説明

グリシジルフタルイミドの製造法

【課題】グリシジルフタルイミド又はその光学活性体の製造法の提供。
【解決手段】フタルイミドのアルカリ金属塩とエピハロヒドリン又はその光学活性体をアルコール溶媒中で反応させるか;あるいはフタルイミドとエピハロヒドリン又はその光学活性体を有機溶媒中で、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩又は第4級アンモニウム塩の存在下、反応させ、N-(3-ハロ-2-ヒドロキシプロピル)フタルイミドを得、次いで、アルカリ金属アルコキシドにより環化反応を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品や農薬、生理活性物質の合成中間体として重要なグリシジルフタルイミド、殊にグリシジルフタルイミドの光学活性体の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリシジルフタルイミド、殊にグリシジルフタルイミドの光学活性体は、各種光学活性な医薬品製造において重要な合成中間体としての利用が見込まれる。
一般に光学活性な医薬品およびその中間体には98%ee以上の光学純度が求められている。従って、グリシジルフタルイミドの光学活性体を高い光学純度でかつ容易に製造する方法の確立が重要な課題である。
これまでに、グリシジルフタルイミドのラセミ体の一般的な製造手法として、フタルイミドカリウムをエピクロロヒドリンのラセミ体溶媒中で還流させる方法(非特許文献1参照)や、DMF溶媒中、フタルイミドカリウムとエピクロロヒドリンのラセミ体を等量ずつ用いて反応させる方法(非特許文献2参照)などが開発されている。更に、ヨウ化テトラn−ブチルアンモニウムおよび炭酸カリウム存在下、フタルイミドとエピクロロヒドリンを反応させる際にマイクロ波オーブンを用いられることを特徴とする製造法(非特許文献3参照)も開発されている。
一方、グリシジルフタルイミドの光学活性体の製造方法としては、フタルイミドを光学活性なエピクロロヒドリン溶媒中で還流することによって光学活性なN-(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)フタルイミドを得て、これを単離精製し、更にテトラヒドロフラン溶媒中、水素化ナトリウムを加えて環化させる方法(例えば、特許文献1参照)が報告されている。また、(S)−グリシジルフタルイミドについて、特許文献2に開示はあるものの、その具体的製法が示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5608110号明細書
【特許文献2】国際公開第99/24393号パンフレット
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Yoshihito HAYASHI等著 ジャーナル オブ ザ アメリカン ケミカル ソサイエティ(J.Am.Chem.Soc.)117巻,p11220-11229(1995年)
【非特許文献2】Maryam ZAKERINIA等著 ヘルベチカ キミカ アクタ(Helv.Chim.Acta)73巻,p912-915(1990年)
【非特許文献3】Dariusz Bogdal等著 シンレット(Synlett),p873-874(1996年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のラセミ体合成の手法を用いて、フタルイミドカリウムと溶媒量のエピハロヒドリンの光学活性体を還流させる(非特許文献1)と、エピハロヒドリンの光学純度が低下し、その結果グリシジルフタルイミドの光学純度が低下する。またDMF溶媒中、エピクロロヒドリンの光学活性体(99%ee)とフタルイミドカリウムを反応させるとラセミ化が進行するため、得られたグリシジルフタルイミドの光学活性体の光学純度(63%ee)は満足できるものではない(比較例1参照)。
一方、フタルイミドを用いてマイクロ波オーブン中で反応させる手法(非特許文献3)は、満足できる収率(50%)で得られていない。
エピクロロヒドリンの光学活性体とフタルイミドを還流下で反応させる手法(例えば、特許文献1参照)では、中間体のN-(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)フタルイミドを単離精製する必要があるのみならず、その収率およびグリシジルフタルイミドの収率も低く、満足できるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、アルコール溶媒存在下、エピクロロヒドリンの光学活性体とフタルイミドのアルカリ金属塩を反応させることにより、グリシジルフタルイミドの光学活性体が高収率、かつ高光学純度で得られることを見出した。また、同様にして、エピクロロヒドリンのラセミ体とフタルイミドのアルカリ金属塩を反応させることにより、グリシジルフタルイミドのラセミ体を簡便に収率良く得ることができることも判明した。
また、フタルイミドとエピハロヒドリンを有機溶媒中で、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩または4級アンモニウム塩の存在下反応させ、得られるN-(3-ハロ-2-ヒドロキシプロピル)フタルイミドに金属アルコキシドを用いて閉環させることにより、グリシジルフタルイミドのラセミ体または光学活性体を簡便に収率良く、そして光学活性体においては高光学純度で得ることができることも判明した。
【0007】
即ち、本発明は、下記式(1)
【化1】

