説明

グロメット

【課題】 結露水の量が多い場合であっても、結露水をワイヤーハーネスに落下させることなく確実に排水させることができるグロメットを提供する。
【解決手段】 本発明のグロメット100は、パネル孔に取り付ける際に排水壁50がパネルに対して直交する方向に延設されているので、パネル孔内に容易に挿通することができる。そして、筒状部20をパネル孔内に挿通すると、当接壁40がパネルにより押圧されて薄肉部30を支点として回動される。これにより、当接壁40と連設されている排水壁50が当接壁40と共に薄肉部30を支点として回動して、パネルの裏面に沿って平行に延びるように起立した状態に変位する。したがって、排水壁50がパネル孔内に挿通する時にパネル端縁に干渉することはなく、排水壁50の高さを十分に大きく設定することができるので、パネルの裏面を流下する水滴の量が多くても確実に排水することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、パネル孔に挿通されるワイヤーハーネスがパネル孔の周縁に当接して損傷しないように保護し、かつパネル孔とワイヤーハーネスの隙間からパネル内部に水等が入り込まないようにパネル孔を閉塞するグロメットの構造に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、自動車にはスイッチ操作により窓ガラスを昇降させるパワーウィンドウや、ドアロックを施錠あるいは開錠するオートドアロック等が広く装備されている。これらの機器の作動を制御し、あるいはドアパネル内に設けた電動モータや電磁ソレノイドに給電するために、車体側とドア側との間にはワイヤーハーネスが配索されている。したがって、これらのワイヤーハーネスは車体側のピラーパネルに貫設されたパネル孔から車外に取り出された後、ドアパネルに貫設されたパネル孔からドアパネル内に引き込まれるようになっている。
【0003】このピラーパネルとドアパネルとの間で延びるワイヤーハーネスは、ドアを開閉する際にピラーとドアとの間に挟まれたり、パネル孔の周縁と擦れて絶縁被覆が損傷したりすることがないように適切に支持されかつ保護する必要がある。また、パネル孔から入り込んだ雨水等がワイヤーハーネスを伝わって流れ、ワイヤーハーネスの電気的接触を損なわないように防水する必要もある。
【0004】そこで、図5に示したようなグロメット本体1がワイヤーハーネス4に外嵌されている。このグロメット本体1は、ピラーパネル2とドアパネル3との間で延びるワイヤーハーネス4を支持しかつ保護するもので、ゴム材料から成形された蛇腹部5と、ピラーパネル2に貫設されたパネル孔6に嵌合する車体側グロメット7と、ドアパネル3に貫設されたパネル孔8に嵌合するドア側グロメット9とから構成されている。
【0005】これにより、このグロメット本体1内に挿通されるワイヤーハーネス4は、ピラーパネル2とドアパネル3との間に挟まれたり、パネル孔6,8の周縁に擦れるようなことはなく、また雨水や泥水がピラーパネル2およびドアパネル3の内側に入り込まないように適切に保護されるものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、ピラーパネル2やドアパネル3の内側には、空気が自由に出入りすることができる。したがって、気温が低下するとピラーパネル2やドアパネル3内の空気中に含まれる湿気が結露し、ピラーパネル2やドアパネル3の裏面を伝って流下することがある。よって、これらの結露水が上述したグロメット本体1の内部に入り込むと、ワイヤーハーネスの電気的接触を妨げる心配がある。
【0007】そこで、図6に示すようにグロメット7のインナー部材10の外周面11には、ピラーパネル2の裏面を伝って流下する結露水Wがコネクタ12に向かって落下することを防止する防水壁13が立設されている。これにより、結露水Wは防水壁13により案内されてインナー部材10の外周を伝って流下し、図6中に矢印Aで示すように、ワイヤーハーネス4に到達することなく落下する。
【0008】しかしながら、防水壁13部分の外径D0は、パネル孔6の内径よりも小さくしなければならない。また、防水壁13の高さHを大きく取るためにはインナー部材10の外径D1を小さくしなければならないが、ワイヤーハーネス4のコネクタ13を収納するために外径D1の値を小さくすることには限界がある。さらに、インナー部材10の外径D1を小さくするとインナー部材10の外周面11とパネル孔6の周縁との間に隙間が生じるので、グロメット7をパネル孔6に対して同軸に保持するために、位置決め用突起14を外周面11に突設する必要がある。
【0009】したがって、従来のグロメット7においては、防水壁13の高さHを大きく取ることができないばかりでなく、外周面11に沿った結露水Wの流下が位置決め用突起14により妨げられるので、結露水Wの量が多い場合には結露水Wがあふれて防水壁13を乗り越え、図6中に矢印Bで示すようにワイヤーハーネス4のコネクタ12に向かって落下する心配がある。
