鎖移動剤の使用量が0.2質量部以上であると、得られる樹脂組成物の溶融流動性に優れる。また、連鎖移動剤の使用量が5質量部以下であると、単量体成分(a)の重合の進行を損なわない。
【0015】
単量体成分(a)の重合方法としては、重合体(A)がラテックス状で得られれば特に制限はなく、例えば、乳化重合、ソープフリー重合、分散重合、膨潤重合、ミニラテックス重合、微細懸濁重合が挙げられる。これらの重合方法の中でも、重合安定性に優れることから、乳化重合、ソープフリー乳化重合であることが好ましく、乳化重合であることがより好ましい。
【0016】
単量体成分(a)の重合に用いる乳化剤としては、単量体成分(a)と単量体成分(b)の重合に用いる硫黄含有塩化合物量の合計が、用いる単量体成分(a)と単量体成分(b)の合計100gに対して、0.0080mol以下であれば特に制限はなく、例えば、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤が挙げられる。
アニオン系乳化剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウムが挙げられる。これらのアニオン系乳化剤の中でも、ポリカーボネート系樹脂に配合した場合に、ポリカーボネートの熱分解が抑制されることから、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールが挙げられる。これらのノニオン系乳化剤の中でも、重合安定性に優れることから、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルが好ましい。
これらの乳化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
単量体成分(a)の重合に用いる重合開始剤としては、単量体成分(a)と単量体成分(b)の重合に用いる硫黄含有塩化合物量の合計が、用いる単量体成分(a)と単量体成分(b)の合計100gに対して、0.0080mol以下であれば特に制限はなく、例えば、過硫酸化合物、有機過酸化物、アゾ系化合物が挙げられる。
【0018】
過硫酸化合物としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムが挙げられる。これらの過硫酸化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
有機過酸化物としては、例えば、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド、p−メンタンヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシド、サクシニックアシッドパーオキシド、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、過酸化水素が挙げられる。これらの有機過酸化物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0020】
アゾ系化合物としては、例えば、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリックアシッド)、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオナミジン]テトラハイドレート、2,2’−アゾビス−(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩が挙げられる。これらのアゾ系化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0021】
また、単量体成分(a)の重合に用いる重合開始剤として、前記過硫酸化合物又は前記有機過酸化物と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤を用いることもできる。レドックス系開始剤としては、例えば、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、L−アスコルビン酸、フルクトース、デキストロース、ソルボース、イノシトール等の還元剤と硫酸第一鉄及びエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩との組み合わせが挙げられる。これらのレドックス系開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
これらの重合開始剤の中でも、グラフト重合体粉体に含まれる硫黄含有塩化合物の量を低減でき、得られる成形体の機械特性に優れることから、有機過酸化物、アゾ系化合物が好ましい。
【0023】
本発明の単量体成分(b)は、シアン化ビニル単量体(b1)と芳香族ビニル単量体(b2)を含む。
【0024】
シアン化ビニル単量体(b1)としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが挙げられる。これらのシアン化ビニル単量体(b1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのシアン化ビニル単量体の中(b1)でも、得られる成形体の耐熱性に優れることから、アクリロニトリルが好ましい。
