説明

グレープバインモス及びヨーロピアングレープベリーモスの交信撹乱方法

【課題】欧州におけるブドウの要害虫であるヨーロピアングレープバインモス(GVM)とヨーロピアングレープベリーモス(EGBM)の両方の性フェロモン物質を用いて、両方の害虫を同時に防除する。
【解決手段】GVMとEGBMの同時防除方法であって、主要害虫がGVMである地域Aにおいて、第二害虫のEGBMが発生した場合又は発生する恐れがある場合に、GVM性フェロモン交信撹乱製剤中のGVM性フェロモン成分量の5〜30質量%のEGBM性フェロモン成分を該製剤に含有させ、又は、主要害虫がEGBMである地域Bにおいて、第二害虫のGVMが発生した場合又は発生する恐れがある場合に、EGBM性フェロモン交信撹乱製剤中のEGBM性フェロモン成分量の5〜35質量%のGVM性フェロモン成分を該製剤に含有させ、GVM及びEGBM兼用交信撹乱製剤を得る工程等を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、欧州におけるブドウの最重要害虫であるグレープバインモス(Lobesia botrana、以下、「GVM」という。)とヨーロピアングレープベリーモス(Eupoecilia ambiguella、以下、「EGBM」という。)の両方の性フェロモン物質を圃場に漂わせ、両方の害虫の交尾行動を撹乱させて同時害虫防除する交信撹乱方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
交信撹乱による害虫の防除は、人工的に合成した対象害虫の性フェロモン物質を大気中に放散、浮遊させ、雄雌間の交信を撹乱させて交尾率を下げ、次世代の誕生を抑制することにより行われる。そのような性フェロモン物質を用いた害虫防除方法は、人畜、天敵、環境に影響しない等の利点があるため大いに期待されているが、殺虫剤防除と比較して次のような大きな欠点がある。一つ目は、狭い面積では性フェロモン物質の濃度の維持が困難である上に、周囲から対象害虫が飛び込んできたり、天敵の維持が困難である場合があることである。二つ目は、性フェロモン物質は種特異的で、類似害虫にさえも効果がないことである。三つ目は、最も防除が必要である害虫密度が高い時に性フェロモン物質による交信撹乱効果が低下することである。そのため、性フェロモン物質を用いた防除方法は期待されているほど普及していない。
【0003】
一つ目の欠点については、大面積で性フェロモン交信撹乱製剤を使用することで効果が大きくなることが知られているので、集団防除をすることにより改善できる。加えて、徐々に性フェロモン交信撹乱製剤の使用量を徐々に減らすことも可能で、当初、性フェロモン交信撹乱製剤を500本/ha使用していた地域で、密度の低下に伴って数年後には250〜350本/haにまで減らすことができている。一方、三つ目の欠点については、一般に実害が少ない第一世代から防除することによって問題を解決している。
【0004】
また、二つ目の欠点については、特に、二種類以上の害虫を対象にする場合、性フェロモン物質が種特異的で、類似害虫にさえも作用しないため、複数の性フェロモン物質を用いる必要がある。例えば、リンゴでは、コドリングモス(以下、「CDM」という。)とリーフローラー(以下、「LR」という。)の二種類の害虫がいるためそれらの性フェロモン物質を用いた交信撹乱製剤が用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】IOBC wprs Bulletin Vol.24(2)2001 pp.65−69
【非特許文献2】IOBC wprs Bulletin Vol.24(2)2001 pp.71−73
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、気温の低いドイツ以北ではEGBMが主流で、殺虫剤散布区ではGVMの被害は殆ど認められていない。一方、イタリア、スペイン等ヨーロッパ南部ではGVMが主流でEGBMは認められていない。