で表わされるグリシジルフタルイミドの製造法において、
下記式(2)
【化2】

(式中、Mはアルカリ金属原子を表す。)
で表されるフタルイミドのアルカリ金属塩と、下記式(3)
【化3】

(式中、Xはハロゲン原子を表す。)
で表されるエピハロヒドリンをアルコール溶媒中で反応させるか;あるいは
フタルイミドとエピハロヒドリン(3)を有機溶媒中で、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩または下記式(4)
1234+- (4)
(式中、R、R、RおよびRは互いに異なっていてもよい炭素数1〜16のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基またはアリール基を表し、そしてXは塩素イオン、臭素イオン、よう素イオン、硫酸水素イオンまたは水酸イオンを表す。)
で表される第4級アンモニウム塩の存在下、反応させ、下記式(5)
【化4】

(式中、Xは前掲と同じ。)
で表されるN-(3-ハロ-2-ヒドロキシプロピル)フタルイミドを得、次いで、アルカリ金属アルコキシドにより環化反応させることを特徴とする該グリシジルフタルイミド(1)の製造法に関する。
【0008】
本発明は、またフタルイミドのアルカリ金属塩(2)とエピハロヒドリン(3)をアルコール溶媒中で反応させることを特徴とするグリシジルフタルイミド(1)の製造法に関する(以下この発明を便宜上、方法Aに関する発明と略記する。)。
本発明は、特にフタルイミドのアルカリ金属塩(2)に対して、エピハロヒドリン(3)の光学活性体をアルコール溶媒中で反応させることを特徴とするグリシジルフタルイミド(1)の光学活性体の製造法に関する。
【0009】
本発明は、また方法Aにおいて、第4級アンモニウム塩(4)を添加することを特徴とするグリシジルフタルイミド(1)またはその光学活性体の製造法にも関する。
【0010】
本発明は、またフタルイミドとエピハロヒドリン(3)を有機溶媒中で、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩または第4級アンモニウム塩(4)の存在下、反応させ、N-(3-ハロ-2-ヒドロキシプロピル)フタルイミド(5)を得、次いで、アルカリ金属アルコキシドにより環化反応を行うことを特徴とするグリシジルフタルイミド(1)の製造法にも関する(以下この発明を便宜上、方法Bに関する発明と略記する。)。
また、本発明は、上記方法Bの第一のステップにより得られるN-(3-ハロ-2-ヒドロキシプロピル)フタルイミド(5)を単離することなく、反応系にアルカリ金属アルコキシドを加えて、いわゆるワンポットで第二のステップである環化反応を行うことを特徴とする、グリシジルフタルイミド(1)の製造法に関する。
【0011】
更に、本発明は、有機溶媒中において、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩または第4級アンモニウム塩(4)の存在下、フタルイミドとエピハロヒドリン(3)とを縮合反応させることを特徴とするN-(3-ハロ-2-ヒドロキシプロピル)フタルイミド(5)の製造法にも関する。
【0012】
本発明は、特に方法Bにおいて、エピハロヒドリン(3)が光学活性体であること、あるいは光学活性なエピハロヒドリンがエピクロロヒドリンであることを特徴とするグリシジルフタルイミド(1)の光学活性体の製造法に関する。更には、これらの光学活性なエピハロヒドリンを用いるN-(3-ハロ-2-ヒドロキシプロピル)フタルイミド(5)の光学活性体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、グリシジルフタルイミド、特にその光学活性体を高収率、高光学純度で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
方法(A)で用いられるフタルイミドのアルカリ金属塩(2)は、イミドの窒素原子にアルカリ金属原子が結合したものであり、フタルイミドナトリウム、フタルイミドカリウム、フタルイミドセシウムなどが挙げられるが、フタルイミドカリウムが望ましい。
方法(A)で用いられるエピハロヒドリン(3)としては、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンおよびエピヨードヒドリン、特にそれらの光学活性体が挙げられるが、特に好ましくはエピクロロヒドリンの光学活性体である。
エピハロヒドリンの使用量は、フタルイミドのアルカリ金属塩(2)に対して1〜4当量であり、好ましくは2〜3当量である。
方法(A)で用いられるアルコール溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノールなどの1級アルコール類、イソプロパノール、2−ブタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−ヘキサノール、シクロヘキサノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノールなどの2級アルコール類や、tert−ブタノール、tert−ペンタノールなどの3級アルコール類などが挙げられるが、好ましくは2級および3級アルコール類であり、更に好ましくはイソプロパノール、2−ブタノールおよびtert−ブタノールである。