【0025】
芳香族ビニル単量体(b2)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレンが挙げられる。これらの芳香族ビニル単量体(b2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの芳香族ビニル単量体の中でも、単量体の重合性と製造コストの観点から、スチレンが好ましい。
【0026】
単量体成分(b)は、必要に応じて、シアン化ビニル単量体の中(b1)、芳香族ビニル単量体(b2)以外にも、共重合可能な他の単量体(b3)を用いてもよく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート;ヒドロキシ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を有するビニル単量体;(メタ)アクリル基変性シリコーン;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ハロゲン含有ビニル単量体が挙げられる。これらの他の単量体(b3)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
単量体成分(b)の組成比としては、単量体成分(b)の共重合性の観点から、単量体成分(b)100質量%中、シアン化ビニル単量体の中(b1)10〜90質量%、芳香族ビニル単量体(b2)10〜90質量%、他の単量体(b3)0〜30質量%であることが好ましく、シアン化ビニル単量体の中(b1)15〜70質量%、芳香族ビニル単量体(b2)30〜85質量%、他の単量体(b3)0〜20質量%であることがより好ましく、シアン化ビニル単量体の中(b1)20〜50質量%、芳香族ビニル単量体(b2)50〜80質量%、他の単量体(b3)0〜10質量%であることが更に好ましい。
他の単量体(b3)の含有率が30質量%以下であると、得られる成形体の機械特性に優れる。
【0028】
単量体成分(b)の重合方法としては、グラフト重合体がラテックス状で得られれば特に制限はなく、例えば、単量体成分(a)の重合方法として例示した重合方法が挙げられる。これらの重合方法の中でも、製造コストの観点から、単量体成分(a)と同じ重合方法であることが好ましい。
【0029】
単量体成分(b)の重合に用いる乳化剤としては、単量体成分(a)と単量体成分(b)の重合に用いる硫黄含有塩化合物量の合計が、用いる単量体成分(a)と単量体成分(b)の合計100gに対して、0.0080mol以下であれば特に制限はなく、例えば、単量体成分(a)の重合に用いる乳化剤として例示した乳化剤が挙げられる。
【0030】
単量体成分(b)の重合に用いる重合開始剤としては、単量体成分(a)と単量体成分(b)の重合に用いる硫黄含有塩化合物量の合計が、用いる単量体成分(a)と単量体成分(b)の合計100gに対して、0.0080mol以下であれば特に制限はなく、例えば、単量体成分(a)の重合に用いる重合開始剤として例示した重合開始剤が挙げられる。
【0031】
単量体成分(a)の重合及び単量体成分(b)の重合は、連続して行うこともでき、単量体成分(a)の重合で用いた乳化剤や重合開始剤を単量体成分(b)の重合にそのまま用いることもできる。
【0032】
単量体成分(b)の重合の際の重合体(A)と単量体成分(b)の組成比としては、重合体(A)と単量体成分(b)の合計100質量%中、重合体(A)1〜90質量%、単量体成分(b)10〜99質量%であることが好ましく、重合体(A)3〜50質量%、単量体成分(b)50〜97質量%であることがより好ましく、重合体(A)5〜30質量%、単量体成分(b)70〜95質量%であることが更に好ましい。
重合体(A)の含有率が1質量%以上であると、得られる熱可塑性樹脂組成物の溶融流動性に優れる。また、重合体(A)の含有率が90質量%以下であると、得られる成形体の機械特性に優れる。
単量体成分(b)の含有率が10質量%以上であると、得られる成形体の機械特性に優れる。また、単量体成分(b)の含有率が99質量%以下であると、得られる熱可塑性樹脂組成物の溶融流動性に優れる。
【0033】
単量体成分(a)と単量体成分(b)の重合に用いる硫黄含有塩化合物としては、例えば、硫酸塩化合物、スルホン酸塩化合物、スルフィン酸塩化合物が挙げられ、具体的には、過硫酸カリウム等の硫酸塩系重合開始剤;硫酸第一鉄等のレドックス系開始剤で用いる硫酸塩化合物;ロンガリット等のレドックス系開始剤で用いるスルホン塩化合物;ドデシル硫酸ナトリウム等の硫酸塩系乳化剤;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸塩系乳化剤が挙げられる。
【0034】
単量体成分(a)と単量体成分(b)の重合に用いる硫黄含有塩化合物量の合計としては、用いる単量体成分(a)と単量体成分(b)の合計100gに対して、0.0080mol以下であり、0.0060mol以下であることが好ましく、0.0040mol以下であることがより好ましい。