しかしながら、イタリアのトレンチーノでは、GVMの性フェロモン物質を用いた防除方法が成功し、大面積で性フェロモン交信撹乱製剤を使用してきたが、永年殺虫剤の散布を省略したことでEGBMが次第に増加する現象が散見された。殺虫剤である有機燐剤やピレスロイドは、GVMにもEGBMに対しても防除効果を期待できるが、GVMの性フェロモン交信撹乱製剤はEGBMには全く効果を発揮しない。また、逆もそうである。両者は、非常に類似している害虫同士ではあるが、GVMの性フェロモン物質はE7,Z9−ドデカジエニルアセテート(E7Z9−12:Ac)であり、EGBMの性フェロモン物質はZ9−ドデセニルアセテート(Z9−12:Ac)であり、お互いに阻害効果はないものの交信撹乱効果もない。よって、そのような地域ではこれまで、GVMとEGBMそれぞれの性フェロモン交信撹乱製剤を同時に用いるか又は各害虫の性フェロモン物質を等量に近い割合で混合したものを使用していた。そのため、結果的には殺虫剤防除に比較し経済性が失われていた。
【0007】
本発明は、欧州におけるブドウの最重要害虫であるGVMとEGBMの両方の性フェロモン物質を用いて、両方の害虫を同時に防除する方法であるが、特に、一方の害虫が主要な地域において、もう一方の害虫が発生した場合又は発生する恐れがある場合の防除方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、性フェロモン交信撹乱法の効果の度合いが、害虫の密度に依存することを考慮し、比較的害虫密度の低い第一世代以降の世代について、GVMの性フェロモン交信撹乱製剤に少量のEGBMの性フェロモン物質を添加したものの防除効果を調査した。その結果、EGBMの初期密度によってその性フェロモン物質の添加量を調節することで、二つの害虫の同時防除が可能であることが判明した。
すなわち、殺虫剤で防除していた時にはEGBMの被害が認められていなかった地域で、連年GVM単独の性フェロモン交信撹乱製剤防除をしてきて、前年度末期のEGBMによる房の被害率が3%以下である地域では、GVMの性フェロモン物質投与量の5〜20質量%、3%を超える被害があった地域では10質量%を超えて30質量%以下のEGBM性フェロモン成分をGVM性フェロモン交信撹乱製剤に添加をすることによって、EGBMとGVMの両者防除が可能であることが判明した。
【0009】
本発明は、主要害虫の性フェロモン交信撹乱製剤に第二害虫の性フェロモン物質を少量添加することで二つの害虫を同時に防除するため、主要害虫の性フェロモン交信撹乱製剤に第二害虫の性フェロモン物質を少量添加した交信撹乱製剤を用いた防除方法が有用であることを見出した。
本発明よれば、GVMとEGBMの同時防除方法であって、主要害虫がGVMである地域Aにおいて、第二害虫のEGBMが発生した場合又は発生する恐れがある場合に、GVM性フェロモン交信撹乱製剤中のGVM性フェロモン成分量の5〜30質量%のEGBM性フェロモン成分を該GVM性フェロモン交信撹乱製剤に含有させ、又は、主要害虫がEGBMである地域Bにおいて、第二害虫のGVMが発生した場合又は発生する恐れがある場合に、EGBM性フェロモン交信撹乱製剤中のEGBM性フェロモン成分量の5〜35質量%のGVM性フェロモン成分を該EGBM性フェロモン交信撹乱製剤に含有させ、GVM及びEGBM兼用交信撹乱製剤を得る工程と、上記地域に上記GVM及びEGBM兼用交信撹乱製剤を設置する工程とを含むGVM及びEGBMの同時防除方法を提供できる。
また、本発明によれば、GVMの性フェロモン物質と、EGBMの性フェロモン物質とを少なくとも含んでなる、GVM及びEGBMの同時防除のためのGVM及びEGBM兼用交信撹乱製剤であって、上記GVMの性フェロモン物質100質量部に対して上記EGBMの性フェロモン物質が5〜30質量部であるか、又は、上記EGBMの性フェロモン物質100質量部に対して上記GVMの性フェロモン物質が5〜35質量部であるGVM及びEGBM兼用交信撹乱製剤を提供できる。