【0010】本発明の目的は、上記従来課題を解消することにあり、結露水の量が多い場合であっても、結露水をワイヤーハーネスに落下させることなく確実に排水させることができるグロメットを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明の上記目的は、複数の電線束であるワイヤーハーネスを挿通させるためのパネル孔の周縁にワイヤーハーネスが当接して損傷しないように保護し、かつパネル孔とワイヤーハーネスの隙間からパネル内部へ水等が入り込まないようにパネル孔を閉塞するグロメットにおいて、パネル孔に挿通される筒状部と、該筒状部の先端から延設された薄肉部を介してパネル孔内に挿通する際に回動する当接壁と、該当接壁に連設され、当接壁の回動に伴ってパネルの裏面に沿って起立した状態に変位する排水壁とを備えていることを特徴とするグロメットによって達成することができる。
【0012】また上記目的は、当接壁と排水壁、およびパネルとが、集めた水滴を筒状部の側方に向かって流れるように案内する樋部を形成することによって達成することができる。
【0013】
【作用】本発明に係わる上記構成のグロメットにおいては、パネル孔に挿通される筒状部と、筒状部の先端から延設された薄肉部を介してパネル孔内に挿通する際に回動する当接壁と、当接壁に連設されて当接壁の回動に伴ってパネルの裏面に沿って起立した状態に変位する排水壁とを備えている。
【0014】したがって、グロメットをパネル孔に取り付ける際には、排水壁がパネルに対して直交する方向に延びた状態となっているので、グロメットをパネル孔内に容易に挿通することができる。そして、このグロメットの筒状部をパネル孔に挿通すると、当接壁がパネル孔の開口縁近傍のパネル面に当接することで薄肉部を支点として回動する。これにより、当接壁と連設されている排水壁が当接壁と共に薄肉部を支点として回動してパネルの裏面に沿って起立した状態に変位する。よって、排水壁の高さを十分に大きく設定することができ、パネルの裏面を流下する水滴の量が多くても確実に排水することができる。
【0015】また、当接壁と排水壁、およびパネルとが樋部を形成するため、集めた水滴を筒状部の側方に向かって確実に流れるように案内することができる。
【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明のグロメットの一実施の形態を図1乃至図4に基づいて詳細に説明する。図1R>1は本発明のグロメットの要部を示す斜視図、図2は図1R>1におけるパネル孔内に挿通する状態を示す断面図、図3R>3は図1におけるパネルに固定した状態を示す断面図、図4は図3におけるグロメットの状態を示す斜視図である。
【0017】図1および図2に示すように本実施の形態のグロメット100は、パネル2に貫設されたパネル孔6に挿通される筒状部20と、この筒状部20の先端部から延設された薄肉部30によって支持された上下一対の当接壁40と、これらの当接壁40からそれぞれ連設された排水壁50とを備えている。
【0018】前記筒状部20は、上下一対の横壁21,22、および左右一対の縦壁23,24により形成される矩形状の筒体であり、パネル孔6内に略ワイヤーハーネスと同軸状に挿通される。この筒状部20のグロメット本体1側の端部には、グロメット本体1の端部が外嵌するフランジ25が立設されている。また、縦壁23,24の外側表面には、この筒状部20がパネル孔6から抜け出さないようにパネル2に係止される一対の係止腕26が立設されている。さらに、横壁21,22の外側表面には、後述するストッパ27が突設されている。
【0019】前記薄肉部30は、筒状部20の先端外周面から横壁21,22の表面に対して垂直方向に延びる薄肉の縦壁として一体的に延設されている。これにより、この薄肉部30は屈曲自在とされ、後述する当接壁40を揺動可能に支持することができる。
【0020】前記当接壁40は、薄肉部30の先端から横壁21,22の表面に対して垂直方向に延びる厚肉の縦壁として一体に延設されている。これにより、筒状部分20をパネル孔6内に挿通する際に、その前面41はパネル2の外側表面2aに当接する。
【0021】前記排水壁50は、一対の当接壁40から横壁21,22に対して平行で、かつ筒状部20から遠ざかる方向に延びる側壁51と、この側壁51の両端から縦壁23,24に対して平行で、かつ一対の排水壁50の相手側に向かって延びる一対の第2の縦壁52,53とから構成されている。そして、この排水壁50の各部の寸法は、パネル孔6内に挿通可能なように設定されている。
【0022】次に、上述のように構成された本実施の形態のグロメットのパネル孔への嵌合時の作用について説明する。図1および図2に示すようにグロメット100をパネル孔6に取り付ける前の状態においては、一対の当接壁40はパネル2の外側表面2aに対向するように直立状態である。これに対して、一対の排水壁50はパネル2に対して直交する方向に延びた状態であり、パネル孔6内に容易に挿通できるようになっている。
【0023】図2に示すように一対の排水壁50をパネル孔6内に挿通させると、一対の当接壁40がパネル2の外側表面2aに当接する。この状態でこのグロメット100を矢印C方向に押圧して当接壁40をパネル2に押し付けると、図3に示すように薄肉部30が湾曲し、当接壁40が薄肉部30を支点として回動する。そして、当接壁40がパネル孔6の周縁により押圧されて筒状部20の横壁21,22と平行状態になるように変位するので、筒状部20をパネル孔6内に挿通させることができ、当接壁40はパネル孔6の周縁とストッパ27とにより挟持されて固定される。
