説明

ケイ素微粒子発光体の製造方法

【課題】ケイ素微粒子の可視光領域における発光強度を高める。
【解決手段】ケイ素微粒子発光体の製造方法は、不活性雰囲気下においてケイ素源と炭素源を含む混合物を焼成する工程と、不活性雰囲気から生成ガスを抜き出し急冷してケイ素微粒子を含む混合粉体を得る工程と、前記混合粉体を不活性雰囲気下1000〜1100℃で熱処理する工程と、前記熱処理後の混合粉体をフッ酸および酸化剤を含むエッチング溶液に浸漬してエッチングする工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はケイ素微粒子発光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のナノテクノロジーの進歩とともに、その原料としての粉体に要求されるサイズは微小化している。研究開発のターゲットはサブミクロン粒子からナノ粒子に移行しつつある。特に20nm以下のナノ粒子においては、電子状態の変化に伴う特異な電磁的効果の発現や、表面原子が占める割合の増大などによって、バルク素材にない優れた特性を持つことが知られている。そのため、例えばケイ素微粒子は発光素子としての応用等が期待されている。
【0003】
例えば医療分野では、ケイ素微粒子が可視領域で発光するという上記特性に加えて、元来より、無毒で材料的にも安く豊富であるという利点を有することから生体に入れることのできる発光材料として期待が高まっている。
【0004】
具体的には、脳梗塞の手術後の血管の流れを確認する場合、血管内に造影剤を注入し、X線で確認している。しかし、可視領域で発光特性を有するケイ素微粒子(シリコンナノ粒子)を使えば、ケイ素微粒子を血管に注射するだけで血管中の血液の流れが肉眼で確認できると期待されている(例えば、非特許文献1)。
【0005】
かかるケイ素微粒子の製造方法としては種々のものが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6―279015号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「ナノシリコンの発光性に着目した研究を促進」、佐藤慶介、週刊ナノテク第1216号(2005年7月11、18日合併号)、第16,17頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、例えば、血管中の血液の流れを肉眼で視認可能とするには、血管壁を十分透過する程度の発光量が必要になる。そこで、本発明は、可視光領域において発光特性を有するケイ素微粒子の発光強度を高めることのできるケイ素微粒子発光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の特徴は、不活性雰囲気下においてケイ素源と炭素源を含む混合物を焼成する工程と、不活性雰囲気から生成ガスを抜き出し急冷してケイ素微粒子を含む混合粉体を得る工程と、前記混合粉体を不活性雰囲気下1000〜1100℃で熱処理する工程と、前記熱処理後の混合粉体をフッ酸および酸化剤を含むエッチング溶液に浸漬してエッチングする工程と、を含むケイ素微粒子発光体の製造方法を要旨とする。
【0010】
上述の本発明の特徴によれば、混合粉体を不活性雰囲気下1000〜1100℃で熱処理することにより、混合粉体の微粒子内の欠陥が減少する。そのため、ケイ素微粒子発光体の発光強度を高めることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、可視光領域において発光特性を有するケイ素微粒子の発光強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1はケイ素微粒子を含む混合粉体の透過型電子顕微鏡写真を示す。
【図2】図2はケイ素微粒子を含む混合粉体の透過型電子顕微鏡写真を示す。
【図3】図3は実施形態にかかるケイ素微粒子発光体の製造装置の概略構成図を示す。
【図4】図4は実施形態にかかるケイ素微粒子発光体の蛍光スペクトルを示す。
【図5】本実施形態にかかるケイ素微粒子の蛍光スペクトルを示す図である。
【図6】本発明の実施形態として示すケイ素微粒子の製造方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に実施形態を挙げて本発明を説明するが、本発明が以下の実施形態に限定されないことはいうまでもない。
【0014】
1.炭化ケイ素粉末の製造工程
