説明

ケミカルヒートポンプ及びそれを用いたハイブリッド冷凍システム

【課題】冷凍機に応用することのできるケミカルヒートポンプ及びこれを用いたケミカルヒートポンプ冷凍システムを提供する。
【解決手段】第一の手段として、反応部及び蒸発凝縮部を有するケミカルヒートポンプであって、蒸発凝縮部内に、アルコールを含む水溶液を収容する。また、第二の手段として、圧縮式冷凍機、凝縮器、減圧器及び蒸発器を有する圧縮式冷凍システムと、反応部及び蒸発凝縮部を有するケミカルヒートポンプと、を組み合わせたハイブリッド冷凍システムであって、ケミカルヒートポンプの蒸発凝縮部は、アルコールを含む水溶液を収容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケミカルヒートポンプ及びそれを用いたハイブリッド冷凍システムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品等の保存等を行うことのできる冷凍装置は日々の生活において非常に重要な装置である。冷凍装置は、保存室内における熱を奪い、この熱を外部に捨てることで保存室内の保存対象物を冷凍することができる。冷凍装置として現時点で実用化されているものとしては、圧縮式冷凍装置や吸収式冷凍機および吸着式冷凍機がある。いずれも食品等の保存等を達成するために、低温で冷却できることは共通している。
このなかで圧縮式冷凍装置は車両エンジン動力等により冷媒を機械的に圧縮しその膨張過程で熱を奪い、この熱を外部に捨てることで保存室内を0度以下にすることができる。
【0003】
しかしながら吸収式冷凍機や吸着式冷凍機は、作動流体として水を用い、この作動流体を用いて吸収や吸着操作により保存室内の熱を奪い、保存室外部で熱を放出させることで冷凍を行おうとしているが、0度以下の低温の場合、作動流体が凍ってしまうため、この凍結防止を図らなければならない。
【0004】
上記の課題に対し、例えば、下記特許文献1及び2には、吸収式冷凍機において、蒸発器内における冷媒液内に凝固点降下剤を混入させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−281188号公報
【特許文献2】特開平11−281189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで近年、ケミカルヒートポンプといった技術が提案されている。ケミカルヒートポンプとは、化学反応において放熱する、又は、吸熱する熱を用いて熱の移動を行うことのできるヒートポンプであって、作動媒体における単位質量当たりのエネルギー量が高く、しかもこのエネルギー量を物質の形で蓄えることができるといった利点がある。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載の技術は、いわゆる吸収式冷凍機に関する技術であって、そのまま他の冷凍機に適用できるものではない。具体的には、吸収式冷凍機や吸着式冷凍機は物質における吸収を用いる(物質自体の変化が生じない)冷凍機である一方、上記ケミカルヒートポンプは吸収ではなく化学反応そのものを用いている(物質自体の変化が生じる)ため、作動原理がそもそも異なり、吸熱及び放熱機構においてどのような影響を及ぼすのか分からず、ケミカルヒートポンプへの適用についてはなされていない。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、冷凍機に応用することのできるケミカルヒートポンプ及びこれを用いたケミカルヒートポンプ冷凍システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を行なったところ、ケミカルヒートポンプシステムの蒸発凝縮部において、溶液にアルコールを添加剤として含ませることで、反応を阻害することなく、物体を冷凍することができる点を発見し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一観点に係るケミカルヒートポンプは、反応部及び蒸発凝縮部を有し、蒸発凝縮部は、アルコールを含む水溶液を収容していることを特徴の一つとする。
【0011】
また、本発明の他の一観点に係るハイブリッド冷凍システムは、圧縮式冷凍機、凝縮器、減圧器及び蒸発器を有する圧縮式冷凍システムと、反応部及び蒸発凝縮部を有するケミカルヒートポンプと、を組み合わせたものであって、ケミカルヒートポンプの蒸発凝縮部は、アルコールを含む水溶液を収容していることを特徴の一つとする。
【発明の効果】
【0012】
以上、本発明は、冷凍機に応用することのできるケミカルヒートポンプ及びこれを用いたハイブリッド冷凍システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係るケミカルヒートポンプの構成の概略を示す図である。
【図2】実施形態に係るケミカルヒートポンプの動作の原理を説明するための図である。
【図3】実施形態のケミカルヒートポンプを応用した冷凍車の構成の概略を示す図である。
【図4】実施形態のケミカルヒートポンプを応用した冷凍車の構成の概略を示す図である。
【図5】実施例に係るケミカルヒートポンプの放熱水和過程における蒸発凝縮器内の温度変化を示す図である。
【図6】実施例に係るケミカルヒートポンプの放熱水和過程における反応器内の冷熱回収量の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施形態、実施例の例示に限定されるものではない。
【0015】
(実施形態)
図1は、本実施形態に係るケミカルヒートポンプ(以下「本ケミカルヒートポンプ」という。)1の構成概略を示す図である。
【0016】
これらの図で示すように、本ケミカルヒートポンプ1は、反応部11と、蒸発凝縮部12と、反応部11と蒸発凝縮部12とを接続する反応部−蒸発凝縮部接続パイプ13と、反応部11に配置されケミカルヒートポンプ外部との熱の交換を行なう反応部側熱交換部14と、蒸発凝縮部12に配置されケミカルヒートポンプ外部との熱の交換を行なう蒸発凝縮部側熱交換部15と、を有している。なお、反応部−蒸発凝縮部接続パイプ13には、反応部11と蒸発凝縮部12との間の接続(開閉)を制御する制御バルブが設けられている。
【0017】
(反応部)
また本ケミカルヒートポンプ1の反応部11は、内部に化学蓄熱材を収容しており、反応部側熱交換部14から供給される熱を用いて化学蓄熱材に化学反応を起こし、この熱の少なくとも一部を、反応部−蒸発凝縮部接続パイプ13を介して蒸発凝縮部12に移動させ、ケミカルヒートポンプ内に蓄えさせることができるものである。なお反応部11は、限定されるわけではないが、化学蓄熱材を収容する反応器111を有して構成されていることが好ましい。反応器111の数は、一つであってもよいが複数であっても良い。本実施形態では説明を簡単にするため単一の反応器111を用いた例で説明する。
【0018】
本実施形態における反応部11に収納される化学蓄熱材は、全体の反応において水を用いるものである限り限定されるわけではないが、例えば、下記式(1)又は(2)で示される物質を用いることが好ましい。なお下記式においてMはカルシウム、マグネシウム、ナトリウム等の金属又はその化合物を意味し、mは整数を意味する。
【数1】

