説明

グリース調合物

増粘剤およびフィッシャー・トロプシュ誘導基油、特に重質または超重質基油を含有する、グリース調合物。フィッシャー・トロプシュ油の使用は、増粘剤濃度の増大、および耐摩耗性および銅腐蝕性能などの改善された特性をもたらす。その耐摩耗性および/または銅腐蝕性能を改善し、および/または調合物中の添加剤濃度を低下させる目的での、グリース調合物中におけるフィッシャー・トロプシュ誘導基油の使用もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグリース調合物およびそれらの調製、およびグリース調合物中での特定タイプの基油の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
好適な基油中に例えば石鹸などの増粘剤を混合することで、工業用および自動車用グリース調合物を調製することが知られている。この目的で使用される油は、典型的に、通常は油ベースの潤滑剤中で使用されるのと同一タイプの鉱物由来基油である傾向がある。
【0003】
その意図される用途次第で、グリース調合物の特性は、注意深く目的に合わせ、当該規格および/または消費者の要求を満たす必要がある。例えばそれは好適な粘稠度を有する必要がある。理想的には、それは良好な機械的安定度および油分離を示すべきである。良好な酸化安定性および低温流れ特性もまた望ましく、良好な耐摩耗性能についても同様である。
【0004】
典型的な鉱物油ベースのグリース調合物中で、所望特性の全てを達成するのは困難なことが多い。このような場合、その性能を改変するように1つ以上の添加剤を調合物中に含める必要がある。しかし添加剤の包含は、調合物の製造コストを顕著に増大させる。したがって特定の所望特性を有するが、添加剤レベルが目下これらの特性の達成に要するよりもさらに低いグリース調合物を提供することが、望ましいであろう。
【0005】
鉱物由来基油の他に、今やフィッシャー・トロプシュ縮合法を通じて基油を調製することもまた知られている。この方法は適切な触媒の存在下、典型的に高温(例えば125〜300℃、好ましくは175〜250℃)および/または高圧(例えば5〜100バール、好ましくは12〜50バール)下で、一酸化炭素および水素を通常パラフィン系炭化水素である、より長い鎖に転化する反応である。必要に応じて2:1以外の水素:一酸化炭素比を用いてもよい。
【0006】
フィッシャー・トロプシュ法は、LPG、ナフサ、灯油および軽油留分をはじめとする様々な炭化水素燃料を調製するのに使用できる。水素化処理および真空蒸留に続いて、より重い留分は異なる蒸留特性および粘度を有する一連の基油を生成でき、それは潤滑基油原液として有用である。
【0007】
真空カラムから潤滑基油カットを回収した後に残るより高分子量のいわゆる「缶出液」生成物は、典型的に潤滑基油それ自体として使用するのに不適であると見なされるより低分子量の生成物への転化のために、水素化分解ユニットに通常再循環される。この生成物は、「超重質」基油カットとして知られることが多い。
【0008】
フィッシャー・トロプシュ誘導基油は、例えば低流動点などの優れた低温特性、および比較的良好な酸化安定性を有する傾向がある。それらはまた、鉱物油原料から調製される同様の油に比べて、それらの作製に使用される比較的単純な工程のために魅力的である。しかしそれらはまた、それらを調製するのに使用される触媒工程の結果として、比較的低い極性も有する。これは次にそれらに、グリース調合物中に含有される高極性増粘剤(例えば石鹸)に対する比較的低い親和性(溶解力)を与え、これは適切な粘稠度または剛性(浸透性)を達成するために、それらのグリース調合物中への包含に、比較的高い増粘剤濃度の使用が必要になることを意味する。高い増粘剤濃度は、付随する原料コスト増大のために望ましくないと見なされる傾向がある。また一般に、グリース調合物中の高すぎる増粘剤含量は、特により低い温度で調合物を汲み上げる際に、問題を引き起こすことがあると考えられる。したがって増粘剤濃度を増大させるよりも、低下させることが望ましいと考えられる。
【0009】
相応に増大する増粘剤レベルのフィッシャー・トロプシュ誘導基油をグリース調合物中で使用した場合、全体的調合物の特性および性能に、特に耐摩耗性能に改善をもたらすことができることが今や意外にも分かった。これらの改善は、多くの場合より高い増粘剤含量の潜在的不都合を補って余りあることができる。
【0010】
その他の比較的低極性の基油は、従来のグリース調合物中で使用されているが、それらの不都合がないわけではない。例えば合成ポリα−オレフィン(PAO)は時にグリース基剤として使用されるが、それらの高コストのために特別な用途のみに対して好適である。高度に精製され化学処理された鉱物油であるいわゆる「XHVI」(超高粘度指数)油もまた、時折グリース調合物中で使用されるが、これらの油は低粘度でのみ入手でき、ここでもまたそれらの潜在用途は限定される。
【0011】
したがって上述の問題を克服または少なくとも軽減でき、理想的には全体的性能における1つ以上の改善から恩恵を受けるグリース調合物を提供することが望ましいであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様に従って、増粘剤およびフィッシャー・トロプシュ誘導基油を含有するグリース調合物が提供され、フィッシャー・トロプシュ誘導基油は100℃で8〜30mm/sの動粘度を有する。
【0013】
グリース調合物中でのフィッシャー・トロプシュ誘導基油の使用は、予測されたように、所定の粘稠度を達成するために、その代わりに鉱物基油を使用した場合に要するであろうよりも多量の増粘剤を必要とする。これは上述したように、フィッシャー・トロプシュ誘導油の比較的低い極性のためである。それにもかかわらずフィッシャー・トロプシュ誘導基油の包含は、そしてその結果としてより高い増粘剤濃度は、調合物に顕著な利点を与えることが分かった。特にそれは調合物の耐摩耗特性を改善し、場合によっては、その銅腐蝕性能を改善し、ならびに粘稠度を高めて、酸化安定性、低温流れ性能、機械的安定度、および油分離を改善することが分かった。増大する増粘剤濃度およびフィッシャー・トロプシュ誘導基油は、総体的グリース調合物中の顕著に改善された特性に一緒に寄与できるようであり、その改善はより高い増粘剤濃度に付随するコスト増大を少なくとも部分的に相殺できる。
【0014】
これらの改善は、次に耐摩耗添加剤、銅腐蝕防止剤、粘度調整剤、抗酸化剤、極圧添加剤、摩擦調節剤、防錆剤、および低温流れ添加剤などの性能向上添加剤のより低レベルの使用を可能にし、したがって製造コストを低下させる。場合によっては、本発明に係るグリース調合物は、このような添加剤を全く含まなくてもよい。さらにこのような基油はそれらの鉱物由来対応物よりもさらに安価に製造される傾向があるので、フィッシャー・トロプシュ誘導基油の使用それ自体が、製造コストを低下させる役割を果たすことができる。
【0015】
フィッシャー・トロプシュ誘導油はまた、鉱物油来のものよりも易生分解性であり、高純度であることが知られている。それらは鉱物由来基油の「よりクリーンな」代替物を提供でき、その結果、環境に敏感な分野での、または例えば食品、化粧品または医薬品などのデリケートな消費者製品を取り扱う機械類での使用が意図されるグリース調合物中への包含により適するかもしれない。これは特に本発明に従って実現可能であるような、皆無または極低レベルの添加剤を含有するグリース調合物に当てはまる可能性が高い。
【0016】
概括的には、本発明に係るグリース調合物中で使用されるフィッシャー・トロプシュ誘導基油は、100℃(VK 100)においてASTM D−445による測定で、5〜30または5〜25または5〜20mm/sの動粘度を有してもよい。
【0017】
フィッシャー・トロプシュ誘導基油は、好適には重質基油であり、この用語は「超重質」基油として知られている油を含む。超重質基油の場合、それは例えば8または9または10〜30mm/sのVK 100を有してもよい。
【0018】
上述のその他の有利な特性を伴うこのような高粘度を有する基油は、フィッシャー・トロプシュ法を使用して達成可能であるが、一般に鉱物油原料からは可能でない。しかしそれらは合成高粘度代替物ポリα−オレフィンよりもはるかに安価に製造され、より容易に入手できる。
【0019】
フィッシャー・トロプシュ誘導重質基油は、より低粘度の鉱物基油よりもさらに良好な低温挙動を示す傾向がある。それらはまた、それらの鉱物由来対応物との比較で、そして重質および超重質基油の代替品として時に使用される高粘度合成ポリマーであるポリα−オレフィンとの比較でさえも、優れた粘度指数(粘度の温度依存性の尺度を提供する)も有する傾向がある。したがってそれらはいわゆる「ブライトストック」(高粘度鉱物基油)留分またはその他の粘度調整剤を調合する必要なしに、本発明に従ってグリース調合物の粘度を高めるのに使用できる。
【0020】
目下、フィッシャー・トロプシュ誘導超重質基油に匹敵する粘度を有する鉱物由来基油は存在しない。したがって本発明に係る、グリース調合物中におけるこのようなフィッシャー・トロプシュ誘導基油の使用によって、独自のグリース特性、特に上述されて下の実施例で実証される有利な特性が、達成できるようになるかもしれない。
【0021】
フィッシャー・トロプシュ誘導基油は好適には、例えば370〜450℃または380〜445℃など、360〜460℃の初留点(ASTM D−2887)を有する。それは好適には、例えば560〜760℃または570〜750℃など、550〜770℃の最終沸点(ASTM D−2887)を有する。
【0022】
それは好適には、例えば0.81〜0.85g/mlまたは0.82〜0.84mg/mlなど、0.80〜0.86g/mlの密度(IP 365/97)を有する。
【0023】
本文脈では、「フィッシャー・トロプシュ誘導」という用語は、材料が、典型的にはフィッシャー・トロプシュ誘導ワックスである、フィッシャー・トロプシュ縮合法の合成生成物であり、またはそれから誘導されることを意味する。「非フィッシャー・トロプシュ誘導」という用語は、それに応じて解釈されてもよい。したがってフィッシャー・トロプシュ誘導油は、添加水素を除くその大部分が、直接または間接的にフィッシャー・トロプシュ縮合法に由来する炭化水素流である。
【0024】
フィッシャー・トロプシュ誘導生成物は、GTL生成物とも称されることがある。
【0025】
炭化水素生成物は、フィッシャー・トロプシュ反応から直接に、あるいは例えばフィッシャー・トロプシュ合成生成物の分留によって、または水素化処理フィッシャー・トロプシュ合成生成物から間接的に得てもよい。水素化処理は、沸点範囲を調節するための水素化分解(例えばGB−B−2077289号明細書およびEP−A−0147873号明細書参照)および/または分枝パラフィンの比率を高めることで、低温流れ特性を改善できる水素化異性化を伴うことができる。EP−A−0583836号明細書は、実質的に異性化または水素化分解を受けないような条件下で、最初にフィッシャー・トロプシュ合成生成物に水素化転化を施し(オレフィンおよび酸素含有構成要素に水素化する)、次に水素化分解および異性化が起きて実質的にパラフィン炭化水素燃料が生じるような条件下で、得られた生成物の少なくとも一部を水素化転化する二段階水素化処理法について述べている。所望の留分は引き続いて、例えば蒸留によって単離してもよい。
【0026】
フィッシャー・トロプシュ縮合生成物の特性を改良するため、例えば米国特許第4125566号明細書および米国特許第4478955号明細書に記載されるように、重合、アルキル化、蒸留、分解−脱カルボキシ化、異性化および水素化改質などのその他の後合成処理を採用してもよい。
【0027】
パラフィン系炭化水素のフィッシャー・トロプシュ合成のための典型的な触媒は、触媒活性構成要素として、第VIII族の金属、特にルテニウム、鉄、コバルトまたはニッケルを含む。このような好適な触媒については、EP−A−0583836号明細書(3および4頁)で述べられている。
【0028】
フィッシャー・トロプシュ法の一例は、1985年11月の第5回Synfuels Worldwide Symposium,Washington DCで発表されたvan der Burgtらの論文「The Shell Middle Distillate Synthesis Process」で述べられているSMDS(Shell Middle Distillate Synthesis)である。Shell International Petroleum Company Ltd,London,UKからの同表題の1989年11月の出版物もまた参照されたい。(時にShell「Gas−To−Liquids」または「GTL」技術とも称される)この方法は、天然ガス(主としてメタン)由来合成ガスを重質長鎖炭化水素(パラフィン)ワックスに転化することにより、中間留分範囲の生成物を生成し、次に炭化水素ワックスを水素化転化および分留して、自動車ディーゼル燃料中で使用できるガス油のような液体輸送燃料を製造できる。様々な粘度を有して軽質および中間留分の双方ならびにより重質の油を含む基油もまた、このような方法によって生成してもよい。
【0029】
フィッシャー・トロプシュ法により、フィッシャー・トロプシュ誘導油は、本質的に皆無のまたは検出不能水準のイオウおよび窒素を有する。これらのヘテロ原子を含有する化合物は、フィッシャー・トロプシュ触媒の触媒毒として作用する傾向があるので、合成ガス供給原料から除去される。これはある点において、本発明に係るグリース調合物に追加的利点をもたらすことができる。