【発明の効果】
【0010】
従来、主要害虫がGVMである地域において、第二害虫のEGBMが発生した場合又は発生する恐れがある場合や、主要害虫がEGBMである地域において、第二害虫のGVMが発生した場合又は発生する恐れがある場合には、GVMとEGBMそれぞれの性フェロモン交信撹乱製剤を同時に用いるか又は各害虫の性フェロモン物質を等量に近い割合で混合した交信撹乱製剤を使用せざるを得ないと考えられていたため、結果的には殺虫剤防除に比較し経済性が失われていた。
しかし、本発明によれば、主要害虫の交信撹乱製剤中に第二害虫の性フェロモン物質を少量添加した交信撹乱製剤を用いることにより、経済性を維持しながら両者を同時に防除できる。また、GVMとEGBMの各害虫の性フェロモン物質を等量に近い割合で混合したものの使用と比べて、性フェロモン物質の使用量を節約できるだけでなく、それぞれの単剤の使用と比べて、設置本数も減らせる点から設置作業も容易になる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明によれば、GVM及びEGBMの同時防除方法は、主要害虫がGVMである地域においては、第二害虫のEGBMが発生した場合又は発生する恐れがある場合に、GVM性フェロモン交信撹乱製剤中にGVM性フェロモン物質量の5〜30質量%のEGBM性フェロモン物質を添加した交信撹乱製剤を用いた防除方法である。また、主要害虫がEGBMである地域においては、第二害虫のGVMが発生した場合又は発生する恐れがある場合に、EGBM性フェロモン交信撹乱製剤中にEGBM性フェロモン物質量の5〜35質量%のGVM性フェロモン物質を添加した交信撹乱製剤を用いた防除方法である。
【0012】
具体的には、主要害虫がGVMである地域において、前年度のEGBMの被害率が0〜3%の場合には、GVM性フェロモン交信撹乱製剤中のGVM性フェロモン成分量の5〜20質量%、好ましくは8〜20質量%、更に好ましくは10〜20質量%のEGBMの性フェロモン物質をGVMの性フェロモン交信撹乱製剤に添加した交信撹乱製剤を用い、前年度のEGBMの被害率が3%を超える場合には、GVM性フェロモン交信撹乱製剤中のGVM性フェロモン成分量の10質量%を超えて30質量%以下、好ましくは15質量%を超えて30質量%以下、更に好ましくは20質量%を超えて30質量%以下のEGBMの性フェロモン物質をGVMの性フェロモン交信撹乱製剤に添加した交信撹乱製剤を用いた防除方法に関する。また、主要害虫であるGVM及び第二害虫であるEGBMが発生する前に防除することにも関する。
【0013】
一方、主要害虫がEGBMである地域において、前年度のGVMの被害率が0〜3%の場合には、EGBM性フェロモン交信撹乱製剤中のEGBM性フェロモン成分量の5〜20質量%、好ましくは8〜20質量%、更に好ましくは10〜20質量%のGVMの性フェロモン物質をEGBMの性フェロモン交信撹乱製剤に添加した交信撹乱製剤を用い、前年度のGVMの被害率が3%を超える場合に、EGBM性フェロモン交信撹乱製剤中のEGBM性フェロモン成分量の10質量%を超えて35質量%以下、好ましくは15質量%を超えて30質量%以下、更に好ましくは20質量%を超えて30質量%以下のGVMの性フェロモン物質をEGBMの性フェロモン交信撹乱製剤に添加した交信撹乱製剤を用いた防除方法に関する。また、主要害虫であるEGBM及び第二害虫であるGVMが発生する前に防除することにも関する。
【0014】
被害率とは、対象となる作物体の種類により被害果率及び被害房率等があり、被害果率は、{(被害果数)/(調査果数)}×100の式で表され、被害房率は、{(被害房数)/(調査房数)}×100の式で表される。本発明では、ブドウの害虫が対象となるため、主に被害房率が用いられ、好ましい調査房数は少なくとも10房/樹×10樹=100房である。