炭化ケイ素焼結体の製造方法の中間工程である炭化ケイ素粉末の製造工程では、例えばケイ素源と炭素源とを混合した後、非酸化雰囲気下にて1600℃以上の温度で加熱することで炭化ケイ素(SiC)粉末が得られる。この化学反応形態としては、(1)式に示されるように中間生成物として一酸化ケイ素(SiO)ガスがまず生成される。この一酸化ケイ素ガスをそのまま1600℃以上の温度で加熱し続けると(2)式に示されるように炭化ケイ素粉末となる。ところが生成後速やかに1600℃未満の温度にて冷却すると(3)式に示されるようにケイ素(Si)微粒子を含む混合物が得られることを本発明者は見出した。本発明は上記知見に基づくものである。かかる知見は簡易にケイ素微粒子を製造できる観点からも、また炭化ケイ素粉末の製造工程において出される副生成物の再利用を図ることができる観点からも有益である。
【0015】
SiO2+C→SiO+CO (1)
SiO+2C→SiC+CO (2)
2SiO→Si+SiO (3)
2.成分
本発明の実施形態に用いられる成分としては、炭化ケイ素粉末の製造工程で用いられる成分を用いることができる。炭化ケイ素粉末の説明を介して本発明の実施形態に用いられる成分について説明する。
【0016】
炭化ケイ素粉末としては、α型、β型、非晶質あるいはこれらの混合物等が挙げられる。また、高純度の炭化ケイ素焼結体を得るためには、原料の炭化ケイ素粉末として、高純度の炭化ケイ素粉末を用いることが好ましい。
【0017】
炭化ケイ素焼結体を用途とした場合の炭化ケイ素粉末の粒径は、焼結体の嵩密度の観点からは、小さいことが好ましく、具体的には、0.01μm〜10μm程度、さらに好ましくは、0.05μm〜5μmである。粒径が、0.01μm未満であると、計量、混合等の処理工程における取扱いが困難となりやすく、10μmを超えると、比表面積が小さく、即ち、隣接する粉末との接触面積が小さくなり、高密度化し難くなるため好ましくない。
【0018】
高純度の炭化ケイ素粉末は、例えば、少なくとも1種以上のケイ素化合物を含むケイ素源と、少なくとも1種以上の加熱により炭素を生成する有機化合物を含む炭素源と、重合又は架橋触媒と、を溶媒中で溶解し、乾燥した後に得られた粉末を非酸化性雰囲気下で焼成する工程により得ることができる。
【0019】
上記ケイ素化合物を含むケイ素源(以下、「ケイ素源」という。)としては、液状のものと固体のものとを併用することができるが、少なくとも1種は液状のものから選ばれなくてはならない。液状のものとしては、アルコキシシラン(モノ−、ジ−、トリ−、テトラ−)及びテトラアルコキシシランの重合体が用いられる。アルコキシシランの中ではテトラアルコキシシランが好適に用いられ、具体的には、メトキシシラン、エトキシシラン、プロポキシシラン、ブトキシシラン等が挙げられるが、ハンドリングの点からは、エトキシシランが好ましい。また、テトラアルコキシシランの重合体としては、重合度が2〜15程度の低分子量重合体(オリゴマー)及びさらに重合度が高いケイ酸ポリマーで液状のものが挙げられる。これらと併用可能な固体状のものとしては、酸化ケイ素が挙げられる。上記反応焼結法において酸化ケイ素とは、SiOの他、シリカゲル(コロイド状超微細シリカ含有液、内部にOH基やアルコキシル基を含む)、二酸化ケイ素(シリカゲル、微細シリカ、石英粉末)等を含む。これらケイ素源は、単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。これらケイ素源の中でも、均質性やハンドリング性が良好な観点から、テトラエトキシシランのオリゴマー及びテトラエトキシシランのオリゴマーと微粉末シリカとの混合物等が好適である。また、これらのケイ素源は高純度の物質が用いられ、初期の不純物含有量が20ppm以下であることが好ましく、5ppm以下であることがさらに好ましい。ケイ素源としては、加熱により一酸化ケイ素を生成するものであることが好ましく、具体的にはエチルシリケートが好ましい。
【0020】
炭素源として用いられる物質は、酸素を分子内に含有し、加熱により炭素を残留する高純度有機化合物であることが好ましい。具体的には、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂やグルコース等の単糖類、蔗糖等の少糖類、セルロース、デンプン等の多糖類などの各種糖類が挙げられる。これらはケイ素源と均質に混合するという目的から、常温で液状のもの、溶媒に溶解するもの、熱可塑性あるいは熱融解性のように加熱することにより軟化するものあるいは液状となるものが主に用いられる。なかでも、レゾール型フェノール樹脂やノボラック型フェノール樹脂が好適である。特に、レゾール型フェノール樹脂が好適に使用される。