【0030】
さらにフィッシャー・トロプシュ法は、通常の操作では、皆無のまたは実質的に皆無の芳香族構成要素を生成する。フィッシャー・トロプシュ誘導生成物の芳香族含量は、ASTM D4629により好適に測定して、典型的に1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、より好ましくは0.1重量%未満である。
【0031】
一般的に言えば上述のように、フィッシャー・トロプシュ誘導炭化水素生成物は、例えば鉱物由来油と比較して、極性構成要素、特に極性界面活性剤のレベルが比較的低い。このような極性構成要素としては、例えば含酸素化合物、およびイオウおよび窒素を含有する化合物が挙げられる。全て同一処理法によって除去されることから、フィッシャー・トロプシュ誘導油中のイオウの低レベルは、一般に含酸素化合物および窒素含有化合物双方の低レベルの指標である。
【0032】
本発明で使用されるフィッシャー・トロプシュ誘導基油は、好適にはパラフィン系の、好都合にはフィッシャー・トロプシュ誘導ワックスの水素化分解と、好ましくは結果として生ずる蝋質ラフィネートの、例えば溶剤、またはより好ましくは触媒脱蝋による脱蝋によって得られる。パラフィン系ワックスは、スラックワックスであってもよい。ラフィネートを蒸留して、2〜4mm/sのVK 100を有する軽質基油流、約4〜8mm/s、典型的に約8mm/sのVK 100を有する重質基油流、および約8〜30または8〜25mm/s、典型的に約20mm/sのVK 100を有する「超重質」基油流をはじめとする、いくつかの異なる生成物を生成できる。本発明で使用される基油は、特に後者の2つの基油流から誘導されてもよい。
【0033】
フィッシャー・トロプシュ誘導重質基油は、好適にはフィッシャー・トロプシュ「缶出液」(すなわち高沸点)生成物から、直接または間接的を問わず、1つ以上の下流側処理工程に続いて誘導される基油である。フィッシャー・トロプシュ缶出液は、フィッシャー・トロプシュ誘導供給流の分留に続いて、通常は真空カラムである分留カラムの底から回収される炭化水素生成物である。例えば国際公開第02070629号パンフレットは、フィッシャー・トロプシュ法によって作られたワックスからイソパラフィン系基油を調製する方法について述べており、このような方法の生成物は、本発明に係るグリース調合物中で使用してもよい。
【0034】
本発明で使用される基油はフィッシャー・トロプシュ生成物(典型的にワックス)から誘導されるので、それは概して本質的にパラフィン系であり、典型的に過半量のイソパラフィンを含有する。好適には基油は、80重量%を超えるパラフィン含量を有するパラフィン系基油である。それは好適には(IP−386による測定で)98重量%を超える飽和物含量、および0.1重量%以下、場合によっては皆無のn−パラフィン含量を有する(すなわちそのi:n比は典型的に極めて高い)。
【0035】
好ましくはそれは、n、n+1、n+2、n+3およびn+4(式中、nは20〜35)個の炭素原子を有する一連のイソパラフィンを含むように、連続数の炭素原子を有する炭化水素分子を含有する。この系列は、ワックス供給原料の異性化に続いて、それから基油が由来するフィッシャー・トロプシュ炭化水素合成反応の帰結である。
【0036】
好ましくは基油の飽和物含量は99重量%を超え、より好ましくは99.5重量%を超える。
【0037】
基油は、好ましくは0〜20重量%、より好ましくは1〜20重量%のナフテン系化合物含量を有する。
【0038】
基油中のナフテン系化合物の含量、イソパラフィンの所望の連続系列の存在は、電界脱離/電界イオン化(FD/FI)技術によって測定されてもよい。この技術に従って、油サンプルは最初に高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法IP 368/01によって極性(芳香族)相と非極性(飽和物)相に分離されるが、移動相としてヘキサンの代わりにペンタンが使用される。次に芳香族および飽和物留分を例えばFD/FIインターフェースを装着したFinnigan MAT90質量分光計を使用して分析し、FI(「ソフト」イオン化技術)を使用して、炭素数および水素不足の観点から炭化水素タイプを判定する。
【0039】
質量分析法における化合物の型分類は、形成された特徴的なイオンによって判定され、通常は「Z番号」によって分類される。これは全ての炭化水素種に対する一般式C2n+zによって与えられる。飽和物相は芳香族相とは別々に分析されるので、同一化学量論比またはn番号を有する、異なるイソパラフィン含量を測定することが可能である。質量分光計からの結果は、市販されるソフトウェア(例えばSierra Analytics LLC,3453 Dragoo Park Drive,Modesto,California GA95350 USAから入手できるPoly32)を使用して処理し、各炭化水素型の相対比を求めることができる。
【0040】
本発明に係るグリース調合物中で使用される基油の流動点は、ASTM D−4950による測定で、−5℃以下、または−10または−15℃以下であってもよい。それは例えば−60〜−10℃、好ましくは−50〜−20℃であってもよい。
【0041】
本発明に係るグリース調合物中で使用されるフィッシャー・トロプシュ誘導重質基油は、少なくとも95重量%のパラフィン分子を含む重質炭化水素生成物である。好ましくはこのような重質基油はフィッシャー・トロプシュワックスから調製され、98重量%を超える飽和パラフィン系炭化水素を含む。これらのパラフィン系炭化水素分子の好ましくは少なくとも85重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、なおもより好ましくは少なくとも95重量%、最も好ましくは少なくとも98重量%は、イソパラフィン系である。好ましくは飽和パラフィン系炭化水素の少なくとも85重量%は非環式炭化水素である。ナフテン系化合物(パラフィン系環式炭化水素)は、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%未満の量で存在する。
【0042】
重質基油は典型的に、100℃において、および周囲条件下、すなわち25℃で1気圧(101kPa)のどちらでも液体である。
【0043】
それは好適には120以上、より好適には130〜170の粘度指数(ASTM D−2270)を有する。
【0044】
フィッシャー・トロプシュ誘導超重質基油のVK 100は、少なくとも8mm/sであるべきである。好ましくはそのVK 100は少なくとも10mm/s、より好ましくは少なくとも13mm/s、なおもより好ましくは少なくとも15mm/s、重ねてより好ましくは少なくとも17mm/s、さらにより好ましくは少なくとも20mm/sである。本明細書で言及される運動力学粘度は、ASTM D−445に従って測定されてもよい一方、粘度指数(VI)はASTM D−2270を使用して測定されてもよい。
【0045】
フィッシャー・トロプシュ誘導重質基油は、好ましくは少なくとも380℃の初留点(IBP)を有する。より好ましくはそのIBPは少なくとも400℃、なおもより好ましくは少なくとも440℃である。535℃を超える沸点範囲を有するサンプルの沸点範囲分布がASTM D−6352に従って測定されてもよい一方、沸点のより低い材料では、沸点範囲分布はASTM D−2887に従って測定されてもよい。
【0046】
ここで言及される初期および最終沸点値は名目上であり、ガスクロマトグラフ模擬蒸留(GCD)によって得られるT5およびT95カット点(沸騰温度)を指す。
【0047】
従来の石油由来炭化水素およびフィッシャー・トロプシュ誘導炭化水素は、広範な沸点範囲を有する様々な分子量の構成要素の混合物を含むので、本開示は必要に応じて、それぞれの沸点範囲の10重量%回収点、および90重量%回収点に言及する。10重量%回収点は、そのカット中に存在する10重量%の炭化水素が大気圧で揮発し、したがって回収できる温度を指す。同様に90重量%回収点は、存在する90重量%の炭化水素が大気圧で揮発する温度を指す。沸点範囲分布に言及する場合、本明細書では10重量%および90重量%回収沸点の沸点範囲を指す。
【0048】
本明細書で言及される分子量は、ASTM D−2503に従って測定されてもよい。フィッシャー・トロプシュ誘導重質基油は、好適には少なくとも95重量%のC25+炭化水素分子を含有する。より好ましくはそれは少なくとも75重量%のC35+炭化水素分子を含有する。
【0049】
フィッシャー・トロプシュ誘導重質基油は、典型的には+49℃〜−60℃の曇り点を有することができる。好ましくはそれは+30℃〜−55℃の曇り点、より好ましくは+10℃〜−50℃の曇り点を有することができる。「曇り点」とは基油が濁り始める温度を指し、ASTM D−5773に従って測定されてもよい。
【0050】
缶出液については、所定の供給物組成および沸点範囲(脱蝋後の留出基油および軽油留分からのより低いカット点によって規定される)では、フィッシャー・トロプシュ誘導重質基油の流動点および動粘度は、脱蝋処理の程度と関係があることが分かった。本発明に係るグリース調合物中で使用されるフィッシャー・トロプシュ誘導重質基油は、−8または−9℃未満、または好ましくは−30℃以下などのさらにより低い流動点を有してもよく、したがって例えば−6℃前後である0〜−9℃の流動点をもたらす比較的穏やかな脱蝋とは対照的に、典型的に比較的高度な(すなわち高温触媒)脱蝋を受ける。「流動点」は、注意深く制御された条件下で基油サンプルが流動し始める温度を指す。ここで言及される流動点は、ASTM D−97−93またはD−5950に従って測定されてもよい。
【0051】
したがってフィッシャー・トロプシュ誘導重質基油の場合、−15℃以下、好ましくは−20または−25または−28または−30℃以下でさえある流動点を有してもよい。
【0052】
フィッシャー・トロプシュ誘導重質基油は、好ましくは120〜160の粘度指数を有する。それは好ましくは、皆無または非常にわずかなイオウおよび窒素含有化合物を含有する。上述のようにこれは、不純物をほとんど含まない合成ガスを使用する、フィッシャー・トロプシュ反応から誘導される生成物に典型的である。好ましくは基油は、50ppmw(重量で百万分の一)未満、より好ましくは20ppmw未満、なおもより好ましくは10ppmw未満の量で、(それらを含有する炭化水素化合物の形態の)イオウ、窒素および金属を含有する。最も好ましくはそれは一般に、例えば定量のためX線またはAntek窒素試験を使用した場合、目下イオウで5ppmw、窒素では1ppmwである検出限界未満のレベルで、イオウおよび窒素を含む。しかしイオウは、硫化水素化分解/水素化脱蝋および/または硫化接触脱蝋触媒の使用を通じて導入されるかもしれない。
【0053】
本発明で使用されるフィッシャー・トロプシュ誘導重質基油は、好ましくはフィッシャー・トロプシュ合成反応および引き続く水素化分解および脱蝋工程中に生成される炭化水素から、残留留分として分離される。
【0054】
より好ましくはこの留分は、水素化異性化工程生成物中になおも存在する最高分子量化合物を含む残油である。前記留分の10重量%回収沸点は、本発明の特定の実施態様で好ましくは370℃を超え、より好ましくは400℃を超え、最も好ましくは500℃を超える。
【0055】
(VK 100が典型的に8または9mm/s以上の)フィッシャー・トロプシュ誘導超重質基油は、その異なる炭素種の含量によってさらに特徴付けられる。より具体的には、それが含有するεメチレン炭素原子の百分率、すなわちそのイソプロピル炭素原子の百分率と比較した、末端基および/または分枝から4個以上離れた炭素である繰返しメチレン炭素(さらにCH>4と称される)の百分率によって特徴付けられる。以下の文章中では、基油全体としての測定で、εメチレン炭素原子の百分率とイソプロピル炭素原子(すなわちイソプロピル分枝中の炭素原子)の百分率との比率は、ε:イソプロピル比と称される。
【0056】
本発明で使用されるフィッシャー・トロプシュ誘導重質基油は、米国特許第7053254号明細書で開示される方法に従った測定で、好ましくは分子中に炭素原子100個あたり10個を超えるアルキル分枝の平均分枝度を有する。
【0057】
フィッシャー・トロプシュ誘導基油の分枝特性ならびに炭素組成は、好都合には以下のように13C−NMR、蒸気圧浸透圧法(VPO)、および電界イオン化質量分析法(FIMS)を使用して、油サンプルを分析することにより判定できる。平均分子量は、蒸気圧浸透圧法(VPO)によって得られる。次にサンプルは核磁気共鳴(NMR)分光法によって、分子レベルで特徴付ける。Z番号および平均炭素数は、FIMSによって判定した。
【0058】
従来のNMRスペクトルは、基油組成物中の多数の異性体の存在のために、シグナルの重なりの問題を有することがあり得る。この問題を克服するために、選択される多重線下位スペクトル炭素−13核磁気共鳴(13C−NMR)分析を応用できる。特に同期スピンエコー法(GASPE)を応用して、定量的なCH下位スペクトルを得ることができる。GASPEから得られる定量的データは、分極移動による無歪み増強(DEPT、例えば米国特許第7053254号明細書で開示される方法で適用されるような)から得られるものよりもさらに良好な精度を有することができる。
【0059】
GASPEデータおよびVPOによって得られる平均分子量に基づいて、分枝および脂肪族環の平均数を計算できる。さらにGASPEに基づいて、側鎖長の分布および直鎖に沿ったメチル基の位置が得られる。