この被害率は、害虫密度の指標とも考えられることから、前年度の被害率が0〜3%の場合とは、第二害虫が少量発生した場合と発生する恐れがある場合で、3%を超える場合とは、第二害虫が被害率0〜3%の場合以上に発生した場合であると言え、その上限は、50%である。50%を超える場合には、第二害虫ではなく主要害虫とみなされるからである。このように、主要害虫と第二害虫の区別は、被害率が最も多い害虫であるかどうかで決められるが、交信撹乱製剤を用いた防除を行っていたり、殺虫剤の種類及び使用方法によっては必ずしもそうなるとは言えないことから地域土着の害虫は何であったか、交信撹乱製剤や殺虫剤の対象害虫は何であったか等も考慮する必要がある。
【0015】
主要害虫がGVMである地域において、前年度のEGBMの被害率が0〜3%の場合には、GVM性フェロモン交信撹乱製剤中のGVM性フェロモン成分量の5〜20質量%のEGBMの性フェロモン物質をGVMの性フェロモン交信撹乱製剤に添加した交信撹乱製剤を用いることが望ましく、それよりも少ないと放出される量も少なくなるので効果が不安定になり、また、それよりも多いと被害の程度に対して価格が高くなるため好ましくない。
前年度のEGBMの被害率が3%を超える場合には、GVM性フェロモン交信撹乱製剤中のGVM性フェロモン成分量の10質量%を超えて30質量%以下のEGBMの性フェロモン物質をGVMの性フェロモン交信撹乱製剤に添加した交信撹乱製剤を用いることが望ましく、それよりも少ないと害虫の密度に対して放出される量も少なくなるので効果が不安定になり、また、それよりも多いと価格が高くなるため好ましくない。
【0016】
主要害虫がEGBMである地域において、前年度のGVMの被害率が0〜3%の場合には、EGBM性フェロモン交信撹乱製剤中のEGBM性フェロモン成分量の5〜20質量%のGVMの性フェロモン物質をEGBMの性フェロモン交信撹乱製剤に添加した交信撹乱製剤を用いることが望ましく、それよりも少ないと放出される量も少なくなるので効果が不安定になり、また、それよりも多いと被害の程度に対して価格が高くなるため好ましくない。
前年度のGVMの被害率が3%を超える場合には、EGBM性フェロモン交信撹乱製剤中のEGBM性フェロモン成分量の10質量%を超えて35質量%以下のGVMの性フェロモン物質をEGBMの性フェロモン交信撹乱製剤に添加した交信撹乱製剤を用いることが望ましく、それよりも少ないと害虫の密度に対して放出される量も少なくなるので効果が不安定になり、また、それよりも多いと価格が高くなるため好ましくない。
【0017】
GVM性フェロモン交信撹乱製剤へのEGBM性フェロモン物質の添加量は、GVM性フェロモン物質量の5〜30質量%、EGBM性フェロモン交信撹乱製剤へのGVM性フェロモン物質の添加量は、EGBM性フェロモン物質量の5〜35質量%が望ましいが、少量の第二害虫の性フェロモン物質を添加することによって、更に被害率が低下したときには、前年度の被害率によってその添加量を減少でき、使用を開始してから2〜3年後には5〜25%の第二害虫の性フェロモン物質の添加で十分な防除効果が期待できる場合もある。
また、GVMの性フェロモン物質の添加量がEGBMの性フェロモン物質の添加量に比べてやや多いのは、GVMが性フェロモン交信撹乱法に対して感受性がやや弱く、防除効果と性フェロモン物質量との関係による可能性が高い。このことは、単剤の場合でもややGVM性フェロモン物質の投与量が大きいことからも納得できる。
【0018】
交信撹乱製剤に含まれるGVM又はEGBMの性フェロモン物質は、各害虫の性フェロモン物質であればその種類や数に制限されるものではないが、例えば、GVMの性フェロモン物質としてはE7,Z9-ドデカジエニルアセテート(E7Z9−12:Ac)、EGBMの性フェロモン物質としてはZ9-ドデセニルアセテート(Z9−12:Ac)等が挙げられる。