【0021】
高純度の炭化ケイ素粉末の製造に用いられる重合及び架橋触媒としては、炭素源に応じて適宜選択でき、炭素源がフェノール樹脂やフラン樹脂の場合、トルエンスルホン酸、トルエンカルボン酸、酢酸、しゅう酸、硫酸等の酸類が挙げられる。これらの中でも、トルエンスルホン酸が好適に用いられる。
【0022】
反応焼結法に使用される原料粉末である高純度炭化ケイ素粉末を製造する工程における、炭素とケイ素の比(以下、C/Si比と略記)は、混合物をl000℃にて炭化して得られる炭化物中間体を、元素分析することにより定義される。化学量論的には、C/Si比が3.0の時に生成炭化ケイ素中の遊離炭素が0%となるばずであるが、実際には同時に生成するSiOガスの揮散により低C/Si比において遊離炭素が発生する。この生成炭化ケイ素粉末中の遊離炭素量が焼結体等の製造用途に適当でない量にならないように予め配合を決定することが重要である。通常、1気圧近傍で1600℃以上での焼成では、C/Si比を2.0〜2.5にすると遊離炭素を抑制することができ、この範囲を好適に用いることができる。C/Si比を2.55以上にすると遊離炭素が顕著に増加するが、この遊離炭素は結晶成長を抑制する効果を持つため、得ようとする結晶成長サイズに応じてC/Si比を適宜選択しても良い。但し、雰囲気の圧力を低圧又は高圧とする場合は、純粋な炭化ケイ素を得るためのC/Si比は変動するので、この場合は必ずしも上記C/Si比の範囲に限定するものではない。
【0023】
以上より、特に高純度の炭化ケイ素粉末を得る方法としては、本願出願人が先に出願した特開平9−48605号の単結晶の製造方法に記載の原料粉末の製造方法が挙げられる。即ち、高純度のテトラアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン重合体から選択される1種以上をケイ素源とし、加熱により炭素を生成する高純度有機化合物を炭素源とし、これらを均質に混合して得られた混合物を非酸化性雰囲気下において焼成して炭化ケイ素粉末を得る炭化ケイ素生成工程と;得られた炭化ケイ素粉末を、1700℃以上2000℃未満の温度に保持し、上記温度の保持中に、2000℃〜2100℃の温度において5〜20分間にわたり加熱する処理を少なくとも1回行う後処理工程と;を含み、上記2工程を行うことにより、各不純物元素の含有量が0.5ppm以下である炭化ケイ素粉末を得る高純度炭化ケイ素粉末の製造方法等を利用することができる。この様にして得られた炭化ケイ素粉末は、大きさが不均一であるため、解粉、分級により上記粒度に適合するように処理することが好ましい。
【0024】
炭化ケイ素粉末を製造する工程において窒素を導入する場合は、まずケイ素源と、炭素源と、窒素源からなる有機物質と、重合又は架橋触媒と、を均質に混合するが、上記如く、フェノール樹脂等の炭素源と、ヘキサメチレンテトラミン等の窒素源からなる有機物質と、トルエンスルホン酸等の重合又は架橋触媒とを、エタノール等の溶媒に溶解する際に、テトラエトキシシランのオリゴマー等のケイ素源と十分に混合することが好ましい。
【0025】
3.ケイ素微粒子発光体の製造装置
ケイ素微粒子発光体の製造に用いられる加熱装置1の概略図を図3に示す。加熱装置1は、ケイ素源と炭素源を含む混合物を容器Wに収容し加熱雰囲気を形成する加熱容器2と、加熱容器2を保持するステージ8と、上記混合物(焼結体)を加熱する発熱体10a、10bと、加熱容器2と発熱体10a、10bを覆う断熱材12と、加熱容器2から吸引管21を介して反応ガスを吸引するブロア23、混合粉体を収容する集塵機22、ガスを供給する供給管24を有する吸引装置20と、を備える。吸引装置20は加熱容器2内に加熱及び不活性雰囲気を維持しながらSiOガスを吸引することができる。吸引装置20の内はアルゴンガスが循環するように設けられている。また設定圧力により自動開閉する電磁弁25を備える。
【0026】
4.ケイ素微粒子発光体の製造方法
実施形態にかかるケイ素微粒子発光体の製造方法を、図6を用いて説明する。図6は、ケイ素微粒子発光体の製造方法を説明する図である。実施形態にかかるケイ素微粒子発光体の製造方法は、図6に示すように、焼成工程S1、急冷工程S2、熱処理工程S3、及びエッチング工程S4を有する。
【0027】