【0060】
定量的な炭素多重度分析は、通常は全て室温で実施した。しかしこれは、これらの条件下で液体である材料についてのみ該当する。この方法は室温において濁りまたは蝋質固体であり、したがって通常の方法によって分析できない、あらゆるフィッシャー・トロプシュ誘導または基油材料に該当する。NMR測定のための好適な方法は次のとおりである。実用上の理由から最大測定温度を50℃に制限して、重水素化クロロホルム(CDC13)を定量的炭素多重度分析のための測定溶媒として用いる。透明で液体の均質生成物が形成されるまで、基油サンプルを50℃のオーブン内で加熱する。次にサンプルの一部をNMR管に移す。好ましくはNMR管およびサンプルの移動に使用されるあらゆる装置は、この温度に保たれる。次に上で同定される溶媒を添加し、任意にサンプルの再加熱を伴って、管を振盪してサンプルを溶解する。サンプル中のあらゆる高融点材料の凝固を防止するために、データ入手中、NMR装置は50℃に保たれる。サンプルを最低5分間NMR装置に入れて、温度を平衡化させる。シム調整および同調はどちらも高温において大幅に変化するので、この後、装置は再シム調整および再同調しなくてはならず、次にNMRデータが獲得できる。
【0061】
CH下位スペクトルは、1/J GASPE(同期獲得スピンエコー)へのCSEスペクトル(標準スピンエコー)の加算により、GASPEパルスシーケンスを使用して得られる。得られるスペクトルは、一級(CH)および三級(CH)炭素ピークのみを含有する。
【0062】
次に表形式データを適用し、鎖末端について補正して、様々な炭素分枝炭素共鳴を特定の位置および長さに割り当てる。次に下位スペクトルを組み込んで、以下のとおりに異なるCHシグナルに定量値を与える。
【0063】
1.CH−炭素
a.25ppm化学シフト(TMSに対して参照される)。
b.19および21ppmは、次の一般タイプのメチル分枝として同定できる(式1参照):
【化1】


式1
c.領域内の22〜24ppmの特徴的な強いシグナルは、以下の一般構造(式2参照)のイソプロピル末端基として明確に同定できる:
【化2】


式2
【0064】
この場合、メチル炭素原子の1つは主鎖の末端として、他方は分枝として分類される。したがってメチル分枝含量を計算する場合、これらのシグナルの強度は半減する。
d.さらに、15〜19ppm領域のさらなるいくつかの弱いシグナルは、3位に追加的分枝があるイソプロピル基に属すると見なされる。
e.スペクトル中に観察される8〜8.5ppm領域のいくつかの弱いシグナルは、3,3−ジメチル置換構造に関係する見込みが高い(式3):
【化3】


式3
【0065】
この場合、観察されるシグナルは末端CHのものであるが、2つの対応するメチル分枝がある。したがってこれらのシグナルの総体値は2倍になる(2つのメチル分枝のシグナルは、独立してカウントされない)。
【0066】
したがってメチル分枝含量の総体的推定は、以下の計算に基づく(「Int」という用語は、積分を表す、式4):
Σ(積分メチル)=Int 19〜20ppm+(Int 22〜25ppm)/2+Int 15〜19ppm+(Int7.0〜9ppm)*2
(式4)
【0067】
2.エチル分枝含量の計算は、その他のピーク割り当てからの根拠に基づいて、イソペンチル末端基含量が無視できると仮定して、11.5および10.9ppmで観察される2つの特徴的な比較的強いシグナルに基づく。したがって、エチル分枝含量の計算は、10〜11.2ppmのシグナルの積分のみに基づく。
【0068】
3.総体的な理論的末端CH含量は、FIMSによって測定される「Z」含量および平均炭素数に基づいて計算される。次にC3+分枝含量は、理論的末端CH3含量から、既知の末端CH3含量、すなわちイソプロピル値の半分、3−メチル置換の値、および3,3−ジメチル置換構造の値を差し引いて求められ、それにより鎖末端のCHに属する14ppm領域のシグナルの値がもたらされ、差はC3+分枝の値である:
Σ(積分C3+分枝)=Int 14〜15ppm−((理論的末端CH)−(Int 11.2〜11.8ppm)−(Int 22〜25ppm)/2−Int 7〜9ppm))
(式5)
【0069】
その最も広い意味では、本発明は、油が実際にフィッシャー・トロプシュ誘導であるかどうかにかかわらず、上述の特性の1つ以上を有するパラフィン系基油、特に重質基油を含有するグリース調合物を包含する。
【0070】
本発明に係るグリース調合物は、例えば総体的に所望の特性、特に粘度を有する2つ以上のこのような基油の配合物など、2つ以上のフィッシャー・トロプシュ誘導基油を含有してもよい。
【0071】
フィッシャー・トロプシュ誘導基油は、調合物中の唯一の基油構成要素であってもよい。あるいは、それは1つ以上の追加的基油構成要素と組み合わせて使用されてもよい。調合物は、例えば非フィッシャー・トロプシュ誘導基油またはその混合物をさらに含有してもよい。したがって本発明に従って、例えば上述の利点の1つ以上を達成する目的で、非フィッシャー・トロプシュ誘導基油の代わりに、グリース調合物中においてフィッシャー・トロプシュ誘導基油を部分的に使用してもよい。これは性能に対して製造コストを釣り合わせるより幅広い選択肢と共に、グリースの調合により大きな順応性を与える。
【0072】
このような追加的基油構成要素の好ましい特性は、フィッシャー・トロプシュ誘導基油について上述したようであってもよい。調合物全体は、好適には40または30または20重量%未満、好ましくは10または5重量%未満のこのような追加的基油構成要素を含有する。
【0073】
追加的基油構成要素の例としては、例えばエステル、ポリα−オレフィン、ポリアルキレングリコールなどの鉱物ベースのパラフィン系およびナフテン系タイプ基油、および合成基油が挙げられる。これらの内、エステルは、グリース調合物の生分解性を改善するために有益であることができる。存在する場合、追加的エステル基油の含量は、調合物全体を基準にして、1〜30重量%、より好ましくは5〜25重量%であってもよい。好適なエステル化合物は、エステル化条件下で、脂肪族モノ−、ジ−および/またはポリカルボン酸と、イソトリデシルアルコールとを反応させて誘導できるものである。このような化合物の例としては、オクタン−1,8−二酸、2−エチルヘキサン−1,6二酸、およびドデカン−1,12−二酸のイソトリデシルエステルが挙げられる。好ましくはエステル化合物は、ペンタエリトリトール(PET)の分枝または直鎖脂肪酸、好ましくはC−C10酸によるエステル化によって作られる、いわゆるペンタエリトリトールテトラ脂肪酸エステル(PETエステル)である。このようなエステルは、不純物としてジ−PETを含有してもよい。
【0074】
しかし本発明に係るグリース調合物中において、実質的に唯一の基油構成要素として、フィッシャー・トロプシュ誘導基油、特にフィッシャー・トロプシュ誘導重質基油を使用することが特に有利であることが分かった。「実質的に」とは、この文脈で調合物中のあらゆる基油構成要素の70重量%以上、好ましくは90重量%以上、最も好ましくは100重量%が上述のようなフィッシャー・トロプシュ誘導基油であり、または少なくとも上述の好ましい特性を有するパラフィン系基油であることを意味する。
【0075】
本発明で使用されるフィッシャー・トロプシュ誘導基油は、あらゆる好適なフィッシャー・トロプシュ法によって生成されてもよい。フィッシャー・トロプシュ法の例は、いわゆるSasolの商業的Slurry Phase Distillate技術、上で言及したShell Middle Distillate Synthesis法、および「AGC−21」Exxon Mobil法である。これらおよびその他の方法については、例えばEP−A−776959号明細書、EP−A−668342号明細書、米国特許第4943672号明細書、米国特許第5059299号明細書、国際公開第9934917号パンフレット、および国際公開第9920720号パンフレットでより詳細に述べられている。典型的にこれらのフィッシャー・トロプシュ合成の生成物は、1〜100個の、または100個よりも多くさえある炭素原子を有する炭化水素を含む。
【0076】
基油がフィッシャー・トロプシュ法の所望のイソパラフィン系生成物の1つである場合、比較的重質のフィッシャー・トロプシュ誘導供給物を使用することが有利かもしれない。このような供給物は、好適には少なくとも30個の炭素原子を有する、少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも55重量%の化合物を含有する。さらに供給物中の少なくとも60個の炭素原子を有する化合物と、少なくとも30個の炭素原子を有するものとの重量比は、好ましくは少なくとも0.2、より好ましくは少なくとも0.4、最も好ましくは少なくとも0.55である。供給物が500℃を超える10重量%回収沸点を有する場合、ワックス含量は好適には50重量%を超える。
【0077】
好ましくはフィッシャー・トロプシュ誘導供給物は、少なくとも0.925、好ましくは少なくとも0.935、より好ましくは少なくとも0.945、なおもより好ましくは少なくとも0.955のASF−α値(Anderson−Schulz−Flory連鎖成長ファクター)を有するC20+留分を含む。このようなフィッシャー・トロプシュ誘導供給物は、上述のような好適には重質の生成物を生じるあらゆる方法によって得ることができる。
【0078】
一般論として、フィッシャー・トロプシュ誘導基油の生産は、フィッシャー・トロプシュ合成、水素化異性化工程、および任意の流動点低下工程を伴う。フィッシャー・トロプシュ合成は、石炭、天然ガス、または木材や干し草などの生物学的物質などのあらゆる種類の炭化水素質材料から調製される合成ガス上で実施できる。水素化異性化はn−パラフィンをイソパラフィンに転化し、したがって炭化水素分子中の分枝の度合いを増大させて低温流れ特性を改善する。使用する触媒および異性化条件次第で、この工程は比較的高度に分枝した末端領域を有する長鎖炭化水素分子をもたらすことができ、このような分子は特に良好な低温流れ性能を示す傾向がある。
【0079】
水素化異性化および任意の流動点低下工程は、次によって実施されてもよい。
(a)上述の供給物などのフィッシャー・トロプシュ生成物を水素化分解/水素化異性化する工程と、
(b)工程(a)の生成物から特に基油または基油中間体留分を単離する工程。
【0080】
工程(b)で得られる基油の粘度および/または流動点が所望の通りであれば、さらなる加工は必要でなく、油は本発明に係る調合物中で直接使用できる。しかし必要とされる場合は工程(c)で、溶剤またはより好ましくは触媒脱蝋によって、基油中間体留分の流動点をさらに低下させてもよい。
【0081】
基油の所望の粘度は、中間体基油留分から、または脱蝋油から、好適な沸点範囲および対応する粘度を有する生成物を(蒸留によって)単離することで得てもよい。蒸留は真空蒸留工程であってもよい。
【0082】
工程(a)の水素化転化/水素化異性化反応は、好ましくは水素および触媒の存在下で実施され、その触媒は当業者に知られているものから選択でき、その例は下でより詳細に述べられている。触媒は、原則としてパラフィン系分子の異性化に適することが当該技術分野で知られている、あらゆる触媒であることができる。一般に好適な水素化転化/水素化異性化触媒は、非晶質シリカアルミナ(ASA)、アルミナ、フッ化アルミナ、分子ふるい(ゼオライト)またはそれらの2つ以上の混合物などの耐火性酸化物キャリア上に担持された、水素化構成要素を含むものである。
【0083】
水素化転化/水素化異性化工程(a)で使用するのに好ましい触媒としては、水素化構成要素として白金および/またはパラジウムを含むものが挙げられる。非常に好ましい水素化転化/水素化異性化触媒は、非晶質シリカ−アルミナ(ASA)キャリア上に担持される白金およびパラジウムを含む。白金および/またはパラジウムは、元素としてキャリア総重量を基準にして計算して、好適には0.1〜5.0重量%、より好適には0.2〜2.0重量%の量で存在する。双方の元素が存在する場合、白金とパラジウムの重量比は、広い範囲内で変動してもよいが、好適には0.05〜10、より好適には0.1〜5の範囲である。ASA触媒上の好適な貴金属の例は、例えば国際公開第9410264号パンフレットおよびEP−A−0582347号明細書で開示される。フッ化アルミナキャリア上の白金などのその他の好適な貴金属ベース触媒は、例えば米国特許第5059299号明細書および国際公開第9220759号パンフレットで開示される。
【0084】
好適な水素化転化/水素化異性化触媒の第2のタイプとしては、水素化構成要素として、好ましくはタングステンおよび/またはモリブデンである少なくとも1つの第VIB族の金属、および好ましくはニッケルおよび/またはコバルトである少なくとも1つの第VIII族の非貴金属を含むものが挙げられる。片方または両方の金属が、酸化物、硫化物またはその組み合わせとして存在してもよい。第VIB族の金属は、キャリア総重量を基準にした計算で、好適には1〜35重量%、より好適には5〜30重量%の量で存在する。第VIII族の非貴金属は、キャリア総重量を基準にした計算で、好適には1〜25重量%、好ましくは2〜15重量%の量で存在する。特に好適であることが分かったこのタイプの水素化転化触媒は、フッ化アルミナ上に担持されるニッケルおよびタングステンを含むものである。
【0085】
