説明

ケト化合物の調製方法

【課題】ほとんど除去不可能な副生成物の形成および工業的製造コストの上昇を回避しつつ、アルキン結合を水和して対応するケト化合物を得る方法を提供すること。
【解決手段】フェキソフェナジンの調製において中間体として有用な、4−[1−オキソ−4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)−1−ピペリジニル]ブチル]−α,α−ジメチルベンゼン酢酸を、4−{[4−(4−ヒドロキシジフェニルメチル)−1−ピペリジニル]−1−ブチニル}−α,α−ジメチルベンゼン酢酸と硫酸水溶液との間の、酸化水銀(II)の存在下でのC1〜C4アルカノール中における反応により調製する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−[1−オキソ−4−[4−(ヒドロキシジフェニルメチル)−1−ピペリジニル]ブチル]−α,α−ジメチルベンゼン酢酸の新規な調製方法、およびフェキソフェナジンの調製におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
いくつかのフェキソフェナジンの調製方法、例えば、多数の工程で特徴付けられる、WO93/21156、WO97/22344およびWO97/23213に開示のものが知られている。この知られている方法には、収束性のあるアプローチはなく、α,α−ジメチルベンゼン酢酸から出発して、様々な官能基の段階的な導入による分子の構成が含まれている。代替経路がKawai S.らにより、J.Org.Chem.1994、59、2620〜2622で記載されているが、これは、その工業的適用を防げるいくつかの欠点を有する。前記合成経路中の鍵となる工程は、実際は、式(A)のカルボキシメチルエステル中のアルキン結合を水和させて、式(B)の対応するケト誘導体を得ることである。
【0003】
【化1】

【0004】
しかし、これには副生成物の形成が伴い、これを最終生成物から除去することが困難である。Kawai S.らの論文には、実際はシリカゲルクロマトグラフィーによる式(B)のケトンの後続の精製法が記載されている。この技法は大量の生成物の製造にはほとんど適していないことがよく知られているので、この方法は工業的に適用し得ない。副生成物の形成の問題が、EP1260505により解決され、ここでは水和は、任意選択でリガンドの存在下で、白金、パラジウムまたはルテニウムをベースとする触媒を用いて実施される。しかし、これらの触媒の非常に高いコストが最終コストに負の影響を及ぼす。
【特許文献1】WO93/21156
【特許文献2】WO97/22344
【特許文献3】WO97/23213
【特許文献4】EP1260505
【非特許文献1】Kawai S.et al.; J.Org.Chem.1994、59、2620〜2622
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、ほとんど除去不可能な副生成物の形成および工業的製造コストの上昇を回避して、アルキン結合を水和し対応するケト化合物を得る問題がなお存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
驚くべきことには、遊離カルボン酸の形態の式(A)のアルキンと、HgOのH2SO4中の溶液との間の反応により、高価な触媒、ならびに複雑で時間のかかる精製操作を必要とせずに、対応するケト誘導体が工業的な収率で提供されることを見出した。
【0007】
本発明の目的は、式(I)の化合物
【0008】
【化2】