アルコール溶媒の使用量は、フタルイミドのアルカリ金属塩(2)に対して2〜20倍(w/w)が適量である。
【0015】
方法(A)で用いられる第4級アンモニウム塩(4)の具体例としては、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化ジアリルジメチルアンモニウム、臭化ベンジルトリメチルアンモニウム、臭化n−オクチルトリメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化セチルジメチルエチルアンモニウム、よう化テトラn−ブチルアンモニウム、よう化β−メチルコリン、硫酸水素テトラ−n−ブチルアンモニウムおよびフェニルトリメチルアンモニウムヒドロキシドなどが挙げられるが、これらに限定されない。
方法(A)の反応は、第4級アンモニウム塩(4)を添加することにより反応が加速され、目的物のグリシジルフタルイミド(1)あるいはその光学活性体の収率を向上させることができる。
第4級アンモニウム塩(4)の量は、フタルイミドのアルカリ金属塩(2)に対して触媒量でよく、0.005〜0.1当量が好ましい。
【0016】
方法(A)の反応温度は−10〜60℃が好ましく、更に好ましくは0〜30℃である。−10℃未満では反応が抑制されるので適切ではない。また、反応温度が60℃を超えると、副反応が進行して収率低下の原因となったり、使用されるエピハロヒドリンが光学活性体の場合、エピハロヒドリンの光学活性体のラセミ化が進行して、得られるグリシジルフタルイミド(1)の光学活性体の光学純度が低下するなど、好ましくない。
方法(A)に関する発明の利点は、反応終了後にアルコール溶媒を留去し、抽出溶媒を加えて水洗するという、非常に簡便な操作で目的のグリシジルフタルイミド(1)、殊にその光学活性体が高収率で、かつ高光学純度で得られることにある。抽出溶媒としては、目的物(1)が溶解する非水溶性有機溶媒であれば特に限定されず、酢酸メチル、酢酸エチルなどの酢酸エステルや、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒などが挙げられる。必要であれば、晶析およびカラムクロマトグラフィーなどの精製を行ってもよい。
【0017】
次に方法(B)について説明する。
方法(B)で用いられる式(3)で表されるエピハロヒドリンの具体例としては、発明方法Aで用いられるものと同じである。エピハロヒドリン(3)の使用量は、フタルイミドに対して好ましくは1〜3当量であり、より好ましくは1〜2当量である。
【0018】
方法(B)で用いられるアルカリ金属炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、および炭酸セシウムなどが挙げられ、アルカリ炭酸水素塩としては、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、および炭酸水素セシウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸水素塩は、含水物または無水物のどちらを用いてもよいが、グリシジルフタルイミド(1)の光学活性体が所望であれば、無水物が好ましい。
アルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属炭酸水素塩の量は、フタルイミドに対して化学量論量または触媒量のどちらでもよく、0.01〜3当量が好ましい。
方法Bで用いられる第4級アンモニウム塩(4)の具体例としては、発明方法Aで用いられるものと同じである。
第4級アンモニウム塩(4)の量は、フタルイミドに対して触媒量でよく、0.005〜0.1当量が好ましい。第4級アンモニウム塩(4)を上記アルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属炭酸水素塩と併用することにより、本反応(B)がより促進され、より高収率で目的物(1)を得ることができる。
【0019】
方法(B)で用いられる有機溶媒は、フタルイミドやエピハロヒドリン(3)と反応するもの(アミン類、カルボン酸類、グリシジル基)以外であれば特に限定されないが、グリシジルフタルイミド(1)の光学活性体が所望であれば、アルコール類、エーテル類またはこれらの混合溶媒が好ましく用いられる。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノールなどの1級アルコール類、イソプロパノール、2-ブタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-ヘキサノール、シクロヘキサノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノールなどの2級アルコール類や、tert-ブタノール、tert-ペンタノールなどの3級アルコール類などが挙げられるが、好ましくはメタノール、イソプロパノール、およびtert-ブタノールである。一方、エーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)などが挙げられるが、好ましくはTHFおよび1,4-ジオキサンである。