この両者の性フェロモン物質は、共に主鎖の炭素数が12で、官能基も同じアセテート体であり、物理化学的性状が類似しているため結果的に性フェロモン交信撹乱製剤からの放出量性能が近似していることも有利に働いている。仮に、一方の性フェロモン物質の放出が速いとその性フェロモン物質が35質量%以下の低い添加量では速く放出し、後半極端に放出量が少なくなる。従って、類似の害虫で両者がお互いの発生と関連する害虫であっても、その性フェロモン物質の交信撹乱製剤の素材であるポリマーの膜透過性、蒸発速度に差があればこのような方法では同時防除できにくい。
【0019】
GVMが主に発生する地域にEGBMの性フェロモン物質を添加する場合も、EGBMが主に発生する地域にGVMの性フェロモン物質を添加する場合も、極端に少量で防除ができた主因は、性フェロモン物質の交信撹乱防除効果が密度に依存するためで、害虫発生密度が低い第一世代の時期に性フェロモン交信撹乱防除をしていることに起因すると思われる。そのため、主要害虫及び第二害虫が発生する前に交信撹乱製剤を使用することが望ましい。なお、主要害虫及び第二害虫が発生する前でも、発生する恐れは、近隣地域での発生状況によって得ることができる。また、GVMとEGBMの発生時期は、日照時間、気温、湿度、高度及び作物体の種類や品種等の影響により地域よって異なるため一概には言えないが、一般的には初春から晩秋である。このことから発生する前とは、好ましくはGVM又はEGBMの成虫が発生する有効積算温度に達する前である。
【0020】
また、GVM又はEGBMが主要であった地域では、その環境条件がそれぞれの害虫の増殖に適しており、必ずしも第二害虫の増殖に適していなかった可能性も考えられるが、本発明はそれに限ったことではない。
【0021】
更に、両者の発生の時期や世代数に大きな差異がないことも優位に働いている可能性も考えられるが、本発明はそれに限ったことではない。通常、GVMの性フェロモン交信撹乱製剤では、180〜240mg/本の製剤を500本/ha(90〜120g/ha)使用している。一方、EGBMの性フェロモン交信撹乱製剤では、200〜250mg/本の製剤を500本/ha(100〜125g/ha)使用している。従って、一例として、GVMの性フェロモン交信撹乱製剤に添加するEGBMの性フェロモン物質量は9〜72mg/本(4.5〜36g/ha)であり、EGBMの性フェロモン交信撹乱製剤に添加するGVMの性フェロモン物質量は10〜87.5mg/本(5〜43.75g/ha)が挙げられる。前者では、極端にEGBMの密度が増加しない限り、5〜31.3g/haと通常よりも少量で防除できることもわかっている。また、性フェロモン物質の効果は施用面積、平均風速、果樹の仕立て方法、樹の高さ等によるため、例えば、GVMの性フェロモン交信撹乱製剤使用園では、それぞれの圃場条件に適合する条件すなわち施用量を経験で知っており、弱い風で広い面積では施用量を少なくしている。従って、このように風が弱く、広い面積で性フェロモン交信撹乱製剤を使用することは、効果を発揮するための条件が良いのでEGBMのフェロモンも施用量が少なくても良い場合があり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
交信撹乱製剤の形状は、GVMの性フェロモン物質とEGBMの性フェロモン物質を保持するとともに、徐々に放出させるような容器状又は担持体であれば制限はないが、好ましくは、チューブ、カプセル、アンプル又は袋状のものが良い。形状がチューブのものは、性フェロモン等を放出する期間が長く、放出が均一であるため最適である。その内径は好ましくは0.5〜2.0mm、その肉厚は好ましくは0.2〜1.0mmの範囲にあると適度な速度での放出が保たれる。
【0023】