【数2】

【0019】
なお上記式(1)の化学蓄熱材を用いる場合、化学反応は下記式(1−1)で示される反応が起こり、上記式(2)の化学蓄熱材を用いる場合、下記式(2−1)で示される反応が起こる。
【数3】

【数4】

【0020】
即ち、上記式(1)、(2)で示される化学蓄熱材に対し熱を与えると、水が分離し、この分離した水を、熱移動のための媒体として用いることができる。逆に、上記式(1)又は(2)におけるMを水と反応させることで蒸発凝縮部の水の冷却に利用することができる。
【0021】
なお、上記反応を行なうことができる限りにおいて化学蓄熱材は限定されるわけではないが、具体的にはCaSO・xHO、CaCl・yHO、Ca(OH)のような水和物の少なくともいずれかを含んでいることが好ましい。なおCaSO・xHOの場合、限定されるわけではないがCaSO・1/2HO、CaSO・2HOの少なくともいずれかを上げることができ、またCaCl・yHOの場合も、限定されるわけではないがCaCl・2HO、CaCl・3HOの少なくともいずれかを上げることができる。CaSO・1/2HOを用いた場合の例を下記式(1−1−1)に、Ca(OH)を用いた場合の例を下記式(2−1−1)にそれぞれ示しておく。
【数5】

【数6】

【0022】
(蒸発凝縮部)
また、本実施形態に係るケミカルヒートポンプ1の蒸発凝縮部12は、反応部−蒸発凝縮部接続パイプ13を介して反応部11に接続されており、反応部11が発生させた熱を外部に放出(供給)したり、外部から熱を吸収したりすることのできるものである。限定されるわけではないが上記(1)又は(2)の化学蓄熱材を用いて上記(1−1)又は(1−2)の反応を利用する場合、下記(3−1)の式で示す反応を利用することができる。即ち下記式の場合、反応部11により供給される蒸気を凝縮することで放熱することが可能となり、蒸発凝縮部12において水を蒸発させることで周囲から熱を吸収することができる。
【数7】