上の非貴金属ベースの触媒は、好ましくはそれらの硫化形態で使用される。使用中に触媒の硫化形態を保つために、供給物中にいくらかのイオウ、例えば少なくとも10mg/kgまたはより好ましくは50〜150mg/kgのイオウが存在する必要がある。
【0086】
非硫化形態で使用できる好ましい触媒は、例えば銅などの第IB族の金属と併せて、酸性担体上に担持された、例えば鉄またはニッケルなどの第VIII族の非貴金属を含む。銅が好ましくは存在して、パラフィンのメタンへの水素化分解を抑止する。触媒は水吸収による測定で好ましくは0.35〜1.10ml/gの範囲の孔容量、BET窒素吸着による測定で200〜500m/gの表面積、0.4〜1.0g/mlの嵩密度を有する。触媒担体は好ましくは非晶質シリカ−アルミナからできており、アルミナは5〜96重量%、好ましくは20〜85重量%の範囲内で存在してもよい。SiOなどの担体のシリカ含量は、好ましくは15〜80重量%である。担体はまた少量の例えば20〜30重量%の、アルミナ、シリカ、第IVA族金属酸化物、粘度、マグネシアなど、好ましくはアルミナまたはシリカなどのバインダーを含有してもよい。
【0087】
非晶質シリカ−アルミナ微小球の調製については、Ryland,Lloyd B.,Tamele,M.W.and Wilson,J.N.,in“Cracking Catalysts”,Catalysis:Volume VII,Ed.Paul H.Emmett,Reinhold Publishing Corporation,New York,1960年,5〜9頁で述べられている。
【0088】
触媒は、溶液から担体上への金属の同時含浸、100〜150℃での乾燥、および200〜550℃の空気中での焼成によって調製されてもよい。第VIII族金属が約15重量%以下、好ましくは1〜12重量%の量で存在してもよいのに対し、第IB族金属は通常、さらに低い量で存在する。例えば第IB族金属と第VIII族金属の重量比は、約1:2〜約1:20であってもよい。
【0089】
典型的な触媒の仕様を下に規定する。
Ni:2.5〜3.5重量%
Cu:0.25〜0.35重量%
Al〜SiO:65〜75重量%
Al(バインダー):25〜30重量%
表面積:290〜325m/g
孔容量:(Hg)0.35〜0.45ml/g
嵩密度:0.58〜0.68g/ml
【0090】
別のクラスの好適な水素化転化/水素化異性化触媒としては、好適には水素化構成要素として、少なくとも1つの第VIII族金属構成要素、好ましくはPtおよび/またはPdを含む、分子ふるいタイプ材料ベースのものが挙げられる。好適なゼオライトおよびその他のアルミノケイ酸塩材料としては、ゼオライトβ、ゼオライトγ、超安定γ、ZSM−5、ZSM−12、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−48、MCM−68、ZSM−35、SSZ−32、フェリエライト、モルデン沸石、およびSAPO−11やSAPO−31などのシリカ−アルミノリン酸塩が挙げられる。好適な水素化転化/水素化異性化触媒の例については、例えば、国際公開第9201657号パンフレットで述べられている。これらの触媒の組み合わせもまた可能である。
【0091】
好適な水素化転化/水素化異性化法は、ゼオライトβまたはZSM−48ベースの触媒が使用される第1の工程と、ZSM−5、ZSM−12、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−48、MCM−68、ZSM−35、SSZ−32、フェリエライトまたはモルデン沸石ベースの触媒が使用される第2の工程を伴うものである。後者の群中ではZSM−23、ZSM−22、およびZSM−48が好ましい。このような方法の例については、米国特許出願公開第20040065581号明細書で述べられており、白金およびゼオライトβを含む第1の工程の触媒、および白金およびZSM−48を含む第2の工程の触媒の使用が開示されている。
【0092】
その中でフィッシャー・トロプシュ生成物が最初に、上述のようなシリカ−アルミナキャリアを含む非晶質触媒を使用した第1の水素化異性化工程に供され、それに分子ふるいを含む触媒を使用した第2の水素化異性化工程が続く、方法の組み合わせもまた、本発明で使用される基油を調製する好ましい方法として同定されている。好ましくは第1のおよび第2の水素化異性化工程は、直流形で(in series flow)実施される。より好ましくは2つの工程は、上の非晶質および/または結晶性触媒床を含む単一反応装置内で実施される。
【0093】
工程(a)では、フィッシャー・トロプシュ供給物は、高温高圧下で触媒存在下において水素と接触される。温度は典型的に175〜380℃の範囲であり、好ましくは250℃よりも高く、より好ましくは300〜370℃である。圧力は典型的に10〜250バール、好ましくは20〜80バールの範囲である。水素は、100〜10000Nl/l/hr、好ましくは500〜5000Nl/l/hrのガス時間空間速度で供給されてもよい。炭化水素供給物は0.1〜5kg/l/hr、好ましくは0.5kg/l/hrよりも高い、より好ましくは2kg/l/hrよりも低い重量空間時速で提供されてもよい。水素と炭化水素供給物の比率は、100〜5000Nl/kgの範囲であってもよく、好ましくは250〜2500Nl/kgである。
【0094】
沸点が370℃よりも高い供給物が反応して沸点が370℃より低い留分になる、1パス当りの重量百分率として定義される、工程(a)での転化率は、好適には少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも25重量%であるが、好ましくは80重量%以下、より好ましくは65または70重量%以下である。上の定義で使用される供給物は、工程(a)に供給される全ての炭化水素供給物であり、したがって例えば工程(b)で得られてもよい高沸点留分からのものなどのあらゆる任意の工程(a)への任意の再循環を含む。
【0095】
工程(b)では、工程(a)の生成物が、好ましくは所望の粘度を有する1つ以上の留出燃料留分、および基油または基油前駆物質留分に分離される。基油の流動点または前駆物質が所望の範囲にない場合、それは好ましくは触媒脱蝋により、脱蝋工程(c)によってさらに低下させてもよい。このような実施態様では、工程(a)の生成物のより幅広い沸騰留分を脱蝋することはさらなる利点かもしれない。得られた脱蝋生成物から、次に例えば蒸留によって所望の粘度を有する所望の基油、および任意にその他の油が単離できる。脱蝋は好ましくは、例えば参照によって本明細書に援用する国際公開第02070627号パンフレット(好適な脱蝋条件および触媒の実施例について特に8頁27行〜11頁6行を参照されたい)で述べられ、下でさらに詳しく説明するように、触媒脱蝋によって実施される。必要に応じて脱蝋工程(c)への供給物の最終沸点は、工程(a)の生成物の最終沸点以下であってもよい。
【0096】
本発明に係る調合物中での使用に先だって、例えば脱蝋工程(c)後、基油に、例えば国際公開第02070627号パンフレットの11頁7行〜12頁12行で述べられているような水素化仕上げなどの1つ以上のさらなる処理を施してもよい。
【0097】
フィッシャー・トロプシュ誘導基油生産のための好適な一般法については、例えば国際公開第02070627号パンフレットで述べられている。重質および超重質フィッシャー・トロプシュ誘導基油のその他の好適な生産方法については、国際公開第2004033607号パンフレット、米国特許第7053254号明細書、EP−A−1366134号明細書、EP−A−1382639号明細書、EP−A−1516038号明細書、EP−A−1534801号明細書、国際公開第2004003113号パンフレット、および国際公開第2005063941号パンフレットで述べられている。
【0098】
本発明で使用されるパラフィン系超重質基油を調製するために、フィッシャー・トロプシュ誘導缶出液に好適には異性化法を施す。これはn−パラフィンをイソパラフィンに転化し、したがって炭化水素分子中の分枝の度合いを増大させて低温流れ特性を改善する。使用する触媒および異性化条件次第で、これは比較的高度に分枝した末端領域を有する長鎖炭化水素分子をもたらすことができる。このような分子は、比較的良好な低温流れ性能を示す傾向がある。
【0099】
異性化缶出液に、例えば水素化分解、水素化処理および/または水素化仕上げなどのさらなる下流加工を施してもよい。これに好ましくは上述のように、溶剤またはより好ましくは触媒脱蝋のどちらかによって、その流動点をさらに低下させる脱蝋工程を施す。
【0100】
本発明に係るグリース調合物中で使用されるフィッシャー・トロプシュ誘導超重質基油は、好ましくは次によってフィッシャー・トロプシュ誘導ワックスまたは蝋質ラフィネート供給物から得られる重質缶出蒸留留分である。
(a)少なくとも20重量%の化合物が少なくとも30個の炭素原子を有するフィッシャー・トロプシュ誘導供給物を水素化分解/水素化異性化する工程と、
(b)工程(a)の生成物を1つ以上の蒸留留分と、沸点が540℃を超える少なくとも10重量%の化合物を含む残留重質留分とに分離する工程と、
(c)残留留分に触媒的流動点低下を施す工程と、
(d)工程(c)の溶出物から、フィッシャー・トロプシュ誘導パラフィン系重質基油構成要素を残留重質留分として単離する工程。
【0101】
異性化および分留に加えて、フィッシャー・トロプシュ誘導生成物留分はまた、水素化分解、水素化処理および/または水素化仕上げなどの様々なその他の操作を受けてもよい。
【0102】
工程(a)からの供給物は、フィッシャー・トロプシュ誘導生成物である。その初留点は400℃までであってもよいが、好ましくは200℃未満である。好ましくは4個以下の炭素原子を有するあらゆる化合物、およびその範囲の沸点を有するあらゆる化合物は、フィッシャー・トロプシュ合成生成物を水素化異性化工程で使用する前に、フィッシャー・トロプシュ合成生成物から分離される。好適なフィッシャー・トロプシュ法の例については、国際公開第9934917号パンフレットおよびAU−A−698391号明細書で述べられている。開示される方法は、上述のようなフィッシャー・トロプシュ生成物を生じる。
【0103】
フィッシャー・トロプシュ法から直接得られるフィッシャー・トロプシュ生成物は、通常は室温で固体の蝋質留分を含有する。
【0104】
ここでも工程(a)の水素化分解/水素化異性化反応は、好ましくは水素および例えば上述のタイプの触媒などの触媒の存在下で実施される。水素化異性化で使用される触媒は、典型的に酸性官能基および水素化−脱水素化官能基を含む。好ましい酸性官能基は、耐火性金属酸化物キャリアである。好適な担体材料としては、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、ジルコニア、チタニア、およびそれらの混合物が挙げられる。触媒に包含される好ましい担体材料は、シリカ、アルミナ、およびシリカ−アルミナである。特に好ましい触媒は、シリカ−アルミナキャリア上に担持される白金を含む。例えばフッ素などのハロゲン化合物を含有する触媒の使用は、特別な操作条件を要し、環境問題を伴うことができるので、好ましくはこのような触媒はハロゲン化合物を含有しない。好適な水素化分解/水素化異性化法および触媒の例については、国際公開第0014179号パンフレット、EP−A−532118号明細書、EP−A−666894号明細書、および先に言及したEP−A−776959号明細書で述べられている。
【0105】
好ましい水素化−脱水素化官能基は、例えばコバルト、ニッケル、パラジウム、および白金などの第VIII族金属であり、より好ましくは白金である。白金およびパラジウムの場合、触媒は100重量部の担体材料当たり0.005〜5重量部、好ましくは0.02〜2重量部の量で、水素化−脱水素化活性構成要素を含んでなってもよい。ニッケルを使用する場合、典型的により高い含量が存在し、任意にニッケルを銅と組み合わせて使用する。水素化転化段階で使用される特に好ましい触媒は、100重量部の担体材料当たり0.05〜2重量部、より好ましくは0.1〜1重量部の範囲の量で白金を含む。触媒はまた、バインダーも含み、触媒強度を増強する。バインダーは、非酸性であることができる。例は粘土および当業者に知られているその他のバインダーである。
【0106】
水素化異性化工程(a)のその他の特徴は、上述のようであってもよい。
【0107】
水素化異性化法の生成物は、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも60重量%、なおもより好ましくは少なくとも70重量%のイソパラフィンを含有し、残部はn−パラフィンおよびナフテン系化合物から構成される。
【0108】
工程(b)では、工程(a)の生成物を1つ以上の蒸留留分に分割し、残留重質留分は沸点が540℃を超える少なくとも10重量%の化合物を含む。これは好都合には、水素化異性化工程溶出物に1回以上の留出物分離を実施して、少なくとも1つの中間留分燃料留分と、工程(c)中で使用される残留留分とを得ることで行われる。
【0109】
好ましくは工程(a)からの溶出物は、最初に常圧蒸留を受ける。このような蒸留で得られたままの残液は、特定の好ましい実施態様において、近真空状態で実施されるさらなる蒸留に供されてもよく、より高い10重量%回収沸点を有する留分が得られる。残液の10重量%回収沸点は、好ましくは350〜550℃で変動してもよい。この常圧缶出液または残液は、好ましくは少なくとも95重量%が370℃を超えて沸騰する。
【0110】