容器の材質としては、ポリオレフィン系重合体が好ましい。これには、ポリエチレンやポリプロピレンに例示されるポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体やエチレン−アクリル酸エステル共重合体に例示されるエチレンを80質量%以上含む共重合体が挙げられる。これらの材質では、性フェロモン等が透過し、適度な速度でプラスチック膜の外に放出させることができる。また、生分解性のポリエステルや塩化ビニルでも構わない。
【0024】
上記のような形状を有する容器は、溶液を封入する室が1つに限定されるものではなく、また、2室以上持つ場合にはその内径や肉厚は異なっていても良く、更に、この混合溶液はその中の少なくとも1室以上に封入されていれば良い。ただし、たとえ上記のような条件を満たしても、取り扱う際に特別な場所が要求される物質や、環境に悪影響を及ぼすような製剤は好ましくない。
【実施例】
【0025】
以下、本発明について実施例を用いて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<交信撹乱製剤の製造>
所定の内径、肉厚を持つポリエチレンチューブからなる高分子製容器を押出成型して作製した。次に、前年度の被害率に応じて主要害虫の性フェロモン物質に所定量の第二害虫の性フェロモン物質を調製しながら目的の性フェロモン組成物を作成した。その溶液をポリエチレンチューブの一端から注入し、チューブの両端を熱鏝で加圧して溶融封鎖し、溶融部分を切断して徐放性製剤が試作された。交信撹乱製剤は害虫を防除する圃場に、必要量の性フェロモン物質が放出されるように割り振って等間隔に点在して配置した。GVMの性フェロモン物質としてE7,Z9−ドデカジエニルアセテートを用い、EGBMの性フェロモン物質としてZ9−ドデセニルアセテートを用いた。
【0026】
<被害房率>
交信撹乱効果の推定方法であり、特にブドウでは、{(被害房数)/(調査房数)}×100で表される被害房率が効果の判定基準の一つとなっている。
【0027】
<実施例1〜6及び比較例1>
イタリアのフィレンツエ郊外のブドウ園で、GVMが主要害虫であったためGVMの性フェロモン交信撹乱製剤を4年間使用し、EGBMが増加しつつあるEGBMの被害率が0〜3%の地域とEGBMがすでに発生し、被害率が5〜7%の地域でEGBMの性フェロモン物質を添加した交信撹乱製剤を4月25日に500本/ha設置した。その結果を表1に記す。
【0028】
【表1】

【0029】
実施例1〜3は、前年のEGBMの被害率が3%以下の地域で、EGBMの性フェロモン物質を5質量%、10質量%、20質量%添加した交信撹乱製剤を用いて防除を行った結果で、被害房率の平均値がそれぞれ1.0%、0.7%及び0%と良好であった。
実施例4〜6は、前年のEGBMの被害率が5〜7%の地域で、EGBMの性フェロモン物質を30質量%、25質量%、15質量%添加した交信撹乱製剤を用いて防除を行った結果で、被害房率の平均値が1.3%、3.3%、3.7%と前年よりも下がった。
【0030】
<実施例7〜11及び比較例2>
チェコ北部のEGBMが主要害虫であったブドウ園で、GVMが増加傾向であったGVMの被害が0〜3%の地域とGVMがすでに発生し、被害率が4〜7%の地域でGVMの性フェロモン物質を添加した製剤を5月7日に500本/ha設置した。その結果を表2に記す。
【0031】
【表2】

【0032】
実施例7及び8は、前年のGVMの被害率が0.2〜3%の地域で、GVMの性フェロモン物質を5質量%又は20質量%添加した交信撹乱製剤を用いて防除を行った結果で、被害房率の平均値がそれぞれ0.7%及び0%と良好であった。