【0023】
また、本実施形態に係るケミカルヒートポンプ1の蒸発凝縮部12の内部には、水のほか、アルコールを含んでいる。一般に、化学反応において添加剤を加える場合、意図する化学反応に対し当然に影響を及ぼす可能性があるため十分に検討しなければならないところ、本発明者らは、上記化学反応を用いるケミカルヒートポンプにおいては、アルコールを加えた場合であっても上記反応が殆ど影響を受けず、0℃以下になっても水溶液が凍ることなく行なわれることを発見した。また本実施形態においてアルコールは、上記機能を奏する限りにおいて限定されるわけではないが、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリンの少なくともいずれかであれば、反応器内の化学蓄熱材に影響を殆ど与えることなく更に好適に用いることができる。
【0024】
また、本実施形態において、水溶液はアルコールを1重量%以上55重量%以下の範囲内で含むことが好ましく、より好ましくは35重量%以上55重量%以下、更に好ましくは40重量%以上55重量%以下の範囲内である。1重量%以上とすることで0℃以下に冷却を図ることができ、35重量%以上とすることで凍結点を−20℃以下にすることができ、40重量%以上とすることで凍結点を−25℃以下にすることができるといった効果がある一方、55重量%以下とすることで、凍結点をほぼ最下点に確保することができる一方、蒸発器内における増大を防止する、更には蒸発器内の液の粘度の不必要な増大を防止することができるといった効果がある。なお本実施形態、特に上記式のような可逆的な化学反応において水和物が生ずる場合、添加剤の濃度は化学反応の進捗状況により大きく異なる可能性がある。したがって、ここでいう「溶液の濃度」とは、反応器内における化学蓄熱材中に含まれる水の重量をも含んで計算するものとする。
【0025】
また本実施形態に係る蒸発凝縮部12は、上記機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、凝縮器121と、蒸発器122と、凝縮器121と蒸発器122とを接続する凝縮器−蒸発器接続パイプ123を有して構成されていることが好ましい。本実施形態では説明のため、凝縮器121と蒸発器122を用いた例で説明する。なお、この場合において、凝縮器−蒸発器接続パイプ123には凝縮器121と蒸発器122の接続(開閉)を制御する制御バルブ1231が設けられている。
【0026】
本実施形態において凝縮器121は、反応器111と反応器−凝縮器接続パイプ131を介して接続され、反応器11が発生させた蒸気を内部で液体の状態に凝縮させることができるものである。凝縮器121の構成については、上記機能を奏する限りにおいて限定されず、周知の構成を採用することができる。なお、蒸気が液体に凝縮される際には熱が発生するが、この熱は蒸発凝縮部12の内側又は外側に配置される蒸発凝縮部側熱交換部15、より具体的には凝縮器側熱交換器151を介して排出される。また本実施形態において、反応器−凝縮器接続パイプ131には、経路の開閉を制御する制御バルブ1311が設けられており、この経路の接続を制御することができる。
【0027】
また本実施形態において、蒸発器122は、反応器111と反応部−蒸発器接続パイプ132を介して接続され、内部の液体を蒸発させ、蒸気を反応器111に供給することができるものである。蒸発器122の構成については、上記機能を奏する限りにおいて限定されず、周知の構成を採用することができる。なお、この蒸発の際、水は凝縮蒸発部12内側又は外側に配置された蒸発凝縮部側熱交換部15、より具体的には蒸発器側熱交換器152によって供給される熱を利用する。この結果、本実施形態に係るケミカルヒートポンプは周囲を冷却する(冷熱を提供する)ことができる。
【0028】
また上記の通り本実施形態に係る反応部−蒸発凝縮部接続パイプ13は、反応部11と蒸発凝縮部12とを接続するパイプであり、上記の例では、反応器111と凝縮器121を接続する反応器−凝縮器接続パイプ131と、反応器111と蒸発器122とを接続する反応器−蒸発器接続パイプ132と、を有して構成されている。また、反応器−凝縮器接続パイプ131、及び反応器111と反応器−蒸発器接続パイプ132には、経路の接続を制御する接続バルブ1311、1312がそれぞれ設けられている。
【0029】
(反応部側熱交換部)
また本実施形態において、反応部側熱交換部14は、熱を反応部11に供給することのできるものであって、限定されるわけではないが、具体的には熱交換器を用いることができる。なお反応部側熱交換部14は、ケミカルヒートポンプ外部にある高温側熱源(図省略)に接続されており、この高温側熱源の熱を反応部11に供給することができる。
【0030】
(蒸発凝縮部側熱交換部)
本実施形態における蒸発凝縮部側熱交換部15は、蒸発凝縮部と外部とが熱交換を行うことができるよう設置されるものである。本実施形態に係る蒸発凝縮部側熱交換部15は、具体的には凝縮器側熱交換器151と、蒸発器側熱交換器152と、を有して構成されている。
【0031】
本実施形態の例において、凝縮器側熱交換器151は、低温の熱を凝縮器121に供給すること、及び、凝縮器121の外に高温の熱を排出することの少なくともいずれかを行なうことができるものである。このようにすることで、反応器111から導入された蒸気を水に変えることができる。
【0032】
また本実施形態の例において、蒸発器側熱交換器は、高温の熱を蒸発器122に供給すること、及び、蒸発器122の外に低温の熱を供給すること、の少なくともいずれかを行なうことができるものである。このようにすることで、凝縮器121から導入された水を再び蒸気に変えることができ、その際に必要とされる蒸発熱を外部から吸収すること(冷熱を供給する)でケミカルヒートポンプの外部を冷却することができる。
【0033】
(動作説明)
ここで、本実施形態に係るケミカルヒートポンプ1の動作について図2を用いて説明する。図2(A)は、本実施形態に係るケミカルヒートポンプ1が、外部(具体的には高温側熱源)からの熱を反応部11から吸収し、蒸発凝縮部12から排出する状態を示す図であり、図2(B)は、本実施形態に係るケミカルヒートポンプ1が、外部からの熱を蒸発凝縮部12から吸収し、反応部11から排出する状態を示す図である。
【0034】
図2(A)の状態においては、高温側熱源から高温の熱が供給される、具体的には反応部側熱交換部14を介して高温の熱が供給されるため、この供給された熱Qにより、反応器内で下記化学反応が起こり、蒸気が発生する。発生した蒸気は、凝縮器121に反応器−凝縮器接続パイプ131を介して導入される。すなわちこの状態において反応器−凝縮器接続パイプ131は開いた状態であり、逆に反応器−蒸発器接続パイプ132は閉じた状態である。
【数8】