この留分は工程(c)で直接使用してもよく、または好適には0.001〜0.1バールの圧力で実施される追加的真空蒸留を施してもよい。工程(c)の供給物は、好ましくはこのような真空蒸留の缶出液として得られる。
【0111】
工程(c)では、工程(b)で得られた重質残留留分に触媒的流動点低下工程を施す。工程(c)は、ワックス含量をその元の値の50重量%未満に低下できるあらゆる水素化転化法を使用して、実施してもよい。中間生成物のワックス含量は、好ましくは35重量%未満、より好ましくは5〜35重量%、なおもより好ましくは10〜35重量%である。工程(c)で得られたままの生成物は、好ましくは80℃未満の凝固点を有する。好ましくは50重量%を超え、より好ましくは70重量%を超える中間生成物は、工程(a)で使用されるワックス供給物の10重量%回収点を超えて沸騰する。
【0112】
ワックス含量は、次の手順に従って測定されてもよい。分析下の1重量部の油留分を4部のメチルエチルケトンおよびトルエン混合物(50/50 vol/vol)で希釈し、それを引き続いて冷蔵庫内で−20℃に冷却する。混合物を引き続いて−20℃で濾過する。ワックスを冷溶剤で完全に洗浄してフィルターから除去し、乾燥させて秤量する。油分について述べる場合、重量%値は、100%からワックス含量の重量%を差し引いたものを意味する。
【0113】
工程(c)の可能な方法は、工程(a)について上述したような水素化異性化法である。このような触媒を使用して、ワックスレベルを所望のレベルに低下させてもよいことが分かった。上述のような作業条件の程度を変動させることにより、当業者は所望のワックス転化を得るのに要する操作条件を容易に定められる。しかし油収率を最適化するためには、300〜330℃の温度、および1時間当たり1Lの触媒当たり0.1〜5kgの油(kg/l/hr)、より好ましくは0.1〜3の重量空間時速が特に好ましい。
【0114】
工程(c)で適用してもよいより好ましいクラスの触媒は、脱蝋触媒類である。このような触媒を使用する際に適用される作業条件は、ワックス分が油中に残るような作業条件であるべきである。対照的に典型的な触媒的脱蝋法は、ほぼゼロへのワックス含量低下を図る。分子ふるいを含む脱蝋触媒の使用によって、より多くの重質分子が脱蝋油に保持されるようになる。次により粘稠な基油を得ることができる。
【0115】
工程(c)で適用されてもよい脱蝋触媒は、好適には、例えば、任意に第VIII族金属などの水素化機能を有する金属と組み合わさった、上述のような分子ふるいを含む。分子ふるい、より好適には0.35〜0.8nmの孔径を有する分子ふるいは良好な触媒能力を示し、ワックス供給物のワックス含量を低下させる。好適なゼオライトは、モルデン沸石、ベータ、ZSM−5、ZSM−12、ZSM−22、ZSM−23、SSZ−32、ZSM−35、ZSM−48、および前記ゼオライトの組み合わせであり、その中でZSM−12およびZSM−48が最も好ましい。別の好ましい分子ふるいの群はシリカ−アルミナリン酸(SAPO)材料であり、その中では例えば米国特許第4859311号明細書で述べられているようにSAPO−11が最も好ましい。ZSM−5は第VIII族金属の不在下で、任意にそのHZSM−5形態で使用されてもよい。その他の分子ふるいは、好ましくは添加された第VIII族金属と組み合わさって使用される。好適な第VIII族金属は、ニッケル、コバルト、白金、およびパラジウムである。可能な組み合わせの例は、Pt/ZSM−35、Ni/ZSM−5、Pt/ZSM−23、Pd/ZSM−23、Pt/ZSM−48、およびPt/SAPO−11、または積層構造のPt/ゼオライトβおよびPt/ZSM−23、Pt/ゼオライトβおよびPt/ZSM−48、またはPt/ゼオライトβおよびPt/ZSM−22である。好適な分子ふるいおよび脱蝋条件のさらなる詳細および例については、例えば国際公開第9718278号パンフレット、米国特許第4343692号明細書、米国特許第5053373号明細書、米国特許第5252527号明細書、米国特許出願公開第20040065581号明細書、米国特許第4574043号明細書、およびEP−A−1029029号明細書で述べられている。
【0116】
別の好ましいクラスの分子ふるいは、ZSM−5およびフェリエライト(ZSM−35)のように、比較的低い異性化選択性と高いワックス転化選択性を有するものである。
【0117】
脱蝋触媒は、好適にはバインダーもまた含む。バインダーは例えば粘土、シリカおよび/または金属酸化物などの合成または天然(無機)物であることができる。天然の粘土は、例えばモンモリロナイトおよびカオリン系統である。バインダーは好ましくは例えば耐火性酸化物などの多孔性バインダー材料であり、その例としては、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、シリカ−ジルコニア、シリカ−トリア、シリカ−ベリリア、およびシリカ−チタニア、ならびに例えばシリカ−アルミナ−トリア、シリカ−アルミナ−ジルコニア、シリカ−アルミナ−マグネシアおよびシリカ−マグネシア−ジルコニアなどの三元組成物が挙げられる。より好ましくは、本質的にアルミナを含まない低酸性度耐火性酸化物バインダー材料が使用される。これらのバインダー材料の例は、シリカ、ジルコニア、二酸化チタン、二酸化ゲルマニウム、ボリア、および上にその例を列挙したものの2つ以上の混合物である。最も好ましいバインダーはシリカである。
【0118】
好ましいクラスの脱蝋触媒は、上述のような中間体ゼオライト微結晶と、上述のような本質的にアルミナを含まない低酸性度耐火性酸化物バインダー材料とを含み、アルミノケイ酸塩ゼオライト微結晶の表面は、アルミノケイ酸塩ゼオライト微結晶に表面脱アルミニウム処理を施すことにより変性されている。好ましい脱アルミニウム処理は、例えば米国特許第5157191号明細書または国際公開第0029511号パンフレットで述べられているように、バインダーおよびゼオライトの押し出し物をフルオロケイ酸塩の水溶液に接触させる工程を伴う。上述のような好適な脱蝋触媒の例は、例えば国際公開第0029511号パンフレットおよびEP−B−832171号明細書で述べられているような、シリカ結合し脱アルミニウムされたPt/ZSM−5、またはシリカ結合し脱アルミニウムされたPt/ZSM−35である。
【0119】
脱蝋触媒を使用する場合、工程(c)の条件は、典型的に200〜500℃、好適には250〜400℃の範囲である操作温度を伴う。好ましくは温度は300〜330℃である。水素圧力は10〜200バールに及んでもよく、好ましくは40〜70バールである。重量空間時速(WHSV)は、1時間当たり1Lの触媒当たり0.1〜10kgの油(kg/l/hr)に及んでもよく、好適には0.1〜5kg/l/hr、より好適には0.1〜3kg/l/hrである。水素と油の比率は、油1L当たり100〜2,000リットルの水素に及んでもよい。
【0120】
工程(d)では、工程(c)の生成物が通常、真空カラムに送られ、そこで様々な蒸留基油カットが収集される。これらの蒸留基油留分は、潤滑基油配合物を調製するのに使用してもよく、またはそれらはディーゼルまたはナフサなどの沸点のより低い生成物に分解されてもよい。真空カラムから収集される残留物は高沸点炭化水素の混合物を含み、本発明で使用される重質基油を調製するのに使用できる。
【0121】
さらに工程(c)で得られる生成物に、溶剤脱蝋などの追加的処理を施してもよい。生成物は、例えば米国特許第4795546号明細書およびEP−A−712922号明細書で述べられているように、その安定性を改善するために、例えば粘土処理工程中でまたは活性炭素と接触させることでさらに処理できる。
【0122】
本発明に係るグリース調合物中に含まれる増粘剤は、石鹸または非石鹸増粘剤であってもよい。
【0123】
好適な非石鹸増粘剤の例としては、分子構造中に尿素基(−NHCONH−)を含有する化合物である尿素化合物が挙げられる。これらの化合物としては、それらが含有する尿素結合数に応じてモノ−、ジ−、トリ−、テトラ−、およびポリ尿素化合物が挙げられる。その他の好適な非石鹸増粘剤としては、それらを疎水性にするアンモニウム化合物(例えばハロゲン化テトラ−アルキルアンモニウム)で処理された、特にベントナイト、アタパルジャイト、ヘクトライト、イライト、サポナイト、海泡石、黒雲母、蛭石、ゼオライト粘土などの粘土;シリカゲル;PTFE(ポリテトラフルオロエタン)などのポリマー性増粘剤またはポリプロピレンまたはポリメチルペンテンなどの炭化水素ポリマー;カーボンブラック;およびそれらの混合物が挙げられる。
【0124】
増粘剤は、特に石鹸ベースの増粘剤、典型的に脂肪酸金属塩または脂肪酸混合物金属塩または場合によってはその他の脂肪質の金属塩であってもよい。石鹸は例えばナトリウム、カリウムまたはリチウム塩などのアルカリ金属塩、またはカルシウム、バリウムまたはマグネシウム塩、またはアルミニウム塩などのアルカリ土類金属塩であってもよい。それはリチウム/カルシウム石鹸などの混合塩も含めた、リチウム、ナトリウム、カルシウム、およびアルミニウム石鹸から選択されてもよい。それは特にリチウムまたはカルシウム塩、とりわけリチウム塩であってもよい。
【0125】
石鹸は、金属水酸化物、金属酸化物、金属炭酸塩またはその他のこのような好適な化合物などの塩基と、特に脂肪酸またはその混合物などの好適な疎水性構成要素との混合によって形成されてもよい。石鹸の脂肪構成要素は、典型的にC6〜30またはC12〜30、好ましくはC6〜24またはC12〜24、より好ましくはC12〜20の炭素鎖長を有する。脂肪酸である場合、それはカルボン酸基に加えてその他の官能基、特に例えば12−ヒドロキシオクタデカン酸のように水酸基を含有してもよい。好適な脂肪酸の例としては、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、綿実油酸、および水素化魚油酸が挙げられる。
【0126】
例えばリチウム石鹸増粘グリースは、長年にわたり知られている。典型的にリチウム石鹸は、C10〜24、好ましくはC15〜18の飽和または不飽和脂肪酸またはそれらの誘導体から誘導される。このような一誘導体が水素化ヒマシ油であり、それは本文脈において特に好ましい脂肪酸である12−ヒドロキシステアリン酸のグリセリドである。
【0127】
石鹸増粘剤は、脂肪酸金属塩またはその混合物と、例えば安息香酸、ホウ酸、またはホウ酸リチウムのような金属ホウ酸塩などである、一般に低〜中分子量の酸または二塩基酸またはその塩の1つである追加的錯化剤とを含有する、金属錯体石鹸であってもよい。金属および脂肪酸構成要素は、上述のようであってもよい。より低分子量の酸はモノ−、ジ−またはポリカルボン酸であってもよく、またはそれはホウ酸などの無機酸であってもよい。それはホウ酸リチウムなどの酸性塩の形態で使用されてもよい。カルボン酸は芳香族または脂肪族であってもよく、それはカルボン酸基に加えてその他の官能基を含有してもよい。特に金属錯体石鹸は、リチウム錯体、カルシウム錯体、アルミニウム錯体、およびスルホン酸カルシウム錯体石鹸、およびそれらの混合物から選択されてもよい。
【0128】
本発明に係るグリース調合物中で潜在的用途がある錯体増粘剤としては、例えばステアリン酸カルシウム−酢酸(米国特許第2197263号明細書を参照)、ステアリン酸バリウム−酢酸(米国特許第2564561号明細書)、ステアリン酸カルシウム−カプリル酸−酢酸の錯体(米国特許第2999066号明細書)、および低、中、および高分子量酸および堅果油酸の塩が挙げられる。
【0129】
本発明に係る調合物中で有用かもしれないその他の増粘剤としては、米国特許第5650380号明細書、国際公開第1999014292号パンフレット、米国特許第6642187号明細書、および米国特許第5612297号明細書で開示されるものが挙げられる。
【0130】
本発明に係るグリース調合物は、2つ以上の増粘剤を含有してもよい。
【0131】
調合物は好適には比較的高い増粘剤濃度を含有して、フィッシャー・トロプシュ誘導基油の低極性を補正する。それは例えば調合物全体を基準にして、4重量%以上、または5または10または15または20または21または22重量%以上でさえある増粘剤を含有してもよい。それは20または30または35または40重量%までの増粘剤を含有してもよい。好適な増粘剤濃度は、例えば5〜25重量%などの5〜35重量%の範囲であってもよい。増粘剤濃度は、調合物に必要とされる総体的粘稠度に左右される。
【0132】
所定の粘度のフィッシャー・トロプシュ誘導基油では、本発明に係るグリース調合物は、同一粘度を有する鉱物由来基油の同一量を含有するグリース調合物中に存在するのよりも、さらに高濃度の増粘剤を含有してもよい。
【0133】
同様に、本発明に係る調合物中のフィッシャー・トロプシュ誘導基油の濃度は、調合物全体を基準にして、例えば50重量%以上、または60または70または75重量%以上であってもよい。調合物は、80または90または95重量%までのまたは96重量%でさえある基油を含有してもよい。好適な基油濃度は、例えば75〜95重量%などの60〜95重量%の範囲であってもよい。ここでもまた、これは必要とされる粘稠度に左右され、約95重量%などのより高い基油濃度は、希薄な半流体グリースを生じ、例えば75重量%以下などのより低い濃度は、高粘稠度の低浸透性グリースを生じる。
【0134】
例えばフィッシャー・トロプシュ誘導基油が、調合物中に存在する2つ以上の基油の内の1つにすぎない場合、調合物全体のフィッシャー・トロプシュ誘導油の濃度は、15または20重量%、例えば30または40または50または60重量%までであってもよい。