【0024】そして、図3および図4に示すようにさらに筒状部分20がパネル孔6内に挿通されると、筒状部20の縦壁23,24に設けられている係止腕26がパネル2に係合し、筒状部20がパネル孔6から抜け出ないように係止される。また、同時に筒状部20のフランジ25に外嵌するグロメット本体1の端面に設けられた防水リップ1a,1bがパネル2の外側表面2aに密着する。
【0025】一方、排水壁50が当接壁40の回動に伴って起立状態に変位され、その側壁51がパネル2の裏面2bと平行な状態に変位する。この状態において、パネル2の裏面2bを伝って流下する水滴Wは、排水壁50の側壁51と、当接壁40およびパネル2の裏面2bとにより形成される樋部60に集められた後、図4中に矢印Dで示すように筒状部20の側方に流下する。また、この樋部60に集められた水滴Wの一部は、排水壁の縦壁52,53の下縁を伝って流れ、筒状部20の側方に落下する。これにより、パネル2の裏面2bを伝って流下する水滴Wが筒状部20の内側に入り込むことを阻止することができる。
【0026】すなわち、本実施の形態のグロメット100をパネル孔6内に挿通する際には、排水壁50はパネル2に対して直交する方向に延びているので、パネル孔6の周縁に干渉することがない。これにより、排水壁の高さHを十分に大きく設定することができるから、排水壁50の側壁51と当接壁40およびパネル2の裏面2bとにより形成される樋部60の深さを十分に深くすることができる。したがって、パネル2を伝って流下する水滴の量が多くても、確実に筒状部20の側方に排出することができる。
【0027】なお、本発明のグロメットは、上述した実施の形態によって限定されるものではなく、本発明の主旨に基づいて種々の変更が可能であることは言うまでもない。例えば、上述した実施の形態においては、排水壁50を筒状部20の上下一対の横壁21,22に設けた構成としたが、筒状部20の一対の縦壁23,24にも設けることができる。この場合、係止腕26を縦壁23,24に設けることができなくなるが、縦壁23,24に設けた当接壁上に係止腕を設けることは可能である。
【0028】
【発明の効果】以上説明したように本発明のグロメットは、パネル孔に挿通される筒状部と、筒状部の先端から延設された薄肉部を介してパネル孔内に挿通する際に回動する当接壁と、当接壁に連設されて当接壁の回動に伴ってパネルの裏面に沿って起立した状態に変位する排水壁とを備えている。
【0029】したがって、このグロメットをパネル孔に取り付ける際には、排水壁がパネルに対して直交した状態から回動変位して、パネル孔への取り付けが完了した時点ではパネルに対して平行に起立した状態に変位する。これにより、パネル孔に取り付ける際に排水壁がパネル孔端縁と干渉することはなく、排水壁の高さを十分に取ることができる。よって、水滴の量が多い場合であっても確実に排水することができ、水滴がグロメットの内部に侵入することを防止することができる。
【0030】また、当接壁と排水壁、およびパネルとが、集めた水滴を筒状部の側方に向かって流れるように案内する樋部を形成するため、水滴を確実に筒状部の側方に導くことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のグロメットの一実施の形態を示す要部の斜視図である。
【図2】図1におけるパネル孔内に挿通した状態を示す断面図である。
【図3】図1におけるパネルに固定した状態を示す断面図である。
【図4】図3におけるグロメットの状態を示す斜視図である。
【図5】従来のグロメット本体におけるグロメットの部分断面図である。
【図6】図5におけるグロメットの要部を示す断面図である。
【符号の説明】
1 グロメット本体
2 パネル
4 ワイヤーハーネス
6 パネル孔
12 コネクタ
20 筒状部
21,22 横壁
26 係止腕
30 薄肉部
40 当接壁
50 排水壁
51 側壁
52,53 縦壁
60 樋部
100 グロメット

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ワイヤーハーネスを挿通させるためのパネル孔の周縁に前記ワイヤーハーネスが当接して損傷しないように保護し、かつ前記パネル孔と前記ワイヤーハーネスの隙間からパネル内部へ水等が入り込まないように前記パネル孔を閉塞するグロメットにおいて、前記パネル孔に挿通される筒状部と、該筒状部の先端から延設された薄肉部を介して前記パネル孔内に挿通する際に回動する当接壁と、該当接壁に連設され、前記当接壁の回動に伴って前記パネルの裏面に沿って起立した状態に変位する排水壁とを備えていることを特徴とするグロメット。
【請求項2】 前記当接壁と前記排水壁、および前記パネルとが、集めた水滴を前記筒状部の側方に向かって流れるように案内する樋部を形成することを特徴とする請求項1記載のグロメット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開平9−30342
【公開日】平成9年(1997)2月4日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−187286
【出願日】平成7年(1995)7月24日
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)