【0035】
そして、凝縮器121に導入された蒸気は、低温側熱源からの低温の熱を利用して凝縮され、又は、熱を凝縮器121外に排出して液化する。なお反応式は下記式となる。
【数9】

【0036】
なおこの場合において、液体は、凝縮器−蒸発器接続パイプ123を介して凝縮器121から蒸発器122に導入される。この場合、凝縮器−蒸発器接続パイプ123の制御バルブ1231は開いた状態となっている。
【0037】
一方、図2(B)の状態においては、凝縮器121において凝縮された水を、外部からの熱を用いて再び蒸発させて蒸気とする。具体的には下記式の変化を起こさせる。
【数10】

【0038】
そして蒸気は、反応器−蒸発器接続パイプ132を介して反応器111に導入される。この場合、反応器−蒸発器接続パイプ132に設けられる制御バルブ1321は開いた状態となっている。なお、反応器111に導入された蒸気は、下記式に示す反応を起こし、熱Qを放出する。
【数11】

【0039】
即ち、この一連の流れにより、本実施形態にかかるケミカルヒートポンプ1は外部を冷却することができる。具体的には、蒸発器が水を蒸発させて蒸気にする際、蒸発器側熱交換器から蒸発熱を吸収することで、その熱の分だけ外部を冷却することができるのである。
【0040】
一般に、反応式(4)の反応において水が蒸発すると蒸発器122内の温度は低下し、それにともない蒸発圧力がしだいに低下し、反器内の圧力が低下し、反応器111の反応式(5)の速度も低下してしまうが、本実施形態に係るケミカルヒートポンプは、蒸発凝縮部においてアルコールを含む水溶液としているため、蒸発凝縮部に水のみが存在する場合とは異なった凍結メカニズムにより、水単体では凍結して水蒸気圧力が殆どない温度域においても水蒸気圧力を維持することが可能となり、反応式(5)が低圧下の状況であっても反応を進めることができる。更に、このアルコール水溶液から蒸発するアルコール成分は、本来必要とされる水蒸気の反応を阻害するような悪影響を殆ど与えることがないため、良好な反応を維持することができるといった利点も有している。
【0041】
以上、本実施形態に係るケミカルヒートポンプは、冷凍機に応用することのできるものとなる。
【0042】
(冷凍車への応用例)
ここで、本実施形態に係るケミカルヒートポンプを用いた冷凍車の例について説明する。図3は、本実施形態に係るケミカルヒートポンプを用いた冷凍車の概略を示す図であり、図4は、より詳細な冷凍車の構成の概略を示す図である。本冷凍車は、ケミカルヒートポンプと圧縮式冷凍装置とを組み合わせたケミカルヒートポンプシステムを用いたものであり、いわゆるハイブリッドな冷凍システムである。
【0043】
図3、4で示すとおり、本ハイブリッド冷凍車HFは、自動車として必須であるエンジン、タイヤ等のほか、上記ケミカルヒートポンプ1と、圧縮式冷凍装置CFと、冷却対象となるコンテナCNと、を有して構成されている。
【0044】
ケミカルヒートポンプ1は、上記したケミカルヒートポンプと同様の構成を有しているが、反応器側熱交換器141は、エンジン又はエンジンの排気管9近傍の熱を反応器111に供給するよう、パイプ1411及びエンジン側熱交換器1412に接続され、作動流体を介して熱の移動を可能としている。また、蒸発器側熱交換器152も、冷却対象となるコンテナCNから熱の供給を受ける(冷熱を供給する)ため、パイプ1521及びコンテナ側熱交換器1522に接続され、作動流体を介して熱の移動を可能としている。更に、凝縮器側熱交換器151も、反応器111からの蒸気を水に戻すための低温の熱の供給を受けるために、圧縮式冷凍装置CFの作動流体の流路の一部(蒸発器CF4と圧縮式冷凍機CF1の間のパイプの一部)の経路が接続されている。