実施例9〜11は、前年のGVMの被害率が4〜7%の地域で、GVMの性フェロモン物質を35質量%、25質量%、15質量%添加した交信撹乱製剤を用いて防除を行った結果で、被害房率の平均値が1.0%、3.0%、3.7%と前年よりも下がった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨーロピアングレープバインモス(以下、「GVM」という。)とヨーロピアングレープベリーモス(以下、「EGBM」という。)の同時防除方法であって、
主要害虫がGVMである地域Aにおいて、第二害虫のEGBMが発生した場合又は発生する恐れがある場合に、GVM性フェロモン交信撹乱製剤中のGVM性フェロモン成分量の5〜30質量%のEGBM性フェロモン成分を該GVM性フェロモン交信撹乱製剤に含有させ、又は、主要害虫がEGBMである地域Bにおいて、第二害虫のGVMが発生した場合又は発生する恐れがある場合に、EGBM性フェロモン交信撹乱製剤中のEGBM性フェロモン成分量の5〜35質量%のGVM性フェロモン成分を該EGBM性フェロモン交信撹乱製剤に含有させ、GVM及びEGBM兼用交信撹乱製剤を得る工程と、
上記地域に上記GVM及びEGBM兼用交信撹乱製剤を設置する工程と
を含むGVM及びEGBMの同時防除方法。
【請求項2】
上記地域Aにおいて、前年度の上記第二害虫のEGBMの被害率が0〜3%のとき、上記EGBM性フェロモン成分の含有量が、上記GVM性フェロモン成分量の5〜20質量%である請求項1に記載のGVM及びEGBMの同時防除方法。
【請求項3】
上記地域Aにおいて、前年度の上記第二害虫のEGBMの被害率が3%を超える場合に、上記EGBM性フェロモン成分の含有量が、上記GVM性フェロモン成分量の10質量%を超えて30質量%以下である請求項1に記載のGVM及びEGBMの同時防除方法。
【請求項4】
上記地域Aにおいて、上記第二害虫のEGBMが発生した場合又は発生する恐れがある場合が、上記主要害虫であるGVN及び上記EGBMが発生する前である請求項1〜3のいずれかに記載のGVM及びEGBMの同時防除方法。
【請求項5】
上記地域Bにおいて、前年度の上記第二害虫のGVMの被害率が0〜3%の場合に、上記GVM性フェロモン成分の含有量が、上記EGBM性フェロモン成分量の5〜20質量%である請求項3に記載のEGBM及びGVMの同時防除方法。
【請求項6】
上記地域Bにおいて、前年度の上記第二害虫のGVMの被害率が3%を超える場合に、上記GVM性フェロモン成分の含有量が、上記EGBM性フェロモン成分量の10質量%を超えて35質量%以下である請求項3に記載のEGBM及びGVMの同時防除方法。
【請求項7】
上記地域Bにおいて、上記第二害虫のGVNが発生した場合又は発生する恐れがある場合が、上記主要害虫であるEGBM及び上記GVMが発生する前である請求項3〜6のいずれかに記載のGVM及びEGBMの同時防除方法。
【請求項8】
ヨーロピアングレープバインモス(以下、「GVM」という。)の性フェロモン物質と、ヨーロピアングレープベリーモス(以下、「EGBM」という。)の性フェロモン物質とを少なくとも含んでなる、GVM及びEGBMの同時防除のためのGVM及びEGBM兼用交信撹乱製剤であって、
上記GVMの性フェロモン物質100質量部に対して上記EGBMの性フェロモン物質が5〜30質量部であるか、又は、上記EGBMの性フェロモン物質100質量部に対して上記GVMの性フェロモン物質が5〜35質量部であるGVM及びEGBM兼用交信撹乱製剤。
【請求項9】
上記GVMの性フェロモン物質が、E7,Z9−ドデカジエニルアセテートであり、上記EGBMの性フェロモン物質が、Z9−ドデセニルアセテートである請求項8にGVM及びEGBM兼用記載の交信撹乱製剤。

【公開番号】特開2011−1346(P2011−1346A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110988(P2010−110988)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】