単量体成分(a)と単量体成分(b)の重合に用いる硫黄含有塩化合物量の合計が0.0080mol以下であると、ポリカーボネート系樹脂に配合した場合に、ポリカーボネートの熱分解が抑制され、得られる成形体の着色が抑制される。
【0035】
本発明のグラフト重合体ラテックスは、必要に応じて、ブロッキングや嵩比重等の粉体特性を改良するためのシリカ等の無機微粒子、酸化防止剤等の添加剤を添加してもよい。
【0036】
本発明のグラフト重合体粉体は、本発明のグラフト重合体ラテックスを噴霧乾燥して得られる。噴霧乾燥は、噴霧乾燥装置中に重合体ラテックスを微小液滴状に噴霧した後に熱風を当てることによる乾燥をいう。
【0037】
重合体ラテックスを微小液滴状に噴霧する方法としては、公知の噴霧方法を用いることができ、例えば、回転円盤式、圧力ノズル式、二流体ノズル式、加圧二流体ノズル式等の方法が挙げられる。
噴霧乾燥装置の容量としては、実験室で用いるような小規模な容量から工業的に用いるような大規模な容量まで、いずれであってもよい。
噴霧乾燥装置における乾燥用加熱ガスの供給部の構造、乾燥用加熱ガス及び乾燥粉末の排出部の構造としては、目的に応じて適宜選択すればよい。
乾燥用加熱ガスの温度としては、200℃以下であることが好ましく、120〜180℃であることがより好ましい。
【0038】
本発明のグラフト重合体粉体は、全てが非架橋であることが好ましいが、溶融流動性の向上効果を損なわない範囲であれば、全てが非架橋である必要はなく、アセトンやテトラヒドロフラン等の有機溶媒に不溶の架橋構造体が一部存在していても特に問題はない。
本発明のグラフト重合体粉体のアセトンの可溶成分の比率は、グラフト重合体100質量%中、90質量%以上であり、95質量%以上であることが好ましい。
グラフト重合体粉体のアセトンの可溶成分の比率が90質量%以上であると、得られる熱可塑性樹脂組成物の溶融流動性に優れる。
【0039】
本発明のグラフト重合体粉体のテトラヒドロフランの可溶成分の質量平均分子量は、5,000〜100,000であり、10,000〜80,000であることが好ましく、15,000〜60,000であることがより好ましく、20,000〜50,000であることが更に好ましい。
グラフト重合体粉体のテトラヒドロフランの可溶成分の質量平均分子量が5,000以上であると、得られる成形体の機械特性や外観に優れる。また、グラフト重合体のテトラヒドロフランの可溶成分の質量平均分子量が100,000以下であると、得られる熱可塑性樹脂組成物の溶融流動性に優れる。
尚、本発明のグラフト重合体粉体のテトラヒドロフランの可溶成分の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにて測定される。
【0040】
本発明のグラフト重合体のアセトンやテトラヒドロフラン等の有機溶媒の可溶成分には、重合体(A)と単量体成分(b)が重合した非架橋の重合体、重合体(A)、単量体成分(b)の重合体のうちの1種以上が含まれる。
【0041】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明のグラフト重合体粉体と熱可塑性樹脂を含む。
【0042】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート/ABS樹脂アロイ、ポリカーボネート/ABS樹脂/AS樹脂アロイ等のポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂とのアロイ、ポリカーボネート/ポリブチレンテレフタレート樹脂アロイ等のポリカーボネート樹脂とポリエステル系樹脂とのアロイ等のポリカーボネート系樹脂;ポリアミド樹脂、ポリアミド/ABS樹脂アロイ等のポリアミド樹脂とスチレン系樹脂とのアロイ、ポリアミド/ポリプロピレン樹脂アロイ等のポリアミド樹脂とポリオレフィン系樹脂とのアロイ等のポリアミド系樹脂;変性ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル/ポリブチレンテレフタレート樹脂アロイ、変性ポリフェニレンエーテル/ポリアミド樹脂アロイ等の変性ポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリアセタール系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂;ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、(メタ)アクリレート・スチレン共重合体、AS樹脂、ABS樹脂、スチレン・無水マレイン酸共重合体等のスチレン系樹脂;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;硬質、半硬質、軟質塩化ビニル系樹脂が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの熱可塑性樹脂の中でも、熱分解や加水分解が抑制され、得られる成形体の着色が抑制されることから、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂等の硫黄含有塩化合物により熱分解や加水分解される熱可塑性樹脂が好ましく、得られる熱可塑性樹脂組成物の溶融流動性に優れることから、ポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート/ABS樹脂アロイ、ポリカーボネート/ABS樹脂/AS樹脂アロイ等のポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂とのアロイ、ポリカーボネート/ポリブチレンテレフタレート樹脂アロイ等のポリカーボネート樹脂とポリエステル系樹脂とのアロイ等のポリカーボネート系樹脂がより好ましく、ポリカーボネート/ABS樹脂アロイ、ポリカーボネート/ABS樹脂/AS樹脂アロイが更に好ましく、ポリカーボネート/ABS樹脂/AS樹脂アロイが特に好ましい。