【0020】
溶媒の混合比については特に限定されない。溶媒の量は、フタルイミドに対して2〜20倍(w/w)が好ましい。
【0021】
方法(B)の第二ステップで用いられるアルカリ金属アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムn-プロポキシド、カリウムn-プロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムイソプロポキシド、ナトリウムn-ブトキシド、カリウムn-ブトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、カリウムtert-ブトキシド、ナトリウムtert-アミラート、カリウムtert-アミラート、ナトリウムn-ヘキシラート、およびカリウムn-ヘキシラートなどが好ましく挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
アルカリ金属アルコキシドは、フタルイミドとエピハロヒドリン(3)との縮合反応が完結してN-(3-ハロ-2-ヒドロキシプロピル)フタルイミド(5)得られてから添加される。フタルイミドとエピハロヒドリン(3)との縮合反応時にアルカリ金属アルコキシドを添加すると、副生成物の増加により目的物の収率が低下し、特に光学活性体が所望の場合は光学純度が低下する(比較例5参照)。アルカリ金属アルコキシド添加方法は、そのまま数回に分けて加える方法や、本反応で使用するアルコール系またはエーテル系に溶解させてからゆっくりと加える方法などが挙げられる。
方法(B)の反応温度は−10〜60℃が好ましく、更に好ましくは0〜50℃である。
【0023】
アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩または第4級アンモニウム塩(4)の存在下、有機溶媒中で、好ましくはアルコール系またはエーテル溶媒中でフタルイミドとエピハロヒドリン(3)またはその光学活性体とを反応させ、生成物を晶析または、カラムクロマトグラフィー等の手段により単離精製することによってN-(3-ハロ-2-ヒドロキシプロピル)フタルイミド(5)を高収率またはその光学活性体を高収率、高光学純度で得ることができる。従って、この化合物(5)は、グリシジルフタルイミドおよび他の有用な物質の中間製造原料として極めて重要である。
【0024】
方法(B)に関する発明の第一の利点は、比較的安価な原料を安価な溶媒中で反応を行うことができ、反応終了後は溶媒を留去した後に抽出溶媒を加えて水洗するという、非常に簡便な後処理操作で目的のグリシジルフタルイミド(1)、殊にその光学活性体が高純度かつ高光学純度で得ることができることである。この場合、抽出溶媒としては、目的物(1)が溶解する非水溶性有機溶媒であれば特に限定されず、酢酸メチル、酢酸エチルなどの酢酸エステルや、塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒などを用いることができ、必要に応じ、晶析およびカラムクロマトグラフィーなどの精製を行うことができる。
また、第二の利点として、フタルイミドとエピハロヒドリン(3)またはその光学活性体を反応させることによって得られるN-(3-ハロ-2-ヒドロキシプロピル)フタルイミド(5)またはその光学活性体の単離精製を行わずに、そのままアルカリ金属アルコキシドを加えることによって目的のグリシジルフタルイミド(1)またはその光学活性体を得ることができる点にある。
【実施例】
【0025】
以下の実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0026】
実施例1
反応槽にフタルイミドカリウム50.0g(0.27mol)、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム5.00g(0.027mol)、イソプロパノール(500mL)を入れて10℃に冷却した後に(R)−エピクロロヒドリン74.9g(0.81mol)を加えた。冷却したまま46時間撹拌を行った後、溶媒を留去し、濃縮残渣に酢酸エチル250mLを加え、水250mLで洗浄した。酢酸エチルを留去後、(R)−グリシジルフタルイミドの粗体(光学純度97%ee)を得、更に酢酸エチル−ヘキサンより晶析することによって目的の(R)−グリシジルフタルイミド45.6g(収率83%、光学純度98%ee)を白色結晶として得た。
融点 100−102℃
比旋光度 [α]D25 −9.7°(c2.0,CHCl3
1HNMR(CDCl3,270MHz)δ2.70(dd,1H),2.81(dd,1H),3.21−3.28(m,1H),3.81(dd,1H),3.97(dd,1H),7.27−7.91(m,4H)
【0027】
なお、光学純度(%ee)は高速液体クロマトグラフィー法を用い、そのエリア比より算出した。その条件を以下に示す。
カラム:ダイセル化学工業(株)製 CHIRALPAC AD(0.46cmφ×25cmL)
移動相:n−ヘキサン/イソプロパノール(90/10(v/v))