【0135】
本発明に係るグリース調合物は好適には、(例えば標準試験法ASTM D−217で)220〜340、好ましくは250〜310または265〜295の浸透性を示す。
【0136】
それは好ましくは無鉛である。
【0137】
グリース調合物は、理想的には、塗布中にそれが薄くなりすぎて潤滑を意図する領域から容易に除去されることがないように、好適なレベルの機械的安定度を示す。機械的安定度は、流動学的ストレスをかけた前後にグリース調合物の粘稠度または浸透性を測定する、混和安定度およびロール安定性などの安定性試験によって評価されてもよく、理想的には、グリース浸透性はこのような処理後にわずかにのみ変化すべきである。例えばASTM D−217に従った、グリース混和機内での100,000ストローク後の浸透安定性試験では、グリース調合物の浸透値は、好ましくは30ポイント未満、より好ましくは25または20または15または10または5ポイント未満変化する。この試験における浸透値のより小さな変化は、より大きな機械的安定度を示唆する。
【0138】
本発明に係るグリース調合物は、好ましくは高温および酸化条件において安定性を示す。これは例えば99℃で100時間以上にわたって酸素取り込みを測定する酸化試験によって評価してもよい。例えばASTM D−942に従ったグリースのためのNorma Hoffmann「ボンベ」酸化試験では、本発明に係るグリース調合物の圧力低下は、100時間後に好ましくは35キロパスカル以下、より好ましくは30または25または20キロパスカル以下である。この試験におけるより小さな圧力低下は、より大きな酸化安定性を示唆する。
【0139】
調合物は有利には色が薄く(例えば白色から淡いベージュ)、より色の濃いグリースからの汚染が問題になり得る多様な用途での使用をより快適にする。フィッシャー・トロプシュ誘導基油はそれらの鉱物由来対応物よりも一般に色がより薄く、従来の鉱物油よりも色のむらが少ない示す傾向があるので、この文脈で本発明は追加的利点を提供できる。添加剤が存在する場合でさえ、本発明に係るグリース調合物は、典型的に鉱物由来油ベースの類似調合物よりも色がより薄い。さらに本発明によって可能になる添加剤レベルの低下もまた、グリース調合物全体の色を薄くして、色のむらを低下させるのを助けることができる。
【0140】
したがって本発明に係るグリース調合物は好適には、ASTM D−1500に従った評価で、0〜1.5(無色(「ウォーターホワイト」)から淡いベージュ)、好ましくは0〜1または0〜0.5のカラースケールの色を有してもよい。調合物中で使用されるフィッシャー・トロプシュ誘導基油はまた、好適には0〜1.5、好ましくは0〜1または0〜0.5のASTM D−1500色も有する。従来の鉱物油ベースのグリース、特に添加剤を含有するものは、典型的に色がはるかに濃く、1から(場合によっては)7(暗褐色)のASTM D−1500値を有する。
【0141】
本発明に係るグリース調合物は、好ましくは耐摩耗性、極圧特性、および抗フレッティング性などの良好な潤滑剤特性もまた示す。このような特性は、四球摩耗試験、四球極圧(EP)試験(融着荷重)、およびFafnirフレッティング試験などの専用試験方法を使用して評価してもよい。例えばASTM D−2266またはIP 239に従った四球摩耗試験では、本発明に係るグリース調合物は好ましくは0.6または0.5mm以下の摩耗傷直径を生じ、このような試験におけるより小さい直径は改善された耐摩耗特性を示唆する。さらにASTM D−2596に従った四球EP試験では、本発明に係るグリース調合物は好ましくは250kg以上の融着荷重を生じて、良好な極圧特性が示唆される。さらにASTM D−4170に従ったFafnirフレッティング試験では、本発明に係るグリース調合物は、好ましくは10mg以下の摩耗をもたらし、良好な抗フレッティング特性が示唆される。
【0142】
調合物は、フィッシャー・トロプシュ誘導基油および増粘剤に加えて、その他の構成要素を含有してもよい。それは例えば添加剤を含有して、酸化抵抗性(抗酸化添加剤)、銅ベース金属上の腐蝕抵抗性(銅腐蝕添加剤)、鋼上の水の作用による錆への抵抗(防錆剤)、耐摩耗および極圧特性(例えば耐摩耗添加剤)、摩擦特徴、フレッティング特徴、高温抵抗性および/または接着性または粘着性を増強してもよい。あらゆるこのような添加剤の性質および量は、調合物の意図される用途、および調合物に必須の特性および性能に左右される。
【0143】
特に断りのない限り、グリース調合物中のこのような追加的各構成要素の濃度は、例えば0.01〜10重量%または0.01〜5または4または3または2または1または0.5重量%など、好ましくは10重量%までである。調合物中の総添加剤含量は、好適には1〜10重量%、好ましくは5重量%未満であってもよい。(本明細書で述べられる全ての添加剤濃度は、特に断りのない限り、質量を基準とする活性物質濃度である。さらに全ての濃度は、特に断りのない限り、グリース調合物全体の百分率として述べられる)。
【0144】
本発明に係るグリース調合物を調製するために、必要に応じて上に列挙したものなどの1つ以上の添加剤構成要素を(好ましくは好適な希釈剤と共に)添加剤濃縮物中に共に混合してもよく、次に添加剤濃縮物を基油または基油/増粘剤混合物中に分散させてもよい。
【0145】
そのいくつかは全く意外であったが、フィッシャー・トロプシュ誘導基油を組み込むことの有益な効果のために、本発明に係るグリース調合物は、その他のより従来型の特に鉱物油ベースのグリース調合物よりも、さらに低レベルの添加剤を含有してもよい。本発明に係る調合物は、例えば50,000ppmw以下、場合によっては40,000または30,000または20,000または10,000ppmw以下、または5,000または2,000または1,000ppmw以下でさえある添加剤を含有してもよい。一実施態様では、調合物は実質的に皆無の添加剤を含有し(100ppmw未満の添加剤を含有することを意味する)、理想的には無添加である。
【0146】
特に調合物は、下述するように、本発明の第4の態様との関連で、低レベルのまたは好適には皆無の耐摩耗添加剤を含有してもよい。したがって例えば調合物は、2重量%未満、好適には1重量%未満または0.5重量%未満でさえある耐摩耗添加剤を含有してもよい。場合によっては、それは耐摩耗添加剤を全く含有しなくてもよい。
【0147】
同様に調合物は、下述するように、本発明の第5の態様との関連で、低レベルのまたは好適には皆無の銅腐蝕添加剤を含有してもよい。したがって例えば調合物は、0.3または0.2重量%未満、好適には0.1または0.05重量%未満の銅腐蝕添加剤を含有してもよい。場合によっては、それは銅腐蝕添加剤を全く含有しなくてもよい。
【0148】
調合物は、下述するように、本発明の第6の態様との関連で、低レベルのまたは好適には皆無の抗酸化添加剤を含有してもよい。したがって例えばそれは、1重量%未満、好適には0.5または0.3重量%未満の抗酸化添加剤を含有してもよい。場合によっては、それは抗酸化添加剤を全く含有しなくてもよい。
【0149】
調合物は、下述するように、本発明の第7の態様との関連で、低レベルのまたは好適には皆無の粘度調整添加剤を含有してもよい。例えばそれは、1重量%未満、好適には0.5または0.1重量%未満の粘度調整添加剤を含有してもよい。場合によっては、それは粘度調整添加剤を全く含有しなくてもよい。
【0150】
調合物は、下述するように、本発明の第8の態様との関連で、低レベルのまたは好適には皆無の低温流れ添加剤(例えば流動点降下剤)を含有してもよい。したがって例えばそれは、0.5重量%未満、好適には0.1または0.05重量%未満の低温流れ添加剤、特に流動点降下剤を含有してもよい。場合によっては、それは低温流れ添加剤を全く含有しなくてもよい。
【0151】
本発明の第2の態様に従って、調合物の耐摩耗性能を改善する目的で、グリース調合物中におけるフィッシャー・トロプシュ誘導基油の使用が提供される。
【0152】
グリース調合物の耐摩耗性能は、好適にはASTM D−2596、IP 239、DIN 51350などの標準試験法または類似技術を使用して、例えば四球摩耗試験などの摩耗試験を使用して評価できる。
【0153】
一般に耐摩耗性能の改善は、その表面が試験グリース調合物で覆われる、2つの相対運動する構成要素上の摩耗傷の減少(瘢痕量および/または深さの減少であってもよい)によって顕在化されてもよい。したがって例えば四球摩耗試験などの試験では、所定時間後の静止球表面の摩耗傷直径の減少は、より良好な抗摩耗性能を示唆する。耐摩耗性能の改善は、グリース調合物が使用されて潤滑される装置の使用可能寿命の増大によって、および/または装置の相対運動部品間の摩耗傷または同様の損傷の減少によって顕在化されてもよい。
【0154】
耐摩耗性能の改善は、その代わりにまたはそれに加えて、例えば標準試験法ASTM D−4170におけるフレッティングの減少によって、および/またはASTM D−1263などの軸受け漏出試験の改善された性能によって顕在化されてもよい。
【0155】
本発明の第2の態様の文脈で、グリース調合物の耐摩耗性能の「改善」は、フィッシャー・トロプシュ誘導基油を組み込む前の調合物の性能と比較した、または非フィッシャー・トロプシュ誘導基油を含有するその他の点では類似した調合物と比較した、あらゆる程度の改善を包含する。これは例えば所望の目標を達成するために、フィッシャー・トロプシュ誘導基油によって、調合物の耐摩耗性能を調節することを伴ってもよい。
【0156】
本発明に従って調製されたグリース調合物は、好適には、四球摩耗試験において40kgの加荷重(頂点のボールは1300rpmで回転し、操作温度は75℃である)で1時間後に、0.8mm以下の摩耗傷直径を生じる。これは上述の試験条件下で、0.7または0.6または0.5または0.4mm以下の摩耗傷直径を生じてもよい。好ましくはこれは上述のように、耐摩耗添加剤の不在下で、または少なくとも低レベルのみのこのような添加剤の存在下で、このような結果を生じる。
【0157】
本発明の第3の態様に従って、調合物の銅腐蝕性能を改善する目的でのグリース調合物中におけるフィッシャー・トロプシュ誘導基油の使用が提供される。
【0158】
グリース調合物の銅腐蝕性能は、それが接触する銅表面に着色を生じる早さの尺度であり、典型的に例えば100℃などの高温で、数時間または数日間にも及んで測定される。それは例えば標準試験法ASTM D−130、または類似技術を使用して評価されてもよい。銅腐蝕性能の改善は、このような条件下で、好適には3または5または10時間以上、または12または24時間以上にも及んで、グリース調合物に曝露された銅表面の着色量の減少によって顕在化されてもよい。
【0159】
本発明の第3の態様の文脈で、グリース調合物の銅腐蝕性能の「改善」は、フィッシャー・トロプシュ誘導基油を組み込む前の調合物の性能と比較した、または非フィッシャー・トロプシュ誘導基油を含有するその他の点では類似した調合物と比較した、あらゆる程度の改善を包含する。これは例えば所望の目標を達成するために、フィッシャー・トロプシュ誘導基油によって、調合物の銅腐蝕性能を調節することを伴ってもよい。
【0160】
本発明に従って調製されたグリース調合物は、好適には、100℃で24時間のASTM D−130試験において1b以下の銅腐蝕性能を生じる。これは上述の試験条件下で、1aの結果を生じてもよい。これは120℃以上で24時間にわたりASTM D−130試験を行った場合に、1aなどの1b以下の結果を生じてもよい。好ましくはこれは上述のように、銅腐蝕添加剤の不在下で、または少なくとも低レベルのみのこのような添加剤の存在下で、このような結果を生じる。
【0161】
調合物の耐摩耗性能および/または銅腐蝕性能を改善する目的での使用に代えて、またはそれに加えて(好適にはそれに加えて)、フィッシャー・トロプシュ誘導基油を次の目的の1つ以上のために使用してもよい。
i)調合物の酸化安定性を改善する、
ii)調合物の低温流れ特性を改善する、
iii)調合物の耐錆性を改善する、
iv)例えば標準試験法ASTM D−2596(四球融着荷重試験)を使用して測定される調合物の載荷性能を改善する、
v)調合物の機械的安定度を改善する、
vi)調合物の油分離傾向を改善する。
【0162】
特にフィッシャー・トロプシュ誘導基油は、調合物の耐錆性を改善する目的で使用してもよい。
【0163】
グリース調合物が現行の性能仕様を満たし、および/または消費者要求を満足させるために、上の特性は典型的にモニターし調節する必要がある。例えば該当仕様を満たすのに、特定レベルの低温流れ性能(例えば最大流動点)が望ましいかもしれず、特定の最小動粘度、特定レベルの酸化安定性、および/または特定レベルの機械的安定度が望ましいかもしれない。本発明に従って、フィッシャー・トロプシュ誘導基油の包含により、多くの場合はレベルの低下したまたは皆無でさえある添加剤の存在で、このような規格を同時に全て達成できるかもしれない。
【0164】
グリース調合物の酸化安定性は、ASTM D−942などの標準方法または類似方法を使用して測定してもよい。グリース調合物の酸化安定性の「改善」は、フィッシャー・トロプシュ誘導基油を組み込む前の調合物の酸化安定性と比較した、または非フィッシャー・トロプシュ誘導基油を含有するその他の点では類似した調合物と比較した、あらゆる程度の改善を包含する。これは例えば所望の目標を達成するまたはそれを上回るために、フィッシャー・トロプシュ誘導基油によって、調合物の酸化安定性を調節することを伴ってもよい。