【0009】
の調製方法の提供であって、その方法は、式(II)の化合物と
【0010】
【化3】

【0011】
硫酸水溶液との間の、酸化水銀(II)の存在下でのC1〜C4アルカノール中における反応を含む方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
1〜C4アルカノールは、アルキル部分が直鎖または分枝であることができ、好ましくはメタノールまたはエタノール、特にメタノールである。
【0013】
式(II)のアルキンは、ほぼ10〜30%、好ましくは15〜25重量%/体積の濃度で、上記で定義のC1〜C4アルカノール中の溶液の形態で反応する。
【0014】
硫酸水溶液は、典型的にはほぼ30〜50%、好ましくは35〜45重量%/体積の溶液である。
【0015】
この反応は、式(II)のアルキンのアルカノール溶液を硫酸水溶液と、式(II)のアルキンに対する硫酸のモル量ほぼ0.8〜1.2、好ましくは0.9〜1.1の範囲で接触させて実施する。得られた溶液にHgOを、式(II)のアルキンに対してほぼ0.01〜0.05、好ましくは0.02〜0.04のモル量の範囲で加える。反応は、ほぼ20〜60℃、好ましくは30〜50℃の範囲の温度で実施する。
【0016】
反応の完了後、反応混合物を水酸化ナトリウムのメタノール性溶液でアルカリ化し、得られた式(I)のケトンのナトリウム塩は、塩酸、硫酸またはリン酸などの無機酸、あるいは有機酸、例えば酢酸、メタンスルホン酸またはシュウ酸での処理により対応する遊離酸に変換する。
【0017】
得られた式(I)のケトン、4−{[4−(4−ヒドロキシジフェニルメチル)−1−ピペリジニル]−1−オキソブチル}−α,α−ジメチルベンゼン酢酸は、実質上図に報告された通りのX線回折スペクトル(X線粉末回折、XRPD)を有する結晶構造を有し、より強い回折ピークが、2θで10.05、12.03、15.33、15.78、17.34、17.64、20.13および23.67において認められ、このことは本発明の他の目的でもある。XRPDスペクトルは、粉末および液体用のAPD 2000 automatic diffractometer θ/θ(Ital−Structures社から入手可能)を用いて、以下の操作条件:{CuKα線(λ=1.5418Å)、1秒間に0.03°の移動角度の走査}で記録した。
【0018】
以下の表に報告されている比較データは、本発明の方法によって提供される利点を、Kawai S.らにより記載された方法と比較して示すものである。
【0019】
【表1】

【0020】
形成した副生成物は除去が困難なので、反応がKawai S.らの方法に従って実施される場合は、式(B)のケトンの精製は、前述の論文中に記載されている通り、シリカゲルクロマトグラフィーで実施する(1:2→3:1の酢酸エチル/ヘキサン、次いで15:1のCH2Cl2/メタノール、体積/体積)。他方、式(I)のケト化合物の方は、後処理後に単純な沈殿で分離される。さらに、本発明の方法で使用したHgOの量は、Kawai S.らによって使用されたものの約1/10であり、これにより環境への影響は低減される。
【0021】
続いて、式(III)のフェキソフェナジン
【0022】
【化4】

【0023】
を得るために、式(I)のケト化合物を、知られている手順により、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどの適したアルカノール中、またはこれらと水との混合物中、約0℃から反応混合物の還流温度の範囲の温度で、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウムまたは水素化ホウ素テトラメチルアンモニウムなどの還元剤による還元を含む方法によって、還元することができる。所望により、次いでフェキソフェナジンは、知られている方法に従って塩、例えば塩酸塩に変換され得る。
【0024】
したがって、本発明はまた、式(I)のケト化合物
【0025】
【化5】

【0026】
の還元、および所望により、塩酸塩などその塩への変換を含む、フェキソフェナジンまたは薬剤として許容されるその塩の調製方法であって、本明細書で記載の通り、式(I)の化合物は、式(II)の化合物と
【0027】
【化6】