【0043】
ポリカーボネート/ABS樹脂アロイの樹脂の組成比としては、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂の合計100質量%中、ポリカーボネート樹脂20〜90質量%、ABS樹脂10〜80質量%であり、ポリカーボネート樹脂40〜80質量%、ABS樹脂20〜60質量%であることが好ましい。
【0044】
ポリカーボネート/ABS樹脂/AS樹脂アロイの組成比としては、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、AS樹脂の合計100質量%中、ポリカーボネート樹脂20〜90質量%、ABS樹脂5〜60質量%、AS樹脂5〜75質量%であり、ポリカーボネート樹脂40〜80質量%、ABS樹脂10〜30質量%、AS樹脂10〜50質量%であることが好ましい。
【0045】
熱可塑性樹脂組成物中の本発明のグラフト重合体粉体の含有率は、熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、0.5〜20質量部であることが好ましく、1〜15質量部であることがより好ましい。
熱可塑性樹脂組成物中の本発明のグラフト重合体粉体の配合量が0.5質量部以上であると、得られる熱可塑性樹脂組成物の溶融流動性が良好となり、20質量部以下であると、熱可塑性樹脂本来の特性が損なわれない。
【0046】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、物性を損なわない範囲において、必要に応じて、燐系、ブロモ系、シリコーン系、有機金属塩系等の難燃剤;酸化チタン、タルク等の充填剤;顔料、染料、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、補強剤等の添加剤を配合してもよい。
【0047】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造する方法としては、特に制限されるものではないが、本発明のグラフト重合体粉体と熱可塑性樹脂を混合した後に、溶融混練する方法が好ましい。
溶融混練する方法としては、例えば、押出成形機、バンバリーミキサー等を用いる方法が挙げられる。
【0048】
本発明の成形体は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる。
成形方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、プレス成形、カレンダー成形、ブロー成形、発泡成形、押出成形、射出成形が挙げられる。
【0049】
本発明の成形体は、パソコン、プリンター、コピー機等のOA機器;液晶テレビ、DVDプレーヤー等の家電;ラジエーターグリル、ミラーハウジング等の自動車外装材;インパネ等の自動車内装材として有用である。特に、成形加工性や耐熱分解性に優れることから、自動車外装やOA機器等の大型成形部材に有用である。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
尚、実施例中、「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0051】
実施例に示した各物性の評価は、以下に示す方法により実施した。
【0052】
(1)硫黄含有塩化合物量の合計
単量体成分(a)と単量体成分(b)の重合の際に用いた硫黄含有塩化合物量の合計を算出した。
尚、硫黄含有塩化合物量は、用いた単量体成分(a)と単量体成分(b)の合計100gに対するmol数で算出した。
【0053】
(2)アセトンの可溶成分の比率
得られたグラフト重合体粉体1.0gを25℃でアセトン50mlに24時間浸漬し、14,000rpmで30分間遠心分離して、グラフト重合体粉体のアセトンの不溶成分を分離した。分離したアセトンの不溶成分を、真空乾燥機を用いて50℃で乾燥した後、質量を測定した。
下式3によりアセトン可溶分を算出した。
アセトンの可溶成分の比率[%]=(1−[アセトンの不溶成分の質量]/1.0)×100 (式3)
【0054】
(3)質量平均分子量
得られたグラフト重合体粉体を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて質量平均分子量を測定した。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定条件は、下記の通りであり、標準ポリスチレンによる検量線から質量平均分子量を求めた。