【0165】
グリース調合物の低温流れ特性は、例えば0℃以下の低温におけるその取り扱いの容易さを反映するかもしれない。これは低温トルク(ASTM D−4693)または流れ圧力(DIN51805)試験などの試験を使用して、評価してもよい。グリース調合物の低温流れ特性の「改善」は、フィッシャー・トロプシュ誘導基油を組み込む前の調合物の低温流れ特性と比較した、または非フィッシャー・トロプシュ誘導基油を含有するその他の点では類似した調合物と比較した、あらゆる程度の改善を包含する。これは例えば所望の目標を達成するまたはそれを上回るために、フィッシャー・トロプシュ誘導基油によって、調合物の低温流れ特性を調節することを伴ってもよい。
【0166】
グリース調合物の耐錆性は、IP 220などの標準方法または類似方法を使用して測定されてもよい。グリース調合物の耐錆性の「改善」は、フィッシャー・トロプシュ誘導基油を組み込む前の調合物の耐錆性と比較した、または非フィッシャー・トロプシュ誘導基油を含有するその他の点では類似した調合物と比較した、あらゆる程度の改善を包含する。これは例えば所望の目標を達成するまたはそれを上回るために、フィッシャー・トロプシュ誘導基油によって、調合物の耐錆性を調節することを伴ってもよい。
【0167】
グリース調合物の機械的安定度は、ASTM D−1831などの標準方法または類似方法を使用して測定されてもよい。グリース調合物の機械的安定度の「改善」は、フィッシャー・トロプシュ誘導基油を組み込む前の調合物の機械的安定度と比較した、または非フィッシャー・トロプシュ誘導基油を含有するその他の点では類似した調合物と比較した、あらゆる程度の改善を包含する。これは例えば所望の目標を達成するまたはそれを上回るために、フィッシャー・トロプシュ誘導基油によって、調合物の機械的安定度を調節することを伴ってもよい。
【0168】
グリース調合物の分離傾向は、IP 121などの標準方法または類似方法を使用して測定されてもよい。グリース調合物の油分離傾向の「改善」は、フィッシャー・トロプシュ誘導基油を組み込む前の調合物の油分離傾向と比較した、または非フィッシャー・トロプシュ誘導基油を含有するその他の点では類似した調合物と比較した、あらゆる程度の改善を包含する。これは例えば所望の目標を達成するまたはそれを上回るために、フィッシャー・トロプシュ誘導基油によって、調合物の油分離傾向を調節することを伴ってもよい。
【0169】
本発明の文脈で、グリース調合物中でのフィッシャー・トロプシュ誘導基油の「使用」とは、典型的に1つ以上の増粘剤との、および任意に上述したものなどの1つ以上の添加剤との配合物(すなわち物理的混合物)として、基油を調合物に組み込むことを意味する。
【0170】
このような使用はまた、例えば耐摩耗性能または銅腐蝕性能の所望の目標水準、および/または耐錆性の所望の目標水準、および/または酸化安定性の所望の目標水準、および/または所望の目標粘度、および/または所望の目標低温流動特性を達成し、および/または調合物中の添加剤濃度を低下させるためなど、本発明の第2のおよび/または第3の態様の目的を達成するための、グリース調合物中でのその使用に関する説明書と共にフィッシャー・トロプシュ誘導基油を提供することを包含してもよい。
【0171】
上述のように、本発明に係るグリース調合物中のフィッシャー・トロプシュ誘導基油の存在は、調合物の耐摩耗性能の意外な増強をもたらすことができる。これは次により低濃度の耐摩耗添加剤の使用を可能にし、または場合によってはこのような添加剤が完全に必要なくなる。換言すれば、フィッシャー・トロプシュ誘導基油を包含することで、耐摩耗性能の所望の目標水準を達成するために、グリース調合物中でより低レベルの耐摩耗添加剤が潜在的に使用できるようになる。
【0172】
したがって第4の態様に従って、本発明は調合物中の耐摩耗添加剤濃度を低下させる目的での、グリース調合物中におけるフィッシャー・トロプシュ誘導基油の使用を提供する。
【0173】
耐摩耗添加剤は、潤滑剤またはグリース調合物の耐摩耗特徴を改善する添加剤と定義されてもよい。グリース調合物中で使用される既知の耐摩耗添加剤の例としては、金属ジアルキルジチオホスフェート、金属ジアルキルジチオカルバメート、無金属ジアルキルジチオリホスフェート、無金属ジアルキルジチオカルバメート、リン酸の完全または部分的エステル、およびホウ酸の完全または部分的エステルが挙げられる。
【0174】
本発明のこの第4の態様の文脈で、「低下」という用語は、例えば元の耐摩耗添加剤濃度の10%以上、好ましくは15または20または25%以上などのあらゆる程度の低下を包含する。低下は元の耐摩耗添加剤濃度の例えば10〜75%、または25〜50%であってもよい。場合によっては低下は100%であってもよく、すなわち耐摩耗添加剤濃度ゼロへの低下であってもよい。低下は、その意図される用途の文脈で、それに必要とされるまたは所望の特性および性能を達成するために、さもなければグリース調合物に組み込まれたであろう当該添加剤濃度と比較しての低下であってもよい。これは例えば、フィッシャー・トロプシュ誘導基油が本発明によって提供されるやり方で使用できるという認識前に調合物中に存在した、またはフィッシャー・トロプシュ誘導基油を添加する前に類似した文脈で使用することが意図される(例えば市販される)その他の点では類似性の調合物中に存在した、または非フィッシャー・トロプシュ誘導(特に鉱物由来)基油を含有するその他の点では類似性の調合物中に存在した、添加剤濃度であってもよい。
【0175】
本発明に従って調製されるグリース調合物中での耐摩耗添加剤の(活性物質)濃度は、10,000ppmw以下、好ましくは8000または5000ppmw以下、例えば5000〜1000ppmwであってもよい。調合物は皆無、または実質的に皆無の耐摩耗添加剤を含有してもよい。
【0176】
上述のように、フィッシャー・トロプシュ誘導基油の包含は、対応して高い増粘剤濃度と共に、グリース調合物に追加的利点を提供できる。これによって次にその他のグリース添加剤が、より従来型の鉱物ベースの調合物よりもさらに低レベルで使用できるようになる。
【0177】
第5の態様に従って、例えば本発明は調合物中の銅腐蝕添加剤濃度を低下させる目的での、グリース調合物中におけるフィッシャー・トロプシュ誘導基油の使用を提供する。
【0178】
銅腐蝕添加剤は、潤滑剤またはグリース調合物の銅腐蝕性能を向上させる添加剤と定義されてもよい。グリース調合物中で使用される既知の銅腐蝕添加剤の例としては、ベンゾトリアゾール、トルオトリアゾール、および酸化亜鉛が挙げられる。
【0179】
本発明に従って調製されたグリース調合物中での銅腐蝕添加剤(活性物質)濃度は、500ppmw以下、好ましくは250ppmw以下、例えば250〜100ppmwであってもよい。調合物は皆無、または実質的に皆無の銅腐蝕添加剤を含有してもよい。
【0180】
本発明の第6の態様は、調合物中の抗酸化添加剤濃度を低下させる目的での、グリース調合物中におけるフィッシャー・トロプシュ誘導基油の使用を提供する。
【0181】
抗酸化添加剤は、グリース調合物、またはその構成要素のいずれかが、自動酸化過程を通じたものを含めて酸化する傾向を低下させ、および/または酸素存在下での調合物の貯蔵安定性を改善する添加剤と定義されてもよい。グリース調合物中で使用される既知の抗酸化剤の例としては、特にジフェニルアミンおよび置換ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミンおよび置換フェニルα−ナフチルアミンなどの有機アミン化合物と、重合トリメチルジヒドロキノリンなどのキノリン化合物と、有機フェノール化合物と、有機イオウ化合物とが挙げられる。
【0182】
本発明に従って調製されたグリース調合物中での抗酸化添加剤の(活性物質)濃度は、5000ppmw以下、好ましくは2500ppmw以下、例えば2500〜500ppmwであってもよい。調合物は皆無、または実質的に皆無の抗酸化添加剤を含有してもよい。
【0183】
本発明の第7の態様は、調合物中の粘度調整添加剤濃度を低下させる目的での、グリース調合物中におけるフィッシャー・トロプシュ誘導基油の使用を提供する。
【0184】
粘度調整添加剤は、温度による流体粘度の変化速度を低下させる添加剤と定義されてもよい。グリース調合物中で使用される既知の粘度調整添加剤の例としては、エチレン−プロピレンポリマー、エチレン−プロピレン−ジエン−モノマーポリマー、およびアクリル酸ポリマーなどの炭化水素ポリマーが挙げられる。
【0185】
本発明に従って調製されたグリース調合物中における粘度調整添加剤の(活性物質)濃度は、1000ppmw以下、好ましくは500または250ppmw以下、例えば250〜50ppmwであってもよい。調合物は好ましくは皆無、または実質的に皆無の粘度調整添加剤を含有する。
【0186】
本発明の第8の態様は、調合物中の低温流れまたは流れ改良添加剤濃度を低下させる目的での、グリース調合物中におけるフィッシャー・トロプシュ誘導基油の使用を提供する。
【0187】
低温流れ添加剤は、上述のように調合物の低温流れ特性を改善できるあらゆる材料と定義されてもよい。流れ改良添加剤は、あらゆる所定温度における調合物の流れる能力または傾向を改善できる材料である。
【0188】
既知の低温流れ添加剤の例としては、例えば様々な分子量および構造のポリアルキルメタクリレートが挙げられる。
【0189】
本発明に従って調製されたグリース調合物中における低温流れ添加剤の(活性物質)濃度は、250ppmwまで、好ましくは100ppmwまでであってもよい。その(活性物質)濃度は、好適には少なくとも10ppmw、好ましくは少なくとも50ppmwである。調合物は皆無、または実質的に皆無の低温流れ添加剤を含有してもよい。
【0190】
第9の態様は、調合物中の防錆添加剤濃度を低下させる目的での、グリース調合物中におけるフィッシャー・トロプシュ誘導基油の使用を提供する。
【0191】
防錆添加剤は、潤滑剤またはグリース調合物によって提供される、水と接するが潤滑剤またはグリース調合物のフィルムによって保護される、鋼または鉄表面の錆に対する抵抗性を改善する添加剤と定義されてもよい。グリース調合物中で使用される既知の防錆添加剤の例としては、中性金属有機スルホン酸塩と、過塩基性金属有機スルホン酸塩と、金属ナフテン酸塩と、一塩基、二塩基および多塩基カルボン酸の金属塩と、アルキルコハク酸反応生成物とが挙げられる。
【0192】
本発明に従って調製されたグリース調合物中での防錆添加剤の(活性物質)濃度は、5000ppmw以下、好ましくは2000ppmw以下、例えば2000〜500ppmwであってもよい。調合物は皆無、または実質的に皆無の防錆添加剤を含有してもよい。
【0193】
本発明の第5〜第9の態様の文脈で、「低下」という用語は、変更すべきところは変更して第4の態様の文脈と同様の意味を有する。
【0194】
本発明の第10の態様は、それによって本発明の第2〜第9の態様との関連で上述した利点の1つ以上を達成するための、増粘剤濃度を増大させる目的での、増粘剤を含有するグリース調合物中でのフィッシャー・トロプシュ誘導基油の使用を提供する。
【0195】
第11の態様に従って、本発明は、第1の態様に従ったグリース調合物などのグリース調合物を調製する方法を提供し、方法は、任意に1つ以上の添加剤と、増粘剤およびフィッシャー・トロプシュ誘導基油を共に混合する工程を含む。本方法は第2〜第10の態様との関連で上述した、1つ以上の目的のために実施されてもよい。本発明のこの態様のその他の好ましい特徴は、第1〜第10の態様との関連で上述したようであってもよく、特に増粘剤は石鹸を含んでいてもよい。
【0196】
第11の態様の方法は、例えば石鹸ベース増粘剤である増粘剤をフィッシャー・トロプシュ誘導基油中で製造し、引き続いて得られた混合物にあらゆる所望の添加剤を組み込むことを伴ってもよい。
【0197】
第12の態様は、装置中の潤滑剤としての、本発明の第1の態様に従ったグリース調合物、および/または第2〜第11の態様のいずれか1つに従って調製されたグリース調合物の使用を伴う、機械設備物品を稼働させる方法を提供する。グリース調合物は、上述の利点の1つ以上から恩恵を受けるように、装置中で使用されてもよい。設備物品は例えば、自動車車輪ハブ;工業機械;電気モーター;等速継手などの変速機継手;自動車のステアリング継手またはカルダン軸;またはコンベヤーの駆動ギアなどのギアアセンブリー中の転動体軸受けなどであってもよい。
【0198】
第13の態様に従って、本発明は、第1の態様に従ったグリース調合物、および/または第2〜第11の態様のいずれか1つに従って調製されたグリース調合物を含有する機械設備物品を提供する。
【0199】
本明細書の記載および特許請求の範囲を通して、用語「含む(comprise)」および「含有する(contain)」およびそれらの用語の変形、例えば「含む(comprising)」および「含む(comprises)」は、「含むがそれらに限定されない」ことを意味し、他の部分、添加剤、構成成分、整数もしくは工程を除外することを意図しない(そして除外しない)。
【0200】
本明細書の記載および特許請求の範囲を通して、単数形は、文脈が複数でないことを要求していない限り、複数形を含む。具体的には不定冠詞が使用される場合、本明細書は、文脈が複数でないことを要求していない限り、単数だけでなく複数も意図していると理解される。
【0201】
本発明の各態様の好ましい特徴は、その他の態様のいずれかとの関連で述べられているとおりであってもよい。
【0202】