【0028】
硫酸水溶液との間の、酸化水銀(II)の存在下でのC1〜C4アルカノール中における反応により得られることを特徴とする方法に関する。
【0029】
以下の実施例により、本発明を例示する。
【実施例】
【0030】
4−{[4−(4−ヒドロキシジフェニルメチル)−1−ピペリジニル]−1−オキソブチル}−α,α−ジメチルベンゼン酢酸;(I)の合成
攪拌機、温度計、冷却器を備え、窒素下に置かれた、4首の3リットルフラスコに、353gの4−{[4−(4−ヒドロキシジフェニルメチル)−1−ピペリジニル]−1−ブチニル}−α,α−ジメチルベンゼン酢酸および1790mlのメタノールを充填する。500mlフラスコ中で、72gの96重量%/重量硫酸の185g水中の溶液を調製し、攪拌下で4.1gの酸化水銀(II)を加える。得られた4−{[4−(4−ヒドロキシジフェニルメチル)−1−ピペリジニル]−1−ブチニル}−α,α−ジメチルベンゼン酢酸のメタノール中懸濁液に、上記で調製された硫酸水銀水溶液を加える。得られた溶液を攪拌下約40℃に加熱し、この温度を反応の完了まで保持する。(ここで、収率は90%を超えている)。水酸化ナトリウムスケール(86g)のメタノール430ml中溶液を調製し、室温で反応混合物を加える。温度が自然に上昇して、懸濁液を得る。混合物を還流し、66gの氷酢酸をその中に滴下する。酸のほぼ30%を加えた後に、予め得られた純粋なケト化合物(I)と共に結晶化が開始し、そして添加が完了する。その後、混合物を約15〜20分間還流し、次いでほぼ2時間25〜30℃で冷却する。混合物をほぼ1時間この温度で放置し、そして固体をろ過し、メタノール(2×100ml)で洗浄する。950mlの水中で熱粉砕し、60〜65℃でろ過することにより、得られた固体を無機塩からさらに精製する。100ml×2の水での洗浄および100ml×2のメタノールでの洗浄後、生成物を乾燥する。実質上図に報告された通りのXRPDスペクトルを有する結晶形態の化合物(I)281gが得られる(99.5%を超えた純度;収率82%)。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例で得られた結晶形態の4−{[4−(4−ヒドロキシジフェニルメチル)−1−ピペリジニル]−1−オキソブチル}−α,α−ジメチルベンゼン酢酸のXRPDスペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物
【化1】

の調製方法であって、式(II)
【化2】

の化合物と硫酸水溶液との間の、酸化水銀(II)の存在下でのC1〜C4アルカノール中における反応を含む方法。
【請求項2】
アルカノールがメタノールまたはエタノールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルカノール中の式(II)の化合物の濃度が10〜30重量%/体積の範囲にある、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
硫酸水溶液の濃度が30〜50重量%/体積の範囲にある、請求項1または3に記載の方法。
【請求項5】
式(II)の化合物に対する、硫酸のモル量が0.8〜1.2の範囲にある、請求項1または4に記載の方法。
【請求項6】
式(II)の化合物に対する、硫酸のモル量が0.9〜1.1の範囲にある、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
式(II)の化合物に対する、酸化水銀(II)のモル量が0.01〜0.05の範囲にある、請求項1または6に記載の方法。
【請求項8】
式(II)の化合物に対する、酸化水銀(II)のモル量が0.02〜0.04の範囲にある、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
結晶形態の4−{[4−(4−ヒドロキシジフェニルメチル)−1−ピペリジニル]−1−オキソブチル}−α,α−ジメチルベンゼン酢酸。
【請求項10】
式(I)のケト化合物
【化3】

の還元、および所望により、その塩への変換を含む、フェキソフェナジン、または薬剤として許容されるその塩の調製方法であって、式(I)の化合物は、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法により、式(II)の化合物と
【化4】

硫酸水溶液との間の、酸化水銀(II)の存在下でのC1〜C4アルカノール中における反応により得られること、を特徴とする調製方法。
【請求項11】
フェキソフェナジン塩が塩酸塩である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
実質上図に報告された通りのXRPDスペクトルを有する、請求項9に記載の酸の結晶形態。
【請求項13】
より強い回折ピークが、2θで10.05、12.03、15.33、15.78、17.34、17.64、20.13および23.67において認められるXRPDスペクトルを有する、請求項12に記載の結晶形態。



【図1】
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【公開番号】特開2006−1931(P2006−1931A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173319(P2005−173319)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(504407413)ディフアルマ ソシエタ ペル アチオニ (12)
【氏名又は名称原語表記】DIPHARMA S.P.A.
【Fターム(参考)】