流速:1.0mL/min.
検出器:UV220nm
保持時間:(S)体=17.9分、(R)体=25.5分
【0028】
実施例2
反応槽にフタルイミドカリウム5.00g(27.0mmol)、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム0.50g(2.70mmol)、tert−ブチルアルコール(50mL)を入れた後に(S)−エピクロロヒドリン6.53g(54.0mmol)を加えた。20℃で24時間撹拌を行った後、溶媒を留去し、濃縮残渣に酢酸エチル30mLを加え、水20mLで洗浄した。酢酸エチルを留去することによって目的の(S)−グリシジルフタルイミドの粗体(定量値3.95g、収率72%、光学純度97%ee)を白色固体として得た。
【0029】
実施例3
反応槽にフタルイミドカリウム5.00g(27.0mmol)、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム0.50g(2.70mmol)、メタノール(50mL)を入れた後に(R)−エピクロロヒドリン9.99g(81.0mmol)を加えた。20℃で15時間撹拌を行った後、溶媒を留去し、濃縮残渣に酢酸エチル30mLを加え、水20mLで洗浄した。酢酸エチルを留去することによって目的の(R)−グリシジルフタルイミドの粗体(定量値3.74g、収率68%、光学純度99%ee)を白色固体として得た。
【0030】
比較例1
反応槽にフタルイミドカリウム5.00g(27.0mmol)、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム0.50g(2.70mmol)、DMF(50mL)を入れた後に(R)−エピクロロヒドリン5.00g(54.0mmol)を加えた。室温で16時間撹拌を行った後、溶媒を留去し、濃縮残渣に酢酸エチル30mLを加え、水20mLで洗浄した。酢酸エチルを留去することによって目的の(R)−グリシジルフタルイミドの粗体(定量値4.48g、収率82%、光学純度63%ee)を白色固体として得た。
以下に比較例1と同様な反応において、種々の溶媒を用いたときの比較例を示す。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例4
反応槽にフタルイミド200.0g(1.36mol)、(S)−エピクロロヒドリン226.4g(2.45mol)、無水炭酸ナトリウム14.40g(0.136mol)、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム25.24g(0.136mol)、およびイソプロパノール1.2Lを入れて25℃で、22時間反応させることによってN-(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)フタルイミドの粗体溶液を得た。温度を15℃まで冷却した後、カリウムtert-ブトキシド183.0g(1.63mol)とイソプロパノール0.8Lの混合溶液を2時間かけて滴下し、そのままの温度で更に2時間攪拌した。溶媒の留去後、濃縮残渣に酢酸エチル1.3Lを加え、水0.65Lで洗浄した。酢酸エチルの留去後、(S)−グリシジルフタルイミドの粗体を得、更に酢酸エチル−ヘキサンより晶析することによって目的の(S)−グリシジルフタルイミド206.3g(収率75%、化学純度99%、光学純度98%ee)を白色結晶として得た。
(S)−グリシジルフタルイミド
融点 99−101℃
比旋光度 [α]25 +11.0°(c2.0,CHCl
【0033】
N-(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)フタルイミド
HNMR(CDCl,270MHz)δ2.83(d,1H),3.58−3.73(m,2H),3.85−4.01(m,2H),4.13−4.21(m,1H),7.73−7.89(m,4H)
【0034】
実施例5
反応槽にフタルイミド2.00g(13.6mmol)、(R)−エピクロロヒドリン2.52g(27.2mmol)、無水炭酸ナトリウム144mg(1.36mmol)、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム252mg(1.36mol)、およびイソプロパノール13mLを入れて室温下、15時間反応を行った。未反応エピクロロヒドリンの留去後、イソプロパノール13mLを加えて20℃に冷却した。カリウムtert-ブトキシド1.83g(16.3mmol)とイソプロパノール7mLの混合溶液をゆっくり滴下し、20℃で1時間攪拌した。溶媒を留去し、濃縮残渣に酢酸エチル13mLを加え、水7mLで洗浄した。酢酸エチルを留去することによって目的の(R)−グリシジルフタルイミドの粗体(定量値2.16g、収率78%、光学純度98%ee)を白色結晶として得た。
以下に実施例5と同様な反応操作において、種々の有機溶媒、塩化ベンジルトリメチルアンモニウムと共にアルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属炭酸水素塩を用いた際の実施例を示す。
【0035】
【表2】