本発明のその他の特徴は、以下の実施例から明らかになるであろう。一般的に言えば本発明は、(あらゆる添付の特許請求の範囲および図面を含む)本明細書で開示される特徴のうちの新規ないずれか1つ、またはそのあらゆる新規な組み合わせに及ぶ。本発明の特定の態様、実施形態もしくは実施例と結びつけて述べられる特徴、整数、特性、化合物、化学的部分もしくは化学基は、矛盾していない限り、本明細書に記載したあらゆるその他の態様、実施形態または実施例に適用できるものと理解される。
【0203】
さらに特に断りのない限り、ここで開示されるあらゆる特徴は、同一または同様の目的に適う代案の特徴によって置き換えられてもよい。
【0204】
以下の実施例は、本発明に係るグリース調合物の特性および性能を例示する。
【実施例】
【0205】
本発明に係るリチウムグリース調合物を調製し、それらの特性を試験して、標準的な市販される鉱物油ベースのグリースと比較した。
【0206】
各調合物は、大きな割合のフィッシャー・トロプシュ誘導基油を含有した。使用された2つの基油であるBO−1およびBO−2は、下の表1に示す特性を有した。それらは上述のものと類似したフィッシャー・トロプシュ法を使用して調製された。
【0207】
【表1】

【0208】
フィッシャー・トロプシュ誘導基油が、高粘度指数、低流動点(例えば重質基油BO−1の場合、典型的な鉱物由来「グループI」基油よりも約10または20℃低い)、高引火点、および低蒸発速度(より高い温度操作条件下での安定性にとって潜在的に有益である)を有するのを認めることができる。最重質油BO−1は、その製造中に除去されない少数の残留ワックス結晶の存在のために外観がわずかに濁っているが、これはグリース調合物中では問題でなく、最終生成物の特性に影響するとは考えられない。しかしこの濁りのために、BO−1の粘度は40℃では正確に測定できなかった。したがって表1に示す値は、100および70℃で測定した値から計算される。
【0209】
実施例1
標準Pretzschケトル手順を使用して、基油BO−1を含有するリチウムグリース調合物GF−1を調製した。
【0210】
1100gの基油、330gの水素化ヒマシ油、および46.2gの水酸化リチウムを50gの水と共にPretzschケトルに入れた。この混合物を密封したケトル内で撹拌しながら、およそ150℃に加熱した。蒸気を排気しておよそ220℃まで加熱を継続した。次に反応塊を冷却した。
【0211】
200から165℃に、冷却は分あたり1℃の速度で行われた。163℃の装入温度で、723.8gの基油を10分間かけて添加した。次に油冷却器のスイッチを入れた。グリースが室温に冷却したら、それを例えば三本ロール練り機に1度通過させることで均質化した。
【0212】
完成調合物GF−1は、82.9重量%の基油、15重量%の水素化ヒマシ油、および2.1重量%の水酸化リチウムを含有する、淡いベージュのグリースであった。全石鹸含量は、油の極性および粘度データに基づいて、浸透価280前後のグリースを生じるのに必要であると予測されたものに近かった。
【0213】
GF−1は、いかなる性能向上添加剤も含有しなかった。
【0214】
グリース調合物GF−1のいくつかの関連特性を、標準試験法、ならびにいくつかの追加的試験手順を使用して測定した。同一特性はまた、市販される鉱物油ベースのグリース調合物GF−A(ex−Shell)についても測定した。結果を下の表2に示す。
【0215】
【表2−1】


【表2−2】

【0216】
GF−1の収率(すなわち特定の粘稠度または浸透値を達成するのに必要な増粘剤の量)は、従来の鉱物油グリースよりも顕著に低く、フィッシャー・トロプシュ基油のより低い極性に基づく予測が確認された。フィッシャー・トロプシュ誘導油は、典型的な鉱物由来「グループI」基油よりも最高75%多い増粘剤を必要とすることが知られている。
【0217】
より高い増粘剤含量はまた、改善された機械的安定度およびより低い油分離をもたらすことが知られている。これはGF−1の安定性および油分離が、従来の鉱物油ベースのグリースをはるかに凌ぐことを示す、表2のデータによって確認された。実際、80℃におけるGF−1の油分離は、40℃における従来のリチウムグリースとほぼ等しい。これらの安定性および油分離の利点は、130℃での車輪軸受け漏出試験の結果に反映され、GF−1の性能は、通常は良好な錯体グリースに期待される性能のようであった。これらの結果は、GF−Aがベースとする鉱物基油でなく、フィッシャー・トロプシュ誘導基油を使用したために、予想以上に良かった。
【0218】
より意外なのは、四球摩耗試験の結果である。本発明のグリース調合物の性能は、特にそれが認識される耐摩耗添加剤を含有しなかったことを考えれば、傑出していた。GF−1は、より低い増粘剤量を含有するベースグリースによって提供されるよりも、さらに高い耐摩耗効果を与えた。
【0219】
GF−1はまた、蒸留水でのEmcor錆試験における優れた結果も与えた。これもまた、無添加グリースに取っては意外である。
【0220】
最高150℃にまで達する、GF−1の銅腐蝕試験結果もまた傑出していた。
【0221】
酸化試験の結果もまた、抗酸化剤の不在にもかかわらず、十分に標準グリース調合物の正常な仕様範囲内である。
【0222】
総体的に、本発明に係るグリース調合物の特性および性能は、十分に典型的な高品質グリースの仕様の範囲内であり、多くの点でそれを上回る。例えばその安定性は、典型的な水酸化リチウムグリースよりも、むしろリチウム錯体グリースとより良く一致する。四球耐摩耗試験におけるその性能は、GF−1それ自体が添加剤を含有しないという事実にもかかわらず、高品質耐摩耗添加剤含有グリースに匹敵する。
【0223】
実施例2
基油BO−2を使用して、本発明に係る第2のリチウムグリース調合物GF−2を調製した。調製方法は、実施例1で述べられているとおりであった。
【0224】
完成調合物GF−2は、84.9重量%の基油、13.2重量%の水素化ヒマシ油、および1.9重量%の水酸化リチウムを含有する、淡いベージュのほぼ白色のグリースであった。
【0225】
グリース調合物GF−2のいくつかの関連特性を標準試験法を使用して測定した。同一特性はまた、市販される鉱物油ベースのグリース調合物GF−B(ex−Shell)についても測定した。結果を下の表3に示す。
【0226】
GF−2およびGF−Bのいずれも、いかなる性能向上添加剤も含有しなかった。
【0227】
【表3】

【0228】
表3のデータからは、特定の粘稠度のグリースを作製するために、フィッシャー・トロプシュ基油BO−2が、従来の鉱物油よりも顕著により多くの増粘剤(この場合は47%多い)を必要とすることが確認される。これは効果が、BO−1に代表される特定の高粘度等級だけでなく、フィッシャー・トロプシュ誘導油に一般にあてはまることを実証する。
【0229】
さらに表3からは、フィッシャー・トロプシュ誘導基油の使用によってもたらされる増大された増粘剤含量が、従来の鉱物基油でできた対応するグリースよりもさらに良好な耐摩耗性能をもたらすことが確認される。
【0230】
したがって本発明は、性能が向上したグリース調合物を提供し、および/または性能仕様を満たすために以前必要とされたのよりもさらに低い添加剤レベルのグリースの調製を可能にすることを認めることができる。より低い添加剤レベルは、次に製造するのに要するコストと時間を削減でき、ならびに例えば法的要件に適合して消費者の期待を満たし、および/または使用者を保護するなど、添加剤レベルおよび品質をモニタリングするのに必要とされる労力を削減できる。
【0231】
実施例3
リチウム錯体グリース調合物GF−3を本発明に従って調製し、その特性を試験して、標準的な市販される鉱物油ベースのグリースGF−Cと比較した。調合物GF−3は、上の表1に掲載される高い割合のフィッシャー・トロプシュ誘導基油BO−1を含有した。それは標準Pretzschケトル手順に基づく以下の方法を使用して調製した。
【0232】
1部の固体と5部の水の比率で、LiOH.HO、ホウ酸、サリチル酸、および水のスラリーを低温の基油中の水素化ヒマシ油脂肪酸に添加した。混合物を密封オートクレーブ内で170℃に加熱した。蒸気を排気して220℃まで加熱を継続した後、反応塊を冷却して生成物を均質化した。完成調合物GF−3は76.2重量%の基油、および12.6重量%の水素化ヒマシ油を含有した。それはいかなる性能向上添加剤も含有せず、外観は淡いベージュであった。
【0233】
グリース調合物GF−3のいくつかの関連特性を標準試験法を使用して測定した。同一特性はまた、市販される鉱物油ベースのリチウム錯体EP(極圧)グリース調合物GF−C(ex−Shell)についても測定した。結果を下の表4に示す。
【0234】
【表4】

【0235】
ここでもGF−3の収率は、従来の鉱物油グリースよりも顕著により低く、フィッシャー・トロプシュ基油のより低い極性に基づく予測が確認された。
【0236】
表4のデータはGF−3の安定性および油分離が、従来の鉱物ベースのグリース調合物GF−Cと一致することを示す。
【0237】
GF−3の滴点はGF−Cよりも高く、これはGF−3が添加剤を含有していないことによる。数多くの添加剤は、グリースの滴点を低下させまたは抑制することが知られており、あらゆる添加剤の不在はこれが起きるリスクを取り除く。
【0238】
より意外なのは、四球融着試験の結果である。本発明の添加剤非含有グリース調合物(GF−3)の性能は、四球融着試験における性能をはじめとする極圧グリース特性を改善する明確な目的のためにEP添加剤を含有する、GF−Cと同一であった。EP/摩耗特性の別の指標であるFafnirフレッティング試験におけるGF−3の性能もまた、添加剤含有鉱物油ベースグリースGF−Cより良好であった。
【0239】
同じように意外なことには、GF−3の酸化試験の結果は、100時間の試験時間後に鉱物油ベンチマークのGF−Cと一致したが、400時間後にはGF−Cよりも顕著により良好であった。これはたとえGF−Cに含有されるような酸化抑制添加剤がなくても、GF−3に固有の酸化抵抗性を示唆する。
【0240】
150℃におけるFAG FE−9軸受け寿命試験は、フィッシャー・トロプシュ基油の高増粘剤含量グリース形成特性の有効性に対する、さらなる卓越した証拠を提供する。本発明のグリースGF−3は、上述したタイプの化学添加剤が全く存在しないにもかかわらず、完全添加高性能リチウム錯体グリースに要求される100時間の稼働時間を上回る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0241】
【特許文献1】GB−B−2077289号明細書
【特許文献2】EP−A−0147873号明細書
【特許文献3】EP−A−0583836号明細書
【特許文献4】米国特許第4125566号明細書
【特許文献5】米国特許第4478955号明細書
【特許文献6】EP−A−0583836号明細書
【特許文献7】国際公開第02070629号パンフレット
【特許文献8】米国特許第7053254号明細書
【非特許文献】
【0242】
【非特許文献1】1985年11月の第5回Synfuels Worldwide Symposium,Washington DCで発表されたvan der Burgtらの論文「The Shell Middle Distillate Synthesis Process」

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増粘剤およびフィッシャー・トロプシュ誘導基油を含有し、フィッシャー・トロプシュ誘導基油が100℃で8〜30mm/sの動粘度を有する、グリース調合物。
【請求項2】
フィッシャー・トロプシュ誘導基油が、100℃で8〜25mm/s、好ましくは10〜25mm/sの動粘度を有する、請求項1に記載のグリース調合物。
【請求項3】
増粘剤が石鹸を含む、請求項1または2に記載のグリース調合物。
【請求項4】
10重量%以上の増粘剤を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のグリース調合物。
【請求項5】
グリース調合物の耐摩耗性能および/または銅腐蝕性能を改善する目的での調合物中でのフィッシャー・トロプシュ誘導基油の使用。
【請求項6】
フィッシャー・トロプシュ誘導基油がさらに、
i)調合物の酸化安定性を改善し、
ii)調合物の低温流れ特性を改善し、
iii)調合物の耐錆性を改善し、
iv)例えば標準試験法ASTM D−2596(四球融着荷重試験)を使用して測定される調合物の載荷性能を改善し、
v)調合物の機械的安定度を改善し、
vi)調合物の油分離傾向を改善する
目的の1つ以上のために使用される請求項5に記載の使用。
【請求項7】
調合物中の添加剤濃度を低下させる目的での、グリース調合物中でのフィッシャー・トロプシュ誘導基油の使用。
【請求項8】
添加剤が耐摩耗添加剤または銅腐蝕添加剤である、請求項7に記載の使用。

【公表番号】特表2011−506663(P2011−506663A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−537420(P2010−537420)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【国際出願番号】PCT/EP2008/067116
【国際公開番号】WO2009/074577
【国際公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】