装置 :東ソー(株)製「HLC8220」
カラム :東ソー(株)製「TSKgel SuperMultipore HZ−H」(内径4.6mm×長さ150mm×2本)
溶離液 :テトラヒドロフラン
溶離液流量:0.35ml/分
測定温度 :40℃
試料注入量:10μl(試料濃度:0.1%)
【0055】
(4)スパイラル流動長
得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを、射出成形機(機種名「IS−100」、東芝機械(株)製)を用いて、成形温度280℃、速度1.4m/分、圧力98MPa、幅15mm、厚さ2mmのスパイラル金型、金型温度60℃にて成形を行い、熱可塑性樹脂組成物のスパイラル流動長を測定した。
【0056】
(5)色調
得られた成形体の着色を、以下の基準に従って、目視により判断した。
○:着色が確認できない。
×:着色が確認できる。
【0057】
(6)シャルピー衝撃強度
得られた成形体(シャルピー衝撃強度試験用のノッチありの試験片)を、JIS K7111に準拠し、23℃の測定温度でシャルピー衝撃強度を測定した。
【0058】
[実施例1]グラフト重合体(1)粉体の製造
温度計、窒素導入管、冷却管及び攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、脱イオン水210部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1部(商品名「ネオペレックスG−15」、花王(株)製)、n−ブチルアクリレート9.9部、アリルメタクリレート0.1部、n−オクチルメルカプタン0.1部を投入し、窒素気流を通じることによりフラスコ内雰囲気の窒素置換を行い、68℃まで昇温した。次いで、液温が68℃となった時点で、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオナミジン]テトラハイドレート(商品名「VA−057」、和光純薬工業(株)製)0.072部及び脱イオン水9.0部の混合液を添加し、重合を開始させた。その後、内温68℃で60分間保持し、重合体(A1)のラテックスを得た。
得られた重合体(A1)のラテックスに対し、脱イオン水9.0部に溶解させたドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.9部を添加した後、アクリロニトリル27部、スチレン63部、n−オクチルメルカプタン1.8部の混合物を180分間かけて滴下した。その後、内温68℃で120分間保持し、グラフト重合体(1)のラテックスを得た。得られたグラフト重合体(1)のラテックスの固形分は、27.4%であった。
得られたグラフト重合体(1)のラテックスを、回転円盤式噴霧乾燥機(機種名「L−8型スプレードライヤー」、大川原化工機(株)製)を用いて、乾燥用加熱ガスの入口温度140℃及び出口温度65℃で噴霧乾燥してグラフト重合体(1)粉体を得た。得られたグラフト重合体(1)粉体は、アセトンの可溶成分の比率が98%、質量平均分子量が2.5万であった。
【0059】
[実施例2〜3、比較例1〜2]グラフト重合体(2)〜(5)粉体の製造
連鎖移動剤、乳化剤の添加量を表1に示す量とした以外は、実施例1と同様にして、グラフト重合体(2)〜(5)粉体を得た。
【0060】
[比較例3]グラフト重合体(6)粉体の製造
温度計、窒素導入管、冷却管及び攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、脱イオン水290部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.0部を投入し、窒素雰囲気下に水浴中で80℃まで加熱した。次いで、硫酸第一鉄0.0004部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0012部、ロンガリット0.5部を脱イオン水5部に溶かして添加した後、n−ブチルアクリレート9.9部、アリルメタクリレート0.1部、n−オクチルメルカプタン0.1部、t−ブチルヒドロパーオキシド0.05部の混合物を18分かけて滴下した。その後、60分間保持した。
次いで、硫酸第一鉄0.0004部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0012部、ロンガリット0.5部を脱イオン水5部に溶かして添加した後、アクリロニトリル27部、スチレン63部、n−オクチルメルカプタン1.8部、t−ブチルヒドロパーオキシド0.45部の混合物を162分かけて滴下した。その後、120分間保持し、グラフト重合体(6)ラテックスを得た。得られたグラフト重合体(6)ラテックスの固形分は、24.2%であった。
以後、実施例1と同様の操作を行い、グラフト重合体(6)粉体を得た。
【0061】
用いた硫黄含有塩化合物量の合計、得られたグラフト重合体(1)〜(6)粉体のアセトンの可溶成分の比率、質量平均分子量を、表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
尚、表1に記載の略号は、以下の化合物を表す。
BA :ブチルアクリレート
AMA :アリルメタクリレート