【0045】
本応用例における圧縮式冷凍装置CFは、冷媒に圧縮、膨張を施すことで冷熱を提供することができる装置である。圧縮式冷凍装置CFの構成については、上記機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、圧縮式冷凍機CF1と、凝縮器CF2と、減圧器(膨張弁)CF3と、蒸発器CF4と、これらを循環するよう接続する圧縮式冷凍装置用パイプCF5と、を有して順次接続してなることが好ましい。このように配置することで、まず、圧縮式冷凍機CF1は作動流体を圧縮し、凝縮部CF2で作動流体を凝縮するとともに凝縮の再発生した熱を外部に排出する。そして減圧器CF3により減圧し、蒸発器CF4において作動流体を蒸発させる。この蒸発器CF4はコンテナCN内に配置されているため、この作動流体の蒸発の際、コンテナから熱を奪うこととなり、コンテナCNを冷却することができる。なお、図3、4で示している通り、圧縮式冷凍装置用パイプCF5の一部(蒸発器CF4と圧縮式冷凍機CF1の間のパイプの一部)は、ケミカルヒートポンプ1の凝縮器側熱交換器151に接続されており、未利用の低温の熱をケミカルヒートポンプ1の凝縮器121に提供することができる。
【0046】
また図3、4から明らかなように、本ハイブリッド冷凍車において、コンテナCNは、食品等の冷凍保存対象物を入れることができるものであって、断熱材によって覆われた空間であり、コンテナCNには、上記の通り、コンテナ内部から熱を奪うためのコンテナ側熱交換器1522、圧縮式冷凍装置CFの蒸発器CF4が配置されている。
【0047】
即ち、本図で示すように、本ハイブリッド冷凍車は、反応器において化学蓄熱材における反応を促進するためにエンジンの排熱の利用をすることができるとともに、反応器における反応により生じた蒸気を凝縮するために圧縮式冷凍装置の未利用低温の熱を有効に活用することができる。更に、凝縮した水を再び蒸気に戻すためにコンテナCN内から熱を奪うことで、コンテナ内をより効率よく冷却することができるといった効果がある。
【0048】
以上、本実施形態に係るケミカルヒートポンプは、冷凍車に応用することができる。また本ハイブリッド冷凍車におけるケミカルヒートポンプは、エンジンの排熱、圧縮式冷凍装置の未利用冷熱を利用することで更に効率が良くなるといった利点がある。
【実施例】
【0049】
ここで、上記実施形態に関し、実際にケミカルヒートポンプの例を作製し、その効果を確認した。以下説明する。
【0050】
まず、SUS304で形成された反応器(200mm×368mm×70mm)に、硫酸カルシウム(粒径710〜1000μm)を2400g充填した。一方、SUS316で形成された蒸発凝縮器(80mm×80mm×200mm)に蒸留水350g(350cc)とエチレングリコール388g(350cc、比重1.1088g/cc)からなる水溶液を充填した。なお、反応器と蒸発凝縮器は、制御バルブを配置したパイプによって接続した。また、蒸発凝縮器にはガラス窓を設け、容器内の状態が見えるようにした。
【0051】
(蓄熱脱水過程)
硫酸カルシウム及び水溶液を充填した後、反応器及び蒸発凝縮器を恒温油槽に浸した状態で一定時間浸し、一定温度になった後、反応器内は反応器内温度における平衡圧力まで別途接続した減圧ポンプにて減圧し、蒸発凝縮器も別途接続した減圧ポンプにより飽和水蒸気圧まで減圧した。
【0052】
その後、反応器を再び恒温油槽に浸して423Kまで上昇させて制御バルブを開き、反応器内で、下記式で示される反応を促進させ、蓄熱脱水させた。なお反応が十分進んだ後、制御バルブを閉じた。
【数12】