焼成工程S1は、不活性雰囲気下においてケイ素源と炭素源を含む混合物を焼成する工程である。急冷工程S2は、不活性雰囲気から生成ガスを抜き出し急冷してケイ素微粒子を含む混合粉体を得る工程である。熱処理工程S3は、混合粉体を不活性雰囲気下1000〜1100℃で熱処理する工程である。エッチング工程S4は、混合粉体をフッ酸および酸化剤を含むエッチング溶液に浸漬してエッチングする工程である。以下工程毎に詳細に説明する。
【0028】
(A)焼成工程
まずケイ素源としてのエチルシリケートと、炭素源としてのフェノール樹脂と、重合触媒としてのマレイン酸とからなる混合物を150℃程度で加熱して硬化させる。Si/C比は0.5〜3.0が好ましい。次に硬化物を窒素雰囲気下800〜1200℃で、0.5〜2時間加熱する。その後、アルゴン雰囲気下1500〜2000℃で加熱する。
【0029】
(B)急冷工程
次にブロア23を作動させる。そして吸引管21を介して加熱容器2内からアルゴンガス気流に乗せて生成ガスを抜き出す。断熱材12の外部は室温に保たれているため生成ガスは室温まで急冷される。そして生成ガスからケイ素(Si)と酸化ケイ素(SiO)からなる混合粉体が得られる。得られた混合粉体を集塵機22に集塵する。またアルゴン気流を供給管24を介して加熱容器2に送り込む。
【0030】
(C)熱処理工程
集塵機22に集塵された混合粉体を不活性雰囲気下1000〜1100℃で熱処理する。熱処理を行うことにより、混合粉体の微粒子内の欠陥を減少させることができる。ここで、熱処理工程における温度は、1000〜1100℃である。1000℃以下の場合、微粒子内部の欠陥を十分に減少させることができない。また、熱処理の温度が1100℃を超えると、ケイ素の酸化が促進されてケイ素単体が減少するため、発光可能な微粒子の総数が減少する。
【0031】
(D)エッチング工程
熱処理を施した混合粉体をフッ酸および酸化剤を含むエッチング溶液に浸漬する。酸化剤としては、例えば硝酸(HNO)及び過酸化水素(H)が挙げられる。またエッチング溶液に、シリコン微粒子の回収を容易にするため疎水性溶媒例えばシクロヘキサン、微極性溶媒例えば2−プロパノールを混ぜても構わない。エッチング時間を調節して所望の発光ピークが得られるように調整する。エッチング時間が長くなるほど、発光ピークは短波長側にシフトする傾向がある。所望の発光ピークが得られる程度までエッチングが進行した時点でケイ素微粒子発光体をエッチング溶液から取り出し、適宜乾燥することで所望の発光ピークを有するケイ素微粒子発光体が得られる。
【0032】
5.ケイ素微粒子発光体の物性
上記ケイ素微粒子発光体の製造方法により得られたケイ素微粒子発光体の物性や用途を挙げると以下の通りである。平均粒径が5nm以下、好ましくは2〜3nmである。紫外線照射により発色する。
【0033】
ケイ素微粒子発光体は可視領域で発光するという物性を応用して、例えば発光素子材料、特に人体に対して無毒という利点を有することから生体に入れることのできる発光材料として利用できる。
【0034】
6.その他の実施形態
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0035】
例えば、実施形態において説明したケイ素微粒子発光体は、発光素子材料の他にも紫外線(UV)カット用化粧料等として用いることができる。またケイ素微粒子発光体に表面修飾することにより、多種多様の機能を備える発光体マーカーとして活用することができる。
【0036】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例に何ら制限されない。
【0038】
(ケイ素微粒子発光体の製造例)
ケイ素源としてエチルシリケート620gと、炭素源としてのフェノール樹脂288gと、重合触媒としてのマレイン酸水溶液92g(35重量%)とからなる混合溶液を図3の加熱容器2内に配置した。そして上記混合溶液を150℃で加熱して固化させた。次に、得られた固化物を窒素雰囲気下において90℃で1時間炭化させた。得られた炭化物をアルゴン雰囲気下において1600℃で加熱した。
【0039】
次に、加熱容器2内で生成された副生ガスを、吸引装置20とアルゴンガスのキャリアガスを用いて加熱容器2の外へ搬送し、その後急冷して粉体を得た。得られた粉体の10gをアルゴンガス雰囲気下において、1000〜1100℃の温度で1時間熱処理した。
【0040】
得られた粉体について透過型電子顕微鏡(TEM)写真分析を行ったところ、図1,2に示されるように、ケイ素微粒子が酸化ケイ素に包まれた複合粉体が得られたことが確認された。
【0041】