AN :アクリロニトリル
St :スチレン
n−OM :n−オクチルメルカプタン
DBSNa :ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
VA−057:「VA−057」(商品名、和光純薬工業(株)製)
t−BH :t−ブチルヒドロパーオキシド
Fe :硫酸第一鉄
EDTA :エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩
SFS :ロンガリット
【0064】
[実施例4〜7、比較例4〜8]
ポリカーボネート樹脂(商品名「ユーピロンS−2000F」、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)、ABS樹脂(商品名「RB」、UMG ABS(株)製)、AS樹脂(商品名「AP−H」、UMG ABS(株)製)及び実施例1〜3、比較例1〜3で得られたグラフト重合体(1)〜(6)粉体を、表2に記載の比率で配合した。得られた配合物を、二軸押出機(機種名「PCM−30」、(株)池貝製)を用いて、シリンダー温度260℃及びスクリュー回転数150rpmで溶融混合して熱可塑性樹脂組成物を得、をペレット状に賦形した。
得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを、80℃で12時間乾燥した後、100t射出成形機(商品名「SE−100DU」、住友重機(株)製)に供給し、シリンダー温度260℃及び金型温度80℃で射出成形を行い、成形体を得た。
【0065】
得られた熱可塑性樹脂組成物のスパイラル流動長及び得られた成形体の色調、シャルピー衝撃強度を、表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
尚、表2に記載の略号は、以下の化合物を表す。
PC :「ユーピロンS−2000F」(商品名、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)
ABS:「RB」(商品名、UMG ABS(株)製)
AS :「AP−H」(商品名、UMG ABS(株)製)
【0068】
表2から明らかなように、本発明のグラフト重合体(1)〜(3)粉体を配合した実施例4〜7において、得られた熱可塑性樹脂組成物は溶融流動性に優れ、得られた成形体の色調、機械特性に優れた。
一方、本発明のグラフト重合体粉体を配合しない比較例4、8において、得られた熱可塑性樹脂組成物は溶融流動性に劣り、得られた成形体の機械特性に劣った。質量平均分子量が本発明の範囲より大きいグラフト重合体(4)粉体を配合した比較例5において、得られた熱可塑性樹脂組成物は溶融流動性に劣り、得られた成形体の機械特性に劣った。質量平均分子量が本発明の範囲より大きく、アセトンの可溶成分の比率が本発明の範囲より小さいグラフト重合体(5)粉体を配合した比較例6において、得られた熱可塑性樹脂組成物は溶融流動性に劣り、得られた成形体の機械特性に劣った。硫黄含有塩化合物の量が本発明の範囲より多いグラフト重合体(6)粉体を配合した比較例7において、得られた熱可塑性樹脂組成物の溶融流動性はポリカーボネート樹脂が分解したため優れたものの、得られた成形体の色調、機械特性に劣った。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の成形体は、パソコン、プリンター、コピー機等のOA機器;液晶テレビ、DVDプレーヤー等の家電;ラジエーターグリル、ミラーハウジング等の自動車外装材;インパネ等の自動車内装材として有用である。特に、成形加工性や耐熱分解性に優れることから、自動車外装やOA機器等の大型成形部材に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル基の炭素数が2以上のアルキル(メタ)アクリレート(a1)を主成分とする単量体成分(a)を重合して得られた重合体(A)ラテックスの存在下で、シアン化ビニル単量体(b1)及び芳香族ビニル単量体(b2)を含む単量体成分(b)を重合し、得られたグラフト重合体ラテックスを噴霧乾燥するグラフト重合体粉体の製造方法であって、
単量体成分(a)と単量体成分(b)の重合に用いる硫黄含有塩化合物量の合計が、用いる単量体成分(a)と単量体成分(b)の合計100gに対して、0.0080mol以下であり、グラフト重合体粉体のアセトンの可溶成分の比率が90質量%以上であり、グラフト重合体粉体のテトラヒドロフランの可溶成分の質量平均分子量が5,000〜100,000である、グラフト重合体粉体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法により得られるグラフト重合体粉体と熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形体。

【公開番号】特開2011−122016(P2011−122016A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279281(P2009−279281)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】