【0053】
(放熱水和過程)
【0054】
そして、上記反応を十分に行なわせた後、制御バルブを閉じ、恒温油槽の温度を293Kに設定し、再び制御バルブを開き、下記反応を促進させた。反応が十分進んだ後、制御バルブを閉じた。なおこの場合において、蒸発凝縮器も恒温油槽に浸したが、その温度は、様々な温度(278K,273K,268K,263K,258K)に設定し、それぞれの温度においてこの反応を行なわせた。
【数13】

【0055】
上記放熱水和過程における蒸発凝縮器内の温度変化を、図5に示す。この結果、278K〜258Kのいずれの温度においても、温度の低下即ち冷熱の生成が確認できた。これは0℃以下の温度、特に−15℃と純水の凝固点よりも15℃以上低い場合であっても凍ることなく良好に反応が起こっていることを示しており、確かに蒸発凝縮器のガラス窓から確認した場合であっても、水溶液は凍らず良好な液体状態を保っていることが確認できた。
【0056】
また、今度は上記とは逆に、蒸発凝縮器の温度を278Kの一定に保ち、反応器の温度を303K、313K、323Kと変化させた場合の冷熱回収量の経時変化を測定した。この結果を図6に示す。この結果、いずれの温度領域においても冷熱の回収熱量に大きな差は見られず、100%水和反応熱量の360kJに近い熱量を回収できたことが分かり、安定的な冷熱回収を確認した。
【0057】
以上、本実施例により、十分冷凍機に応用することのできるケミカルヒートポンプであることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、ケミカルヒートポンプとして、更にはこれを用いた冷凍車として、産業上利用可能性がある。
【符号の説明】
【0059】
1…ケミカルヒートポンプ、11…反応部、12…蒸発凝縮部、13…反応部−蒸発凝縮部連結パイプ、14…反応部側熱交換部、15…蒸発凝縮部側熱交換部、CF…圧縮式冷凍装置、CN…コンテナ、HF…ハイブリッド冷凍車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応部及び蒸発凝縮部を有するケミカルヒートポンプであって、
前記蒸発凝縮部内に、アルコールを含む水溶液を収容するケミカルヒートポンプ。
【請求項2】
前記水溶液は、前記アルコールを1重量%以上55重量%以下の範囲で含む請求項1記載のケミカルヒートポンプ。
【請求項3】
前記アルコールとしてエチレングリコールを含む、請求項1記載のケミカルヒートポンプ。
【請求項4】
前記反応部は、CaSO・xHO、CaCl・yHO、Ca(OH)の少なくともいずれかを含む化学蓄熱材を収容する請求項1記載のケミカルヒートポンプ。
【請求項5】
圧縮式冷凍機、凝縮器、減圧器及び蒸発器を有する圧縮式冷凍システムと、反応部及び蒸発凝縮部を有するケミカルヒートポンプと、を組み合わせたハイブリッド冷凍システムであって、
前記ケミカルヒートポンプの前記蒸発凝縮部は、アルコールを含む水溶液を収容するハイブリッド冷凍システム。
【請求項6】
前記水溶液は、アルコールを1重量%以上55重量%以下の範囲で含む請求項5記載のハイブリッド冷凍システム。
【請求項7】
前記アルコールとしてエチレングリコールを含む、請求項5記載のハイブリッド冷凍システム。
【請求項8】
前記反応部は、CaSO・xHO、CaCl・yHO、Ca(OH)の少なくともいずれか含む化学蓄熱材を収容する請求項5記載のハイブリッド冷凍システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−163730(P2011−163730A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30203(P2010−30203)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年8月16日 社団法人 化学工学会発行の「化学工学会 第41回秋季大会 研究発表講演要旨集(CD)」に発表
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【出願人】(000219233)東プレ株式会社 (91)
【Fターム(参考)】