得られた複合粉体にエッチング工程を施した。すなわち、酸化ケイ素とケイ素微粒子の複合粉体10gに、シクロヘキサン1.5mlと2−プロパノール1.5mlを加えた。さらに46重量%フッ酸250μlと、30重量%の過酸化水素水500μlを加えた。
【0042】
そして溶液の上層を抽出し、これに波長300nmの紫外線を照射すると、図4に示すように、波長630nmの赤い光が観察された。またエッチング時間が長くなるにつれ発光色が赤から、黄、緑、青へとシフトした。
【0043】
以下に示す実施例1,2、及び比較例1〜3のケイ素微粒子を用意し、発光特性を評価した。結果を図5に示す。
【0044】
実施例1:熱処理工程S3を実施した(1000℃)
実施例2:熱処理工程S3を実施した(1100℃)
比較例1:熱処理工程S3を実施しなかった
比較例2:熱処理工程S3を実施した(900℃)
比較例3:熱処理工程S3を実施した(1200℃)
図5は、実施形態にかかるケイ素微粒子発光体の蛍光スペクトルを示す。図5の結果より、1000℃〜1100℃の範囲で熱処理を行った実施例1,2のケイ素微粒子は、500nm〜600nmの波長の発光強度が高められることが判った。熱処理工程を実施しなかった比較例1、熱処理温度900℃で熱処理を行った比較例2のケイ素微粒子は、発光強度が低いことが判った。また、熱処理温度1200℃で熱処理を行った比較例3のケイ素微粒子は、発光強度が劣化することが判った。
【0045】
(作用・効果)
以上説明したように、ケイ素微粒子発光体の製造方法によれば、従来の製造方法に比べ、可視光領域において発光特性を有するケイ素微粒子を簡易な方法で製造することができる。
【0046】
ケイ素微粒子発光体の製造方法は、焼成工程S1において、不活性雰囲気下においてケイ素源と炭素源を含む混合物を焼成する。急冷工程S2において、不活性雰囲気から生成ガスを抜き出し急冷してケイ素微粒子を含む混合粉体を得る。熱処理工程S3において、混合粉体を不活性雰囲気下1000〜1100℃で熱処理する。エッチング工程S4において、混合粉体をフッ酸および酸化剤を含むエッチング溶液に浸漬してエッチングする。
【0047】
ケイ素微粒子発光体の製造方法によれば、急冷によって得られた混合粉体を不活性雰囲気下1000〜1100℃で熱処理することにより、混合粉体の微粒子内の欠陥を減少させることができる。そのため、ケイ素微粒子発光体の発光強度を高めることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 加熱装置、2 加熱容器、W 容器、8 ステージ、10a、10b 加熱体、12 断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性雰囲気下においてケイ素源と炭素源を含む混合物を焼成する工程と、
前記不活性雰囲気から生成ガスを抜き出し急冷してケイ素微粒子を含む混合粉体を得る工程と、
前記混合粉体を不活性雰囲気下1000〜1100℃で熱処理する工程と、
前記熱処理後の前記混合粉体をフッ酸および酸化剤を含むエッチング溶液に浸漬してエッチングする工程と、を含むことを特徴とするケイ素微粒子発光体の製造方法。
【請求項2】
前記酸化剤が硝酸(HNO)であることを特徴とする請求項1記載のケイ素微粒子発光体の製造方法。
【請求項3】
前記酸化剤が過酸化水素(H)であることを特徴とする請求項1記載のケイ素微粒子発光体の製造方法。
【請求項4】
前記エッチング溶液がシクロヘキサンをさらに含むことを特徴とする請求項1記載のケイ素微粒子発光体の製造方法。
【請求項5】
前記エッチング溶液が2−プロパノールをさらに含むことを特徴とする請求項1記載のケイ素微粒子発光体の製造方法。
【請求項6】
前記ケイ素源がエチルシリケートであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のケイ素微粒子発光体の製造方法。
【請求項7】
前記炭素源がフェノール樹脂であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のケイ素微粒子発光体の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−195637(P2010−195637A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42972(P2009−42972)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】