なお、実施例13では、塩化ベンジルトリメチルアンモニウムのみを用いた。アルカリ金属アルコキシドの添加方法としては、実施例7では、ナトリウムメトキシド(28%メタノール溶液)を滴下し、実施例8ではカリウムtert-ブトキシドをそのまま数回に分けて添加した。
【0036】
実施例14
反応槽にフタルイミド2.00g(13.6mmol)、(R)−エピクロロヒドリン2.26g(24.5mmol)、無水炭酸ナトリウム0.72g(6.80mmol)、硫酸水素テトラ−n−ブチルアンモニウム0.46g(1.36mol)、およびイソプロパノール13mLを入れて50℃、23時間反応を行った後、カリウムtert-ブトキシド1.83g(16.3mmol)のイソプロパノール溶液をゆっくり滴下し、20℃で1時間攪拌した。反応終了後、後処理をすることによって目的の(R)−グリシジルフタルイミドの粗体(定量値2.21g、収率80%、光学純度98%ee)を白色結晶として得た。
【0037】
比較例5
反応槽にフタルイミド2.00g(13.6mmol)、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム252mg(1.36mol)、およびイソプロパノール25mLを入れて氷冷した後、カリウムtert-ブトキシド3.05g(27.2mmol)を数回に分けて加え、更に(R)−エピクロロヒドリン2.52g(27.2mmol)を加えて室温下、26時間反応を行った。反応終了後、後処理をすることにより目的の(R)−グリシジルフタルイミドの粗体(定量値0.45g、収率17%、光学純度96%ee)を黄色高粘性体として得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式
【化1】

で表わされるグリシジルフタルイミドの製造法において、
第一のステップとして、フタルイミドと下記式(3)
【化2】

(式中、Xはハロゲン原子を表す。)
で表されるエピハロヒドリンを有機溶媒中で、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩または下記式(4)
1234+- (4)
(式中、R1、R2、R3およびR4は互いに異なっていてもよい炭素数1〜16のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基またはアリール基を表し、そしてX-は塩素イオン、臭素イオン、よう素イオン、硫酸水素イオンまたは水酸イオンを表す。)
で表される第4級アンモニウム塩の存在下、反応させ、下記式(5)
【化3】

(式中、Xはハロゲン原子を表す。)
で表されるN-(3-ハロ-2-ヒドロキシプロピル)フタルイミドを得、第二のステップとして、アルカリ金属アルコキシドにより環化反応させることを特徴とする該グリシジルフタルイミド(1)の製造法。
【請求項2】
第一のステップおよび第二のステップをワンポットにて行うことを特徴とする請求項1に記載のグリシジルフタルイミドの製造法。
【請求項3】
エピハロヒドリンが光学活性体である請求項1または2に記載のグリシジルフタルイミドの光学活性体の製造法。
【請求項4】
エピハロヒドリンまたはエピハロヒドリンの光学活性体のハロゲンが塩素である請求項1〜3のいずれかに記載のグリシジルフタルイミドまたはその光学活性体の製造法。
【請求項5】
有機溶媒がアルコール系またはエーテル系溶媒である請求項1〜4のいずれかに記載のグリシジルフタルイミドまたはその光学活性体の製造法。
【請求項6】
アルコール系溶媒がメタノール、イソプロパノールまたはtert-ブタノールであり、エーテル系溶媒がテトラヒドロフランまたは1,4-ジオキサンである請求項5に記載のグリシジルフタルイミドまたはその光学活性体の製造法。
【請求項7】
フタルイミドと下記式(3)
【化4】

(式中、Xはハロゲン原子を表す。)
で表されるエピハロヒドリンを有機溶媒中で、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩または下記式(4)
1234+- (4)
(式中、R1、R2、R3およびR4は互いに異なっていてもよい炭素数1〜16のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基またはアリール基を表し、そしてX-は塩素イオン、臭素イオン、よう素イオン、硫酸水素イオンまたは水酸イオンを表す。)
で表される第4級アンモニウム塩の存在下、反応させることを特徴とする下記式(5)
【化5】

(式中、Xはハロゲン原子を表す。)
で表されるN-(3-ハロ-2-ヒドロキシプロピル)フタルイミドの製造法。
【請求項8】
エピハロヒドリンが光学活性体である請求項7に記載のN-(3-ハロ-2-ヒドロキシプロピル)フタルイミドの光学活性体の製造法。
【請求項9】
エピハロヒドリンまたはエピハロヒドリンの光学活性体のハロゲンが塩素である請求項7または8に記載のN-(3-ハロ-2-ヒドロキシプロピル)フタルイミドまたはその光学活性体の製造法。
【請求項10】
有機溶媒がアルコール系またはエーテル系溶媒である請求項7〜9のいずれかに記載のN-(3-ハロ-2-ヒドロキシプロピル)フタルイミドまたはその光学活性体の製造法。
【請求項11】
アルコール系溶媒がメタノール、イソプロパノールまたはtert-ブタノールであり、エーテル系溶媒がテトラヒドロフランまたは1,4-ジオキサンである請求項10に記載のN-(3-ハロ-2-ヒドロキシプロピル)フタルイミドまたはその光学活性体の製造法。

【公開番号】特開2009−185047(P2009−185047A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92130(P2009−92130)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【分割の表示】特願2003−331875(P2003−331875)の分割
【原出願日】平成15年9月24日(2003.9.24)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】